【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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今年度最後の投稿です。結局あんまりすすんでないやんけ!
レジェンドライダー2人目になります。
今回は今まで放置していた物をどうにかしていく回になります。

やりたい話はたくさんあるけどなかなか進まない!
特に今回は、やらなきゃならない話をいつどの順序で持ってくるか、結構悩んでます。


今回の話と矛盾しないようにちょいと過去の話を改稿しました。


第22話 オルタナティブ・ランページ

 ギフトメイカー・バルジは、瓦礫の山の中を歩いていた。

 ここは渋谷。かつては都会中の都会だったのだが、数年前に隕石が落下した事で廃墟になってしまっている。今では一般人の立ち入りが禁止されており、誰もここがかつては都心の一部だったとは思わないだろう。

 だがそんな事はギフトメイカーには関係が無い。立ち入り禁止のテープを乗り越え、半ば崩れかかった建物の中へと入ってゆく。元がなんだったのか分からない有様だが、そこには気にも留めず、とある一室にあったハッチを開け、バルジは地下へと降りてゆく。

 

「元気にしてるかなー?おー?」

 

 ここは他のギフトメイカーの面々すら知らない、バルジの実験場。彼が好き勝手やる為の空間。鉄扉を開ける彼は、心なしか浮き足だったように見える。

 扉の向こうは、幾つもの鉄格子が並んでいた。バルジは、鉄格子の向こう側に向かって声をかける。

 

「元気そうで何よりだ、カラス共」

「ふざけないで……何のつもりよ、一体!」

 

 鉄格子の向こうの暗闇から、罵倒する声が飛んできた。ガチャガチャと、鎖が擦れる音も聞こえる。

 

「あのさあ、お前ら自分の立場わかってる?お前らは俺の実験動物(モルモット)になったんだぜ?実験動物が逆らうとかホントクソだよ?」

「人間の分際で……」

 

 少女 —— レイナーレは、バルジを睨みつける。

 レイナーレ、カワラーナ、ミッテルト、ドーナシーク。彼女達は神器(セイクリッド・ギア)回収の任務を受けて行動していた堕天使だ。

しかし、ギフトメイカーの生み出した転生者が暴れ回ったせいで任務は失敗するわ、体制上は敵対関係にあるリアス達悪魔サイドに捕まるわと踏んだり蹴ったりの結果だった。あまさつえ、悪魔から逃げ出せたのも束の間、目の前にいるバルジにとっつかまってこの状況に至るわけだが、プライドの高いレイナーレにとって、この状況は許し難いものだった。

 彼に捕まって早半月。普通ならば人間と堕天使では話にならない実力差があるのにも関わらず、レイナーレ達が逃げ出せないのには、ある理由があった。

 

「凄いよね、これ。神滅具(ロンギヌス)・天逆鉾《あまのさかほこ》……だったけ?天より来るものを問答無用で行動不能にしちゃうんだ。たまたま殺したやつが所有者だったから貰ったんだよ。凄いだろ?」

 

 バルジは、自身の腹に手を突っ込むと、そこから一本の槍を取り出す。これが彼が先程言っていた神滅具だ。天より来るもの —— 天使や神霊を磔にして動けなくする力を持つものだが、堕天使も元を辿れば天使なので、レイナーレ達も動けなくなっているのだ。

 

「何の用だ、貴様。わざわざ出向いてきたということは、何かしら目的があるんだろう?ただ単に話をしにきたという訳でもあるまい」

「おお、君、中々話がわかるね。半月で俺を徐々に理解し始めているんだね、僥倖だ」

 

 ドーナシークの言葉に、大仰な反応を示すバルジ。

 

「その通りだ。ちょいといいモン手に入ったからヨォ、お前らで試そうと思うんだ。いいだろ?」

 

 そう言うと、バルジは懐から数枚のディスクの様なものを取り出し、レイナーレ達に見せつけてきた。それが何なのかは分からないが、少なくともまともなものでは無いことだけはわかる。

 

「全然よく無いっす!ウチらをなんだと思ってるんすか⁉︎ 神器で封じられてるからって舐めるな ——」

 

 いち早く反応したのはミッテルトだった。身の危険を感じたのか、バルジに吠えかかる様に叫ぶが、その声が唐突に途切れた。見ると、バルジが鉄格子越しに、手に持っていたディスクの内の一枚をミッテルトの額に押し付けていた。

 すると、ディスクはまるで再生機器に挿入されたかの様に、すっとミッテルトの身体の中に入り込んでいった。

 

「煩い。これだから三大勢力は。人間サマの話をもっと聞かなきゃ駄目だろ?こうして人間を見下してる奴はな……こうなるんだよ」

 

 バルジがそう言うと、ディスクを入れられたミッテルトが、急にその場にうずくまり出した。カワラーナが近寄ろうとするが、バルジはすかさず別のディスクをカワラーナに向かって投げつける。

 

「がっ……何、これぇ……⁉︎ 」

「大丈夫、死なないよ。単に転生特典を得てオリジオンになるだけだから」

 

 ディスクはカワラーナの身体に溶け込む様に入り込んでゆき、彼女の身体を激しく痙攣させる。ドーナシークとレイナーレは、一体何が起きているのだと、2人を交互に見る。

 すると、うずくまっていたミッテルトの体表面に、幾つものジッパーが浮かび上がってゆき、それが一斉に開き出した。まるで皮を脱ぐかの様にして、小さな堕天使の少女の身体が、異形の怪物へと変化していく。

 

《KAKUSEI —— 》

「あ……ぐがががががぎぎぎぎぎぎいいいいいいいいいううううううううNeeeeeeeeeeaaaaaaaaaaaaaaannnnReassaaaaaaaaa —— ⁉︎ 」

「⁉︎ 」

 

 堕天使の少女の身体は醜く変質してゆき、それに伴い悲鳴も、おおよそ人の喉から出そうにない、常軌を逸した不協和音に変化してゆく。部下が目の前で変質してゆくのを、レイナーレはただ見ていることしかできなかった。

 バルジはニヤケ面をレイナーレ達の方に見せつけながら、ディスクをチラつかせる。

 

「ちょいと兵隊が欲しくてさ。ああ拒否権は無いよ。だってお前ら堕天使 —— 人外だろ?化け物が化け物になるんだ、そこに何の変わりもないじゃんか、ねぇ?」

「やめろ……やめ、ろ……」

 

 堕天使達は抵抗しようとするが、神器の影響でろくに動けない。敵意剥き出しの表情のレイナーレの視界に最後に映ったのは、自分の顔に押し付けられようとしているディスクだった。

 ディスクが彼女の顔に触れると同時に、バルジのねっとりとした囁きが耳に入る。

 

「さあ、変わるんだ」

「ふざけ —— 」

 

 口からなけなしの罵声が出た直後、彼女達の自我は霧散した。

 


 

 深夜、東京某所。

 

 

 

 終電も過ぎ、人影がめっきりと減った夜の街に、慌ただしい足音が響きわたる。蟻の頭部を思わせるデザインのヘルメットを被った、武装した集団が、地下通路の出口を塞ぐ様にして集まってきていた。

 ジャキリと、一斉に地下通路の出口に向かってマシンガンの銃口を構える。銃口の向けられた地下通路から、髪を金色に染め、ピアスになんかよくわからない金属アクセサリーをジャラジャラつけた、いかにもTHE・チャラ男ですといった感じの風貌の青年が出てくる。

 青年は、出口を塞ぐ変な集団に困惑する。至極真っ当な反応であろう。

 

「え、なんすか一体……あんたら誰?」

「お前がワームである事は既に知っている。正体を現せ!」

 

 集団のうちの一人が、銃口を突き付けながら叫ぶ。すると、ヘラヘラと笑っていた青年の顔が、すんと、無表情になる。まるで、スイッチが切り替わったかの様に。

 

「ああ、なんだバレちゃってたのか。ならお前ら皆殺しにしなきゃならねーな……あー面倒くさ」

 

 わざとらしいため息を吐き、気怠げそうに青年はつぶやく。すると、青年の姿が崩れ落ち、茶色い体色のカマキリのような怪物へと変化していくではないか。両手からは鋭い鎌のようなものが生え、背中にある脚のような部位が、不気味に蠢いている。

 だが、これはあらかじめ予期していた為、集団の方は怯まない。むしろ疑惑が真実だったので、ビンゴだ。

 

「怯むな!撃て撃て!」

 

 銃口を突き付けていた人物の命令を皮切りに、怪物に対して一斉掃射が行われる。夜の街に響く激しい銃撃音。これにより、怪物は一網打尽になる —— 筈だった。

 次の瞬間、怪物の姿が消えた。かと思えば、瞬く間に怪物は、自分から一番離れた位置にいた集団の一員の首を、鎌で跳ね飛ばしていた。ボトンと、頭の詰まったヘルメットが地面に落ち、ちょん切られた首から噴水の如く鮮血が噴き出す。

 

「ああ、ああああ!」

「おいこら逃げるな —— 」

 

 それを見て恐れをなした一人が逃げ出し、もう一人がそれを咎めようとする。しかし、どちらも叶わず。次の瞬間、二人は腰を堺に上下にぶった斬られていた。何が起きたのか理解する前に、二人の生命反応が一瞬で尽き果てる。

 さらに、それが合図になったのか、どこからともなく緑のずんぐりしたシルエットの怪物が複数体出現し、一斉に襲いかかってきた。近接ブレードやマシンガンで各々対応していくが、いかんせん数が多い上、奇襲を受けてしまっては対処が難しい。

 万事休すかと思われたその時、ひとつのエンジン音が、この場に向かって急接近してくるのが聞こえた。怪物はそれに反応し、殺しの手を止める。

 次の瞬間、横から突っ込んできたバイクに、怪物は思い切り跳ね飛ばされた。

 

「グガッ⁉︎ 」

 

 自分を跳ねたバイクに、敵意剥き出しで唸り声をぶつけてくる。バイクの搭乗者は、怪物の方を向きながら、バイクから降り、フルフェイスのヘルメットを脱ぐ。

 二十代半ば程の、スーツ姿の若い男だった。

 

「すまない、本部からの呼び出しで遅れた」

 

 男はそう言いながら、右手を天に掲げる。すると、どこからか蜂の羽音が聞こえてきた。怪物は当たりをキョロキョロと見渡す。すると、空の彼方から飛んでくる、一つの物体を見つけた。

 飛来するは手のひらサイズの機械仕掛けの蜂。羽音を鳴らしながら飛んできたそれは、男の手の中に収まる。男はそれを、左手首に身につけていたブレスレットにセットする。

 

「ワームめ……殲滅してやる!変身!」

《HENSHIN》

 

 すると、ブレスレットを起点に、男の身体に装甲がまとわりついてゆく。そして、厚い装甲を持った仮面の戦士へと姿を変える。顔の部分からするに、それはまるで蜂の巣の様であった。その名はマスクドライダー・ザビー。

 相対する怪物 —— ワームは、死体から切り取った腕を乱雑にザビーに投げつけ、挑発するような鳴き声をあげる。ザビーは、それを見るなり、ワームに向かって突っ込んでいく。

 秘密組織ZECT。

 擬態能力と、高速移動(クロックアップ)能力を有する地球外生命体・ワームに対抗する唯一の組織。

 そして人類が唯一ワームに対抗する術。それが、ZECT謹製のマスクドライダーシステムである。

 


 

「ふんっ!ぬうん!」

 

 ザビーのジョブが、絶え間なくワームを襲う。ワームの方も、負けじと両手の鎌を振り回すが、ザビーの硬い装甲を切り裂くのは至難の技。火花が散るだけで、傷一つ作ることができない。

 ザビーは、ワームに回避の隙も与えないほどの猛攻を仕掛け続ける。時折顔面へのストレートを混ぜながらジョブを繰り返し、ワームを着実に後退させてゆく。

 

「はぁあ!」

 

 焦るワームの腹部に、力を込めたザビーの裏拳が直撃し、ワームは吹っ飛んで陸橋の柱に身体を打ち付けられる。ワームは苦悶の声を上げながら、よろよろと立ち上がろうとする。が、ザビーはそんな猶予を与える気はさらさら無い。そのまま更なる追撃をしようとする。

 その時だった。ワームとザビーの間に、交戦中だったゼクトルーパーの一人が、サナギ体のワームに投げ飛ばされてきた。そして、彼を投げ飛ばした個体と思われるワームが、それを踏みつける。

 が、よく見ると、そのワームからは凄まじい熱気が放たれている。これは脱皮の兆候だ。ワームは脱皮することで、節足動物に似た姿へと変化すると共に、クロックアップ能力を手に入れる。ザビーの目の前で、サナギ態ワームの体表がグズグズに崩れ去り、中から鈴虫に似た姿のワームが姿を現した。

 

「隊長、脱皮しました!至急救援を!」

「ああくそ、成虫が増えたか!いいか、成虫態は俺がやる!負傷者は下がらせ、大丈夫な奴はこっちのサナギを!」

 

 部下達に指示を出しながら、ザビーは増えた成長ワームを、自分の方へと引き寄せる。クロックアップが出来ないサナギ体ならゼクトルーパーでも対処可能だが、成虫体はライダーに任せるしか無い。ザビーは、ブレスレットにとまっているザビーゼクターの羽根の部分を上にあげ、ザビーゼクターを180度回転させる。

 

《CAST OFF》

 

 すると、電子音声と共に、ザビーの全身を覆っていた装甲が弾け飛び、高速で周囲にばら撒かれていった。成虫ワームやゼクトルーパー達は咄嗟に避けるが、動きの鈍いサナギ態ワームの一部は、装甲がクリーンヒットし、そのまま緑色の炎をあげて爆散してしまった。猛スピードで金属の塊が飛んでくるのだ。そんなもん当たったらひとたまりもないだろう。

