【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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前回までのあらすじ


平穏な生活を送っていた少年、逢瀬瞬。彼の世界は、突如滅び始める。街を襲う怪物と、消滅。
迫り来る怪物達から幼馴染みを守る為、彼は仮面ライダーアクロスに変身するのだった。


今回は漸くクロス作品が登場します。


第2話 ENTER THE NEW WORLD

 初めての変身に、戸惑う瞬。

 しかし、相手は待ってはくれない。そもそも、現在二人は囲まれている。これはまずい。

 

「どうすんの……?」

「……」

 

 瞬——アクロスは、拳を握りしめる。体が、震えているのが分かる。

 彼は、つい先程までは、ただ脅威から逃げるしか無い凡人だったのだ。歴戦の戦士のように、涼しい顔などできっこ無い。

 

「guuuuu!」

 

 怪物が、鋭い爪をふりかざす。

 

「危ねぇ‼︎ 」

 

 アクロスは唯をかばうように、怪物の爪の軌道に割って入る。背中に爪が直撃し、火花が飛ぶ。

 やってくるであろう痛みに、歯をくいしばる。

 しかし。

 

(あれ……痛くない……)

 

 思いきり斬られた筈なのに、それ程痛みは無い。まだ困惑しているアクロスに、怪物達が襲い掛かってくる。

 ひょっとして、これならいけるのではないか?今自分たちを襲っている異形どもを倒すことだって。

 

「はあっ!」

 

 アクロスは振り向いて、怪物に拳を突き出す。

 

「gua⁉︎ 」

 

 怪物の腹に拳が叩き込まれ、家具を蹴散らしながら後方へと吹き飛んだ。其の光景を見て、アクロスは確信する。

 

「この力……この力があれば……守れる!」

 

 そう確信した彼は、先程より強く拳を握りしめる。

 怪物達が、一斉にアクロスに襲い掛かる。彼は、飛び掛かってきた二体に拳を叩き込んで地面に落とし、すぐさま振り向き、後ろからきたやつを蹴飛ばす。

  怪物達は、距離を置こうと屋外へと出る。しかし、アクロスに蹴られた怪物が、彼らの前に倒れてきて、足を止めさせる。

 

「これで……終わりだ!」

《CROSS BRAKE!》

 

 アクロスも屋外に出て、バックル上部の、三つあるボタンのうち、真ん中にあるものを押す。

 唯が呆然と見つめるなか、アクロスは高く跳び上がり、右脚を真っ直ぐと伸ばし、空中で飛び蹴りの体勢になる。すると、足の裏から、何かが飛び出して怪物達の体を押さえつける。

 

「ap……」

 

 怪物の集団の目の前に、オレンジ色の六角形があり、アクロスの足との間に、いくつもの✖️が、キックの軌跡を予言するかのように出現する。

 

「おらああああああああああああああああああああああああ‼︎ 」

 

 その時、アクロスの姿が一瞬で消える。

 と思えば、いつの間にか怪物達の背後に着地していた。

 

「外した……?」

 

 唯がそう呟いた瞬間。

 列を作っていた✖️が、伸びたバネが戻っていくかのように、六角形に重なっていく。

 そして、最後のものが重なった瞬間、怪物の群れは、爆発を引き起こした。

 爆風で思わず目を閉じる唯。

 しばらくして、恐る恐る目を開ける。爆風の中からアクロスが現れ、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。

 

「なんなの……それ」

「俺の台詞だっての」

 

 アクロスは、バックル上部右のボタンを押しながら言う。すると、ライドアーツが排出されると共に、変身が解除され、瞬の顔が現れる。

 ほっと溜息をついた直後、

 

「見事初陣を切り抜けた、仮面ライダーアクロスよ」

「お前……」

 

 いつの間にか、唯の家の屋根の上に、フィフティが立っていた。その顔は、嬉しそうだ。

 

「これで、世界の危機は去った。君が変身したおかげで、この世界の消滅は回避された」

 

 フィフティはそう言った後、急に真面目な顔つきになる。そして、空を見上げる。

 

「次元統合は避けられない」

 

 瞬達もつられて空を見上げる。そこには、あり得ないものがあった。

 

「なんだ……アレ」

 

 それは地球だった。

 もう一つの地球が、今まさに落ちてこようとしていた。

 

