【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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池袋編その4です。相変わらず酷いタイトル詐欺です。
前回のあらすじ
・ユナイト出陣!
・明かされる灰司の過去
・唯ちゃんがなんか覚醒する
・レジェンドライダー・ブレイド見参!
・湖森ちゃん、AMOREの変態集団と出会ってしまう

サイド間でけっこう目まぐるしく同行メンバーが変わって混乱していると思いますので、ここで冒頭時点での同行メンバーをまとめます。
●瞬サイド
瞬・唯・志村・アラタ・大鳳・山風・セラ・ハル・キンジ・アリア・剣崎VSガンズ
●湖森サイド
湖森・トモリ・倫吾他AMOREの変態達多数
●野獣サイド
野獣・木村・三浦・遊矢・柚子
●セルティサイド
セルティ・律刃
●単独行動組
灰司・裁場・ボマー
●ギフトメイカーサイド
レド・バルジ・ガングニール・泡不・レイラ・火吹

それでは本編、いってみよ~


第27話 PM7:14/夜会は美味いラーメン屋の屋台で

 

 

 PM6:30

 

「ヴェイ!」

「ぐっ……」

 

 結論から言わせてもらうと、剣崎――仮面ライダーブレイドの攻撃に、ガンズオリジオンは追い詰められていた。

 瞬達全員の皆殺しをギフトメイカーに命じられて襲撃を仕掛けた彼だが、暗殺に失敗。やむを得ず交戦することとなった。手負いの仮面ライダーとその他大勢の原作キャラとモブキャラ相手に手こずることはないと高を括っていた彼だが、運の悪いことに、もう一人の仮面ライダー・ブレイドが居た。

 そしてそのまま、ブレイドの剣による攻撃になすすべのないまま追い詰められていた。

 

「く、そ、がああっ!」

「撃たせるかっ!」

 

 ガンズオリジオンは苛立ち気味に銃の引き金を引こうとするが、それをさせまいとブレイドが手に持ったブレイラウザーでオリジオンの腕をぶっ叩き、銃をその手から叩き落とさせる。石畳の上をすべるように、オリジオンから銃が離れてゆく。

 ガンズオリジオンはやけくそ気味に殴りかかるが、がら空きになった胴体にブレイラウザーの刃が叩き込まれ、オリジオンは膝をつかされる結果となった。

 

「て、めえ……俺に膝付かせるとかマジでねえし……」

「よし、相手の銃を叩きおとした!これでいける!」

「いいや志村、全然終わってねえよ」

 

 喜ぶ志村に釘を刺すアラタ。その前では、ブレイドが膝をついたガンズオリジオンに斬りかかろうとしていた。

 ガンズオリジオンにブレイラウザーの刃が迫る。その直前で、ガンズオリジオンは新たに自動拳銃を手の中に生成して、ゼロ距離からブレイドの腹を撃ちぬいた。火花をまき散らしながらよろけるブレイド。ガンズオリジオンは高笑いしながら、拳銃の引き金を引く。

 

「馬鹿め、得物があれだけだと思ったか!」

「くっ!」

 

 ガンズオリジオンはブレイドの腹を蹴とばして間合いを取ると、手に持った自動拳銃から次々と斬撃を解き放った。

 

「あれ、効いて……ない?」

「コイツを使ったのさ」

 

 ブレイドはそう言いながら、一枚のカードを見せつける。そのカードには“♠7 METAL”と書かれている。

 ブレイドのライダーシステムは、カードに封印した不死身の生命体・アンデッドの力を使って戦う。ブレイドが使ったカードは、自身の肉体を硬質化させる“♠7 METAL”。その能力によって自身の肉体を硬質化させることで、ガンズオリジオンの斬撃を耐えきったのだ。

 そのまま、ブレイドは狼狽えるガンズオリジオンの懐に飛び込み、その顔面を思いきり殴り飛ばす。

ガンズオリジオンは踏ん張ることもできずに、バレーボールのシュートの如くスピードで吹っ飛び、石畳の上を何度も跳ねていく。もとより彼は射撃一辺倒の人間であり、接近戦は不得手。武偵高校でもお世辞にも実力が高いともいえず、狙撃科への転属を打診されているくらいだ。ゆえに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にこうも後れを取っている。

 背中の痛みに耐えながら、ガンズオリジオンは落とした得物を拾おうとするが、そこに、セラが剣を突き付けながら尋ねる。

 

「なんで私達を狙う?」

「目障りなのさ!俺達転生者の天下にゃあ、お前らみたいな善性の権化みたいなやつらは居るだけで破滅ルートまっしぐらなんだからよぉ!」

「どうしても相容れないということか、転生者(おまえたち)とは」

「その気がないって言ってんだろうがっ!」

 

 ガンズオリジオンはそう叫びながらセラに飛び掛かるが、即座にブレイドに足を掴まれ、地面へと引きずり倒される。起き上がろうとするオリジオンだが、その時、ズキンと腕が痛みだす。最初にアリアのナイフで刺された箇所が、今になって痛み出したのだ。腕を動かそうにも、激痛でそれがままならない。片腕では起き上がることは難しい。

 ブレイドは、ブレイラウザーの柄の部分にあるオープントレイを展開する。そこには、何枚ものラウズカードが収納されており、ブレイドはそのうちの二枚を取り出すと、ブレイラウザーに読み込ませる。

 読み込ませたのは“♠3BEAT”と“♠6THUNDER”。

 

《BEAT,THUNDER》

「てめっ……その組み合わせはなんだ⁉ お、俺は知らないぞ!」

《LIGHTNINGQUAKE》

 

 すると、ラウズされたカードがブレイドの胸に吸い込まれるようにして溶け込んでゆくとともに、ブレイドの右拳が帯電を始めた。ガンズオリジオンは、自身の知らない(げんさくちしきにない)必殺技を使われたことに狼狽える。原作を知っている転生者は、いわば常に攻略本片手に生きているようなもの。故に、想定外の事態に弱い。

