【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
就活してました。一応内定は取れたので卒論頑張ります。
前回のあらすじ。
・迫真空手部、爆弾魔を追ってみる
・瞬と裁場、爆破事件に巻き込まれる
・灰司、因縁をつけられる
・爆弾魔、静雄を怒らせる
・律刃、重要参考人……?
事件はさらなる混迷を極める……!
※途中汚い箇所があります。大変不快になると思われますのでご注意を
回想2:後悔のデータ
—— 私が、生まれたせいなんですよね?
この悲劇も、今の惨状も。
—— ああ、やめてくれ。
そんな顔をしないでくれないか。そんな事言わないでくれないか。これはお前のせいなんかじゃない。生まれたことが悪いなんて、そんな道理があってたまるか。
悪いのは全部向こうだ。彼女を死なせ、俺達をバラバラにしたアイツらが悪いんだ。
だから、俺は君を逃す。それが彼女と俺の望みだし、奴らへの一番の復讐になるからだ。
—— なんで、そこまでするんですか?真っ当に生み出された訳でもない、異物そのものの私に、そこまでできるのですか?
—— 私には、わからない。
—— 今は分からなくとも、いつかわかる時がくる。人間ってそういうもんだぜ?
お前の幸せが、俺とアイツの願いなんだ。きっと、世の中の親ってこんな気持ちなんだろうな。今ならわかるよ。
—— だから安心してほしい。
—— 生まてきて幸せだった、生きていてよかったと思えるような未来を、お前に与えてやる。
現在
「……はっ⁉ 」
薄暗い部屋の中で、彼は目覚めた。
どうやら、少し眠っていたらしい。そんな余裕はないはずなのに。どうやら、思っていた以上に疲れがたまっていたようで、いつの間にか日が傾いてきているのが、部屋の窓から見てとれる。
ここはとあるビジネスホテルの一室。ロングコートを羽織り、帽子とマスクとサングラスで頭部を徹底的に隠したその人物は、部屋の明かりもつけずに、この中でじっとしていた。受付でもこの格好だったので、フロントの従業員はめちゃくちゃ怪しんでいたが、彼にはそうしないといけない理由があった。
理由は単純明快、彼は今、追われている身である当時に、追っている身であるからだ。
「…………」
しかし、随分と懐かしい悪夢を見てしまった、と彼は思う。正確には、まだ1年前の出来事なのだが、到底思い出したくない過去であることだけは確かだ。あれを思い出してしまうたびに、悲しさと怒りで身体が震えて仕方がない。この思いは、未だに払拭できない。
手のひらを見つめながら、彼はこう言った。
「絶対に、俺がなんとかしてやるからな……」
PM5:16
「つ、か、れ、たぁ……」
瞬の事情聴取が終わったときには、既に夕方になっていた。
あの後、警察や消防隊からもビルの中に突っ込んでいったことをこってりと怒られ、すっかり瞬はしょぼくれていた。まあ、あんなことして怒られない方がおかしいのだ。自らの行いが軽率だったという点に関しては、反省する他ない。
警察署から出てくると、唯達が待ってくれていた。結構長い間経っていたと思うのだが、待っていてくれたことには感謝するしかない。
「御免な、せっかくの休日潰しちまって」
「瞬が謝ることじゃないよ。まさか巻き込まれるなんて思ってもみなかったし。てか、怪我とか大丈夫?」
「アクロスに変身してたから平気だよ。それに、これくらいの怪我ならもう慣れたから」
「それはそれで大丈夫じゃないわよ」
大鳳の冷静な突っ込みに、瞬は言い返せずに縮こまる。
「もう夕方だし帰ろうか。一希さんが腹すかせてるかもだし」
「姉貴自活能力皆無だからなあ。悪いけど俺たちは帰らせてもらうぜ」
アラタは、家で待っている姉のことを心配している模様。瞬達はあったことがないのだが、話を聞く限り、どうやら一人にしたらいけないタイプの人らしい。
ざっと全員の様子を伺うと、各々顔に疲れがモロに出ている。ハルは少し名残惜しそうに、部長らしく解散宣言をする。
「じゃあ現地解散としましょうか。ところで灰司さんはどこにいったのでしょうか」
「あれ、そういえばいないね……」
解散宣言をしながら、ハルが気づいた。
言われてみれば、灰司がいない。どこにいったのだろうか?
「爆発騒ぎが起きた直後は私たちと一緒にいたよね?」
「ええ、そうだったわ。電話は……出ないわね」
大鳳が電話をかけてみるが、反応はない。
「まあ、子どもじゃあるまいし大丈夫じゃない?」
「ンな無責任な……ここあんまり治安よくないらしいから、放置はよくないんじゃないか?あいつ見るからに不良とかに難癖付けられそうな雰囲気してるじゃん」
「なんで僕の方をジロジロ見ながら言ってるの?」
志村のほうをチラチラと見ながら、灰司を心配するそぶりを見せる瞬。灰司の素性を知らない瞬達は、本気で灰司のことを心配しているのだ。流石に揃っていないのに帰るわけにはいかないだろう。
「よし、灰司迎えに行こうぜ」
「いや瞬は無理しないで……」
「無理してないよ。連日いろんな事件に巻き込まれてっからさ、少々タフになってんのよ」
「……ならいいけどさ。あんまり独断専行とかよしてよね」
「え、あ、うん」
――唯のやつ、なんか様子おかしくないか?
瞬はそう思いながらも、いったいどこがそうなのかまではわからなかったので、何も言い出せなかった。
同時刻・池袋某所ビル内
瞬がぐったりしている頃、どこかで見た事あるようなトマト頭がぐったりしていた。
「疲れたなぁ……」
「お疲れ遊矢。インタビュー大変だったね」
「いやー人気者は辛いなぁ」
「無理してそんなキャラにしなくていいから」
色々やりきった感満載の顔をしながら、遊矢は柚子から受け取った缶コーラをがぶ飲みする。柚子は疲れ切った遊矢の姿を見て、なんか萎びたトマトみたいだ、と思ってしまう。まあ実際そうなんだけど。
今日、遊矢はとある雑誌のインタビューを受けていたのだ。一応彼もプロデュエリスト。そして、アクションデュエルの開祖たる父を持ち、かつ自身はペンデュラム召喚の
今日は『榊遊矢と彼の身近な人に聞く!ユースデュエル界のアレコレ!』というテーマだった為、幼馴染みかつデュエル塾・遊勝塾の仲間である柚子も呼ばれたのだ。
「正直言ってデュエルの時よりも緊張するんだよなぁ……何度やっても慣れないな。でも、今回は柚子が一緒だったからいくらか気が楽だったよ」
「まさか私もインタビュー受けることになるなんてね。まあ遊勝塾の宣伝にもなったし、いい機会だったかも」
「こうしてデュエルについて語ると、自分ももっと上を目指さなきゃなって思うんだ。もっと皆を笑顔にできるようなデュエルをしてみせる。そして父さんを追い越してみせるって!」
「あたしも、いつまでもユースに甘んじる訳にはいかないわ。絶対プロになって追いついてやるんだから!」
話しているうちに盛り上がり、疲れも忘れ、遊矢と柚子は互いに拳を突き合わせる。その姿は、異性の幼馴染み同士というよりも、同じ道を進む
「じゃあ帰って特訓といこうぜ」
「上等よ」
思い立ったが吉日。即断即決。遊矢たちは帰ろうとその場を離れる。
ビルの外に出ると、一気に熱気が全身を包み込むようにして襲い掛かる。まだ5月だというのに、随分と太陽は熱心に仕事をしているようで、若干げんなりとした気分になる。
ビルの前の信号は赤。この暑い中信号待ちはキツイものがある。手持ち無沙汰気味に、遊矢は横を見る。そこには。
「狭スギィ!イクイクイクイクイク……ンアーッ!」
「黙れ早漏野郎!それくらいでイクな!ほら三浦先輩も引っ張って!」
「チカレタ……」
なんかいた。
具体的には、浅黒くて体臭のきつそうな男がビルとビルの隙間に挟まっていた。
「何してんだこの人たち……」
見るからに関わっちゃまずいのは明らかだ。ビル同士の隙間に上半身が挟まっている浅黒い男をどうにかすべく、坊主頭の男とさわやかそうな雰囲気の男が彼を引っ張っている。その姿はどこか滑稽だった。周囲の人々は関わりたくないのか、露骨に嫌そうな顔をしながらそれを素通りしている。遊矢もできればそうしたいが、生憎信号待ちをしているので離れられない。迂回しようにも面倒くさい。
何とも言えない顔で遊矢がその光景をチラチラ見ていると、引っ張っていた2人の男が、こちらに気づいて声をかけてきた。
「あ、すいません。ちょっといいですか?」
「え、俺達に言ってる?」
「当たり前だよなあ?」
しらばっくれようと思ったが、坊主頭の男の圧に押され、遊矢は黙り込んでしまう。男たちは柚子にも声をかけてくるが、柚子は嫌そうな顔をしながら言い返す。
「何ですか一体?ナンパですか?」
「ンなわけないゾ。仮にそうだとしてもお前ら両方とも俺のタイプじゃ無いから絶対しないゾ」
「は?」
なんだこの坊主頭、いきなり失礼なこと言いやがって。坊主頭の無神経な発言に、思わず柚子の額に青筋が浮かぶ。それに気づいたのか、もう一人の男がすかさずフォローをいれてくる。
「ああ気にしないでいいよ、この人馬鹿だから」
「……で、何の用ですか?」
「見ての通り助けてほしいんだ。先輩が自分の太さを省みずにこんな隙間に突っ込んだから、僕たち苦労しているんだよね」
「助けてえええ!痛いし狭いし暗いし臭いよおおおお!木村あ三浦あ!あくしろよおおおおおお!」
「黙っててください。それと臭いのは十中八九あんたの体臭だろ」
青年はそう言って、ギャーすか騒ぐ浅黒い男を叱責する。その発言の中に、明らかに私怨が混じっていたのは気のせいではないだろう。
柚子も関わりたくないと思い、適当な理由をつけてこの場から離れようとする。
「あのー私たち急いでるんで……」
「情けは人の為ならずとカッチャマから習わなかったのかゾ?」
「いやそれ助けを乞う側が言うべき台詞じゃないし!」
「僕からも頼むよ。個人的には助けたくないどころかあのまま放置して帰りたいんですけど、助けないと野獣先輩に変な因縁つけられるんだ……頼む!僕の平穏のために君たちの力を貸してほしい!」
「ええ……」
建前をかなぐり捨てて本音まっしぐらな青年の頼みに、思わず遊矢たちは呆れてしまう。完全に自分の保身の為じゃん、という突っ込みすら口にするのも馬鹿馬鹿しくなるほどだった。
はてさて、彼らを助けるべきか否か。男たちの後方で騒いでいる被害者の醜態、坊主頭の威圧、青年の本気で助けを求めるか如くかわいそうな目付き。それらを総合的に判断し、遊矢はため息交じりに結論を出した。
「仕方ない……助けよう、柚子」
「ええっ⁉ この人たちを⁉ 」
「その方が手っ取り早い気がしてきた」
「ああもう……しょうがないわね……!」
その言葉に、青年は歓喜の声をあげた。
「ありがとう2人とも!じゃあ早速てつだってほしい!」
「やれやれ……」
頭を抱えながら、遊矢と柚子は男の元へと向かう。どうやら自分は、災難から逃れられない星の元にいるらしい。そんな自嘲めいた考えが、遊矢の頭をよぎるのだった。
AM9:01
「追うわよ!爆弾魔!」
「導入部分キンクリしやがったなこいつ」
遠山キンジの休日は、神崎・H・アリアのその一言であっけなく吹き飛ばされた。
「池袋で頻発する爆破事件、知らないわけではないでしょ?」
「武偵高にいたら嫌でも耳に入るって―の」
わざとらしい溜息をつきながら、キンジは答える。
ここは東京都立武偵高校。レインボーブリッジ南の人工島に設立された、武装探偵の養成機関である。キンジもアリアも、武偵見習いとして日々訓練に励んでいる。
そして、武偵高の生徒は、民間から有償で依頼を受けることができ、その成否も成績に反映される。世間を騒がせる凶悪犯の追跡だってできる。確かに、爆破事件の犯人捕まえられたら評価もうなぎ上りかもしれない。しかし、キンジは乗り気ではない。
「いや流石にきつくないか?春先から掲示板に張り出されてはいたけど、全員リタイアしてる難関依頼だぞ?」
「だからよ。武偵として見過ごせないでしょ」
「なんで俺の周りのヤツらは話を聞いちゃくれないんだ……」
キンジの悲痛な叫びは、出た瞬間に虚空に掻き消える。全国の主人公諸君に安寧が訪れることはないのである。
「あんたは私のパートナーなのよ?拒否すればどうなるか、わからないわけではないでしょ?」
「ったく……ああ分かったよ、行けばいいんだろう?」
自分の意見が通らないことには慣れている。アリアの横暴っぷりにも慣れている。彼女の言うとおり、キンジはアリアのパートナーなのだ。ならば、火中の栗とわかっていようが飛び込むしかないのだ。彼女を引き戻せるのは自分だけなのだから。
