【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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はい、D×D編ラストです!4ヶ月も間空いてホントすんません。はい。深くお詫び申し上げます。

ホロライブにハマったりしてたらこうなりました。はい。
まさか一年かけて12話とは……月刊誌じゃねえんだぜ?アクロス最新話より先にワニ死んだんだけど、怠け者にも程があるわ我ェ!


第13話 月下真紅のブーステッド

 一誠は目を覚ました。

 

「こ、こは?」

 

 まず視界に飛び込んで来たのは、一誠の顔を覗き込む木場と小猫の顔だった。辺りを見るところ、ここはオカルト研究部の部室らしい。記憶が混濁しているのか、先程までの出来事が曖昧にしか思い出せない。窓から差し込む西日が、寝ぼけた一誠の顔を照らしている。

 

「無事だったか。間一髪、というところかな」

「目覚めて一番最初に見るのがお前の顔とか、マジ引くんだけど」

「そんな口をきける位には大丈夫みたいですね。フェニックスの涙が無ければあのまま死んでたんですよ」

 

 あれほど痛めつけられていたにもかかわらず、身体のどこにも傷も痛みも無かった。話を聞くと、どうやら悪魔の間で知られているすごい治療薬を使ったらしい。

 

「そうか……俺……」

 

 意識がはっきりとしてきたらしい。同時に、先程までの出来事を思い出す。赤龍帝と神父に殺されかけ、アーシアも拐われた。それだけで十分だ。こうしちゃいられないと一誠はすぐさま身体を起こそうとするが、二人がすかさず静止する。

 

「待ってください、傷が治ったばかりで動くのは良くないですし、色々聞きたいことがあります」

「悪魔祓いに殺されかけてたところを、僕と部長が助けたんだ。一体、何があったんだい?」

 

 木場に訊かれて、事の顛末をぽつぽつと話し始める。アーシアの事も、フリードやオリジオンの事も。すべてを聞き終えた木場は、腕をくんで考え込む。

 

「悪魔祓いも来てるとなると、これは厄介だ」

「何も出来なかった……この間の時も、アーシアちゃんの時も!」

 

 ここ最近だけで嫌というほど味わった無力感に思わず苛立ち、ベッドに拳を叩きつける。もうこんなのはたくさんだ、せめて自分に力があればいいのに。心の中に巣くう堪えようのない悔しさが、時間が経つにつれて自己嫌悪に変わっていくのがわかる。

 

「行かなくちゃ……俺が、助けに」

「駄目よ」

 

 二人の静止を振り切ってまでベッドから出ようとするが、そこにリアスがやって来て一誠を止める。

 

「傷が治ったとはいえ、行くのは危険すぎる。それに、あの赤龍帝絡みとなると、一筋縄ではいかないの。相手は三大勢力に大損害を与えた二天龍の片割れなのよ?私どころか、魔王様でも刃が立つかどうか……」

「俺がやらなくちゃいけないんだ。だって、友達だから」

「そういう話じゃないのよ。今度死んでも、生き返れないのよ?」

「そんなの関係ないんです。俺、約束したんだ。友達だって。一人にはしないって。それを破ったら俺は俺じゃなくなる」

 

 話は平行線をたどる。リアスも一誠の身を案じての発言なのは重々承知の上なのだが、一誠はそれでも我慢ができない。どうしようもない歯痒さと苛立ちがくすぶっている。

 二人は暫く互いに見つめあっていたが、そこに朱乃が入室してきた。

 

「朱乃、どうかした?」

「堕天使を捕らえました。何者かにやられたようですが、まだ息がありましたので念のため連れてきました」

「こんなタイミングで……?まあいいわ。赤龍帝絡みかもしれないし、話を聞いてみても損は無い筈。案内して」

 

 

 

 

 

 

 

 旧校舎のとある一室。結界を何層も重ねばりされ、一般人の立ち入ることも、中にいる者を出すことも阻まれているその中に、彼女達はいた。

 

「あのさ……これは理不尽すぎないっすかね?ウチら、アイツにボコられた上に悪魔に取っ捕まるとか、厄日っすか?」

「私達は関係ない。寧ろ被害者よ……神器使いは奪われるし、何度も邪魔された挙句赤龍帝に皆揃って半殺し……こんな屈辱的な仕打ち、許されるわけ無いわ!」

 

 朱乃に連れられたリアス達が室内に入ってくるなり、簀巻き状態のレイナーレが抗議してくる。文句な内容からして、赤龍帝を名乗るアイツにボコボコにされて放置されてた所をグレモリーサイドに発見されて拉致られたようだ。まさに泣きっ面に蜂とはこういうことであろう。

 

「少しくらい静かに出来ないの?堕天使ってかなり品性がないのね」

 

 ギャンギャン煩いレイナーレに、僅かながら嫌悪感を見せるリアス。というかあからさまに煽っている。大丈夫なのかこの人。

 

「調子乗ってんじゃ無いわよクソ悪魔!調子が悪くなければアンタ達なんか光の力であとかたもなく即蒸発させて —— 」

 

 そこそこ高いプライドをここ数時間で木っ端微塵にされてしまっているレイナーレは、縛られながらもリアスに噛みつかんとする勢いを見せる。

 が。ここで誤算が一つ。

 

「あれ……夕麻ちゃん……?」

 

 リアスの後ろに立っていた病み上がりの一誠が、此方に気付いた。同時にレイナーレも彼のことを思い出した。

 

「げ、アンタは……!」

 

 あまりにも衝撃的かつ、予想外の再会であった。

 

 

 

 

 

 周りからすっかり忘れられ、学園では一誠の妄想彼女ゆーまちゃんだのひどい言われような美少女堕天使ことレイナーレ。お遊びで付き合った相手とのまさかの再開に一誠共々口をアワアワさせていたのであった。他の堕天使三人組はというと、あからさまに呆れたような反応を見せつけている。

 

「まさか初恋の相手が堕天使だったなんてえええええええ!堕天使って確か悪魔と敵対してたよな!? この場合どうすればいいんすかねえ部長!?」

「へえ、貴女私の領地でそんなことしてたんだ。随分と能天気なようね……ええ、随分と」

 

リアスのどことなく軽蔑が籠もった眼差しと、棒読みかつするどい言葉がレイナーレを襲う。

 

「信じらんない……あの時てっきり死んだのかと……まさか悪魔になってるとはね」

「レイナーレの遊び心が奇縁を結んだ、というわけか」

「遊び⁉︎ じゃああの時のはデートじゃなくて罰ゲーム的なアレだったのかよ⁉︎ 」

 

 追い打ちをかけるように、ドーナシークの発言によって初恋を否定されてすっかりしょげてしまう一誠。閑話休題、リアスがレイナーレの前に出て問い詰める。

 

「貴女とあの赤龍帝の関係、それにこの街で何をしていたのかを根掘り葉掘り聞かせてもらうわ。返答次第では三大勢力の戦争が勃発するかもしれないけど、覚悟はいいかしら?」

 

 リアスは手のひらに滅びの魔力を溜めながら脅迫するが、すかさず朱乃が止めに入る。

 

「リアス、それは駄目よ。私達が独断でやっていい事では無いわ。堕天使との間で余計な火種を作るのは危険すぎる。滅びの魔力じゃなくて、せめて氷漬けにしましょう」

「大して変わんないわよ⁉︎ というか、コント感覚で私達の生殺与奪の権利を弄ぶんじゃない!」

「レイナーレよ、俺達は捕虜の立場だからその要求は通らないぞ……」

 

 というか、捕虜とはそういうモノである。まあ、貴重な情報源たる堕天使達をみすみす殺すのはリアスからしても好ましくないので、まだ堕天使達の命は保証されている。その後はわからないが。

 

「とにかく、貴女達の処遇を決めなければならないわ。私の領地に来た理由もまだ答えてないし、望ましくはないけど、返答次第では戦争の火種になるかもしれないわよ」

「はたして、今はそんな事してる場合かしら?」

 

 リアスの言葉を遮るレイナーレ。彼女は周りが静かになったのを確認してから続ける。

 

「私達は独自に神器使いを手中に収めていた。が、本人が逃げ出した挙句、赤龍帝に捕まった」

「…………」

「あの赤龍帝……アーシア・アルジェントの神器(セイクリッド・ギア)を抜き取って、自分に入れるつもりよ。そうなれば奴は無敵。今すぐにでも三大勢力を殲滅しにかかる。癒しの力を得たら奴は手がつけられなくなる。その前に倒さなければ、三大勢力は全滅するかもしれない」

「なぜそう言い切れるのでしょうか」

「奴がベラベラ喋ったからに決まってるでしょ。アイツ、完全に私達を嘗めてる。奴の実力なら成し遂げかねない。私達を処分するよりも、アイツをどうにかしなきゃ全員終わりって理解してる?」

