【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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はい、新しい話です。
原神にはまったり身内の不幸があったりデュエルリンクスしてたりして遅くなりました。純水精霊強すぎんよ〜


話数節約のために無理矢理1話に纏めた為、文量的にはめっちゃあります。ここから暫くはそんな感じになりますのでさらにスピードダウン。

今回は驚きの人物がでるぜ!


第14話 赤と青の通り魔

夜の埠頭に響く足音。

まるで何かを恐れ、それから逃げるかのように、酷く慌てた様子で駆けてゆく一人の男。

 

「ちくしょう!天罰ってやつなのか⁉︎あんな事やったからなのか⁉︎」

 

 靴が脱げた事にも気付けない程に切羽詰まっているようだ。悪態をつきながら逃げ続けた彼だが、気付けば袋小路。既に逃げ場は無くなっていた。

「ゆ、許してくれえ!引ったくりなんて二度としない!だから命だけは助けて……お願いしますう!」

 

 泣き喚きながらの、必死の罪の告白も、その影には届かなかった。

 

《Ready Go! 》

 

「ああああっ!」

 

 眼前に迫る恐怖。

 それに対する絶叫を最後に、彼の意識は途絶した。

 

 

 

 

 翌朝 逢瀬家

 

 

『今回の事件で通り魔による被害は7件に達しました。目撃者の証言によると、暗くてよく見えなかったが、犯人は赤と青の変わった姿に見えたとのことです。今のところ死者はでていませんが—— 』

「おっかないなぁ……」

 

 数日前から世間を騒がせている通り魔のニュースを見て、環士郎が不安を抱く。世界的に見れば平和ボケしてる日本人ではあるが、流石にこんな事件が地元で起きて平気な奴はいないだろう。

 

「この調子だと、部活休止や遠足中止にもなるかもね。ま、二人とも部活はしてないから関係ないか」

「遠足潰れんのは許しがたいね……楽しみじゃないといえば嘘になるし」

 

 ソファーに背中を預けてスマホを弄りながら湖森が応える。時刻は午前7時半を過ぎた頃。時間にはまだ余裕があるので、朝の支度を済ませて一息ついてる逢瀬兄妹。

 その時。

 

 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!

 

 連打されるインターホン。誰だ朝っぱらからこんな下らない事をやってるバカタレは。

 

「朝早くからなんだよ?湖森、でてきてくれ」

「やだよめんどくさい」

 

 対応を面倒くさがって兄妹で押し付けあってる間にも、連打され続けているインターホン。平日の朝からこんな非常識なことをやってる馬鹿はいったいどこのどいつだというのだ。

 

「あーはいはい煩いから連打しないで」

 

 繰り返し鳴らされるインターホンの音に耳を塞ぎながら、瞬は玄関のドアを開ける。

 なんか無駄にでかい胸のおねーさんがいきなり来訪してきやがった。

 

「なっなんで……てかいい年した大人が朝から人ん家に上がり込むんじゃない!」

「なにおう!私はピッチピチの19よ!来月には誕生日だけど!」

「言い訳になってないしいらない情報だからそれ!てか何しにきたんですか貴方は!てさ誰⁉︎」

「トモリさん、いくらなんでもこんな時間に来るのは非常識だよ。トモリさんは大学生だから時間があるんだろうけど、皆は違うんだって」

「いやヒビキちゃんそれ以上に暇してるよね?きっと毎日が日曜日状態だよね?」

「で、あんた誰なんすか。俺にあんたみたいな非常識な知り合いは唯以外いないんですが」

「わ、私を忘れたというか君は!」

 

 忘れるも何も、そもそも接点ほぼゼロである。瞬はほとんどヒビキや唯からの又聞きでしか彼女を知らない。話を聞くに、春休みに倒したオリジオンの知り合いだったらしいのだが、んなの知るわけない。

 

「湊トモリ、19歳!好きなものは食べること全般、嫌いなものは」

「ちょっと待っていきなり話進めないで⁉︎ てか言っときますけどアンタと俺はほぼ接点ないですし!友達の友達の親戚レベルだから!通報していい⁉︎」

 

 気が狂うような会話の勢いと非常識なトモリにキレ気味に対応する瞬。彼がこうなるのも至極まっとうなのはまあ分かるだろう。

 

「流石にだめだって。かわいそうだし、追い出すくらいでいいじゃんよ」

「元気になったのはよかったけど、アポは取るべきだよね」

 

 ちびっ子二人も簡単にトモリの味方とはいかない模様。ヒビキとネプテューヌの言葉にうんうんとうなずきながら、瞬はトモリの背中をぐいぐいと押して玄関まで行く。

 

「帰った帰った!朝早くから凸するとか馬鹿かアンタは。せめて日を改めて来てくれ、頼むから」

「そ、それにほら。もうそろそろ出発しないと学校に遅刻しちゃうよ?皆勤賞狙ってるんじゃなかったっけ?」

 

 環士郎の言葉で時計を見て気づく。たしかにそろそろ出発する頃合いだ。しかし、この痴女子大生をどうしたものか。

 

「えーと、この子ならオジサンがなんとかしとくからさ。二人は学校行ってきなさい」

「ごめん叔父さん!」

 

 環士郎に礼を言いながら、瞬は靴を急いで履いて家を出る。

 あんなよく分からんもののせいで遅刻なんてまっぴらごめんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝から酷い目に遭った瞬の精神は、この時点で結構疲労していた。もちろんそれは湖森も同じ。

 

「あー酷え目にあった」

「そーだね……」

 

 先程の光景を思い返し、兄妹揃って遠い目になる。やべー奴がいたもんだ。現代社会恐るべし。

 

「き、気を取り直していかねば。さっきのことは忘れよう、な?」

「ソウダネアレハアクムダッタ。ソーユーコトニシテオコウ」

 

 兄妹仲良く忘れることにした。ぶっちゃけただの逃避に過ぎないが、その方がいいに決まってる。あんな馬鹿に思考領域を割くと無駄に疲れるだけだ。

 時刻は8時をまわり、タイムリミットは後30分を切った。ちょっと出るのが遅くなった為か、学校に着くのはギリギリになりそうだ。密かに皆勤賞を狙ってらっしゃる逢瀬少年は、内心焦り気味なのはここだけの秘密である。

 

