【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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後編だよ。実は半分くらいサブタイ詐欺だよ。
ギャグ要素は少ないよ。多分。

ビルド編以降は単純に文量が増えているのでどうしても執筆スピードが遅くなりがちです。あーやばいよ。

前回のあらすじ

アラタのコネで鎮守府見学に来た瞬達。しかし、気色悪い転生者に大鳳を拐われてしまう。下劣な転生者の魔の手が迫ろうとする中、大鳳の前に現れたのは……



第17話 謎の少女騎士

 侵入者の片割れのオリジオンを退けた後、鎮守府の医務室にアラタは一旦収容されることになった。

 あの後、なんとか応急処置が施されたアラタは、ここの一室に一旦寝かされていた。しばらくすれば病院に搬送される手立てが整うはずだ。幸いにも、怪我自体は見た目ほど酷くはないようで、数日で退院できるらしい。

 

「あれが近頃街のあちこちで見かけるようになった怪人か……にしても、容赦がないな。皆の話を聞くに、あれは人間なのだろう?」

 

 医学の知識を有していた為に、アラタの応急処置を任された空母・グラーフは、瞬達から話を聞いて考え込む。

 

「人間、か。確かにそうだったけど、話は通じて無かったな」

「多分私があの場にいれば殴り飛ばしていただろう。話を聞いただけで怒りが込み上げてくる」

 

 瞬は、これまで出くわしたオリジオンの言動を思い出してみる。ほとんどのヤツが、お世話にも話が通じているとは思えなかった。正直言って、今日のは瞬でさえ嫌悪感を抱く他なかった。もしかして、オリジオンはあんなヤツばかりなのだろうか。

 そう考えていたところに、グラーフとの話を終えた潮原提督がこちらにやって来て、瞬達に頭を下げる。

 

「すまない、俺が迂闊だった」

「……俺も、もう一体のオリジオンも、ギフトメイカーも逃してしまった」

「お前は悪くない。アイツもアイツで危険だった。本当なら戦うのは俺達軍人の仕事なのに、お前みたいな子どもに戦わせちまって……情けねえな……」

「落ち込まないでください。俺は、俺がやらなくちゃいけないことをしているだけですから」

「それでもだ。俺は、軍事訓練を積んだわけでも無い一般人に戦わせといて、平気でいられるような冷血漢じゃないんでな。てか、お前の親御さんだって、お前が戦っていることを知ったら多分俺と同じようなこと思うぞ?」

 

 言われてみればそうだ。マトモな人間なら、子供がこんな戦いに身を投じているのを知れば止めるなりなんなりするだろう。瞬や唯だって、もしも自分より幼い子供が戦いに身を投じていることをしったら、きっと放って置けないだろう。

 だから、瞬は叔父にはまだ仮面ライダー云々は言っていない。大人はこういう話を信じないだろうというのと、提督の言うとおり、叔父にそのような心配をかけたくないという理由だ。

 潮原提督の言葉で、瞬は改めてそれに気づかされた。瞬が黙り込んでいると、提督が声を掛けてくる。

 

「それでもな、お前のおかげで助かった。お前が戦ってくれてなきゃもっと事態が悪化していたかもしれない。ありがとな」

「司令官も大人になりましたね。こんな気遣いができるようになるなんて、吹雪は感激です」

「……それ褒めてる?てかせっかく良い事言ったのに余韻台無しじゃんかよ」

 

 今の台詞も余韻ぶちこわしているけどな、と心の中で突っ込む瞬。だが、今の言葉に、瞬の頬が思わず緩んだ。

 ですが、とここで吹雪が話を変える。

 

「まだ全てが終わったわけではありません。大鳳さんの身が危ないことには変わりありません。一刻も早く助け出さなけば、何をされることか……」

 

 吹雪の言う通り、事件は終わってはいない。大鳳を攫ったオリジオンの方はまだ解決していないのだ。あのいかにも「私は男性優位主義者(ミソジニスト)です」と公言しているような奴の言動から想像すると、放置していると碌でも無いことになるのは間違いない。

 

「あれは間違いなく女性の敵だな。うん」

「噂に聞くブラック鎮守府の提督ってあんな感じなんでしょうね……」

「あんな○ちゃんから這い出して来たような人、初めて見たなぁ」

 

 グラーフも吹雪も唯も、皆揃ってあのオリジオンの事をボロクソに言う。あの言動は一般的な男から見ても問題しかなかったと断言できる。間違ってもあんなのにはなるまい、と瞬も堅く誓うのであった。

 その時、カーテンで仕切られたベッドの方から、何やらガタガタと物音が聞こえてきた。アラタが目を覚ましたのだろうか。瞬達がカーテンをめくると、アラタの叫び声が耳に入って来た。

 

「頼む!大鳳を助けにいかなくちゃならないんだ!」

「無茶だよアラタ君!結構ひどい怪我なんだから安静にしてなきゃ!

 

 傷だらけの状態で無理やり起きあがろうとするアラタを、志村がベッドに押さえつける。今のアラタは冷静さを欠いている。骨も数本折れているというのに、心身ともにコンディション最悪の状態で行っては、命に関わるかもしれない。

 そんなことは皆望んではいない。アラタの気持ちは分かるが、ここはじっとしてもらうしか無い。潮原提督は、無理やりベッドに寝かされたアラタの枕元に移動して話しかける。

 

「駄目だ馬鹿。お前傷だらけじゃねーか。ほら、明石が子守唄歌ってくれるから大人しく寝てろ」

 

 子守唄で眠るような歳じゃないんだが、というアラタの反論を無視して、潮原提督と入れ替わるように椅子に座った明石が、アラタの手を握って子守唄を歌い始めた。

 

「ヘイヘーイヘイヘーイヘイヘーイヘイセーイ!」

「随分テンション高いなオイ!」

 

 眠らせる気皆無のハイテンションな歌だった。なんか平成を感じるような歌詞だが、きっと気のせいだろう。明石は顔を赤くしながら、潮原提督の背中をバシバシ叩く。

 

「いや人前で歌うとか恥ずかしいじゃないですかぁ……なんなら提督がやってくださいよ」

「痛い痛い。分かったよ……」

 

 渋々、と言った感じに、潮原提督は椅子に腰掛ける。

 

「数を数えれば眠くなる筈だ。ほーれ島風くんが一匹、島風くんが二匹ぃ……」

「眠れるかあああ!何人の頭に変な性癖捩じ込もうとしてるんだ!」

「変じゃ無いもん……島風くんは偏在するもん……」

 

 確かにするっちゃするけど、それは今関係ないだろう。アラタもそれを指摘し、潮原提督の胸ぐらに掴みかかる。

 

「こんなことしている場合じゃないんだよ!潮原さんも分かってるだろ⁉︎ 」

「分かってるからこそ、お前を行かせるわけにはいかない。大鳳もお前も、二人とも無事でなきゃダメなんだよ。だから寝てろ。後は俺達がなんとかするから」

 

 提督は胸ぐらを掴んでいるアラタの手を剥がしながら言った。アラタは、荒い呼吸を整えながら、提督の隣の瞬を見る。そして、悔し涙を浮かべながら心境を吐露する。

 

「あいつは、家族以上の存在なんだ。あいつがいたから、今の俺がいるってくらいに。だから俺が行かなくちゃならないんだよ!」

「気持ちは分かった。だが駄目た。お前は寝ていろ。俺が行く」

「逢瀬……」

「俺はまだ大鳳とは関わりが浅いけど、お前が大鳳を大事に想っているのはよく分かった。多分、傷だらけの状態で行ってお前に何かあったら、大鳳も悲しむだろ?そんなの駄目だってお前もわかってるだろ?」

 

 瞬は、潮原提督の胸ぐらから引き剥がされ、力無くだらんと垂れ下がったままのアラタの手を取って言う。

 

「だから、俺が行く。お前の怒りも悔しさも、俺が引き受ける。俺が持っていってやる」

「……」

 

 それは決意表明だった。友として、ヒーローとして、一人の少年との約束であった。

 アラタは何も言わなかった。アラタの顔はそっぽを向いていて、瞬にはよく見えなかったが、どうやら大人しくはしてくれるようだ。瞬は席を立つと、志村に後を任せて退室することにした。

 

「志村、ネプテューヌ達を任せるぞ」

「わかったよ。僕が行ったって足手纏いだしね」

「それ自分で言ってて悲しくならない?」

「なった……」

 

 上着を着て、廊下を駆け抜けていく。

 友との約束を果たすべく。

 

 

 


 

 

 

 

 鎮守府入口付近

 

「馬鹿、なんで付いてくるんだよ。バイクに4人も乗れる訳ないだろ⁉︎」

 

 なんかぞろぞろついてきた。潮原提督も山風も湖森もついてきた。お人好しでこーゆーことに首を突っ込まずにはいられない性格の唯はまだついてくる理由がわからなくもないのだが……

 

《リンケイジゲーター!》

 

 バイクのようなマークが刻印されたライドアーツを起動させると、それが発光しながらバイクの形に変形していく。アクロスの専用バイク・リンケイジゲーターである。

 

「俺がなんとかするから、皆は待っていてくれないか」

「俺の鎮守府で起きた問題だ。俺がカタをつけないでどうする」

「それはそうですけど……なら山風、お前は……」

「アラタが動けないならせめてわたしが行かなきゃ!今のわたしは何の力もないけど、動かないでいるなんてできない!」

「俺が言ってもこんな感じで聞かないんだよ……」

 

 半ば諦めた感じに潮原提督が言う。確かに、今の山風の目は凄く真剣なものだ。固い決意が秘められた、強いものだ。瞬も、これは何言っても聞かないなと直感的に理解した。

 しかし、この場の全員をバイク一台で連れていくいくことは厳しい。そもそも、根本的な問題は別にあった。

 

「場所の見当、ついてないんだろ?」

 

 そう。潮原提督の言う通り、あてがないのだ。別のオリジオン達に邪魔されてまんと取り逃してしまったが、奴が何処に逃げたのか見当のつけようがない。

 しかし、闇雲に探していたら大鳳の身が危ないし、悠長に手がかりを探す時間もない。だか、瞬だってじっとしていることはできないのだ。大鳳は、アラタと山風にとって大切な家族の一員なのだ。そんな彼女に危険が及ぼうとしている現状に、瞬も焦燥に駆られていた。

 

「でも、山風の言うようにじっとしてられない」

「それは俺も同じだ。それより思い出したんだ。アイツ、指名手配中の連続強姦殺人犯だよ。この街で何件も事件を起こしている。もしかすると、大鳳もこの街のどこかにまだ……」

 

