【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
と言ってもほぼ回想です。書き溜めしていたので早めに投稿しました。
事件の発端が明かされます。
こーゆー話書くの初めてだけど、これも練習です。がんばるぞ~
サイド間でけっこう目まぐるしく同行メンバーが変わって混乱していると思いますので、ここで冒頭時点での同行メンバーをまとめます。
●瞬サイド
瞬・野獣・木村・三浦・遠野・遊矢・柚子・セルティ・律刃・灰司・裁場・ボマー・レイ・タロット
●唯サイド
唯・志村・アラタ・大鳳・山風・セラ・ハル・キンジ・アリア・剣崎
●湖森サイド
湖森・トモリ・倫吾他AMOREの変態達多数
●ギフトメイカーサイド
レド・バルジ・ガングニール・泡不・レイラ・火吹・半崎
10年前
とある昼下がりの高校の教室にて、少年と少女が語り合っていた。
少年の名は相藤レイ。頭の良さに自信があるだけで、人並みに笑い、人並みに悲しむことのできる、普通の少年だ。彼は、目の前の少女に対して、自身の夢を熱く語っていた。
「人型ロボットを作りたい?」
「そうそう!誰もが一度は憧れるもんじゃあないのか?」
「馬鹿なこと言わないで。どれだけの人がそれに挑み、諦めてきたと思っているのよ?」
「ええ~?折角転生したんだからさあ、なんかでっかいこと成し遂げたいじゃん」
「それならハーレムでも作ってなさいよ」
「すでに皆やった後だってーの!めぼしい美少女はみんな他の転生者が取っていったの、お前も見ていただろうが」
「まあその前に貴方の性格じゃどんな女の子でも寄ってこないわよ。せいぜいわたしみたいなもの好きぐらいが関の山。わかっているでしょう?」
相藤レイの必死のプレゼンテーションを、冷めた態度でいなす少女。彼女の名は青島慈愛。幼いころから頭脳明晰であるがゆえに、周囲を冷めた目でしか見ることのできない哀れな少女。そして、後ろの席で2人の会話をずっと聞いていた少年が、ここにきて口をはさんできた。彼の名は赤浦健一。どこか拗ねた雰囲気の、どちらかというと陰気な部類の人間だ。
3人は転生者だった。人生半ばで不幸にもその生涯を終えた彼らは、何の因果か、こうして第2の青春を謳歌していた。他にもたくさんの転生者がいたが、その大半は原作キャラと繋がりを持ちたがり、気に食わない原作キャラを虐めたり、転生者同士で殺し合ったりと、かなり殺伐とした人生を歩んでいたが、レイ達はそんなことには興味はなかったので、のらりくらりと躱しながら、普通の人間と同じような生活を送っていた。
そして、前世の知識というアドバンテージを多少生かしながらも、基本的には自分の力で努力して名門高校に進学した彼らは、こうして夢について熱く語り合っていた。
「お前らさっきから何話してんだ?人型ロボット?」
「三人寄れば文殊の知恵と言うじゃないか。俺達の頭脳を合わせればきっといける!俺はそう信じている!」
「船頭多くして船山に上るとも言うぞ。そうならなきゃいいがな」
「ああもう、赤浦!お前はどうしていつもそうなんだ?お前みたいにさ、現代人ってのはロマンってのがないんだよ!」
「ああ?」
「……でも、面白そうね」
「正気か慈愛、コイツの世迷言に乗る気かよ?」
「折角第二の人生を得たのに、なにも残さずに人生終えたら意味ないじゃない。他の奴らのように、
「そうそう、その方が建設的だ。」
「……お前らだけじゃ心配だしな。俺も乗ってやるよ」
「そう言うと思ったぜ!じゃあ早速始めよう。なんせ果て無い道のりだ。さっさと始めねえと――」
――3人の夢は、そうして始まった。
3人は、それぞれ違った形の天才であった。赤浦健一は機械工学、青島慈愛は人工知能の、相藤レイは突出した箇所は無いものの、幅広いオールラウンダーな天才として、互いの得意分野を駆使して、彼女を作り上げた。最初はレイに半ば強引に巻き込まれた他の2人だったが、夢を追い続けるうちにいつしか本気になっており、熱意が暴走して無茶苦茶なアイデアをレイに提示しては、彼を困らせることも多々あった。
