あの日からまた数日がたった。
世間は相変わらず忙しそうで皆学業や仕事に追われていた。
「・・・・・・・・」
あの出来事から暫くが経ち、周りでパスパレについて話している人はほとんどいなくなった。それでも俺はなんとなく…なんとなくだけど考えてしまう。
「はあ…。」
あれ以来RINE越しではあるが段々と彩とのやり取りも増えていた。だがあまりパスパレの話は控えるようにしている。というのも俺が勝手に気を使ってるつもりでそうしてるだけで彩から少しではあるがそういう話を聞くこともある。
ザー…。
外を見ると雨が降っていた。いつから降り始めたのかはわからない。だが一応折り畳み傘を持って来ていたので帰るときは困らないだろう。
「イサムくん、今日はもうやることも無いしあがってくれていいよ?」
「わかりました。」
まりなさんにそう言われて帰り支度をする。
「雨…強いな…。」
このときの俺は何も知らずに呑気にそう呟いていた。
◆ ◆ ◆ ◆
雨が降り注ぐ中、1人で歩きながら帰っていた。とても強い雨で近くの車の走行音もいつもに比べて小さく聞こえた。
俺は雨というのはあまり好きではない。というのも色々と理由はあるがやっぱり色々と思い返してしまう。そしてその時に限ってまるでオレを嘲笑うかのように雨が降り注いだ。
特にあの時は…。
2年前…
半年前、学校である作文の提出があった。それは『将来の夢について』だった。俺は昔から音楽が好きだった。というのもきっかけが小さいころに親と喧嘩して家出をした際に偶然通りかかった駅前で弾き語りをやってたお兄さんの音楽に心を引かれた…というもの。他の人からしたら妙な理由なんだけど。その後ギターを親にねだったもののアンプやらケースやらを揃えると十数万はするものばかりだった為、「流石に小学生の買い物じゃないんじゃないか?」と親に断られたのも覚えている。代わりと言ってはなんだけど何か他のものを誕生日にプレゼントしてくれたのは覚えてるがそれが何かは思い出せない。それにギターはそのうちお金が貯まったら買おう思っていたほど熱中していた。
話が逸れてしまったが当然夢…と言われるとどうしても悩んでしまうものだ。しかもタイミングがタイミングで中学卒業前という割りと考えて書かないといけないやつで。親に相談したら「イサムが好きなこと考えて書けばいいんじゃない?」と言われたので俺は『あのときのお兄さんのように音楽で誰かの心を動かせるような仕事につきたい』と書いた。
だが問題はここからだ。その後、先生と生徒の二者面談があり、その時の先生から酷いダメ出しを食らった。
「何だこれは?舐めているのか?」
「こんなことで大人になってやっていけると思っているのか。」
「そもそも音楽の仕事についてお前はどれだけ知っている。何も知らないだろう。」
「もういいけどお前は早く現実的な夢を見るようにしろ。将来と理想は違うんだ。」
今思い返すとこれが卒業前の中学生に言う台詞かよと思ってしまう。因みにこれは後から知ったことなんだけどその先生はどうやら極端なリアリストで裏ではあまりいい評判では無かったとのこと。
それでも当時の俺は何も言い返せなかった。現に音楽についての仕事なんてミュージシャンやアイドルといった一部のことしか知らなかったし、そんな人前にたてるようなメンタルもない。それにギターだって買おうとしてお年玉を貯めていたが未だに雀の涙ほどしかなく到底買うことが出来なかった。
それ以前にあの時に必死に考えた夢をボロカス言われて俺の心もボロボロになり次第と色褪せてしまった。
それからだろう、俺が夢を捨てて次第と空っぽになってしまったのは。
そしてその時も…強い雨が降り注いでいた。
それから暫くして雨はやんだ。それでもまだ俺の中では降り続いてる、いや最初から完全に晴れたことは無かった。
「なんで今更こんなこと…。」
夢を捨てたのはあの時の先生のせいでは無いことはわかってる。ただきっかけになっただけ。捨てたのは俺自身でそれ以上前に進む勇気が無かったから。それなのに…。
まだ未練残ってるのかな…?
