【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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3ヶ月半ぶりくらいになります。めだ箱編の後半です。
50000文字超えしやがった……っ!
予想以上の難産かつボリュームになりました。分割という発想はないです。ところどころ投げやりな部分があります。すみません。
多分削れるとこれは沢山ある。

心理描写から逃げたくなるマン。

あらすじ

なんやかんやで漫画研究部とかいう変な部活に入る羽目になった瞬達。
しかしその裏では、生徒会を狙うオリジオンの影が蠢いていた。

それから数日後、別のオリジオンに襲われた瞬。しかしなんとベルトが無くなっており……


第19話 「転生しただけの愚か者だよ」

 その少年は、血溜まりに座り込んでいた。

 彼の周囲には、同い年くらいの少年少女達が血塗れで倒れている。その全ては既に生命活動を終えていた。手足が千切れて出血多量で死んだ者。頭が跡形もなく消し飛んだ者。皮だけのミイラになった者。全身が焼け焦げ炭化した者 —— 死因のバーゼンセールと言わざるを得ない地獄絵図の中、その少年は傷と血に全身が覆われながらも、五体満足で震えていた。

 

(なんで、こう、なった?)

 

 少年は凄惨極まりない部屋の隅で頭を抱え、この惨状に至った経緯を回想する。

 軽い気持ちだったのだ。自分と同じ転生者達に出会えたから、その交流会を企画した。せっかく転生者(どうほう)に出会えたのに。仲良くできると思っていたのに。

 結果はこれ。参加者の一人から提供されたパーティー会場は、皆が皆、与えられた転生特典を使って殺し合う戦場と化し、少年以外の転生者は皆死んでしまった。

 少年は思った。これはひとえに、こんな催しを提案した自分が悪いのだと。自分の浅はかさと、無力さで皆が死んだ。

 ああ、こんな惨劇が繰り返されるというならば。

 

 —— 転生特典(こんなもの)なんか捨ててやる。

 


 

 

 

 欠望アラタは転生者である。

 異世界に行って大活躍したり賞賛されたくて転生したわけでは無いが、どういう訳か気が付いたらこの世界で第二の生を受けていた。

 前世の記憶はあまり無い。どうやらこれは普通ではないようなのだが、覚えていないものは仕方がない。きっと、覚えていたらいたで前世に縋り付くだけだった。

 

 

 

 初めは転生先の世界をよく知らずにはしゃいでいた。

 しかし、「ある失敗」を機に、彼は一度壊れかけた。それは1人の人間が、心を閉ざすには充分すぎる悲劇だった。

 そうなった彼を立ち直らせるきっかけとなり、かつ今の彼の人格形成に深く関わっているのが、大鳳と呼ばれる1人の艦娘である。この経緯は後の機会に語る事として、結果として、今の情に熱く家族思いな欠望アラタという人間にとって、彼女は何よりも大切な存在といえる。

 

 

 

 故に。

 無自覚な愛故に、彼は道を踏み外した。忌避していたはずの場所に舞い戻ってしまった。

 その過ちの結果はまだ ——

 

 

 


 

 

 

 そして今。

 

 

 クロスドライバーに弾かれて地面にぶっ倒れたアラタに、フィフティの冷ややかな目線が上から突き刺さる。

 だから言わんこっちゃない、散々忠告したのに破った君が悪いんだよ?と暗に告げている様な。そんな無言の時間が幾ばくか経過した後、フィフティは心底呆れたといった感じにわざとらしいため息をつきながらアラタの元に歩み寄る。

 

「アクロスのベルトは転生者には使えないんだ。私もよく分かってはいないが……恐らく、人間の魂ってやつは、転生というフィルターを介することで歪んでしまうものらしい」

 

 クロスドライバーを拾い上げ、手持ちのハンカチで綺麗に磨く。そして、うつ伏せで倒れているアラタを足で仰向けにする。それは暗に、フィフティがアラタをゴミのような存在と認識していることを表していた。フィフティは、

 

「だから大人しく諦めたまえ。世の中にはどうにもならない事はごろごろあるんだから」

「うう……」

「やめなよ、私の所に堕ちるのは。仮に君に新たな力を授ける術があっても、今の君には絶対に渡さない。自分が何故こんな行為に及ぼうとしたのか、その過程をよーく思い返してみる事だ」

 

 意地を張る子供の様な、というかあからさまに蔑む様な言い方だった。

 

「私は意地悪だからね。ここで一つ、今の逢瀬くんの状況を君に見せてあげよう」

 

 フィフティは何処からか、華美な装飾の施された杖を取り出すと、その柄でトン、と軽く地面を叩いた。すると、叩かれた箇所の周囲が淡く光りだした。

 

「何を……」

 

 光の中に、見知った顔が映る。

 逢瀬瞬。アラタの友人にして、ベルトの本来の持ち主。彼がオリジオンらしき怪物に殺されようとしていた。思わず声をあげそうになったが

すんでのところで謎の仮面の戦士に助けられ、そいつとオリジオンが交戦に入る中、瞬はその場から離脱していく。フィフティの言葉から察するに、瞬の様子を地面に投影しているようだ。

 映像は瞬が唯とハルの手を引こうとするところで止まり、それと同時に地面の発光が止まる。

 

「まあこんな事が起きたわけ。今回ばかりは転生者狩りに感謝しなきゃね。あーあ、誰かさんがクロスドライバー盗まなきゃこんな真似しなくて済んだのにのなー」

「……」

 

 フィフティは執拗にアラタを責め立てる。あまりにも苛つく言い方に、アラタは思わず目の前の男に殴りかかりたくなるが、クロスドライバーに弾かれた反動のダメージで満足に動けないし、言ってること自体は事実なので何も言い返せなかった。

 

「じゃあね。意気地なしの足手纏い君。2度と私の逢瀬君の前に現れないでくれよ」

 

 フィフティはアラタをひとしきりこき下ろすと、倒れたままのアラタを放置して立ち去って行く。

 倒れたままのアラタは、先程見せられた映像を頭の中で反芻していた。あの仮面の戦士が居なかったら、瞬は死んでいた。そしたら、間違いなく自分のせいになる。自らの身勝手さで、友人を死なせかけた。

 

(畜生……っ!俺、何にも変わってないじゃねえか!)

 

 これが、力なんか手にしないという、過去の誓いを無碍にした結果。

 フィフティが去り、1人取り残されたボロボロの少年は、しばらくの間、自らの浅はかさと愚かさ、そして惨めさに、嗚咽を漏らすことしかできなかった。

 

 


 

 

 

 同時刻。

 瞬達の目の前で、メタルビルドに変身した転生者狩りと、オリジオンとギフトメイカー・レイラのタッグの戦いが幕を開けようとしていた。

 

「ふんっ!」

 

 レイラは無数のサーベルを空中に出現させると、それをメタルビルド目掛けて一斉に射出する。それに対し、なんとメタルビルドは自分に向かって飛んできたサーベルを掴み、それを使って飛んできた別のサーベルを弾き飛ばした。

 

「なっ……やはり只者ではないか!」

 

 レイラはそれを見て一瞬驚いたような顔をしたが、負けじと更にサーベルを出現させ、射出する。

 煉瓦張の歩道を抉るような威力の剣の雨の中を、メタルビルドは躊躇う事なく突っ走り、手に持ったサーベルで飛んできたものを弾きながら、最短距離でレイラに接近しようとする。

 レイラは後ろに跳躍して距離を取ると、手に持っていたサーベルを投げ、メタルビルドが持っていたものを弾き飛ばす。

 

「ふん!」

「|因果融合・銃剣乱舞第一楽章《ホロスコープフュージョン キルバレットラプソディ》!」

「転生者狩り覚悟ォ!テメェを木っ端微塵の粗挽き肉にした上で犬の餌にしてやんよぉ!」

 

 レイラは空中に幾つものライフルを出現させると、それによる一斉射撃を開始する。メタルビルドは後方に跳躍して回避するが、その後ろからグールオリジオンが襲いかかる。

 が、メタルビルドはそれを読んでおり、後方に跳躍すると同時に肘を後ろに向かって突き出し、奇襲を仕掛けようとしたオリジオンを返り討ちにしてしまう。鳩尾に肘鉄を食らったグールオリジオンは、情けない声を上げながらガードレールの上に倒れ込む。メタルビルドは、手に持っていたドリルクラッシャーを投げてレイラのライフルを弾き落とすと、グールオリジオンを踏みつけながら語りかける。

 

「偶にいるんだよな。自分は選ばれたものだからって何しても許されるって勘違いする馬鹿が」

「ふ、ふざけるな!俺は主人公だぞ!踏み台は踏み台らしく倒されとけよぉここは俺の世界なんだからさあ!」

「んな訳あるか。社会生活舐めてんのかテメェ。ここは空想の世界じゃ無いんだ。ここにいる奴は皆背景(モブ)じゃなくて生きてるし、原作キャラとやらも心を持った存在だ。犯罪しといて無罪放免って道理もないよナァ?それもわからないようなクズが一丁前に転生してんじゃねーよ!」

 

 メタルビルドはそう説教しながらグールオリジオンの顔面を掴んで持ち上げると、その体を思い切り街灯に押しつけ、必殺技を発動させるべく腰のビルドドライバーのレバーを回す。

 

「一瞬で楽にしてやる。お前は人に生まれるにゃ早すぎたよ」

《ガタガダゴットンズタンズタン!ガタガダゴットンズタンズタン!Are You Ready?》

 

 メタルビルドの脚に漆黒のエネルギーのようなものが集約していくのが見える。オリジオンは必死にもがいたり手の爪で切りつけたりして抵抗してくるが、メタルビルドは動じない。逃れられない。

 

「死にたく無い……死にたく無いよおおおおおっ!」

「ミジンコからでもやり直してこい、ゲロカス野朗」

 

 メタルビルドからの死刑宣告と同時に、必殺の一撃が炸裂する。至近距離から放たれたハイキックが、オリジオンとその背後の街灯を横から薙ぎ払い、くの字に折り曲げさせる。

 

「ぎゃあああああああああああっ!」

 

 グールオリジオンは断末魔の悲鳴を上げながら、街灯の残骸と共にレンガ張の道路を転がってゆき、そのまま爆散した。

 跡形もなかった。

 レイラは対して役に立つことなく死亡したオリジオンをボロクソにこき下ろす。

 

「やはり並の転生者では手駒にもならんか。そもそも我欲が強すぎて手綱を握ることすらままらなんというのに……ったく、何故ティーダは転生者を手駒にしようとか言い出したんだ」

「意外だな。ギフトメイカーからそんな台詞を聞くとは」

「やはり信頼できるのは己の力のみ、ということらしい。覚悟しろ、転生者狩り!」

 

 レイラはマシンガンを両手に出現させると、周囲のことなどお構いなしにぶっ放す。瞬は咄嗟に唯とハルの手を引っ張り、近くの店舗に逃げ込む。銃声があたりに響き渡り、瞬が先程まで立っていた地面が銃痕まみれになるのを見て、瞬は思わず身震いをする。

 逃げ込んだ先は、先程のオリジオンがトラブルを起こしていたメイド喫茶。銃弾から逃れるべく、3人はカウンターの後ろに潜り込む。他の皆はオリジオンの出現の際に逃げたらしく、この場には戦っている2人をのぞいて瞬達以外の人物はいないのが幸いだ。

 

「ちょこまかと……」

「それが俺のスタイルなんでな。ったく、遠距離攻撃ばっかで分が悪い。装備選び失敗(セレクトミス)ったか?」

「それならそれを後悔しながら死ね」

 

 弾丸を避けながらメタルビルドで挑んだ事を失敗だとぼやく転生者狩りに、レイラは新たなマシンガンを出現させて再び乱射する。メタルビルドは避けるが、飛ばされた銃弾はその後ろにあったメイド喫茶に突入する。

 激しい音とともにガラスが砕け、横殴りの銃弾の雨が店内に降り注ぐ。カウンター裏に隠れていた瞬達は、必死に身をかがめてやり過ごす。こんなの下手したら蜂の巣になるのは自明の理。店の裏口からでも逃げようかと思ったが、迂闊に動けない。

 弾丸の雨の中、瞬がどうするべきか考えていたその時。

 

「ひいいっ⁉︎」

「な⁉︎」

 

 情けない悲鳴で、カウンター裏に先客がいた事に今気づいた。見ると、カウンター裏の端の方で、眼帯をつけたメイド少女が蹲っている。どうやら逃げ遅れたらしい。眼帯少女は瞬を見るなり、泣き叫びながら抱きついてきた。

 

「だずげでぼじいでござるぅううううううううううううううう!拙者まだ死にたく無いでござるよおおおおお!」

「抱きつくな抱きつくな!てかござる口調のメイドって何キャラ濃くない⁉︎ 」

「逢瀬さんのキャラが薄味なだけでしょ」

「それケンカ売ってる?」

 

 パニクって泣きじゃくる少女をなんとか落ち着かせると、瞬はカウンターの陰から外の様子を伺う。割れた窓ガラスの向こうでは、転生者狩りの変身するメタルビルドとレイラが殴ったり蹴ったり斬ったり撃ったりと血みどろの戦いを繰り広げている。

 

「兎に角逃げよう。レイラだったか。幸い、奴は俺達よりも転生者狩りを優先しているから、コッチに襲いかかってくる可能性は低いと思う。なるべく慎重に、攻撃に巻き込まれないように裏口から逃げよう。お前ここの店員なんだろ?裏口とかの場所分かるか?」

「は、はい。あの奥でござるが……ちょっと腰抜けちゃって、手を貸していただけると助かるのですが……」

「なら私が。大丈夫?立てる?」

 

 唯が少女に肩を貸し、彼女の案内の元、四人は戦場から離脱しようとする。ベルトが手元にあれば、もう少し状況はマシになっていたかもしれない。転生者狩りがいなかったら、瞬は死んでいたかもしれない。

 不幸なのか幸運なのか、曖昧になる感覚に軽く震えながら出口を目指す。

 が、それはすぐに叶わなくなった。

 メタルビルドに殴り飛ばれたレイラが、ガンガラガシャンと激しい物音を立てながら、ボロボロになった店内に突っ込んできた。放置されたままの食器やテーブルが砕け散る音が店中に響き渡る中立ち上がった彼女は、軍服についた埃を払うと、恐ろしいほど暗く紅い瞳で瞬の方を睨みつける。

 そして。

 

「まだ居たか、仮面ライダー。ちょうど良い、死ね」

 

 ライフルを構え、瞬達の方を目掛けて撃つ。

 瞬は咄嗟に横に跳んで回避する。が、射線の先には、今まさに裏口の戸を開けようとするメイド少女が。彼女は銃弾が自分に向かって飛んできていることに気づいていない。瞬の叫びも間に合わない。

 —— 終わった。

 

 


 

 

 しかし、それは呆気なく阻まれた。

 

《COMPLETE》

 

 銃声の直前に滑り込んできた機械音声。

 レイラの背後から黄色い光が差し込んできたかと思えば、その直後、彼女の後方から放たれた光弾が、レイラの銃弾を全て弾き飛ばした。

 

《EXCEED CHARGE》

「っ⁉︎」

 

 レイラが状況を理解した直後、間髪入れず死角からの一撃が背中に直撃する。

 レイラの背中のど真ん中を起点として、彼女の全身に衝撃が走った。そしてレイラの身体は黄色い網状の模様に覆われ、銃を構えた体制のまま、彼女の身動きが封じられる。

 ギリギリと、レイラは満足に動けない首を無理やり動かして後ろを確認する。そこには、仮面ライダーカイザに変身を切り替えた転生者狩りが、カイザブレイガンの銃口を向けた状態で立っていた。ブレイガンから伸びる刀身では、充填されたフォトンブラッドが、まるで獲物を求めるが如く黄色く発光している。

 

「ったく、ウロチョロしてんじゃねえ。死にたいのか」

「は、はひぃ……」

「大丈夫ですかぁ⁉︎ 」

 

 命の危機が一瞬のうちに自分に降り注ぎ、そして通過した。その事実を認識した少女は、緊張が解けたのか、カイザに魔の抜けた返事を返すとへなへなとその場に崩れ落ちる。

 カイザブレイガンの刀身をレイラに突き付けながら、皮肉混じりに鼻で笑う。

 

「流石ギフトメイカー。俺よりも無防備な一般人を狙うたあ卑怯者らしいぜ」

「………」

「しかしお前は馬鹿だな。俺に背を向けると……このように狩られるぞ?」

 

 明確な殺意の篭った、鋭い声。この間バルジと相対した時と同じだ、と本能的に瞬は理解していた。

 すると、先程からダンマリを決め込んでいたレイラが、カイザに鼻で笑い返してきた。

 

「はっ、お前こそ馬鹿か?私がこの程度の束縛から逃れられないとでも?」

「なんだと?」

 

 カイザブレイガンの拘束はそう簡単に打ち破れるものではない。本来の世界(げんさく)でも、これが打ち破られたのはただ1回のみ。ましてや、いくらギフトメイカーといえどレイラは肉体的には普通の人間。打ち破れるはずがないと、カイザはそう思っていた。

