【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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池袋編その5です。
今回と次の話は多分戦闘メインにはならないと思います。池袋編の折り返し地点として、2話ほど用いて前半戦の振り返りと後半へ向けた全体の雰囲気のシフトチェンジをやっていくお話です。

前回のあらすじ
・ユナイト出陣!
・明かされる灰司の過去
・唯ちゃんがなんか覚醒する
・レジェンドライダー・ブレイド見参!
・湖森ちゃん、AMOREの変態集団と出会ってしまう


サイド間でけっこう目まぐるしく同行メンバーが変わって混乱していると思いますので、ここで冒頭時点での同行メンバーをまとめます。


●瞬サイド
瞬・唯・志村・アラタ・大鳳・山風・セラ・ハル・キンジ・アリア・剣崎

●湖森サイド
湖森・トモリ・倫吾他AMOREの変態達多数

●野獣サイド
野獣・木村・三浦・遠野・遊矢・柚子

●セルティサイド
セルティ・律刃・灰司

●単独行動組
裁場・ボマー

●ギフトメイカーサイド
レド・バルジ・ガングニール・泡不・レイラ・火吹・半崎


第28話 PM8:10/引力で結ばれたクソッたれな関係

 

 

 

 PM8:10 露西亜寿司店内

 

 池袋のとある場所にある寿司屋。

 名前の通りロシア人が経営する寿司屋とのことで、物珍しさ半分で入店した瞬達。今いるメンバーの大半が寿司なんて未体験ということで、みんな揃って目を輝かせていた。なお瞬とアラタはというと、カウンター寿司って高いんだよね?高校生の金銭的にはめっちゃ不安なんだけどなあ……と半分憂鬱な気持になっているのだが。

 とりあえずテーブル席に座り、お茶(あがり)でもいただきながら、状況と情報を整理することにした。とにかく今日はいろんなことが起きすぎていて皆混乱気味なのだ。

 

「うわっ…………⁉ 」

 

 店の前で客引きをしていたデカい黒人にもびっくりしたのだが、入店してからもびっくりした。店の入り口に一番近いカウンター席に、マスクと帽子とサングラスでこれでもかというほどに顔を隠し、分厚いロングコートを着た人物が座っていたのだ。こんなにコテコテに怪しい風貌の人間をこれまでに見たことがあっただろうか?

 しかしながら、その人物は無言でカウンター席に座っているだけ。関わり合いになりたくなくてスルーしているのかは定かではないが、板前も普通に接客しているし、他の客も気にしていない。瞬達もなるべく触れないでおこうと思い、そのまま店の奥に進んだ。

 席に着くなり、唯はセラの顔をまじまじと見つめはじめた。顔に息がかかりそうな距離まで顔を近づけ、舐めるように観察する。なんかふたりの背後にキマシタワーがうっすらと建ちかけている気がするが、あれは幻覚と思いたい。

 

「う~ん」

「な、なんだ。私の顔をまじまじと見て」

「不思議だなあ……なんでか知らないけど、実質的に初めて会ったはずなのに他人のような気がしないんだよなあ……もしかして生き別れの姉妹だったりする?」

 

 やはり、瞬の感じている違和感は、唯自身も感じているらしい。まあ本人はいたって呑気なもんで、生き別れの姉妹(仮)の登場に喜んでいる様子を見ていると、真剣に悩んでいるのが馬鹿らしく思えてくる。なんだかすごく無駄なことで悩んでいる感が半端ないのだ。

 顔をひっこめた唯は、あらぬ妄想に没頭し始める。セラは首を横に振りながら、呆れたように言う。

 

「……どうだろうな。私は親の顔を知らないから何とも言えないな」

「てことはマジで姉妹だったりして!唯ちゃんがお姉さんでセラさんが妹でさ!」

「志村、ふざけたこと言わないで。真面目な話の最中なんだからさ」

「ええ……ぼく、まじめじゃないとおもわれてるの……?」

 

 調子に乗って変なことを言いだした志村は、山風にぴしゃりとキツイことを言われ、隅の方の席で縮こまって湯飲みに口をつける。

 閑話休題、くだらないおしゃべりはここまでにして、そろろそ本題に入るとしよう。丁度頼んでいた寿司もやって来たので、それをつまみながら会議がはじまった。

 

「これまでの状況を整理しようか」

「お願いします」

「お前も参加するんだよ」

 

 他人任せにしようとしていた唯が、瞬に諫められる。

 

「まず、セラ……だっけ?お前の見たことを話してくれないか?」

「ああ」

 

 瞬に言われて、セラは語り始めた。レイラ達に襲われる直前で、一般人であるはずの唯が謎の力を発揮してそれを防いだことと、その力を受けたレイラが“壊れてしまった”ことを。

 

「ギフトメイカー・バルジ……奴にとっては同じギフトメイカーですら玩具扱いか……」

「つまり……あのレイラも被害者だってことか」

 

 話を聞けば聞くほど、バルジの悪辣さだけが強まってゆく。これまで何人もの転生者を相手にしてきた瞬だが、比べ物にならない程に邪悪だ。

 そして、そんなバルジに洗脳されていたレイラ。これまで何度か彼女に殺されかけた瞬であるが、それが彼女の意思に反して行われたことと知った今は、敵意よりも憐憫を抱いていた。彼女もまた、バルジの被害者なのだ。

 

「だったらどうするんだ?助ける気じゃないだろうな?」

「……志村、お前の目には、さっき見たレイラがどんな風に映った?」

「え、僕に聞くの⁉ 」

 

 突然話を振られた志村は、自分に話が回ってくるとは思っておらず、心の準備ができずに戸惑ったが、1,2分ほどうんうんと唸りながら考えた挙句の果てに、ひとつの答えを出した。

 

「……とっても苦しんでたよ。初対面の僕から見ても可哀想なくらいに」

「そうか」

「え、まさかお前……あいつを助ける気じゃないよな?」

「助けるよ。それが唯からもらった、俺の正義だ」

「瞬……」

 

