【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
許してくださいなんでもしますから。
よくよく考えるとソーナではなくめだかが生徒会長になってるんなら、悪魔サイドどないすんねんという話。そもそもフラスコ計画やってるんなら悪魔の力及べるんかというね。
まあそれはしばらく放置。その時になったら書きます多分。
あれから一週間が過ぎた。
瞬は徐々にクラスに打ち解け始めていたが、それ以外は全く進展無し。湖森との溝は埋まらず、転生狩者については何もわからない。
それでも時は流れていく。物語は進む。
瞬達の通う学校は、小高い丘の斜面に、街を見下ろすように建っている。つまり登校時は学校の手前で坂道を登る羽目になる為、割と面倒くさいのだ。おまけに今日は気温が高い為、学校に着く頃には瞬は汗だくになっていた。
「よ、二人とも」
「ん、逢瀬か。アイツは一緒じゃねーんだな」
この一週間でアラタと瞬は徐々に仲良くなり始めていた。教室に入るなり挨拶を交わすと、瞬は席に座る。ちなみに現在の座席は出席番号順に決められているので、二人は前後の席である。
「いやーあっつい。これでもまだ四月半ばだぜ?」
「本日の最高気温は28℃らしいし……アラタさん、今日帰りにアイスでも買って帰りましょう……」
「あーそうだな。制服がすでに汗臭い……」
「汚いからちょっと離れてくれない?」
「お前から近づいてきたんじゃねーか」
「何こいつら付き合ってんの?」と思いながら、アラタと大鳳のやり取りを眺める瞬。ちなみに彼も既に汗ダラダラである。これも全部温暖化って奴の所為なんだ。温暖化許さねぇ! と思わずにはいられないだろう。
制服の袖を捲り、下敷きで自身を仰ぎながら椅子にもたれかかるという、凄くだらしない格好のアラタは、その体勢のまま瞬にこんなことを聞いてきた。
「なぁ、瞬は部活とかやってんの?」
時期的には、部活の勧誘が盛んな時期なので割とタイムリーな話題だ。瞬はそれ聞くか? と言わんばかりの顔を一瞬してから、渋々答える。
「帰宅部2年目だっての」
「へーそうかい」
瞬の答えを聞いて若干ニヤついたような顔を向けるアラタ。なんだその反応は、と瞬は少し不機嫌そうにアラタの肩をつつく。
「アラタだって帰宅部じゃない」
「し、仕方ないだろ。姉貴に負担はかけられないからな。大鳳だってわかってるだろ?」
「よく分かってますよ」
二人のやり取りを眺めながら、一体朝から何を見せられてるんだ、と変な自己嫌悪感を抱く瞬。妙に二人が眩しく見えるのは気のせいだろうか。
無意識のうちに、なんか微笑ましいモノを見るような温かい視線を向けていたらしい。すこし照れたように二人が、
「そんな目で見るなって。別に面白くないぞ」
「分かった分かった……お、唯のお出ましだぜ」
「オッハー! 私参上!」
相変わらず煩い挨拶だ。しかしこの馬鹿みたいな元気さに瞬は安心する。
「あ、そーだそーだ。湖森ちゃんから借りてたコレ、見終わったから返しとくわ」
「へいよ」
唯は鞄からDVDケースを取り出して瞬に手渡す。先月から湖森が唯に貸していたモノだ。
二人は何故か瞬以上に仲が良いので、こうして、DVDや漫画の貸し借りを行なっているのだが、何故か毎回瞬を経由するのだ。しょっちゅう遊びに来てるのだから直接やれよ……と思う瞬だが、別に大したことないので普通に引き受ける。
「いい加減仲直りしちゃいなよ。良かったら私がセッティングするからさ」
「お見合いみたいに言うなよ」
ここで二人のやり取りを見ていたアラタが一言。
「お前も大概だよな」
「うっせえ」
