空気が乾燥し、皆がその身を震わせる冬の真っ只中。寒がりなひとにとっては家の外から出ることも億劫な季節とも言えよう。
しかし、そんな冬の半ばにはイベントが盛り沢山であるのが現実。特に12月後半から1月の上旬は忙しい限りだ。なんせクリスマスという冬の特大イベントが終われば僅か1週間で大晦日、そしてお正月という次の特大イベントが控えている。最早余韻に浸っている大人は少ないのでは無かろうか。
そんなこともあり、この季節は友達や家族、恋人とのお出掛けやお正月には初詣やお店の福袋を買いに行く為に外へ出掛けなきゃいけない理由は色々とある。
そしてこの男、佐倉イサムもまた寒さに弱い人間であり、神社の鳥居の前で手袋をした手に息を吹きかけながら友達を待っていた。
「おーい! イサム〜!」
そこへ待ち合わせをしていた人物、藤代アキラと先田ミチルがやってきた。
「やっと来た……」
「いや〜、すまんな。ちょっと着付けに手間取ってしもうて……」
「でもなんでアキラと一緒に来てたの?」
「ああ、こっち向かってたらたまたまアキラ見つけてな。せっかくやし一緒に来たんよ」
「へえ〜……」
「まあ新年とはいえ物騒な事もあるからな。可愛い乙女の為にアキラには一緒に行動してもろうたんや」
「可愛い乙女って………振袖の格好で走ってきた上に人の腰を傷めさせた奴の台詞か? お前どっちかと言うとメスマウンテンゴリラだろ……」
皮肉気味にアキラが呟くとミチルは目の前で拳を鳴らしていた。それを見たアキラは思わず彼女から目を逸らしたのだった。
「それはそうとイサム。あんたは今日はウチらと一緒でええんか? 彩といっつも一緒だったのに……」
「あ〜……、それがね〜……今年はなんか正月の番組の収録があったらしくて、今日はその足でパスパレの皆と初詣に行くんだって」
イサムがそう言うとミチルは成程と言った感じで納得していた。
「まあ最近はパスパレも話題になる事が多かったからな。あいつらの頑張りの結果だろう」
「そうだよね〜」
アキラの言葉にイサムは納得しつつ返答した。空を見上げながら何かを考えていたイサムだが、頬を叩くと「行こっか!」と2人を促して先に進んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方、丸山彩は神社でパスパレの面々と初詣を終え、御社殿の外れで日菜たちと談笑をしていた。
「あははっ! 彩ちゃんってば新年早々とちっちゃってるね〜!」
「うう〜……」
「もう……日菜ちゃんもあんまり彩ちゃんをからかわないの」
相変わらず日菜にからかわれて涙目になっている彩。そしてそんな日菜に注意を入れている千聖。麻弥とイヴはそんな3人を見て苦笑いをしていた。
「それじゃ御参りも済んだことだし皆さんで神社を見て回りましょうか」
「でしたらワタシ、甘酒を飲みたいです!」
「あたしポテト食べたい!」
「もう、皆はしゃぎ過ぎよ」
日菜たちと盛り上がっている中、彩は携帯の画面をみた。そしてそこにイサムからL〇NEからメッセージが来ている事に気がついた。
『あけましておめでとう! 今年もよろしくね!』
綴られていたのはシンプルな新年の挨拶。彩は直ぐに返信のメールを送った。
「(イサムくん、もう御参り終わったのかな)」
ここには居ない彼に思いを馳せ、空を見た。去年は一緒に初詣に行って神社に並んだ屋台などを巡っていたのだが、昨年はパスパレのお仕事も忙しくなり、気がつけば正月まで中々会えない時期が続いた。嬉しい限りではあるのだが、心のどこかでイサムの事を思い出す事も多かった。寂しくないと言えば嘘になるし、度々会いに行きたいと思うこともあった。
そんな中、彩に一通のメッセージが届いた。そこには『俺はアキラ達と御参り行くから大丈夫。彩はパスパレの皆との時間を大事にしなよ』と綴られていた。
「(そうだよね。今はパスパレの皆といるんだから皆との時間を楽しまなきゃ!)」
よしっ!と気合いを入れ直して顔を上げた彩。そんな時……