 例え殺し合った相手だったとしても、それが本人の望む者でないとするならば、瞬としては看過はできなかった。ビルドオリジオンの時もそうだった。彼は最終的に自ら変わろうとしていたのに、ギフトメイカーの意思で暴れさせられていた。あの時は助けられたのだ。今回も行けるはずだと、瞬は思っていた。

 しかしアラタは不服なようで、瞬に文句を言ってくる。

 

「アイツはギフトメイカーだぜ。そんなの助けたって……」

「そんなのは関係ないだろ。ヒーローが助ける人を選り好みをしちゃいけない。その人を本気で助けたいと思ったら、その気持ちを大事にするべきなんじゃないかな」

「剣崎さん……」

「先輩ライダーからのちょっとしたアドバイスさ」

 

 剣崎は微笑みながらそう言うと、熱い緑茶に口をつける。

 ヒーローとは、助けを求める人に手を差し伸べられる人の事。そこに貴賤はない。それをやってしまったら、それはもうヒーローとは言えないのだ。

 話を変えて、次は唯の謎の力とやらに踏み込んでみよう。しかしながら、瞬は半信半疑の様子。まあ信じられないのも無理はないかもしれない。

 

「で、唯。お前が変な力に目覚めたって言ってるけど……本当なのか?」

「いや~それが全然覚えてないんだよねえ。何があったのやら……セラ、本当に私がやったの?」

「やったな。思い切りやってた。あれは何だ、前々から使えていた……とかではないのか?」

「嫌、そんな筈はないね。私は生まれも育ちもごくごく普通のJKでっせ?あんな馬鹿恐ろしい能力を前々から持ってたら、今頃とっくにスーパーヒーローの仲間入りしてるね」

 

 冗談交じりに笑い、気丈にふるまう唯。彼女の言っていることが本当なのだとしたら、その原因はどこにあるのだろうか?血統か、それとも外的要因によるものなのか。とにかく今は分からないことだらけだ。なんせ本人が覚えていないのだから、他者にわかるわけがないのだ。

 しばらく考えたけど、先に志村がギブアップを宣言したので、皆がそれに同調する形で、この件は後回しにされてしまった。結構重要なことだと思うのだが、瞬達には他にも考えるべきことがあるのだ。

 

「この話は後回しにしない?考えるだけ無駄な気がする……」

「そう……だな。じゃあ話を変えて、当面の問題をおさらいしようか。まずは例の爆弾魔。志村たちが撮ってくれた奴の顔写真があったんで、そいつを元に調べたところ……奴の身元が分かった」

 

 キンジはそう言いながら、志村のスマホに保存されていた、ボマーオリジオンに変身した男の顔写真を表示させる。瞬はこういうのにあんまり詳しくないのでよくわからないのだが、こんな短時間で分かるものなんだろうか?

 

赤浦健一(あかうらけんいち)、25歳。機械工学に精通した若手の技術者だ。1年前まで仲間と共に小さな工場を営んでいたようだが、原因不明の火災により工場が全焼してからは他のメンバー共々消息不明になっている。都会のど真ん中で起きたから、結構大騒ぎになっていたんだ」

「あ、そういえばこの人の顔ニュースで見たかもしれない。けっこう大きな騒ぎになってたよね?」

「そうそう、池袋のど真ん中での火災だったから、すごい目立ってたのよね」

 

 大鳳達が赤浦の画像を見ながら頷いている。彼女ら曰く、連日報道されるくらいの大事件だったらしいのだが、瞬にはピンとこない。それほど大騒ぎになったのならば、普段ニュース番組を見ないような人でも知っているはず。おそらくこれは、次元統合によって生まれた歴史なのだ。故に瞬はそれを認識できていないのだ。

 しっくりこない様子の瞬と唯だったが、他の皆は気づいていない。キンジはスマホを操作して、言及した火災についてのネット記事を画面に表示する。そこには、赤浦の他に、二人の男女の顔写真も掲載されていた。ひとりは、額にサングラスを引っさげた青髪の男。もうひとりは、白衣を着た、血てきそうな雰囲気を漂わせる茶髪の女性だった。

 

「こっちが赤浦健一の同僚。相藤(あいとう)レイと青島慈愛(あおしまじあい)。彼らも火災事故以降消息不明となっている。思いっきり怪しくないか?」

「死んだ……とかじゃないの?」

「いや、焼け跡からは2人の死体は見つかってはいない。故に生死不明ってことらしい」

 

 皆が自分の知らない話題に突入している時の疎外感とは、なんとも居心地が悪い。折角の寿司も味気なく思えてしまう。瞬はそれをごまかすかのように、次の話題にうつる。兎に角、敵の素性が分かっただけでも一歩前進だ。

 

「次に湖森と……ついでにトモリのこと。多分、オリジオンから逃げてる途中で唯達とはぐれてしまったんだろう。電話は繋がらない。どうしたらいいんだろうなあ……」

「そりゃあ……しらみつぶしに?」

「アホか唯。そんなんで見つかりゃ苦労せんわ」

「だよね……湖森ちゃん、危険な目にあってなきゃいいけどさあ……」

 

 瞬と唯は、湖森の顔を思い浮かべる。仮面ライダーになってからは、色々と苦労を掛けてしまっている。今日は湖森の全快記念の遠出だったのにも関わらず、三度巻き込んでしまったこと。それと、怪我のせいですぐには助けに行けない今の現状が、非常に腹立たしく思えてくる。

 その屈辱を少しでも紛らわそうと、次の問題にうつる。黙り込んでいると、ますます自己嫌悪に陥りそうだ。

 

「3つ目は、さっきの武偵のオリジオン。次はいつ襲ってくるかわかったもんじゃない……いつも通り、話通じなさそうな感じだったしなあ」

「……普段お前らはどんな生活送ってるんだ?」

 

 キンジが呆れたように言うが、話の通じない相手と毎日のようにドンパチやってる生活を望む奴がどこにいるというのだ。瞬だって望んで戦っているわけじゃない。できれば戦いたくはないのだが、オリジオンによって傷つけられている人を守るために必死に戦っているのだ。

