【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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漫画とかでよくある部活回。まともな活動はしない。


めだ箱編……になりますが、ほとんどオリキャラメインの回になります。HSDD編で話数を無駄遣いしたからね。話を進める為には仕方がないんだよ……まあそれでも、頑張ってキャラ崩壊を回避します。時系列的には喜界島登場の手前くらいになります。


第18話 「俺だってやればできるんだ」

 生徒会室にて。

 黒い制服に身を包んだ生徒会庶務・人吉善吉(ひとよしぜんきち)は、目安箱から取り出した投書を開き、中身を確認する。

 

「今日の依頼は……これか」

「そーだな。2年1組、九瀬川(くせがわ)ハル。漫画研究部唯一のメンバー。大方、部員探しを手伝って欲しいと言ったところかな。部活存続の為には、部員三人以上が必要条件だからね。今月中に部員が集まらなければ即廃部だし、焦るのも道理だ」

 

 長々と説明台詞を言ってくれたのは、生徒会書記・阿久根高貴(あくねこうき)。紆余曲折あって柔道部から生徒会へと移籍したイケメンである。めだかに憧れて彼も胸元を曝け出しており、校内の女子からは鍛え上げられた胸板がセクシーだとか言われている。ちなみに善吉とはしょっちゅう張りあってるぞ!

 

「いや待ってくれ。今月中って……今週いっぱいで4月は終わりだし、週末からはゴールデンウィークだぞ?無理じゃないかそれ」

「いいや善吉。無理ではない。やるんだよ。それが私達、生徒会執行部だ」

「ははースパルタだあ……僕も負けてらんないなこりゃ」

 

 弱音を吐いた善吉を諌めるように口を出したのは、生徒会長・黒神めだかであった。

 容姿・頭脳・身体能力・地位・金・名誉etc(エトセトラ)……それら全てを併せ持った完璧超人である。彼女は涼しい顔をして椅子に座って紅茶を飲みながら、善吉から渡された投書に目を通す。

 

「漫画研究部の部員集めを手伝って欲しい、か。今回は比較的まともそうだな」

「なんでも、現時点で部員が依頼者の九瀬川2年のみのようでな。善吉、此処に任意の部に入っていない生徒のリストを作ってあるから、依頼者への顔合わせの後にそれを元に当たって欲しい」

「そっちはどうするつもりだ?」

「決まっているだろう。正門前で勧誘だ。下校時間が近いし効果的だろう。善吉は放課後に漫研部室に向かって欲しい。私は一足先に向かうことにするよ」

 

 そう言うとめだかは足早に生徒会室を抜けて行ってしまう。相変わらずの行動力の塊だな、と善吉は呆れ笑いをする。阿久根はすれ違いざまに、そんな善吉の肩にポンと手を置き、同様に部屋を出ていく。

 

「僕も別の依頼があるからね、それじゃあ頑張りたまえ」

「あ、おい……行っちまいやがった」

 

 2人がちゃっちゃと出て行ってしまい、生徒会室に1人取り残された善吉は頭を掻きながら、風に煽られ床に落ちた投書を拾う。

 

「……あれ?」

 

 善吉は、生徒会室を見渡してみる。部屋の至る所には、めだかが持ってきた花が飾られている。それは普通なのだ。しかし、先程妙な違和感を感じたような気がする。それが何だったのかは善吉には分からないが、少なくとも看過していいものではないような……。

 

「……まあ、今更何言ったって遅いか。しゃーないやるっきゃないか」

 

 気のせいだろう。きっとそうだろう。善吉はそう思い込む事に決め、生徒会室を後にする。

 

 

 色々と規格外の生徒会長・黒神めだか。

 今日も張り切って仲間と共に生徒会を執行するのであった。

 

 


 

 

 

「え、普通に嫌なんだけど……」

「ですよね。それが普通の反応ですよね」

 

 話を聞くなり、速攻で断る逢瀬瞬。思わず善吉も相槌を打ってしまう。

 とりあえずしらみ潰しにやっていこうと、手始めにリストの頭に名前があった瞬の所に来たのだが、こうも即断られると頷く他なくなってしまう。

 

「いやだから俺は部活動なんてやらないし……てか唯やアラタを待たせてるから行かなきゃならないし……」

「幽霊部員になってもいいから、せめて入部届くらいは出してくださいよ。去年も出してなかったみたいですね。先生ボヤいてましたよ」

「部活動を強制するなよ……続けられる自信がないんだよ。幽霊部員予備軍が入ったって迷惑なだけだろ?」

 

 瞬がそう言うのは、こんな理由があった。彼は中学時代、唯に半ば強引に陸上部に入れられたのだが、バリバリの体育会系な雰囲気が合わなかった為に次第に幽霊部員化し自主退部。その時にヘンにサボり癖がついてしまい、高校では帰宅部になってしまったのだ。ちなみに理由は知らないが瞬が退部した際に唯も一緒にやめている。

 だいたい最近は仮面ライダーになって色々と大変なのだ。部活なんてやってる余裕がない。

 

「本人はそれでもいいって言ってるみたいなんだ。話くらい聞いてあげてもいいんじゃ?」

「……そこまで言うなら話くらいは聞いてやるか」

「それならこれからその部長と話をしにいくから、ついてきて下さい」

 

 こりゃ話を聞くだけ聞いた方が早く済みそうだと判断した瞬は、渋々善吉の提案に乗っかることにした。それに話を聞いてしまった以上、このまま無視して帰るのもなんだか気分が悪い。話だけ聞いてやる、後は知らんと決意し、善吉に案内されるがまま歩いていく。

 辿り着いたのは、旧校舎に繋がる渡り廊下の手前にある一室。扉には「漫画研究部」と乱雑な手書き文字で書かれた紙が貼られている。2人が扉の前に立つと、部屋の中から声が聞こえてくる。

 

「おー早い。早速部員候補を連れてきたのですね」

「九瀬川ハル先輩、俺です。生徒会庶務の人吉善吉です。てか扉越しによく分かりましたね」

「九瀬川……確かクラスにそんな苗字の奴いたっけな」

 

 流石に半月近くたてばクラスメイトの顔と名前はだいたい一致してくる。瞬の知っている九瀬川ハルという少女は、いつも教室の隅で1人でいるような、ザ・陰キャですと言わんばかりの女の子だ。話した事がないので、それはあくまで主観的なものになるのだが。

 善吉が入室していいかを訊く。流石に文系の部活動ではあまりないかもしれかいが、ひょっとしたら中で着替えている最中かもしれないからだ。善吉はこの手の展開の前例(めだか)を既に経験している為、余計に慎重になってしまう。

 

「OK、ベリーOK。入ってきても構いません、私も準備が済んでますので」

 

 中から、マイペースな印象を与える声が応答する。それなら大丈夫だ、と善吉は扉を開ける。そこには。

 

 

 

 

 部室の真ん中で、紺色のスクール水着が煌めいていた。

 

 

 

「え?」

 

 瞬よりも頭一つ分くらい小さなショートボブの少女が、スクール水着にニーソックスというクソみたいにマニアックな格好で机の上に尻を預けている。

 善吉ともども困惑していたが、2人ともやっぱり健全な男子高校生であることには変わり無い為、顔を赤くして彼女から目を逸らし、回れ右してこの場をさろうとする。

 

「……帰ろう」

「いや待ってくださいお願いします何にもしませんけど!」

 

 

 


 

 

「いやだって、スク水って着てるとめっちゃ気持ちいいし興奮しますし、何より可愛いじゃないですか!女子たるもの、自分の可愛いと思う心を大切にしなければいけないと私は常日頃から思ってる訳でして」

「いやだからって常時着用してる馬鹿はお前くらいしかいねーよ。てか制服着てくれ。俺らまで変な目で見られる」

「なんでそんな事する必要があるんですか(正論)」

「暴論でしかないわたわけが」

 

 その後もスク水ニーソ姿のまま、平然とスク水について熱弁するハルに対し、瞬も善吉も冷めた目を向けるしかなかった。というか、それ以外にどうしろというのだ。

 というか、これが幻覚ではないという事実がおぞましい。てっきりマイペース文系女子だと思っていたのが、ガチでやべー変態だったというギャップに二人は打ちのめされていた。本人は全く恥じらっていないようで、今の自らの姿を年頃の男子二人にこれでもかという程見せつけてきている。そもそもの話の趣旨が完全に行方不明になってる有様だ。

 

「貴女もスク水ニーソって興奮しません?」

「話逸らさないの。てか廃部の危機じゃなかったっけ?この調子じゃ潰れていいんじゃないですかねこれ。というかその方がいいんじゃないかと思ってるんだけど、別に間違ってないよね?」

「それは困ります!早くなんとかしなければ……後一人は入りますね、部員。そこの黒髪の人は入部決定としても、当てがないんですよね」

「いや俺入るって言ってないんだけど。それにスク水姿のまま話進めようとするんじゃないよもう」

 

 勝手に入部確定されてた瞬。なぜ自分の周りの人は、こうも人の話を聞かない奴ばかりなのだろうか。コミュニケーションというものに対する認識がどっかズレてるとしか思えない。

 というかさっきからスク水が気になって仕方がない。ハルは別段スタイルがいい訳ではないのだが、それでも健全な一男子生徒にとって、クラスメイトの水着姿は凄まじい劇物なのだ。おまけにそれを臆することなく見せびらかしてくるのだから、瞬と善吉の逃げ場はどこにもなかった。

 このいかがわしい雰囲気をなんてかせねばと、頭をフル回転させる善吉。すると、あることを思い出した。

 

「そういえばめだかちゃんは?先に来てる筈なんだけど」

 

と聞く。そういえば先に行ってるとか言っていたが、この部屋にはいないようだ。

 

「会長さんならあそこっすよ。ほら」

 

 ハルが中庭に面した窓を指差す。そこには。

 

 

 バニースーツ着てビラ配りしている生徒会長の姿が。

 

 

 

「いや何してるんだあれええええええええええええええええええええええええええ!」

 

 ハル以上の劇物が野外にいやがった。いや何やってるんですかあの人。やっぱりまともじゃないやんけ生徒会。

 

 

 善吉と瞬は急いで部室を飛び出すと、階段を駆け降りてめだかの元へ走っていく。彼女もこちらに気付いた様で、善吉の顔を見るなり声をかけてくる。

 

「おお善吉、遅かったな」

「何してるんだお前。いや大体分かるけど何してるんだお前」

「決まっているであろう。勧誘だ」

「10年以上前のライトノベルみたいなノリはよせ!てかそんな格好でアンタ少恥ずかしくないのかよ⁉︎」

「いや……昔から露出癖ぽかったからなぁ。てかその服、何処から調達したんだ?」

「私の私物です。買ったのはいいんですが、胸周りのサイズが合わなかったのでどうしたものかと思ってたのですが……」

「ええ……」

 

 瞬達の後から付いてきたハルが補足説明をする。流石に水着のまま外に出るような真似はしなかったらしく、ちゃんと制服に着替えてきている。

 その時、ハルのスカートのポケットから何かがヒラリと落ちる。ハンカチかな?と思いながら瞬はそれを拾い上げる。が、なんか違う。ハンカチにしては変な形だし妙にヒラヒラしてるし ——

