【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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待たせたな。あけましておめでとうございます!


中盤がどうしても納得いかず、執筆意欲が駄々下がりだったのですが、まあ割り切って進めます。原作沿になりすぎず、端折る所は端折って進めないとキリないし。


多分後で修正とかします。ごめんね。






第12話 悪魔滅殺/狙うはただ一人

 あの日から数日が経った。

 一誠は悪魔としての家業に加えて、力をつける為の特訓も行うことになった。つい10日ほど前までは普通の高校生だったのだから、悪魔としてはあらゆる面で素人。戦闘での無力さを痛感し、どうしたらいいのかとリアス達に尋ねてみたところ、とりあえず基礎体力をつける為のジョギングから始めることになったのだ。

 

「ふう……ちょいと休憩……」

 

 慣れない運動に疲れ、一旦休憩を入れる。今日は休みな為、暇な日中に自主練をいれているのだ。本来なら夜の方が悪魔の力は増す

為、日中にトレーニングをするのは効率的にはどうかと思うが、何もしないでいるのはどうしても駄目だった。

 

「はぁ……出世街道は長いなぁ……」

 

 自販機で買ったサイダーを一気に飲み干すと、溜息をつく。

 

神器(セイクリッド・ギア)も発動出来ないし、これじゃあただの荷物じゃんか……」

 

 神器(セイクリッド・ギア)。人間だけが有する神々からの贈り物。其々が人間社会では常軌を逸脱した能力を持ち、悪魔や堕天使、天使などの各勢力が喉から手が出るほど欲しがるモノだ。だいたいの所有者は、神器の存在に気付くことなく一生を終えるのだが、神器持ち欲しさに無理やり所有者を悪魔に転生させたり、所有者を殺して神器を抜き取ったりと、神器を持つという事はどちらかというとババを引かされたような感覚に等しい。

 リアスの話によると、一誠が殺されかけたのは、彼に宿る神器を狙っていたのではないかとの事。ホントろくでもない。

 

「感情がエネルギーってもよ……性欲じゃ駄目なのか?」

 

 感情の力で強くなる神器。しかし、一誠に宿っている筈のそれは未だウンともすんとも言わない。つい昨日も松田や元浜と共に新たなエロ本で興奮したのだが、それも駄目であった。現実は非情である。

 しかし、だ。そんな一誠にも最近、ある楽しみが出来たのだ。

 

「あ、イッセーさん」

「その声は……」

 

 ヘトヘトになった一誠に掛かる可愛らしい声。一誠が顔を上げると、そこには黒い修道服を着た金髪のシスターさんがいた。

 

「また会ったな、アーシアちゃん」

「はい!会えて嬉しいです!」

 

 アーシアと呼ばれたシスターは、見るからに嬉しそうな声を上げる。一誠の悪評を知る者が見たら、ソッコーで引き離されそうなものなのだが、純粋を通り越して天然っぽい彼女はそこのところは全然気にしていない様子だった。知らないだけかもしれないが。

 

「元気にしてた?」

「はい!」

 

 彼女と一誠が出会ったのは、丁度1週間前。街にある教会に行こうとして迷子になっていたところを、一誠に助けられたのだ。教会でも聖女と呼ばれていただけあって、凄まじいくらいの純粋っぷりだ。

 アーシアはその勿体無いくらい純粋な眼差しを一誠に向けて、

 

「イッセーさんは何を?」

「トレーニング……的な?色々あって。ところで、アーシアちゃんはどうしたんだ?」

「ちょっと暇を頂いたので、この辺りを散策を……と思ったんですけど、この辺りには土地勘がなくて」

 

 アーシアの返答を受けて、一誠はどうしたものかと少し考える。少したって、何かを思いついたかのように膝を叩いて立ち上がり、

 

「そうだ、今日は俺が街を案内してやるよ。色々あって楽しいぜ?」

「本当ですか⁉︎ でも、私お金とか持ってないんですけど……」

「気にするなって、それくらい俺が奢る!」

「イッセーさんには初めて会った時からお世話になりっぱなしで……なんか色々申し訳ないですよ」

「気にするな、アーシアちゃんの為ならこれくらいして当然さ!」

 

 一誠は笑顔でそう言うと、戸惑うアーシアの手を取る。一誠自身、ここ最近はトレーニングやら悪魔稼業やらであまり遊べていなかったので、自らの気分転換を兼ねて今日はアーシアと街に出て遊びたいと思ったのだ。

 

「じゃあ、行こうか」

「は、はい!」

 

 こうして、二人の休日が幕を開けた。

 


 

『逢瀬ー、今からどっか遊びに行かね?諸星も既に来てるからよー』

 

 土曜日の朝。朝食も洗濯も済ませ、録画した深夜アニメも見終わって一息つき終わった直後、アラタから上記のL●NEメッセージが送られてきた。断る理由は特にないのだが、ここ最近の出来事もあってあまり乗り気にはなれない。

 

「……ちょっと呑気過ぎる気がする」

 

というか、世界を救えとけ言われてる奴が普通に学生生活送ってて問題ないのか、フィフティは半月以上もの間干渉してこないし、オリジオンは明らかに一誠達を殺す気だったし、これらをほっぽり出して遊ぶのはなんか納得いかない。

どうしたもんかと悩んでいると、見かねた還士郎がこんなことを言ってきた。

 

「お友達との約束かい?それなら行くべきじゃないかな。よくわからないけれど、なんか最近瞬くん、色々疲れたような顔してばっかだからさ、気分転換とかにいいんじゃない?」

