【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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遊戯王ARC-V編です。
リンクスにARC-Vが来ますね。何というベストタイミング。

注意
・私はARC-Vへの批判自体は否定していません。今回の敵がそういう思想だったというだけの話……です。色々と惜しい作品とは思っています。
・デュエルについてはマスタールール3を基本にします。ペンデュラムはバンバン出てきますし、オリカやアニメ効果、アクションカードもありますのでご容赦ください。リンク召喚はしないしNo.も出ません。多分。
・たぶん四天の龍たちはアニメ効果になる。
・デュエルは割とノリと勢いで書いてます。一応ADSやリンクスでデッキを回したり、wikiや公式データベースで効果を調べながら書いてはいますが、いかんせん私はOCGプレイヤーじゃないので……クオリティは察してください。


第20話 レッツ、エンタメデュエル!

質量を持ったソリッドビジョンの発明により生まれたアクションデュエル。フィールド、モンスター、そして決闘者(デュエリスト)が一体となったこのデュエルは、人々を熱狂の渦へと巻き込んだ ——

 

 

 

 

 

 白い、白い空間。

 無限に広がる、普通ならば誰も辿り着く事は不可能な、どこでもない場所。しかしながら、その純白の世界には一点だけ、残された場所があった。

 それは瓦礫の山だった。何処かの神殿だったのかは知らないが、瓦礫には華麗な装飾がところどころ見られる。

 

「人生をやり直したくないか?」

 

 呆然と白い大地に立ち尽くしている男に、ギフトメイカー・ティーダは問いかける。はっきりとしない意識のまま、男は質問する。

 

「ここは何処だ?俺は夢でも見てるのか?」

「貴様は死んだ、それだけのことだ」

 

 あっさりと、残酷な真実が告げられる。それは男の混濁していた意識を覚醒させるには、あまりにも衝撃的すぎるものだった。みるみる男の顔が青ざめ、目に見えて取り乱す。

 

「いや……そんな筈はない!これは夢だ!タチの悪い悪夢に決まってる!俺はここで死んでいい人間じゃあないんだ!」

「それは此方も同意見だ。だから —— ひとつ、チャンスをやろう。光栄に思うがいい、貴様は千載一遇の機会を得たのだ」

 

 事実を受け入れられずに塞ぎ込んだ男に、ティーダはあるチャンスを持ちかける。それはまさしく、天より地獄へと垂らされた蜘蛛の糸。唯一の希望だった。

 —— そのタチの悪さに、最期まで彼は気付くことはないのだが。

 

「貴様は幸運な事に、別の世界に転生する権利を得た。今ならば転生特典をひとつだけ与えてやる事もできる。こんな上手い話はそうそう無いはずだ。どうだ、するかしないか、早く答えろ。時間は有限だ」

「するするするする!させてくれ!俺はまだやり残した事が沢山あるんだよ!アンタの言うこと何でも聞くから!」

 

 即答だった。欲深いというか、単純というか、口ぶりからして信用すべきでは無いのは明らかなのだが、この男はティーダの足元で土下座までして頼み込んだ。その様子を見てティーダはほくそ笑むが、男はそれに気づいていない。

 ティーダは男に顔を上げさせると、話を続ける。勿論、無償で転生させはしない。あっさりと食いついた男に、ティーダはある契約を持ちかける。

 

「ただし見返りとして、俺達の力になってもらう。安心しろ、力が必要になれば呼びつけるが、基本的に貴様は自由だ。何をしてもいい。何故なら、貴様は選ばれし人間だからだ」

「何をしても……?なら、転生先を選ばせてくれないか?どうしても許せねえ奴がいるんだ!ソイツを甚振りたいんだ!」

「貴様の望みはきいてやる。だから俺達に協力しろ。いいな?」

「分かった!分かったから!転生できるならなんでもするさ!」

 

 喜びで身体を震わせながら、男はもう転生した後のことを考えていた。前世に残してきた家族のことなんて知ったことではない。趣味に理解を示してくれない家族なぞ、彼にはどうでも良かったのだ。

 彼の目的はただ一つ。それは転生者の大半が望む、ありふれた、それでいて最も忌み嫌われる願いだった。

 

 

 

 殺すのだ。

 榊遊矢 ——— 決闘者の面汚しに制裁を下すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬達の住む天統市のお隣、舞網市。デュエルに関する技術が突出している事以外は割と普通の街である。余談だが、見た目川内の潮原提督もこの街の鎮守府で頑張っているぞ。

 それはさておき、ゴールデンウィークが間近に迫ったある週末。舞網市の中心部にある総合公園に、瞬達はOC部の面々は来ていたのだが。

 

「ぎょめぇええええええっ⁉︎ 」

 

 のっけから汚いアヒルのような声を上げながら、アラタは地面に倒れる。

 痛みで熱を持った背中を摩り、服についた芝や土を払いながら状態を起こすアラタに、いつもとは違って私服スタイルの潮原提督が手を差し出す。

 

「一本取ったな。ったく『いきなり強くなりたいから特訓に付き合ってくれ』と言われるとはな……けど、いきなり俺とタイマンなんてお前正気じゃねーよ……」

「いやいいんだ。俺は強くならなきゃいけないんだ」

 

 差し伸べらた手を取り、アラタは立ち上がる。

 この間、アラタは大切な人を自力で守れるくらい強くなると誓った。故に今回、潮原提督にわざわざ付き合ってもらって、格闘戦(こんなこと)をしているのだ。

 

「それにしても、せっかくの休みの日なのに、わざわざ付き合ってもらって申し訳ないっすよ。潮原さん、忙しいんじゃ?」

「いいって事よ。お前の姉さんには、提督になってから世話になりっぱなしだし、お前の事は弟のように思ってるんだぜ?これくらいお安い御用だっての。ほら、まだやるんだろ?」

「ああやるぜ!」

 

 潮原提督の言葉で奮起し、再び立ち上がるアラタ。服には土や草がついているが、その目は真剣そのもの。強い意志のようなものが感じられる。大鳳には、その意志の源が何であるかは知る由もないのだが。

 

「ほーら逢瀬くん?次はあのジャングルジムをジャンプで飛び越えようか。少しでも掠ったらアウトね」

「いやいきなりそれは無理が有りませんかね」

「拒否権はないよ。ほらいきな」

 

 遠くのほうでは、瞬がフィフティに特訓をつけられている。公園中の遊具を全部ジャンプで飛び越す特訓に、イマイチ唯は意味を見出せないのだが、きっと大事な意味があるんだろうと思い、温かい目で瞬を見守る。

 

「流石に私もジャングルジムは無理だよなー、せいぜい鉄棒レベルだよ」

「それはそれで凄いけど……」

「やっぱり唯さんは凄いや!ほらお兄ちゃんも唯さんを見習ってー!」

 

 湖森に理不尽な内容の声援を送られ、瞬は苦笑する。妹とは須らく兄に対して横暴に振る舞うもの。世の中の兄はそれを受け入れるしか無いのだ。

 

「てーいーとーくーはーやーくー。ボクは早く帰ってデッキを組みたいのさー!」

 

 一方、瞬からもアラタからも離れた位置にあるベンチでは、潮原提督の部下である艦娘・初月が、ベンチに腰掛けながら不満そうに足をバタつかせていた。その隣では、ご存知五航戦こと翔鶴と瑞鶴がニコニコ笑いながらアラタと潮原提督の取っ組み合いを見ている。

 

「初月、散々連れ回しといて文句言わないの。一人一箱までの限定BOXの複数買のために提督や翔鶴姉を半ば強引に連れてきたのは誰だったかしら?」

「説明台詞サンクスです瑞鶴さん。てかそんなことして大丈夫なんすかね……私はそこら辺の事情に詳しくないのでよくわからないんですが」

「転売ヤーから買うよりはマシでしょ。それに翔鶴姉とは違って私もプレイヤーだし、ちょうど欲しかったのよねこれ」

「へー意外。瑞鶴、ちょっとデッキ見せてよ」

 

 ハルと瑞鶴が何やら盛り上がっている様子。そこに、一旦休憩をする為に瞬が戻ってきた。

 瞬はハルからスポーツドリンクを受け取るが、その時、初月の手元にあるカードらしき物に目がいく。絵柄から見るに、トレーディングカードゲームか何かだろうか。

 

「なあ初月、それって何?カードみたいだけど……」

「デュエルモンスターズだよ、知らないのかい?世界的な知名度と人気、競技人口を誇るカードゲーム。常識だよこれ」

「そーそー!お兄ちゃん、山籠りでもしてたか記憶喪失にでもなったの?」

「いやそうじゃ無いんだけど知らない……」

「私もよーくわかんない……」

 

 さも知っていて当然、というような反応をする皆に対して、瞬と唯は、困惑気味に答える。

 そりゃあ、2人が知っているはずがない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。にもかかわらず、まるで昔からあったかのように存在している。あの日以来、こういう齟齬が絶えないのだ。

 

「唯さんてっきりデュエルにも精通してるかと思ってたな〜。意外だな〜うん」

「ごめんカードゲームは全く守備範囲外で……」

 

 遠慮がちに唯が言う。

 

 その時、ぶわりと突風が吹き、初月の元にあったカードが風に乗って空へと舞い上がってしまう。

 

「あっ買ったばかりのカードがぁ!」

「だから外で広げんなって言ったでしょ……どうすんの?」

 

 慌ててカードを拾いに行く初月と、呆れながらそれを手伝う瑞鶴。瞬達も仕方なしにそれを手伝うことにした。

 瞬はふと空を見上げる。すると、風に煽られて空に舞い上がったカードが、ひらひらと落ちてきているのが見えた。跳んでキャッチしてやろうと、

 

「ふんっ!」

 

 が、その手は届かず、逆に手を動かした際に発生した風によって、カードは瞬から離れるように飛んでいってしまう。その先には、ローラースケートで疾走する少年が一人。

 そして、その少年の顔に、飛んできたカードが舞い降り、その視界を塞ぐ。本人はいきなり視界が塞がれて思わず取り乱してしまう。

 

「うわわわわっ⁉︎ 前が見えなくなった⁉︎ 」

「ちょい前!前街灯!」

 

 瞬の注意も間に合わず、少年は頭から公園内の道の脇に立っていた街灯に突っ込んでしまう。視界が急に塞がれたことに加え、ローラースケートによって結構なスピードが出ていた為か、避けることもままならなかったらしい。

 ゴチンと、痛そうな音が響き渡り、瞬は思わず自分の目を手で覆ってしまう。なんか前にも似たようなことがあったような気がするが、ほっとくわけにもいかないので、一応声をかけてみる。ちなみにカードは少年と街灯にサンドイッチされたせいで、開封したばかりにもかかわらず少し曲がってしまっていた。カードコレクターにとっては、きっと失神ものだろう。

 

「大丈夫か……?記憶や魂飛んでないよな?」

「痛え……何が起きたんだよもう……」

 

 痛がる少年の顔を見て、瞬は何か引っかかるものを感じた。何処かで見た覚えがある。しかしそれがいつ何処でだったか、思い出せない。ゴーグルを頭につけ、緑と赤の派手な髪色をした少年だった。まるでトマトみたいな色合いだなー、といったことを考えていると、瞬はあることに思い至った。そして少年の方も思い至った。

 

「アンタは……この間の川流れしてた人!」

「ちょくちょく見かけてたトマト頭!」

 

 どっちもひでー呼び名である。お互いにそう思ったのか、なんとも言えない表情のまま数秒ほど固まってしまう。

 そして瞬は思い出した。春休みの時と、ドライグオリジオンに川に突き落とされた時だ。単に道を聞かれただけだったり、湖森と一緒に川を流れていた瞬を救助してくれていたりと、直接的な絡みはほぼ無かったものの、やけに特徴的な髪色が印象に残っていたのだ。

 湖森や初月、ハルに唯も、瞬のもとにやってくる。湖森も、顔を見るなり思い出したのか、少年を指差す。

 

「あ、お兄ちゃんが川流れしてた時に助けるの手伝ってくれた人だ」

「いや俺そんなに役に立って無かったし……ほとんど権現坂のパワーに任せていたし」

「礼を忘れていたな。あの時はありがとな」

 

 瞬は言い忘れていた礼を言いながら、少年の手を引いて立ち上がらせる。少年はズボンの汚れを手で払いながら、自己紹介をする。

 

「どういたしまして。俺の名前は榊遊矢(さかきゆうや)。これもきっと何かの縁なのかもしれないな。よろしく」

「逢瀬瞬だ」

 

 滞りなく互いに名前を明かし、自己紹介がおわる。が、遊矢の名前を聞いた初月が、驚きの声をあげる。

 

「え、あの榊遊矢⁉︎ほんとにホントのマジ⁉︎ 」

「嘘でしょ……まさか同じ学校だったなんて……」

「何なの湖森ちゃんも初月ちゃんも……この人、有名人かなんか?」

 

 何故2人が驚いているのか全くわからない唯は、困惑気味に尋ねる。瞬も分からないのはは同じだ。この少年がいったいどうかしたのだろうか?

 唯に訊かれて、初月はめちゃくちゃ興奮しながら答える。

 

「アクションデュエルの開祖・榊遊勝の息子にして、自力で新しい召喚法であるペンデュラム召喚を編み出した新鋭デュエリスト!決闘者(デュエリスト)なら知らない奴は居ないくらい凄い人なのさ!」

「そんなに褒められるようなもんじゃないさ。父さんと比べたら俺なんかまだまだエンターテイナーとしても決闘者としても未熟だよ」

 

 初月の発言に、謙遜するようなそぶりを見せる遊矢。だが、説明をされてもデュエル知識皆無な瞬と唯は、何が凄いのか、そもそも初月が何を言っているのかすらよく分からず、頭の中でクエスチョンマークが大量発生してしまう。

 そこに、2人分の足音がこちらに近づいてくる。見ると、遊矢の後方から、ノースリーブの服を着た、ピンク髪ツインテールの少女と、赤い鉢巻を巻いた、ガタイのいいリーゼント頭の少年がこちらに向かって走ってきていた。

 

「遊矢大丈夫⁉︎ なんか凄く痛そうな音が聞こえてきたんだけど⁉︎ 」

「何もそんなに急ぐことは無かろうに。別に今日買わなければいけないわけでもないだろう」

「柚子、権現坂……急がないと売り切れるかもしれないだろ?」

 

 どうやら遊矢の連れらしい。ここで初月が、彼らの会話から何かを察したのか、先程開封したカードの空き箱を見せながら、こう訊いた。

 

「もしかして……君たちもこれを買いに?」

「ああそうだよ。ちょっと出遅れちゃって、それで急いでたんだけど……」

「なら無理だね。僕が買った時にはもう数えるほどしか残ってなかったから。多分もう売り切れてるよ」

「そんなあ……かんっぜんに出遅れた……」

 

 それを聞いて、遊矢はがっくりと肩を落とす。瞬はカードゲームには疎いが、これは残念なことなのだろうということくらいはわかる。

 

「で、そちらの方々は?」

「ああ紹介するよ。昔からの友達の柚子と権現坂だよ」

 

 紹介された2人が、それぞれ挨拶する。ツインテールの少女が柚子で、大柄なリーゼント頭の少年が権現坂だ。

 

「あら、貴女もデュエルやってるのね。私は柊柚子(ひいらぎゆず)。家はデュエル塾をやってるの。どう?もし良ければ、今度ウチに見学にでもこない?塾長……父さんもきっと喜ぶわ」

「いきなり勧誘は良くないと思うが……権現坂昇(ごんげんざかのぼる)だ。どうやらウチの遊矢が迷惑をかけてしまったようだ。友人として代わりに詫びよう」

「いやいや、元を辿ればこっちのせいだから……」

 

 そこまでして謝罪されるようなことでもないし、そもそも初月が全部悪い。瞬は若干困惑しながら、権現坂に頭をあげさせる。またまた個性的な奴らと出会ってしまったものだ。今回に至っては、髪色からして個性的だ。どこのホビーアニメの世界だろうか。

 

「で、このカード……もしかして、お前もデュエルモンスターズを?」

「いや俺はデュエルなんてルールすら知らないんだけど」

「初心者には厳しいからね」

「ルールは複雑そうに見えるけど複雑よ!」

「え〜不安になってくるんだけど……」

 

 柚子がやけに自信気に言うが、それは自信たっぷりそうに言う台詞ではない。そういうのを言ってしまうと、初心者は寄り付かないと思うのだが。

 ゆずの言葉で、デュエルに対してかすかに拒否反応を示し始めた瞬と唯に、すかさず柚子とハルがフォローを入れ始める。

 

「モンスターカードや魔法・罠カードを駆使して相手のライフポイントを0にすれば勝利、ほら、簡単でしょ?」

「それが結構ややこしいのですよホント。カード効果の処理とかがややこしすぎて、初心者は皆苦労するんですよね。かくいう私もその一人でしたし」

「対象を取る取らない、チェーンブロックを作るか否か、カードの発動と効果の発動etc(エトセトラ)……面倒ったらありゃしない。でも楽しいからやめられないんだよね」

 

 フォローがフォローになってないし、それを秒で無碍にしちゃったよコイツら。彼女らが羅列する専門用語の数々に、思わず拒否反応を示してしまう瞬と唯。知恵熱が出てしまいそうな気分だ。こんなことを何なく理解できているカードゲーマーを見ていると、本当はコイツら、自分達とは別の生命体ではないのかと思えて仕方がない。

 遊矢も横で話を聞きながらも、コイツら一旦止めて自分が話した方がよくね?とは思ってはいるが、中々その気になれない。幼馴染みとのパワーバランスが如実に現れている瞬間であった。

 そこに、物凄くデカい声が聞こえてきた。

 

「み、つ、け、た、ぜ!我が永遠のライバル榊遊矢ぁ!」

 

 瞬が振り返ると、なんか派手な髪色の、いかにもお金持ちのボンボンですといわんばかりのオーラダダ漏れの少年が、こちらに向かってずかずかとやってくる。後ろには如何にもTHE・取り巻きという感じの少年を3人ほど付き従えている。

 少年の顔を見るなり、柚子は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「げ、沢渡……」

「何知り合い?」

「此奴は沢渡シンゴ。奴もまた決闘者の一人。まあ腐れ縁というやつだな」

「腐れ縁じゃねえ。ライバルだ!」

 

 権現坂の紹介を一部否定する沢渡。彼はつかつかと此方に向かって歩いてくると、やけに自信たっぷりな笑みを浮かべながら、突然現れた沢渡にきょとんとしている瞬と唯を指差して、

 

「おいおい、このてぇっんさいエンタメデュエリスト、ネオニューアルティメットハイパー沢渡シンゴ様をご存知無いとは、お里が知れるってもんだな!」

「ダサい名前だ……」

「ダサいのは同意するけど、口にしちゃいけない言葉ってもんがあんだろ!」

「沢渡さんを悪く言うな!一度機嫌損ねたら中々治らないんすよ!」

「俺たちの沢渡さんはまじパネェから!」

 

 いきなりのマウントであった。取り巻き達も便乗してきてるし、一体何なのだろうかコイツら。というか取り巻き達も地味に沢渡をdisっている気がする。コイツら本当に取り巻きなんだろうか?

