【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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3カ月半もの間、投稿せずに本当にすみません。
意欲が全然湧かず……というか、細かいところでちょくちょくつまるんですよ。





めだ箱突っ込んだはいいが、原作読んでもキャラを動かせる気が全然しないし、安易に西尾作品キャラを動かすとファンからムッコロされそうで怖い。

youtubeでリリカルなのは・蒼穹のファフナーが配信中。みんな、見ようね。


第11話 Tern of the reviver

 赤龍帝を名乗ったオリジオン。

 その邪悪な気迫に、各々が無意識のうちに後ずさる。

 

「嘘よ。貴方がそんな……」

「なら試してみるか?愚かな蝙蝠どもよ」

 

 オリジオンは、驚愕の表情を浮かべるリアス達を嘲笑いながら挑発する。言動の節々から見て取れる他人を下に見ているような雰囲気に、瞬は仮面の下でわずかながら嫌悪感を顕にしていた。

 

「さっきから黙っていれば好き勝手言って……!」

「悔しいならかかって来い。口だけなのか?まあ、やってきたところで無駄だろうがな」

 

 再びリアスを煽るオリジオン。彼はゆっくりと瞬の方に首を向けると、

 

「邪魔者も纏めて消してしまうか」

「やべっ」

 

 オリジオンは軽く地面を蹴ると、物凄いスピードでアクロスの目の前までやって来て、そのまま眉間に向かって硬い拳をぶつけてきた。

 

「がっ……」

 

 頭を揺さぶるような衝撃を歯を食いしばって踏ん張ると、瞬は膝を上にあげてオリジオンの脇腹に突き刺した。

 が、その膝を掴まれ、瞬は勢いよく振り回された後に地面に投げつけられる。

 

「あ……」

 

 じんじんと身体に響く痛みを堪えて立ち上がると、アクロスはツインズバスターを銃の形に変形させて連射し、オリジオンを牽制する。

 

「おいお前ら逃げろ!」

「その必要は無いわ!大体貴方は信用できないし、ここまで馬鹿にされて黙っていられるとでも⁉︎」

 

 アクロスの言葉は見事に否定された。そもそもアクロスはリアス達が悪魔である事を知らないので、彼からしたらリアスは無謀にも危険な怪人に立ち向かおうとする一般人なのだ。そりゃあ止めるだろう。

 しかし、散々敵にコケにされたリアスは聞き入れなかった。というか、リアス達からしたらアクロスもまた敵に等しい。普通に考えて瞬の言葉は容易には届かない。

 

「リアスっ……貴女が飛び込んだら駄目よ!小猫、優斗、リアスをとめて!」

 

 朱乃の声が届くよりも早く、リアスがオリジオンに向かって滅びの魔力を放った。

 が、

 

「はっ!」

 

 オリジオンの拳が軽く触れただけで、リアスの滅びの魔力はいとも容易く打ち消され、霧散した。

 

「やっぱり効かない……!」

「無駄な足掻きをまだするか。大人しく散れぃ!」

 

オリジオンはリアスの頭を鷲掴みにすると、そのまま地面に叩き落とした。

 

「おいっ⁉︎」

「甘い!」

《boost》

 

「がっ」

 

 くぐもった音声が聞こえてきたかと思えば、次の瞬間、硬い鱗に覆われたオリジオンの豪腕が、アクロスの胸めがけて凄まじい速度で叩き込まれた。体がくの字に折れ曲がり、倉庫の壁に向かって吹き飛ばされるアクロス。痛みを堪えながら上体を起こすが、先程悪魔との戦闘でのダメージが残っている為か、すぐには反撃に移れない。

 

「部長を助けに行くよ!姫島先輩、兵藤くんをお願いします!」

「行きますよ裕斗先輩」

「小猫ちゃん⁉︎」

 

 主人の安全を確保する為、木場と小猫が前に出る。が、オリジオンに近づいた次の瞬間、二人は身体がくの字に曲がった状態で地面に叩きつけられていた。尻尾で薙ぎ払われたらしい。

 オリジオンが振り向く。吹き飛ばされた各々が身体を起こす様子を、つまらなさそうに見下す。

 

「死に急ぐか雑魚共め。そんなに死にたいなら、少しばかり貴様らの戯言に付き合ってやろう」

 


 

