遂にKINGDOM主催の野外ライブが始まろうとしていた。
今回、KINGDOMのマスターが何処から借りてきたのか分からないデカめのイベント用ステージをお店の前に広げていた。正直これだと本当に外でやる必要あるの?と感じで、イサムが直接聞いてみたのだが…
「わかってないわね〜。こういうのは雰囲気が大事なのよ。広いスペースで夏の日差しの下で思いっきり心をさらけ出す!
これぞ青春……because、アオハル!!」
「いや、意味一緒…」
「こーまーけーえーこたあ……いいんだよ!!!」
と、最後はキャラ崩壊しながら背中を叩かれた。ちなみにそのせいかイサムは背中からその時の痛みをジワジワと感じていた。そして、あのマスターはいったいどんなパワーをしてるのかと新しい疑問も抱いたのだった。
そんなことはさておき、今は服を着替えて待機場所にでイサムたちは出番を待っている。
他のバンドの人達も自分の出番に向けて気持ちを整えたり、機材の最終確認など自分たちが成すべきことをやっているようだ。
「にしてもマジで作ったとはね…」
イサムは自分が着ている服を見ながらそう呟く。ミチルがデザインした衣装は無事ライブ前日にお店の方から届いたのだ。
その衣装黒をベースにイサムは桃色のライン、アキラは赤のライン、そしてミチルは紫のラインが入っているものでデザインもそれぞれ微妙に違う。
上着もイサムはパーカー、アキラはロングコート、ミチルは紫の薄手の羽織になっていて、男子陣がスボンであるところがショートパンツになっているなど、それぞれの個性というかその辺りもよく考えられて作っているのを感じた。
「こういう所は流石ミチルと言うべきか…」
「なーにボーッとしとんの?」
突然後ろからドンッ!と叩かれたような感触かして、イサムは思わず前に倒れてしまいそうになった。
「ちょっと…叩く場所考えて…」
「え?なんかアカンかった?」
「いや、アカンも何も…さっきマスターの一撃で痛くなってるところに追撃入れないで…。ただでさえミチル…馬鹿力なんだから…」
「だーれーがー…馬鹿力や!」
馬鹿力という言葉に反応したミチルに詰め寄られ、イサムは「どうどう…」と宥めるようにミチルから後ろずさりしていた。
「……お前ら、本番前に何やってんだ。」
そんな光景を見ながら呆れたようにアキラも彼らの元にやってきた。
「おお〜!アキラもちゃんと着こなせとるやん!流石ウチ!」
「お前、そんな呑気にやってる場合か?最終確認とかやっておいた方がいいんじゃないのか?」
「それなら大丈夫や!もう既に済ませとるからな!」
そんなミチルに「ホントかよ」と言いたげな目を向けていると外から少しザワザワとした声が聞こえてきた。
気になったイサムはカーテン脇から覗くと既にステージ前にはお客さんがいて、正直緊張しそうな感じだったから見ない方が良かったかな…?と思うレベルでイサムは頭を抱え始めた。
そんな時、イサムの携帯からバイブ音が鳴った。確認してみると、そこにはいつもの相手の名前が表記されていた。
『イサムくん!今日頑張ってね!