 

「……だとしても、貴女達を放逐する訳にはいきません。今のところ処分は後回しにしますが、逃げようだなんて思わないことです」

 

 あくまで朱乃は冷静な態度を崩さない。僅かながら命の先延ばしにはなったが、これでは助かりようがない。

 

「随分強気ね。私達の光の力の前では悪魔なんぞイチコロだってのに」

「手負いで無ければの話だがな」

 

 堕天使達の負け惜しみをよそに、一誠は考えこんでいた。いや、既に答えは出ていた為、改めて決意し直していた、というのが正しいか。やはりあの赤龍帝も、アーシアも放ってはおけない。どうにかしなくてはならない、と。

 皆にバレないよう、そろりと部屋のドアノブに手をかけようとする。その時。パシリと、リアスが一誠の腕を掴んだ。

 

「何処に行く気?」

「何って……決まってるじゃないですか。アーシアを助けにいくんですよ」

「貴方が助けようとしているのは教会の人間。元がつくけど天使側の人員。それに相手は赤龍帝。神器のなかでも別格の強さを誇るヤツだというのに、無茶よ 」

「それでもです。アーシアちゃんは友達なんだ。友達を見捨てる、なんてのはとてもじゃ無いけどできそうにない」

 

 一誠は決意の籠もった力強い眼差しをリアスに向ける。

 

「眷属から外されても構いません。俺一人でだって行きます」

 

 それは決意表明。全てを投げうってでも向かいたい道。恩を仇で返すようで心苦しいのだが、こればかりは譲れなかった。一誠とリアスは互いに見つめあったまま黙り込む。両者とも引けなかった。

 

 

 

 

 

 部室に戻った一誠達。あの後、二人の間には会話は無かった。静まりかえった部室の中で、リアスが口を開く。

 

「……これから私と朱乃は堕天使達の処遇をお兄様に相談する。いい?間違っても単身で突っ込まないように」

 

 去り際に「今日はもう帰宅しなさい」と釘を刺された一誠。彼の身を案じての言動なのは理解できているが、心の中では完全には同意しきれていなかった。

 ふてくされたように返事をし、部室をでる。重い足取りで校内を出口に向かって進んでいく。

 

「……ごめん」

 

 命の恩人よりも、出来たばかりの友達をとる。それが一誠の決断であった。それが裏切りだとしても、失ってから後悔なんてことはしたくないから。

 校門を出て、周囲に誰もいないのを確認した後、家とは反対方向に足を進めようとする。

 が、その時。

 

「僕にも声を掛けて欲しかったんだけどね」

「普段はデリカシーの欠片も無いくせに、こういうのはだんまりなんですね」

 

 二つの声が一誠を呼び止めた。一誠は思わずびくりと肩を震わせて振り返ると、そこには木場と小猫がいた。

 

「木場……小猫ちゃんも」

「多分、部長は君が行くことを止めた訳じゃない。部長の言葉をよく思い出してみて」

 

 言われてみれば、リアスは()()()()()()と言ってはいたが、()()()()()()()()()()()()()()()()とも解釈できる。一人では不可能でも、力を合わせれば一縷の希望は見える。まあ、斜め下の解釈な気もするが。

 

「ご存知の通り、神器を抜かれてしまえば所有者は死ぬ。助けにいくのなら一刻の猶予もない。どうする?」

 

 改めて問われるまでもない。初めから答えは一つ。

 

「巻き込んで悪いが、力をかしてほしい」

 

 たとえ無謀だろうと、敵対していようと関係ない。友情の前に立場の差異なんてものは無意味なのだから。

 さあ、友を助けにいざ行かん。

 

 

 

 しかし。

 その前にひとつ、やらねばならない事があった。

 

 

 

 

 

 

 

 時刻はやや巻き戻り、夕日が眩しい河川敷。

 土手の上を、3人の少女が歩いていた。湖森、ヒビキ、ネプテューヌの3人である。おつかいを頼まれた帰り道、湖森は自由奔放な二人を嗜めながら歩いていた。お姉さん風吹かせてるように見えるのは多分気のせいじゃない。多分。

 

「ほーら帰るよ二人とも」

「合点承知!ヒビキ、帰投しまーす!」

「ねぷねぷ、プリンを所望しまーす!」

「だーめ。家事を手伝わない人にやるプリンは無い」

「それにしても今日は暑かったねぇ。ホントに4月?海水浴とかしたくなってこない?」

「確かに。ほら、あそこの川にも人が流れてきてるし」

 

 ほら、とネプテューヌが指差した先を見ると、服を着たマネキンらしきものが川の端を流れている。3人が見ている中、マネキンは河原に打ち上げられる。

 

「ふーん……いやいや、ちょいまち!今なんつった⁉︎」

 

 危うく受け流しかけたが、それはスルーするにはあまりにも異常すぎた。

 マネキンではなく、流れていたのは人間だった。正確には、河原に打ち上げられたような状態で意識を失っている。そして、それは彼女達の良く知る人物だった。

 

「し、瞬⁉︎」

 

 そう。前回の最後でオリジオンに敗北して水落ちエンドを迎えてしまった主人公こと、逢瀬瞬であった。当然ながら3人は慌てふためきつつも、瞬の元に駆け寄ってくる。

 

「え」

 

「だ、だ、だ、大丈夫⁉︎ 何で川を流れて来たの⁉︎」

「帰宅ルートのショートカット、というヤツかな」

「んな訳ないでしょ!と、とにかく陸地まで引っ張り上げなくちゃ……」

 

 がっちりと瞬の身体を掴んで引っ張ろうとする湖森たち。しかし、小柄な湖森たちでは体格的には立派な大人に近い男子高校生を引っ張ったりするだけの力は生憎ながら無い。近くに人がいないかと辺りを見渡すと、

 

「だからさ、別に俺は悩んでなんかないって。まあ、権現坂が心配してくれるのはありがたいけどさぁ」

「しかしだな……遊矢、ここのところあまりデュエルの調子が良くないように —— 」

 

 トマトみたいな髪色の少年と、ガッチリとした体格の、大柄な少年が通りかかるのを見て、湖森は声を掛けた。

 

「あ、あのっすみません!手を貸してください!」

「え?あ、はい」

「よく分からんが、手を貸すぞ」

 

 通りすがった少年達の力を借り、なんとか陸地まで引っ張り上げることができた。身体をゆすってみると、呻き声をあげながら目を開いた。どうやら命に別状はないようだ。

 湖森は安堵するが、瞬の様子を見て、ある一抹の不安が頭をよぎった。まさか、彼はまた戦ったのだろうか。あの時、自分を助けに来たように。腹部には青痣ができ、頬の切り傷からは血が滲み出ている。こんなボロボロにやられている。

 

「げほっ……がはっ……」

 

 咳き込みながら起き上がろうとする瞬を、湖森が静止させる。

 

「息はしてるし、大丈夫みたいだ。でも一体何が……?」

「……あれからどうなったんだ」

 

 皆の心配する声を他所に、目を覚ますなりそんなことを言う瞬。身体は傷だらけなのに、その目には力が篭っているように感じられる。思わずネプテューヌもいつものキャラを崩して突っ込みをいれた。

 

「えっと……そんな場合じゃなくない?瞬、見たところ怪我も酷そうだしさぁ……」

「今すぐ戻らないと」

「あの……聞いてる?」

 

 そう言うと瞬は立ち上がり、この場から立ち去ろうとする。

 

「お前が行くべきは病院だ。待ってろ、救急車を —— 」

「心配するな。これくらい平気なんだ」

 

 大男が救急車を呼ぼうとするが、瞬はそれを止める。

 

「平気って……その心構えが一番危険なんだよ?そこはゲームも現実も同じだよ?」

 

 皆の声を聞かずに、瞬はうわ言のように大丈夫だと繰り返す。どう見ても大丈夫ではないはずなのに。そんな大丈夫をいくら言われても、心配なのは変わらない。今の瞬は、湖森の知らない誰かの為に無理して強がっているように見える。

 兄の態度に、色々と思うところがあったのか、湖森は瞬の手を強く掴んで引き留める。

 

「俺は死なないさ。約束しただろ?」

「そういう問題じゃないの!ねえ、やっぱりこんなのおかしいよ!だって、お兄ちゃんはちょっと前まで一般人だったんでしょ⁉︎ それなのにこんなにような事に首突っ込んで……だったらいっそのこと、辞めてしまえばいいじゃん!」

 

 湖森の言葉はもっともだ。逃げられるものなら逃げてほしい。わざわざ貴方が傷つきに行く必要はない。それだけ大切に思っているのだ、と。それは瞬にも痛い程わかる。

 しかし、だ。

 

「辞める、か。簡単に辞められたらいいんだけどな。これは俺にしか出来ないし、やらなかったら後悔するような気もする。始まりはどうあれ、今は俺がやらなくちゃいけないんだ」