 

「あら大変。パンツ落としてしまいました」

「ファッ⁉︎ 」

 

 ハルのカミングアウトに動揺した瞬は、慌てて手に持ったパンツをその場に投げ捨てる。いや待て、ここにパンツがあるということは、必然的にハルは今履いていないということになるのだが、それは大丈夫なのだろうか。

 と、そんな瞬の疑問に応えるように、ハルはスカートをたくし上げ、その中を見せつける。そこにあったのは肌色の秘部ではなく、紺色の布 —— 要するにスク水だった。

 

「安心してください。下にスク水着てるので」

「何にも変わってねぇ!ただ着込んだだけじゃねーか!一体何がお前をそこまでスク水に入れ込ませてるんだ⁉︎ 」

 

 瞬は思わず頭を抱えてしまう。まさかここまで変態だったとは。この学校の風紀は大丈夫なのだろうか。顔を上げると、善吉も瞬と同じように呆然としている。それを見た瞬は「よかった、この人はマトモだ」と妙な安心感を抱いてしまう。

 と、そこによく知ってる顔どもが現れた。

 

「何してるの瞬」

「逢瀬くんじゃないか。遅いから迎えに来たよ」

「俺と大鳳の退院祝いにファミレス奢る約束はどうしたんだよ」

「馬鹿が釣れた……」

 

 先に行っていたはずの唯達が、中々やってこない瞬を心配してこちらに来てしまった。要するに、なんだかんだでいつもの面子が揃ってしまったのだ。

 

「で、何なのこれ。どんなプレイ?」

「生徒会長さんをバニー姿にして、一体どんな羞恥プレイよ?」

 

 どこをどう解釈したらそうなるんだ。勿論、瞬には見ず知らずの他人をバニーにして侍らせる性癖はない。変な勘違いをしている女性陣に、事情説明を兼ねて必死で弁解し、なんとか誤解を解く。

 事実を粗方理解した唯は、数秒ほど腕を組んで考えた後、こんな事を(のたま)い始めた。

 

「なるほど、なら皆で入部しようか」

「だからなんで俺を巻き込む訳⁉︎ 」

「瞬と一緒ならどこでもオッケーなのだよ私はね!」

「適当オブ適当だよなお前!」

 

 瞬は説明したことを軽く後悔した。お人好しの唯が潰れかけている部活動を放って置ける訳無いと分かっていたのに、だ。

 

「それは有難い。あ、技術面に関しては問題なく。私がばっちり指南しますので」

「アラタ達も入ろーよそうしよーよ?」

「悪いようにはしません。皆私がスク水の道に導いてしんぜよう」

「マンガじゃねーのかよ⁉︎ てかそれなら漫研じゃなくてスク水研にでも名前変えてしまえ!」

 

 もうその方が本人にとっても幸せなんじゃないだろうか。

 瞬はあまりの馬鹿馬鹿しさに、完全に投げやりになっていた。

 

「これぞ青春、だもんな」

「オッサン臭い事言うなっての。お前も十分若造だろーが」

 

 そんなバカ騒ぎを眺めながら、みょーにオッサン臭い台詞を口にするアラタ。

 その傍らで、ハルが新たに通りすがりの学生に声を掛ける。

 

「おーいそこの貴方、漫研に興味なーい?」

「へえ、漫研かあ」

 

 意外にもすんなりと勧誘に乗っかってきた。白い髪の、温和そうな少年だ。というか、制服スク水姿の変人の勧誘にあっさり応じちゃう時点で、彼の将来が不安になる。

 少年は、バニー姿のめだかを見て一瞬びっくりしたような顔をした後、彼女の持っていた勧誘用のビラを遠慮がちに受け取る。

 

「生徒会長さん……ですよね?その格好は一体……?」

「ちょいと頼まれて勧誘を手伝っている。どうだ、貴様も入る気はないか?」

 

 部活の勧誘なためにバニースーツ着てる美少女なんか普通はいねーよ、と心の中で突っ込む善吉。いや確かに映える絵面だけども、だとしてもシチュエーションが全然合ってないと思うのは間違いではないはずだ。

 ビラを受け取った少年はというと、刺激的なめだかバニーから目を逸らしながら、勧誘に対する答えを述べる。

 

「えーっと、そうですね……なら、ひとまず見学させてもらえないでしょうか。僕はもう2年ですけど、部活選びは失敗したくないですからね」

「見学つっても、まともな部員はこの変態だけだぞ」

「え、貴方は違うんですか。てっきり皆さんそうなのかと……」

「その通りだよ、私は漫画研究部副部長の諸星唯さ!」

 

 どうやらハルの中では瞬の入部は確定事項らしい。唯に至っては、勝手に副部長に就任してる始末。さらに他の面々も、どうやら入部の方に気持ちが傾いてきている模様。

 

「アラタ、どうするの?私は面白そうだなーって思うんだけど」

「一度はクリエイター側の立場に立ってみたいというのも分からなくもない。俺的には異論はないぞ!」

「文系の部活なら、僕も邪魔にならないかも」

 

 あ、コレ逃げ場無くなったわ。そう判断した瞬は、無駄な足掻きをやめて大人しく勧誘を受け入れる事にした。

 

「あー分かったよ。俺も入ればいいんだろ」

 

「それじゃあ僕達はこれから皆仲間ですね。僕は無束灰司(むつかはいじ)。宜しくお願いしますね、逢瀬くん」

「お、おう宜しくな」

 

 灰司と名乗った少年は、瞬に握手を求めて手を差し出す。途中から勝手に事が進み、半ば蚊帳の外になっていた生徒会の2人も、ひとまず依頼が片付いた事に安堵する。

 

「うむ、これにて一件落着だな!」

「今回あんまり俺達の出番無かったな……まあそれが一番いいんだろうけど」

 

 その時、学校のチャイムが鳴る。善吉はそれを聞いて右腕につけられた腕時計を確認する。

 

「あ、そろそろ次の依頼人の所に向かわなきゃならねーな。悪い、俺はここでお(いとま)させてもらうぜ」

「私もだ。諸君らも学園生活を存分に満喫してくれ。では!」

「あ、後でそのバニーは返してくださいねー」

 

 めだかは別れの挨拶を済ませると、バニー姿のまま目にも留まらぬ速さで去っていってしまった。生徒会って忙しいんだな、と思う反面、ずいぶんと強烈だけどアレでいいのかね、と不安に思う瞬なのであった。活躍は噂に聞いていたが、実際会ってみると色んな意味でインパクトが濃い人物だった。

 めだかと善吉が居なくなったのを確認したハルは、瞬達の方を向いて興奮気味に言う。

 

「早速部室に参りましょうか。スク水の素晴らしさとマンガについてレクチャーしましょう!さあカモンです!」

「おーう!私は絵心はないけど情熱はあるよ!」

「お茶汲みぐらいなら任せてよ!」

「賑やかでいいですよねぇ。僕こういうの初めてなので楽しみなんですよ」

 

 なんか成り行きで入ったけど、どいつもこいつもこんな調子で大丈夫なんだろうか、この部は。唯は情熱が空回りしそうな雰囲気ビンビンだし、志村は聞いてて可愛そうになってくる事言ってるし、ハルに至っては事あるごとに性癖押し付けてくるし。

 どこかズレた情熱片手にはしゃぐ皆を見ながら瞬は、活動が始まる前から不安になるのであった。

 

 

 


 

 

 

 誰もいない学校の屋上から、レイラは瞬達を見下ろしていた。長い軍服の裾と銀の髪が、春風に靡いている。

 何を思って瞬達を見ているのかは定かではない。その赤い瞳には、果たして何を映しているのだろうか。

 

「やあ、相変わらず無愛想だねぇ」

 

 レイラの後ろから声がする。声を掛けてきたのは、彼女と同じギフトメイカーのレドだった。まだ春だというのに、アロハシャツを着ている姿はかなり浮いている。レイラも内心「センスねーなこのガキ」と思っていた。

 飴玉を口の中で転がしながら、レドはレイラの隣に立つ。

 

「……レドか」

「ティーダが煩いんだ。君の仕事っぷりを監視しろってね」

「ならリイラと一緒に居させろ。私が何の為にギフトメイカーになったか、知らない訳ではないだろう」

「ならちゃんとギフトメイカーとして働いて、信頼を勝ち取らなきゃ。信頼こそ人間社会を作る基盤じゃ無かった?」

 

 強情なレイラを諭すように、レドは優しい口調で語りかける。しかし、レドの金髪にピアスにアロハシャツという、いかにもチャラ男ですと言わんばかりの風貌が、その台詞から信頼感を根こそぎ奪い去っているように思えるのは気のせいではないだろう。

 レイラもそう思ったのか、レドを鋭く睨みつける。その赤い瞳は、恐ろしいほどに濁っていた。

 

「……化物の癖に」

「酷いなぁ。皆化物みたいなもんじゃないか。神さまからの贈り物で好き勝手してる、人でなしの同類だよ」

 

 レドは自嘲の籠った笑みを浮かべながら、レイラの肩に手を回す。レイラは露骨に嫌そうな顔をしてそれを振り払うと、レドから距離を取る。

 

「私だけ仕事ぶりに関しては心配するな。今回は私が出る」

「え、君自らが行くのかい?」

 

 自ら先陣に立つ事を宣言したリイラに対し、レドは意外そうな顔をする。レドやティーダ、バルジやリイラレイラ姉妹の他にもギフトメイカーは存在するが、ギフトメイカーはどいつもこいつも傲慢な奴らの集まりであるが故に、基本的にはあまり戦場には立たない。中には戦闘狂のバルジや超絶刹那的思考のリイラみたいに、先陣に立つような奴もいるっちゃいるが、大抵は実力行使はオリジオンに一任しているのだ。

 それに、レイラはギフトメイカーの中では新参者。だからレドは彼女の事を知らない。故に、レドは驚きをあらわにしながらも、後輩の仕事をみるいい機会だと判断し、若干誇らしそうな顔になった。

 

「ま、頑張りなよ成功すれば、君の望みが叶うかもよ?」

「心にもない事をほざくな。本当は望んでいないくせに」

 

 レドの励ましを無下にし、レイラは屋上から出ていく。一人残されたレドは、手に持っていた飴玉の包み紙を屋上から投げ捨てると、レイラの後に続いて屋上を出ていった。

 

「食えない奴。ま、それくらいなきゃ僕らの仲間は務まらないか」

 

 


 

 

 

 阿久根高貴は、校内のとある一室にいた。やけに薄暗く、荘厳な雰囲気のある部屋。一目見ただけでは、ここが学校の中だとは誰も思わないだろう。

 そして阿久根の前に座る一人の少女。彼女の名は支取蒼那(しとりそうな)。この学園の3年生であり、彼女もまた、学園では指折りの人気を誇る美女である。そして —— ()()()()()()()()|()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼女の横に使用人の如く控えているのは、匙元士郎(さじげんしろう)。なんか柄の悪そうな少年だ。蒼那の人気は阿久根も耳にしている。おそらくこの少年もまた、蒼那の取り巻きみたいなものなのであろう。

 阿久根は蒼那の方に視線を戻すと、ポケットから一枚の紙切れを取り出し、テーブルの上に置く。

 