 片腕で必死に起き上がろうとするガンズオリジオンだが、その時にはすでに、ブレイドの拳が眼前に迫っていた。

 

「ウェエエエエエエエエエエエエエエエエイッ‼ 」

「プフォアアアアアアッ⁉ 」

 

 眼を閉じた瞬間、凄まじい衝撃と電流がガンズオリジオンの全身に迸った。

 電撃を帯びたブレイドのパンチをもろに喰らったガンズオリジオンは、変な声を上げながら近くの茂みの中へと飛んでいってしまった。ブレイドは後を追って茂みの中へと飛び込むが、そこにはすでにオリジオンの姿はなかった。

 

「逃げた……のか」

 

 ブレイドはそう呟きながら、バックルのターンアップハンドルを引く。すると、バックルが回転しながらオリハルコンエレメントが現れ、ブレイドの元へと向かってゆく。そして、オリハルコンエレメントをくぐると、ブレイドの変身は解けていた。

 仮面ライダーをはじめて目の当たりにしたキンジとアリアは、柄にもなく目を丸くしていた。

 

「本当だったのか……あの都市伝説」

「え、都市伝説?」

「ああ、人知れず異形の怪物と戦う仮面の戦士の噂、結構みんな噂しているぞ?」

「なにそれ全然知らないんだけど」

 

 まさか仮面ライダーが都市伝説になっていようとは。

 それにしても、今日一日だけでふたりも新しいライダーに出会うことになるとは、正直言って予想外であった。新たなライダーに興味を抱いた瞬は、傷ついた身体を引きずるようにして、剣崎の前に立つ。

 

「貴方も……仮面ライダーだったんですか?」

「あなたも、ってことは……まさか……?」

 

 瞬の質問で、仮面ライダー(どうるい)であることを悟った剣崎は、目を丸くする。瞬は、ただ黙って頷く。どこかのフィフティ(不審者)は「不用意にライダーであることをバラさない方がいい」と言っていたような気がするのだが、とうの瞬はというと、疲労と驚きでそんなことは忘れてしまっていた。

 

「なんで自分からバラしたんだ?」

「いや、なんとなく話してみたいな~って思って」

「そうか」

 

 そう言われてしまうと、剣崎としてはそれ以上追及できなかった。一応剣崎としても、自分の把握していないライダーの存在には驚いてはいるのだが。

 で、ここから仮面ライダー2人の対談が始ま――らなかった。なんか盛大に脱線が始まろうとしていたのをギリギリのところで本題に引き戻したのは、ずっと蚊帳の外にいた大鳳だった。

 

「……で、これからどうすんの?」

「灰司くんは見つからないし、湖森ちゃんともはぐれちゃったし……どうすんだろうね」

 

 そう、問題は何にも解決しちゃいなかった。当初の目的である灰司との合流は果たせていないどころか、ギフトメイカー襲撃のごたごたで湖森(とついでにトモリ)もどっかに行ってしまった。キンジ達の持っていた医療キットで応急処置は済ませたとはいえ、瞬は怪我人だし、唯はなぜか気を失っているしで、むしろ深刻化しているような気がする。

 ここで、部外者でありながら本来の目的を全く果たせずにただただ巻き込まれた被害者であるアリアが、現状に対して文句を言いだした。

 

「と、とりあえず色々と説明を要求するわ!」

「さっきの怪物の事、仮面ライダーのこと……あんたたちは何か知っているのか?」

「そう言われてもなあ……俺もなにがどうしてこうなってんのかよくわかんないんだけど?」

「そうだな。私もいろいろと話したいことがあるのだが、ここじゃあおちおち話もできやしない。どこか落ち着いて話のできる場所があればいいのだが……」

「俺達完全に蚊帳の外だよな、山風」

「もう慣れたかも」

 

 アリアの発言を皮切りに、各々が抱えていた不満だの話したいことだのが混沌の如くぶちまけられ、一気に喧しくなった。アリアと一緒に瞬と剣崎に詰め寄るキンジ。何か言いたげなセラに、蚊帳の外であることを愚痴るアラタと山風。瞬も皆の気持ちはわかるのだが、とりあえず一旦落ち着いてほしい。

 そんな無秩序めいた騒々しさに一喝したのは、瞬ではなく、これまでずっと沈黙を保っていたある人物であった。

 

「あーもううるさいんじゃいっ!目覚めて早々なんなのこの騒がしさはっ!」

 

 そう、唯だ。ブレイドとオリジオンとの戦闘の間もずっと意識を取り戻すことなく、ずっと近くのベンチで寝かされていた彼女が、いつの間にか目を覚ましていたのだ。予想だにしていない事態だったが、こうして彼女が目を覚ましてくれたことについては、瞬は素直に嬉しかった。

 瞬は、やいのやいの言いながら群がる皆を押しのけながら、身体を起こした唯に近づいてゆく。

 

「お前……一体何があったんだよ……全然目を覚まさないと思ったら、あっさり目覚めやがって……心配させんなよ、ったく」

「いや~私もなにがなんだかよくわかんないんだよね……知らない間に気絶しちゃってたみたいでさあ……え、嘘じゃないよ?いやほんとだって!」

 

 いつも通りの彼女の様子に、瞬はどこか安堵していた。

 そんな二人の間に流れる雰囲気を一言でぶっ壊したのは、瞬の隣に立っていたハルであった。彼女は、空気の読まない腹の音を盛大に鳴らしながら、場の空気を微塵も読んでいない提案をしてきた。

 

「まあ積もる話はあるだろうけどさ、皆腹減らないっすか?」

「お前ほんと空気読まないな!湖森ちゃんも灰司の奴も見つかっていないってのに、それどころじゃないだろうが⁉ 」

「でも腹が減っては戦はできぬと……」

「飯を言い訳にしたらタスク放り出してもいいってか?んな道理が通るかよ。おい、逢瀬もなんか言ってやれよ」

「……ごめん、正直言うと体力的にキツイから休みたい」

 