 しかし、それはあっという間に覆った。

 一瞬、レイラの目が紅く光ったように見えた、と思った次の瞬間、レイラを縛り付けていたカイザブレイガンによる拘束が呆気なく弾け飛んだ。歴戦の転生者狩りも、さすがにこれには驚きを隠せなかった。

 

「馬鹿な⁉︎ いくらギフトメイカーといっても、テメェは普通の人間の筈だろ!何故破ることが出来る⁉︎ 」

「さあ?お前がその転生特典(ちから)を使いこなせていないだけでは?」

 

 レイラがカイザを嘲笑う。しかし、転生者狩りは即座にカイザブレイガンを構え、レイラ目掛けて振り下ろす。

 いくら拘束を打ち破られようが、カイザブレイガンのフォトンブラッドは既に充填されている。フォトンブラッドは人体にとって有害なモノ。このまま斬りさえすれば、レイラは死ぬ。

 しかし。

 

因果焼却・反撃一矢(デッドリーゼロ・ディスオベイ)!」

 

 突如として、カイザブレイガンに充填されていた筈のフォトンブラッドが()()()()()。何が起きたのだと疑問に思う間も無く、レイラの空いた手に出現したサーベルによって、カイザブレイガンがカイザの手から弾き飛ばされる。その衝撃でブレイガンからカイザメモリが外れ、刀身が消えた状態でカイザブレイガンが地面に落ちる。

 

「何をした……⁉︎ 」

「私はギフトメイカーだぞ?他人の転生特典に鑑賞することなんて朝飯前だ。貴様の特典に介入し、必殺技を不発にしたに過ぎない」

「転生……特典?」

 

 確か、リイラとかいう少女が似たようなことを言っていた気がする。しかしそれが何なのか、瞬にはわからない。まるでそこだけが周りからあらゆる意味でズレているように感じる。

 発言内容が理解できていない瞬を他所に、驚いたような反応を見せる転生者狩りをレイラは笑う。

 

「しかし滑稽だな。転生者が同じ転生者を手にかける組織など、我々には理解できない。秩序を守るだ世界を守るだの正義ぶって……お前らも側から見れば世界の癌だろうに」

「黙れ!貴様らと一緒にするな!」

 

 転生者狩りが激昂するが、レイラはそれをバッサリと切り捨て、カイザにサーベルを突きつける。

 

「同じだよ転生者狩り。さてお前も消えてもら —— ゔっ⁉︎ 」

 

 ふいに彼女の声が途切れる。

 カランと、手に持っていたサーベルが落ちる。

 

「ばっ……ががぎ……⁉︎ 」

「⁉︎ 」

「ぶ……ごゔぇええぇ……っ!あばがががががががががおえええええええええっ⁉︎ 」

 

 レイラは戦いを放棄して地面に膝をつき、叫び声を上げ始めた。先程まで戦っていた相手が一変し、苦しそうに呻く姿はあまりにも異様だった。

 困惑する瞬達。そこに、

 

「お、壊れてんじゃーん!さっすが役立たず、ちょっと戦っただけでもうこの有様かよ。ホント使えねーよなぁ……お前らもそう思うだろ?」

 

 品の無い、下衆さダダ漏れの声が聞こえてきた。この声には聞き覚えがある。何故ならつい最近出くわたのだから。

 ぶっ倒れたレイラの真後ろ。そこに現れた人物の名を、カイザは憎しみマシマシの声で叫ぶ。

 

「バルジィ……またテメェかぁ!」

「よ、死に損ない。今日も惨めに転生者殺しご苦労様ですっ」

 

 この間倒された筈のギフトメイカー・バルジであった。バルジは悶え苦しむレイラを担ぎ上げながら、息を吐くようにカイザを煽る。

 カイザはベルトの左側につけていたデジカメ型ツール・カイザショットを手に持ち、落ちていたカイザメモリをセットする。そして、地面を思い切り蹴って走り出しながら、ベルトに装填されているカイザフォンのエンターキーを押して必殺技を発動させる。

 

《EXCEED CHARGE》

「死ねバルジィイイイイイイイイイイイイッ‼︎ 」

「あらよっと」

 

 猛毒のフォトンブラッドを纏った一撃が迫る。が、バルジはそれを臆することなく、カイザの手首を掴み上げ、そのまま片手でカイザを投げ飛ばしてしまった。

 あまりにもあっけなく、転生者狩りが地面に叩きつけられる。瞬は、当然の疑問をぶつける。

 

「お前、前に倒された筈じゃなかったのか? 」

「え、アレくらいで俺様が死ぬと思ってたの?バッカじゃねーの?伊達にギフトメイカーやってないんだよ。あーあやっぱ現地民は馬鹿ばっかだわぁ……テメェの常識の範疇で俺達転生者を語るとか、身の程知れよゴミカス」

 

 品性の欠片も無い笑い声を上げながら、瞬も馬鹿にし始める。流石に瞬もキレ気味になるが、バルジはそれをみて更に囃し立てる。

 

「なんだと……?」

「あれぇ、怒った?うわあ転生者でも無いくせに一丁前に怒ってやがる!アクロス、お前場違いだから早くフェードアウトしろよ。原作キャラも非転生者も邪魔なだけだからさ。うん早く自害なりしてくれね?」

「さっきから転生者だの原作だの……一体何のことなんだ⁉︎ 」

 

 瞬がキレ気味にぶつけた質問。瞬にとっては当然のものであったが、バルジにとっては予想だにしないものであった。

 その言葉を聞いて、驚いたような顔を見せるバルジ。「信じられないことを聞いちまったぞ⁉︎ 」とでも言っているかのように目を丸くし、しばらく呆然としたかのように黙り込んでいたが、酷く興醒めしたような、先程よりも冷ややかさがました声で瞬を罵倒し始めた。

 

「え、マジで知らない?知らずに首突っ込んでた訳?無いわーあり得ないわーマジ引くわー。どーりで話通じないわけだ。論外すぎる。そんな状態で俺達の邪魔をするとか気持ち悪いし反吐が出る。死ね」

「ああ、テメェの存在そのものが気持ち悪い。死ねよ」

 

 瞬間、バルジの足元から声がしたかと思えば、バルジの身体が横に倒れていった。足元に転がされていたカイザが、バルジの足を文字通りに引っ張ったのだ。しかし、バルジは空中で華麗に横宙返りを決め、何ごともなかったかのように着地する。

 カイザも立ち上がり、落ちていたカイザブレイガンの銃口をバルジに向ける。

 

「悪いがお前と戦ってる暇は無いんだ」

「ごちゃごちゃ煩え!俺はテメェを殺すためだけに生きてきた!ここで決着を —— 」

 

 ヒートアップするカイザ。

 そこに、妙に胡散臭い声が割り込んできた。

 

「ようやく辿り着いた。にしても派手にやったなぁキミたち。活気あふれる商店街が凄惨なことに……悲しいね」

「お前は……フィフティ!」

「邪魔するなよ老害」

「そうそう、仮面ライダーの導き手フィフティ、久々の登場さ。遅れてすまない。ちょっとコイツを取り返すのに手間取ってね」

 

 裾の長いローブを身に纏った神出鬼没の怪人物・フィフティの登場であった。呑気なことを言いながらのんびりと歩いてくるフィフティに対し、カイザもバルジも怒鳴り散らすが、本人は意にも介していない様子。

 そして瞬の近くまでやってくると、軽い謝罪の言葉と共に、フィフティは手に持っていた物体を瞬に投げ渡す。それは、無くなっていたクロスドライバーであった。

 

「クロスドライバー!」

「君の不用心さが招いた結果だ。今度からは気をつけるんだね」

 

 フィフティは瞬の肩に手を置き、諭すように言う。

 少し離れたところで、フィフティを初めて見たハルが、唯に訊く。

 

「唯さん、この人……」

「私も良くわかんないんだよね。アクロスの力を与えたのはこの人なんだけど」

「声はいいけど全然信用できないですね」

 

 初対面のハルからも胡散臭い呼ばわりされているが、フィフティは全然動じない。用事は済んだ、と言わんばかりに、そそくさと退散しようとする彼だったが、その前にバルジが立ちはだかる。

 

「そのまま帰すとでも思ったか?テメェがアクロスの背後にいやがったのか、くたばりぞ来ないが」

「誰だか知らないけど酷いこと言うなぁ。なんと言われようが、私はまだ死ぬわけにはいかないんだ。さっさと失せてくれないかな?」

「誰に向かってそんな口を聞いてやがる……俺様はギフトメイカーのバルジ様だ —— 」

 

 フィフティの挑発に乗りかけたバルジだったが、そこで彼の腕に取り付けられていた通信機の着信音が鳴り出した。バルジはそれを聞くと、不満そうに舌打ちをしながら通信に応じる。通信機を起動すると、通信機から光が放たれ、バルジの目の前に立体映像を投影する。

 その映像に映っていた人物に、瞬は見覚えがあった。それは、ビルドオリジオンの時に姿を見せたギフトメイカーの一人、ティーダであった。立体映像のティーダは、周囲をぐるりと一瞥すると、

 

『バルジ、帰投しろ。お前の仕事はレイラの回収だけだろう?そいつは早急に改良が必要だからな。戦いはまた次の機会にしろ。異論は認めん』

「チッ、仕方ねぇ……まあどうせいつかは俺たちが全てを支配するんだ。お前らなんかいつだって殺せるんだからな、俺様は!」

「まちやがれ!」

 

 バルジの足元に、ジッパーのようなものが出現し、それが開いてゆく。あの時と同じだ。このままでは逃げられる。

 カイザの怒号を無視して、レイラを担いだバルジは、自身の足元に現れた開いたジッパーの中に溶けるように入ってゆく。カイザが手を伸ばすが、それよりも早く、穴の中にバルジの全身がはいり、それと同時にジッパーが閉じて消滅した。

 

「クソッタレがあ!」

 

 怒りのままに壁に拳を叩きつけるカイザ。それと同時に、彼の身体が青白く発光し始める。

 

「次は逃さねえ……殺してやる、殺してやる……!」

 

 呪詛を吐き散らしながら、足元から霧散していくかのように彼の身体は消えていった。

 

「終わった、のか?」

「ひとまずね。それじゃ私はこれで。クロスドライバーの管理はちゃんとしたまえ、フィフティお兄さんとの約束ダゾ!」

「うわあ気持ち悪」

 

 フィフティのぶりっ子じみた言い方に、思わず唯が嫌悪感を露わにする。フィフティは踵を返し、夕日の方向へと遠ざかっていった。

 ここでずっと蚊帳の外だったハルがぽつり。

 

「最期まで私達ガン無視されてましたね」

「……」

「瞬どしたの?」

「いや、一体どのタイミングでベルトを無くしたんだろうなぁ……って思ってさ」

「無意識のうちに落としてたのかもよ。忘れ物ってそーゆーもんでしょ?」

 

 唯の言葉に、そうかなぁ、と頭を掻きながらぼやく瞬。

 全ての災難は去ったが、後に残ったのは瓦礫が散乱する無人の商店街。このままだと警察とかやってきて厄介なことになりそうだ。全てが自分の関わることなく終わってしまったことに釈然としない気持ちのまま、瞬は唯達を引っ張る形でその場を去るのであった。

 


 

 

 ここから少し余談になる。

 フィフティもギフトメイカーも転生者狩りも去った後、残った面々の中で一人、完全な巻き込まれた部外者であるメイドの少女は、戦いの痕跡がアチコチに残る商店街を呆然と見つめていた。

 心臓は未だにバクバクしているし、足も上手く力が入らない。そんな彼女の頭の中で、ある記憶が反芻されていた。

 

「カッコ良かったでござるなぁ……あの人」

 

 自分を助けてくれた仮面の戦士。

 素顔は知らないけど、それでも命の恩人なのだ。

 一体何処の誰で、どんな人なのだろうか。気になって仕方がない。複数の仮面ライダーの力を自在に使っているということは、転生者なのは間違いない。

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「好奇心が抑えられないでござるぅ!」

 

 彼女はまだ知らない。

 のちに彼と奇妙な再会をする事を。

 

 

 


 

 

 翌日昼、食堂

 

 安い・早い・たまに不味いと評判な学食。先日のビルドオリジオンの一件のせいなのか、はたまた新入生が学食に飽きたのかは分からないが、新学期冒頭に比べると客足は随分と減っている。

 そんな中、善吉はクラスメイトの不知火半袖(しらぬいはんそで)の食事風景を見ながら、ぽつりと呟いた。

 

「しっかし、お前良く食うよなぁ……」

「一日5リットルのカレーを摂取するってのが私の信条だからね」

 

 それはデブの定型文だぞ、と善吉は不知火に突っ込みを入れる。というか前に似たようなこと言ってたが、その時はラーメンでは無かっただろうか。毎度ながら、不知火の小学生みたいな体型の何処にあんな量の食い物が入るのだろうかと、友人の身体のミステリーについて考えざるを得ない。

 と、ここで2人と一緒に飯を食べていた剣道部主将・日向(ひゅうが)が話を振ってくる。

 

「しかし最近この街物騒過ぎないか?この間は駅前で怪物騒ぎがあったし、春休みにも怪物が子ども攫いまくってたし、昨日も商店街で銃撃事件があったとかなんとか」

「日向くんがそれ言っても説得力ないしなー」

「あ?」

「やめろやめろ火種を掘り起こすな。日向も乗っからない!」

 

 なんか目付きが鋭くなった日向をなんとか宥める善吉。日向もまた、色々と問題起こしてめだかに改心させられた一人。確かに不知火の言う通り、あまり説得力はない。ぱっと見理性的に見えるが、割と凶暴なヤツなのだ。実際善吉も一度怪我を負わされている。

 

「でも今更だよ。この学園も充分イカれてるしね。特待生組の化け物っぷりを見れば、な」

「化け物ねぇ……」

 

 化け物、の単語を聞いて、オーバスペックな幼馴染・黒神めだかのことが頭に浮かんでしまうが「いや化け物に失礼だわ。めだかを化け物と呼んだら化け物の方が可哀想だわ」と思い、即座に脳内で否定する善吉。

 まあ充分に普通じゃない奴ばかりが集う学校なのは間違いない。こりゃあ疲れるよなあと思いながら、善吉は席を立つ。

 

「俺行くわ。不知火、今日は結構時間かかりそうだから奢ってやれねーんだ。またの機会に、な」

「じゃーねー」

「ホント入学して一月とは思えない仲の良さだよなお前らって」

 

 クラスメイトと別れ、生徒会室に向かう。ただでさえ生徒会の業務は多岐にわたっている上、本来5人のメンバーで回すところを3人で回しているので余計に忙しいのだ。

 どうせ今日も依頼が来ている。生徒会庶務として、生徒の為に全力を尽くそうじゃないか。

 そう意気込みながら、善吉は渡り廊下へと出る。

 

 

 

 

 次の瞬間。

 後頭部に強い衝撃を受け、人吉善吉の意識は途絶した。

 

 

 


 

 

 

 

 今日は午前中で授業が終わり、既に放課後に突入していた。

 唯の「皆で屋上でランチタイムしようぜ」という提案を受諾した瞬は、ホームルームが終わるなりさっさと部室に向かっていったハルを呼びに行くべく、廊下を歩いていた。

 

(そういえば、今日はアラタに避けられてるような気がする……気のせいかな?)