 

「ネオニューアルティメットハイパー……小学生かな?」

「精神年齢的には間違ってないかも」

「誰が小学生だ誰が!よし決めた、榊遊矢!今日こそこの沢渡様の華っ麗でスーパーアメイジングなデュエルで勝利してやんよ!」

 

 沢渡はそう叫ぶと、ズボンのポケットから、小型のタブレット端末のような機械を取り出す。はて、カードゲームにあんなものが必要だったりするのだろうか?

 疑問に感じながらも、瞬は隣の唯の方をちらりと見るが、どうやら彼女も同じ考えのようだ。と、未知との遭遇をしたような顔をしている2人に気づいたのか、沢渡が煽り気味に声をかけてきた。

 

「なんだ?デュエルディスクも知らないのか?幾ら興味無かったといってもそりゃ無いぜ。どこの未開の地育ちだよお前ら」

「さーどこでしょうねーうふふふふ」

「え、いやーなんだろなーあはははは」

「唯も逢瀬も気色悪いな……」

 

 瞬と唯の目が明後日の方に泳ぐ。異世界転生したら多分こんな気分なんだろう。

 

「デュエルディスクはデュエルの必需品。これ無くして決闘者に在らず、ともいわれている。これ常識だぞ?」

「知らないからって責めたり囃し立てたりすること無いでしょ。ほらこれがソリッドビジョン。立体映像によってカードやモンスターを投影出来るの」

「すげ〜いつの間に人類はそこまで進歩してたんだ〜」

 

 久しぶりに人間の世界にやって来た人外のような反応をしてしまう瞬。それを見て、沢渡の取り巻き達がクスクスと笑っているが、瞬と唯は気づかない。

 

「まあデュエル以外にもタブレット端末としても使えるし、なにかと便利なんだよね」

「でもお高いんでしょう?」

「まあそれなりにね」

 

 みるみるうちに、会話が通販番組みたいなノリになる。これは話の脱線の色が濃厚になってきた。はたしてこの話の脱線っぷりに異議を唱えられる奴はいるのだろうか。

 

「おいお前ら!さっきから俺ほっぽって何話進めてやがんだよぉ!」

「うわ沢渡がうるさくなった……」

 

 話の軌道修正をしたのは、先程から影が薄くなりはじめていたぽっと出の沢渡シンゴであった。

 話の中心からみるみるとフェードアウトさせられていった沢渡が、柚子に対して文句を言ってくる。少し除け者にされただけで、すぐにぷんすかご立腹になる。なるほど、確かに典型的な困った御坊ちゃまだ。

 と、ここで柚子が、地団駄を踏んでいる沢渡を見て何かを思い付いた模様。

 

「丁度いいわ。この2人のデュエルを観戦しない?実際に見たりやったりした方が理解できるわよ」

「俺はチュートリアルの敵キャラ扱いかよ⁉︎ ったく、それならそれで俺様が残らず魅力させてやるぜ?構わねーよな?」

 

 沢渡の凄まじいまでの切り替えの早さに、ある意味感心してしまう。さんざん弄られたことにつっ込んでおきながらも、すぐにギャラリーを魅力させようと意気込むスタイルには、遊矢もエンターテイナーとして、思わず見習いたくなるものを感じる。

 だが、遊矢も負けてはいられない。負けじと沢渡に強気な口調で言い返す。

 

「それはどうかな。俺だってプロになって多少は成長しているつもりさ!」

「いいぜ、かかって来な!」

 

 決闘の火蓋が、切って落とされようとしてした。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、デュエル……といっても、それ相応の舞台が必要になるだろう。別にデュエルの場所くらい何処でもいいだろ、と言う人もいるだろうが、こういうのは場の雰囲気も大事な要素の一つなのだ。

 一同は、公園の敷地の端の方に位置するデュエルコートに移動する。この施設では、金を払えば誰でもアクションデュエルが出来るのだ。

 

「広いな……体育館くらいはあるぞ?たかがカードゲームにこんな広いスペースが要るのか?」

「お兄ちゃん知らなさすぎだよ〜。アクションデュエルだから派手に動き回るんだよ?これくらいは大会なら普通だよ?」

「アクション……なんだって?」

「アクションデュエル。ほらあれ見てよ」

 

 湖森が指差した先には、床がガラス張りになっている箇所がある。そこを覗くと、何やら大きな機械が見えた。

 

「あれがリアルソリッドビジョンシステム。普通のソリッドビジョンは質量を持たないんだけど、これを使えば触感や質感も再現出来るんだって。科学の力ってすごいよねー」

「そ。あそこがその操作室よ」

 

 コートの端の方には、野球場のスタンドのような箇所があり、そこにはなにやらでかい機械のようなものが見える。どうやらあれがリアルソリッドビジョンシステムの操作をする場所らしい。

 

「誰かリアルソリッドビジョンシステムを起動してくれないか?」

「じゃー私が!フィールド魔法は私の独断で決めるからね!」

「僕も行くよ」

 

 湖森が名乗り上げ、デュエルコートの端にあるリアルソリッドビジョンシステムの操作パネルへとスキップしながら向かってゆく。志村も、より見晴らしの良い場所を求めて湖森の後に続いてゆく。

 湖森は、操作パネルの側に保管されていた操作説明書を読みながら、鼻歌混じりにアクションデュエルのフィールドを選ぶ。

 

《フィールド魔法 臨海遺跡クリアオーシャン》

 

 そんな音声がしたかと思えば、ソリッドビジョンシステムが稼働し、眩い光を放ち始める。瞬はたまらず、目を閉じてしまう。

 

「な、なんだぁ⁉︎ 」

「軍の訓練でもたまにリアルソリッドビジョンは使うけど、何度やっでも慣れねーなこれ……」

 

 数秒たって、光が収まってくる。瞬は恐る恐る目を開ける。すると、先程まで殺風景な室内コートにいた筈なのに、いつの間にか、周囲の風景は、よく分からない謎の遺跡らしきものの点在する砂浜に切り替わっていた。

 見た目だけではない。近くの石柱は本物さながらの質感と触感だし、足元の感触も砂浜のそれだ。これがリアルソリッドビジョン。質量を持った立体映像。

 

「すっごい……本物そっくりだよコレ」

「足場の感触も砂浜のソレだ……かがくのちからってすげー」

「観客席に下がった下がった。派手に動き回るからね」

 

 初めて体験するソリッドビジョンに驚いている瞬と唯。そんな2人をはじめとするギャラリー達を観客席まで下がらせ、沢渡と遊矢は相対する。2人は自分の左腕にデュエルディスクを装着し、腰のホルダーからデッキを取り出してディスクに装填する。すると、ディスクのタッチパネルが点灯し、リアルソリッドビジョンによってカードプレートが形成される。

 2人は互いに不敵な笑みを交わし合うと、観客席の方を向き、アクションデュエルの始まりの口上を言い始める。

 

「戦いの殿堂に集いし決闘者が!」

「モンスターと共に地を蹴り天を舞い、フィールド内を駆け回る!」

 

 2人の頭上に浮いていたアクションカードの塊が弾け飛び、フィールド中にアクションカードがばら撒かれる。

 さあ、決闘開始だ。

 

「「アクショーン……デュエル!」」

 

遊矢:4000LP

沢渡:4000LP

 

「先攻は俺だぁ!」

 

 沢渡は始まるなりフィールドを駆け始める。足場の悪い砂浜から早々に抜け出し、地面に横たわる石柱に飛び乗る。

 沢渡は石柱の上から遊矢を見下ろしながら、手札から2枚のカードを見せつけ、高らかに宣言する。

 

「俺はスケール0の魔界劇団-メロー・マドンナとスケール2の魔界劇団-ワイルド・ホープで(ペンデュラム)スケールをセッティング!」

 

 沢渡は手札からモンスター2体を、デュエルディスクの両端に置く。すると、彼の両脇に光の柱のようなものが現れ、その中に、桃色の髪の女性のようなモンスターと、ガンマンのような格好のモンスターが、それぞれ浮かび上がってくる。

 これがペンデュラムモンスター。ディスクの両端に存在する(ペンデュラム)ゾーンに、魔法カード扱いとして発動できるモンスター。この次元で生まれた召喚法。

 

「まずはメロー・マドンナのペンデュラム効果だ!1ターンに1度、1000LP支払ってデッキから魔界劇団Pモンスターを手札に加えることができる!俺は魔界劇団-サッシー・ルーキーを選択するぜ!」

 

沢渡:4000LP→3000LP

 

 沢渡の全身に、少し顔をしかめるほどの、軽めの衝撃が走る。沢渡はそれを堪えながら、デッキから新たにモンスターを手札に加える。

 

「さあさあとくとご覧ください!我らが魔界劇団の誇るペンデュラム召喚を!」

「何が我らが〜よ!アンタが生み出したわけじゃ無いでしょ!」

「チッチッ、ペンデュラムが生まれて早2年だぜ?もうペンデュラムは榊遊矢一人のものじゃないんだっつーの」

 

 柚子の講義を軽くいなし、気を取り直して沢渡はデュエルを続ける。

 

「今回はデュエル初心者が居るみたいだし、ペンデュラム召喚の説明もしちゃうぜ?俺ってサービス精神旺盛☆やっさしぃ〜☆」

「分かったから早くしなさいよ。タイムアウトになっても知らないわよ」

「柊柚子ぅ!茶々入れすぎなんだよお前!マナーがなってないんじゃねーの?」

 

 ぷんすかと観客席に向かって怒りながら、沢渡は説明を再開する。

 

「俺の場にはスケール0のメロー・マドンナとスケール2のワイルド・ホープ。ペンデュラム召喚は、この2体のPスケールの間のレベルを持つモンスターを、手札のモンスターとEXデッキに表側表示で存在するPモンスターの中から可能な限り特殊召喚できるのさ!」

「ほら、これがペンデュラムカード。で、ここに書いてあるのがPスケールで……」

「はえー、やっぱ実物見るとわかりやすいわ」

 

 沢渡の説明に、すかさず柚子が自分のPカードを瞬達に見せて補足を入れる。

 

「EXデッキって?」

「融合、シンクロ、エクシーズモンスターを入れるトコ。Pモンスターもフィールドを離れる場合はEXデッキに行くの」

 

 言葉だけじゃいまいち理解しづらい。やはり、実演や実践の方がわかりやすいような気がする。まあデュエルが進めばきっと自ずからわかるだろう。

 

「まずはワイルド・ホープのP効果を発動!それによってメロー・マドンナのスケールをターン終了時まで0から9に変更する!これで俺はレベル3から8のモンスターが同時に召喚可能!行くぜ、ペンデュラム召喚っ!」

 

 

「劇団の名悪役(ヒール)!レベル8、魔界劇団-デビル・ヒール!洒落た新人!レベル4、魔界劇団-サッシー・ルーキー!そして本日の主演!レベル7、魔界劇団-ビッグ・スター!」

「ははぁっ!」

「ふんっ」

「きゃははははっ!」

 

魔界劇団-デビル・ヒール ATK:3000

魔界劇団-サッシー・ルーキー ATK:1700

魔界劇団-ビッグ・スター ATK:2500

 

 沢渡のフィールドに、3体のモンスターが一気に揃う。劇団の名の通り、どれもが派手な衣装を身に纏った隻眼の人型モンスターの姿をしている。

 

「やっぱりソリッドビジョンを使ったデュエルは迫力が段違いよね〜。あー私も時間が取れたらやるのになー」

「瑞鶴、今度暇があれば僕とデュエルデートを……」

「初月は落ち着け、な?」

 

 エキサイティングして来た初月を、なんとか静止させるアラタ。この初月は、話す内容の大半が瑞鶴とデュエルの事なのだ。そういう点では、ハルと同じなのかもしれない。実際、これまでの会話の中でもちょくちょく意気投合してる節があったし。

 一方、瞬は、デュエルという未知の世界に圧倒され、言葉を失っていた。まだ序の口なのはわかっている。だが、モンスターが実体化するカードゲームなんて、瞬からすれば前代未聞なのだから仕方ない。隣では唯も同じような反応をしている。

 そしてもちろん、フィフティもこの場にいた。どうやら彼はあんまりデュエルには興味がないらしく、他の面々と比べると落ち着いているように見える。

 

「こっからが演目の始まり、というわけだね。たまにはこういうのも悪くないね。心躍るなぁ」

「本当かよフィフティ……目が笑ってなくない?」

「逢瀬くん、それはデフォルトだから安心して欲しい」

 

 はたしてそれは安心していいものなんだろうか。瞬は首を傾げるのであった。

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ。さあ榊遊矢!テメェのデュエル、見せてもらおうじゃねーか!」

「言われなくとも!俺のターン!ドロー!」

遊矢:手札5枚→6枚

 

「俺はスケール6のEMギタートルをペンデュラムゾーンに発動!そして魔法カード、デュエリスト・アドベントを発動する!」

「遊矢もペンデュラムを使うのか」

「両者とも初動の手札消費の激しいペンデュラムの特性を補っているな」

 

 亀とギターが合わさったかのようなモンスターが出現し、光の柱に包まれ登ってゆく。遊矢は、自分の背丈程はある大岩に、華麗なジャンプで飛び乗り、カード効果の説明をする。

 

「デュエリスト・アドベントは、Pゾーンにカードが存在する場合、デッキから“ペンデュラム”と名のつくPモンスター、または“ペンデュラム“魔法・罠カードを1枚手札に加えることができる。俺はEMペンデュラム・マジシャンを手札に加える!」

 

 そして、遊矢は大岩から石柱に難なく飛び移り、デッキからカードを一枚手札に加える。先程の身のこなしからするに、どうやらアクションの面では遊矢の方に軍配が上がるようだ。

 

「そしてもう一方のペンデュラムゾーンにスケール6のEMリザードローを発動!」

「おいおい、同スケールじゃペンデュラム召喚できないって事を知らないわけじゃないわだろうに、何やってんだよ」

「ペンデュラム召喚はまだだよ。後のお楽しみってヤツ。俺はEMギタートルのP効果発動!もう一方の自分のPゾーンにEMカードが発動した時、1枚ドローできる!そしてEMリザードローのP効果!もう一方のPゾーンにEMカードが存在する場合、リザードローを破壊して1枚ドローできる!」

 

 沢渡の茶化しを笑って返しながら、遊矢はカード効果を続け様に発動させてゆく。Pゾーンにいたリザードローが光の粒子となって霧散すると引き換えに、2枚のドローを行い、手札を順調に増やしていく遊矢。

 

「俺は手札からEMドクロバット・ジョーカーを通常召喚!ドクロバット・ジョーカーの召喚成功時、デッキからEM・オッドアイズモンスター、または魔術師ペンデュラムモンスターの内一体を手札に加えることができる!俺はこのカードを手札に加える!」

「ハハッ!」

EM ドクロバット・ジョーカー ATK:1800

 

 某夢の国のネズミみたいな声を上げながら、遊矢の前にシルクハットを被り、黒と紫の奇術師が何処からともなく現れる。そして、遊矢はサーチしたカードを沢渡に見せる。二色の眼を持つ赤き龍 —— オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン。沢渡はそれを見て、真剣な表情になる。お互いにメインキャストが揃う瞬間が近づいているのだ。