 湖森を、大事な妹を探しに行きたいのはやまやまだった。しかし、今の瞬には見知らぬ土地を駆けずり回るだけの体力が残っていないのだ。応急処置でマシになったとはいえ、まだ身体のあちこちに残っている傷がじんじんと痛むし、オリジオンとの連戦と昼間の事情聴取、それと大小さまざまな出来事の連鎖で心身ともに疲弊している。じっとしてる場合じゃないはずなのはわかっているのに、動く気力がない。

 というか、昼間はビル爆破事件からの事情聴取のコンボのせいで、瞬は昼食を食べていないのだ。そんな状態でギフトメイカーとの激戦に挑んだのだから、当然動く気力もなくなる。セラも、瞬の疲弊っぷりを感じ取ったのか、瞬の意見に賛同する。

 

「見たところ彼は相当疲れているようだ。何かをするにしろ、情報整理を兼ねて一旦どこかで休まないか?」

「それならよさそうなところがありましたよ、ほら」

 

 ハルがそう言って、スマホの画面を見せる。そこには、この周辺のマップが表示されいた。

 その中に、赤いピンがひとつ立っているのが確認された。場所はそう遠くない。

 その場所は――“露西亜寿司”。

 


 

 PM7:14

 

「……」

「……」

「おっちゃん、豚骨ラーメン5人前!モヤシマシマシ麺多めで!」

 

 ――いったいなぜ、こんなことになってしまったんだろうか?

 柊柚子と榊遊矢は、ラーメンを前に駄弁るホモたちを横目に、そんなことを考えていた。

 

「すっげえいい匂いだゾ~秋吉先生の手作りラーメンを思いだすゾ」

「げ、やめてくださいよ三浦先輩。俺大学外であのムエタイ野郎のこと考えたら吐き気するんだよ」

「それは先輩が真面目に部活やらないからでしょうが」

 

 ――あのあと、茶色いステハゲ新生物こと野獣を助けた遊矢と柚子だったが、馬鹿坊主こと三浦が“腹減ったなあ”とぬかしやがったので、路地の入口付近にあったラーメン屋の屋台に来ていたのだ。まあ味については満足のいくものだったので、これはこれでいいかもしれないと遊矢は思っている。

 

「美味いなこのラーメン。今度は遊勝塾の皆もつれてこようぜ」

「それについては同感ね……でもこのこってり具合、カロリーが不安だわ……」

「その分動けばいいだろ」

「それもそうね」

 

 そんな風に、柚子と若干惚気気味にラーメンを啜っていると、木村が申し訳なさそうに言ってきた。

 

「ごめんね、迷惑かけちゃって……お詫びには程遠いだろうけど、ここは僕たちがおごるから」

「そんな……それこそ気が引けますよ。自分で払いますから」

「へいよ!」

「おほ~この香り、見た目!たまんねえよなあ!」

 

 野獣の舌の肥え具合だけは素直に褒められるんだよなあ、と思いながら、木村も麺を啜る。度々部活終わりに外食をすることがあるのだが、大変憎たらしいことに、野獣の選んだ店はどれも料理がおいしいのだ。木村的には、それ以外の部分については、あの美食センサーだけ残して死んでくれないかなと思うくらいに酷いのだが。

 そんな風にラーメンを食ってる一行。そこに、もう1人客がやって来た。その客は、野獣の後姿を見るなり、嬉しそうに声をかけてくる。

 

「見覚えのあるステハゲがいるなあと思ったら田所先輩でしたか」

 

 そう言われて遊矢が振り返ると、そこに立っていたのは、どことなく爬虫類を思わせる顔つきの青年だった。野獣の知り合いかなんかだろうか?

 

「レプティリアンだあああああ⁉ 」

「失礼な、ぼくはれっきとした人間だよ。決してレシートリザードなんかじゃあない」

 

 いや誰もレシートリザードなんか言ってねえよ、てかレシートリザードってなんだよ。すると、野獣が青年の肩に手を回しながら、嬉しそうに紹介を始めた。

 

「コイツは遠野まずうち、俺の彼氏だ」

「やだなあ先輩、見ず知らずの他人にぼくらの仲を明かすなんて……恥ずかしいじゃないですか」

「急にのろけだしたぞこの人……」

「あ、俺替え玉頼むぜ」

 

 気持ち悪いとか言ってはいけない。現代においてLGBTQへの配慮を欠かすような輩は存在価値ゼロなのだから。遊矢もそれをわかっているからこそ、急にのろけだしたことに対する突っ込みだけで済ませたのだ。このご時世に、他人の愛の形にやいのやいの言うのは馬鹿のすることなのだ。

 遠野は自身の肩に回されていた野獣の手を払いのけると、野獣の隣に座り、ラーメンを注文し居始めた。

 

「でさあ、俺達爆弾魔探しているわけよ。捕まえたら感謝されまくってウハウハよ!そしてあわよくばお金貰えるかもしれないし!」

「遠野さん、この野獣(ばか)のいうことなんか無視して構いませんからね?いくら恋人でも悪いことは悪いと言わなきゃ付け上がりますよ」

「動機はどうあれ、街の平和につながるしいいと思うけどね」

「恋は盲目とはこのことなんだろうか……」

「おい店主、替え玉何時まで待たせるんだよ?これ以上待たせるようならけ○あな確定な?」

 

 遠野の無理のある好意的解釈に呆れる木村達の横で、一向に来ない替え玉に苛立ちを隠せない野獣が、店主に怒鳴る。

 そういえば、先ほどから店主が動いていない。野獣の声にも反応を示さない。麺を茹でていた鍋からは沸騰した水が噴き出しているし、手に持った湯切り網からはぼたぼたとお湯がまな板の上に垂れている。流石に遊矢も不審に思い、声をかけてみるが、店主からの反応はない。ずっとこちらに背を向けたまま、微動だにしない。