「まあ行けるだけ行ってみるか……なんかろくでもない雰囲気しかしないけど」
「事件は全部ろくでもないものばかりじゃない。ほら、行くわよ」
学生寮を飛び出した2人を、その人物は遠くから静観していた。
その手には、ぐしゃぐしゃになったキンジの顔写真が握られている。
「遠山キンジ……お前を殺してやるよ……」
PM5:40
――というような経緯で始まった今回の仕事だったのだが。
「ここが昼間爆発騒ぎがあったところか……」
2人は、昼間に爆発騒ぎがあったというアパートにやって来た。本来ならばもっと早く来たかったのだが、謎の黒バイクと変な集団のチェイスに巻き込まれたり、ホモの三人組に絡まれたりとさんざんな目に合ったのだ。道中のさまざまなトラブルのせいで、キンジ達の気力は既にごっそり削られていた。
今2人は、現場付近を流れる川の橋の上から、事件現場を眺めていた。橋から見える現場には、既にビニールテープが張られている。今から行っても、既にわかりやすい証拠は警察の方で見つけているだろう。だが、2人は武偵。そんな理由で諦めるなんて論外だ。
「もう一件の現場も見て回るか?結構な家事になったらしい」
「ようやくまともな捜査ができる……なんで本編に入る前にここまで苦労するのよ……」
「それについては同感だ。さ、暗くなる前にいこうぜ」
そう言って、キンジは橋を渡り終え、土手の上へと踏み出す。すると、
「ちょいと待て、そこの兄ちゃん、わしらと遊ばないか」
「…………」
「…………変態だ」
後ろから声をかけられ、振りかえるキンジとアリア。そこには、褌と地下足袋だけを身に纏ったおっさんと、いかにも浮浪者ですといったいで立ちのおっさんが立っていた。2人ともアリアには目もくれず、キンジの方を凝視している。
キンジは身震いした。今の“遊ぶ”のニュアンスに、危険なものを感じたからだ。そんなキンジの気持ちに気づいてないのか、知っていて無視しているのかは定かではないが、おっさんはキンジの肩に手を置いて続ける。
「土手の下で糞遊びしようぜ」
「嫌だ!」
なんか明らかに文字に起こしてはいけないような、ピー音で隠さなきゃいけないような単語があったような気がする。とにかく、こいつは危険だ。
キンジとアリアは、それほど多いわけではないが、それでも数少なくない死線を潜り抜けてきた。ゆえにわかる。目の前にいるのは、そういった死線とはまったく別種の危険性を有している。明らかに異質なものであった。
「まさかこいつらもイ・ウー⁉ 」
「いや、流石にこんな奴らを仲間認定したら可哀想だと思うぞ……気持ちはわかるけど!あとむやみに銃抜こうとしない!」
「だけどっ……」
おっさんと浮浪者に引っ張られるがまま、キンジは土手の下へと連れてゆかれる。こんな状況といえども、むやみに銃を抜くわけにはいかないのだ。ゆえに、アリアもキンジも迷っている。
すると、おっさんがふと、アリアの方を見た。彼は、アリアをまじまじと見つめると、心底げんなりとしたように一言、こう言った。
「すまないが幼女はNG」
「だれが幼女よこの変態野郎!あたしは高2だっつってんだろうがっ!」
あの野郎、アリアの地雷踏みやがった。気にしている幼児体型のことを指摘されたアリアは、激昂して今にも発砲しそうになる。やめてくれ、今やったら洒落にならない。
「待て待て!いくらかんでも撃ったらマズいだろ⁉ 」
「いや公然猥褻で突き出してやるわよ⁉ 」
「どかちゃんや、お主のストライクゾーンは40歳以上だったと記憶して居るが……」
「にいちゃんがいないからこいつで」妥協するぜ。折角上京したのににいちゃんと連絡付かねえとか、悲しくて気が狂う」
キンジ達の絶叫を意に介することなく、おっさん達は嬉々として変態トークに花を咲かせている。キンジは必死におっさん達の手を振りほどこうとするが、彼らは予想以上に力が強く、なかなか振りほどけないでいる。
「兄ちゃんみたいなモヤシ野郎が、土方仕事で鍛えたこの身体に勝てるわけがねえぜ」
「楽しみじゃなあ、けつの穴こじ開けるの楽しみじゃなあ!」
「大変不謹慎なこと言うんだけど、こういうのって俺みたいな男子高校生よりももっと別の人がやられるのが普通じゃないかなあ!」
残念だがキンジよ、世の中には特殊な嗜好を持つ人も多数いるのだ。事実、おっさん達はひどく興奮した様子で、キンジのズボンのベルトを外そうとしてくる。
キンジの貞操が危ぶまれる中、アリアは手をこまねいている。体格では圧倒的に不利、拳銃もむやみに使えない以上、どうすればいいのか。
「もう何とかしなさいよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼ 」
その声を、聞いた者がいた。
「そこまでだ!」
「ぐひゃあっ!」
そんな情けない悲鳴を上げて、浮浪者が横に吹き飛んだ。
「誰や、わしらのプレー(意味深)の邪魔をする奴は!」
おっさんは慌ててキンジから手を放し、あたりを見渡す。しかし、あたりには誰もいない。アリアは相変わらず自分の目の前にいる。彼女はまだ銃を抜いてはいないし、仮に接近戦にもちこんでいたとしても、距離的に、浮浪者を攻撃できるわけがない。
正体不明、現在地不明の邪魔ものを警戒するおっさん。しかし、その人物は既におっさんの背後に回り込んでいた。
「捕まえたぞ、彼を離すんだ」
「お前、こんなことしてタダで済むと思うなよ、お前の故郷糞まみれにしt」
「うぇえええええいっ‼ 」
おっさんがそう言い終わる前に、乱入者の見事な一本背負いが炸裂した。綺麗に投げ飛ばされたおっさんは、縁石に頭を強打し、ふらふらと立ち上がった後、
「ああ~気が狂う!」
そう言っておっさんは気絶した。浮浪者の方は、気絶したおっさんを背負うと、橋の下の方へと逃げ帰っていった。
「た、助かった……まじでやばかった」
かくして、キンジの貞操は守られた。キンジとアリアは、力なくその場にへたり込む。これまで生きていた中で、冗談じゃないくらい危なかったような気がする。武偵として潜り抜けてきた死線よりも生きた心地がしなかった。願わくば、今後一生このような目にはあいたくない。ほんとに、だ。
緊張が解け、乾いた笑いをこぼすキンジの元に、救世主が駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
救世主の正体は、背が高めの茶髪の青年だった。その場にあおむけに寝転がっていたキンジは、彼から差し伸べられた手を取り、上体を起こす。
「ああ、お陰様で……情けない所さらしちまったな……くそっ……」
「助かったわ……で、アンタ何者よ?なんか随分と身のこなしが良かったけど……」
「仕事柄手荒事が多くてな。とにかく、無事でよかった」
安堵するキンジ達の元に、土手の上の方から声がかけられる。声のした方を見ると、土手の上から数人の少年少女が、此方に向かって駆け下りてきていた。
それはチャラそうな見た目の男子高校生だったり、緑の髪に黒いリボンが特徴の小柄な少女だったり、興奮気味のボブカットの少女だったり、もみあげがやや長い茶髪の少女だったりと、まあなんだ、いろいろとやってきていた。
彼らが誰かなんてキンジ達には知る由もないが、念のため言っておくと、アラタ、山風、ハル、大鳳である。瞬達とは別行動で灰司を探しに行っていたのだ。
「あの人たちは?」
「ああ、ちょっとバイクエンストしちゃってて……あいつらが助けてくれたんだ」
「ちょっとおおっ⁉ どこ行ってたんですか⁉ 」
「見ちゃいけないものを見てしまった気がするのよね……気のせいと思いたいけど……」
「いやあ見事な立ち回り……逢瀬さんよりすごいのでは?」
「さっきのおっさん達、どっかで見覚えがあるような……まさか、な?」
大鳳は本能的に忌避感を抱き、アラタは、先ほど達のおっさん達に心当たりがある様子。前世の記憶をも辿ってみるが、脳が知ることを拒否しているのか、なかなか思い出せないでいる。
「とにかく、ありがとう。あの……名前を聞いてもいいか?」
キンジは、青年に名を訪ねる。
青年は、それに答える。
「俺か?俺は
彼らは知る由もないが、それは、運命にあらがう戦士。
瞬のあずかり知らぬところで、ここにひとつ、新たな運命が参入していた。
AM4:55 池袋某所
「ORDERRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!」
(ああもう!何時もの事とはいえ、なんなんだ一体⁉︎ )
セルティ・ストゥルルソンは、バイクを全速力で走らせながら悪態をついた。
彼女の後方からは、大地を揺るがすがごとく咆哮をあげながら、あるモノが追ってくる。それは、巨大な人間の頭蓋骨にキャタピラがついた姿をした、異形の存在だった。それが、機関銃をぶっ放しながらセルティを追ってくるのだ。
いつも通り運び屋としての依頼を受けたはいいが、早々にこんな状況に陥ってしまった。一体どこからこいつが現れ、なぜセルティを追ってくるのかはわからない。だが彼女は、最初からなんとなくろくなことにはならないだろうな感じていた。
(なんでこんな依頼受けてしまったんだろう……)
話は数刻前に遡る。
「これを、この住所に」
依頼人を名乗ったその人物は、見てくれからあからさまに怪しかった。なんせ、帽子を目深くかぶり、顔にはサングラスとマスク、その上大きなトレンチコートを身に着けている。こんな格好をしてれば『どうぞ私は不審者です。通報なり逮捕なりご自由にどうぞ』と言っているようなもんである。
しかし、セルティはそれについては別段驚くようなことはなかった。仕事柄、自分の正体を知られたくないという依頼人もたまにいるのだ。セルティの仕事は、所謂運び屋。社会のアングラな部分を駆け回る、いろいろときな臭い仕事だ。
目の前の依頼人は、住所らしきものが書かれた紙を渡しながら、セルティに頼み込んできた。
『いや、それなら宅配業者に頼んだ方がいいんじゃないですか?』
セルティは冷静に、PDAで文字を打ち、その画面を依頼人に見せる。訳あって彼女は声を出せない。なので、基本的にセルティはこのようにしてコミュニケーションをとっているのだ。
セルティの指摘に対し、依頼人は肯定するかのようにうなずく。かなりアンダーグラウンドな世界の住人である彼女に頼むというのは、依頼者か運搬物、どちらかに後ろ暗い事情があることに他ならないのだ。
「本当なら俺が直接届けたかったんだが、生憎俺は今命を狙われているんだ。それに、追っ手もこれを血眼になって探している。だからある程度腕っぷしの立つ奴じゃないと任せられないんだ。その点貴女は大丈夫だ。なんせ■■■■■■■だからね」
依頼人の発言に、セルティは動揺した。なぜならそれは、ごく一部の人物しか知らないことだからだ。普通ならば決してたどり着くことのないその事実をさらりと言い当てた依頼人に、セルティは警戒態勢を取る。そして、その出所を訊く。声はないはずだが、PDAに打ち出されたその文章からは、ぴりついた雰囲気が確かに伝わってくる。
『失礼ですが、誰からそれを?』
「仕事柄そういったものに縁があったのさ。それで貴女のことを知った」
『……貴方は何者なんですか?』
「お互いのためにも、無用な詮索はよしてくれないか。依頼が果たされるまで、私の素性を明かすわけにはいかない」
答えになっていない。その件については話す気はないらしい。
セルティが纏うぴりついた雰囲気に動じることなく、依頼人は話を続ける。
「怪しむのも無理はない。なんせこれは
『まあ、報酬については文句ないのですが……』
「すまない、話はここまでだ。それでは頼んだぞ」
『ちょっと⁉ まだ話は――』
セルティの言葉を無視して、依頼人は逃げるようにその場から走り去ってゆく。
『……それにしても、これは一体なんなのだろうか』
「ORDERRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!」
回想を打ち破るように、けたたましい音をたてて機関銃が放たれる。
セルティはバイクのアクセルを強く回す。それと同時に、彼女の身体から黒い影が噴出し、彼女とバイクを覆うようにして広がってゆく。化け物がセルティに向かって放った機関銃の掃射は、影のヴェールによってそのすべてがはじかれる。
(くそっ!こうなればやるしかない!)