「こんなものが目安箱に入っていた」

 

 目安箱とは、めだかが生徒会長に就任した際に作り上げたものであり、これに悩みを書いて投入すれば、生徒会執行部が全力で解決に臨むというシステム。人の為に生まれてきたと豪語するめだからしい制度といえる。

 それに入っていた投書を、阿久根は広げて2人に見せる。それに書かれていたのは、悩みではなく ——

 

「脅迫状、か?」

 

 その紙には、“貴様は生徒会長に相応しくない。我が天誅を下し、あるべき道をしろ示す“と書かれていた。誰がどう読んでもその内容は、生徒会長に対する脅迫としか読めなかった。

 

「因みにめだかさんには言っていない。本人が知ったら気にするどころか、むしろ迎え撃つ気満々になっちゃうからね。まあ実際返り討ちにできるんだけど、だからといって俺は見過ごせない。だからこの件は俺一人で片付けたいんだよ」

「で、最初に来たのが俺達の所か。疑ってるのか?」

「可能性の高いところから潰しにかかるのが常套じゃないかな。なんせ支取先輩は、生徒会選挙でめだかさんに大敗しちゃったんだからね。動機はいくらでもある筈だよ」

 

 そう。普通なら負ける筈の無かった選挙に、彼女は負けた。

 黒神めだかは生徒支持率98%、容姿端麗・成績優秀・運動神経抜群(というレベルじゃない)・お金持ちetc(エトセトラ)……ともかく、色んな意味で常識はずれな存在だ。が、出る杭は打たれるのが世の常。彼女に嫉妬するものも出てくるのも自明で有る。

 例を挙げるなら、彼女に生徒会選挙で負けた者。阿久根が生徒会に入る前のことだが、生徒会選挙でめだかに負けた生徒が、めだかをボコろうと計画していたことがあった。まあその時は本人は「下剋上すんなら受けて立つ!」というスタイルだったし、計画自体も善吉が潰したのだが。

 というか、めだかをよく知る阿久根や善吉からしたら、めだかに脅迫状送りつけるなど、無謀にも程があるとしか思えない。よっぽど自信があるのか、かなりの馬鹿なのかはさておき、現に脅迫状はきている。だから、念を入れて阿久根はここに来た。大好きなめだかにたかる害虫を払い除けるために。

 

「そんな真似したらソーナ先輩に迷惑がかかるだろーが。やるわけねーだろ」

 

 匙はそう吐き捨てると、阿久根を睨みつける。

 

「過去の勝敗にみっともなくしがみつくほど、下賤な人間ではありませんので。そもそも、脅迫状送るくらいならばリコールをすればいいのに。校則でも認められてますし、私だったらきっとそうします」

 

 次いで蒼那も否定する。彼女の言う通り、校則で生徒会長に対するリコールが認められているのだから、仮にめだかが気に入らずとも、脅迫などせずとも済む話なのだ。それにも関わらず脅迫という手を使ってきたからには、犯人はかなりめだかを憎んでいると思われる。だからこそ、阿久根は自分が思いつく限りで、めだかを憎んでそうな人の元を回ろうとしている。

 蒼那は真剣な表情で阿久根を見つめる。阿久根は、少し頬を緩めて言う。

 

「分かりましたよ、多分貴女は違う。そんな顔をするような人が、姑息な手を使うとは俺は思えない。勘ですけどね」

「勘、ですか。いいのですか?もし私達が犯人だとしたらどうするのでしょうか?」

「多分めだかさんも、過程は違えど同じような結論に至りますよ。それにその質問は愚問です。犯人だとしても、俺達生徒会が改心させてみせますので」

 

 きっぱりと、そう言った。

 

「疑ってすまなかった。だいぶ邪魔してしまったみたいだし、そろそろ失礼するよ」

 

 蒼那達に一礼すると、阿久根は部屋を出ていく。閉まった扉を見ながら、匙は不服そうな顔をして悪態をつく。

 

「何だったんすかねアイツ。何も知らないで……誰が昼の学園の平和を守ってるってんだ」

「匙、そんな事は言わないの。私達が悪魔として学園の秩序を守っていることなど、彼らは知る由ないのです」

 

 そう。彼女達は人間ではない。

 その正体は、悪魔の中でも上級に位置するシトリー家に連なる者たちである。支取蒼那 —— ソーナ・シトリーは、シトリー家の次期当主であり、グレモリー家と分担してこの学園を裏から支配しているのだ。そして匙はソーナの眷属。まだ悪魔になって日の浅い転生悪魔だが、ソーナに対する忠誠心はかなり強い。

 

「それもそうか。しかし難儀だよなぁ……本来は生徒会を隠れ蓑にするつもりだったんですよね?それがあの生徒会長のせいでおじゃんになって悔しくないんですか?」

「悔しいかと聞かれればそうですが、黒神めだかを含め、この学校の13組は三大勢力(わたしたち)以上の癖者揃い。彼らを侮るべきではないでしょう。出来れば此方側に引き込みたいのですけどね……」

「この学園魔鏡過ぎんだろ……俺悪魔としてやってく自身無くしそうっすよ」

 

 ソーナの話を聞き、気が遠くなる匙。確かに、この学園には良くも悪くも常人離れした奴が沢山いるとの噂だ。これから先、悪魔としてこの学園で生きていくのは前途多難。匙はあらためて、この世界の混沌っぷりを呪うのであった。

 

 

 


 

 

 

 阿久根高貴は、部屋を出て一人で廊下を歩いていた。

 辺りに人はいない。

 

「……」

 

 ゆらりと、その後を追う影。足音をどうにかして消しているのかは知らないが、あたりに響く足音は一人分のみ。右手に金属バットを持ったその人物は、阿久根にひっそりと、かつ着々と近づいていく。

 

(まずはお前から、消えてもらう……!)

 

 目標まで後わずか。勝利を確信したその人物は、意気揚々と阿久根の後頭部にバットを振り下ろす。

 —— それが無謀な試みだとも知らずに。

 バッドが振り下ろされる瞬間、阿久根はばっと振り返り、その人物の右側の襟と袖をがっしりと掴む。阿久根はいつもと変わらない、涼しい表情のまま、襲撃者に問いかける。

 

「危ないな君。一体何のつもりだ?」

「ちっ……!」

 

 白い仮面を身につけた男子生徒だった。彼は阿久根の腕を振り解こうともがくが、同じ側の襟と袖を掴まれてしまっている為振り解けない。

 そして阿久根は、そのまま鮮やかな一本背負いを男子生徒に叩き込む。ドタンと大きな音を立てて、サナトリウムの床の上に背中から倒れる少年。手に持っていた金属バットは音を立てて落ち、廊下の隅へと転がってゆく。

 

「もう排除しに掛かるなんて、意外とせっかちなんだな」

「煩い……煩い!イレギュラーは消えろよぉ!異端滅殺、正常普遍、英雄行為ぃ!」

《KAKUSEI SURFACE》

 

 阿久根に投げられた男子生徒は喚き散らしながら、木製のデッサン人形のような姿をした怪人へと姿を変える。そして、金属バットを拾って阿久根目掛けてぶん投げてきた。

 阿久根はこれに驚きながらも、咄嗟にしゃがんでバッドを回避する。避けらたバットは、そのまま窓ガラスを突き破り、ガラスの破片共々中庭に落ちていった。怪人 —— サーフィスオリジオンは、阿久根に殴りかかるも、阿久根は咄嗟に腕でガードする。

 その時だった。

 

「なんだ今の音?」

「なんか暴れてるみたいだったけど……見に行こう!」

 

 今の音を聞いたのか、誰かが阿久根の背後にある階段を駆け上がってくる。その足音を聞き、オリジオンは動きを止める。やってきたのは、なんかパッとしない癖っ毛の黒髪の少年 —— 逢瀬瞬と、その仲間達であった。

 

「あれは……新手のオリジオンか!」

「あの人、生徒会の阿久根さんじゃ……危ないから離れて!」

「君たちこそ離れるんだ!

 

 阿久根と唯が互いに対して逃げるように促す中、サーフィスオリジオンは、目標を阿久根から瞬へと変えるかのように向きを変える。

 

「目標変更。新規対象、仮面ライダーアクロス、抹殺開始」

 

 そして、瞬達のいる階段の踊り場目掛け、階段の最上階から飛び降りて来た。

 

「こっちに来る……⁉︎ 」

「と、兎に角逃げましょう!まずいですよこれぇ!」

 

 初めて見るオリジオンに動揺を隠せない様子のハルと灰司。瞬は皆に逃げるようにいいながら、クロスドライバーを装着する。オリジオンは瞬の真横に着地するなり。瞬の頬を殴り飛ばした。

 瞬はよろけて壁に手をつきながら、アクロスライドアーツをドライバーに装填する。そして、サーフィスオリジオンのパンチを避けながら、ドライバーを操作してアクロスに変身する。

 

「変身っ!」

《CROSS OVER!力を、思いを、世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》

 

 変身完了したアクロスは、此方に殴りかかろうとしてくるオリジオンのパンチを両手で掴むと、思い切りオリジオンを投げ飛ばした。

 投げられたサーフィスオリジオンは、一気に階段の一番下まで落下し、一階の廊下まで転がってゆく。アクロスはオリジオンを追おうとするが、オリジオンは起き上がりながら、口から黒い気弾のようなモノを放ってきた。アクロスはそれを避けるが、気弾の当たった踊り場の壁が抉れ、外の景色が丸見えとなってしまう。

 

「絶対抹殺、完全勝利、蹂躙制覇ぁ!」

「こんにゃろ……学校壊す気かお前はっ!」

 

 周囲への被害などお構いなしに攻撃をしてくるオリジオンに怒りながら、アクロスは階段の踊り場から一気に一階の廊下まで飛び降り、落下の勢いを上乗せした拳でサーフィスオリジオンを殴り飛ばした。顔面ど真ん中どストレートを殴られたオリジオンは、背面の出入り口を介して情けなく中庭まで飛ばされてゆく。

 中庭の芝生の上にサーフィスオリジオンは腹を打ち付けられる。それでも彼はまだ挑む。自身に向かってきたアクロスに対し、何処からか取り出した金槌を投げつける。生身の人間なら即死しかねない攻撃だが、アクロスはスライディングでそれを避け、更にオリジオンを蹴飛ばす。

 

「テメェ、汚ねぇぞ!非難轟々、正々堂々、真剣勝負!」

「闇討ちしかけて返り討ちにされた君が言ってもなぁ」

 

 アクロスを非難するサーフィスオリジオンの言動を、唯達と共に安全地帯に避難して戦いを見ていた阿久根が突っ込む。先程まで襲われていた人とは思えないくらい冷静な発言である。

 そしてハルの方は、アクロスとオリジオンの存在そのものに興味津々の様だ。その結果、ギャラリーの中で一番アクロスに精通している唯に、皆の疑問が殺到してゆく。

 

「アレって何なんですか?なんか特撮モノみたいな展開になってますけど……」

「そういえば、私はまだアクロスについて碌に説明して貰ってないんだけど、私にも教えてくれない、唯?」

「話せば長くなるんだけど……いいの?」

 