 その時、柚子がこんなことを言いだした。

 

「ちょっと待って……なんか、カチカチ音がしない?」

「音?」

 

 柚子に言われるがまま、遊矢達は耳を澄ませる。すると、お湯のぐつぐつと煮立っている音に混じって、カチカチという音がしている。時計の針の音なんかじゃない。屋台に備え付けられているのはデジタル時計だからだ。

 ――音は、店主の頭部から発せられている。

 

「いい加減にしろよクソハゲ野郎!いくら常連の俺だからって堪忍袋の緒が切れるってもんだぜ⁉ 何とか言えよこの野郎が!」

「野獣、やめるんだゾ……」

 

 ここで、とうとうしびれを切らした野獣がカウンター越しに身を乗り出し、店主の肩を強く掴んだ。そして、そのまま店主を強引に振り向かせる。

 こちらに向いた店主の顔を見て、一同は愕然とした。

 その顔には、生気も理性も感じられなかった。黒目があらぬ方向を向き、口からはよだれが垂れている。そして何よりも目立ったのは、その額。店主の額には、小さなデジタルタイマーのようなものが埋め込まれるようにして存在していた。そして、その液晶に表示されているカウントは“3”。あまりの異様さに静まり返る一同の前で、タイマーのカウントが“2”を経て“1”になる。その時になって、ようやくある考えが頭に浮かんだ。

 ――このカウントは何なのだ?ゼロになった時に何が起こるというのだ?

 わからないが、兎に角ここを離れなくてはいけない。膨れ上がる原因不明の恐怖心が、そう言っていた。

 

「田所先輩危ない!」

 

 カウントがゼロになる。それと同時に、いち早く正気に戻った遠野が、野獣の肩を強く引っ張る。

 瞬間、爆炎を伴いながら、店主の頭が風船のように破裂した。

 バガアアアアアアアアアンッ!!と大きな音を立てながら、ラーメン屋の屋台が木っ端みじんに砕け散り、生じた爆炎が暖簾に引火したりガスボンベを破損させながら、さらに大きく激しいものへと進化していく。爆風に煽られて吹っ飛び、ビルの壁に叩きつけられる遊矢達。熱風と壁に挟まれ、口から赤い液体が漏れ出しているのが感じる。

 そんな遊矢達の目の前で、たちまち都会の片隅に豪勢なキャンプファイヤーが出来上がっていった。

 

「が……な、なんだよこれっ!」

「店主さんが爆発した……⁉ 」

 

 和気藹々とした雰囲気も、今の出完全に吹き飛んでしまった。一体何が起きたのか、理解が追い付かない。ただ一つ確実にわかっていることは、ラーメン屋台の店主が目の前で殺されたということだけであった。

 遊矢達と同様に吹っ飛ばされた三浦は、さっきと変わらない呆けた顔で火に包まれた屋台を眺めていた。そして、なんとも呑気な感想を一言。

 

「秋吉先生の正拳突きより痛いゾ~」

「そんなこと言っている場合じゃあないですよ三浦さん……これはいったい何なんですかね?」

「さあ?最近の屋台ってすごいサービス精神豊富なんだな~俺すっごいびっくりしたゾ~」

 

 駄目だこの馬鹿坊主、状況何にもわかっちゃいない。予想通りの馬鹿っぷりに、木村と遠野はあきれてものも言えなかった。こいつに何言っても無駄だ。なんせ図体だけでかい子供のようなものなのだから。そこに年長者としての威厳なんて見出すなんて不可能なのだから。

 そんなことよりも、野獣はどうなったのだろうか。木村はあたりを見渡す。すると、野獣は近くのゴミ箱に尻から嵌っているのが発見された。身体には熱々のラーメンスープがぶっかかっており、服は生ごみとラーメンで汚れていた。その姿を見て、遊矢は思わず顔をしかめる。木村に至っては、無事な野獣の姿を見て露骨に嫌そうな顔をしている。

 

「なんだ生きてたのか、心配して損した」

「おい木村あ!先輩に向かってそれはねえだろうが!」

「木村さんはなんであそこまで田所さんを嫌っているんですか?」

「あの人我儘で下品でドケチだからね……多くの人が先輩に恨み抱いてるんだよね」

 

 それを遠野から聞いて、よくそんな奴と交際続けられるなあと感心する遊矢。全く好きになる要素がないのだが、一体遠野は野獣のどこを見て恋人関係にまで至ったのか不思議でならなかった。

 その時、野獣の視界の片隅で、誰かが動くのが見えた。

 沸点の低い野獣は、即座に判断した。その人物はは何か知っていると。

 

「あ、待てこら!お前かこれやったの⁉ テメエが爆弾魔か⁉ こんなことしてタダで済むと思ってんのか⁉ 」

「田所先輩、危ないですって!やめましょうよ!」

 

 言いがかりに近い流れだったが、殺されかけて怒り心頭の野獣には関係ない。とにかくこの怒りをどこかにぶつけねば気が済まなかった。その場から逃げるようにして立ち去ってゆく影を追い、路地の奥へと飛び込んでゆく野獣。それを心配して後を追う遠野と木村。三浦のほうは状況が読み込めていないのか、先ほどからずっと燃え上がる屋台を呆けた顔で眺めている。

 

「ど、どうするのよ遊矢」

「……なんとなくだけど、あの人ほっといたらマズい気がする」

「それって爆弾魔の方?それともあの土気色のホモの方?」

「どっちもだよ」

 

 出会いも最悪、印象も最悪だけど、放っておくのは目覚めが悪い。理由はそれだけで充分だった。

 兎に角この場を離れよう。遊矢と柚子は、その場で呆けている三浦を引きずりながら、野獣たちの後を追うのであった。

 