 遊矢は腕を広げ、声高らかに宣言する。さあ、ショーの始まりだ。

 

Ladies & gentlemen(レディースエーンドジェントルメーン)!」

「なんだ?何が始まるんだ?」

「始まるのよ、遊矢のエンタメが!」

「さあご覧あれ!本家本元、私榊遊矢のペンデュラム召喚による、本日のキャスト達の御登壇です!」

 

 先程までとはうってかわり、芝居がかった口調に切り替わる遊矢。手札から一枚のカードを見せて、

 

「まずは手札からスケール3の、EMリターンタンタンをPゾーンにセットし、効果を発動!自分フィールドのEMカードを1枚手札に戻すことができます!これによりPゾーンのギタートルを手札に戻し、そして新たにスケール8のEMオッドアイズ・ユニコーンをPゾーンにセット。これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚できます!」

 

 カードを動かしながら、砂浜に半ば埋もれた、祭壇らしき場所へと続く階段を駆け上がる。

 茶釜のような胴体を持つ狸がリザードローのいたPゾーンに入れ替わりに出現すると同時に、今度はギタートルが手札に戻り、新たに二色の眼を持つ小柄なユニコーンがPゾーンに置かれる。

 そして、階段の最上段沢渡の方に振り返ると、いよいよペンデュラム召喚に入る。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、俺のモンスター達!手札からEMペンデュラム・マジシャン、EMラ・パンダ、そして本日の主役!二色の眼持つ龍、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」

EMペンデュラム・マジシャン ATK:1500

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK:2500

EMラ・パンダ ATK:800

 

 そう高らかに宣言した。すると、空からモンスター達が、遊矢のフィールド上に舞い降りてきた。華やかな衣装を身に纏ったEM達に混じって、けたたましい雄叫びをあげながら現れたのは、赤い体躯をもつ二色の眼を持つドラゴンだった。これが遊矢のエースモンスターである、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン。

 

「EMペンデュラム・マジシャンのP効果発動!このカードの特殊召喚に成功した時、自分フィールドの表側表示のカードを2枚まで破壊し、その数だけデッキからEMを手札に加える事ができる!俺はPゾーンのリターンタンタンを破壊し、デッキからスケール5のEMチェーンジラフを手札に加え、Pゾーンにセッティング!」

 

 リターンタンタンが消え、キリンの様なモンスターが入れ替わりにPゾーンに置かれる。幾つものモンスターが入れ替わり立ち替わりにフィールドに姿を現す様は、まさしくショーである。

 遊矢はオッドアイズの背中にひらり跨ると、ゴーグルをしっかりとかけ、不敵な笑みを浮かべながら宣言する。

 

「さあ行こうオッドアイズ!一気に駆けるぞ、バトルだ!」

 

 遊矢の言葉に、荒々しい鳴き声をあげて答えるオッドアイズ。瞬にはドラゴンの言葉は分からないが、やる気に満ち溢れているように感じられる。

 遊矢を背に乗せ、オッドアイズは砂浜を駆ける。その前方、地上から約4〜5mの位置に、アクションカードが浮遊しているのが見える。

 アクションカード。これがアクションデュエルの醍醐味である。フィールドに落ちているカードを利用して、戦況を変化させる。ランダム性の強さやアドバンテージの得やすさ故に嫌悪する人も多々いるのだが、それでもアクションデュエルにおける最重要な存在であることには変わりはないのだ。

 

「跳べっ!」

 

 遊矢の声に合わせて、オッドアイズが砂を思い切り蹴って飛び上がる。そのジャンプの頂点で、遊矢は立ち上がり、オッドアイズの背中から跳躍し、空中のアクションカードを見事にキャッチする。その身のこなしは、見事の一言に尽きる。

 オッドアイズの背中に難なく着地した遊矢は、改めて、前方で待ち構える沢渡に攻撃宣言をする。

 

「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで、魔界劇団-デビル・ヒールを攻撃!螺旋のストライクバースト!」

 

 遊矢の命令により、オッドアイズの口から、魔界劇団-デビル・ヒール目掛け、光線のようなものが発射される。ソリッドビジョンとは思えない迫力だ。

 

「そしてこの時、EMオッドアイズ・ユニコーンのP効果が発動!自分の“オッドアイズ”モンスターの攻撃宣言時、そのモンスターの攻撃力を自分フィールドの他の“EM“モンスター1体の攻撃力分アップさせる!俺はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力を、EMペンデュラム・マジシャンの攻撃力分、すなわち1500ポイントアップさせる!」

「ゴオオオオッ‼︎ 」

オッドアイズボン・ペンデュラム・ドラゴン ATK:2500→4000

 

 Pゾーンに存在する、EMオッドアイズ・ユニコーンの目が光ると同時に、EMペンデュラム・マジシャンの身体からオーラのようなものが流れ出て、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンへと注ぎ込まれてゆく。それに併せて、オッドアイズの咆哮もより力強いものになる。味方の力を得てパワーアップしたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃が、沢渡に迫る。

 

「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンがレベル5以上のモンスターとバトルする時、相手に与える戦闘ダメージは2倍になる!リアクションフォース!」

「くっ……!2000のダメージは流石に許容範囲外だっての!

 

 オッドアイズの光線が、一段と太さを増して沢渡に襲いかかる。必死に逃げる沢渡は、毒づきながら、石柱の上に置かれていたアクションカードを拾い、即座に発動させる。

 

「アクション魔法発動!奇跡!モンスターの戦闘破壊を無効にし、戦闘ダメージを半減する!」

「だがダメージは受けてもらう!」

「ぐっ……これくらい!」

沢渡:3000LP→2000LP

 

 デビル・ヒールの身体を覆う様にバリアの様なものが生成され、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃から身を守る。しかし、バリアに光線が直撃した時の衝撃で、沢渡の身体は石柱の上から吹き飛ばされ、砂浜へと落下する。

 口に入った砂を吐き出しながら、砂の中から身体を起こす沢渡に、遊矢のモンスターの追撃が迫る。

 

「EMペンデュラム・マジシャンで、魔界劇団-サッシー・ルーキーを攻撃!」

「攻撃力は向こうのほうが上なんじゃ……」

「ここでアクションマジック、アタック・フォース発動!自分フィールドのモンスターが自身より攻撃力の高い相手モンスターとバトルする時、モンスター1体の攻撃力を、ダメージ計算時のみ600アップする!」

EMペンデュラム・マジシャン ATK:1500→2100

 

 先程取得したアクションカードにより、EMペンデュラム・マジシャンが強化され、魔界劇団-サッシー・ルーキーを蹴り倒し、沢渡に戦闘ダメージを与える。

 

沢渡:2000LP→1600LP

 

「くそっ!だがサッシー・ルーキーは1ターンに1度、破壊されない」

「まだ俺の攻撃は残っているよ。ドクロバット・ジョーカーでもう一度サッシー・ルーキーを攻撃!今度は破壊だ!」

「うっ……」

沢渡:1600LP→1500LP

 

 

 

 

「だがこの瞬間、サッシー・ルーキーの効果が発動する!サッシー・ルーキーが破壊された時、デッキからレベル4以下の“魔界劇団“1体特殊召喚できる!こい、魔界劇団-コミック・リリーフ!」

魔界劇団-コミック・リリーフ:ATK1000

 

 破壊されたサッシー・ルーキーに代わり、新たに分厚い瓶底眼鏡を掛けた、小太りのモンスターがフィールド上に現れる。残ったEMラ・パンダの攻撃力では、攻撃したところで返り討ちに遭うだけ。実質的に、遊矢のモンスターの攻撃はこれで終了したようなものだ。

 沢渡のライフはかなり削れたものの、盤面的にはそこまで崩せてはいない。まだまだ油断は禁物だろう。遊矢は反撃に備え、カードを魔法・罠ゾーンに伏せておく。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。EMオッドアイズ・ユニコーンの効果も終了し、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力も元に戻る」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK4000→25000

 

 ターン終了の宣言と同時に、上昇していたオッドアイズの攻撃力が元の数値に戻る。

 ライフコストを支払ったとはいえ、ライフ的には、僅か2ターンでかなり追い込まれてしまった沢渡。だが彼も決闘者。これくらいで戦意喪失するような人間では無い。良くも悪くも諦めが悪いのが、沢渡シンゴという少年なのだ。

 服についた砂を払いながら、沢渡は自信満々にドローフェイズ突入を宣言する。まだまだ勝負はこれからだ、とでも言うかのように。

 

「俺のターン!」

沢渡:手札0→1枚

 

「この瞬間、魔界劇団-コミック・リリーフの効果が発動!自分スタンバイフェイズ時に、コミック・リリーフのコントロールを相手に移す!さあ行ってやりな、俺の演目はこっからが山場だぜ?」

 

 沢渡がそう言うと、沢渡のフィールドに居たコミック・リリーフが、ケタケタと笑いながら遊矢のフィールドへと移動してゆく。自分のモンスターを相手に渡して、何をするつもりなのだろうか?

 不思議に思うギャラリー達を他所に、沢渡は自身たっぷりの笑みを浮かべながら、効果の説明を続ける。仕込みは終わった、ここからは此方の舞台だ、とでも言うかのように。

 

「コミック・リリーフのコントロールが移った時、その元々の持ち主は自分フィールドにセットされた“魔界台本”カードを1枚破壊できるのさ!」

「自分のセットカードを自分で破壊⁉︎ 一体何を考えて……」

「まあ黙って見てろよ」

 

 沢渡はそう言いながら、自分の魔法・罠ゾーンに伏せていたカードを破壊する。

 

「破壊したのは魔界台本『ロマンティック・テラー』!このカードが相手の効果で破壊された場合、デッキから魔界台本を任意の数まで魔法・罠ゾーンにセット出来るのさ!俺は3枚のカードを伏せる!」

 

 破壊する対象は沢渡が決めてはいるものの、コミック・リリーフは今、遊矢のフィールドに存在するモンスターである。一応相手フィールドで発動した効果であるので、「相手の効果で破壊された」事になるようだ。早速デュエルのややこしさを見せつけてきている。

 破壊されたカードの効果により、新たに3枚の魔界台本カードが魔法・罠ゾーンにセットされる。一体何を伏せられたのだろうか。

 

「そして再びワイルド・ホープのP効果発動!メロー・マドンナのスケールを0から9に!そしてペンデュラム召喚!今一度御登壇の時だ、魔界劇団-サッシー・ルーキー!」

魔界劇団-サッシー・ルーキー:ATK1700

 

 先程破壊されたサッシー・ルーキーが、何語とも無かったかのように、再びフィールド上に舞い戻ってくる。

 

「あれ、あのモンスターはさっき破壊された筈じゃ」

「Pモンスターは破壊されても墓地に行かず、EX(エクストラ)デッキに移るの。そしてEXデッキに表側表示で加わったPモンスターは、ペンデュラム召喚で場に呼び出せる。これがペンデュラム召喚の一番の特徴ね」

「えっと……それってつまり?」

「Pスケールが無事ならば、普通に破壊しても毎ターン甦っちゃうのさ。いやーほんとヤバい召喚法だね」

「アンデットでもないのに、そんなにわんさか蘇るとかアリかよ……」

「墓地からの特殊召喚なんか日常茶飯事だけど?」

「いやそういう意味じゃなくてね?」

 

 柚子と初月の説明を聞いて、改めて遊矢と沢渡のデッキの恐ろしさを理解する瞬と唯。たった一度の特殊召喚で、何体ものモンスターを呼び出すペンデュラム召喚。デュエルモンスターズの中でも取り分けて厄介な召喚法を操る両者の勝負の行方から、いやでも目が離せなくなる。

 視点を戻して、沢渡のフィールド。彼はセットした魔界台本カードの内の一つを発動させる。ここからが彼の逆襲の始まりだった。

 

「そして先程セットした魔法カード、魔界台本『魔王の降臨』。俺のフィールドの攻撃表示の魔界劇団モンスターの種類の数まで、場の表側表示カードを破壊する!俺はお前のフィールドの魔界劇団-コミック・リリーフと、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、EMペンデュラム・マジシャンを破壊する!ここから先は俺の舞台、邪魔者には降板願おうかなぁ!」

 

 用済みだと言わんばかりに、コントロールを渡した自分モンスター諸共、遊矢の場のモンスターを消し飛ばしてしまう。オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンが破壊された事で、その上に乗っていた遊矢は宙に放り出され、波打ち際へと背中から落っこちてしまう。

 しかし、落下しながらも、遊矢は伏せていたカードを発動させる。

 

(トラップ)発動!フレンドリーファイア!相手がカード効果を発動した時、そのカード以外のフィールドのカード1枚を破壊する!

 

 狙いは沢渡の伏せカード。

 しかし、それはまさしく藪蛇だった。

 

「馬鹿かよ!破壊された魔界台本『魔界の宴タ女(エンタメ)』効果発動!このカードが相手によって破壊された時、デッキから“魔界劇団“Pモンスターを任意の数だけ特殊召喚する!追加キャストの御登壇だ、魔界劇団-ファンキー・コメディアン、魔界劇団-プリティ・ヒロイン!」

魔界劇団-プリティ・ヒロイン:ATK

魔界劇団-ファンキー・コメディアン:ATK300

 

 カードが減るどころか、かえって増えやがった。新たに召喚された魔界劇団を含め、これで沢渡の場には5体のモンスターが集結した。前のターンとは立場がまるで逆転してしまっている。

 

 

「ファンキー・コメディアンは召喚・特殊召喚に成功したとき、自分の攻撃力を、自分の場の“魔界劇団”モンスターの数×300アップする。俺の場には5体の劇団員達。よって1500ポイントアップだ」

魔界劇団-ファンキー・コメディアン ATK300→1800

 

「そしてセットしていた魔法カード、魔界台本『オープニング・セレモニー』を発動。自分の場の“魔界劇団”モンスターの数×500LPを回復。これで振り出しに戻ったというわけよ」

沢渡:1500→4000LP

 

 沢渡の場には5体の魔界劇団モンスター。よって2500ポイント回復する。彼のいうとおり、先のターンまでのダメージを帳消しにしてしまった。いや、振り出しというより、一気に遊矢が追い込まれてしまった。遊矢の場のモンスターは、先程の“魔界台本「魔王の降臨」”で主力のオッドアイズをはじめ、半数近くが破壊されてしまった。一方、沢渡のフィールドには高打点のデビル・ヒール、ビッグ・スターを含め5体のモンスター。誰の目から見ても、沢渡が優勢なのは一目瞭然だろう。

 

「魔界劇団-ファンキー・コメディアンのもう一つの効果発動!他の魔界劇団1体の攻撃力を、ターン終了時までファンキー・コメディアンの攻撃力分、アップさせる!俺はデビル・ヒールの攻撃力を上げる!」

魔界劇団-デビル・ヒール ATK3000→4800

 

 ただでさえ高打点だったデビル・ヒールが、更にパワーアップする。今遊矢の場にはEMドクロバット・ジョーカーとEMラ・パンダの2体のみ。どちらの攻撃力も、今のデビル・ヒールには遠く及ばない。

 沢渡は調子づいて、意気揚々と更なる攻撃をする。

 

「バトルだ!プリティ・ヒロインで、EMラ・パンダを攻撃!」

「ラ・パンダの効果発動!1ターンに1度、Pモンスターへの攻撃を無効にする!」

 

 だが、その攻撃は凌がれてしまう。プリティ・ヒロインの攻撃はラ・パンダに当たる事なく、虚空に霧散する。

 しかしたった1回の攻撃を無効にしたところで、沢渡のフィールドにはまだまだモンスターが残っている。この調子ならば、このターンで遊矢のライフを削り切れる。

 

「ならビッグ・スターでもう一度ラ・パンダを攻撃!」

 

 既にラ・パンダの効果は使用済みであるため、ビッグ・スターの攻撃を防ぐ事は出来ず、ビッグ・スターの飛び蹴りをくらったラ・パンダは爆散し、遊矢は大ダメージを受けてしまう。

 

「ぐっ……」

遊矢:4000→2300LP

 

「そして、魔界劇団-プリティ・ヒロインの効果発動!自分または相手が戦闘ダメージを受けたとき、相手の表側表示モンスター1体の攻撃力をその戦闘ダメージの数値分ダウンさせる!」

EMドクロバット・ジョーカー:ATK1800→100

 

 先の戦闘で遊矢に発生したダメージは1700。よって遊矢の場のドクロバット・ジョーカーの攻撃力がその分ダウンする。このまま攻撃を受け続けてしまえば、ライフが尽きて負けてしまう。

 

「デビル・ヒールでトドメ……と、いきたいが、もうちょっとだけショーを長引かせてやるか。簡単に幕引きにしちまったらつまらないしな!魔界劇団-サッシー・ルーキーでドクロバット・ジョーカーに攻撃!」

 

 完全な舐めプ発言をかます沢渡。この状況ならば、どの順番で攻撃しようが、遊矢のライフを削り切れるとふんだのだろう。攻撃命令を受けたサッシー・ルーキーは、弱体化したドクロバット・ジョーカーの顔面に右ストレートをお見舞いし、ドクロバット・ジョーカーを撃破する。