空を見上げながらボケッと歩いてると誰かとぶつかった。
「あ、すみません…」
「いえ、こちらこそ…」
俺がぶつかったのは…。
「イサムくん!?」
「彩?…と誰?」
そこにはびしょ濡れの彩とパステルイエローの髪をした少女がいた。
「彩ちゃん、そちらの方は知り合い?」
「うん。イサムくんだよ!」
「そう」と呟いて少女は俺のことを見た。その表情は笑顔だったが僅か一瞬、何か…背筋をなぞるような感覚に教われた気がした。
「彩ちゃんと同じメンバーの白鷺千聖です。」
「佐倉イサム…です。」
丁寧にお辞儀をして挨拶する千聖さん。でも…この人さっきから目が笑って無かった。
「それにしても二人ともびしょ濡れだけど大丈夫?」
「うん、さっきまで駅前の劇場前でチケットの販売をしてたから…。」
「えっ…?」
言葉を失った。
あの雨のなかを?
ずっと?
「二人だけで…?」
「ううん。雨が降る前は他の皆もいたんだけど…私だけ残ったんだ。それでその後千聖ちゃんが来てくれて。」
「そんな状態で…?」
「うん。私が無理言って残らせてもらっただけだから。」
「何も…酷いことは起きなかったの?大丈夫だったの?」
「大丈夫だよ。ただ…ちょっと売れが悪かった気もするけど…。」
そう言いながら彩は笑っていた。
それでも…なんとなくだけど無理してるようにも感じた。
本当は苦しいはずなのに…どうして?
どうして君はそこまでまっすぐでいられるの?
「無理してる…。」
「……!」
「彩…多分だけど大丈夫じゃないと思う。俺の思い込みだったら悪いんだけど…。」
「イサムくん…。」
「どうしてそこまで…。」
「それはこの子がこういう子だからよ。」
そう答えたのは千聖さんだった。
「私もあなたと同じ思いだったわ。どうしてそこまでするのかわからなかった。だから私はここに来たの。それでわかったわ。彩ちゃんは愚直で不器用だけど自分にはこれしかないって自覚した上で夢に向かって進んでいる。そんな子なの。」
「・・・・・・・。」
「あなたに何があったのかはわからない。でも…それはあなたもわかってるんじゃないかしら?」
「・・・・・・・。」
「イサムくん。」
彩は俺の目を見た。そして言葉を続けた。
「私も…本当は辛いって思ったことがあるよ。でも今日も踏みとどまれたのはイサムくんのお陰でもあるんだ。」
「え…?」
「イサムくんは前に私に救われた気がしたって言ってたよね?あの言葉…本当に嬉しかった。こんな私でもこうやって誰かを元気づけられるんだって。だから…私、今日また思ったんだ。私は…やっぱりアイドルになりたいって。私らしいアイドルに。」
「彩…。」
俺が…?彩の背中を後押しした…?
「彩ちゃん、そろそろ戻りましょ?」
「うん…。イサムくん、それじゃ…」
「ちょっと待って。」
彩を呼び止めた俺は彼女にカバンから出したタオルを渡した。
「よかったら使って。びしょ濡れのままだと風邪引いちゃうから。」
「え?」
「一応使って無いから汚くはないけど…。」
彩はそのまま「ありがとう」と言ってタオルを受け取り、千聖さんと帰って行った。
『でも…それはあなたもわかってるんじゃないかしら?』
わかってたよ。最初から。
彼女は俺とは違うって。
俺が勝手に自分を重ねて、勝手に心配してただけだって。
でも彼女は途中で夢を捨てた俺とは違う。
彼女はただ前を向いている。強い信念をもって。
彼女は…俺とは違う。俺とは違って強い。
だから…
嫉妬してたのかも知れない。
新年号は「令和」でしたね。平成も終わりか…。わかってたけど実感ないな…。
それと今回、イサムが『ギターの代わりに何かを貰った』とありますがもし良かったら皆さんでそれが何か予想してみてください。ヒントは『特撮でたまに出てくる楽器』です。イサムの趣味を見直してみるのもありかも?
新しく評価とコメントをくださった水色( ^ω^ )さん。ありがとうございます!
高評価、コメント、絶賛お待ちしております!
@kanata_kizuna