「そんな顔してるかな……」

「自分では気づかないものだよ。心の疲労は放置しちゃあ駄目だからね」

「そうそう、張り詰めっぱなしで平気な人ってごく一部だし、キミは元々一般人でしょ?だから尚更リラックスは必要だよ。ゲームを続けてると目が疲れるし肩凝るからね。それと似たようなもんだって」

 

 そこで、ずっとゲームに没頭していた ネプテューヌが会話に入ってきた。彼女は、テレビ画面に映ったゲームオーバー画面を見つめながら伸びをすると、一言。

 

「キミは戦士じゃない。無理に戦いのことばかり考えなくてもいいでしょ、疲れるだけだしさ」

「……余計な事考えすぎてんのかな」

「まだ肩の力の抜き具合がイマイチ分かってないんじゃないかな。生きる上では割と重要なんだよ」

「そうか……」

 

 不意に、瞬は窓の外を見る。いい天気だ、こんな日くらいは外に出て暗い気持ちを吹き飛ばしたほうがいいのだろう。仮面ライダーにもリフレッシュも必要だ。還志郎やネプテューヌのアドバイスを受け入れ、瞬は外に出ることにした。

 


 

 家を出て十分くらい経った頃。アラタ、唯、大鳳、山風といった、この2週間弱ですっかり見慣れた顔ぶれが前方に見えてきた。

 

「やっと来たか。遅いからお前ん家に迎えに行こうとしてたんだ」

「ごめんな、色々あって」

 

 どうやら無駄にうだうだしていたら、家の近くまで来てたようだ。というか、他のメンバーの行動が無駄に早い。

 

「他人を待たせるのと嘘付きは信用を失うきっかけになるぞ」

「すまねぇ。てか、なんでいきなり呼んだんだ?」

「いや、GW前に遠足あるだろ。それの為の私服でも買いに行かないかって」

 

 瞬達の通う学校には、毎年GW前にクラス内の交流を深める名目で遠足がある。といっても、さすがに小学校のようなものではなく、行き先は近場から多数決、結果によっては郊外でバーベキューもできるのだ。ちなみに瞬のクラスをはじめとする数クラスは山の中でバーベキューをすることになっている。

 この遠足は基本的に私服でいくので、クラスの皆はこぞってこの時期に服を買いに行くのだ。

 

「服か……俺は別にこれでもいいんだけどなぁ」

「ちっち、分かってないな。皆で行くからこそいいんじゃないか。青春だろ?」

「分かる分かる!」

 

 なんか妙に乗り気なアラタと唯の様子に、瞬は呆れて苦笑する。隣を見ると、大鳳も同じく苦笑いていた。

 

「大鳳も大変そうだな」

「悪くはないんだけどね」

「じゃあ早いとこいこうか。この調子だと時間があっという間に過ぎそうだしさ」

 

 そこへ、

 

「久方ぶりだね、二人とも」

 

 唐突に会話に割り込む、聞き覚えのある声。

 

「うわでた」

「帰れ」

 

にゅっとアラタ達の後ろから出てきたのは怪しいお兄さんことフィフティであった。タイムラグはあったが、噂をすると出てくるとは良く言ったものだ。

 

「この人お前の知り合いなんだろ?お前に用があるっぽくて、ここまで案内してきたんだ」

「いや知らない人です」

「冷たいな君は。いやまあ、長いこと顔出せなくて申し訳ないとは思っているよ。今度は厄介なものに首突っ込んだようだね」

 

 ずっと瞬のことを見てたかのような物言いのフィフティだが、心なしか怒っているような気がする。

 

「それはそうと、足を踏むのはいかがなものかと」

 

 言われるまで気づかなかったが、よく見るとフィフティの足が誰かに力強く踏まれている。誰なんだこんなしょーもない事やってるのは、と思いながら、そのまま一同の視線は足から上へ上へと移動していく。 

 

「ほー、随分と生意気な事を言うねぇ?」

 

 踏んでいたのは唯の足だった。フィフティは唯の足を退かそうと自らの足を動かすが、唯は退いてはくれないどころか、一層強く足を踏みつける。

 

「いやいや、瞬を無理矢理巻き込んどいてそれは虫が悪くないかな?これくらいはやり返されてもおかしくないでしょ?」

 

「ローブ引っ張らないでくれたまえ、伸びるから」

「お前は俺の保護者か何かか!てかなんで唯が一番怒ってるんだよ!」

「やめたまえ!やめっ……やめてください何でもしますから!」

 

どうやらこの男、他人を弄るのは好きだが、弄られるのには滅法弱いらしい。今迄とは違い、かなりテンパった様子のフィフティを見て軽く吹き出す瞬。フィフティが助けを求めるかのような目をしていたのは気のせいだろう。きっとそうだ。

 と、

 

「あのさー、行くならさっさと行こうよ。いつまで私達の目の前で油を売るつもりなの?」

「コイツを連れて?せめて置いてかない?」

「連れないね君達は。君に力を与えたのは誰だったかな?もっと感謝してくれたまえ」

「したくねぇ……」

 

 したくないというより、する要素が無い。というか客観的に見て、見ず知らずの少年を危険な戦いにぶち込みながらこの態度は流石に虫が良すぎるだろう。明らかに唯が苛ついてるから早く帰れよ、と瞬が悪態をついていると、

 