 装甲を脱ぎ捨てたザビーは、雀蜂を模したと思われる姿に変わっていた。これがザビーの本来の姿。防御面を捨て、ワームのクロックアップに対抗するための策。

 成虫ワーム達は、飛んできた装甲を叩き落としながら、ザビー目掛けて突っ込んでくる。

 

《CHANGE WASP》

 

 ザビーゼクターから音声が鳴り、ザビーの複眼が点灯する。ワームは達は、口から涎のようなものを垂らしながら、再びクロックアップを始める。だが、その程度では優位性は立てられない。

 

「クロックアップ!」

《CLOCK UP》

 

 ザビーは、腰に巻かれたベルトの右側にあるスラップスイッチをスライドする。

 その瞬間、ザビーとワーム以外の世界の全てが、止まっていると錯覚してしまいそうに成る程に遅くなった。ゼクトルーパーが放ったマシンガンの弾も、ワームが粉砕したことでバラバラになって宙を舞う自転車も、スローモーションで動いてゆく。

 勿論これは彼らの主観でしか無い。側から見れば、双方が知覚困難な程に速く動いているとしか思われないし、それを人間が見ることは叶わない。

 これがマスクドライダーシステムの切り札・クロックアップ。ライダーシステムがワームに対抗しうる最終手段であるが所以。彼方が速く動くなら、此方も速くなればいいという理論だ。

 

「貴様らに好き勝手はさせない!」

「イガッ⁉︎ 」

 

 カマキリ型ワームの鎌が振り下ろされるよりも早く、ザビーの鉄拳が、ワームの顔面を貫く。よろめくワームに、続けてザビーのパンチが

襲い掛かる。

 

「ヴィイイイイ……ッ!」

 

 壁際に追い詰められた同胞を見たもう一匹の方が、背中の羽根を強く振るわせて衝撃波を生成し、ザビーに向かって放ってきた。ザビーはそれに咄嗟に気づき、後方に跳んで避ける。それを好機と見たのか、先程までザビーにボコられていた方のワームは、一気に距離を詰め、回避後の隙が生まれたザビーを、両腕の鎌で斬り付ける。

 飛び散る火花。しかし今度は、しっかりとダメージが及んだ。ライダーフォームは、クロックアップ能力と引き換えに、マスクドフォームの

厚い装甲を失っている為、必然的に防御力が下がるのだ。

 

「クソッ!」

《CLOCK OVER》

 

 ここで両者ともクロックアップが解除される。ワームはお構いなしにザビーに猛攻を仕掛ける。ザビーは振り下ろされた鎌を避けて背後に回り込み、ワームの背中に裏拳を叩きつける。そこに、もう一匹の方が再び衝撃波を放つ。衝撃波はザビーの背中に直撃し、ザビーは思わず膝をついてしまう。

 いくららライダーといっても、成虫ワーム2体を同時に相手取るのは一苦労だ。サナギ態ワーム達は、他のゼクトルーパー達が奮戦してくれているが、成虫に対処可能なのは自分一人。さてどうするか。

 そこに、此方に向かって走ってくる足音が聞こえてきた。ザビーが振り向くと、スーツ姿の青年が此方に向かってくる姿が見えた。

 再び、どこからか聞こえてくる羽音。走る彼の元に、どこからか青いクワガタムシ型のガジェットが飛来し、彼の手の中に収まる。青年は、それを自身の腰に巻いていたベルトにセットする。

 

「変身!」

《HENSHIN》

 

 青と銀を基調とした、厚い装甲が纏われる。ザビーとは違い、両肩にはバルカン砲がつけられている。これがマスクドライダー5号機・ガタックである。

 

「加賀美……貴様!」

「偶々近くを通りがかっただけだ。兎に角俺も加勢する!」

 

 ガタックはやってくるなり、自分に目掛けて襲い掛かってきたサナギ態のワーム達に、肩のバルカン砲をお見舞いする。その一発は非常に強力で、サナギ態ワームは一発で爆散してしまった。

 

「キャストオフ!」

《CAST OOF》

 

 襲いかかってきたサナギ態ワームの撃破を確認すると、ガタックはベルトにセットしているガタックゼクターの角を一気に開き、角が真反対を向く状態にする。すると、ガタックの厚い装甲が一気に弾け飛び、その下からメタリックブルーの装甲が顕となる。顔の両縁にクワガタのツノのようなパーツが展開し、複眼が赤く光る。

 

《CHANGE STAG BEETLE》

 

 ザビー同様にライダーフォームに変身したガタックは、両肩についていた双剣・ガタックダブルカリバーを手に持ち、カマキリ型ワームに立ち向かう。

 

「ったく……」

 

 なんとも言えない気分になりながらも、ザビーはもう一匹のワームと相対する。

 

「はああっ!」

 

 ガタックダブルカリバーの横薙ぎが、ワームの腹部を斬り付ける。ワームは自身に傷を負わせたガタックに怒り、肩目掛けて自慢の鎌を振り下ろす。しかしガタックは、すかさずガタックダブルカリバーの刀身でそれを受ける。

 激しい金属音と火花を散らしながら、カマキリ型ワームの鎌と、ガタックダブルカリバーの刃がぶつかり合う。両者とも鍔迫り合いによって両手が塞がれる格好になるが、ガタックはすかさず蹴りを入れてワームを突き飛ばす。

 

「へぁあっ!」

 

 体勢が崩れたのを見逃さず、ガタックカリバーで縦にぶった斬られ、ワームの両腕の鎌が折られる。武器を失い動揺するワームだが、すかさずガタックダブルカリバーの突き攻撃が襲いかかり、問答無用でぶっ飛ばされてしまう。

 立ち上がろうとするワームを見据えながら、ガタックは、ガタックカリバーを肩に戻し、ガタックゼクターのボタンを3回押す。

 

《1,2,3》

「ライダーキック!」

《RIDER KICK》

 

 ゼクターからエネルギーの様なものが、ガタック頭部の角を経由し、右足に流れ込んでゆく。ガタックは雄叫びを上げながら、ワーム目掛けて突っ走る。

 そして、ワームの目前で勢いよく地を蹴って飛び上がり、そこから回し蹴りをワームの上半身目掛けて叩き込んだ。

 

「ていやあ!」

 

 飛び回し蹴りをモロに喰らったワームは、痛みに悶え苦しみながら、ガタックを恨む様な呻き声をあげてよろめく。そして、灰色の爆炎を上げながら、ワームの身体が木っ端微塵に粉砕された。

 一方、ザビーの方も、決着がつこうとしていた。

 

「トドメだ……!」

 

 ザビーに思い切り殴り飛ばされたワーム。ザビーは、左腕のザビーゼクターのボタンを押して、必殺技を発動させようとする。

 その時だった。突如として、両者の間に、何者かが割り込んできた。その姿には、何処か見覚えがある。

 

「カブト……か?」

 

 ザビーは、忌まわしい名を呼ぶ。

 ZECTに従わないはぐれ者のライダー。自分勝手で、あらゆる面でめちゃくちゃに強い彼に、何度も手を焼かされている。

 だが、目の前のそれは何かが違う。額から伸びる角はねじれ、背中にはグシャグシャの羽根が一対。肩や膝からは昆虫の足のようなものが飛び出て、うねうねと蠢いている。胸元から股間にかけてはジッパーの様なものが伸びている。

 何かが違う。ザビーもガタックも、本能的にそう察していた。

 

「ザビー……最弱のマスクドライダー……」

「何だと……⁉︎ 」

 

 カブトに似たそれは、ザビーを見るなり、あからさまに見下した様な態度をとる。ストレートに雑魚呼ばわりされたことで、ザビーも若干喧嘩腰になる。

 

「俺の糧になれ……!」

「なっ⁉︎ 」

 

 怪物はそう言うと、いきなりザビーに襲いかかってきた。ワームはそれを見て、これ幸いとばかりに逃げ出す。

 

「待て……!」

「逃げるな、俺と戦え!」

「ぐはっ⁉︎ 」

 

 ガタックは逃げたワームを追いかけようとするが、カブトに似た怪物はそれを許さず、ザビーに腹パンを一発食らわせると、ガタックに向かってドロップキックを仕掛けてきた。ガタックはそれをモロに受け、ゴロゴロと地面を転がってゆく。

 ワーム退治を邪魔された挙句いきなり殴られたザビーは、怪物に殴りかかりながら怒鳴り散らす。

 

「お前に構ってる暇はないんだよ!」

「貴様の事情なぞ知らん。俺は奴に挑まねばならん。貴様はその為の経験値稼ぎだ!」

「さっきから俺のことを馬鹿にしやがって……!」

 

 ザビーのパンチをガードする素振りも見せず、モロに受け続けているにも関わらず、怪物は全く怯まない。怪物は、飛んできたザビーの拳をがしりと鷲掴みにすると、思い切り頭を振り下ろし、ザビーの脳天に頭突きをお見舞いする。

 額を抑えながら膝をつくザビー。怪物はすかさずザビーを蹴り飛ばし、近くにいたガタックにぶつける。

 

「馬鹿にされたくなければ実力を示せ。そんなんでは天童総司には勝てんぞ?」

「貴様ぁ……!この一発で決めてやる!」

 

 カブトの資格者の名前を出し、盛んにザビーを挑発する。ザビーは早期に決着をつけるべく、ザビーゼクターのボタンを押す。

 

「ライダースティング!」

《RIDER STING》

 

 音声が鳴ると、左腕から突き出る形になっているザビーゼクターの針の部分に、タキオン粒子が凝縮されてゆく。当たった対象を一撃で原子崩壊に導く必殺技、ライダースティングだ。ザビーは、飛びかかりながら左拳を突き出し、怪物目掛けてライダースティングをぶち込もうとする。

 しかし、相手はそれを許さなかった。

 

「クロックアップ」

「何⁉︎ 」

 

 その発言にザビーは驚きの声を上げるが、次の瞬間、怪物以外の全ての動きが、大幅に遅くなった。怪物がクロックアップを使用したのだ。勿論、これはクロックアップをしていない他者には認識出来ない出来事だ。咄嗟の出来事だったので、ザビーもガタックも、クロックアップが間に合わない。

 今にもパンチを繰り出そうという体勢のまま、空中で固まるザビー。怪物はその姿を鼻で笑うと、自らの右足に力を溜めてゆく。ビキビキと、稲妻の様なものが彼の頭部の角から右足に向かって走ってゆく。

 

「ライダー……キック」

 

 そして、怪物は、超低速度で空中浮遊しているザビーに、渾身の回し蹴りを叩き込んだ。ザビーの左脇腹に走る衝撃。だが、その瞬間を彼が認知することは出来ない。気づいた時には、既に彼は戦闘不能になっているからだ。

 

「だから言ったろ。お前は最弱だとな」

 

 怪物はそう最後に笑うと、クロックアップを解除した。すると、ライダーキックが直撃したザビーは、大きく吹っ飛ばされ、近くの陸橋の上に叩き落とされた。ダメージに耐えかね、左腕のザビーゼクターがブレスレットを離れ、夜空へと飛んでゆく。

 

「なっ……影山……」

「次はお前だ、ガタック……!」

 

 怪物は、戦闘不能となったザビーは用済みと言わんばかりに放置し、ガタックを次なる標的に定める。こいつは生半可な相手ではない。全力で立ち向かう他ないと決め込み、ガタックは身構える。

 そこに、此方に向かってくるエンジン音。また別のライダーでも来たのかと思い、ガタックと怪物は同時にエンジン音のした方を見る。

 そこには、闇夜の中で光るバイクのヘッドライトと、オレンジ色の複眼があった。よく見ると、肩や胴体にも薄橙色に光るラインが確認できる。

 

「なんだ……アイツは」

 

 アイツもライダーなのか。しかし、ガタックはあんなライダーは知らない。

 

「見つけたぞオリジオン!」

 

 そのライダーは、怪物を見るなりそう叫んだ。

 

「チッ、アクロスか。本日2度目とは、随分と仮面ライダーごっこに熱心なんだな。鬱陶しいにも程がある」

「何をしているんだ、お前は」

「お前はお呼びじゃないんだ。今日はここまでにする」

「逃すかっ!」

 

 突然現れたライダー —— アクロスは、逃げ出した怪物をバイクで追いかける。

 

「ちょっとお前 —— 」

 

 ガタックは慌てて追いかけるが、既に遅し。完全に見失ってしまった。

 

「なんだったんだ今の……」

 

 ガタックは、ベルトのガタックゼクターを外して変身解除する。変身者 —— 加賀美新の手を離れたゼクターは、悔しそうに辺りを猛スピードで旋回しながら、夜空の彼方へと飛んでいった。

 ワームではない怪物に、謎のライダー。一体何が起きているのか、今の彼には知る術は、ない。

 


 

 数分後。

 

 アクロス —— 逢瀬瞬は変身を解き、バイクから降りていた。

 

「逃したか……逃げ足早いなアイツは……」

 

 あれから結局、オリジオンには逃げられてしまった。

 瞬は昼間に一度だけ、先程のオリジオンを偶然見かけたのだが、その時もあっという間に撒かれてしまっていたのだ。一度たりとも目を離していないはずなのに、一瞬で数百メートル離れた位置にまで移動していた。

 超スピードか、はたまた瞬間移動かはわからないが、どっちみち圧倒的不利なのには変わりない。オリジオンの目的は分からないが、放置しておくねはマズイ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……にしても、さっきの……あれも仮面ライダーなのか?」

 

 先程オリジオンのいた場所にいた、青いやつ。オリジオンを追う事で頭がいっぱいで深く気にしていなかったが、あれは何だったのだろうか?どことなくアクロスやビルドに近しいものを感じたような気もしなくもない。

 

「よくわかんねぇな……」

 

 新たなライダーに、目的不明のオリジオン。考えなきゃいけない事はたくさんあるが、現在は深夜2時。とても眠いし、見つかれば補導間違いなしだ。瞬は大あくびをしながらヘルメットを被り、バイクのエンジンをかける。