掃射がおわったのを確認すると、セルティは悪態をつきながらヴェールを解く。すると、輪郭を失った影がセルティの左手に集まり、巨大な鎌を形成する。それを見た化け物がスピードを上げてセルティに突っ込んでくる。そして、口から光線のようなものを吐き出してきた。
すかさずセルティは、バイクごとジャンプをし、空中でハンドルを右にきり、化け物と正対する。化け物が放った光線は、誰もいない道路を容易くえぐり取ってゆく。
(これでも食らっていろ!)
セルティは心の中でそう毒づきながら、影の大鎌を振りかざす。大鎌の鋭い一撃は、化け物の頭部上半分を気持ち悪いくらいに綺麗に切断する。化け物の光線が止まり、セルティは地面に着地する。
――なぜだろうか。これで終わったとは全然思えない。
そして、その予感は的中する。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
(やはりこれくらいでは死なないか……!)
鼻から上を失った化け物は、早朝の街一体に轟くような咆哮をあげながら、再び動き出した。セルティはすかさずUターンをし、再び化け物に背を向ける。
「UBBNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN!!」
化け物が叫ぶと、頭部の切断面からいくつもの触手のようなものが生えだし、セルティに向かて伸びてきた。すかさずセルティは大鎌で触手を切断するも、触手は即座に再生し、再びセルティに襲い掛かってくる。もうなんでもありである。
これまでも何度もドンパチに巻き込まれてはきたが、まさか自分と同じ正真正銘の化け物と戦うことになろうとは思わなかった。果たして今回は無事に帰ってこられるのだろうか。今回の依頼を受けたことを後悔しながら、セルティはT字路を右に曲がる。そして、歩道橋を潜り抜けた直後だった。
「だーいぶっ♪」
(へっ⁉ )
いきなり、上から誰かが落ちてきた。セルティの背中に、何者かの体重を感じる。振り返ると、小学生くらいの女の子が、セルティにしがみついていた。
「ごめんね、乗せてもらうよ」
(え、いや、何?)
彼女はそれだけ言って、後ろの方を指さした。
「ちょっと厄介な事になってな……ほらきた」
セルティは、これ以上厄介なことになるの⁉ と叫びたくなった。きっと自分に顔があったら、露骨に嫌そうな顔になっているだろう。そう思いながら、少女が指さした先を見てみる。
そこには、先ほどの化け物に加えて、複数人の男女がこちらに向かって走ってきていた。バンダナを巻いた青年や、どこぞの魔法少女のようなコスチュームに身を包んだ少女、全身包帯まみれのマッチョに、空飛ぶ車椅子に腰掛けた女性。まるで下手な少年漫画や中二病系ライトノベルにでてきそうないで立ちの少年少女が、一斉に追いかけてきていた。
「なんで逃げるんすか!ちょっと話を伺いたいだけなんすよマジで!ほんとややこしくしないでくださいよおおお!」
先頭を走るバンダナの青年が、悲痛そうに叫ぶ。
「不審者感丸出しの格好で追っかけきたらそりゃあ逃げるよね」
「いや事情聴取から逃げるから……ほら!任意同行拒んだら厄介なことになるんだって!君のためにもほら、ついてきてよ!」
「やだよ。あなたたちは信用できない。おかあさんも大体同じだよ。いい加減にしないとバラバラにしちゃうけどいいの?」
(あれ、さっきと雰囲気が全然違う……?)
少女の言動に、セルティは違和感を感じた。
なぜなら、先ほどまでとは全然雰囲気が違うのだ。どこか大人びた印象だったのに、今は、すごいあどけなさというか、そういった類のものを彼女から感じる。
「そこのバイクの人も止まってね。あたしたち、」
が、忘れてはいないだろうか。
一体セルティが何に追われているのか、ということを。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
セルティを追ってきた化け物が、歩道橋をゴールテープのようにぶち破りながら突っ込んできた。派手な音を立てて木っ端微塵に砕け散った歩道橋の残骸が、周囲に降り注ぐ。
化け物は、自分達の目の前にいるコスプレ集団を無視して、セルティに向かって触手を伸ばす。いや、正確には、彼女の乗るバイク、もとい愛馬コシュタ・バワーの荷台に括りつけられている荷物。本日の依頼の品だ。セルティはアクセルを全開にするも、それ以上のスピードで触手は迫りくる。
もう少しで接触する。そう思った矢先、
「鬱陶しいよ」
(!!)
荷物の上に腰掛けていた少女が、どこからか取り出したカッターナイフで、伸びてきた触手をいともたやすく切り裂いた。切り落とされた触手は、なおもセルティに迫ろうとしたが、少女は続けざまに触手を斬りつけ、細切れにしてしまった。
化け物はキャタピラをさらに早く回して追い付こうとする。しかし、化け物もまた忘れていた。勝手に割り込んできた第三勢力の存在を。
「さっきからてめえ邪魔なんだよぶん殴るぞ!」
「吠えるな煩い口縫い合わせるわよ!」
「邪魔するな!」
白い少女を追ってきた集団が、一斉に化け物に襲い掛かってきたのだ。ある者は自身の身体に巻かれた包帯を伸ばして、ある者は手に持ったステッキからビームを放って、ある者は指先から無数の弾丸を放って、各々が思い思いの方法で攻撃を仕掛けてきた。
化け物はセルティ追跡の邪魔をする少年少女が。少年少女は白い少女を追う邪魔をする化け物が。互いが互いを邪魔ものと認識した、それが衝突を引き起こした。
「今のうちに!」
少女に促されるがまま、セルティはバイクを走らせる。唯一戦闘に参加していないバンダナの青年が、遠のいてゆくバイクを指さしながら、泣きそうな声で叫ぶ。
「ちょ、気持ちはわかるっすけど逃げられちゃうっすよおおおおお!俺戦闘向きじゃないからあれ一人で追うの無理なんすよおおおお!」
その時、誰の耳にも届かない泣き言を叫ぶ青年の元に、一人分の足音が近づいてくる。
「面倒なことになってんな……」
「あ、先輩!」
そこに現れたのは、無束灰司だった。
「朝っぱらからギャーギャー騒いでんじゃねえっての。そんなやつ一瞬で始末しちまえよ」
「でもコイツ、再生するしめっちゃでかいんすよ……」
青年の泣き言を聞いた灰司は、同僚たちと戦う化け物を一瞥すると、青緑色のバックルとグリップのついた緑色のゲームカセットのようなものを取り出し、バックルを腰に巻き付ける。
「ならコイツで殺すか」
《仮面ライダークロニクル!》
「ここは任せろ、変身」
《ガシャット!天を掴めライダー!刻めクロニクル!今こそ時は極まれり!!》
バックル前面にある「A」と書かれたボタンを押し、カセットをバックルに差し込む。すると、グラフィックを模したゲートが上部に放出されるとともに、灰司の前面に針のない時計が表示され、ゲートが自動的に降下する。そして、灰司の身体は緑と黒を基調としたライダー――仮面ライダークロノスに変身した。
クロノスは、自分に向かってやってくる化け物を挑発しながら、こういった。
「こいよ化け物。俺が神判を下してやる」
PM 5:00
というようなことがあった。
「しかし、なあ」
灰司は、スマホの中の律刃の画像を見つめながら、そうぼやいた。
一体彼女が、何故この事件に絡んでいるのかはわからない。だが、むざむざ彼女を信じてやるほどの義理はない。たとえ犯人でなかろうとも、事件をいたずらに引っ掻き回すような輩を放置するわけにはいかない。不確定要素はあってはならない。本気で何かを守りたければ、性悪説を支持すべきなのだ。
「守りたきゃすべてを疑え……か」
―― 守るものなんかないのに?