 こう言っているが、実のところ唯も答えられない。

 確かに、アクロスについては碌な説明が為されていない。唯にとっても、あのフィフティとかいう信頼可能な要素が皆無の怪人物から渡された力、くらいの認識しかない。力を与えた本人がちゃんと説明すべきだと思うのだが。

 気を取り直し、唯達は再び観戦に集中する。サーフィスオリジオンは、何処からか(のこぎり)を取り出すが、振るう前にアクロスに蹴飛ばされ、中庭の端の方まで飛んでいく。先程からこの様に、オリジオンが出した武器を逐一アクロスが弾き飛ばして使用不能にする、という流れが繰り返されていた。

 

「アクロス……だったか。見た感じ彼が優勢だね。怪人の方は完全に押されてる」

「今回は楽にカタが付くかもしれないわね……アラタ?」

「……」

 

 大鳳はアラタの顔を見る。だかその顔は、真剣に戦いの行く末を見守っているというよりも……気の所為だろうか。皆とは違う、何か、別のものを見ているように感じられた。何かを、貪欲に求めるかの様な。

 悉く攻撃を潰されて跡がなくなったサーフィスオリジオン。彼は、壁にへばりつきながらアクロスから距離を取ろうとする。息は荒く、身体は震えている。その様子を見て、アクロスは少し申し訳ない気持ちになってきた。これじゃどちらが怪物なのか分かりゃしない。

 

「絶体絶命……救援要請、支給懇願!」

 

 追い詰められたオリジオンは、天高く助けを求める声を叫んだ。すると、アクロスとサーフィスオリジオンの間に、空から何かがとんでもない速度で降ってきた。

 それは、嫌という程見覚えがあった。

 

「Haaaaaaaaaaaaaaaa……‼︎ 」

「まーたお前か!しつこいなあもう!」

 

 橙と白を基調としたマッシブなフォルム。知性の感じられない喧しい雄叫び。風に靡くボロ切れのようなマフラー。それは、これまで幾度とアクロスの前に立ち塞がってきた存在。

 ガングニールオリジオン、三度参上。神殺しの槍の名を冠する狂犬は、サーフィスオリジオンを守るかの様にアクロスの前に立ち塞がる。

 

「Fuuuuuuuuuuuuuuuuuu……」

 

 威嚇するかの様に、低い唸り声をあげる。その姿には、やはり理性らしきものは見受けられない。

 アクロスは強敵の出現に思わず身構えるが、それよりも早くガングニールオリジオンが動きだし、アクロスの胸のど真ん中に重い一撃を叩き込み、アクロスの身体を宙に浮かせる。

 

「ばっ……」

 

 前より強く、速くなっている。ガングニールオリジオンは、宙を舞うアクロスに追撃を仕掛けようと、アクロスに飛びかかる。

 しかし、成長しているのはアクロスも同じ。飛びかかりながらクロスチョップを叩き込もうとしたガングニールオリジオンに対し、アクロスはその腕を咄嗟に掴んでそれを中断させ、二人揃って何も出来ずに地上に落とされる。

 着地と同時に受け身をとって両者は立ち上がり、取っ組み合った状態のまま校舎の壁に激突する。

 

「うんぬっ!」

 

 アクロスは頭突きでオリジオンを怯ませると、ガングニールを突き飛ばした後に体当たりを仕掛ける。しかしガングニールはそれを受け止め、さらにそこに、後ろからサーフィスオリジオンがアクロスの背中を殴りつける。

 

「俺を忘れてんじゃないぞ!卑怯上等、勝者絶対、完全有利ぃ!」

「くっ……離せっ!」

 

 アクロスはガングニールの拘束を振り払おうとするが、がっしりと掴まれていて抜け出せない。そんなもがくアクロスに、これ幸いとサーフィスオリジオンが殴る蹴るのやりたい放題をかましてくる。さっきまでやられてきた鬱憤をこの期に晴らしてやる算段らしい。

 このままだとサンドバッグもいいところだ。なんとかしてこれを打破しなければならない。アクロスは焦り気味にもがくが、拘束を振り解けない。

 その時だった。

 突然、校舎の窓ガラスが割れ、そこから何かが落ちてきたのは。

 

 

 


 

 

 

 ちょっと前 

 

 

「やっと解放されたぁ……」

「イッセーさん、災難でしたね」

 

 ヘロヘロになりながら教室から出てきた一誠に、アーシアが心配してかけよる。

 なぜ彼がここまで疲弊していたのかというと、エロ本持っているのが風紀委員にバレて、松田や元浜と一緒に先程まで説教(物理)されていたのだ。最近の風紀委員は凄い厳しいとは話には聞いていたが、予想以上の厳しさに打ちのめされた一誠は、力なくアーシアの胸に顔を埋めるように倒れ込む。

 勿論クッションにされた側のアーシアは、恥ずかしさで声をあげる。だがあんまり嫌そうには見えないのは気のせいだろうか。

 

「ひゃいっ⁉︎ イ、イッセーさん⁉︎ これは……そのぅ……」

「風紀委員厳しすぎねぇか……特にあの一年生!めっちゃ怖い!メリケンサックと手錠がトラウマになりそうだよ!」

「あー鬼瀬さん……彼女の過激っぷりは有名ですからね。まあ自業自得です。それとこんな場所で女子の胸に顔うずめてたら(こんなことしてたら)、また風紀委員にドヤされますよ。まあ私的にはむしろざまあみやがれ、といった感じなんですが」

「イッセーさん……この体制のまま喋らないでください……くすぐったい、です」

「……」

 

 一誠はここでようやく、自分が何にもたれかかっているのか気づいたらしい。どうやら疲れからか、無意識のうちにやってしまっていたようだ。一誠は慌ててアーシアから離れ、戒めの意をこめて壁に自らの頭を打ちつける。

 

(俺はなんて事を!これじゃあ神様仏様に顔向けできねぇ!)

 

 いや日頃からエロい事ばっかな時点で今更だし、悪魔になっている時点で神や仏に顔向けは不可能だろ、と小猫は思わざるを得なかった。同じ眷属仲間としては多少は当てにしているが、人(悪魔)としては正直言って尊敬はできない、というのが小猫の一誠に対する評価だった。

 一誠のスケベっぷりに呆れたようにため息をつきながら、小猫は2人に早くオカ研の部室に行くように促す。

 

「行きましょう、部長達が待ってます」

「そうだなー。てかアーシアはともかく、なんで小猫ちゃんまで俺を待っててくれたんだ?」

「偶々私も遅くなっただけです。そしたらここでアーシアさんが待っているのが見えて —— 」

 

 そう言いかけて、塔城小猫はふと立ち止まった。

 

「どうしたんですか、一体……」

「小猫ちゃん?おーい何か見つけたのかよー?」

 

 共に歩いていた兵藤一誠とアーシアは、突然立ち止まった小猫に対し、怪訝そうな顔を向ける。

 

「この妖力の感じ……同族?」

 

 そう呟いた小猫の身体に、猫耳と猫の尻尾が顕となる。これが彼女の正体、猫妖怪である。悪魔であり妖怪である彼女は、このようにして妖力を操ったり感知したりする術を有していた。

 

「は、え?小猫ちゃんの同族ってことは……」

「近くにいるってことですよ、猫妖怪が」

 

 妖怪が、この学園に。その可能性に至った3人は、即座に戦闘態勢を取る。グレモリーの管轄下であるこの街に、外部の人外がいるということは普通ではない。その正体がなんであるにせよ、警戒せざるを得ないのだ。

 

「妖怪かぁ……女の子だったら嬉しいよなぁ……」

「少しは欲望を隠そうという気概は見せないんですか?」

「移り気は厳禁ですよ、イッセーさん」

 

 軽口を叩き合いながらも、慎重に辺りを見渡す。すると、彼らの耳に、何者かが戦っているかのような音が聞こえてくる。音は下の方 —— 中庭から聞こえる。

 一誠は廊下の窓から、音がしている中庭を覗き込む。そこには、2体のオリジオン相手に戦うアクロスの姿があった。

 

「あ、あれって……アクロス!」

「この間の奴と、アレははぐれ悪魔……なんでしょうか?」

 

 アクロスの正体とオリジオンについてはよく知らない小猫は警戒心が強く、様子見に徹しようとする。しかし、アクロスの正体を知り、共に共闘までした一誠の方は、すぐに加勢に入ろうと窓に手をかける。しかし、窓が中々開かない。

 

「助けに行かないと!ぐぬぬ……建て付けが悪くて窓があかねぇ!」

「勝手な行動は厳禁……」

「んな事言ってる場合じゃないだろ!俺は助けに行く。ダチ兼命の恩人を見捨てるような人でなしにはなりたくねえからな!悪魔だけど!」

 

 いつもの一誠からは想像もできない真剣な表情を見て、小猫は呆れたように言う。

 

「はあ、分かりましたよ。どうやら感じた気配はあの怪物のうちのどちらかからしているようですし、どの道放置しておくわけにもいけませんからね。先輩、倍化をお願いします」

「もうしてるさ!いつでも譲渡は可能だ!」

《boost!》

 

 そう答えた一誠の左腕に、赤い籠手が出現する。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。所有者の力を倍化し続ける、二天龍の片割れの魂を宿した神滅具(ロンギヌス)。一誠を特別たらしめるもの。

 だが、今回はそれを自分にではなく小猫に対して行う。倍化した力の譲渡。赤龍帝の籠手は、そういった芸当も可能なのだ。

 

《transfer!》

「このまま窓をぶち破るしかねえ!すみません先生方!」

 

 階段を下る時間が惜しい。だがしかし、ピンチになっている友達を手をこまねいて見ている訳にはいかないのだ。倍増した力を受け取ってパワーアップした小猫が、妖力を纏ったパンチで窓を突き破り、そのまま落下攻撃に移行する。

 

「そこの貴方、下がってください!」

「うぬぎゃああああああっ⁉︎ 」

 

 硝子の雨と共に、小猫とオリジオンが落下してゆく。

 その下は――

 

 


 

 

 そして現在。

 

「そこの貴方、下がってください!」

「うぬぎゃああああああっ⁉︎ 」

 

 なんかガラスが割れたような音がしたと思ったら、女の子がガラスの破片と共に降りかかってきた。

 

「痛い痛い痛い痛い!」

 

 ガラスの破片とともに降ってきた小猫に、思わず叫んでしまうアクロス。変身していても正直言って痛いし、変身していなかったら今頃全身血まみれである。

 そんな事はお構いなしに、小猫は妖力を纏ったパンチをガングニールの脳天に叩き込み、バック宙をして着地する。なんだかんだで拘束の解けたアクロスは、散々自分をサンドバッグにしてくれた目の前のサーフィスオリジオンに、お返しとして渾身の右ストレートをお見舞いする。

 なんとか解放されたアクロスは、ガラスの降ってきた上を見上げる。すると、割れた窓から顔を覗かせていた一誠と目が合う。

 

「すまねえ!大丈夫か⁉︎ 」

「助けに来たのか殺しに来たのかどっちなんだよ!」

「俺達も加勢するぜ!とりゃあああっ!」

「馬鹿こっちに落ちてくんじゃドバァ⁉︎」

 