 もやもやとした気持ちを抱えながら、瞬は帰路に着くのであった。

 


 

 翌朝

 

 長かったようで短かった4月も終わりを迎え、いよいよゴールデンウィーク初日。世間はレジャーだのバカンスだのに浮かれに浮かれてらっしゃる時期だが、逢瀬家にそんなのはあまり関係がなかった。

 保護者たる環四郎おじさんは忙しい身だし、湖森の怪我が完治していないし、そもそもレジャーだのバカンスだのに行く気もない。というわけで、いつも通りのだらけた休日を過ごしていた。

 

「いやあ長かった……まさか焼きプリン論争があそこまで過熱するとは。お前らの精神年齢の低さ舐めてたわ」

「焼きプリンなぞ邪道!カスタードプリンが至高に決まってる!」

「いや俺はどっちもいいと思うんだけどね……」

 

 両手に幼女とパンパンのエコバッグをぶら下げながら、昼間から遠い目をしてらっしゃるのは、高校生兼駆け出し仮面ライダーの逢瀬瞬。

 ただいま彼は買い物帰り。途中、ヒビキのお人好しスキルが暴走してひったくり犯を捕らえるという手柄を立てる羽目になったり、焼きプリンとカスタードプリン、どちらを買うかでネプテューヌと瞬とで激しい議論が繰り広げられるというアクシデントに見舞われながらも、逢瀬家の買い出しは一応終わっていた。

 

「で、結局両方かー。強欲だねぇ」

「まあ、湖森のお見舞いの品には丁度いいかもな。アイツも早く元気になって欲しいよ」

 

 そう言いながら、瞬の顔が若干暗くなる。自分の力不足で湖森を再び傷つけてしまった事が、どうしても許せないのだ。

 湖森は、買い出しくらい自分が行くといって聞かなかったのだが、前述の通り、先日オリジオンに襲われた際の怪我が完治していないのだからと、無理やり家事も休ませて留守番させている。 3度目は無いぞ。もう繰り返してなるもんか、と思いながら歩く帰路。ほんの些細なきっかけだった。

 ヒビキとネプテューヌ。瞬の前方を歩く、2人の居候幼女。2人の後ろ姿を見ていた瞬は、ふとこんな疑問を抱いた。

 

「んあー、お前ら本当に今のままでいいのか?」

「どういう意味?」

「ネプテューヌは帰る場所あるんじゃないのか?ヒビキは何か思い出したりしたのか?」

「意外……てっきりもう私達に興味無くしたのかと思ってた」

「全然。わっかんないんだよなーこれが」

 

 そう、フィフティ曰くネプテューヌは別世界から来たらしいし、ヒビキは記憶がない。異世界人や記憶喪失者なんてフィクションの中だけだと思っていたが、こうして目の当たりにすると、どう接していいのか、少し悩んでしまう。が、本人達はさほど気にしていないように見えるので、瞬もそれに合わせて接している。

 ネプテューヌはともかく、ヒビキに至っては、一体何処から来たのかも分からない。なんせ本人が殆どの記憶を失っているのだから、ある意味当然なのだが、それにしては、全くと言っていいほど、ヒビキについての情報は見つからない。ただ、妙に唯や瞬に懐いてしまったようで、こうして逢瀬家に居候する羽目になったのだ。

 てかヒビキを見つけたのだから、唯が預かれよと当初は思ったのだが、唯の家は瞬と比べると割と一般寄りの家庭。そんなところが、見ず知らずの幼女を預かれる訳ないので、色々あって逢瀬家に身を置くことになったのだ。明らかに色々とアウトな気がする。どうか警察沙汰にはなりたくないものだ。

 

「だけど、私は何か理由があってここに来たような気がするんだよね……手がかりはさっぱりなんだけどね」

 

 ヒビキはそう言いながら首を捻る。その様子を見て、ふと瞬はこう思った。

 ぱっと見10歳ぐらいの少女が記憶を失うなど、明らかに普通ではない。きっと壮絶な出来事とかがあったんだろう。そんな事を考えているのが顔に出ていたのか、瞬が我に帰ると、ヒビキが瞬の顔を覗きこんでいた。

 

「そんな悲しそうな顔しないで。記憶があろうと無かろうと、私は私だから」

「泣いてねーよ。ただ、色々とバタバタしてたからな……改めてそう思ってしまっただけだよ」

 

 誤魔化すようにそう言って、瞬は顔を逸らした。

 ヒビキとネプテューヌ。放置されている問題の象徴。彼女らとも、いずれは向き合わなければならない時が来るのだろうか。それは果たして、瞬の手に負えるものなのだろうか。そんな考えが、瞬の頭にこびりついていた。

 

(放置されている問題……となると、昨夜のアレもだよなぁ……)

 

 放置されている問題、で一つ思い出したことがある。昨夜のオリジオンと謎のライダーについてだ。前者がどこで何をしているのか見当もつかないし、後者が何者なのかは全然分からない。フィフティに訊こうにもいつも通り連絡はとれない。八方塞がりだった。

 そんな事を考えながらも歩道橋の階段を差しかかったとき、ヒビキがネプテューヌにこんな質問をぶつけてきた。

 

「で、ねぷねぷはどうしてとどまっているの?」

「私の場合は単に帰る手段が無いだけなんだよね。帰りたいのは山々なんだけどね?この世界では女神の力は使えないし、色々と大変で大変で……」

 

 ネプテューヌはこう言っているが、彼女の日々のだらけっぷりを見る限り、全然そうは見えない。明らかに現状を満喫してるだろうこの駄目幼女。

 呆れ笑いをこぼしながら、瞬は歩道橋の上から、自分の向かう先の道を見下ろす。すると、人混みの雑踏の中、あるものが目に入った。歩道橋を降りてすぐの曲がり角。そこに立っているある人物。

 あの白い頭には見覚えがある。

 

「あそこに居るのは……灰司か?」

 


 

「……」

 

 無束灰司 —— 転生者狩りは、電柱の影にさりげなく身を隠しながら、様子を伺っていた。

 彼がこんなことをしている理由は、彼の視線の先にあるものにあった。

 

(司馬神真(しばしんま)……本部から討伐命令の下っている転生者……)

 

 灰司の視線の先には、髑髏柄のレザージャケットを着た金髪の青年。彼は、灰司の所属する転生者狩りの組織・転生者秩序維持同盟(Alliance to Maintain the Order of Reincarnations) —— 通称AMORE(アモーレ)により認定された、転生凶悪犯。放置すれば世界に害をなす危険人物なのである。

 事前調査によると、彼の周りで行方不明になる人間が後を耐えないとのこと。捕まえるにしろ、殺すにしろ、まずは彼が具体的には何をしているのかを掴まねばなるまい。

 標的は近くのファミレスに入店した。しばらくここで待ち伏せすることになりそうだ。灰司は、ファミレスの敷地の端から店舗内を凝視しながら缶コーヒーの封を開ける。

 そこに、

 

「あれ、灰司じゃん。お前こんな所で何してんの?」

「⁉︎ 」

 

 背後から声をかけられ、とっさに灰司は、振り返りながら拳を突きつける。

 

「うわっ⁉︎ 」

 

 声の主は、突然飛び出してきた拳に驚き、尻餅をつく。灰司はその人物の顔を見て、しまった、と思った。

 

「瞬……」

「凄い……全然動きが見えなかった」

「ってぇ……いきなりソレはないだろ……あ、卵割れてねえよな……?」

 

 声の主は、逢瀬瞬だった。一応灰司は、現在は上司からの命令で、アクロス —— 瞬の監視も兼任している。無束灰司と転生者狩りがイコールであると思われてはならないのだが、背後を取られたことで、咄嗟に手を出してしまった。

 なんとか誤魔化さねばなるまい。被っている猫を脱ぎ捨てるには早すぎるのだから。

 

「な、なんだ君かあ……驚かせないでよ」

「驚いたのこっちだけどな……何お前、武術とかやってんの?さっきの動き、めっちゃキレ良くなかったか?」

「すみません、僕、昔から柄の悪い人に絡まれやすい体質で……それで警戒心が強くなったというか……」

「つまりはビビリってことですかー。防御は最大の攻撃って言うからねー、うん。それで護身術かなんかも齧ったって感じ?」

「そうそう、そんな感じです」

 

 灰司の手を借りて立ち上がる瞬。尻餅をついた時に、バックの中の卵が割れていないかと確かめたが、そちらは無事だった。もし割れてたらある意味大惨事になっていたであろう。

 ともかく、怪しまれずに済んだようだ。ネプテューヌが思わぬ助け舟を出してくれて、灰司は正直ありがたかった。

 灰司はチラリとファミレスの方を見る。この位置からは、ターゲットの席が割とはっきりと確認できる。ターゲットたる転生者は、メニュー表らしきものを見ながら悩んでいるようで、まだ余裕はありそうだ。瞬達と適当に会話してから、適当に離れてもらおうと灰司は考えていた。

 

「そちらは?妹さん……じゃないですよね。明らかに血が繋がっている気配ないですし」

「自称女神の居候」

「自称じゃないんですけどー⁉︎ ちょっと最近扱い雑過ぎないかなー⁉︎ 私、ネプテューヌは瞬に抗議しまーす!」

 

 灰司が、瞬の隣にいるネプテューヌに興味を示し始めた。そりゃあ、買い物帰りの同級生が幼女引き連れているのだから、気になるのが人間の性。もちろんこれは、灰司にとってはただの話題逸らしでしか無い。

 一方、灰司に聞かれた瞬は、どストレートに事実だけを告げるが、ネプテューヌは、ぞんざいな扱いをされたことに対して文句を言ってくる。

 

「ははっ、元気な彼女さんだね。これは唯さんも、幾ら幼馴染みといえどらうかうかしてられないかもね」

「何一つ合ってねーよ!唯とはそんな関係じゃねーし、俺にロリコン趣味は無いってーの!」

「私にヒロイン属性はちょっとね……女神ってほら、皆の為にあるべき存在だし、誰か一人と愛を育むのは存在的に矛盾してるというか……」

 

 灰司の茶化しに、二人揃って分かりやすく取り乱す瞬とネプテューヌ。ネプテューヌに至っては、気まずそうに目を逸らしており、なんか若干キャラが崩れかかっているような気がする。

 と、ここでネプテューヌが、あることに気づいた。

 

「あれ……ヒビキちゃんは?」

「え」

 

 ネプテューヌに言われて、瞬は辺りを見渡す。

 頭数が足りない。ヒビキが居なくなっていた。

 

「まさかあいつ、またフラフラと人助けに行っちゃったのか?何、遺伝子レベルでお人好しなの?」

「探しに戻ろうよ。ね?」

「そーだな。悪いな灰司、邪魔した」

「あーうん、それじゃ」

 

 瞬とネプテューヌは、ヒビキを探す為この場を離れていく。二人が見えなくなったのを確認すると、灰司は猫を被るのをやめ、再び鋭い目つきでファミレス内を観察し始めた。

 標的はまだ逃げていない。呑気にランチタイム中だ。

 

(さて、邪魔者もいなくなったし、再開と行くか)

 

 空になった缶を握りつぶしながら、灰司は標的を暫く観察するのであった。

 


 

 一方、こちらでは、買い物帰りの別のグループがいた。

 

「悪いな姫柊。ウチの買い物に付き合わせてしまって」

「いえ、先輩の監視が私の任務ですから」

 

 第四真相・暁古城と彼の監視役・姫柊雪菜。なんやかんやで2人が出会って丸一月は立っていた。その辺りの事情を知らない周りの人からは、既に同棲中だの交際中だのと思われ始めているのは語るまでも無い。2人は多分認めないだろうが。

 それは2人の目の前を歩く、古城の妹・凪沙も同じだった。

 

「2人とも仲良いよねー。ほんと古城くん、最近になってやたらとモテるようになってない?」

「気のせいです気のせいです!ホント最近の若い子は、男女2人組が並んでると直ぐ恋愛関係に直結するんだからぁ!」

「いや古城くんもその“最近の若い子”の一人だからね?」

 

 色々と省くが、古城はこの一ヶ月の間に、獅子王機関の舞威媛だの異国の王女様だの、色々と濃い女性と立て続けに出会ったり、昔からの付き合いのあった子と色々とあったりと、兎に角、ラノベ主人公街道を突き進んでいたわけである。古城だって、その辺りを突っ込まれたら取り乱さざるを得ない。

 乾いた笑いを浮かべる古城。その時、雪菜が2人をよびとめた。

 

「ちょっと待ってください」

「どうした?」

「あの子……迷子かなんか、でしょうか?」

 

 雪菜が指差した先には、10歳くらいの女の子が、5歳くらいの男の子の手を引いて歩いている。男の子の方は泣きじゃくっており、必死に母親を呼んでいるのに対し、女の子はというと、涙ひとつ流さずに時折男の子の頭を撫でながら落ち着かせようとしている。

 それを見て、古城は一瞬、めんどくさそうだしほっとこうかと思った。これまでの生活を振り返って、些細な好奇心がデカい事件につながっていることが多々あった気がする。てかそればかりだった。偶には平和に過ごしたいんだがなー、とぼやく古城であったが、これを放置すれば、凪沙と雪菜の視線が痛くなることは間違いない。それは困る。

 というか、すでにその2人が子供達の元に行っちゃってる。早くも選択肢を奪われていた古城は、溜息をつきながら2人の後を追って子供達の元へと向かう。

 

「迷子かなんなか、お前ら」

「私はちがうよ?この子が泣いてたから一緒に親探ししてるんだ」

 

 女の子の方 —- ヒビキはそう言ってるが、側からみれば、迷子であることを悟られまいと強がってる様にしか見えないのは古城だけだろうか。

 

「安心してください。私達も手伝いますから、ね?だから泣かないで。きっとお母さんに会えますから」

 