自分で発した言葉が馬鹿らしくなって、思わず灰司は笑みをこぼした。だいたい、今更自分が何かを守るだなんて、おこがましいにもほどがある。なんせ、
「しかしこの街はアマスベに負けず劣らずイカれてやがるぜ。」
灰司は、スマホをしまってあたりを見渡す。彼の周囲には、何人もの不良少年が彼を取り囲むようにして立っている。今の時代に、こんな奴らがまだ存在していることに心底驚いている。なるべく目立たないように猫を被っていたつもりだが、彼らのような人種にとっては、絶好のカモのように思われたのだろう。目立たないように生きるのは思った以上に難しいようだ。
先頭に立つリーダーらしき青年が、灰司にガン飛ばしてくる。見るからに頭が悪そうで、話も常識も通じなさそうな雰囲気に、灰司は内心辟易していた。
「お~いそこのスカした糞野郎くうううん?俺達さあ、ちょいとお金に困ってんのよ。未来ある若者への先行投資と、その態度で俺達を不快にした慰謝料、合わせて一人3万くらい寄付してくれませんかあ?」
こいつらは転生者ではないようだが、頭の出来はどっこいどっこいだ。灰司は青年のガバガバ理論に呆れながら、とりあえず返答してみた。話が通じるとは思えないが、一応、だ。
「アホか。俺はお前たちより年下だから、お前の理論に則ると、俺の方が未来ある若者ということになると思うんだが。それにだ」
「あ?」
「仕事の邪魔すんなKY野郎」
青年にここから先の記憶はない。理由は単純明快。灰司に顔面ど真ん中をぶん殴られたからだ。
鼻血をまき散らしながら、リーダー格の青年は地面に倒れ伏した。それを見て、周囲の不良少年たちが、一斉に灰司に敵意をむき出しにする。丁度いい獲物から、自分たちに歯向かう不届き者へと、認識が切り替わる。
「……治安の悪さはどこの世界も変わらないな」
しかし、灰司に彼らに割くような時間はない。
灰司は驚異的な跳躍力で飛び上がり、殴りかかってきた不良の頭を踏み越え、そのまま包囲網を軽々と飛び越える。
「てめえ!俺を踏み台にするとはいい度胸だな!」
「くそう!リーダーの敵討ちだ!野郎ども行くぜ!」
躍起になって灰司を追いかける不良少年達。面子をつぶされた彼らの怒りはとどまることは知らない。どこまでも敵を追う、獣でしかない。
灰司は、近くの曲がり角を右折する。不良少年たちも、その後の続く。が、曲がり角を超えた先には、灰司の姿はどこにもなかった。右折した先は一本道。隠れられるような場所もないはずなのに、だ。
「いねえぞ!何処隠れやがった⁉ 」
「小賢しい奴め……どこまで俺達を馬鹿にすりゃあ気が済むんだ!」
馬鹿にするも何も、勝手に挑んで勝手に返り討ちにあっただけなのだが、彼らにそんな道理は通じない。
辺りには、負け犬の遠吠えだけが響き渡っていた。
その様子を、灰司はカーブミラー越しに見ていた。
そこは、兎に角異質だった。生物は微塵も存在せず、静寂だけが闊歩する無機質な都会。そして、随所に散見される鏡文字。ここは、鏡の世界。普通の手段では決して立ち入ることは叶わず、されども一度入れば帰還できる保証はないし、長居すれば消滅してしまう。そんな場所に灰司はいた。
鬱陶しい不良少年たちから逃れ、一息ついた灰司だが、そこに再びスマートフォンの着信音が鳴る。電話に出ると、AMOREの上司からだった。
『随分と騒がしかったようだが、一体……』
「ああ、野良犬に絡まれていただけだ。それよりも、オリジオンが見つかったのか?」
『そうだ。場所はそう遠くない、すぐ向かってくれ』
新たな仕事。転生者狩りに安息はないのだ。
灰司は通話を切ると、鏡の世界をさっそうと駆け抜けていった。
PM 5:33
瞬達は、二手に分かれて灰司を探していた。一応ながら、チーム分けとしては、瞬・唯・志村・湖森
「ったく、何処行きやがったんだ」
「だけどさ、置いて帰るのもあれだもんね……あんまり遅くならなきゃいいけど」
「僕らの方が迷子になったりしてね」
志村と唯は随分と気楽そうに見えるが、本当に大丈夫なんだろうか。既に日が落ちかけているし、あんまり買えるのが遅くなると家族に怒られてしまう。
そう思いながらも、灰司探しを続ける瞬達は、とある公園に立ち寄った。すると、
「お~い瞬くううううううん!」
見覚えのある変なおねーさんが手を振りながら此方に走ってきた。こんなことしてくるような年上の女性の知り合いは1人しかいない。もちろんトモリさんである。
実質的なファーストコンタクトで既に彼女に対する心象が地に落ちている瞬は、露骨に嫌そうな顔をする。一応彼女を助けたことはあったものの、それとこれとは別なのだ。
「うわあ不審者だ」
「不審者じゃないってえの!港トモリ、ピッチピチの19歳だってばよ!まあもうじき二十歳の誕生日なんだけどね」
「クソほどどうでもいい」
特に必要のないトモリの誕生日の情報を受け取らされた瞬は、さっと後ろに引いて唯にバトンタッチする。一応瞬よりは仲いいだろうし、それならば唯に押し付けた方がいいに決まっている。
「トモリさん、どうしたの?」
「事情聴取終わったから追っかけてきたんだ~」
「この人知り合い?なんか変な人だなあ」
「うん、悲しいことに知り合いなんですよね」
悲しいことに、である。悲観している瞬だったが、そこにもうひとつ、聞き覚えのある声がかけられる。
「君は……また顔を合わせることになるとは、奇遇だな」
瞬はその声を聞いて、ばっと顔を上げる。眼鏡越しにもわかるその眼光の鋭さは、たった数時間で忘れることはできない。瞬は声の主の名を、恐る恐る口にする。
「裁場さん……」
そう、昼間に出会った武偵の青年・裁場誠一であった。隣には、見知らぬ男性が一緒に立っている。
「彼が君と話がしたいというので、連れてきた」
そう言って、裁場は隣に立っていた男性にバトンタッチする。となりの男性にも見覚えがある。あのビルから投げ出された所を、裁場に助けられた人だ。片目が隠れるほど長い前髪以外に、これといった特徴のない、細身の男だ。
「ああ、お前もあの事件に巻き込まれたのか。君、炎の中突っ込んでいった人だろ?この武偵さんから話は聞いたよ。勇気あるなあ……ありがとう」
「俺は何にもできていませんよ。ただ余計な迷惑をかけただけで」
「そうだ。君の行いは褒められたものではない。正義感だけで突っ走れば、自他を傷つける事につながるということを肝に銘じておけ」
「はい……」
念を押すように、再度叱られてしまった。だが、彼の言っていることは間違ってはいないのだ。本気で瞬のためを思って、このようなことを言っている。ゆえに、瞬は裁場に反論ができない。
自省して黙り込んだ瞬。裁場は、男のほうに話しかける。
「ご自宅までお送りしましょうか?」
「いや、いい。外せない用事があるんだ」
「そうか……それなら、ここで。君も、俺みたいなやつとは二度と出会わないことを願っているよ」
そう最後に言い残し、裁場と男は去っていった。唯は、裁場の言動に不満がある様子。
「あれが瞬が言っていた人?なんか感じ悪い……」
「いや、でもあの人の言うとおりだ」
しかし、瞬は唯の怒りをなだめる。あの叱責は、瞬の至らなさが原因なのだから、此方が怒る正当性はないのだ。瞬はそれを理解している。それでも納得いかない態度を見せる唯とトモリだったが、
「あの人……裁場さんがいなかったら、あの男の人は助かっていない。俺じゃ届かなかった命を、あの人は救ってしまえる、そんな人なんだよ。俺なんかよりも立派な……ヒーローだ」
その言葉を聞いて、唯は何も言えなかった。それでもなおも、トモリはなんとか反論しようと、瞬をほめようとする。
「いやいや、瞬くんは立派だって!2回も助けられた私が保障す……」
と、言いかけたところでトモリの声が止まった。瞬は、どうしたと声をかけようとしたが、その前に、トモリは突然お腹を押さえてうずくまりだした。
「おなかいたたたたたたたたた……」
「え、ちょちょちょ大丈夫⁉ 」
「ごめんね、わたし昔からおなか弱くて……些細なことですぐこうなっちゃうんだよね……」
「あーわかります。僕も小さいときはそんな感じでしたよ」
志村は変なタイミングで共感するんじゃない。
まるで陣痛でも始まったのかといわんばかりに痛がるトモリは、公衆トイレのある方へと歩き出す。その足取りは、まるで生まれたての小鹿のようにプルプルと震えている。
「大丈夫、少し休んだら治ると思うから……いででででで……」
「ならいいんだけど……一応トイレまで連れていってあげますよ」
湖森が心配して、トモリをトイレに連れていった。
遠出してきたはずなのに、結局いつもと変わらないじゃねえかと、瞬は自嘲するのだった。
「…………」
その人物は、それを見ていた。
帽子とマスクとサングラスで顔を隠した典型的な不審者ルックスの彼(?)は、公園の茂みに身を隠している。10人中15人は怪しい奴だと断言するような格好のその人物は、必死に息を殺しながらサングラスの下で目線を動かす。
その顔が向いている方向には、先ほど裁場達と別れた瞬達がいるのだが、彼(?)が瞬達に注目しているのか、はたまた裁場達に着目しているのか、それは他者からは判断しかねる。
彼(?)は、手元のスマホの画面に目をやるかのように、顔を少し俯かせる。画面には周囲のマップが表示されており、そのうえでは赤い点が一方向に動いている。マップ上でなにかの位置情報を見ているのだろう。その人物が動いていないにもかかわらず、マップ上の赤い点が動いているのを見るに、確かめているのはその人物本人の位置情報ではないことだけは確かだ。
「さあどうくる……お前の餌はここにいるぞ……」
限りなく小さな声で、そう呟く。
彼(?)の役割は陽動。そのためにわざわざ首無しライダーに大枚をはたいて、自分の命よりも大事なものを預からせたのだから。
そして、それが無駄にならないことを知っている。これから何が起きるかも知っている。そのうえで、多くの人を巻き込んでしまっている事実に申し訳ないとも思っている。
だが、やめるわけにはいかなかった。
これは、自分の半生への決着なのだ。
「ボマー……いや、■■■■……今日こそお前から取り返す……」
同時刻
公園の一区画。とあるベンチにて。
ハゲとデブ、ふたりの中年男性がベンチに腰掛けて会話をしていた。
「また予算申請きてますよ……そう簡単に通るわけないというのに、ほんと、何考えてるんだか」
「現場の奴らは我々事務側のことを何にもわかっちゃあいない。向こうは向こうで、我々のことを、現場をわからない上役と思っているだろうが、それはお互いさまではないかと私は思うのだよ。違うかね?」
「私も最近になってようやく理解できましたよ。上に立つというのは、中々に苦労しますねえ」
スマホの画面を見たハゲがため息をつき、話を聞いたデブが共感するかのようにうなずく。なんだかよくわからないが、いろいろと仕事のことで不満があるようだ。
そんな、どこにでもあるような、ありふれた光景。そこに、一人の男がやって来た。