 


 

 PM8:40

 

 ギフトメイカー達は、とあるビルの屋上に集合していた。

 すでに日は落ち、空には星々が、眼下では街明かりが灯り始めている。まるで今現在、いくつもの騒動が並行して進行中であることなど歯牙にもかけていないかのように、不気味で非情なまでに、この街は平常運転であった。

 レドとリイラは、どことなく生暖かい夜風に当たりながら、屋上から夜の街を見下ろしていた。

 

「5月だってのにひどく蒸すなあ……流石大都会だ」

「早く帰ってエアコンの効いた部屋でゴロゴロしたーい。汗は乙女の天敵なのよ?」

 

 階段に通じるドアが開け放たれ、レイラを担いだバルジと、彼に付き従うガングニールオリジオンがやって来た。バルジは、レイラを床に寝かせると、どこからか何本ものコードが伸びるヘルメット状の装置を取り出しては彼女の頭に取りつけ、コードを持っていたノートパソコンに接続する。そして、パソコンの画面を眺めながら、面倒くさそうにぼやく。

 

「あーあ、こりゃオーバーホール必要かもなあ」

「……そいつ、また壊れた?」

「ああそうだよ。しかも今回は外的要因による故障だ。まさかアイツにあんな力があるなんてな……」

「アイツって?」

「そりゃあ、アクロスに金魚の糞みてえに引っ付いてる女だよ……ええと、名前なんて言ったっけ?転生者ですらないモブキャラの名前なんていちいち覚えてらんねえんだよなあ……」

 

 バルジはそう言いながら、パソコンのキーボードをカタカタと叩き始めた。

 目の前で年頃の少女が心身ともにいじくりまわされる光景を眺めながら、レドは横にいたリイラに問いかける。

 

「一応姉だろ?あいつにいじくりまわされてて何とも思わないのか?」

「別に。無能な姉を持ってしまって恥ずかしいったらありゃしませんわ。昔から空気も読めない堅物でしたからねえ……そんなんだからいつまでもオリジオンに覚醒させてもらえないのよ」

「ふっ、恐ろしいほどに冷酷だね」

「ギフトメイカーに身内の情なんか期待するだけ無駄よ……レドだってそれは承知の上でしょ?」

 

 姉と妹。そこに身内の情はなかった。

 元々レイラは、望んでギフトメイカーになったわけではない。彼女は、居なくなったリイラの行方を追う過程でギフトメイカーに辿り着いた。そして、ギフトメイカーに下った妹を取り換えそうと必死になっていたが、ギフトメイカー側はそれを疎ましく思い、レイラをリンチした挙句バルジの技術で洗脳を施し、人間としての尊厳を極限まで破壊しながら都合のいい玩具としてこれまでこき使ってきたのだ。

 リイラは望んでギフトメイカーに下ったのだから、姉のことは鬱陶しいゴミとしか思っていなかった。レイラの思いは今もなお踏みにじられ続けている。そして、それを知りながら助けようとする者はいない。そこに救いはない。

 なんとも悪辣な光景だろうか。そして、それを実際にやってしまったバルジの悪趣味っぷりには、レドは内心辟易していた。だが、そんな感情を共有する相手はいない。今もレドの心の中に巣くったままだ。

 そんなことを考えていたレドだったが、ふいに、屋上の扉が乱暴に開け放たれる音で彼は現実に引き戻される。扉の方を見ると、険しい顔をした壮年の男性――ティーダがやってきていた。

 

「はあ……来たよ」

 

 レドはティーダの顔を見るなり、露骨にげんなりした表情になる。それに気づいたティーダは、無言でつかつかとレドの元まで歩み寄り――その頬を思いきり引っ叩いた。

 

「――っ!」

 

 ビンタを喰らったレドは、頬を赤く腫らしながらティーダを睨みつける。叩かれた箇所が熱を持ち、じんじんと痛みを発していたが、そんなことはどうでもよかった。ティーダは。そんなレドの反抗的な態度が癪に障ったのか、続けて数発、レドの頬を引っ叩く。

 

「おめおめと敗走なぞしおって……やる気あるのか?」

「なんも仕事してねえ癖に一丁前に叱ってんじゃあねえよクソ親父。」

「俺は仮面ライダーを殺せと言ったはずだ。仕事のできない部下を叱責するのは上司の役目だ」

「働かない怠け者についてくる奴なんかいねえよ。本気で誰かの上に立とうとするなら自分から動けよ」

 

 レドのその言い草にキレたのか、ティーダは手刀をレドの首筋目掛けて振り下ろす。レドはそれを難なくよけ、手刀は彼の背後にあった屋上のフェンスにぶち当たる。手刀の当たったフェンスは、ガシャンと大きな音を立てて、まるで刃物か何かで切り裂かれたようにボロボロになっていた。

 続けてティーダはレドを殴ろうとするが、背後から何者かがティーダの腕をつかんでそれを止める。キッと振り返りながら睨みつけると、そこには笠原がいた。相変わらずの鉄面皮だが、目だけはティーダの言動に呆れかえっているのが、サングラス越しでもわかった。

 

「久しぶりに顔を見せたと思ったが……何のつもりだ?」

「おお怖い……貴方のその短気っぷり、改善した方がいいんじゃないですか?そのせいで何人のメンバーが死んだとお思いで?皆知らないだろうから言いますけど、人的資源は有限なんです。もっと丁重に扱うべきではないでしょうか?」

「命令通りに動かない奴を人材というほど俺は甘くない」

 

 ティーダはそう言いながら笠原の手を振りほどくと、屋上の隅で縮こまっているリザードンオリジオン――火吹と、ガンズオリジオン――半崎平一のほうに近づいていくと、レドと同じようにビンタをする。血を吐きながら床に倒れ伏す2人に、ティーダの罵倒が容赦なく浴びせられる。

