【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

16 / 56
 はい。ようやく艦これ編です。
 一部の艦娘が木っ端微塵レベルでキャラ崩壊炸裂します。オリジナル設定ぽんすかでます。ギャグ一直線だから細かいことは気にしない方がいいぞ。
 艦これについては公式のノベライズくらいしか手を出せてませんのでご了承ください。ソシャゲ5つも掛け持ちしてるのでゲームの方は時間的に手が出せませんよ。アズレンはやってるんだけども。


ビルドオリジオンの騒動から一週間後。アラタに誘われ、アラタの知り合いの提督がいるという隣町の鎮守府にやってきた瞬達。そこは想像を絶するカオス空間であった……あるのか?


第16話 戦艦少女の園

 人類に仇なす深海棲艦が海を支配してから早十年。

 深海棈鬼に対抗しうる唯一の存在。それが、人間に軍艦の力を融合させた艦娘であった。

 

 

 

 

 

4月も残り1週間。戦いの始まった当初と比べると、随分と平和になった海。かつては世界各地のシーレーンは壊滅的な被害を被っていたが、艦娘と彼女らを指揮する提督達の手により、かなり持ち直してきていた。昔ほどではないが、今では艦娘の護衛付きで海上輸送も活発になりつつあった。

 海の脅威との戦いは、徐々に日常の一部へと溶け込み始めていた。そんな世界の、あるひとつの鎮守府から物語は始まる。

 

 

 

4月23日(日) AM10:00

 

「またいない……」

 

 駆逐艦・吹雪は執務室に入るなり肩を落とした。

 時刻はヒトマルマルマル。真っ当な人間や艦娘はとっくに活動を始めている時間であるのだが、彼女ら艦娘を指揮する、この鎮守府の提督の姿が見当たらない。

 野暮用で席を少し外したらコレだ。彼女の上官たる提督は、若干押しに弱いところがあるので、押しの強い艦娘の我儘に付き合わされているのであろう。あの時以来、こういう事が多くなってる。

 

(コレはあのパターンかな。面倒くさいけど、仕事はしてくれなきゃ困るし……もう少し軍人としての自覚をもってよもう)

 

 経験則からそう推測した吹雪は、愚痴を溢しながら鎮守府内を探すことにした。吹雪もあまり自分も人の事は言えないが、平和にかまけて少々弛みすぎてるのではないかと思いながら、階段を下ってゆく。

 階段を降り切ったその時、吹雪の真上から声が降ってきた。

 

「ブッキー!ちょい避けて!」

「なんでぶはぁ⁉︎ 」

 

 言われるがまま避けようとした次の瞬間、吹雪の目の前に誰かが上から飛び降りて来た。驚いて盛大に尻餅をつく吹雪。パンモロしているが生憎それに喜ぶ者は今この場にいない。

 吹雪は自分の目の前に現れた人物を見上げる。軽巡洋艦・川内。この鎮守府のエース艦娘の1人にして、問題児の1人。吹雪よりも少し年上のその少女は、2階から階段の吹き抜けを直で飛び降りてきたのだ。

 綺麗に着地を決め、大きな欠伸をしながら肩をほぐす川内。朝が弱い彼女にとって、午前10時はまだ早い感覚なのだ。

 

「……川内さん。吹き抜けを飛び降りないでください」

 

 またですか、といった感じに呆れる吹雪。川内と呼ばれたこの少女はいつもこんな感じらしい。

 

「だってこっちの方が早いし、私怪我しないし。眠気覚ましにちょうどいいんだよね」

「確かに貴女の運動神経は常軌を逸したレベルですけど、駆逐艦の子が真似したらどうするんですか?」

「しないでしょ。この鎮守府の駆逐艦の皆、まともだし」

 

 他がまともじゃ無いみたいに言うな。そして言い訳の体を成していない言い訳をするな。駆逐艦の艦娘にとって、巡洋艦や戦艦の皆さんは憧れの対象なのだから、少しくらい意識してほしいものだ。こういう良くも悪くも自由な所が川内の特徴なのであるが。

 立ち上がって事情を説明する吹雪。川内は少し考えた後、

 

「提督探してるんだよね?なら、神通のとこじゃない?」

「あーそうですか……今の時間帯は暇でしたしね、神通さん」

 

 川内の妹・神通の所にいるのでは、と予想を立てる。吹雪もそれに納得するが、2人ともどこか面倒くさそうな顔になっている。

 しかし行かなければならない。提督に仕事させなければならないのだなら。そういうわけで着いたのは神通の部屋。

 なんか扉の向こうでギッタンバッタンと喧しい音が聞こえてくるんですけど。絶対厄介なことになってるよねこれ。川内と吹雪は顔を見合わせるが、上司のケツを引っ叩いて動かすのも部下の役目だと覚悟を決め、ドアノブに手をかける。

 扉の先には、こんな光景が広がっていた。

 

「さあ提督!これを!これを着るのです!」

「やだよ!俺にも一応まだ男としてのプライド残ってるもん!バニースーツなんてやだよ!てか俺じゃなくて他の奴にやれよ!多分五航戦とかその辺需要あると思うから!」

「いや部下を売っちゃダメだよ……でも五航戦バニーは確かに需要あるかも」

 

 バニースーツ片手にどったんバッタン暴れる川内型軽巡洋艦弍番艦・神通と、彼女から逃げる川内達とそう年の変わらない見た目をした白い軍服姿の少女と、その様子を部屋に備え付けられた二段ベッドの上で体育座りになって死んだ目で見ている参番艦・那珂。正直言って文章で書くにはあまりにもカオスな状況が広がっていた。

 しかし川内と吹雪はこれに慣れているのか、またか、と言った感じに軽く溜息をつくと、目の前を通り過ぎようとしていた神通の首根っこを掴んで事実の説明を要求する。

 

「神通……?少しは節度とかそーゆーのを持って欲しいなぁと私は常日頃から思ってるわけなんですけど、これは一体?」

「川内姉さんが駄目なら提督でやるしか無いじゃない!普段怠けて私のセッティングした訓練メニューを適当にやってるんですから、今くらいは私の言う通りにしてくれたって構わないですよね⁉︎ 」

「お前部下、俺が上司。アンダスタン?」

「軽く30分近くこの地獄に身を置かされてる那珂ちゃんの気持ちを誰か労ってくれないかなぁ」

 

 神通から逃れるように吹雪にしがみつく少女と、色々と諦めたような遠い目をする那珂。興奮状態の神通を羽交い締めにしながら、どうてこんな方向に拗らせちゃったかなぁ、と妹と同じように遠い目をする川内。

 この鎮守府の神通、普段は厳しく面倒見のいい軽巡、しかし川内関連になるとクソレズに大変身を遂げてしまうという悪癖があるのだ。川内の記憶が確かなら、少なくとも艦娘になった直後はこんな感じじゃなかったと思う。神通は過去に色々あって艦娘人生存続の危機レベルに陥り、それを川内と新人だったこの鎮守府の提督が頑張って立ち直らせたのだが、多分それが原因だと思われる。

 軍服姿の少女は神通に取り押さえられながら、吹雪に助けを求めて手を伸ばしてくる。なんか見ていて可哀想になってくる必死さだ。

 

「助けてブッキー!貞操の危機だよ危機!俺こんな形でハジメテを奪われるなんて嫌やで!」

「無理です。今の神通さんはガチです。キラキラしてますもん月光蝶……じゃなかった、絶好調ですよ」

「提督よ犠牲になれ」

 

 お手上げ状態の吹雪と、残酷な天使の○○○のリズムで少女を身代わりにしようとする川内。この薄情者ぉ!と少女が叫ぶが、神通は構わず少女に抱きついてハアハアハスハスとやべー音を出しまくる。

 

「知ってますか提督、ドラえもんにも不可能はあるんですよ。私の欲望を満たすための犠牲になっていただけませんでしょうか。此方は日々の仕事で色々溜まるんですよ」

「溜まるって何⁉︎ ストレス以外も含んでないそれ⁉︎ てか上手くねえんだよ!頼むから仕事してて仕事!貴女の有能さは理解してるから俺を人形代わりにしないでぇ!」

 

 涙目で神通に懇願する少女だったが、ここでとうとう川内が屈してしまう。

 

「ねえ提督。いい加減諦めたら?これじゃいつまで経っても仕事始められないし、そもそも今日はお客さんがくるんでしょ?ならさっさと神通のオモチャにでもなっちゃいなよ」

「川内いいいいい!お前の妹だろなんとかしてくれ!」

「どうにもならないのは提督もよく分かってるでしょ。那珂ちゃん関わりたく無いから、バイバイ」

 

 普段の明るさは何処へやら、色々と諦めたような言動の那珂は死んだ魚のような目のまま逃げるように部屋を出て行ってしまった。アイドルにあんな目をさせるなんて酷いヤツだ。ファン辞めます。

 川内の無責任な発言により、この場は神通の勝利となった。吹雪はもう呆れて何も言えなくなっている。なんて酷い有り様なんでしょう。バニースーツを手に取った少女は、顔を赤くしながら神通にあらかじめ釘を刺す。

 

「……着るだけだぞ。ほんとに着るだけだからな!仕事立て込んでんだからな!」

「ええ分かってます。写真だけ撮らせていただいて、続きは夜に致しましょう」

「後で川内にもやっちゃいなよ。そん時は強力するから」

「提督ひっどーい!」

「私が言うのもアレなんですが、見捨てた川内さんが悪いかと……」

 

 

 

 

 これが、舞網鎮守府の騒々しい日常の一幕。今回のプロローグもとい蛇足。

 艦隊を率いる提督は、潮原東吾。

 ()()()()()()()()()()()()である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 正午

 

 隣町・舞網市。デュエルに関した技術が突出して高いデュエルの街 —— という事実は今回はほぼ関係ないが —— その郊外。

 

「つーわけで、今日は知り合いの提督に掛け合って此処、舞網鎮守府に遊びに……じゃなくて見学にきました」

「いえええええええええええええええええええい‼︎ 」

 

 初っ端から典型的なYouTuberみたいなノリをしてるアラタと唯。今彼らの背後には、赤い煉瓦造りの建物がある。それが、この舞網市に設立された軍の施設 —— 鎮守府であった。その入り口前ではしゃいでいる2人に対し、若干困惑気味の瞬は、当然湧いてきそうな質問をする。

 