「しっかし、なんで学校を坂の上に作ったんだろうね。作った奴バッカじゃないの?」

 

 学校前の坂道に着いた。瞬達の通う学校は、天統(あますべ)の街を見下ろせる小高い丘の上に位置する。まるでアニメに出てきそうな立地だが、実際に通う側からすれば不便この上ない。徒歩だと長い坂道が辛いのは言うまでもなく、自転車だと下り坂でスピード出し過ぎて事故るケースが毎年のようにある為、危なっかしいことこの上ない。

 瞬の目の前を歩く少年も同じなのか、足取りが軽くフラフラになっている。見ていて危なっかしなあと瞬と湖森が思っていると、

 

「ふんぎゃっ」

 

 街頭に思いっきり顔面をぶつけ、潰れたカエルのような声をあげた。少年は蹲って額を抑え、苦悶の声を漏らす。

 

「だ、大丈夫か……なんかフラついてるけど」

 

 思わず瞬は少年に声をかけた。少年は顔をあげて返答する。

 

「だいひょーふ……ただの低血圧……い、いったあ……」

「お前は同じクラスの……志村だったっけ」

「……うん、志村優始(しむらゆうし)。君は……逢瀬くんだったかな。いてて……」

 

 あまり関わりの無いクラスメイトといえど、流石に半月もすれば数人くらいは顔と名前が一致してくる。弱々しい雰囲気がダダ漏れな少年は恥ずかしそうに笑いながら、差し出された瞬の手を取る。

 

「情けない姿を見せちゃったね」

「情けないというか……あんなに綺麗に電柱にぶつかる人、初めて見たかも」

「湖森、言ってやるな……」

 

 街頭にぶつかった際に乱れた金髪を軽く手で整えながら立ち上がる志村少年。顔はいいのだろうが、先程の一部始終を見ていた逢瀬兄妹にとっては、どこか抜けたところのある、所謂残念なイケメンという印象しか感じられなかった。実際そうなのだが。

 

「もう大丈夫、少しマシになったかも」

「おいおいホントかよ。無理するなって」

 

 心配する瞬達を他所に歩き出した志村。

 が、数歩として歩かない内に、地面のでっぱりに足を引っ掛けて顔面からずっこけた。痛そうな音に瞬と湖森は一瞬身震いするも、ほっとくわけにもいかないので、再び手を差し伸べる。ひょっとして、コイツはドジっ子属性持ちだったりするのだろうか。

 

「痛くないか?」

「いいよ、これくらい良くあるんだ」

「いやほんとに大丈夫かよ?盛大にすっ転んでたけどさ」

 

 流石に1分もしないうちに2回も怪我をする奴を心配するなと言う方が無理があると思うのだが。志村は遠慮がちに差し伸べられた手を掴む。

 

「ほんと、気にしなくていいから……おっとっと」

 

 瞬の手を借りて立ち上がる志村だが、よろけて数歩ほど後退する。

 そして。

 

べちょり

 

「あ」

 

 何か柔らかいものを踏み潰したような音がした。同時にあたりに広がるなんとも言えない香り。即座に逢瀬兄妹は悟った。

 —— 間違いない、コイツウ○コ踏みやがった。踏み潰された汚物からなんとも言えない臭いがあたりに広がる。

 

「お前さあ、大丈夫?靴取り替えた方よくない?」

「大丈夫大丈夫……僕昔から運が悪くてさ。こーゆーのは慣れてるから」

「大丈夫なのそれは」

 

 嫌そうな顔をしながらも湖森が突っ込む。逢瀬兄妹からすれば、大丈夫そうには見えないのだが。そして運が悪いというよりただのドジなのでは、と僅からながら思い始めるのであった。

 まあ色々あって校門に着いた。校門前では風紀委員が生徒指導の教員と共に遅刻の見守りをしている。瞬達が通り過ぎようとすると、門の前に立っていた風紀委員の一人が少し嫌味の篭ったような声をかけてくる。

 

「早くするんだ。僕といえど、他人を叱責するのは好きではないんだ。そんな事させないでくれ」

「風紀委員の遅刻喚起週間だったな、そういえば」

「いやいや時間見て!あと3分で遅刻だよ!」

 

 と、ここで湖森が血相を変えて叫ぶ。すかさず腕時計を見ると、時刻は8時27分。家を出るタイミングがいつもとズレていたせいで、時間感覚が若干バグってたらしい。

 

「げえっ!走れ走れ!志村、お前もだっ!」

「ぷももえんぐえげぎおんもえちょっちょっちゃっさっ!」

 

 瞬は咄嗟に志村の襟首を掴んで引っ張っていく。どたどたと校門を走り抜け、確かめるように、立っていた風紀委員に訊く。

 

「セーフだよな、な?」

「……早く教室に行け。ホームルームに遅れるけどいいのか?」

 

 朝からこの調子だと疲れるなぁと、溜息をつく瞬。そこに、襟首を掴まれたままの志村が一言。

 

「ぐるじぃはなじで」

「あ、ごめん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は進んでお昼時。食堂に向かう唯と瞬。

 今朝の出来事を聞いた唯が一言。

 

「朝から災難だったねそりゃ……」

「ホントだよ畜生。てか何あの人、あんな人だったの?ドン引きしたんだけどさあ」

「でもまあ、悪い人じゃないよ。しょっちゅうヒビキちゃんと一緒にお見舞い行ってた私が証人さ!」

「お前の善人認定雑すぎるんだよなぁ」

 

 他人事だと思って楽観的なことを言う唯に、ため息混じりに悪態をつく瞬。今朝のエンカウントからして、瞬にとっては少なくとも変人である事には変わりない。間違っても常識人とは判断できないし、したくもない。

 

「そもそもなんで今食堂に向かってるんだっけ」

「弁当忘れたんだよ。あの変なオバサンのごたごだのせいでな」

 

 せっかく作ってもらった弁当が無駄になってしまった事に対し、申し訳なく思う。これも全部トモリって奴のせいなんだ。酷い奴だ。そんな感じに脳内で彼女をサンドバッグにしながら、瞬は食堂にたどり着いた。初動が遅かったせいか、既に食堂は多数の生徒でごった返している。並ぶ生徒の列をかき分けながら、比較的安い生姜焼き定食のトレイを持って空いていた席に座る。

 