 

 歩きながら、今日感じた違和感について考えていた。

 今日はアラタの様子がおかしかった。なんか瞬に対して妙によそよそしいというか、避けられているような感じがしたのだ。瞬には心あたりがないので、いくら頭を捻ってもその理由を考えつくことができない。聞き出せるかどうかは別として、どうやら本人に話を聞くしかないらしい。

 そんなことを考えているうちに部室にたどり着いた。部室の扉を開けると、椅子に座りながらペンタブで何かを描いてるハルがいた。どうやら昨日や一昨日みたいにスク水にはしっているばかりではなく、一応漫研として活動はしてるらしい。

 その向かい側では、何やら神妙そうな顔でスマホをいじっている灰司の姿も。すぐにこちらに気づいたのか、スマホをポケットに閉まって瞬に挨拶をしてきた。

 

「あ、どうも」

「おやおや、来たんですね」

「ペンタブ……」

「ウチはデジタル派なんですよ」

 

 えへん、と誇らしげに胸を張るハル。

 

「皆さんは一緒じゃ?」

「屋上でランチタイム。皆お前を待ってんだよ」

 

 ハルを誘いにきた、というのもあるが、瞬が来たのはそれだけが理由ではなかった。昨日の戦いに巻き込まれたハルが、変にトラウマを抱えてしまってないか確かめにきたのだ。彼女は出会った初日に戦闘を目撃はしているものの、昨日のように直接巻き込まれた訳ではなく、あれはただ見ていただけ。それとこれとでは色々と異なってくるのは必然といえよう。

 

「昨日の件……なんだけど」

「昨日はとんだ災難でしたねー」

 

 瞬が言い切る前に即答するハル。

 命の危機にさらされていたのが嘘だったかの様に、いつもと変わりない様に見える。肝が座っているのか、はたまた鈍いのかは謎だが。兎に角、変にトラウマになってなくて良かった、とほっとする瞬。

 

「兎に角、お前らが無事で良かったよ。灰司は途中から姿を見なくなったけど、ちゃんと逃げられていたんだな」

「一人だけ逃げてしまってすみません……」

「まああんなもん見たら一目散に逃げるのが普通だしな」

「わざわざ心配してくれて申し訳ないです。しかしハルさん、随分と平気そうな様子ですが……」

「世の中何が起きるか分かりませんから。事実は小説より奇なり、といいますからね。まあ昔から私はあまり顔に出ないタイプって周りから言われてるので、あまり表情で判断するのは良くないかと」

「うん……ん?」

 

 分かりづらいが、要するに、態度に出てないだけで人並みに驚いたりはしている、ということだろうか。

 と、先程までずっとペンタブを操作していたハルがそれをやめ、ペンタブの電源を落として膝の上に置き、どこかキリッとした表情になる。一体どうしたのだろうか。

 

「話は変わりますが、私は今日は下に白スク着てます」

 

 瞬と灰司は本気でズッコケそうになった。会話の流れガン無視で凄まじい方向に流しやがった。てか凛々しい顔になって言う内容でも無いしら知ったところでどうしろというのだ。

 

「ホントいきなり会話の流れぶった切ってきたよコイツ。それを俺に知らせて何がしたいのお前。俺じゃなくても反応に困るんだけど」

「でもツッコミを入れてくれるだけマシですよ。他の人だったら無言でフェードアウトして縁を断ち切りますよ」

「……でしょうね。僕だったらさっきのような言葉投げかけられたら痴女認定下しますね」

 

 灰司のキツイ言葉に対し、まあ口を開けばスク水の話ばかりする女子とか普通の人は付き合いたくないもんな、と納得する瞬。

 

「私はほら、変態趣味でオタクで自分勝手な、社会不適合者なわけですよ。こんな感じだからずっとぼっちだったんですよね。漫研でも、先輩達からは腫れ物を触る様な扱いでしたし」

 

 それは当然なのでは、と瞬は突っ込んだ。あんな常軌を逸したスク水愛を叫ぶ奴と一緒にされるのは誰だってお断りだろうに。

 

「誤解を生まないよう言っておきますが、昔からこんな感じというわけではありませんよ」

「え、それ本気で言ってるの?マトモなお前が全然想像付かねえ……」

「私、他人との距離感がよく分からないんです。どのくらいの距離感なら他人を傷付けずにいられるか、どうすれば好かれるのか、私にはわからない。皆がやっているようなやり方が、私にはできない。ポンコツなんですよね」

 

 窓の外に目をやりながら、自嘲ぎみにハルは続ける。

 

「それなのに、もっと私を見ていて欲しい。好きなモノを語り合いたいし、少しくらい馬鹿なことをやりたいと思ってしまう。コミュニケーションが下手なくせに自己顕示欲は一人前にある。我ながら面倒くさい人間ですよね」

 

 要するに、今のスク水狂いの九瀬川ハルという少女は、ぼっちを拗らせた結果としての人格であると言いたいらしい。ちゃらんぽらんな言動も、下手なりの彼女のコミュニケーション。でもそんなものが通用するはずも無く、結果はご覧の有り様というわけだ。

 あまり気に留めていなかったが、思い返すと、クラスメイトは皆意図的に彼女を避けていたような気がする。だがこうして話してみると、まあ致し方なしと思えてしまうのは瞬だけでないと信じたい。

 

「その点漫研の皆さんは良かったんですけど、卒業しちゃいましたし。だからせめて、あの居場所は無くしたくなかったんです。初めて私と対等に付き合ってくれたあの人達への恩返しとして。まあ単純に私の趣味という理由が大半を占めてますが」

「100%趣味じゃないの?」

「それが違うのですよ。機会があれば紹介しますよ?」

 

 大丈夫かなぁ……と不安になる瞬と灰司。この流れだと、その先輩方もハルと同ベクトルの奴だったりしそうだ。

 

「でも、逢瀬さんは何故勧誘に乗ったのですか?見た感じ厄介ごと嫌ってそうなタイプですけど」

 

 ふと、ハルが訊いてきた。

 よくよく思い返せば、かなり強引に勧誘してしまった割にはあっさりと許諾していた。それに対し、瞬はさも当然、といった風に答える。

 

「まあ変な奴だけど、悪意はねーだろお前。俺は唯が乗っかったから自分も乗っかっただけだよ。一介のオタクとして、創る側に興味が無かったわけでもないんだけどさ」

「そこは素直に興味があったと言えばいいじゃないですか」

「うっせし灰司ぃ!お前意外と言うじゃねーかおい!」

 

 茶化してきた灰司の頭をぐりぐりする瞬。口数少ないからとっつき難いと思っていたが、案外ノリは悪くないのかもしれない。

 散々愚痴ってはいたが、ハルは悪い奴では無いのは確かだ。むしろ趣味があう分、そう言った面では話しやすいし、ノリが独特すぎて合わせるのに疲れるが、瞬はこの一ヵ月で変な奴にすっかり慣れてしまったので、本人は無自覚だが正直あまり気になっていなかった。

 ぐりぐりをやめて椅子に座り直した瞬。すると、先程の答えを聞いたハルが、いきなり瞬のほうに向かって机に乗り出してくる。そして瞬の手を取り、

 

「大丈夫です、きっと貴方も創作とスク水の魅力が分かります!私が手取り足取り教えてさしあげましょう!」

「後者は余計だろ後者は!っておい脱ぐな馬鹿ぁ!」

 

 興奮したハルが制服のボタンを緩めながら瞬に接近してくる。制服の下には宣告した通り白いスクール水着が覗いている。

 —— が、ラッキースケベとは程遠い何か(こんなもの)瞬はお断りである。テンパり気味に、脳天に拳骨を突き刺して無理やりハルを停止させる。正気に戻ったハルは、頭を押さえながら申し訳なさそうにその場で縮こまる。

 

「すみません、好きなものの事になるとつい我を忘れてしまい……うう、中々治らないものですね」

「……まあそれが個性、なんでしょうかね?」

「灰司、お前他人事だと思って適当な事言ってない?」

 

 灰司はニコニコとわかりやすい愛想笑いで瞬の言葉をスルーする。ハルは自分の荷物を片付けると、

 

「それでは私も作業がひと段落したので、皆さんのところに行きます。逢瀬さんも来るならお早めに〜」

 

 そう言い残して部室を出て行った。マイペースな奴だ。

 瞬と灰司も用が済んだので、部室を出て鍵を掛ける。さて、随分と皆を待たせてしまったようだし、さっさと向かわなければなるまい。

 

「行きましょうか」

「そーだな。お前も一緒にどうよ?」

「あーすみません、今日はどうしても無理なんです」

「そうか」

 

 ふと、灰司も誘ってやるべきかと思い声をかけてみたが、どうやら用事があるらしい。灰司はさっと断ると、瞬の行き先とは反対方向に走って行ってしまった。それなら仕方ない、とハルの後を追おうと瞬は振り返る。

 そこには。

 

「逢瀬2年。少しばかり付き合え」

 

 黒神めだかが居た。

 ……さて、一体全体どういうことだ?

 

 

 

 


 

 

 

 

 体育倉庫前

 

 体育倉庫の備品の整理を依頼された阿久根は、倉庫の前で善吉を待っていた。

 待つこと15分。

 

「随分と遅かったじゃないか」

「色々忙しいのはそっちも承知の上でしょーが。ほら鍵持ってきましたよ」

 

 善吉は悪態をつきながら、体育倉庫の鍵を投げ渡す。阿久根はそれを受け取って鍵を開け、若干錆びついた鉄扉を動かす。

 倉庫の中は薄暗く、さまざまな用具が所狭しと、それでいてきっちりと納められていた。今回はこの中にある、経年劣化や破損で使えなくなった道具の処分を行わなければならない。体育倉庫の様子を見て、これは骨が折れそうだ、と呆れ笑いを溢しながら、阿久根は倉庫に立ち入る。

 ふと、後ろを振り返る。善吉は先程からその場から動いておらず、入口を塞ぐようにして立ったままでいる。

 

「どうした?何突っ立って —— 」

「……」

 

 不思議に思いながら阿久根は声をかけるが、その時、善吉の顔に醜悪な笑みが浮かんだ。そして次の瞬間、善吉は鉄扉に手をかけて力任せにスライドさせた。思わず阿久根は手を引っ込めてしまう。

 ガシャンと大きな音を立てて体育倉庫の扉が閉じられ、一気に光源が失われ、薄暗い体育倉庫の中に阿久根は閉じ込めらてしまった。扉を動かそうとするが、外からつっかえ棒でも使って固定しているのか、ピクリとも動かない。

 

「なっ⁉︎ これは一体どういうつもりだ⁉︎ 」

「邪魔なんで暫く消えてもらえませんかね。アンタが邪魔で邪魔でしかたないんですよ」

 

 ガチャリと、外から鍵がかかる音がする。続いて、チャリチャリという音が耳に入ってくる。外からさらにチェーンかなんかを巻いているらしい。

 作業が終わったのか音が止み、代わりに善吉の声がする。いつもとは違う、まるで別人であるかの様に悪意に満ちた声だった。

 

「お前らみたいなイレギュラーは排除しなきゃ駄目なんだよ。お前らのせいでソーナがいらない改変を受けて辛い思いをしているんだ。だから消してあるべき形に直すんだよ」

「あるべき形……その為には俺達が邪魔だというのか? 」

「バイバイ。生徒会長サマを始末してからまた会おう」

「待て!めだかさんに何を……⁉︎ 」

 

 阿久根の叫びを無視して、善吉の声が遠ざかってゆく。

 さて、一体どうしたものか。“破壊臣”の異名を持つ彼にとって、この扉を壊すのは造作のないことだ。脱出は容易い。だが、先程の善吉は明らかにおかしかった。まるで別人の様だ。どうやら自分達生徒会を排除したい様なのだが、何がどうなっているのやら、イマイチ考えがまとまらない。

 阿久根は考えごとをしながら、周囲を見渡す。バスケットボールの入った籠や卓球台が、所狭しと収納されている。が、ここで阿久根は気づく。()()()()()()()()()()()()()()。本来ならばきっちり並んで収められているはずなのに、周りからズレた位置に配置された備品がある。

 何かある。そう思いながら、阿久根は近づく。すると、近くに置かれていた跳び箱から物置がした。

 

「……⁉︎ 」

 

 跳び箱の中は人間一人が入れるくらいのスペースがある。小学生の頃だったか、同級生がふざけて中に隠れていたな、と思いなが、綺麗に積み上げられた跳び箱の最上段を持ち上げる。

 

「なっ……」

 

 中には、頭から血を流した状態の善吉が入れられていた。何かで後頭部を殴られたようだ。

 顔を近づけてみると、善吉の眉がぴくりと動く。どうやら死んではいなかったようだ。普段はめだかを巡ってバチバチしたりはするが、それでも中学時代から互いを知る後輩。心配くらいはして当然だ。

 善吉の瞼が開く。後頭部を押さえながら、時折狭い跳び箱の内壁に体をぶつけつつ、阿久根の顔をを見上げる。

 

「……ここは?」

「こんなところでサボりとは不真面目だな」

「目覚めて早々気分悪くさせないでくれませんかねぇ?」

「そんな口叩けるなら心配の必要は無さそうだ。一体何があったんだ?」

 

 

 


 

 

 善吉から事情 —— といっても、不意討ちで後頭部を殴られて気絶させられているうちに体育倉庫に閉じ込められた、ということくらいだが —— を聞いた阿久根は、腕を組んで考えこむ。

 

「まだ頭がジンジンするし血がとまらねぇ……ったく、殺す気かよ」

「にしても、誰がやったんだろうね。言動から察するに、めだかさんを目の敵にしているようだけど」

「心当たりが多すぎるんだが」

 

 一体誰の仕業なのか、と思い当たる節を探してみたが、そもそも心当たりがありすぎて見当がつかない。めだかの言動は良くも悪くも人を惹きつけてしまう。それはつまり、敵を作りやすいことを意味し、めだかの近くにいる善吉や阿久根にもその影響が及ぶ訳で —— 要するに、考えるだけ無駄だった。

 

「てか何?俺がもう一人いるってのか?」

「そうとしか考えられない。だって他でもない君がめだかさんを排除しようとするかい?」

「まあ俺はそんなことしないっすね」

 

 問題はもう一つ。自分達をここに閉じ込めてきた、善吉の姿をした何者か。そうとしか考えられないのだ。そしてそいつはめだかに危害を加えようとしている。じっとしている場合ではない。急いでここから脱出しなければ。

 

「……学校の設備を壊すのは気が引けるが、めだかさんに危機が迫っているとあってはじっとしてられない」

「俺だって同じだ。俺を騙って幼馴染みに危害を加えるとか見過ごせねーよなあ!」

 

 2人は立ち上がる。

 

「怪我人は留守番でもしていたらどうだい?」

「あまり嘗めないでくださいよ。俺ってめちゃくちゃ凶暴っすから」

 

 

 


 

 

 

 学校の廊下を歩く善吉。

 いつもの気さくな雰囲気は皆無であり、その顔は本人ならまずしないような、邪念そのものとでもいうような表情を浮かべていた。

 

「待っていろよ……俺が修正しなきゃ駄目なんだ、うん」

 

 一瞬、善吉の姿が揺らぎ、木人形のような怪人の姿になる。

 だが、それはほんの瞬く間の出来事。仮にこれを目撃した人がいようが、そいつはきっと気のせいで済ましてしまうだろう。それくらいの出来事だった。すぐに善吉の姿に戻る。

 彼は左腕に着けた腕時計で時刻を確認すると、生徒会室に向かって駆け出してゆく。

 

 

 騙ることしか能のない、道化師未満の怪人。

 事件の幕引きは近かった。

 

 

 


 

 

 

 一晩が経った。

 アラタはあれからずっと気持ちが沈んでいた。

 

(久々だな……こんなに自己嫌悪感マシマシなのは)

 

 きっと今の自分は変な風に見えていて、それで大鳳達に余計な心配をかけさせている。そんなことを考えると、余計に気持ちが沈む。自分で自分の心を刺し続けているような感覚が、ずっと纏わり付いている。

 

『あーあ、誰かさんがクロスドライバー盗まなきゃこんな真似しなくて済んだのにのなー』

『じゃあね。意気地なしの足手纏い君。2度と私の逢瀬君の前に現れないでくれよ』

 

 頭に響いている、非難の声。

 クロスドライバーを盗んだアラタの前に現れた、フィフティと名乗る男。彼が何者かは知る由もないし、言動にはイライラしているが、彼の非難は正しい。少なくとも、瞬に誠意を見せなければならない立場であるのは間違いない。

 だが、情けないことに勇気が出ない。今朝からアラタは他の皆を避けて行動してしまっている。向こうは不思議がっていたが、アラタにはどうしても瞬に合わせる顔がなかった。

 

「はあ……一旦何もかも吐き出せたらなぁ……」

 

 罪の意識に縛られて、息苦しくなる。どうしたものか。

 そんな重い足取りで、生徒会室の前を横切ろうとするが、そこでアラタの目にあるものがとまる。

 

「目安箱……」

 

 目安箱(めだかボックス)

 黒神めだかは生徒会選挙の際に、悩みがあったら目安箱に投書すれば相談に乗ってやる、と啖呵を切っていた。その象徴たるものがコレだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、こうして目の当たりにすると、自分がヤバい世界にいるのだと実感し、なんだか末恐ろしく思えてくる。

 アラタは目安箱をじっと見つめていた。扉の窓越しに室内の様子が目に入ったが、どうやら生徒会室は現在無人らしい。そのまま立ち去ってしまおうかと考えていたが、アラタの足はその場を動かない。

 

「なんでも、か」

 

 アラタは、考えていた。

 今抱えている気持ちを、誰でもいいからぶちまけてやりたい。話を聞いてほしい。だけど本人に直接は言いづらい。何ふざけたこと抜かしてやがる、と言われるだろうが、そうなのだから仕方ない。溜まりに溜まった苦しみを一旦吐き出して、咀嚼でもしなければ気が済まない。謝る前に、淀んだ気持ちを整理したい。

 要するに、最後の踏ん切りがつくきっかけが欲しいのだ。それが必要であるということに、アラタは情けなく思えてきた。思わず口から自嘲めいた笑いが漏れる。

 そこに。

 

「すまないが、ちょっと退いてもらえないだろうか」

「あ」

 

 後ろから掛けられた声。その主は、目安箱を導入した張本人である黒神めだかであった。予想外のタイミングで声をかけられ、一瞬固まるアラタだったが、逆にこれはいい機会だと考えてもいた。

 この人なら、いいのでは。

 生徒の悩みは私の物だ、と豪語していた彼女。彼女ならば、この背中を押してくれるかもしれない。得策では無いかもしれないが、アラタはそれしか頭になかった。

 アラタはめだかに頭を下げ、依頼をする。

 

「すまない。依頼をお願いしたい」

「ん?直接とは珍しい。いいぞ乗ってやる。なんだか思い詰めた顔だが、成る程依頼人という訳か」

 

 場所を移そうか、とアラタは提案する。2人は廊下を歩きながら、話を続ける。

 

「で、内容は?」

「いや……なんというか、ちょっと話を聞いて欲しいというか。別に悩みを解決して欲しいとかじゃなくて、ただ気持ちの整理のために独り言に付き合って欲しいというか……」

「安心しろ。依頼人のプライバシーは私が責任を持って守る」

 