 アクロスの抗議を無視して、一誠は割れた窓からこちらに向かって飛び降りる。結果は単純明快。アクロスが落ちてきた一誠の下敷きになってしまった。仮面ライダーと悪魔だったからギャグで済んでいるが、普通の人間だったら仲良く御陀仏である。

 

「何やってんだあれ……」

「野郎同士でやるような展開じゃ無いですよねーあれって」

 

 一連の流れを見ていたアラタとハルも、ぐだぐだな2人の様子に思わず失笑してしまう。小猫も、表情からは分かりにくいが、若干怒り気味に2人に声を掛ける。

 

「何やってるんですか貴方達は。この怪物をどうにかするんでしょう?なら早く戦ってください」

「「あ、はい……」」

 

 気を取り直し、一誠とアクロスは戦闘体勢に入る。一誠達がガングニールを抑え、アクロスがサーフィスをどうにかする算段だ。

 ガングニールは知性を感じさせない唸り声を上げ、小猫に殴られた脳天を摩りながら立ち上がる。サーフィスも壁に手をつき、息を切らしながらも金槌を構える。

 

「再び共闘と行こうじゃねーか、瞬!」

「そっちは任せたぞ、一誠!」

 

 四者が走り出す。

 サーフィスは、自身に向かってくるアクロスに対し、金槌を振り下ろす。しかし、アクロスはそれを予知して足を止める。結果として、金槌はアクロスに当たる事なく、その手間の空間を通過するだけに終わる。

 すかさずアクロスが、金槌を持つサーフィスの手を蹴り上げ、振り下ろされ切った金槌をその手から落とさせる。そのまま、アクロスのローリングソバットを顎に受け、サーフィスオリジオンは壁に打ち付けられる。

 

「邪魔、するな……世界修正、改変阻止、賞賛行為……」

「人襲っといてそりゃないだろ……とりあえずお前を大人しくさせて、なんで阿久根(あのひと)に襲いかかったのか問い詰めてやる!」

 

 

 


 

 

 一方、ガングニールと対峙することになった一誠。

 一誠は赤龍帝の籠手の力で倍化をしながら、ガングニールを殴りつける。しかし、まだ倍化が始まったばかりでパワーが足りていないためか、あまり効いていない。一誠の攻撃に怒ったガングニールは、首元のマフラーを触手のように伸ばし、それで一誠を叩く。

 

「まだまだこれからぁ!」

《Boost!》

 

 倍化2回目。まだまだ余裕はある。一誠はもう一度、ガングニールオリジオンの肩を殴る。それでも足りない。返しに顔面に頭突きを食らわされ、一誠は鼻血を散らしながらよろけて後退する。

 

 

「『黒い龍脈(アブゾーブション・ライン)』っ!」

 

 何処からかそんな声がしたかと思えば、まるで唐突に、力が抜かれたかのようにガングニールオリジオンの体勢が崩れ、攻撃が逸れる。そして、膝をついたガングニールオリジオンの顔面に、倍化によって更に強化された一誠のパンチが炸裂する。

 吹っ飛んで背中から倒れるガングニールオリジオン。対して一誠は、今の現象に対し、あることに気がついた。

 

「今のは……神器(セイクリッド・ギア)⁉︎ 」

 

 神器を持つ何者かが、自分を助けてくれた。しかし、一体誰が。

 困惑する一誠の耳に、若干チンピラじみた声が聞こえてくる。

 

「何やってんだよ……学校のど真ん中で!ちったあ隠そうという気はねーのかよおめーはよ!」

 

 声の主は、一誠と同い年くらいの、制服姿の少年だった。ただし彼の手には、デフォルメ化されたトカゲの顔らしき物体付いており、さらにそこから淡い光を放つ黒い紐が伸びており、それがガングニールの足に繋がっている。

 神器・黒い龍脈(アブゾーブション・ライン)。少年 —— 匙元士郎の神器であり、他者の力を吸収する力を持つ。その力でガングニールを弱らせたことで、一誠の攻撃が効いたのだ。

 まあ一誠はそんな事は知らず、いきなり乱暴な物言いをしてきた匙に反発する。

 

「なんだいきなり!それって今言うことかよ⁉︎ 」

「匙先輩、助力ありがとうございます」

「え、何?コイツ知り合い?」

「詳しい説明は後。今のうちに仕掛けますよ」

 

 小猫に言われるがまま、一誠と匙は言い争いをやめてガングニールと向かい合う。ガングニールは既に立ち上がっており、匙の生成した黒い龍脈によるラインを引き剥がそうとしている。が、それはうまくいかない。

 ラインに気を取られている隙をつき、小猫が懐に潜り込む。そして、戦車(ルーク)としての力を生かした渾身の回し蹴りをその脇腹に叩き込みながら、ガングニールに問いかける。

 

「貴方、同族みたいですけど、その姿はなんですか?」

「Ugaaaaaaaaaaaaaaっ‼︎ 」

 

 小猫の問いかけに、ガングニールは言葉にすらならない雄叫びで返しながら、マフラーを触手のように伸ばしてくる。小猫はすかさず身を捩って回避し、そして身体を反対方向に捻りながらガングニールを殴る。

 匙によって弱体化したガングニールは、小猫のパンチで地面に倒れるが、それでも諦めずに襲いかかってくる。そこに一誠が飛び蹴りしながら割って入り、そのまま飛び蹴りをくらって倒れたガングニールに馬乗りになる。

 

「話は通じてないみたいだぞ……」

「小猫ちゃんに手を出すな!俺が相手だっ!」

《Explosion!》

 

 倍化を耐えられるギリギリのところで中断し、一誠はガングニールオリジオンの腹に渾身の一発をお見舞いする。血を吐き出すかのように呻くガングニール。効いている。この調子なら倒せる。

 そう確信した次の瞬間。

 

「Heeeeeeeeeeeee!」

「何だっ」

 

 ガングニールオリジオンの口から、光線のようなものが飛び出し、一誠の上半身を焦がした。

 

「ぬあああああああああああああああっ⁉︎ 」

 

 匙の神器によって弱体化させられていたおかげで大したダメージにはならなかったが、一誠が奇襲に怯んだ隙を突いて、ガングニールは一誠を払い除けると、一誠達ともアクロスのいる方とも違う方向に向かって走り出す。

 サーフィスオリジオンに必殺技を喰らわせようとしたアクロスも、その奇行に思わず手を止めてしまう。一体、奴は何処へ向かっているというのだろうか。アクロスは、ガングニールオリジオンの向かった方に視線を合わせる。

 その先にいたのは、生徒会長・黒神めだかだった。胸元を露出した黒い生徒会役員用の制服だからよく目立つ。ガングニールオリジオンは、渡り廊下を歩いていためだかに一直線に向かっていた。

 

「危ねぇ!」

 

 すかさずアクロスがめだかに向かって叫ぶ。彼女もガングニールに気付いたようだが、遅かった。弱体化しているにも関わらず、ガングニールオリジオンのスピードは衰えていなかった。

 ガングニールは空に響くような雄叫びを上げながら、めだかの額を思い切りぶん殴った。バコンッ‼︎ と、してはいけないような音が響く。皆は思わず目を逸らしてしまう。きっと、彼女は頭の中身をぶち撒けて凄惨な状態に ——

 

「……」

 —— なっていなかった。

 オリジオンの中でもパワータイプなガングニールの拳をモロに受けたにも関わらず、めだかは平然としている。その光景に、ガングニールを追ってきた一誠達も呆然としてしまう。

 自分の自慢の拳がまるで効いていない様子のめだかに、ガングニールは本能ながら恐怖を感じ、突き出した拳を引っ込める。そして、殴られた本人は、いつもと変わらない尊大な態度を崩す事なく、ガングニールに告げる。

 

「暴力は感心しないが……これ以上この学園で暴れるのはやめてもらおうか、貴様ら」

「Haっ⁉︎」

 

 一瞬、めだかの姿が消えたような気がした。が、次の瞬間には、めだかはかがみ込んでガングニールオリジオンの顎目掛けてアッパーを仕掛けようとしていた。

 そして。

 

「黒神アッパー!」

「Gofuっ⁉︎」

 

 ガングニールオリジオンの顎に、下からめだかのアッパーカットが炸裂する。匙の神器で弱体化していたガングニールは、風船が割れるような音と共に空高く打ち上げられ、校舎の4階部分の壁面にクレーターを作った。

 それを見て、アクロスや一誠、戦いを見ていた唯達も唖然とする。この生徒会長、めっちゃ強いやんけ、と。

 戦闘不能になったガングニールオリジオンを覆うようにして、壁面にジッパーが出現する。そしてジッパーが開き、その中に真っ暗な空間が出現する。そして、その闇に溶け込むような形でガングニールは姿を消していった。

 

「勝利絶望……撤退決定、即断即決!」

 

 増援たるガングニールオリジオンの敗北により、勝機が無くなったと判断したサーフィスオリジオンは、這う這うの体で逃げてゆく。すかさずアクロスは追いかけるが、校舎に入ったところで見失ってしまった。

 

「あっ……畜生!逃したか……」

 

 悔しそうに舌打ちをしながら、アクロスは変身を解除する。そして、芝生の上で大の字になっている一誠の元へと歩いてゆく。

 

「助かったよ、イッセー」

「なーに、これくらい大したことないっての。お前にはアーシアを助けるのに協力してくれた借りがあるからな」

 

 拳同士をコツンと触れ合わせ、両者は笑う。そんな2人を見て、小猫がぽつり。

 

「……へえ、アクロスというんですか。兵藤先輩よりマトモそうですね」

「小猫ちゃんってさあ……俺に対して辛辣すぎない?まあ心当たりしか無いんだけども」

 

 まあ一誠は日頃の変態行為のせいで、女子生徒からの評判は地に落ちてるようなものだから仕方ない。一誠もそれを分かっているので、軽く流して寝転んだまま空を見上げ、この状況を主人たるリアスにどう報告したらいいものやら、と考え始めていた。

 そこに、校舎内に取り残されていたアーシアがやって来る。回復役たる彼女はあまり前線に立つべきでは無いと判断し、一誠が待機させていたのだ。アーシアは、傷だらけの一誠と瞬を見るなり、心配して駆け寄り、自身の持つ神器・聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)による治療を試みる。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか⁉︎ 」

「大丈夫だアーシア。これくらいの怪我、大したことないから」

「今直しますね、じっとしていてください。瞬さんもこちらに」

「あ、はい……」

 

 言われるがまま、少年2人は治療を受ける。そして一誠は、先程まで放置されていた、神器使いの少年に意識が向く。

 

「つーかお前、誰?神器保有者みたいだけど……」

「彼は匙元士郎。グレモリー家と親交の深いシトリー家の次期当主、ソーナ様の眷属です。本来ならもう少し後に顔合わせをする予定だったんですよ」

「つまりお前も転生悪魔ってコトか。へえこりゃあいい。同じ兵士(ボーン)同士仲良くやろうぜ、宜しくな」

「ああ宜しくなぁ」

 

 小猫からの紹介を受け、一誠は匙と握手をする。だが、互いに互いが気に入らないのか、その手にはかなりの力が入っているし、両者とも引きつったような笑みを浮かべている。瞬と小猫は2人を見て、やれやれといった感じに首を振る。