「多いな畜生。これだからあまり使いたくないんだよな」

「でも安い・美味い・たまに不味いのが学食のいいところなんだよねー」

「いや最後の絶対良くない。致命的な欠点だよね?」

 

 思わず突っ込む瞬だが、そう言われると、心なしか目の前の生姜焼き定食を食べる気が失せてきた。だが、腹は減ってるし、何より実際に食べずして味のジャッジを下すなど、作ってくれた人に失礼にも程がある。いただきますの挨拶をした後、出来立ての豚の生姜焼きに箸を伸ばそうとしたその時。

 

「ごめんだけど、隣いいかな?」

 

 なんかナヨナヨした感じの声をかけられた。見上げると、其処には今朝もみた頼りなさそうな男の顔があった。向こうもようやく気づいたらしく、少し驚いたような顔をしている。

 

「志村……」

「あれ、逢瀬くん?今朝方ぶりだね。で、もう一度聞くけど、隣いいかな?」

「あ、ああ。別に構わないけど」

 

 混雑しているし、別に誰が座ろうが気にしないので譲ってやることにした。唯の隣に座り、カレーが入った皿の乗ったトレイを机に置く。

 

「いやー良かった。このままずっと座れないんじゃないかと思ったよ」

「意外だね、瞬と志村が友達だったなんて。瞬は昔から友達作りが苦手な方だったからねぇ。成長して私は嬉しいよ」

「気持ち悪いからその親ムーブやめろ」

「反抗期っ……じゃあこれから私はクソババア呼ばわりされるってワケね⁉︎ 楽しみだわ!」

「だからやめろって言ってんだろうが!てか何反抗期楽しみにしてるんだ。家族に反抗期を期待されたらかえって反抗しづらくならないか」

 

と、ここで蚊帳の外状態で2人のやりとりを見ていた志村が一言。

 

「隣の子は……彼女さん?」

「「んな訳あるかっ‼︎ 」」

 

 見事にハモリました。必死の形相で否定する二人を見て、地雷踏んじまったと理解した志村は、黙り込みながらも、「いやこのハモリ具合……そのうち本当に付き合い始める可能性も微レ存……?」と思わずにはいられなかった。

 

「……今朝のあれはどうなったんだ」

 

 先程のアレを誤魔化すように無理矢理話を変える瞬。ここでの"あれ"とは今朝のやつである。志村がべっちょりと踏んでしまったアレだ。

 

「出来る限り洗ってみたさ……というか食事中にその話題はふらないで欲しかったな」

「自分から話振っといてなんだけど、若干食欲失せたわ」

「あ、それこの食堂のなかでもブッチギリに不味いから気をつけて」

「うげぇ……やっぱり不味い……」

 

 志村の忠告も間に合わず、瞬の口の中でいろんな味の合体事故が繰り広げられた。見た目が普通なくせに、中身がカオスなのだ。食にこんなものは求めてない、やめてくれ。

 

「大丈夫?水で流し込む?」

「一体なんの話をしてるんだお前たちは」

 

 唯から水の入ったガラスコップを受け取り、なんとか流し込む瞬。そこに、どこか皮肉めいた声が割って入ってくる。

 

「お前今朝の……」

 

 そこにやって来たのは、今朝の風紀委員の男子生徒だった。はて、彼とは殆ど接点がなかったはずなのだが、一体どうしたことか。少年は瞬の顔と、瞬は食べかけの生姜焼きをまじまじと見つめている。

 

「君は風紀委員の……高山くんだっけ?」

「ああ。クソ不味い生姜焼き定食に果敢に挑まんとする命知らずが居ると聞いてな。誰かと思い興味が湧いてきて見てみたら君だったというわけだ」

「そんなに有名だったのかこれ……どーりで食券みた奴が『こうかいしませんね?』と聞いてきたのか。これ残そうかな……白飯だけで食おうと思えば食えるし」

 

 どうやら瞬の思っていた以上に、無謀な挑戦だったようだ。いやそんなにやべーのなら改善しろと言いたい。この不味さだとクレームの10つや20つは平気で入ってそうなのだが。

 そう考えているうちに、瞬はだんだんと腹が立ってきた。なんでこんな拷問じみた昼飯を食わねばならんのだ。よし、残してやる。そう決意して瞬は生姜焼きの皿を持ち、残飯処理BOXのある食器返却コーナーに向かおうと立ち上がる。

 

「あれ、残すんだ。やはり君でも無理だったか……」

「完食する頃には味覚おかしくなるわ。不本意ながら残させてもらう」

「駄目だ。それは許されない。周りも、僕も」

 

 弱音を吐いた瞬に対し、それを妙に強い口調で否定する高山。何故だかわからないが、目付きも若干怖くなっているような気もする。

 

「まあそれを完食でもしたら確実に味音痴が移りかねないからね……うん、僕だってそうする」

「駄目だ。残さず食うんだ。それでも高校生か?そういった些細な悪事から人は堕落していくんだからな」

「ちょっと言い過ぎじゃない?」

 

 話が脱線し始じめ、何故か瞬を詰り始めた高山。その異様な様子と発言内容に唯が思わず苦言を呈するが、

 

「そんなはずは無い。不義に怒り、正義を愛する。それが人間としての正しさだ。それ以外に正解はない —— 」

「ちょっとまて、流石に俺も —— 」

 

 あまりにも度を超した言いように、瞬も少し怒り気味に反論しようとしたその時、

 

「あ、メガネ君じゃーん!」

「あっ……」

 

 見るからに不良です!と言わんばかりの柄の悪そうな男子生徒が高山に声をかけてきた。ピアスやらなんだかよくわからない金属製のアクセサリーやらをジャラジャラくっつけたその不良は、急に萎縮した高山の肩に手をかけて、

 

「いやー、丁度よかったわぁ。マジで良かった。ちょいツラ貸してくんね?拒否したらどうなるかは分かってるよな?」

「っ!」

「俺らかーなーり金欠で機嫌悪いワケ。後は分かるよな?」

 

 このやりとりだけでも、瞬達はなんとなく察してしまった。高山はこの不良達に遊ばれている。俯きながら身体を震わせる彼の姿を見かねて、唯が助け舟を出そうとする。さっきまでの険悪ムードを理由に、今目の前で怒ってることを見過ごすのはできない。

 