そして、同じ夢を追い続けてから、7年の月日がたった。彼らの夢がこの世界に形を以て産み落とされたその日のことを、レイは今でも鮮明に思い出せる。彼女の歩き出したその日を、彼は生涯忘れることはない。
「できたぜ……最終調整完了だ。あとは実際に動かしてみてからでないと微調整は難しいな」
「人格データのインストール、無事に完了よ。あとは電源を入れるだけよ」
「そうか……ついにお前が動くんだな」
眼の下に隈を作りながら、レイは歓喜の声を上げる。
彼らの目の前には、夢の結晶が座らされている。肩まで伸びる銀髪に、生気を感じない美しい寝顔。天使の輪のように浮かんでいるリング状の
レイは、唾をごくりと呑み込みながら、
「ここは何処ですか?」
「お、問題なく動いてるじゃねーか」
そんな第一声と共に、作業台の上に座らされていた彼女は目を覚ました。身体を手に入れて、最初に目にしたのは、笑顔で此方を覗き込んでくるレイの顔だった。
レイは作業用として付けていたゴーグルを外しながら、少し考える。そして、考えた後に言った。
「ここは……そうだな、お前を作った研究室だ。俺達がお前を作った……いわば親みたいなもんだな」
「ちょっと、なに親面してるのよ?
「それを言うなら
「だあーうるせえ!お前らの変態仕様をちゃんと稼働可能なレベルに調整したのは誰だと思ってんだ⁉ 4徹させられるこっちの身になれよ!」
彼女そっちのけで、科学者同士が物理で殴り合いを始めやがった。大の大人が子供じみた剣かを繰り広げるさまを、生まれたばかりの“彼女”はじーっと見ていた。無駄に瞳を輝かせながら。生まれたばかりの“彼女”にとっては、目に映るすべてのものが新鮮に見えるのだろうが、レイ達の喧嘩は見せるべきではないと思う。間違いない。
しばらくの間、三人はやいのやいのと言い合いを繰り広げていたが、自分たちに向けられる、あまりにも無垢な目線にいたたまれなくなったのか、慈愛が停戦を申し出た。
「きょ、教育に悪いからやめましょう」
「そうだな……あの純粋な目で見られたら叶わんよ……うん」
「すまないな……見苦しいものを見せちまって」
「滑稽でした」
「「「鼻で笑われてるー⁉ 」」」
早くも鼻で笑われた3人。彼女が最初に学んだことがこんなんでいいのだろうか。幸先が思いやられるとはこういうことだろうか。
兎に角形だけの停戦協定を結びおえると、慈愛は次の課題に手を出し始めた。
それは非常に重要なものだった。
「名前……名前、何にしようかしら」
名前だ。名前とは、人間が生まれた時に最初に貰う贈り物であり、概念を区別するための最重要事項。それに名前は基本的に一生モノだ。ゆえに、慎重に選ばなくてはならない。
どういう名前が良いだろうか。どんな願いを乗せるべきか。どんな子になってほしいか。できればそれを盛り込んだ名前にしたいが、全然絞り込めない。慈愛はうんうんと悩みながら、部屋をうろうろとする。この世に一人、また新たな親バカがここに誕生していた。
「なまえ……なまえ……ああ全然決まらないいいいい!」
「それなら決まっている」
彼女の名前決めに悩んでいる慈愛と対照的に、レイはすでに決めていたようだ。レイは“彼女”の肩に手を置くと、考えていた名前を伝える。
それが“彼女”が最初に受け取った贈り物だった。
「イスタ。それがお前の名前だ」
「イスタ……それが、わたしの……」
「なるほど……今日は
別に、レイも身草も慈愛も十字教信徒ではないが、たまたまその日がそうだったから、そんな安直だけど、悪くはない名前が、彼女につけられた。
「ってなにが復活だよお前。復活も何も、コイツはいま生まれたばっかしだろうが」
「いいや、これは俺達の夢の結晶さ。誰もが子供の頃に考えたことあるような絵空事。みんなが大人になるときに捨てていったそれを拾ってくみ上げた、そんな夢を蘇らせたのが彼女だ。そう思った方がロマンあるだろ?」
「レイ、お前ほんとわけわかんねーこと言うよなあ」
レイの意味不明な講釈に、赤浦は頭を抱える。レイとは長年の付き合いだが、これだけはいくらたっても理解できない。