 潮原提督が言いかけたその時。

 

 

 

 大地を揺るがす爆音とともに、市街地の方で爆発が起きた。

 

 

 

 衝撃で尻餅をついた瞬は、空を見上げていた。

 夕暮れの空高く上がる火柱。衝撃や音のデカさを考慮すると、距離的にはそれ程遠く無いようだ。怯える湖森を安心させるように抱きしめながら、唯が呟く。

 

「何今の……」

「分からない……でも、あそこに行ってみる価値はあるかもしれない。どの道宛がないんだ」

「ああ、行かなきゃ」

 

 無関係である可能性もなくは無いが、只事ではないことには変わりない。瞬は即座にヘルメットを被りバイクにまたがる。その後ろにちゃっかり唯も乗っかる。

 

「私も乗せて!幼馴染み特権使うから!」

「幼馴染み特権ってなんだよ……てか降りろ、振り落とすぞ」

 

 唯に降車を命じながら、バイクのエンジンをかける。アラタにあんな風に啖呵を切ったのだから、間に合いませんでしたで済ましてはならないし、もたもたしている場合では無い。

 

「あれ?」

 

 が、問題発生(アクシデント)

 —— 単刀直入に言うと、エンジンがかからない。いくらやってもプスンと気の抜けたような音が出るだけで、やかましいエンジン音が出る気配はない。

 瞬は焦って何度も何度も同じことを繰り返すが、効果無し。こんな所でモタついてる暇は無いというのに。このままだと取り返しがつかなくなる。その事実が、余計に彼を焦らせる。

 

「動かない……嘘だろ⁉︎ 」

「バイクってちゃんと整備しないとすぐに壊れるからね……定期的に動かさないとすぐダメになるって父さんがボヤいてたな……」

 

 呆れたようにぼやく唯。

 そりゃあまあ、仮面ライダーに変身する時以外は使っていなかったが、ネットで調べながらできる範囲でメンテナンスはやってたのだが、このタイミングで動かなくなるのは運が悪すぎる。一刻も早く大鳳を助けに向かわなくてはならない。

 こうなったら足で走るしかない、と瞬はバイクから降りる。間に合わない可能性の方が高いが、今はバイクを点検する時間すら惜しいのだ。ヘルメットを脱ぎ捨て、クロスドライバーを装着しようとする瞬。

 

 

 が。

 希望はやってきた。

 

「あれれ、瞬くん唯ちゃんどーしたのよ?」

 

 間の抜けたような声。振り返ると、一台のワゴン車が止まっていた。開けられたその運転席の窓から、見覚えのある顔がこちらを覗き込んでいた。

 

「と、トモリさん!」

「そーそー。徹夜でレポート書いた上に一日中バイトして疲労度半端ねーバイト帰りのトモリ姉様なんだぜぃ」

 

 車の運転手は港トモリであった。なんか目の下に隈が出来ているが、その状態で運転してていいのだろうか。トモリはでかい欠伸を一つすると、瞬達に問いかける。

 

「なんか急ぎの用事みたいだけど、足が必要かな?」

 

 これは渡りに船、というやつだろうか。ならば行幸、喜んで使わせてもらおう。

 

「はい。頼みます!」

 

 瞬は一礼すると、ドアを開けて後部座席に座る。

 

「なら私も」

「私もいくもん!」

「お兄ちゃんと唯さんがいくならば!」

「俺も乗せていただいて構いませんね!」

 

 次いで他の皆もどかどかと乗っかっていく。トモリ一人が乗っていた、人口密度スッカスカの7人乗りのワゴン車は、あっという間にほぼ^満員状態になる。うわ多い多い。

 トモリは全員がシートベルトをつけたことを確認すると、アクセルを強く踏み込む。

 

「思った以上に大所帯になったけど皆乗ったね!結構とばすから!」

 

 

 


 

 

 舞網市内某所・倉庫街

 

 

 時は十数分前に遡る ——

 

 

 

 

 市街地の外れにある、普段から人の寄り付かない倉庫街。高く積み上げられた幾つものコンテナが、ひどく無機質で空虚な雰囲気を出している。その中にあるひとつの古びた倉庫の中から、少女の叫び声が聞こえてくる。

 

「やめて!私に触らないで!」

「暴れんなよ……暴れんなよ……?」

 

 倉庫の中で、大鳳は鎖で縛られ、コンクリートの冷たい床に座らされていた。男か距離を取るように必死に後退りするも、すぐに壁際に追い詰められてしまう。男は、怯える大鳳の髪を撫でながら、気持ち悪い笑みを浮かべる。その顔を見るたびに、大鳳の身体が恐怖で震える。

 

「やっぱり実物は違うわぁ。マジ興奮する」

「離してっ……」

「いや、キミは俺の物だよ。誰にも渡すもんか」

 

 いつ誰がお前みたいな奴の所有物になったというのだ。大鳳の顔に、男の生暖かく臭い吐息がかかり、鳥肌が立つ。

 鎖で縛られた身体を捩ってなんとか離れようとするも、生憎彼女は引退した身。身体能力的には普通の人間と変わり無いのだ。というか現役の艦娘でも、艤装をつけてもいない状態で鎖を引きちぎるなんて無理だ。

 男は嫌がる大鳳の顔を舐め回すように見ながら、こんなことを考えていた。

 

(しかしラッキーだぜ!艦娘がこの世界にいたなんてな!貧相な身体付きだが、モブ野郎に処女奪われる前で助かったぜ……俺が主人公なんだから、女は全部俺のモンにしちまってもいいだろぉ?)

 

 気持ち悪さ全開だった。一体何をどう拗らせればこんなヤベエ考えを持つようになるのだろうか。アラタとよくつるんでる一誠達も変態っちゃあ変態なのだが、スケベな部分に目を瞑れば、目の前の男より遥かにマシな人間だと思う。それくらい気持ち悪かった。

 

「何なのこの人……ホントあり得ないんだけど⁉︎」

「口答えしてんじゃねーよオラァ!お前は黙って俺のモノになってりゃあいいんだよ!ほらほら脱げ……」

 

 下品な笑みを浮かべながら大鳳の服を剥ごうとする男だったが、突然、ギイイイイイ……と金属が擦れる重たい音がし、屋内に光が差し込んでくる。まさかアラタ達が助けに来てくれたのか。大鳳は希望を胸に顔をあげる。そこには。

 

「貴様……これはどういう状況だ?」

「だっ……誰だお前は⁉︎」

 

 そこに居たのは、緑のトレンチコートのような服を着た人物だった。紺色のフードで顔は隠れており、よく見えない。

 

「いやはや、通りすがりの身なのだが、この様な場に居合わせたとなると、私とて感化できない。したとすれば、それは騎士道精神に反するし、何より彼女にあわせる顔が無くなる」

 

 凛々しくも綺麗なソプラノボイスが発せられた。半分くらい言ってることが分からないが、どうやら大鳳を助けてくれるようだ。

 

「何言ってやがんだテメェ……用がないなら失せるんだな!」

「見過ごせないと言っているんだ。今すぐソイツを放せ。痛い目を見たくないのであれば今のうちだぞ」

 

 乱入者の物言いがしゃくに触ったのか、男はすぐさま激昂する。

 

「黙りやがれクソ野郎が!この鎮守府の艦娘は全員俺のモノだっ!」

《KAKUSEI FREET》

 

 オリジオンの姿に変身し、躊躇いなく乱入者に襲いかかった。自分の欲望を満たすのを邪魔する奴は、どうなろうが構わない。そんな驕りが見て取れる行為だった。

 

「逃げて—— ! 」

 

 大鳳の叫びは惜しくも届かず、オリジオンの肩の主砲が火を噴いた。放たれた弾丸が乱入者に向かって放たれ、着弾と同時に爆発を起こした。

 ゴッ‼︎っと爆風が吹きつけ、倉庫の鉄扉がひしゃげて壁ごと吹っ飛んでいく。この様子だと、あの人物は無事では済まないだろう。きっと身体がバラバラに砕け散っている。大鳳もオリジオンも、そう思っていた。

 が。

 

「いない、だと?」

 

 鉄扉の残骸の上にあったのは、ボロボロになったフードのみ。それを身につけていた人物の姿はどこにもなかった。

 それを見て、悲惨な状態にならなかったことに安堵する大鳳と、焦りと不満から地団駄を踏むオリジオン。その背後から、足音が聞こえてきた。

 

「話を聞いていなかったのか。そいつを解放しろ、と私は言ったはずだ。かかって来いとは言っていない」

 

 凛とした声が再びした。フリートオリジオンは、ばっと声のした方を振り向き、声の主を睨みつける。そこには、顔を顕にした乱入者が無傷で佇んでいた。破壊された壁から夕日が差し込み、その人物の顔を照らし出す。

 美しい緑色の髪をポニーテールにし、近未来的なゴーグルを身につけた、大鳳とそう歳の変わらなさそうな凛々しい表情の少女だった。しかし、大鳳はその少女に対し、好悪などという単純なものとは異なる、なんとも言えない不思議な感情を抱いていた。

 

(この人は一体……?それに何?何処か見覚えがあるというか、懐かしいような気持ちは……)

「なんだお前……女だったのかよ……」

 

 オリジオンは少女の顔を見て驚いたような素振りを見せると、何故か警戒態勢を解いて彼女にゆっくりと歩み寄り始めた。

 

「だったらなんだ」

「へっ、邪魔者は殺すつもりだったが、女なら話は別だ。お前の名はなんだ?」

「貴様の様な下衆野郎に名乗る名は無い。いいから彼女を放してやれ」

 

 なんと少女の方も口説きはじめた。その様子を見ていた大鳳は、あまりの見境の無さにドン引きし、思わず顔を逸らす。少女は僅かに不快そうに顔をしかめるが、特に動く気配はない。

 

「よく見ればお前も結構いいモノ持ってるじゃんかぁ。うん、俺のオナホには最適かもな」

 

 コートの上からでも分かるほど、明確に存在を主張する彼女の胸を舐め回す様に見つめながら男は言う。最低なセクハラ発言のオンパレードだが、これが彼のデフォルトなのだ。いくら転生して強くなろうが、中身は非モテぼっちをこじらせたセクハラオヤジのまま。彼はそれを隠すそぶりもないのだから、嫌われて当然なのだ。他の屑系転生者でも多少は取り繕うというのに、なんとも情けない。女性の皆さんに訊いたら満場一致でリンチされてもおかしくは無いだろう。

 大鳳も、性欲を微塵も隠そうとしない男の言動に辟易としているのだが、女心という概念を知らないこの男は気づかない。オリジオンは、少女に向かって手を差し伸べながら言う。