「ちょっと話でもしようか、逢瀬君?」

 

 そう言って、フィフティは瞬の首根っこを掴んで自分の方に引き寄せ、掴んでいた手を肩にまわし、ヒソヒソと話し始めた。

 

「すこーしばかり耳をかっぽじって聞いてくれ」

「なんだなんだ、今時チンピラでもそんな因縁の付け方しねーぞ」

「馬鹿な事を言うな。君は少々迂闊に正体を明かしすぎではないのかね」

「何言ってんだお前は」

 

 随分と大袈裟だな、と馬鹿にしたように笑う瞬。知られてるといっても、片手で数えられるくらいだし、一体なんの問題があるんだ、と言おうとするが、

 

「たった数人でも、だ。敵が何処にいるか分かってない以上、君がアクロスであるという事がこれ以上知られるのはよくない。これは君の周りにいる人も守ることになるんだ」

「守る……」

 

 続けてフィフティが何か言おうとするが、ここで唯が何かに気づいた模様。

 

「ん、んん〜?なんか前方に見覚えのある顔がおりますなー」

 

 言い方が若干気持ち悪い気がしたが、それはスルーして

 一誠だった。休日に限って知り合いに出会すと気まずさを感じてしまう。隣には修道福をまとった金髪のシスターさんがいるようだが、一体どうしたのだろうか。瞬は声をかけようとするが、大鳳が瞬の服の裾を引っ張ってそれを阻む。

 

「瞬、邪魔しちゃだめだって。きっとデート中よアレ」

「そうそう、水を差すのは人としてどうかと思うよ?」

フィフティ(おまえ)が言うな」

 

 女性陣(とフィフティ)からとめられ、瞬はそのまま固まる。確かに皆の言うとおり、知人のデート(らしきもの)を妨害するのは人としてどうかと思う。しかし、ここに空気の読めない人間が一人いることは、瞬達にとって予想外であった。

 

「よう、イッセーじゃねーか。こんなところで何してんだ?」

「ちょ、アラタ!? 邪魔したらダメだって!?」

 

 アラタは愚かにも、いい雰囲気の二人の間に割り込みやがったのだ!当然女子達からは非難の嵐なのだが、本人はわかっていない模様。一誠のほうもアラタに気づいて声をかけてくる。

 

「あ、アラタ?奇遇だな、こんなところで会うなんて」

「いやあ、ほんとほんと。お前も随分といい雰囲気じゃあないか!」

 

 いやそのいい雰囲気ぶち壊したのはお前だから!と周りから総ツッコミをくらうアラタだが、おバカな本人は気づかない。そこでアラタが、一誠の隣にいるシスターらしき少女に意識が向く。

 

「で、そのシスターさんは何?新しい彼女?前言ってた美人の彼女はフラれたの?」

「別にそこまではいってないって。アーシアちゃんは最近この街に来たばっかしだから、今から色々案内して回ろうと思って……」

 

 すると、紹介されたシスターが瞬たちの前に出てきて、何かを言い始めた。

 

「|Nice to meet you,my name is Asia.Thank you.《初めまして、私はアーシアといいます。よろしくお願いします》」

「は、はい、どうも」

「……ごめん何言ってるかわからない」

「あ、そうか」

 

一誠は失念していたのだが、悪魔の駒には某翻訳○ンニャクみたいな機能があるらしく、そのおかげで外国語が得意でない一誠がアーシアと普通に会話できるのだ。だが彼以外は普通の人間、拙い英語くらいしか外国語は話せない一般的な高校生。彼らにとって、言語の壁はデカかった。事実、英語の苦手なアラタはてんで会話が成り立っていなかった。

 仕方ないので、ここからは一誠の通訳を介してコミュニケーションをとることにした。

 

「よろしくお願いします!」

「よろしくってさ」

「そうか、こちらこそよろしくっ」

 

 一誠の通訳を介し、唯とアーシアは笑顔で握手を交わす。おそらくこれで、言語の壁問題はなんとかなったようだ。と、ここでアラタが一誠の肩に手を回し、少し僻みを込めた声で耳打ちをする。

 

「お前最近モテモテじゃねーかよー?グレモリー先輩やこのシスターちゃんだったりよ」

「念願の春到来ってやつだよ。お前も早く彼女の1人くらい作れよ。山風ちゃんとか大鳳とかいるんだから」

 

 一誠がアラタを軽く冷やかすと、アラタは耳打ちをしている事も忘れ、思いっきり取り乱したかのように、

 

「ちちちちがわいちがわい!アイツらとはそーゆー関係じゃなくてだな?どちらかというと家族みたいな感じ……いやどうなんだ?」

 

 瞬とフィフティは生暖かい目でアラタを見つめている。ウブというか青春というか、とにかく微笑ましいものだ。

 

「一誠さん、この人は何で慌ててるんでしょうか……?」

 

 ニンマリ顔で二人のやりとりを聴いている瞬とは対照的に、色々と純粋なアーシアは何も分かっていない模様。ちなみに耳元で大声で出された一誠は軽く目を回していた。

 

「いやいや!兎に角馬鹿なことを言うんじゃねえから!」

 

 無理矢理誤魔化した。全然誤魔化せてないが。

 一方で女性陣。

 

「……さっきからあの二人は何を話してるんだろうね」

「どうせエロトークでしょ。兵藤さんのことだし」

 

 女性陣は辛辣だった。日頃の言動には気をつけよう。

 


 

「があああ!負けたぁ!」

 