 1600の戦闘ダメージ発生により、これで遊矢のライフは700。攻撃力4800の魔界劇団-デビル・ヒールの攻撃を受けてしまえば、遊矢のライフは尽きる。

 —— と思っていた沢渡だったが、遊矢はまだまだ倒れない。ドクロバット・ジョーカーの破壊をトリガーとして、すかさずカードの効果を発動する。

 

「EMチェーンジラフのP効果!自身モンスターが戦闘破壊された時、チェーンジラフを破壊することで、破壊されたモンスターを特殊召喚する!来い、EMドクロバット・ジョーカー!この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、戦闘では破壊されない」

EMドクロバット・ジョーカー:DFE100

 

 Pゾーンに存在していたチェーンジラフの背中から、鎖が数本伸びてゆき、破壊されたドクロバット・ジョーカーをフィールド上に釣り上げる。効果発動の代償として、チェーンジラフは破壊されて居なくなったが、これでこのターン、遊矢は攻撃を凌ぎ切る事がほぼ確定した。

 沢渡は自身のプレイングミスを後悔して悔しがり、捨て台詞を吐きながら、渋々自分のターンを終了する。

 

「先にデビル・ヒールで攻撃してれば良かったぜ畜生……覚えてろよ!俺はカードを1枚伏せてターンエンド!ファンキー・コメディアンとワイルド・ホープの効果も終了し、メロー・マドンナのPスケールとビッグ・スターの攻撃力も元に戻る!」

魔界劇団-メロー・マドンナ:Pスケール9→0

魔界劇団-デビル・ヒール:ATK4800→3000

 

 ファンキー・コメディアンは、自身の効果を使用したターンは攻撃ができない上、仮にできたとしても戦闘では破壊できないし、守備表示のモンスターを攻撃しても、基本的にはダメージは与えられない。要するに、このターンで仕留めるのは不可能になったというわけだ。

 一方、遊矢はなんとか攻撃は凌いだが、遊矢の場はほぼガラ空き。手札にはEMギタートルが1枚のみ。これだけでは沢渡の盤面は崩せない。勝負の命運は、このドローにかかっている。

 

「あれ大丈夫なの?遊矢のフィールド、壊滅じゃん」

「いや唯、ゲームは最後の最後まで何が起こるかはわからないモンだよ。たった一度のドローで勝敗が決する……それがカードゲームの醍醐味なのさ!ドヤァ!」

「さっすがネプテューヌ!ゲーム知識だけは豊富なんだから!」

「いやあそれ程でも?なんせゲェムギョウ界の女神ですし?これくらい朝飯前だしぃ?もっと褒めてもいいんだよ?ねえ瞬?」

 

 感心した湖森におだてられ、得意げになって瞬にマウントを取ってくるネプテューヌ。だが悲しいかな、瞬はデュエルを観るのに夢中になっている為、ねぷアピールをガン無視してらっしゃる。なんだかんだいって、デュエルという未知の世界に興味津々なのであった。

 

「……」

 

 遊矢は、無言でデッキに手をかける。いつだって、どんな決闘者でも、ドローの時は必死に祈るものだ。デッキトップの一枚を手にかけ、指に力を込める。

 —— こんな時こそ笑え。これくらい、全然大したことないだろう?

 皆を笑顔にするエンターテイナー自身が、笑顔でなくてどうする?さあ笑ってカードを引こう。そうすればきっと、デッキも応える。遊矢は、思い切り笑顔になって、カードをドローする。

 

「お楽しみは、これからだ!」

 

 勢いよく引いたカード。それを確認した遊矢の頬が上がる。

 

「まずは手札から魔法カード、EMキャスト・チェンジを発動!これにより手札のEMを任意の枚数相手に見せた後、そのカードをデッキに戻してシャッフル、そして戻した数+1枚カードをドローする。俺の手札には、前のターンで手札に戻したEMギタートルが1枚。よって1枚戻して2枚ドロー!」

 

 要するに手札交換のカードだ。遊矢は、手札のEMギタートルを公開した後にデッキに戻す。デュエルディスクの機能により、デッキが自動でシャッフルされる。そして改めて、遊矢はデッキから2枚のカードをドローする。

 さて、ドローの結果は如何に。遊矢はドローしたカードをまじまじと見つめると、にっこりと笑う。

 

「さーて、結果は……あれ、まだまだ出るのは先ってことか。続いて手札を1枚捨て、魔法カード、ペンデュラム・コールを発動!デッキからPスケールの異なる“魔術師”Pモンスターを2体まで手札に加える!俺はスケール0の調弦の魔術師と、スケール1の龍脈の魔術師を手札に!そして、セッティング済みのEMオッドアイズ・ユニコーンと、スケール1の龍脈の魔術師で、Pスケールをセッティング!これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!」

 

 空いていたもう片方のPゾーンに、青を基調とした衣装の、杖を持った人型モンスターがのぼってゆく。

 

「更にコストとして墓地に送った罠カード、ペンデュラム・ラバーズの効果!このカードが効果で墓地に送られた時、自分の墓地にモンスターカードが無ければ1枚ドローできる!」

遊矢:手札2→3枚

 

 そして遊矢は、もう一枚のカードを発動する。

 

「そして……またまた運試しの時間みたいだ。これが正真正銘、運命のドロータイム!手札から魔法カード、ペンデュラム・ホルトを発動!」

「また魔法カード……」

「このカードは、自分のEXデッキに表側表示のPモンスターが3種類以上いる場合に発動できるカード。発動後、ターン終了時までデッキからカードを加えられなくなる代わりに、2枚ドローできるんだ」

「サーチもドローも出来なくなる……それってキツく無い?」

「うんキツイよ。デュエルにおいて、手札アドバンテージはとても重要。それを増やす手段を封じるとなると、結構厳しいね」

 

 手札アドバンテージが直に影響してくるデュエルモンスターズにおいて、たった1ターンでも手札を増やせないのはかなりキツイ。他のカードゲームにあるような、マナだのコストだのの概念が希薄なこのゲームならば、それは尚更のこと。

 遊矢は、いいカードを引き当てることを祈りながら、デッキから2枚のカードを引く。いつだってドローはドキドキするのだ。たった一回のドローが、勝利を導くことは日常茶飯事なのだから。

 思い切り力を込めて引いたカードを、遊矢は確認する。その顔は、笑っていた。

 

「今一度揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!今一度舞い戻れ!EXデッキからオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!手札から、EMファイア・マフライオ!チューナーモンスター、調弦の魔術師!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK2500

調弦の魔術師:ATK0

EMファイア・マフライオ:ATK800

 

 先程破壊されたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに加え、新たに2体のモンスターがフィールドに現れた。1体は、先程のEM達と似たように、煌びやかな衣装を身につけた、炎の立髪を持つライオンだが、もう1体は、EMとは明らかに風貌が異なる、音叉のような形状の杖を持ち、白いローブを身に纏った小柄な人型モンスターだった。

 

「調弦の魔術師の効果発動!手札からP召喚に成功した時、デッキから他の“魔術師”Pモンスター1体を、効果を無効にして守備表示で特殊召喚する!来い、黒牙の魔術師!」

黒牙の魔術師:DFE800

 

 調弦の魔術師が杖に付いていた音叉を鳴らすと、何処からともなく、黒と紫を基調とした服装の、やや筋肉質な人型モンスターが現れる。

 

「手札に加えられないなら、直接場に出せば良いのさ!」

 

 遊矢の言う通り、手札は増やせないが、手札を介さずにデッキから直接場に引っ張ってくる事は可能だ。

 そして遊矢は、フィールドに揃った2体の魔術師を利用して、ある事を行う。

 

「俺はレベル4の黒牙の魔術師に、レベル4の調弦の魔術師をチューニング!剛毅の光を放つ勇者の剣!今ここに閃光と共に目覚めよ!シンクロ召喚!レベル8、覚醒の魔導剣士(エンライトメント・パラディン)!」

覚醒の魔導剣士:ATK2500

 

 遊矢がそう宣言すると、調弦の魔術師の身体が、四つの緑色の輪に変化して一直線に並んでゆき、その輪を黒牙の魔術師が潜ってゆく。すると、黒牙の魔術師の身体が4つの光球に変化し、やがて光の柱なってフィールドに降り注ぐ。

 激しい光の後に現れたのは、純白の法衣を身に纏い、双剣を構えた剣士だった。一体何が起きたのかわからない瞬に、見かねた権現坂が説明を加える。

 

「シンクロ召喚?」

「チューナーと呼ばれるモンスターと、それ以外のモンスターのレベルの合計となるレベルのシンクロモンスターを、EXデッキから特殊召喚する方法だ。要するにレベルの足し算だな」

「ペンデュラム以外にも色んな召喚法があるんだな」

「EXデッキからの特殊召喚!実に燃えるよねー」

 

 どうやらペンデュラム以外にも色々とあるらしい。奥が深いというか、複雑というか……。

 

「覚醒の魔導剣士の効果!“魔術師”Pモンスターを素材に(シンクロ)召喚に成功した時、墓地の魔法カードを手札に加える!俺が選択するの、アクション魔法、アタックフォース!」

 

 覚醒の魔導剣士が、装備していた二振りの剣の柄同士を合体させ、それを前方で回し始める。すると、周囲のアクションフィールドの破壊された部分が、まるで時間が巻き戻るかのように治ってゆく。やがて覚醒の魔導剣士が剣を再び分離させると、それはピタリと止んだ。そして、遊矢の手にはいつのまにかアクションカードが1枚握られていた。

 遊矢はバトルフェイズ突入を宣言すると、オッドアイズに攻撃命令を出しながら、サルベージしたアクションカードを発動させる。

 

「バトルだ!オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで魔界劇団-デビル・ヒールを攻撃!そしてこの時、アクション魔法、アタック・フォースを発動!オッドアイズの攻撃力を、ダメージステップ終了時まで600アップ!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK2500→3100

 

 オッドアイズの攻撃力がデビル・ヒールを上回る。沢渡は砂浜を掛け、防御札を求めてアクションカードを必死に探す。

 そして見つけたのは、藻やタニシに覆われた石造のアーチの上。しかし、取得は間に合わずに、オッドアイズの攻撃を受けてしまう。

 

「ぐへぇっ‼︎」

沢渡:4000→3800LP

 

 オッドアイズの効果により2倍の戦闘ダメージを受けるが、沢渡はサッシー・ルーキーを踏み台にして、遅ればせながらアーチの上のアクションカードを入手する。

 そして、すかさず魔界劇団-プリティ・ヒロインのモンスター効果を発動させる。その効果は、先のターンで使用したので、軽く説明するだけで良いだろう。

 

「魔界劇団-プリティ・ヒロインの効果発動!自分または相手が戦闘ダメージを受けた時、相手モンスター1体の攻撃力を、そのダメージの数値分ダウンさせる!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK3100→2500→2300

 

 せっかく上昇したオッドアイズの攻撃力が、元々の数値以下に下がってしまう。

 しかし、これくらいで遊矢の攻勢は止まらない。

 

「EMファイア・マフライオの効果!自分のPモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターはバトルフェイズ終了時まで攻撃力が200アップし、もう1度攻撃できる!オッドアイズで、魔界劇団-サッシー・ルーキーをを攻撃!螺旋のストライクバースト!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK2300→2500

 

 ファイア・マフライオの立髪の炎が勢いよく吹き上がり、オッドアイズの前方に火の輪を作り出す。遊矢はオッドアイズの背中に再び乗り、

 

「行け!」

 

 なんと、そのまま火の輪くぐりを始めた。いくらソリッドビジョンといえど、よくもまあそんな事を臆せずもできるものである。火の輪を潜ったオッドアイズの攻撃力は、プラマイゼロで元の数値に戻る。そして、サッシー・ルーキー目掛け、口から光線を発射する。

 サッシー・ルーキーのレベルは4であるために、オッドアイズの効果による戦闘ダメージ倍化は出来ない。だが、それでもダメージは十分通る。

 しかし、沢渡もタダではやられない。すかさず、伏せていたカードを発動させる。

 

「速攻魔法発動!Ai(アイ)打ち!自分と相手のモンスター同士がバトルする時、そのダメージ計算の間のみ、自分モンスターの攻撃力を相手モンスターと同じにする!そしてダメージステップ終了時にモンスターが戦闘破壊されたプレイヤーは、その元々の攻撃力分のダメージを受ける!」

「道連れ……⁉︎ 」

「いや、サッシー・ルーキーは1ターンに1度だけ、戦闘・効果による破壊を無効にできる!破壊されるのはお前のモンスターだけだよ!」

 

 沢渡が勝ち誇った様に言うと同時に、両者のモンスター同士の攻撃が衝突する。すると、それを中心に爆発が起き、砂と海水が巻き上げられる。沢渡は飛んできた砂から咄嗟に顔を守りながら、勝利を確信していた。自分の勝ちだと。

 近くにあった、横倒しになっている石柱に登り、そこから遊矢のやられた様を見下してやろうと思う沢渡。爆煙が晴れ、遊矢の姿が顕となる。そこには、沢渡の思惑とは裏腹に、無傷で佇むオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと遊矢の姿があった。

 

「な、んで……」

「墓地の罠カード、ペンデュラム・ラバーズの効果を発動したのさ。このカードを墓地から除外することで、Pモンスター1体の破壊を無効にした」

 

 一体いつ、そんなカードを墓地に落としたんだと、沢渡はこれまでのデュエルの流れを思い返す。そして、思い至った。このターンの初めの方に、ペンデュラム・コールの効果発動のコストで捨てた手札。それがこの罠カードだったようだ。

 悔しそうに歯軋りをする沢渡だったが、遊矢の攻撃はまだ残っている。自信満々に、遊矢は攻撃宣言をする。

 

「デュエルは何が起こるか分からないものだろ?さあ、デュエル続行だ!覚醒の魔導剣士で魔界劇団-プリティ・ヒロインを攻撃!」

「ぐっ⁉︎ 」

沢渡:3800LP→2500LP

 

 覚醒の魔導剣士の二刀流による軽やかな剣戟で、プリティ・ヒロインは呆気なく倒される。プリティ・ヒロインの効果は既に使用済みなんで、効果は発動しなかった。

 必死に踏ん張る沢渡に、更なる追撃が迫る。

 

「覚醒の魔導剣士の効果発動!相手モンスターを戦闘破壊した時、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

「させねえ!アクション魔法“加速”発動!効果ダメージを0にする!」

 

 遊矢がそう言うと、覚醒の魔導剣士が斬撃を放ってくるが、沢渡は先程取得したアクションカードを使用する。すると、沢渡の動きが数秒間だけ速くなり、覚醒の魔導剣士が放った斬撃を難なく回避する。斬撃が直撃した石柱は木っ端微塵に砕け散る。

 沢渡は服についた砂を払いながら、すくりと立ち上がり、いきなり笑い始めた。

 

「遊矢、仕留め損なったな。お前の攻撃モンスターは、ドクロバット・ジョーカーとファイア・マフライオの2体。だがその2体の攻撃を受けても俺のライフは残る!残念だな!次のターンで俺が勝つぜ!」

 

 自分を仕留めきれなかった遊矢を笑いながら、次のターンへの展望を自信満々に言う沢渡。確かに、沢渡の言うとおり、今の遊矢の場のモンスターでは沢渡のライフは削りきれない。ドクロバット・ジョーカーでサッシー・ルーキーを、ファイア・マフライオでファンキー・コメディアンを攻撃しても、与えられるダメージは僅か600。沢渡の2500LPを削りきれない。

 だが、デュエルでは一瞬の油断が命取りになる。何が起きるか分からないのがデュエルなのだから。最後まで気を抜かなかった奴が、勝つ。

 

「まだだ。俺は速攻魔法、瞬間融合を発動!自分フィールドから融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地に送り、EXデッキから融合モンスター1体を融合召喚する!」

 

 遊矢が手札から、その魔法カードを発動すると、遊矢の背後に渦のようなものが出現し、その渦にオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと、覚醒の魔導剣士が吸い込まれてゆく。

 今度は一体何が起ころうというのだろうか。

 

「勇者の剣を振るう魔道士よ!眩き光となりて龍の眼に今宿らん!融合召喚!秘術ふるいし摩天の龍!ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK3000

 

 遊矢のその口上に呼応するように、渦の中から、新たなモンスターが飛び出してきた。そのモンスターの見た目はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと似て入るが、片目が眼帯で隠れていることと、背中に輪のようなものがぶっ刺さっているところが異なっている。

 

「今度は融合……」

「融合魔法によって、融合モンスター毎に決められた、特定のモンスター同士を合体させる召喚法ね。私もこう見えて融合を使うの」

「へえ……」

 

 すかさず柚子の説明が入る。シンクロ・ペンデュラムと比べると、融合は文字通りの意味なので、まだ分かりやすい。

 

「融合ってロマンあるよな。男なら一度は合体ロボにうつつを抜かすものだよ、うん」

「提督古ーい。いつの話よいつの。合体ロボなんか今ではあんまり見かけないっての」

「見かけるわたわけ!合体も融合も、変わらず男のロマンなんだよ異論は認めねえ!」

 