 

「決めた。お前も俺のモノにしてやる!生意気な女には、たっぷりとわからせなきゃあならねえよなぁ!」

(凄く気持ち悪いこと言い出したんですがこの人⁉︎ )

 

 凄く今更な突っ込みを心の中で入れながら、大鳳は少女の方を見る。彼女は、オリジオンを軽蔑し切ったような目で睨みつけながらこう吐き捨てた。

 

「断る。お前の目は、他人を自分と同じ人間として見ていない目だ。その時点でお前はダメなんだ。仮に同性同士だったとしても、誰もお前のモノにはならない。そう断言しよう」

「テメェ!下手に出れば良い気になりやがって!」

 

 いやめっちゃ上から目線なんですがそれは……という突っ込みが全方向からとんでくる台詞なのだが、オリジオンの中では普通なのだ。生来からの男尊女卑思考の上に、力を手に入れて増長し切っている彼は、手のつけようのないモンスターに成り果てていた。

 フリートオリジオンは、不気味に笑いながら連想砲の砲口を少女に向ける。自分に靡かない女は、痛めつけなければ気が済まないのだ。

 

「なあ知ってるか?生意気な女騎士はすぐ竿役に屈するってなぁ!お前もすぐに『くっ殺せ……!』って言わせてやるから覚悟しとけよぉ!」

 

 どこの薄い本の世界の常識を披露してるんだ。ここは健全なる現実だというのに。というか、女性相手にリアルでこんな事言うような性格だから、前世でモテなかったのではなかろうか。大鳳の身体中に悪寒が走る。怖さを通り越して気持ち悪さを感じる。早く助けてほしい、この場からは連れ出してほしい。そう祈るしか無かった。

 少女は男を軽蔑を込めて睨み、その気色悪い発言を一蹴する。

 

「私にそんな趣味は無い。この身はかの女神達だけに捧げるものだ」

「お高く止まってんじゃねえよ雌豚ぁ!女神だがなんだか知らねえが、俺様のビッグマグナムを味わえば気も変わるだろ!これまでの女は皆そうだったんだからなぁ!」

 

 差別心丸出しの罵倒を吐きながら飛びかかる男。あんな綺麗なル○ンダイブ初めてみたわ、と気持ち悪さを通り越して呆れてくる大鳳。それに彼の発言からすると、大鳳よりも前にも被害者が複数人いる模様。こいつはとんでもないクズですよ間違いない。

 対して少女は、飛びかかってくるオリジオンに臆する事なく、腰に携えた一振りの剣を鞘から抜く。そして、剣先をオリジオンにまっすぐ向けて、叫んだ。

 

「抜剣・絢爛たる女神騎士《コード・ヴァルキリア》っ!」

 

 瞬間、剣先を起点に眩い緑色の光が放たれ、少女の身体を包み込んだ。

 

「な、なんだよ一体!」

 

 フリートオリジオンは、あまりの眩さに思わず目を閉じ、攻撃を中断してしまう。一体何が起きたというのか。

 

「あ……れ?」

 

 光が収まり、大鳳の視界が晴れる。そこに立っていた少女は、先程までとはうって変わり、ポニーテールを解いて銀の鎧を見に纏った姿だった。といっても、ガチガチの全身装甲(フルアーマー)ではなく、胸元や太腿から肌色が覗いている。まるでどっかのファンタジー作品からそのまま出てきたような格好である。なんか胸元や太腿の露出がえっちに見えるのは気のせいではないはず。うん。

 

「何……それ」

「言ってもわからぬ様だな……ならば、この剣を以て判らせてやる」

 

 少女騎士は、煌びやかな装飾が施された剣を突きつけながら名乗りをあげる。それは、揺るぎない信念と正義感に満ちた声だった。

 

「我が名はセラ。誇り高き女神騎士の団長として、貴様のような不埒な輩は捨ておけぬ。ここで斬り伏せてやる!」

「うるせえやい!女の分際で俺に楯突くなぁ!大人しく俺の×××に屈しろこの雌豚ぁ!」

 

 汚い言葉のオンパレードに思わず耳を塞ぎたくなる大鳳。拘束されていなければすぐにでも逃げ出したくなる。今どきまだこんな男尊女卑思考の持ち主いたんだー、とか考えてる余裕はなかった。

 

「それは不可能だ。何故なら —— 」

 

 セラは手に持った剣を大きく振り上げる。その時大鳳には、刀身に稲妻が走ったのが見えた気がした。

 

「お前はここで倒れるからだ」

 

 一閃。それだけであった。

 セラが剣を一振りしただけで、途方もない衝撃が当たりを襲った。剣を振ったことで生じた風圧だけで、大鳳は吹き飛ばされそうになり、倉庫は、まるで倒壊してしまうんじゃないかと錯覚させるほどに激しく音を立てて軋む。

 そして、剣が振られると同時に剣先から放たれた紫電が、フリートオリジオンに向かい飛んでいく。あたりに散った電撃が、木箱を貫いて発火させる。中に何かはいっていたのだろうか。フリートオリジオンは感電によって苦悶の声をあげるが、足を踏ん張りなんとか耐え切る。

 ドカンと、吹き上がった火柱が倉庫の屋根の一部を吹き飛ばす。オリジオンは落ちてくる屋根の破片を気にも留めず、ただセラに対して怒りをぶつける。

 

「調子にのるなよ雌豚ぁ!お前は俺様のオモチャでいいんだ上等だろ!」

 

 攻撃されたことに対して激怒したオリジオンは、怒り心頭でセラに向かって砲撃を仕掛ける。しかし、セラは飛んできた砲弾をなんと剣で斬り捨ててしまう。斬られた砲弾が爆発し、セラの姿が煙で隠れる。

 

「はあああああ!」

「なぁ⁉︎ 」

 

 オリジオンが動揺する間も無く、セラは煙の中を一直線に突っ切ってオリジオンに斬りかかってくる。ガキンッ!と鈍い金属音と火花がでる。しかしオリジオンの装備には傷はない。

 

「馬鹿め!剣一本で軍艦に勝てる訳ねーだろ!」

「動きに隙が大きすぎる。やはり力を持っただけの素人……」

「だから!女の分際で!調子こいてんじゃねーぞダボが!」

 

 フリートオリジオンは、左腕のカタパルトから艦載機を発進させ、空爆をはじめた。セラと距離を取るように離れ、右腕の連装砲を乱れ撃ちしてくる。屋内でそんな真似をされたら今度こそ倒壊間違いなしなのだが、女に歯向かわれたことでプライドを傷つけられ、怒り狂っているフリートオリジオンには、そんな事を考える余裕はない。

 しかしセラは難なくその攻撃を避け、オリジオンの頭上を飛び越えながら艦載機を一撃で斬り伏せると、心底軽蔑した、といった感じにオリジオンを見下してきた。いや、軽蔑というには、その目はあまりにも冷たかった。

 

「下らないな。実に下らない。お前という人間の器の小ささには感心するほかないな。こんな小物を直に見たのは初めてだよ」

「誰が下らない奴だ……俺は神様に選ばれて転生したんだぞ⁉︎ それだけで凡百の奴等とは違う、選ばれた存在なんだ!だから俺は全てを手にする権利がある!それが、選ばれた者の特権なんだよ!原作に名前すら出てこないようなモブキャラ風情が俺を見下すなああああああああ!」

 

 セラの自分への目に苛立ち、傲慢な持論を吐き散らすオリジオン。

 選ばれた存在は何をしてもいい。それが彼の根幹にあった。理不尽にも前世を潰されたんだから、転生して好き勝手やって良い。邪魔する奴は許さない。それで今までまかり通って来たのだから、何も反省することはなかった。

 しかし、そんなことは誰も認めはしない。結局、それがまかり通っていたのは自分が強かったからであって、それが通じない相手を敵に回した時点で、彼は終わりだったのかもしれない。

 

「……なんでまあ、転生者はどいつもこいつも私を苛立たせるのか。これまで出会ってきた奴らのほとんどが、貴様と同じ反応だったよ。この世界で生きる人々を見下し続け、少しでも自分の思い通りにならなければ当たり散らす……お前は選ばれた者じゃない。ただの悪ガキだよ」

 

 フリートオリジオンをばっさりと否定するセラ。神に選ばれし転生者であることを最高の誇りとしていた彼にとって、セラの言葉は許し難いものであった。無駄にプライドの高い彼は半狂乱になり、発狂しながらセラに突撃していく。

 セラは、激昂しながら接近してくるオリジオンを真剣な表情で見据えながら、剣を構える。

 

「だから、私が罰する。道を外れた人を正しく導くのも、騎士の役目だからな」

「俺に命令するな死ねええええええええええええええええええ!」

 

 目を閉じて、剣を正面に構える。すると、彼女の背中に紫色の光が集まり、翼のようなものを形成していく。同時に、刀身に紫色の稲妻のようなものが走り始める。それは最初に見せたものよりも遥かに激しく見える。

 互いの距離はあと数メートル。衝突は秒読み。その時、セラの目が開かれる。それと同時に、背中の翼のようなものが紫から白へとその色を変え、激しく稲妻が走り続ける刀身が眩く発光をはじめた。剣を頭上に掲げ、高らかに少女は叫ぶ。

 

光導く聖守の剣(ライトレイ・ジャッジブレイブ)っ‼︎ 」

 

 剣が振り下ろされる。それとともに、視界を塗りつぶすどころか木っ端微塵にするような勢いで、刀身から純白の閃光が(ほとばし)った。

 

 そして。

 爆発を起こし、夕暮れの空に大きな火柱が立ち上った。

 

 

 

 


 

 

「何だ今の⁉︎ 」

 

 その頃、トモリの車で倉庫街の近くまで来ていた瞬達もその爆発を見ていた。それを見たトモリは思わず車を急停止させ、震え上がる。

 

「何が起きてるのアレェ!私怖いヨォ!」

「急がないと……!」

「あ、待って瞬!」

 

 爆発した場所はここから近い。この距離なら自分の足で走ったほうが早い。瞬は即座に車から降りて走り出す。続いて唯も山風も湖森も潮原提督も下車し、薄暗い倉庫街へ向かって走り出す。

 一人運転席に取り残されたトモリは、車のエンジンを止めると、慌てて瞬達の後を追って車から降りる。

 

「ちょっと皆さん早くないですかぁ⁉︎ た、頼むから置いてかないでぇ!」

 

 

 

 

 数分後。

 数奇な出会いが待ち受けているとは知らずに。

 

 

 

 


 

 

 

「な、何が起きたのよもう……」

 

 爆煙の中、大鳳は意識を取り戻した。

 爆風で煽られ、大鳳は倉庫の入り口まで吹っ飛んでいた。徐々に晴れていく爆煙に咳き込みながら、あたりを見渡す。

 大鳳から数メートル離れた位置。そこに、人間の姿に戻り、全身ボロボロの状態で倒れているオリジオンの変身者の姿があった。うつ伏せのまま動かない彼の姿に、大鳳はほっとする。

 

「すごい……」

「大丈夫か?すまない、私の技はどれも出力調整が難しくてな……君を余計な危険に晒してしまったようだ」

 

 騎士のような鎧姿から元の格好に戻ったセラが、大鳳の元に駆け寄り、彼女を縛っていた鎖を剣で斬り落とす。ようやく助かったのだ。

 

「偶然お前が攫われる所を目撃したから尾行したんだ。結果的に助けられて良かったよ」

「見ず知らずの私の為に……ありがとうございます」

「なあに、騎士としての当然の義務を果たしたまでさ」

「わっ⁉︎ 」

 

 頭を下げて礼を言う大鳳の頭を、セラは安心させるように優しく撫でる。

 

(でも、私が感じた違和感って何だったの……?)

