【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

1 / 56
 小説を書くのは凄い久しぶり、サイト機能にまだ慣れきっていないと不安要素しかないですが、よろしくおねがいします。


以前からずっとあたためてた作品です。脳内のアイデアを文章の形にするのって大変だなぁ。
多重クロス作品ですが、今回はほぼクロス要素無しです。すみません。






序章 アクロス・ビギンズタイム
第1話 GRAND PROLOGUEー交わり、滅びゆく世界で


 

 

 

 

 何もない。

 その空間を形容するとしたら、この言葉が一番であろう。

 視界を覆い尽くすほどの暗闇が、無限に広がっている。

 そんな辺り一面黒い世界に佇む二人の人物。光が存在しないにもかかわらず、彼らの姿はとても鮮明に見える。

 一人は金髪の少年。半袖のカッターシャツに黒いズボン、耳にはピアスをつけており、一見すると不良ぶった学生の様にしか見えない。幼さの残る顔には、何かを企んでいるかのように不敵な笑みを浮かべている。

 もう一方は、背の高い灰色の髪をオールバックにした男。赤黒いロングコートの片方の袖がないという変な服装だが、突っ込む者はここにはいない。

 

「いつまで続けるのさ?いい加減飽きてきたんだけど」

 

 少年が、つまらなさそうに言う。男はそれを鼻で笑い、

 

「終わるまでだ。途中下車は許されない」

「こんな途方も無い、やりがいも楽しさも無い作業を延々とさせられて楽しいですって言えるような社畜精神、生憎僕は持ち合わせて無いもんでね」

「何時ものように、住人と殺りあえばいいだろう。あんなに楽しそうに殺ってただろう?」

「飽きた。あんなのヌルゲーじゃないか。……今度はどうなのさ?」

 

 少年の問いに対し、男は指を鳴らす。

すると、突如として黒一色だった世界の地面を突き破るように、丸い何かが飛び出してきた。

 それは地球だった。

 乗用車ほどの大きさの地球が、地面から宙に浮かぶ。

 二人はそれに特に驚くそぶりを見せることなく、触れた。

 

「さあ、始めるか」

「一仕事行くか……あーつまんね」

 

 瞬間、全ては光で満たされた。

 

 

 


 

 

 とある高校

 

「それじゃあ、また新学期な」

 

  担任教師がそう言ってHRを締めくくると、途端に教室が騒がしくなった。

 本日は終業式。明日からの短い春休みを経て、来月からは新学年になる。

 騒がしい教室の中、逢瀬 瞬(おうせ しゅん)は机に突っ伏していた。どうやら、教師の話の間中、ずっと寝ていたようだ。放課後になったのにも気づかず、今も眠っている。

 そんな瞬のもとに、一人の少女が近づく。

 その顔には、ちょっぴり小悪魔めいた笑みが浮かべられている。

 

「うりゃあー!何してんじゃボッチ予備軍さんよぉー!」

「止めろ止めろ止めろぉ! 髪が乱れるだろ⁉︎」

 

 瞬の髪をワシャワシャと触りながら、少女は笑う。

 彼女の名は、諸星 唯(もろぼし ゆい)。明るい金髪のショートヘアーの、小柄な少女だ。運動神経・サブカル知識ともに最高クラスの、一体どこの今どきのラブコメ漫画のヒロインだといいたくなるような存在だ。瞬とは10年近く続いている長い付き合いだ。

 

 

「せっかく昼から暇なんだからさぁ、遊びに行こーよ!」

 

 有り余る元気を糧に瞬の肩を揺すりはじめる唯。いつもの我儘が始まったよ糞面倒くせえ!と辟易しながら、机に突っ伏したまま動かない瞬。しかし唯はあきらめることなく、さらに激しく揺らしてきやがる。数分くらいして、あまりのしつこさに瞬は耐えかねて顔を上げる。

 

「あーうるさいなあ!わかった付き合ってやるから!」

「わーいありがとう!じゃあ早速遊びにいこう!」

「遊びにって……どうせ駅前のアニメグッズ専門店だろ。荷物持ち要員なら他当たれっての」

「でもそう言っておきながらも何だかんだ付き合ってくれるんでしょ?ホント、ツンデレなんだから」

 