 続けて瞬は何か言おうとしたが、ふと言いよどんでしまう。

 果たして、これを伝えるべきなのだろうか。短い間とはいえ、一緒に過ごした友人の秘密を、勝手に暴露していいのだろうか。きっと彼は望まないだろう。だが、ショックが大きくなる前に伝えてしまった方がいいのかもしれない。

 瞬は意を決して、カミングアウトした。

 

「それに裁場誠一……仮面ライダーユナイトと、転生者狩り……灰司のこと」

 

 この場にいるものの中では、瞬以外は知らなかった、ふたりのライダーの素性。それを明かした。

 真横でそれを聞いていたアラタは、素っ頓狂な声をあげて困惑する。

 

「え、何言ってんだよ……え、灰司が転生者狩り?てかユナイトって何?」

「灰司は転生者狩り……仮面ライダーだった。俺も知ったのはついさっきだったけどな」

「マジで言ってんのかそれ……目立たない奴だと思ったら、そんな裏の顔があったのかよ……」

 

 驚きすぎて若干放心気味になっているアラタ。しかし、瞬だって驚いているのだ。これまでちょくちょく戦場で顔を合わせていた転生者狩りの正体が、こんなに身近にいたのだから無理もないだろう。おまけに本人は、ユナイトと戦いを始めて以降音沙汰無し。今頃、灰司はいったいどこで何をしているのだろうか。

 そして裁場誠一――仮面ライダーユナイトの存在。彼がなぜクロスドライバーを持っているのか、そしてどういう目的で仮面ライダーとして戦っているのかが謎である以上、安直に彼を信用していいのか、疑問符が残る。

 しかし、瞬は彼らともう一度会うべきだと思った。わからないのなら、本人から聞けばいい。ろくに話もしないで、その人を理解できるはずがないのだから。

 

「そして、もう一人のクロスドライバーの持ち主、裁場誠一。あの人が敵か味方がわからないけど……とにかく俺は、もう一度あの2人に会って話をしなきゃいけないと思う。」

「私たちが道草食っている間にそんなビックイベントが起きていたなんて……九瀬川ハル、一生の不覚なり……お詫びとして着ているスク水を自ら切り刻んで……」

「それ切腹のつもりなの?てか今日も着てきてたの?」

「何よそれ、変態?」

「アリアさんもきっと似合うと思うんですけどね」

「お断りよ!」

 

 泣きながらシャツを捲り上げるハル。その下には、紺色のスクール水着がてかてかと輝いていた。ご丁寧に名前の記入された白いゼッケンも貼られている。あれインナー見せてるんじゃなくてスクール水着だったのかと驚く一方で、ハルの変態っぷりに一同ドン引きしていた。おまけにアリアにスク水薦める始末。なんか向こうは今にも銃を抜きそうになっているが大丈夫なんだろうか。

 これまでの重苦しい雰囲気とは一変し、なんか一気に騒がしくなった。ハルを落ち着かせながら、山風が問いかける。

 

「で、どうするの?帰る気……は、皆なさそうだね……」

「まあ無視して帰るにしては、深入りしすぎた感があるよなあ……」

「あんたたちと一緒に進んでいけば、あたしたちが追っている爆弾魔にも辿り着けるってことでいいのよね?」

「かち合う可能性は十二分にあるかもね」

 

 てんでバラバラな始まりだったが、行き着く先はだいたい同じ。

 瞬は寿司をもう一貫食べると、おもむろに席を立つ。

 

「ん、どこ行くんだ?」

「トイレだっての」

 

 そうかい、とそっけなく返すと、アラタは再び談笑に戻っていった。

 瞬は若干にぎやかな店内から外れ、静かなトイレに向かう。途中だった。

 

「…………さっき、赤浦健一と言ったな?」

「⁉ 」

 

 突然に、後ろから声をかけられた。

 驚いて振り返ると、そこには、先ほど店の入り口付近にいた怪しい風貌の人物が立っていた。まるで瞬の退路を断つかのように。

 それよりも、今コイツは赤浦健一の名前を発した。先ほどの会話を聞いていたのかと思ったが、瞬達のいた席は店のかなり奥の方だし、声のボリュームは絞っていた。他の客の話し声も加味すると、この不審者の席からは瞬達の会話内容を聞き取るのは、よっぽど耳に自信がないと困難なはずなのだ。

 それとも、コイツは赤浦が起こしている事件に何らなの形で関与していたりするのだろうか?目の前の人物の風貌の怪しさが、どんどん瞬の警戒心を増幅させてゆく。

 

「アンタ……何者だ……?まさか奴の仲間じゃ……」

「いや、俺はどちらかというと被害者……否、標的に近い」

 

 コイツは何を言っているのだ?

 瞬が不審者の発言の意図を汲み取れずに首をかしげていると、彼(?)は瞬の肩にぽんと手を置いて、こう言った。

 

「君たちがなぜ赤浦を追っているのかは知らないが、一応忠告しておく。これ以上はやめておけ」

「忠告だって……?」

「これは俺と奴の問題だし、真っ当な解決手段なんてない。たぶん、俺とアイツのどちらかが死なないと終わらない」

「結局のところ、何が言いたいんだ……?」

「他人の喧嘩に横やり入れんな死にてえのか馬鹿野郎、ってことだよ」

 

 不審者は、冷ややかな声でそう言った。

 何が何でも自分が終わらせる。そんな固い決意の込められた冷たさだった。

 が、そうは言っても簡単にはいそうですかとは言えない。

 

「いきなりなんなんだよアンタは……そんなことを初対面の怪しい奴に言われても信じられない」

「それは至極真っ当な意見だ。だがな……この件に関しては本当に君たちは部外者なんだ。単純な正義感で介入されたら余計こじれて、俺と奴の喧嘩どころじゃすまなくなる。それは俺も君たちも望まないはずだ。だから手を引いてほしい。俺だって、これ以上ことを大きくしたくない」