 自信たっぷりに胸を張るめだか。それによって、彼女の曝け出されている谷間が強調され、思わず目を逸らしてしまう。間近で見るとかなり刺激が強いのだ。うん。

 だが今は欲情している場合では無い。気合いで無理やり押さえ込み、アラタは続ける。

 

「友達の大切なモノを奪って……危険な目に遭わせたんだ。申し訳ないとは思っているんだけど、どうしても顔を合わせる勇気が無くて……」

「なるほど、要するに友と仲直りしたいのか。だけど合わせる顔がなくて途方にくれていると」

「そうだ。だから、少し話というか、そういうのを聞いて欲しい。そしたら、踏ん切りがつくような気がするんだ」

 

 2人は後者の裏手に出ていた。めだかはアラタの話を頷きながら聞いていた。よし、なら本題にはいろうかとアラタは考える。

 が。

 この生徒会長は人よりもちょっとお節介だった。具体的には。

 

「ならば本人を連れてくるか?私なら1分以内に戻ってこられるぞ?」

 

 こんなことを言い出すレベルで。いや本人に合わせる顔がないと言ったんですが。思わずアラタは素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「え、いや話聞いてた?そこまでしなくていいって……」

「友情は青春時代の最高の宝。ボヤボヤしていたら取り戻せなくなるぞ。だいたい見ず知らずの私なんかよりも、本人に直接言ったほうが早く済むだろう?」

 

 生徒会長は人の心が分からない。アラタは思わず某円卓の弓兵のような顔になってしまう。そもそも後ろめた過ぎて本人に直接言えないからこうして話したのであって、何もそこまでしてもらっては申し訳ない。

 が、そんなアラタの弁解はめだかには届かず。アラタの静止を振り切ると、めだかは馬鹿みたいなスピードで走り去っていってしまった。いやこれどうするの。どうしてくれるんだ。

 

「ただいま」

「早っ⁉︎ 」

 

 瞬の首根っこを掴みながら、所要時間30秒足らずで戻ってきた。コイツひょっとしてサイボーグかなんかじゃ無いのか。一応前世でも漫画という媒体を通してだが黒神めだかというキャラクターを知っているアラタだったが、こうして直に会ってみると、やはりコイツはやべー奴だと改めて思い知らされるのだった。

 で、肝心の瞬はというと、何が起きたのかさっぱりわからないといった様子で、首根っこを掴まれたまま、目玉をキョロキョロと動かして辺りを見渡している。

 

「あの……いきなり連れてこられたと思ったら何?そして苦しいです離してくれませんか」

「欠望2年がお前に話があるそうだ」

「アラタが……?え?」

 

 解放されて地面に尻を打ち付けられた瞬は、尻をさすりながら困惑した表情でアラタを見つめる。当然ながら、瞬にはこんな状況に放り込まれる心当たりがない。困ったような顔を向けてくる瞬を、アラタは黙って見つめながら考えていた。

 

「……」

 

 さあ、どうしようか?

 だが、これは本来アラタが望んでいた展開の筈。頼んではいなかったが、こうしてめだかが舞台を整えてくれたのだ。ここまでしてもらって、自分がとても情けなく思えて仕方がないのだが、それはそれ。こうなりゃやけだ。やるっきゃない。

 一回深呼吸してから、意を決して、瞬に向かって勢いよく頭を下げて、感情のままに声を張り上げてアラタはこう言った。

 

「すまない!」

「え」

 

 一度始めてしまえば、後は勢いでやるしかない。アラタは頭を下げたまま続ける。

 

「昨日、アクロスのベルトを盗んだのは俺だったんだ!力の有る無しに取り憑かれて……お前が羨ましくて……つい!」

 

 早くも勢いは落ちて、言葉が詰まる。頭が熱く、白くなってゆくのを感じる。だが止まるわけにはいかない。

 

「謝って済む話でないことは分かっている!俺の身勝手な行動のせいで、お前を死なせかけたことは本当に謝っても謝りきれねえ!お前が望むならなんだって」

「分かった分かった分かったから!とりま落ち着け、な?な?」

 

 なんだかハラキリしますとまで言い出しそうな雰囲気だったので、慌てて瞬はアラタを止める。あんまり必死になって謝られても、謝られた側も居心地が悪くなるのだ。それは瞬も望んではいない。なんとかアラタの頭を上げさせ、その肩に手を置く。

 

「アレくらいの命の危機、とっくに覚悟は決めてるから心配要らねーよ。まあ昨日のアレはマジで終わったと思ったけど」

「だから……」

「お前は謝った、だから俺は許す。後で外野が何を言おうがそれで終わりだよ。てかお前が盗ってたのか、初耳だぞ」

 

 死にかけはしたけど、短いながらもこれまでアクロスとして戦ってきた中で死線というものは何度も遭遇してきた。それは戦うことを選んだ時点で覚悟していた。だから、瞬は死にかけたことでアラタを責めはしない。

 そもそも瞬としては、知らないうちに無くなっていたと思ったらフィフティから返されたので、誰が盗ったなんて全く考えもしていなかったのだ。それも、自分の身近な人物が盗るだなんて、瞬は予想だにしていなかった。

 

「しかし意外だな。お前がクロスドライバーを盗ろうとしたなんて」

「意外でもなんでもねーよ。正直、俺はお前が羨ましいと思っている。ヒーローになってさ、戦って、人守って……ホント、間近でされると劣等感ハンパないのよ。はあ、どこで差がついたのかねえ……」

 

 前世と合わせれば瞬の倍以上は生きている筈なのに、瞬の方が大人っぽく感じてしまうことに、アラタはしょぼくれてしまう。どうやら、生きた年数と精神的な成長は別ということらしい。

 

「俺はお前が思ってるほど立派な人間じゃない。昔から、ただ必死に取り繕っているだけだよ」

 

 瞬は校舎の壁に寄りかかり、空を見上げながら続ける。いや謙遜になってないんですわ、という言葉をなんとか飲み込み、アラタは瞬の話を聞くのに徹する。

 

「唯はな。大団円至上主義(ハッピーエンドニスト)なんだよ。皆で最後はハッピーエンドで終わりたい。初めてそれを聞いた時にな、アイツの考えが馬鹿みたいに俺の心に染みたんだ。だから、俺の動く理由は全部アイツの受け売りなんだ。本当の俺はただの木偶の坊、すっからかんな人間なんだよ」

 

 そう。瞬には、自分で一から作り上げた、確固たる意思が欠落している。成り行きでなったといえど、今の瞬は、ヒーローとしては極めて受動的な存在である。他人がそれを知れば、まだ始まったばかりなのだからそれは当然では、と言うかもしれない。だが、瞬自身はそれでいいとは思っていない。今のままでは、遅かれ早かれ立ち止まってしまうかもしれない。他人から貰った言葉をそのまま使うだけでは、心は強くなれない。

 仮面ライダービルド —— 桐生戦兎は、ラブ&ピースという信念があった。だか瞬には無い。あるのは幼馴染みの受け売りのみ。だから、瞬は強い意志を持つものに、ある種の憧れのようなものを抱いてしまう。

 それは、手に入れた力に釣り合うような人間であろうとする、瞬が抱く一種の強迫観念からくるものであるのだが……本人はそれには気づいてはいない。

 

「でも、お前は仮面ライダーだ」

「たまたまなっただけだ。手に入れた力と立場に見合う中身を日々取り繕うばかりのハリボテ野朗だよ、俺って奴は。ただそれっぽい言葉を反響させてる、人の形をした虚しい生き物さ」

「誰かからの受け売りだとしてもそれは立派な志だよな。尊敬しちまうじゃねーか。それに比べて俺は、自分勝手な理由で力を奪おうとした。完全に悪役のやる事だぞ?」

「ふーん……てかさ、お前はなんで力が欲しいなんて思ったんだ?」

 

 ここで、瞬は根本的なことを訊いてみることにした。それに対し、アラタはびくりと身体を震わせると、目を逸らして口籠ってしまう。

 

「べ、別に……」

「単に欲しかっただけだったのか、それとも何か理由があったのか……理由が分かれば、俺や唯、他の皆だって力になれるだろ?話してみろよ。他の誰にも言わないから、な?」

 

 誰にも言わない。これ程信用ならない言葉はそうそうないだろう。アラタも「え〜本当かよ?」と懐疑的な目を向けるが、瞬は至って本気のようだ。それならばその言葉を信じようと、アラタは決心して話し始める。

 

「……鎮守府での件、覚えてるよな?」

「流石に数日前の事忘れる様な鳥頭じゃないぞ」

「あの時、大鳳が危険な目にあっていたのに、俺は何も出来なかった。それが悔しい。お前に助けてられてばかりで、本当に自分が情けなくなる。自分が憎たらしく思えて仕方がないんだ」

 

 あの時、オリジオンになすすべなくやられた時、アラタは自分の無力さを呪った。

 

「俺だって、自分で守れるならそうしたいんだよ……!何時迄も人に自分の大事なモン守られていて、のうのうと居られるほど能天気にはなれねぇ……!」

 

 ただの意地っ張りなのは、アラタ自身がよく知っている。だが、理屈などではそれをどうすることもできない。くだらないプライド。それを通せないならば、自分が自分で無くなってしまう。それほどまでに、大切に思うモノがあるのだ。

 一方瞬は、アラタがそこまでして自分で守らなきゃならないと言うようなモノについて、なんとなく見当がつき始めていた。というか、この流れならこれしか無いだろうと思っていた。だから、意を決してそれを訊いてみることにした。

 

「……もしかしてお前、大鳳に気があるのか?」

「ぶっ⁉︎ 」

 

 瞬の発言に、思わずアラタは取り乱してしまう。

 思い返せば、この間の鎮守府の時のアラタの取り乱し用はかなりのものであった。あの取り乱し方は、きっと家族だの想い人だのに向けるものだ。あれを見た時、恋愛とは無縁な人生を送ってきた瞬でさえ、うっすらと「コイツもしかして……」といった感じに察していた。

 が、素直になれない思春期男子のアラタは、バグったゲームのようにガタガタ震えながら、言葉にならない声を漏らす。

 

「ばばばばば馬鹿なこと言うな!おお俺はべべべ別に」

「良いじゃんか。好きな子の為に強くなりたいって。立派な志があって羨ましいぜ、ったく」

「お前たまにはっちゃけるよな……」

「そうか?」

 

 どうやら瞬は茶化しているわけでは無いようだが、それはそれでどこか気まずく感じる。そして、最後の羨ましいという言葉。それに対して、アラタは意外だと思った。

 瞬には、自分で一から作り上げた確固たる信念が、アラタには、確固たる意思を押し通すための力が、それぞれ欠けている。お互いに、自分に無いものを眩しいモノだと認識している。要するに、腹を割った話し合いの末に分かったことは、隣の芝は青い、ということだった。

 2人は向かい合い、互いに握手を交わす。男の友情の、誓いの握手だった。

 

「兎に角だ。俺は許す。だからあんな真似すんなよ」

「分かってるさ。俺は決めた。正々堂々、正攻法で強くなってやる」

 

 これにて問題は解決された。

 

「ごほん、これにて一件落着だな。うーん実に青春だった。よきかなよきかな」

「「……」」

 

 その声で、2人は我に帰った。

 2人が振り向くと、そこには満足げに微笑みながら頷くめだかの姿。友情トレーニング的なヤツの発生で忘れていたが、そういえばこの人がいたんだった。ということは今までのクサい男同士の会話も全部聞かれていたわけで……。

 

「今の会話は全て忘れろパーンチ!」

 

 恥ずかしさがオーバーフローした結果、思わず手が出てしまう2人だったが、めだかは笑いながら2人のパンチを片手にひとつずつ、両手でいとも容易く受け止めてしまう。育ち盛りの男子高校生2人の力を持ってしても、まるで大地そのものを相手しているかのようにびくともしなかった。

 受け止めた拳を一瞥すると、めだかは何かに感心するかのように頷く。

 

「実にいいパンチだ。僅かだが私にも響いてきた」

「いや全然びくともしてないんだけど」

「だがまだまだだ。こんなんでは私は愚か善吉にも届かんよ。お前もこの先戦いを続けるのならば、精進するのだな」

 

 そして拳を下に降ろされる。こうも簡単にあしらわれては、なんだか色々と自信を無くしてしまいそうだ。

 

「私個人としては嫌なのだが、兄なら力になれるかもしれん。性格には難ありだがトレーナーとしては一流だしな……」

 

 なにやらぶつくさ言い始めためだか。そこに瞬が、ある質問を投げかける。

 

「そういえばさ、なんであんたは生徒会長になんてなろうと思ったんだ?」

 

 この4月の間だけでも、現生徒会は学園内でかなり有名になっている。噂や実績だけは以前から知ってはいたが、実際に会ってみて、その象徴ともいえる彼女に、瞬は少し興味が湧いてきたのだ。

 

「それは簡単な話だ。私は人の役に立つ為に生まれてきた。そのためにピッタリな方法がたまたまこれだったというだけの話だよ」

「バッサリ言うなあ……」

 

 見事な即答であった。質問されてから、考える素振りも見せていなかった気がする。それくらい彼女の声は自信にあふれていた。さもそれが当然であるかのような、そうであるのが自然であるかのような、そんな圧倒的な存在。瞬にはそれが眩しく感じられた。

 人の役に立つ為に生まれてきた。こんな事を迷いなく言える奴は多分早々いないだろう。瞬はその答えを聞いて、改めて彼女に畏敬の念を感じるのであった。

 

「そうだ。一昨日のアレ、個人的には興味深かったぞ。あの力を使って人知れず守っていたのだろう?素晴らしいじゃないか」

 

 ふと、思い出したかのようにめだかが言う。多分アクロスとして戦っている事を言っているのであろう。そういえば一昨日の現場に彼女も居たのだった。

 だが、めだかの答えを聞いた後では、やはりどうしても自信が揺らぎそうになり、瞬はどこか頼りなさげな返答をしてしまう。

 

「ただ偶然居合わせただけだし、見過ごせなかっただけだし……あんたみたいに広い視点なんか、俺にはまだ……」

「それでも立派な行いだよ。もっと自信を持て。案外、自分の凄さは自分で分からないものと言うしな。私が思っている以上に、人が誰かの為に動くことは大変……らしい。私にはよくわからないが。だから、そういう考えに則るならば、お前も充分凄いんだ」

 

 誰かの為に行動出来るだけで充分だ。彼女はそう言っているのだ。人には利己心というものがある。それは生物としてはごく普通の標準装備であり、誰かの為に動くということは、本能の一部ともいえる利己心と真っ向から反対する事になる。だからこそ、それに抗いきれる人間が尊ばれるのだ。

 

「まあ……あんたみたいに凄い人にそうまで言われちゃ、俺も頑張らなきゃな。ありがとう」

 

 めだかに礼を言うも、あそこまでの称賛の言葉は貰ったことがないので、瞬はどこかむず痒いような感覚がする。単に褒められ慣れてないだけかもしれないが。

 

「さて、結構長い間生徒会室を空けてしまったな。そろそろ戻らなくては。鍵は私が持ってるから、善吉のやつ、入れなくて困ってあるだろうし」

「俺らもいこうぜ。唯達をかなり待たせちまってるからさ」

「そうしますかね」

 

 そういえば、もともと瞬はハルを呼びに来たのであった。きっと屋上で長い間待たされてる唯は御立腹であろう。ひょっとしたら、もう帰ってしまっているかもしれない。兎に角早く向かわなくては。

 3人は校舎内へと戻ってゆく。その顔は、前よりもすっきりしたように見えていた。

 

 

 

 

 

 それを凝視する人影があった。

 

「……邪魔者は、排除する」

 

 

 

 

 


 

 その頃。

 

「しかしよぉ……なんで一誠みたいな変態が赤龍帝なんすかね?ホント不条理すぎませんか?ソーナ先輩もそう思いません?」

 

 匙は自らの主である支取蒼那 —— ソーナ・シトリーに愚痴をこぼした。

 赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)にやどる龍は、三大勢力の戦争に乱入して暴れ回り、各陣営を大きく弱体化させた元凶。その存在は良くも悪くも世界を掻き乱す。それがあんな変態に宿っているということに、思わず頭を抱えてしまいたくなるのも無理はない。

 

「俺の神器が嫌というわけでは無いんすけど、やっぱりなー」

「でも神器が誰に宿るかは分からないし……それだけは運としか言えないのです。まあ彼の噂は私も耳にしてます。色々と強烈な子ですけど、リアスが見出したんだから問題は無いはず……無いはず」

「だといいですけどね」

「俺がなんだっていうんだ?ええ?」

 

 匙の後ろから、聞き覚えのある声がする。振り返ると、そこには一誠の姿があった。噂をすれば、向こうからお出ましというわけだ。

 

「げ、噂をしてたら来やがったよ」

「こら匙、すぐ噛み付かない」

「俺はわかるんだ。お前は同類だってな!男はだいたい変態なんだよ!」

「一緒にするな!てかお前レベルの変態がうじゃうじゃいてたまるかっての!」

 

 言葉では表現しづらい、凄い形相で睨み合う。一誠の悪評を知っている匙からすれば、できれば一緒くたにはされたくない。一方一誠は、ハーレム作りのライバルとなりうる匙にバチバチと対抗意識を燃やしている。