 誰がツンデレだ、と言い返しながら、瞬は机の横に掛けていた鞄を手に持つ。長い付き合いだから分かる。コイツはしつこい。まるで典型的な少年漫画の主人公かというレベルで、一度言い出したらなかなか曲がらないタチだ。

 

「今日は無理だ。妹の誕生日だからな」

「あーそっか、今日は妹さんの誕生日だったねー。あ、そうだ。私も祝ってあげよーか?」

 

 遊びに行くのはどうなったんだよ、と瞬は呆れたように言う。唯本人は既に行く気マンマンであるが、瞬としては別に嫌というわけではない。きっと妹本人も喜ぶだろうと思いながら、瞬は席を立つ。

 

「何かプレゼントがいるんじゃない?」

「まあそうだけど……ホントに来るのか……」

 

 まあいいけどな、と言いながら瞬は教室を出て、校門へと向かう。唯が後から走ってついてくる。春の暖かな日差しの下、そんな会話が続く。

 側から見れば、完璧にリア充カップルであった……というのは言わないでおこう。

少年のためにも。

 

 

 

 

 


 

 

 

 場所は変わり、駅の近くの通り。二人は、ケーキ屋へと向かっていた。

 

「おっそいぞ〜?どうした〜運動不足か〜?」

「お前歩くの速いんだっつーの……」

 

  機嫌の良さが歩くスピードに現れているのか、唯は瞬を置き去りにする勢いで先々進んでいく。

 苦笑いしながら後方を歩く瞬。その時、彼の足元から、カツンと、何か固いものが足に当たった様な音が聞こえた。瞬の足にあたったそれは、地面をスライドしながら転がってゆき、近くの縁石にあたって停止する。

 何か蹴飛ばしたか?と思い、彼は足元を見る。そこには。

 

「……何だこれ」

 

 なにかの鍵、だろうか。なんかやたらとごてごてとした、鍵状としか掲揚できない用途不明の物体。何か模様らしきものがあるようだが、良く分からない。真ん中に丸い穴があるが、何の意味があるのだろうか。

 誰かの落とし物だろうか?とりあえず近くの交番にでも届けてやろう。唯ならきっとそうすはずだ。瞬はその鍵?らしきものを拾い上げる。こうしている間にも、唯は先に行ってしまっているだろう。走って追い付くだろうか、と思いながら

瞬は顔を上げる。

 そこで漸く、あることに気づいた

 

「……あれ?」

 

 ()()()()()

 先ほどまで、通行人が結構いたはずの市街地は、人っ子一人いなくなっていた。

 車道を走っていたはずの車は、まるで時間が止まったかのようにその場に放置されているし、道沿いの飲食店内は、湯気の立った食事がテーブル上に放置されているのが、店の窓から見える。

 

「唯?」

 

 前を歩いていた筈の、幼馴染の名前を呼ぶ。

 彼女からの返事はない。震え上がるほど不気味な静寂が、瞬一人だけを包み込む。

 見馴れた筈の街が、酷く不気味に見える。自分だけが別の世界に入ってしまったかのような、得体の知れない感覚が、彼の体にまとわりつく。それを払しょくするかのように、瞬は拾った鍵のようなものを握りしめる。その時だった。

 

「やあ」

「うああああああ⁉︎」

 

 突然、耳元で声がして、瞬は驚きの声を上げる。

 

「君が、選ばれたのか。なんだか、心もと無いな」

 

 振り返って腰を抜かした瞬の目の前には、黒を基調としたローブを身に纏った黒髪の青年が立っていた。

 その容姿は、まるでファンタジーな異世界からやってきましたと言われても納得してしまうレベルで、周囲の景色とは浮いていた。

 突如として現れた謎の存在に、警戒しながらも、瞬は問いかける。もしかしたら、なにかわかるかもしれない。

 

「お前は……?これ、ドッキリじゃないよな?」

「ドッキリじゃないさ」

 

 青年は、不気味な笑みを浮かべながら近くの街灯に近づき、寄りかかる。

 寄りかかられた街灯が軋む音だけが、静かな世界に響く。

 

「私はフィフティ。君を、選んだ者だ」

 

 ソッチ系とも取れそうな言葉のニュアンスに、瞬は嫌そうな表情を浮かべる。生憎彼にはそんな趣味は無いので、フィフティと名乗る胡散臭そうな青年から少し後ろに下がる。

 

「君が何を思っているかは知らないが、私にもそんな趣味はないよ」

「……一体なんなんだ、お前」

「あまり時間がないから、単刀直入に言おう」

 

 青年は両手を広げ、高らかに叫ぶ。

 まるで、この世界全体に伝えるように。

 

 

 

「世界は、終わる!」

 

 

 

 

 

 ——-何を言っているんだ?