 そんな2人の横で、めだかは戦いでボロボロになった中庭を見つめていた。ガングニールオリジオンに殴られた頭をさすりながらも、平然としている彼女に対し、大鳳が訊いてくる。

 

「オリジオンとか諸々に対してあまり驚かないのね……」

「いや結構驚いているぞ?世界ってまだまだ未知なるものが沢山あるんだなーって」

「貴女が言うと嫌味にしか聞こえませんよ……」

 

 肝が据わっているというか、怖いもの知らずというか……めだかのあっけらかんとした態度に、阿久根も思わず苦笑いしてしまう。少なくともオリジオンをアッパー一発で屋上近くまで打ち上げた奴の吐く台詞じゃないよな、とめだか以外の全員が思う。

 そしてめだかは、アーシアの治療を受けている瞬のもとに歩み寄ってゆき、声を掛ける。

 

「それにしても、興味深いものを見せてもらったよ逢瀬2年」

「あれ、なんで俺の名前を……」

「全校生徒の名前くらい把握済みだ。阿久根書記を助けてくれたのだろう?私から礼を言わねば失礼というものだ」

 

 めだかは瞬に手を差し出す。どうやら握手を求めているらしい。断る理由も無いので、瞬は握手に応じる。が、いざ正面から見ると、彼女の格好に思わず赤面してしまう。そりゃあ、豊満な胸の上半分が露出した改造制服なんだから、瞬の反応は真っ当である。その格好で生徒会長は無理でしょう。

 

「……」

「ん、何を恥じる事がある?」

 

 だが全く本人は恥ずかしがっていない模様。てか瞬の反応に首を傾げている。

 

「しかし、酷い有様だよねぇ」

「言われてみればそうですね」

 

 一方、先程まで物陰に隠れていた唯は、中庭をぐるりと見渡しながら言う。

 先程まで戦場だった中庭は、かなりボロボロになっていた。校舎の壁面は傷やヒビが入ってるし、ガラスは地面に飛び散ってるし、植え込みがぐしゃぐしゃに引っ掻き回されている。放課後であまり人がいなかったのが幸いだった。

 小猫は、自分が砕いた窓ガラスの破片を見ながら、申し訳なさそうにめだかに告げる。

 

「あのー私窓割ってしまったんですが、どうしたらいいですか?」

「オカルト研究部の面々か。貴様らもあの怪物相手に良くやったな。礼代わりと言ってはなんだが、校舎の修理代は私が受け持とう」

 

 うわあ太っ腹。ありがたいっちゃありがたが、これはちょっと申し訳なくなってくるヤツだよな、と皆は思うのだった。

 

「今日はもう帰った方がいいかもしれません。流石にこんな事があった後で部室に行くってのもアレですからね」

「それはありがたい。ったく、オリジオンの奴らも少しは休ませてくれねーかなぁ」

 

 ここ最近はオリジオンと戦ってばっかりで、流石に瞬も辟易していた。今日は早く帰って休みたい気分だ。なので、ハルの意見は渡りに船であった。

 瞬は、校舎の壁面にガングニールオリジオンが作ったクレーターをチラリと見て、軽く生徒会長に恐ろしさを感じながら、帰路につくのであった。

 

 

 


 

 

 翌日 漫研部室

 

 昨日あんな事があったのに、学校は平常運転だった。瞬は、ビルドオリジオンの時は休校になったくせに、何故今回はならないんだろうかと疑問に思ったが、休みじゃ無いなら行くっきゃ無いと腹を括って登校した。

 そして放課後。昨日入った漫研の部室にやってきた瞬。昨日見たスク水姿のハルを思い出し、今日は何事もありませんようにと祈りながら、扉を開ける。

 

「ちーっす、入るぞー?」

「よく来ましたね待ってたゾ!さあさあ上がりなさいな!」

「……」

 

 ああ無念、少年の祈りは通じなかった。

 部室に入るなり、スク水姿のハルが瞬を出迎えてきた。瞬は頭が痛くなってきた。昨日のはどうやら冗談ではなかったらしい。

 ハルは(お世辞にもあるとは言えない)胸を張っているが、瞬は彼女に対して興奮するよりも、呆れていた。そんな事はつゆ知らず、ハルは両手を広げて胸を張り、瞬を受け止める体勢に入る。

 

「興奮しますよね?私はしますよ!さあ好きなだけ舐め回すが良い!」

「誰がするかぁ!全人類がお前と同じ性壁だと思うなよ!」

「おぅんひどぅい……私はただスク水の素晴らしさを広めたくて……」

 

 だったら漫画研究部やめてスク水研究部に解明した方が早いと思う。瞬はハルを素通りして椅子に座り、既に来ていた志村と灰司に声をかける。

 

「よう、お前らもう来てたんだな」

「ははは……ハルちゃんはさっきからずっとあんな感じなんだよね」

「あ、逢瀬くん。今この漫研が過去に出した部誌を読んでるんですよ。中々個性的な内容で興味深いです」

「個性的……ねぇ」

 

 ハルの奇行に呆れ笑いする志村の横で、灰司は何やら読んでいる模様。瞬は後ろからそれを覗き込む。

 灰司が読んでいたのは、かつて漫画研究部が刊行していた部誌。当時の部員達の漫画が冊子に纏められているものだ。内容もクオリティもよりどりみどりで、今灰司が読んでいる作品は、色々な意味で一際個性的な内容であった。決して画力の話ではない。

 と、ここで先程から放置されていたハルが指をパチンと鳴らす。

 

「カモン、我が同胞!」

「それ突撃ぃ〜!」

「ぶはっ⁉︎ 」

 

 突然背中に強い衝撃を受け、瞬は床にぶっ倒れる。なんか唯の声がしてたような気がするが一体何なんだと、瞬は起き上がりながら後ろを振り返る。

 

「な、なんでお前達まで着てるんだよ⁉︎ 」

 

 そう、何故か唯と大鳳までスク水姿になっていた。にまにまと小悪魔めいた笑みを浮かべている唯とは対照的に、大鳳の方は凄く恥ずかしそうに顔を赤くしている。どうやら彼女の方は無理矢理やらされているらしい。

 

「潜水艦の子達ってこんな恥ずかしい格好だったのね……

 

「わかったわ。貴女が変態だという事が。服返して頂戴」

「ぬぎぎぎぎぎぎぎぎわがっだがらやめでええええええ身体がガラケーになっちゃ〜う!」

 

 大鳳に背中の上に乗っかられてキャメルクラッチをかけられ、鯱鉾(しゃちほこ)よりも反っているんじゃないのかと思わされる程背中を逆に曲げさせられるハル。側から見ればスク水姿の少女2人がプロレスごっこ(文字通り)をして戯れているようにしか見えない。なんだこの空間、さっさと帰りたくなってきた。

 そんな瞬の気持ちを察したのか、瞬を足止めすべく唯がにじり寄ってきた。此方はどうやらハルに乗せられている模様。

 

「悪いね瞬。瞬をスク水フェチにしたら図書カードくれるって言うから……」

「安いなオイ!そんなもんに釣られて変態の道に落ちるなよ⁉︎ 」

 

 幼馴染みのこんなみっともない様を見せられる此方の身にもなって欲しい。シュバシュバッ!と良くわからん決めポーズらしきものをとりながら、唯は戦線布告する。

 助けを求めようと、既に来ていた灰司と志村の方を見るが、彼らは彼らで関わりたくないのか、露骨に視線を合わせようともしない。薄情な奴らだ。こうなれば自力でなんとかするっきゃない。

 

「いざ勝負!」

「悪ノリがすぎる!」

 

 飛びかかってきた唯を難なく避けると、瞬はゲンコツを彼女の頭に対してお見舞いする。いくら身体能力に差があると言っても、10年間も共に過ごしたのだから動きの一つや二つは読めるのだ。

 そして、もうこんな不毛な戦いはやめようと、スク水姿の女性陣に提案する。

 

「もうやめなさいよ……俺こんな変態ばかりの魔鏡にいたく無いんだけど」

「変態とは失礼な!私達3人の何処が変態だっていうのさー!」

(私も頭数に入れられてる……⁉︎ )

 

「お前が変態じゃなかったら変態仮面も変態じゃなくなるだろ」

「たとえ突っ込み下手くそですね」

「そっか瞬はパンツを被ると興奮するんだー。取り繕わなくていいんだよ……私は瞬の性癖を肯定しよう」

「今の発言の何処にそんな要素あったよ」

 

 なんか発言をわざと曲解して、瞬をとんでもない性癖持ち呼ばわりしようとした幼馴染みに、もう一発お見舞いする。コレは悪ノリが過ぎた模様。ゲンコツを2度も受けた唯は、そのまま床に崩れ落ちる。

 

「失礼しまーす生徒会でーす。様子見に来たんですけどもー?」

 

 そこに善吉が入って来た。

 が。

 

「スク水で、笑顔を……スク水で、世界に、みんなの未来に……笑顔を……」

「唯さんんんんんんんんんんっ!」

 

 ゲンコツされた事で、なんか安らかな最期を迎えようとしている唯と、彼女を抱き抱えて泣き叫ぶハル(両者ともスク水姿)。そんな2人を馬鹿を見る様な目で見下す瞬と大鳳、彼らにお構いなしに漫画を読んでいる灰司に、逃避するかの様に英単語帳(上下逆)の暗記を始める志村。端的に言ってカオスな状況が繰り広げられていた。

 一眼見ただけで、あまり深く関わらない方がいいなと判断した善吉が、瞬の方を向いて一言。

 

「帰っていい?」

 

 死んだ魚のような目でこちらを見つめてくる善吉。ぶっちゃけ瞬も、正気のうちにここを去った方がいいと思っている。善吉は、スク水だらけのスペースから目を逸らすようにして、話を続ける。

 

「様子見に来たけど……まあ大丈夫そうだな」

「何処をどう見たら大丈夫に見えるのよ。その目は飾りなの?」

「デスヨネーあははは……」

 

 大鳳の突っ込みに、善吉は棒読みじみた渇いた笑いで返す他なかった。依頼が来ていたからとはいえ、正直、この部を立ち直らせようとしたのは間違いだったんじゃなかろうかと思わざるを得なかった。だって部長が変態だし。

 大鳳は、中々服を返そうとしないハルの腹の上に座り続けている。一体がハルをそこまでスク水に掻き立てるのか、誰もわからなかった。てかわかりたく無い。

 そして、ついに屈したハルが、大鳳に制服を返す。大鳳は制服をハルから奪い取ると、

 

「これから私着替えるんで出てってもらえる?」

 

 と、男性陣を廊下に叩き出してしまった。

 

「追い出されたね……」

「俺、来た意味あったんだろうか……」

 

 全然一件落着じゃねーんだよ……。

 善吉と瞬は、コレから先の事を思いながら、深い溜息をつくのだった。

 

 

 


 

 

 

 数時間後

 

 

 

 

 静まり返った部室の、扉がゆっくりと開かれる。

 思い詰めたような表情をした欠望アラタは、息を殺し、足音を消しながら部室にゆっくりとはいってゆく。

 

「皆、寝ているのか」

 

 瞬も大鳳も唯もハルも、皆爆睡していた。アラタはこれを好機だと判断し、足元に転がっているモップを避けながら、瞬の元までたどり着く。そして、彼の足元に置かれている鞄に目をやる。

 ファスナーの開いている鞄から覗く物体。

 クロスドライバー。アクロスの力の源泉。それを見たアラタの頭に、ある邪な考えが浮かび上がってくる。

 

(これがあれば、これを使えれば、俺は……)

 

 そう、クロスドライバーを盗んでしまうという手だ。手を伸ばしたい。手に入れたい。眼前の力が、少年の心を誘惑する。だがその誘惑に負けるということは、人間性を、ひいては逢瀬瞬との友情を捨てることに他ならない。

 葛藤の末、アラタはクロスドライバーから目を逸らし、机を挟んで瞬の向かい側で、椅子に腰掛けて眠る大鳳に目をやる。大切な家族で、友人で、互いに今の自分を作ってくれた恩人で。アラタは彼女の苦しんできた過去を知っている。だからこそ、彼女に傷ついてほしく無いと誰よりも強く思っている。

 心臓がバクバクと鳴り、呼吸が荒くなってゆく。全身から冷や汗がブワッと溢れ、4月なのに、身体がひどく冷たくなっていくような感覚がする。

 

(……俺が、守るんだ。それくらいできなきゃ、隣にいる資格なんてない!)