 雪菜は、泣いている男の子に目線を合わせる様にしゃがみ込みながら、男の子の頬を伝う涙を指で拭い、元気付ける。なんか途中で古城の方をチラリと見ていた気がするが、多分気のせいじゃないだろう。

 

「これは心強いです!ありがとうございます!」

「キミ、歳の割に凄いしっかりしてるよねー」

 

 協力してくれることに対する礼を言うヒビキに、凪沙がごもっともなツッコミを入れる。古城はヒビキを見て、なるほど、たしかに小学生くらいだというのに、随分としっかりとした子だ。これは凪沙に匹敵するかもしれない、と若干教育ママじみた感想を抱く。

 それを察知したのか、凪沙が古城の方に顔を向け、鋭い指摘をしてくる。

 

「古城くん、また変なこと考えてない?」

「俺をもうちょっと信用してくれてもいいんじゃないか……流石にここまでぞんざいに扱われ続けると凹むというかなんというか」

「ともかくGOです!レッツ親探しツアー!」

「なんで嬉しそうなんだお前」

「少しでもこの子を安心させようと思って。ほら笑って!再開の時は笑顔が一番なんだからさ!」

 

 わからなくもないような意見に古城は苦笑する。

 どうやら、第四真祖には平穏は訪れないらしい。

 


 

 十数分ほど経って、親子の再会は叶った。

 母親と再開した男の子は、笑顔で古城達に手を振りながら、母親に手を引かれて帰っていった。それを見送った古城は、今度はヒビキに着目する。

 

「あとはお前だけだな」

「あれ、私も迷子にカウントされてた……?」

「何故されてないと思ったんだ」

 

 本人は必死に否定しているが、ここまできたらアレだ。迷子をもう一人送り届けるくらい朝飯前だ。

 と、その時だった。

 

「いたいた、ヒビキぃ!お前またふらふらと人助けしてたのかよ?」

「あ、瞬」

 

 人の流れに逆らう様にして、一人の少年 —— 逢瀬瞬がやって来た。ヒビキは瞬の顔を見るなり、何処かばつの悪そうな顔になる。

 

「ごめん……でもほっとけないじゃん?」

「お前の人助け癖は分かったから、勝手に一人でうろちょろするんじゃありません。わかりましたか?」

「はーい……」

 

 瞬に叱られ、しょんぼりとするヒビキ。

 

「貴方がこの子の?」

「ああ、保護者……みたいなもんだな」

 

 雪菜の問いかけにそう答えると、瞬は、ヒビキの手をやや強めに引く。

 

「さ、帰るぞ。ネプテューヌも心配してたんだ、ほら」

「あ、ちょっと」

 

 その強引なやり方に、ヒビキだけでなく、古城達も微かに怪しいものを感じる。だがよその家庭にとやかく言うことは出来ないし、ただの思い過ごしかもしれない。

 そこに、こちらに向かっつ近づいて来る話し声が。その声に反応してヒビキは振り向き —— そして戦慄した。

 

「とりあえず来た道を戻るしか無いか。ったく、どこ行ったんだ?」

「でもほら、ヒビキちゃんくらいの年齢なら多少ほっといても問題ないんじゃ無いかなー?」

 

 声の主はヒビキを探してやって来た2人だった。それが誰かなんて言うまでもないのだが、ここはあえて言っておこう。

 声の主は —— ネプテューヌと、()()()

 

 

 

 単刀直入に言おう。

 ()()()()()()()()

 

 

「「……え?」」

 

 ネプテューヌも、ヒビキも、そして2人の瞬も、それを見て固まってしまう。部外者たる古城達は、状況が読み込めず、彼らとは別の理由で混乱する。

 

「双子さん……?」

「いやいや、んなわけ無い……」

 

 凪沙の言葉をバッサリ切り捨てるヒビキ。ヒビキの手を握る瞬の力が、強くなっていっているような気がする。

 

「まさか新手のオリジオンか?」

「ふざけるな偽物。俺が本物だ」

「いや待てよ、俺が本物だって!だよなネプテューヌ!」

「俺が本物だよな、ヒビキ。お前は分かるよな?」

 

 2人の瞬は、ヒビキとネプテューヌに、それぞれ自身が本物であることを確認する。古城達も、いよいよこれは只事ではないと判断し、警戒体制を取る。古城は凪沙を庇う様にして立ち、雪菜も背負ったギターケースをいつでも開けられるようみ身構える。

 2人の瞬に問い詰められる形となったネプテューヌとヒビキは、ダラダラと冷や汗を流しながら固まる。どっちだ、一体どちらが本物なのだ?というか、もう一人の方は一体なんだというのだ?訳がわからなさすぎる。

 ネプテューヌと手を繋いでいた方の瞬は、バクバクと心臓を鳴らしながら、あることを思いつく。

 

「……来いよ偽物。俺が本物だって証明してやる」

 

 だがその案を実行するには、この衆人環境化ではやりにくい。

 瞬は、目の前にいるもう一人の自分に対して、自分についてくるよう提案する。提案された側も、敵意剥き出しの表情で、それを了承する。

 

「いいよ、やってやる。俺が本物だって示してやる」

 


 

 東京タワーからそう遠くない場所にあるレストラン『ビストロ・ラ・サル』の店内にて。

 

「で、なんだ。俺が影山を襲撃したと?」

「ホントにアレはお前じゃないんだよな?」

 

 加賀美は、テーブルをはさんで向かい側に座る男・天道総司に、念を押すように問いかける。もちろん、周囲に聞こえないくらいの声量で。ZECTは秘密組織、他言無用なのだから。

 天道は、鯖味噌を一口食べると、呆れた様に答える。

 

「だから言ってるだろう。そもそもする必要がない」

 

 そう言ってはいるが、彼は言葉よりも行動で示すタイプ。出会って数ヶ月が経つが、未だに加賀美は、天道が何を考えているのかイマイチ掴みきれていない。だから、余計に神経質になる。

 

「少なくとも奴はクロックアップをしていた。だが、ワームにしては何か妙なんだよな……なんかよくわかんないけど、明らかに……世界観的に違うような?」

「兎に角気をつけろ。やつの目的がまだわかってない以上、いつ何処で出くわすかわからない。それに、コテンパンにされたせいか影山の機嫌も悪い。距離とった方がいいかもしれない……て、お前なら心配いらないよな」

 

 ZECTも、カブトに酷似した謎の存在に自陣営のライダーが襲われたせいか、いつも以上にピリピリとした雰囲気を感じていた。一応忠告はしたが、天道なら大丈夫だよな、とも思ってしまう加賀美であった。なんかコイツならなんとかしてしまいそうだし。

 椅子の背もたれに背中を預け、加賀美はでかいため息をつく。ZECTに入ってから —— というか天道と出会ってから —— 似たような事は色々とあったが、今回もまた、色々と厄介なことになりそうだ。

 その時だった。コンコンと、近くの窓を軽く小突くような音が聞こえてきた。まるで誰かを呼びにきたかのようだ。天道が窓に目をやると、窓の向こう側には、手のひらサイズのカブトムシ型のメカ —— カブトゼクターが浮遊していた。それを見て天道は察する。

 —— ワーム出現だ。

 

「今日は次から次へと……人気者は辛いな」

 

 鯖味噌を完食した天道は、代金をカウンターに置き、店の外に停めてあったバイクに跨り、颯爽と走り出す。加賀美も、店主に一言声をかけてから、慌ててその後を追うのだった。

 


 

 人が少ない公園にやってきた、二人の瞬。

 彼らだけでなく、ヒビキもネプテューヌも緊張している。なんせ、なんでこんなことになっているのか、全然分からないのだ。果たしてこれをどう収拾すればいいというのだろうか。

 二人の瞬は、互いに視線を一度たりとも外すことなく睨み合う。ピリピリとした、緊張感あふれる雰囲気が周囲を取り巻いていた。

 

「で、策って?」

「簡単だよ……あまり乗り気じゃないけど!」

 

 ヒビキの疑問に、瞬は半ばヤケクソ気味にそう答えると、クロスドライバーを取り出して装着する。

 

「変身……っ!」

《CROSS OVER!思いを、力を、全てを繋げ!仮面ライダーアクロス!》

 

 2人の瞬のうち、一方がアクロスに変身した。フィフティは、あまり不容易に変身するなと言っていたが、混乱した瞬の頭では、これくらいしか咄嗟に思いつかなかったのだ。さて、これで証明になれば良いのだが。

 

「これで満足か?」

「そんなの証拠になるか!俺から盗んだんじゃ無いのか⁉︎ 」

 

 もう一人の瞬は、痛いところをついてきた。確かに、そう言われてしまえば、瞬にはそれが事実無根であることを周りに証明することは困難。いわゆる悪魔の証明である。

 そもそも、アクロスに変身したからといって、だからどうしたというのだ。変身したはいいが、その後のことを考えついていない。つまるところ、無駄だった。

 

「どーすんだよもう……これじゃ俺、無駄に変身しただけじゃん……」

「殴ればいいんじゃないかな」

「いやでも自分で自分の顔を殴るのは気がひけるというか」

「いや何してんの。何やりたかったの。意味わかんないっての」

 

 その場にしゃがみ込んで項垂れるアクロス。もう一人の瞬も、思わずツッコミを入れてしまう。

 そこに、

 

「何ですかコレ……」

「灰司⁉︎ 」

 

 先程別れたはずの灰司が通りかかった。彼もこの光景を見て、目を丸くしてしまっている。困り果てたアクロスは、解決できる出来ない関係なしに、兎に角この場に現れた新たな第三者に泣きついた。

 

「俺の偽者が出たんだよ!どうにかならないのかよ⁉︎ 」

「偽者か……チッ」

 

 事情を知った灰司は、思わず舌打ちをしてしまった。

 

(ターゲット追跡中だというのに、面倒事起こしやがって……)

 

 そう、彼はまだ転生者狩りの任務中。アクロスなんかに構ってる余裕は無いのだ。だがアクロスはというと、なんか割と本気で困っている様子。ここで放っておけば、アクロスとの関係に亀裂が入り、監視任務に支障をきたしかねない。それに灰司は“偽者”の正体に、ある程度の目処が立っていた。それが本当なら、尚更看過出来ない。

 結局、灰司に逃げ道はなかった。不機嫌そうに低く唸りながら、灰司は両者の間に割って入ってゆく。

 

「偽者……擬態……可能性としては充分だが……」

 

 ぶつぶつとそう呟きながら、瞬の前に立つ。

 

「えっと……まさか俺が偽者だとか言わないよな?」

「……」

「え、なんで黙ってるの」

 

 不安からか、あからさまに取り乱しだす瞬。灰司は瞬の目の前で、腕を組んで考えこんでいるが、それが余計に皆を不安に誘う。見ているだけで、春の真昼間のはずなのに、妙な寒気を感じてしまう。

 

「あのー?話聞いてま

 

 その瞬間。

 瞬の鼻頭に灰司の拳が思いっきり突き刺さった。

 

 

 

 弧を描きながら吹っ飛ぶもう一人の自分の姿を、アクロスは何とも言えない表情で見ていた。

 そして数秒遅れて。

 

「はにゃああああああああああああああああっ⁉︎ 」

「結局殴ったああああああああっ⁉︎ 」

(残念だが、ワームの擬態を見破る手段は無え。なら実力行使が確実だろ)

 

 あんだけ勿体ぶっときながら結局力づくという、拍子抜け極まりない結果に、幼女2人が思わず大声で突っ込むが、仕方がなかった。灰司には他に打つ手が無かったのだ。

 ワームは人間の姿形だけでなく、記憶も完璧にコピーしてしまう。故に他人が見分けることは不可能。だから、こればかりは実力行使した方が手っ取り早いのだ。力ずくでどうにかするしか無いという時点で、人間側には不利な2択なのだ。

 

「さてと、結果は……」

 

 灰司は冷ややかな目つきで、殴り飛ばされた方の瞬を見下す。

 

「何故、分かった?」

「偶々だよ。ただ、変身してる方より生身の方が殴りやすかったから殴っただけさ」

「お前酷えな」

「くそっ……!」

 

 殴り飛ばされた方の瞬は、腫れた頬をさすりながら悪態をつく。すると、その姿は蜃気楼の様に揺らいでゆき、鈴虫の怪人のような姿 —— ワームへと変化していく。

 

「うわあっ⁉︎ 気持ち悪ぅ⁉︎ 」

「うげぇ……」

「うわあああああっ⁉︎ 」

「とりあえず助かった!灰司は下がってろ、あとは俺がやるから!」

 

 こうなれば後は単純、倒すだけの事。皆を下がらせ、アクロスはワームに向かって突っ走る。ワームの両腕をがっしりと掴み、皆のいる位置から引き離してゆく。

 それを横目に灰司はヒビキ達を避難させると、中断させられていた転生者の追跡を再開すべくスマホを取り出す。その画面には標的の位置情報が示されている。どうやらまだ動いてはいないらしい。それを知って思わず頬があがる。

 

「すみません、僕は用事があるので!では!」

 

 とりあえず断りだけ入れておきながら、この場を立ち去る。後は灰司がいなくともなんとかなるだろう。この言葉が果たしてアクロスに届いているのかは曖昧だが。

 ワームの方は、体表面に瞬の姿をうっすらと投影しながら、アクロスに訴えかける。

 

「貴様もZECTの一味か⁉︎ 一体なんなんだ貴様は⁉︎ 」

「こっちが訊きてーよ偽者野朗!俺に化けて何が目的なんだ⁉︎ 」

「話す義理は……ないっ!」

 

 だが悲しいかな、互いに話が通じるはずもなく。逆ギレ気味にワームはそう吐きすてると、羽を震わせて衝撃波を生成し、それをアクロスに向かって解き放った。

 

「くっ!」

 

 至近距離で衝撃波を喰らい、地面にひっくり返るアクロス。そこにすかさず、ワームの鋭い爪が飛び込んでくる。アクロスはそれを横に転がって避けつつ立ち上がると、ワームに体当たりを仕掛ける。

 

「はああっ!」

 

 お互いに揉み合うように、ごろごろと地面を転がってゆく。ワームは唸りながらアクロスを蹴り飛ばそうとするが、それよりも早く、アクロスの脚が動く。アクロスに腹を強く蹴飛ばされたワームは、公園端の花壇に頭から突っ込んだ。

 

「uuuuuuuuuuuuuuuu……」

 

 低い唸り声をあげながら、身体についた花びらや土を振り払い、ワームは起き上がる。

 

「まだやるか……⁉︎ 」

 

 アクロスもそれに応じて身構える。

 が、次の瞬間。

 

 

 アクロスの視界には、一面の青空が広がっていた。

 

(え?)