 瞬の抱いた感想は、普通の現代人としては至極真っ当なものだった。世界が終わる?さんざん終末論は主張されて来たが、人類は、地球は、まだ続いている。

 先程とは変わって、青年を見る瞬の目が白くなる。謎の人物から、謎の変人へとグレードダウンしたような感じだ。しかし、本人はそんなことは御構い無しに、大真面目な顔で続ける。

 

「信じていないようだ」

「いきなりそう言われてはいそうですかって信じられるか。エイプリルフールは来月だっての」

 

 そもそも、仮に本当だとしても、一介の学生に何が出来るというのだ。ただその時を待つだけしかないというのに。

 

「残念だが本当だ。正確に言うと、滅ぼされる」

 

 先程からこの男は、世界が滅ぼされるとかほざいているが、怪獣や宇宙人がやって来るとでもいうのだろうか。それこそ胡散臭い。まだヒーロー物のほうがマシだ。

 こんな脈略のない法螺話に付き合ってられるか。そんな事を思っている瞬の手を取り、フィフティは一方的に、冗談じみた話を続ける。

 

「しかし、君なら最悪の事態は回避出来る。君に、ほんのちょっとの覚悟があればね」

 

 瞬を置き去りに、フィフティの話は展開していく。話の理解を放棄した瞬は、ただぼんやりと、妹の誕生日について考えていた。

 フィフティは、御構い無しに、腰につけていたポーチから、何かを取り出そうとする。その姿が、段々ボヤけていく。

 そして、聞き慣れた声が耳に入ってきた。

 

 


 

 

「瞬……瞬……!」

「……あ⁉︎」

 

 気がつけば、目の前で唯が瞬を呼んでいた。辺りを見渡すと、そこには、何時ものような街があった。フィフティと無人の街は、消えていた。

 

「どこか遠い目をして……何かあったの?」

「えっと……何て言えばいいのか……」

「まあいいや、ケーキ予約してたんでしょ?さっさと行くよ?」

「ま、待てっつーの!」

 

 走りだす唯を追いかけていく瞬。

 とりあえず、あの事は保留にして置こう。彼はそう思うことにした。

 

 

 


 

 

 

 夕方

 

「ハッピーバースデー、湖森ちゃん!」

 

 ケーキの上に立てられた蝋燭の灯りが吹き消され、部屋が真っ暗になる。

 少しして、瞬が部屋の電気をつける。

  瞬の妹・湖森(こもり)は、嬉しそうに唯とツーショット写真を撮る。ポニテとアホ毛が揺れているのも、感情表現の一種だろう。

 

「皆ー、ジュース持って来たよー」

 

 逢瀬兄妹の親代わりである叔父の環士郎(かんしろう)が、コップに注がれたジュースを持って来る。瞬が物心つくかつかないかのころに居なくなってしまった両親にかわって、ここまで面倒を見てくれた、瞬の頭が上がらない人物だ。

 

「おじさんからのプレゼントだよ」

 

 そう言うと、環士郎は部屋の隅に置いてあった紙袋から、ラッピングされたプレゼントを取り出す。

 

「おおっ、ありがとう!」

「プレゼント見せて見せてー」

 

 唯に催促され、湖森はプレゼントを開ける。

 

「おおっ!こ……これは……、超次元スマッシュフォースXV!」

 

 出てきたのは、様々なゲーム作品のキャラクターが登場する大人気対戦ゲームの最新作であった。シリーズの大ファンである湖森にとっては、良いプレゼントだろう。

 

「私も買って来たよ〜、欲しいでしょ〜?」

「欲しい欲しい!」

 

 

  唯は笑顔を浮かべながら、自らの横に置いてあった紙袋からプレゼントを取り出す。

 

 

「じゃじゃーん!私とお揃いの猫耳パーカー!」

「おおっ!まじイカすじゃん!」

「兄ちゃんはお前のセンスがよくわかんないよ」

 