 

 撫でられることを恥ずかしく思いながらも、大鳳は、セラを一目見た際に感じた違和感について考えていた。どこかで見たような見てないような、初めて出会ったとは思えない感覚。それが引っかかる。

 考えるが、答えは出ない。そこに、

 

「大鳳!」

「その声……瞬!」

 

 爆発音を聞きつけ、瞬達がようやく駆けつけたのだ。唯や山風、湖森に潮原提督も来ている。心細く感じていたが、知っている声に安堵する大鳳。崩れた壁の影から、瞬が現れる。

 

「ここにいたのか⁉︎ 良かった無事だったんだ……え?」

 

 向こうも向こうで、安堵の表情を浮かべながら走ってくるが、その顔が突如として、困惑の表情に変わった。他の面々も、瞬と同じような顔になっている。

 彼らの視線はある一点に集中していた。その先にあるものは。

 

「……え?」

「は?」

 

 大鳳の隣に立つセラだった。大鳳もそれに気づき、セラの顔を見るが、彼女も彼女で、はたまた何かに困惑したような表情になっていた。

 その視線の先に居たのは —— 唯だった。

 互いを見つめたまま、固まる唯とセラ。なんだかよく分からないのに、何かが引っかかって仕方がない。しかし、何が引っかかるのかはさっぱり分からない。そんな感覚だった。

 こうして皆が固まって動けなくなっているところに、トモリが遅れてやってくる。

 

「皆置いてかないでよぉ……おねーさん便秘持ちだから今お腹痛くて……っておわあぁお⁉︎ ゆゆゆ、唯ちゃんが二人ぃ⁉︎ 」

「……っ!」

「ああ!そうだ!」

 

 トモリはセラをみるなり、まるでお化けでも見たかのように腰を抜かす。その声で、ようやく大鳳の疑問が晴れた。

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(前に見たリイラとかいう奴……そして今目の前にいる彼女……一体、なんだというんだ?何故なんだ?何故彼女らと唯に共通点があるのだと俺は思っている⁉︎)

 

 全く接点も何もないのに、そう思わされることが異常だった。皆な中でも、既にリイラという前例を知っている瞬は、三者の間に何かあるのでは、という考えを抱き始めたていた。

 他の皆も、自分が二人に抱いている感覚に酷く困惑しているように見える。湖森は、セラと唯の顔を何度も交互に見ているし、潮原提督は、怪訝そうな顔をしながらセラを凝視している。そして、当の本人達も、互いに対して困惑の表情を見せていた。

 

「貴女は……一体?」

「それは此方の台詞だ。何故かお前を見ていると、他人のようには思えないんだ」

 

 セラの言う通り、友人や家族に抱くそれとは違う、異質な親近感。それがセラと唯の両者にしつこくまとわりつく。だが、それが何故なのかは誰にも分からなかった。

 セラは違和感に戸惑いながらも、気を取り直すように首を横に振ると、瞬の方を向く。

 

「そうだ、お前」

「俺?」

「ああ。お前に一つ聞きたいことがある」

 

 数歩、距離が縮まる。

 セラが、再び口を開く。こんな質問だった。

 

「パープルハート様を知っているな?」

「ちょっと待て、いきなり何の話だ?」

 

 いきなりの知らない単語に困惑する瞬。なんだ、何故自分ばかりがこんなに混乱させられなきゃならんのだ。もちろん瞬はパープルハートなんてものは微塵も知らないし、そもそもセラのこと自体まだ信じられないので、彼女の質問には答えられない。

 瞬が答えずに黙っていると、セラは詰め寄りながら、先程より強く瞬に問いかけてきた。

 

「私の目は誤魔化せない。お前からはあの方の気配を確かに感じる。直に会っているほどの、強いやつをな。質問に答えてもらおうか」

「ちょい待て何それ怖い気味悪い!知らないっての!」

 

 ぐいぐいと詰め寄ってくるセラにドン引きし、瞬は思わず後退りしてしまう。真剣な表情のセラにたじろぎ、上手く言葉が出てこない。そんな問い詰め方では、仮に瞬がパープルハートとやらにについて知っていても、答えるのを拒否してきそうなものなのだが。

 その時。

 

「お邪魔するぜぇ!バルジ様の御成だぁい!」

 

 バンッ!と、フリートオリジオンが吹き飛ばした鉄扉を勢いよく踏みつけるような音と共に、品性のカケラもないチンピラボイスが響き渡った。皆が入口の方に目をやると、そこには、数時間前に鎮守府に姿を現したギフトメイカー・バルジが下品な笑みを浮かべて立っていた。

 

「お前はさっきの……!」

「よう、また会ったなアクロス。いやぁ良くも大事な俺たちの同志をやってくれたなぁ!マジ鬼だわお前ら!」

 

 瞬はバルジの顔を見るなり、咄嗟に身構える。それに対し、バルジは調子の良い声で手をあげて挨拶をすると、笑いながら話し始める。

 

「なんか神気臭えなぁと思ったらよぉ、凄えオマケまでついてきてるとか、マジラッキーだな!おーい起きろ。お前まだ立ち上がれんだろ」

 

 バルジは何かに喜ぶような仕草をすると、足元で倒れているフリートオリジオンの変身者を足で蹴って起こす。男は呻き声を上げながら目を開き、眼球を動かしてあたりを見渡す。

 

「見下してんじゃねぇよモブ共が……俺が一番なんだよ」

「ああそうだよお前が一番だ。だから、ちょいと背中を押してやる」

 

 バルジはしゃがみ込むと、仰向けに倒れている男の腹部に、ビルドオリジオンに対してティーダがやったように、手を突き刺さした。血は流れないし、腕が胴体を貫通することもない。亜空間的なものに、手の先は入っていた。腹の中を掻き回されるような不快感と、途方もない激痛が、男を襲う。

 バルジは苦しむ男の姿を見て、笑いながら告げる。

 

「暴走しちゃいなよYOU☆」

「ガッ……グガギギギギギギィイイイイ⁉︎ 」

「お前はどの道用済みだからさ、後は好き勝手暴れ回って構わんよ」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼︎ 」

 

 バルジがその場を離れると、男の身体中にジッパーのようなものが現れ、男の全身を覆い隠していく。そして、全身が隠れ切ったと思いきや、それが突如として青い炎を纏って燃え始める。

 その時、ピシリと倉庫の壁に亀裂が走る。セラとの戦いでだいぶ損傷していたのが、今になって限界を迎えたらしい。

 

「まさかあの時みたいに……!」

「まずい、皆離れろ!」

 

 大鳳に肩を貸しながら潮原提督が叫ぶ。それに促される形で、皆が出口に向かう。あたりはもうめちゃくちゃだった。割れたガラスが雨の様に降り注ぎ、天井や壁がそれに混ざって崩れ落ちてくる。

 頭を守りながら外に向かう瞬であったが、ふと目をやると、セラが脱出する素振りを見せずに棒立ちしているのが目に入った。

 

「お前も早く逃げるんだよ!何突っ立ってんだ⁉︎ 」

「危ないって!瞬くんこそ逃げなきゃまずいから!」

 

 必死にセラに呼びかける瞬だったが、セラからの反応はない。そのうち、トモリに半ば無理矢理腕を引っ張られる形で、倉庫の外に連れ出されていく。瞬が最後に見たのは、崩れゆく建物の中で、こちらを見つめて微動だにしないセラの姿であった。

 後ろを振り返る間もなく、瞬は引っ張られるようにして外に脱出した。そうしてセラ以外の全員が脱出した瞬間、激しく揺れながら倉庫は倒壊した。皆がそれをただ見つめる中、瞬は膝から崩れ落ちる。

 

「あ……ああ……!」

 

 助けられなかった。目の前で、一人犠牲になってしまった。その事実が、瞬にのし掛かる。唯がそれを励ます様に、瞬に言う。

 

「瞬……!まだ死んだと決まった訳じゃないよ!自力で脱出してたりするかもしれないし……」

 

 その時、唯の言葉を遮る様に、空を斬るほどの雄叫びが響き渡る。瞬間、瓦礫の山から勢いよく何かが飛び出していき、瞬達の頭上を飛び越えて、激しい水飛沫をあげながら背面にある海の上に着水する。

 一同が振り返ると、ゴテゴテの艤装を背負い、青い炎に包まれた全長3mほどの骸骨が海の上に立っていた。先程のオリジオンなのだろうか。前のビルドオリジオンの時のことから推察するに、どうやらオリジオンは暴走状態に入ったらしい。

 

「はっはははははははは!俺のモノにならないなら全部破壊してやるまでだぁ!」

「うわっ⁉︎」

 

 オリジオンは自暴自棄になったように笑いながら、両手についた連装砲を乱れ打ちする。オリジオンの身体のサイズがデカくなっているため、同じ攻撃でも威力は先程とは桁違いだ。着弾したところの地面が軽く抉れ、クレーターができていた。

 無闇矢鱈に暴れるフリートオリジオンを見ながら、いつの間にか隣の倉庫の屋根の上に立っていたバルジは大爆笑する。瞬は人ごとの様に振る舞うバルジの方を見て、強く睨みつける。

 

「イイねぇイイねぇ!このまま何もかも破壊し尽くしちゃおうか!最高にイカす展開だと思わないかい皆?」

「んな訳ないだろ……!大勢の人が傷つくかもしれないんだぞ⁉︎ 」

「何水を刺すようなこと言うんだ。いい子ぶってんじゃねーよ雑魚が」

 