 

 疑問の声が口から出るよりも先に、背中に衝撃が走り、アクロスの身体が前方に吹っ飛ばされる。続いて腹、続いて肩、続いて膝 —— 次々と、まるで見えない何かに殴る蹴るの暴行を受けているかのような衝撃が、連続して襲い掛かった。

 体感時間にして数秒の間にボコボコにされたアクロスは、近くの鉄棒に衝突する。その姿は、まるで干された布団のようだった。

 

「何が起きた……⁉︎ 」

 

 何が起きたか理解出来ていないまま振り返ると、いつのまにかワームがアクロスの目前に迫ってきていた。

 

「fyuuuuuuuuuuuuuuuuuっ!」

「ぶはあっ⁉︎ 」

 

 ワームの放った衝撃波で、身体を預けていた鉄棒ごと吹っ飛ばされるアクロス。公園のフェンスを突き破り、根本から折れた鉄棒の残骸ごと、アクロスは車道に放り出される。

 

「こんにゃろ!」

「Guっ!」

 

 アクロスは受け身をとって即座に体勢を整えると、飛びかかってきたワームの脳天に拳を叩き落とす。鈍い音を立てて地面にぶっ倒れたワームは、悔しそうな呻き声を上げる。

 とりあえず、先程の奇妙な攻撃をもう一度喰らう前に勝負をつけるしかない。今のアクロスには、アレに対抗する術が無いのだから。起き上がろうとするワームを蹴り倒しながら、アクロスはドライバーを操作して必殺技を発動させる。

 

《CROSS BLAKE》

 

 アクロスは高く跳び上がり、空中で右足を突き出したキックの体勢をとると、ワーム目掛けて一直線に急降下する。アクロスの右足にオレンジ色の光が集まってゆくのが見える。この一撃で決める。そう意気込みながら、アクロスは雄叫びをあげる。

 

「はああああああああああああああああああああっ‼︎ 」

 

 ワームとアクロスの足が触れるその瞬間、爆発が起き、周囲を煙が包み込む。それは離れた位置にいたヒビキとネプテューヌにも届き、彼女達の視界をも灰色に埋め尽くす。

 アクロスは、地面を強く踏み締めていた。技は確かに発動した。しかし、手ごたえがない。何かにあたった感触が皆無だった。煙を振り払いながら、あたりを見渡す。すると、フェンスを挟んで向こう側、公園の敷地のど真ん中にワームの姿が見えた。避けられたのだ。

 

「fufufufufufufufufufu……」

 

 ワームはキックを外したアクロスを嘲笑うかのような素振りを見せると、背中の羽根を羽ばたかせ始める。飛んで逃げるつもりなのだ。

 

「待てっ!」

 

 アクロスがそう叫ぶと同時に、ワームの足が地面から離れ始める。

 コイツを放置するのはまずい。擬態能力をもっているようだが、そんな奴を一度逃してしまえば打つ手なしなのは、古今東西のフィクションでもお決まりの展開だ。オリジオンとは違うが、それでもやるしかない。

 ヒビキ達を置いていく事になるのが不安だが、背に腹は変えられない。アクロスは、此方を見下ろしながら飛んで逃げるワームの後を追い、走り出した。

 


 

 その様子を物陰から見ていた者がひとり。

 

「あのライダーは一体なんだ……?」

 

 仮面ライダーザビー・影山瞬である。昨夜オリジオンにコテンパンにされたせいで、頭に包帯を巻いていたり頬にガーゼが貼られていたりと酷い有様だったが、それでも彼は任務にあたっていた。

 ワーム発見の連絡を受けて現場に一番乗りしたかと思えば、ZECTが関与していないライダーの発見。これまでも散々ZECTに従わないライダー達に手を焼いてきたが、今回は全くの別。あれはZECTが作ったライダーですらない。そんなものがワームと戦っているとなると、流石に本人に問いただす必要がありそうだ。

 

「お前に恨みはないが、怪しい奴が調べられるのは当然のことだ。多少強引な手になるが、な」

 

 影山はワームを追うアクロスの後ろ姿を見つめながら、自身の部下達にアクロスを追跡するように命令するのだった。

 


 

 都内某所。陸橋の上を、1人の男が歩いていた。

 ハンチング帽を被った長髪の男。手には大きなギターケースが一つ。彼の名は風間大介。女性に人気のカリスマ美容師にして、ZECT製のマスクドライダーシステムの適合者の1人である。だが、兎に角自由人な彼は、あまりその事を深く気にしてはいない。今日も、自分の腕を求める女性の元へと歩いていた。

 が、そんな彼の目の前に、一つの人影が立ちはだかる。

 

「……風間大介だな」

「すまない、急いでいるんだ」

「仮面ライダードレイク……貴様も俺の踏み台になれ。太陽へ至る為の……な」

「お前、ZECTの関係者か?」

 

 風間は、男の話を聞いて険しい表情になる。コイツは風間がライダーである事を知っている。ということは、ワームかZECTの関係者の可能性が高い。色々あってZECTにあまりいい印象を抱けていない風間は、思わず警戒体勢をとる。

 

「話すことはない。話しても理解はできない。なぜなら、俺は太陽だからだ。全てを遍く焦がす者だ……!」

《KAKUSEI KABUTO》

 

 男の全身にジッパーが浮かび上がり、それが一斉に開いてゆく。そして、まるで被っていた人間の皮を脱ぎ捨てるように、その姿が変化してゆく。中から現れたのは、先日ザビーを襲撃した、カブト似の怪物だった。

 

「向かい風、か……」

 

 風間は商売道具の入ったギターケースをその場に置くと、懐から棒状の物体を取り出す。すると、どこからともなく、トンボ型のガジェット —— ドレイクゼクターが風間の元に飛来し、彼の頭上を旋回し始める。

 そして、飛来してきたドレイクゼクターは、風間の持つ棒状の機械の先端に、まるで本物のトンボのように停まる。そのシルエットは、まるで銃のようだった。

 

「変身!」

《HENSHIN》

 

 風間がそう言うと、ゼクターを持つ右腕を起点に装甲が形成されてゆく。風間 —— 仮面ライダードレイクは、変身し終えるなりゼクターの引き金を引く。光弾がドレイクゼクターの口吻部分から発射され、怪物の身体に直撃する。しかし、あまり効いていないように見える。

 怪物の方は、飛んできた光弾を腕で防ぎながら、ドレイクに一直線に突っ込んできた。

 

「ふんっ!」

「っ!」

 

 振り回された怪物の腕を、ドレイクはマスクドフォームの厚い腕装甲で防ぐと、今度はドレイクゼクターの銃口を怪物の身体に密着させた状態で引き金を引く。ゼロ距離ならまた違った結果になるかもしれない。そう思いながら、ドレイクは引き金を引く。

 バババババッ‼︎ と銃撃音と火花が連続して発生する。しかしそれでも怪物は怯まない。もう片方の腕が、ドレイクの側頭部に勢いよく叩きつけられ、ドレイクは陸橋の手すりに身体を打ちつけられる。

 

「あまり乗り気じゃ無いが……ただでやられる訳にはいかないな」

 

 ドレイクは元来戦うのはあまり好きでは無い性なのだが、相手は一筋縄ではいかなさそうだ。それに、いきなり戦いを挑んでくるような奴は総じてマトモじゃない。どうあがいても戦う以外に道は無い。

 ドレイクは、避けられない戦いに憂鬱になりながら、ゼクターの尾の先端のグリップを引っ張る。

 

「キャストオフ」

《CAST OFF》

 

 すると、ドレイクの装甲がパージされ、猛スピードで周囲に拡散していった。厚い装甲の下から、トンボのシルエットを模したようなデザインの頭部、翅を思わせるような形状の肩アーマー等が顕になる。仮面ライダードレイク・ライダーフォームてある。

 怪物は、飛んできたマスクドフォームの装甲を避けながら、ライダーフォームになったドレイクを見てほくそ笑む。まるで、それを望んでいたかのように。

 

「そうこなくちゃ面白くない。ザビーは雑魚だったからな。せいぜい足掻けよ?お前が足掻けば足掻くほど、それを打ち破った俺はヤツに近づけるんだ」

「ヤツだと……?」

「ああ。お前はその為の通過点……踏み台になれ」

 

 怪物はそうのたまうと、再びドレイクに向かって突っ込んできた。ドレイクはそれをひらりと躱すと、すれ違いざまに怪物の背中に肘鉄を入れる。そして、間髪入れずドレイクゼクターによる射撃も撃ち込む。

 すると、怪物はぐるんと大きく身体を回転させ、回し蹴りを放ってきた。ドレイクは後方に飛んで躱すが、怪物の回し蹴りが当たった陸橋の手すりは粉々に砕け散ってしまう。装甲の薄くなったライダーフォームで、コイツの攻撃を受けるのはあまり良くはなさそうだ。

 

「ならば……クロックアップ!」

《CLOCK UP》

 

 ドレイクは、腰のベルトについていたスイッチをスライドする。すると、ドレイク以外の全てがまるで止まったかのように遅くなる。クロックアップしたのだ。

 

「甘い。クロックアップ」

 

 が、それで済むわけもなく。

 怪物も負けじとクロックアップをして対抗してきた。ワームでもライダーでも無い存在が、クロックアップをして来たという事実に、ドレイクは驚きを隠せない。

 

「驚く事じゃ無いだろう。()()()()()()()()。クロックアップくらい出来て当然だろう?」

「カブトだと……?」

「おっとお喋りはここまでだ。続きといこうぜ?」

 

 怪物 —— カブトオリジオンは、早々に会話を切り上げると、ファイティングポーズをとる。会話の糸口は無し。むしろ戦う事を要求されている。ならば、どうしてもやるしかないのだ。

 通常とは異なる時間の流れの中、両者は三度衝突する。

 先手はカブトオリジオン。地面を勢いよく蹴り、瞬く間にドレイクの懐に潜り込み、腹部に強烈な一撃を加える。ドレイクの身体がくの字に折れ曲がるが、ただでやられるような彼ではない。がしりと、殴るために突き出したカブトオリジオンの腕をホールドし、そのまま思い切り捻りあげる。

 骨を折る気マンマンの行動だが、そうはいかない。カブトオリジオンはドレイクの手を振り払うと、左肩を突き出してゼロ距離でタックルを仕掛け、ドレイクを退かせる。

 

「ハッハァッ!」

「うぐっ⁉︎ 」

 

 鳩尾目掛けてハイキックを繰り出しも、ドレイクはそれを腕でガードする。そして、ドレイクはカブトオリジオンの顔面にドレイクゼクターの銃口を突きつけ、再びゼロ距離で銃撃を浴びせる。流石に今度は効いたのか、カブトオリジオンの身体が若干蹌踉めく。

 しかし、向こうはまだピンピンしている。すぐに体勢を整えると、カブトオリジオンは目にも留まらぬ速さで地を蹴り、跳び膝蹴りをかましてきた。

 

「くっ‼︎」

 

 猛スピードで迫り来る膝に対し、ドレイクは前方へと跳躍する。

 

(何をする気だ⁉︎ )

 

 わざわざ当たりに来たのか、とは思わなかった。ドレイクは、跳び膝蹴りの為に突き出されたカブトオリジオンの太腿に足を置き、さらにそれを踏み台にして高く跳び上がった。そして、カブトオリジオンの頭上を取った彼は、水平に広げていたドレイクゼクターの羽根を畳み、それを後ろに倒し、尾の部分についていたコックを引っ張る。

 

「ライダーシューティング!」

《RIDER SHOOTING》

 

 その音声と共に引き金を引く。すると、銃口からサッカーボール大の光弾が、カブトオリジオンの脳天目掛けて発射される。真上からの一撃。カブトオリジオンは咄嗟に見上げる。

 しかし、それは間に合わず。直後、カブトオリジオンの脳天に光弾が着弾し、彼を起点に赤い爆炎が巻き起こった。

 

《CLOCK OVER》

「とんでもないヤツだったな……」

 

 クロックアップを解除したドレイクは、息を切らしながら爆炎を見つめる。いきなり襲いかかってきたから否応なしに応戦したが、かなりの難敵だったのは間違いない。ともあれ、降り掛かってきた火の粉を払えたらのだから良しとしよう。ドレイクは踵を返し、その場を立ち去ろうとする。

 が。

 

 

 

 

 

「残念……だったな」

 

 

 

 その声を聞いて、ドレイクは戦慄する。彼の背後で、ゆらりと、爆炎の中から立ち上がる一つの影。

 カブトオリジオンは、まだ死んでいなかった。

 

「な……⁉︎ 」

「ライダーキック!」

 

 ドレイクが振り返るよりも早く、カブトオリジオンの回し蹴りがドレイクの胴体を横に切り裂くように直撃した。物体を原子崩壊に導くタキオン粒子を纏った蹴りが、ドレイクを一撃で変身解除に導く。

 変身を解かされた風間大介は、口から血を垂らしながら陸橋の手すりに倒れかかる。握っていたグリップが手から溢れ落ち、ドレイクゼクターは空の彼方へと飛び去ってゆく。

 