「だったら素性くらい名乗ってもいいんじゃないのか?それとも、明かせない理由があるのか?」

「……俺は追う側でもあり追われる側でもあるからな。すまないが俺から言えるのはここまでだ」

 

 そう言うと、その不審者は勝手口から店を出ようとする。

 ドアノブを捻りながら、瞬に向かって一言、こう言った。

 

「安心しろ、代金なら既に支払った後だ」

 

 いや無銭飲食の疑い晴らしても不審者なのは変わらないし、そもそも追われている癖にすさまじく怪しい恰好で寿司食いに来るとかいう悪目立ちやるとか馬鹿なのかとか色々と言ってやりたかったが、彼(?)の言うことがどうも納得いかない瞬は、その人物を呼び止めようとする。

 急に出てきといて引っ込んでろと言われ、言われたとおりに引っ込む奴も納得できる奴もいない。どう考えても、ここまで巻き込まれた奴に対して言うことじゃない。それに瞬は、ボマーオリジオンの被害に2回も合い、その脅威を身に染みて理解しているからこそ、ボマーオリジオンを放置してはいけない存在であると認識している。目の前の人物は、自分とボマーの問題だから自分でなんとかすると言っているが、それまでにでる被害を考慮すると、瞬としてはどうしても引き下がれない。

 

「やっぱり俺は、あんたの言うことは何一つ納得できない!あいつは放置すればどんどん――」

「危ない!」

 

 瞬が怒鳴るのと同時に、不審者がそう叫びながら、瞬を突き飛ばした。

 すると、どこからか目にもとまらぬ速さで一本の剣が飛んできて、ドアを通過してその向こうの壁に突き刺さった。あまりにも早すぎて、突き刺さった音すらも置き去りにするものだった。

 瞬が突き刺さった剣に呆気に取られていると、どこからか聞き覚えのある声が飛んできた。

 

節制(Temperance)の剣を躱すとは……流石、無力ながらも転生者というべきですか」

 

 そう言いながら、路地の果ての闇から姿を現したのは、黒いコートを着た眼鏡の男だった。眼鏡越しに此方を覗いている、人を人として見ていない様な冷たい目をしたその男を、瞬は知っている。

 ギフトメイカー直属の精鋭転生者であるリバイブ・フォースのひとり、タロットオリジオン。舞網で交戦したその男が、再び瞬の前に現れていた。

 

「見つけましたよ……こんなところに隠れていたのですか」

「な、お前は……!」

「では改めまして自己紹介を。私はリバイブ・フォースが一人、二十鬼占(とつきほく)。またの名をタロットオリジオンと申します。以後お見知りおきを……そしてさようなら」

《KAKUSEI TALOT》

 

 二十鬼はお辞儀をすると、オリジオンとしての姿をあらわにする。身体のあちこちに浮かび上がるタロットカードの絵柄が彫られたレリーフ、右半分が骸骨、左半分が黄金の仮面に覆われている頭部。その姿はまぎれもなく、前に出会ったタロットオリジオンであった。

 タロットオリジオンは、手に持った杖を突きつけながら瞬に言い放つ。

 

「アクロス、再び合間見えましたね。ついでです、纏めて始末してしまいましょう」

「くそ……よりによってギフトメイカーが出てくるとは……」

「あんたを追っている奴らってギフトメイカーなのか⁉ てか転生者だったの⁉ 」

「そんなことよりもここから逃げるぞ!このままだとこの店がぶっ壊れかねない!」

 

 彼(?)の言葉に従い、瞬は開け放たれたままの勝手口から外へと飛び出した。不審者も瞬に続いて勝手口に飛び込む。その瞬間、先ほどまで瞬達の立っていた箇所が一瞬で円形に抉れた。音すらない破壊であった。

 向こうは完全に殺す気で来ている。それならばアクロスに変身して応戦するしかない。瞬はクロスドライバーを装着しながらタロットオリジオンに突進する。兎に角店にいる人達を巻き込まないように、タロットオリジオンをこの場から引き離す。

 

「邪魔です、(The Tower)!」

「え、あれ、え?」

 

 タロットオリジオンがそう叫ぶと、抑え込んでいた筈のタロットオリジオンの身体を、瞬がすり抜けてしまった。瞬は突然消え去った質量に困惑しながら、前のめりに倒れこむ。

 

「無意味です。貴方の行いはバベルの塔の如く、無駄に終わりました」

「いったい幾つ能力があるんだコイツ……!」

「そして、太陽(The Sun)の逆位置。貴方のすべてが停滞する」

「しまっ……」

 

 タロットオリジオンが不審者に手をかざしながらそう告げると、彼(?)の身体の動きがピタリと停止する。身動きを封じられてしまったのだ。タロットオリジオンは、壁に突き刺さった剣を引き抜くと、動けない不審者の胸元に突き立てようとする。

 その人物を死なせるわけにはいかないと、瞬は判断した。それは打算的な意味ではなく、純粋な正義感からくるもの。アクロスライドアーツを取り出してクロスドライバーに装填すると、タロットオリジオンに向かって体当たりを仕掛ながら変身する。

 

「変身!」

《CROSS OVER!仮面ライダーアクロス!》

「邪魔なんですよ!」

 

 タロットオリジオンは不審者に突き立てようとしていた剣を、突っ込んできたアクロスに向かって投げつけた。しかし、アクロスはそれを片手で打ち払い、真上に打ち上げる。これにはさすがのタロットオリジオンも驚いたようなそぶりを見せるが、アクロスは構わずに、剣を打ち払ったのとは反対側の拳でタロットオリジオンの脇腹をぶん殴る。

 タロットオリジオンがよろけると同時に、彼の能力が途切れ、不審者が解放される。

 そのままアクロスは、不審者を庇うようにタロットオリジオンの前に立ち、ツインズバスターを構える。

 

「前よりはマシになっていますね、貴方」

「そりゃああれから何度か戦ったからな。経験値溜まってんだよ」

「やはり貴方には我々の脅威となる素質がある……早急に始末するべきでしょう」

 