「あのー、なんか本人嫌がってるみたいだし、やめてあげたら?」

「いやいやいや、これが俺ら流の絡み……的な?てか十中八九挨拶無視する奴が悪いよなぁ?普段挨拶運動とかしてる風紀委員が挨拶無視とか、風紀委員の風上にも置けねえよなぁ?」

 

 しかしこの不良、無駄に弁が立つ。後半はまともとも言えなくもないのが余計に苛立つ。だが所詮は屁理屈。唯は臆せず不良を睨みつける。対して志村は無茶苦茶ビビってるる模様。まあ普通の反応だろう。

 

「まずいよ……この人達めっちゃ怖いんだって!反抗したら唯ちゃんが……」

「てかなんだ?女のくせに口答えしようってのか?調子こいてんじゃねーぞ」

「そーだそーだ!俺達はダチだもんなぁ?ダチの頼みが聞けねーってのかぁ?あん?」

「反抗したらどーなるかわかるよなぁ?」

 

 取り巻きらしき連中も野次を飛ばしてくる。というか、大勢の目の前でよくこんな事できるものだ。怖いもの知らずにも程がある、と瞬は内心呆れてしまうが、高山は放って置けないし、このままだと唯も危ない。

 決心して、唯と不良の間に立つ。

 

「そこまでしておけ。高山も、他の皆もビビってるだろうが」

「しゃしゃりでてんじゃねーぞダボが!内蔵残らず吐き出されてぇのか!」

「困ってる奴に声かけて何が悪いんだ。高山の奴、見るからに怯えてるだろ。初対面の俺達だって分かるんだから相当だと思うんだが」

「なんだお前、生意気だな。ぶっ飛ばされてえのか、ああん?」

「オシマイだ……」

 

 瞬まで逆らいだし、志村は頭を抱えて震える。食堂にいた他の生徒たちも、先生を呼びにいこうとしたり、必死に気配を消して被害を免れようとしたり、早々に食堂を立ち去ろうとしたりと、この状況に対して様々な反応を見せている。中には、瞬と唯を指差して、無謀だのアレは終わりだのとヒソヒソと言い合っている者もいる。

 だいぶ騒ぎが大きくなってきたが、不良は意にも介さず、高山の肩をがっしりと掴みながら瞬を睨みつける。

 

「ビビってる?こいつが?お前の思い違いじゃないのか?高山ぁ、お前はどうなんだ?ええ?」

 

 ドスの聞いた声で念を押すように、本人に問い掛ける。高山は、震える声で答える。

 

「大丈夫……嫌じゃないんだ。僕は」

 

 明らかに脅迫だろう、とその場にいた誰もが思った。明らかに声は震えているし、俯いた顔には恐怖の感情が浮かんでいる。が、不良は鈍いのか無視しているのか、それを意に介することなくヘラヘラと笑いながら高山から離れ、瞬の目の前に歩み寄る。

 

「ほら、本人もこう言ってるだろ。だからよ」

「……?」

「オラっ!」

「ぶはぁっ⁉︎」

 

 次の瞬間、不良のストレートパンチが瞬の顔面にクリーンヒットした。瞬はぶっ倒れ、椅子に頭を打ちつけ、辺りに鈍い音が響いた。

 

「俺様に盾ついた罰だ。時間がねえから一発でガマンしてやんよ」

 

 不良達は倒れた瞬を嘲笑いながら、高山の肩にガッチリと手を回して食堂を立ち去っていった。あたりはしばらくの間静まり返っていたが、近くにいた生徒が倒れた瞬を心配して声をかける。

 

「だ、大丈夫かアンタ……鼻血出てるし、頭打ってるし……」

「大丈夫……ってえ……」

 

「瞬!大丈夫?なんともない?」

 

 周囲に心配されながらも、痛む頭を押さえながら起き上がる瞬。鼻頭周辺も後頭部もじんじんと痛むのが伝わってくる。痛みのサンドイッチ状態である。

 

「私のために……」

「唯、考え無しに突っ込むなよ。俺が割って入らなかったら、殴られてたのはお前だったかもしれないんだぜ?」

「ごめん……でもどうしても我慢できなくて」

「お前らしいっちゃらしいけどなぁ」

 

 予想通りの答えに、思わず呆れて笑う瞬。

 その時。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 直後、何かを叩きつけるような、鈍く生々しい音と共に絶叫が響き渡った。一瞬で静まり返る食堂。そして、開けっ放しになっていた扉から何かが投げ込まれる。

 鈍い音とともに投げ込まれたそれは。

 

「あ、あ、ああ、ああああああああああああ!」

「なっ……なんだコレェ!なんなんだぁ!」

 

 それは、先程の不良達だった。彼らはボコボコに殴られたかのように身体中に真新しい痣を作り、歯が抜けていたり、顔が腫れていたりと酷い有様である。いくら先程のいざこざで悪印象を持っている相手であろうとも、ここまでされても気分が悪くなるだけだ。

 さらに追い討ちをかける様に、横たわる不良達を踏みつけながら、入ってくる人影。燻んだ赤と青で構成された、人型の怪物。ウサギともなんかの兵器とも見て取れる左右非対称のフォルム。

 

「フー……フー……」

 

 瞬はそれを知っている ——— オリジオンだ。

 ——— たちまちに、阿鼻叫喚の嵐が来た。

 

「うああああああっ!」

「きゃあああああっ!」

 

 一目散に逃げ出す人々。日常が、恐怖を纏った非日常に塗り替えられてゆく。

 

「あ、ああ……あばばばばばばばばぁがふっ!」

「志村⁉︎」

「ひはかんは……」

 

 志村は驚きのあまり腰を抜かすと同時に、パニックになって自分の舌を噛んでしまい、驚きと痛みの間で悶え苦しみ出した。何やってんのコイツ、と瞬は思いながら、志村の手を引っ張って目の前のヤバそうな怪人から引き離す。

 

「あれが通り魔……?どう見てもオリジオンじゃんかぁ!」

「だよな……じゃなくて、とめないと!」

「気を付けて……なんかコイツヤバそうだよ」

「変身!」

 

 瞬はアクロスに変身しながらオリジオンの元へと走り、執拗に不良達を痛めつけようとするオリジオンを止めようと羽交い締めにする。

 

「やめろ!これ以上やったら死ぬぞ!」

「邪魔するなぁ!」

 