 両者の睨み合いは終わらない。思春期男子の対抗心はそれほど苛烈なものなのだ。

 

「また会いましたね」

「あらソーナ、こんなところで会うなんて」

 

 男子二人がわちゃわちゃやっているところに、更に声がかけられる。どうやら一誠だけでなく、リアスと小猫もいるようだ。

 リアスとソーナが挨拶を交わしている中、匙に突き放された一誠は、壁に寄りかかり、腕を組んでカッコつける。

 

「ふっ、モテる男は辛いな……」

「いやどこをどうやったらそんな反応が出るんですか」

「いやまじだぜ?この間知ったんだけど、松田と元浜にオカ研で女取っ替え引っ替えしてるって噂流されてたんだよね……まだやらしいことはしてないし!健全な付き合いだし!」

 

 小猫は疑いまくっているが、一誠の言っていることは事実だ。変態のくせして、側から見ればリア充道まっしぐらな一誠に嫉妬してか、変態仲間の松田と元浜にあらぬ噂を立てられていたのだ。流石にこの時はボコボコにしてやろうかと思った。一部では木場と付き合ってる噂まで流されている始末であり、現在進行形でモテる男の辛さをこれでもかと味わっている。

 まあそんなことがどうでも良くなるくらい充実した日々なのは間違いない。こうしてオカ研の面々との毎日を満喫している。一誠は何処までも単純であった。

 

神滅具(ロンギヌス)持ちに限らず、強者というのは存在からして敵を作りやすいの。イッセーは赤龍帝だから尚更よ」

 

 いやコイツは多分神器なくても色々と敵作ってると思う。主に女性の。匙はそんなことを思いながら、一誠にベッタリのリアスを見つめていた。恋は盲目、という言葉はやはり間違ってはいないようだ。

 一応ソーナは一誠とは初対面なので、挨拶をすることにした。

 

「初めまして。私はソーナ・シトリー。上級悪魔の一柱・シトリー家の次期当主をやらせていただいています。貴方のことは匙から聞いています。赤龍帝……その躍進に大いに期待しています」

「あ、はいどうも……」

 

 ソーナが手を差し出してきたので、かしこまって握手に応じる一誠。後ろで匙が先程以上に凄い形相になっているけど気にしない気にしない。

 

「それにしても、ソーナともう知り合ってたなんて以外ね。後々対面する機会を設けるつもりだったのだけど……手間が省けてラッキーね。で、ソーナ。最近何か悩んでるみたいだけど、何かあったの?」

 

 リアスに聞かれて、ソーナは生徒会関連のいざこざを話す。

 

「大変だったわね……で、その後は?」

「変わりなしという所ですね。眷族に生徒会周りを探らせていますが、まだ彼らへの迷惑行為は続いています。早く終わってくれればいいのですが……」

「疑われたままというのは気分が悪いからね……」

「生徒会ってアレだろ?化け物みたいなやつだろ?あんなんに喧嘩ふっかけていいのかよ?命知らずだよなーあの怪物ェ……」

 

 一誠は一昨日のオリジオンを思い出し、その無謀っぷりに呆れ返る。書記の人にも負けた時点で、勝ち目はないと思うのだが。

 

「本来は私が生徒会長になって、私達のこの街での活動をしやすくするつもりだったのです。しかし結果はこの始末。規格外の存在によって目論みはご破産というわけなんです。支持率98%なんて、異常すぎません?」

「でもなってしまったんなら仕方ない。黒神めだかの存在感は揺るぎないもの。排除しようとすれば嫌でも目立つ。それは駄目だ」

「というか、そんなことすればシトリーの名に泥を塗ることになるわ」

 

 そんな事情があったのか、と感心する一誠。確かに、就任からまだ1ヶ月も経っていないにも関わらず、彼女の活躍っぷりは見事という他ない。一応悪魔の力による記憶の改竄とかで後始末はどうにかなりそうだが、それほどの人を消すのは確かにハイリスクだろう。放置したほうが学園の平和も保たれるし、手間がかからないと判断するのは妥当だろう。というか、そもそもソーナがそんな真似を好まないというのが大きいのだが。

 そうこうしているうちに、一行は生徒会室の前まで来た。すると前方から、瞬とアラタがやってくるのが見える。その後ろには、黒神めだかの姿も。噂をすればなんとらや、というヤツだろうか。

 

「お、オカ研一行。何話してたんだよー?」

「私の噂話でもしてたのだろう。構わん、上に立つ者には付き物だからな」

「うわあすげー自信だ……」

 

 この自信は何処からわいているのか、いささか疑問に思う一同。そこに、めだかの後方から善吉が姿を現す。

 

「あ、いたいた。おーいめだかぁ、生徒会室の鍵掛かっててさあ、職員室にもなかったからどうしようかと思ってたんだよな」

「なんだ、それなら直接私の元に来ればよかったのに。というか阿久根書記は一緒ではないのか?」

「あの人のことは気にしなくていいから。ほら早く」

 

 善吉は手を出して生徒会室の鍵を催促する。

 

「……」

「どうした?」

 

 めだかは鍵を手渡さずに善吉の掌を見つめている。いや、正確には、彼の手首を見ていた。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「ほら早く。俺これから用事あるんだからさ。何フリーズしてんだよめだか。なあ」

「どうしたの?何か……」

「そうだ、

 

「貴様、善吉じゃないな」

「な、何言ってるのかさっぱりなんだぜ?なあ()()()……」

 

 善吉が言い終わる前に、めだかの左ストレートがその顔面に勢いよく突き刺さった。メキャメキャッ‼︎ という、頭が木っ端微塵になってそうなヤバげな音を立てながら、善吉は壁に背中を強打し、轢かれたカエルのように床にのびる。

 一体何が起きたんだと一同が困惑する中、めだかはぶっ倒れた善吉の前につかつかと歩み寄る。

 

「なにが、てか、なんで……めだかぁ、これはないだろ……」

「墓穴を掘ったな」

「墓穴ぅ……?」

 

「善吉は左利きだし、私の事はめだかちゃんて呼んでくれるぞ?何が目的で成りすましているのかは知らんが、他人に成りすますなら、成りすます対象のリサーチくらいマトモにやるのだな。親しい人間を騙すなら完璧にやれ。さもなくば……」

 

 めだかは凛とした態度を崩すことなく、ただ冷ややかな声で告げる。

 

「今のようにすぐ露見するぞ。本者はどうした?」

「これ何がどうなっているんすか?」

「わかんねーけど……多分ロクデモナイ展開なのは間違いないな」

 

 他の面々は、困惑したような顔で2人を見つめる。一体、何がどうなっているのか。瞬が問いただそうとめだかに近寄ろうとしたその時。

 

「一々うぜえんだよ、原作を乱すイレギュラーの癖にさぁ!」

「ッ!」

「おわぁっ⁉︎ 」

 

 善吉の怒号が響き渡ったかと思えば、次の瞬間、瞬はめだかに突き飛ばされていた。瞬がそれを理解したのは尻餅をついた後。床面で強打した尻をさすりながら瞬が顔を上げると、目の前の床に穴が空いていた。

 それを見て、ぞくりときた。今突き飛ばされていなかったら、無事では済まなかった。瞬はまさかと思い、豹変した善吉の方を見る。

 

「お前らが勝手に動く……いや、お前らがいるから原作通りに進まないんだよぉ!原作通りじゃなきゃ俺が活躍出来ねえじゃんかぁ!」

「随分とあっさり本性を現したな。面白い、下剋上なら受けて立つぞ」

「いや何乗り気になってるんだよ!そいつ殺す気マンマンじゃねえか⁉︎ 」

「それがどうした。それくらいじゃなきゃつまらんだろ」

 

 心なしかめだかの目が輝いている気がする。目の前にいる善吉の姿をした誰かさんに、現在進行形で殺意を向けられているというのに。善吉の方は、手から白煙を立たせながら、右手に持った金槌を勢いよく振り上げる。

 めだかはそれを避けない。

 そこに。

 

「待てよめだかちゃん。一発俺達にも殴らせろ」

 

 そんな声が割り込んできたかと思えば、次の瞬間、横から運動靴が飛んできて、善吉の偽者の手から金槌を叩き落とした。金槌は偽者の真後ろの窓ガラスを突き破り、ガラスの破片と共に中庭へと落ちてゆく。

 めだかと偽者は、声と靴が飛んできた廊下の向こうに目をやる。その2つを放った人物が、そこにはいた。

 

「俺の幼馴染みに手ェ出してんじゃねーよ、モノマネ野朗」

 

 それは人吉善吉だった。身体のあちこちに傷をつくっており、頭に巻かれた包帯からは血が滲み出ている。

 

「これは……⁉︎ 」

「何よこれ⁉︎ どうなってるのよ⁉︎ 」

「なっ……善吉が2人居る⁉︎ 」

 

 各々はあり得ない光景に驚愕するが、善吉はそんな事知ったことかといった感じに、苦虫を潰したような顔のまま固まっている自分の姿をした偽者に向かって、一直線に走り出す。

 そして、偽者の手間で立ち止まり、

 

「さっき頭かち割られた仕返しだ馬鹿野郎がっ!」

「びぎゃふっ⁉︎ 」

 

 直後、身体を大きく捻って繰り出される回し蹴りが、偽者の腰に直撃し、偽者の身体を扉が開け放たれたままの生徒会室の中へと叩き込んだ。

 そのまま勢いよく、生徒会長用のデスクに頭を打ちつけられ、偽者は床にぶっ倒れる。部屋の入り口から、偽者を睨みつける善吉。その後ろから、新たな人影が現れる。

 

「ったく、俺達を隔離してめだかさんを騙し討ちとは、随分と卑怯な真似をするもんだ、ねえ?」

「阿久根……!」

 

 同じく本者の善吉と共に監禁されていた阿久根だった。

 黒神めだかを排除する際の障害になるとふんで、事前に隔離していたはずの2人が、自分の目の前に揃っている。

 

「大丈夫ですかめだかさん⁉︎ 」

「心配はいらん。それはお前もよく知っているだろう?」

 

 めだかは生徒会室に入り、再び善吉の偽者と相対する。その肩越しに、善吉が怒りの声をぶつける。

 

「よくも人の頭ぶん殴ってくれたよなぁ!日向の時で慣れたけどさあ!」

「ふざけんな……っ⁉︎ お前らは体育倉庫に閉じ込めて鍵も開かないよう細工しておいたはず⁉︎ 一体どうやって脱出したんだ⁉︎ 」

 

 その問いに対し、阿久根は即答する。

 

「そんなもの壊したに決まってるさ。まあ学校の備品を破壊するのはアレだと思ったんだけど、緊急事態だったし」

「今回ばかりは助かりましたよ……すっかり丸くなってて忘れてたけど、流石破壊臣ってところっすかね」

 

 排除していた障害物(ふたり)が、涼しい顔して目の前に現れたことに動揺する偽善吉だったが、その動揺はすぐに怒りに変わった。

 

「許さねえ……黒神めだかぁ!許さんぞぉ!絶対抹殺!原作尊守!逸脱厳禁ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンッ!」

《KAKUSEI SURFACE》

 

 もう1人の善吉は、発狂しながらその姿を変えてゆく。全身にジッパーが現れ、まるで皮が剥がれてゆくかのようにそれが展開してゆく。そしてその中から、木製のデッサン人形のような怪人が姿を現す。

 そう、これがこの怪人 —— サーフィスオリジオンの能力。それは高度な擬態能力。それを用いて場を引っ掻き回していたのだ。

 サーフィスオリジオンは変身が完了すると、即座にめだかの顔面を殴りつけた。他の者が反応するよりも早く、鈍い音が部屋に響く。至近距離でオリジオンのパンチを顔面に受けて、無事で済むはずがない。誰もがそう思っていた。

 が。

 

「で?」

 

 バシン。

 めだかは、何ごともなかったかのような涼しい顔をしたまま、自らの額に当たっているサーフィスオリジオンの拳を左手で掴み上げると、なんと、そのままオリジオンをぶん投げた。

 全員が呆気に取られる中、投げられたオリジオンは立ち尽くす瞬達の間をすり抜け、開けっ放しのドアを飛び出して廊下の壁に叩きつけられる。

 

「つ、強え……」

「凄いよめだかちゃん!パなかった!」

 

「ま、だ、だあああああっ!」

 

「ふんっ!」

 

 めだかは身体を強く捻り、振り下ろされたバットに対して回し蹴りをかます。すると、蹴りの当たったバットは、なんと木っ端微塵に砕け散ってしまった。金属製にもかかわらず、だ。

 同様するオリジオンに、めだかは深く腰を落とし、正拳突きを叩き込む。逃げ場の無い壁際でこれを受けたサーフィスオリジオンは、再び壁に強く叩きつけられ、ズルズルと倒れ込む。更に、めだかの正拳突きの衝撃で、廊下の窓ガラスも何枚か砕け散る。

 

「ば、化け物やんけ……」

 

 ほぼ無傷で返り討ちにしてしまっためだかに対し、サーフィスオリジオンは満身創痍。これではどちらが加害者なのやら。

 

「やったか?」

「いや、まだだ。来るぞ!」

 

 サーフィスオリジオンは、混乱と痛みの中で立ち上がる。一体なんだというのだ、この黒神めだか(オンナ)は。こんなの、人の皮被った化け物じゃないか。彼は早々にめだかを狙う事を諦め、手負いの善吉に狙いを定める。凡人たる善吉の方がやり易いと踏んだのだろう。

 が。サーフィスは彼を侮り過ぎていた。十数年も黒神めだかという人間に寄り添い続けた普通(ノーマル)が、ただの雑草(モブキャラ)で済む訳が無かった。

 

「俺を甘く見るなよ。しぶとさには自信があるんだよ!」

「⁉︎」

 

 目にも止まらぬ速さで繰り出された足払い。それによってサーフィスは体勢を崩される。そこに間髪入れず、反対の足によるローキックがサーフィスの顔面に直撃する。

 顔を抑えて後ずさるサーフィスに、善吉は指を刺しながら叫ぶ。

 

「人を闇討ちした挙句になりすましやがって!これ以上好き勝手させるかよ!」

 

 自分をボコった上に幼馴染みに気概を加えようとしたことに激怒しながら、善吉はオリジオンの腹めがけてハイキックを叩き込む。あまりにも鋭いその蹴りに、オリジオンの身体はくの字に折れ曲がった状態で壁に叩きつけられる。

 —— ダメだ。コイツら強い。

 排除しようとしていた相手の予想外の強さに恐れをなしたサーフィスオリジオンは、這う這うの体で生徒会室から逃走する。

 

(聞いてねえよ!なんだあいつら⁉︎ もしかして全員転生者かよ⁉︎ ふざけんなよギフトメイカー!この世界にいる転生者は俺だけじゃ無かったのかよ⁉︎ ここはハイスクールD×Dの世界の筈、イレギュラーは他にいるはずがないだろ⁉︎)

 

 理不尽さに怒りながら逃げる彼は、めだかボックス(そのさくひん)を知らないので、上記の結論に至る。というか、全て彼が勝手にそう思い込んでいるだけである。

 サーフィスオリジオンを追って瞬達も廊下に出る。その時には既に、オリジオンは近くの階段を駆け上がり始めていた。だいぶボコボコにされた割には動きが速い。

 

「兎に角逃げなければ……ああくそ!なんたる屈辱!臥薪嘗胆ンンっ‼︎ 」

「くそっ!何処まで逃げる気なんだ⁉︎ 」

 

 オリジオンの向かう先には屋上に通じる扉。

 

「待て、屋上には唯達が……!」

 

 ここで、屋上で唯達を待たせていることを思い出し、焦る瞬。このままだと、何も知らない唯達に危害が及んでしまうことになる。早急に何とかすべくクロスドライバーを取り出し、アクロスに変身しようとする瞬。しかし、

 

「ゆるさねぇ……負けねえぞおらぁ!」

「ぐはっ⁉︎ 」

 

 ばっと振り返ったサーフィスオリジオンに蹴飛ばされ、階段の踊り場に突き落とされてしまった。クロスドライバーが手から離れ、一階下の廊下に転がり落ちてゆく。

 その隙に、サーフィスオリジオンは階段を駆け上がり、開けっ放しの扉から屋上に飛び出す。

 

「邪魔だぁ!」

「ぶぎゃあ⁉︎ 」

 

 屋上の扉を開けるなり、近くにいた志村を蹴飛ばし、山風を突き飛ばしながらサーフィスオリジオンは逃げる。

 しかしここは屋上。安全な逃げ場なんて無い。

 

「あんたは一昨日の……」

「だったらなんだってんだよ……お前らもイレギュラーなんだろ、なら俺に殺されても文句ないよなぁ!」

「何を……」

 

 唯の言葉に、キレ気味に返すオリジオン。焦燥と恐怖に支配され、冷静さは皆無であった。

 自棄になったのか、オリジオンは唯に襲い掛かろうと、手に持っていたハンマーを振り下ろすが、唯は身体を横に捻ってそれを避ける。オリジオンは続いて、振り払うようにハンマーを振り回すが、唯は綺麗なバック宙でオリジオンから離れる。攻撃を避けた唯に対し、オリジオンはキレ散らかす。

