ここはCiRCLE。イサムはバイトの日は学校が終わるとすぐに来て働いている。
だが今日のイサムは完全に上の空の状態だった。それは丸山彩からのメールの一件に関してなのか、それとも……。
「………………」
「おーい、イサムくーん? 生きてるー?」
「……あ、すみません。何でしたっけ?」
「いや、もうあがりの時間越えてるんだけど……」
まりなに言われてイサムが時計を見ると針は既に7時を越えていた。
「ホントだ」
「どうしたの? 何か悩み事?」
「あー……まあ……」
「もし良ければ相談にのってあげようか?」
「…………実を言うとですね」
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「ただいま……」
誰もいない家に俺の声だけが響く。母はたまにこうやって夜遅くまで仕事して帰る時が月に2、3回ありたまたまある。それが今日だった。そして父は会社の都合で単身赴任でどこかにいるのだ。俺はそのまま自室に行き椅子に腰かけた。
「…………どーするかなこれ」
スマホのRINEを見ながら呟く。
会話の相手は彩だった。内容は話がしたいから今度一緒にお出かけしないかとのこと。
最初は断ろうかとも考えたが、それはそれで失礼だろうと思ったのと特にやることもなかったので承諾することにした。だがこれにより色々と問題が発生する。
俺は俗に言う『陰キャ』というのであり友達なんか彩を除けばアキラくらいのものだ。そんな人が突然女の子とお出かけとなってみろ。1人脳内会議が開催されるレベルでパニックになる。
普段ファッション等はあまり考えない俺も今回ばかりは適当な服でいくのは失礼だろうと思い試行錯誤している。他にも金銭はいくら必要か、話の内容は考えておいた方がいいのか等あげ始めたらきりがない。
それに加えて彩からのメールのことでどうにも色々と考えてしまう。……やっぱりこれからアイドルになる人と会うとなると色々と不味いのではないか。そしてこうして会えるのは今回が最後とか言われないだろうか……。これからの彩の心配をしているつもりなのだが落ち着いて見るとエゴイストな考えだと言われてもおかしくない。
ホント何やってんだろ俺……。
「…………よーし落ち着こう。佐倉イサム落ち着こう、うん!」
ひとまず深呼吸。そして牛乳を温めて飲む……
「いや、これは落ち着きすぎだ!」
遂にはよくわからないことで1人ボケツッコミをし始める始末である。
それにしてもどうするかな。さっきまりなさんに相談しても『そういう時は変に気取るよりもありのままでいいんじゃないかな?』と言われただけ。とりあえずお金と服はちゃんとしておこう。お金は……1万円ほど持っておけば足りるかな? 後は服なんだが……よく考えるとまともな服少ないよな俺。こうなったら当たり障りのないやつで……。
「…………慣れないことってするもんじゃないな」
準備をするなかでそんなことをボソッと呟くのだった。
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待ち合わせ当日となり、相手より5分前に現地に到着しようと出発した。
楽しみだったかは置いておいて昨晩は色々と考え過ぎて少々寝不足である。まあ陰キャだからしかたないね。
「……あれ?」
待ち合わせ場所につくとそこには既に見たことがある桃色の髪の少女がいた。時計を見たが余裕を持って出たため待ち合わせまでまだ10分もあった。まさかと思い急いで彩の元に駆け寄った。
「ごめん。待たせたかな?」
「ううん大丈夫。私もちょっと前に来たくらいだし」
まさかのどこにでもある待ち合わせのやり取りをやるはめに。そこ、『お前ら言うべき台詞逆だろ』とか言わない。俺も早めに来たんだから。
「それにしても来るの早いね。まだ10分前なのに……」
「あ……。うん、ちょっとね」
まさかとは思うが彩も待たせないように早めに来ようと気を使ったのかな?