 融合から脱線して、潮原提督が男のロマンについて語り始めるが、瑞鶴にばっさりと否定されてしまう。

 どうでもいいが、川内の(そんな)姿でオッサン臭い事言ってると、なんかシュールさというか、そういった類のものを感じてしまうのは気のせいだろうか。

 

「ルーンアイズは、融合素材となった魔法使い族モンスターのレベルによって攻撃回数が変化するモンスター。魔法使い族である覚醒の魔導剣士はレベル8。よって攻撃回数は3回だ!」

「うーそーだああああああああああああああっ!」」

「行こうルーンアイズ!魔界劇団-ビッグ・スターを攻撃!シャイニーバースト!」

 

 遊矢はルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの背中の輪に捕まりながら、攻撃宣言をする。ルーンアイズの背中の輪から放たれた光線は、瞬く間にビッグ・スターの全身を包み込んでしまう。

 

沢渡:2500LP→2000LP

 

「トドメだ!魔界劇団-ファンキー・コメディアンを攻撃!進撃のシャイニーバースト!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ⁉︎ 」

 

 攻撃対象となったファンキー・コメディアンはその場から逃げようとするも、それは間に合わず、沢渡諸共ルーンアイズの攻撃に一瞬で飲み込まれてしまった。爆発音と、沢渡の断末魔の叫びが、デュエルフィールド中に響き渡る。

 —— 見事なオーバーキルだった。

 

沢渡:2000LP→0LP

 

 ライフが尽きた事を告げる音が沢渡のデュエルディスクから鳴り、それとともに、モンスター達の姿を映していたソリッドビジョンも消え去る。

 瞬達は観客席からデュエルフィールドに立ち入る。遊矢は瞬達の方に振り返ると、お辞儀をしながらデュエルの感想を訊く。

 

「どう?少しはデュエルに興味持ってもらえたかな?」

「目まぐるしい攻防だった……でもこれ、初心者には刺激強くないか?」

 

 一進一退のバトルにハラハラさせられたのは事実だが、初心者の瞬には、ところどころ何が起きているのか分からない箇所があった。遊矢もそう言われて、すこししょんぼりとする。

 

「かもね……そこはちょっと反省しなきゃな。

「相変わらず殺意高すぎるぜお前のデッキよ……エンターテイナーというか、ガチで殺しにかかってない?」

 

 沢渡が文句を言うが、彼のいうとおり、複数回攻撃や直火焼き(バーン)効果でフィニッシュを決めるのは、果たしてエンタメなのか。難しい問題である。

 

「エンターテイナー……それを目指してんのか?」

「ああ。今はまだ道半ばだけど、いつか父さんを追い越してみせる。俺はデュエルで皆を笑顔にしたいんだ」

「笑顔かー、それはまた難しい夢だよねー。でもほら、諦めずに努力すれば夢は叶うから!うん!ファイトだぜ遊矢っち!」

 

 遊矢の夢語りを聞いた唯は声援を送るが、若干適当な言い方だと思うのは瞬だけだろうか?

 

「デュエルで笑顔を、か……」

 

 瞬は、遊矢の言葉を聞いて、そう呟く。

 遊矢もまた、夢に向かって邁進する人種なのだ。それは瞬からすれば、眩しいものだった。自分にはないものだからこそ、余計にそう見えるのかもしれない。

 

「デュエルとかよくわかんないけど……まあなれるんじゃないか?努力が実るかどうはか人それぞれだけど、夢を叶えた奴は皆努力してる。だから、進む道が見えてるなら、多分大丈夫だよ」

「瞬……ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」

「ちょっとデュエルに興味湧いてきたかも」

「それはもっと嬉しい。俺達のデュエルがキッカケになってくれるなんて、最高だよ!ほら、さっきのデュエルについて色々と解説とか —— 」

 

 デュエル談義が始まりそうだ。

 やれやれ、これは長くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は憎悪の中で生きていた。

 始まりは、前世で見たとある娯楽作品(アニメ)だった。長年にわたって愛されているカードゲームを題材にした作品。いつものように、期待しながらそれを見始めた。

 

 

 

 だが、その期待は裏切られた。

 ストーリー、キャラクター、カードバトル。それら全てが散々な有様だった。はっきり言って、誇りあるカードゲームに泥を塗る内容に、彼は怒った。

 あんなものを認めるわけにはいかない。なんであんなものを作った。

 その憎悪の矛先は、作品の象徴である榊遊矢(しゅじんこう)に向けられた。エンタメとは程遠い、デュエルを汚す害虫。脚本の被害者?いや違う。あれは生まれながらの邪悪。生まれてはならなかった存在。

 気に食わなかった。あんなのが遊戯王だなんて、俺は認めない。皆もそう言って叩いている。だから正しい。

 だから自分がやる。この手で、あの屑を殺すんだ。

 

 

 

 

 

「いやあ派手だったね……目眩がしそうだよ」

「ふふん、志村さんはまだまだですね。強豪同士のデュエルはもっともっと迫力あるんですから!」

 

 公園内のデュエルコートに付属している、リアルソリッドビジョンシステムの操作室。僅かに開いた扉から、話し声が聞こえる。どうやら、誰かがこのデュエルコートを借りているようだ。

 ドアの隙間から中の様子を伺う。操作盤に向かっている少年と少女の後ろ姿と、コート内部の様子を映し出すモニターが見える。そのモニターに映っている人物の姿を見た瞬間、彼の中で燻っていた憎悪は、一瞬で決壊した。

 

「榊……遊矢……!」

 

 それは、彼が最も忌み嫌う存在(キャラクター)。彼が転生した最大の理由。アイツを糾弾し、蹂躙し、否定するために、この命はあるといっても過言ではない。その執念は狂気の領域に達するものであるのだが、転生者という存在の中には、彼のような人種はごまんといるのだ。これくらい普通なのだ。

 ともかく、憎む相手の姿を確認した彼は、冷静さをかなぐり捨てると、転生した際にもらったとある力を解放させる。転生特典を暴走させ、強化する外法。その名はオリジオン。

 彼はオリジオンに変身すると、操作室の扉を蹴破って中に入る。憎悪に支配されている彼にとって、先客の存在など、煩わしいだけだった。

 

「うわぁっ⁉︎ お、オリジオン⁉︎ なんでこんなところにぃ⁉︎ 」

「お、お兄ちゃん!お兄 —— 」

 

 オリジオンの姿を見て、助けを呼ぼうとして立ち上がった少女の側頭部を、彼は即座にぶん殴った。彼女の意識は一撃で途切れ、ソリッドビジョンシステムの操作盤に頭を強打しながら、先程まで座っていた椅子ごと床に倒れる。

 打ちどころによっては死んでいるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「湖森ちゃん……!君、なんてことをするんだ!」

「うるさい黙れ!俺の邪魔をするな!」

「ぶけふぁっ⁉︎ 」

 

 口答えしてきた少年の頭を鷲掴みにし、壁に叩きつける。冷たいコンクリート壁と人間の頭がぶつかり合う、鈍い音が部屋中に響き渡り、頭を打ちつけられた少年は、後頭部から血を流しながらずるずると床に崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、瞬は?」

「ヒビキちゃんと一緒にトイレだって」

「字面だけだと完全に事案だな……」

 

 デュエルが終わり、数分が経った。どうやら瞬は席を外しているらしい。

 

「じゃ、そろそろ片付けましょ」

「そうですね」

 

 さて、デュエルも終わったことだし、いい加減ソリッドビジョンを解除すべきだろう。いつまでも公共のデュエルコートを占領しているわけにはいかない。

 操作室にいる志村達に、ソリッドビジョンを切ってもらうよう呼びかけなければなるまい。

 

「もうリアルソリッドビジョン解除していいよ、志村ー」

 

 唯が呼びかけるが、操作室からの返事はない。

 

「志村?湖森ちゃん?」

 

 幾度呼べども、彼らからの返事はない。そう言えば、2人ともまだ、リアルソリッドビジョンの操作室から出てこない。どうしたのだろうか。やけに静かだ。

 数分が経過して、痺れを切らした沢渡が、呼びに行こうと動き出す。

 

「なんだよ、俺が直接呼びにでも —— 」

「……」

 

 が、その時だった。

 沢渡の背後に、突如として現れる1体のドラゴン。姿は、霧に包まれたように視認が困難だが、そのドラゴンは、ひと吠えすると、沢渡に対してその尻尾を叩きつけようと、身体を大きく捻り出した。

 それに気づいた皆は、まだ気づいていない沢渡に呼びかけるが、

 

「沢渡後ろぉ!」

「んへぇ?」

 

 遊矢の叫びは惜しくも届かず、勢いよく振り回されたドラゴンの尻尾は沢渡の背中にクリーンヒットし、沢城は間抜けな声をあげて飛んでいった。

 

「がはぁっ……!」

「沢渡さんんんんんんんんん⁉︎」

「なんなんだよいきなり!リアルソリッドビジョンで殴るとか正気じゃねぇ!」

「大丈夫っすか沢渡さん!」

 

 取り巻き達が驚きながら、リアルソリッドビジョンでできた砂浜に突き刺さった沢渡に駆け寄っていく。

 

「やれ、夢幻のスパイラルフレイム!」

「グアアアアッ‼︎ 」

「やめろ!何やってんだお前!」

 

 続け様に、吹っ飛んだ沢渡に駆け寄ってゆく取り巻き達に向かって、ドラゴンが口から光線を発射した。

 

「え」

「何」

「あ」

 

 取り巻き達が振り返った時には、すでに光線は彼らの眼前にきていた。そのまま、何が起きたかも理解する暇すら与えられず、気絶した沢渡を巻き込んで、取り巻き達は光線に飲み込まれてしまう。爆発を起こし、まるでボールのように4人の身体が宙を舞い、そのまま観客席に頭から突っ込んでゆく。

 その暴挙に、遊矢は思わず怒りをあらわにする。間違いない。これは、ソリッドビジョンを用いた暴力行為だ。

 

「いきなり何してんだよお前!こんな事しちゃ駄目だろ!」

「警察と救急車を呼ぶ!お前らはここから離れろ!」

 

 危機的状況だと判断した潮原提督の指示のもと、翔鶴がスマホで警察と救急に通報し、瑞鶴が皆を避難させようとする。が。

 

「提督、電波がつながりません!」

「な⁉︎ リアルソリッドビジョンに阻まれて出られないんだけど⁉︎ 」

 

 そのどちらも失敗に終わる。スマホは圏外、出口はいつのまにかリアルソリッドビジョンで塞がれてしまっている。普通は観客席はソリッドビジョンの範囲外なのだが、これは一体どうした事か。

 が、そうこうしているうちに、新たにドラゴンが翔鶴と瑞鶴を標的に定める。地面を揺らしながらドタドタと走ってゆく。

 

「これ以上は見過ごせん!超重武者ビックベン-K!ガードしろ!」

 

 すかさずデュエルディスクを起動した権現坂が、大きな鎧武者のようなモンスターを召喚し、ドラゴンの体当たりを防ぐ。リアルソリッドビジョンだからできる芸当といえよう。

 

「ぬう……俺のモンスターをこんな形で披露する羽目になるとは……姿を現せ外道!ソリッドビジョンで暴力を振るうとは、それでも貴様は決闘者か!」

「そうだ!カードゲーマーならカードで勝負しろ!暴力反対!」

 

 権現坂とネプテューヌが、御もっともな怒りをぶつける。ビックベン-Kに突き飛ばされたドラゴンは、砂と海水を撒き散らしながら砂浜に倒れ、光の粒子となって霧散する。

 その向こうから、何かを引きずるような音と共に、誰かが歩いてくる。遊矢はその人物を睨む。普段は温厚な彼だが、こんな事をされて黙っていられる程の聖人君子ではないのだ。

 

「貴様らがデュエルを語るなよ……お前らスタンダード次元のカスどもに、その資格なんてねーんだよ……」

 

 それは、着崩した学ラン姿の少年だった。

 そして、その両手で引きずっているのは、気を失っている湖森と志村。頭から血を流し、顔には何度も殴られたような痕が見られる。

 

「志村!湖森ぃ!」

「あんた、一体何を……⁉︎」

「観衆は黙ってもらおうか、な!」

《KAKUSEI ODDEYES》

 

 唯達の言葉を遮るように怒鳴り散らすと、少年の姿が、奇術師に扮した左右の目が異なるドラゴンのような見た目に変化する。それはどこか、先程のデュエルで召喚されたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを思わせるような姿であった。

 つまるところ、彼もオリジオン……転生者であった。

 彼 —— オッドアイズオリジオンとでもしておこう —— は、志村と湖森を心配して、脇目も振らずに走り出した唯に対し、躊躇いなく攻撃を仕掛ける。口から放たれた光弾は、唯の足元に着弾し、唯の身体を大きく吹き飛ばす。

 

「あうっ……」

「唯!」

「……何が目的なんだ、オリジぐぶっ⁉︎ 」

 

 アラタは怒りのままにオリジオンを問い詰める。が、オリジオンはそれすら煩わしかったのか、アラタを無言で殴り倒す。倒れたアラタをわざと踏みつけながら、彼は遊矢につかつかと歩みより、人間の姿に戻ると、力強く遊矢を指差す。

 その腕には、デュエルディスクが取り付けられていた。つまり、彼もまた決闘者なのだ。

 

「榊遊矢、俺とデュエルしろ」

「なんだと……⁉︎ 」

「俺が勝てば、お前も含めてここにいる奴を皆殺しにする」

「っ!そんなデュエル、するわけないだろ!」

 

 それはあまりにも残酷なゲームだった。一体何があって、こんな事をしようというのだろうか。当然ながら遊矢は突っぱねるが、少年の方はそれが気に食わなかったのか、

 

「拒否権なんてねえよクズ!なんなら今すぐ殺してやろうかこの毒トマト小僧がっ!」

「あぐっ⁉︎ 」

「遊矢!」

 

と、遊矢の股間目掛け、躊躇なく膝蹴りを喰らわせて踞らせる。

 

「ほら蹲ってんじゃねうよ、汚ねえ色の髪見せつけるなよ不快なんだよ!」

「がっ……」

 

 今度は遊矢の頭を踏みつけにかかった。先程デュエルすると言ったのは嘘だったのかという突っ込みを忘れるほどに、ひどい光景だった。

 

「やめなさいよ!出会い頭にこんな真似して……こんな事してタダで済むと思ってんの⁉︎ 」

「ギャンギャン喧しいんだよ、腐れトマトの信者(シンパ)共が!俺の名は札道マサル!クズで卑怯者な榊遊矢を断罪する為にやって来た、正義の執行者だ!」

「俺を断罪……⁉︎ 何言ってんだよ⁉︎ 一旦落ち着いて話をs」

「黙れ糞トマト野朗!お前みたいな奴なんかと話したくもねえ!来いよ、お前をコテンパンに負かして俺が正しいってコトを解らせてやる!」

 

 札道マサルと名乗った男は、遊矢の言葉に耳を貸さずに一方的に罵声をぶつけると、遊矢の頭を蹴り飛ばす。鼻頭を思い切り蹴飛ばされた遊矢は、思わず意識を手放しかけるが、マサルはそれを許さず、遊矢の髪の毛を、頭皮もろとも引き千切らんとする勢いで鷲掴みにし、その激痛で意識を無理やり維持させられる。

 

「いい加減にしろよ!おい遊矢、こんな奴のデュエルに乗る必要なんかねえ!瞬に頼んでここから締め出してもらおう!」

「アクロスなら来ないぜ?ギフトメイカーの奴らが妨害しに行ってるからな!さあ榊遊矢!デュエルでお前を断罪してやる!」

 

 マサルはそう怒鳴り散らすと、勝手に遊矢のデュエルディスクを起動させる。出会って早々暴言を吐いてくる時点でマトモな人間では無いことだけは確かだ。

 解放された遊矢は、柚子の手を借りてなんとか立ち上がる。

 

「こうなったら仕方ない……!」

 

 遊矢としては、デュエルを争いの道具にするのはあまり好まないのだが、どの道今のマサルには自分の言葉は通じないようだ。こうなればお望み通りデュエルをしてやろう。そうすればきっと落ち着くだろうから。

 それに、皆の命がかかっているのだ。負けてられない。

 

「わざわざデュエルするんだね」

「そーゆー生き物なのよ、決闘者ってね」

 

 皆が一度は思ったであろう感想を唯が呟く。それに対し、柚子は自嘲気味に笑って返した。住む世界の違いがデカすぎる。唯は、乱入者・マサルに目をやる。そしてその顔を見て、彼女は戦慄した。

 それは人間がする表情としてはあまりにも邪悪で、一目でわかるほど、憎しみに満ちた表情だった。

 

 

 

 

 

 

 そして、その様子を見ていた者達がいた。

 ギフトメイカー・リイラとレドである。どうやってかは知らないが、遊矢と沢渡のデュエルからずっと見ていたのである。もっとも、彼らはデュエルになんか微塵も興味がないので、ほとんど内容は覚えていないが。

 

「なんで決闘やるのかしら……普通に殴って殺して奪えば済むのに」

 

 皆が思っていてもあえて言わなかったであろう事を、平然と言ってのけるリイラ。

 