 オリジオンはアクロスを振り払うと、振り返り様に殴りかかってきた。アクロスはそれをひらりと躱し、オリジオンにタックルを仕掛けて不良達から引き離す。

 オリジオンは再び瞬を振り払うが、すぐ様アクロスはオリジオンの腹を一発殴り、脇腹に回し蹴りをくらわせて吹っ飛ばす。どうやら、今までの敵よりは強くない様だが、人に危害を加えてた以上は止めるべきだ。アクロスはトドメを刺そうとベルトに手をかける。

 が、その時。立ち上がったオリジオンが、何処からか小さいボトルの様なものを2本取り出してきた。

 

「一体何をする気なんだ……?」

 

 思わずアクロスは身構える。すると、オリジオンはその2本のボトルを自らの口へと持っていき、なんと一気に口の中へと放り込んでしまった。予想のつかない行動に驚く瞬と唯だが、まだ終わらない。

 

⦅ホークガトリング……yeaAAAA!⦆

 

 突然、オリジオンの左腕がぐにゃりと崩れ、ガトリングのような機構へと変形する。同時に背中から錆塗れの鉄の翼を生やし、空へと飛び立とうとする。

 

「逃がさない!」

「はあああああああ!」

 

 オリジオンはガトリングを構えたまま、低空飛行で瞬に向かってくる。

 

「ああっ」

 

 すれ違い様の一撃。スピードで威力を増した右ストレートがアクロスの胸元に滑り込むように命中し、彼の身体を地面へと倒す。オリジオンはアクロスを少し通り過ぎてから振り返り、構えたガトリングの狙いを定め、引き金を引いた。

 

「瞬……!」

 

 ズガガガガガガガガガッ‼︎

 オリジオンのガトリングが、爆音と硝煙と薬莢をばら撒きながらアクロスめがけて掃射する。唯は慌てて校舎の影に身を隠し、瞬も弾丸の雨を掻い潜りながら、ツインズカリバーを銃の形へと変形させ、オリジオンのいるであろう場所に向かって撃つ。

 が、当然当たらない。硝煙でアクロスの視界が塞がれた隙をつき、オリジオンの方はそのまま飛んで逃げていく。なんとか煙を振り払うが、その時には既にオリジオンの姿は消えていた。

 

「逃げられた……」

「なんだったの、あいつ……てか何処から来たんだろう 」

「さあ……?」

 

 オリジオンの飛んでいった方向を見つめる瞬と唯。

 後には、混乱と不安だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 とある場所。

 テレビのニュースを観ながら、二人の男が会話していた。

 

「おいおい、これマジなのか?マジなのか?もしかしてまたアレ絡みじゃないよな?」

「その可能性は低そうだが……流石にほっとけ無いな」

「■■■をパクられた上悪事に使われてるとなると、本家本元が動かないって訳にはいかないし、こーゆーのが俺達の役目ってもんだろ?」

「まあそうだな。何度だって愛と平和のために戦ってやろうじゃねえか

、それが俺達だからな」

「筋肉馬鹿のくせに良い事いうなぁ。今朝変なプロテインでも拾い食いしたのかよ」

「別に良いじゃねえか。ほら、確かめにいくんならさっさといこうぜ」

「ああ、ちゃんとチャックは締めろよ?」

「うるせえ。さっき締めたから大丈夫だっての —— 」

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやで放課後になりました。

 今日は遅刻やら弁当紛失やらオリジオンやらでめちゃくちゃな一日であった。特に最後のは学校側にとっても色々とヤバかったらしく、昼からの授業は無くなり、全生徒は強制的に下校させられることとなった。

 帰りのホームルームも終わり、早めの放課後が訪れる。早く帰らないと学校側がうるさくなるので、瞬は帰りの支度を進める。そこに、空気を読まない唯がやってくる。

 

「昼から暇になったし、どっか遊びに行かない?」

「遊びにって……どうせ古本屋とか中古ゲーム屋とかをハシゴするだけだろお前」

「な、なぜ分かるんだ瞬!見たのか⁉︎ パンツ見たのか⁉︎」

 

 長年の付き合いだからこそ分かるのだ。瞬は、まったくよく飽きないな、と呆れながら帰りの支度を黙々と進める。あとパンツは見てないし関係ない。唯のパンツ見ることで得られる情報にどれほどの価値があるというのだ。少なくとも瞬にとっては微塵もない。

 と、そこに瞬達の会話が耳に入ったのか、高山がやってきて注意をする。オリジオンの騒ぎの後、こうして教室に戻ってきたのだが、あれから大丈夫だったのだろうか。

 

「念の為言っておくが、寄り道禁止だぞ。遊びに行くなど言語道断だからな」

「……わかってますよ」

 

 去っていくの背中に向かって不満そうに返事をする唯に対し、絶対分かってないだろ、と思う男性陣。分かってない奴ほど言うのは皆さん既にお分かりだろう。

 と、ここで瞬は去っていく高山にある疑問をぶつけた。

 

「お、おい。昼間のやつは大丈夫だったのかよ⁉︎」

「君には関係がないだろう、忘れてくれ」

 

 しかし、彼は冷たい声でそう答えると、そのまま颯爽と教室を出ていってしまった。声をかける間もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『瞬君。悪いんだけど、ちょいと夕飯の買い出しに行ってくれないかな?ちょっと急用が出来ちゃって、夜まで帰れなくなったんだ、すまない』

 

 学校を出てすぐ、叔父からこんな電話がかかってきた。教師に見られたら即生徒指導送りだが、今朝見たら冷蔵庫の中身があんまり無かったし、まあいくら寄り道するなと言われたところで、晩飯抜きにしていい理由にはならない。

 だが制服のままなのは流石にどうかと思ったので、スーパーと学校が真反対の方角にあるというのもあるのだが、一旦帰って着替えてから行くことにした。

 が、スーパーの前で瞬がぽつり。

 

「何もお前らまでついてくる事ないんだけどな」

 

 彼の後ろには湖森と、気持ち悪いくらいにっこにこ状態な唯がいる。まだ家族である湖森は分かるが、何故唯まで一緒に居るんだ。帰る際に一旦別れたのは夢だったのだろうか?