 彼女が取り出したのは、白と黒、二着のパーカーだった。フードには、可愛らしい猫耳がついている。ケーキを受け取った後、二人は一旦別れたのだが、おそらくその後で買ったのだろう。

 

「さっそく着てみようか」

「良いね!」

「着替えるなら別の部屋でね」

 

 環士郎の言葉に従って、唯達は部屋を出る。部屋に残ったのは男二人。絵面的にも何の面白みが無い空間になってしまった。

 

「瞬君」

「何、叔父さん」

 

 環士郎が何かを言おうとしたその時、

 

「おりゃー!私、只今参上!」

 

 パーカーを着た二人が戻って来た。すぐさま部屋が騒がしくなる。

 というか今の流れ、なんか重要な話が始まるぞと言わんばかりのやつだったのだが、一瞬でそれがお流れになりやがった。一体何だったんだ今のは。なんか唯がフード被った姿をこれ見よがしに見せつけてくるが、瞬は全然反応しない。ただ唯のやかましさに対して、一言。

 

「近所迷惑」

「パーカーについての感想はないの⁉ 」

「あーはいはい似合ってますねー」

「この朴念仁!私は瞬をそんな子に育てた覚えないでやんすよ⁉ 」

 

 適当に切り抜ける作戦、失敗。瞬の生返事に対して、唯の泣き落としがぶち込まれるが、もはや突っ込むのも面倒くさい。というか誕生日の主役差し置いて何してんねんお前。

 その場であーだこーだ言っている唯を横にのけると、その後ろから、唯と同じデザインのパーカーを着た湖森がやってきた。

 

「私はどう?」

「いいじゃないか。見ているとこっちがちょっと恥ずかしくなるけど」

「ぬおおおおおお……なんちゅう身内贔屓……」

 

 馬鹿野郎。家族なんだからそりゃあ贔屓するに決まっているだろう。

 

「よしお兄ちゃん!唯さん!ゲームしよう!」

「負けないからね」

「俺もやるのか……」

 

 


 

 

 

 ゲームというのは一種のタイムマシンだ。

 ゲームに夢中になっていた3人だが、気がつけば日がすっかり暮れていた。流石にこれ以上長居は出来ないので、唯はここでおいとまさせて頂く事にした。

 

「ほんじゃ〜」

 

 唯と湖森は互いに手を振って別れる。瞬は自室に戻ってベッドに横になる。

 ふと、昼間の事が頭に浮かぶ。

 あれは、何だったんだろうか。何故か、頭から離れない。ズボンのポケットに手を突っ込むと、固い感触がする。その感触の主を取り出し、眺める。

 

「一体、なんなんだろーな、これ」

 

 昼間拾った物体だが、なんなのかわからない。だが、あの胡散臭い男に関係するのは確かだ。

 と、その時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 

「お兄ちゃーん、入るよー?」

 

 湖森が、瞬に呼びかけながら部屋に入ってきた。瞬は物体をポケットにしまい、体を起こす。

 

「何だ」

「唯さん、制服の上着を忘れて帰っちゃったんだ」

 

 そう言いながら、湖森は制服の上着を瞬に差し出す。思い返してみれば、帰るとき、彼女はパーカー姿だったような気がする。なんちゅう面倒くさいことしてくれたんだ、まったく。

 仕方なしに瞬は立ち上がり、湖森の持っていた上着を受け取る。

 

「今なら間に合うだろ、行ってくる」

 

 そう言って、夜の街へと出発した。

 


 

 玄関扉を開けると、少しひんやりとした空気が肌に触れた。

 瞬は、唯の家に向かって走っていた。

 

「あれは……」

 

 前方から、何かが走ってくるのが見える。

 

「あれ、持って来てくれたんだ」

 

 唯だった。どうやら本人も気づいて戻って来ていたようだ。

 

「わざわざ届けてくれるなんて気が利くう~」

「おだてても何もないぞ。ったくそそっかしいんだよ、お前」

 

 瞬は唯に上着を手渡し、今度こそ別れようとする。

 その時、

 

「やあ、昼間以来だね。昼間は、白昼夢という形でしか話が出来なくてすまない」

「フィフティ……」

 

 曲がり角から、昼間会った胡散臭いローブの青年が現れた。

 嫌そうな顔をする瞬と、「何だこの人……」と至極真っ当な感想を抱く唯。

 昼間会った時と同じように、フィフティは一方的に話を始める。

 

