Dream Palette   作:キズカナ

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海辺の大騒動

 

 その後、彩の日焼け止め塗りを手伝って海水浴の準備は整った。

 

 子どものように砂浜を駆け回る彩の背中を見ながら、敷いたビニールシートに腰をかけていた。

 

「イサムくーん!」

 

 海辺からこちらを手招きする彩に誘われ、俺もその場から立ち上がり歩き始めた。

 分かりきっていたことだけど、いざ裸足で砂浜を歩いてみると少しだけ暑い。本当に太陽から放出される熱を吸収しているみたいだ。こんな状態でも元気に駆け回る彩は本当に子犬みいたいだなと何回目かは忘れたが改めて思った。特に今は髪型をポニーテールにしている為、はしゃぐ度に揺れるその髪も相まって余計にそう感じる。

 

「全く、彩は元気だなぁ」

「だって久しぶりの海だよ! 目一杯楽しまなくちゃ!」

「ま、それもそっか」

「じゃ、早速海入ろっ!」

 

 そのまま水辺に駆ける彼女の後を追い、そのまま俺も海に足をつける。

 水に足が触れた途端、冷たさが走った。永らく海で遊んでいなかったから感覚なんて忘れていた。

 

「えいっ!」

 

 余韻に浸っていたのも束の間、俺の顔を目掛けて水が降ってきた。突然の事だった故に、思わず口に海水が入ってしまう。

 

 塩っぱい。

 

 海水の塩分濃度は約3.5%だと聞いたことがあるが、こんなに濃いものだったかな?と思ってしまう。

 

「ほらほら! イサムくんも楽しもっ!」

「楽しもって……不意打ちは駄目でしょ!」

「じゃあもう1回いくよー!」

「いやちょ……ちょっと待って! まだ心の準備が……」

 

 完全に彩のペースに飲まれちゃってる気がするけどなんだか悪い気はしなかった。それどころか寧ろそこに心地良さを感じている自分がいるくらいだ。

 

「あーもう! やり過ぎだーっ!」

「きゃっ!」

 

 それまでのお返しと言わんばかりに此方からも水をかけ返した。すると彩も「やったなー!」とまたやり返す。そして暫くは互いに水をかけ合い海を楽しんでいた。それだけでどれくらいの時間を使っただろうか。時間を忘れる程に夢中になっていて、気がつけば俺は少し息が上がり始めていた。一方の彩はまだまだ元気といった様子だった。

 

「彩……全然息上がってないね……」

「まあ、パスパレのトレーニングは結構きついからね。努力の賜物かな?」

 

 これは俺ももっと体力をつけなきゃ行けないなぁ……。思わぬ所で改めて自分の劣ってる所もわかってしまった。喜ぶべきなのか凹むべきなのか……。

 その後、暫く俺たちは海での遊びを楽しんだ。水をかけ合うだけでなく、海の奥の方へ向かい泳いだり、砂浜で遊んだりと海ならではの遊びを楽しんだ。とりあえずひとつ言うならば彩が俺に砂をかけて埋めた時、調子に乗って砂を乗せまくるもんだから重くて仕方なかったってことかな。

 

 そうして気がつけば時刻はお昼を回っていた。

 

 とりあえず、近くにある海の家で食事をしようということで俺たちは今、海の家に来ている。

 

「おお〜、凄いメニュー……」

 

 看板に書かれているメニューには焼きそばにたこ焼き、カレーライスにフライドポテト、いか焼きにラーメン、かき氷と色とりどりのメニューが書かれていた。

 

「イサムくん、何食べる?」

「そうだなぁ……、やっぱりカレーかな?」

「じゃあ私は焼きそばにしようかな」

 

 そうして俺たちはご飯を注文し、席に着いた後食事を始めた。もちろん食事前の「いただきます」の掛け声も忘れはしなかった。

 

「ん〜! 海で食べるといつもより美味しく感じるね!」

「確かに」

 

 食べているカレーはよくお祭りで食べるカレーライスと似たような味なのだが、こういう特別な場所で食べると彩の言うとおり何時もより美味しく感じる。雰囲気の効果というのは予想以上に凄いものだと改めて体感した。