「おい……話が違うじゃねえか……」

 

 もう、無茶苦茶だった。たった数時間で、世界が滅びようとしている。瞬の理解を待つこと無く、事態だけが進む。

 

「本番はここからだ、アクロス」

 

 瞬と唯は目の前に広がる光景を目の当たりにして、フィフティの声も入ってこない程に圧倒されていた。

 思考を放棄し、呆然と空を見上げる。

 眼前に、世界が迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ENTER THE NEW WORLD》

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頰を撫でる冷たい風が、瞬の意識を引きずりあげる。

 最初に視界に入ったのは、街灯の無機質ながらも眩しい光だった。

 

「はっ⁉︎ 」

 

 慌てて飛び起きると、見慣れた自宅の前だった。なぜ自分は路上で寝てたのか、と疑問に思う。

 何かを忘れているような感覚に捕らわれながら立ち上がり、あたりを見渡すと、見慣れた風景が広がっている。ここは慣れ親しんだ自宅の前だ。何故自分はこんなところで寝ていたのだろうかと、必死に過去を思い返すが、今に至る経緯をどうやっても思い出せない。

 しばらく考えて、瞬は諦めた。

 思い出せないものは仕方ない。スマホで時刻を確認すると、午前4時ジャストと表示されている。兎に角、家に戻ったほうがいいだろう。

 

「ただいま」

 

 恐る恐る玄関の扉を開ける。

 返事は無い。

 時間的に、叔父も湖森もまだ眠っているのだろう。起こさないように自分の部屋までたどり着き、ベッドに倒れこむ。

 と、その時、ポケットに入れてたスマホが鳴る。画面には、唯の名前が表示されている。

 

「もしもし……?」

『瞬?無事なんだよね?』

「無事って……なんだお前、そんな切羽詰まったような声で」

 

 電話の向こう側で、唯が安心したかのように溜息をつくのが聞こえる。

 

「つーか今何時だと思ってんだよ。こちらは何故か路上でグースカしてたんだけどなー」

『……覚えてないの?』

 

 急に、真面目な声色になる。

 覚えてないもなにも、瞬には何の事かさっぱりわからない。

 

「なんだ?お前、何が言いた……」

 

 そう言いかけた時、彼の記憶が呼び起こされた。

 怪物の群れ。消え行く街。そして、仮面ライダー。あれほどの出来事があったはずなのに、何故かそれらは先程まで記憶からさっぱりと消えていた。

 さらに、一番の違和感に気づく。

 

「なんで……なんで街がなんともないんだ……⁉︎ 」

 

 部屋の窓から見えるのは、見慣れた街の風景。

 瓦礫も、死体も、まるで昨日のことが無かったかのように、さっぱりと消えていた。まるで、質の悪い悪夢でも見ていたかのような感覚だ。

 

『父さんも、母さんも、ちゃんといた』

 

 悲劇は無かった事になったが、それ以上に大きな違和感が残った。

 瞬は、窓の外に目を向ける。今日の朝日は、酷く不気味に映った。

 

 

 

 

 


 

 

 

「やっぱり全部無かったことになってる……」

 

 どうやら、誰も覚えていないらしい。家にいた二人に訊いてみたものの、叔父には、いつ帰って来たんだと聞かれ、湖森には怪訝そうな顔を向けられた。

 あくびをしながらテレビを付け、普段は見ないニュース番組を見てみても、昨日のことには一切触れない。

 

『先月から発生している児童連続失踪事件ですが、未だに詳しいことはわかっておらず、警察は誘拐の線も視野に入れた上で操作を続けています——』

「怖いねー、二人とも気をつけるんだよ」

「どうせ変態の仕業でしょ」

 

 テレビを横目に、瞬は朝食を食べる。何時も通りの朝の筈なのに、不気味に感じる。それに、先程から、瞬は現在進行形で表現し得ない違和感を感じていた。

 あえて例えるならば、なにか余計なものがあるような、周りと自分が噛み合わないような感覚。こうして何時も通り過ごしているだけで、それは膨らんでゆく。

 

「瞬君、なんか顔色悪いけど……大丈夫?」

「だ、大丈夫だって……二人とも心配しすぎだよ。俺はなんともないから、さ」

 

 どうやら顔に出てたらしい。瞬は急いで朝食を食べ終えると、洗面所の鏡の前に立つ。

 自分自身には、見たところ特に変化はない。叔父も湖森も、何時も通りだ。

 