「ちょっと待って —— 」

 

 痛む身体を無理矢理動かす。湖森の声が次第に遠くなる。

 話がすれ違っているのは承知している。妹の心を踏みにじっているのも理解している。それでも止まれないのだ。例え、守ろうとするのがほんの僅かな間の微かな関わりだろうと、それは見捨ていいものではないからだ。

 湖森も、今更になってこんなことを言うべきではないことは分かっている。兄の戦う姿に、不安と恐怖を感じたのは確かで、昨日の話し合いで恐怖が消えても、戦うことへの不安が残り続けているのも確かで。でもそれは、簡単には振り払えない。至極真っ当な感情なのだ。

 

(ウジウジ考えるのはいい加減にやめてやる。決めたんだ。今は他所からの受け売りの心でも、それでも構わない。俺が持っているのは、この為の力なんだ —— )

 

 かつて貰った言葉を灯りに、歩を進める瞬。今はただ、あのオリジオンをどうにかしなければならない。放っておいたら、きっとロクなことにならない。足取りが次第に確かになってゆく。大丈夫、まだ動ける。今はまだ止まっちゃ駄目だ。

 そんな瞬の背中に、湖森の叫び声がぶつけらた。

 

「約束して!無事に帰ってくるって!だって、どんな人でも帰ってくる場所はあるんだよ!家族との約束破ったりするなんて、私、絶対許さないから!」

 

 その言葉に瞬がどんな顔をしたのかは、湖森からは見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「アラタぁ、ご飯できてるんだけどー」

 

 姉の呼び声に生返事で返し、アラタは部屋のベランダに突っ立っていた。星々が輝き出した空を見上げ、

 

「何やってんだ俺は……」

 

 友達を見捨てて逃げて、のうのうとしている。そうして永らえた命でこうして悔やんでいる。そんな自分が嫌になってくる。何にも手につかなくなり、頭を掻き毟りながら声を上げる。

 

(一体何がどーなってんだよ……?ありえねえ、あんなこと。こんなことになると知っていたら、俺は■■■■■■■なんてしなかったのに……)

 

 昼間の事を思い出して、気が重くなる。あんなのは予想外だ。どうすればいい。それ以前に、あれからどうなったのだ。瞬は、一誠は無事なのだろうか。

 瞬が水落ちした後、怪物はアラタ達を置き去りにして一誠の方を追った。奴にとっては部外者たるアラタ達の存在などどうでも良かったのだ。だから、生き延びた。唯はあの後フィフティを引きずって瞬を探しに行き、山風が一部始終を見たせいで取り乱したので、なし崩し的に解散になってしまった。大鳳も態度に出していないだけで、かなり混乱している。

 

「ったく……全然切り替えらんねぇ……」

 

 頭を抱えながら、ふとベランダから家の前の道路を見下ろす。街外れの、明かりの少ない見慣れた道に、人影が見えた。

 

「ん、待て。あれは……」

 

 が。

 街頭に照らされたその姿を見て、アラタの顔が青ざめる。

 

「馬鹿っ……アイツ……!」

 

 そこにいたのは瞬だった。ぱっと見御世辞にも無事とは言えない容態だが、五体満足で生きていたのは素直に嬉しかった。しかし、彼はどこに行こうとしているのであろうか?明らかに昼間の怪物のせいであろう怪我をしているし、どことなく目つきが怖く感じられる。

 ベランダから声をかけてみたが、どうやら向こうはアラタに気づいていないらしく、そのまま歩き続けている。すぐさま家を飛び出して瞬の後を追う。向こうの動きは遅かった為、すぐに追いつけた。

 

「ちょっと待て!」

 

肩を掴んで声をかけると、ようやくアラタに気づいたらしく、瞬は振り向いた。

 

「あ」

「あ、じゃねえよ!お前無事だったのか!?」

「なんとかな……お前こそ、無事に逃げられたみてーだな」

「人の心配してる場合かよ……!結構ボロボロじゃねえかよ……そんなナリでどこ行こうとしてんだよ、おい」

 

 自分の容態を気にも留めない様子の瞬に、本気で心配して叱りつけるアラタ。先への不安は吹っ飛んだ。こんな有様の奴をほっといたらそれこそ最低だ。

 

「お前も見ただろ、昼間のヤツを。アイツを今とめなきゃ、きっとまずいことになる。俺の直感でしかないけど、このままじっとしてるなんてできない」

 

 どうやら、昼間の怪物に性懲りもなく挑むつもりらしい。助けてもらった分際で申し訳ないが、さすがに無茶だろうとアラタも思う。

 

「そうは言ってもだな……お前、こっ酷くやられたばっかだろ。そんなんでどうにか出来るのか?」

「なんとかする」

 

 ダメだコレ。絶対止まらないパターンじゃねえか。一旦決意を固めてしまった人間を説得させるのは、並大抵のことじゃ不可能だ。頑なに考えを変えない瞬に、情けないことにアラタは早々に折れてしまった。自分で自分に文句を言いたくなるレベルである。

 様に頭を掻きながら、アラタは呆れた様に言う。

 

「なんかお前は絶対止まらなさそうだから、もう何も言わない。助けてくれたことには、素直に感謝しているよ」

「そっか。俺も身体を張った甲斐があったもんだな」

 

 会話が成り立っているのか、すれ違っているのかイマイチわからない。この話題は続けるだけ無駄だと判断したアラタは、強引に話題を切り替えた。

 

「話は変わるけどさ、お前が変身したのって、仮面ライダーなんだろ?」

「知ってるのか?」

「名前くらいはな。人間の自由の為に立ち上がるヒーロー、らしいぜ」

「人間の……自由」

「カッコいいよな。途中でいくら傷つこうが、最後には皆を笑顔にしちまう。まさに理想のヒーロー。憧れないわけないだろ?」

「よくわかんねーよ。でもなんか良さそうだ、それ」

 

 人間の自由の為に戦う戦士。瞬は、そんな大層な存在にはまだなれない。だが、不思議と悪くはなさそうだと思った。いつか、そんな風になるのだろうか。そんな風に呼ばれる時がくるのだろうか。

 瞬は傷だらけの顔をあげる。アラタは、気恥ずかしいそうにこう言った。

 

「俺達を助けてくれた時、確かにお前はマジモンのヒーローだったよ。友人たる俺がそう言ってんだ。だから負けるな。あんなやべーヤツに、負けんじゃねえぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーシアを助けに行く一誠達。暗い夜道を走る彼らであったが、ふとあるものが一誠の視界に入り、彼は立ち止まる。

 

「どうしたのですか?」

「あれは……」

 

 十字路の別方向。明かりの少ない道の上に、ふたつの見知った顔を見かけた。ちょうど街灯で照らされていた為に気づけたのだ。逢瀬瞬と欠望アラタ。自分の素性を知られてしまった友人達。関わっている場合じゃないのに、早くアーシアを助けに行かなくちゃいけないのに、一誠は立ち止まっている。

 ならば、これもきっと避けてはならないことなのだろう。一誠は友人達のいる方へと向きを変える。

 

「ちょっと話してくる。先に行っててくれ」

「どこに行くんだい?」

「悪いが、今やらなくちゃいけないんだ」

 

 木場たちにそう告げ、一誠は友人達の元に歩み寄る。二人の会話は聞こえている。自分と同じように、向こうにも色々と事情はあるのだろう。会話に割って入るように、声を掛けた。

 

「よっ……なんて、軽い態度じゃだめだよな」

「一誠……お前まで」

 

 二人は驚いているようだ。かくしてここに男三人が揃った。アラタ以外は色々とボコボコにやられてたのだが。

 

「途中からだけど話は聞いていた。それでも俺は分からない。なんで瞬はあの怪物を倒そうとしてるんだ?お前は巻き込まれただけで、関係ないだろ?」

「巻き込まれたんなら、既に関係者だろ?それに決めたんだ。俺の力は、皆を守る為にある。ならその為に使うことを悩んだりはしない。全力で突っ走るってな。友達を守りたい。その想いは同じだよ」

「……ほんと無茶苦茶だ。今日出会った奴の為に命張るなんて、馬鹿だ」

「自分でも驚いてるよ。俺はこんなにも簡単に命を投げ出せるような人間じゃないって、俺が一番知っているのにな」

 

 自嘲気味に瞬が笑う。

 危なっかしくて、無茶苦茶で、悪い意味で命知らず。だがそれもきっとひとつのあり方。馬鹿だけど、ヒーローとは多分そういった存在なのだ。アラタにはそのあり方が、愚かしいと同時に、どこか眩しくも見えた気がした。

 

「そういえば」

「?」

 

 と、ここで何か思い出したかのように、唐突に話の流れを変えるアラタ。あまりにも急すぎて事故ってるのは言うまでもない。

 