「なんでも、決闘であのトマト頭の奴を負かしてバッシングしたいんだと。僕らが選んだ転生者のほとんどが彼を嫌ってるっぽいんだけど、ホント、彼何したんだろうね?」

「其れは神のみぞ知るってコトよ」

 

 彼女はレドの言葉に、興味なさそうな返事を返す。メタ的な話は専門外なのだ。

 彼らは、他人が知ったことではない。罪なき一般人も、自分達の手駒であるはずの転生者も。何故なら、それらは押し並べて、彼らの目的の前では無意味なものだからだ。

 

「ま、神様なんていないんだけどね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公園内 公衆トイレ

 

 デュエルコートから少し離れた位置にあるトイレに、瞬はいた。手を洗いながら、先程のデュエルを思い返す。

 

「ホントに……変わっちまったなぁ世界ぃ……」

 

 思い返して、改めて、深い溜息を吐いた。

 艦娘の時といい、さっきのデュエルといい、今の世界は明らかにまともでは無い。まるで異世界に来てしまったかのような常識の齟齬を、これまで幾度となく経験してきた。まるで世界そのものが、書き換えられてしまったかのようだ。

 だが、いくら考えても、違和感を解消する手立てはない。考えていても仕方がない。早いとこ戻らなくては。気を紛らわすように、顔を洗う瞬。そこに、

 

「そうだね、いい加減教えるべきだろう。今の世界について」

「へぁあっ⁉︎ 」

 

 いきなり肩に手を置かれて、思わず某伝説の超戦闘民族(スーパーサイヤ人)みたいな叫び声をあげてしまう瞬。顔をあげて鏡を見ると、いつの間にやら、フィフティが瞬の後ろに立っているのが映っていた。顔を洗っていて気づかなかったのもあるが、ほんと神出鬼没だなコイツ。

 ビビって変な顔になりながら、瞬はフィフティに文句を言う。

 

「心臓に悪い登場の仕方するんじゃねえよ⁉︎ 」

「ちょっとしたファンサービスだよ、驚いたかい?」

「要らねえよそんなファンサービス。犬にでも食わせてろ」

 

 はっはっは、と爽やかに笑うフィフティ。殴りたくなる笑顔とは、今のフィフティの事を言うのだろう。うん。

 瞬がフィフティに悪態をつくが、その時、トイレの外からヒビキが呼ぶ声が聞こえてくる。そういえば、ヒビキもトイレに来ていたんだった。フィフティと共にトイレから出ると、外で待っていたヒビキが、

 

「遅かった……いやなんでもない。お楽しみだったんだね……」

「そうやって男2人並んでたらなんでもホモに結びつけるのやめろ」

 

 フィフティと一緒にトイレから出てきた瞬を見て何を思ったのか、瞬から距離を取るように後退りしやがった。勘違い甚だしいとはこの事か。

 あんまりにも理不尽な疑惑を生み出された瞬の怒りの矛先は、もちろん、その実質的な元凶であるフィフティへと向けらる。

 

「お前のせいだからなこの野郎」

 

 瞬に睨まれても、何処吹く風といった感じに、フィフティは信頼性皆無の爽やかスマイルを浮かべている。黙って押し通す気だこいつ。

 閑話休題、デュエルコートに附設されている待合室に移動する。4月末とは思えない暑さの外よりは、冷房の効いた中の方が話が進むだろうとの判断だ。実際、トイレに行っていた数分間の間だけで、瞬の身体から汗が出始めていた。

 

「さ、話をするとしよう」

 

 待合室のソファーに腰を下ろしたフィフティが話し始める。

 

「今から難しい話始まるけど、いいのか?」

「いやこのタイミングで離れるとかなしじゃない?それに子供扱いしないでよね」

「子供扱いも何もお前、正真正銘の子供だろ……」

 

 長い上に小学生には難しい話になりそうだし、先に唯達の所に戻ってもらおうと、瞬の横に座ったヒビキに声をかけてみたが、彼女はそれをつっぱね、瞬の隣に座る。

 

「それに、この話は私にとっても大切な気がするから」

「それってどういう……」

 

 瞬はそう言いかけたが、ヒビキの顔を見て、言葉が途切れた。ヒビキの様子が、いつもとは明らかに違っていたからだ。

 その表情は、いつもの彼女からはかけ離れた、真剣そのものといえるものだっただった。普段の年相応の無邪気さに溢れたものとは違う、不相応に大人びた雰囲気のようなものが感じ取られた。

 

「フィフティ、続けていいぞ」

「オーケイ。じゃあいこうか」

 

 瞬の了承を得て、フィフティは話し始める。

 

「君の疑問について、このフィフティさんが答えてあげようと思ってねぇ。なんで世界が変わってしまったのかという事についての答え、欲しいだろう?」

「欲しいです」

 

 というか説明遅すぎたんじゃないですかね。導き手とかほざきながら、随分とアクロスについて放置気味のような気がするのだが。

 そんな瞬の不満をガン無視しながら、フィフティは、あっさりと瞬の疑問に対する回答を告げる。

 

「次元統合だよ」

「じげん……とうごう?」

 

 思わず聞き返す瞬。一体、それはなんだというのだろうか。

 

「ネプテューヌも兵藤一誠も桐生戦兎も、艦娘達も黒神めだかも榊遊矢も、本来は全員別の世界の住人、決して出会うことの無かった者達だ」

「別の、世界?」

並行世界論(パラレルワールド)……君のようなオタク(人種)にとっては、常識中の常識だろう?」

 

 並行世界(パラレルワールド)。フィクションでは腐る程語り継がれてきた、異世界の概念。瞬はそれを聞いて、冗談かと思ったが、フィフティの真剣な表情からするに、どうやら大真面目らしい。

 瞬もフィクションには結構慣れ親しんでいるので、並行世界云々の説明については必要がない。ただ、それが現実の話だと言われると、そう簡単には信じられない。自分の生きる世界とは違う、別の世界。それが本当にあるというのだろうか。

 

「手っ取り早く話を進めたいから、ここからは並行世界があるという前提で話を進めるよ。平たく言うと、無数に存在する世界同士が、一つになり始めている。これは危機的状況なんだ。わかるかい?」

「世界が、一つに?」

「そうさ。歴史や文化、常識から法則(ルール)、共通点がてんでない世界同士が無理矢理一つにされるんだ。そんなことをされて、世界が無事でいられるはずが無い。2つや3つならまだしも、10や20、それ以上の数なら尚更のこと。圧縮された世界は、そのうち矛盾と飽和に耐えきれずに、滅亡してしまうのさ」

「滅亡って……」

「3、4個世界が合体するくらいならまだ許容範囲内なんだけども、億は軽く超える世界が一つになるんだ。どう考えてもキャパオーバーするだろう?それがこの世界だけで無く、他の世界でも起きている。このままだと、遠からず全ての世界は1つになった後、滅亡してしまう」

 

 世界が滅亡する。あまりにもあっさりと告げられたその事実に、瞬は現実味を感じることができなかった。そもそもさっきからフィフティの言っていることが突飛すぎて、実感が湧きにくいのだ。

 しかし、フィフティの言っていることも分かる気がする。これまで世界に対して瞬が抱いていた違和感は、本物だった。まるで世界がまるっと変わってしまったようだと思っていたが、まさか本当に変わっていたとは。

 

「そしてもう一つ。統合された世界は、それに合わせる形で中身が書き換えられるんだ。単純に言うと、初めからそれらの世界は一つだったという様に、世界の歴史が、人々の記憶が書き換えられるんだよ。君の感じている齟齬は、そこから来ているのさ」

「……」

 

 つまりなんだ。瞬が今いる世界は次元統合の結果生まれたものでり、次元統合によって、この世界は、悪魔がいて、艦娘がいて、デュエルが広まっていて……といったように、それらがひとまとまりに存在する世界として変化してしまったということか。

 そしてそれを皆、はじめからそれが当然だと思っているのだ。本来あり得ない繋がりを、そう思いこまされているのだ。

 

「ここで例外を1つ。次元統合で繋がった世界同士が、常に完全に混ざり合う訳じゃ無い。次元統合の過程で、一方の世界が他方の世界を完全に塗りつぶしてしまう事もあるんだ。融合ではなく、上書き。下敷きになった世界は完全に無くなってしまうんだ。あの時、次元統合の影響で、君の知る世界は消滅する寸前までいった。先で言う下敷きになりかけたんだ。それを防いだのがアクロスの力。君がギリギリの所で変身してくれたおかげで、君の世界はこの世界と融合する形で生き延びたんだ」

「えーと、つまり?」

「逢瀬くんの住んでいた世界は、次元統合の余波で一度滅びかけたのさ。あの時君が見た光景は、まさに世界が終わる瞬間だったんだよ。あの世界にはヒーローが居なかったからね。消えるのは時間の問題だったんだ。ライドアーツ落とした時は我ながら焦ったよ……」

 

 フィフティは当時のことを思い返しながら、ホッとしたような顔になる。異形の怪物が跋扈し、街が消滅してゆく光景。あれは比喩ではなく、正真正銘の世界の終わりだったのだ。

 

「なんでこんな事が起きているのかは私もわからない。ただ、ギフトメイカーはこれを利用しているのは間違いないだろうね」

「……なあそろそろ教えてくれよ。ギフトメイカーって、オリジオンってなんなんだよ?俺が戦っているのは、いったい何なんだよ?」

 

 瞬は、ついに根本的な疑問を口にした。

 仮面ライダーになって早一ヶ月。いい加減、自分が敵対している存在について知るべきだと思っていた。本人達に聞いても、あの調子だとマトモに会話ができるかどうか怪しい。同じ言語を使っているはずなのに、住む世界が違いすぎててんで噛み合わないのだ。ならば、フィフティから聞くしか無い。何か知っている可能性は高い。

 フィフティは、少し言い淀んだような表情になりながらも、まあ話すべきだろう、と前置きし、話し始める。

 

「いいかい逢瀬くん。ギフトメイカーというのは —— 」

「邪魔をしないでいただけますか?アクロス、フィフティ」

「「⁉︎ 」」

 

 その時、フィフティの言葉を遮る様に、酷く冷淡な声が2人にかけられる。

 声のした方を向くと、黒いコートを着た眼鏡の男がそこにいた。正気のこもっていない、人を人として見ていない様な目つきでこちらを見ながら、不気味に笑っている。

 

「お前は……?」

「私はタロット……ギフトメイカー直属の精鋭部隊、リバイブ・フォースの一員です。以後お見知り置きを」

 

 固まっている瞬とフィフティに、親切に名乗ってきた。カツン、カツンと、靴音を通路中に響かせながら近づいてくる。その音で我に帰ったフィフティは、即座に身構えながら、瞬に警戒を呼びかける。

 

「気をつけたまえ。彼、只者じゃあないぞ……!」

「ええ、我々は選ばれし者ですから。ちょっと今回は、野蛮な仮面ライダーには本筋から外れてもらわねばなりませんので。なんせ、今ここにやってきた()は、榊遊矢とかいう奴を始末する邪魔をされたく無いとの事でして、それで手持ち無沙汰な貴方の御相手を担当することになったのですよ。暇人同士、殺し合いません?」

「遊矢を……⁉︎ まさか、オリジオンが —— 」

 

 その時、待合室に備え付けられていたモニターが点灯する。そこには、新手のオリジオンと相対する遊矢の姿が映し出されていた。オリジオンの足元には、殴られて気絶している志村と湖森の姿も確認できる。

 それを見た瞬間、瞬はキレた。妹をボコボコにされたというされたという事実が、どうしても許せなかったのだ。思わずタロットに掴みかかろうとするが、その直前、タロットの姿が忽然と消え去り、伸ばした腕は虚空を切る。

 

「正義のヒーローともあろうお方が、随分と野蛮ですねぇ」

「いつの間に……」

 

 いつの間にか、タロットは瞬の背後に立っていた。背後から皮肉めいた声をかけられたことで、瞬はそれに気づく。

 

「テメェ、湖森に何を!」

「私は何も。ただ、彼は非常に気性が荒いので……恐らく彼女が邪魔だったんでしょうねぇ」

 

 まったく悪びれもしないタロット。瞬は我慢ならずに、すぐさま皆のところに向かおうと、タロットを押しのけようとする。しかし、タロットは瞬の腕をがしりと掴み、それを止める。

.

「邪魔するなと言っているんだ。デュエルの邪魔をするなんて無粋の極み。というか、我々の邪魔をするなよ有象無象の害虫供め。身の程を知れ!」

《KAKUSEI TAROT》

 

 丁寧な言葉遣いから一変し、強い口調で罵りながら瞬を突き飛ばすと、タロットは怪人態へと変身する。全身にジッパーが出現し、それが一斉に開いてゆく。人間としての姿の下から、法衣の様なものを身に纏った怪人が姿を現す。身体のあちこちには、タロットカードの絵柄が彫られたレリーフが存在し、顔は右半分が骸骨、左半分が黄金の仮面に覆われている。

 タロットオリジオンは、右手に持った杖を、尻餅をついている瞬に向かって振り下ろしてきた。瞬は咄嗟に避けるが、杖の当たった部分の床にはクレーターの様なものが出来ていた。

 

「逢瀬くん、変身だ!」

「分かってる!ヒビキを頼む!」

 

 フィフティに言われながらも、瞬はヒビキをフィフティに預け、クロスドライバーを取り出し、腰に装着する。

 

「変身!」

《CROSS OVER!想いを、力を、世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》

 

 アクロスに変身した瞬に対し、タロットオリジオンは余裕そうな態度を崩す事なく、不気味に笑いながら殺害予告をする。

 

「いいでしょう、貴方を地獄に落としてあげます。我々に逆らった罪は重い……死んで後悔しろ!」

「お前を倒して、皆のところに辿り着く!負けてたまるか!」

 

 もう一つの戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が狙いなら、俺が相手する!だから皆に手を出させない!」

「さあ始めようぜ!クソ野朗の処刑の時間(キリングタイム)だ!」

 

 デッキをセットし、互いにデュエルディスクを起動させる。リアルソリッドビジョンによるカードプレートが生成され、ディスク本体に収納されていた、EXデッキとメインデッキ用の領域がそれぞれ展開される。アクションフィールドは沢渡の時から据え置きのため、変化はしない。

 

「「デュエル‼︎」」

遊矢:4000LP/手札5枚

マサル:4000LP/手札5枚

 

「先攻は貰う!俺は手札のスケール8の星読みの魔術師と時読みの魔術師でPスケールをセッティング!」

 

 先攻になった遊矢は、早速2枚のペンデュラムカードをPゾーンにセッティングし、Pスケールを組み上げる。今度はいきなりペンデュラム召喚を決めるようだ。

 

「揺れろ魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!いでよ、レベル7、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!レベル4、EMアメンボ―ト!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK2500

EMアメンボート:ATK500

 

 今回はオッドアイズに加え、アメンボのようなモンスターをペンデュラム召喚した。どうやら後者はペンデュラムモンスターでは無いようだ。

 遊矢は、ひらりとオッドアイズの背中に跨ると、オッドアイズでフィールドを駆け始めた。どうやら早速、アクションカードを探しに行くらしい。オッドアイズですれ違いざまに、苔むした岩の上に鎮座していたアクションカードを取得する。

 

「アクションカードゲット!」

「アクションカード……忌まわしい……!デュエルモンスターズを汚す愚物に頼るとは、貴様はやはりクズだな!今に後悔させてやる……デュエリストになったことを!」

「あー、お前はアクションカードは取らないのか」

 

 遊矢がアクションカードを手に取ったことに対して、露骨に嫌悪の表情を見せるマサルを見て、遊矢はそう察する。アクションデュエルに興じる決闘者の中には、好みの問題だったり、戦略上の都合だったりで、アクションカードを使わないものも少なく無いのだ。

 だが相手がアクションカードを使わないとなると、自分だけがアクションカードを使う事に、僅かながら申し訳ない気持ちが湧いてくる。すでに取ってしまったアクションカードを見ながら、果たしてコイツを使っていいものかと悩む遊矢だったが、そこに、マサルの汚い言葉が飛び込んでくる。

 

「アクションカードを使う奴が決闘者を名乗るな!俺は認めない、アクションデュエルを!」

「なら今からでも普通のデュエルに」

「黙れクズが!テメェみたいなカスに情けかけられるくらいなら死んだほうがマシだよ!お前の顔も声も全部不快だ!さっさとこのデュエルで始末してやるからな!クズ!」

「なっ……」

 

 そこまで嫌いならアクションデュエルではなく、普通のデュエルにするかという遊矢の提案を蹴り、遊矢を容赦なく罵倒する。ここまで言われてしまえば、流石に遊矢も黙るしかなくなる。

 

「……俺はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

マサル:手札5→6枚

 

「俺は手札から魔法カード、トレード・インを発動。手札のレベル8モンスターを1体捨て、デッキから2枚ドローする」

 

 マサルは1枚手札を墓地に送り、2枚ドローする。

 

「魔法カード、ペンデュラム・トレジャー発動。これにより、Pモンスターであるオッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴンをEXデッキに移動させる」

「オッドアイズだと……⁉︎ 」

 

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと同じ、オッドアイズの名を冠する未知のドラゴンの存在に、遊矢をはじめ観客席の面々も驚きの声をあげる。ひょっとして、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと何か関係のあるカードだったりするのだろうか?