「なんなんだよこれ……」

 

 一誠の口から、思わずそんな言葉が漏れた。

 それは、戦いと呼ぶのも烏滸がましい現実(あそび)であった。いや、そもそも相手からすれば遊びですらないのかもしれない。目の前の赤龍帝は、赤子の手を捻るかのように木場達の攻撃を退け、恐ろしい威力のパンチで容赦なく返り討ちにしていた。

 何度目になるか分からないくらいの返り討ちの後、端正な顔のあちこちに傷を作った木場が立ち上がって隣の小猫に言う。

 

「あくまで僕らの目標は部長の救出。アイツには勝とうとしなくてもいい」

「分かってます。優斗先輩、ここは頼みます」

「ああ、そのつもりだよ」

 

 そう言うと、木場は勢いよく地面を蹴ってオリジオンに向かって飛び出した。

 

「死ににきたか、低脳が!」

 

 木場はオリジオンの攻撃を受けて吹き飛びながらも地面に上手く着地し、倒れているリアスに辿り着き、彼女を自分の方に引き寄せる。すると、オリジオンは木場に対して尻尾を強く振り回してきた。

 

「はあああああっ!」

「その攻撃は当たらない!」

 

 攻撃が発動すると同時に、木場はリアスを担いだまま後方にジャンプし、尻尾を躱す。

 そのまま木場は一誠達のいるところに合流すると、

 

「部長は無事回収した。悔しいけど、ここは撤退しよう」

「同感です。姫島先輩と兵藤先輩が既に部長を連れて離脱をはじめています。私達も早く行きましょう」

「でも、彼はどうするんだい?」

 

 木場はアクロスとして戦っている瞬をちらりと見る。随分と苦戦しているようだが、助けに行くべきであろうかと悩んでいると、

 

「どの道今は私達の事だけでも手一杯です。残念ですが、ここは撤退を」

「……殴られ損、みたいだね。兵藤くん、帰るよ」

「俺、魔方陣で転移出来ないんだけど?」

「そうだったね。ならこの手で」

 

 木場はそう言うと何処からか小振りの片手剣を取り出してそれを振るった。すると、木場の前を突風が吹きつけ、一誠達の姿を隠していく。

 

「っ……」

「逃げたか……」

 

 風が止んだ後には、一誠達の姿は無かった。この場に残されたのはアクロスとオリジオンのみになったが、オリジオンは一誠達が居なくなったのを確認すると、突然構えていた拳を下ろした。

 

「何のマネだ」

「元より俺には貴様の相手をする必要がない。今度邪魔をすれば、殺す」

「おい待て!」

 

 アクロスの呼びかけにも反応することなく、オリジオンは踵を返すと直ちに翼を広げ、何処かへと飛び去ってしまった。

 全てが去った後、ただ一人残された瞬はベルトを外して変身を解き、その場に膝から崩れ落ちた。

 

「おーい!」

 

 背後から聞き覚えのある声がした。振り返ると、逃した筈のアラタがこちらに走ってきていた。

 

「お前逃げたんじゃ……」

「逃げたけどよ、やっぱり不安で……お前もうまく逃げられたんだな。よかったぁ……」

 

 アラタは瞬の肩に手を置いて、安堵の表情を浮かべる。同時に、緊張の糸がぷつんと切れたかのように、瞬の身体から一気に力が抜けて、地面に膝をついた。

 

「お、おい。大丈夫か」

「……うん」

 

 瞬は力なく頷く。

 こうして、ひとまず危機は退けられた。

 

 

 


 

 街のどこかにある廃教会。堕天使レイナーレは、何者にもその場所を悟られる事がない様に注意を払いながらら空から降り立った。それに気づいたスーツ姿の男が、彼女に視線を向ける。

 

「帰ってきたか」

「ええ。ちゃんと見張り(留守番)をしてたのよね?ドーナシーク、ミッテルト」

「無論。あの聖女も現在カラワーナが探している」

「ドーナシークは全部ウチに押し付けてただけじゃないっすか」

 

 ドーナシークと呼ばれた男が返答する一方、ミッテルトと呼ばれた少女が彼に文句を言う。二人もレイナーレと同じく堕天使であり、今この場に居ないカラワーナを含め、彼女の元である任務を遂行している。

 