「軍事施設に遊びに行っていいんか」

「鎮守府は定期的に一般開放されるからな。考えてみろ、年頃の女の子達を戦場に立たせてる海軍がどんな目で見られるのかを。めっちゃ冷たいからな?八甲田山レベルだからな?」

「例えわからないけど、とりあえずすべってるぞ」

 

 アラタの話によると、艦娘という存在が世に出てから10年くらい経っているにもかかわらず、未だに艦娘への否定的な意見は根強く、中には女性差別だとか仰って政府をボコスカお殴りになる女性人権意識の高い方々や、そもそも艦娘使うくらいなら死んだ方がマシと言い出すやべー奴までいるらしく、イメージアップを兼ねて、定期的な一般向けイベントを行なってオープンな環境作りに努めているらしい。

 一応軍事施設なので見せちゃまずい場所も多々あるのだが、こうしてオープンな環境にする事で、鎮守府側も後ろ暗い事が出来ないようにするという一面もある。

 

「姉貴はさ、艦娘のメンタルケアやってるんだ。あれでも元艦娘だからさ、当事者だったからこそ親身になってくれるって

「お前の姉さんを知らないんだが」

「別に知らなくて良いよ。あの人ただの駄目人間だから」

「山風ェ……」

 

 家族に向かって辛辣な事言うなあと思う瞬だったが、自分も大概なので口には出せなかった。それに、来ているのはこれで全員というわけでは無い。

 

「まさか私達まで連れていって貰えるなんてねぇ。あたしゃ感謝感激だよ。艦娘見るの初めてなんだよねードキドキしちゃうなー」

「私もなんだよね。艦娘って可愛くて強い子多いから憧れちゃうよねー。ということは、あんな子達に守られてる私達人類ってすごく幸せ者なのでは……?」

「あーはいはい2人ともはしゃがないの。無理やりついてきたんだから少しは自重してよ」

 

 ネプテューヌとヒビキもちゃっかりついて来ていた。現役の艦娘とじかに触れ合えるチャンスだからなのか、かなり強引に参加してきたのだ。彼女らの反応を見るに、子供達にとっても艦娘は憧れの存在のようだ。

 居候その1とその2を宥める妹・湖森を横目に、瞬は鎮守府の建物を仰ぎ見る。これが海の平和を守る最前線。こんな所に来てよかったのかと未だに及び腰な瞬を見て、アラタが呆れたように笑う。

 

「しっかしさあ、逢瀬。俺らの世代にしてはちと無知すぎやしないか。ここら辺は社会科の授業でも定番だぜ?」

「瞬、バカだから」

「お前にだけは言われたくねえよ万年赤点のくせに!」

 

 仕方がないだろう。瞬がアクロスに変身したあの日、世界は変わった。今まで無かったものがさぞ当然のように日常に浸透する。いうなれば、いきなり見知らぬ世界に飛ばされたも同然なのだ。昨日まで居なかった人が知り合い面してくる様には散々混乱させられてきた。しかし、それを共有できるのは唯のみ。

 艦娘というものも、瞬にとってはあの日以降急に出現してきたものだ。深海棲艦との戦いが始まって10年弱、とか言われてもピンとこない。軍艦の力を宿したオンナノコ、という認識で合ってるのだろうか。

 

「……逢瀬くん、唯ちゃん、僕も来てよかったのかな?」

 

 ここで、おずおずと手をあげる少年が一人。志村である。

 前回の一件の後もなんやかんやで関わり合いが続いた結果、こうしてアラタ達とも関わるようになったのである。なんかキョドッてる志村の背中をバシバシと叩きながら、アラタは笑いかける。

 

「志村、そんな事気にしてたのかよ。大丈夫だっての、友達だろ?」

「ダチのダチはダチだろ!逢瀬の友達なら悪い奴じゃなさそうだしな。宜しくな!」

「あ、はい」

 

 はて、自分はいつの間に野郎にこんな台詞を吐かせるレベルの友好度を築きあげていたのだろうか。互いに握手をするアラタと志村を見ながら首を傾げる瞬であったが、まあ別に不都合があるわけでもないので深く考えるのはやめた。

 そうしているうちに、鎮守府の正面玄関から、艦娘と思しき数人の少女が出てくるのが見える。自分達を迎えに来たのだろうか。そうしているうちに此方に気づいたのか、眼帯付けた紫がかった髪の女性が瞬達の元にやって来た。

 

「ようお前らか!アラタのダチってのは。俺は天龍、一応オメーらを案内する役を任されてるんだ。今日一日宜しくな」

 

 そう名乗りながら、握手の手を差し出してくる艦娘・天龍。こうして艤装を付けていない彼女達をみると、完全に瞬達とそう歳の変わらない学生にしか見えない。つくづく不思議な気持ちにさせられるなぁと思いながら、瞬は天龍の握手に応じる。自分と同じ、暖かい手だった。

 と、握手が終わったのを見計らってか、アラタが天龍に喜びながら駆け寄っていく。2人は互いにハイタッチをして、再開を喜び合う。

 

「天龍の姉御ぉ!春休み以来だなー!」

「アラタじゃねーか!おー、元気そうじゃん!またでっかくなったんじゃねえか?」

「天龍も大きくなってるくせに」

 

 そう言うアラタの視線はある一点 —— 天龍のでっかい胸部装甲(意味深)に集中していた。皆のアラタに対する視線がみるみる内に冷たいものに変化していく。そりゃあまあ気にはなるだろうが、少しは取り繕ってほしい。

 

「胸の話はするんじゃねえ。セクハラで訴えるぞゴラ」

「ひっ」

 

 天龍がアラタをキッと睨みつける。その鋭く強い眼力に、向けられたアラタだけでなく、ネプテューヌやヒビキ、山風も身が竦み上がってしまう。瞬や唯も一瞬身震いしてしまったくらいだ。これが戦場に立つ者の凄みというやつなのだろうか。

 が、どうやら天龍自身はそこまで怖がらせるつもりはなかったようで、震えるちびっ子達を慌てて落ち着かせようとあたふたする。そんな彼女の頭に、後ろから軽いチョップが浴びせられる。

 

「いーけないんだー天龍ちゃーん!子供怖がらせちゃ駄目でしょーが!」

「川内さん!」

 

 そこに居たのは川内だった。白いマフラーを風に靡かせながら会釈する彼女の姿は、不思議とかっこよく見える。

 

「別にそんなつもりはなかったんだよ。つーかお前何しにきた訳?訓練中じゃなかったっけ?」

「残念だったな、私は今日昼間は暇なのさっ!」

 

 えへんと威張って答える川内。別に威張ることじゃねーだろ、と愚痴りながら、天龍は自分を怖がっているヒビキを優しく撫でて落ち着かせる。

 大鳳は、元気が有り余ってる川内の姿に、どこか安心したように微笑む。

 

「川内、相変わらず元気ね」

「もうお昼だしね。ようやくエンジンが温まってきたって感じかな?」

 

 こうしてみると、戦場に立っていない、日常の中の艦娘達(かのじょ)は、本当に普通の女の子にしか見えないなぁと改めて思う瞬であった。そんな瞬の視線が気になったのか、天龍が瞬に問いかけてくる。

 

「さっきから気になっていたんだがよ、ずーっと珍しいモノでも見たような顔しやがって、いったいどうしたんだよ?艦娘ぐらい今時の奴らはすっかり見慣れてるってのにさ」

 

 いや見慣れないです。信じがたいです。唯も状況的には同じはずなのにも関わらず、彼女はというと、普通に川内と指相撲をやり出してた。何故そこで指相撲なのかはわからないが、その順応性の高さには見習うものがあるような気がする。

 瞬は、天龍の質問に対し、若干どもりぎみに答える。

 

「ああ、えっと……アンタも艦娘なのか?」

「おうよ。泣く子も黙る天龍サマとはこの俺のことヨォ!」

「あれれ〜?一昨日の鎮守府ホラー映画観賞会でビビってたの誰だったかなぁ?青葉さんにバッチリ映像撮られてたのをお忘れで?」

「あーあれか。瑞鳳と仲良く抱き合って震えてたなーあれ」

「おまっ……よし青葉のヤツとっちめてやらぁ!首をだせぃ!」

 

 よく分からないが、青葉さんとやらに合掌。

 しかしこのままではいつまで経っても話が進まないので、最後の一人の自己紹介に移らせてもらおう。天龍、川内と一緒に来ていたもう一人の艦娘の紹介がまだだったのだ。

 

「どーも皆さん!秘書艦の吹雪です!皆さんの案内その他諸々を担当させていただきます!」

 

 山風と同い年くらいのセーラー服を着た少女が、元気いっぱいの挨拶で瞬達を出迎える。こんな小さな女の子に海の平和が守られていたという事実に、瞬は未だに半信半疑であった。

 いよいよ瞬達は鎮守府に足を踏み入れる。海が近いからか、吹き付ける風に潮の匂いが、鼻をくすぐってくる。少し進んだ先に、鎮守府の建物入口が見えて来た。アラタが事務室窓口で手続きを済ませると、一同はロビーに案内された。内部は豪華というわけではないのだが、掃除の行き届いた小綺麗な内装だ。

 全員がいることを確認すると、吹雪は注意事項を口頭で確認する。

 

「一応ここも軍事施設なので、機密保持のための立ち入り禁止区間とかありますから、入っちゃダメですよ?私も司令官も、できれば皆さんを憲兵さんに突き出したくないですし」

「まあブッキーを始め暇な子達があんたらに付くことになるから、そんな事はやらせないよ」

「そうそう。あ、俺はちょっと用事あるから席を外す。また後でな!」

 

 どつやら天龍は用事があるらしく、軽く別れの挨拶を済ませると、瞬達の行先とは反対方向に廊下を走っていってしまった。彼女の後ろ姿を見つめながら、僅かな間だったが、思ったよりも気のいい子でよかったと思う瞬であった。

 吹雪と川内の後に皆がついていく。すれ違う艦娘達が、不思議なものを見るような目を此方に向けてくる。まあ軍人ならともかく、一介の学生がいるような場所じゃないから当然の反応なのだが。彼女らの反応を見るたびに、なんだか自分がいけないことをしているみたいでどうしようもなく不安な気持ちになってくる。

 

「積もる話はあるだろうけど、まずは提督にご挨拶しなきゃね」

「あー、そうだな……どう説明しようか?」

「わかるわかる。なんかあの人色々とあるからさぁ、説明しづらいんだよね」

 

 アラタと艦娘達の間でなんか勝手に話が進んでいるのだが、一体何をそんなにヒソヒソと話しているのだろうか。目の前で内緒話されると無性に不安になるのだが。

 そうこうしているうちに、提督のいるであろう司令室についた。一同の目の前には、でかい両開きの扉が鎮座している。

 

「皆さんは中に入らないようにお願いします。執務室には軍の機密文書とかが沢山ありますからね。司令官を呼んでくるだけですからすぐ済みます。隣の貴賓室で待ってても構いませんよ」

 

 そう言ってから、吹雪は壁の認証装置に手持ちのカードキーをタッチてロックを解除し、軽くノックしてから司令室の扉を開ける。何やら慌てたような声が聞こえてくるような ——

 

「司令官、皆さん来ましたよー」

「あーちょっと待ってまだ着替え終わってn」

 

 声の主が言い終わる前に、吹雪が扉を開けてしまった。絨毯が敷かれた綺麗な部屋。部屋の奥のでかい窓からは、綺麗な水平線が映っている。その中間地点。

 

 

 

 バニースーツに軍服の上だけを羽織った、変態チックな服装の少女がいた。

 

 

 

 

「……」

 

 無言で扉を閉める吹雪。そのまま瞬達の方を振り返る。

 —— ナニモミマセンデシタネ?