 悔しそうに頭をかかえてのけぞるアラタ。彼の前には、レースゲームの敗者となったことが表示されている。隣ではトップ2をぶんどった瞬と唯がこれでもかと言うほど煽ってくる。

 

「私の勝ち!ぶいぶい!」

「なんだなんだ、情けないぞアラタぁ!」

「昔からゲーム好きな割に度下手だったからねー。というか、操作方法分かってプレイしてる?」

「ちくしょう!もう一回だ、今度こそ俺が勝つ!」

 

 レースゲームでぼろ負けしてるアラタ。瞬・唯・山風といった対戦相手の面々からフルボッコであるが、無謀にもリベンジをしようとする模様。

 

「なんでこうなったんだっけ……」

 

 後ろの方でぼけーっとしている大鳳が、店内の喧騒にかき消されそうな声量で呟いた。アーシアと遊び歩きたい一誠の提案に渋々乗っかった結果として、大所帯でゲーセンに来ている訳なのだが、大鳳としては、他人のデートの邪魔をしているような気分になるのでイマイチ乗り気になれず、かといって自分だけ帰るのもどうなんだ、と一人葛藤してるのだが、他の奴らはあまり考えてないらしく、能天気にも遊んでやがる。自分含めて酷い奴らだ、と彼女は内心嘲笑していた。

 一方、少し離れたクレーンゲームエリア。此方ではアーシアがクレーンゲームに挑戦している模様。どうやら初めてらしく、お目当ての景品を取るのに苦労している。

 

「アーシアちゃん!もーちょいだ!」

 

 苦戦すること15分弱。一誠の協力もあってやっとのことで目当ての品を手に入れることができたようだ。

 

「イッセーさん、取れました!」

「よしよし、よくやった!」

 

 喜びのあまり、二人でハイタッチをする。アーシアは実に嬉しそうに、景品のぬいぐるみを抱いてはしゃいでいる。向こうでレーシングゲームに興じてる馬鹿どもとは大違いだ。

 

「呑気なものだ。まあ、息抜きも大事だというのは分からなくもないが……」

 

 その傍ら、先程から瞬達を見守るかのようにゲームセンターの入り口付近に佇んでいるフィフティ。ゲームセンターの入り口にずっと佇んでるコート姿の男なぞ、側から見たら怪しさがプンプンする。

 流石に気になったのか、アラタが率直な疑問をぶつける。

 

「何でさっきから端っこでコソコソしてやがんだ?あんたも混ざればいいのに」

「い、いや、私はいいんだ。少なくとも、そんなことをしている場合ではないからね」

「よくわかんねーな」

 

 フィフティの歯切れの悪い返答が理解できずに首を捻りながらも、再びゲームに戻るアラタ。

 

(わからなくてもいい。これは個人的なものだ。傍観者が、当事者になるべきではないから——)

 


 

 あれからさんざんゲームセンターで遊んだ後、一行は街中のハンバーガーショップで休憩をとっていた。思ったより時間がたっていたらしく、既に日は若干傾き始めていた。

 

「お前ら容赦ねえ……」

 

 結局、アラタはゲームをやった事が無かったアーシアを除いてあらゆるゲームで全敗という、酷い有様だった。それに対して本日の王者たる唯から辛辣な一言。

 

「いや、だって一アラタが弱すぎるんだもん……」

「だよねぇ」

 

 瞬も唯の言葉に追随する。

 

「味方はいなかったの⁉︎ 俺に味方は⁉︎」

「いないよ……ゲームは勝者が全てなのだから」

 

 ちくしょう!と捨て台詞を吐きながら、皆に見捨てられたアラタはコーラを一気飲みする。ああ哀れだ。

 一方、一誠とアーシアはというと。

 

「楽しかったなー!」

「ですね!」

「ごめん、デートの邪魔をしちゃって」

「よせやい、そんな関係じゃないっての」

 

 山風の謝罪を軽く流す一誠。本人にとっても、アーシアとは恋人云々というよりも、純粋な友達という側面が強かった為か、あまりそういう関係には至っていないらしい。

 

「どうだった?」

「こんなに楽しかったの……初めてで。ほんとに、友達とこうして遊ぶのだって……あ、あの、よかったら、私と友達になってくれますか?」

 

 一言口に出す度に、アーシアの目から涙が溢れる。悲しみの涙ではない、喜びの涙だ。一誠はそんな様子のアーシアを見て、笑いながら手を差し伸べる。

 

「何言ってんだよ、もう俺達は友達だろ?」

「友達……」

「ああ、俺だけじゃない。瞬も、アラタも、みんな友達だ」

 

 その言葉に、瞬も唯も、フィフティを除いたその場にいる全員がうなずき、手を差し伸べる。

 

「……はい!」

 

 アーシアも、嬉し涙を流しながら自らの小さな手を差し出し、この場にいた全員が手を繋ぐ。この時、全員が友達という名の絆で繋がったのだ。

 


 

 しばらくたって、時計を見たアーシアが、ふと思い出したかの様に席を立つ。

 

「……あ、もうこんな時間ですか」

「なに?もう帰っちゃうの?」

「はい、そろそろ帰らないと教会の人たちも心配してますから」

 

 じゃあ、と皆が手を振ってアーシアに別れを告げる。店内から出て一人歩き始めるアーシアの後を、一誠が追いかけ、呼び止める。

 

「アーシアちゃん」

 

 一誠の声にアーシアは振り返り、軽く一礼する。

 