アラタの言葉に、すこし照れ笑いをしながら返す瞬。まあ、側から見ればどっちもどっちなのであった。
「やべえ……疲れた」
朝から早々ぐったりしている一誠。何時もならば松田や元浜と共にエロトークにうつつを抜かすのだが、ここ一週間はそんな気力が無いのか、教室にきては
「おいイッセー、今日の放課後は松田ん家でAV鑑賞するぞ」
「俺パス」
だるそうな声で元浜の誘いを断る一誠。それを聞いて松田が口をあんぐり開けて驚く。
「嘘だろ? 性欲の擬人化とも言われているお前が断るなんて……変なもん食ったのか?」
酷い言われようである。周囲は知る由も無いが、実際にはオカルト研究部の活動が忙しいのでそんな余裕が無いのだ。
あの後リアス達から悪魔の何たるかを色々教わり、悪魔稼業の第一歩として契約のビラ配りを夜に行っている上、基礎的な力を高めるためのトレーニングも行っている。いくら夜に強いといえど、さすがに徹夜はキツい。結果として、このようにヘトヘトになっているのだ。
「なんか最近付き合い悪いぞ。木場に告白でもされたのか?」
「んなこと天地がひっくり返っても無い」
力なくツッコミを返すと、一誠はそのまま机に突っ伏した。とんだブラック部活だが、悪魔として成り上がる為の通過儀礼だと思い頑張るしか無いのだ。それに悪魔になると様々なメリットがあるらしく、その事実も一誠を奮い立たせる要因になっていた。
(上級悪魔になれば……ハーレムが作れる! 俺は成り上がってやる!)
そう。成り上がる事が出来れば、一誠の悲願であったハーレム王が実現できるのだ。その為には悪魔として精一杯働いて手柄を立てる必要がある。
そう考えていると、心無しか疲れが吹き飛んでいくような気がした。一誠は己の欲望を想像し、机に突っ伏したままにやけていた。余談だが、これを見ていた教室内の女子達がドン引きしてたとか。
「はぁ……」
また、溜息が出た。
これで何度目だろうか。
大した事ではないし、すぐに片付く話なのだが、どうしても踏み出せない。拒絶してしまう。
「どーしよう……」
逢瀬湖森は悩んでいた。現在は絶賛昼休みの時間なのだが、開けられた弁当はあまり手がつけられていない。
(立ち止まってちゃ駄目なのは分かるけど、やっばり……)
悩んでいるのは兄のことだった。
ヒビキやネプテューヌと共に怪物に攫われたあの日、湖森の目の前で瞬は変身して戦った。妹の為に身体を張って奮闘した、その事実は、助けられた身からすると充分賞賛と感謝に値するモノだというのは湖森にも理解は出来る。
しかし、だ。湖森はそれを完全には受け入れられなかった。未知の力を使って戦う兄の姿に、感謝とは別にある種の恐怖を抱いてしまったのだ。それ以来、彼女は瞬を避けるようになってしまい、現在に至る。
「湖森ちゃんっ」
そうやって一人で悩むこと早半月近くが経とうとしていた今日。流石に見かねたのか、ぽんと肩に手を置かれると共に声をかけられた。
「あ……凪沙」
顔を上げると、そこには
「紹介するね。友達の逢瀬湖森ちゃん」
「はじめまして、姫柊雪菜です。話すのは初めてになりますね」
「見るからにお悩みの様子だけど、私でよかったら話は聞くよ?」
「だ、だいじょーぶ大丈夫。自力でなんとかし、しますから」
「まあそう言わずに。少し吐き出した方が、案外解決策とか見つかるかもよ? なんか溜め込みがちな所、古城くんに少し似てるよね」
それを聞いて「言うほど似てるかな?」と思わずにはいられない湖森。何度か凪沙から話を聞いたり、学校でも見かけたりしているが、正直言うといつも怠そうな顔してる人という印象だ。
ともかく、凪沙のいうとおり、誰かに吐露したほうがいいのかもしれない。彼女なら、きっと大丈夫。そう判断し、湖森は心中を明かす。