 張り付けられたお面のような無言の笑顔は、そう言ってるように見えた。皆それを察したのか、無言でこくこくと頷く。吹雪はその反応に安心したように笑顔を解くと、呆れたような顔になって紹介する。

 

「彼がここの提督、潮原東吾(しおばらとうご)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 矛盾を孕んだ存在が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 執務室の隣にある貴賓室にて、みんなはテーブルを囲んでいた。

 ちなみに提督と紹介された少女は、着替える時間がなかったのか、結局バニースーツの上に軍服を着るという、かなりエッチでニッチな格好になっている事は瞬達は知らない。

 

「久しぶりっすね提督さん。前にウチに来たのって確か春休み前でしたっけ」

「そんぐらいだったなーうん」

「色々ありすぎて結構前のことのように思えてしまうな」

 

 潮原提督とアラタは、2人して春休みの思い出にふけっている。お願いだから自分達の世界にトリップせずに帰って来てくれ。それぞれ吹雪と大鳳に肩を揺さぶられ、現実世界に帰還する。

 潮原提督は、帽子を被り直すと、自己紹介をする。

 

「さっきはとんだ醜態を晒してしまって申し訳ない。改めて自己紹介を。俺がここ、鯛網鎮守府提督の潮原東吾だ。今日は特別に、君達に我が鎮守府の見学を許可しようと思う。よく来てくれたな」

 

 見た目は瞬達とそう歳の変わらない少女がコスプレしているようにしか見えないのだが、その僅かな立ち振る舞いに、彼女の、提督として色々と背負っていることを示す気迫が伝わってくる。

 ……と思いきや、何やら川内や吹雪とヒソヒソ話を始めた。さっきの気迫はなんだったんだ。

 

(提督、さっきのなんなのさ!まだ着替え終わってなかったの⁉︎ )

(仕方ねーだろ!ラバーがぴっちりすぎて脱ぎづらかったんだよ。男の俺がバニースーツなんて着たことも脱いだこともないことぐらいわかるだろ!)

(で、着替える暇なく上に直接軍服着たわけですか。バレたらどうするんですか)

 

 元はと言えば提督にバニースーツを着せようとした神通が悪いのだが、いくら愚痴っても事態は進展しない。隠し通すしかない。

 

「……あの、ちょっといいですか」

「なんだ少年」

「あの、さっき吹雪が言ってたのって本当なんですか?俺よく分かんないんですけど、男性って普通は艦娘には成れないものなんですか?」

「そうだよ(肯定)。幾ら研究しても何故か女性しか艦娘になれないんだ。本当は年頃の女の子を戦わせるなんて真似、したく無いんだけどな」

 

 瞬の質問に対し、あっさりと肯定する提督。そりゃあ、艦“娘”と言われてるのだから、男がなるのはどうかと思う。同人界隈には男性艦娘時空といったニッチなジャンルもあるにはあるのだが、この世界ではそういった実例はないらしい。目の前の一例を除いて。

 しかし、目の前の彼女(と言っていいのかはよく分からないが、少なくとも生物学的には合ってる)の姿はというと、先程出会った川内という少女に瓜二つなのだ。潮原提督の方は髪を結んでおらず、川内型の制服ではなく、一般的な提督が着る白い軍服であるのだが、逆に言えば、服装以外で見分ける術はないと言えよう。面倒臭いったらありゃしない。

 

「色々あって艦娘・川内になって早3年。戻るあてもないんで法律上も女性になってしまいました」

 

 しみじみと何かを懐かしむようにおっしゃる提督さん。いやまて、この人色々濃くない?この人メインで一作品ほど作れない?色々と苦労してたんだな……という感じの雰囲気が滲み出てやがる。

 

「今日はすいません。忙しいのに俺達の申し出を受け入れてくれるなんて」

「アラタの姉さんには世話になりっぱなしだから。お安い御用よ。友達の皆も、俺達に質問とかあったらバンバンしてくれ。こたえるぜ」

「はい質問!川内さん、自分と同じ姿の上司って正直言ってどうなんですかね……?やっぱり気色悪いですか?」

 

 唯が川内にかなり失礼な質問をかます。確かに気にはなるけれども、当人の目の前でそんな質問するんじゃない。彼女のデリケートな質問に当の本人はというと、少し考えてから一言。

 

「まあ今でも気色悪いね。同一艦が同じ鎮守府にいると色々と混乱をきたすから、基本的には別所に配属されるんだけど、

「オイ」

 

 分からなくもないが、上官に対して非情過ぎではなかろうか。横に本人居るんだから少しはオブラートに包んでやるなりしろ。

 

「私は提督がこうなる前から一緒にやってきてるけど、当初はガチで嫌だったなー。まあ、艦娘になった時点で自分と同じ姿のやつと出会う事は必然的になるからね。そこは避けられないって割り切ってるさ」

 

 言われてみればそうだ。艦娘となれる人間は多けれど、元となる軍艦は限りがある。当然ながら同じ艦になる人だって出てくる。

 

「逆によく割り切れたな……」

「童貞卒業は出来なくなったんだけどな……」

「下ネタ振ってこないでください。反応に困るから」

「要するに留年したんだね。可哀想に、一生童貞なんだ……」

「留年というか中退……?って何言わせんだ馬鹿。やめろ、憐れむんじゃない。俺も亡き相棒思い出して泣けてくるからぁ!」

 

 どこか哀愁漂う雰囲気をだしてく潮原提督。言ってることは分からなくもないけど、女性陣の前でそういった下ネタは控えていただきたい。

 

「慣れればなんとかなるモンだよ。いざって時は俺自身が出撃できるし」

「するんですか?」

「あーでも余程のことが無い限り出ないぞ?指揮官が戦線に出るとか馬鹿そのものだからな。一応、一通り自分でできるように訓練はさせられたけどな」

 

 潮原提督の返答に対し、へえー、と感心するように頷く唯。分かったような素振りだが、本当に分かっているのだろうか?甚だ疑問に感じてしまう瞬であった。

 そのとき、貴賓室の扉がノックされる。提督が声を掛けると扉が開き、2人の艦娘の姿が現れる。

 

「あら、もういらしてたんですね」

「何よ、アンタらも来てたの」

「あっ瑞鶴さんに神通さん。珍しい組み合わせですね」

 

 川内と似たような制服に身を包んだ、若干茶色ががった髪の少女と、弓道着姿のツインテールの少女が入って来た。どうやら潮原提督に用があるらしい。軽巡洋艦・神通と正規空母・瑞鶴である。それにしてもかなり珍しい組み合わせである。

 

「偶々よ偶々。ほら、駆逐艦の子から預かった哨戒の報告書。本日も異常無し、近頃はホント平和よねーまったく」

「船舶護衛任務から帰投した木曾さん達から任務完了の報告を受けて知らせに来たんです。あ、皆さんようこそ。お茶をお淹れしますね」

 

 神通は報告を済ませると、給湯器のお湯を急須に注いで温かい緑茶を淹れる。瑞鶴の方は特に何かするわけでもなく、アラタ達と駄弁っている。それにしても現役の軍人や艦娘と面識ある男子高校生っていったい何なんだ……と、瞬と唯の中でアラタの人脈のについての謎が生まれるのであった。

 一方、お茶出しをする神通を見ながら、潮原提督と川内は先程の光景を思い返していた。川内に変態行為をかまそうとしてたさっきのと、業務に真摯に取り組む今の彼女がどうしても結びつかないのだ。長年の付き合いでもこれだけは無理だった。

 

(オンオフの切り替えやべーよなアイツ……実はこの鎮守府、神通が2人いるなんて事はないよな?)

(それはない。ノックスの十戒に誓おう。そもそもあんた提督なんだからそれくらい把握してるでしょ)

(十戒に誓う必要ないだろ。お前どこのミステリー作家だよこの体育会系!)