 

「ねえ、イサムくんのカレー1口貰っても良いかな?」

「いいよ」

 

 彩に言われ自分のカレーライスを彩の方へと渡したのだが、何やら彩は不満そうにしていた。

 

「彩? 食べないの?」

「……ねえ、食べさせて貰っても……いいかな?」

 

 少しだけ頬を赤らめながら彩はそう言った。

 

「彩……、君アイドルって自覚ある?」

「うう……。でもちゃんと帽子は被ってるし……」

「……はあ、しょうがないなぁ」

 

 彼女は玩具をおねだりする子供のような表情をしてきた。どうやら俺は彩にまだまだ甘いみたいだ。こんな頼まれ方をされては流石に嫌とは言えない。

 スプーンにカレーをひとすくい取り、彩の開いていた口の中に入れた。

 

「……うん、美味しいね!」

 

 さっきよりも顔を赤くしながら満面の笑みで感想を言ってくる。なんとなくだけどこそばゆい気分になりこっちも恥ずかしくなってきた。

 

「じゃあ私の分もイサムくんにあげるね!」

 

 と、やはり焼きそばと箸は彩が持ったままで言ってきた。これはアレですか。つまりはそういう事ですか。

 

「………ん」

 

 俺が口を開けるとそこに箸で掴んだ焼きそばを入れてきた。………ふと思ったんだけど箸であーんするのってかなり難しくない?

 

「………うん、焼きそばの味だ」

 

 焼きそば食べてるんだから当たり前だろと言われたらそこまでなのだが本当に思考が回りきらずにこんな感想になってしまった。いや、ちゃんと美味しかったよ? ただそれ以上にちょっとこそばゆい思いが再び沸き出て来たわけであって……。まあそんな俺の心の葛藤など知らない彩は今も尚凄い笑顔を見せてくるんだけど。

 

 その後、昼ごはんを食べ終えた俺たちは海の家を後にして再び海を満喫………と思ったのだが食後すぐに運動すると消化不良とかの問題があるため少しの間日陰で休むことに。

 

「うーん……風が気持ちいね〜」

「そだね〜」

 

 海や風の音が心地よく感じる程に俺たちはのんびり過ごしていた。食後と言うこともあり油断をすれば眠気が襲ってきそうだ。午後の授業の時もそうだが、お腹が満たされている状態での程よい日差しと言うのは何時でも眠気を誘ってくるのが辛いものだ。

 

「あ、やっぱり彩さんだ!」

 

 突然現れた第三者の声に驚きつつも目を向けるとそこには顔見知りの3人の少女がいた。

 

「みんなもここに遊びに来てたんだね!」

「はい! ここの海が穴場だけど景色がいいってリサさんが教えてくれたんです!」

「まあアタシもバイト先の店長から聞いた話なんだけどね。でもホントにいい感じの場所だったね〜 」

 

 気がつけば女子3人でガールズトークに花を咲かせていた。

 

「でも驚きました。イサムさんも来てたんですね」

 

 そんな中、俺に声をかけたのは羽沢さんだった。

 

「ま……まあね」

「それにしてもイサムさん、彩さんと仲良かったんですね」

 

 羽沢さんは意外でしたというような雰囲気でそう言った。確かにパスパレのメンバーは基本的に事務所のスタジオでバンド練習をやってるし、そうなると彼女たちの前で彩と遭遇する事は滅多に無かったので羽沢さんたちは俺たちの関係を知らなくてもおかしくは無い。

 

「なんて言うかな……仲良いって言うかなんて言うか……」

 

 彩の立場上、知り合いとはいえどこまで話して良いのかが難しいところだ。

 俺が言葉を詰まらせていると……

 

「ええっ!? 彩さんとイサムさんって付き合ってるんですか!?」

 

 上原さんの声が俺の耳にも響いた。まさかの彩が喋ってしまったらしい。

 

「イサムさん、彩さんとお付き合いしてるんですか?」

「うん、まあそういうこと」

 

 確認のように羽沢さんが聞いてきたので、俺はありのままの事実を話した。

 