 瞬の言葉を聞いたバルジは、さっきまでとはうって変わり、酷くさめたような目つきで瞬を睨みつける。まるで、楽しい場面が些細な失言一つで一気に冷めていくような、それを安易に糾弾するような目で、瞬を見下す。

 瞬にはその目が恐ろしく思えた。今日出くわした2体のオリジオンも、他人を人間と見ていないような目をしていたが、それに近いものを感じた。

 

「俺達は新たな神を作り、全世界を支配する。その過程で亡くなる、多次元宇宙すら認識できない劣等種の2、300億人の命なんか、俺達にはどうだっていいのさ。アリやハエが死んでも悲しむ人間が居ないのと同じようにね」

「劣等種だと……?」

 

 まるで自分は他より優れた存在だと自負するような発言に思えた。荒唐無稽な話だが、ろくでもないことなのは確かだ。バルジは瞬を見て鼻で笑うと、声高らかに言う。

 

「お喋りはここまでだ。さあ殺し合おうぜ仮面ライダー!お前は劣等種の中でもちょっと特別だからなぁ、前座程度には楽しませろよ?」

「くっ……やるしかないのか……!」

 

 瞬はクロスドライバーを装着してアクロスに変身しようとするが、その時、瞬の足元が突然爆発を起こし、瞬の身体を吹き飛ばす。直撃はしなかったものの、爆風に煽られて瞬はゴロゴロと地面を転がされることとなった。

 空を見上げると、髑髏をあしらった悪趣味な戦闘機らしきものが上を飛んでいた。フリートオリジオンの飛ばした艦載機だ。どうやら爆撃を仕掛けてきたらしい。

 

「ぬうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 オリジオンは雄叫びを上げながら、埠頭から離れた海上から、背中から歪に伸びる主砲による砲撃を放ってきた。アスファルトが抉れて破片が降り注ぎ、炎が舞い上がる。瞬達は砲火を掻い潜り、物陰に避難する。

 埠頭のあちこちから火の手が上がり、艦載機と砲撃の音が絶え間無く聞こえてくる。その有り様はまさに兵器。そんなものが暴れ回るのだから、恐怖でしかなかった。

 

「こわいこわいこわい!私の車壊れないよね⁉︎ 」

「まずい、このままだと市街地に被害が及ぶ可能性がある!早く周辺住民を避難させなければ……」

「畜生っ!海の上から砲撃とかズルすぎだろ!」

「空飛んでいけば?アクロスの力に確かあったよね?」

「いやキツイ。アイツ、艦載機までとばしてる。制空権は彼方に奪われちまったんだよ。その中を飛んでいくなんて自殺行為だぜ?」

「どうするのよ一体……」

 

 このままオリジオンに一方的に甚振られるしかないのか、と一行に諦めムードが漂い始めていたその時、潮原提督はニヤリと笑いながら、通信機を取り出した。

 

「提督、一体何をする気で……」

「まあ任せろ。ここは一つ、俺達の底力を見せてやる。だから……ほんと申し訳ないが、あのバルジとかいう奴を任されてくれないか?」

「俺が?」

「出来ればやらせたくないのが本心だが、此方のまともな戦力は今、お前しかいないんだ。じゃなきゃ皆死ぬかもしれない」

 

 やれるか?と、瞬の目を真っ直ぐ見つめながら頼む潮原提督。瞬に、迷いはなかった。

 

「やりますよ。なんで、出来るだけ早くしてくれると助かります」

「……オーケーだ。やってやんよ」

 

 


 

 

 

 同時刻・舞網鎮守府

 

 夕暮れの鎮守府に、突如として鳴り響くサイレン。

 それを聞いた者 —— 遊んでいた者、外から帰ってきた者、休んでいた者、働いていた者 —— 思い思いの日常を過ごしていた艦娘達の顔つきが、一瞬で変わった。

 そして、執務室でそのサイレンを聞いていた吹雪は、サイレンの直後に掛かってきた電話に出る。提督からだった。

 

「司令官、今どこにいるんですか?街の方になんかでかい化け物がいるのが見えるんですけど⁉︎ 」

 

 留守の間にとんでもないことになっていることに驚き、思わず提督に問い詰める様な言い方になってしまう。すると、耳に当てられた受話器の向こうから、切羽詰まった提督の声が聞こえてくる。

 

『今現地にいる!兎に角出撃の時間だ、いけるか?』

「ちょっと……無事なんですか⁉︎ 無茶しないでください。自分から前線に突っ込む指揮官は馬鹿って言ってたの誰でしたっけ?」

『いや俺もこの展開は予想外だったというか……とりあえず、出撃できるか?このままじゃ市街地にも被害がいきかねない。至急急行願いたいところだ』

 

 提督と通話しながら、吹雪は鎮守府の窓から外を見る。窓の端、市街地があるあたりから、煙や火らしきものが小さく見える。あの辺りは確か埠頭のあたりだったはず。たしかに提督の言う通り、危機的状況なのは間違いない。

 となれば、やることは一つ。今こそ、艦娘の使命を果たす時。吹雪は提督の問いに、力強く答える。

 

「……はい、いけます!」

『よし!俺の言う通りにメンバーを集めて出撃してくれ!場所は鎮守府の港から見えるんだろ?』

「見えてます。夜戦の準備は?」

『それも想定しておけ。そろそろ日没だからな』

「はい、では行きます。司令官も無事でいてください!」

 

 通話を切り、吹雪は出撃メンバーを集めるために放送室へと走る。

 

 

 

 —— さあ少女達よ、抜錨せよ。

 

 

 

 


 

 

 

「おいおーい。隠れてないで出てきてくれよ〜?そんなビビりっぷりで仮面ライダー名乗るとか笑っちまうぜ?」

 

 燃え盛る火の海を背に、バルジは挑発を仕掛けていた。囃し立てるように手を叩く姿は、どうみてもそこら辺のイキリ散らしているチンピラにしか見えないのだが、その実は自信に満ち溢れたような雰囲気を漂わせている。自分が負けるはずがないという、絶対的な自信に。

 ガサリと、バルジの前方で音がする。彼は動きを止め、音のした方を注意深く見つめる。すると、物陰からクロスドライバーを装着した瞬がバルジの前に出てきた。その顔は真剣なものだった。バルジはそれに歓喜し、高らかに叫ぶ。

 

「お、やる気か?いいねえ、せいぜい楽しませろよ?」

「なあ」

「あ?」

「こんな馬鹿げた真似をやめる気はないのか?」

「なんで?どうして?俺にメリットないよね?てか悔しかったら力づくで止めればいいじゃねーか。単純な話だろ?」

 

 瞬の言葉が本気で理解できていない様な反応をするバルジ。彼にとっては、それが当たり前になっているのだ。住む世界も、前提となる常識も、なにもかもが違いすぎる。

 バルジは高笑いしながら、地面を蹴って瞬に急接近する。反応が遅れた瞬は、なすすべなくバルジのパンチをその腹に受け、身体がくの字に折れ曲がった状態で後方に吹き飛ばされる。そして、咳き込みながら起き上がる瞬に、バルジはさらに挑発を仕掛ける。

 

「話し合いで解決できるのは幼稚園までだっての!さあ、殺し合おうぜ仮面ライダー!」

「くそっ!結局戦うしかないのか!変身!」

《CROSS OVER!思いを!力を!世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》

《KAKUSEI PIKACHU》

 

 それぞれが変身し、走りながら互いに殴りかかろうとする。その拳は互いの胸板に突き刺さり、両者はその衝撃でのけぞりながら距離を取る。

 バルジは殴りつけた拳を、汚れを払うかの様にもう片方の手ではたきながら、アクロスに問いかける。

 

「お前、ピカチュウ知ってる?国民的電気ネズミなんだけどさ。

「何言ってるんだお前……」

「まあ、お前は転生者じゃないし知らなくて当然か。せっかく俺様の転生特典を暴露してやったのに、それを活かせる知識がなくて残念だ」

 

 アクロスを馬鹿にする様にわざとらしいため息をつくと、バルジ —— ピカチュウオリジオンはバチバチと音を立てながら、高圧の電気を発生させて身体に纏う。

 

「ボーナス問題を無駄にした代償は高くつくぜえ!エレキボール!」

「ぬあにっ⁉︎ 」

 

 ピカチュウオリジオンの全身に纏わりついていた電気が、彼の両手に集中していき、球状の電気の塊を生成する。そして、それがアクロスに向かって放たれる。

 二つのエレキボールは、アクロスの胸部装甲にぶつかって激しく火花を散らす。そして、僅かながらアクロスの身体を痺れさせる。バルジはその隙を見逃さず、今度は腰から首元あたりまでの長さはありそうな、強靭な尻尾を振り回してアクロスに叩きつけてきた。

 

「うわあああっ‼︎ 」

「オラオラどうした!弱いぞ弱いぜアクロスぅ!さっきまでのイキリっぷりはなんだったんだ、ああ?」

「がっ」

 

 倒れたアクロスを挑発しながら、脇腹を蹴りつけるオリジオン。もう少しでアクロスは海に落とされそうだ。ピカチュウオリジオンは、アクロスの顔に唾を吐き捨てると、拳に電気を溜め始める。

 

「はぁ〜つっまんねぇ。期待外れだったぜ……じゃ、早よ死ねよ」

「断る!」

 

 そう叫びながら、アクロスはすかさずツインズバスターを取り出し、銃形態に変形させると、至近距離からオリジオンを撃ち抜いた。

 

「あがががっ⁉︎ 」

 

 予想外の反撃をもろにうけ、ピカチュウオリジオンはひっくり返る。その隙にアクロスは立ち上がって駆け出し、オリジオンから距離を取る。これで形勢は均衡状態に近づいた。アクロスは振り向きながらツインズバスターを構えるが、その時には既にオリジオンは立ち上が始めていた。

 彼は立ち上がりながら嬉しそうに大笑いする。一体何が嬉しいというのだろうか。オリジオンはアクロスを指差しながら叫ぶ。

 

「やるじゃんやるじゃんかぁ!それくらいしてくれなきゃ困る!やられたんだから、このバルジ様も仕返ししなきゃなんねえよなぁ⁉︎ 」

(来るか⁉︎ )

 

 ピカチュウオリジオンは先程以上に激しく笑いながら、辺りに放電攻撃を仕掛けてくる。アクロスはその電網を掻い潜りながら、ツインズバスターを連射しつつ走って距離を詰めてゆく。そしてゼロ距離。ツインズバスターを剣形態にしてから斬りかかるアクロスに対し、オリジオンは電気を纏った拳を振り下ろしてくる。