「いや……あの、さ。不本意な形で隠してるっぽいことがバレちまったみたいだけど……お前ら的にはどうなんだ?」

 

 アラタのその言葉に、二人は黙り込む。確かにそうだった。一誠は自身が悪魔であること、瞬は自身が仮面ライダーであること。意図的に隠していたわけでは無いにしろ、結果的にはお互いに露見した。それなら、いっそのこと全部ぶちまけてしまった方が気が楽になるのでは無いか。

 二人は事情を洗いざらいカミングアウトした。

 

「ドン引きしたか?」

「いや」

 

 カミングアウトを静かに聞いていたアラタは、きっぱりと否定した。

 

「それがどうしたってんだ。別にお前が仮面ライダーだろうが、悪魔だろうがどうだっていい。そんな側面があるのは否定しないし、だからって俺のダチには変わりはねえ。だからさ、こんなのサッサと終わらせて、また今日みたいに、馬鹿騒ぎしようぜ」

 

 実の所、アラタは二人の隠された事情にはあまり驚いてはいなかった。というか、アクロスの姿を見て「カッコいいなあ」といった感じの空気読めてないような感想を抱いていたまでだ。肝が座っていたのか、馬鹿なのかは彼のみぞ知るのだが。

 

「……ああ」

 

 二人は同時にうなずくと、アラタに背を向けて走り出す。その背中を、アラタは真剣そうな目で見つめる。

 

 走れ、身勝手な悲劇を防ぐために。

 

 

 

 

 

 

 街外れの廃教会。辺りには廃マンションや廃病院といった、肝試しにうってつけであろう廃墟が乱立する中、その内の一つとしてそれは建っていた。

 

「ここに奴が居るんだよな」

「木場達はまだなのか……?」

 

 先に行った筈の木場と小猫の姿が見えないことを疑問に感じる一誠。しかし待っている余裕はない。恐る恐るボロボロの木の扉を開き、中に入る。中は天井の隙間から漏れる月明かりと奥に立つ燭台の火のみの為、かなり暗い。

 歩くたびに埃が舞い、反射的に軽く咳き込む。それでも瞬は目を凝らして奥に進む。すると、朽ちた扉の先に階段らしきものを発見した。

 

「あった、地下に続く階段!この先かも —— 」

 

 瞬がそう言い切る前に、二人は背中から凄まじい衝撃をうけた。

 衝撃を受け、派手な音を立てて階段の一番下まで一気に転がり落ちる二人。階段の上を見上げると、そこに見覚えのある人影があった。

 

「やあやあ、また会ったねえ!俺っちは一度相対した悪魔はすぐぶっ殺しちゃうから、再開とかねーんだわ!マジ不愉快だからちゃっちゃと死ねよオラ!」

「昼間の神父……!」

 

 昼間、オリジオンと共に襲撃してきた煩い神父ことフリードであった。長ったらしい台詞を吐きながら、意気揚々と双剣を手に飛びかかってきた。二人はすぐさま立ち上がって避けるが、フリードは床に突き刺さった剣を引っこ抜いて二人に向け、醜悪な顔を見せる。

 

「悪魔が教会に入るとか馬鹿なんですかぁ?いや馬鹿だったわお前!そして隣のクソガキも悪魔に肩入れイコール同罪だから二人仲良く地獄の片道切符を受け取って死ねオラ!」

「なっ!」

 

 木場達を先に行かせたのが裏目に出た。電話とかすればよかったのだが、生憎オリジオンにボコボコにされた際にスマホは木っ端微塵になっている。

 狭い地下通路では逃げ場は無い。壁際に追い詰められた一誠に、フリードは剣を振り下ろす。恐怖で目を閉じる一誠。一貫の終わりだ。

 

「畜生があ!」

 

 刃が一誠の鼻先をかすめんとしたその時。

 ガンッ!! と、何か硬いものがぶつかるような音がすると同時に、全員の動きが止まる。

 恐る恐る一誠が目を開けると、目の前のフリードは頭から血を流して止まっていた。足元には血のついた鉄パイプが転がっている。

 

「なんだよオイ、何のつもりだオイ!俺キレちまったよ、キレたよどうしてくれんだよゴラァ!」

 

 激昂したフリードは、階段の方を向く。地上と地下を繋ぐ階段の一番上、そこに息を切らしたアラタが立っていた。

 

「アラタ……お前……!」

「いけよ、助けにさ。時間がないなら俺がそいつを引きつける」

「お前正気か!?そいつはまともな人間じゃないんだぞ!?」

「わかってんだよ ―― たぶん、なんとかなる。だから任せとけ!借りは返さなきゃ俺の気が収まらねえしなぁ!」

「いきなり邪魔しといてボクチャンマジで不快なんですけどー!消えろーう!」

 

 ノリノリな台詞と共にフリードはアラタに斬りかかってきた。咄嗟にアラタは避け、フリードの剣は燭台を押し倒す。そして、倒れた燭台の火が絨毯に燃え移り、辺りが激しく燃えだした。

 

「アラタぁ!」

「急げ!」

 

 炎から逃れるように、瞬と一誠は地下通路を走る。同時に地上部では、戦いの衝撃で脆かった教会の天井が崩れ落ち、地下階段への道が塞がれる。

 

「やべえぞ……」

「アイツら、あのまま丸焼きになるんじゃねえの?バッカだなぁあ!」

 

 側から見れば、余計なことをして事態を悪化させてしまったようにしか見えない。てか実際そうだ。助けになりたいという心だけが先走りすぎたのだ。

 

「……こいよ、クソ神父」

「へえ。やる気かよ」

 

 勢いでやってしまったが、こうなれば引き寄せるしかない。アラタはコソコソと操作していたスマホをしまうと、外に向かって駆け出した。

 崩れゆく廃教会から飛び出したアラタの視界に、古びた廃マンションが入る。剣撃を必死になって躱しながら、廃マンションへと駆け込んでゆく。

 

「ああくそ!俺の知ってる悪魔祓いってもっとマシだったと思うけどな!あんたマジ狂ってるぜ!」

 

 大声で悪態をつきながら、アラタは階段を駆け上がっていく。最上階まで駆け上がり、錆び付いた鉄扉を蹴って開き、屋上に出る。

 

「どうしたんでちゅかあ〜?立派なのは威勢だけで?マジのマジで無鉄砲スギィ!」

 

 逃げ場のない屋上へと舞台は移っていた。自信満々で割り込んできた身の程知らずの滑稽さに、フリードは怒りと嗤いが混ざったような表情を見せる。神父の剣先がアラタに向けられる。

 

(おいおい……まさか俺達が無闇に介入しちまったせいで流れが変わってしまったのか⁉︎ だとしたらこれ、マジやべー展開じゃね?)

 

 最悪の展開だ。少しでも瞬に恩を返そうとしたのが運の尽きだったのかはもう分からないが、少なくとも自身を含めた幾つものイレギュラー故に、予想していた流れが来なかったことが問題だ。やはり、現実はそう簡単にうまく行くものではないらしい。

 迂闊すぎた自身への怒りを抑え、アラタは苦し紛れに一言。

 

「な、なあ。邪魔したのは悪かった。ここはひとつ見逃してくれないかな。なあ?」

 

「何言ってるんですかあ?クソ悪魔どもに加担した時点でてめえは殺されても文句ねえ、ってことだよォ!邪魔の対価は高くつくぜい?君たちの首300個あっても足りるかはわかんねーけどなあ!」

 

 すごい情けないことを言ってるが、さすがに死ぬのは勘弁ねがいたい。友達の為に命張るのは別に構わないが、決して死にたくないわけではないのだ。そんな思いで命乞いというチキンじみた発言をするが、当然ながらバッサリと切り捨てられてる。

 邪魔をいれられてご立腹なフリードは、意気揚々と剣を構えて歩み寄ってくる。アラタの背後には既に屋上の縁が側まで近づいている。後には引けない。

 

(いやいや!俺、馬鹿じゃね⁉︎ いや馬鹿だわ!足手纏いになるのは分かってたはずだし、最悪死ぬって分かってただろ⁉︎ じゃあなんで来た⁉︎ )

 

 いや、はじめから分かってたはず。その思いひとつだけで、無謀な行動にでたのは自分自身だ。あまりにも愚かで、理解不能で、不合理だけど。それは悪くはない。

 アラタは立ち上がる。抱いている思いを、恐怖を無理矢理抑える為に叫ぶ。

 

「俺はまだ死ねない!少しでも逢瀬の役に立って、生き残らなきゃなんねえ!それに、言い出しっぺが約束破って死んだら元も子もなからなぁ!」

 

 が、無情にも、刃が首先に滑り込む。

 その時。

 

 

 

「悪いけど、僕も邪魔させてもらうよ」

 

 

 