 

 なんか神通をチラチラ見ながら潮原提督と川内がヒソヒソ話をしているが、アレはなんなのだろう。吹雪も呆れて苦笑いしてるじゃないか。

 瞬はふと、壁にかけられていた時計を見る。時刻はすでに正午を回っている。それに気づいた途端、急にお腹が空いてきたように思えてきた。実際、唯のお腹はさっきからちょくちょく鳴っている。ここでだいぶダレてきた質問コーナーを神通が素早く切り上げる。

 

「では皆さん、食堂に参りましょうか。そろそろ昼食の時間ですし」

「俺はこれから仕事があるからな。吹雪、昼食の後からは任せるぞ」

「了解しました。吹雪にお任せを!」

 

 吹雪に連れられ、部屋を出て行く一同。部屋には提督だけが残された。

 

「……」

 

 誰もいなくなったのを確認すると、提督は軍服のボタンを外して行く。その下には、ラバー素材でできたバニースーツが蒸れ蒸れになった状態で存在していた。

 —— バレなかった、よな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞網鎮守府 第1港

 

 一晩中かかった遠距離任務を終え、帰投する艦娘達がいた。

 予定外の深海棲艦との戦闘により、かなり帰投が遅くなってしまったものの、なんとか無事に帰還できたのである。

 

「予想以上に帰るの遅くなったね……予定外の交戦あったから艤装も結構ボロボロだよ。たった数体といえど、帰り道に襲われるとは思わなかったなぁ」

「お疲れー。今日の任務はかなり長距離を移動したから、皆疲れただろう?しっかり休んで疲れを取れよ」

 

 護送艦隊の旗艦を務めていた艦娘・木曾が、共に帰投した面々に声をかける。服には一部に焦げ跡のようなものがついており、肌や装備も傷だらけであるが、それでも凛とした態度を崩していない。木曾に続いて上陸した駆逐艦・海風は、陸に上がるなり大きく伸びをする。次いで木曾の姉・大井も上陸。木曾よりも傷ついた

 

「お疲れー。ふう、帰ったら早速ひとっ風呂浴びようかな」

「一晩ぶりのキタガミニウム補給いいすか?」

「大井姉さん、正直言って今のアンタは汗臭いぞ。そんなんじゃ北上姉さんに嫌われるけどいいのか?」

「それは困る」

 

 大井の返答が若干食い気味に聞こえた気がするが、深く突っ込むのは薮蛇だろうとスルーする一同。

 

「身体中バッキバキよ……あーもう深海棲艦の馬鹿野朗お!レディーをこんなにボロボロにするなんて!」

「暁、あんた大破してるんだから大人しくしてなさい。それにしても深海棲艦のやつ、暁を集中狙いしてたけどアレ何だったの?」

「さあな。深海棲艦(ヤツら)の考えることはよく分からないしな」

 

 1人だけやけにボロボロになっている暁は、陽炎に牽引さながらぷんすかと御立腹な様子。この調子だと船渠(ドッグ)送りであろう。そしてレディーは馬鹿野郎なんて汚い言葉は使わないぞ。

 最後に続くのは、陽炎の疑問に対し、さあな、と諦めたように首を振る菊月。ともあれ、今日も全員無事に帰って来たのだ。

 戦闘による被弾などで傷ついた装備を工幣に預け、ついでに大破している暁も船渠に送り届けた後、残った5人はお風呂タイムに入る。人間も艦娘も、こういった休息が士気の高揚やパフォーマンスの維持に必須なのだ。中にはそういったものを軽視して艦娘を酷使するブラック鎮守府という場所もあるらしいのだが、潮原提督に言わせれば「手厚くサポートしなきゃ充分な能力を発揮できないのは人間も兵器も艦娘も同じ。だからブラック鎮守府のやり方は愚の骨頂」らしい。

 船渠の隣にある浴場に向かう一同。戦場で日々深海棲艦相手にドンパチやっている艦娘も、戦いが終われば普通の女の子。どうでもいいような会話をしながら服を脱いでいく。

 

「疲れたなぁ……今頃司令官はアラタ達とワイワイガヤガヤやってるんだろうなぁ」

「風呂から出たら私達も混ざってやりゃあいいのよ」

「その前に昼飯じゃない?私お腹減ってもー大変」

 

 スーパー銭湯のような、幾つかのでかい浴槽が点在する浴場に足を踏み入れる。同時に、白く熱い湯気が、夜通し外にいて冷え切った彼女達の肌を温める。

 

「あぁ〜生き返るわぁ〜。やはり仕事終わりの風呂は最高や」

「口調ごちゃごちゃですよ」

 

 熱い風呂というものは心身の疲れを癒す。

 木曾もあまりの気持ち良さに、普段の男らしい口調が崩れまくっている。この時ばかりは風呂文化の栄える日本に生まれて良かったと思わざるを得ない。

 

「そういや最近、強姦殺人事件が繰り返されてるらしいわね……怖いなーとづまりしなきゃ」

「流石に艦娘を標的にしようなんて馬鹿、そうそう居ないさ。ブラック鎮守府の提督とかなら話は別だけど」

「やめてよ、そんな物騒な話。もっと心が安らぐような話をさぁ」

「なら話を変えましょう。そうだ、今私は海風とあの整備士のお兄さんのイチャラブトークでも聞きたい気分なのよねぇ……海風、率直に訊くけどどこまでいったわけ?」

「わ、私は!べべべ別にあの人とはそーゆー関係では……!」

 

 駆逐艦達のトークに耳を傾けながら、木曾は湯船の中から浴場の天井を仰ぎ見る。今になって疲れがどっと出てしまったようで、次第に瞼が重くなってくる。今日はもう出撃の予定はないので、早く風呂から出て休もうと、浴槽から出るために立ち上がった。

 その時、濡れた木曾の背中に冷たい風が吹き付ける。それに違和感を感じ、木曾が振り返ると、背後の小窓が空いていた。窓のそばにはずっと自分がいたし、他の人は誰も近づいていない。一体誰が、いつの間に開けたのだろうか。木曾は、一番近くにいた大井に訊く。

 

「あれ?誰か窓開けた?」

「いや。木曾じゃないの?」

「そうか」

 

 防犯用に鉄格子がつけられているといえど、浴場の窓が全開なのは保安上あまり宜しくないし、風で身体が冷えてしまう。窓を閉めようと近づこうとした次の瞬間。

 

「……フヒッ」

「そこに居るのは誰だっ!」

 

 窓の外から聞こえてきたキモい笑い声。

 その気持ち悪い声に気付いた木曾は、近くにあった洗面器を開いていた窓にぶつける。洗面器はカコーン! と綺麗な音を立てて窓のアルミサッシにぶつかり、カラカラと音を立てて濡れたタイル張りの床を転がっていく。突然の木曽の行動に、他の艦娘達はビビって微動だにもしなくなり、出しっぱなしのシャワーの音だけが聞こえていた。

 険しい表情の木曽に怯えながら、シャンプーの泡をを頭につけたままの海風が恐る恐る訊いてくる。

 

「あの……木曾センパイ、何があったんですか?」

「覗かれてた」

「ウソッ⁉︎」

 

 その事実に動揺する少女達。対して、木曾と大井は怒りに燃えていた。

 罪なき少女達を辱めようとした不届き者にお灸を据えねばなるまい。指をポキポキと鳴らしながら、裸タオルの木曾と大井は怒りを露わにするのであった。

 

「かなりの猛者ね、鎮守府内でこんなくだらない事するなんて」

「ちょいとばかし、とっちめなきゃならねぇなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「毎度ありがとうございますー」

「間宮さんもお疲れ様!間宮さんと言えば、やっぱりこの特性アイスキャンディーなんだわ!」

「駆逐艦の子達にも人気ですからね。もちろん私も好きですよ!」

 

 書類仕事のある提督と一旦別れ、吹雪と天龍の案内のもと鎮守府内を見て回ることにした瞬達は、間宮の売店で買ったアイスキャンディーを堪能しながら、レクリエーションルームで寛いでいた。

 近くには艦娘用の風呂場があることもあってか、この区画はまるで旅館を思わせるような雰囲気であった。丁度風呂上がりの艦娘達もいるようで、身体からポカポカと湯気を漂わせながら、椅子に腰掛けている瞬達の近くを通り過ぎていく。こうしていると、ここが軍事施設とは思えくなる。

 

「ねえ、ホントに僕達みたいな民間人を入れちゃって良いのかな?首飛ばないよね?憲兵に連れてかれないよね?」

「アポをちゃんと取ってれば敷地内に入れるんだよ。俺がやったんだから安心しろよ」

 

 はっはっはっー!と大笑いするアラタ。そう言われると余計に安心出来ないのは何故なのだろうか。

 ネプテューヌはというと、向かいの遊戯室で艦娘と卓球勝負をしている模様。ただし、ネプテューヌの惨敗のようだが。相手の艦娘のスマッシュが顎にぶち当たって悶絶するネプテューヌの姿に、思わず苦笑するアラタの服の袖を、隣のヒビキが軽く引っ張る。

 

「ねえ、ずっと気になってたんだけど」

「ん、どした」

「大鳳と山風も艦娘なんだよね?なんで鎮守府とかに所属せずに学校行ってるの?」

 

 言われるとたしかに気になる。これまで艦娘についてろくに知らなかったから疑問に思わなかったのだが、2人もかつての日本海軍の軍艦の名を冠している。もしかすると彼女らも艦娘なのだろうか。

 ヒビキの疑問にアラタは言い淀んだようにしばらく無言を貫いていたが、やがて、これくらいなら話してもいいだろ、と前置きした上で、瞬達に対して話しはじめた。

 

「……簡単に言うとな、アイツらは厳密にはもう艦娘じゃないんだわ。艤装とのパスは解体によって殆ど失われているし、今のアイツらは人よりちょっと強靭な肉体を持った女の子でしかないんだよ」

「元艦娘?」

「ああ」

「……なんでやめたんだ?」

「色々あったんだ。その時の2人はかなり苦しんでいた。こればかりは俺が勝手にベラベラ喋っていい内容じゃないんだ。デリケートな内容だからな」

 

 普段のおちゃらけたものとはかけ離れた、険しい顔つきで話し続けるアラタの姿に、瞬は思わず唾を呑む。

 

「ただこれだけは言える。2人を助けたのは姉貴とここの鎮守府の面々だ。そのおかげで大鳳と山風は今、普通の人間としての生活を送れている。だから、俺は姉貴や潮原提督を尊敬しているんだよ。俺もいつか、あの人達みたいに苦しんでる人を救う仕事をしたい……まあ今はまだ夢物語なんだけどな」

「立派だなーアラタ君は。僕も人の役に立ちたい!って思ってるんだけど、いつもドジ踏んでばっかでさ……」

「じゃあそれを実現できるように頑張らないとな。お前なら案外いけるんじゃないか?」

「よせよ。お前の方が向いてるだろ。だってお前仮面ライダーじゃんか」

 

 俺なんかまだまだだよ、と笑いながら返す瞬。ヒーローとしてはまだまだ駆け出しの自分に向いてる向いてないと言われる資格なんてまだないのだから。

 と、ずっと真面目な話をしていた男性陣に対し、遊戯室の方から唯から声を掛けられた。

 

「瞬!こっちで卓球やろうよ!那智さん意外と強敵だかさ!トリプルスでいこう!」

「んなルール無えよ。まあいいぜ、やってやらあ!志村もこいよ」

「いや僕は……」

 

 瞬の後を追おうと席を立った志村。しかしその腕に突然、何やら柔らかいものが当たる感覚がする。みると、スク水姿の艦娘が腕を組んで胸を志村に押し付けて来ていた。気の小さい童貞である志村にとっては、本気で心臓が止まりそうになるほどの衝撃であった。