 唯はニヤニヤ笑いながら瞬をからかう。

 

「いやほら、そこはまあ幼馴染み特権とかを濫用すれば問題はないんだよねぇ。悔しいでしょうねぇ」

「濫用の時点で問題だろ。なんで我が家の買い物に堂々と参加してるんですかねぇ!」

「だってウチの近所ですし?そーゆー瞬こそ、もっと近場のスーパーがあったのではなくて?」

「いやだって今日はここが一番おトクだし」

「私としては唯さんと一緒で満足なんだけどなー」

 

 すっかり唯に懐柔されてる湖森はこの始末。よし、早いことおつかい終わらせて帰ろう。そう決心し、自動ドアを通ろうとしたが、ふとその横にあった自販機が目に入る。

 そこには。

 

「どこに行ったんだ……流石に500円は惜しいんだよなぁ……」

 

 なんか見た事ある金髪が自販機の下を必死に覗き込んでいた。

 いや何やってるんだよ、と思いながらも、とりあえず声をかけてみることにした。

 

「また会ったな」

「あ、逢瀬くん……奇遇だね」

 

 顔をあげて志村が答える。

 

「今日はやたらとお前と遭遇するんだけど……もしかしてストーカー?」

「僕をなんだと思ってるのさ……」

 

 なんか二人の間に惹かれ合う何かがあったりするのだろうか?瞬はふと想像してみたが、割と気持ち悪かったので思わず身を震わせた。女性陣がなんか気になるような目で瞬を見てるけど気にしない気にしない。

 唯は答え合わせをするかのように、志村に問いかける。

 

「大方予想はついてるけど、何やってんの?」

「小銭……落としたんだ」

 

 ホント何やってるんだよ。今朝から色々あったが、もしかしてこいつめちゃくちゃ不幸体質なのではないだろうか?本人は諦めたのか、立ち上がって大きな溜息をつきながら、分かりやすいくらいに肩を落とす。500円の損失はデカかった。

 こうして志村少年が瞬のパーティーに加入した。する必要が皆無なのだが、何故かこの4人で動くことに。ほんと何故だ。

 入店早々、唯はお菓子売り場に直行していった……と思いきや、10秒足らずで瞬達の元に帰還してきた。お目当てらしきお菓子……いや、なんかよくわからない食玩の箱を瞬に見せつけ、

 

「瞬。これ買ってよ」

 

 おねだりし始めやがった。高校生が幼馴染みにタカって恥ずかしくないんですか?当然ながら瞬は突っぱねる。というか唯もおつかいに来てるのだから、金くらい持ってるだろうに。

 

「なんで食玩を持ってくる。買わねえよ」

「パパ、良いでしょ?」

「だれがパパだ」

 

 瞬と唯のやりとりを見ていた志村は、思わず、

 

「仲睦まじいね、二人とも」

「いや誰がこいつみたいな問題児とラブラブだって?」

「志村はそこまで言ってないよ、多分」

 

 昼間の繰り返しである。志村、少しは学習したまえ。一連のやりとりを見ていた湖森は、呆れ笑いをしながらも、内心では志村に同意していた。というか、常日頃から「早く二人に恋愛感情とか芽生えないかな」と、本人達からすれば余計なお世話と言わんばかりの考えを持っていた。長年の付き合いだからこその考えである。

 と、妹のそういった気持ちも露知らず、瞬はちゃっちゃと頼まれたブツを手際よく買い物カゴに突うづるっこんでいく。唯は瞬を時折おちょくったり、隙を見ては菓子類を瞬のカゴに突っ込んではやり返されたりしている。そんな兄とその幼馴染みの姿を背後で見守る湖森がぽつり。

 

「もうちょっと分かりやすくイチャつかないものか……」

「湖森、なんか言ったか?」

「いやいや、何も言ってませんがな。ねえ志村」

「なんでこっちにフってくるのさ⁉︎」

 

 おっと、願望が漏れていたようだ。湖森はなんとか志村に押しつけて誤魔化しを図る。苛んだなぁ志村くん。

 そうしてるうちに、なんだかんだで会計も終え、スーパーを出ようとする。しかし、

 

「あいてっ」

 

 店を出ようとしたその時、後ろからなにか慌てた様子の、フードを目深く被った男が瞬にぶつかっていった。どこ見て歩いてるんだ、と内心苛ついた彼だったが、直後に店員らしきおばちゃんが血相を変えて叫んだ。

 

「万引きよぉおおお!オッペケペンムッキー!」

「万引き……?もしかしてさっきの?」

 

 人の少なかった店内が騒然としだし、咄嗟に高校生くらいの店員が万引き犯の後を追うように走り出す。

 

「今日は厄日か?」

「厄日って……?」

「とにかく今日はツイてないってことだよ」

 

 万引き犯は店の敷地を飛び出し、敷地沿いにある坂道を登っていく。瞬達のいるスーパーの建物の入口付近からもよく見える。万引き犯は意外と逃げ足が速く、このままだと坂の頂上にある踏切を使って撒かれるかもしれない。

 その様子を見ていた唯は、おもむろに瞬に自身の買い物袋を押し付けると、

 

「瞬、ちょっと荷物お願い」

「え、ちょいまさかお前」

 

 瞬の制止も聞かずに、万引き犯を追いかけ始めた。常日頃から、運動神経に自信があると豪語するだけあって、めちゃくちゃ速い。ぐんぐんと瞬達との距離を引き離していく。

 

「またこのパターンかよ!ああもう!湖森、荷物頼む!俺も唯を追いかけるから!」

 

 昼間の食堂での事を思い出して、悪態をつきながらも、唯を心配した瞬は彼女を追うことにした。湖森に二人分の荷物を託し、唯を追いかける瞬。

 一方、万引き犯の目の前にはでかい踏切。そこに差し掛かると同時に、踏切が鳴り始め、遮断機が動き出す。チャンスだ、と思いながら、

万引き犯は踏切を急いで駆け抜けようとする。が。

 

「逃さないぞ、悪人め」

 

 それを遮るかのように、フードを目深くかぶった男が万引き犯の前に立ち塞がる。

 

「邪魔だどけっ!」

「断る」

 

 そうこうしているうちに、遮断機が降り切ってしまった。踏切で撒こうとしたのに、これでは失敗だ。捕まってしまう。

 

「丁度よかった。そいつを捕らえてください!」

 