「瞬の彼氏?」

「ふざけたこと抜かすなこの野郎」

「別れの挨拶は済んだかい?」

「は……?」

 

 いきなり、そんな事を訊いてきた。困惑する瞬を見て、フィフティは続ける。

 

「だって、もうすぐ世界が滅ぼぶからね。知り合いや家族に、最後の挨拶くらいはしておいた方がいいんじゃないかな」

「瞬、この人何言ってるの?」

 

 唯が訊いてくるが、瞬だって同じだ。そもそも、何故コイツは付いてくるのだろうか。わからない。

 

「力は、既にこの世界に有る。後は君が、それを見つけ出し、自らのものとするんだ」

「お前さっきから何言って……」

 

 瞬がそう言いかけた瞬間、突如として轟音が鳴り響き、地面が激しく揺れる。

 

「うわああああ⁉︎」

「地震か⁉ 」

 

 瞬と唯は、立つことが出来ずに転倒する。瞬が起き上がった時には、既にフィフティの姿は消えていた。

 

「何だったんだ、今の……?」

「さ、さあ……」

 

 周囲の家からも、轟音と揺れに襲われて慌てた人達が出てくる。閑静な夜の住宅地に、どよめきが伝染してゆく。瞬達は立ち上がり、辺りを見渡す。

 そのとき、突然、ドサリという音がした。音源の方を見ると、一人の男性が倒れていた。

 

「あなた……?」

 

 男性の妻らしき女性が、倒れた夫に触れる。すると、男性の頰が、まるで灰になったかの様に崩れた。

 

「え……」

 

 困惑する彼女をよそに、男性の体のあちこちが同様に崩れ、最後には灰に埋もれた衣服のみが残された。

 ここで、ようやく全員は我に帰る。

 

「き……きゃああああああああ!」

「うわああああああああ⁉︎」

 

 男性の妻の悲鳴を皮切りに、瞬も唯も含め、周囲の人達が一斉に悲鳴を上げた。

 

「あ……ああ……ゴフッ⁉︎」

 

 恐怖で腰が抜けた女性の口から、血が流れる。

 見ると、彼女の胸に何かが刺さっていた。それが引き抜かれると同時に、女性の体も灰になって崩れ去っていく。

 その背後には、灰色の怪物が立っていた。

 後は、パニックだった。

 

「逃げろ……!」

 

 反射的に、瞬は唯の手を引いて駆け出した。瞬が来た道の方には、灰色の怪物がいる。いや、それだけではない、剣と盾を装備した骸骨や、大きな目玉を持った一頭身の生き物、ファンタジーの世界に生息していそうなワイバーンに、ハンマーを両手に持った二足歩行の亀。

 その傍らには、動かなくなった人間が幾人も存在している。おそらく、彼等は死んでいる。そして、ここにいれば間違いなく瞬たちも同じ末路をたどる。

 

「なんなんだよあれは……!」

「わかんないよ……!」

 

 それは嫌だ。

 何もわからないまま、瞬と唯は、家とは正反対の方向に逃げだした。

 

 


 

 

 街は、もっと凄惨な状況だった。

 鏡から現れたガゼルのような怪物が、人間を鏡に引きずり込んで捕食する。500m程の大きさの怪獣が、駅ごと人間を踏み潰した。巨大な蜘蛛の姿をした化け物が、近くを通った人間に飛び掛かり、八裂きにする。機械仕掛けの魔神や猟犬が、手当たり次第に砲撃を加える。典型的な鬼のような姿をした異形が、目についた人間を片っ端から貪り食っている。

 

「何だアレ……⁉︎何なんだよ⁉︎」

「わかんないよ……わかんないよ……!」

 

 その場から離れようと、がむしゃらに走る瞬と唯。その前方から、大勢の人が此方に向かって逃げてくる。

 その人の群れに向かって、カラフルな何かが降ってきた。

 

「なま……⁉︎」

 

 それと接触した人の体が、急速に炭化し、崩れ去る。攻撃を逃れた、集団の後方にいた人たちは、皆腰を抜かしている。そこに追い打ちをかけるように、金色に輝く生命体が手を伸ばしてくる。それに触れられた人は、瞬時にその身体を結晶に変え、ばらばらに崩れ去ってしまう。