「お兄ちゃんのことなんだけどさ」
「お兄さんがどうかしたんですか?」
「なんか……秘密……みたいなのを知っちゃって、それで向き合いにくくなっちゃって」
「秘密かあ……何? お兄さんが実はお姉さんだったとか?」
「何その複雑な秘密⁉︎いやそんなんじゃないからね⁉︎」
凪沙の言葉に思わず吹き出し、必死に否定する湖森。想像しただけで目眩がし、倒れそうになるところを凪沙が支える。
「ご、ごめん。話の腰を折っちゃって」
要らぬ発言で会話をぶった切ったことを謝罪する凪沙。
どちらかと言えば粉砕しちゃってるんだけどなぁ、と思う湖森と雪菜。半笑いになりながらも、湖森は続ける。
「お兄ちゃんには悪いとは思っているんだけど、中々言い出せなくて。凪沙ちゃんも知ってる通り、お兄ちゃんとはずっと仲良くて喧嘩もほとんどした事なくて、余計にどうしたらいいか分からなくなって」
「んー難しい悩みだなー。雪菜ちゃんはどう思う?」
「え、いや……私、兄弟とか居ないからよく分からなくて」
急に話題を振られて少し慌てる雪菜。剣巫として育てられた故にこういった経験がないので、どうも力にはなれない模様。
仕方なしに凪沙は一人で考える事に。1分ほど唸りながら考えた末に、
「月並みなこと言うけど、やっぱりこればかりは湖森ちゃん自身の問題だからさ、最後には自分でやらなきゃ駄目なんだよ。だからあくまで最初のひと押しだけしか私達はしないよ」
「それは分かってる」
「焦る必要は無いんだからさ、湖森ちゃんのやり易いタイミングで話しあってみたら? 悪いお兄さんでもないんだし、躊躇する必要はない気がするけどね」
「……まあ、そうだよね。充分逃げたし、なんか今からなら行けそうな気がしてきた。ありがと、凪沙、雪菜」
「いや、私何もしてませんから……」
そうだ。いつまでも躊躇ってはいられない。今日帰ったら話してみよう。てか今まで躊躇してた分根掘り葉掘り訊きまくってやる。そう息巻いてる湖森の様子を見て、雪菜がぽつりと一言。
「……あっさりと元気になりすぎな気がしますけど」
「私、カウンセラーの資質あるのかも」
それはどうなんだろうか。雪菜の心の中の拙い突っ込みは、誰にも届くことはなかった。
時間は進んで放課後。
「あ、今日私は中年スキップ買わなきゃいけないから、バイバーイ」
「……アレ面白いのかね」
欠かさず購読している週刊漫画雑誌を買いに行く為に、唯は帰り道とは逆方向のコンビニに向かう。一誠はオカルト研究部の活動があるために、瞬はアラタ達と一緒に帰ることになった。
「山風、待ってたのか」
正門の辺りで、中等部の制服を着た緑髪の少女が待っていた。こちらに気付いた彼女は、頭の黒いリボンを揺らしながらアラタの元へと駆け寄ってくる。
「まあね。随分と遅かったね」
「担任の話が長くてよーもうヤダ疲れた」
「アラタ……知り合いか?」
「山風だよ。なんつーか……妹分的な?」
なんか歯切れの悪い言い方なのは気のせいだろうか。と思っていると、山風がアラタの発言を訂正するように言う。
「正確には同居してるんだよね。色々アラタのお姉さんには世話になってるから」
なんだそりゃ。思わずそんな言葉が口から出てしまった瞬。何処のラブコメの主人公だと言いたくなるが、ぐっとこらえる。
「両手に華、とはこーゆーことか」
「何その変な視線……頼むからやめて!」
「へいよ。邪魔しないから好きなだけイチャつきなさいな」
リア充の邪魔をするような腐った性根は持ち合わせていない逢瀬少年は、数歩引いた位置からアラタと大鳳のやり取りを眺める。そこに山風と名乗った少女がトコトコと側に寄ってきて、