「今日は色々とありがとうございました。こんな私にここまで親切にしてくれて」

「と、友達としてはこんなこと、普通のことだしな」

「でも……できれば、イッセーさんと二人で回りたかったです」

 

 アーシアは少し寂しそうに、そして照れくさそうに言う。一誠は彼女の方へと足を踏み出すが、

 

「あ、れ?」

 

 足に力が入らない。地面から離し、踏み出そうとした足が空を踏み、一誠は尻餅をつく。一体なんなんだと一誠は思考するが、その直後、彼の膝に激痛が走った。

 

「く、ああああああああああああああああ、ああああ⁉︎ 」

 

 彼の視界に入ったのは、自身の右膝に深々と刺さったナイフ。ナイフの刺さった箇所から、一誠の足元に血溜まりを生み出す。激痛で意識が飛びそうになるが、そこに追討ちをかけるように、横から出てきた何者かの足で腹部を踏みつけられる。

 仰向けに倒された一誠は、ぎりぎりと視界を動かし、足の主を探す。すると、すぐ近くから下衆さダダ漏れの声が聞こえてきた。

 

「初めまして、クソ悪魔くんヨォ」

 

 一誠を踏みつけているのは、同い年くらいの神父だった。その顔には余す事なく下衆さが現れている。

 

「テメェは……」

「オレっちはフリード。御宅さん、悪魔祓い(エクソシスト)ってご存知で?悪魔ぶっ殺す正義の味方なんだけどさ」

 

 下衆顔の少年神父はベラベラと物騒極まりない自己紹介をする。

悪魔祓い(エクソシスト)。教会に所属する悪魔狩り。心霊番組とかでやってる悪魔祓いとは違い、一誠の目の前にいる少年は、明らかに此方を直接切り刻む気マンマンであった。まるで人殺しが趣味ですと言わんばかりに。

 

「イッセーさん!大丈夫ですか⁉︎ 」

 

 アーシアが叫ぶが、フリードはそれを意に介さず、踏みつける強さを増す。そこに、バタバタと此方に駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。

 

「何をやってんだお前!」

 

 駆けつけた瞬が体当たりでフリードを一誠から引き離す。その隙に、アーシアは一誠を引き離し、刺さったナイフを引き抜き、傷口に手を押し当てる。

 

「イッセーさん、今治します!」

「あ、ああ……助かった……」

 

 アーシアは自身の神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑《トワイライト・ヒーリング》を発動させる。フリードは瞬を突き飛ばすと、心底嫌そうな顔をする。

 

「オレっち、悪魔に近づくと肌痒くなるんだよねー。お前みたいなのが出歩いてると空気不味くなるからさぁ、とっとと土に還え……いや、それだと土壌汚染になるから、原子レベルでぐちゃぐちゃに分解されてくんね?」

「アーシアちゃん、逃げてくれ」

 

 フリードの異様な言動に震えながらも、一誠はアーシアを庇うように立つ。が、フリードは嫌悪感マシマシと言わんばかりの顔をして、鋭い言葉を容赦なくぶつけてくる。

 

「あーあーいけませんねぇ!そんな悪魔の言う事なんか聞いちゃ駄目!そいつは言葉巧みに君を騙して犯しちゃう魂胆だから」

「悪魔……イッセーさんが?」

「あれ、知らなかったんですかぁ?其奴は悪魔、イコールオレ達の敵!少しは他人を疑う事を覚えてべきじゃないのォ?」

 

 自分に優しくしてくれた一誠が、悪魔。フリードの口から告げられた事実に、純粋なアーシアは動揺し、地面に崩れ落ちる。フリードはそんなアーシアの様子など意にも介さず、汚い言葉を吐き続ける。

 

「この悪魔も、どーせキミの神器目当てで近付いたに決まってるさ」

「勝手なこと言うんじゃねえ!お前こそ、そうやってアーシアちゃんを騙して処刑するつもりだろ!」

「分かってないですねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺っちの最優先事項はテメェなんだよ!」

 

フリードはそう叫ぶと、ズボンのポケットからガラスの小瓶を取り出して蓋を開け、中の液体を一誠めがけてぶっかけた。

 

「あがっ!熱っ —— !」

 

咄嗟に避けたものの、一誠の右腕にかかった途端、液体に濡れた箇所に焼け付くような痛みが(ほとばし)った。腕を抑え、痛みで涙目になりながら、一誠は尻餅をついたアーシアの方を見る。

 

「アーシアちゃんは……なんともない?」

「はい……これはただの聖水ですから」

 

修道服を濡らしながらも、アーシアは平然とした様子で答える。

 

「アーシアちゃんの言う通りだぜ。勿論アッチの意味じゃなく、モノホンのだ。悪魔には効果覿面(てきめん)だって主人から教わらなかったか?」

「聖……水」

 

聖なる力は悪魔にとっては毒。聖水以外にも、光や教会そのもの、更には教会の信徒達の祈りを側で聴く事によっても少なからずダメージを受けてしまう。悪魔には弱点も多いのだ。

しかし、これらはあくまで悪魔の弱点。教会を追い出されたといえど、人間であるアーシアには効果がないのは当然だ。そして、聖水で負傷するという事実は、一誠が人間でない事をこれでもかというほど鮮烈に証明していた。

 

「じゃあ……一誠さんは本当に悪魔……」

「これで分かったでしょ?」

「お前の相手は俺なんだろ⁉︎ なら俺をやれよ……!」

「なら、遠慮なく殺らせてもらう」

 