「訳わかんねえ」

 

 顔を洗っても、頭の中はまだスッキリしない。溜息が自然と出てきた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 着替えを済ませた瞬は、机に向かっていた。と言っても、勉強してるわけではない。彼の手には、昨日手に入れたバックルとライドアーツがあった。この得体のしれないものが、昨日の出来事が夢ではなかったと告げている。

 

「これがある……つーことは、夢じゃない、って事か」

 

 誰かに話すべきだろうか、と考えるも、話したところで多分どうにもならない。

 

「考えたって仕方ねぇか……」

 

 一旦考えるはやめよう。今までの流れだと、また頃合いを見計らってフィフティが説明でもしてくれるだろう。なんだかよくわからないけど、そんな気がする。

 瞬は違和感について考えるのをやめ、勉強机の横に掛けてある鞄に手を伸ばす。宿題をやってた方が遥かにマシだと考えたためだ。鞄を開け、宿題を取り出そうと中に手を突っ込む。

 

「……あれ?」

 

 おかしい。見つからない。結構分厚い本だから、そう簡単には無くさない筈だし、そもそも昨日は帰ってから鞄は開けてない。部屋中を探すが、出てこない。

 と、なると考えられる可能性は。

 

「宿題学校に置いてきた……」

 

 最悪だ。

 なんか抱えている問題が先程と比べて一気にスケールダウンした気がするが、高校生にとっては大きいものだ。

 

「取りに行くしかねえか……」

 

 校則の規定で、校舎に入る際は制服か、部活動のユニホームを着用しなければならない。瞬は服を脱ぎ、クローゼットの中にある制服を取り出す。

 と、ここである事に気づく。

 

「……制服、こんなんだったか?」

 

 自分の記憶にあるものと、目の前にある制服が違う。再び、忘れようとしていた違和感が呼び覚まされる。

 

「……まあ、着るしかないか」

 

 そんな事よりも宿題だ。やらなかったらやらなかったで後々痛手になる。瞬は着慣れない制服に身を通し、家を出た。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ほんとに元通りだな……」

 

 改めて見ると、昨日の夜の事が嘘だったかのように、街は普通だ。ひょっとしたら、あっちが夢だったのかと一瞬考えたが、未だに残るあの生々しい感覚が、あれが現実だと主張する。

 と、考えているうちに、高校のある場所にたどり着いた。

 

「あれ……?」

 

 校舎を見た瞬の口から、そんな声が漏れる。

 記憶にある校舎と、目の前にある校舎が、大きく異なっている。校門のところにある学校名も違う。というか、中高一貫校になっている。明らかにおかしい。

 道を間違えたのだろうか、と一瞬考えたが、胸ポケットの生徒手帳に挟んである学生証は、瞬が目の前の学校の生徒であることを示している。

 どういうことだ?と瞬が考えていると、

 

「ちょっと良いか」

「⁉︎ 」

 

 急に、後ろから呼びかけられた。フィフティかと思い振り返ると、白いパーカーを着た男がいた。被っているフードの下から覗く前髪は、色が薄い。

 なにやら、切羽詰まったような表情を浮かべて、此方を見ている。

 

「なんだ、アンタ」

 

 瞬の問いに、男はこう答えた。

 

「妹を知らないか。少し目を離した隙に消えてたんだ」

「悪いけど、俺は知らない」

 

 そもそも誰なんだお前、といった目線を男に向ける。男はガックリと肩を落とすもすぐに立ち直り、そのまま校門を駆け抜けて行った。

 

「なんだったんだ、今の……?」

 

 色々疑問に思う瞬。

 しかし、自分の本来の目的はまだ達成できてない。というか、出来るかわからない。

 

「……とりあえず、あるかどうか確認しねえと……」

 

 とにかく、宿題を持ち帰るのが優先だ。考えるのは後回しにしよう。そう自分に言い聞かせ、瞬は校門をくぐった。

 


 

 ——と、息巻いていた数分前は何故か考えていなかった問題が発生。

 

「あれ……?教室どこだ……?」

 

 外観が変わってた時点で予想はしていたが、校舎の内装も変わっていた。

 自分の教室が何処にあるのかわからない。

 途方に暮れる瞬だったが、正面玄関辺りなら案内図があるのではと予想し、瞬は一旦引き返す事にした。

 