「災難だったな。まさかあそこで赤龍帝が来るとは」

「赤龍帝……アイツのせいで私達の計画は台無しよ……!」

 

 レイナーレはペットボトルに入っている水を飲み干すなり、苛立ちをぶつけるかのように壁に拳を叩きつける。一誠に近づいたのも、彼女達の計画の一環。

 

「……さっき街の外れで赤龍帝を見かけたわ。グレモリーの悪魔連中を一方的に甚振ってた」

「今代の赤龍帝は随分と凶暴……いや、無謀なのだな。そんな事をすれば、早々に様々な勢力に目をつけられるだろうに」

 

 彼の言うとおり、神器所有者が一度目をつけられてしまえば、普通の人間として生きることは不可能だろう。ましてや、悪魔側のトップである四大魔王の身内に危害を加えたのだ。他の勢力が手を出さずとも、悪魔側から報復を受けるのは容易に想像できる。

 

「思ったんすけど、レイナーレ様はなんであの人間を誑かしたんですか?サキュバスにでも転職するつもりで?」

「馬鹿。あれは遊びよ。ちょっと揶揄(からか)いたくなっただけ。

 

 思い切り言っちゃいけないような発言をかましたミッテルトを軽く小突くレイナーレ。ここで、何にもしてなかったドーナシークがミッテルトに便乗してくる。

 

「こいつの言う事も一理ある。デートなんかせずとも、アイツを拐えば済んだ話だろう。そうすれば邪魔も入らずに済んだのだからな」

「……遊び心が裏目に出たっすね。おまけにアイツ、転生悪魔になってグレモリーの眷属になっちまいましたっけ、そこんとこはどうお考えで?」

「あーはいはい悪かったわよ。全部私の不手際ですよ」

 

 二人に責められて若干開き直ったように非を認めるレイナーレ。

 

「あまり遊ぶな。折角アザゼル様から直々に指令を頂けたのだぞ?一番寵愛を欲している筈のお前がそんなんでどうする」

「……そうね。アザゼル様の計画に失敗は許されない。これは、この世界の存亡を賭けた一大プロジェクトなんだから」

 


 

 オカルト研究部の面々が、部室に戻ってからの話。

 

「あの……部長」

「何?」

「彼奴の言っていた赤龍帝ってのは、一体なんのことなんですか?名前からして強そうですけど」

 

 率直な疑問だった。悪魔になったばかりの一誠は、まだ悪魔社会のしくみや歴史については疎い。しかし、あの怪物が名乗りを上げた際の部員達の驚愕の表情は、明らかに只ならぬものであった。

 リアスは、赤龍帝にやられた傷の痛みに一瞬顔を歪めた後に、ゆっくりと話しはじめた。

 

「そうね……イッセー、前に冥界でかつて戦争があったのは話したわよね?」

 

 リアスの言葉に頷く一誠。

 話によると、過去に悪魔・堕天使・天使の三大勢力が派手に戦争していたのだが、各々疲弊し切った為に休戦したという。大戦によって大きく数を減らした悪魔側は、それを補う為に悪魔の駒(イーヴルピース)による転生システムを構築し、多種族を悪魔に変えることで勢力を盛り返そうとしていた。一誠もこれによって悪魔として蘇ったのだ。

 まあ、一誠はまだ天使や堕天使を見てはいない為にイマイチピンと来てないのだが。

 

「じゃあ、どうやって戦争が終わったかについては分かる?」

「そりゃあ、それぞれ疲弊したからだって前に聞きましたよ」

「疲弊の原因になったのは……ドラゴンよ」

 

 その言葉に、思わず一誠は素っ頓狂な声を上げた。悪魔・天使・堕天使ときて次はドラゴンときた。流石に一誠も「色々混ざりすぎじゃね?」と思わずにはいられなかった。

 

「ドラゴンって……あのドラゴン?」

 

「大体イメージ通りよ。戦争の最中、突如として現れた赤と白、2匹の龍。其奴らが好き放題暴れまわったせいで巻き込まれた各陣営は多大な被害を被った。それで皆で協力し、龍の魂をそれぞれ神器として封じた —— それが顛末。以後、その神器の所有者は代々赤龍帝・白龍帝と呼ばれ、恐れられて来たの」

 

「じゃあ、あれが今代の赤龍帝……」

 