 タロットオリジオンはそう言いながら杖から幾つもの火球を生み出し、自身の周囲に旋回させる。その声には僅かながら、自身の手を煩わせる者への苛立ちのようなものがこもっているように聞こえた。

 アクロスは、背後にいる不審者の方を見る。兎に角彼はギフトメイカーから狙われており、赤浦健一について何かを知っている。情報源として、そもそも被害者として、助けないわけにはいかなかった。アクロスは彼(?)の手を引っ張りながら、タロットオリジオンのいる方とは逆方向に駆け出す、同時に、タロットオリジオンの周囲を回っていた火球が、一斉に彼らの後を追うように動き出す。

 

「逃がしません、貴方達を野放しにするわけにはいかないのです!」

「くそっ、迎撃するにしろ兎に角ここから離れた場所に行かないと!」

「それもそうだな!戦うにしてもここは狭いし目立つからな!」

 

 さあ、追いかけっこの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 ちなみにこの時。

 タロットオリジオンの火球から逃げながら、アクロスはこんなことを考えていた。

 

「やべ、これ無銭飲食にならないかな……」

 

 命のやり取りの最中とは思えない、何とも言えない悩み。しかしながら、仮面ライダーが犯罪行為とか笑えないのも事実。

 兎に角、他の皆が払ってくれていることを祈ろう。

 そう思いながら逃げるのであった。

 


 

 PM8:44 焼き鳥屋『健太焼』裏手

 

「…………」

 

 通話を切った御手洗倫吾は、呆然としていた。

 ダラダラと冷や汗が流れていることさえも気に止まらない程に、今の彼は困惑していた。

 

「そんなこと……できるわけないっすよ……何考えてんすか上は……」

 

 電話の相手は、AMOREの上層部からだった。倫吾の上司は、部下の些細な失敗を針小棒大に取り扱ったり、部下の手柄を自分の手柄のように自慢するような、世間一般でいう典型的なブラック上司なので、部下達から苦手意識を持たれている。故に倫吾も、気が乗らないながらも仕方なしに電話に応じだのだが、彼から告げられた命令に耳を疑った。

 ――あんなこと、できるわけがない。能力の問題ではなく、倫吾の中にある、人間として当たり前に持っている良識が、それを実行することを拒んでいる。上司としては尊敬できなくとも、世界を守る責務を負うにふさわしい一線というものを持っていた筈の上司が、本気で人間とは思えなくなった。

 困り果てた倫吾は、下澤巻密に相談することにした。チームメンバーの中では一番の古株である彼ならば、きっと自分の意見に賛同してくれるだろうと思いながらの行動だったのだ。彼をメールで店の外に呼び出し、事情を話す。

 しかし、彼は倫吾の期待を見事に裏切った。

 

「それが俺達の仕事ならやるしかないんじゃないか?俺達下っ端が何言っても無駄だよ」

「で、でもこんなの……明らかにおかしいっすよね⁉ AMOREは正義の組織じゃなかったんすか⁉ 」

「AMOREの目的は多次元の秩序維持だ。そのためならなんだってする……オリエンテーションの時からそう言われていた筈だぞ」

 

 揺らいでゆく。

 自分の抱いていたものが、音を立てて崩れ始めてゆくのが分かる。

 

「お前がやらないってんなら俺達がやる。そんなんだからお前はいつまでも下っ端なんだ」

「…………………………………………」

 

 そう言い残すと、巻密は店内へと戻っていった。

 倫吾は何も言えなかった。

 

「そ、そうだ……灰司先輩に電話を……!」

 

 思い出したかのように、彼はスマホを取り出して灰司に電話をかけた。

 倫吾は、灰司にはAMORE入隊時から世話になっており、人一倍彼のことを尊敬している。実力と実績を併せ持つエースエージェントとして、AMORE内では憧れの的であった。そんな灰司ならなんとかしてくれるかもしれないという淡い希望を抱きながら、今か今かと電話がつながるその時を待つ。

 しかし、その行動はあまりにも遅すぎた。

 ガシャンと、店内から大きな音がした。

 

「……………………」

 

 嫌な予感がする。

 倫吾は、冷や汗を全身から吹き出しながら店の方を振り返る。スマホを落としたことに気づかない程に、彼は動揺していた。なんとなくついてしまっている予想がはずれていることを願いながら、彼は個室に戻る。そうだ、あんなことできるわけがない。今も店内では皆が和気藹々とやっているはずなんだから。そうであってほしい。そう思いながら、倫吾は戻る。

 だが。

 その希望はすぐに葬り去られた。

 

「え……」

 

 席に戻った彼が見たのは、死んだように眠る湖森とトモリ、そして、彼女たちを取り囲むようにして某立ちしている同僚たちの姿であった。先ほどまでの和気藹々とした雰囲気はどこにもない。店内の他のボックス席では、いつもと変わらない賑やかさが存在していることが、余計にこの場の異様さを強めているように思えた。

 うわ言のように「え?」とつぶやきながら、倫吾は湖森やトモリの肩をゆする。死んではいないようだが、彼女たちは目覚めない。2人が殺されたわけでもないことに内心安堵しながらも、震える口で同僚たちに問いかける。

 

「なに、やってんすか」

 

 その問いかけに答えるものは居ない。皆、無言で湖森達を見下ろしている。

 

「あんなふざけた指令を……ほんとにやっちゃったんすか……?嘘っすよね?」

 

 縋りつくように何度も問いかける倫吾だったが、誰も答えない。しかし、倫吾も察していた。この沈黙は肯定の意であると。自身の問いかけは、それを補強しているだけに過ぎないと。

 ばっと後ろを振り返る。そこには、冷ややかな表情を浮かべた巻密が立っている。

 

「嘘であってくれよ……こんなの、あんまりっすよ」

 

 そう言った瞬間、倫吾は後頭部を思いきりぶん殴られて意識を手放した。

 

 

 

 思惑が、加速する。

 


 

 PM8:48

 