 そこに、追ってきた店員が万引き犯に追いついてくる。一本道で挟み撃ち。更に片方は踏切で塞がっている。万引き犯にとっては万事休す。

 ところが、ここで予想外の事態になる。

 

「そんなんじゃ生温いんだ。悪人には、こうしなきゃ」

《KAKUSEI……BUILD!》

 

 そう言うと、男の身体の至る所にジッパーが現れ、まるで着ぐるみを脱いでいくかのようにジッパーが開いていく。同時に、黒ずんだ煙が男の全身を包み込んでいき、その煙の中から赤と青の瞳が不気味に輝く。

 

「は……え?」

 

 呆然と立ち尽くす万引き犯の目の前に、変身を完了した男が立ち塞がる。彼は知る由もないが、その姿は、昼間に瞬達の学校に現れたオリジオンであった。

 

「うわあああああ!」

 

 店員はオリジオンに驚いて一目散に逃げていく。それを尻目に、万引き犯に対し、淡々とオリジオンは告げる。

 

「許さない。お前は罪を犯した」

「な、なんだお前!化け物!」

「俺は正義の味方……愛と平和のために、悪事を働いたお前に制裁をくださなければならない」

「ゆ、許してくれ!ほんの出来心……遊びだったんだよ!」

 

 この男、反省していなかった。

 たった一度、たった100円の万引きだろうと、店側からしたら大損害なのは変わらない。最悪の場合は廃業まで追い込まれてしまうことだってあるのだ。それに万引きも窃盗と同じ、犯罪である。謝って済む話ではないのだが、彼は愚かすぎた。

 オリジオンは万引き犯の態度に失望したかのようなそぶりをみせると、彼の首に手をかける。

 

「反省しないなら、その命をもらう」

 

 そう言うと首にかけた手に力をこめ、彼の首を絞め出した。万引き犯は苦しさからもがきだすが、手は緩められることはない。

 そこへ、少し遅れて瞬と唯が追いついた。

 

「あれは昼間の!」

「なっ……」

「あっ……がばぎがあが……」

 

 首を絞められた万引き犯の顔からだんだんと生気が抜けていく。このままでは彼は死ぬだろう。幾ら犯罪者といえど、命を奪っていい理由にはならない。そんなものはただの私刑、法律的にも人道的にも許されるものではない。

 

「何やってんだお前っ!」

「離せ!邪魔をするな!」

 

 瞬は、万引き犯の首にかけられたオリジオンの手をなんとか剥がそうとするが、逆に蹴り飛ばされてガードレールに打ち付けられる。

 

「邪魔をするな……邪魔をするんじゃない!」

「いいやするね!変身!」

 

《CROSS OVER!思いを、力を、全てを繋げ!仮面ライダーアクロス!》

 

 アクロスに変身し、オリジオンの顔面を殴り飛ばす。万引き犯はすんでのところで解放され、その場に崩れ落ちる。アクロスはオリジオンを万引き犯から引き離して、オリジオンを強く突き飛ばす。

 そこに、遅れてやってきた志村と湖森。志村は、アクロスに変身して戦う瞬をみて驚き、持っていた荷物をその場に落としてしまう。

 

「なっ……なんだあれ」

「お兄ちゃん……また、戦うんだね」

「あれは一体……なんだ?」

 

 呆然とする志村の視界の先で、アクロスとオリジオンは戦う。オリジオンはアクロスの顔面や鳩尾などを重点的に狙い、手っ取り早くアクロスをダウンさせようとするが、アクロスはそれを見事に防ぎ、カウンターパンチをお見舞いする。

 反撃を受けて地面を転がったオリジオンは、立ち上がりながら瞬を糾弾する。

 

「そいつは犯罪者なんだぞ!悪人を庇う気か⁉︎」

「だからって殺す事はないだろ⁉︎ そんなことをすればお前も悪人になってしまうんじゃないのか?」

 

 両者は再び接近し、殴り合いをはじめる。オリジオンのチョップを瞬が片腕で打ち払い、腹パンでオリジオンの動きを止める。前回の赤龍帝よりは攻撃が痛くないためか、はたまたアクロスも戦いの経験を少しは重ねてきたからか、アクロスの方が若干優勢の模様。

 顔面を殴られてのけぞったオリジオンは、握った拳を震わせながら、怒りのこもった声で反論する。

 

「……そんな筈は無い。だって僕は正しいことをしている。不義に怒り、正義を愛するのは正しいことじゃないのか?悪を殺す事の何が悪い?お前はヒーローの癖になんでそう思わないんだ?」

 

 オリジオンに問いかけに、アクロスは一瞬戸惑いながらも、力強く反論する。

 

「それを正当化してしまえば、人の命なんか今よりずっと軽いモノになってしまう!それはダメだ!」

 

 理想論だとは分かっている。だが、それでも正義を盾になんでもしていい、なんて道理が通らないのを瞬は知ってる。フィクションでも、時たま似たような事が叫ばれるのも、彼は知っている。故に否定する。

 しかし、オリジオンの方は、その答えがよっぽど耐えがたいものだったのか、その身を震わせながらボソリと呟く。

 

「……お前なんかが」

 

 ガシリと、瞬の拳を掴み取る。

 

「お前なんかがっ!正義のヒーローを語るなっ!」

 

 そのままアクロスの拳を払い除け、驚異的な跳躍をみせた。10階建てのビルほどの高さまで飛び上がったオリジオンは、そのまま落下しながらキックの体勢を取り始めた。飛び蹴りだ。

 すかさず、アクロスは専用武装・ツインズバスターを取り出し、アクロスライドアーツをその柄に差し込む。

 

⦅CROSS BRAKE⦆

 

 斬撃と蹴り。両者の必殺の一撃が激しくぶつかり合う。しかし、

 

「はぁああああああっ!」

「があああああああっ!」

 

 惜しくも力及ばず、オリジオンに軍配が上がった。急降下で威力の増した飛び蹴りを受け、アクロスは背中を地面に打ちつけられる。そのままオリジオンはアクロスを押し倒し、馬乗りの体制となる。ツインズバスターは手から落ち、唯達の方へと転がっていく。

 

「僕は正義だ……愛と平和の為に戦う、正義の味方だ!」

 

 自分が正しい。自分が正義だと、まるで自分に言い聞かせるように叫び続けながら、アクロスに馬乗りになって顔面を殴りつけるオリジオン。万事休す —— と、思われたが。

 