「ぐ……うう……」

「大したことないな」

「何故、生きている……」

「単純な事だ。俺が強かったから死ななかったんだ」

 

 あっけらかんとした態度で答えるカブトオリジオン。その時にはすでに、風間の意識は薄れ始めていた。カブトオリジオンは、変身を解いて陸橋の下を見下ろす。パーカーのフードを深く被っているため、その顔はよく見えない。

 

「これで2人目か。さあ、次は……」

 

 そう呟いた瞬間、陸橋の下を2台のバイクが通過した。それを見て、カブトオリジオンの変身者の頰がつりあがる。あのバイクには見覚えがある。前世から知っている。

 

「カブト……ガタック……丁度いい、リハーサルと洒落込むか」

 

 2人のライダーを発見したオリジオン。まだ倒すべきライダーは残ってはいるが、今の実力を試すいい機会だ。彼は、打ち破った風間には目もくれず、陸橋の手すりを乗り越え、下の道路へと飛び降りていった。

 


 

 一方、逃亡したワームを追って、人と人がギリギリすれ違えそうかという程狭い路地を走るアクロス。

 擬態能力を持った奴を逃したら間違いなく厄介なことになる。それは分かっているが、空飛ぶ敵を追跡するのは至難の業だ。ネプテューヌライドアーツを使えば空は飛べるが、あれは翼を大きく広げなければ飛べず、この狭い路地では翼を満足にひらけないし、とてもじゃないがバイクも使えない。つまり、アクロスが追いつける絶望的だった。

 

「Hahaッ‼︎ 」

 

 頭上からワームが嘲笑うかの様な鳴き声をあげながら、衝撃波を放ってくる。狭い路地にいるアクロスはそれを避けることもままならず、モロに食らってしまい、ひっくり返り、近くに設置されていたエアコンの室外機頭を強打する。

 頭を押さえながら起き上がるアクロスだったが、その時には既にワームはいなくなっていた。

 

「くそっ!思い切り舐めやがって!」

 

 仕方なしに変身を解きながら、瞬は路地を抜け出す。するとそこは、学校の近くだった。先程いた公園よりも、家から遠い位置だ。無我夢中でワームを追っていたらかなり離れたところまで来てしまったようだ。置いてきたヒビキ達が心配になり、瞬は引き返そうとする。

 そこに、

 

「おいアンタ、さっきの……」

「あ」

 

 先程別れた筈の古城達と遭遇した。

 

「さっきの兄弟喧嘩……か?あれは丸く収まったか?」

「いや俺に男兄弟なんていねーよ……ったく、人間に擬態する怪人とか、この間も似たような奴と戦ったってのによ……」

「擬態?戦った?」

「いやなんでもない。とりあえず、あれは兄弟でもなんでもないから。すまなかったな、巻き込んでしまって」

「あ、はい」

 

 思わず初対面の人に対して愚痴ってしまい、慌てて誤魔化す瞬。あんなもの、無闇矢鱈に赤の他人に説明すべきではないだろうし。

 

「とりあえず大丈夫だから。ごめん、巻き込んでしまって」

「なにも頭下げなくても……大丈夫大丈夫。へーきだから」

 

 とりあえず、変なことに巻き込んでしまったことは謝らねばと思い、瞬は頭を下げる。凪沙は謝罪など必要ないと言うが、瞬としては、少なからず迷惑をかけてしまったのだから、謝らなければならない。

 

「……?」

 

 瞬は頭を上げるが、なにかが引っ掛かっていた。

 

(この子……なんか見覚えあるんだよな……)

 

 そう。凪沙の顔を見た時から、彼女の顔に見覚えがあるような気がして仕方がないのだ。思い出そうとしてもなかなか思い出せない。

 

「なんだよ、人の妹の顔をまじまじと見て……」

「古城くんやめなよー。なんか見苦しいよ?」

「いや、どっかで会ったような気がしたんだけど……気のせいかな?」

「おいお前、ナンパにしてもそれは稚拙すぎやしねーか?」

 

 凪沙の顔を見ながら必死に思い出そうと苦悩する瞬だが、その姿は完全に不審人物そのもの。故に先程から古城に警戒されまくっている。側から見れば謝罪した直後にこれなのだから、そりゃあそんな態度にならざるを得ないだろう。

 ポケットに手を突っ込み、中でライドアーツをカチャカチャと触りながら考えている内に、瞬は思い出した。

 

(あ、もしかしてあの時の?)

 

 そう。一ヶ月前、瞬はネプテューヌと出会う直前に、凪沙と会っている。転生者に襲われる直前の場面で偶然やってきて、結果的に彼女を守った。あの時は直後にガングニールオリジオンが襲いかかって来たので、色々と有耶無耶になってしまったのだが、どうやらあれから無事だったようだ。

 

「大丈夫……みたいだ。よかった」

「えっと、何ですか?」

「ああ、こっちの話。なんでもないから、ほんとに」

 

 なんだか知らないうちに納得して、こちらを見て安堵の表情になる瞬に、戸惑いを隠せない凪沙。そりゃそうだ。

 

「怪しいな……凪沙、こいつ知り合いか?」

「ううん、知らないよ?」

 

 瞬が助けに入った時は凪沙は意識を失っていたため、当然ながら凪沙側からすれば面識はない。それが余計に古城と雪菜の瞬に対する不信感を募らせてゆく。こうなってしまえばきっと何やっても怪しまれる。瞬は完全にドツボにはまっていた。

 

「うーん……」

「怪しいですね……」

 

 なんとか記憶の違和感は払拭できたが、これまでの言動のせいで完全に不審者扱いされてしまっている。古城と雪菜からの警戒心バリバリの視線が痛々しく感じてくる。こりゃたまらん、さっさと立ち去った方が無難だと思い、瞬は足早にその場を立ち去ろうとする。

 

「じゃあ俺はこれで —— 」

「おーうせくーん、みーつけたっ!」

「⁉︎ 」

 

 その時だった。瞬が自分の通ってきた路地の方を振り返った直後、ねっとりとした不快な声が耳に入ってきた。路地の奥の方に目をやると、そこにはライダースーツの上から汚れた白衣を着たバルジがいた。

 

「俺ってやっぱりツイてるよなぁ!ちょいと新兵器の試運転したいなーって思ってたらよぉ、的の方からやってくるとか、ホント最高だよな!」

「ギフトメイカー……何しに来たんだ⁉︎ 」

「お前個人には恨みはないが……運が悪かったな。そこの原作キャラ(ザコ)共々コイツらの餌になってくんねーかな?」

 

 バルジはニタニタ笑いながらそう言うと、パチンと指を鳴らす。すると、上半身が炎に包まれた怪人と、朽ちた包帯を全身に巻いた怪人が、バルジの背後から瞬目掛けて飛び掛かってきた。

 

「やれ、イノケンティウス、タイアード。さあ、貴様は新要素まで辿り着けるかな?」

「ブゥウウウウウウッ!」

「ギイイイイイイイイイッ‼︎ 」

「っ!」

 

 対話もへったくれもなかった。顔を見せたと思ったら数秒で殺しにかかってきた。襲い掛かってくるからにはやるしかないと、瞬はクロスドライバーを取り出そうとするが、

 

「危ないっ!」

「うおっ‼︎ 」

 

 雪菜が咄嗟に瞬を抱え、飛び掛かってきたオリジオン達を回避する。ズサアッ!と身体が地面に擦れる音を立てて、2人は地面に突っ伏した状態になる。

 そして、雪菜と瞬を守るかのように、古城が2人とオリジオン達の間に立ちはだかる。

 

「プッ!」

 

 燃え盛る怪人 —— イノケンティウスオリジオンが、唾でも吐きかけるかのように、小さな火の粉を口から吐き出した。ほっといてもすぐに消えてしまいそうなほど小さなその火は、古城の手前の地面に落下し —— 大きな火柱を生み出した。

 

「うわぁっ⁉︎ 」

「きゃあっ‼︎ 」

 

 火柱と共に巻き起こった熱風が、暁兄妹の身体を吹き飛ばす。古城の身体は瞬の後方まで吹っ飛んでゆき、凪沙の身体は近くの街路樹に打ちつけられ、彼女の意識は瞬く間にブラックアウトする。

 古城は身体を起こしながら、オリジオン達を見据える。古城には見覚えがある。先月、彼はオリジオンと戦った。あれは何故だか知らないが、矢鱈と古城を目の敵にしており、その必死さに古城は異様なものを感じずにはいられなかった。今目の前にいるオリジオン達も、同じだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな感覚だった。

 

「早く逃げろ!そいつらは危ない!」

「いえ、貴方こそ逃げるべきです。事情は存じませんが、貴方を狙った攻撃なのでしょう?ならば逃げてください。ここは私達がなんとかしますので」

 

 雪菜はそう言うと、即座に立ち上がって持っていたギターケースを開け、その中身を取り出す。中にあったのは、楽器ではなく一振りの槍だった。冷たく輝く銀色の槍。それはおおよそ、中学生の女の子が持つようなものではない。そんなものをさも当然のように取り出している彼女は、一体何者なんだろうか。

 瞬はそんな事を考えながら、よろよろと立ち上がる。兎に角、赤の他人である古城達を巻き込むわけにはいかない。狙いは自分なのだ。なら瞬が立ち向かえば済む話だ。それで周りへの被害が収まるなら万々歳だ。が、それを遮るように古城が声をかける。

 

「妹を —— 凪沙を連れて逃げてくれ。事態はよくわからないが、あいつらがまともじゃないってのは十分わかった。そしてお前が標的らしいってのもな。なら選択肢なんかないに等しいだろ……お前が逃げるんだよ」

「おいまて、お前ら本気であいつらと戦うってのかよ⁉ 」

 

 当然ながら瞬は反発する。瞬は古城が第四真祖であることを知らないし、古城は瞬が仮面ライダーであることを知らない。お互いに戦いに巻き込ませまいと相手を逃がそうとする、善意からなる言動なのだが、それ故に主張が平行線に陥ってしまう。

 

「ごちゃごちゃ言ってる場合じゃ ― 」

 

 古城の台詞が途切れる。イノケンティウスオリジオンが炎でできた剣を投擲してきたのだ。炎の剣は古城と瞬の間を突っ切り、はるか後方の郵便ポストに突き刺さり、ポストを燃え上がらせる。

 確かに、ここで四の五の言っている余裕はない。瞬は、気絶した凪沙の方を見る。人命と怪人討伐。どちらが大事かなんて考えるまでもない。

 

「……任せていいんだな⁉︎ 」

「ああ。こう見えてこういう類のいざこざには慣れててな、妹を巻き込みたくはないんだ。だから凪沙と一緒に安全圏まで逃げてくれるとやりやすい。結構派手にやるからな」

 

 瞬としては、見ず知らずの他人にオリジオンとの戦いを任せるのは気がひけるが、戦えない人を逃すことが優先されるべきだということもわかっている。隣で倒れている凪沙を背負い、瞬はこの場から離脱する。古城達がこの場を切り抜けることが可能かどうかは瞬にはわからないが、とりあえず今はこうするのが最善のように思える。ここで瞬が戦いに加勢したら、気絶している凪沙を誰が守るというのだ。

 

「くれぐれもうちの凪沙に変な気起こすんじゃねーぞ」

「先輩は凪沙ちゃんのことになるとほんと口煩くなりますね……」

「いくらなんでもほぼ面識のない女子中学生相手にそんな真似しねーよ……」

 

 

 最後まで若干とげとげしい会話を終え、瞬は凪沙を背負ってこの場から立ち去る。非戦闘員(瞬については古城達が勝手にそう判断しているだけだが)がいなくなったことで、これでようやく戦いになりそうだ。なんせ古城の眷獣はどいつもこいつも馬鹿みたいな破壊力の持ち主故に、周りへの被害が尋常じゃないのだ。

 

(大丈夫……なんだよな、あいつら)

 

 古城は、凪沙とともに逃げた瞬のことを一瞬考える。瞬の先ほどまでの言動もあってか、古城は瞬のことを信用できていない。しかし、だからといって瞬がオリジオンに襲われるのを静観するのも、妹を戦いに巻き込むのもお断りだ。

 

「おいおい、お前らは関係ないだろ。邪魔の極みなんだけどよぉー」

「いきなり襲い掛かってきといてそりゃねえよ。何者だ?」

「俺はギフトメイカーのバルジ。よろしくう……つーか俺が悪いの?俺のせいじゃないし。近くにいたお前らが悪いんだし」

「何が目的なんですか?さっきの人とはどういう関係で?」

「だーかーらーぁ!部外者がごちゃごちゃうるせーんだよ!なんでお前らみたいなカスの一から十まで説明しなきゃならねーんだ⁉ 俺はお前らの親でも先公でもねーんだよ!とっとと実験兵器の錆にでもなんでもなっちまいやがれ!」

 

 バルジは、本当はアクロス相手に試したかったようなのだが、古城達の強情っぷりに折れたのか、古城達で妥協することにしたようだ。やけくそ気味に、2体のオリジオン達に顎で指図し、古城達に襲い掛からせる。

 

「来ます!」

「わかってる!」

 

 今日はもう厄介ごとから解放されたんだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。どうあがいても、事件に巻き込まれる星のもとに生きているのかもしれない。

 古城と雪菜は、一か月ぶりとなるオリジオンとの戦いに身を投じることとなった。

 


 

 ビルの隙間を縫うように、2台のバイクが疾走する。

 加賀美と天道、2人の男が戦場へと向かっていた。

 

「ワームはこの先だ!」

 

 他に車も歩行者も居ない道を、バイクで猛スピードで駆け抜けようと、加賀美は更にバイクを加速させる。

 その時、突然加賀美の目の前に人影が出現する。フードを目深く被った男が、何の前触れもなく2台のバイクの目の前に現れた。辺りには人っ子一人居なかったはずなのに、だ。

 

「うわぁっ‼︎ 」

 