 ミラーワールドから抜け出した裁場は、武偵としての仕事をこなしながら灰司の行方を追っていた。仕事とは無論、爆弾魔――ボマーオリジオンの捜索だ。

 彼の手によって、今日だけで5人が死んだ。昼間のビル爆破事件はかなりの騒ぎとなったが、それとは裏腹に、死者はたったひとりだけであった。同時刻のアパート爆破事件も、玄関前にいたバーテン服の男が軽傷を負っただけで死者は爆発源の部屋の住人ひとりだけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、この世界の住人たちは気づいていない、被害者たちの本当の素性を、裁場は知っていた。

 

「やはり、狙われているのはAMOREの元隊員……それも、あの事件の関係者として疑われていた人物ばかりだ」

 

 ではなぜ、わざわざ爆殺という目立つ方法でやるのだ?彼の転生特典を駆使すれば、ビル火災を起こすほどの爆発を起こさずとも、ターゲットだけを爆殺することができるはずなのだ。まるで、誰かにわざわざ見せつけているかのようだ。

 ――()()()()()

 

「ん、あれは……」

 

 思考する裁場だったが、ふいに、視界の果てに見知った顔を見かけた。

 何かから逃げるように、路地から飛び出してきたそれを、裁場は知っている。

 

「アクロス……いや、逢瀬瞬……何をしているんだ?」

 


 

 PM8:56  廃虚前交差点

 

 目の前にそびえたつ廃虚を見上げながら、セルティは待っていた。

 ここが、依頼の際に提示されていた最終ポイント。託されたブツをここまで持ってくることが、彼女に課せられた依頼であった。少し前に、依頼者から“近くまで来ているからもう少し待ってくれ”と言われたので、こうして待っているのだ。

 彼女から少しばかり離れたところでは、律刃と灰司が地面に座り込んでいた。

 

「帰りなよ、キミは関係ないはずだよね?」

「お前を見張っているんだ。組織が何を考えてんのかは知らねえが、お前を見張っていればおのずとそれがわかる」

「ふーん、キミって変に真面目なんだね……でもそれは建前。ほんとはまだ傷が癒えていないだけ、そうでしょう?よかったらわたしたちがなんとかするけど?」

「余計悪化しそうだからナシだ。お前の転生特典はだいたいわかっているからな」

 

 そう毒づきながら、灰司は目の前の廃虚を見上げる。

 律刃の言っていることは事実だった。今はまだ万全ではない。悔しいが、バルジを確実に殺すためには体力を回復しなければならない。故に、灰司はここにとどまっている。

 そして、セルティ達からもらった情報をまとめ終えた灰司は、口を開いた。

 

「……お前らの話を総合するに、お前らの持っているナニカ……それをギフトメイカーとAMOREの双方が狙っているようだ」

「キミもAMOREなんでしょ?その辺は知らないの?」

「俺に下った指令じゃないから知らん」

『転生者、か。誠に信じがたい話だ……遊馬崎あたりだったら羨ましがるんだろうけども』

 

 情報をまとめる過程で転生者について知らされたセルティは半信半疑だったが、そもそも自分がデュラハンの癖に今更輪廻転生を否定するのもなあとも思っていた。自分含めてオカルティックなものをいくつか目の当たりにしているのだから。

 話を聞く限り、彼女達はギフトメイカーだけでなく、AMOREにも追われている。恐らく今朝出会った際に倫吾達が従事していたのも、その任務の一環だろう。

 

(どこだ?どこに中心核がある?)

 

 事件の中核がいまだにわからない。どこか遠くにあるような気がしてならない。

 身体中にとめどなくはしり続ける痛みを忘れてしまうくらいに思索にふけっていた灰司だったが、そこに、此方に近づいてくる。一つの足音が耳に入る。

 灰司が反応するよりも早く、律刃が手に持っていた彫刻刀を一本、足音のする方に向かって投げた。ギラリと刃を光らせながら飛んでいくそれは、闇の中から現れたひとつの手によって受け止められる。その手は、キャッチした彫刻刀を鬱陶しそうにその場に投げ捨てると、闇の中からぬっと手を伸ばし、手の主の姿を灰司達の元へと晒す。

 

「見つけたぜ……」

「あなたは昨日の爆弾魔さん……また殺し合う?」

 

 そこから現れたのは、ボマーオリジオンだった。

 彼は律刃の方を見るなり、手のひらから火花をバチバチと走らせながら彼女を睨みつける。

 

「お前のせいで予定が狂った。だからお前からブツを取り返した後にたっぷりといたぶることにした」

「わたしたちとしては特にあなたに恨みつらみはないんだけど……おかあさんの望みなら殺すよ」

 

 両者は相対する。そこに、セルティも灰司も、介入の余地はなかった。

 

「待てや爆弾魔ぁ!人殺しかけといて逃げるとか人間の屑がこの野郎……!」

「先輩マズいですよ⁉ あれどうみてもまともじゃないですから!」

 

 そこに、何とも不快な甲高い怒号が飛んできた。ボマーオリジオンが、自身の走ってきた方を振り返ると、茶色いステハゲと馬鹿面坊主がこちらに向かって走ってきていた。

 ラーメン屋の屋台での犯行で巻き込まれた野獣たちが追い付いてきた。特に一番危ない目にあった野獣は怒り心頭のようで、遠野が心配して静止するのも聞かずに、握りこぶしを携え、三浦と共にボマーオリジオンに突っ込んでいこうとする。

 

「三浦先輩行きますよーイクイク!ホラホラッシュだ!」

「迫真空手奥義、ぶち込んでやるぜ」

 

 そして、思いきり地面を蹴って跳躍し、挟み撃ちになるように着地すると、野獣と三浦はボマーオリジオンに向かってパンチのラッシュを仕掛けた。

 

「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラアッ!」

「チラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラチラアッ!」

 

 どこぞの幽波紋使い達の様な掛け声を上げながら、目にもとまらぬ速度でパンチを繰り出してゆくステハゲと坊主。これこそ迫真空手の奥義のひとつ・ホラホラッシュである。鍛え上げられたそのパンチは、一発一発が音を置き去りにするほどの速さをもつ。その臭さと凄みに、遠野は圧倒され、追い付いてきた遊矢と柚子は理解に苦しんだ。