 

 決心するかのように目を見開き、アラタはクロスドライバーに手を伸ばす。

 もう二度とあんな目には合わせない。二度と君を傷つかせやしない。普通なら尊く、讃えられる筈の決意は、歪んで腐り果ててしまった。後悔と渇望が、少年を狂わせた。

 

 

 

 それは過ちであると共に、彼の未来に至る一歩。

 舞台へと至る、最初の1段目 ——

 

 


 

 

 

 瞬が目を覚ますと、すでに陽が傾いていた。

 

「あれっ⁉︎ 寝てた⁉︎ 」

 

 というか、いつの間にか机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。部屋を見渡すと、隣で同じように唯が眠っているし、他の皆は既に帰ったのか、姿が見当たらなかった。

 時計を見ると午後5時。瞬は隣でスク水姿のまま涎を垂らして爆睡している幼馴染みの身体を揺すって起こす。

 

「起きろそして着替えろ。いつまでその格好でいるつもりだ」

「はにゅ?瞬……今何時……」

「皆帰っちまったよ。俺達皆揃って寝ちまってたらしい」

 

 春の陽気に絆され、皆部室で寝落ちしてしまったのだ。にしても、先に帰った奴らのうち、誰でもいいから起こしてくれてもよかったのに、と瞬は思っていた。

 廊下で唯が着替え終わるのを待ってから、2人で揃って校門をでる。正門前の長い下り坂を降りながら、赤くなった空を見上げる。夕空はなぜこうも、ノルスタジックな気分にさせられるのだろうか。瞬が柄にもなくそんな事を考えていると、唯が思い出したかの様に言う。

 

「そういえば、2人で帰るのって久しぶりかも」

「そうか……そうかな?」

「ひどいなー瞬は。ここ最近は皆でガヤガヤしてばっかだったからね。2人きりってのは案外久しぶりなもんなのさっ」

「言われてみればそうだな。少し懐かしく感じる」

 

 この一か月で色々あった為か、唯と2人きりだった日々のことが凄く前の事の様に感じられてしまう。よくよく考えるとまだひと月しか経っていない、もしくは早くもひと月が過ぎたのだ。改めて密度の濃い日々だったのだと思い知らされる。

 2人は大通りを歩いていた。たしかこの辺りには唯の行きつけの本屋があった筈。偶にはコイツと2人で行ってみるのもいいかもしれない。

 

「本屋寄ってかない?マ○ジンとサ○デー買いたいからさー」

「別にいいけど。俺も買うつもりだったし」

 

 漫画雑誌の今週号をまだ買っていなかったのもあって、2人は近くの本屋に入る。

 雑誌コーナーは入り口付近なのですぐに見つかった。早速目当ての雑誌を見つけ、唯は手に取ろうとするが、横から伸びてきた手にその雑誌を掻っ攫われる。一体こんな真似をする奴は誰なんだと思いながら、唯は顔をあげる。

 そこには、雑誌を手に持ったハルと、両手に持った籠いっぱいに本を入れ、気まずそうな顔をしている灰司がいた。

 

「あれ、逢瀬さんに唯さん。先程以来ですね」

「さっき部室で別れたばがりなのに、これだと別れた意味がないですね」

 

 灰司の言うとおり、さっき別れたばかりなのに(実際は部室に置いていかれた)こうしてすぐに再開してしまうと、なんとも言えない気分になる。

 しかし何故こうも、学校帰りに行く先々で知り合いに出会すのだろう。志村の時も確かこんな感じだったし、思ったよりも世間は狭いのかもしれない。

 

「しかし奇遇だねー。ハルちゃんもこの店に来てたなんて」

「家から近いのでよく来るのです。ひょっとして2人も常連さん?」

「学校帰りにここでジャ○プとか買うのが毎週のルーチンなんだ」

 

 そう言った唯は、ふと、ハルの手に持っている漫画本の表紙を見る。

 

「あ、それ“技術回線”の最新巻!そっか今日発売日だったんだ!」

「あ、ちょっと……ったく、相変わらずこうなんだから」

 

 待っていた漫画の最新巻が発売されていた事を思い出すなり、目にもとまらぬ速さで新巻コーナーに向かっていってしまった。こうなれば此方も好きにやらせてもらおうと、瞬も新巻コーナーへと走っていくことにした。

 そんな2人の後ろ姿を、ハルは立ち読みしながら眺めていた。

 

「案外似た者同士……なのかもしれませんね」

「よきかなよきかな」

「ところで九瀬川さん。僕を荷物持ちにするのはいいんですが、一体いくら買い込むつもりで……」

「あーあー聞こえないなぁー」

「……」

 

 帰り際に半ば強引に荷物持ち要員として連れてきといてそれは無いだろう。このまま帰ってもバチ当たらないよね?と、ハルに対して若干キレそうになる灰司であった。

 

 


 

 

 数十分後。

 灰司以外は思い思いに大量の本を買ってレジ袋に詰め込んでいた。ハルに至っては、灰司が居なかったら一体どうやって持って帰るつもりで、そしてどうやって読破する時間を作るんだと言いたくなるような量である。

 

「早く読みたいなー。帰るのめんどくさいからここで広げちゃおっかなー」

「やめろ。そんな事したら流石の俺でもお前の友達辞めざるを得なくなるぞ」

「なんか小腹空いたなー。何かいい店知らない?」

「ならいい店知ってますよ。向かいにメイド喫茶があるんですけど、メニューもいいしメイドも可愛い、まさに天国!って場所なんですよ。私はここで買った本を読みながらその店のケーキ食べるのがサイコーに堪らないと思ってますが、一発どうですかね?」

「このマシンガンの如くなされる自分語り……なんかだいぶ慣れてきたな」

「いやこんなに大量の本、どこ行っても邪魔なだけでしょう……」

 

 ハルのマシンガントークをはいはいと聞き流しながら、瞬達は店を出る。目当ての漫画が買えて嬉しいのか、唯だけでなく瞬も心なしか浮き足立っているように見える。

 瞬達が店を出たその時だった。ガシャーン!と大きな音がしたと思いきや、向かい側のメイド喫茶らしき建物から、怒り心頭の男が出てくる。それを追って、店からロングスカートのメイド服を着た店員らしき人物が店から出てきて、男の肩を掴む。男はそれを振り払い、メイドの胸ぐらを掴んで鬼のような形相で怒鳴り散らす。

 

「ふざけんな!何で俺がモブキャラに金払わにゃならんのだ!テメェは俺のオモチャなんだから金払わなくていいだろ上等だろ!」

「いやいやいや、こちとらビジネスでやってんだから客から金取るのは当たり前でしょーが!ぼったくってるわけじゃないんだからさぁ……」

「黙れよ雑魚!まさかテメェは俺から金を取ろうってのか!ふざけるのも大概にしろよ!」

 

 男の怒鳴っている内容を聞いて、瞬は頭が痛くなってきた。どう考えてもいい歳した大人が言うような内容じゃない。常軌を逸した発言に、周囲ね人達が男を憐れむような目で見るようになる。あれは大人の皮被った赤ちゃんなのだと、そう思わなければやっていけなかった。

 皆が珍獣を見るような目を男に向ける中、ハルは男ではなく、男と言い争いをしているメイドの方を、目を凝らしてよく見ていた。そして気づいた。

 

「あれは店長さん!うむむ、常連として放って置けない、行きますよ皆さん!」

「え、俺達も行くの?」

「当たり前。レッツ人助け!」

 

 どうやらあのメイドは、ハルが先程言っていた店の店長らしい。知り合いが困っているのをほっとけないハルと、そんなハルをもほっとけない唯の2人に両手を引き摺られるような形で、瞬も騒ぎの中心に向かっていく。

 横断歩道を渡って反対側、騒ぎの中心となった店の真前にやってくる。男と怒鳴り合いの口論をしていたメイドは、ハルの顔を見るなり声を掛けてきた。

 

「 あ、ハルちゃん!聞いてよ!コイツウチの店の金払わずに出て行こうとした挙句、逆切れしてくるんですよ!非常識すぎない?」

「警察呼んだんですよね?」

「今他の子が呼んでるところ。兎に角この人が逃げないように押さえつけて!」

「は、はい」

 

 メイドに言われるがまま、瞬と灰司が逃げようとする男の前方に回り込み、男を押さえつける。

 

「すみません!でも話を聞く限り貴方が悪いんですよね?」

「よっと……しかし、みっともないよな……」

「テメェら!俺を誰だと思ってやがる⁉︎ 俺は主人公だぞ⁉︎ 主人公から金取ろうとするこの店が悪いに決まってるだろ!」

 

 男はもがきながら怒鳴り散らすが、周囲の人は皆、彼の言っていることの意味がわからなかった。目の前の男が、自分達と同じ人間とは到底思えなかった。

 

「お主往生際が悪いぞ!」

「幼稚園からやり直せ!」

「同族として恥ずかしい……かくなる上は切腹しかないでござる!」

「やめてー!メイドさんのハラキリなんか求めてないからぁ⁉︎ 」

 

 店の中にいる客やメイド達、通りすがりの一般人も、窓越しに男を非難する。ぶっちゃけ、メイド喫茶で無銭飲食するとか恥ずかしいにも程があると瞬達は思うのだが、この男はそうではないらしい。面の皮厚すぎだろう。

 周囲からの猛烈なバッシングを受けた男は、急にぴたりと抵抗を止める。しかし、ようやく落ち着いた……ようには、瞬に到底思えなかった。

 何か、ある。

 

「テメェら俺をコケにしやがって……ぶっ殺してやる!」

《KAKUSEI GULE》

「まさかお前……皆逃げろォ!」

 

 瞬が叫ぶよりも早く、男の身体がジッパーに覆われていく。そして、そのジッパーが全て開くと、浅黒い艶のある体躯に、大きな口だけが存在する頭を持ったオリジオンに男は変身していた。