フードを目深く被り、顔を隠したその男は、デブとハゲの前に立つ。2人の方も、自分達の前に突然現れ、無言で立ち尽くしている男に不気味さと鬱陶しさを感じ、追い払おうとする。
「なんだね君は。私達に何か用でもあるのか」
「…………」
「何とか言ったらどうだ?私は忙しいんだ。君のような人間にかまっている暇などないのだよ」
「そ、そうですよ。言っときますけど、不審者として通報してもいいんですよ?そうすれば――」
「見つけたぞ。AMORE経理課長・篠原治、人事部長・八手恵一だな?」
「え」
2人のおっさんに詰められたフードの男は、2人の名前と立場を言い当てた。彼の言うとおり、彼らもまた、AMOREの職員。しかし、彼らは灰司のように前線で戦う実働部隊というよりかは、どちらかというと事務的な役割を担っている。
フードの男は、2人を見下すかのように立っている。しかしながら、おっさん達は彼に対する心当たりがない。
「俺の顔を忘れたとは言わせんぞ」
「な、貴様は――」
男たちは、フードを脱いだその人物の素顔を見て、驚愕の表情を浮かべる。そして、大声を上げようとしたハゲ頭の男の顔面を鷲掴みにすると、ぎりぎりと男の身体を片手で持ち上げてゆく。
デブの方はベンチから転げ落ち、尻餅をついたままじりじりと後ずさってゆく。ハゲを助けるという選択肢は、その男の頭には浮かばなかった。そんなことをする度胸もなかった。ただ歯をガチガチと鳴らしながら後ずさってゆくことしかできなかった。
「なんでっ……今更……!」
「起爆だ」
瞬間、ハゲの中年男性の頭が風船のように破裂した。
その音は、瞬達の元にも聞こえてきた。
パンという、現代日本には不釣り合いな乾いた音が、周囲の喧騒を一気に鎮静させる。それから少し遅れて、周囲に焦げ臭いにおいが漂い始めた。
「何⁉ 今の音なに⁉ 」
「なんだこの焦げ臭いにおい……」
「あっちの方からするね……行ってみる?」
「ちょ、危ないって!ねえトモリさんも逢瀬くんもとめな……って行ってる⁉ 」
「お兄ちゃんが止まるわけないんだよなあ」
静止しようとする志村の声を振り切り、瞬達は異臭のする方へと走り出す。
少し走ると、人気のない噴水広場にたどり着いた。なぜかこのあたりだけ、やけに静まり返っており、噴水の音だけが周囲に木霊している。瞬が異様な静けさに違和感を感じて立ち止まっていると、前方から、なんだかやけに切羽詰まったような足音が聞こえてきた。
「~~~~~~~~~~~っ‼ 」
それは、声にならない悲鳴を上げながら、必死の形相で此方に走ってくる太った中年男性だった。顔は恐怖と鼻水と涙でぐしゃぐしゃになり、着ているスーツは思いきり崩れている。相当ひどい目に合ったことがうかがえる。
「あの、何かあったんですか」
瞬は男性に声をかける。男性は何かを訴えるように自身の走ってきた方向を指差すが、声が出ていないので通じない。瞬が戸惑いながらも、何があったのかを聞こうとする。その時、
「逝け」
「あひ……」
どこからか、そう一言だけ声が発せられると同時に、男性は瞬を強く突き飛ばした。尻餅をついた瞬は、当然ながら文句を言おうとするが、その瞬間。
ボウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!と。
男性の身体が爆発し、木っ端微塵に吹き飛んだ。
凄まじい熱波と爆風が、近くにいた瞬に襲い掛かる。噴水の水が勢いよく吹き上がり、雨のように周囲に降り注いだ。つい数秒前まで人間だったものの残骸が、炎を伴って周囲に散らばる。地面には、焦げ付いた血がへばりついていた。
瞬は目の前に起きた出来事に驚きを隠せないでいる。それと同時に、男性の行動の意図も理解した。彼は、こうなることを知っていたのだ。だから、瞬を自身の爆発に巻き込むまいとして、瞬のことを突き飛ばしたのだと。
その光景は、後からやって来た唯達もしっかりと目にしていた。志村は情けない声を上げて尻餅をつき、トモリは湖森にそれを見せまいと、咄嗟に目隠しをする。今の爆発を聞いて、公園内にいた人が何人も集まってきていた。
「ひ、ひとがはじけとんだ……!」
「これも爆弾魔の仕業、なの?」
「あ~あ、見ちゃったか」
呆然とする瞬の前に、フードを被った男が現れる。この場に似つかわしくない、つまらなさそうな声を上げながら。瞬は、恐る恐るきいてみる。
「お前がやったのか……?」
「おいおい、またかよ」
「また……?」
その言葉に、瞬は違和感を覚えた。男はフードを脱ぎ、顔をさらす。
「あんた、さっきの……!」
それは、先ほど裁場と一緒にいた男だった。先ほどの穏やかそうな態度とは打って変わって、いかにもワルですといったような雰囲気を全身から醸し出してる。男は、瞬の顔を見て、心底面倒くさそうにでかい溜息をつく。
「勘弁してくれよ。なんで1日に2回も邪魔されなきゃならねえんだ?」
「俺だって好きで巻き込まれてるんじゃない。そもそもお前がこんなことしなきゃいいだけじゃないのか」
「やだね。事情を知れば最低でも50%くらいは俺に正当性があると思うぜ?まあ死んでも教えないけど」
「人殺しに正当性なんかあってたまるか!」
あくまで、自分が間違っているとは認めない。その態度は、瞬が今まで戦ってきた転生者達と同じだった。
男は、火のついたたばこをその場に投げ捨てると、
「ついでにひと暴れといきますか!一応ギフトメイカーから頼まれたんでね!この力を授けてくれた音って奴に報いなきゃあ、男が廃るってもんだぜ!」
《KAKUSEI BOMBMER》
そう言って、オリジオンに変身した。その姿は、数時間前に瞬が戦ったボマーオリジオンの姿だった。
「ふうっ!」
ボマーオリジオンは、口から無数のシャボン玉を吐き出す。放たれたそれは風に流されるがままに漂い、周囲のものに触れた瞬間、割れると同時に爆発を引き起こした。
「うわああああああああああああっ!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
連続して引き起こされる爆発に、引き寄せられた野次馬たちがパニックを起こしながら逃げ惑う。中には、爆発に巻き込まれた死傷者が出てしまっている。瞬は思った。こいつを野放しにはしておけない、なんとしてでも止めなければならないと。
瞬は爆発するシャボン玉を避けながら、野次馬たちを逃がしてゆく。声を枯らす勢いで叫び、足がちぎれるような勢いで走る。一人でも多くを逃がすために。
瞬の目の前には、座り込んでいるギャルが一人。彼女も逃げ遅れた人なのだろう。
「君も逃げるんだっ!早く!」
瞬はそう叫びながら、彼女に手を伸ばす。
が。
「ばあ☆」
「ぬがっ⁉ 」
突然、瞬の頬に痛みが走ったかと思えば、次の瞬間、瞬は空を見上げていた。
数秒間の混乱の後、瞬は自分が殴られたのだということに気づいた。脳がその事実を認識するのにそれだけの時間を要するほど、一瞬の出来事だったのだ。
「な、何……?」
「あはははっ!話には聞いてたけど、お前ホント鈍いのなぁ!」
彼女は、突然の出来事に困惑する瞬を嘲笑う。そして、その場でくるりと回ってウインクを決めると、
「変身☆」
《KAKUSEI BOOGIB POP》
彼女はオリジオンへと姿を変えた。全身に開いた状態のジッパーが現れ、まるで着ぐるみを着るかのように、それらが一斉に閉まってゆく。
ジャラジャラと鎖を巻きつけた円筒状の帽子に、裾が長すぎて引きずっているマント。そして、不気味なほどに満開の笑顔を浮かべた骸骨頭。まさしく、テンプレート的な死神を彷彿とさせるものであった。
「アタシはリバイブ・フォースの
リバイブ・フォース。以前戦ったタロットオリジオンも、自身のことをそう名乗っていた。彼曰く、ギフトメイカー直属の精鋭だとか。つまり、目の前の彼女も、タロットオリジオンに匹敵する強敵であるということだ。予期せぬ強敵とのエンカウントに、思わず瞬の息が詰まる。
その様子を見て、藤宮泡不――ブギーポップオリジオンは、品のない笑い声をあげる。
「え、もしかしてビビってる?なら仮面ライダーって案外大したことないんじゃね?」
「く……」
目の前に立ちはだかる2人のオリジオンの気迫に、無意識ながら気圧される瞬。そこに、追い打ちをかけるように、
「おいおい泡不ちゃん、独断専行はダメって言ったでしょ?ほら、数の暴力でいこうってあれほど言ったよね?」
「アクロス、今日こそ息の根を止めてやる」
「やあお邪魔虫君。単刀直入に言うけど死んでくれない?」
「……!」
聞き覚えのある声に、瞬はばっと振りかえる。そこには、見覚えのある敵たちが待ち構えていた。レドにレイラ、バルジにガングニール。ギフトメイカー側も勢ぞろいだ。彼らの背後からは、2人の見知らぬチンピラが歩いてきている。瞬は知らないが、彼らは数時間前に灰司と戦った転生者達だ。
これで1体8。状況は絶望的だった。
「変身」
《KAKUSEI IGARIMA》
「いい加減僕も戦線に立ってみようかなって思ってさぁ。喜べよアクロス、僕が直接蹂躙してやるよ」
《KAKUSEI BLADE》
バルジがイガリマオリジオンに変身するとともに、レドもオリジオンとしての姿をあらわにする。天を刺すような勢いで伸びる一本のツノに、煤けた銀色の甲冑。その胸元には、緑色に染まったスペードマーク。彼が動くたびに、ガシャガシャとその全身が音を立てる。その姿はまるで、継ぎはぎの甲冑を身に纏ったカブトムシの怪人だった。
「ギフトメイカー・レド、ブレイドオリジオン。アクロス、お前で遊んであげようか」
舞網の時よりも絶望的な状況だ。瞬はあまりにも絶望的な状況に、心が折れそうになる。しかし、ここで折れるわけにはいかない。瞬には、守るべき人たちがいるのだ。それが、そばにいる、だから、ここで瞬が言うべきことはひとつだった。
「みんな逃げろ!」
「いやいや!瞬は大丈夫なの⁉ 1体8とか正気の沙汰じゃないよね⁉ 」
「そもそもお前らは戦えねえだろ!だから逃げてくれ!俺なら大丈夫だから!」
唯は何か言いたげだったが、志村が強引に彼女の手を引っ張って逃げようとする。
「行こう……唯ちゃん。僕らじゃどうしようもない」
「……っ!瞬、無茶しないでよね!」
「湖森ちゃんも!ほら!」
「う……うん!」
唯達の姿が遠くに消えてゆくのを横目に見届けながら、瞬はクロスドライバーを腰に装着し、アクロスライドアーツをドライバーに装填する。
「変身!」
《CROSS OVER!仮面ライダーアクロス!》
「シャラクセエ!俺達に楯突こうってんならぶっ殺す!」
「俺達はヒジョーにイラついてんだ!なんせ兄貴をぶっ倒されてんだからよオ~⁉ 」
《KAKUSEI LIZARDN》
《KAKUSEI KAMEX》
2人のチンピラも、リザードンオリジオンとカメックスオリジオンにそれぞれ変身する。
「さて、数も実力もこちらに軍配が上がっていると思うんだけど、それでもやるのかな?」
「やるよ。お前らのやっていることは見過ごせない」