 しかし、毎秒数十発もののパンチをもろに喰らっているというのに、ボマーオリジオンはびくともしていない。ラッシュが始まって3秒くらいたって、流石に野獣と三浦も危険なものを感じたようだ。しかし、それはあまりにも遅すぎた。ボマーオリジオンは片手を軽く薙ぎ払うだけで、野獣と三浦もホラホラッシュを中断させ、ふたりの胴体をがら空きにした。

 そして、非常に苛立ったような声でこう言った。

 

「ホモ共のお遊戯会に付き合っている暇はない……本物のラッシュってのはなあ、こうするんだっ!」

「ヌッ⁉ 」

「あっ……」

『そこの二人、危ない!』

 

 野獣と三浦は慌てて身構えるが、ぎりぎり間に合わない。次の瞬間、ボマーオリジオンはホラホラッシュを凌駕するスピードでラッシュを繰り出した。いくらホモといえども生身の人間とオリジオンとでは、基礎ステータスの時点で圧倒的な差異がある。ボマーオリジオンの強烈なラッシュをもろに喰らった野獣たちは、バレーボールのシュートの如き勢いで地面にたたきつけられた。

 ぴくぴくと痙攣している野獣たちに、木村たちが慌てて駆け寄る。いくら嫌いな先輩といえども、さすがにこの状況ではそうは言っていられないのだろう。

 

「ふたりともしっかりしてください!」

「迫真空手が……通じない……だと……」

「アーイキソ……」

 

 絶望したような顔をしながら、野獣と三浦は気を失った。

 邪魔者を無力化したボマーオリジオンは、再び律刃の方に向かって歩き始める。

 

『お前が何を考えているのかは知らないが、その子に手を出すなら――』

 

 セルティが身構える。

 そこに、またしても乱入者が現れた。

 

「しぶといですね。ですがこれはどうでしょう?」

「同じ手を二度も喰らうかっての!」

 

 アクロスがタロットオリジオンと戦いながら此方に転がり込んできた。

 ツインズバスターでタロットオリジオンの剣と鍔迫り合いを繰り広げながら、アクロスはボマーオリジオンと律刃の間に割って入ってゆく。その最中、瞬はいくつかの見知った顔の存在に気づいた。

 

「遊矢、灰司⁉ なんでここに……」

「そういう瞬こそ、なんで……てかこれ、どういう状況……?」

 

 その疑問に答え得る者はいない。この場にいる全員が、無軌道な邂逅の連鎖の果てに、ここにたどり着いただけに過ぎないのだから。

 

「感動の再開のところ悪いのですが、死ね!」

「うわっ⁉ 」

 

 何が起きているのかわからずに立ち尽くす空手部の面々の前で、タロットオリジオンの火球をツインズバスターで弾き飛ばしていくアクロスだったが、タロットオリジオンは電撃を纏った杖をアクロスに向かって投げつけてその身体を大きく吹き飛ばし、変身解除に追い込む。

 クロスドライバーが身体から離れ、灰司の足元まで転がってゆく。変身解除された瞬は、ごろごろと転がりながら、停めてあったセルティのバイクに激突する。

 タロットオリジオンは地面に落ちた杖を拾い、瞬に追撃をしようとする。しかし、

 

「それっ♪」

 

 律刃がタロットオリジオンの首筋目掛けて彫刻刀を投げつけた。だが、その彫刻刀は首に刺さる直前でタロットオリジオンにキャッチされてしまう。

 

「ごめんね。おかあさん、随分と正義感とか強い人だからさ。あなたみたいな人は許せないんだ」

「ほう、転生者の身でありながらギフトメイカーに逆らうのですか。なんとも愚かな」

 

 そう言うとタロットオリジオンはキャッチした彫刻刀を一枚のタロットカードに変化させると、それを律刃に向かって投げた。律刃は隠し持っていたカッターナイフでそれを切ってしまおうとするが、タロットカードはカッターナイフの刃をすり抜け、律刃の腹部に深々と突き刺さった。黒いシャツが血で赤く染まり、律刃はその場に膝をつく。

 小さな口から少量の血を吐き出しながら、律刃は刺さったカードを乱雑に引き抜いて投げ捨てる。そのタロットカードに書かれていたのは「愚者(The Fool)」。まるで律刃のことを馬鹿にするようなチョイスであった。

 そこに、背後からボマーオリジオンが飛び掛かってくる。すかさず律刃は振り向いて反撃するが、負傷により反応が遅れ、その頬にボマーの一撃を喰らい、地面に倒れる。それと同時に、彼女の短パンのポケットから何かが転がり落ちる。それは、少し前にセルティに見せた、チップのようなものが入った透明なケースだった。ボマーオリジオンはそれに気づくと瞬時にその手を伸ばし、ケースを回収する。

 

「あ、しまった」

「貰ったぜ……!返してもらったぜ!」

 

 そう言いながら、ボマーオリジオンは律刃を蹴とばした。幼い少女の身体が、血をまき散らしながら瞬の目の前まで転がっていく。瞬は腹を押さえてうずくまる律刃に手を伸ばそうとするが、そこに、タロットオリジオンが真上から攻撃を仕掛けてきた。

 

「アクロス、その裏切り者の転生者共々死になさい」

 

 タロットオリジオンと共に、何本もの氷の刃が瞬と律刃に向かって降り注ぐ。変身する暇も、避ける暇もない。瞬にできるのは、律刃の肉壁となることのみ。瞬は意を決して、目の前の少女の肉壁になろうとする。

 しかし、突如として瞬に向かって降り注がれるはずだった氷の刃が、空中で砕け散った。その音を訊いて瞬がばっと真上を見上げると、降ってくるはずだった氷の刃が次々と砕かれていった。一体何が起きているのかと困惑する瞬だったが、即座に我に返る。