 

「お前らもだ!何のために貴様らを転生させ、オリジオンに覚醒させたと思っている?俺は慈善事業でこんなことをしてるんじゃあない。貴様らに求められているのは、俺の命令を果たすことだけ。それができないようであるならば、命を以てその代償を支払ってもらうことも辞さないが……どうだ?」

 

 その言葉に2人は何も言い返せなかった。否、言い返す勇気、気力すらなかった。彼らはオリジオンに覚醒させてもらった際に、ティーダの力の一端を垣間見ている。その時に植え付けられた恐怖が、2人を完全に支配しているのだ。

 ティーダは放心状態にある半崎と火吹を放置し、泡不やガングニールオリジオンのいるほうを向くと、彼女たちに対しても罵声を浴びせ始める。

 

「ギフトメイカーだのリバイブ・フォースだのと銘うっているが、貴様らも同類だ。仕事のできない能無しに居場所も価値もない。切り捨てられたくなければ、必死に働け。それが社会というモノだ」

 

 ティーダの発した価値のないという発言に反応したのは、半崎だった。彼は、わなわなと震えながら、狼狽えるようにティーダに縋りつく。

 

「お、俺が無価値だと……⁉ 俺が無価値……んなのは嫌だ!折角転生したのに、ここでも無能扱いかよ……!」

「なら結果を出せば済む話だ。せいぜい頑張るのだな」

「がッ……」

 

 ティーダはそう言いながら自身に縋りついてくる半崎を蹴とばすと、空中にジッパーで転移ゲートを生成すると、その中へと消えていった。ジッパーが完全に消えたのを確認すると、リイラがわかりやすくため息をついた。その様子からすると、これがティーダの平常運転であるようで、彼女はだいぶ辟易している模様。

 リイラは、屋上に座り込んでいるレドにハンカチを手渡しながら、ティーダの癇癪に愚痴をこぼす。

 

「今日のティーダ、やたらと機嫌悪かったわね。ほら、大丈夫なの?」

「……殴られるのは慣れてる。それにしても、僕達の話すらまともに聞かないなんてな」

 

 そう。ティーダはレド達の話に耳を傾けようとするそぶりすら見せなかった。新たなライダー・ユナイトのこと。謎の力に目覚めた諸星唯のこと。更に言えば、2度に渡って邪魔をしてきた少女騎士・セラのことさえも未だに話していないのだ。社会のあれこれについて語る癖に、肝心の彼自身がその基本たる報連相ができていないのだから、レド達からすればとんだお笑い種だった。

 ティーダが傍若無人にふるまっている中、ずっとレイラの“再調整”をしていたバルジは、そんなティーダの醜態を嘲笑う。仮にもギフトメイカーのリーダーだというのに、ティーダには人望なんてものがなかった。

 

「相変わらずおっかねえなあティーダの奴。今どきあんな言い方じゃあ誰もついてこないってのに」

 

 彼はそう言うと、パソコンの電源を切り、放心状態になっている半崎と火吹の元へと歩いてゆく。レイラの調整は済んだらしい。

 

「その分俺様は優しいぜ?ただ不出来な部下を叱るだけじゃなく、手助けまでしてやるんだからな」

「手助け……?」

「おう。俺様がお前を強くしてやるから感謝しとけ」

 

 バルジは不気味に笑いながら火吹と半崎の肩に手を回すと、2人を半ば強引に連れて、ティーダの出ていった扉から屋上を後にした。

 

「では私も。仕込みがありますので」

「アタシも行くわ!あのおっさんなんもしねえ癖に偉そうだしパワハラするしでマジ空気悪い!戦闘になったら呼んでね~☆」

「ウウウウウ……」

 

 笠原も泡不もガングニールも、各々の理由で屋上から姿を消す。後には、レドとリイラだけが残された。レドは、リイラから借りたハンカチを押し付けるようにして彼女に返すと、口元の血を手で拭いながら歩き出す。

 

「どこ行くの?」

「リベンジマッチだ。流石にあれじゃあ消化不良すぎる。足手纏いがいなきゃもっと痛めつけられたってのに」

「へえ……ねえ、私も連れていきなさいよ。最近引きこもりっぱなしで暇だったから、久々に暴れたいのよね」

「勝手にしなよ」

 

 そう言いながらも、レドはリイラの同行を止めはしなかった。彼女の実力はティーダに迫るものがあることを、彼は知っている。彼女ならば、火吹のように足手纏いにはならないはずだ。それに、丁度先ほどのティーダの罵倒にイラついていたところだ。

 つまるところ、ストレス解消。自分よりさらに格下の存在を蹂躙することで、レドは腹の内にたまったそれを解消しようとしている。

 

「サンドバッグぐらいにはなってくれよ、仮面ライダー」

 

 その声は、胸の内に抱えた苛立ちと、自分が負けるはずがないという自信に満ち溢れていた。

 


 

 PM7:53

 

 オリジオンから逃げていたら、AMOREエージェントの一団と出くわした湖森とトモリ。彼女らは、彼らと共に近くの個室制の焼き鳥屋に集まっていた。この店は飲み会などにうってつけのようで、本日も大学生やサラリーマンの集団があちこちで騒がしくしていた。

 そんな中で、焼き鳥をほおばりながら、御手洗倫吾は湖森達にAMOREについて説明する。

 

「AMOREっていうのはねえ、平たく言うと……警察みたいな感じっす。悪いことしてる転生者を捕まえて、更生させる」

「へえ~そうなんだ~」

 

 きっと男の子だったらすごい興奮するのだろうが、湖森は女の子。倫吾から説明を聞かされても、いまいちパッとせず、適当に生返事で済ませるだけであった。トモリの方はというと、名前は知っていたらしく、実在していたことに驚いている様子。

 

「転生者の知り合いから冗談半分に聞いていたけど、実在したんだ……」

「まあ基本秘密組織だからな……ったく、なんでそうベラベラ喋るんだ阿保倫吾(アホップル)

「酷いっすねえ下澤さん!」

 

 守秘義務もへったくれもない社会人失格の倫吾に呆れているのは、全身包帯男こと下澤巻密(しもさわまきみつ)。その横では、20歳くらいでありながら魔法少女コスに身を包んだイタい女性・池映寧理(いけうつしねいり)が、でっかいビールジョッキに並々と注がれたビールを浴びるように飲んでいる。倫吾の話によると今は仕事中とのことなのだが、いいのだろうか?