 

「チョコマカと逃げんなよ……邪魔なんだよお前ら全員!俺に活躍させろよぉ!」

「何言ってるかわかんないんだけど⁉︎ いきなり殺しにかかっといてなによ⁉︎ 」

「待て!変身っ!」

《CROSS OVER!仮面ライダーアクロス!》

 

 両者が言い争いを始めた所に、瞬がアクロスに変身しながら飛び込んだ。両者の間に割り込みながら、振り下ろされたハンマーをはたき落とし、唯を抱き抱えてオリジオンから距離を取る。

 

「瞬!今まで何してたの⁉︎ 」

「色々とあったんだよ色々とな!兎に角、皆を連れてここから逃げろ。今度こそ逃さない!」

「邪魔すんなよ仮面ライダー!原作を守ろうとする行為の何が悪いんだよ⁉︎ 」

「何言ってるのかわかんねーんだよ!」

 

 手を摩りながらぶち切れるサーフィスオリジオンだが、直後にアクロスに顔面を思い切りぶん殴られ、屋上のフェンスに叩きつけられる。あまりにも自分の思い通りにならない現状によって心身共に疲弊しきったサーフィスは、この場を逃れる術はないかと必死に考える。

 —— そして気がついた。自分の横数メートルにいる、九瀬川ハルの存在に。

 そこから先は速かった。

 その考えに思い至ってすぐに、サーフィスは痛みで軋む身体を無理やり動かしてハル目掛けて全力疾走し、その腕を鷲掴みにする。そして、ハルの腕を後ろに回して抑えつけ、二の腕程はありそうな長さの釘を取り出し、その先端を彼女に突きつけた。

 

「こいつがどうなってもいいのかぁ!ああっ⁉︎ 」

「ヒギィッ⁉︎ 」

 

 端的に言うと、彼はハルを人質に取るという暴挙に出た。

 

「九瀬川2年!」

「テメェッ、汚ねえぞ!」

「黙れイレギュラー共!貴様らを消せばこのズレにずれた世界も原作通りに進む!予定調和!未来安泰!確約栄光!」

 

 その卑怯な行いに対し非難の嵐になるが、サーフィスオリジオンは逆ギレして意味不明なことを口走る。

 

「絶対静止!発句厳禁!絶対服従!生徒会長も仮面ライダーも大人くししなきゃあ、こいつの命はねーぞ!」

「くっ……」

 

 アクロス達から距離をとりながら、サーフィスは笑う。人質を取られてしまってはどうしようもない。

 人質を獲得したことで優位に立ち、気が大きくなったサーフィスは、中指を立ててさかんにアクロス達を挑発する。もちろん、彼の台詞の内容はアクロスには理解できない。

 サーフィスはハルを片腕で抱き寄せると、もう片方の手に持っていた釘を、行動を封じられたアクロスに向かって投げつける。

 

「ふん!」

「があっ!」

 

 繰り返し、繰り返し、アクロス目掛けて釘がミサイルのように飛んでくる。世間一般にヒーローと呼ばれる人種には、この上なく効果的な、狡猾な手法だ。

 幾度となく攻撃をうけ、屋上の床に膝をついたアクロスに、サーフィスは持っていた金槌を投げつけた。それは聞くに耐えない鈍い音を立ててアクロスの顔面にぶつかり、アクロスの身体を屋上の床に倒れさせる。アクロスは立ちあがろうとするが、何故か身体が痺れて思うように動けない。

 

「瞬!」

「身体が痺れて動けないだろ?この釘には神経毒が塗ってあるんだよ!」

「確かに……身体が思うように動かねえ……!」

 

 立ち上がろうとしても、身体に力が入らずにすぐ崩れ落ちてしまう。それを見て、もうアクロスは脅威ではなくなったと判断したサーフィスは、次はどいつから始末してやろうかと考えながら周囲を一瞥する。倒れたまま動けないアクロスに駆け寄る唯か、此方を睨みつけている善吉か、先程から黙り込んでいるアラタか。

 どの道全員殺すのだ。コイツらは後々になって邪魔になる。ただそれが早いか遅いかの違いに過ぎない。

 

「余計な真似して原作をしっちゃかめっちゃかにするから悪いんだぜ?お前らイレギュラーは存在が悪なんだよ、分かれよ!」

「イレギュラーがなんだっていうんですか?」

 

「へ、へえ……口答えするんだおまえ。生意気だなクソが!」

「ハル!奴を刺激しちゃ駄目!」

「無理です。私、自分勝手な基準でイレギュラーだのなんだの、そんなことほざく輩が許せないんですよ」

「黙れ!黙らねえと殺す!」

「それがどうした!自分ルールで人を好き放題に傷つけている貴方みたいな奴なんか怖くもない!」

 

 いつもの敬語口調が崩れ、ただ感情的にハルは怒る。

 九瀬川ハルは世間一般からは逸脱している。故に友達もできないし、誰の輪にも入れない。彼女の場合、それに趣味嗜好も合わさって長年孤独であり続けた。

 でも、そんな爪弾き者だからこそ、それには怒る。弾き出されたものを蔑むべきではないと。自分もそうだから。

 

 

 

 だが悲しいかな。オリジオンにはそんな言葉は通じないのです。

 なんせ彼らは、第二の生を受けるにあたり、力と欲望に溺れて人の心を捨てた、人の形をした化け物なのですから。

 

 

 

 

「じゃあ、死ね」

 

 瞬間、怒りが頂点に達したサーフィスオリジオンは、ハルの拘束を解いたかと思いきや、片手で彼女の頭を強くフェンスに押さえつけ、空いていたもう片方の拳で思い切りハルの腹を殴りつけた。

 

「ばはっ……‼︎ 」

 

 メキャメキャと、人体から出てはいけないような音を鳴らしながら、ハルの身体がくの字に折れ曲がる。

 そして殴られた衝撃は、彼女が背中を預けていた屋上のフェンスにも伝播し、彼女の寄りかかっていた周辺のフェンスが千切れ、ハルは屋上から投げ出される形となる。

 

「あ……」

「ハルウウウウウ!」

 

 神経毒がなんだ。それがどうした。アクロスは痺れる身体を無理やり起こし、ハルに手を伸ばそうと駆け出す。

 だが、圧倒的に間に合わない。アクロスでは遅い。

 そこに。

 

「任せろ逢瀬2年。私なら間に合う」

「⁉︎ 」

「めだかちゃん!」

 

 アクロスの遥か後方にいた筈のめだかが、一瞬のうちにアクロスの真横に現れたかと思いきや、すぐに彼を追い越していった。これにはサーフィスも驚き、咄嗟に神経毒を塗った釘を何本も投げつけるが、なんとそれはめだかの身体をすり抜けてしまう。

 —— いや、すり抜けてはいなかった。()()()()()()()()()

 分身の術。彼女の場合は、単に送り足と継ぎ足を交互に使っただけなのだが、彼女のそれは分身を生み出すレベルの速さに達する。が、普通はそんなこと出来るわけがないので、めだかをよく知る善吉と阿久根以外の全員が口をあんぐりと開けて呆然としてしまう。

 

「どれが分身でどれが本者かどうかなんて知ったことか!なら全員纏めて —— 」

 

 サーフィスは分身も本者も纏めて始末してしまえばいいと判断し、ありったけの毒釘を取り出すが、その瞬間、彼の目前に迫っていた無数のめだかの分身が全て消え失せる。

 

「死なせやしないよ。誰一人、私の目の前では!」

「はぅえっ⁉︎ 」

 

 いつの間にか、めだかはサーフィスオリジオンの真横を通り過ぎていた。そしてそのまま、フェンスの穴の空いた部分に躊躇いなく飛び込んでいく。

 

「おいっ⁉︎ 」

「何考えてるのあの人⁉︎ 屋上から飛び降りた……⁉︎ 」

 

 そう。彼女はハルを助けるべく屋上から飛び降りたのだ。これには皆驚いてしまう。幾らハイスペックな存在であろうと彼女は生物学上は人間の部類。こんな高さから飛び降りて無事で済むはずが無い。

 その事実を理解したサーフィスは、引き攣ったような笑みをこぼしながら、やがて大爆笑し始めた。

 

「はっはっはぁ!案外大したことねーじゃんかよぉ!雑魚雑魚敗敗敗敗弱弱弱弱ぅ!結局最後に勝つのは俺だ!原作を壊そうとするテメェらよりも、原作を守ろうとする俺の方が偉くて正しいってことさ!」

「何訳の分からねえこと言ってんだお前……人を傷つけておいてなんだよそれ……!」

「お前も地獄に直送してやるぜ仮面ライダー!イレギュラーは殺す!原作は俺が守る!」

 

 アクロスの怒りはサーフィスを素通りする。全く通じていないのだ。この期に及んで尚も自分を正当化しながら、サーフィスはアクロスを踏みつけ、一誠達の方を向くと、誇らしそうに声をあげる。

 

「匙、一誠。これはテメェらのためなんだぜ?原作にいない邪魔ものを俺が消してやってるんだ。お前らの邪魔をするイレギュラーを消してやってるんだから、感謝して欲しいくらいだぜ?」

 

 それを聞いてアラタはとてつもない気持ち悪さを感じた。

 ()()()()()()

 手段と目的を履き違え、君のためだと口先だけの言葉を盾に自分の好きなようにする傲慢っぷりは、さっきまでの自分となんら変わりない。一度は逃げた癖して、勝手に羨み、焦って力を得ようとした自分と同じなのだ。自分は、そんなものにはなりたくない。堕ちたくない。堕ちてたまるか。変われ。羨むな。こんな卑怯者と同類になってたまるものか。

 アラタはサーフィスの言葉をぶつけられた周囲を見る。皆、答えは決まっていた。

 

「私達の為……?ふざけないで、迷惑です」

「お前のせいでいらねー疑いかけられたんだよ馬鹿!謝れ!ソーナ先輩に謝れ!」

「学園の平和を乱しておきながら随分な物言いね、呆れるわ。私達は貴方の助けなんか要らないわ。馬鹿にしているの?」

「俺だってお前に頼んだ覚えないんだよ!」

 

 余計なお世話だ、ふざけるな。それが彼らの答えであった。

 ソーナ達から口々に反論をくらい、サーフィスは唸る。お前達のためにやってやったっいうのに、なんだその言い草は。サーフィスの手が怒りに震える。完全な逆ギレだが、傲慢な彼にとっては正当な怒りなのだ。

 

「はっ!お前ら恩を仇で返すつもりかよ?いい加減にしないと、いくら優しい俺でもブチ切れるぜ?いいのか、俺の怒りは高くつくぞ?」

「まだわかんねーのかよ。そんなの誰も望んでいないんだよ。お前がやっていることはただの破壊だ!」

 

 自分の行いを否定する一誠達に、サーフィスは怒りが込み上げてくるが、そこに、アラタの口からサーフィスを否定する言葉が飛び出した。

 サーフィスは、モブキャラの分際で自分に口を出してきたアラタに対し、息を吐くように罵声を浴びせる。自分は間違ってはいない、正しいのだと必死に弁護するように。

 

「なんだお前。モブキャラが出しゃばるなよ!」

 

 サーフィスが叫ぶが、アラタは動じない。こんな卑怯者に恐怖など抱かない。抱くのは憤りだけだ。アラタは大鳳が止めるのもきかず、サーフィスにつかつかと歩み寄りながら、彼の間違いを指摘し続ける。

 

「お前、いつまでここがハイスクールD×D(げんさく)の世界だと思ってやがるんだ?お前が今生きている此処は!紛れもない現実なんだよ!現実にはモブキャラもサブキャラもヒロインも主人公も全部一人もいないし、予定調和の原作展開(みらい)なんてものもある訳ねーんだよ!いい加減現実を見ろよ……じゃないと、お前は一生幸せにはなれねーぞ」

「テメェ……まさか転生者(どうるい)か?」

「一緒にするなよ。俺はただの……ちょっくら転生しただけの愚か者だよ」

 

 サーフィスはアラタが転生者であることを知って動揺する。こんな所に、また別種の邪魔者がいたのだから当然だ。だがアラタはそんなこと知る良しもなく、ただサーフィスを睨みつける。

 アラタのいう通り、彼は大事なことに気付いていない。

 転生した先の世界は、自分がかつて見た空想の世界ではなく、紛れもない現実。そして自分自身も、その世界の一部になっているのだ。いくら自分にとってはフィクションの話だろうが、その物語の住人にとってはれっきとした現実。それに気付いていない時点で、彼は劣っていた。

 そしてアラタは、アラタが転生者だと知って動揺するサーフィスに体当たりを仕掛け、瞬の上からどかす。

 

「いつまで俺のダチ踏みつけてんだ、どけよこの野郎!」

 

 そのままサーフィスを押し倒すが、転生者といえど特典を持たない普通の人間であるアラタと、ギフトメイカーによって覚醒させられたオリジオンの差は圧倒的なものであり、あっさりとアラタは蹴飛ばされてしまう。

 だが間髪入れず、そこに匙の神器“黒い龍脈(アブソーブション・ライン)”の舌がサーフィスの足に絡みつき、動きを封じると同時にその力を吸収し始める。ずるずると、引きずられる形でアラタから引き剥がされるサーフィスオリジオンに、匙は啖呵を切る。

 

「俺もそーだよ。たしかにあの生徒会長は生簀かねえけどよ、お前みたいなことしたらソーナ先輩に合わせる顔なくなるからよぉ!てかまずお前の言動が気に食わねえんだよ卑怯者!」

「お前みたいなやつに助けてもらうほどヤワじゃないんだよこっちは!」

 

 一誠もそれに続いて、倍化したパンチをサーフィスにお見舞いする。情けない悲鳴をあげながら、サーフィスは床をゴロゴロと転がっていく。そこに、立ち上がったアラタから追加口撃を受ける。

 

「てゆーかお前、どーせ自分が活躍できなくなるかもしれないから、邪魔な奴を消そうとしてるんだろ?ちっせえ奴。自分の舞台くらい自分で見つけやがれ木偶人形!」

 

 自分がこんなこと言う資格が無いのは分かっている。瞬に謝る時だって、お膳立てしてもらっていた。だからこれは、アラタ自身にも向けた言葉でもあるのだ。

 一方、サーフィスオリジオンはアラタの言葉を反射的に拒絶していた。何くだらないことしているんだ。そんな事やめろ。アラタは暗にそう言っているのだ。しかし、その意見は、それを言ったアラタの目は、サーフィスには耐え難いものであった。

 何故ならそれを呑んでしまえば、自分が転生した意味が無くなってしまうから。一気に無価値な存在に成り下がってしまうから。今更それになるなんて我慢できない。結果として、サーフィスは更に激昂し、ヤケクソ気味に周囲に怒鳴り散らす。

 

「俺をそんな目で見るんじゃねえお前らは俺を輝かせる舞台装置でいいんだ上等だろ!全員粉砕!」

「お前……そこまでして何になるんだよ……!」

「させるかよ!」

 

 善吉のハイキックがサーフィスの顎を下から打ち上げる。数秒の間滞空したのち、サーフィスは屋上を囲うフェンスにぶち当たって床に落ちる。

 顔を上げた彼らの前に、阿久根と善吉が立ちはだかる。2人とも顔に青筋を浮かべていた。

 

「俺の怒りは高くつくぞ、と言ったな。悪いが俺達の怒りはお前以上に高くつくぜ!」

「君の賛同者はゼロ。それでもまだ俺達を排除するかい?」

「今更遅えよ!生徒会長は死んだ!ついでに煩いモブキャラも死んだ!お前らも皆アイツらみたいに死ねばいいんだ!お前らが死んでも原作にはなんも影響が無いからなぁ!」

 

 死人に唾を吐くが如く罵倒をぶちまけながら、サーフィスは金槌をやたらめったらに振り回す。

 気に入らないやつは、邪魔なやつは殺せばいい。彼がギフトメイカーに、オリジオンに覚醒してもらった時に言われたセリフ。それは酷く、素晴らしいほどに心に染み込んだ。転生者だから、選ばれた人間だから、それくらいは構わないだろう?彼は自分の行いを、そうやって正当化していた。

 だが、その発言はマズかった。

 なんせ彼は、アクロスの、瞬の怒りも買ってしまったのだから。

 

「誰がモブだよ!ふざけるな!アイツを、ハルを脇役(モブキャラ)呼ばわりするなああああああああああっ!」

 

 声を張り上げ、いまだ満足に動けない身体を無理やり動かして、サーフィスに体当たりをする。金槌を取り落とし、サーフィスは床に倒される。

 

「邪魔すんなゴミカス!なんで俺に好き勝手させねーんだよ!」

「あがっ⁉︎ 」

 

 だがまだまだ本調子ではない。踏ん張りが効かない故に、サーフィスの蹴りであっさりとアクロスは引き剥がされ、一気に形勢が逆転する。

 

「邪魔な奴が2人程死んだだけだろ?なんでそんなに怒るんだよ」

「お前にとっての邪魔者だろ。この世界に邪魔な奴がいるもんか。皆揃って世界なんだよ」

 

 やはり分かり合えない。同じ人間の筈なのに、価値観があまりにも違いすぎる。サーフィスは金槌を拾い、倒れたアクロス目掛けて思い切り振り下ろす。

 

「じゃあ死ねよアクロスウウウウウウウウッ!」

 

 

 

 

 が、ちょっと待とうか。

 ちゃんと死に様を確認しておかないと、足元掬われるぞ?