 加賀美は慌ててブレーキをかける。バイクは男の直前でギリギリ停止するが、人身事故が起きる寸前だったにも関わらず、男の方は微動だにもしない。

 

「お前 —— 」

「昨日の続きをしよう、ガタック」

「‼︎ 」

 

 加賀美の声を遮るように、男が話しかけてくる。その発言内容を聞いて、加賀美と天道は即座に男を警戒する。マスクドライダーシステムを知っているということは、間違いなく一般人ではない。

 男は、鼻で笑いながら加賀美のバイクを蹴飛ばす。すると、バイクは加賀美を乗せたまま宙を舞い、天道の後方の歩道橋の上へと打ち上げられてしまった。加賀美は途中でバイクから転落するも、受け身をとって華麗に着地し難を逃れる。

 

「まともな人間じゃないな、お前」

「何を今更。変身」

《KAKUSEI KABUTO》

 

 男はそう言うと、全身に力を込め、怪物 —— カブトオリジオンの姿へと変身する。

 

「お前は昨日の……!」

「昨日は邪魔が入ったが、今回はそうはいかない。3人目の踏み台はお前だ」

「3人目……すでに2人目を倒したという事か」

「そうとも。今回はリハーサルを兼ねるからな、容赦しないぞ」

 

 カブトオリジオンは歓喜で身体を震わせながら、天道達の方へと歩み寄ってくる。それに呼応するように、空の彼方から目にも止まらぬ速度で、2つの鉄の塊が飛来する。一つはガタックゼクター、もう一つは、赤いカブト虫型のガジェット —— カブトゼクター。

 加賀美はガタックゼクターを、天道はカブトゼクターをキャッチすると、あらかじめ腰に巻いていたライダーベルトにゼクターをセットする。

 

「変身っ!」

「変身!」

《HENSHIN》

《HENSHIN》

 

 すると、ベルトを起点に厚い重装甲が天道と加賀美に纏わりついてゆく。それが全身を覆い切ると、両者それぞれの複眼が光る。

 仮面ライダーガタックと、仮面ライダーカブト。

 その姿を見て、カブトオリジオンは目に見えて興奮する。

 

「さあ、腕試しといくか!カブトォ!」

 


 

 その頃、瞬は凪沙を背負って逃げていた。

 まさかほぼ初対面の女の子を背負って逃げる羽目になるとは思わなかった。果たして古城達は無事なのだろうか、やはり自分が言った方が良かったんじゃないだろうかと考えてしまうが、向こうは瞬が仮面ライダーである事なんて知る由もないし、凪沙の安全性を考えるとこれで良かったのだと瞬は思っていた。

 

「はぁっ……、はあ……」

 

 少なくともここまで来ればマシだろうと、瞬は凪沙を下ろしてその場に座り込む。女子中学生を背負って全力疾走したのだ。いくら戦いの中で身体が鍛えられつつあるといっても、これはキツイ。

 というか、押し付けられたはいいが、その後のことを何にも考えていなかった。凪沙はまだ起きない。果たして瞬は、ちゃんと凪沙を古城の元に帰してやれるのかだろうか。

 

「どーすんだよもう……いやまあ、この子のことも心配だけどさあ」

 

 近くのフェンスに手をつきながら、これからどうしたらいいのかを考えていた瞬。そこに、

 

「瞬⁉︎ どーしたの一体⁉︎ 」

「唯⁉︎ 」

 

 なんと、偶然にも唯と鉢合わせしてしまった。なんという幼馴染みパワー。しかしどうしてこんな時に限ってやたらと知り合いに出くわしてしまうのか。まるで物語の導入が下手糞なライトノベルみたいだ。

 

「いやあ、こうして会えるなんて……私達ってそれほど強固につながっているってコト?」

「なんかその言い方やだなあ……」

「で、背中にJC(女子中学生)背負って何してるの……?まさかとは思うけど誘拐とか……?」

「俺がそんな真似すると思ってんのか?」

 

 案の定、背中の凪沙のことを突っ込まれてしまった。確かにこれは誤魔化しようがない。戦いに巻き込ませまいと考えての行動だったのだが、内心後始末的なヤツはどうするんだと瞬は頭を抱えていた。

 とりあえず唯に事情を話す。唯がこのまま引き下がってくれる可能性は皆無だし、それなら問題を共有させて一緒に悩んだ方がいくらかましだ。

 

「かくかくしかじか」

「へえ……(適当)」

 

 今ので伝わったのか……と、唯の適当そうな相槌に不安を感じる瞬。

 

「とりあえず瞬、その子は私がおぶりますのでご安心を。てかヒビキちゃんたちほっぽりぱなしでしょ?一旦回収するなりなんなりしてあげたら?」

「助かる……ちょっと疲れてきたところだったんだ」

 

 唯の言葉で、瞬はヒビキとネプテューヌの存在を思い出す。すぐに戻ってこられると思ってあの場に置き去りにしてきたのだが、随分と厄介な状況に放り込まれてしまったみたいだ。あのまま放置しておくのはよくない気がするが、かといってすぐに帰れそうにない。一応彼女らもそこまで子供じゃないので、電話で先に帰っておくようにでも言っておくかとスマホを取り出し、ネプテューヌに連絡する。

 しかしいくら掛けねど応答はない。スマホゲームのし過ぎで充電切らしたりでもしてるのか?とため息をつきながら瞬は空を見上げる。先ほどまで綺麗な青空が広がっていたが、今は圧倒的曇天。今にも雨が降り出しそうな空模様だ。

 

「勝手にうろちょろしてなきゃいいけど……特にヒビキはすぐ人助けに走るから……」

「あはは……よっこらせっとととっ」

 

 瞬に代わって唯が凪沙を背負うが、立ち上がろうとした際に少しよろけて数歩後退する。

 

 

 

 そこに、ストンと。

 先ほどまで唯が経っていた場所に、ギラギラとおぞましく刃を光らせたサーベルが突き刺さっていた。

 

 

 

 思わず、二人の呼吸が止まる。

 予兆はなかった。ただ、一瞬のうちに、さも最初から当然のようにそこに存在していたかのように、一振りの剣がアスファルトに斜めに突き刺さっている。自分が知らないうちに、ほんのちょっとの偶然で死を回避していたという事実に気づいた唯は、みるみるうちに自らの血の気が引いていくのを感じた。

 サーベルを使う人物に、瞬は心当たりがある。なんせついこの数日前にも戦ったのだから。サーベルの突き刺さり方から飛来してきた方向を判断し、その方向を向いて瞬は叫ぶ。

 

「出て来いよ……レイラ……!」

 

 その声に呼応するように、閑静な団地内に乾いた靴音が響き渡る。瞬たちの前方には、美麗な軍服を身に纏った銀髪の少女の姿。

 ギフトメイカー・レイラ。三度(みたび)、瞬を殺すためにやってきたのだ。彼女は、ハイライトの存在しない瞳を向けながら、感情のまるで籠っていない冷たい声で出会た喜びを語る。

 

「会えてうれしいよ、アクロス」

「全然そうは見えないけどな……」

「早速死ね」

 

 それはあまりに唐突だった。会話の流れを意図的にぶち壊すように、レイラはどこからともなくサブマシンガンを取り出し、瞬めがけて弾丸を撃ち放った。瞬は咄嗟に横に跳んで回避する。弾丸は瞬の背後のフェンスを貫き、その向こう側にあった団地の駐輪場を瞬く間に鉄くずへと変えてしまう。粉砕された自転車の残骸やら駐輪場の天井のベニヤ板やらが周囲に散乱する。

 これはまずい。明らかにまずい。というか今日は何だというのだ。ギフトメイカーはアクロスなんぞ脅威とは思っていないとのたまっていた癖に、今日に限ってやたらと瞬に襲い掛かってくるのは。もとよりあんまり信じる気にはなれなかったが、やはりあの発言はただの戯言だったということなのか。

 兎に角、瞬がすべきことは決まっている。

 

「唯、その子を連れてここから離れろ!」

「大丈夫なの⁉ ねえ⁉ 」

「大丈夫に決まってんだろ。てめえの幼馴染みだろ、信じろよ」

 

 精一杯強がりながら、瞬は唯に凪沙を連れて逃げるように呼び掛ける。きっと向こうもこれが強がりだってことはわかっている。今の瞬ができることは、二人を戦火から逃がすことと、この強がりを現実に変えることのみ。

 

「じゃあ信じる!勝手に事件に巻き込まれて勝手にお陀仏とか許さないからね!」

「死ぬ気も死なせる気もさらさらねえよ!」

 

 レイラのサブマシンガンから放たれる横殴りの銃弾の雨を必死に避けながら、唯と約束をかわす。唯はいまだ目覚めない凪沙を背負い、レイラに単身立ち向かう瞬を横目にその場から逃げ去る。その後ろ姿をちらりと見た後、瞬はアクロスに変身すべくクロスドライバーを取り出そうとする。

 しかし、レイラはそれを許さない。弾倉が尽きたサブマシンガンを放り出し、また新たなサブマシンガンをその手に持つ。そして、それを瞬めがけてぶっ放す。瞬はクロスドライバーと取り出す暇もなく、弾丸の雨に降られないように回避を余儀なくされる。これでは変身はおろかドライバーを取り出す余裕すらありはしない。

 

「くそ……武器の貯蔵は十二分ってか!いつまでこんな理不尽な鬼ごっこを続ければいいんだよ⁉ 」

「無限にだ。私の武装に際限はない。なんせいくらでも生み出せるのだからな」

「物質創造!それがお前の転生特典か……!」

 

 武器を創造する。単純ながら厄介な能力だ。なんせそんな能力があれば、まず消耗戦が無意味と化す。武器の消耗という概念が一切ない。体力を度外視すればいくらでも戦えるのだから。銃が弾切れになったら新しく残段MAXの銃を生成すれば済むし、剣が折れれば新たな剣を生み出せばよい。

 だがそれ以上に、あらゆる武器を使いこなすレイラの戦闘技術が厄介なものとなっている。瞬は戦闘のプロというわけではないので断言はしかねるが、レイラは強い。瞬からすればまさにそれは鬼に金棒だった。

 しかしレイラは、瞬の発言を聞いて何か可笑しい所を感じたのか、弾丸の尽きたサブマシンガンを投げ捨てながら笑う。

 

「転生特典だと……?随分とおかしなことを言うな」

「え?」

「これは転生特典ではない。私の生まれ持った能力だ」

 

 てっきり瞬は、ギフトメイカーは全員転生者なのだと思っていた。しかし彼女は転生特典を持っていないという。瞬は転生者についてはまだ詳しくない為、それがどういうことかは分からない。

 だがレイラは、この程度の情報を漏らそうが別に構わないといった感じに、瞬の疑問を払拭するような発言を重ねる。

 

「そもそも私は転生者ではないからな。オリジオンとしての姿を期待していたようだが残念だったな。それともなんだ、よもや人間の姿をした相手じゃ戦いづらいとか言うんじゃないだろうな?」

 

 瞬は答えなかった。

 

「ああ答える必要は無いよ。今ここでお前は死ぬんだからな」

 

 拳銃を連射しながら、レイラはじりじりと瞬との距離を詰める。間一髪で瞬はそれを避けていくが、とうとう退路がなくなってしまう。T字路の突き当り、背後は高いフェンスをはさんで線路。横に逃げようにも、フェンスをよじ登ろうにも、その前に撃たれる。

 

「終わりだ、アクロス―!」

「―!」

 

 冗談じゃない。こんな幕引きがあってたまるか。こうなればイチかバチか、撃たれる覚悟で動くしかない。レイラの引き金にかけられた指と、瞬が動き出そうとする。

 その時だった。

 

《KAKUSEI KABUTO》

 

 すぐ近くで、そんな音がした。その音を聞いて、瞬もレイラも動きを止める。

 この禍々しい音声には聞き覚えがある。転生者がオリジオンに変身する時のものだ。これがしたということは、近くで誰かがオリジオンに変身したということ。瞬は頭を右に向ける。

 そこには、赤いカブトムシのような姿をした怪物と、それと相対する二人の男の姿があった。怪物の姿に瞬は見覚えがある。間違いない、昨日から瞬が追い続けていたオリジオン―カブトオリジオンの姿があった。

 

「お前は昨日の……!」

「昨日は邪魔が入ったが、今回はそうはいかない。3人目の踏み台はお前だ」

「3人目……すでに2人目を倒したという事か」

「そうとも。今回はリハーサルを兼ねるからな、容赦しないぞ」

 

 カブトオリジオンが、男たちに接近する。まずい、このままでは彼らが危ない。しかし、瞬はいまレイラに殺されようとしている。いったいどうして助けることができようか。焦燥にかられる瞬だったが、そこに、どこからか虫の羽音のようなものが聞こえてくる。空を見上げると、空を覆う雲の隙間から、何かが猛スピードで地上に向かって落ちてきているのが見えた。

 赤いカブトムシ型のガジェットと青いクワガタムシ型のガジェット。それは風を切る勢いで飛来し、レイラの手から拳銃を叩き落としつつ、男たちの掌へと収まってゆく。

 

「変身っ!」

「変身!」

《HENSHIN》

《HENSHIN》

 

 すると、ベルトを起点に厚い重装甲が二人の男に纏わりついてゆく。それが全身を覆い切ると、両者それぞれの複眼が光る。上半身は厚い装甲に覆われている一方、下半身は相対的に装甲が薄いように見え、黒地のアンダースーツが目立っており、どこかアンバランスなものを瞬は感じている。

 

(なんだ……あれ)

 

 あれもライダーなのか……?と疑問に思う瞬。しかし、その疑問を抱いている場合ではない。レイラの手元から武器が消えた今がチャンスだ。瞬はクロスドライバーとアクロスライドアーツを取り出し、即座にアクロスに変身する。

 

「変身!」

《CROSS OVER!仮面ライダーアクロス!》

 