 十数本の氷の刃が同時に襲ってくるならば回避は不可能だが、タロットオリジオンの手にある一本だけならばまだなんとかなる。そう判断した瞬は、律刃を抱き寄せながら、上から降ってきたタロットオリジオンの身体を軽く手で押して、その落下軌道を僅かにずらす。瞬めがけて落下攻撃を仕掛けたはずのタロットオリジオンは、僅かに逸れて瞬の真横に着地する。

 

「誰です、我々に仇なす者は!」

「俺だ」

 

 その声と同時に、タロットオリジオンの顔面に光弾が撃ち込まれた。

 光弾と声が飛んできた方を、瞬は見る。そこに立っていたのは。

 

「間に合ったようだな」

「裁場、さん……」

 

 裁場誠一だった。紆余曲折あって、彼もここにたどり着いたのだ。

 裁場は、フュージョンマグナムの銃口を構えながら此方に近づいてくる。しかし、ボマーオリジオンはお構いなしに瞬に向かって飛び掛かってくる。

 

「はああああああああああああああっ!」

「っぶねえ!」

 

 ボマーオリジオンは勢いよく拳を突き出す。瞬は咄嗟に頭をひっこめてそれを躱すが、ボマーオリジオンの狙いは瞬の首ではない。正確にはその背後、セルティの乗ってきたバイクの荷台に括りつけられた依頼物。括りつけていた紐を引きちぎりながらそれを手元に引き寄せると、バリバリと外装のバッグを破いてゆく。

 その作業の傍ら、ボマーオリジオンは手のひらから極小の手榴弾のようなものを生成すると、瞬とタロットオリジオンがやって来た方――息をひそめながら事態を静観していた不審者目掛けてそれを投げた。

 

「…………!」

 

 瞬間、その人物は爆炎に包まれた。

 ビー玉サイズの爆弾が引き起こした爆発は、瞬く間に人間一人を軽く焼き殺すほどの熱量へと変化する。不審者は、火に包まれたコートや帽子を咄嗟に脱ぎ捨てることで、炎が全身に燃え広がるのを回避する。そして、燃え上がる炎の向こう側から、どこか気だるげそうな、だけど芯が確かにあるような、そんな声がする。

 

「相変わらずっ……やることが過激だなお前……」

 

 コートが焼け焦げ、ボロボロの白衣が現れる。つけていたサングラスとマスクが落ちる。

 コートの下から現れたのは、額にサングラスをひっさげ、青い髪をした、190cmはありそうなほどの長身の男だった。露になったその顔を見て、ボマーオリジオンは歓喜の声をあげた。待ち焦がれていたものがようやく目の前に現れた時のような、クリスマスプレゼントを目の前にした子供のような、そんな無邪気さのこもった声だった。

 瞬はその男の顔に見覚えがあった。なんせついさっき顔写真を見せられたのだから。

 青髪の男に睨まれながら、ボマーオリジオンはその男の名前を呟く。忌々しさと歓喜が入り混じった、まるで空気を震わすかのような声だった。

 

()()()()()()()()()……」

「最悪だな、赤浦……テメエとこんなに早く再開する羽目になるなんてな……」

 

 青髪の男――相藤レイと、変身を解いたボマーオリジオン――赤浦健一は、互いに睨み合う。

 

「この場所が何か、お前は知っているか?」

「知っているもなにも……ここが、俺達の居場所だった……!お前がぶち壊した、俺達のすべてが詰まった場所だ!」

「一つ付け加えるのを忘れてるぜ?ここは、俺と彼女の愛の巣になるはずだった場所だ」

「…………まだそんなこと言ってやがんのか?」

「なるね!お前はわざわざ俺のためにアイツをここまで運んできてくれたんだろう⁉ 既にこの廃虚にあったブツは俺が手に入れている。だから、ピースは揃ったんだ」

 

 そう言いながら、赤浦はバッグを引きちぎってその中身を引っ張り出す。中には、銀色のアタッシュケースが納められていた。赤浦はアタッシュケースについていたテンキーに、迷うことなく4桁の数字を打ち込み、その封を開ける。

 その中身を見て、赤浦とレイ以外の全員が絶句した。

 

「なんだよ……それ……」

 

 その中に入っていたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 どういうことだ?これは一体なんだ?なんでこのタイミングでこんなものが出てくるのだ?

 瞬もセルティも裁場も灰司も遊矢も木村も律刃も、わけがわからなかった。

 それは、酷く綺麗だった。眠っているかのように安らかな表情をした少女の頭部。間接ごとに分解された腕と足。透き通るような白い肌を見せる胴体。天使の輪を思わせる、頭部についた金属の輪。防腐処理などでは到底不可能な清潔さに、誰もがこう思った。

 

『こいつは……人間じゃ、生き物じゃない』

 

 勢いよくアタッシュケースが開かれた衝撃で、少女の二の腕が一本、セルティの足元まで転がっていく。セルティはそれを拾い上げる。そして気づいた。

 こいつは冷たい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もっと無機物めいたものだ。

 つまり、これは死体ではなくて――

 

「そうさ。そいつは死体じゃない。彼女は俺達が作り上げた最新鋭のアンドロイドなんだからな」

 

 答え合わせのように、赤浦はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女こそが、今回の事件の発端。

 ひとつの夢の結晶が招いた、愛の暴走。

 

 

 

 

 

 ここから語られるのは、その前日譚(プロローグ)だ。




ようやく池袋編の本題に入れました。
最後に出た彼女こそが、今回の騒動の発端になります。




そしてとうとう登場、今回の事件の最重要人物、相藤レイ。
実は彼は僕が小学生の頃に考えたキャラになります。いろいろと設定をアクロスナイズしながらも、なるべくそのまんま持ってきています。
まさかこいつとこんなに長い付き合いになるとは思わなんだ……そしてこの作品にも出す羽目になるとは……ある意味愛されてるんでしょうかねえ。


書いてて思ったけど、行き当たりばったりで書いてた弊害が出まくってますね……今度からは気を付けなければ。



次回はボマーオリジオンの動機に踏み込んだお話です。
多分回想メインになります。

次回 PM9:02/望まれて生まれた生命
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