「……二人とも仲良いよな」
「ですね。出会ったのは私と同じくらいなんですけど、何処でこんなに差がついたのかな……」
「でも見てて微笑ましくならないかな? 正直ちょっと羨ましいぜ」
「よく言われます」
瞬の言葉に苦笑する山風。どうやら考える事は皆同じらしい。
と、ここで一台のバイクが猛スピードで近づいてくる。気づいていないアラタに山風が注意する。
「アラタ、バイク来てるから!」
「うおっ危ねえ!」
少し大袈裟にバイクを避けるアラタ。幸い事故が起こる事なく、バイクはそのまま走り去っていった。
「いや〜危なかった……にしても、なんか腕が軽くなったよーな……」
呑気なアラタの態度に呆れたような顔をする大鳳だが、瞬がある事に気付く。
「あれ、お前鞄どした?」
「鞄? ちゃーんと手に持っ……あ⁉︎」
瞬に指摘されて自分の手を見ると、そこには鞄の紐のみ。鞄本体は影も形もない。すぐさま必死になって辺りをキョロキョロするアラタだが、山風が何か思い至ったような顔をする。
「……さっきバイク避けた時に鞄の紐が切れて、ガードレールを飛び越して落ちていったんじゃ」
「あー、確かに落ちてる。見えるわ」
ガードレールから身を乗り出して斜面を見下ろすと、アラタの鞄と思しき物体が、斜面の下の廃工場の敷地に転がっているのが見えた。
軽く4〜5メートルは下に落ちているのだが、鞄はそんなに傷ついた感じがしない。
「くそっ拾いに行くっきゃねえ!」
「ちょっアラタっ」
アラタはガードレールを乗り越えて、雑草の生い茂った急な斜面を下りていく。そっちの方が最短距離で辿り着けるからだ。瞬達もアラタを追って下る。
途中何度も滑り落ちそうになったが、怪我なく全員鞄に辿り着いた。鞄についた土を払いながら、アラタは鞄を持ち上げる。
「あー良かった……つーか結構頑丈だなこの鞄」
「てかどこまで落ちたの……」
「別にお前らついてこなくて良かったのに」
アラタがもっともなことを言うが、そもそも鞄落としたのはコイツだ。アッサリと目的は完了したので、何処か気味の悪い廃工場からさっさと立ち去ろうと四人は歩き出す。
ところが、
「……待て、なんか音がしないか?」
「は?」
瞬の耳に何かの唸り声のような音が入ってくる。犬とは違う。何処か邪悪で、タチの悪そうなものだ。
「犬じゃない……なんだこれは」
「さ、さっさと帰ろうよ……なんか怖い」
山風がそう言ったその時、ズシンという音がし、それと同時に地面が少し揺れる。そして、近くの倉庫の暗闇の中から声がする。
「ほう、久々に人間が来たか。これは美味そうだ」
「なん……じゃ……これ」
倉庫の暗闇の中からでてきたそれが人間でないのは一目瞭然だった。
4本の馬のような足のついた下半身。その上に乗っかる人間の上半身。その背中には蝙蝠のような一対の翼や、額には牛のような大きな2本の角が生えている。
全長4メートル程は優にありそうなその怪物は、瞬達をまるで獲物を見定めるかのように見下ろして、舌舐めずりをする。
「俺様は名も無きはぐれ悪魔。俺様の餌食になるが良い、非力な
「悪魔……? 人間を……食べる?」
呆然とする瞬の手を、アラタが強く引っ張る。
「悪魔……やべえ、逃げるぞ瞬。喰われちまうぞ」
「あ……ああ!」
アラタに促され、我に返った瞬も逃げ出す。悪魔と名乗った存在も、4本の足でその後を追ってくる。
「速い……! このままじゃ追いつかれちまう!」
「逃がさねぇぞ……久々の獲物だからな。人間の血肉はやはり極上だ……」
悪魔は瞬達を見下ろしながら舌舐めずりをする。
「どうするの、ねぇ……」
「畜生っ! ここで死ぬのかよ俺達……」