「はあああああああああああ!」

 

 なんと、戦いを見ていた唯が、落ちてたツインズバスターを拾って駆け出した。志村や湖森は当然静止するが、もう遅い。

 

「んにゃろ……瞬から離れなさいっ!」

「馬鹿お前何無茶苦茶を —— 」

 

 アクロスの静止も聞かずに、唯はツインズバスターでオリジオンの無防備な背中を思い切りぶった斬った。不意撃ちは見事に決まり、モロに攻撃を受けたオリジオンはアクロスの上から崩れ落ちる。拘束の緩んだその隙に、瞬はオリジオンを蹴飛ばして体勢を立て直す。

 なんとか体勢を立て直したアクロスは、唯からツインズバスターを受け取ると、

 

「無茶してんじゃねぇ!危ないから離れろ!」

「無茶してるのはそっちの方じゃないか!それにナイスアシストだったでしょ、今の!」

「それはそうだけど……ともかく、危ないから、唯は手を出さないでほしい。お前が傷つくのは、許せないから」

 

 助かったのは事実だが、流石に唯の危険な行動は咎めるアクロス。唯が素直に引き下がると、アクロスは立ち上がってくるオリジオンを見据える。

 

「君たちも結局は、善人のふりをしたクズか。不義に怒り、正義を愛する。それが人間としての正しさだ。それ以外に正解はない。邪魔する奴は悪だ!滅する! 」

 

 オリジオンは怒り心頭のようだが、ここで瞬が何かに引っかかるような気分になる。今の台詞、どこかで聞いたような ——

 

《ヒッサーツッ! フルスロットル!》

 

 その時、唐突に割り込んでくる音声。予想外の事態に両者は困惑するも、次の瞬間、何者かの飛び蹴りが割り込んできて、ぶち当たったオリジオンが横に大きく吹っ飛んだ。

 

「せやぁっ!」

「なっ⁉︎ 」

 

 そこにいたのは、銀色の仮面ライダーだった。紫がかったラインがところどころにあり、複眼はオレンジ色に発光し、手にはでかい斧を携えている。

 

「……オリジオン、お前を狩りにきた」

 

 聞き覚えのある加工音声に、瞬はある可能性に思い至る。

 

「まさか……またお前か⁉︎ 」

「はぁ……それは此方の台詞なんだがなぁ」

 

 なんかやたらとアクロスを敵視している転生者狩り、とかいう奴だ。正体は不明だが、またまた戦いに乱入してきた模様。

 

「懲りない奴だな。まだ戦場に立つ気概があるのか……正義感ってやつはこれだから厄介なんだ」

 

 相変わらず、アクロスを嘲るような台詞を吐いてくる転生者狩り。前とはまた違う姿だが、一体いくつの姿をもっているのだろうか。そんなアクロスの疑問をよそに、銀の仮面ライダー —— チェイサーに変身している彼は、歩行者用信号を象った斧をオリジオンに突きつけると、

 

「だが、お前は後回しだ。まずはその転生者を片付ける!」

 

 そのままオリジオンをぶった切った。火花を散らしながら、オリジオンは吹っ飛んで地面に叩きつけられる。

 

(助けてくれた……だと?)

 

 何故かよく分からないが、どうやら今のところ、彼とアクロスの倒すべき敵は同じらしい。それならば、と瞬も加勢しようとするが、

 

「勘違いするな。そして邪魔をするな。これは俺の仕事だ。素人は引っ込んでろ —— 決めてやる!」

 

 思い切り拒否られた。まあそうだよな、そんな甘い話あるわけ無いよな!とアクロスは思うが、それでも見ているだけという訳にはいかない。共闘を拒否するチェイサーを無視し、ツインズバスターを構える。

 一方、オリジオンも立ち上がり、身構える。

 その時。

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 唐突に、再び戦いに割り込まれた。今度は何だと思いながら、声のした方を見る一同。そこには、ベージュ色のコートを着た青年と、青いスタジャンを着た茶髪の青年がいた。彼らはオリジオンを見るなり、ヒソヒソと話し始める。

 

「噂は本当だったのか……てかあれ、明らかにアレだよな?」

「ネガティブキャンペーンは遠慮願いたいんだけどな……明らかに似せる気ないだろアレ」

「アンタらは一体……」

「ああそうだ、ここは俺達に任せろ。これは俺達がやるべき事、だからな」

 

 コートの青年はそう言うと、さもこのような状況に慣れているかのような様子で、オリジオンとアクロスの間に割って入る。そして、懐から赤いレバーの付いたバックルのようなものと、赤と青の小さなボトルらしき物体を取り出す。

 

「アンタ……それは……! 」

「さあ、実験を始めようか」

 

 両手にひとつずつ持ったボトルを数回振り、バックルに填める。

 

《ラビット!タンク!ベストマッチ!》

 

 ベルトからやけにテンションの高い音声が聞こえたかと思うと、青年は続いて右側面に付いているレバーを回し始める。すると、ボトルから赤と青、2色のパイプが伸び、プラモデルのランナーのような型が彼の周囲に形成される。パイプの中には、瞬達には何かよくわからないものが通っており、先には人型のスーツを前後に真っ二つにしたような型がくっついている。

 

《Are you ready?》

「変身!」

 

 電子音声と変身の掛け声の直後、形成された型が地面のスタンドに沿ってスライドし、激しく蒸気を吹き出しながら、男はスーツを身につける。

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!yeah!》

 

そこに居たのは、赤と青の装甲を身につけた仮面の戦士。その姿は、どことなくアクロスに近いものが感じられる。

 そいつは、仮面の下で不敵な笑みを浮かべながらこう言った。

 

 

「勝利の法則は、決まった!」

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。まさかまさかの回です。一応は本編後をイメージしていますが、本編くらいしか把握出来てないので色々齟齬があります。


変身シーンの表現はアニヲタwikiを参考にしながら書きましたが、かなり苦戦しましたよ。仮面ライダーの変身シークエンスを文章で書くとか頭おかしなるで。

ライダーのVシネマは一度も見たことないんだ、許せ。
尺の都合上、彼らの顔見せくらいまでしか出来ませんでしたが、そこは後半にお任せー。それではまた次回。良いお年を。


次回 継承のベストマッチ
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