 突如として、一誠とフリードの対話に割り込む新たな声。

 その直後、一誠の横腹めがけて視界の外から飛んできた赤い光弾のようなモノに、一誠の身体が吹き飛ばされ、アスファルトに叩きつけられて腕に擦り傷をつくる。フリードも予想外だったようで、興が覚めたかのように不機嫌そうに光弾の発生元を睨みつける。

 なんとか身体を起こすが、その時には既に彼の目の前は真紅の鱗を纏った怪人にふさがれていた。

 

「3度目はない……ここで死ね、兵藤一誠」

「お前は……この間の奴!」

 

 そう。先日のオリジオンだった。人外を激しく憎み、蔑む転生者の成れの果てが、三度一誠に牙を剥こうとしていた。

 

「あいつまで来やがったのか……!」

 

 瞬は咄嗟にベルトを持って飛び出そうとするが、それをフィフティが肩を強く引っ張って静止させる。

 

「なんで止める……⁉︎ 」

「待て、言ったそばから正体晒そうとするんじゃない。鳥頭なのか君は」

「そんな事より、一誠を助ける方が先だ!」

 

 そんな悠長な事を言ってる場合ではない。瞬はフィフティの言葉をそう啖呵を切ってばっさり切り捨て、両者の間へ割りこもうと駆け出す。人の命が脅かされようとしているのだ。真っ当な人間なら、なりふり構わずそれを阻止しようとするものだ。

 

「お前の相手は俺だ!」

 

フィフティの手を振り払い、クロスドライバーを腰に巻きながらアラタとオリジオンの間に割って入る瞬。

 

「逢瀬……?」

「変身!」

《CROSS OVER》

 

三度目の正直。今度こそケリをつけるため、逢瀬瞬はアクロスに変身した。

 


 

「は……ちょ、何それ……」

「私は何を見せられてるの……?」

「お前はあの時の……⁉︎」

「これは……神器なのですか?」

「ひゅー、なんか変なやつが来やがった」

 

アクロスとしての姿をさらした瞬に対し各々が各々の驚愕の表情を見せる中、フィフティは頭を抱えながら瞬に告げる。

 

「……君には後で言いたいことが山ほどあるが、兎に角あのオリジオンを撃破するのが先決だ。油断はするな」

「わかってる」

 

 短い応答の後、アクロスは目の前の襲撃者に向かって一歩踏み出す。この間のような蹂躙劇を許すわけにはいかない。そう決意を固め挑むアクロスだが、この場に一人、事態が読み込めていない人物がいた。

 

「なん……だ?」

 

 自分は一体何を見ている?今見ている景色は現実なのか?疑問だけが次々と脳裏に浮かんで、消えてくれない。

 目の前でなんだかよくわからないものに変身した友人を、ただ呆然と眺めていたアラタ達。既にアクロスについては知っている唯やフィフティは険しい顔つきになり、オリジオンは力強くコンクリート製の壁に拳を叩きつけており、明らかに苛立っている様子だ。

 

「また会ったな、仮面ライダー。邪魔をするな」

「お前が何をしようとしてるのかは知らないけど、友達が襲われるのを黙って見てる事はできない」

「友は選んだ方が良い。其奴に身体を張ってでも守る価値があるとでも?」

「少なくとも俺にはある!」

 

 たとえ赤の他人だろうと、身勝手な理由で殺されていいなんて事はない。守る価値云々で人の命が図られて良い筈がないのだ。そう強く思い叫ぶ。

 オリジオンはアクロスのその態度が癪に障ったらしく、ありったけの怒りと憎しみを込め、周りにはっきりと聞こえるくらい大きな舌打ちをする。

 

「そうか……今ので貴様を殺すことにした」

 

 ドライグオリジオンは近くにあった標識に手をかけると、軽く手首をひねるだけで標識のポールを引きちぎってしまった。

 

「ふんっ!」

「っ!」

 

 そのまま槍投げの様に、瞬めがけて標識を投げつけてくる。アクロスは間一髪、身体を横に捻って躱すが、標識は背後のブロック塀にぶちあたり、塀もろとも粉々に砕け散る。足元に落ちた標識の破片を見て、アラタは思わず身を震わせる。

 

「皆は逃げてくれ!」

「はあ!? お前はどうすんだよ!?」

「逃がすと思ってんのかよオ!悪魔は抹殺だあああああああああ!」

「ああくそっ!」

 

 アクロスは悪態をつきながら、意気揚々と一誠を殺しにかかろうとするフリードを体当たりで抑え込む。当然フリードからすれば邪魔以外の何物でもないので、アクロスに向かって何度もナイフを振り下ろすが、アクロスの強固な装甲が装甲がそれを阻み、傷一つつかない。お互いに取っ組み合いになったまま、アクロスは後方の唯達にむかって叫ぶ。

 

「今のうちに逃げろ!」

「ちょっと瞬!? 本当に大丈夫なの!?」

「大丈夫だ、だから今のうちに!」

 

 瞬はフリードをオリジオンの方に向かって突き飛ばし、唯達を庇う様にオリジオンの前に立ちふさがる。オリジオンは鬱陶しそうにフリードを突き飛ばし、目の前の邪魔ものを排除しようと走り出した。

 

「とっとと失せろ!俺様の邪魔をするんじゃあねえぞこのカスがあ!」

 

