例えばの話だが、君は自分の母親を食い物にされていると知ってなお我慢ができるかい?
「え、えっと……僕には母親も父親も居ないので……よくわからないです」
そうか……でも、正直に分からないというのはいい事だと、僕は思う。
相手に合わせていい加減な答えを言うより、分からないと自分の意見をキチンと言う事は。
「そ、そうですか?」
うん、それで、さっきの話に戻るんだけど……あぁ、君にとって大切な人はいるかい? または居たかな?
「え、えっと……大切な人ならおじいちゃんが、居ました。すごく優しくて……あったかくて……大きな手で頭を撫でてくれました」
ごめんね。逝ってしまった人の事を思い出させてしまって……。
純粋な君に追い打ちをかけるようで申し訳ないな……それで話を戻すけど、そんな優しい君のおじいさんが——誰かに踏みつけられ、その血肉を貪られ、搾りかすとなった魂さえも食い物にされたなら、君は、どう思うかな?
「……きっと、許せないです」
そうか。
「でも……」
でも? 何か、まだあるのかい?
「何か理由があると思うんです……。相手だって……そんな事、好きでやってるはずがないんです。だったら、話せば何か解決することが出来るんじゃないかなって……」
そうか……うん。なら、君はそうするといい。
君の選択や決断の善悪がどうかなんて僕には当然分からないし又、決めつけることもない。
「そ、そうですか! えへへ。旅人さんみたいな優しい人にそう言われるなんて僕、嬉しいです。そうだ! 旅人さんは強いですけどオラリオの冒険者なんですか?」
いや、僕は旅人だけど迷宮都市に住んでも居ないし地上に降りて来た神々の恩恵を刻まれた神の眷属じゃないよ。
まぁ、強いて言うのなら……僕は、迷宮都市に住む冒険者の誰よりも強いと、そう言っておこうか。
「えぇ?! そんなに強いのにファミリアに所属してないなんてやっぱり旅人さんはすごいんですね!」
君のような純粋な子に、すごいと言われるのは僕としても気分が良いね。
あぁ、僕はもう行くとするよ。ここに寄ったのは少しばかり……いや、君が知らなくても良いことだ。
さようならだ、ひどく純粋で、そして幼気な君……えっと、ベル・クラネルだったね。
また会うとしても、きっとこうして何かをかわす事は無いだろう。
「そ、そうですか……僕は旅人さんともっと色々なお話をしたいんですけど……そうだ! 僕、おじいちゃんの言っていた迷宮都市に、オラリオに行こうと思います! おじいちゃんが話してくれた色々な話に出てくる英雄のように、旅人さんみたいな人を助けるかっこいい英雄になりたいんです!」
僕を英雄に例えるなんて……言い得て妙だね。
さっきも言った通り、僕は君の決断を尊重しよう。
だけど心しておくと良い。
ダンジョンは君を含めて誰も歓迎していないと、ね。
これが、かつて迷宮都市オラリオにおいて千年もの間君臨しながらも隻眼の黒竜によって甚大な被害を被ったファミリアの主神・神ゼウスの唯一の遺産であるベル・クラネルと、神々に謀られ弄ばれダンジョンに変えられた全ての地母神・ティアマトを解放するために動き出したキングゥの初めての邂逅であった。