 

「駄目だっ……別のところに逃げるんだ……!」

 

 瞬は、唯の手を強く繋ぎ、来た道を引き返す。今離れたら、死んでしまうかもしれない、そんな感じがする。

 二人は、コンビニの裏に回りこむ。

 これが、アイツの言っていた世界の終わりなのか。数多もの命が目の前で散っていく。数分前までは、ありふれた日常が営まれていたとは想像もつかないような惨状だった。こんなの、耐えられない。

 

「父さん達……無事かな……?」

 

 家にいるであろう両親を心配する唯。一方、瞬は黙り込んでいる。

 

「……」

「瞬?」

 

 黙り込んでいる瞬に、心配そうに声をかける唯。

 

「な、何?」

「私達、これからどうなるんだろう」

「さあな……」

 

 その時、突如二人の近くにあったコンビニが、前触れなく、文字通り、消えた。

 他に例えようがない。ただ、消えた。その跡には、何もない、真っ黒な空間が広がっていた。

 

「なんじゃこりゃ……」

「統合だよ」

「⁉︎」

 

 いつの間にか、二人の近くにフィフティが現れていた。こんな状況下にもかかわらず、彼は平然としている。

 フィフティは、壁に寄りかかって話しだす。

 

「最初に言っておくが、今起こっている事は、私の仕業ではない」

「じゃあ、なんなんだよ……⁉︎ 誰が……いや、なんでこんなことになってんだよ⁉ 一体これはなんだってんだよ⁉ 」

「今は教えられない。君がまだ、力を手に入れてないからだ」

「一体何なんだ。その力ってのは」

 

 フィフティは、瞬の問いを無視して、怪物まみれの大通りに出ていく。火災が発生しているのか、やけに向こうが明るい。

 彼は、最後にこう告げた。

 

「君のライドアーツが、力へと導いてくれる。それが、世界を救う鍵だ」

「おい待て……!」

 

 フィフティを追いかけようとする瞬だが、彼のすぐ前を灼熱の炎が通過する。見ると、頭に変な装置を付けた男が、指先から炎を生み出している。

 

「PK……FIRE」

 

 突然、その炎が瞬目掛けて飛んでくる。

 

「っ⁈」

 

 慌てて先程まで居た路地に引き返し、なんとか回避する。しかし、上から突然怪物たちが降ってきて、唯と瞬は怪物で隔てられてしまう。

 

「唯!逃げろぉ!」

「でも……」

「良いから……がはっ!」

 

 怪物が、その太い腕で瞬を殴り、彼は火の海と化した大通りへと吹き飛ばされる。彼はすぐに立ち上がり、

 

「俺なら大丈夫だがふっ⁉︎」

 

 怪物からもう一発喰らい、地面に倒れる。怪物達の間から路地の方を見ると、逃げる唯の背中が小さく見える。

 彼はもう一度立ち上がり、怪物達から離れようと走り出す。その時、彼のズボンのポケットが、白く光っているのに気付く。その光源を取り出して手に持つ。

 

「これは……」

 

 それは、昼間拾った物体だった。拾った時とは異なり、その表面には、何やら顔のようなものが描かれていたのがわかる。放たれている光は、真っ直ぐと、ある一点を指している。

 もし、本当に世界を救えるのなら。そして、その為の力を手に入れる術が、この手にあるというのなら。

 

「ライドアーツが導く……いまはこれに賭けるしかないねぇ!」

 

 戯言じみた予言が、瞬の中でいつの間にか一縷の希望へと変わっていく。

 少年は走る。力へと。

 世界の命運が、今、託される。

 

 


 

 

 どれくらい走っただろうか。

 息も絶え絶えで、少年は、街の惨状が一望できる高台へと辿り着いた。辺りを見渡すと、近くに、まだ無傷な神社があった。

 手の中の物体——ライドアーツの光は、この神社の敷地へと伸びている。

 

「唯……湖森……叔父さん……」

 

 皆は、まだ生きているのだろうか。

 少し前までは、ありふれた日常が流れていた筈なのに。今、全てが無くなろうとしている。

 此処に来る途中で見かけたテレビが言うには、世界中がこの有様らしい。フィフティの言うとおり、このまま世界は滅ぶのかもしれない。

 怪物を遠くに見つけたので、急いで鳥居の陰に隠れる。

 