「ひゃっはあああっ!」
世紀末な掛け声と共に、悪魔は鋭い爪を振り回す。
「皆伏せろっ!」
咄嗟に四人が伏せたことで、悪魔の腕は瞬達の真上を掠め、近くに高く積まれていた鉄パイプやドラム缶などの資材に派手な音を立ててぶち当たる。
土煙が上がる中、アラタは山風と大鳳の手をとって駆け出しながら、もうひとりの友人の名を叫ぶ。
「おい逢瀬え!」
しかし、瞬はアラタ達とは反対の方向 —— 悪魔のいる方向へと走りだす。予想外の出来事にアラタ達は驚き、
「ちょっ……瞬⁉︎何してるの⁉︎」
「悪い! コイツは俺が引きつける!」
「馬鹿かお前! 死にてえのか⁉︎」
「大丈夫! 俺もちゃんと逃げるっての!」
そう言い残した直後、資材の雪崩が二人の間になだれ込み、分断される。もう瞬に逃げ場はない。深く息を吸い込んで悪魔に正対する。
崩れた資材の山の向こうからアラタが何か叫んでいるが、瞬には届かなかった。
「なんだぁ? ヒーロー気取りか?」
悪魔が瞬の行動を笑う。彼からすれば、自分より遥かに格下の獲物が、他人の囮として
自分の前に残ったのだ。身の程知らずな奴め、自ら喰われにくるか。悪魔は今にも抱腹絶倒しそうになる。
「そうかもな。だが誰だって黙って喰われたくはないだろ」
そう言いながら瞬はクロスドライバーを取り出し、腰に装着する。悪魔はその隙を見逃さず、口から魔力で作った黒い波動を瞬に向かって吐き出す。
瞬に着弾すると同時に、それは大爆発を引き起こす。炎が上がる中、あっけなく終わった瞬を悪魔は嘲笑う。あれだけ威勢のいいこと言っておきながら、随分とあっけなく死んだのだ。笑いたくもなる。
「馬鹿め。やはり人間は脆い生き物……」
「そうかよ。だが俺は少しは頑丈らしいぜ?」
「は?」
する筈のない声がしたかと思えば、既にアクロスに変身していた瞬が、土埃を突き破るように上に跳びあがっていた。驚いている悪魔に、アクロスはそのまま急降下して飛び蹴りを仕掛ける。
「ふん!」
「っ……!」
悪魔は其れを咄嗟に腕で防いで弾き、弾かれたアクロスは地面に着地する。
「へぇ、神器ってやつかソレ! じゃあお前殺して奪ってやんよ。人間には過ぎたモンだしなぁ!」
アクロスに変身した瞬を見て、悪魔は馬鹿にしたように笑い出す。どうやらアクロスの力をあわよくば奪ってやろうと考えているようだ。
下劣な笑い声を上げながら、悪魔はアクロスに向かって大きな拳を振り下ろす。アクロスは前に転がってそれを回避し、同時に腰にさしてい銃 —— ツインズバスターを構え、悪魔の頭目掛けてぶっ放した。
「その程度の攻撃なんぞ効かん!」
そう言うと、悪魔は接近してきていた瞬を前脚で蹴っ飛ばす。
「がっ……ぶふっ……!」
地面を何度も転がる瞬。悪魔はそこに鋭い爪を振り下ろしてくる。慌てて立ち上がり、瞬は走って回避するが、もう片方の爪が目の前スレスレを横切っていく。
「あっぶねぇ……」
思わず冷や汗がぶわっと溢れ出すが、その恐怖を堪えてアクロスは悪魔の再び振り下ろされた
拳を回避し、今度はそれに飛び乗る。
「くっ……ちょこまかと動きやがって……!」
「せやあ!」
必死に振り払おうとする悪魔だが、アクロスはそれを耐えながら腕を駆け上り、悪魔の顔面に渾身の左ストレートをお見舞いさせる。
が、これもあまり効いてない様子。悪魔は頭を振るい、肩に乗っているアクロスを地面に落とし、前脚で踏みつけ始めた。
「はっ……! ばかはっ……!」
踏まれるたびに襲いかかる、肺の中の空気が全て押し出されるような衝撃。アクロスは動くことができないまま、ただ一方的に踏まれていた。