私もパスパレのみんなと応援に行くから!』
たった一言。しかし、その一言はイサムの心を軽くさせるのには充分だった。
どうして好きな人からの応援はこんなにも心を晴れやかにしてくれるのだろうか。クスッと笑いながらイサムは画面を操作した。
「イサムー!そろそろ始まるからマスターが集まってだってさー!」
ミチルに声を掛けられてイサムは集合場所へと向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方、ステージ前では既にお客さんが集まっている中でパスパレメンバーも現地に到着し開会を待っているところだった。
「いやぁ〜。それにしても千聖さん、わざわざありがとうございます。変装のコーティネートまでして貰っちゃって…」
「大丈夫よ。こういう人の集まる場所では変装は必須だもの。」
「人も忍び、世も忍ぶ……まるでニンジャですね!!」
「でも彩ちゃんの最初のコーティネートは忍ぶどころか目立ちにいってるからね〜。」
「酷いよ〜!私だってそれなりに頑張って考えたのにー!!」
彩たちは今となっては世の中で輝くアイドルとして活躍してる為、そのままの姿で外を出歩くと騒ぎになってしまう可能性がある。故に変装をしてこのライブを見に来たのだが、集合した際に日菜と麻弥は変装をしてなく、彩は帰って目立ちそうな格好をしていたので急遽千聖は全員の服をお忍びコーデにコーティネートしたのだった。
「ねーねー今何時〜?」
「えっと…今は9時50分だから…開始まで後10分程ですね。」
「そろそろですね!団扇とサイリウムの準備はバッチリです!」
自身満々にサイリウムを取り出すイヴに対して、千聖は「イヴちゃん落ち着いて?」と彼女の興奮を沈めていた。
そんな中、彩のスマホから着信音が鳴った。
「(イサムくん…?)」
彩がスマホを確認するとイサムからメッセージが届いていた。
『ありがとう。
最後の曲では彩にも伝えたいことがあるんだ。
だから最後まで観てて。』
たった一言のメッセージに彩は首を傾げた。
伝えたいこととは何なのか。そのことが気になって彩はステージの方へと目を向けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それでは、いよいよKINGDOM 夏の野外ステージ開幕よー!!皆楽しんで行って頂戴!!Fooooooo!!!!!」
マスターの一声によって観客の熱はヒートアップした。
そしてステージ脇から最初のチームがやって来た。
「よっしゃお前らぁぁぁ!!!!気合い入れてくぞぉぉぉぉ!!!!」
その一声で再び客席からの盛り上がりの声がステージ裏にまで届いた。
そんな中、イサムはギターを見ながら何かを考え直していた。
「どうした。緊張してるのか?」
「うん。……それもあるけど…自分がバンドやるなんて昔の俺だと考えもしなかったなって思ってて…。」
「……なるほど。追憶していた訳か。」
納得したようにアキラは腕を組みながらイサムを見ていた。
「まあ、この選択をしたのはお前だ。
お前がそう思えるのなら少しは成長出来た証なんじゃないのか?」
「そっか。」
1度ギターを置いたイサムはアキラの方を向くと軽く咳き込み、アキラの目をじっと見た。
「……なんだ人の顔じっと見て。気持ち悪いな。」
「いや、ちょっと言いたいことあったんだけど……ミチルがいる時に一緒に言おっと。」
「……は?」
そんな時、ミチルが「2人とも何しとんの〜?」とこちらへと歩いてきた。
「いや?ちょっと男と男の会話……をね?」
「気持ち悪い言い方すんな。」
「ふーん?まあええわ。あっちにお菓子とか用意されてるから食べに行こうで!」
「相変わらず食い意地張ってんね〜。」
先導するミチルの後を追って彼らも控え室へと向かった。
今日のライブ、絶対に成功させる。
自分の為にも……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
午前中のライブが終わり、遂にRealizeの出番がやって来た。
お客さんの数は少しずつ増えていて中にはミチルの父やどこから情報を得たのかわからないがCiRCLEの先輩であるまりなの姿も見られた。
「うー……!何度やってもこの感覚慣れへんな…。」
「練習は何度もやってミスも最小限に抑えられたんだ。後は本番で出来ることをやればいい。」
「せやけどな〜。なんかこう…プレッシャーが桁違いなんや…。始まる前は100%の不安だったのが……舞台に上がると1000%になってまう感じが…」