「Aa……」

 

 背中からゲル状の液体を垂れ流す怪物が神社の前を通り過ぎるのを待ってから、瞬は再び動きだす。その時、奇妙なものを見つけた。

 

「なんだ……これ」

 

 それはマネキンだった。

 真っ白なそれは、この場所においてはあまりにも不自然だった。光は、マネキンの近くの地面を指している。

 恐る恐る、接近する。

 その時、マネキンが突然起き上がり、瞬の首を掴んで鳥居に叩きつけた。

 

「くあっ……!」

 

 肺の空気が全て押し出されるような力で、向こうは首を締めてくる。脳に酸素がいかず、酸素不足と激痛で意識が飛びそうになる。

 ふと、マネキンがあった場所に目を向けると、何かが地面に埋まっているのが見える。光の筋は、真っ直ぐとそれを指している。

 しかし、気付いたところで、今のままでは何も出来ない。というか死ぬ。

 

(やばい……死ぬ……!)

 

 死を覚悟したその時。

 

「おんりゃあああああ!」

「ヌッ……⁈」

 

 誰かが体当たりを白いのに喰らわせ、瞬が解放される。空気を吸いながら、瞬は顔を上げる。それはある意味で、瞬を安心させる人物だった。

 

 

「唯……⁉︎逃げたんじゃ……⁉︎」

「ようやく……再会出来た……!」

 

 煤だらけの、今にも泣きだしそうな笑顔で、瞬に抱きつく唯。

 

「お前一人で逃げたんじゃ……」

「瞬を置いて逃げるなんてやっぱり無理だよ!」

「……んな事言っている場合じゃねぇぞ」

 

 白いのが、起き上がる。

 それと同時に、神社も、コンビニと同様に消え始める。それに気付いた唯は、瞬の手を引っ張る。

 

「あの消えてる最中のやつに触れてたら、私達も消えるの!だから早く此処を出るよ!」

「いや、まだだ」

 

 だが、瞬は唯の手を振りほどいた。

 なんで、と言いかけた唯に、瞬は無言で鍵状の物体 ―― ライドアーツを見せる。それから発せられる光は、瞬の目の前の地面の中へとのびている。

 

「ようやく……見つけたんだ!今を逃したら、もう駄目なんだ!」

 

 さっき見つけた場所を、一心不乱に掘る。数分ぐらい堀っただろうか。地面を掘っていた瞬の手に、固い感触が伝わる。

 出てきたのは、バックルのようなものだった。丸い形をしており、前面には液晶がついている。上面にはふたつの鍵穴のようなもの。そして鍵穴からバックルの側方部までを結ぶような溝。

 一体これは何なのだろうか。まじまじと見つめる瞬だったが、唯の声で我に返る。

 

「ほら!早く!」

「あ、そうだった!」

 

 こんなことしている場合ではない。一刻も早くこの場を離れなくては。唯に手を引っ張られ、瞬は神社の外に出る。白いのは、神社ごと消滅した。

 路上にへたり込む二人。周りを見ると、他にも消滅したものがあるようだ。建ち並んでいた住宅が無くなり、黒い空間のみが残っていた。

 

 

「唯、これからどうする?」

「……家に帰る。父さんや母さんが心配だし」

 

 安息の地は、無い。それでも、大切な人の安否は確かめたい。

 瞬は、バックルをまじまじと見つめる。これが、本当に世界を救う力なのだろうか。

 

「瞬……?」

 

 心配そうに唯が言う。

 

「俺は大丈夫だから、な?」

「ホント?」

 

 口先では強がってみせるが、大丈夫なわけがない。

 こんな状況に置かれても、彼は普通の少年だ。彼だって、心配すべき大切な人がいる。彼らのことを考えると、不安になる。とりあえず、安否は知りたい。

 二人は立ち上がり、歩きだす。

 いつの間にか、辺りは静まりかえっていた。

 

 

 


 

 

「何だ、あれ」

 

 瓦礫の山の頂上で、金髪の少年がそう言った。

 彼の視界の先には、瞬に襲い掛かったのと同じ、真っ白な人影がいた。

 

「あれはデリトーレンだ」

 

 彼の隣にいた片袖無しコートの大人が答える。

 

「次元統合に耐えられない次元に現れ、全てを消し去る。そんな存在だ」

 