そもそもの話、今迄に比べて相手が単純にデカい。おまけに相手の皮膚は意外に硬く、パンチやキック、銃撃だとあまりダメージが通らない。大きさというハンデが、余計にアクロスを不利にしていた。
「おらっ!」
「がはっ……!」
止めに前脚で思い切り蹴飛ばされ、アクロスは周囲に置かれていたドラム缶や鉄パイプを蹴散らしながら吹き飛ばされる。その衝撃で持っていたツインズカリバーが落ちて転がる。
転がっていったツインズカリバーは、倉庫の建物の柱にぶつかってカチリと音を立てる。その時、
《SABRE MODE》
唐突に発せられた音声。
すると、ツインズバスターのグリップ部分が銃身部分とカチリとくっ付き、剣の刃を形成した。
「変形すんのかこれ……」
ひょっとすると、この鋭い剣なら攻撃が通るかもしれない。そう考えたアクロスはベルトからアクロスのライドアーツを外し、ツインズバスターについているスロットに差し込む。
《CROSS BLAKE》
カチッという小さな音がした後、剣からその音声が鳴り、刀身がオレンジ色に点滅し始めた。
「ひゃっはああああ! いただきまーす!」
怪物は動かないアクロスを見て好機と捉えたのか、4本の足で一気に走って距離を詰めてくる。腕を高く振り上げ、鋭い爪でズタズタにしようとする。
が。アクロスは土壇場になってツインズバスターに左手を添えて、
「せぇいやあ!」
一閃。オレンジ色の稲妻を纏った刀身が、はぐれ悪魔の横っ腹を切り裂く。今まさに振り下ろさんとしていた腕が止まり、斬られた箇所から鮮血が一気に噴き出した。
「残念だが、俺は食われる訳にはいかねーし、他の奴を食わせる訳にもいかねえんだよ」
アクロスの言葉が、怪物に届いたのかはわからない。
ただ、遅れてやってきた痛みが、悪魔の歪んだ笑みを苦悶の表情へと次第に変えてゆく。
「あ、がか……あばっ……」
膝から崩れ落ちるようにして地面に倒れる怪物。彼はもう既に絶命していた。それと同時に、アクロスの張り詰めていた緊張の糸が切れて、どっと疲れが押し寄せる。
「はっ……はぁ……」
武器を足元に落とし、肩で息をしながら、地面に膝をつく。やはりまだ戦いには慣れないな、と思いながら瞬はゆっくりと立ち上がろうとする。
そこへ、
「待ちなさい、其処の貴方!」
「……え?」
突然ぶつけられた大声に固まるアクロス。
振り返ると、倉庫の入り口に複数の人影があった。それは瞬に向かって恐る恐る接近してくる。倉庫の穴の空いた屋根から覗く日の光に照らされる人影達。一人は瞬と同い年くらいの金髪のイケメン。一人は小柄な銀髪の少女。一人は無駄に胸がでかい黒髪の女性。その中には、見知った顔もあった。
学校の女子の多くから嫌われてる変態クラスメイト・兵藤一誠。イマイチ状況が飲み込めていないのか、必死にあたりをキョロキョロ見ている。
もう一人は、鮮やかな紅髪の女性。リアス・グレモリー。アクロスからすればただの上級生だが、他の生徒からすれば校内有数の美人。その人気故に、アクロスもこの一週間で名前と顔は覚えてしまった。
リアスは、瞬に向かって問いかける。
「ここで何をしていたの?」
「……さあなんでしょうかね」
「巫山戯ないで。こっちは真面目に訊いてるの。私の質問に全て正直に答えなさい」
正直に、と言われても困る。「怪物と戦ってましたー」なんて誰が信じるというのだ。
そもそも向こうは何故ここに来たのかアクロスにはわからない以上、迂闊に発言できない。あれこれ考えてるうちに、リアスから質問をぶつけられる。
「はぐれ悪魔を倒したのは貴方なの?」
悪魔ってなんなんだよ、と思いながらも、リアスの話を聞く。いつの間にファンタジーになってたんだこの世界は。もしくはリアス達が厨ニ病なのか。