 まるで知らないサークルの新歓に無理矢理参加させられたような居心地の悪さがトモリを襲う。でもお腹はすいているので、甘んじて焼き鳥は食べるのであった。人間も生き物であるがゆえに、生理的欲求には逆らえないのだ。 

 トモリは隣の湖森に泣きつく。成人女性が女子中学生に泣きつくとか恥ずかしくないのだろうか?

 

「どうしよう……ねえ湖森ちゃん、ほんとどうしたらいいと思う?」

「いやネギマ頬張りながら訊いてる時点で全然真剣じゃないですよね?」

「ねえ、瞬くんに連絡できないの?私着信拒否されてるからできないんだよね」

「駄目、お兄ちゃんのスマホにつながらない」

 

 トモリの着信拒否は自業自得じゃないのか?と思いながらも、湖森は先ほどから何度も瞬のスマホに電話をかけてはいるものの、一向につながらない。念のため唯にも電話をかけてはいるが、そちらも出ない。東京のど真ん中で電話がつながらないはずがない。オリジオンと戦っている中でスマホがぶっ壊れでもしたのだろうか?

 

「困ったなあ……他の皆の電話番号知らないしなあ……どうしたらいいんだろう」

「そんな時はあ~飲めばいいのさあ~!」

「うわ酒臭っ!近寄らないでよ気持ち悪い!てか私中学生だから飲めないし!」

「寧理やめんか!ったく、貴様の酒癖の悪さは筋金入りだな……」

 

 べろんべろんに酔った成人済み魔法少女こと寧理が湖森にダルがらみしてきたが、隣に座っていたボディペイントパンイチ野郎こと古峰諭太(ふるみねろんた)が彼女の頭に拳骨を叩き込んで静止させる。非常識極まりない見た目とは裏腹の酷い常識人っぷりに、湖森は見ているだけで頭がおかしくなりそうだった。彼女の脳内は、もうやだこの変態集団から解放されたい、という思いでいっぱいだった。

 寧理と古峰から距離を取るように、湖森はトモリと身を寄せ合う。そこに、向かいに座っていた、右半分がバニースーツ、左半分がチャイナドレスという、控えめに言って頭おかしい服装をしている美女・着半藤殊宮(きはんふじことみや)が、警戒心バリバリの湖森に問いかけてきた。

 

「ねえ、あなたたちを襲ったオリジオンはどこに行ったかわかるかしら?」

「……と、言われましてもねえ……無我夢中で逃げていたから、どこに行ったのやら。唯ちゃんたちの方を追っかけていったんだろうけど、あれから大分時間がたっているし、居場所なんて見当もつかないなあ……」

「それもそうっすよねぇ……それにしても、今回の仕事マジでキツすぎないっすか?」

「うむ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……なんか話聞いただけでも怪しさ満載なんだけど?」

 

 この人を捕えてください。ただしその理由は伏せられている。

 こんなの、どう見たって怪しい。素人目から見てもそれは明らかだ。こういう時は、大抵何かしら裏があるというのが鉄板だ。

 

「そうねえ……でもまあ、上の考えることなんか、一介の転生者であるあたしたちには理解できないわよ」

「そ~そ~、私らは命令通り転生者と戦って捕まえるだけ……現場作業員なんてそんなもんよ~」

 

 思考放棄に走っている殊宮と寧理の様子を見て、社畜ってこういう人たちを指すんだろうなあと子どもながらに悟ってしまう湖森。それはある意味で楽なのだろうが、危険な道でもあるのだ。それをこの人達はわかっているのだろうか?

 その時、倫吾のスマホから着信音が鳴りだす。

 

「あ、ごめんなさい。ちょいと上からの連絡っす。ここで話すのもあれなんで席外しますね」

 

 そういって倫吾はスマホを片手に席を立ち、店の外に出ていったが、守秘義務違反してるくせに今更こそこそと電話する意味があるのだろうか。

 湖森とトモリは、小さな声で囁き合う。

 

「マジでどうしよう……」

「私でもわかる。この人たち、私達をどうにかするつもりだよ」

 

 素人目でもわかる。彼らは湖森達を解放する気がないのだと。理由はわからないが、倫吾達は湖森達の身柄をなにかに利用するつもりなのかもしれない。だいたい、いきなり悪い転生者を退治する警察組織なんて言われても信じられるわけがない。見た目からして不審者まみれの奴らを馬鹿正直に信じられるほど、湖森もトモリもお人よしではないのだ。

 しかし、か弱い女性2人だけで、これだけの大人数から逃げられるはずもなく。個室焼き鳥屋という環境も、彼女達にとって逆風となっている。人数差・周囲の環境・土地勘の無さエトセトラ……ともかく、様々な要因が積み重なり、2人を追い詰めているのだ。

 

「お願いだから……誰か助けてください……」

 

 ともかく今の2人には、窓越しにそう祈るしか道はなかった。

 


 

PM8:54

 

「はあっ……くそっ……」

 

 無束灰司は、身体を引きずりながらミラーワールドから這い出てきた。

 振り返ると、鏡越しにドラグブラッカーが吠えている。果たして、上手く撒けたのだろうか。裁場の実力は灰司よりも上だった。戦場に立ち続けてきたキャリアの差が、実力差となってこの結果を招いた。だが、灰司は立ち止まっていられないのだ。

 懐から取り出した注射器に収められたAMORE謹製栄養剤を乱雑に体内にぶち込みながら、灰司はふらふらと狭い路地を彷徨い歩く。

 

「ほんと、余計なんだよ……どいつもこいつも……」

 

 灰司の頭の中は、バルジへの憎悪と、今更になって出しゃばってきた裁場への憤りでいっぱいだった。なぜあそこで邪魔をする?役立たずの癖になぜ今になって救うなどふざけたことをぬかせるのだ?もう彼の役目は終わっているのだ。今更、裁場誠一という人間のに与えられる役割なんてものはないのだ。それがなぜわからない?