そんな感じで緊張を解すかのように話を続ける2人だったが、途中でイサムが異様に静かであることに気がついた。
「イサム、どしたん?生きとる?」
「うん、大丈夫。」
「お前、本番前にボケっとするなよ…。」
「ねえ…」
そう呟いたイサムは1度顔を2人の方に向けた。
「今だからこそ、2人に言っておきたいことがあるんだ。」
「なによいきなり…」
「・・・・・・・・・・」
いつにもまして真剣な表情のイサムに対してアキラとミチルは思わず息を飲んだ。
イサムは1度目を閉じて時間を置き、再び目を開けて2人の方を見た。
そして一言、こう言った。
「一緒にバンドやってくれて、ありがとう。」
たった一言。しかしその一言はイサムにとって、そして3人にとっては大きな意味があった。
イサムの思いつきで始めたこのバンド。ある意味自分の夢の為に2人を巻き込んだような形になったのだがそれでもここまで活動を共にしてくれた2人にどうしても伝えたかったのだ。
「…なんや今更改まって…」
「いや、なんか言っとかなきゃいけない気がして。」
「……お前、いつも言うこと唐突なんだよ。」
2人は若干照れ隠しのようにそう言った。
「それじゃあRealize!準備できてるかしら!?」
そんな時、マスターによって出番がすぐそこであることを改めて知らされた。
イサムが無言で拳を突き出すと、それを察してアキラとミチルも同じように拳を突き出した。
「それじゃ……行くぞーー!!!」
拳を合わせて3人は舞台へと上がっていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
イサムくん達の最初の演奏が終わり、会場は相変わらず盛り上がりの続けていた。
「改めまして、Realizeです!まずは1曲、聞いて下さりありがとうございます!」
「いや~、ステージに上がっての演奏っていつもより緊張するからウチも音程ズレてないか不安になるわ…。」
「それなら多分大丈夫だと思うよ。いっつもズレてるから。」
「いやそんなに間違えてへんやろ!アキラどう思うよ!?」
「まあ否定は出来んな。」
「ちょい!?」
独特の世界観が繰り広げられて、お客さんにも笑っている人がいた。
「それでは、次の曲です。
次の曲は…僕たちで作った初めてのオリジナル曲です。」
それを聞いたお客さんたちはザワついていた。イサムくんは目を閉じて1度呼吸を置くと再び目を見開いた。
「この曲は僕と関わってきた人たちや夢に向かって頑張ろうとする人たち、……そして、僕に夢を見ることをもう一度教えてくれた大切な人に贈る。そんな曲です。」
そんな言葉の中で彼は私の方に視線を向けたような気がした。
「それでは、聴いてください。」
彼が…Realizeが作り上げた曲。
それは…
Dreaming~ユメの途中~
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そこから彼らの、自分たちだけの音楽が始まった。
静かなイントロから始まり、次第とその音色には熱を帯だしていた。
『「君の夢はなんですか?」 そう誰もが問いかけてくる
そんなものはもう無くて ただその場で立ち竦んでいた
でも本当は知りたくって もう一度夢見たくって
ただ、何も無い宙を掴んでた』
静かな声で歌い始めた。
出だしの歌詞。これはイサムくんの中の夢と現実の葛藤を表しているのだろうか
『そんな時、一筋の
掴みたくて掴めないあの彩りを
何度倒れても諦めない そんな光に僕は今
背中…追いかけてた』
ベースの低音が静かに響く中、イサムくんは歌い続けた。
まるでサビに入る前のここからが本番というように想いを溜め込んでいるようにも思えるその雰囲気に私は釘付けになっていた。
『今、君が教えてくれたんだ
夢を見ること その勇気を
支えあって初めてわかったんだ
不器用でもいいんだって
予想不能の未来 でも不思議と怖くない
その
それが僕の道しるべだから
だから僕は今、ユメの途中』
その歌を聴いて、私は思わず心の中でなにかが溢れてくるのを感じた。
この曲に詰められたイサムくんの想いが直接伝わってきている気がした。
イサムくんと出会って、アイドルになって、何度も挫折しそうになった時、イサムくんは私を支えてくれた。それはイサムくんにとっての私と同じものだったのかもしれない。
それでも私はイサムくんがいたからここまでやってこれた。そう考えている。だからこそ、私もイサム君に何か恩返しをしたいと考えていた。
でも…それはもう出来ていたのかな?