「……なんか可愛そうな子を見るような視線を感じました」
「大丈夫、私もよ……ずいぶんと舐め腐ってくれるじゃない」
無意識のうちににそんな目を向けてしまっていたらしい。一方的に決めつけるのはいかんと思い、アクロスは首をふる。
「……で、話を戻すけど、はぐれ悪魔を倒したのは貴方なの?」
「えっと……あの化け物のこと? 確かに倒したっちゃあ……倒したけど」
「ええ。あれは私達が倒すはずだったの。私の領地で人間を勝手に襲う連中を生かしてはおけないのよ」
「それなら別にいいじゃないか。襲われる人はいなくなった訳なんだからさ」
「それで済めばいいんだけどね。僕らからしたら、君は未知の力を使う謎の人物……このように危険視されてしまうのは当然と言えるんだけど」
金髪の少年がアクロスの言葉を遮るように言う。たしかに、彼の言うことには一理ある。この辺りを考慮せずに戦ったアクロスに落ち度があると言えるだろう。
全員の警戒心の込められた視線がアクロスに突きつけられる。戦いの時とは違った緊張感が容赦なく襲う。
「貴方は何者なの?」
リアスは真面目な顔で瞬に問いかける。さて、どうしたものかと内心パニックになっている瞬。当然の事であるが、向こうは向こうで完全に警戒している。流石に連戦は体力的にキツイし、そもそもここでリアス達とかち合ってしまえば、どちらも学園での立場が悪くなりかねない。
(正体を明かして誤解を解くべきか……? いや、それだと余計に事態が悪化する可能性も無くはない……)
「答える気が無いの?」
リアスの言葉がアクロスを焦らせていく。向こうも声に若干のイライラが籠っているように感じられる。どちらに転ぶのもあまり良いとは思えない。
逃げたいが囲まれている。アクロスの力を使えばなりふり構わず逃げられるが、その場合は完全に敵対したと取られる可能性もある。万事休すだ。
(この状況……切り抜けられるのか……?)
一体どうしたことだ、と一誠は困惑していた。
はれてグレモリー眷属の仲間入りを果たした彼は、皆に連れられて悪魔稼業に駆り出されていた。主人殺し等によって冥界から指名手配されているはぐれ悪魔の討伐任務に同行し、リアスをはじめとする部員達の戦いぶりを見学するというのが本来の予定だった。
しかし、仲間達が倒すはずだったはぐれ悪魔はすでに謎の人物によって倒され、現在は警戒したリアスの質問タイムに突入している。向こうは答えたくないのか、仮面で見えないが質問に口ごもっている様子だ。
「小猫ちゃん、これどうすんだよ」
「分かりません。万が一戦闘になる場合も否定できませんから、その場合は下がってて、ください。足手まといですから」
「くっ……否定できねぇ!」
小猫の辛辣な言葉を一誠は否定できない。実際一誠は悪魔としては未熟、その上魔力も少ないので魔法陣での転移も厳しい始末。
「姫島先輩……」
朱乃の方を見ると、彼女も謎の人物に対して警戒している。喧嘩もろくにした事ないただの変態である一誠は、皆のその様子を見て困惑せざる得なかった。
「部長、ホントにアイツと戦うんですか?」
恐る恐る手をあげ、見るからにイライラしてるリアスに質問する一誠。
「場合によってはそうなるわ。だから戦いになったら貴方は下がって見学をしてて。何、その時はデモンストレーションの相手が変わるだけよ。普通の人間が悪魔とやり合うなんて、そうそう出来ないわよ」
「リアス、油断は禁物ですよ。貴女のそういう所が欠点だってお兄さんに言われてるじゃない」
謎の人物もリアス達も、両者一歩も引かない。睨み合いが暫く続く中、ある異変に気付いた人物がいた。
