最初に言っておく。
今回、まりなさんについてほんのちょっといじりました。
後、人によっては要所要所で『これまりなさんっぽく無くね?』と思われるところがあるかもしれません。
ご理解とご了承のほどよろしくお願いいたします。
あれからパスパレの評価は再び戻りつつあった。どうやら彩が雨の中でも挫けずにチケットを売り続けたことにより再び興味を持つ人が戻って来つつあるとのこと。
そんな中で俺の中の時間は完全に止まっていた。
その理由は完全に俺の中での話何だが、あの時彩が1人で雨の中でチケットを売っている映像がネットにあげられていた。その動画にはその努力を認めて再び応援しようとする人はいた。そして逆にそれを馬鹿にする人もいた。まあ人間というのは価値観の違う人ばかりだからこうなるのはやむを得ないかも知れないがその時の彩の姿を見ると夢の為にここまでしているのにどうしてそんな心ない言葉をかけられるのかと思ってしまう。
そしてあの日以来その度にわからなくなる。
どうして人は夢を持つのか。
こんなに苦しい思いをして頑張っても報われない人は報われないし、それで叶わなかったらその過程すらも後悔してしまうかもしれない。
そしてこの度に辛い思いをする。
だったら…
夢を持つ必要って何なんだ?
◆ ◆ ◆ ◆
その後日、俺は休みの日に『CiRCLE』でバイトをしていたんだけど…。
「イサムくん、この書類なんだけど…。」
「はい?」
「判子…逆に押しちゃってるよ?」
「あ…。」
今日は不調だったのかやたらとミスをした。
「イサムくん、お願いしてたコピーは?」
「あ!すみません!今すぐやります!」
こういう些細なミスや…。
「あれ?これなんか合わないな…。」
「どうしたの?」
「いや、ここの入力がうまく合わなくて…。」
「えっと……ってイサムくん!これ2つずつ入力マスずれてるよ!?」
「しまった…。」
普段やらないようなミスをしたり。
「じゃあ僕三番スタジオの掃除してきます。」
「うん。お願い。」
こうして積極的に業務に励むのは良いものの…。
「まりなさん…助けてください…。」
「いや何があったの!?」
濡れていた床で足を滑らせた上に絡まってたコードでこけて倒れてきた機材の下敷きになったり等の失態ばかりだった。
「はあ…。」
一通りの処理が終わったことで俺はカウンターで当番をしていた。
「おーい。」
声をかけられると同時に首筋に冷たいものを当てられて衝動的に後ろを振り向くとそこには缶コーヒーを持ったまりなさんがいた。
「はい、ちょっと休憩したら?」
「わざわざすみません。後ありがとうございます。」
渡された缶コーヒーを受け取ってそのまま飲む。
「どうしたの?何か悩み事?」
「いや…悩みというか…。これはなんと言えばいいのか…。…まあ大丈夫です!」
「今日の一連の流れを見るととても大丈夫そうには見えないけどな~?」
「うっ…。」
痛いところを疲れた俺は「実は…」とまたまりなさんに相談することにした。
「なるほど…。それで自分の気持ちがよくわからなくなってるってことか。」
「はい。今回のことは僕が勝手に思い込んで勝手に悩んでるだけってのはわかってるんですけど…。」
俺の言葉にまりなさんは黙って耳を傾ける。
「本当…なんかこうしてると自分がみっともなく思えてきて…。そもそも彼女は前を向いて進み続けてるからこういう結果なのはわかってます。でも…なんか…こううまく言葉に表せない想いが混ざっちゃって。」
俺は暗い顔をしながら話したと思う。この想いはどこから出てきてるのかはわからない。夢を掴んでいる彩に対する劣等感か、努力が実った彼女への嫉妬か。それとも他の何かなのかはわからない。でも…今はっきりと言えるのは…ただ未だに俺は逃げてるだけということ。辛い現実から、そしてそれを変えられない自分自身から。
それに俺は彼女と同じ土俵に上がれてすらいなかったのだから。
「……なんとなくだけどわかるかもしれないな。」
突然まりなさんが喋りだした。俺は驚いたが構わずに続けた。
「イサムくん、私前に『夢をそのままにした』って言ったよね?」
「確か…。」
そう言えば前にまりなさんの夢を聞いたときだったかな?あの時は訳ありみたいだったからそれ以上聞いてなかったけど…。
「実はあれなんだけど…私は昔バンドやってたんだ。」