「へえ〜、イサムも隅に置けないねぇ〜」

「あの今井さん? そんなニヤニヤしながら近寄るの止めてくれません?」

「もお〜! イサムさんもなんで教えてくれなかったんですか!?」

「いや……だってまあ聞かれなかったし」

 

 それからというもの、今井さんはイタズラをする子どもみたいな感じで声掛けて来るし、上原さんはグイグイ詰め寄ってくるしで大変なことに。しかも上原さんに至っては詰め寄ってるせいで身体の大きな2つの膨らみが身体に当たりそうになって結構理性的に不味いことに。

 

「それでイサムさんって彩さんとどんな出会いしたんですか?」

 

 慌てて後ろに下がり上手くそれを避けるものの、やはり上原さんは詰め寄って来る。そんな時チラッと彩の方に助けを求めるべく視線を送ったのどだが、当の本人は頬を膨らませて不機嫌そうにしていた。

 

「ひまりちゃん、ちょっと落ち着こ?」

 

 そんな中、羽沢さんが上原さんを止めてくれたお陰で最悪の自体は回避出来た。本当に彼女には感謝しかない。

 

「羽沢さん、ありがとう。助かったよ……」

「いえ、こちらこそひまりちゃんがすみません」

「あはは……」

 

 思わず2人で苦笑いを浮かべていた。羽沢さんも苦労する人なのかなぁ……とふと思ってしまった今日この頃である。

 

「おーい、イサム〜。つぐみといい雰囲気になってるところ悪いんだけどさ」

 

 こっち、と今井さんが声をかけてきた為、そちらに視線を向けた。

 するとどうだろうか。彩はついにそっぽを向き、つーんとしてしまっている。

 

「……彩? どうしたの?」

「………………」

「あーあ。イサムがつぐみとひまりといい感じになっちゃってるから〜」

「え? これ俺のせい?」

 

 彩の不機嫌がより強くなってしまったようだ。今井さんからは女たらしみたいに言われるし何なんだろうか。

 

「彩? ちょっと大丈夫?」

「…………カ」

「え?」

「……イサムくんのバカ。女たらし」

「だからなんでそうなるのさ……」

「だってつぐみちゃんと良い雰囲気になってたし、ひまりちゃんに近寄られた時もニヤけてたし……」

「いや、ニヤけては無いよね!?」

 

 再び俺が頭を抱えていたのだが、その時ある方法が閃いた。この誘いに彩が響いてくれるかは分からないが今はこの手にかけるしかない。

 

「彩……後でアイス食べる? 勿論俺の奢りで」

 

 こういうと彩が食いしん坊だとか思われそうだが……まあ実際のところこの間も深夜にアイスクリームを食べそうになったらしい。その時は千聖さんが勘づいて電話した事で彩は食べる事が出来なかったらしいけど。

 

「……うん」

 

 そして彩はこの誘いに頷いた。どうやら吉と出たようだ。そして少しだけ頬を赤らめながら俺の手を掴んで来た。そんな彩が可愛いな……と思った俺は思わず彼女の頭を撫でていた。

 

「あはは、2人とも仲直り出来たみたいで良かったよ〜」

「ですね〜、もうラブラブなのか見てるだけてわかりますよ」

「あの2人とも? しれっとスマホで写真撮ろうとするの止めてもらってもいい?」

「でもなんだかわかる気がしますね。彩さんがイサムさんを好きになった理由が。」

「あれ? もしかしてつぐみ……イサムに惚れた!?」

 

 今井さんがそう言うと「い……いえ、そういう訳では……」と必死に否定する羽沢さんにそれに食いつく上原さん、そして「イサムくんは渡さないから!」と遂には彩まで飛び込んで来た。

 

 

 賑やかなのは良いことだと思うけど、これはちょっと俺の精神的に追い詰められそうだから本当に程々にして欲しいものだと久しぶりに感じたのだった。

 

 




はい、皆様大変お待たせしました。
前回が8月の投稿で真夏でピッタリな話だったのに気がついたら現実ではもうツーシーズン変わりましたね。

一応次回はビーチ編最終話なのですが果たして2021年以内に投稿出来るのか……汗

良ければコメントや評価、よろしくお願いしますm(_ _)m

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