 突然割り込んできた声。フリードはその声に反応して動きを止め、振り返る。

 

「邪魔が入って遅くなった。君も一般人より、悪魔と戦いたいんじゃないかな?なら僕が付き合ってあげようかと思ってね」

「……へえ、今日ひょっとしてツイてる?君も悪魔……要するに!敵!獲物!暇つぶしがてら死んでみようやイケメン君?」

 

 乱入してきた少年 —— 木場祐斗は、フリードに対して真っ直ぐに剣を向ける。フリードは新たな獲物に歓喜と興奮を隠せないようで、木場を見るなりテンションがうなぎ登りになる。たしかに暇つぶしにはなりそうだ。

 一方、木場はというと、こんな事を思い出していた。

 

 

 一誠が一時離脱してから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。詳しくは本筋とほぼ関係ないのでここでは省くが、いきなり絡んできたかと思えば、予想外の強さと厄介さで苦戦させられてしまった。そのことについては色々と考えたくなったが、ともかく今は目の前の悪魔祓いを無力化することが先決だ。禍々しい黒い剣を構え、フリードを見据える。

 フリードも、木場を殺す為に剣を構える。元より、悪魔を滅ぼすという目的の一致でオリジオンと共に動いていたのだが、興奮のあまり、そんな細かいことは忘れた。目の前の悪魔を殺る。ただそれだけが頭を支配する。

 両者剣を構え、徐々に間合いを詰めていく。挙動の一つ一つが慎重に、かつ精密に遂行されていく。そして。

 

 

 

 まずは一閃、両者が同時に斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 そして、アラタはというと。

 

「五体満足なのが奇跡だぜまったくよ……」

 

 ひとまず生き延びたことに安堵していた。同時に、緊張の糸が切れたのか、身体から力が抜けたかのようにその場に崩れ落ちた。そこに少し遅れて、小さな人影がやってくる。

 

「……馬鹿ですか貴方は。無茶にも程がありますけど、そこのところはどうお考えで?」

「なんも考えてませんでした。すんません」

 

 塔城小猫であった。

 悪態をつきながらも、小猫は小さな身体でアラタをお姫様抱っこし、その状態で屋上から地上へと飛び降りる。勿論彼女はピンピンしてらっしゃる。彼女も人外なのだから当然っちゃあそうなのだが。

 

(間に合った……?偶然、なんとかなった……?)

「どうでもいいけど、いい加減持ち上げ続けるの疲れたんで下ろしますよ。なんか貴方、いやらしそうな顔してて不快ですし」

 

 さらりとディスりを入れながらアラタを地面に下ろすと、小猫はそのまま地面を思い切り蹴り、凄まじい跳躍力でマンションの屋上へと跳んでいった。

 

「……よく考えたら、俺無駄な事してねえかなコレ」

 

 一難去った後、自身の行動が急に無意味に思えてきた。足りない頭でどうにか役に立ちたいと思って動いたのだが、それに意味があったのかといと、多分無い。それでも、自己満足と友情から身体を張ったのだ。地面に大の字になり、友の健闘を祈りながら夜空を見る。

 

「頼んだぞ……二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 だんだんと暗くなりつつある夕暮れ。街外れの廃教会のそのまた地下深く。煤けた地下の祭儀場の最奥に、ソイツは居た。

 祭儀場の床には魔法陣らしきものが描かれており、そこら中に神父らしき人物達が倒れていた。彼らは皆レイナーレ達の配下だったのだが、アーシアを横取りする為に、オリジオンの手で纏めて半殺しにされたのだ。殆どの奴は既に死んでいるが。

 そして、魔法陣の中央には十字架に貼り付けにされた状態でアーシアが寝かされていた。まだ神器が抜かれた訳ではないが、彼女は深い眠りについている。

 

「こいつの力を取り込んでしまえば、俺様は不死身だ」

 

 傷を癒す神器の力を取り込めば、無敵になる。なんせ赤龍帝の火力と神器の回復効果を併せ持った、攻守に隙がない状態になるのだ。そう考えると、アーシアが狙われるのも納得がいく。

 間も無く儀式が始まる。地上でなにか激しい音がしたようだが、邪魔をされる前に終わらせてしまえばどうとでもなると思い、意識の無いアーシアの胸に手をかざす。その時、祭儀場の鉄扉が勢いよく開かれた。

 

「来たか」

 

 瞬と一誠が遂にたどり着いたのだ。息も絶え絶えで、オリジオンに全く歯が立たなかった二人だが、まだ食らいつく。友の為に。

 

「来たさ!さあ、アーシアちゃんを返せ!」

「はっ!一足遅かったな。俺様はたった今、儀式を終えた!聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は俺のものだ!俺様の!力に!なったのだ!」

 

 オリジオンは下賤な笑い声を上げながら、瞬達に右手を見せつける。その右手は、淡く緑色に光っている。

 

「それは……⁉︎ 」

「なんだ、貴様は神器を知らぬか。ほう……てっきり貴様も転生者かと思ったが、まさか部外者だったとは。いいか、これはあの聖女の神器。力。これを失った時点で彼奴は死んだ。残念だったなぁ?」

「なんだと……なんでそう簡単他人を犠牲に出来るんだ⁉︎」

「三大勢力は死ななければならないからだ。肩入れする奴も同罪だ」

「お前は間違ってるよ……そんな下らない事の為にアーシアちゃんの命を奪うなんて絶対間違ってるし、俺は許さない!」

 

 一誠の言葉にあからさまな不快を示したオリジオンは、目にも止まらない速さで一誠の首を掴んで持ち上げた。そして、心底軽蔑したような溜息をつき、こう続けた。

 

「俺様が間違っているだと?寝言は寝て言え雑魚が。これはな、人外どもに虐げられている人間の、正当なる反逆なのだよ。それがなぜ理解できない?悪魔は強力かつ稀少な力を持つ奴を節操なく、かつ強引に手籠にし、天使共は自分達以外の全てを見下しつけ上がっているくせ、逆らう者は容赦なく見捨てる。堕天使も神器を組織だってかき集めてるくせに部下の管理すらできない無能。最大の罪は、奴等がこぞって人間を見下している事だ。奴等は人間をどうとも思っちゃいない!分かるか⁉︎ 人類は人外の家畜では無いというのに、奴等はそれを正当化した上で正義面までしてるんだ!屑の極みだ!これは正しい裁き、正当なる報復なんだよォオオオオオ!」

 

 思いの丈をぶちまけるオリジオン。言い切った後、部屋中に響くような大声で笑い出す。彼からすれば、三大勢力は極悪非道の屑の集まり。理由は()()()()()()()()()()()()()。彼はこの世界における三大勢力について、実の所何もしらない。一方的な偏見でしかないのだご

瞬達には知る由もない。

 早いとこ終わらせてしまおうと、オリジオンは足を動かそうとするが、

 

「そいつは違うな」

 

 それを遮る声。それは、オリジオンからしてみればほとんど部外者である瞬の声だった。

 

「俺は悪魔がクズだの人間が人外に虐げられてるだのなんてよく知らない。でも、お前の言ってることが正しいとしても、お前がやろうとしているのは、お前が忌み嫌っている悪魔と同じなんじゃないのか?同じところに堕ちていいのか?自分以外の全てを見下し、力に酔いしれてるのはお前も同じだろ。同じところまで堕ちてるんだぞ」

「何を言っている?悪いのはアイツら、恨みを買った奴が悪いだろう」

「散々他人を傷つけといて、今更被害者面してんじゃねえよ!お前は虐げられた被害者じゃない。既に報復をやった加害者なんだ!裁かれるのはお前も同じだろ」

 

 そう。仮に復讐する動機が納得できるものであったとしても、被害者という立場はそれを正当化することはできない。復讐から別の復讐が生まれる事もありうる。そうなれば加害者の仲間入りになることは間違いない。

 さらに瞬は知る由もないが、このオリジオンに関しては、そもそもこれは復讐ですらなく、ただの糾弾。気に入らない奴に難癖をつけてイジメているようなものなのだ。ハナから常人には賛同できないものだった。

 

「屁理屈捏ねてんじゃねえぞ……あいつらが滅ぶべき悪なのは変わりない!」

「ああ屁理屈だよ。正論もへったくれもない、自分勝手で支離滅裂なクレームだよ。それでも言うし、食らいつく。なんせ友達を助けたいからな!その為だけに、俺は一誠に力を貸しに来た!」

 

 オリジオンの言葉を一蹴する瞬。偏見に塗れた憎悪と、純粋で不格好な友情。元より両者は平行線であった。会話など初めからしていない、意見のぶつけ合い、ドッジボールだった。瞬の言葉に続くように、一誠も言葉のドッジボールに参加する。

 

