私の好きな作品に出てくる言葉です。
さて、突然この言葉を出されてもなんのこっちゃと思う人もいるでしょう。ですがこの言葉は今回のお話だからこそ先に紹介しておきたかったのです。
その理由はこの物語を見てくださればわかる筈…。
「おはよう……」
朝起きてリビングのソファーに座り込む。隣のテーブルでは母親が目玉焼きとベーコンを焼いたものをお皿に盛り付けていた。
「おはよう。寝癖すごいよ? というか顔洗ってきなさい」
「はいはい……」
洗面所で顔を洗い、作ってくれたベーコンエッグとトーストにマーガリンを塗って食べる。ごく普通の朝食だけどこれが一番落ちつく。
「母さん、新聞は?」
「そこに無いの?」
「うん」
「じゃあソファーじゃない?」
そう言われてソファーを見ると本当に新聞が置いてあった。…………と言っても見るのは天気予報のところくらいだけどと思いながら開いて記事をみた時、今までの眠気が一気に覚めた。
「何これ……」
そこには信じられないことがかかれていた。
新聞の1ページ、それには……
『パスパレ大失敗、口パクやアテフリがデビュー当日にバレる』と書かれていた。
「そんな……どうして」
そう呟いた時、俺はあの時の彩の違和感を思い出した。夢が叶い晴れてアイドルになれる。なのにその笑顔や言葉にはどこか影が見えていた。これらの行動もこの事件を見たらすべて合点がいった。もちろんライブはあの出来事より後の話だ。
これは俺の推測だけど彩たちはあらかじめ上からこうするように指示を受けていた。しかしそれは仮に成功したとしても彼女達にとって、彩にとっては多くの人たちに嘘をつくことになる。それはファンに対しての裏切り行為でもある。その事を悩んでいたんだとしたら……。
「彩……!」
俺は真っ先に服を着替えて家を飛び出した。
「ここまではわかるんだけど……」
とりあえず彩に会うためにこれまでの記憶からこれまで彩と歩いて来た道を辿ってみたけど彩の家までは行って無かった為途中までしかわからない。
「そうだ。電話……」
俺はスマホを取り出し彩と連絡をとろうとする。しかし……。
「………………」
通話ボタンを押そうとしたが何故か押せなかった。
(あの時……俺がもっと彩の思いに気付いてあげていれば……)
その理由は後悔と罪悪感、そして自分の不甲斐なさが原因だった。
あの時会おうとしたのは密かに誰かに助けて欲しかったからではないのか。でも打ち明け無かったのは無闇に外部の人にそういった事情を話す事が出来なかったから。そんなことはわかってた。
それでも……もっと俺がしっかりと彩に向き合っていたら……。
あんなことで悩んだりしてなければ……!
俺よりも悩んでいた人が目の前にいたというのに!
今更悔やんでも後の祭りだ。だとしても悔やむ事しか出来なかった。
自分の事ばかり抱え込んで彼女と向き合えなかった自分自身を。
──────────────────
「であるからして……これは……」
イサムはその後もパスパレ、そして彩の事が頭から離れなかった。結局あの後も彩にも会えずそのままになってしまい心ここにあらずといった感じだった。
(彩……大丈夫なのかな……)
「佐倉。聞いてるのか佐倉」
「えっ? あっ……はい」
「そうか聞いてたのか。なら次の文を代わりに読んでみろ」
「えっ……。He say to be the king……」
「違うぞー。それは1個前の文だ。授業聞いてなかったな」
「すみません……」
「しっかりしろよ。ここテストに出るポイントだぞー」
席に座り「はあ……」とため息をつくイサム。その光景を見たのはアキラ1人だった。
「あーあ。ホント何やってんだろうね俺は」
放課後になりイサムは人の来ない裏庭のベンチで横になる。スマホを取り出しRINEを見るが一向に動きは無し。イサムも『大丈夫?』と送ろうとしたのだがその時に限って指がそれ以上動かなくなる。今優しい言葉を送っても彼女の心が晴れるわけではない。それにもしかしたら逆にニュースのことを思い出させそうで送れなくなったのだ。
「………………」
スマホを眺めながら教室で他の人たちがパスパレについて語っていたことを思い出す。
『パスパレって何がしたかったんだろうな』
『口パクバンドまでして売れたかったのかね?』
『まあ自業自得だな』
このような感じで言いたい放題だ。しかし実際にそうだった為反論できない。だが、彼はもっと悔しくなるような言葉も聞いてしまった。
『丸山彩って何回も落ちまくってようやくデビューできたのがこれだってさ』
『まあその程度の実力ってお偉いさんにも思われてるんだろ』
『最悪捨て駒役にされてたんじゃね?』
『というかあの程度で本人もよく引き受けたよな~』
黙れ、あんたらに彼女の何がわかる!