「バンドを…?」
「うん。それも結構本気でプロ目指してたんだ。だからいい演奏をしようと頑張った。ずっと思ってたんだ。良い演奏をしていればいつか誰かに見つけて貰える、プロになれるって。そのために頑張って色んなイベントに出たし路上ライブとかもやったことがあるんだ。」
「でも…」と続けるまりなさんの表情は少しずつ悲しそうになっていった。
「結局、プロのスカウトが来るどころか次第と聴いてくれる人も減っていってね…。次第とバンドもバラバラになっちゃって…。そのまま私達は解散しちゃったんだ。」
「そんな…。」
「確かに辛かったよ。本気で頑張っていたのにどうしてなんだろうって。凄く悔しかった。」
まりなさんの雰囲気から彼女にとってそれがどれだけ大きなものだったか…なんとなくわかった。夢を失うってことは大切なものを無くすのと同じだから。
「でもね…。」
先程までの雰囲気から再びまりなさんは語る。
「今はなんとなくわかるんだ。どうしてこうなったのか。」
「え?」
「イサムくん、ここでライブやってる子には絶対的な共通点があるんだけどわかるかな?」
突然投げかれられた質問に俺は言葉を詰まらせた。
「みんな楽しそうなんだ。笑ってて、本気で音楽を楽しんでる。私達に足りなかったのは多分この気持ちなんだと思う。だからさお客さんも楽しんでくれなかったし、誰にも見てもらえなかったんじゃないかなって。
だから私はここでそんな子達を応援したい。本気で音楽をやってる子達を誰かに見つけてもらえるようにしてあげたいから。
多分…これが今の私の夢なんだと思うな。」
どこか遠くを見つめるようにそう言った。そのときのまりなさんの表情はどこか寂しそうではあるもののしっかりと前を向いていた。
「だからね。夢ってさ、叶わなかったらそこで終わりって訳じゃないと思うんだ。うまくは言えないけど…道はきっとどこかでどこかに繋がってる…って感じかな?」
「繋がってる…?」
「その先をまっすぐ進んでも途中で別の方向に向かっても…多分絶対的な正解なんてないんだよ。夢が叶う人もいればそうじゃない人もいる。でもその途中で夢に届かなかったりしても夢を追いかけたことに後悔はしたくない。だからみんな頑張ってその先に行くんだと思うな。そうすればいずればどんな未来だとしても自分の望む結果に繋がるんじゃないかな?」
夢を追いかけたことに…。
「まりなさん。」
「ん?」
「まりなさんは…夢を求めたことに後悔はしてないんですか?」
そう訪ねると「うーん…」と考える仕草をして語り始めた。
「それはまだ『ああしたら良かったのかな~』って思うことはあるけどさ。でも私はそのこと自体には後悔はないかな?それに…今の私には目標もあるからね?」
そう言うと「さ!仕事仕事ー!」とだけ言って奥に入って行った。
後悔だけはしたくない…か。
『私…諦めたくないんだ。どんなに辛くても諦めなかったら夢は叶うって信じてるから。それに…私と同じように頑張ってる人たちを応援してあげたい、そんなアイドルになりたいから。』
『イサムくんは前に私に救われた気がしたって言ってたよね?あの言葉…本当に嬉しかった。こんな私でもこうやって誰かを元気づけられるんだって。だから…私、今日また思ったんだ。私は…やっぱりアイドルになりたいって。私らしいアイドルに。』
彩はどんなに辛くても諦めなかった。それは夢を叶えるため?それとも後悔したくなかったから?
それでも彩は前に進んでいる。どれだけ辛くてもただ一生懸命に。
『私たちの歌を…聞いてください!』
出回っていた動画の中に彩が雨のなかでもチケットを売り続ける姿があった。
『彩ちゃんは愚直で不器用だけど自分にはこれしかないって自覚した上で夢に向かって進んでいる。そんな子なの。』
今なら千聖さんの言葉もわかる気がする。どうしてそこまで一生懸命になれるのか。どうして折れないのか。
とにかく真っ直ぐで。
とにかく一生懸命で。
どれだけ傷ついても前に進もうとする。
どんなに辛くてもそれを言い訳にしない。
それが…。
『丸山彩』なんだって。
まりなさんがおやっさんポジションみたいになってますね~。
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