「くそ……学校で迷子なんてみっともないにも程があるだろ……!」

 

 悪態をつきながら、静かな廊下を歩く。その時、近くの教室の中に、あるものが見えた。

 誰かが倒れている。具合が悪くなって倒れたのだろうか。今いる位置からは良く見えない。保健室にでも連れて行った方がいいのではないかと思い、瞬は教室に入る。

 良く教室を見ると、中学生ぐらいの少女が仰向けで床に倒れている。よく見ると、服が少し乱れている。この状況から推測されるのは。

 

「マジかよ……⁉︎ 」

 

 どう考えても事案だ。それも薄い本とかであるような、だ。

 考えたくないが、そう判断出来てしまう。思考が、悪い方へ悪い方へと流されていく。これってえっちな漫画の中だけの話ではなかったのか?

 その時、

 

「何入って来てんだよ、モブ野郎」

 

 突然、目の前に拳が現れたかと思えば、次の瞬間には教室の天井が視界一杯に広がっていた。いきなり殴られたらしい。鼻血が流れている。

 混乱する瞬の前に、攻撃をしてきたであろう人物が現れる。瞬と同じ制服を着た、気持ちわるいくらいに顔の整った少年だった。

 

「な……にが……」

「もう少しでお楽しみだったのによぉ、何邪魔してくれてんだよ」

 

 少年は瞬を殴った拳をもう片方の手で払いながら、瞬を威嚇するように睨みつけてくる。

 おそらく、彼が犯人。何がしたいかなんて考えるまでもないだろう。

 少年はまだ立ち上がれない瞬の脇腹を思い切り蹴り上げ、瞬は床を転がって壁に背中を打ちつけられる。瞬は痛みを堪えながら、目の前の少年に怒る。

 

「何……してんだよ⁉︎ 犯罪だぞ!」

「犯罪者呼ばわりは酷いな。救世主と呼んでくれ。これは、世界を救う為の第一歩なんだから、さ」

 

 その言葉に、瞬は唖然とした。会話が噛み合わない。まるで別の世界の、別の生き物と会話しているような感覚だ。というかこの光景がどうやったら世界救済につながるというのだ?

 逃げたい所だが、少女を置いて逃げるなんて出来ない。そしたら、間違いなく彼女は襲われる。早速行動に移そうとするも、少年に腹を踏みつけられる。

 

「見られたからには、邪魔したからには死んでもらう!この雑魚が!」

「がはっ!ばふっ!」

 

 少年は叫びながら何度も瞬を踏みつける。踏みつけられる度に、腹の中のものが全て押し出されそうな感覚が襲ってくる。

 

「あー腹立つ……ああ腹立つ!テメエみたいな雑魚には使いたくなかったんだけどよぉ、テメエのせいで今の俺は凄え気分が悪い!後悔させてやる、俺の邪魔をした事を!」

 

 そう言うと、少年は何処からか一本の剣を取り出す。

 

「なっ……お前、そんなもん……」

 

 銃や刀剣の所持が法律でしっかりと規制されている日本では、本来でてくるはずがない代物。最初、瞬はこれはおもちゃだと思いそうになったが、あの刃の輝きは明らかにおもちゃではない。本物だ。目の前の少年は、それを躊躇いなく瞬にふりかざそうとしてくる。ハッキリ言ってまともじゃない。

 

「おらあああああああああああああああああああああああああああああ‼︎ 」

 

 剣が、瞬の胸に刺さろうとする。

 その時。

 

《KAKUSEI GUNGNIR》

 

 何処からかくぐもった電子音が聞こえた直後、廊下側の壁が吹き飛んだ。

 粉塵と衝撃波が、両者を襲う。少年の方は、衝撃で窓の方へ叩きつけられ、窓を突き破って二階の高さからコンクリートの地面へと落下していった。

 

「なんだっ……」

 

 粉塵の中から現れたのは、異様な姿をした怪物だった。身体のあちこちを覆う白とオレンジの目立つ装甲。その隙間からは、黒い煙が噴き出している。

 怪物は低い唸り声をあげながら、ゆっくり歩いてくる。ここで瞬は、少女の事を思い出す。辺りを見渡すと、気絶したままの彼女は、瞬のすぐ近くに倒れているのが見える。

 怪物が、少しずつ接近してくる。

 