そう叫びたかった。でも出来なかった。今反論したところで1人の力ではどうにも出来ない。それにその事でイサムと彩がプライベートでも会っていた事が知られると別の意味で問題になる。もちろん彼女だけでは無い。他の4人に対しても好き勝手言われてばかりだった。彼はただその言葉に黙って耐えるしかなかった。
俺はなんて無力なんだ……。イサムは心の中で何度目かわからない後悔をした。
「おい」
額に冷たい感触が走る。顔をあげると彼の前にはアキラが缶ジュースを持って立っていた。
「アキラ?」
「人がいないからとはいえ堂々とベンチで寝るな」
「ごめん……」
起き上がると隣にアキラが座り缶ジュースを1本突きつけた。
「え?」
「やるよ」
「……ありがとう」
蓋を開け1口飲んだ。昼ご飯も食欲が沸かず抜いていた為朝ごはん以来何も口にしてなかったのでいっそう喉に染みた。
「あのニュースのこと気にしてるのか」
「……バレてた?」
「当たり前だ。今日のお前の行動はいつもに増して妙だったからな」
「そんなことは……無い気がするけど……」
「前向いて歩いてるのに電柱にぶつかったり教科書逆さにして授業受ける奴が大丈夫な訳あるか」
「うっ……」
ぐうの音も出ないことを言われ何も言い返せずそのまま黙り混んだ。
「アキラはさ……どう思うの?」
「何がだ」
「いや、最近デビューしたアイドルバンドの……」
「パスパレか」
「うん」
一瞬黙り混み少しの間沈黙が続いた。そしてアキラが語り始めた。
「どうにも言えないだろ。恐らくこの企画を持ちかけてそう動くように指示したのはスタッフとかだ」
「アキラもそう思うの?」
「だがあいつらも全く責任が無い訳ではない。現にその要求を最終的に受けてしまい今こうなってる」
「…………」
イサムはアキラの厳しい意見に何も言い返せなかった。
「だがこの先どうなるかはあいつら自身にかかっている。これ以上の批判に怯えこのまま終わるか、それともこの状況と戦うか。それを決めるのはあいつら次第だ」
「アキラ……」
「お前が心配してるのは勝手だ。だがこれはあいつらの問題だ」
黙り混むイサムに「だがな」と言葉を続けた。
「お前はあいつらがこんなところで終わるほど弱い奴らだと思っているのか?」
「えっ……?」
「もし覚悟が出来てない様なら最初から出てきて無い筈だからな。ここで逃げるようならあいつらはそこまでという訳だ」
そう言い残すとアキラは空き缶をゴミ箱に捨ててどこかに行ってしまった。
「俺は……」
────────────────────
あれから数分後。俺はファーストフード店に来ていた。特にこれと言って買い物をする予定はない。ここに来た目的は……。
「いないか……」
彩を探しに来た。家族でもない女の子相手だし一歩間違えたら変態扱いになりかねない行動だがここは携帯越しで会話をするよりも直接的会って話をした方がいい。そう思ったから。
「どこにいるんだ……」
一度思いきって電話をしてみたものの彩が出ることは無かった。でも気持ちはわかる。こんなときに呑気に電話をかけた俺も俺だから。
それから30分は探しただろうか。しかし一向に見つかる気配はない。このまま会うことすら出来ないのか……。そう思い空を見上げていた。
「あれ……?」
声が聞こえて振り向いた。そこには……。
「イサムくん……?」
彩がいた……。
「どうしたの? 突然……」
俺たちは近くの公園に移動し話をすることにした。公園に到着した俺たちはベンチに座り暫くの間お互い黙り混んでいた。
「ごめん……」
その沈黙を破ったのは俺だった。
「えっ……? なんでイサムくんが謝るの?」