 その攻撃はお互いに当たり、両者は衝撃でよろけながら後退する。しかし、一足先にアクロスが体勢を整え、ツインズバスターでオリジオンを一閃した。

 

「やるじゃねーかよ。ならもっと本気出さなきゃな?」

 

 斬撃を受けたにも関わらず、ピカチュウオリジオンは先程とは変わらない様子で語りかけてくる。ヘラヘラと笑いながら、剣を振り下ろして無防備となったアクロスを蹴飛ばし、続け様に胴体にパンチを二発打ち込んできた。

 ツインズバスターを取り落としながらも耐えたアクロスは、ピカチュウオリジオンの顔面を殴り飛ばす。しかし、彼は笑い続ける。もはや不気味に思えた。こいつも、まともじゃない。ピカチュウオリジオンは、殴られた頬をさすりながら、歓喜の悲鳴をあげる。

 

「もっとじゃもっとぉ!楽しもうぜ殺し合おうぜ仮面ライダーぁ!」

「なら俺が相手だぁあああああああああああああああああっ!」

「は?」

 

 予想だにしない第三者の声に、ピカチュウオリジオンが間抜けな声を出す。直後、アクロスとピカチュウオリジオンの間に凄まじい勢いで何かが落下してきた。今度は何が乱入してきたのだろうか。瞬は衝撃で発生した砂煙を振り払って視界を確保する。

 その時、怒りに満ちた叫び声が瞬の耳に入ってきた。

 

「見つけたぞバルジイイイイイイイイイイイイイッ!」

「転生者狩り……⁉︎ 」

 

 砂煙を切り裂く様に突撃しながらやってきたのは、毎度毎度、戦いに割り込んでくる転生者狩りであった。今回は、バッタをモチーフにしたと思われる、白と黒のモノトーンカラーのライダー・仮面ライダーアークワンに変身していた。

 

「へぇ……転生者狩りかぁ。お仕事しに来たのか?ご苦労なコッタ」

「よくものうのうと……貴様だけは許さない!貴様だけはあああああああっ!」

 

 今までと比較すると、かなり感情的なように見える。誰が聞いてもわかる、怨嗟の声だった。アークワンは、二本の剣、アタッシュカリバーとプログライズホッパーブレードを構え、突進しながらピカチュウオリジオンを斬り払おうとする。

 

「消え失せろ、外道が!」

「やなこった」

 

 アークワンの憎しみの籠った声と斬撃を軽く一蹴するように、ピカチュウオリジオンは尻尾で攻撃を打ち払うと、そのまま勢いをつけて回し蹴りをアークワンの胴体に叩き込む。

 しかし、アークワンは咄嗟に武器を捨ててオリジオンの脚を両手でがしりと掴むと、そのまま持ち上げてオリジオンの体勢を崩す。オリジオンは「やるじゃねーか」とでも言うかのように鼻で笑うと、手を地面について身体をバネの様に動かしててムーンサルトキックを繰り出してきた。

 

「その手は食わねえ!往生際が悪いんだよテメェは!さっさとくたばれよ!」

「なんだお前、俺に恨みでもあんのか?生憎俺は人に恨まれる様なことした覚えがなくてねぇ」

「惚けるな!貴様のせいで……あいつらが!貴様だけは許さない!」

 

 お互いにヒートアップし過ぎていて、アクロスはついていけなかった。何か事情が有るのだろうが、本人に聞いても答えてくれそうにもないし、

 

「って呆然としてる場合か!」

 

 だが、このまま戦いを黙って見ているわけにもいかない。アクロスは雄叫びを上げながら、落ちていたツインズバスターを拾い、それでピカチュウオリジオンに斬りかかる。

 が。

 

「邪魔するな!」

「うぐあっ⁉︎ 」

 

 戦いを邪魔されて激怒したアークワンが、アクロスの顔面を容赦なく殴り飛ばした。アークワンはそのまま、オリジオンにショルダータックルをかまして突き飛ばし、

 

「そうカッカするなよ。冷静さを欠くと勝てる戦いにも勝てないぜ」

「どの口が言うかっ!

 

 アークワンはドライバー上部のスイッチ・アークローダーを連打しながら、飛び蹴りを放つべく構える。そして、ドライバーから何処か艶やかな、くぐもった音声が流れていく。

 

《悪意、恐怖、憤怒、憎悪、絶望、闘争、殺意》

 

 言葉が紡がれる度に、アークワンの周囲に赤黒いエネルギーのようなものが収束していく。そして、そのエネルギーがアークワンを覆い尽くしかけた瞬間、必殺技が発動した。

 

《パーフェクトコンクルージョン!》

 

 音声と同時に、アークワンが飛び上がる。その余波として放出された赤黒いエネルギー波だけで、戦いの蚊帳の外だったアクロスは大ダメージを受けて吹き飛ばされてしまった。

 それは離れた位置に隠れていた唯達の元まで及び、エネルギーこそ減衰されてダメージはなかったものの、衝撃で発生した突風に必死に踏ん張ることを強いられることとなった。

 

「何が起きてるの……⁉︎ 」

「やばいよコレ……あのオリジオン、まだ暴れる気だよ」

 

 歯を食いしばって踏ん張りながら、湖森が海の方をみる。そこには、未だ離れた位置から爆撃や砲撃を繰り返しているフリートオリジオンの姿があった。しかし、今の仮面ライダー達では太刀打ちできない。

 オリジオンの砲撃が、アークワンが先程まで立っていた位置に直撃する。しかし、アークワンは一足早くキックの体勢に移行を完了しており、爆発を背に、さらに発生した爆風で落下速度をあげて威力を高めながらライダーキックを繰り出してきた。

 

「終わりだバルジぃイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」

 

 ピカチュウオリジオンにキックが当たる。瞬間、先程よりも何倍も強い衝撃波が辺りに撒き散らされると同時に、オリジオンの身体は大爆発を引き起こした。

 その衝撃波は、先程の余波で吹き飛ばされてからまだ起き上がれていなかったアクロスに容赦なく襲いかかり、彼の身体を近くの倉庫の壁に思い切り叩きつけた。全身を鞭打つ様な痛みを堪えながら、アクロスはよろよろと立ち上がる。彼の目には、変身が解けて仰向けに寝転がるバルジと、それを見下ろすアークワンの後ろ姿が映っていた。

 

「……はっ、今回は俺の負けだな」

 

 バルジは、嬉しそうに笑う。予想外の展開だが、暇つぶしにはなったと言いたげな表情だった。

 そして、倒れている自分を上から睨みつけているアークワンに視線を合わせると、嘲笑うかの様に言う。

 

「転生者狩りぃ……次会う時は覚悟しとけよ?本気で殺し合おうや……」

「次なんてない。今すぐ殺してやる」

「アディオス」

 

 そう言いながらバルジが指を鳴らすと、彼の倒れていた地面にジッパーの様なものが現れ、それが開いてゆく。中は完全なる闇。何も見えない。バルジは仰向けに倒れたまま、その闇に溶ける様にして消えてゆく。

 アークワンは逃げるバルジを、怨嗟の声を吐きながら追いかける。しかし、バルジは彼を挑発する様に下品に笑いながら消えてゆく。

 

「待て!殺してやる!殺してやる!お前だけはっ!」

 

 アークワンの叫びも虚しく、バルジが完全に闇に消えたのを合図に、ジッパーは急速に閉じてゆく。そして、アークワンがたどり着いた時には、ジッパーは跡形もなく消えていた。

 アークワンは苛立ちのままに、空に向かって大声で叫びながら地面を強く踏みつける。仮面で素顔は見えないが、その姿は泣き叫んでいる様に見えた。

 

「バルジッ!出てこい!俺がぶっ殺してやるっつっとんだよぉ!」

「お、落ち着けよ……そもそも殺すとかなんとかって、なんだよ。そんな」

「そんなの駄目だと言いたいんだろ」

 

 アークワンは、自身をたしなめようとしたアクロスの言葉を遮る様に、その首元を強く掴む。

 

「ふざけるな!アイツはな、生かしちゃいけない類の人間なんだよ!コイツを殺さなければな、悲劇は繰り返されるんだぞ⁉︎ 」

「俺はお前の事情は知らない。でも、人殺しなんて……」

「もうやってる。屑みたいな転生者を山程な」

「……っ!」

「覚えとけアクロス。復讐の邪魔をする奴は殺されても文句は言えないってことをな」

 

 言いたいだけ言うと、アークワンはアクロスを突き放し、踵を返す。そんな彼の後ろ姿を見ながら、アクロスは何も言えなかった。下手に他人のデリケートな部分について口を出したせいで、彼を怒らせてしまったことについて申し訳ないと思う。彼があんなに激昂するほどバルジに強い憎しみを抱いているという事実に、心を痛めていた。あれ程の憎しみを抱くほどの何かがあったのだろうと推測しながら、アクロスはアークワンの後ろ姿をただ見つめるしかなかった。

 が、事態はまだ収束していなかった。

 アクロスが立ちあがろうとした瞬間、近くで爆発が起きた。またまた爆風で吹き飛ばされ、本日何度目になるのか分からない地面転がりを披露させられる羽目となるアクロス。顔を上げると、夕陽を背に海上に立ち、主砲をこちらに向けたフリートオリジオンの姿が目に入った。バルジに気を取られすぎていて向こうのことを忘れていたのだ。間髪入れず二発目が発射され、手前の海上に落ちてでかい水飛沫を上げる。

 

「うわっ!」

「チッ!面倒臭い奴だ!サイガに変身しても撃ち落とされるのが目に見えてやがるし……」

 

 アークワンの方も決め手にかける様で、離れた位置から好き勝手甚振ってくるオリジオンを睨む他なくなってしまう。これじゃ何も解決していない。

 その時だった。

 

「海の上なら!」

「私達の独壇場です!」

 

 次いで、オリジオンの足元で2つの水飛沫が、爆発と共に引き起こされた。吹雪の後方から、駆逐艦・三日月と江風が現れる。今のは、2人の放った魚雷の爆発のようだ。

 3人の駆逐艦に追随してきたような形で、神通もやってくる。朝とはうって変わり、その顔は真剣そのもの。格好も相まって、歴戦の武士のような雰囲気をだしていた。そんな彼女の耳につけられた通信機を通し、岸にいる潮原提督が話しかけてくる。

 

『おっせえよお前ら!何時間待たされたと思ってんだ⁉︎ 』

「大袈裟な、20分くらいですよ。提督こそ、よくぞご無事で」

『ほんと、命が幾つあっても足らねえよなぁ、この仕事ってのは』

「でも、それが私達の仕事ですから」

 