「……やるしかない、のか?」

 

 あの時のように、出来るのだろうか。守れるのだろうか。

 

「ガアアアアアアアアアア!」

「うっ⁉︎ 」

 

 怪物がいきなり殴りかかってきた。瞬はギリギリ躱すも、拳のあたったロッカーが粉々になる。

 とにかく、このままでは少女も瞬もどうなるかわからない。最優先は、少女の安全を確保すること。その為に出来ることを必死になって考える。

 

「……やっぱりこれしかない!」

 

 考えた末、瞬はバックルを取り出して腰に当てる。するとベルトが自動で巻かれる。

 

《クロスドライバー!》

 

ライドアーツを取り出し、ベルトに取り付ける。

 

《ARCROSS》

 

 待機音が鳴り出し、怪物の動きが止まる。瞬は怪物を真っ直ぐ見つめる。

 

「変身!」

《CROSS OVER》

 

 振り絞って出た掛け声は、震えていた。前と同じように、瞬の身体が光に包まれていく。

 

《思いを!力を!世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》

 

 再び、少年は変身した。

 仮面の下で、一回だけ、深呼吸をする。

 目の前の怪物を恐れるな。後ろの少女が傷つくことを恐れろ。

 変身に驚いたかのように動きを止めていた怪物が、アクロスに殴りかかってくる。アクロスは腕でガードしつつ、腹にパンチを一発くらわせる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎ 」

 

 怪物が怯んだ隙に、アクロスは怪物に突進する。ここで戦えば、少女を巻き込んでしまうからだ。両者はそのまま、枠しか残っていない窓から飛び出し、地上に落下する。

 何度も地面を転がった後にゆっくりと立ち上がり、両者は対峙する。

 

「はあああああっ!」

 

 アクロスは、渾身の力で殴る。しかし、怪物はそれを打ちはらい、カウンターとして蹴りをアクロスに叩き込む。瞬は数歩ほど後退りするも、すぐに再び攻撃体勢に入る。

 

「アアアアアアアア!」

 

 怪物は雄叫びをあげ、接近してきた瞬に頭突きをする。瞬は大きく吹き飛び、フェンスに激突し、大きくへこませる。

 

「つ……強え……」

 

 目の前の怪物は、ポキポキと手を鳴らしながら接近してくる。アクロスは立ち上がろうとするも、少年に受けたダメージが蓄積され、上手く立てない。

 

「ヤバイ……俺、死ぬ……⁉︎」

 

 怪物の手が光りだす。

 死が、目の前に迫る。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 暁古城(あかつきこじょう)は、必死になって校舎の中を走っていた。

 

凪沙(なぎさ)っ……!凪沙ぁ!」

 

 必死になって妹の名前を呼ぶ。

 長年一緒に過ごしてきた、大切な家族。それが急に居なくなれば、普通は不安になる。

 古城は血眼になって探す。身体中から、嫌な汗がだくだくと流れる。

 ある一室にたどり着いた時、彼は立ち止まった。壁や窓ガラスが吹き飛び、机が散乱している。まるでここだけ台風が直撃した様だ。

 そんな教室の壁にもたれかかるように、古城の妹・凪沙は倒れていた。

 

「凪沙ぁ!」

 

 古城は彼女のもとに駆け寄る。特に外傷はないようだ。ほっと胸を撫で下ろし、肩の力を抜く。

 その時、外から何かを殴るような音が聞こえてきた。

 

「誰か喧嘩でもしてんのか……?」

 

 おっかねえと思いながら、窓から下を見ると、全身を黒い鎧のようなもので覆い仮面をつけた人物と、異形の怪物が戦っていた。

 

「なんじゃありゃ……⁉︎ 」

 

 自分の目が可笑しくなったのかと目をこすってみるも、目の前の光景は変わらない。事実だ。

  古城が呆然としていると、更に猛スピードで何が彼の目の前を落ち、粉塵を巻き上げる。

 

「何がどうなってんだよ……?」

 

 思わず、そんな言葉が口から出てくる。

 この時、彼は気付かなかった。校舎の壁をよじ登り、窓枠に手を掛けている人物がいた事を。古城に殺意のこもった視線を向けながら、窓から教室に入り込んでいた事に。

 

「くたばれええええええ‼︎ 」

「な」

 