「……弱いからなんて関係ない。お前の考えなんて知らない。俺はただ、今度こそ助けなきゃいけないと思って来たんだよ!アーシアちゃんは一人だった。見捨てられて、利用されて、友達なんていなかった!だから!俺達がなるんだ!彼女の友達に……お前なんかとは違う!お前の言う通り、悪魔達が非道なことをやってんなら、俺が変えてやる!」

 

 啖呵を切った二人の主張を聞いてる内にオリジオンは少し落ち着いた様だ。長い沈黙の末、ぼそりと、失望に満ちた声を漏らす。

 

「……言ってもわからぬ馬鹿ばかり、か。ああ、全く無駄だったよ。貴様らはあくまでそんな安くて薄っぺらい理由でここに立つか。ならその身に刻むがいい。俺様の正しさと、強さを!」

 

 そう叫ぶと、オリジオンは全身から覇気のようなものを放出する。それは荒れ狂う突風となって二人を襲い、吹き飛ばした。

 

「がっ」

「うっ」

 

 壁に激しく叩きつけられ、ずるずると崩れ落ちる二人。オリジオンはそれを見て嘲笑うかのように、身体を震わせる。瞬は立ち上がりながらバックルにライドアーツを差し込み、腰に巻く。

 

「変身っ……!」

《CROSS OVER!仮面ライダーアクロス!》

 

 すぐさまアクロスに変身し、瞬はオリジオンに向かって駆け出す。

 

「何度かかってこようが無駄だとまだ分からぬか!」

 

 オリジオンは、瞬のタックルを物ともせず、ゴミを払うかのように弾き飛ばす。のけぞった瞬に、続け様にオリジオンの爪が振り下ろされる。アクロスの特殊金属から作られた装甲から火花が飛び散り、衝撃と痛みが瞬の身体の芯まで届く。相手は前より更に強くなっている。

 

「俺は赤龍帝だ。倍化の力なぞとうに使いこなしている。戦うたびにつよくなっているのだ!」

「それでも……とめる!」

 

 瞬はアクロスの専用武装であるツインズバスターを構えると、すかさずオリジオンに斬りかかった。今度はオリジオンの硬い鱗から火花が飛び散る。これならダメージが通る筈、時間と共に強くなる彼を止めるには、早期決着しかない。

 速攻で決めるべく、瞬は連続でオリジオンを斬りつけ、渾身の力を込めた突き攻撃でオリジオンを床に押し倒した。そして、ライドアーツをツインズバスターの柄にある差込口に挿入し、必殺技を発動させる。

 

《CROSS BLAKE! ARCLIGHT PUNISHER! 》

「はああああっ!」

「ぐはあっ!」

 

 赤い光を纏った斬撃が、オリジオンの鱗をバラバラに引き裂き、肉体へと刃を届かせる。断末魔をあげながら、オリジオンはそのまま動かなくなった。

 

「今のうちにアーシアを……!」

 

 一誠はそれを好機とみて、磔にされているアーシアの元に駆け寄る。

拘束を解き、背中に背負ってこの場から離れようとする。

 が。

 

「甘いな、俺様はまだ動けるぜ」

「嘘だろ⁉︎」

 

 なんと倒した筈のオリジオンが動き出し、掌から火炎弾を一誠にむかって発射してきた。まさかと思い目をやると、自らの胸に添えられたオリジオンの右手が緑色の光を放っている。アーシアの神器を使ったのだ。

 

「一誠!」

 

 完全に油断していた。倒しても回復してしまうような奴を倒す手段はない。現に、身体を真っ二つに裂くような一撃を与えたのにもかかわらず、オリジオンは五体満足なのだ。

 思わず瞬が一誠の元へと駆け寄ろうとするが、突然、オリジオンの火炎弾に何かがぶつけられ、そのまま霧散した。

 一体何が起きたのだ。オリジオンは突然の横槍に、

 

「部長……朱乃先輩!なんでここに!? 」

「そんなの、私が連れてきたに決まってるじゃないか」

 

 リアス達の背後から、見慣れた胡散臭い男が出てくる。瞬を戦いに巻き込んだ元凶たるフィフティである。瞬は顔を見るなり、露骨に嫌そうな顔をする。

 

「げ、フィフティ」

 

「感謝したまえ。ギリギリ間に合ったのは私のおかげだよ?それに君は本調子じゃないんだからさ、私がこれくらいの事はしなきゃ駄目だろう?」

 

 得意げに言っているが、妙に気持ち悪く感じてしまうのは気のせいだろうか。瞬がフィフティに対してちょっとイラついている傍ら、一誠はアーシアを抱えて部屋の入り口まで走る。

 

「イッセー、話は後よ。兎に角コイツにはこの間のお返しをさせてもらうわ!」

 

 リアスはそう言うと、お得意の滅びの魔力を指先から放つ。予想外の事態に対応出来ず、オリジオンはリアスの攻撃をもろにうけて膝をつく。リアスは一誠とオリジオンの間に割って入り、魔力を込めた蹴りをオリジオンに叩き込んだ。

 

「朱乃!いって!」

「分かってる!はああ!」

 

 すかさず朱乃が魔力で氷の刃を生み出し、オリジオンにぶつける。

 

「やった⁉︎」

「残念だ、今のは死亡フラグだぜクソ野郎」

 

 オリジオンは受けた傷を神器で癒し、そのまま炎を吐いて一誠達を吹き飛ばした。

 

「がっ……!」

 

 身体中に激痛が走る。治ったはずの身体が一瞬で再びボロボロにされる。地下室の冷たい床にぶっ倒れた一誠は、床に倒れたアーシアの身体に手を伸ばす。

 ここまでしても、何もできないのか。大切な人を助けることすらできないのか。そんなのは嫌だ。

 

(何もできないのはもう沢山だ!だから ―― 目覚めてくれ、俺の神器(ちから)―― !)

 

 

 

 

 

 

 

 それは応えた。

 高慢な偽物では無く、未熟で不格好な本物に。

 

 

 

 

 

 

 

 

《Dragon booster‼︎ 》

 

 一誠の心の叫びに呼応するかのように、彼の左腕の神器が動き出す。籠手に紋様が浮かぶと同時に、一誠の全身に力が駆け巡る。

 籠手も、先程の無骨な外見からうって変わり、手の甲に緑に輝く宝珠がはめられた、龍をかたどったかのような形をした赤い籠手へと変化していた。これには一誠は勿論、この場にいた全員が驚愕していた。

 

「なんだこりゃあ……ガチでなんだこれぇ!」

 

 赤き龍の魂を宿した真紅の籠手。赤龍帝の籠手(ブースデッド・ギア)が、目覚めたのだ。

 

「嘘……なんで、イッセーが……?」

「なんだ!?何が起きたんだ!?」

「なんてやつだ……貴様、どうやって覚醒したのだ⁉︎」

 

 その光景に一番驚いていたのは、オリジオンだった。

 

(馬鹿なっ……このタイミングで覚醒するとは……だから悪魔になる前に始末したかったんだよ!)

 

 完全に油断していた。

 一番危惧していた事。それは、一誠の覚醒が始まる事であった。いくら所有者が弱かろうと、その力はこの世界では最上級。自らの野望を確実に実行すべく、兵藤一誠が主人公(ヒーロー)として本領を発揮する前に仕留めたかった、というのがドライグオリジオンの本音だった。

 が、それは今この瞬間、失敗した。神器は感情の力に応える。アーシアに降りかかる不条理と、胸の内にあった無力感、それらとオリジオンに対する一誠の怒りが、それを目覚めさてしまった。思えば、最初の襲撃が完遂できなかった時点で、この展開になることが決まっていたのかもしれない。

 各々が驚愕に包まれている中、赤龍帝の籠手の宝珠から光輝く玉が出てくる。それは光りながらゆっくりと瞬の掌に落ちてきて、手の中に納まった時、そこには赤き龍が描かれたライドアーツらしきものがあった。

 

「これなら、あの時みたいに……!」

 

 ネプテューヌの時を思い出しながら、バックル左側に新たに手に入れてライドアーツを取り付ける。

 

《LEGEND LINK!BOOST!BOOST!EXPLOSION!DRAIG!》

 

 瞬の周囲が激しい炎が包み込んでいく。その炎の海の中から、三等身くらいの紅き龍が勢いよく飛び出し、天井を突き破り、炎を全身に纏ったまま瞬の上を旋回する。そして、瞬に向かってそのまま落ちながら、その体を5つに分解し、アクロスの装甲として引っ付いた。龍の腕は瞬の腕に、足は足に、翼と尾は背中に、頭部は胸に。そして、アクロスの額には緑の宝珠と二本の角が備わった。

 その姿は、まだ一誠達は知る由もないが、赤龍帝の真なる力である赤龍帝の鎧(ブースデッド・ギア・スケイルメイル)を思わせるようなものであった。

 