 少女はそんな事お構いなしに、扇情的な仕草で志村を誘う。何この見え見えなハニートラップみたいなのは。

 

「ならイクと一緒にあちらで楽しいことやるのね!」

「けけけ結構ですからぁ!」

 

 スク水姿の潜水艦の子の誘いを慌てて蹴り、志村は瞬の元に走り去っていく。断られた少女・伊19は不満そうに腕を組んで頬を膨らませる。後ろから同じく潜水艦の伊58が愚痴る。

 

「つれないでちね。ただのスマブラなのに」

「いや19ちゃんの言い方に語弊があるのよ……それにしても、あの子かなりウブだったわね」

「如月だって似たようなもんのくせに」

「あらやる気?ならスマブラで決着をつけましょうか。ゴーヤちゃん、サシでやるから邪魔しないでね」

「キャラの方向性が似通ってるからって一々張り合わなくてもいいのに……」

 

 なんか此方も戦いが始まった模様。賑やかなこの光景を見て、アラタは頬を緩ませるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、鎮守府の中庭のベンチに並んで腰掛けていた大鳳と山風。

 演習場から聞こえてくる砲撃の音。わいわいと駄弁りながら渡り廊下を通ってゆく艦娘たち。その全てが、大鳳の心を刺激する。

 

「現役時代を思い出してた?」

「……うん。やっぱり鎮守府(ここ)にいると思い出しちゃうの。あんまりいい思い出は無かったけどね。それでも、この鎮守府の温かさは癖になるのよね。私も、他の鎮守府に着任していれば良かったのかな」

IF(もしも)の話なんてやるだけ無駄だよ。共感はするけど、私達は今を生きてるの。あり得ざる過去も今も、結局は夢物語でしかないんだから……」

 

 現役時代に想いを馳せる。当時はあまりいい思い出は無かったが、それでも大鳳にとっては()()()過去なのだ。

 

「みんなの所に戻りましょ。2人きりだとなんか無駄に感傷的になっちゃうわ……」

「そうだね」

 

 せっかく皆と一緒に来ているのに、センチメンタルになってちゃ勿体ない。同じ境遇の山風と2人きりだと、どうしても思い出してしまうし、皆と一緒になって気を紛らわそう。

 そう思いながら、皆の所に戻ろうと立ち上がろうとしたその時。

 

「やあやあどうしたのかな大鳳ちゃん。そんなにアンニュイな表情してさ。そんな表情のキミを見ていると、どうしてもほっとけなくなるんだよね。俺、優しいから」

「⁉︎ 」

 

 突然、大鳳の耳元で声がした。台詞的に明らかにナンパされているのだが、優しい声色とは裏腹に、猛烈な嫌悪感を大鳳は抱いていた。間違っても信用してはならないような、不安を煽られるような、出来ればあまり聞いていたくはないような声だった。それに妙に馴れ馴れしい。大鳳にこんな声の知り合いは居ない。一体なんなのだ。

 固まって振り向けない大鳳と山風の肩に、ガシリと手が置かれる。そして、さらに声がかけられる。

 

「怯えないでよ、キミ達と俺との仲でしょ?いつものように、俺の事を提督さんだのパパだの呼んでくれてもいいんだよ?」

「誰……なの?私は、貴方なんて知らない!」

「人違いです。手を離してください!」

 

 ヤバいやつだ。明らかに言動がまともじゃ無い。馴れ馴れしい口調が、より一層異質な雰囲気を強くする。大鳳達は必死に否定するが、声の主は聞こえていないのか無視しているのか知らないが、変わらず馴れ馴れしい口調で話しかけてくる。

 

「恥ずかしがる事はないよ。まあ俺はそんなキミ達も好きだよ。だから、これから俺と楽しいことしようよ。いいでしょ?」

《KAKUSEI DEMON》

 

 ミシミシと、2人の肩を掴む力が強くなる。ヤバい、逃げなくては。

 その時。

 

「2人とも離れて!」

「ひょへぇ⁉︎ 」

 

 優しくも力強い声がした。2人はその声に従い、肩に乗せられた手を振り払い、左右に散る。そして、声の主に向かって矢が放たれた。ブシュリと鈍い音がした。

 声のした方をみると、中庭の向こう側に弓道着姿の銀髪の女性が、弓道用の弓を構えて立っていた。正規空母・翔鶴である。

 

「しょ、翔鶴さん! 」

「酷いじゃないか。キミらしくもない。あの優しくお淑やかだったキミがこんな真似をするなんて、一体全体どうしちゃったんだい?」

「生憎ですが、私は貴方を存じ上げません。それよりも、2人に何をする気だったのか、そもそも勝手に鎮守府に侵入した事も含め、色々と問いたださなくてはなりません」

 

 茂みに隠れていた声の主の姿が露わになる。それは、まさしく“鬼”というべき姿であった。筋肉質な肉体に虎柄の腰蓑を纏っただけの薄着姿。額から突き出た長い一本の角。腹部には般若の顔がでかでかと浮かび上がり、威圧感を出している。

 鬼は、肩に刺さった矢を平然と引き抜いて投げ捨てると、さっきと変わらない調子で話しかけてきた。

 

「いきなり乱暴はやめてくれよ。俺が何したっていうんだい?してないだろう?だからこんな真似はやめて俺と遊ぼうぜ」

「嫌です!」

 

 翔鶴に一蹴されてもへこたれず、鬼は繰り返し口説いてくる。ここまで図々しいと恐怖を感じてくる。いかつい文字通りの鬼の姿で、爽やかそうに話しかけてくるものだから違和感が半端ない。それに、友好的に振る舞っているのにも関わらず、彼の目は全く笑っていないのだ。それが彼女達にとっては不気味だった。

 

「大丈夫⁉︎ 何ともない⁉︎ 」

 

 騒ぎを聞き付けたのか、大鳳と山風の元に、神通が駆けつけて来た。訓練中だったのか、艤装をつけたまんまである。

 

「翔鶴のおかげでなんとか……それよりも、こいつは……」

「前にも似たようなのを見たよね」

 

 大鳳と山風の脳裏に、以前一誠を襲った怪物のことがよぎる。結局よくわからないうちに消えていったのだが、それでもアレはマトモじゃないと感じていた。

 そして、目の前のコイツは別ベクトルでイカれている。翔鶴に拒絶されたにも関わらず、しょげるどころか余計に興奮し始めている。かなりハイレベルな変態である。

 

「うんうん……やっぱ翔鶴って美しいよなぁ……真剣な目で俺を見てくれるなんて、最高ですよ最高!たっまらねぇぜぇ……」

「うわ何気持ち悪い」

「何者ですか貴方は!」

「愛の使者」

 

 ダメだ。話が通じない。鬼は大鳳達をほっといて自分の世界に浸り始める。見ていて純粋に気持ち悪い。

 

「ああ、俺は幸せ者だ……こんなにたくさんの可愛い子ちゃん達に構ってもらえるなんて、俺死んでもいいかも」

「なら死んでみます?」

 

 今朝の時とは一変、冷ややかな目で鬼を睨む神通。睨まれた当の本人は、なんでそんな目を向けられているのか全く理解できていないようで、ヘラヘラと笑いながら神通の方を振り向き、彼女に向かって歩み寄ろうとする。

 

「やだなあ何そんなに怒ってるn

 

 

 次の瞬間。

 彼の身体は何の前触れもなく真上にぶっ飛ばされた。

 

 

 

 大鳳も、山風も、翔鶴も、神通も。誰もが理解できなかった。

 そして、鬼が立っていた位置に、先程とは別の怪物がいた。青白い肌に髑髏を模したマスクで覆われた目元、目を惹きつける妊婦みたいに丸々と突き出た腹(おまけにデベソが丸見え)、ボロボロの軍服と随所に見られる艦娘の艤装のような部位。ただし、その艤装は全て使い物にならないレベルで損傷しており、さらに様々な艦種のものが入り混じったカオスなものになっている。それの容姿はまるで深海棲艦を思わせるものであった。

 彼は、大鳳達を品定めするかのようにジロジロと見ていたが、やがて、一番近くにいた大鳳に近づき始めた。彼女は、本能的に恐怖を感じて後ずさる。

 

「や、やめて……こないで」

「お前に拒否権なんかねーよカス!原作キャラ風情が俺様に楯突くんじゃねーよ殺されてーのかアバズレ!」

 

 息を吐くように汚い言葉を吐き捨ててくる。言ってることが半分くらい分からないが、コイツもコイツでマトモでは無かった。

 怪物は腰にぶら下げていた鎖で、恐怖と動揺で動けない大鳳を縛り上げると、恐るべき跳躍力でかっ飛んでしまった。

 

「何、今の」

「……はっ!大鳳さんが危険よ!皆に知らせて!」

 

 残された神通達は、突飛すぎる出来事に呆然としていたが、直ぐに正気に戻り、大鳳を拐った怪物を何とかすべく動き出すのであった。

 

 

 

 

 

鎮守府屋上

 

 鬼は遥か上空に打ち上げられた後、鎮守府の屋上に落下する。コンクリート製の床にできたクレーターの中心で、彼は起き上がる。オリジオンとしての姿ではなく、爽やかそうなイケメンの姿であった。

 彼が顔をあげると、そこにはボサボサの髪のガリガリのオッサンが、青年を見下ろしていた。彼は青年が起き上がるなり、汚い唾を撒き散らしながら、捲し立てるように暴言を吐き出して来た。

 

「邪魔すんじゃねえよカス!ここの女共は俺様が全部戴くんだからとっとと死ねやゴミクズ野朗!」

 

 対して青年は、全く意に介していないように飄々と振る舞う。

 

「やめてよね。同じ穴の貉同士で争っても何にもならない。それよりも、耳寄りな情報があるんだよね」

「モブの話なんか聞く価値ないね!俺は選ばれし男だから忙しいんだ死ね死ね死ね死ね死ね!」

「ギフトメイカーからの通達だ。仮面ライダーがここに来ているらしい。殺せば褒美が貰えるんだってさ」

 

 その言葉に、男が反応した。

 彼らを始めとする転生者達は、数日前、自分達をオリジオンとして覚醒させた存在・ギフトメイカーから、こんなことを言われていた。

 —— もし仮面ライダーに出逢うようなことがあったら、殺せ。あれは僕らにとっても、君達にとっても邪魔な存在だ。

 その事実に、男の低い沸点は一気に頂点に達した。苛々した彼は、屋上の手すりを拳で殴りつける。筋肉もろくについてない、細いを通り越してガリガリの腕にも関わらず、その一発だけで手すりの殴られた部分が千切れ、地上に落ちていった。