 アクロスは助走をつけてオリジオンの胸を殴りつけるが、あまり効いていないらしく、パンチを受け止められ、さらに首を掴んで持ち上げられてしまう。メキメキと音を立てる瞬の首。このままではへし折られてしまう。苦しさに悶えながらも、アクロスは右腰にぶら下げていた可変式剣・ツインズカリバーを手に取り、鱗の薄いオリジオンの横っ腹をぶった斬る。

 

「げはぁっ!」

 

 首を絞める手が緩み、アクロスはせき込みながらその場に倒れる。オリジオンは斬られたわき腹を手で抑えながら、硬い鱗で覆われた尻尾を強く振り回してきた。瞬は地面を転がってそれを避けると、立ち上がってツインズカリバーを構えてオリジオンに突進していき、オリジオンの後方にある橋のほうまで押していく。

 

「せはあ!」

 

 オリジオンはツインズカリバーを爪ではじき、そのままがら空きになったアクロスの胴体めがけて爪を振り下ろすが、すかさず瞬はツインズカリバーを身体の正面に戻して防ぐ。2撃目をはじき、3撃目となる爪が瞬に迫るが、その前に瞬の蹴りがオリジオンの胴体に届き、両者の距離が開く。

 攻防は一進一退。流石に3戦目となれば、それなりにお互いの手の内も力量も見えてくる。一方の攻撃が通ったかと思いきや、もう一方がすかさず食らいつく。数十秒の攻防の末、爪と剣による鍔迫り合いに突入する。さっさと瞬を片付けたいオリジオンは、アクロスの後方にちらりと見えた、小さな影 ―― アラタに狙いを定めた。

 

「ふん!」

「ぐはっ!」

 

 アクロスに頭突きを食らわせ、ひるんだその隙に空いたほうの掌から赤い火球を、瞬の後方の逃げるアラタに向かって飛ばす。

 

「があっ!」

 

 瞬が気づいた時にはもう遅かった。アラタの足元にぶち当たった火球は小さな爆発を起こし、アラタを地面ごと吹き飛ばした。地面に倒れたアラタを見て、思わず瞬は叫ぶ。

 

「アラタぁ!」

「隙ありイ」

 

 その隙をついて、フリードがどこからか取り出した光の刃を持つ剣でアクロスを激しく斬りつけた。火花が飛び散り、アクロスの体勢が崩れるのを、オリジオンは見逃さなかった。

 

「とどめだ……!」

「がっ……」

「瞬 ——」

 

 一瞬の隙をついた、痛恨の一撃。ガラ空きの胴体に滑り込むように当たった豪腕は、内臓を掻き混ぜるような衝撃とともにアクロスを軽々と打ち上げ、その拍子にベルトが外れ、アクロスの変身が解除されてしまう。ベルトはカシャンと音を立ててオリジオンの足元に落ちる。

 無防備となった瞬の身体は橋の上から飛び出し、重量に従って落下を始める。次第に全身を包み込む浮遊感。下にはそんなのお構いなしに流れ続ける川。

 

 

 

「逢瀬ぇええええ!」

 

 

 

 現れるは、大きな水飛沫。

 友の叫びが虚しく響き、少年は水底へと沈んでいった。

 


 

「こっちだ!アーシアちゃん!」

 

 息も絶え絶え、がむしゃらに走り続ける2人。瞬が変な姿に変身したのに対し、何だったんだアレと疑問を抱く間も気力もなかった。ただ、明確に2人を狙った敵意から逃げるのに精一杯だった。いつの間にか皆ともはぐれ、二人きりになってしまっていた。

 近くにあった大きな公園の中、鬱蒼と生い茂る森へと逃げ込む。皆は逃げられただろうか。瞬は無事なのだろうか。自分たちは逃げられるのか。

 

「ここまで来れば……大丈夫だろ……」

 

 息を切らしながら、草木の生茂る木陰に腰を下ろす二人。追跡を巻いた途端に、二人にどっと疲れが押し寄せる。重い腰を上げて木に背中を預けた一誠は、ぽつりと力無く呟く。

 

「隠すつもりはなかった」

「え……?」

「俺が悪魔だって事。別に、君に危害を加えようとして近づいたつもりでもなかった。それだけは本当なんだ」

 

 これは紛れもない本心であるのだが、正直言って信じてもらえる可能性は低い。古今東西の物語が、それを証明している。

 アーシアは失望しただろうか。幻滅しているだろうか。自分を取り繕うような言葉ばかりが、ぽつぽつと出てくる。しばらくして、アーシアが答える。それは、予想外の言葉だった。

 

「わかってます。イッセーさんが悪い人じゃないって私はわかってます」

「え……」

「だって、イッセーさんは、不出来で役立たずの私なんかに優しくしてくれた。友達だと言ってくれた。それだけで、信じる理由は十分なんです」.