 そう。命をかけて深海棲艦の脅威から人類と海の平和を守る。それが艦娘と提督の存在意義。悪態をつきながらも、

 

「あれ、昼間のやつなんだよね?前より気持ち悪い……」

「新種の深海棲艦だって紹介されても違和感ないかもな、あれ」

 

 暴走するオリジオンの姿を見て、感想を口にする三日月と江風。確かに気持ち悪い。というかごちゃごちゃしていて悪趣味だ。

 オリジオンは周囲に現れた艦娘達を見て、海そのものを震わせるかのような咆哮を轟かせる。江風はあまりの煩さに耳を塞ぎながらも、鎮守府で好き勝手やってくれたオリジオンに対して、臆することなく啖呵を切る。

 

「うるせえ!だがオリジオンでも深海棲艦でも関係無え!海を荒らすってんなら、どっちもぶちのめしてやりゃあいい話だろうが!」

「んな乱暴な……一応あれでも人間ですからね?ちゃんと生きて罪を償ってもらわなきゃ」

 

 やる気満々の江風に対し、三日月はあくまで相手は人間だとし、殺さずに罪を償わせることを主張する。そんな2人を後ろの方で見つめるのは、軽巡の由良と重巡の加古。加古はオリジオンを不安そうに見つめる三日月に近づいていき、後ろから背中を叩く。

 

「まーまー。兎に角提督が無事でよかった。全速力でかっ飛ばした甲斐があったよな。後はコイツを片付ければ終わりって訳だ」

「そうね。加古さん、準備は?」

「大丈夫だ。古鷹のやつ、こいつの起こした事件の事知るたびに凄く怯えていたからな。ウチの古鷹を怖がらせた代償は高くつくぜ!」

 

 パキポキと指を鳴らしながら、オリジオンを見据える。大事な姉を怖がらせたコイツを、彼女は許せなかった。実際、さっきオリジオンのことを吹雪から知らされた時、古鷹は凄く不安そうな顔をしていた。そんな顔は見たくないのだ。

 6人の艦娘は、海の上に立つ怪人を見据える。深海棲艦でなくとも、海を荒らす存在ならば自分達がなんとかしなければならない。吹雪は真剣な表情で、こう切り出した。

 

「時刻ヒトキューマルマル。これより夜戦に突入します!」

 

 戦闘開始。

 薄暗くなった海を探照灯で照らしながら、目標に接近していく。その動きはさながらスケートでもしているかの様だった。オリジオン側も、雄叫びを上げながら射角を合わせてくる。

 

「がらああっ!」

『敵砲撃が来る、回避!』

「言われずとも!」

 

 オリジオンの主砲が火を吹くが、当たらない。狼狽えるオリジオンだったが、発生した水飛沫を突っ切る様な形で、駆逐艦の3人が先陣を切って接近してきた。

 

「撃てっ!」

「三日月、撃ちます!」

 

 吹雪と三日月が、連装砲を発射する。オリジオンはそれを避けることなく、もろに受ける。理性を失って回避行動さえ取れなくなったのか、それとも駆逐艦ごときの攻撃なんぞ痛くも痒くも無いとでもいいたいのかは分からない。だが事実として、オリジオンは攻撃を受けながらも砲身を吹雪達の方に向けてくる。

 

「そこ離れて!」

 

 が、間髪入れずに神通が両者の間に割って入り、至近距離から砲撃を仕掛ける。主砲は発射寸前で射角がずれ、あらぬ方向に火を吹く。もちろん、吹雪達には当たらない。ダメ押しとして、神通は後退しながら魚雷をばら撒いていく。轟音と共に、何本もの水柱が立て続けに上がっていく。どうやら、向こうも魚雷で応戦したが為に、半分以上は相討ちの形で爆発したらしい。

 神通達は、一旦オリジオンから距離をとりながら作戦を考える。オリジオンは、彼女達を逃すまいと咆哮を轟かせながらその後を追ってくる。

 

「おっといかせねーぞ?」

 

 しかし、横から砲撃を受けてフリートオリジオンはひっくり返る。攻撃したのは加古だった。普段の物臭な態度とはうって変わり、その目は獲物を狩る猛獣の目付きだった。

 加古はオリジオンの攻撃を的確に躱しながら、敵の探照灯目掛けて機銃を放つ。敵の明かりを絶つのは夜戦の常套手段。オリジオンは視界を確保しづらくなり、加古への攻撃も当たらなくなる。

 

「鎮守府で好き勝手やってくれたお返しをしてやるぜ!」

 

 加古はそう豪語しながら、主砲を放つ。それはフリートオリジオンの胴体に見事に命中し、発生した炎がたちまち彼の全身を覆っていく。

 一方、一旦オリジオンから離脱した神通達は、

 

「まずはあのごちゃごちゃした外装を剥がす方がいいかもしれません。あのごちゃごちゃ具合だと、攻撃すれば案外簡単に装備を外せると思いますので、まずはその辺りを中心に狙いましょう」

「なるほど……わかりました!」

「敵魚雷、来ます!」

 

 三日月の警告に従い、一斉に離れる3人。一方、幾多もの水柱が上がる中、江風は果敢にフリートオリジオンに挑んでいた。

 

「はっ!この江風サマの出番だな!オラオラかかってこいヤァ!」

「そこ!勝手に先行しないで!爆撃来ます注意して!」

 

 夜戦に心躍って先行する江風を諫める由良。それを聞いて江風は航行を止める。すると、江風の真前に砲弾が着水し、爆発を引き起こした。

 由良の判断が早かったが為に、水飛沫をもろにかぶりながらも、なんとか被害は最小限に抑えられた江風は、改めて艦としてのフリートオリジオンのやりたい放題っぷりに悪態をつく。

 

「ぶはぁっ!無茶苦茶だろコイツ!レ級以上にやってること無茶苦茶だ!」

「駆逐艦なのか空母なのか潜水艦なのか戦艦なのか……ああまどろっこしい!全部合体させりゃいいってもんじゃないでしょうに!」

 

 高角砲を撃ちながら、由良も珍しく声を荒げる。普通、こんなてんこ盛りミックス丼みたいなコンセプトの兵器を相手取る機会は無いため、余計に鬱陶しく感じる。

 しかし、オリジオン自身の実力はそんなに高くない。事実、吹雪達は攻めあぐねてはいるものの、相手の攻撃はただ闇雲に周囲に当たり散らしているだけであり、艦隊への損害はそんなに出ていない。つまるところ、折角のスペックを活かしきれていなかった。

 というか、装備がゴタゴタと付きすぎているせいなのかは分からないが、見た目ほど装甲も硬く無いので、吹雪達からすれば、ちょっと厄介だけど放っておいたら被害がえらいことになる面倒臭い敵、という感じに見られていた。

 

「アタリィ!」

 

 加古の砲撃が命中し、オリジオンの単装砲が爆発して砕け散る。フリートオリジオンはそれに激怒し、加古目掛けて黒煙を吹き始めている連装砲を構えるが、すかさず江風が接近してそこに攻撃を加えた為に連装砲も壊され、攻撃は不発に終わる。

 江風はさらに攻めようとするが、ここでアクシデント。

 

「ちっ、弾切れか」

 

 弾切れである。オリジオンが無駄にタフだった為に、予想以上に弾薬を消費してしまったらしい。江風は悔しそうに舌打ちすると、少し離れた位置で、魚雷を躱しながら連装砲による攻撃を続ける吹雪の方に近づいていく。

 フリートオリジオンが絶叫する。どうやら、殆どの武装を壊されてまともに攻撃できなくなったらしい。唯一使える魚雷も弾数は僅か。主機も煙をふいており、徐々にその足は沈みつつあった。それを好機と捉えた江風は、すかさず吹雪に提案する。

 

「吹雪、お前まだ魚雷残してるだろ?ならお前が行け。アイツにいいとこ見せてやれよ、な?」

「江風ちゃん、あとは任せて」

 

 吹雪は力強く頷くと、江風に背を向け、攻撃手段を失ったフリートオリジオンに、全速力で向かってゆく。昼間のツケを、今返す時だ。

 

「いっけええええええええええええええええええええええっ!」

 

 叫び声と共に発射される吹雪の魚雷。駆逐艦の一番の強みでもあるそれは、発射された直後にいったん潜ってから、調定深度まで浮上しながら目標目掛けて突き進んでいく。

 目標たるオリジオンは満身創痍。脚部の主機からは黒い煙が立ち上り、その機能は損なわれつつある。要するに、海上での移動能力を失いつつあった。もう、避けられない。チェックメイト、オリジオン側の勝機は潰えた。

 着弾と同時に魚雷の信管が作動し、魚雷が炸裂する。

 

 

 そして。

 水柱を高く噴き上げながら、爆ぜた。

 

 


 

 

 

「すげえな……パねぇ」

 

 アクロスは、吹雪達の戦いの一部始終を見ていた。

 この戦いについては、海の上で戦う手段を持たないアクロスは完全に蚊帳の外であり、彼女達に任せる他無かったのだ。

 しかし、艦娘達の強さはアクロスの想像を遥かに超えていた。あれは確かに凄い。彼女らのおかげで海の平和が保たれているのも、なんだか納得がいくように思えてきた。

 

「すごいよな、あれ……」

 

 アクロスはアークワンに話を振ろうと後ろを振り返る。しかし、すでに転生者狩りの姿はどこにも無かった。

 

 

 


 

 

 

 

 とあるビルの屋上。色鮮やかな夜景を一望できる絶景スポットともいえるようなその場所に、ギフトメイカーの面々は集まっていた。屋上の縁から足を投げ出して腰掛けるバルジは、仮面ライダー達との戦いにより満身創痍であったが、彼はそれを気にも留めず、ただ不敵な笑みを浮かべて無言で街を見下ろしている。

 そこから少し離れた、屋上階段の近く。そこに、同じくギフトメイカーであるレイラ・リイラ・レドの3人は(たむろ)していた。その中で、初めに口を開いたのはレイラだった。

 

「今日も駄目だったか。まあ私はハナから転生者には期待していないからな」

「そこは期待しようよ。一応君もギフトメイカーなんだからさ」

「そーいやさあ、今日倒された二人をオリジオンにしたの、レドよね?なんであんな奴をオリジオンに覚醒なんかさせたワケ?ただの性犯罪者でしょ」

 

 レイラの駄目だしにレドが突っ込む一方、リイラがごもっともな意見をあげる。レドはやれやれ、といった感じに肩をすくめながらため息をついた。

 

「いやーまさか彼処まで拗らせてるとは思ってもみなかったわ。あんなわかりやすいモブオジサン属性、いるものだね……あー気持ち悪かった!帰ろうか、ティーダが煩くならないうちにね」