「あの時、なんとなく感じてたんだ。彩は何か言いたくても言えない悩みがあるんじゃないのかって。でも俺は……」
「そんなことはないよ。何も言わなかったのは私の方だし……」
「俺がもっと頼りになる人だったら……君に辛い思いをさせなくても良かったんじゃないかって……」
俺の言葉に彩は俯いて黙りこんだ。こう言ったもののよく考えたら一般人1人ごときが事情を知ったところでどうにかなる訳ではないと思った。そんなことはわかってる。わかってるのに……。
「あのね……今日、千聖ちゃんに言われたんだ」
ゆっくりと彩が語り始めた。彼女の言う千聖と言う人物はパスパレのベースであり女優業もこなす人だ。俺も名前くらいは聞いたことがあった。
「努力が夢を叶えてくれる訳じゃないって……。
今度もう一度ライブをすることが出来るようになったんだ。私はそれがあの一件からずっと努力をしてきた結果だと思ってた。でも……違ったのかな? 私の努力って……意味無かったのかな?」
彼女の瞳から一粒の涙が溢れた。
「私、誰かに夢を与えてあげたい。勇気を分けてあげたい。そう思って今までアイドル目指して頑張ってきたの……。私は恥ずかしがり屋で……歌もダンスも上手くないからさ……。人一倍頑張ってきたつもりなんだけど……。それって本当に意味あったのかな……」
今にも泣いてしまいそうな表情だった。
なんとなくだけど……その思いは俺にもわかった。だって……
ちょっと前の俺を見てるみたいだったから……。
「彩、君はさ……今でもアイドルになりたいって言える?」
「……! もちろんだよ! でも……でも!」
「彩、つらいなら無理をしなくてもいいよ。でもさ、俺には彩がここで終わるとは思えない」
「……何で?」
「だってアイドルについて語ってる時の彩は凄く笑ってた。楽しそうだったし輝いてた。それにこうなっちゃったけど……彩も苦しかったんでしょ?」
「…………」
「本当にここで終わりにしたいなら無理は言わない。でも……本当にそれで良いの?」
「……良くないよ!」
彩が声を荒くして反論した。そのまま俺も言葉を続けた。
「だったらもう一度だけでも目指してみようよ」
「でも……」
俺の言葉を彩は涙を堪えながら聞いていた。こんなこと言っても未来が良くなるとは限らない。それでも俺はここで夢を諦めて後悔して欲しくなかった。
ちっぽけな夢でも密かに抱いてた存在がいた。でも現実に負けてその人は夢を諦めた。空っぽになったつもりでもどこかで後悔していた。でももう戻れなかった。だから……彩にはそんな風にはなって欲しく無かった。
「俺は彩の笑顔に救われた気持ちになったことがあるんだ。だから、彩の思いも努力も無駄じゃない!」
その一言によって彼女が堪えてた涙は次第と流れ始めた。
「うっ……!! うっ……!!」
「はい、これ使ってよ」
涙を流す彼女にハンカチを渡す。そのまま涙を吹きながら泣き続ける彼女のそばにいる。俺に出来ることはそれだけだった。
「イサムくん……」
「何?」
「もう暫く……そばにいてくれないかな……?」
「わかった」
そのまま俺に寄りかかり泣き続けた。自分の手を俺に重ねたまま。
俺に出来ることは多分これしかない。それでも、彼女が前に進めるのならそれでいいと思ってる。夢が無い俺でも彼女を支える事が出来たなら。
俺みたいになって欲しく無いから。
こんなシリアス展開にしといて言うのもなんだけどさっさとこいつらくっつけてイチャコラさせたい←
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