 あの邪悪な怪物がそんなにヤバイ奴だったなんて、と驚く一誠。あの容赦ない蹂躙に、息苦しくなるような気迫。思い返すだけで足がすくんでしまう。

 

「……怪我とか、大丈夫なんですか」

「大丈夫よ。今日はもう帰ってもいいわ」

 

 心配する一誠に対し、リアスは笑って返す。一誠には、なんとなくそれが無理をしているように見えた。

 部室を後にし、日の落ちかかった帰り道を歩く。赤から青紫に変わりゆく空を見上げながら、一誠は思い返していた。

 リアス達が手も足も出なかった赤龍帝。あの場に居合わせた仮面の男。何もわからない事だらけだったが、一つだけわかった事がある。

 

(俺……足手まといじゃん……)

 

 今の一誠は弱い。この身に宿る神器を未だに扱えず、戦いにはとてもではないが参加できない。実際今日も、皆がやられている所をただみているだけであった。せっかく悪魔として生き返らせて貰ったのに、何も出来ない自分が情けなくなる。

 早くリアスの役に立てるようになりたい。ならなくてはならない。そう決意し、一誠は拳を握りしめた。

 

 


 

ちなみに。

誰も知る由もない、一誠には届かなかった声があった。

 

『今代の相棒は未だ目覚めぬか……まあよい、時が来ればいずれ表層に出ることも叶うだろう』

 

 


 

 

 なんか色々疲れた瞬は、家に着くなりそのままリビングのソファーに倒れこんだ。殴られたり蹴られたりした箇所から、じんわりと熱と痛みが発せられるような感覚。戦い慣れてない分、どうしても疲労が溜まりやすいのだ。

 そんな瞬の様子を見て、居候迷子ことヒビキが心配そうに顔を覗き込んできた。

 

「大丈夫?なんかすごーく疲れた様な顔してるよ?」

「大丈夫だヒビキ。ちょっと疲れただけだからさ……少し寝かせてくれ」

 

 横になっているうちに、眠気が襲ってきた。瞬きのたびに視界がぼやけ、意識が微睡んでいく。

 1分もしないうちに、瞬は眠りについてしまった。

 

「……ホントに大丈夫かなぁ」

 


 

「ただいまー」

 

 湖森が帰ってきたのは、瞬が帰宅してから1時間程経った頃だった。リビングには放送中の某携帯獣アニメに夢中にかじりついてるヒビキと、制服姿のままソファーでぐーすかしている兄の姿があった。

 

(珍しいな……普段昼寝なんか滅多にしないのに)

 

 起こすのも悪いし、寝てるなら後にしようかという考えが一瞬頭をよぎったが、直ぐにそれを拭い去る。

 

(躊躇うな私……今回で決着(ケリ)をつけるんだ……!)

 

 友人が背中を押してくれたのだ。それを裏切るなんて真似はできない。自らの両頬を軽く叩き、深呼吸をする。一体何をしているんだと言わんばかりの目をヒビキが向けているが、それはそれ。本人は真面目にやってるから。

 が、ここで出鼻を挫くアクシデントが。

 

「ったく、さっきから人の近くで何息を荒くしてるんだ」

「……あ」

 

 ご本人が起きてしまった。

 さあ、どうしようか。

 


 

 結果、半ば強引に二人きりになった。全てを知る者が見たら、一体今までのウジウジは何だったのだと突っ込まずにはいられないレベルの強引さだが、思春期真っ只中のオンナノコはだいたいこんな感じに複雑でしっちゃかめっちゃかなのだ。

 現在、瞬の部屋にて二人は正対していた。

 

「話がある、か。丁度俺もそうだった」

 

 こうも長く避けられてるといい加減に辛くなってくる、というのもある。家族なら尚更のことだ。

 湖森は、少し言いにくそうな顔をし、心なしか瞬から目をそらしながら話し始めた。

 

「お兄ちゃんの、力のことなんだけどね」

「ん……ああ、やっぱりか」

 

 瞬はほんの一瞬だけ、部屋の隅に置かれた、アクロスのベルトが入った通学鞄に視線をやる。自分でもイマイチ分からないヤベーブツ。それが他人から見たらどう映っているのか、想像にはかたくなかった。

 