生きて帰れる見込みはない。今日が命日に、ここが死に場所になってしまうかもしれない。そう思いながらも、アクロスはギフトメイカー達の前に立つ。どうしても見過ごせないから。許せないから。死の恐怖を正義感で誤魔化しながら、アクロスは今この場に立っていた。
アクロスは、一歩踏みだす。今まさに、戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた、その時だった。
「おいおい、1対8は無しだろ。俺も混ぜろよ」
そんな声がしたかと思えば、突然、何かがアクロスとギフトメイカー勢の間に、イッチョクセンに降り注いできた。まるで隕石でも降ってきたかのような衝撃と、大量の土埃が舞い上がる。
少しして、土煙が徐々に晴れてきた。両社の間の落下地点に立っていたのは、漆黒のスーツに黄金と白銀の装甲、赤黒いマントを纏った騎士の如き出で立ちの仮面の戦士。アクロスも、ギフトメイカー達も、本能的に察していた。こいつは転生者狩りだと。
「その声……転生者狩りか⁉ 」
「今の俺は仮面ライダーソロモンだ。」
「お前っ……」
「勘違いするな、俺とお前は仲間じゃない。俺は俺の目的の為にここに来た」
ソロモンは、大剣カラドボルグの剣先をイガリマオリジオンに突き付けながら、そう吐き捨てる。イガリマオリジオンは、自身に向けられている明確な殺意に全く動じることなく、へらへらと笑いながらソロモンを盛んに挑発する。
「懲りないやつだな。よっぽど死にたいと見た」
「それはコッチの台詞だ。テメェだけは俺の手で殺す……!」
「寝言は寝て言うもんだぜ?雑魚が勝手に死んだだけだ。何故俺が責められなきゃならない?」
「バルジィ!」
それは一瞬だった。
激昂したソロモンのカラドボルグによる一撃と、イガリマオリジオンの大鎌が、激しい音を立ててぶつかった。ぎりぎりと鍔迫り合いが繰り広げられる中、イガリマオリジオンは、自身の背後で待機しているレイラとガングニールオリジオンに、命令を下す。
「まあ俺様は優しいからさあ、お前の遊びに付き合ってやるよ。レイラ、ガングニール、お前らは逃げてったガキどもを始末しろ」
「無論だ」
「イッチョクセンニ、ブンナグル!」
「行かせるか!」
イガリマオリジオンの命令を受け、レイラ達が唯達を追おうとする。それを阻むべくアクロスも駆け出すが、すかさずブレイドオリジオンがその背中めがけて斬りかかってきた。
「ぐう……」
「駄目じゃないか……逃げるなんて、さあ!」
続くブレイドオリジオンの第二撃を、アクロスは咄嗟に構えたツインズバスターの刃を以て弾いた。金属同士が激しくぶつかり合う音が響き渡り、周囲の空気がぶるぶると震えるのが目に見えて分かった八日気がした。
「おいおい、前は俺なんか眼中にないって言ってませんでしたっけ?」
「部屋の中を小蠅が飛んでいたら目障りだろ?それと同じさ。別に殺す必要はないけど、死んでくれた方が僕たちにとっては快適なんだよ……ねえ!」
その方が楽だから。アクロスとギフトメイカーの間には、圧倒的な意識の差があった。そして、ギフトメイカーの方は、そんな態度でいられるだけの力を有していた。
ブレイドオリジオンが勢いよく振り下ろした剣を、アクロスは間一髪で避ける。誰にも当たらなかった
剣は、アスファルトを思いきりえぐり取り、周囲にもひび割れを生じさせる。目の前の敵は、ガングニールオリジオンに負けず劣らずのパワーを持っている。あの剣の一撃に当たるのはまずい。たった一発うけただけの背中が、既に熱を持っている。
「あたしのこと忘れてもらっちゃあ困るんだけど!」
「ぐああっ!」
ブレイドオリジオンに集中していたアクロスだが、突如として背中に鋭い痛みが生じた。痛みを堪えながら振り返ると、ブギーポップオリジオンが笑っていた。
アクロスはすぐさま駆け出そうとしたが、自身とブギーポップオリジオンとの間を走る、ギラリと光る何本もの線に気づく。金属ワイヤーが、彼女の手から伸びていた。
「そいつは生身の人間くらいなら容易く切り落とせる優れものよ。流石に仮面ライダーとかじゃそううまくはいかないけど、それなら死ぬまで斬り続けるだけ。あたしの経験値になってもらうから、覚悟しろよ!」
「経験値って……ゲームじゃねえんだ……ぞっ!」
アクロスは即座にツインズバスターでワイヤーを切断する。ブギーポップオリジオンが続けて何本ものワイヤーを手のひらから放ってくるが、アクロスはそれを斬り伏せながら、彼女へと距離を詰めてゆく。
「まじ?ワイヤーあっさり攻略されちゃう感じ⁉︎ 」
「せやぁっ!」
ワイヤーが思ったよりもあっさりといなされてゆく事実に困惑するブギーポップオリジオンの横っ腹に、ツインズバスターの刃が叩き込まれた。それは斬るというよりも、ぶっ飛ばすと言った方が近いか。攻撃をうけたブギーポップオリジオンは、悲鳴を上げながら地面を転がってゆく。
「きゃあああああっ⁉︎ 」
「お前頭悪いんじゃないの?数の差考えろってーの!」
「わかってらぁ!」
すかさず、ブレイドオリジオンが背後から斬りかかるが、アクロスもツインズバスターで応戦する。両者共に振りかざされた刃同士がぶつかり、弾き合う。
ブレイドオリジオンの一撃は重い。少しでも気を抜くと、あっという間に押し切られそうだ。
「ぐぬぅ……」
「ほら、もっと本気出せよ!」
「っ……!」
ブレイドオリジオンの重い一撃に耐えきれず、刃を防いだツインズバスターが、アクロスの手から弾き飛ばされる。得物を失ったアクロスに、勢いよく振り上げられたブレイドオリジオンの刃が遅いかかった。
「ぐああああああっ!」
火花を撒き散らしながら、アクロスの身体が大きく吹き飛ばされる。そこに、ボマーオリジオンが真っ黒な球体を投げてきた。それはアクロスに当たると同時に、小規模な爆発を引き起こし、アクロスに連続してダメージを与える。その球体は爆弾だったのだ。
続けて爆弾が何個も飛んでくるが、アクロスはツインズバスターを拾い、ガンモードに変形すると、飛んできた爆弾を光弾で迎撃する。爆弾は空中で爆発し、黒煙と衝撃波を巻き起こす。
「くそっ……!こうなったらレジェンドリンクだ!」
《LEGEND LINK!揺らせ揺られろSSSSOUL!ladies &gentlemen! LINK PENDLUM!》
不利を悟ったアクロスは、ペンデュラムライドアーツをドライバーに装填し、仮面ライダーアクロス:リンクペンデュラムへと変身すると、腹部の宝玉から螺旋状のビームを解き放った。
「はああああああああっ!」
「ディアーサンダー!」
アクロスの放ったビームは、ブレイドオリジオンの放った電撃と相殺され、爆発を引き起こす。発生した爆風を掻き分けながら、アクロスはブレイドオリジオンに向かって突っ走る。ブレイドオリジオンは続けざまに電撃を連発するが、アクロスはそれを紙一重で躱してゆく。
そしてアクロスは、ドライバーに装填していたペンデュラムライドアーツをツインズバスターの持ち手にある挿入口に差し込み、自らの頭上に向かってツインズバスターの引き金を引いた。すると、一瞬だけアクロスの身体が煙に包まれたかと思えば、次の瞬間には、アクロスの姿が幾人にも増えていた。ペンデュラムライドアーツの能力の一つである分身能力を使ったのだ。
「分身か!小賢しい真似を……!」
「落ち着けよ。分身は全員ぶちのめすのがセオリーってもんだ。ボマー君、纏めて爆殺してしまいな!」
面倒なことになったと怒りをあらわにするにボマーオリジオン対し、イガリマオリジオンは脳筋理論じみた考えで一蹴してしまう。ボマーはそれに嬉々として賛同すると、
「言われなくともそうさせてもらうぜ!」
突っ込んでくる分身アクロス達に向かって、手のひらから無数のシャボン玉をうちだした。
凄まじい爆音を立てて、分身たちが霧散してゆく。しかし、本物のアクロスに攻撃は命中していない。爆炎の中から、処理し損ねた分身アクロスが数体、ボマーオリジオンとブレイドオリジオンの懐へと突っ込んでくる。
「しゃらくせえ!リザードスラッシュ!」
ブレイドオリジオンがそう叫ぶと、彼の尻からトカゲの尻尾のようなものが出現する。その先端は、鋭い刃のような形状をしていた。そして、ブレイドオリジオンはその尻尾を勢いよく振り回し、自身に向かってきた分身アクロスを一刀両断する。
ボマーオリジオンも、分身アクロスの頭にそっと触れる。すると、先ほどの中年男性たちのように、分身アクロスが爆発して跡形もなくなった。
「出て来いよ雑魚アクロス。頼みの綱の分身共は全滅したぜ?」
「ああ、出てきてやるよ。望みどおりにな!」
《LEGEND LINK!SET UP!ネプテューヌゥウウ!》
その声と共に爆風を突っ切り、リンクネプテューヌとなったアクロスが上から現れた。紫のラインが走る黒い機械チックな翼を広げ、急降下を仕掛けてくる。
「せええええええええええいっ!」
「だからお前と僕では実力の差ってのがあるんだよ!」
ネプテューヌライドアーツの能力で、刀身が大きくなったツインズバスター・ソードモードを構え、勢いよくブレイドオリジオンに斬りかかる。ブレイドオリジオンも、負けじとアクロスを馬鹿にしながら剣で迎撃しようとする。
ガキンッ!! と大きな音を立てて、両者の刃が再び激突する。そこにすかさず、ブギーポップオリジオンがワイヤーを伸ばしてアクロスを捉えようとするが、アクロスは飛んで回避しながら、そのワイヤーをツインズバスターで切り裂く。ブギーポップオリジオンは、空を飛ぶアクロスを忌々しそうに見上げながら愚痴をこぼす。
「雑魚のくせに空飛ぶとかうざくない?」
「わかるよ分かる。ならこうするしかないよね。バッファローマグネット!」
ブレイドオリジオンは彼女の愚痴に頷きながら、剣を地面に突き立てる。すると、空を飛んでいたアクロスの身体が、ガクリと大きく傾いた。
「なんだ⁉ 」
別に攻撃がされているわけでもない。ただ、身体が急に重くなったのだ。アクロスは踏ん張って高度を上げようとするが、高度は上がるどころか下がり続ける。いや、ただ下がっているだけではない。これは――
「引き寄せられている……⁉ 」
「磁力を操っているのさ!仮面ライダーといえど、そのスーツにはたんまり金属が使われているだろう?この力にあらがえるわけがないのさ!堕ちろ!お前如きがのうのうと空飛んでんじゃあねえ!」
「うあああああああああああああっ‼ 」
ブレイドオリジオンの剣を起点として、強い磁力が発生しているのだ。それに、アクロスのスーツが引っ張られている。必死にあらがうアクロスだったが、全身を引っ張る磁力に逆らえず、次第にアクロスは地面へと落ちてゆく。
それでもなおもあがくが、そこに、ブギーポップオリジオンがワイヤーを素早く伸ばし、アクロスの足にそれを結び付けると同時に、もう一本のワイヤーでアクロスの右翼をぶった切ってしまう。ワイヤーと磁力の組み合わせで、さらにアクロスの落下速度は上がる。
「ぶった切られちまいな!