 

 

 

 

 

 

「残念だが、私を死んだと決めつけるのは早計だ。ちゃんと確認しなければ、このように反撃を喰らう羽目になるぞ?」

 

 サーフィスの手が止まる。金槌が、アクロスの目の前で失速し、サーフィスの手から落ちる。いつのまにか、サーフィスの首筋に、毒釘が突き立てられていた。

 こんなのあり得ない。なぜならそれはあり得ざる声だったから。先程死んだはずの邪魔者の声だったから。わなわなと震えながら、サーフィスは振り返る。

 

「もっと付き合え。下克上があっさり終わっては味気ないだろう?」

「め、めだかちゃん!」

「馬鹿なぁ⁉︎ 」

 

 なんと、ハル諸共地上に落ちたはずのめだかが、ハルを背中に負ぶった状態でサーフィスの後ろに立っていた。全身傷と血だらけで服も破けて半裸状態だが、彼女は凛とした態度を崩すことなく、サーフィスに毒釘を突きつける。

 

「な、なんで……ここ屋上だぞ?なんで五体満足でピンピンしてやがる⁉︎ 」

「私は生徒会長だぞ?校舎の壁くらい登れなくてどうする」

「登って……ああ!見てこれ!」

 

 志村がフェンス越しに地上を見下ろして、何かに気づいたかのように声をあげる。サーフィスもつられて下を見る。そこには、校舎の壁面いっぱいに突き刺さった無数の釘が存在していた。そして、一番低い位置に刺さった釘からは、上に向かって一本の溝のようなものができている。

 

「まさか、俺の釘を……」

「ちょっと拝借したぞ。その気になれば生身で壁面を駆け上がることも可能だったが、丁度そこにあったからな」

 

 そう。めだかはすれ違いざまにサーフィスから釘を数十本程くすねていたのだ。そうして、空中でハルをキャッチしたのちに釘を壁に刺して減速、からの釘を足場にしたクライミングでここまで登ってきたというわけだ。

 

「へっ!俺の幼馴染み舐めんなよ?これくらいでくたばるタマじゃないんだからな!」

「俺だって信じていたさ、なあ?」

 

 なんだか誇らしげにしている生徒会男性組。一方、唯はめだかの背中から降りたハルに、一目散に駆け寄ってゆく。

 

「ハル、大丈夫⁉︎ 」

「おかげさまで。流石の私もビビりましたよ……」

「無事で良かった……ありがとな、めだか」

「これくらい当然のことさ。これで、奴に心おきなく対処できるという訳だ」

(ば……化け物だ‼︎ こいつは人間じゃない!まさか……俺と同じ転生者……)

 

 サーフィスは五体満足で帰還してきためだかに今更ながら恐怖を感じる。が、それを見透かしていたかのように、ある声が割り込んでくる。

 

「残念ながら違う。この世界には化け物クラスのやつなんかゴロゴロいるんだよ。君が知らないだけで、ね」

「フィフティ……⁉︎ 」

「ほらこれ飲んで。フィフティお兄様の謹製解毒剤さ」

 

 屋上の給水塔の上に、いつの間にやらフィフティが立っていた。彼は苦しそうにしているアクロスを見ると、液体の入った瓶らしきものをアクロスに投げて渡す。

 一旦アクロスの変身を解除し、瞬はその瓶に入ったモノを飲み干す。すると、たちまち身体が自由に動くようになった。

 

「いける!サンキュなフィフティ!」

 

 これでようやく瞬は戦えるようになった。これで万全、役者は揃った。

 サーフィスは怒りで呼吸を荒げながら、全方位に向かって殺意をばら撒いている。それを冷静に見ていためだかは、何処からか取り出した扇子を広げ、それでサーフィスオリジオンを指す。

 

「哀れなものだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ならばその心、改心してみせよう!」

 

 ビシィッ!という音が聞こえたような気がした。サーフィスは、めだかの発言を鼻で笑う。

 人吉善吉曰く、黒神めだかの真骨頂パート1・上から目線性善説と呼ばれるそれは言われている本人からしたら、到底的外れなものだった。が、そんな事はどうでもいい。これが飛び出たという事は、彼の命運は決まったようなモノ。

 瞬はめだかの隣に立ち、クロスドライバーを起動させる。ここからは自分の役目だ、とでも言うかのように。

 

「ありがとう。後は俺がやる」

「ああ任せた。これはお前の役目だからな、仮面ライダーアクロス。存分にやってしまえ!」

《NEPTUNE》

《ARCROSS》

 

 2つのライドアーツを円形のバックル上部に差し込む。

 

「変身!」

《CROSS OVER!LEGEND LINK!SET UP!ネプテューヌゥウウ!》

 

 ライドアーツがバックルの上部から側面にスライドし、それと同時にバックルから無数の光の束が放出される。それは瞬の身体に張り付いていき、アクロスのスーツを瞬の身体の表面に形成していく。今回はネプテューヌのライドアーツを同時に使用しているため、さらに追加で黒と紫を基調としたアーマーが上に乗っかってくる。

 仮面ライダーアクロス・リンクネプテューヌ。サーフィスオリジオンとの再戦が始まった。

 

「姿がかわったくらいで調子乗るなよアクロス!俺が本気だしゃあお前なんか瞬殺だぜ!」

「ふんっ!」

 

 飛びがかかりながら金槌を振り下ろすサーフィスオリジオン。対してアクロスは、ツインズバスターを取り出してそれを打ち払う。居合斬りの要領で放たれた一撃は、呆気なく金槌は彼の手を離れ、床を滑ってゆく。

 ならばと、サーフィスは毒釘を取り出して投げつける。アクロスだけでなく、他の皆も巻き添えにする気マンマンの攻撃だ。しかし、そんな彼の思惑とは裏腹に、放った毒釘は、横から飛んできた魔力弾によって根こそぎ消し飛ばされる。魔力弾が飛んできた方を見ると、そこには両手に滅びの魔力を貯めた状態のリアスがいた。どうやら彼女がやったらしい。

 自分の思い通りにならない原作キャラに、短気なサーフィスは怒鳴り散らす。

 

「何処までも恩知らずで馬鹿な奴だ……!そんなんだから無能なんだよお前らはさあ!」

「お前の相手は俺だっての!」

 

 だが、戦いの最中は余所見厳禁。そんな事をしていれば、たちまち隙を突かれてしまうのだ。リアスに対して勝手にキレ散らかしていたサーフィスの横っ腹に、ツインズバスターの刃が滑り込むようにしてぶち当たる。いつのまにか、アクロスが懐まで迫っていたのだ。

 渾身の一撃を受けたサーフィスはそのまま吹っ飛んでいき、屋上のフェンスを飛び越して地上へと落下していく。そしてアクロスも、後を追って3メートルはあるフェンスを飛び越え、屋上から飛び降りる。

 

「馬鹿だろお前!自ら死を選ぶとは!」

「残念だがそれはハズレだよ馬鹿野郎」

 

 サーフィスは自分も落下しているくせしてアクロスの行動を笑い飛ばすが、アクロスは一蹴すると、背中の機械仕掛けの翼を広げ始める。紫色の粒子のようなものが、背中のスラスターらしき部位から放出され、翼を形成する。それを見てサーフィスは顔色を変えるが、もう手遅れ。一足早く、彼は地面に激突し、耳障りな悲鳴をあげる。

 アクロスは冷静に、翼で滑空しながら悠然と地面に着地する。それを見てサーフィスは文句を垂れるが、またまたそれは一蹴されてしまう。オリジオンとしての力のおかげか、屋上から落ちたくらいでは全然堪えないようだ。

 

「飛べるなんて聞いてないぞ!」

「聞かれなかったからな!これで決める!」

《CROSS EXEDRIVE!》

 

 ツインズバスターの柄の部分にある差し込み口に、ネプテューヌライドアーツを差し込み、回す。そして、アクロスは再び背中の翼を広げる。サーフィスはそれを見て逃げようとするが、もう遅い。次の瞬間、彼は後者よりも高く打ち上げられていた。

 何が起きたんだと、地上を見下ろす。が、その時には既にアクロスがすぐ近くまで飛翔してきていた。すれ違いざまの一閃が、サーフィスの胴体にぶち当たり、苦悶の声が漏れる。

 サーフィスを通り越したアクロスは空中で大きく弧を描きながら旋回し、紫の光を纏ったツインズバスターを構え、サーフィス目掛けて急降下する。それはあまりにも速く、サーフィスに回避の隙も与えなかった。

 

「ていやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼︎ 」

「ぎぃやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ⁉︎ 」

 

 あまりにも速い紫光の一閃。アクロスが着地していたときには、それはもう既に終わっていた。

 サーフィスはアクロスを憤怒の表情で睨みつけるも、既に遅し。突如として全身に途方もない激痛が走ったかと思えば、次の瞬間、サーフィスは空中で爆発した。断末魔の悲鳴が、爆風とともに空に拡散してゆく。それをアクロスは地上から見上げていた。

 どさりと、近くの木に何かが引っかかるような音がする。見ると、ボサボサの髪の制服を着た少年が、ボロボロの姿で木に引っかかっていた。どうやら、彼がオリジオンに変身していたようだ。

 そこに、皆がやってくる。アクロスの変身を解いた瞬に、間髪入れずアラタが肩に手を回してくる。

 

「やったな逢瀬!」

「なるほど、これが仮面ライダー……」

「これで彼も懲りただろう。二度とオリジオンにはなれないと思うから安心して欲しい。まあ、その方が彼にとっては生き地獄かもしれないけども」

 

 気に引っかかっている少年を見ながら、どこか嬉しそうに言うフィフティだったが、アラタの顔を見るなり露骨に嫌そうな顔をして、そっぽを向いてしまった。一体何があったのだろうと不思議に思う瞬だったが、いきなり唯に背中を蹴り飛ばされ、その疑問は意識の彼方に消し飛んでしまった。

 あまりにも綺麗な飛び蹴りが背中に命中し、瞬は近くの花壇に頭から突っ込んでしまう。口の中に入った土を吐き出しながら、自分を蹴ってきた唯に文句を言う。

 

「何なんだよいきなり⁉︎ 暴力反対!」

「遅すぎんだよ瞬はさー!ハル呼んでくるのに小一時間もかけるんじゃ無いよまったくもう!ランチタイムはとっくのとうに終わったぞう!」

「時間にルーズな男は嫌われるから……」

「やめろやめろぽかすか叩くな!てか山風も便乗しないの!」

 

 唯と、なぜか山風に抗議代わりにぽかすか叩かれながら、瞬は2人から逃げ回る。

 一方、ハルはめだかに助けてもらった礼を言っていた。自分の口から出た災いではあるものの、いまこうして生きているのは彼女のおかげなのだ。一歩違えば、地面に血肉の華を咲かせることになっていたかもしれないのだから。当然ハルは、そこのところは猛省している。

 

「助けていただいてありがとうございました」

「あの状況だと間に合うのは私だけだったから、ある意味当然の結果だ。まあ私ならあの高さから落ちても大丈夫なのだが」

「ホント化け物だこの人……あいつ、よく喧嘩売ろうと思えたよな……」

「命知らずというかなんというか……」

 

 一誠と匙は改めてめだかの化け物っぷりに戦慄する。一応悪魔やっているのに、これてば変に自信を奪われそうだ。彼女は間違っても敵に回したくねーな、と思う2人なのであった。

 で、先程から唯達から逃げている瞬はというと。

 

「増えてない⁉︎ 増えてませんかねえこれ⁉︎ 」

「逃がさんぞい瞬!約束破ったんだから罰金千円!」

「じゃあ私も!お兄ちゃん覚悟ぉ!」

「私も!人生初カツアゲだ!」

 

 湖森も山風も変にノリノリになっている。誰か止めろやと大鳳や志村の方を見るも、ものの見事に効果なし。思わず振り向きながら悪態をつく。

 

「ちくしょうがっ!」

「瞬、前前!」

「ん、前……」

 

 唯に言われて前を向くと、瞬のすぐ目の前に善吉の姿が。やべえと思ったが、そのまま避け切れるはずもなく、両者は衝突し、瞬が善吉を押し倒す形で2人揃って倒れてしまう。本日何回目の転倒なんでしょうかねいったい。

 男子高校生2人が揃って一体何やっているんだか、と言わんばりの表情で、阿久根が倒れた2人を覗き込んでくる。

 

「いってえ……俺怪我人なんだからさぁ!もうちょい労ってくれませんかねえ⁉︎ 」

「すみません……」

「ったく、後で保健室で診てもらえ。私を助ける為に、一直線で来たのだろう?」

 

 包帯の巻かれた頭を抑える善吉に、めだかが手を差し伸べる。

 その時、なんの前触れもなく、めだかの身体が淡く発光し始めた。本人もこれには困惑している素振りを見せているが、瞬はこの現象に見覚えがあった。ビルドの時と同じなのだ。ならばそのあとに起こることも予想がつく。

 めだかの全身を包み込んでいた光は、やがて彼女の胸の前一点に集まってゆき、鍵のような形状に変化してゆく。そして、濃縮されたそれが、地面に手をついていた瞬の、手の甲に落ちる。

 

「なんか出た⁉︎ 」

「いいからどけっての!」

 

 善吉に押しのけられ、瞬はごろんと転がされる。それと同時に光が収まり、新たに出現していた黒いライドアーツが、瞬の足元に転がり落ちる。

 

「これ……」

「ライドアーツ、だよね?」

 

 フィフティは、アクロスの力は絆の力と言った。ライドアーツはその最もたる物であると。つまりは —— そういう事なのだろう。

 めだか達も、一誠達も、バラバラに分かれてゆく。成り行きでかなりの大所帯になっていただけあって、別れ際は妙な寂しさを感じてしまう。

 

「よくわかんねーけど、認められたのかもな」

「認められた、ねえ……目をつけられたの間違いじゃなきゃいいけどな」

 

 去ってゆく生徒会メンバーの背中を眺めながら、瞬とアラタはそう呟いた。

 

 

 

 仮面ライダーアクロスは、また一つ絆を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 サーフィスオリジオンに変身していた少年は、這う這うの体でその場から逃げていた。

 既に特典は失われている。アクロスによって砕かれたのだ。自分の全てともいえる転生特典を失い敗走する彼は、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら走る。終わった。詰んだ。もう微塵の栄光すら無くなっていた。

 裏門を潜り抜け、当てもなく走り続ける。そこに、ある人物の姿が目に入る。

 

「お前は……ギフトメイカーの!」

「やあ、無様だね。元気にしてた?」

 

 少年に力を与えた張本人であるギフトメイカー・レドであった。彼は少年の様子を見るなり、嘲笑ってくる。その態度にキレた少年は、レドにつかみかかる。

 

「カスみたいな特典を渡すから負けたんじゃ無いか!どうにかしろよオイ!俺は選ばれた人間なんだぞ⁉︎ 」

 

 彼は叫ぶが、レドは冷ややかな目を向けたまま。そして、少年の手を払い除けると、その胸ぐらを掴み上げ、少年に残酷な真実を告げる。

 

「君という転生者(イレギュラー)が居る時点で、君の言う原作とやらは壊れているのにね。まさか自分は対象外だとでも思い上がっていたのかい?ならお笑いだ。そもそも君が原作尊守を掲げるのって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?いやあ馬鹿みたいだ。叶わぬ夢を追い求めて手を汚す無様っぷり、ああくだらねえな!」

 

 思い切り馬鹿にしたように笑う。結局、少年のやっていることは何の意味も無かったのだ。既に世界は混じり合っている。ここはそういう世界なのだ。少年の知る原作通りに行くことはあり得ない。その事実に、少年は耐え切れず、ただ何も言わずに涙をこぼす。

 レドは手についた涙を不快そうに拭うと、少年をその場に放置して歩き始める。

 

「君は殺す価値もない。残りの負け犬人生、惨めに生きろよ」

 

 惨めなモブキャラとして、残りのセカンドライフを無駄に生きる。それは、栄光と名誉を求めて生まれてきた転生者にとって、最大の生き地獄だった。

 自分はもう何者にもなれない。特典を失い、ただただくだらない人生を生きるしか無い。今まで好き勝手やってきた彼らは、そんな境遇に耐え切れない。だけど死ぬ勇気もない。終わる気がしない。

 

「ああ、ああああ……」

 

 何もかも失い、何も得ることもできず、がっくりと項垂れる少年だけが、その場に残されていた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 フィフティは一人、屋上に戻ってきていた。

 

「順当に成長していて何よりだ。私としても誇らしい気分だ」

 

 はじまりはどうなる事かと思ってはいたが、いざ任せてみると、それなりにサマになってきている模様。それはフィフティにとって喜ばしいものであった。

 本当ならば自分でクロスドライバーを使いたいが、フィフティは訳あってそれができない。だからこうして他人に任せ、自分は裏方に徹している。巻き込んだことに対して後ろめたさ、申し訳なさは感じているが、それを周りに見せることはない。まだそういうわけにはいかない。