「あの時、怪物から私達を守ろうとしたお兄ちゃんの姿は、格好良かったし、頼もしかった」

「……」

「けど、怖かったんだ。あんな強そうな力を奮って戦うお兄ちゃんが。まるで、私の知ってるお兄ちゃんが居なくなりそうで。それで、接しにくくなっちゃって」

「そうか……」

 

 湖森の本音を聞いて、瞬はどこか分かりきっていたような感じにつぶやく。

 ある意味、唯の予想は当たっていた訳だ。未知の力を持ち、それを振るう。それを目撃した際にまず感じるものは、それに対する恐怖。人は、自分の常識から逸脱したモノを畏怖する。彼女の場合は、その対象が大切な家族だからこそ、余計に怖くなった。

 他人がそれを責める権利はない。そうだったんだな、と瞬は呟いた後、湖森の瞳を真っ直ぐ見つめて、

 

「大丈夫だって。力が手に入ったって俺は俺だ。お前の知ってるお兄ちゃんだって」

「……ホント?」

「本当だって。弱っちくて、お人好しで、中途半端なお前のお兄ちゃんだぜ?人の中身ってそう簡単に変わらないと思うんだけどな」

「自分で言うのそれ」

「ちょ……そりゃあないぜ」

 

 呆れたように笑みをこぼす湖森。瞬も言い切ってから少し恥ずかしくなったのか、照れ隠しをするかのように笑う。

 ふう、とひとしきり笑いきった湖森が一呼吸置いて、瞬にこんな質問を投げかけた。

 

「お兄ちゃんは、またあの時のように戦うの?」

 

 瞬は、少し考えてから答える。

 

「ああ」

「……どうして」

「守るため。今は、まだそれだけ。世界を救うにはまだ程遠いんだけど、周りの人なら今の俺でもいけそうな気がする。それに、どの道もう逃げられ無いような気もする」

 

 これまでに何度か戦ってきたが、勝った回数よりも負けた回数の方が多い。それでも、傷付きながらも守れたものも実際にあるのだ。

 不安で顔を暗くする湖森に、瞬は

 

「そんな顔するなよ。死ぬような無茶はしないから、心配すんなって」

「……約束だからね。後で唯さんや他の皆にも約束して」

「わかってる」

 

 瞬がそう答えると、湖森は小指を立てた左手を差しだした。何がしたいのか察した瞬は、笑みを浮かべて同じように小指を立てて左手を差しだし、湖森のそれに絡めた。

 

「ゆーびきーりげーんまーん、嘘ついたら針千本突うずる突っ込む!指切った!」

 

 なんとなく下品な指切りに思えたのだが、アクロスに変身して以来こんな感じの齟齬はしょっちゅうあったので、別に気にしないことにした。

 話の前よりも軽い足取りで部屋を出ていった湖森。

 

「……思ってた以上にいらない心配かけさせてたんだな、俺」

 

 大事な妹に余計な心配かけるなんて兄失格じゃないか、と自嘲し、瞬はベッドに寝転がる。これで一つ、問題は解決した。しかし、まだ残っている。

 

(あの馬鹿みたいにパワーが強いオリジオン……そして、悪魔とか言ってた連中……)

 

 どうやらオリジオンは悪魔という存在を激しく嫌悪しているらしく、去り際の発言からして、邪魔さえしなければ瞬の事はあまり気に留めてない様子だった。

 両者の間にどんな因縁があるのかは想像も付かないのだが、見過ごすにしては少々危険過ぎる気がする。それに、だ。

 

「一誠……アイツも関わってるのか?」

 

 たまたまあの場に居合わせただけなのかもしれないが、見知った人物がこの一件に関わっているかもしれない。

 瞬からしたらほんの一週間弱の付き合いしかないが、それでも関わりのあるクラスメイトが危険な目にあっているのを見過ごすのはできない。

 何もわからないが、邪魔するなと言われて邪魔しない程出来た人間じゃない。兎に角今はオリジオンを止めながら、事情を知る。そう決意しながら、瞬はアクロスのベルトを見つめるのだった。

 


 

 淡い月明かりで照らされる、とうの昔に潰れた廃病院の裏手。ドライグオリジオンは眼前の悪魔の死体をつまらなさそうに見ていた。

 その死体は、顔面に突き刺さった鉄パイプで木の幹に括り付けられ、腰から下は粉々に砕けて影も形もなくなっている。彼が先程やったものだ。辺りを見ると、草木に紛れて他の悪魔の物とおぼしき手足が散らばっている。