「とりあえず移動しない?」
「そうだね」
彼女の呼び掛けにより俺たちは移動を始めた。
「ところでどこか行くところがあるの?」
「うん。この辺りでケーキが美味しいカフェがあるから一緒にどうかなって思って」
今日のプランもしっかり考えていた。本来男がやるべきなのだが面子が丸潰れである。
まあ、過ぎてしまったものは変えられないので今後の反省点として記録しておこう。
道中で他愛もない会話をしながら目的地のカフェに到着。そこは落ち着いた雰囲気でリラックスするにはうってつけといった場所だった。
「カフェラテとショートケーキお願いします」
「俺はアメリカンコーヒーとチーズケーキで」
それぞれが品物を注文すると店員は奥に戻る。
「彩ってよくここに来るの?」
「よくって言うか……たまにかな?」
「なんかごめんね? 率先して貰っちゃって」
「そんなことないよ。私もイサムくんとお話したかったし」
「そっか。それでなんだけどさあのメールのことなんだけど……ここで話しても大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だよ」
笑顔で答える彩。そのままイサムは質問を続けた。
「彩、本当にアイドルデビューするんだ」
「そうなんだよ。事務所の意向で私を含めた五人でアイドルバンドを組むことになったんだ」
「……良かったね。夢、叶って」
「うん」
一瞬彩の表情が曇ったような気がした。ずっと追い求めていた夢が叶ってアイドルになることが決まった。なのに何故嬉しいという言葉に裏があるように感じるのか。
「実はね……私、今回が駄目だったら諦めるつもりだったんだ」
「え?」
「でもこの話は3年間の研究生の中でやっと巡ってきた最初で最後のチャンスだから……なにがあってもやり遂げたいんだ」
なんでだろうか。今日の彩の言葉には重みを感じる。芸能界のことをよく知らない俺がとやかく言えることでは無いのだろうけど……何か別の意図が裏にあるのかもしれない。確信はない、ただそんな気がしただけ。
それでもアイドルになることは本当のことだ。だとしたら俺と彩は……。
「ねえ、彩」
「何?」
「俺たち……これからも友達でいられるよね……?」
ふとそんなことを言ってしまった。彩もビックリしたような顔をしている。
「ごめん! 今の忘れて!」
「大丈夫だよ……」
「え?」
「私はイサムくんと友達でいるから……!」
その言葉が発せられたことによりこんな重い雰囲気にしてしまった少しの後悔と彼女の言葉により少しだけだけど心が軽くなった思いが複雑に流れる。
俺たちの間で沈黙が続いてるところに注文した品が来た。タイミングが良いのか悪いのか……。
「とりあえず食べよう?」
「そうだね」
そうして俺はアメリカンコーヒーを飲む。うん、苦味が強いけど美味しい。
一方の彩はスマホでケーキを撮っていた。最近よくいうSNS映えというものかな?
「ねえねえイサムくん! これ見て! 凄く綺麗に撮れたんだ!」
「ホントだ。彩って写真撮るの上手いんだ」
「上手いのかはわからないけど……私自撮りの研究とかやってるからね。こういうのは綺麗にしておきたいんだ」
そう言って彩はケーキを食べ始めた。そのときの彼女はさっきまでとは違い裏表のない満面の笑みだった。
「イサムくん! このケーキ美味しいよ!」
「そうなんだ」
「イサムくんも食べてみる?」
「え?」
「はいっ!」とケーキの乗ったフォークを俺に出してくる彼女に対して若干困惑する。これは意図的な行動なのか、それとも何も考えてないのか。でもこれはあからさまに勘違いをしてしまいそうなシチュエーションである。
そんな中で俺は……。
「…………んっ」
そのままケーキが俺の口の中にIN。
とりあえず一言言えるのは……美味しい、そして甘い。このショートケーキがこの甘さなのか雰囲気により糖度が増したのかはわからないけど凄く甘い。そして彼女を見ると凄く満足そうな顔をしている。
「どうかな?」
「あっ……うん。おいしい……です」
おかしいな? ここ暖房効いてたっけ? なんか凄く温いんだけど……。
というか周りの目……。なんか笑われてるというか……生暖かい目で見られてる気がしてなんかこう……。
「イサムくん? 顔赤いけど大丈夫?」
「えっ? うん! 大丈夫大丈夫!」
彩は身を乗り出して聞いてくる……って近い近い! 顔の距離が!