 

 力強く、そう言い切るアーシア。それを聞いた一誠の身体に、僅かながら力が湧いてくるような気がした。ここで、ふと一誠はフリードの台詞の中でも言及されていた、ある一文を思いだし、聞いてみる事にした。

 

「アーシアちゃん、さっきアイツが言ってた教会を締め出されたって……」

 

 アーシアは一誠の言葉に少し驚いたような顔をした後、ポツリポツリと話し始めた。

 

「私、教会を追い出されたんです。神器で悪魔を治療してるところを見られちゃって。それで仕方なく、堕天使の管理する廃教会に身を寄せていて……」

「……そう、だったのか」

 

 予期せぬ形で暴露してしまったが、お互いに色々隠しあっていたようだ。人の心の地雷を踏みぬいてしまったような罪悪感が一誠を襲うが、アーシアは気にしないでというかのように笑いかける。場所や時間帯のせいか、その笑顔は一誠には少しばかり暗く見えた。

 

「傷、癒しますね」

 

 アーシアは先程ボコボコにされた一誠の傷を癒そうと、赤く腫れた頬に手をかざす。すると、緑色の光が一誠の頬を優しく包み込んでゆく。少しして、光が収まると、腫れはすっかり引いていて、傷一つなくなっていた。

 

「やっぱり、優しいな。アーシアちゃんは。俺みたいなやつもちゃんと傷を治してくれるし」

「イッセーさんこそ、私みたいなダメな人間を友達だってみとめてくれた」

「ダメじゃないさ。その優しさのどこがダメだってんだ?最高じゃないか」

「イッセーさん……」

 

 一誠はアーシアから少し離れ、木の陰からこっそりと周囲を見渡す。

 

「とにかく、まだ奴が追ってくるかもしれない。ここは部長にでも助けを求め ——」

 

 

「逃がさない、と言ったっしょ?」

 

 

 

 その声を聞いた時にはもう手遅れだった。

 

「ばーん☆」

 

 瞬間、一誠の背後からその身体を内と外から焼かれるような衝撃が襲った。焼けつくような烈風と身を焦がす爆炎。人一人は殺せる威力の爆発が、彼を襲ったのだ。もう、一歩も動けない。朦朧とする意識の中、悪魔祓いの下品な笑い声が耳に入ってくる。

 

「手榴弾をつかう悪魔祓いってパンクな感じがしてかっこいいっしょ?前殺した、悪魔と契約してた人間(ゴミクズ)の遺留品なんだけど……って、まだ生きてるじゃんかよォ!?ほんとしつけえんだよゴラァ!」

 

 全身から血と煙を出し続けながらも生きている一誠を蹴とばすフリード。その時、何かが空から降りてくるような音が聞こえてきた。

 

「ああ……気分がいい。憎き悪魔が死に体なのは実に最高だ」

 

 この声を忘れるはずがない。赤龍帝を名乗る怪物(オリジオン)が、追いついたのだ。

 

「ああ、俺達手を組むことにしたのよ。敵の敵は味方っていうじゃん?」

 

 オリジオンはボロボロの一誠を素通りし、気を失っているアーシアを担ぎ上げる。一誠とは離れていたため、爆発には巻き込まれなかったものの、爆発の衝撃で気絶してしまったらしい。アーシアを担いで立ち去ろうとするオリジオンに、一誠は残ったごく僅かな力と、声を振り絞って叫ぶ。

 

「アーシアを……どうするつもりだ」

「コイツの神器を頂く。別段お前一人ならいつでも殺せるが、生憎俺の相手はまだまだ大勢いやがる。大変不服だが、貴様らを相手取るにはこれくらいの保険は欲しいのでな」

 

 その発言に、一誠は驚愕した。神器所有者の魂と密接に繋がっている神器を抜き取られてしまえば、所有者は死ぬ。要するに、これは殺害予告にも等しい発言だった。一誠は力を振り絞るようにオリジオンの方へと這いずり、その足にしがみつく。

 

「んな事……させるかよ」

「ほざけ怪物。貴様の意見なぞ求めておらん」

「ひぐっ」

 

 まるでゴミを蹴飛ばすかのように、オリジオンの蹴りが一誠の顎に突き刺さり、彼の身体を打ち上げる。そのまま一誠は背中から地面に倒れるが、オリジオンは空いた方の手でその頭を鷲掴みにし、フリードの方を見る。

 

「コイツを殺すんだろ?なら譲ってやる。今は時間が惜しい」

 

 オリジオンはフリードの足元に向かって、一誠を塵のように叩きつける。

 

「アンタはどうするのさ?」

「別に、俺はこれまで三大勢力(きさまら)に虐げられてきた人類の味方だ。これまでも、これからもな」

「しょーもねぇし、くっダラねぇ。勝手にしろよ、俺っちは悪魔が殺せればそれでいい」

 

 お互いに吐き捨てるように別れを告げ、オリジオンはアーシアを抱えたまま背中の翼で飛び立っていった。一人残ったフリードは、動かない一誠の腹を踏みつけながらそれを無言で見送った。

 

「あれが、赤い龍ネェ……随分としょうもない奴だ」

 

 一誠を踏む足に力を込めながら、そう呟いた。

 

 

 

 




すいません。まだつづきます。フィフティが凄い無責任な発言を連発してますが、コイツは多分しばらくこんなんです。FGOのマーリン並みにクズです。見て分かる通り、アーシアとの出会いは端折ってるのでそこは原作読んで欲しいのですが、本作ではフリードとの邂逅とアーシア誘拐を纏めてるので注意ゾ。

遠足云々は5、6話くらい後にやる予定にゃ。

一誠がいい所無しですが、まだ神器が目醒めてないからしゃーない。そのかわり次回はようやっと活躍すると思うから期待してるんだぞ!ほんと、ボコボコにしてばっかでごめんな。ただ外道系敵キャラって書きやすいんだよなぁ……



あと自分でも思ったけど、アクロスの変身音ダサすぎるからどうにかしたい……けどセンス無いんだよなあ俺。

次回 月下真紅のブーステッド

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