 思い通りにならない現実と、それをどうにかするだけの力がない自分の無力さに苛立ちながらも、灰司は歩を進める。とにかく、立ち止まっていたくなかった。そうしなければ、バルジを逃しそうだし、裁場にまた止められるかもしれないからだ。

 ふらふらと歩き続けた灰司は、いつの間にか路地を抜けていた。

 その時だった。

 

「あぶない!」

「っ!」

 

 その声に反応して、灰司は即座に後ろに跳んだ。急な運動で身体のあちこちが悲鳴をあげるかのように痛みを発するが、そんなことはどうでもよかった。

 振り返ると、先ほどまで灰司の居た場所には、黒いバイクが一台止まっていた。どうやら人身事故一歩手前だったようだ。しかし、AMOREのエースエージェントであるはずの灰司が、何故バイクに轢かれかけたのであろうか。いくら負傷しているといえど、接近するバイクに気づかないはずがないのだ。

 理由は簡単。なぜなら、そのバイクはエンジン音が全くしていなかったことに加え、無灯火だったからだ。

 そして、バイクの乗り手――首無しライダーは、満身創痍の灰司を見るなり、バイクを降りて心配そうに駆け寄ってきた。

 

『大丈夫か?なんか酷い怪我だが……』

「おー誰かと思えばこの間の転生者狩りさんだ~」

「なっお前は……!」

 

 首無しライダー――セルティの後ろから顔を出したのは、霧崎律刃であった。

 前にあった時は、別段悪事を働いているわけでもなかったので見逃したのだが、どういう風の吹き回しか、今回の剣の重要参考人になってしまっている転生者の少女。バルジを追うことも大事だが、灰司もAMOREのエージェント。仕事はしっかりとこなさなければならない。

 

『知り合いなのか?』

「まあ、うん」

「霧崎律刃……お前がなぜ事件に巻き込まれている?」

「わかんないんだよね。いつも通りわるいことしてるひとを切り刻んでただけだよ?」

 

 とぼけたように律刃はそう答える。まるで、自身に心当たりも悪気もないことで親に叱られた子供のように、そんな無責任な無邪気さがそこにはあった。

 

「それよりも首無しライダーさん。目的地ってここなんだよね?」

『ああ、そうなんだが……それにしても、この荒れようは一体……?』

「あ…………?」

 

 セルティは律刃に言われて、後ろを振り返る。

 そこは、一見すると廃病院のように見えた。都会のど真ん中にこれほど立派な廃虚が残っていたことも意外だったが、その荒れようは端的に言って異様であった。全体的にひどく焼け焦げたように煤けており、そのうえから何かが引っ掻いたような跡が随所についている。2階部分は、異常なまでにきれいに球状に抉れており、そこからみえる内部は、真っ白いカビで覆われている。

 一体ここで何があったのかうかがい知ることができない程に、この建物はちぐはぐな荒れ方をしていた。その異様な光景に、灰司も圧倒されていた。

 ここを最終目的地に設定した、依頼人の思惑はいったい何なのか。ここまで狙われるような荷物を運ばせた理由はいったい何なのか。セルティには、依頼人に問いただしたいことがたくさんある。基本的に依頼人のプライバシーは尊重するのだが、依頼がきっかけで、今日一日だけで何度も変な騒動に巻き込まれたのだから、そのあたりの弁解ぐらいは欲しいものだ。

 そんな思いを抱きながら、セルティは目の前の廃虚を見上げる。

 

 

 

 

 

 彼らは知る由もないが。

 一連の事件の発端は、すぐそこにある。

 

 

 

 




ラーメン屋要素すくねえじゃねえか!

というのはさておき。
今回はギフトメイカー側の描写を多くしました。
向こうも向こうで一枚岩ではないのです。ティーダはパワハラするし、バルジはクソだし、レイラは玩具だしで労働環境最悪すぎだろ……トジテンドとどっこいどっこいです。

AMORE側は変態ばっかです。
意識して出オチ感満載の色物キャラばかりを出しました。こんなんが後輩とか灰司くん相当苦労しただろうなあ……(他人事)。何人かネームドキャラは出たのですが、ぶっちゃけると別に彼らのことは覚えなくて大丈夫です。安心してください。また、湖森ちゃんについては、HSDD編以降はモブキャラ同然の扱いになっていたので、今回はこのようなかたちで巻き込まれていただきました。病み上がりだというのに大変そうだなあ。

そして登場した仮面ライダーブレイド。
ラウズカードの組み合わせは自由自在ですので、調子に乗ってオリジナル必殺技を出させていただきました。
瞬との対話は次回に持ち越しです。瞬サイドが大所帯過ぎるのが悪いんですよ!

そして、今回瞬くんはアクロスに変身していないです。これまでは一応主役ライダーとして、一話に一回は変身させようと心掛けてはいたのですが、そこまで書けませんでした。
まだまだ書き足りないのですが、このあたりで区切った方がいいと思うので、いつもの半分ほどの文量ですが、ここで区切ります。ではまた次のお話でお会いしましょう。では。





ひさびさにオリジオン紹介は無しです。期待してた人はごめん。



次回 PM8:10/引力で結ばれたクソッたれな関係
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