 色々と考えながら地上を見下ろしていたフィフティ。そこに、背後から声がかけられる。

 

「なんでまあ、お前みたいな人種は高いところが好きなんだろうな」

「雰囲気出てるだろ?それにブーメラン刺さってるよ」

 

 嫌味たっぷりの台詞を、爽やかに笑いながら打ち返す。声の主は、この学園の制服を着ていることから、ここの生徒であるようなのだが、首から上は靄がかかったように視認が出来ない。

 

 

「まあ待ちなよ。今回君の出番はないよ」

「そうだな。()()()()()()()()()()()()。これが……アクロスの力の一端か」

「アクロスの、というよりも……ああこれ以上は言うべきじゃないな。兎に角今日は帰るんだ。仕事は終わったんだから」

「みたいだな」

 

 声の主は、首元についていた装置の電源を落とす。転生者狩りの標準装備の認識阻害デバイス。それによって隠されていた顔が明かされる。と言っても、フィフティは既に彼の顔を知っているので、特に反応するでもなく、軽い調子で問いかける。

 

「にしても、今更逢瀬くんに接近するとか何のつもりかな、()()()()

「……」

 

 無束灰司は黙り込んでいた。

 瞬達の前で見せていた、頼りなさそうで物静かな雰囲気は全く感じられず、心なしか、他者を拒絶するかのような鋭いオーラのようなものが、全身にまとわりついているように見える。そして、その顔つきに温和さは微塵も存在していない。幾度となく死線をくぐり抜けてきた者の顔だった。

 

「君の属する組織の差金かな?一体何考えているのやら、ねえ?」

 

 フィフティは、薄ら笑いを浮かべながら問いかける。その目は全く笑ってはおらず、酷く無機質に感じられる。

 

「安心しなよ。君が転生者狩りだということはバラしゃしないさ。だって君がいようがいまいが、アクロスの戦いには全く影響ないし」

「テメェが何考えているかは知らねえ。だが、全てが思い通りにいくとは思うなよ。世界ってのはそうできてるんだ」

 

 灰司はそう吐き捨てると、不機嫌そうにそっぽを向く。

 

「俺はテメェもアクロスも信用しないが、邪魔をしないなら此方からは手を出さない」

「そうだね、お互い不可侵といこう。その方が好都合だ」

 

 2人は別れる。

 両者は決して相入れない。ぶつかり合う必要は無いが、わかり合う必要もない。そういうものなのだから仕方がない。

 灰司が去ってから少し後。フィフティはカツン、カツンと靴音を鳴らしながら階段を降りてゆく。今のフィフティは部外者。他の生徒や教員に見つかったらただでは済まないのだが、彼はそんな事は気にしてはいない。歩いて帰る必要もないのだが、今はそういう気分。だから彼はこうして階段を悠長にくだっている。

 もう少しで一階に差し当たるというところで、フィフティの目の前にある人物が姿を現す。フィフティはそれを見て、あからさまに不機嫌そうな顔になる。

 

「一気に気分悪くなったんだけど?どうしてくれるんだよ、ったく。どの面下げてここに立っているんだい?まさか昨日のこと忘れた訳じゃないよね?」

「……」

 

 現れた人物 —— 欠望アラタの顔を一目見るなり、フィフティは一気に気分が悪くなった。100の幸福も、1の不幸による不快が一瞬で塗り替えられてしまう。そんな気分だ。フィフティにとって、アラタとはそういう存在になっていた。

 喋るのも嫌なのか、無言で持っていた杖でアラタを小突く。しかしアラタは退かない。そして、アラタはとんでもないことを言いだした。

 

「俺を強くしてくれ」

 

 その言葉を聞いて、フィフティは目が点になった。そして、数十秒かけて意味を理解したのか、ダムが決壊したかのように、腹を抱えて大爆笑する。

 

「ぷっ……ぷははははははははははははははははははははっ!四月馬鹿には1年早いんじゃないかなぁ?私を笑い死にさせる気かい?」

「逢瀬からお前のことは聞いた。お前、アクロスの導き手で、色々と知ってるんだろ。オリジオンとか、ギフトメイカーとか。そいつらは、幾らでも俺の周囲の人を傷つけるんだろ。だから、俺を鍛えて欲しい」

「普通それ、自分を嫌ってる人間に頼むことかな?だからの前後で文章成り立ってなくない?」

「逢瀬を強くしたお前なら、性格はともかく実力面なら師事する価値はあるんじゃないのか」

「いや逢瀬くんに関しては私はあんまりタッチしてないし……ねえ話聞いてる?」

 

 どうやらフィフティをアクロスの師匠かなんかだと思っているようだが、一体どこをどう勘違いしたらそうなるんだ、とフィフティは溜息をつく。別にフィフティはアクロスに試練とか特訓とかを課した覚えはない。頃合いをみて特訓するかな、とは多少は考えてはいるが、それとこれとは関係ない。第一、何故ゴキブリみたいに嫌う奴に稽古をつけなければならないのだ。

 馬鹿馬鹿しいし不快なのでさっさと帰ろうとするが、アラタがその行手を塞ぐ。

 

「決めたんだ。あんな卑怯な真似は2度としない。正攻法で強くなるしか無いってな。それに、あそこまでボロクソにこき下ろされといて黙っていられるタマじゃねーんだよ。だから、強くなってテメェを見返してやる」

「なるほど。反骨心だけは一丁前だね。いやあ滑稽滑稽!まあ少しは見直したよ。喩えるなら、ゴキブリよりちょっと上くらいかな?まあゴミには変わりないんだけどね」

 

 さらに煽るフィフティだったが、アラタは至って真面目な模様。これはいくら言っても無駄だと踏み、観念してある事をアラタに告げる。

 

「実を言うとね、さっき逢瀬くんに相談を受けたんだよ。いや本当、馬鹿馬鹿しいにも程があると思ったんだけどね?まあ他でもない彼の頼みだし?君もやる気みたいだし?こう見えて私も善人だからね。お望み通り、君をしごいてやるよ」

 

 そう。オリジオンを倒した後、屋上に戻る途中で、瞬から相談されていたのだ。そろそろアクロス強化に向けた特訓をしないかと持ち掛けたら「ならアラタも一緒に鍛えてやれないか?」と尋ねられた時には柄にも無くびっくりしてしまった。

 だが、仮面ライダーの導き手としては、その願いを無碍には出来ない。個人的には嫌だがやってやろうじゃないか。そう意気込み、フィフティはアラタに告げる。

 

「言っておくが、私は君が大嫌いだ。だから君に情けはかけないし、泣き叫ぼうが苦しもうが抱腹絶倒するつもりだよ。君が嫌いだから、そんじゃそこらの体育会系がドン引きするレベルで君をしごいてイジメ抜くつもりでいる。それでも君はやるのかい?」

「やるよ。やってやる。惨めに憧れて、頼り続けるわけにはいかないからな」

「転生特典を自分から捨てた君に出来るかな?」

 

 煽り散らかすフィフティと、昨日とは違う、真剣な表情のアラタ。

 ここにまた一つ、挑戦者が生まれた。

 

 


 

 

 翌日。

 

 

 

 この間の部員勧誘の件で、瞬とハルは生徒会室に向かっていた。

 一応お礼をちゃんと言いに行った方がいいよな、と判断した結果であるのだが、それとは別に、オリジオンに色々と酷い目に遭わされていたから大丈夫かな、と思い、様子を見に行こうという話にもなった。明らかに余計な心配だが、一応怪我人も出ていたし、やっぱり行った方が良いのだと瞬は判断した。

 挨拶をしながら、瞬は生徒会室の扉をあける。

 

「失礼しまーす」

「……」

 

 その瞬間、2人はフリーズした。

 勿体ぶらず端的に言うと、黒神めだか、まさかのお着替えタイムであった。人型の肌色の上に白い下着が眩しく輝いている。なんか壁際の方では善吉と阿久根が必死に目を逸らしている。そういえば露出癖じみたところがあると言っていた様な気がするが、状況から察するに彼らも逃げそびれたらしい。

 —— というかこの状況、やはくね?

 一瞬の内にそう結論づけた瞬は、瞬く間に回れ右してこの場を立ち去ろうとする。シチュエーション的には一般的なラッキースケベとなんら変わりないはずなのに、何故だか全然ラッキーとは思えない。端的に言うと場違い感がすごい。

 が、当の本人はというと。

 

「気にするな」

「いやこれが真っ当な反応だからな⁉︎ 」

「構わんよ、入るが良い」

「入れるか!服着ろ服!てかそもそもいきなり脱ぎだすな!」

 

 善吉が顔を赤くしながら突っ込む。というかいきなり脱ぎだすって何だ。まさか何の脈略もなくこの状況になったわけでもあるまい。

 

「さあ出て行こうじゃないか!めだかさんの裸体は神聖なもの。特に善吉、君の様なイヌッコロが見ていいものじゃないんだ!」

「アンタにそのまま返すぞその言葉ァ!だいたいアンタも逃げそびれてたくせに!」

 

 善吉とガミガミ言い争いながら、阿久根が他の皆を室外へと押し出してゆく。ピシャリと、皆が廊下に締め出される。こんな扱いを受けると、自分達は一体何しに来たんだろうかと考えてしまう。

 ふと、瞬は横にいたハルに、先程から気になっていた事を聞く。

 

「お前、めだかをずっとガン見してたろ」

「え、なんですか逢瀬さん。もしかして勃ってたんですか?」

「……お前が友達出来なかった理由がわかった様な気がするよ」

 

 ハルへの応答に困り、瞬は苦笑いで誤魔化すしかなかった。確かにコミュニケーションに難ありだわこれ。うん。

 数分経って、めだかが着替え終わったとの報告が扉越しに耳に入った。この場唯一の女性陣であるハルに確認させた後、再び生徒会室に戻る一同。

 さて、仕切り直しと入ろう。

 

「今日はある報告に来ました」

「ほう、言ってみるが良い」

「本日をもって漫研を廃止し、OC部に改名いたします!」

「「はい?」」

 

 当然ながら善吉がツッコミを入れる。ハルの隣では瞬がなんとも言えない表情で頭を抱えている。

 

「いやいやいや、漫研はどうなったんだよ⁉︎ 」

「漫研なんかどうでも良かったんです。それ以上に刺激的なものに出逢えましたから。だからorigion Counters部。オリジオン関連の事件を捜査する由緒正しい部活動です」

「うん確かに刺激的だったと思うけど……君、ホントにそれでいいのか?」

「何度も止めたんだよ?でもコイツ全然言うこと聞いちゃくれないのよ……」

 

 瞬が悲壮じみた声で頭を抱えながらボヤく。その様子を見て、思わず同情してしまう善吉と阿久根。やっぱり最後までまともじゃなかった。

 そもそも名前からしてセンスが壊滅的である。わざわざ部活動にしなくていいと、瞬は口を酸っぱくして言ったのだが、他の皆は特に反対しなかったので多数決で決まってしまったのだ。さんざん反対してきたものの、もう遅し。たった今、瞬の目の前で正式名称として受理されてしまった。

 

「善吉、本人がいいと言っているのだから、我々が突っ込むのは野暮というものだ。九瀬川2年、貴様の活躍を大いに期待しているぞ」

「やめてくれ!下手に優しい言葉食らったら余計傷つくからぁ!」

「漫研としての活動も継続しますので以下よろしく」

 

 それだったら部を改名する必要なかったのでは、と男性陣は思うのであった。用事も済んだし、おいとまさせて頂こうと瞬は動くが、そこにめだかが声を掛ける。

 

「逢瀬2年、昨日の戦い振りは見事であった」

「……!」

「貴様も励むが良い。それが貴様の志だというならば、私は全力で応援しよう。それでももし、悩みを抱えた時は相談に乗ろう。それが私達……開王学園生徒会執行部だ」

「……ありがとうございます」

 

 一礼して、瞬は退室する。

 学園を表から守る、生徒会という光。裏から支える仮面ライダー。その間に存在する数多くの生徒達。それが崩れない限り、きっと安泰。

 ……たぶん。

 

 

 

 

 


 

 

 

 後日談はもう一つあった。

 

 

 

 生徒会室から部室へと戻ってきた瞬とハル。瞬は、部室の扉に貼られたOC部と書かれた貼り紙を見て、改めてため息をつく。某広告機構じゃ無いんだから、と乾いた笑いを漏らしながら、扉を開ける。

 すると。

 

「やあ遅かったね逢瀬くん。すでに活動は始まっているよ?」

「フィフティ⁉︎ 」

 

 ジャージ姿のフィフティが、扉を開けてすぐの位置で待ち構えていた。予想外の人物に、思わず瞬は素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「その格好は何?てかなんでフィフティが学校に居るんだよ⁉︎ 」

「なんでって、そりゃあ顧問だよ。部活には顧問教師が付き物だからね。あと、アクロスを知るものが増えてきた今、逆に組織化しちゃった方が管理しやすいかな、と私も思ってね。それと戦いの激化に備えて私も近くにいる事にしたんだ」

 

 そういえば色々あって忘れていたが、この部活の顧問の話を全くしていなかった気がする。でもだからと言って、こんな奴に任せていいのだろうか。オリジオンについてはエキスパートだろうが、一体どうやって教師になったのだろう。

 瞬はフィフティから目を逸らすように、部室を見渡すと、机を挟んで反対側にアラタが腕立て伏せをしているのが見えた。瞬はフィフティを押しのけて、アラタのもとに向かう。

 

「何してんだ?」

「決めたんだ、俺は強くなる。お前に追いつく……いや、追い越してみせる!自分の大事なものは自分で守れるくらいに!」

「ど、どうしたのよアラタ……なんか人が変わったみたい……」

 

 事情を知らない大鳳達は、一体何事かと心配そうな目でアラタを見るが、本人はそんなのお構いなしに腕立て伏せを続行する。

 成る程、特訓は既に始まっているらしい。アラタの心境を色々と知っている瞬は、少しニヤニヤしながら頷く。想い人を守るために強くなると誓っているアラタを見ながら、瞬は大鳳の疑問に答える。

 

「そりゃーまあ、あれだよ。愛だよ」

「何故そこで愛⁉︎ 」

「間違ってはないけどざっくりすぎない?」

 

 これ以上は言うべきではあるまい。人の恋路に無闇に関わるべきではないのだから。瞬はそうモノローグを締め括り、席に座ろうとする。が、フィフティが瞬の肩を掴んで静止させる。

 

「さあ逢瀬くん、君も特訓だ。まずは腕立て伏せと腹筋を各500回!さあやるんだGOGO!」

「文化部がやる事じゃねえ!これ今やらなきゃダメ⁉︎ 」

「当たり前さ。これは君のための特訓なんだからね。さあやるんだ!兎飛びをさせないだけ良心的だぞ?」

「がんばってー瞬」

「お前ら他人事だと思ってコンチクショウが!」

 

 部室に響き渡る瞬の悪態。

 彼の日常は、こうして一回り大きくなりましたとさ。

 

 

 

 

To be continued……




フィフティのクソ野郎っぷりが最大限に発揮されました。彼は基本的に好き嫌いが激しい奴なので、一度嫌った人間には中々態度を変えません。言動がムカつきますがそれは私も同じです。ただ今回はアラタが全面的に悪いから仕方ない。

悪い奴じゃないけど結構疲れる。ハルはそういう子。

いい加減話進めたいからここから暫く急足になります。一章終わらせないと日常回がろくに入れられないからねぇ。
次回はあの賛否両論の作品がメイン。僕は好きです(鋼の意志)

オリジオン紹介!


サーフィスオリジオン
名前:羽間九一(はざまくいち)
前世名:内海家鶴彦(うつみやつるひこ)
転生特典:幽波紋(スタンド)「サーフィス」
(ジョジョの奇妙な冒険第4部 ダイヤモンドは砕けない)

転生特典は変身能力を持ったスタンドの「サーフィス」。
ハイスクールD×Dの世界に転生してイキリちらす筈が、色々とクロスオーバーした世界だったが故に、イレギュラーを排除して無理矢理にでも原作通りに進めようと画策していた。それも全部原作の展開をなぞった上で活躍する為。本編ではめだか達生徒会と仮面ライダーアクロスの排除を目的に行動を起こした。

しかしめだかボックスの原作についての知識が無いのが裏目に出て、無謀にも生徒会に喧嘩売ったのが運の尽き。生徒会の各個撃破も失敗し、肝心の変身能力も、所々でボロが出てる為にめだかに見破られる結果となった。
そもそも原作通りに修正するのは自分が活躍する舞台を整えるためであり、原作愛なぞ微塵もない。

元ネタのスタンドの外見から連想して、丑の刻詣りのモチーフも入れてます。


グールオリジオン
名前:波馬剛(はばたけし)
前世名:山田松信(やまだまつのぶ)
転生特典:喰種(グール)の力(東京喰種)

噛ませ犬要員。
自分は選ばれし者たがら何してもいいと思い込んでいる馬鹿。転生して社会常識すら捨ててきた模様。現代日本でこれは無いですね。一体これまでどうやって生きてきたんだろうか……?

最後はレイラに捨て石にされた。結局、彼は選ばれしものでもなんでもなく、ただの雑魚キャラでしかなかったのだ。

ぶっちゃけると即興で作ったやられ役。だから扱いが悪い。
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