 

「……粛清完了」

 

 彼にとって、悪魔は滅ぼすべき存在。だが、彼は教会の悪魔祓い(エクソシスト)でも、ましてや天使や堕天使の仲間でもない。

 ただ、気に食わないから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その為に、偶然得た転生の権利も使って此処にいる。

 

(しかし実際に見てみると、やっぱり気持ち悪い。こんな奴が生きてると思うだけで気持ち悪くなる)

 

 オリジオンは変身を解き、学校でチラリと見た一誠達の姿を思い浮かべる。自分の知っているものとは異なり、幾ばくか一誠の変態行為は控えめになってはいるが、それでも気に食わない事には変わりない。良くも悪くも、第一印象はなかなか覆らないものだ。

 頭の中で憎き悪魔達を嬲り殺しにしながら、ふつふつと憎悪の炎を燃やしていく。そこに、

 

「進捗はどうですか?」

 

黒いローブを身に纏った長身の男が、少年に近付いてくる。月明かりの下、二人が邂逅する。

 

「貴様は……リバイブ・フォース!」

 

志を同じとする他の転生者から、話は聞いている。ギフトメイカー直属で、この世界に存在する転生者達を取り纏める転生者達。下手に逆らえば特典を剥奪されて殺される。

 

「そうですとも。すでに存じ上げているでしょうが、改めて自己紹介を。私はリバイブ・フォースの一人、タロットです」

 

 タロットと名乗った男は、少年に一礼すると、懐から手帳をとりだす。

実を言うと、転生者達は完全に好き勝手できるわけではない。緩やかながらも特典創者を頂点とした上下関係が存在し、特典創者の目的を妨害しない範囲での自由が与えられている。そね転生者の管理を行なっているのが、リバイブ・フォースなのだ。

 

「あまり遊んでいる余裕はない。悪魔ばかりにかまけず、天使や堕天使どもも始末して欲しいものだね」

 

「特典創者直属だからと偉そうに。どの道三大勢力の屑どもは根絶やしにする。急かすな」

 

 口ではそう言うが、一人では中々上手くはいかない。この間、一誠を殺した時も、レイナーレや仮面ライダーに邪魔されたせいで、彼を転生悪魔にするタイミングを作らせてしまった上、先日の襲撃も、仮面ライダーに邪魔されて完遂には至らなかった。

 さすがに二度も邪魔されれば無視はできない。次は奴を先に始末すべきかと考えている少年を、タロットは冷たい目で見つめながら言葉を続ける。

 

「……彼らがあなたを転生させた理由は把握済みです。人外に虐げられ続けるしかない無力な人間、その救済の為にあなたは三大勢力を滅ぼすつもりなのですね」

 

 タロットの言葉に、少年は憎しみのこもった声で答える。

 

「当然だ。あんな傲慢な人外共が人間を喰い物にする世界があっていい筈がない!ここは人間の世界だ!」

 

 前世からの強い思いを吐き出す。ようやく、直接憎悪を本人にぶつけられるようになったのだ。躊躇う必要など存在しない。

 

「その調子、その調子。モチベーションは最高みたいですね……では、私からささやかながら餞別(せんべつ)でも渡しましょうか」

 

 タロットは静かに笑う。

 ここから、事態は急変する。

 

 

 




既に幹部が登場です。元ネタはキバのチェックメイト・フォーです。

今回も中途半端な切りに。まあ待たせるくらいならここで切ろうと思いまして、こんな感じに。本当は今回でアーシア登場まで行くつもりだったのに。なんでこんなに無駄に時間かかるんだ……




実は今回の話を書いてる途中でHSDD1巻を読み直したところ、時系列を間違えて覚えてた……ちゃんと読みながら書かなきゃマズいよなぁ。

ちなみに本作のレイナーレさんはどちらかというと綺麗な方ですが、何故か人気なフリードは別に綺麗ではないです。アイツは綺麗にしたら魅力ガタ落ちするからね。まあ堕天使側が改変多いし、原作最新巻まで読んでるわけではないですから。そもそも序盤くらいしか原作はなぞらない予定ですし。

次回 悪魔滅殺/狙うはただ一人

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