「これはこれは……随分と派手というか、刺々しいというか……」

 

 赤龍帝の籠手を左手に出現させた一誠と、赤龍帝の力を身に纏ったアクロス。フィフティはその姿に見惚れたような反応を示し、嬉しそうにこう続けた。

 

「ついに繋いだね……これこそは真なる赤龍帝との絆の証!仮面ライダーアクロス・リンクドライグ!真紅の双龍よ、今こそ反逆の時だ!」

 

 フィフティの声を皮切りに、二人は駆け出した。近づくたびに、全身に漲る力がいっそう高まっていくのが感じられる。

 

「せえい!」

「ぶふほぁあ⁉︎」

 

 一誠の右ストレートがオリジオンの顔面に突き刺さり、これまでとは比べるのも烏滸がましくなる程の痛みがくる。間髪を入れず、瞬の回し蹴りがオリジオンの脇腹に滑るように入り、彼の身体を大きく吹き飛ばした。

 

「まさか……貴様も倍化を使っているというのか……⁉︎」

「そのようだね。赤龍帝の力が宿ったライドアーツ、当然だね」

 

 オリジオンの問いにフィフティが軽い調子で答える。そこに、瞬の裏拳と一誠の膝蹴りが同時に入り、オリジオンを中心に壁にクレーターを作った。

 

「貴様ら……倍化がこれ程まで……」

 

 壁にもたれかかるオリジオンに、一誠と瞬が迫る。回復されるなら、それ以上の力でぶん殴ってやればいい。二人の倍化がさらに重ねられる。

 

⦅EXPLOSION CROSS BLAKE⦆

⦅explosion‼︎⦆

 

 二人の倍化(ブースト)が最大まで到達する。それは、オリジオンからすれば敗北の宣告に他ならなかった。何故、負ける?何故、コイツらに逆転される?彼の読んできた二次創作(ヘイト作品)では、主人公は決して原作キャラに負けず、原作で裁かれなかった罪を裁く救世主(罪無き人を虐殺する極悪人)で ——

 

「なんでっ……貴様らみたいなカスに……!」

「他人を見下し続けた報い……にしては安いもんだと私は思うよ?」

 

 フィフティが馬鹿にした様に答える。彼は色々と踏みにじり過ぎた。悪魔にも悪魔の尊厳はあるし、守りたいものだってある。しかし、前世から原作世界そのものを貶し続けていた彼には、終ぞ理解できなかったのだ。自分の知ることが全てだと盲信し、それだけを頼りに進みすぎた。

 瞬と一誠が、オリジオンの前に立ち、拳を構える。

 

 

「「ダブルドラゴンパアアアアアアアアンチッ‼︎ 」」

 

 

 偽りの赤龍帝に、鉄槌が下された。オリジオンの身体から、緑色の光が勢いよく飛び出し、床に転がる。アーシアの神器だ。

 そして、二人の倍化たっぷりのダブルパンチによって、オリジオンの身体は地下室の天井を突き抜け、満月の浮かぶ夜空へと大きく吹き飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。廃マンションの屋上でフリードと対峙していた木場と小猫。互いに傷だらけであり、ただでさえボロボロな廃墟が、戦闘の余波で更にボロボロになっているあたり、戦いの激しさがひしひしと感じられる。

 対するフリードは、平気へっちゃらと言わんばかりの様子で、二人を長時間相手取りながらも一向に剣筋が乱れていない。当初の予想を遥かに上回る難敵。ここは倒すよりも、可能な限り足止めに専念してから離脱したほうがいいのでは、と木場は考えていた。

 

「しぶとい……二人がかりでも、まだ持ち堪えるのですか」

「君、中々の腕前だ。そんな身に堕ちているのが惜しいほどに」

「生憎だが、俺は悪魔を殺したくてやってんだ。好きで今いる所まで堕ちてるんだ!調子こいてんじゃねーよミクロ単位で斬り刻むぞ!」

 

 なんとか強がってみせるが、正直に言ってかなりギリギリの状態だ。フリードは相変わらずの汚い口調で罵倒をするが、急に剣を収めてしまった。

 

「……と、言いたい所っすけど、ダメっすわ。あの赤龍帝やられてやんの。ぼくちんマジ白けちゃうわー。つーわけで俺、まだ捕まりたくないんで去ります、バイチャ!」

 

 そう言うと、フリードは懐から丸い物体を取り出し、木場に向かって投げつけた。瞬間、眩い光が木場達の視界を包み込む。

 

「閃光弾っ……」

 

 何も見えない。特に夜では効果的面だ。二人の目が眩んでいるうちに、フリードはマンションの屋上から飛び降りて逃げていく。もう今回は引き際なのだ。赤龍帝をたすける義理はないし、悪魔に殺されるなどもってのほか。

 しばらくして、二人の白く塗りつぶされた視界が徐々に戻っていく。そのときには既に、神父の姿はどこにも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 

「ハァッ……バハァッ……」

 

 オリジオンは身体を引きずりながら歩く。吹き飛ばされた後、這う這うの体で逃げていた。

 オリジオンとしての姿を維持することもままならず、先ほどまでの堂々たる態度とはうってかわり、無様に怯える子羊としか言いようのない有様であった。

 

「この俺様が……よりによって兵藤みたいなクズに……!それに話が違う!俺が転生特典として赤龍帝の籠手を持っているくせに、何故あのクズ野郎が覚醒するんだ……!」

 

 敗北してなお、見下すスタンスに変化はない。典型的な負け惜しみは、人が見れば呆れて失笑するほかないであろう。

 

「ん?」

 

 少年の向かう先、満月の前に立ち塞がるが如く立つ人影に気付く。

 漆黒の軍服に身を包んだ少女が、そこにいた。帽子の下から覗く銀色の瞳が、美しくも鋭く少年を睨みつけていた。大きな満月を背に佇む少女に、オリジオンだった少年は問いかける。

 

「お前は……?」

「私はレイラ、お前には力を与えたっきり顔を見せていなかっただろうから、覚えてないのかもしれない」

 

 自らの名を名乗った少女は、かつかつと辺りに靴音を響かせながら、少年のすぐ側まで歩いてくる。

 

鹿野宮壱成(かのみやいっせい)……いや、小阪和成(こさかかずなり)お前に力を与えた……のは妹なんだが、代わりに私から宣告してやろう」

 

 レイラは、目の前の少年の名前を呼ぶが、直後に前世での名前で呼びなおす。それは、少年の素性をすべて知っていることに他ならない。そしてレイラの言葉をうけて、少年は思い出した。自身がオリジオンとして覚醒した時のことを。こいつは、自身の力を覚醒させた連中の仲間だと。

 すぐ側まで接近していたレイラは、少年の額に人差し指を当てる。

 

「……何を」

「死ね、下種野郎が」

 

 その言葉と同時に、ドスッという、何かが刺さったような音がした。そして、少年の身体がぐらりと前のめりに倒れ、地面に血を撒き散らす。その背中には、一本のサーベルが深々と突き刺さっていた。

 

「な……に、を、す……る?」

 

 訳がわからない、といった表情のまま倒れ伏した少年に、レイラは目をくれることなくサーベルを引き抜く。同時に鮮血が吹き出し、更に辺りを紅くしていく。

 

「お前は王になれない。お前は……井の中の蛙にすらなれんよ。その性根が治らん限り、永遠にな」

 

 冷たいその宣告が、冷たくなりつつある少年に突き刺さる。既にその言葉を理解するほどの意識は残っていないかもしれないが、レイラにはどうでもよかった。

 

「外野の思っているほど、奴らも単純じゃないというのに」

「あれ、役に立たなかったかー。はぁ、面倒だけど、また新しい転生者補充しないと」

 

 偽物の赤龍帝(クズ)の始末を終えたレイラ。そこに、能天気な声が響いた。

 

「リイラ、お前は享楽的すぎる。それにどっちにしろ、あいつは使い物にならなかったさ。中身が腐り果てている。とてもじゃないが……こいつの作る世界を、私は許容できない」

「でも、レイラも最初の頃は結構乗り気だったじゃん?忘れたとは言わせないにゃー」

「あ、あれはだな……」

 

 妹からの痛い突っ込みを受け、言葉を詰まらせるレイラ。妹からの追求を誤魔化すように話題を変える。

 

「それにしても、遂にやってきたのか……仮面ライダー」

「転生者狩りもこれを嗅ぎ付けているし、これは一波乱あるかもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「踏んだり蹴ったりじゃない!赤龍帝が二人いただの、三大勢力死すべしだの、バッカじゃないのあいつ!」

 

 今回の事件では完全にいい所無しでボコられただけの形となった堕天使カルテットの一人、レイナーレ。治らない苛立ちに綺麗な顔を歪ませながら、近くのガードレールに八つ当たりの蹴りをくらわせ、凹ませる。器物破損である。