「 —— 部長、何かが此処に近づいてきています」
「小猫?」
「あ」
唐突な小猫の発言に反応して、一同は辺りを見渡す。その時。
ドガシャアアアンッ!!!! と。
何かが倉庫の天井を突き破って落ちてきた。
土埃が発生し、全員の視界を塞ぐ。
「なっ……何が起きて……?」
土埃の中から現れたのは、赤黒い鱗。アクロスを含めた、この場にいる全員に向けられた敵意のこもった視線。
次に現れたのは、紅い一対の大翼。それが羽ばたく度に、土埃と共にプレッシャーが周囲に拡散されていく。
その姿にアクロスは見覚えがあった。
「オリジオン……」
一週間前に遭遇したオリジオンだった。アクロスは直接戦ってはいないが、一筋縄ではいかない相手なのは充分理解している。
そいつは肩を震わせながら笑い声を漏らす。それは次第に大きくなり、やがて身体を精一杯仰け反らし、辺り一帯に響く邪悪な笑い声に変わる。
「見つけたぞ……!」
ギロリと睨みつける。
「何なのコイツ……新手のはぐれ悪魔⁉︎」
「やかましいぞ、蝿風情が」
「誰が蝿よ! いきなり現れて馬鹿にするとか、一体何のつもりよ⁉︎」
オリジオンの挑発に見事に乗せられ、リアスは言い返す。
「馬鹿にするも何も、事実だ」
「私を甘く見ないで!」
オリジオンはリアスを鼻で笑い、見下したように言う。さすがにここまで馬鹿にされては黙っていられないリアスは、両手に魔力を集中させ、それをオリジオンに向かってぶっ放した。
グレモリー家の持つ“滅びの魔力”。これを喰らって仕舞えば大抵の相手は身体がグズグズに崩れてしまう濃密な魔力。悪魔としてはまだ未熟なリアスのものでも充分な脅威になる。オリジオンはそれを避ける素振りをみせず、一歩も動くことなくそれをくらった。
その瞬間、オリジオンを中心に爆発が起き、爆風が周囲に吹き荒れる。近くにいたアクロスは勿論、少し離れた位置で見ていた一誠も堪らず尻餅をつく。
「よし! やったわ!」
勝利を確信し、ガッツポーズをするリアス。しかし、煙の中から
「ほう、グレモリーの力とはその程度か。予想通り弱い……話にならんな」
「なっ……」
純血悪魔の中でも上位に入るグレモリー家の滅びの魔力。それが通じなかったという事実は、リアス達を驚愕させるには充分であった。
「……お前はなんなんだ」
立ち上がったアクロスが、オリジオンに問う。
オリジオンは、腕を一回振るって煙を払うと、高らかに叫んだ。
「我が名は赤龍帝。貴様らに変わって冥界を統べる魔王の名だ。光栄に思うがいい、俺の手で殺されることを!」
本来9話でここまでいくつもりでしたが、更新滞っている状態の方が問題だったので切りました。まあ全部FGOの所為ですが。SAKIMORIもとい景虎ちゃんを無事迎えたり、遂に初の聖杯転臨をやってみたりしました。お呼びでないけどベオさんも来ました。なんでじゃ。
何故か凪沙ちゃんが見せ場もってった回。ちなみに次元統合のせいで過去改変も発生してる為、色々おかしいです。
日常描写とかでクッソ悩んだ挙句半月近く執筆サボっててすみません。なるべく自然な会話の流れにしようとしたら結構苦しむんです。その上定期的に地の文を数行挟まないと落ち着かなくて……。
作品を読んでくださっている数少ない読者の皆さんの期待に応えながら、一応完結まで頑張ります。意地でもエタらせねーからな!
出先で書いたんで原作と比べて所々変なところがあります。帰宅したら原作読みながら修正したりするんでゆるして。誤字脱字やアドバイスなどがありましたら遠慮なく言って、どうぞ。善処します。
次回 Tern of the reviver/狙われし聖女
思いを、力を、世界を繋げ!