 オリジオンとなったことで常人をものともしない力を手に入れた男は、自身を押さえつけていた瞬と灰司を振り払って突き飛ばすと、自身の食い逃げを非難していた一般人の青年に食ってかかる。首を掴んで持ち上げられた青年は、大声で叫びながらじたばたもがく。

 

「や、やばばばばば……」

「店長!逃げるでござるよぉ!」

 

 腰を抜かしたメイド店長を、他のメイドが引きずるようにして逃す。瞬達以外の人間達も、一斉に散り散りになって逃げてゆく。突き飛ばされた瞬は、腰を摩りながら起き上がる。

 

「オリジオンだったのか……アイツも」

「あんな状態で暴れられたら逆ギレでは済まないし!止めなきゃ!」

「あ、馬鹿っ!」

 

 瞬が止めるのも聞かずに、唯はグールオリジオンに飛び蹴りをかます。グールオリジオンは死角からの、何の力も持たない筈の少女による予想外の攻撃を受け、青年を放して街頭にあたまを打ち付けられる。

 

「効いた……んですかね?」

「兎に角逃げてください!いいですね!」

「あ、ありがとう助かった!君は命の恩人だ!」

 

 青年は唯に感謝の言葉を述べると、急いで逃げて行く。これで大方逃げ終わった筈だ。まだ逃げ遅れている人がいないか、瞬が確認していると、

 

「邪魔すんなよタコ!食っちまうぞ!」

 

 邪魔されてキレたオリジオンが、近くにあった電灯を地面から引き抜いて、瞬達目掛けてぶん投げてきた。電灯は瞬達の間を素通りしてその後ろの街路樹に当たり、街路樹もろとも千切れ、近くの電線とそれに繋がっている電柱諸共地面に倒れ込んできた。

 まるでドミノ倒しみたいに倒れた街路樹やら電柱やらにより、瞬達は分断される。土煙で視界が塞がれる中、必死に叫んで瞬は他の皆の安否を確認する。隣にいる唯はともかく、他の2人が心配だ。

 

「だ、大丈夫か灰司!ハル!」

「大丈夫ですよ。てか何あれ、まるで特撮モノな怪人みたい……」

「僕も大丈夫ですから!」

 

 皆の元気そうな声で、瞬と唯は安堵する。

 こうなったらアクロスに変身するほかない。放っておいたら、自分達も周囲の人達も危ない。瞬は持っていた鞄からクロスドライバーを取り出そうと、鞄に手を突っ込むが ——

 

「な、無い⁉︎ 」

「ウソぉ⁉︎ 」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 普段は肌身離さず持っている筈で、今朝も家を出る前に鞄の中に入れていたはずだったのにも関わらず、だ。想定外の事態に動揺する瞬。唯が必死になって瞬の身体を揺さぶるが、瞬の頭はパニックを起こして完全にフリーズしていた。

 グールオリジオンは、そんな瞬の様子を見て嘲笑い、指先から伸びる長く鋭い爪を振り下ろそうとする。

 

「なんだあ?威勢が良かったのは最初だけかよ雑魚がよぉ……俺様相手にイキリ散らしたツケを支払ってもらおうか!俺の邪魔をする奴は死ねえええええええええええええええええっ‼︎ 」

「あ……やべえ……」

「瞬っ‼︎ 」

 

 —— あ、死んだわコレ。

 周りの音が遠くなる。きっとこれから走馬灯が始まるんだ ——

 

 


 

 

 ガキンッ‼︎

 死を覚悟した筈の瞬の耳に、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえてくる。それはつまり、瞬が生き延びた事を意味していた。

 恐る恐る、目を開く。

 

「何ボサっと突っ立ってやがる、アクロス」

 

 黒ずんだ体色の仮面ライダーが、オリジオンの腕を両手で受け止めていた。

 仮面ライダーメタルビルド(てんせいしゃがり)。転生者を裁く執行者の登場であった。どこかビルドに似ているが、全身が黒ずんだメタリックカラーで構成されている。どうやら瞬がかつて出会った、あのビルドとは別らしい。

 メタルビルドはグールオリジオンの腕を掴んだまま、そのまま投げ倒す。そして追撃しようとするが、突然、何処からか彼の足元に銃弾が飛んでくる。威嚇射撃のつもりだったのか、それは誰にも当たる事なく、歩道に銃痕を残すだけにとどまる。

 メタルビルドは、銃弾が飛んできた方に視線を向ける。車道を挟んで反対側の歩道に、軍服姿の銀髪の少女が銃を構えた状態で立っていた。ギフトメイカー・レイラである。彼女は、メタルビルドを見るなり、鼻で笑って濁った赤い瞳で彼を睨みつける。

 

「なんだ、転生者狩りか」 

 

 お前はお呼びでは無い、とでも言うかのように。

 

「来やがったな、ギフトメイカー!テメェらの野望は俺が砕く!テメェらの命は俺が奪う!それが俺の仕事だ」

 

 だがメタルビルドにとってはそんな事は知ったこっちゃ無い。世界に仇為す転生者と、それを操るギフトメイカーは等しく殺すべき敵。敵意マシマシの声をレイラにぶつける。

 レイラの方も、言ってもわからぬなら力尽くでやるしかないと、銃を投げ捨てて、何処からか二振りのサーベルを取り出し、刃をメタルビルドに向ける。

 

「貴様には用はないが、性懲りも無く大口を叩くようなら……その言葉、口先だけでは無い事を私に示してみろ!」

 

 戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。

 

 


 

 

 アラタは走っていた。

 クロスドライバーを盗んだ。やってはいけない事だということは分かっている。今自分は悪人に成り下がったのだという自覚は確かにあった。友情を裏切り、自分の感情を優先してしまった。そんな自分には、もう彼にあわせる顔は無くなったのだ。

 後ろ髪を引かれるような気持ちを抱えたまま、クロスドライバーを手に持って走るアラタ。だが、彼の行手を阻む様に、ある人物が彼の前に立ちはだかる。

 

「どこに行こうというのかな、そのベルトを持って」

 

 フィフティだった。いつもの様な物腰の柔らかそうな雰囲気とはうって変わり、ただアラタを蔑む様な、冷ややかな目をしている。彼は、至極真っ当な質問をする。そして、憐憫からくる生温かさと、軽蔑からくる冷ややかさが合わさった様な、奇妙な目をアラタに向け、諭す様に言葉を紡ぐ。

 

「いくら君が逢瀬くんの友達だとしても、泥棒はよくないな。さ、私が彼に返してあげるから、クロスドライバーを渡しなよ。皆には黙っておいてあげるからさ」

「この力があれば、オリジオンをブッ倒せるんだろ?なら俺は使う。この間みたいな事は、起こさせない!」

 

 そう。アラタはこの間のことを悔いていたのだ。鎮守府でオリジオンに襲われ、大鳳が攫われた時のことを。

 あの時、アラタは何も出来なかった。一方的に嬲られ、奪われるだけであった。あの悔しさと不甲斐なさに、ここ数日間ずっと苛まれ続けてきた。潮原提督や瞬のおかげで助かったのは事実。だからといって、これから先も、大切な人を自分で守ることができないという現実に、アラタは耐えられなかった。

 それも全部、自分が弱いから。

 大切な人に降りかかる理不尽を全て跳ね除けられるような男になりたい。これ以上、彼女を苦しませたくない。だから、強くならなくては、力を得なくてはならない。

 そうして —— 彼はこのような愚行に走ってしまった。本来の持ち主である友人が今、追い詰められているとはつゆ知らず。

 

「君の気持ちはよく分かる。大切な人が危険な目に遭っていたのに、自分は何も出来なかった。それはさぞ悔しいだろう。だがしかし、世の中にはどうあがいても不可能な事があるんだ。それは君には使えないよ。焦って力を得ようとしても、碌な事にならないさ」

「それでもだよ……大鳳は今の俺を作ってくれた恩人で!家族で!大切なヒトなんだ!それを守れない俺の不甲斐なさに苛々して仕方がないんだ!だから使うぜ、俺だってやればできるんだって証明してやるんだよ!」

 

 フィフティは、そんなアラタの気持ちを理解しながらも、その行いは無謀で無意味なものだと断じる。だがアラタは、フィフティの言葉を受け入れない。後悔と焦りに支配された今の彼には、フィフティの声が届く余地はない。それをわかっていたフィフティは、黙ってアラタを見つめ、痛い目を見ないと分からないようだな、と言うかのように鼻で笑う。

 アラタはそんなフィフティの態度に更に反発し、啖呵を切りながらクロスドライバーを装着し、アクロスライドアーツを装填する。そして、拳を力強く前に突き出して、心の限り叫ぶ。

 

「変……身……っ!」

《FATAL ERROR!》

 

 しかし、それは叶わなかった。

 クロスドライバーから光が発せられ、アクロスのスーツが生成されようとした瞬間、アラタの全身を、その身を焦がし尽くすかのような電撃が(ほとばし)った。

 

「っがああああああああっ‼︎ 」

 

 まるで身体だけではなく、精神すらも焦がし尽くさんとする衝撃が、アラタの全身をとめどなく駆け巡る。声を出し尽くす様な勢いで絶叫するアラタを、フィフティは「だから言わんこっちゃない」とでも言うかのように、冷めた目で見つめる。

 

「ぐあああああああああああああああっ⁉︎ 」

 

 クロスドライバーがアラタの身体から弾かれる様に離れ、地面に転がり落ちる。アラタもまた、ドライバーに弾かれたかのように吹っ飛び、ブロック塀に激突し、そのまま倒れる。

 身体は動かなかった。自分が今どんな表情をして、どんな姿勢をとっているのかすら曖昧になる。視界は今もなお激しく点滅を繰り返し、頭の中心から耐えがたい激痛が絶え間なく襲ってくる。変身しようとしただけでこのザマだ。

 

「だから言ったのに。ホント愚かな奴だね」

「な、んで……つかえ……ない?」

 

 まさか小細工でもしたのか。瞬以外には触らせない様に。そんなアラタの疑念を晴らすかの様に、フィフティは冷ややかな声で告げる。

 

「別に細工とかはしてないよ。至極単純な理由だよ」

 

 フィフティは、ボロボロになったアラタに目もくれず、落ちたクロスドライバーを拾い上げる。そして、アラタの疑問に対し、どうしようもなく残酷な答えを告げる。

 

 

 

「だって君、転生者だろ?」

 

 

 

 

 




書きたいもんを出来るだけつめこんだら過去最長の回になりました。スク水はいい文明。はっきり分かるだろう?
後半は多分もっとめだ箱要素増えます。

頭おかしいキャラができました。多分登場人物の中で一番ギャグ方面にぶっ飛んでるオリキャラです。そして安定の屑転生者……

瞬達の通う学校は、めだ箱とストブラとHSDDがコリジョンし合っているので、勢力図的にはかなりカオスになっています。本筋とはあまり関係ないのでそこら辺に触れるのは今回くらいですかね。
こんな学校よく悪魔が住み着けるよな、という突っ込みは野暮野暮。


転生者関連の情報をいい加減瞬達に対して開示しなきゃならないんですが、中々そのタイミングが作れないなあ……
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