 

「せっかく手に入れたセカンドライフを邪魔されてたまるかよ」

 

 その物騒な会話を聞いていた大鳳。鎖で縛られた状態のまま、男に抗議する。

 

「離しなさい!貴方達一体なんなの⁉︎ 仮面ライダーを……瞬を殺すって……」

「ヒロイン風情が一丁前に俺に口答えするんじゃねーよカス!黙れよ!」

「ゔぇえっ!」

 

 男の拳が大鳳の腹に突き刺さり、女の子にあるまじき声をあげさせられる。膝をついて咳き込む大鳳を、隣の青年は憐れむような目で見つめながら言う。

 

「あーあ、その子仮面ライダーの仲間らしいね。なんて可哀想」

「許せねえ……俺のヒロイン寝取りやがって。ぶち殺してやる!」

「誰が……貴方なんかの……」

「だーかーらぁ!口答えするんじゃねーよ学習能力ねーのかアホンダラ!」

「はぅあっ⁉︎ 」

 

 今度は大鳳の頬を強く引っ叩いた。あまりの衝撃に、膝で立つこともままならず、盛大にぶっ倒れてしまう。流石にまずいと思ったのか、青年が止めに入る。しかし大鳳からすれば、その発言の内容はまともなものではなかった。

 

「やめなよ、キミが欲しかったのは彼女だろ?なのにそんな扱い方したら本末転倒だよ。その苛立ちは仮面ライダーにぶつけた方が有意義さ」

「アイツに傷者にされてるかもしれねーんだぞ⁉︎ 許せるかよ!」

「その怒りもやつにぶつければいい。やってしまおう」

「けっ、そうだなぁ!俺のヒロインを奪った罪は重いぜぇ……」

 

 訳の分からない恐怖に見舞われた大鳳は、不気味に笑う2人を見ながら、必死に祈るしか無かった。それしか、できなかった。

 —— 早く、助けに来てください。

 

 

 

 

 

 

 時刻はヒトゴーマルマル。結構長居してしまったが、そろそろ帰った方がいい頃合いだ。

 皆を集合させようと、声を掛けるアラタだったが、そこに何やら険しい表情をした眼帯を付けた緑髪の艦娘が此方につかつかと歩いてくる。

 

「あ、木曽じゃねーか。帰ってきてたんなら言えって —— 」

「おい」

 

 天龍の呼びかけを無視して木曾はアラタに詰め寄る。近い近いめっちゃ近い。具体的に言うともう少しで木曽の胸が当たりそうなくらい。

 

「お前、覗きとかしてないよな?」

「す、するわけないだろそんな馬鹿な真似!」

 

 いきなり何言われているのか分からなかったが、アラタは即座に理解すると同時に強く否定する。どこから覗き魔疑惑が沸いて出たのか、彼には見当もつかないのだが、そんな汚名を着せられてはたまったもんじゃない。

 必死に否定するアラタの様子を見た木曾は、続いて瞬に疑いの目を向けて来た。

 

「じゃあお前か?」

「断じて違う!」

 

 なんか女性陣の視線に冷たさを感じてきた。誠に不本意だが、痴漢冤罪の被害者の気分が分かったような気がした。

 

「犯罪に手を染めるほどムラムラしてねえし、尊敬してるアンタ達相手にそんな真似できるかよ。そもそも覗きとかハイリスクノーリターンじゃないか?」

「アラタ、それお前の友人達に刺さってるぞ」

 

 瞬の脳裏に一瞬スケべな赤龍帝の顔が浮かんでくる。彼がこの場にいたら真っ先に疑われていただろう。日頃の行いは大事である。

 

「ちょいまっち。いきなり事実も話さずに犯人扱いは良くないよ。説明してくれなきゃ困るって」

「そ、そうだな……疲れてて気が立っていた。すまない」

「お前、覗きがどうとか言ってたよな。まさか ——- 」

「そのまさかだよ。さっき覗かれた……ああ思い返すだけで気分悪くなってくる」

「マジかよ……命知らずにも程があるだろ」

 

 よりによってこの鎮守府内でそんな行為をする人がいることに、アラタは唖然とする。ここにいる皆を疑いたくはないのだが、覗き魔をのさばらせるわけにはいかない。二つの思いの間で板挟みになり苦悩するアラタに代わり、吹雪が証言する。

 

「皆さんはさっきまで私達と一緒にいましたし、物理的に不可能ですよ」

「そーだそーだ」

「……ならいいんだ。いきなり悪かったな、すまない」

 

 吹雪がアリバイを証明したことにより、瞬とアラタは重圧から解放された。それにしても、もっと早く助け舟出せばよかったのではないだろうか。

 

「んじゃ誰が……」

「よし、私達も犯人探しに協力しよう!女として許せないし!」

「まあ、俺もあらぬ疑いをかけられちゃあ見過ごせねーな。手伝うぜ」

 

 唯の発言に対し、賛同する一同。たしかに、この場で考えるよりも動き回って犯人を探す方がいい。だがしかし、鎮守府内でうろちょろされたら困るので、吹雪が止めようとする。

 

「ちょっと勝手に動き回らないでk

「嫌ああああああああああああああああああ!」

「⁉︎ 」

 

 突然上がった悲鳴。それに反応した川内が、即座に驚異的な速さで走り出す。彼女の後を追い、皆も走り出す。

 鎮守府の外に出ると、川内がある一点を見つめたまま立ちすくしていた。その視線の先には、見たことのないオリジオンに捕まった大鳳がいた。そのオリジオン —— フリートオリジオンは、キモい笑い声をあげながら得意げに言う。

 

「へっへっへ!コイツは貰ったぁ!」

「大鳳っ……テメェ、放しやがれ!」

 

 大鳳を捕まえているオリジオンに、アラタは無謀にも殴りかかろうとする。しかし、オリジオンはアラタの振り下ろされた拳をものともせず、アラタを殴り飛ばして返り討ちにしてしまった。倒れたアラタを踏みつけ、下品に笑うオリジオン。痛めつけられながらも、それでもアラタは睨みつけてくる。

 オリジオンはそれが気に障ったのか、今度はアラタの顎を砕く勢いで強く蹴飛ばした。鼻息を荒くし、何度も何度もアラタの頭を踏みつける。

 

「やめろ殺す気かよ⁉︎ 」

「アラタぁ!」

 

 見かねて瞬はクロスドライバーを装着しながら、オリジオンに体当たりをして突き飛ばす。オリジオンは

 瞬はボロボロになったアラタに駆け寄る。

 

「なんなんだよどいつもコイツも!モブキャラの分際で俺に楯突くとか生意気なんだよ!」

「どうするつもりだ……大鳳をどうするつもりなんだ!」

「うるせぇ!雑魚はすっこんでろ!この鎮守府の艦娘は全部俺のモノにするんだ!」

「うわあ……リアルでこんな事言う奴初めて見た……」

 

 オリジオンの発言にドン引きする一同。臨戦態勢だった瞬でさえ、露骨に嫌そうな素振りをみせ、思わず後退りしてしまう。今時こんな単純な色ボケ野朗が見られるとは驚きである。

 アラタはオリジオンの言動に怒りをあらわにする。

 

「オメーのモノでもなんでもねえよ!この鎮守府の皆も大鳳も渡すもんか!さっさと失せやがれすっとこどっこい!」

「アラタくん、すげー怒ってる……」

「大鳳さんがそれくらい大切なんだよ。私もアラタの立場だったら、多分同じように怒るよ」

 

 何時もの気さくな様子は何処へやら、まるで別人の様に激昂するアラタ。そな変わりように体が竦んでしまう志村と、同情するヒビキ。オリジオンはそれが気に食わなかったようで、アラタに対して怒りのままに怒鳴り散らす。

 

「何で俺がお前達みたいなモブキャラの意見を聞かなきゃならねーんだよ?調子のるなよ?」

「調子乗ってるのは貴方でしょ……私は貴方のモノになる気なんて微塵もないわよ!いい加減にして!」

「黙れ!次口答えしたら舌と声帯引きちぎって海に投げ捨てるからな!」

「くぅっ……!」

 

 オリジオンは、自らに対して口答えした大鳳の頭を思い切りぶん殴った。よく見ると、彼女の体のあちこちには真新しい痣ができているではないか。それに気づいたアラタは激昂し、無謀にも再びオリジオンに殴りかかろうと走り出す。

 

「テメェっ!大鳳に手をあげてんじゃねえ!」

「ふん!」

 

 周りが止めるよりも早く、オリジオンの腹パンがアラタの腹に直撃し、アラタの体がズルズルとその場に崩れ落ちる。それに飽き足らず、オリジオンは崩れ落ちたアラタを強く蹴飛ばした。

 身体中の空気が根こそぎ吐き出させられるような衝撃がアラタに襲いかかる。身体中が痛んで仕方がないが、それでも立ち上がる。立ち上がらなければならない。こんな奴に、大鳳を好きにさせてたまるか。その一心だけで立ち上がろうとするが、志村がすかさず静止する。

 

「アラタ君大丈夫⁉︎ 無茶だよ……!」

「それでも、いかなきゃならねーんだ……俺がっ……やらなきゃならねーんだよ……!」

「その怪我じゃ不味いって!勇気と無謀は別ものだってそれ一番言われてるから!」

 

 ネプテューヌと志村の静止を振り切り、尚も立ち上がろうとするアラタを横目に、木曾が問いかける。

 

「まさかお前なのか?さっき風呂を覗いてたのは」

「別にいいだろ減るもんじゃないし。お前らも俺様に見られて嬉しいだろぉ?」

 

 覗きをあっさり認めるどころか、微塵も悪びれないオリジオンに、んな訳あるか!と周りから非難の声があがる。一体どこの世界の人間だお前は!と叫びたくなるほどの身勝手な主張に、木曾の拳が怒りでぶるぶる震える。

 思わず木曾は殴りかかりそうになるが、

 

「おっと、こいつがどうなってもいいのかよ?ええ?」

「なっ!」

 

 オリジオンの方は、大鳳を人質にしてきた。これでは手が出せない。当然非難の嵐になるが、オリジオンは瞬の方を見ると、より一層憎しみのこもった顔つきになる。

 