「……彩ちゃん?泣いているの?」
千聖ちゃんに声を掛けられて私は自分の頬に手を当てた。
すると気づかないうちに流れていた涙が伝わってきている事に気付く。
「…あれ?なんでだろ…」
涙を拭おうとすると横からそっとハンカチを差し伸べられた。
「もう…アイドルがそんな乱暴に拭いちゃダメよ。」
「……千聖ちゃん。」
胸の奥から抑えられない感情が湧き上がる。
温かくて、嬉しくて、そしてイサムくんに今すぐ伝えたい感情が。
涙を拭き取った私は、その想いを胸にステージの上のイサムくんにその瞳を向けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お疲れ様でした〜。」
ライブが終わり、イサムたちはそれぞれ片付けとお疲れ様の意を込めた簡単な交流会を終え、3人はライブハウス前でマスターにお礼の挨拶をしていた。
「アナタたち、今日は本当にいいライブだったわよ。」
「こちらこそ、ライブを開催してくれてありがとうございました。」
「良いってことよ。良かったら今後もウチを使ってね!」
「マスター、おおきに!」
「色々とありがとうございました。」
「じゃあ、次のライブも期待してるわよ〜。
次回も最っ高に!盛り上げちゃってね〜!!!」
そのままマスターはお店の方へと戻って行き、彼らもまた帰路へと歩き始めた。
「いや〜。マスターのテンションマジでヤバいわ〜。ホンマどこにあんな体力残っとんの…」
「それだけ俺たちでは計り知れん経験を積んできたんだろ。」
「そだね…」
そう言いかけた時、イサムはあるものを目にした。
「彩?」
そこには今1番会いたかった人物がいた。
アキラとミチルもイサムの視線の先に気がついた。すると2人はイサムの背中を軽る押した。
「行ってこい。」
「そーそー、ちゃんと言いたいこと言ってきな。」
その一言だけ伝えると2人は先に帰路に着いた。
「イサムくん。ライブお疲れ様。」
「彩…。」
歩み寄ってきた彩に手を握られる。
温かくて柔らかい感触が伝わり、思わず照れてしまいそうになる。
「そう言えばパスパレのみんなは?」
「皆ならもう先に行ったよ。『彩ちゃんはイサムくんのところに行ってあげて』って言われちゃって…」
「あはは…。お互い勘のいい仲間を持っちゃったね…。」
笑い合いながら2人も歩き始めた。
しばらく歩いて2人は家の近くの道まで戻ってきた。
そんな時、彩はイサムにひとつの疑問を問いかけた。
「そう言えばイサムくん、1つ聞いてもいいかな?」
「何?」
「結局、イサムくんの夢ってなんだったの?」
そう聞かれてイサムは思わず考えてしまった。
しかし、彼の中ではもう答えは出ていたのだ。
「うーん…実はまだ確定はしてないんだよね。」
「え?」
「でも、ひとつだけ夢っていうか…やりたいことは出来た。」
そう言うとイサムは彩の顔を真っ直ぐに見た。
「彩の夢を支えること。」
「……え?」
「彩の夢を応援したいんだ。
俺の夢はまだ分からないけど…だからこそ、誰かの夢を…いや、彩の夢を近くで支えたい。
それでいつか俺も夢を見つける。
それが今の……俺の夢かな?」
少し照れ臭そうにイサムは語った。
横目で彩を見るとまた涙を浮かべながら顔を赤くしていた。
「もう…、そんな泣くような事じゃ無いでしょ…」
そう言いかけた時、イサムは自分の腕ががっしりと掴まれていることに気がついた。
「やっぱりイサムくんは…ズルいよ…。」
「彩…?」
「ねえ…イサムくんは…これからも私も一緒にいてくれる?
私はアイドルだし、普通の恋愛は難しいかもだけど…。」
「……そんなの関係ないって。
俺が好きなのは丸山彩っていう女の子なんだ。たとえアイドルじゃ無くても、歳をとっても、その気持ちは変わらないよ。」
「イサムくん…。ありがとっ…!」
また泣きそうになる彩の涙をイサムはハンカチで丁寧に拭いた。
そして目があった時、2人は思わず笑っていた。
「あのさ……明日家に誰もいないんだ。」
「そうなの?」
「うん。だからさ…明日、私の家でデートしない?」
「うん、いいよ。」
「………もう…イサムくんのバカ…」
「え?今なんて?」
「何でもないですぅ〜!」
腕を抱いたままそっぽを向く彩に対して、俺なんか悪いことした?とイサムは焦っていた。原因について考えていると思わず彩と目があった。瞬間、じっと見つめあっていた2人だが、思わずいつものように気が付けば笑顔になっていたのだった。
最後まで読んでくださり誠にありがとうございました。
キズカナ、2作目の作品が1年半の時を経てようやく完結致しました。ある程度の反省的なことは前回の後書きで書いたので割愛させていただきますが、モカ小説以来の完結と言うことで嬉しいような少しだけ寂しいような気分です。
さて、今後の予定ですが暫くは永らく更新を中断していた美咲ヒロイン小説「ツイン・フューチャー」を更新再開していきながら、バンドリ短編集も空き時間で書いていこうと思います。
新作の方は美咲小説が完結し次第発表致しますので是非読んでください!
最後になりますがこちらの小説は今回で最終回ですが後日、OVAにあたるお話を書きたいなと考えています!是非そちらもお楽しみに!
それではキズカナでした!
また別の作品でお会いしましょう!