ヤバい。もうなんか勘違いしそうな事ばっかで……。というか彩って天然なの?
「えいっ!」
パシャっとシャッターがきられたような音がした。見ると彩はスマホのカメラを自撮りモードにしていて写真を撮っていた。その画面には彩と俺が写っていて……。
「え? ……えっ?」
突然のことに脳の処理が追い付かない。
「あっ……。えっと……突然ごめん! せっかくだしイサムくんとの写真撮っておきたくて……」
彩は俯きながら呟いていた。うん、なんか可愛い。怒ってないけどなんか許したくなっちゃう。
「俺なら大丈夫だよ?」
「……! ありがとうっ!」
いや、本当可愛いすぎる。可愛過ぎて語彙力無くなってきたよ。この子は天使かな? いや、天使だったね。
「ふふっ。急に撮ったからイサムくん変な顔してるね」
「いやさっきのは不意討ち過ぎて顔なんか心配出来ないよ……」
こんなやり取りをしながらそれぞれケーキを食べていた。この時間は俺にとってとても楽しい時間だった。願わくばこの時間が俺が望む限り続きますように……なんて考えたり。
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「「ごちそうさまでした」」
ケーキを食べ終わり、2人は会計に向かう。とりあえず俺は伝票を手にして財布を出し会計をする準備はしっかりと整えてきた。今日は彩にお膳立てして貰ってばかりだったからここは男として女の子に財布を出させる訳にはいかない。行くぞレジ従業員、お釣りの貯蔵は十分か?
「合計○○○○円になります」
「じゃあこれで」
流れるように3000円を取り出しお会計をすませようとした。
「あの、お会計って別々に出来ますか?」
だがそれを良しとしないのか彩は自分の分を払おうとしていた。
「いいよ彩。ここは俺に払わせてよ」
「えっ? でも……」
「良いって。彩は今日の為に色々と考えてくれてたんだし俺にもお礼させてよ」
そう言って彩を説得し会計は俺持ちになった。ただ会計の際のやり取りでレジの人まで生暖かい目で見てきたのが少し気になったけど……。
そして楽しい時はあっという間とはよく言ったものだ。その後も色々と歩いて回っていたら夕暮れとなりお別れの時間となった。
相変わらず俺は彼女の家の付近まで送ってから帰宅コースになる。というのも彩からの要望だし最近は不審者も増えているので断る訳にはいかない。
「ありがと」
「え?」
突然の言葉に俺は戸惑う。
「イサムくんと話してたら凄く楽になったから……」
「彩?」
何か悩み事でもあったのかな? と思いながらも彼女の顔には満面の笑みが浮かんでいた。俺の思い込みならいいんだけど……。
「ねえ……もし勘違いなら悪いんだけどさ、何か悩み事とかあったりするの?」
「えっ? ……大丈夫だよ?」
「そっか。もし何かあったら俺で良かったら相談にのるよ?」
「うん。じゃあそのときは……お願いしようかな?」
そういうと彼女は優しく微笑んだ。
「あのさ……イサムくん」
「何?」
「また……こんな感じで会ってくれるかな……?」
夕焼けでよくわからないけど若干顔を赤くしながら問いかけてきた。
そんなの……答えは1つしかないじゃないか。
「俺で良かったら喜んで」
そう答えると凄く嬉しそうな顔をしてくれた。その時の笑顔だけでも俺は救われたような気分になった。
「ありがとう!」
何気ないやり取りをしながら2つの影は前に進んでいく。
今日、彩と出かけたこの時間で俺は彼女に救われたような気がしていた。
前回の流れで気づいた人もいるかと思いますがイサムくんは既に彩ちゃんに…。
失礼、ここから先の話はまた別の機会にしましょう。
そして新しくコメントをくださった水色( ^ω^ )さんありがとうございます。
評価の方も
☆9評価をくださった仮面ライダーウルム(ツイのルード)さん。
☆5評価をくださったぼるてるさん
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@kanata_kizuna