「お前……汚ねえぞ!」

「お前がギフトメイカーの連中が言っていた仮面ライダーか!お前にだけは言われたくねーよ!大鳳はなぁ、俺のヒロインなんだよ!俺がいただくんだよ!それを横から掻っ攫いやがって……300回ぐらい殺してやらねえと気がすまねぇ!」

「寝言は寝て言えよ……!さっきから大鳳をモノのように扱いやがって……オメーみたいな奴なんかに靡く女はいねーよ!帰って二次元で満足してろ!」

「さっきから雑魚キャラのくせにうぜーんだよ消えろ!」

 

 さっきから自分にしつこく何度も噛み付いてきているアラタに対して頭にきたオリジオンは、肩の副砲から一発弾丸を発射する。アラタや、そばにいる志村やネプテューヌも纏めて殺す気の一発が迫る。

 

「アラタぁ!」

《CROSS OVER》

 

 瞬は即座にアクロスに変身し、銃形態のツインズバスターで砲弾目掛けて光弾を放った。

 

「うわぁああああああっ!」

「ねぷうひゃぁ!」

 

 1秒にも満た無い出来事だった。砲口から放たれた砲弾が空中で爆発を起こし、鎮守府の窓ガラスが衝撃で粉々に砕け散り、花壇の花も土ごと宙に舞い上げられた。ガラスと土の雨があたりに降り注ぐ中、無傷で済んだ志村達の前にアクロスが立つ。

 

《思いを!力を!世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》

「許さない……お前は許さない!俺が狙いなら、望みどおり俺が相手してやる!だから、皆には手を出させない!」

「あれは……何⁉︎ 」

 

 仮面ライダーアクロスに変身した瞬を見て、驚きの声をあげる艦娘達。

 

「吹雪、皆を安全なところに連れて行ってくれないか?アラタのやつ……かなり酷くやられてるからさ」

「あの、その姿……」

「詳しくは後で話す。今は、コイツを倒す!」

 

 アクロスは怒りに満ちた声でそう叫ぶと、ツインズバスターを剣形態に変形させながら、フリートオリジオンに突っ込んでいこうとか走り出す。

 しかし。

 

「残念だったねえ!俺もいるんだよなぁこれが!」

 

 その間に割って入るように、上空から別のオリジオンが乱入して来た。見るからに鬼ですといったような風貌の乱入者 —— デモンオリジオンは、ツインズバスターの刀身を片手で受け止めると、アクロスねガラ空きの胴体に渾身の膝蹴りをお見舞いする。

 

「ぐはぁっ!」

 

 ツインズバスターを落とし、背中から地面に倒れるアクロス。デモンオリジオンはアクロスを踏みつけようとするが、アクロスは咄嗟に横に転がってそれを避け、オリジオンの膝に横から蹴りを入れる。

 しかしあまり効いていないらしく、デモンオリジオンは表情を変える事なく、即座に腕を振り回してアクロスを薙ぎ倒しにかかる。体勢を整えながら後退したアクロスに、彼は言う。

 

「邪魔んだよねーキミ達。この世界では転生者である俺が主役ってのがセオリーだというのにさぁ、何考えてるの?身の程弁えた方が身のためなんだけどなー」

「残念だったな。俺はこの世界は皆が主人公かつ脇役って考えでな!お前みたいにナルシスト的思考は出来ないんだよ!」

 

 両者の拳が激しくぶつかる。しかし、向こうの方がパワーが上なのか、アクロスの拳が上に押し上げられ、オリジオンのもう一方の手によるチョップが、アクロスの首をへし折らんとする勢いで振り下ろされる。

 アクロスは咄嗟に身を屈め、ガラ空きになったデモンオリジオンの胴体に頭突きを喰らわせる。今度は少し効いたのか、オリジオンはわずかに顔を歪めると、空を切った腕を即座に引き、アクロスの背中に肘鉄を食らわせてその身体を地面に叩きつけると、足で強く踏みつける。

 内蔵が無理やり捻り出されるような衝撃がアクロスを襲う。どうやらこのオリジオンは、相当なパワーを持っているようだ。デモンオリジオンは、勝ち誇ったようにアクロスを嘲笑う。

 

「それがキミの転生特典?見た目の割にショボくない?てかなんでキミ俺達の邪魔するわけ?キミも転生者ならは俺の気持ちを理解できると思うんだけどなー」

「俺は転生者とやらじゃないからわかんねーけど……お前もアイツみたいに皆を傷つけるというなら、俺が倒す!」

 

 痛みに耐えながら、アクロスは一つのライドアーツを取り出すと、クロスドライバーにセットする。

 

《LEGEND LINK!BOOST!BOOST!EXPLOSION!DRAIG!》

 

 すると、アクロスの全身から炎が吹き上がり、ドライバーから、デフォルメ等身の真紅のドラゴンが出現する。そして、そのドラゴンの身体がアーマーとなってアクロスの全身に引っ付いてゆく。赤龍帝の力を借り受けた姿、アクロス・リンクドライグである。

 レジェンドリンクを完了させたアクロスは、即座に固有能力の「倍化」を発動させて自身の力を増幅させると、デモンオリジオンの足を容易く払い除け、立ち上がった。

 

「これ筋肉痛になるからあんまり使いたく無いんだけどな……だが、パワーにはパワーをぶつけるしかねえし、いっちょやるか!」

「イキるなよ背景ごときが。俺以外の男キャラなんて、全員俺の引き立て役やってればいいんだよ。主役たる俺に下剋上とか、身分不相応過ぎるって考えないわけ?ホント転生先のキャラってどいつもこいつも救いようのない奴だよな」

 

 ここから反撃だ、と決め込むアクロスに、捲し立てる様に言葉を吐き捨てるデモンオリジオン。

 冗談でなく、彼は本気でそう言っているのだ。彼からすれば、自分以外の全ては、自分の活躍の為の踏み台か、自分に都合の良いお人形(ヒロイン)でしかないのだ。そして、踏み台ですらない背景(モブ)の癖に自分に歯向かってくるアクロスは、彼にとって唾棄する存在であった。

 

「でもまあ、俺は寛容だし?キミを殺してさっさとハーレムエンドに突入するから。OK?」

「ノーに決まってるだろ!」

 

 両者は再び向かい合う。

 第二ラウンド、開幕。

 

 

 

 

 

 

 

 アクロスとデモンオリジオンの戦いを、離れた位置から見ていたフリートオリジオン。彼はすでにこの場からの離脱を始めており、鎮守府の建物から離れた演習場の脇に移動していた。

 

「今のうちに逃げちまうか。仮面ライダーとやりあうなんて馬鹿馬鹿しい。お楽しみが待ってるんだからよぉ」

 

 フリートオリジオンは、縛られた大鳳の頬を指でなぞる。普段なら綺麗な肌も、彼に殴られたせいで痣ができてしまっている。

 彼は今一度、大鳳に声を掛ける。当の彼女は散々拒否しているのにもかかわらず、何度も懲りずに繰り返している。普通これだけ拒否されれば嫌でも脈なしだと分かるものなのだが、他人の気持ちなんぞ全くわからず、原作キャラをナチュラルに見下す思考回路の持ち主たるこの怪人には、諦めるという発想も、自分が悪いという発想も微塵もなかった。

 

「なあ大鳳ぉ、俺のモノになれよ。そうすりゃお互いに幸せになれるぜ?お前も何が賢い選択か分かるよなぁ?」

「ええ……貴方から逃げる事が一番賢い選択よ!」

「テメェつ……ふざけんなよ!原作キャラの癖に生意気な!轟沈しちまえ!」

 

 自分の意に沿わない事を口にした大鳳に激昂し、再びオリジオンは彼女に手をあげる。狙ってた女の子にこんな感じに当たり散らしておきながら、どうして惚れてくれると思えるのかが甚だ疑問なのだが、どうやら彼の脳内ではそうではないらしい。

 ぶたれてぶっ倒れた大鳳を無理矢理立たせ、この場を離れようと急ぐフリートオリジオン。そこに、

 

「喰らえこんにゃろぅ!提督パーンチ!」

「はがばふぃ!」

 

 突然、フリートオリジオンの顔面にパンチが突き刺さった。大鳳が振り向くと、そこには拳を突き出した潮原提督が立っていた。

 

「鎮守府で好き勝手やりやがった上に俺の客まで傷つけやがって……ただで帰れると思うなよ?なんなら今すぐ憲兵に突き出してやってもいいんだぞ?」

 

 潮原提督のパンチ(手加減バージョン)を顔面に受けたオリジオンはブサイクな悲鳴を上げながら吹っ飛び、背中から地面に倒れる。同時に変身が解け、生え際がかなり後退したガリガリのブサイクなオッサンの姿が現れる。男は殴られた鼻頭を押さえながら、率直に言ってかなりキモい顔を更にキモく歪ませながら、殴られた事に対して抗議する。

 

「畜生!女の分際で俺を殴りやがって!