 予想だにしないカードの登場にざわつく一同を他所に、マサルは更なる驚愕のカードを披露する。

 

「そして手札のスケール1のオッドアイズ・・ドラゴンとスケール8のオッドアイズ・・ドラゴンでペンデュラムスケールをセッティング!」

「まだいるの⁉︎ 」

「冥土の土産に見せてやるよ。オッドアイズの真の力を!俺の方がお前より上であるということを!」

 

 新たに2体の、オッドアイズの名を冠するドラゴンが、マサルのPゾーンに浮かび上がる。どうやら、彼もペンデュラム使いらしい。

 

「我が憎しみに焦がれ揺れろ、忌まわしき振子(ペンデュラム)よ!ペンデュラム召喚っ!来やがれ、全てを滅ぼす我が僕達!オッドアイズ・ファントム・ドラゴン!」

「‼︎ 」

「あれは……」

「いや、そんな馬鹿な⁉︎ 」

 

 マサルが、やたらと物騒な口上を唱え終わると、激しい光と轟音を伴い、マサルのフィールド上に1体のモンスターが降臨する。その名を聞いた時、遊矢は思わず自分の耳を疑った。なぜならば。

 

「オッドアイズ・ファントム・ドラゴン……だと?」

 

 二色の眼を持つドラゴンという点では同じだが、マサルのドラゴンは、亡霊(ファントム)の名の通り、その鱗のつき方が何処か骸骨のように見える。

 オッドアイズ・ファントム・ドラゴンが咆哮を轟かせると、それに呼応するように、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンも雄叫びをあげる。ソリッドビジョンで作られた存在といえど、こうして見ていると、本当に生きているかの様に錯覚してしまいそうだ。

 睨み合う両者のドラゴン。先に動いたのは、オッドアイズ・ファントム・ドラゴンだった。

 

「バトルフェイズに突入!オッドアイズ・ファントム・ドラゴン!オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを粉砕しろ!夢幻のスパイラルフレイム!」

 

 マサルは攻撃宣言をしながら、手札から速攻魔法を発動する。

 

「速攻魔法“オッドアイズ・デストロイ”発動。オッドアイズ・ファントム・ドラゴンの攻撃力をターン終了時まで700アップする!」

オッドアイズ・ファントム・ドラゴン:ATK2500→3200

 

 手札にあるアクションカードを使えば攻撃を凌げる。しかし、自分だけが使うのは如何なものか。そんな後ろめたさが、遊矢の手を止める。だが、このデュエルには皆の命がかかっている。この状況で、そんな甘ったれた思考で大丈夫なのか?

 悩んだ末に、遊矢はアクションに移った。

 

「アクション魔法発動!バトル・チェンジ!相手モンスター1体の攻撃を別のモンスターに移し替える!」

 

 遊矢の発動したアクション魔法により、オッドアイズ・ファントム・ドラゴンの攻撃は、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンから外れ、その隣にいたEMアメンボートへと向かってゆく。

 

「そしてEMアメンボートのモンスター効果!攻撃表示のアメンボートが攻撃対象となった時、アメンボートを守備表示にすることで、攻撃を無効にする!」

EMアメンボート:ATK1000→DFE2000

 

 さっと身構えたアメンボートに、オッドアイズ・ファントム・ドラゴンの攻撃が命中するが、アメンボートは破壊される事なく、その場で踏ん張り続ける。

 

「チッ!アクション魔法とかいう不純物に頼りやがって……そんなんだからテメエはカスなんだよ!」

 

 アクションカードを使った遊矢に対し、マサルは暴言を吐く。一目瞭然、明らかに苛立っている。しかし、彼は遊矢の提案を蹴り、自分からアクションカードを使わないと言い張ったのだ。今更文句を言っても意味はないだろう。

 マサルは、怒りで息を荒くしながらも、バトルフェイズを終了し、別のカードの効果を発動させる。

 

「オッドアイズ・デストロイのもう一つの効果発動!墓地のこのカードを除外することで、デッキから「オッドアイズ」と記されたPモンスター以外のカード1枚を手札に加える!俺はフィールド魔法、“天空の虹彩”を手札に加え、発動!このカードは1ターンに1度、自分フィールドの表側表示のカード1枚を破壊することで、デッキから「オッドアイズ」カード1枚を手札に加えることができる。俺はオッドアイズ・ファントム・ドラゴンを破壊!」

「フィールド魔法だって⁉︎ 」

 

 マサルがフィールド魔法を発動すると、遊矢が驚いたよう声をあげる。アクションデュエルでフィールド魔法カードを使う人間は滅多にいないので、遊矢が驚くのも無理はないだろう。

 発動したフィールド魔法により、アクションフィールドの空が、澄み渡る夏空から、赤黒い光帯が不気味に輝く、奇妙な空模様へと変化する。

 

「このとき、オッドアイズ・デストロイのさらなる効果!このターン、オッドアイズ・デストロイの効果の対象になったモンスターは、効果で破壊された場合1度だけ、自分フィールド上のカード1枚を破壊することで、復活する!俺はペルソナ・ドラゴンを破壊!」

「そんなのあり⁉ 」

「続けて“オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴンの”P効果ア!俺の場の“オッドアイズ”Pモンスターが戦闘・効果で破壊された場合、自分のPゾーンのカード1枚を破壊することで、自分のエクストラデッキからミラージュ・ドラゴン以外の表側表示の“オッドアイズ”Pモンスター1体自分のPゾーンに置く!そして、サーチしたカードを伏せる!これでターンエンドォ……さあ、地獄はここからだぜ?」

 

 なんとか攻撃は凌いだが、これは恐ろしい強敵だ。更にオッドアイズを使うときた。一体どうやって、どこから手に入れたのかは知らないが、最大限に警戒しなければならないだろう。

 遊矢は、緊張感につつまれながらも、それを振り払う様に、声を張り上げ、思い切りカードをドローする。

 

「俺のターン!」

遊矢:手札1→2枚

 

「俺は手札から永続魔法“星霜のペンデュラムグラフ”を発動!そして、セッティング済のPスケールを使い、ペンデュラム召喚!いでよ、EMペンデュラム・マジシャン!」

EMペンデュラム・マジシャン:ATK1500

 

 召喚されたのは、沢渡とのデュエルでも登場したEMペンデュラム・マジシャン。やはり、Pゾーンの張り替えに加え、2枚のサーチと、効果が便利なので、必然的に出番も多くなるのだろう。

 

「ペンデュラム・マジシャンの特殊召喚に成功した時、自分フィールドのカードを2枚まで破壊することで、その数だけEMを手札に加えることができる!俺はPゾーンの星読みの魔術師と時読みの魔術師を破壊して、EMドラミングコング、EMパートナーガの2体を手札に加え、空いたPゾーンにセッティングする!」

 

 2人の魔術師が消え去り、新たにゴリラとヘビのようなモンスターがPゾーンに浮かび上がる。スケールの都合上、ペンデュラム召喚はできないのだが、どうやら遊矢はスケールではなくP効果目当てでこの2体を置いたようだ。

 

「まずはEMパートナーガのP効果!自分フィールドのモンスター1体の攻撃力を、ターン終了時まで、

自分フィールドの“EM”カードの数×300アップする!俺の場のEMカードは、Pゾーンを含めて4枚。よってオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力は1200アップする!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK2500→3700

 

「更に“星霜のペンデュラムグラフ”の効果発動!1ターンに1度、“魔術師”Pモンスターがモンスターゾーン・Pゾーンを離れた場合、デッキから“魔術師”Pモンスター1体を手札に加えることができる!俺は“竜穴の魔術師”を手札に加える!」

 

 カードを動かしながら、遊矢はアクションカードを探す。沢渡とのデュエルの時からデュエルフィールドは引き継がれているが、今いるあたりのアクションカードは、粗方取ってしまった様だ。ここにはないと判断し、場所を移ろうとした遊矢だったが、ちょうど視界に、一枚のアクションカードが入る。

 

「あった!」

「おっとアクションカードは取らせねえ!

「ぶわぁっ⁉︎ 」

 

 バトルの前に、アクションカードを拾いに走ろとした遊矢だったが、彼がそれを許すはずもなく。マサルは足元の砂を蹴り上げ、遊矢の視界を奪う。咄嗟の出来事だった為に、ゴーグルで防ぐことも出来ずにまんまと策にはまってしまい、遊矢の足が止められる。

 そして、マサルは遊矢を突き飛ばし、遊矢が取ろうとしていたアクションカードを踏みつける。これでは取りようが無い。というか、今の行為はデュエル的にかなりグレーなのでは無いだろうか。

 このカードは諦めるしか無いな、と判断した遊矢は、バトルフェイズ突入を宣言する。

 

「仕方ない、バトル!オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで、オッドアイズ・ファントム・ドラゴンを攻撃!」

「ガアアアアッ‼︎ 」

 

 遊矢の声に応じる様に、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンが吠える。

 

「この時、EMドラミング・コングのP効果発動!自分モンスターの攻撃宣言時、そのモンスターの攻撃力をバトルフェイズ終了時まで600アップさせる!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:ATK3700→4100

 

「まーた軽々と打点4000越えしてるよ……」

「やっぱりEMは脳筋……」

 

 あっさりと攻撃力4000越えをしたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを見て、潮原提督とアラタは苦笑いする。先程のデュエルでも、攻撃力がモリモリ上がっていたのからするに、見かけによらず、遊矢のデッキは脳筋寄りのようだ。

 話を戻して、仲間の力で、オッドアイズ・ファントム・ドラゴンを上回る攻撃力になったオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンは、威嚇する様にひと吠えすると、口から光線を発射する。風圧で海水や砂を周囲に撒き散らしながら、光線はファントム・ドラゴン目掛けて飛んでゆく。

 

「甘いんだよ!永続罠、“ロード・オブ・オッドアイズ”を発動!俺の場に“オッドアイズ”モンスターが存在する時、1ターンに1度、相手の攻撃を無効にする!」

 

 しかし、マサルは前のターンに伏せていたカードを発動する。それにより、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの放った光線は、ファントム・ドラゴンの目前で霧散してしまう。

 これ以上遊矢の場に攻撃できるモンスターは居ない。正確にはEMペンデュラム・マジシャンがいるにはいるのだが、ペンデュラム・マジシャンの攻撃力ではオッドアイズ・ファントム・ドラゴンには敵わず、返り討ちにあうだけだ。遊矢はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの背中から飛び降りると、岩陰に隠すようにして置かれていたアクションカードをゲットする。

 

「俺はアクション魔法を1枚伏せてターンエンド。EMドラミング・コングとEMパートナーガの効果も終了時し、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力も元に戻る」

「いいぜえ……さあ、処刑の時間だぜ腐れトマトォ!俺のターン!」

マサル:手札0→1枚

 

「この時、“ロード・オブ・オッドアイズ”の効果発動!俺の場の“オッドアイズ”モンスターは、ターン終了時まで攻撃力が500アップする!」

オッドアイズ・ファントム・ドラゴン:ATK2500→3000

 

「続いて魔法カード“ペンデュラム・パラドックス”発動!EXデッキからPスケールが同じでカード名の異なるPモンスター2体を手札に加える!俺は“オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン”、“オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン”の2枚を手札に加える!そしてこの時、再び“天空の虹彩”の効果を発動し、“ロード・オブ・オッドアイズ”を破壊!デッキから“オッドアイズ・ファング・ドラゴン”を手札に加える!そして、“ロード・オブ・オッドアイズ”が破壊された場合、デッキから“オッドアイズ”Pモンスターを1体EXデッキに表側表示で加える!俺は“オッドアイズ・レムナント・ドラゴン”をEXデッキに加える」

 

 EXデッキに行っていた2体のドラゴンがマサルの手札に戻るとともに、マサルのフィールドから罠カードがなくなり、更なるオッドアイズが彼の手札に加わる。更なるオッドアイズの存在を周知された遊矢は、緊張しながらマサルのプレイングを見守る。ここから何がきてもおかしくないのだ。気を抜くわけにはいかない。

 

「俺は“オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン”とセッティング済みの“オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン”でPスケールを再構築!ペンデュラム召喚!“オッドアイズ・ファング・ドラゴン”!“オッドアイズ・レムナント・ドラゴン”!“オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン”!」

オッドアイズ・ファング・ドラゴン ATK2000→2500

オッドアイズ・レムナント・ドラゴン ATK2000→2500

オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン ATK2500→3000

 

「4体のドラゴン……」

「圧巻、だな」

 

 フィールドに並び立つ、4体の未知のドラゴン。その咆哮は空間そのものを震わせているかのように、周囲一帯に轟いた。その威圧感に、遊矢を含め、観客席の面々も思わず圧倒されてしまう。

 そして、ドラゴン達の前に立つマサルは、不気味に笑っていた。お楽しみはこれからだ、これからはお前が苦しむ時間だと告げるように。

 

「オッドアイズ・ファング・ドラゴンの効果!このカードの特殊召喚に成功した時、自分の墓地からPモンスター以外の「オッドアイズ」モンスター1体を手札に加える!俺は墓地からオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンを手札に加える!」

 

 最初のターンに捨てたオッドアイズをサルベージするマサル。

 

「オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンは、レベル5以上のモンスター1体のリリースでアドバンス召喚が可能!俺はオッドアイズ・ファング・ドラゴンをリリースし、降臨せよ、オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン!」

オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン ATK2500→3000

 

 アドバンス召喚。レベル5以上のモンスターを通常召喚するには、自分フィールドのモンスターをリリースしなければならない。古典的にして基本的な召喚である。

 そんな召喚法により現れたのは、新たなるオッドアイズ。ファントム・ドラゴンと比べると、まだオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと似たような姿をしている。

 

「オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果発動!アドバンス召喚に成功した時、相手の場のモンスター1体を破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを与える!俺はEMアメンボートを破壊!スパイラル・バースト!」

「うわっ⁉ 」

遊矢:4000LP→3500LP

 

 オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの眼孔から、閃光のようなものが放たれたかと思えば、次の瞬間、遊矢のフィールドにいたEMアメンボートが、大爆発を起こして木っ端微塵に吹き飛んだ。その衝撃は凄まじく、遊矢を一瞬でデュエルフィールドの端まで吹き飛ばすほどのものであった。

 一方、唯は遊矢を心配しながらも、マサルの行為について疑問も抱いていた。

 

「な……アメンボートじゃなくて、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを破壊すれば大ダメージが狙えたのに……なんで?」

「楽に終わらせたらつまらねえだろ。テメエの言葉を借りるなら……そうだ。お楽しみはこれからだ、ってやつだよ」

 

 唯の疑問に、あっさりと、そう答えるマサル。それは、じっくり甚振ってやるという宣言だった。立ち上がろうとする遊矢に対し、まるで邪神が人の皮をかぶっているんじゃ無いかと思うほどの邪悪な笑みを浮かべながら、バトルフェイズ突入を宣言する。

 彼の狙いは初めから決まっている。マサルは、遊矢を心配するかのように、彼の元にドタドタと走ってきたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを指差し、悪意マシマシの声を張り上げる。

 

「バトルフェイズ!俺はオッドアイズ・ファントム・ドラゴンで、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを攻撃!夢幻のスパイラルフレイム!」

「オッドアイズ……!」

 

 両者の声を合図に、2体のオッドアイズが互いに向かって口から光線を吐きだし、それが激突する。しかし、攻撃力の方は向こうの方が上。衝突した2匹の光線も、初めは拮抗しあっていたように見えたが、徐々にオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの方が押されていき、終いにはオッドアイズ・ファントム・ドラゴンの光線が押し切ってしまい、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの身体を貫いた。

 断末魔の悲鳴を上げながら、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンが爆散する。その衝撃は生半可なものではなく、砂や海水が撒き散らされると共に、遊矢の身体は10m以上は吹き飛ばされ、デュエルコートの壁に叩きつけられる。

 

「ぐはっ……」

遊矢:3500LP→3000LP

 

 うつ伏せ大の字になって地面に倒れる遊矢。全身にほとばしる痛みに必死に抗いながら、なんとか立ち上がろうと両手に力を入れる。

 この衝撃、痛みは普通じゃない。質量を持ったソリッドビジョンを用いる都合上、アクションデュエルはヘタをすると大事故を引き起こしかねない。それを防止するために、ソリッドビジョンの出力は普段は抑えられている。しかし、この衝撃は明らかにおかしい。先程の沢渡とのデュエルと比較しても、その何倍も強いのだ。

 遊矢はそんな事を考えながら、よろよろと立ち上がるが、マサルは思い切り笑いながら、遊矢に更なる苦痛を与えようとする。

 

「オッドアイズ・ファントム・ドラゴンの効果!戦闘ダメージを与えた時、Pゾーンの“オッドアイズ”カードの数×1200ポイントのダメージを与える!」

「じゃあ遊矢には2400ポイントのダメージが……!」

「喰らえ。とっておきだぜ?」

 