 そのままレイラの頭上を飛び越えて、彼女の背後へと回り込む。

 レイラは、さんざん妨害していたアクロスの変身を予想外の存在に邪魔されたことで、あからさまに不機嫌になり、サーベルを両手に出現させて斬りかかろうとする。

 しかし、その直前、何の前触れもなくレイラの手からサーベルが零れ落ちた。攻撃に対して身構えていたアクロスは、来ると思っていた攻撃が来なくなったことに困惑を隠せないでいる。

 

「時間切れ……か……!」

 

 忌々しそうにつぶやくレイラの手は震えている。いや、手だけではない。彼女の身体はほとんど動かなくなっていた。手も足も、今の位置から前に出すことができない。まるで何かに止められているようだ。それでも彼女は、無理矢理身体を動かしてアクロスを殺そうとする。なぜなら、それが彼女の存在価値だからだ。

 しかし、彼女の身体は言うことを聞かない。どうすることもできなかった。レイラとしては大変不服だが、ここは撤退するしかない。レイラは、少し離れた位置で戦闘を始めたカブトオリジオンに呼び掛ける。 

 

「チッ……!とりあえずそこのお前、アクロスの始末を任せたぞ!」

「待て!」

 

 アクロスが駆け寄るよりも早く、レイラの足元にジッパーが出現し、それが開く。レイラの身体は、ジッパーが生み出した漆黒の穴の中へと沈んでゆく。逃げる気だ。しかしアクロスも黙って見ているわけにはいかない。アクロスもそのあとに続こうと、地面にできた漆黒の穴へと足をのばす。

 しかし、穴はアクロスを拒絶した。踏み出した足には、しっかりとした地面の感触が伝わってくる。穴が開いているはずなのに、落ちない。レイラは問題なく穴の中へと沈みこんでいるというのに、だ。

 

「覚えていろよアクロス……お前は必ず私が殺す……!」

 

 恨み言を吐きながら、レイラの全身が穴の中へと沈み切り、それと同時にジッパーが閉じて焼失する。その目は、最後までアクロスをにらんでいた。

 いったい何が起きたのかさっぱりわからないが、とりあえずレイラは去ったようだ。いきなり殺しに来といてそれを完遂することなく勝手に帰るとか何しに来たんだろうかと思いたくなる。なんだか拍子抜けした気分だ。

 

「いやいや!オリジオンがまだいるだろ!」

 

 そう。まだ戦いは終わってはいない。近くでは謎のライダー2人がカブトオリジオンと交戦中だ。ならば加勢しない手はない。アクロスは謎のライダー―カブトとガタックに加勢すべく、オリジオンめがけて走り出す。

 

「とりゃあ!」

 

 カブトと殴り合っていたカブトオリジオンの背後から、アクロスは跳び蹴りを仕掛ける。カブトとガタックに集中していたオリジオンはそれを事前に察知できず、背中にもろに蹴りをくらってしまう。

 昨夜アクロスと遭遇しているガタックは、アクロスの姿を見て驚く。

 

「お前は昨日の……!」

「どうした加賀美」

「こいつは昨日現れた謎のライダー……!」

 

 ガタックからすれば、アクロスは敵か味方かわからない素性不明の存在だ。警戒するのも無理はない。

 

「お前はいったい何者なんだ⁉ 」

「話は後でする!少なくとも俺達の敵は共通、ならば今はとにかく共闘した方がいい!」

 

 いろいろと事情を説明すべきなのだろうが、今はオリジオンをどうにかするのは最優先だ。とりあえずお互いの敵が共通であることを告げ、共闘を持ちかけようとする。

 カブトオリジオンは、完全なる部外者であるアクロスが乱入してきたことが気に入らなかったようで、回し蹴りをアクロスに叩き込み、近くのフェンスへと叩きつける。

 

「有象無象がごちゃごちゃと……!アクロス、そんなに俺の糧になりたいのか?なら望み通り打ち倒してやるよ!」

「ぐ……!」

「らああああ!」

 

 すかさずガタックがオリジオンに殴りかかるが、オリジオンはそれを片手で難なく受け流し、仕返しといわんばかりにガタックの胸に肘鉄を打ち込み、腹に蹴りを打ち込んでガタックを吹き飛ばす。

 

「弱いな。これならさっきのドレイクの方がマシだった」

「お前……既に風間を⁉ 」

「ああ。俺はすべてのライダーを倒す。俺こそが太陽なのだから!」

「おかしなことを言うな。太陽は1つで充分、そしてそれは俺だ」

 

 声高らかに叫ぶオリジオンだが、その台詞をカブトは即否定する。その堂々っぷりに思わずアクロスは困惑する。

 

(すごい自信だ……一体何喰ったらそんな自信家になるんだ?)

「そうこなくっちゃ面白くない……それでこそ倒しがいがあるもんだぜカブトオオオオオオオオオオオ!」

 

 カブトの返答を聞いてなぜか昂りだすオリジオン。興奮を全身で表現するかのように、背中の羽を大きく広げ、腰や後頭部の触手をわさわさと動かす。その様子は正直言って気持ち悪い。

 カブトはその様子を見ながら、そろそろ本気を出すべきかと判断し、ベルトにとまっているカブトゼクターのゼクターホーンに指をかける。キャストオフをしようというのだ。加賀美もそれを見て、ガタックゼクターのゼクターホーンに指をかける。その直後、カブトは、近くのアクロスに一応ながら忠告する。

 

「おい」

「?」

「少し離れるか屈むかした方がいいぞ」

《CAST OFF》

「???」

 

 状況が読み込めないアクロスをよそに、カブトとガタックはゼクターホーンを動かす。すると、カブトとガタックを覆っていた厚い装甲が一気にはじけ飛び、周囲に拡散する。アクロスは咄嗟に腕でガードして顔を守るが、そもそも鉄の塊が猛スピードで飛んできて無事に済むはずがない。ガードした腕に跳んできた装甲がぶち当たり、鈍い痛みが両腕に走る。

 マスクドフォームからライダーフォームに変身したカブトは、顎から下に向かって伸びていた角が上がり、複眼が青く光る。そのフォルムは先ほどまでとは異なり、非常にスタイリッシュなものに変化していた。ガタックの方も、折りたたまれていた側頭部の角が上がり、複眼が青く発光する。

 

《CHANGE BEETLE》

《CHANGE STAG BEETLE》

「あれは……!」

 

 アクロスはガタックの方には見覚えがあった。昨晩カブトオリジオンを追っていた際にその姿を目撃したからだ。しかし、マスクドフォームの方は見ていなかったので、この時まで気づかなかったのだ。

 ライダーフォームになったカブトとガタックを見て、さらに感情を昂らせるオリジオン。

 

「ようやく本気を出したか……さあ、俺の速度に付いて来い!クロックアップ!」

「「クロックアップ!」」

《CLOCK UP》

 

 すると、アクロス以外の3人の姿は一瞬にして消え失せてしまった。先ほどのワームの時と同じだ。

 

「またこれだ……一体皆どこに消えたんだ⁉ 」

 

 クロックアップに対抗するすべはおろかその存在さえ知らないアクロスでは、はなから同じ土俵に立つことすら不可能だった。たとえ脅威への対抗策がなくとも、脅威の存在さえ知っていれば最低限助かる道は開ける。しかし、脅威を認識さえできないとなると話は別。早い話、この時点でアクロスがカブトオリジオンに勝利することは不可能だった。

 困惑しながらあたりを見渡すが、常人にはクロックアップの世界を認識することは不可能。そんなアクロスの背中に、クロックアップの世界からオリジオンの一撃がやってきた。

 

「ぐうううううっ⁉ 」

 

背中に衝撃が走ると同時に、アクロスの身体が宙を舞い始める。それを認識した時にはすでに、アクロスの胸部に二撃、加えられていた。キックなのかパンチなのかすらわからない。ただ攻撃されたという結果だけがアクロスの認知下に加えられる。

 先ほどとは反対方向に吹き飛ばされるアクロス。しかし、そこにさらなる攻撃が加えられ、アクロスの身体は再び逆の方向へと吹っ飛んでゆく。その様子は、まるでアクロスをボールに見立てた、透明人間たちのバトミントンのようであった。

 

(何がおきてるんだ……まったくわからねえ!)

 

 手も足も出なかった。クロックアップの世界にただ一人はいることのできないアクロスが集中攻撃されるという結果。一撃しか加えていないにもかかわらず、すでにアクロスはボコボコにされていた。

 それでも立ち上がる。きっと手はまだあるはずだ。考えろ、思考をやめるな。諦めなければまだ手は―

 

 

 

 

 

《RIDER STING》

「え」

 

 

 

 

 

 立ち上がった直後だった。

 突如としてとびかかってきた仮面ライダーザビーのライダースティングが、がらあきのアクロスの胸に直撃した。

 

「ぐあああああああああっ!」

 

 もとよりワームやオリジオンのクロックアップで一方的にやられていたアクロスはその一撃で変身解除にまで追い込まれる。クロスドライバーは瞬の身体から外れ、道路の反対側まで滑るように転がってゆく。瞬は衝撃で5メートルほど吹っ飛ばされ、近くの電柱に身体を強く打ち付けられた後、地面に落ちる。

 先ほどから理解が追い付かない。瞬を置き去りにしていろいろなことが起こりすぎている。瞬は立ち上がろうとするが、身体に力がうまく入らない。まるで羽をもがれた虫のようにもがく瞬のもとに、変身を解いたザビー―影山が姿を現す。

 

「なんだ……お前……!」

「それは此方の台詞だ。上の命令なんだよ、ZECTの関与しないライダーシステムの存在が確認されたから本部まで連行しろってな」

「ZECT……?ライダーシステム……?いったい何のことだ……?」

 

 満足に動けない瞬を取り囲むように、大勢のゼクトルーパーが現れ、瞬の両腕をつかみ上げる。銃を突き付けられた瞬に、影山は言う。

 

「さあ、本部まで同行してもらおうか」

「これ強制連行だと思うんですがそれは」

 


 

 

 その頃。

 公園に残されたヒビキとネプテューヌ。

 

「瞬、まだ戻らないね」

「だね」

 

 ワームを追って行ったきり、瞬が戻ってこない。すぐに戻ってくるだろうと思いながら待ってみたものの、戻らない。

 ヒビキとネプテューヌは、ある一つの可能性に至る。それはアクシデントの発生。予想以上に苦戦しているのか、はたまた別種の厄介ごとに巻き込まれているのかは定かではないが、どうやらこれは長い待ち時間になりそうだ。

 

「先帰っちゃう?」

「なら連絡でもいれなきゃね」

 

 こうなったら先に帰ってしまおうと考えたネプテューヌは、その旨を瞬に伝えるべく、スマホを取り出し電話をかける。が、電波状況が悪いのか、繋がらない。液晶に映るアンテナマークはゼロ。こりゃだめだ。

 

「あっれー?電波通じないぞーおっかしーなー?」

「ちょっとねぷねぷ、何処行くのー?」

「電話かけようにも電波通じてないみたいだから、ちょっと通信環境いい場所求めて旅に出てくるねー」

「ならあんまり遠くまで行かない事、いいね?」

「はーい」

 

 通信環境の良い場所を求めてネプテューヌは公園から離れてゆく。1人残されたヒビキは、トイレにでも行こうとする。

 が。

 

 

 

 

「駄目じゃないか、一人でこんな場所にいたら」

「え

 

 瞬間、ヒビキの視界が真横に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 ドサリと音を立てて、ヒビキの身体が地面に倒れる。遅れて感じてきた側頭部の痛みで、ようやく自分が殴り倒されたのだとヒビキは理解した。

 なんとか視線を上に向け、ネプテューヌに助けを求めようとするが、更なる一撃が頭頂部に炸裂する。頭部へのニ撃による痛みで意識が徐々に薄くなってゆくヒビキに、頭上から声がかけられる。

 

「運が悪かった、なんて思わないでくれよ。悪いのは運じゃない、君なんだ。だって一番近くにいたんだ。君みたいなか弱い女子供が一人でいるなんて、どうぞ好き勝手(めちゃくちゃに)して下さいと言ってるようなもんじゃないか、ねえ?」

 

 声の主は、しゃがみ込んでヒビキの顔を覗き込む。レザージャケットを着た金髪の男だ。一見するとただ笑っているようにしか見えないが、その瞳は酷く無機質。転生者特有の、人を人として見ていない目だ。その発言も、支離滅裂な自己正当化にすぎない。

 ヒビキは知る由もないが、彼の名は司馬神真。灰司が追跡していた転生者だ。

 

「転生者狩りの追跡も振り切れたし、これで漸く趣味に没頭できる。ああ興奮してきちゃうなぁ……」

(ねぷ……てゅー……)

 

 司馬の遥か後方には、この場から離れてゆくネプテューヌの後ろ姿。朦朧とする意識の中で、ヒビキは助けを求めるように手を伸ばすが、その喉からは既に声が出ることなく、彼女の意識は途絶えた。

 意識が完全に落ちたヒビキを縛り上げると、司馬はウキウキ気分でヒビキを担ぎ上げてその場を立ち去る。彼の向かう先には一台のワゴン車。

 助けは、来ない。

 

 

 




カブト編です。結構前から考えてはいました。
ただそれ以外の要素もガン積みしてるからビルド編のようにはいきそうにないです。

基本的にライダー組は原作後で出すつもりなんですが、カブトは数少ない例外。だって出したいキャラが出せなくなるからね。時系列的には加賀美がガタックになったばかりくらいです。
ただ今回は都合上サブライダーの皆さんがほぼ噛ませになります。すまない……またどこかで補填するから許して。

あとストブラ組が久々の登場です。時系列的には少なくとも3巻以降になってます。実質的には初邂逅になるので、作中のような展開になりました。たぶんカミングアウトは先送りになるかな?


何もわからないまま未知の敵と戦わされる面々の運命とかは次回!
ではよいお年を。
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