「‼ 」
そして、とどめと言わんばかりに、アクロスの落下地点に、ブギーポップオリジオンが蜘蛛の巣のようにワイヤーを広げる。あのワイヤーの威力は十分に理解している。変身しているといえど、突っ込んだらマズい。しかし、避けられない。
アクロスのあがきもむなしく、彼はなすすべなく、鋼鉄ワイヤーでできた蜘蛛の巣のど真ん中に突っ込んだ。
「せええええええい‼ 」
仮面ライダーソロモンに変身した転生者狩り――灰司は、怒りのままにイガリマオリジオン――バルジに斬りかかる。
しかし、彼の怒りを乗せた一撃は、イガリマオリジオンの大鎌に軽くいなされる。
「軽いね、軽い!君ぃ、
「ふざけるなっ……テメエは……生きてちゃいけない人間だ……!絶対に俺が殺すんだ!」
いつもの飄々とした態度はどこへやら、ソロモンは激昂しながら何度もカラドボルグを振りかざす。当たれば即致命傷にもなりうるラスボスクラスの斬撃を、イガリマオリジオンは臆することなく、一つ一つ、冷静に対処してゆく。右からの一撃を受け流し、左からの一撃を弾き、上からの一撃を受け止めては押し返す。
スペックでは上回っているはずのソロモンは、怒りでその差を自ら縮めてしまっているのだ。ゆえに、イガリマオリジオンが優位に立てている。イガリマオリジオンもそれを理解しているからこそ、ソロモンの冷静さを一層奪うべく、盛んに挑発を繰り返すのだ。
そこに、半ば放置気味だったリザードンオリジオンとカメックスオリジオンが乱入してきた。そして、仲間を倒した転生者狩りに一矢報いようと、背後から飛び掛かる。
「俺達も加勢するぜ!こいつは許せねえ!兄貴のかたき討ちだ!」
「転生者狩り、覚悟おおおおおおおおおおおおおお!」
ガツンと、リザードンオリジオンとカメックスオリジオンのパンチが、ソロモンの後頭部に直撃した。しかし、それが却って、ヒートアップしたソロモンの怒りをさらに上のレベルへと押し上げた。
「邪魔するな雑魚が!」
《オムニバスローディング!SOLOMON BREAK!》
ソロモンは苛立ち気味に、腰のドゥームズドライバーバックルにセットされている、オムニフォースワンダーライドブックを一度閉じ、ベルト上部にあるスイッチ・ドゥームズライドを1回押す。すると、カラドボルグの剣先から赤い衝撃波が解き放たれ、リザードンオリジオンとカメックスオリジオンを吹き飛ばした。
ソロモンは情けない悲鳴を上げてぶっ飛んでゆくチンピラ達に目もくれず、必殺技を発動し終えると、一目散にイガリマオリジオンに斬りかかってゆく。吹き飛ばされた二人は、悔しそうに歯ぎしりをしながら、その様子を見ていた。
「つ、つええええ……」
「くそお……俺達なんか眼中にないって感じだぜ……」
両者の実力差は圧倒的なもの。いくら馬鹿なチンピラ達であっても、2度もコテンパンにされてしまえば嫌でもそれが理解できてしまう。自分達の実力ではソロモンにはかなわない。ソロモンのスペックも、それを操る転生者狩り自体の実力も、隔絶されたものだ。ここで、ソロモンに挑むことがかなわないのならば、もうひとりの敵に彼らの意識が向くのは、ある意味当然だったといえよう。
チンピラ達の視線は、ブレイドオリジオンと戦っているアクロスの方に向いていた。ちっぽけな意地を糧に、傷だらけの身体を引きずるようにして立ち上がり、アクロスの方へと歩いてゆく。
「あの知らねえ仮面ライダー殺せばいいじゃん」
「だな!あわよくばあの力を奪っちまおうぜ……!」
アクロスの方へと走ってゆくチンピラ達には目もくれず、ソロモンはイガリマオリジオンに斬りかかる。しかし、何度斬りかかっても、ソロモンの攻撃はイガリマオリジオンには届かない。ソロモンが振り下ろしたカラドボルグの刃を、イガリマオリジオンは素手で受け止める。ソロモンは力を込めて押し切ろうとするが、なぜかそれができない。
そんな彼を嘲笑うように、イガリマオリジオンが言う。彼は、本気で自分が悪くないと思っているのだ。彼の言葉で、ソロモンの怒りがさらに燃え上がる。
「だからなんで責められなきゃあならないんだ?ただ単に弱い世界が一つなくなっただけだってのに」
「俺の世界を侮辱するな!」
「俺たち転生者は一度死んだ身だ。理不尽にも一度目の生を奪われたんだ。だからさ、何やってもいいじゃん。俺達を一度死なせた世界のことを省みる義理なんてないじゃん?てか世界をめちゃくちゃにする権利だって俺達にはあるんだよ!俺達は正当な権利を以てこれをやってんだよ!それを綺麗事ほざいてめちゃくちゃにする権利がてめえらなんかにあるわけねえだろうが!」
バキンと、音がした。
イガリマオリジオンが、カラドボルグの刃をへし折ったのだ。本来ならば、折れるはずのないもの。それを、奴はいとも簡単にやってしまった。
「いい加減消えな!俺様を否定する奴は全員消えてもらわなきゃあいけねえなあ!」
「があああああああああっ‼ 」
下から斬り上げるかのような、大鎌の一撃。その一撃で、ワンダーライドブックが、切り裂かれた。力の源を失い、ソロモンは変身を維持できなくなり、その場に膝をつく。
砕け散るようにソロモンの姿が掻き消え、その下の素顔があらわになる。ダークライダーの仮面をかぶり続けた少年の素顔が、アクロスの眼前にさらされる。
「く、そ、が……!」
その光景は、満身創痍となったアクロスもしかと目にしていた。
「灰司……⁉ お前だったのか⁉ 」
変身の解けたソロモンの中から現れたのは、無束灰司だった。アクロスの予想だにしない事実。それは、彼の冷静さを奪うには十分だった。
「よそ見している場合か!しぶといんだよねえ君は!」
「ぐっ……」
ブレイドオリジオンの一撃を受けた衝撃で、レジェンドリンクが解かれ、基本形態に戻ったアクロス。スーツのあちこちには、痛々しい傷跡ができており、随所から煙が上がっている。誰がどう見ても、限界だった。このままでは、アクロスのスーツが破損し、装着者である瞬の生命が危ぶまれる。
その様子を見たボマーオリジオンは、今こそと判断し、アクロスから逃げようとする。
「逃げるな!」
「何?俺様が律義にお前らと戦うと思ってんの?」
「くそっ!」
「させないよ、ライトニングスラッシュ!」
アクロスは慌ててボマーオリジオンを追おうと走り出すが、ブレイドオリジオンが割って入り、電撃を纏った剣の一突きで、アクロスの身体を地面へと押し戻す。焼けつくような痛みが、アクロスの肺から空気を押し出そうとする。
そこに、逃げたはずのボマーオリジオンが馬乗りになる。
「逃げるのはフリだ!二度も邪魔されてよお、俺が怒らないとでも思ったかあ⁉ お前は邪魔だ!俺の目的を果たす前に爆死してもらうぜ!