 つまらなさそうに、二人は街を眺める。この辺りはまだ、街の形をしているものの、そこら中に死体が転がっている。

 

「じゃあ、あのオルフェノクやガストレア、ミラーモンスターやノイズは?」

「全部、デリトーレンの変異した姿だ。怪物と消滅の二重奏、中々趣きがあるだろう?」

 

 男は、邪悪な笑みを浮かべ、高らかに叫ぶ。

 

「我らの大望は、何人たりとも止められはしない‼︎ 」

「はいはい、皆待ってるから帰るよ」

 

 少年に突っ込まれ、男は黙る。二人は、もう用はないといった調子で姿を消した。

 

 


 

 

 長い道のりの果てに、唯の家までやってきた。

 唯の家は、まだ残っていた。どうやら、まだこの辺りは消滅してないようだ。

 

「じゃあ、見てくる。そこで待ってて」

 

 瞬を外に待たせ、唯は玄関のドアの前に立つ。

 ガチャリと、扉を開ける。

 静まりかえった自宅に、唯は恐る恐る足を踏み出す。早く、親の顔が見たい。帰りが遅い、と叱ってくれたらどれだけ安心できるか。

 リビングの扉を開ける。

 そこには、ソファにすわり、真っ暗なテレビの画面を凝視する唯の両親の後ろ姿。

 

「父さん……母さん……」

 

 唯が呼びかけると、二人は立ち上がり、唯のほうを向く。その顔には、醜悪な笑みが浮かんでいる。

 そして、彼らのはその身を昆虫のような姿の怪物に変える。

 

「い……嫌あああああああああ!」

「唯⁉︎」

 

 悲鳴を聞き、瞬が駆けつける。

 

「父さん……母さんが……怪物に……」

「そんな……」

 

 呆然とする彼らの周りに、何処からともなく、白い化物ーデリトーレンが現れ、取り囲む。

 

「ちくしょう……!」

「今こそ、その力を使う時だ」

 

 何処からか、フィフティの声が聞こえる。同時に、瞬の頭に、何かが流れ込んでくるのを感じる。

 

 

(これは……コイツの使い方か……?)

 

 

 頭にあるイメージを、実行に移す。

 唯をかばうように前に立ち、バックルを腰に当てる。すると、何処からかベルトが出てきて彼の腰に巻きつき、バックルを腰に固定すると同時に、音声が鳴る。

 

《クロスドライバー!》

 

 次に、ライドアーツの背面部のスイッチを押す。

 

《ARCROSS》

 

 絵の部分が光り、音声が鳴る。バックルの右側のボタンを押すと、ボタンのついている部分がパカリと上にひらく。そこについている差し込み口に、ライドアーツの側面の突起を刺す。

 バックルから音楽が流れだし、瞬は、腕をバックルの辺りで交差させる。

 そして、

 

 

「変身!」

 

 

 その掛け声と共に、クロスした腕を戻すと同時に、ライドアーツの刺さっている箇所を右手で軽く押す。

 

《CROSS OVER!》

 

 バックルの右にスライドしたライドアーツが、円盤状の液晶部分にドッキングされる。

 

《思いを!力を!世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》

 

 その音声と共に、液晶から無数の光の線が飛び出して、瞬の体に巻き付く。全身がそれに包まれた後、何故か瞬の背後に振子のようなものが現れる。そして、それが瞬に向かって勢いよくぶつかると同時に、光がはじけとぶ。

 

「……何これ?」

 

 瞬の見た目は、大きく変貌していた。

 全身を覆う黒。銀色の胸部装甲。手足の発光するオレンジのラインと眼が、周囲を照らす。

 

「これは……」

「それが、力だ」

 

 

 

 この日、あまりにも大き過ぎる使命を持たされたヒーローが生まれた。

 彼の名は、仮面ライダーアクロス。

 

 

 

 全てを繋ぐヒーローの物語が、今始まる。




本当は1話で戦闘シーンまでぶちこみたかったけど、文字数が10000超えしそうなので次回にまわします。
 機能がまだ使いこなせてないので、おかしい所さんがありましたら教えていただけると嬉しいです。
評価とか感想とかいただけると励みになります。

ブランクが長かったせいか文章力落ちてる……いや、もともと低いか。


次回「ENTER THE NEW WORLD」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。