 とびっきりの笑顔を浮かべながらマサルが宣言すると、マサルのPゾーンにいる2体のドラゴンから、激しい電光が飛び出し、遊矢目掛けて一直線に降り注いだ。

 そして。

 

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ⁉︎ 」

遊矢:3000LP→600LP

 

「遊矢ぁ!」

 

 少年を塵芥に帰してやると言わんばかりの、あまりにも強い衝撃が、遊矢の全身を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別所。

 遊矢とマサルのデュエルが開始した直後。コートから壁を隔てたすぐ側で、アクロスとタロットオリジオンの戦いの火蓋が切って落とされていた。

 

「やあ!」

「ふんっ!」

 

 アクロスの先制攻撃。何の捻りもない右ストレートが、タロットめがけて突っ込まれてゆく。が、タロットはアクロスのパンチを難なく受け流し、お返しと言わんばかりに、アクロスの胴体に一撃をお見舞いする。

 

「がふっ⁉︎ 」

 

 その瞬間、アクロスの身体に尋常じゃない衝撃が走る。まるで胴体がとんでもなく重たい物に押し潰されているような、そんな衝撃が身体を貫く。そして、それを受けたアクロスの身体は、バウンドしたスーパーボールのように跳ね上がり、天井に頭から突っ込んだ後、崩れた天井と共に床に落ちる。

 これは単純なパワーの問題ではない。何かカラクリがある。アクロスのその考えを察していたのか、はたまた余裕からなのかは知らないが、タロットオリジオンは、自身の能力について話し始める。

 

(strength)—— タロットカードに対応した21の能力の行使……それが私のオリジオンとしての力です。」

「へ、へぇ……」

 

 タロットカードについては殆ど知らないアクロスは、ただ強がるように、そう答えて立ち上がった。敵の能力は未知数。だが、そろは足を止める理由にはならない。アクロスは即座に駆け出し、タロットに殴りかかろうとする。

 

(Moon)……迷いの象徴。貴方の攻撃は当たらない」

 

 しかし、攻撃が当たる直前に、タロットが囁くようにそう言うと、タロットの右膝のレリーフが発光する。すると、アクロスの拳はタロットの身体をすり抜け、そのまま素通りしてしまった。まるで霧を相手にしているかのように。

 

 こうなったら一撃で決めるしかない。これ以上厄介な能力を使われて翻弄され続けるよりはマシだろう。アクロスはライドアーツをドライバーから引き抜いて、ツインズバスターの柄の部分にある差し込み口に突っ込む。

 

《CROSS BLAKE》

 

 すると、ツインズバスターの刀身から赤いプラズマのようなものが放出され始める。これで一気に終わらせる。ツインズバスターを強く握りしめ、アクロスはタロットオリジオン目掛けて思い切り駆け出した。

 

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼︎ 」

 

 両者が激突した次の瞬間、赤電を纏ったすれ違いざまの一撃が、タロットオリジオンの胴体に直撃した。

 タロットは避けなかった。真正面からそれに立ち向かったのだ。ツインズバスターの刃は、タロットの胴体をぶった斬ることは叶わず、押し止められていた。身体一つで必殺技を受け止めきったタロットに、アクロスは驚くが、タロットは薄気味悪い笑みを浮かべながら、自身の胴体に当てられているツインズバスターを手で掴むと、

 

吊るされた男(Hunged man)……逆境を耐えた先には、希望がある」

 

 そう言って、アクロスごとツインズバスターを投げ飛ばした。アクロスの身体は弧を描いて吹っ飛ばされ、待合室の椅子に叩きつけられる。椅子の残骸から身を起こしたアクロスのもとに、悠然とタロットは歩み寄ってくる。

 

正義(Justice)……裁きの剣は我が元に」

 

 そう呟くと、タロットの手元に、どこからともなく一振りの剣が現れる。そして、立ち上がったばかりのアクロスをその剣で突いた。

 

「ぐああああああああっ‼︎ 」

 

 アクロスはタロットの剣による一突きで大きく吹き飛ばされ、近くのコンクリートの壁を突き破り、デュエルコートの外に弾き出される。コンクリートの残骸と共に地面を転がってゆくアクロス。実力差は明白だった。

 アクロスは瓦礫の中から即座に身を起こし、落としたツインズバスターを拾いながら、再びタロットに向かって駆け出す。ここで立ち止まっている場合じゃない。唯達のところに辿り着かなくてはならないのだ。

 だが。

 

隠者(Hermit)……我が姿を秘匿する」

「姿が……」

 

 タロットがそう呟くと、タロットの姿が周囲に溶けるようにして消え去ってしまう。明らかにこの状況で、彼が逃げるとは考えられない。そう考え、アクロスはツインズバスターを構えて周囲を警戒する。

 が。

 

魔術師(Magician)……四大の力を受けよ!」

 

 真後ろからの声に反応して振り返ったが、もう遅い。タロットがこちらに向けてかざした手のひらから、アクロス目掛け、火球と竜巻と大岩と水流が一気に押し寄せてきた。アクロスはなんとか大岩をツインズバスターで一刀両断し、火球を打ち払うと、竜巻と流水を回避する。そして、タロット目掛けて斬り込みにかかる。

 ガキン!と、両者の剣がぶつかり合い、火花を撒き散らす。アクロスは、ツインズバスターを握る手に思い切り力を込め、自身の能力で筋力をブーストしているタロットの剣と鍔迫り合いに持ち込む。

 

「らあああっ‼︎ 」

 

 結果は引き分け。両者ともに剣が弾かれ、あらぬ方向へと得物が飛んでいってしまう。アクロスはそのまま戦いを続行しようとしたが、タロットに殴りかかろうとしたその時、ある疑問が頭によぎる。

 その疑問は、この襲撃によって有耶無耶になりかけていたもの。そして今は、敵の正体を知る絶好の機会なのだ。アクロスは息を切らしながら、タロットに問いかける。

 

「何が目的だ……?」

「はい?」

「これまで、何度もオリジオンと戦ってきた……全員訳わかんねー事ばっか口走ってたけどよ……どいつもこいつも、力と欲望に溺れて好き勝手やってたよ。あんな奴らを使って、何がしたいんだ?何の目的でオリジオンを暴れさせる……⁉︎ 」

 

 アクロスにはわからない。ギフトメイカーが何故、オリジオンを生み出し、暴れさせるのか。そもそもギフトメイカーとは何なのか。戦闘の直前までフィフティと話していたことで、余計に気になっていた。

 タロットはその問いかけをうけて、幾ばくか考えるような素振りを見せた後、

 

「まあ、暴露したところで減るものではないですし、教えて差し上げましょうか」

「え、いいのかよ……⁉︎ 」

「どうせ貴方に我々は止められないでしょうし」

 

 タロットは、疲弊しきったアクロスの姿を見て嘲笑しながら、あっさりと、そう言った。

 要するに、ハナから脅威とは思われていないのだ。ギフトメイカー側は、自分達の邪魔をするアクロスの存在を、ただ鬱陶しい羽虫か何かだと、その程度にしか思っていなかったのだ。邪魔をしてくるから反撃はするが、ただそれだけ。居てもいなくてもいい存在だとしか見ていないのである。

 タロットは腕を組むと、アクロスを鼻で笑って、自分達の目的をべらべらと語り始めた。

 

「神を作るんですよ」

「は?」

 

 訳がわからなかった。

 このタイミングで、くだらない冗談を言っているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。タロットは大真面目に、こんな馬鹿げたことを(のたま)っているのだ。まだ、厨二病を患ったイタい思春期の男子が書いた、出来の悪いライトノベルもどきでも、もう少しマシな内容が書かれていそうだ。それくらい、突拍子もなく、馬鹿げた発言だったのだ。

 あんまりにも荒唐無稽な目的を聞かされ、呆れてものも言えないアクロス。だが、アクロスを舐め腐っているタロットは、そんなのお構いなしにつづける。

 

「死んだ転生神に変わる、次世代の、全能の神を。オリジオンの中から生まれればよし、出来ないならギフトメイカーの中から作れば良し。貴方達は等しく、神の踏み台なんですよ」

「なんだと……⁉ 」

 

 アクロスの拳をひらりとかわしながら、タロットは続ける。

 

「転生、という言葉くらい分かりますよね?」

「転生……あの転生だよな?生まれ変わりとか、そういう感じの」

「そうです。一柱の神による転生。その際に転生者は神からのギフト……所謂転生特典を貰います。我々はそれを更に覚醒させたもの。原点(オリジン)をも超えた頂点。それがオリジオンなのですよ」

 

 転生。俗に言う生まれ変わり。死後の魂の行き場として、冥界(あの世)と並び立つもの。瞬は一応転生については知ってはいるが、それは空想の話としてだ。実際には信じてはいない。

 だが、タロットは、実際に転生はあり得るものであるかのように話している。

 

「私も転生者です。貴方とは、ハナから我々と同じ次元で相手できるような存在じゃあないんですよね!悍ましき旧世界の遺物め、惨めな現世人と共に消え去りなさい!」

「ぐはあっ⁉︎ 」

 

 タロットの一撃でアクロスは大きく吹っ飛ばされ、ベンチの上に落下する。ベキベキベキッ‼︎ と、アクロスの下敷きになったベンチが大きな音を立てて壊れる。その残骸の中からアクロスは起きあがろうとするが、タロットはその隙すら与えず、一瞬のうちにアクロスの目の前に移動すると、杖でアクロスの頬をぶっ叩いた。

 ベンチの残骸諸共アクロスは真横に吹っ飛んでゆき、自動販売機に激突する。衝撃で倒れ、壊れた自販機の上に横たわる形となったアクロスに、タロットは余裕たっぷりに近づいてくる。

 

「コイツ……強い!」

「当たり前です。私はオリジオンの中でも選りすぐりの存在と自負しておりますので」

 

 自分の力に絶対的な自信を持っている。悔しいが、彼と今のアクロスとの実力差は歴然。完全に負けイベントだった。

 しかし、現実は更にアクロスに追い討ちをかけてきた。

 

「おーいおーい、タロットやーい。アクロス独り占めとか酷くねーか?おん?」

「⁉︎ 」

 

 アクロスの後方から、品のない声がとんでくる。聞いているだけで鳥肌が立つような、不快と悪意の塊のような声。

 この声は聞き覚えがある。つい数日前 ——

 

パラララッ‼︎

「あがっ⁉︎ 」

 

 思考する間も与えられずに、振り返った瞬間、アクロスはダメージを受けた。一体どんな攻撃を受けたんだと、アクロスは咄嗟に胸部装甲に目をやると、そこには幾つもの真新しい銃痕が、煙を吐いている様が映し出されていた。どうやら銃撃されたらしい。生身の状態だったら、今ので間違いなく死んでいただろう。

 

「レイラぁ、楽に殺しちゃつまらねーだろ、な?」

「アクロスの始末が私の仕事だ。速攻で蹴りをつけるに限る」

「グゥ……」

 

 アクロスの視界に現れる3つの影。黒いライダースーツを見に纏った、ギフトメイカー・バルジと、サブマシンガンの銃口をアクロスに向け続けている軍服少女・レイラと、相変わらず知性の感じられない呻き声をあげている、素性不明のガングニールオリジオン。

 

「よお仮面ライダー。殺しに来たぜ」

「アクロス……今回はマトモな戦いが出来そうだな」

「Guuuuuuuuuuuuuuu……」

「嘘だろ……」

 

 ボスキャラが一気に3人も増えやがった。バルジもレイラも、その強さは伊達じゃないことは、アクロスも充分理解しているのだが、なにもこのタイミングで来ることはないだろう。

 非情なる援軍の襲来に途方に暮れるアクロスの様子をバルジは笑いながら、懐からあるものを取り出し、瞬に見せつける。それは、一枚のCDのように見える。緑色に発光するそれの表面には、一言、こう刻まれていた。

 —— “igalima(イガリマ)”。

 

「俺の真の力、見せてやるぜ」

 

 そう言うとバルジは、そのディスクのような物を自分の額に押し当てた。すると、ディスクはバルジの頭の中に溶け込むようにして入っていき、しまいには完全にバルジの中に取り込まれていってしまった。

 

「異次元の聖遺物の力、ちょっとだけ見せてやるから覚悟しとけよ」

《KAKUSEI IGALIMA》

 

 邪悪極まりない笑顔を浮かべたまま、バルジの姿が変化してゆく。バルジの全身にジッパーが出現し、それが一斉に開いてゆく。そこから黒い瘴気のようなものが噴き出し、バルジの全身を包んでゆく。

 瘴気が晴れてゆくと、そこに立っていたのは、深緑のローブと三角帽子を身に纏い、ステレオタイプな死神が持っているような大きな鎌を携えた怪物だった。その姿は、なんとなくガングニールオリジオンと近しいものを感じる。以前見せたオリジオン体は、本気ではなかったということだろうか。

 バルジ —— イガリマオリジオンは、大鎌の刃先をアクロスに向け、戦線布告する。

 

「イガリマの力、その身に刻むが良い……なんてなっ!」

「‼︎ 」

因果収縮・霊子光波砲(ホロプシコン・クォンタム・レイ)!」

「Eeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeッ‼︎ 」

 

 イガリマオリジオンがそう言い終えると、4人は一斉にアクロスに襲いかかってきた。

 鎌を構え、一気に懐に潜り込もうとするイガリマオリジオンと、なんかよくわからないエネルギーを集めて、レーザー砲として発射するレイラと、手に持った杖から炎を発射するタロットと、ただ本能のままに、雄叫びを上げながら飛びかかってくるガングニール。

 一体、この状況で、どれから対処すれば良い?逃げ場はない。というか逃げるわけにはいかない。だが、この状況を切り抜ける手はあるのか?

 焦るアクロスに、ギフトメイカー達の猛攻が迫る。

 

 

 

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ⁉︎ 」

 

 

 次の瞬間。

 絶叫と共に、アクロスの姿は瞬く間に爆炎の中に呑まれた。

 

 

 

 

 




アクロス、幹部勢にボコられる。4人同時とかねーよ……序盤の仮面ライダーにあるまじきオーバーキルだよ!

マサル……あそこまで啖呵切ったのだから、今更遊矢にアクションカード使われようが文句言っちゃ駄目よ?自分から縛りプレイ始めたんだからね?


初めてのデュエル描写&架空デュエル構成をやったので、色々至らぬところがありますが、暖かく見守っていただけると嬉しいです。今後もデュエルをちょくちょくやっていきますので、場数をこなすことで、おそらくクオリティも上がっていくと思います。




ARC-Vのキャラはアニメ本編から2年後という設定です。だから遊矢はプロデュエリストになってますし、学年でいうと瞬達の一つ下になってますね。ただ完全にアニメと同じ流れは辿っていない世界の話になります。何話か後にその辺りをやります。


ちなみにオッドアイズはアニメ効果です。
出来ればエクシーズ召喚もやりたかったけど、デュエル構成の段階で出る幕がなくなりました。残念。
 今回の敵は熱心なARC-Vアンチくんです。カードゲーマーとしともアカンキャラ造形にしております。あの作品の酷評っぷりとアクロス世界の転生者民度の低さが悪魔合体したヤベー奴です。歴代トップクラスの屑ですね……まあ次回には死にますからご安心を。





オリジナルカード紹介!
壊ればっかとか言わない。OCGも大体9期から壊れてるし別に問題ないない。


ペンデュラム・ラバーズ
通常罠
このカード名のカードの①②の効果はデュエル中に1回ずつしか発動できない。
①このカードが効果で墓地に送られた場合に発動出来る。デッキから1枚ドローする。この効果は、自分の墓地にモンスターが存在しない場合に発動と処理ができる。
②自分フィールド上のPモンスター1体のみが戦闘・効果で破壊される場合、墓地のこのカードを代わりに除外できる。

********


オッドアイズ・デストロイ
速攻魔法
このカード名の効果は、それぞれ1ターンに1度ずつしか発動できない。                       ①自分フィールドの「オッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで対象モンスターの攻撃力は700アップし、対象モンスターが相手に与える戦闘ダメージは倍になる。
②このカードの①の効果の対象になったモンスターは、このターン、以下の効果を得る。
●このカードが効果で破壊された場合、自分フィールド上の表側表示のカード1枚を対象として発動できる。対象のカードを破壊し、このカードを特殊召喚する。
③墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「オッドアイズ」と記されたPモンスター以外のカード1枚を手札に加える。自分のPゾーンに「オッドアイズ」カードが2枚存在する場合、この効果で手札に加えられる枚数は2枚になる(同名カードは1枚まで)。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「オッドアイズ」モンスターしか特殊召喚できない。

********


ロード・オブ・オッドアイズ
このカード名のカードの①③の効果は、1ターンに1度、いずれか一つしか発動できない。
①1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示の「オッドアイズ」Pモンスターが存在する場合、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を無効にする。
②自分スタンバイフェイズに発動する。自分フィールドの「オッドアイズ」モンスターは、ターン終了時まで攻撃力が500アップする。
③フィールド上の表側表示のこのカードが破壊され墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「オッドアイズ」Pモンスター1体を選択し、EXデッキに表側表示で加える。

ファングとレムナントは次回に回します。
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