「っ……!」
ボマーオリジオンがそう叫ぶと、彼の両手が炎に包まれる。もはや、もがくだけの体力すら、アクロスにはなかった。
「起爆だあああああああああああああああああああああああ!」
炎の拳が、アクロスの眼前に迫る。
筈だった。
バチュンという音があった。それと同時に、ボマーオリジオンの動きが止まっていた。
少し遅れて、ボマーオリジオンの左肩から硝煙が上がり始めた。誰かが撃ってきたのだ。しかし、痛みはない。オリジオンに変質した彼には、通常兵器なぞ通用しないのだから。事実、銃弾の当たった左肩からは、血の一滴も流れてはいなかった。
彼が動きを止めたのはダメージを受けたからではない。拳銃なんぞで転生者に挑もうとした命知らずの顔を見てやりたかったからだ。アクロスも、ソロモンも、他のオリジオン達も、乱入者を凝視する。
それは、眼鏡をかけた、スーツ姿の男だった。ぱっと見は、少し怖い顔つきをしたサラリーマンのように見える。しかし、その手には拳銃が握られており、彼が一般人ではないことを如実に示していた。そして、その男のことをアクロスは知っている。なぜなら、アクロスは彼と既に会っているからだ。
「あんたは……!」
「テメェ……」
男の名は裁場整一。フリーの武偵だ。
彼は、戦場のど真ん中であるにもかかわらず、冷静沈着であった。まるで、こんなの慣れっこだと言わんばかりに。そして、彼は灰司は姿を見て、一瞬驚いたような顔を見せるが、即座に表情を削ぎ落としてブレイドオリジオンの方を向き、口を開く。
「俺も混ぜてもらおうか」
「あ?なんだお前。やんのかゴラァ⁉︎ 」
「捻り潰されるのとすり潰されるの、どっちがいいか選ばせてやるぜぇ?」
突如として現れた裁場に下品な罵声を浴びせるオリジオン達だったが、彼らの提示した選択肢は、そのどちらも選ばれる事はなかった。
彼が選んだのは、第3の選択。裁場は、躊躇いなくそれを選んだ。
「なら、お前たちを倒す」
裁場がそう言いながら掲げた手。その手には、アクロスにとって非常に馴染み深い、かつとんでもないものが握られていた。
何故なら、それは――
「クロスドライバー⁉︎ なんでアンタが……」
《UKNIGHT》
そう、彼が取り出したのは、アクロスが今身につけているモノと全く同じ、紛れもないクロスドライバー。鈍い光沢も、あの形状も、間違いなくクロスドライバーそのもの。見間違えるはずがない。
動揺するアクロスの目の前で、裁場は、紫色のライドアーツをドライバーに装填する。そして、胸元で両手を合わせて、
「変身!」
《CROSS OVER》
そう言って、ライドアーツの装填部をスライドさせ、横に倒した。
《正義の意志をフュージョライズ!不撓不屈のウォリアー!仮面ライダーユナイト!》
裁場の背後に、光り輝く渦が出現し、そこから装甲のようなものが渦の回転に沿って裁場の近くに飛来してくる。そして、盾のような形状をしたプレートが裁場の両肩に引っ付くと、それを皮切りに装甲が次々と裁場の全身に装着されてゆく。
肩には水晶のついたシールド状のアーマーが、背中には長槍を背負い、腰には銃の入ったホルスターがぶら下げられている。
その姿はまるで近代西洋の軍服を思わせる。
「貴様……何者だ?」
「俺の名は仮面ライダーユナイト。まさか、再びギフトメイカーとやり合うことになるとは思ってもみなかった」
腰のホルスターから銃を取り出し、銃口を構えながら、彼は告げる。
「お前ら、纏めて裁かれてみるか?」
PM6:00
「ひいいいいいいっ⁉ 」
「くっ!」
唯と志村は、ガングニールオリジオンとレイラから必死に逃げていた。湖森とトモリは別方向に逃げてしまったため、2人がどうなっているのかはわからない。無事であってほしいと願うしかない。
2人にあらがう術などない。圧倒的な実力差の前に、ただ逃げるしかなかった。
「アクロスの仲間……いや、何の力もないお荷物か。貴様ら個人に恨みはないが、バルジ様の命令だからな。死んでもらうぞ」
「冗談じゃない……まだ死ねるか!」
「威勢だけは一丁前……くだらないな」
レイラに啖呵を切りながらも、逃げることしかできない。その現実は、唯の心を着実に消耗させていた。
なぜ自分はなにもできないのか。なぜこうして逃げることしかできないのか。瞬にすべてを押し付けて情けなくないのか。そんなことばかり考えてしまう。
「ぜえ……ぜえ……」
「志村⁉ 足遅くなっているけどお⁉ 」
「無理無理無理無理!体力尽きるううううううううううううううう!」
逃げること数分。根っからのもやしっ子な志村の体力が、早くも尽きかけていた。息は絶え絶え、心臓はバクバク。顔もなんか形容のしがたいような凄まじい形相になり果てている。状況が状況でなければ、その様子を見て笑ってしまいそうだ。
唯と志村の距離がどんどん開いていく一方、ガングニールオリジオンと志村の距離がだんだんと詰まってゆく。志村はなんとか追い付こうと必死に手足を動かすが、元来の運動神経の差は覆ることはない。
やがて、体力の限界が近づいた志村は、足元の小石に躓いて派手にすっ転んでしまった。
「あべしっ」
「志村!」
追ってきたガングニールオリジオンの標的が、ずっこけた志村に定まる。ガングニールは大きく飛び上がり、空中で拳を構える。ジャンプパンチをかますらしい。
「イッチョクセンニ、ツラヌク……!」
「ぎゅあああああああああああああああ死ぬうううううううううううううううう!」
ガングニールオリジオンの怪力っぷりは唯も志村も理解している。あんなパンチを受けてしまえば、ひ弱な志村の身体なんぞ軽く木っ端微塵に吹き飛んでしまうだろう。
志村の絶叫を聞いた唯の足が、180度向きを変えた。理由は単純明快。友達が危ないから。瞬がいない以上、自分がやるしかない。唯の行動に気づいた志村の静止も振り切って、唯はガングニールオリジオンに向かって駆け出した。
「何してんだお前えええ!」
「だ、駄目だ唯ちゃん!僕のことは良いからアアアアアアアアアアアアアアア!」
―― なんて無力なんだろうか、私は。幼馴染みが戦っているのを見ているだけで、それを尻目に逃げるだけだなんて。
元来から、諸星唯は考えるより先に身体が動く方の人間であった。
しかし、アクロスとオリジオンの命がけの戦いにおいて、それはできなかった。仮面ライダーとして着実に心身ともに成長している瞬と、ただの幼馴染のままの唯。その差は広がるばかり。いつしか、そこには守るものと守られるものという上下関係が生まれてしまっていた。もちろん、瞬の行いは褒められるべきものだ。彼が本気で唯をはじめとする周囲の人々を気遣っているからこそ、彼は皆を守ろうとしている。それはわかっている。
だが、守られるものと守るものとの関係というのは、決して対等にはなりえない。どうしても精神的な距離というモノが生じてしまうのだ。長年瞬と付き合っている唯だからこそ、それに人一倍敏感だった。
その距離を瞬にわかってもらいたい。そういう思いも多少あった。だから、あんなことを言った。
――巻き込むのはいいよ⁉︎ でも人のこと巻き込んどいて途中下車とかマジありえないんだって!いっつも蚊帳の外とかホントモヤモヤするんだよ⁉︎
――巻き込むのは構わないよ。でも、置いてけぼりは許さない。
置いていかれたくないと吠えているくせに、今の自分はただのお荷物でしかない。そんなんで彼と一緒に居たいだって?遠くなるのが嫌だって?
「私だって…………」
守られるだけの都合のいい
そのほうが、
「私だってやってやるんだあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
自分の不甲斐なさへの怒りで我を忘れ、ただがむしゃらに走り、ガングニールオリジオンの顔面目掛けて綺麗なフォームの跳び蹴りをぶち込んだ。
いくらフィジカル面で圧倒的に有利なガングニールオリジオンといえど、空中では踏ん張りようがない。唯の蹴りをもろに喰らったガングニールは、そのまま背中から地面に墜落し、潰れたカエルが如き苦悶の声を漏らした。
「瞬ばっかに押し付けてられるか……何が何でも隣に立つ」
ほんの些細な意地と、疎外感と、寂しさと、いろんな感情がごちゃ混ぜになったまんまの状態で、唯は立ちふさがる。とにかく今は逃げない。どれほど無謀でもあがいてやる。多分、そのほうが性に合ってる。
レイラはそれが心底面白くなかったようで、手に持ったサーベルを投げようとする。
「ほう、友のために無謀にも我らに挑むか。身の程を知れ、凡人」
「駄目だ!逃げよう!」
「……っ‼ 」
唯が身体を動かすよりも速く、レイラの手からサーベルが放たれる。圧倒的に、絶望的に、間に合わない。
血飛沫が、生まれる。
聞こえたのは、血飛沫の音ではなかった。
ガキンッ!!!! と、金属同士が激しく衝突する音であった。
「な……」
「え、なにが……」
困惑するレイラだが、彼女の目は容赦なく、唯めがけて投げたはずのサーベルが真っ二つにへし折られた状態で地面に転がっているという現実を見せつけられる。そして、
距離的に外すわけがない。唯や志村が何かをしたわけでもない。だが、事実レイラの攻撃は外れている。ならばと、レイラは即座に気を取り直し、ガングニールオリジオンに2人の始末を命ずる。
「BYIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!」
言葉にならない雄たけびを上げながら、ガングニールオリジオンが唯に飛び掛かる。
しかし。
「抜剣・千輪一爆!」
「ぐばしゃああああああああああああっ⁉ 」
突然、何者かが上から降ってきたかと思えば、地面に突き刺さった剣を引き抜き、即座にガングニールオリジオンの胴体を縦一直線に斬り裂いた。そのあまりにも早い一振りは、強大な摩擦熱を生み出し、堅牢なガングニールオリジオンの身体を炎で包み込んだ。
ならばと、レイラはサーベルで斬りかかる。一体何者かは知らないが、邪魔をする以上敵でしかない。殺す理由はそれだけで充分だった。常人にはまず認識できない程の速さを誇る一閃。しかし、乱入者はその一撃を難なく剣で受け止めてしまった。
「何者だ、貴様は!」
「助けを求める声があった。だから来た」
凛と透き通るような、かつ、力強さも秘めた声が、そう口にした。それがさも当然であるかのような、超然とした気迫を、志村は第一に感じた。
そして彼女は、レイラのサーベルを彼方へと弾き飛ばすと、唯達の方を振り返って安否を確認する。
「怪我はないか?」
風になびく緑色のポニーテール。眼前の敵を鋭く見据える、強さとやさしさを併せ持った目付き。ビルの隙間から差し込む夕日を反射して輝く、荘厳な装飾の施された、ファンタジックかつどこかSFチックな銀色の鎧。左手に握られた、淡い紫色の光に包まれた片手剣。
その姿は、異世界より現れた一人の女騎士だった。
彼女の姿に、志村は息をするのを忘れるほどに、圧倒されていた。
「君は一体……」
「貴女、どこかで……」
そして、唯はその人物を知っている。
半月ほど前に、オリジオンに拉致された大鳳を救出したという、一人の騎士。
「我々の邪魔をするとはどういう意味か知ってのことか?」
「知る必要がどこにある?私はただ、己の騎士道に従っただけに過ぎない」
レイラの脅しに臆することなく、騎士は名乗りを上げる。
異界の女神に従いし、その名を。
「ゲエムギョウ界一の護神騎士、セラ・フルルスローネ、参る!」
はい、ようやく出ましたセカンドライダー!その名は仮面ライダーユナイト!
名前は「UNITE」+「KNIGHT」から来てます。単純ですね。ナイトと被るとか考えなかったんでしょうか。馬鹿だなぁ
そしてリバイブ・フォースもようやく3人目です。
まさかのチョイスです。
かなりの長編なので幹部格を大量に出さにゃもたんのです。
そして今回の中心人物もそろそろ盤面にあがりきったと思います。
書くことがいっぱいです。
・ユナイトのキャラをある程度示す
・ボマーオリジオンの背景
・灰司とバルジの確執の詳細
・まだ盤面に上がっていないモノをあげる
・唯や瞬の成長
・律刃の深堀り
ということを最低限やったうえで、各サイドの話もやらにゃならんのです。
大変よ~大変。でも群像劇の練習ということでトライです。
キンジサイドのネタに困ったので彼らに暴れてもらいました。すまないキンジ。
Q:あの人老け専だよね?
A:そこはお目こぼしを。
だがしかし、キンジサイドは戦闘シーンの次に筆乗ってたのも事実。
赤松中学先生、大変申し訳ございません。
そして、まさかの人物が。次回、接触なるか⁉
*************************************
オリジオン紹介
ブレイドオリジオン
人間態:レド
元ネタ:仮面ライダーブレイド
まさかのライダー系のオリジオン。
カード型爆弾やあらゆるものを封印するカードなどを投げてくるぞ。
一応剣はもっているけど、本人の性格上あんまり近接攻撃は仕掛けてこないぞ。
スペードスートのラウズカードの技も使えるぞ。
ライダー系のオリジオンについては、一応ながらアナザーライダーと被らないようなデザインを考えてはいます。アナザーブレイドがマッシヴな体系なのでブレイドオリジオンはスマートなシルエットをイメージしていただきたい。
ブギーポップオリジオン
人間態:藤宮泡不
元ネタ:ブギーポップシリーズ
「世界の敵」の敵ことブギーポップの能力を持ったオリジオン。
金属製のワイヤーを自在に操って戦うぞ。人体を簡単に切断するほどの強度なので要注意。
ブギーポップ本人がアクロスに出るか否かはわからないです。でも一応リスペクトしている作品の一つでもあるので、できればどこかで出したいなとは思っています。
名前の元ネタは「
次回 PM6:23/その名はユナイト
そろそろ設定集だそうかねえ。どうしようか?