 グサリ。

 古城が気付いた時には、彼の胸元に一本の剣が突き刺さっていた。襲撃者が剣を思い切り引き抜くと同時に、そこから鮮血がとめどなく溢れ出す。

 

「な……に、が……?」

 

 古城は自らの血が作り上げた紅き海に倒れる。血を失い過ぎた為か、意識が朦朧としてきた。

 

「や、べぇ……」

 

 古城の意識が、沈む。

 襲撃者の少年は、屍と化した古城を何度も蹴飛ばす。

 

「やった……俺はコイツから世界を守った!神様、見ててくれたか!やったぞ!俺はヒーローだ!」

 

 高らかに叫ぶ少年。その顔には、何かを成し遂げたのような満面の笑みを浮かべている。血にまみれたその笑顔は、彼が見た目通り真っ当な感性を持ち合わせていない異常者であることを主張している。

 

「さてと、帰りますか」

 

 色々予定外のことがあったものの、やるべき事は済んだ。少年は剣を引きずりながら教室を出ようとする。

 が、

 

「貴方を逃がすと思っているんですか?」

 

 その言葉と共に、少年の額に銀の槍の穂先が突きつけられる。

 

「君は……姫柊雪菜(ひめらぎゆきな)ちゃんだっけ?」

「……」

 

 少年に、銀の槍を突きつけている少女は微動だにしない。その目には、少年に対する怒りが込められている。

 少年はその槍を素手で掴む。

 

「なんで俺がそんな目で見られるわけ?寧ろ俺は褒められるべきなんだけどなぁ」

 

 少年は、本人に理解出来ない、といった感じに肩を竦める。その言動が、雪菜と呼ばれた少女に怒りを抱かせる。元来正義感の強い彼女からすれば、目の前の少年は悪だ。

 たとえ、血溜まりに倒れている古城が、世界を揺るがしかねない危険人物だとしても。

 

「貴方は、人を刺してもなんとも思わないのですか?」

「色ボケの第四真祖だろ?消した方が世の為だ」

 

 少年は悪びれる事なく答える。

 

「君もわかるだろ?アイツは居ない方がいいんだ……」

 

 少年がそう言いかけた次の瞬間。

 

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼︎ 」

 

 謎の咆哮と共に、突如として周囲が閃光で塗りつぶされた。

 

 

 


 

 

 

 場面は時を遡ること数分前。

 瞬に、死が迫る直前、それはやってきた。

 

「どいてどいてどいてどいてぇー!」

「なっ……⁉︎ 」

 

 突然空から女の子の声が聞こえてきたかと思えば、何かがアクロスの真上に勢いよく落下してきた。

 

「がっ……」

 

 良くも悪くも、アクロスのスーツが頑丈な為、そこまでの痛みは感じない。一体何が落ちてきたんだ、とアクロスは自分の体の上に乗っかっている物体を見てみる。

 

「マジかよ……⁈ 」

 

 其れは人だった。

 紫の髪の、パーカーワンピを着た幼い少女が、アクロスの上に乗っかっていた。

 

「……あれ?ここどこ?」

 

 驚くべきことに、彼女は普通に起き上がり、辺りを見渡しはじめた。少なくとも校舎よりも高い位置から落ちてきていた筈なのに。そしてその後に口から出た言葉は、

 

「もしかして私、また次元を超えちゃったんだ!」

「……え」

「いやぁ、もう少し捻りないのかなー?流石に4回目だとマンネリ化してこないかなー?私、このままだと落下極めちゃうかも⁉︎ 」

 

 この場の殺伐とした雰囲気を粉々にするかのように、少女の口から出てくるメタ発言。

 困惑するアクロスに対し、少女は次の様に言う。

 

 

 

 

「私、ネプテューヌっていうんだ。悪いけど君、状況と此処が何処なのか教えて欲しいんだけど、いいかな?」

 

 

 それは、なんとも奇妙な縁の始まりだった。




はい。漸く書き上がりました。スマブラ買ったので必死にキャラ解放をしていて遅くなりました。

ストブラに関しては、物語の都合上時間軸をいじってます。時間軸的にはオイスタッハとの邂逅直後です。

一応いっておきますが、古城は死んでません。
まだクロス作品は少ないですが、許してくれや。


次回「フォーリング・ヴィーナス」

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