「彩ちゃーん? スマホずーっと見て何してるの?」
目の前に移動していた日菜に声をかけられて彩は驚いていた。
「大丈夫だよ! ちょっと連絡が来てたの気づかなくて……」
「もしかしてイサムくん?」
「へ……!? ち……違うよ?」
「え〜? でも彩ちゃん、なんか恋する女の子みたいな目してたよ?」
「え? 私、そんな目してた!?」
「ううん、してないよ?」
「え?」
「あ、やっぱりしてたかな〜?」
悪戯っぽく笑う日菜に「からかわないでよ!」と彩は抗議していた。
「日菜ちゃん、そこまでにしてあげたら?」
「はーい」
千聖の静止によって日菜は彩をからかうのを止めた。
「それにしてもホント彩ちゃんはイサムくんにゾッコンよね」
「ソウシソウアイって感じで微笑ましいです!」
「もおー! 千聖ちゃんとイヴちゃんまでー!」
千聖とイヴの何気ない言葉にも彩にとっては恥ずかしいと言う感情を膨らませていた。
「でも確かにココ最近、忙しかったからですからね……。彩さんは特に頑張ってましたし……」
「うん、でもまたいつか会えるって信じてるから大丈夫だよ!」
彩は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「そういえばさ〜、さっきイサムくん見かけたよ〜?」
「えっ!? 本当に!?」
日菜の言葉に彩が飛び付くように反応していた。
「あ、でも……」
「彩ちゃん、私はこれから行かなきゃいけない用事思い出したの」
「へ?」
彩が迷っていると千聖は突然そう言い出した。
「ジブンも……です」
「ワタシももう少しお寺の方を見て回ります!」
「じゃああたしもおねーちゃんのところ行ってくるよ!」
「へ……? へ?」
「あら。じゃあ今日はもう解散にしようかしら」
千聖に続くかのように麻弥、イヴ、日菜もそれぞれ自分の用事を思い出したと言い始め、そのまま解散する様に千聖が促した。そんな光景を目の当たりにしていた彩はひたすら困惑していた。
「……彩ちゃんも自分の用事、あるんじゃないの?」
「………うん!」
「ふふっ、じゃあまた今度ね」
千聖がそう言うと4人はその場で自分たちが向かうべき場所に行った。
彩はそんな4人に「ありがとう」と呟くと、スマホを取り出してある人にメッセージを送った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
彩は狛犬の近くに移動していた。そして辺りをみながらある人物を待っていた。
「彩!」
声のする方を見るとそこには彼女が呼んだ人物……佐倉イサムがいた。
「イサムくん! 」
「久しぶり。それと……あけましておめでとう」
「うん、あけましておめでとう!」
2人の間にはその後、暫しの沈黙が流れたがそんな中でイサムがそれを破った。
「それにしてもどうしたの? 今日はパスパレの皆と一緒にいたんじゃ……」
「それが……皆用事を思い出したみたいで……」
「え? 彩の方も?」
「え?」
「実はアキラとミチルもなんか用事思い出したって言っちゃって……」
「そ……そっか……」
偶然が重なり2人は苦笑いをしていた。それと同時に「今度何か皆にお礼しないとなぁ」と思った。
「それにしても今日、振袖で来たんだね」
「うん、どう……かな?」
「似合ってるよ」
「ふふっ、ありがとっ!」
久しぶりの彩の笑顔に見とれそうになったイサムだったが、何とか自分の心を取り乱さないようにしていた。
「初詣、終わらせたんだっけ?」
「うん」
「じゃあ……甘酒でも飲みに行く?」
「うん!」
よしっ!と意気込むとイサムは彩の手を取り、屋台の方へと進んだ。
「……イサムくん」
「ん?」
「今年もよろしくね!」
「うん、こちらこそ」
イサムと彩はそう言うとお互いの顔を見て笑いあった。
元旦であってもとても寒く、油断をすれば身震いをしてしまう程だったが、2人の手にはそんな寒波すら感じなくなる程の温もりが互いを温めあっていた。
あけましておめでとうございます!
2022年もよろしくお願いします!