 

「うむ。今のは完全に負け惜しみだな」

「そもそも勝負になってないっすけど」

「なんか言ったかしら、ミッテルト?」

 

 レイナーレがミッテルトの失言に鋭く反応する。堕天使カルテットの中では下っ端に位置する彼女は、レイナーレの声に肩を震わせ、冷や汗をだらだらと垂らしながら、

 

「いいい言ってません!か、か、カラワーナが!カラワーナが!」

「はぁ⁉︎ ふざけないでよ!アンタちんちくりんの癖に……!」

 

 小学生レベルの言い掛かりを端に取っ組み合いになったカラワーナとミッテルト。それを諫めるドーナシークは、

 

「喧嘩はよせ、貴様ら。まだここは悪魔の領地、騒ぎを起こせばどうなるか分かっているのか」

 

 そう。ここはまだグレモリーの支配する街の中。ただでさえ今日の事件からピリピリしてるであろう悪魔陣営からしたら、不法入国者も同然のレイナーレ達の存在は余計な諍いの種になりかねない。彼女ら自身もオリジオンにボコボコにやられた為、一旦街を離れて回復に専念したいのもあるが、とにかく今は事を荒立てるべきではないのだ。

 そんなこんなで、オリジオンに翼もへし折られ、飛行が困難な彼女らは徒歩で街外れまできていた。街を出れば多分救援も来る筈。淡い希望を抱きながら足を進めるレイナーレ達だったが、眼前の坂の頂上にひとつの影を見つけた。

 藍色のライダースーツを身につけた、長身の男だった。一歩一歩、足音を大きく響かせながら近づいてくる。

 

「無事逃げられたようだな」

「……お前だったのか。我々をグレモリーから逃したのは」

 

 そう。捕まっていたはずの彼女らは、何者かの手引きを受けて逃げ出していた。知らぬ間に解かれていた拘束、誰もいない校舎。それら全てが、偶然とは思えないタイミングで彼女らに味方していたのを、逃げながら感じていたのだ。

 

「俺はギフトメイカーのバルジ。まあ、ロクデナシ同士仲良くやろうじゃないか、なあ?」

 

 レイナーレ達の正体を知っているのか知らないのかは分からないが、随分と不敵な笑みを浮かべている。

 

「何故助けたの?」

「趣味さ。あの悪魔共に軽く悪戯して足止めしたのも、君達を助けたのもさ。だって君達も、あそこにずっと居たくはないだろ?ああ、別に取り引きを持ちかけるつもりは無い」

 

 男はそう言いながら、いつの間にかレイナーレの背後に回り込み、肩に手を回していた。当然彼女は振り払うが、男は一瞬の内に離れた電柱の上に跳躍していた。

 

「ただちょっと、実験動物(モルモット)になってもらうだけさ。拒否権ないぜ?」

「待ちなさい!あなたは一体 ―― 」

 

 レイナーレの声は途中で途切れた。彼女の意識は、一瞬で消し飛ばされていた。意識を失った身体が、倒れることを忘れるくらいに。

 他の面々が何か言おうとするが、彼らもまた、レイナーレと同じ末路を辿る。バルジの目の前には、まるで時が止まったかのような状態になった堕天使達がいた。

 

「この世界、中々壊しがいあるじゃん」

 

 バルジは舌なめずりをしながら、夜の街を見下ろす。

 その目は何とも形容し難い、悍ましいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一晩が経った。

 

 あの後アーシアは神器を戻され、リアスの手で悪魔として生き返った。成り行き上仕方ないとはいえ、シスターを悪魔にするとか大丈夫なんだろうかと瞬は思ったのだが、本人が満足そうなので突っ込むのは野暮、というものだろう。アーシアはそのまま一誠の家に住む事になり、学校にも転入してきた。男子生徒からの熱烈な人気と、一誠への恨み辛みがわんさか湧き出てきて教室はしばらくの間うるさくなったのは言うまでもない。

 ちなみに、三大勢力について知ってしまった瞬とアラタが、その後リアスに呼び出される事になるのはまた別の話 —— 。

 

 

 

 

 

 

 4月も半分以上経過し、桜も殆ど散ってしまったある朝の通学路。

 

「しまったなー目覚まし時計が1時間早くなってたかマジありえねぇわーつれーわー」

 

 若干イキったような感じの独り言をぶつくさ呟きながら通学する瞬。しきりに欠伸をしながらも教室に入り、ホームルームの時間まで二度寝をしようかと机に突っ伏す。時間はまだたっぷりあるのだから、問題はなかろう。

 冷たい机でうとうとしかかっているところ、教室のドアがガラガラと開く音で眠気が飛ぶ。入ってきたのは一誠だった。

 

「あれ、お前随分と早いんだな」

「一誠こそ。今日は一人なのか」

「ああ、松田達と夜通しAV鑑賞してから直で来た」

 

 それは無断外泊にあたるのではなかろうか。瞬は訝しんだ。二人して暫く机に突っ伏していたが、ふと思い出したかのように一誠が瞬に訊いてきた。

 

「なんで、知り合って間もない奴の為にあんなに身体をはってくれたんだ?」

「言うまでもないさ。出会ったばかりだろうがそうでなかろうが、友達は友達だろ。それに、見捨てたらアイツに合わせる顔がないしな」

「アイツ……ってドイツ?」

 

 その時、バタバタと煩い足音が廊下から聞こえてきた。

 

「話をすれば」

「ごうらあ瞬!お前に抗議やからな!」

 

 やっかましい声が、ぼちぼちと人が増えてきてた教室を振るわせる。反射的に瞬が立ち上がると、教室の入り口にいた唯がつかつかと瞬の元に歩いてきて、がしりと腕を掴む。

 

「朝から元気満々だなぁお前。こちとら寝不足なんだ」

「またラスト置いてけぼりだったんだけどお!瞬!もっと私に構ってくれないかなぁ⁉︎私達、幼馴染みだよね⁉︎」

「泣きつくなそして抱きつくな!周りの目線が『女の子泣かせた極悪人』的な感じになっててとっても鋭いんだけど!」

「煩い!放課後は瞬の奢りで本屋ハシゴするからね!」

「会社終わりの一杯っぽい感覚で言うな!」

 

 いつも通り唯にタジタジにされる瞬を見ながら笑う一誠だったが、そこに今し方登校してきた松田と元浜が一誠の肩に手を置いて、

 

「おーいイッセー!てめーこの半月でどんだけ未来に進んでんだよぉ!羨ましいぜぇ全くよぉ!」

「処す?処す?」

「……悪いな、俺はまだまだテメェらより先に大人の階段を登るぜ」

 

 フッ、とカッコよく切り返した—— つもりだったが、二人から羨ましさと妬ましさの篭った頭グリグリ攻撃をうけた。

 

 

 

 少しずつ、人の輪は広がる。人間も、それ以外も巻き込みながら。

 真の赤龍帝の物語も、ここから始まってゆくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かがつぶやいた。

 

「ああ、やはり彼はイカレているよ。正気を失ったというかより、本性を表したといったところか。まあ、ヒーローなんだからそれくらいは当然っちゃあ当然なんだけどね? 彼の道のりは前途多難だ。狂わせた元凶の責務として、私が導かねばなるまい」

 

 

 

 

 それは決意表明、もしくは言い訳。

 その心中は、誰にも知りえない。

 

 

 

 

 

to be continured……

 

 




超難産でしたわ。

 一誠のヒーローらしさをうまく話に盛り込めるかどうか不安でしかなかったんですが、出来栄えはともかくこうしてなんとか形にできました。設定とか勘違いしてると思いますので、原作に詳しい方はいろいろ教えていただければ、と。
 オリジオンについては、完全に舐めプしてたことが敗因です。ハイスクールD×Dという作品そのものを見下し続けた為、一誠の覚醒も予想出来ないレベルでアホだった訳です。怒らせたらあかんだろ……というか少し考えれば舐めプしてる場合じゃないというのにな。まあコンセプトからして「まともに原作知らずにヘイト創作してる奴」ですからね。このサイトにもたんまりといらっしゃる人種っすよ。
 他にもいろいろ混ぜてます。あるキャラの背景とかぼんやりとしたあれこれとか。まああからさますぎなんだけども。湖森については、瞬に抱く感情がここで変化してます。兄妹の関係修復はまだ先かも……。
 もっと削るところ削って一誠やアーシアとの絡みを増やすべきだったと後悔。完全に主役が喰われてたので次回からは気をつけねば。というか今回の話、あからさまに矛盾してるんだよね。構成めっちゃくちゃだよはーつっかえ。やめたらこの作品(自虐)?


意地でもエタらせたくないので、気長に待ってていただけるとほんと嬉しいです。実生活が安定している限り続きます。

次回、驚きの人物が現れる……!



次回 赤と青の通り魔

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