「……個人的には、アイツがくたばってくれて清々したが」

「うわーレイラも辛辣ぅ」

 

 ボロクソであった。事実なのだから仕方がない。リイラとレイラも、女性としてはあんな奴は願い下げらしい。もっとも、今の彼女達も同レベルな存在なのだが。

 しかし一人だけ、満身創痍のバルジだけは違った。彼は品のない笑い声をあげながら、得意げに自論をぶちまける。

 

「でも、あれくらい欲に素直な奴の方が御しやすいだろう?俺様は結構好きなんだよなぁ……ヒャヒャヒャぁ!」

「あれは完全に女の敵よ。いくら私でもあれは願い下げ」

 

 リイラはバルジの意見をバッサリ切り捨てると、足早にその場を離れる。レドとレイラも、彼女の後につづいて屋上から立ち去っていく。ただ一人残されたバルジは、

 

「にしても、あの坊主……俺様を殺そうって魂胆か……笑えるぜ。負け犬風情が一丁前に復讐者気取りとか調子乗んなっての。大人しく這いつくばってろ、死に損ないが」

 

 バルジはそう言うと、ズボンのポケットからあるものを取り出す。それはどうやら、CDのような形をしている。淡い緑色の光を放つそれには“igalima“と刻印されている。バルジはそれを舌でなぞる様に舐めると、邪悪な笑みを浮かべながら、街を見下ろす。

 

「次は本気でいかないと、なぁ?」

 

 

 

 


 

 

 

 翌朝 舞網鎮守府・休憩室

 

 オリジオンに変身していた男達は、2人で合わせて強姦殺人に拉致監禁、暴行・公務執行妨害・不法侵入・猥褻などといった罪により逮捕された。夕方の件は普通の深海棲艦との戦いということでなんとか誤魔化した。2人とも反省の兆しが見られないし、そもそも被害者の数が結構多かったので、かなり罪は重くなるだろう。

 新聞でそれについて読んでいた潮原提督は、ミルクたっぷりのコーヒーを一口飲み、ため息をついた。それは、なんとか今回も乗り切れたことからくる、緊張が解けたものであった。提督になってから、幾度となく艦娘達を出撃させてきたが、やはり緊張してしまうものだ。そればかりは慣れない。

 と、そこに吹雪がやってきた。壁にかけられた時計を見ると、そろそろ仕事に取り掛かるべき時刻だった。

 

「司令官、そろそろ執務室に向かいましょう。仕事の始まりですよ」

「分かってる分かってる。ほんじゃ、今日もいきますかね」

 

 吹雪に促されるがまま、空のマグカップと読みかけの新聞をテーブルの上に残し、潮原提督は執務室に向かう。今日も面倒な書類仕事が沢山あるのだ。昨日はあまり進まなかったから今日は頑張らなくては、と頬を叩いて眠気を飛ばすと、執務室の扉をあけた。

 すると。

 

「なーんで私を行かせなかったのさ⁉︎ 夜戦だよ夜戦!この川内サマを使わないなんてどーゆー了見さ⁉︎ 」

「さっきから川内ちゃん(これ)がうるさくてさぁ」

「姉をコレ呼ばわりすんのか……」

 

 潮原提督と吹雪が執務室に入ってくるなり、先に来ていた川内が抗議してきた。後ろの方では那珂や江風、瑞鶴が呆れた顔をしている。昨日バルジに艤装を壊されたせいで大好きな夜戦がお預けになったことが、よほど不服だったのだろう。

 喚いている川内に、呆れた様に瑞鶴が突っ込む。

 

「仕方なかったでしょ。あの化け物に私達の艤装は壊されてたんだから。それとも何、装備が壊れた状態で出撃して轟沈(しず)められたかった訳?」

「そ、それはそうだけど……」

 

 瑞鶴の正論にたじろぐ川内。たしかにそれは嫌だろう。川内も他の皆も、提督もそれを望んじゃ居ない。潮原提督は、川内をたしなめながら書類仕事を済ませるために机に向かう。

 

「過ぎたことを考えてもしゃーなしだ。一件落着だからいいじゃないか、なあ吹雪?」

「相変わらず能天気ですね……ま、司令官のそんなところが好きなんですけどね」

 

 おうおう勝手に惚気の雰囲気出すな、と瑞鶴と川内は吹雪と提督を睨みつける。やるならよそでやれ、と言いたくなるものだ。

 と、その時、執務室の扉が勢いよく開かれ、なんかキャラのイメージが粉々にぶっ壊れるような表情をした神通が入ってくる。

 

「川内姉さん、提督!見つけました!今日は私の訓練に付き合ってもらいますよ!」

「手に持ってるマイクロビキニは何⁉︎ 何処から調達したの⁉︎ 」

「如月ちゃんから拝借しました!サイズのことは気にしないでください!寧ろキツキツの方がそそるんで。さあ!」

「さあ、じゃないし!そんなん着るくらいなら那珂のファンやめるし!」

 

 逃げる提督と追う神通。昨日と同じドタバタが始まり、吹雪はまたまた頭を抱えることになった。江風と瑞鶴も、呆れ笑いしながらその光景を見つめる。

 

「出撃時は格好いいし先輩艦娘としては頼りになるんだけどなぁ……」

「平和ねぇ平和。夜戦馬鹿にはいい薬よ」

「瑞鶴さんェ……」

 

 今日も賑やかに鎮守府は廻る。

 それが彼女達の日常なのだから。

 

 


 

 

 

 

 数日後

 

 学校に向かう途中、瞬はアラタ達ど出会った。

 

「2人とも無事に退院出来て良かったね」

「おう、欠望アラタ完全復活だぜ!」

 

 オリジオンにボコられたアラタは完全に復帰していた。怪我が治ったことをこれ見よがしに見せつけるように、様々なポーズをとるアラタに、瞬達は呆れながらも素直に怪我の完治を祝う。

 アラタの後ろには、同じく怪我が治った大鳳が。彼女は普段と変わらないように見える。

 

「もーアラタ、病み上がりなんだからはしゃがない」

「別にいいだろ?今日は退院祝いで帰りにファミレスにでも寄ろうぜ!」

「いやそれ普通入院してた側が提案することじゃなくない?」

「それもそうね」

 

 アラタは瞬の方を向くと、深々と頭を下げる。

 

「逢瀬、ありがとう」

「俺は友達を助けただけ……いや、今回は何もしてねーよ。やったのは……ほら、アイツだよな大鳳」

 

 そう、今回は瞬は何も出来ちゃいない。今回のMVPは舞網鎮守府の皆と、もう一人。

 

「セラ、だったかしら。彼女がいなければ、私はさらに酷い目に遭わされていたわ」

「それにしてもあの子、何だったんだろうね?」

「ああ……無事ならいいんだけどな」

 

 瞬と唯は、大鳳を救った一人の少女について、想いを馳せながら満天の快晴の空を見上げた。

 あの時、大鳳を助けてくれたという、唯に似ている(と何故か感じてしまう)謎の少女。あの後、崩れ去る建物のなかで別れてしまったが、彼女は果たして無事なのだろうか。無事だったら、今度はじっくりと話をしてみたいと瞬は考えていた。彼女には訊かねばならないことが幾つもあるのだ。

 

「うわ!カラスの糞かけられた!」

「何やってんだよ志村!うわばっちい」

「どうしようどうしよう!」

「いや来ないで……マジで勘弁して」

 

 と、その時。あたりが騒がしくなる。なんか志村がカラスに糞をひっかけられたらしい。白くべっちゃりしたものが思い切りかかっているが、どうするんだ一体。

 カラスの糞を頭に落とされパニクる志村をどうにかすべく、瞬と唯は慌てて駆け寄っていく。彼らに続いて向かおうとしたアラタだったが、ふとその足が止まる。そして、遠くなってゆく大鳳の背中を見つめる彼の心の中に、一つの、強い思いが膨らみ始める。

 

(俺は……何も出来なかった)

 

 それは後悔だった。

 押し殺していた後悔が、今になって溢れ出してきた。あの時、大鳳を助けられずに彼女を危ない目にあわせてしまった。それは自分が無力だったからに他ならない。

 今回は瞬や潮原提督達のおかげで助かったのだが、その事実が余計に悔しく思えてきた。自分は何も出来ちゃいない。大切な人一人さえ自分の力では守れやしない、無力な存在。その悔しさが、少年の心の中で一つの渇望に変化する。

 

(力が欲しい……大鳳を……大切な人達を守る力が……!)

 

 歯を食いしばりながら、再び歩を進めるアラタ。

 少年の心に暗雲が、立ち込め始めていた。

 

 

 




なんか変な奴でましたね(他人事)。SFなのかファンタジーなのかハッキリしやがれ。
そしてまたまた唯に似ているらしい少女。完全にアレの影響受けてますねぇはい。

艦娘達の戦闘シーンは苦労しました。
ズブの素人なものですから……正直言ってアズレンでも結構苦労しそうっすわ。

次回は結構色々と話が進む回です。


おまけ


今回の敵。

フリートオリジオン
名前:児玉玲太郎
前世名:畑口啓介
転生特典:艦の力

「艦隊」の名を冠するオリジオン。
艦娘と同種の力とされているが、いかんせん本人が使いこなせておらず、海上戦では練度の高い舞網鎮守府の面々に手も足も出なかった。

非常に傲慢な性格で、おまけに極度の女性軽視主義者(ミソジニスト)。前世も自分の性格のせいで孤立していたが、全然成長していない。エロ同人誌の竿役のような言動を平気でするのでギフトメイカーからも内心嫌われていた模様。


デモンオリジオン
名前:木嶋海吉
前世名:成宮大希
転生特典:鬼(鬼滅の刃)の力

力だけをもってるので、鬼としてのデメリットはまるで無い。
この辺地雷オレ主あるあるのご都合チート味がありますねえ!
ちなみに転生特典はぜんぜん使いこなせてない。能力的には血鬼術も使える筈なのだが、練習をろくにしていないので使えず、基本的に力押ししか出来ない。結局アクロスにより強大な力押し戦法でやり返されて呆気なく撃沈。弱いぜ!

前世はナルシストを拗らせたブサイク独身男。自分勝手で本人の事情を全く考えずに女性にアタックしまくったりしていた。気持ち悪い(直球)


ピカチュウオリジオン
名前:バルジ
前世名:???
転生特典:ピカチュウ

某電気ネズミの力を宿したオリジオン。強力な電気攻撃が持ち味だが、作中ではバルジが終始手を抜いていた為、あっさりと撃破された。

しかしバルジはまだ奥の手を残しているようで……?
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