「女の分際ねぇ。悪いな、俺こうみえてオッサンだから」

 

 リアルで美少女受肉を果たしたやつがオッサンのカテゴリーに含まれるのかは甚だ疑問であるが、潮原提督は指をポキポキと鳴らしながら男に接近していく。そして人間の姿のまま殴りかかって来た男を軽くいなすと、大鳳の元へと駆け寄っていく。

 

「こーゆー時だけはこの身体になって良かったと思えるぜ。ほら、大丈夫か?」

「あ、はい」

 

 大鳳を縛る鎖をなんとかしようと試行錯誤する潮原提督。しかし、

 

「いい気になりやがって……こりゃあ()()()()()()()ダメみてーだなぁオイ?」

「ひっ」

 

 倒れた男は、顔を上げて潮原提督と大鳳を睨みつける。2人はその目を一目見ただけで、猛烈な悪寒を感じた。下心丸見えというよりも、まるでモノでも見るかのような、光のない気味の悪い眼差しだった。

 動きを止めた少女達に、男は呪詛の如く叫ぶ。

 

「この世界の女は全部俺のものだ……所有物が持ち主に逆らってんじゃあねえよ!」

「支離滅裂にも程があるし、そもそも気がはえーよ。誰がいつお前の所有物になったんだ?ああ?」

 

 いつの時代の男性優位主義者(ミソジニスト)だ、と突っ込みたくなるような発言をぽんぽん繰り出してくる変態男。思わず潮原提督もキレて口が悪くなる。SNSに今の男の発言を掲げたら大炎上間違いなしであろう。てかそうしてやりたい。

 男はフケまみれの髪を怒りのままに掻きむしり、喉が枯れるような勢いで叫び散らす。

 

「こうなりゃ力尽くで掻っ攫ってやる!そこの提督の格好してるヤツも意外と気に入ったから俺の女にしてやんよ!変身!」

「うわああああ!こいつ見境いなさすぎだろ!どんだけ女に飢えてんだよ気持ち悪っ!」

《KAKUSEI FLEET》

 

 男は興奮で股間のブツをイキリ勃たせながら、再びオリジオンの姿に変身する。潮原提督はあまりの気持ち悪さに震える身体を動かし、大鳳を抱き抱えて逃げ出す。いくらプロの軍人でも気持ち悪いものは気持ち悪いのだ。

 しかし。

 

「おっと逃さねーぜ?」

 

 提督の行く手を阻むように、藍色のライダースーツを着た長身の男が現れる。

 

「貴方もヤツらの仲間……⁉︎ 」

「俺様はギフトメイカーのバルジ。ヤツらに力を与えた崇高なる存在だよ」

「ギフトメイカー……」

「アクロス!初めましてになるよなぁ!まあなんだ、これから宜しくな。ま、お前は直ぐに死ぬんだけどな」

 

 バルジと名乗った男は、向こうの方でデモンオリジオンと戦っているアクロスに向かって、そう呼びかける。バルジは、潮原提督の方を再び向くと、

 

《KAKUSEI PIKACHU》

 

 黄色いネズミのような化け物に姿を変える。皮膚は爛れ、所々骨らしきものが見えており、大きく裂けた口からは血が滴り落ちる。目の前の人間がまごう事なき化け物に変身したことに、潮原提督も大鳳も驚きを隠せないでいる。

 

「提督避けて!」

 

 その時、バルジと潮原提督の間を、一機の艦載機が通過した。

 

 いつの間にか、普段から砲撃や航行の練習に使う演習場に、艤装をつけた瑞鶴と川内が立っていた。

 

「おまっ……助かったけどあぶねーだろ⁉︎ 」

「命の方が大事だって提督も日頃から言ってるじゃない!いいから離脱して!ばかわ……じゃなかった、川内任せた!」

「また名前間違えてるし……まあいいよ、今だ!」

「呼ばれて飛び出てぱんぱかぱーん!これ愛宕(ひと)のネタなんですけどもね!」

 

 大鳳を抱き抱えた潮原提督が身を引くと、直後にでっかいドラム缶を積んだ台車がバルジ目掛けて突っ込んできた。予想外の出来事に、彼はこれを避ける事が出来ず、なすすべなく海に突き落とされる。

 

「明石ぃ……お前ぇ」

「無茶振りしないでくださいよ川内さん……腕吊るかと思ったわ……」

 

 台車で突っ込んできたのは、鎮守府のメカニック担当である工作艦・明石であった。いくら艦娘といえども、大量の燃料が入った重たいドラム缶の乗った台車を押しながら全力疾走してきたので、かなり疲れたのか、明石は即座にへたりこむ。

 

「時間がなかったんでこーゆー手しか使えなかったんですよ……燃料勿体無いなぁ」

「中々過激だよ……資材無駄にしてすまない、遠征組の皆……!」

「よし、後は任せろ!」

 

 何百キロもあるドラム缶をぶつけられたバルジは、海の中に沈んでいく。

 そしてそこに、川内がクナイを扱うが如く投げられ……もとい発射した魚雷が、落水したバルジに直撃する。いくら演習用のものといえど、直撃すればタダでは済まない。魚雷の爆発によって吹き上げられた水柱が、岸にいた提督達にぶっかけられる。

 —— これ普通に危ないよね?頼もしいけどデンジャラスだよねコレ?

 彼女らの活躍を見ながら、潮原提督は内心冷や汗をかいていた。

 

「やったんですかね?」

「いやそれフラグじゃ……」

 

 

「そんな小細工が俺様に通用する訳ねーだろ!」

「⁉︎ 」

 

 直後、水底から黒い稲妻がほとばしった。それは周囲にいた提督達に襲いかかり、彼女を最も容易く蹴散らしてしまう。海の上にいた瑞鶴と川内も、瞬く間に中破レベルまで負傷させられる。電撃のせいか、2人の装備からは黒い煙がもくもくと立ち始めていた。

 その攻撃を行ったバルジは、何事も無かったかのように海から這い上がると、潮原提督の後方にいたフリートオリジオンに呼びかける。

 

「おい、今のうちにやっちまえよ」

「あ、ああ!いいから俺と一緒に来い!」

 

 フリートオリジオンは、先の攻撃で倒れた潮原提督を無視して大鳳を再び捕まえると、どこかへと走り去ってしまう。

 

「待てっ……逃げるな!」

「馬鹿、アクロスを殺れって意味だったのによぉ……まあいいか。ここは奴のお手並み拝見といくか」

 

 命令よりも自身の欲望を優先したフリートオリジオンに悪態をつきながらも、人間の姿に戻ったバルジは、アクロスとデモンオリジオンの戦いを見守ることにした。自分達の敵の実力を測るいい機会だ、と笑いながら、倒れている潮原提督を踏みつける。

 

「てんめぇ……!」

「見せてみろよアクロス、貴様の力をよぉ。まーどうせ、俺より雑魚なんだろうけどな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああああっ!」

「ぬぐぁあっ⁉︎ 」

 

 リンクドライグにフォームチェンジしたアクロスは、倍化を発動させながらデモンオリジオンに殴りかかる。先程までパワーで優位に経っていた筈のオリジオンが、アクロスのパンチ一発でダウンさせられる。

 本物の赤龍帝よりは劣るものの、単純に倍化というシステム自体が強力であった。殴れば殴るだけ、時間が経ては経つほど、アクロスの力は倍になってゆくのだ。相手からすれば、あまり時間をかけたくない相手なのだ。

 

「調子乗るなよ……!モブキャラ如きが、俺の邪魔するなよ!」

 

 自分の劣勢を認めたくないのか、アクロスに暴言を吐きながら立ち上がるデモンオリジオン。この期に及んでも、まだ彼はアクロスを取るに足らないモブキャラだと認識していた。

 最初の飄々とした態度は完全に崩れ、醜い本性を曝け出していた。

 

「俺が!俺が!選ばれた人間だから!何やってもいいんだよ!気に入った女は奪ってもいいし、気に入らない野朗は殺してもいい!だって、選ばれた存在だからね!」

「何言ってるんだよ……!それ、本気で思ってんのか⁉︎ 」

「俺は神様に選ばれた転生者なんだぞ!主人公なんだからなんでも許されるんだよ!お前らモブキャラと違ってさぁ!だから倒れろよ仮面ライダー。そしたらこの世界中の女は俺がいただいてハッピーエンドになるんだから!」

 

 もはや言っている事が支離滅裂であった。さっきから、転生者だの主人公だのモブキャラだの、何の事を言っているのか瞬にはさっぱり分からない。ただ、本気でそう言ってることだけは理解できた。

 —— ならば、全力で止めるしかあるまい。

 アクロスは、クロスドライバーを操作して必殺技を発動させる。倍化により極限まで高まったパワーが、両の拳に集中していき、高熱が発せられる。

 

⦅EXPLOSION CROSS BLAKE⦆

「歯を食い縛れよ……結構キツイ一発だからよ!」

「黙れええええええええっ!」

 

 取り乱したように走り出したデモンオリジオン。対してアクロスは、冷静に腰を落として待ち構える。

 

「死ね仮面ライダーぁ!」

「へぃやぁああっ!」

 

 倍化の数、6回。つまるところ、通常の2の6乗倍、すなわち64倍の威力の正拳突きが、オリジオンの腹にめり込んだ。当たった衝撃だけで、周囲に突風が吹き付ける。

 

「なんだこの威力っ……!」

「うひゃあ海に落ちるう!」

 

 離れた位置から戦いを見ていた唯達の元まで、その衝撃は伝わってきた。思わず自分達も吹き飛ばされそうになってしまう。

 それをもろに食らったオリジオン自身はというと、当然無事では済まず、力無く項垂れた後、赤い爆炎をあげてぶっ倒れた。その姿は既に人間の姿に戻っており、意識もなくなっている。

 

「そうだ、大鳳を……!」

 

 そう、まだ終わりではない。大鳳を攫ったもう一人がいるのだ。

 アクロスはすかさず辺りを見渡すが、辺りにそれらしき人影はない。既に逃げられていたのだ。焦る彼を見て、戦いを見終わったバルジが、嘲笑うようにつげてくる。

 

「残念だったなぁ、お目当ての奴はもうここにはいないぜ?」

「逃げられていたか……!」

「そ、残念だったなぁ。ざまーみろ!俺様はいったん退却するからよぉバイバイビー!」

「待て!」

 

 アクロスが動き出すよりも早く、バルジは凄まじい速度で逃げ出してしまった。

 守りきれなかった。力が及ばなかった。その事実が、アクロスの心を蝕む。

 

「くそっ……!大鳳ぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 少年の悲痛の叫びが、虚しく潮風の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてもう一人。騒動の一部始終を見ていた者がいた。

 

「なんと醜い……」

 

 フードを深く被っているため、顔はよく見えない。厚いコートのせいで、男か女かも判断しづらい。格好だけ見れば、オリジオン達とどっこいどっこいの怪しさであった。

 その人物は、フリートオリジオンの逃げていった方を見つめる。その先には、街の中心であるビル街がみえる。そして、自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

「寄り道になるが、見過ごせないな。騎士として、奴を討つ」

 

 




神通さんごめんなさい。神通好きな方もごめんなさい。今回ふざけ倒した分、次回はかっこいい彼女も見られます。

なんか無茶な展開が多かったような気がする。反省。

志村、レギュラー入り。平成ライダーでもよく居る一般人枠です。


ギャグ回だけど今回のオリジオンも別ベクトルで気持ち悪いです。書いてて自分でも引いちゃうくらいです。

今回出てきた奴らは、ボツになった艦これ二次の奴らを流用してます。キャラ崩壊が目立ってるのも、その作品のために崩したのを使いまわしているからです。
ミリタリー知識に疎いので冒頭で断念したのですが、気が向いたら書く可能性が微レ存。

次回、舞網鎮守府本領発揮するかも

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。