だが、レイにとっては、それでいいのだ。レイはイスタのことを、誰もがうち捨てた夢の跡から生まれた存在と定義した。誰にも理解されなくとも構わない。なぜなら、ロマンに理解は求められていないのだから。
「で、だれがおとうさんでだれがおかあさんになるか決めた?」
「決めなくていいだろ、俺達は俺達だ」
慈愛の問いかけに、レイはあっけらかんとした顔でそう答える。
そして、イスタに手を差し伸べながらこう言った。
「よろしくな、イスタ」
「…………はい」
イスタは小さくうなずき、レイの手を取って握手をした。その時、慈愛には、イスタがわずかにほほ笑んだように見えた。まだ感情が希薄だというのにだ。
こうして、少し変わった4人の共同生活が幕を開けた。
イスタが生まれて半年がたった。
彼女の学習能力は申し分なく、性能も上々。予想以上の結果を残していた。レイ達との日々を過ごす中で、イスタは多くのことを学んでいき、人間らしくなっていった。性能面でも、レイや赤浦がときどきはっちゃけながらも新機能を(ときどきはっちゃけながらも)追加した結果、当初の予定を遥かに上回る多機能性を手に入れていた。
また、レイ達は転生者や異世界転移者相手に自家製の装備や便利グッズの製造販売を始めていた。元々イスタの開発資金を稼ぐために始めていたのだが、彼らの優秀さが転生者や転移者間で広まり、小規模ながらも優れた技術力を持つ技術者集団として認知されていたのだ。そしていつしか、それが食い扶持となっていた。
そんなある日のこと。
「レイ、貴方また仕事サボってません?昨日も仕事赤浦さんに押し付けていましたよね?」
「サボってねえし、ちゃんとやってたし」
「馬鹿言うな。昨日の仕事はほとんど俺がやったんだよ。お前何してた?ただイスタの身体にべたべたと触っていただけじゃねえか。セクハラか?」
「セクハラじゃねえよ!イスタの機能チェックに決まってんだろ!設計者である俺が一番把握してなきゃいけねえってのに……これも赤浦、お前が勝手に変な機能追加するのが悪いんだろーが」
「は?俺の追加した熱光線が邪魔だってのか?」
「うちのイスタにそんな危険な行為させられっかよ。俺達は戦闘マシン作ってんじゃないの」
サボって漫画雑誌を読みふけっていたことを咎められたレイが、赤浦と喧嘩を始めていた。これはよくあることで、働き者の赤浦と昼行灯なレイは兎に角意見が対立しやすいのだ。最初はイスタも必死に止めていたが、半年もすれば流石に慣れたのか、半ば適当に止めるようになっていった。
「あんまりだらけてばっかいると御仕置きですよ。ケツバットとロケットパンチで乳首ドリル、お好みなのをどうぞ」
「おい誰だイスタに乳首ドリルなんか伝授した奴!」
なんか下品な言葉がイスタの口から飛び出したことについて、親心から心配の声をあげるレイ。しかし親の心子知らずとはよくいったもので、無情にもイスタの鉄槌がサボり魔レイに下される。その名もロケット乳首ドリルスーパーターボ。イスタの両手が発射され、器用にレイのシャツを捲り上げると、彼の両乳首を掴んで猛烈な勢いで回転しだした。
その回転は乳首がねじ切れるどころか、逆に乳首を中心にレイの身体全体が激しく横回転するほどのものだった。
「いだだだだだだだだだだだだだだちくびもげるううううううううううううう!」
「おいそれくらいにしてやれ……見ていてすげえ痛そうだから」
流石に赤浦も見るに堪えなかったようで、ロケット乳首ドリルスーパーターボは僅か5秒で終わった。
回転が止まり、頭から床に激突するレイ。その乳首はじんじんに腫れていた。
「やべえ乳首イキどころじゃなくて昇天しかけた……」
「結構余裕じゃないですか」
アホなことを言いながら乳首や頭をさするレイに呆れ気味にそう言うと、イスタは研究所地下にあるメンテナンスルームへと一足先に向かっていった。レイはというと、ひっくり返った体勢のまま未だにぐちぐちと言っていた。
「なんでイスタのやつ、俺にだけアタリきついんだ?」
「知らないわよ。初期データを作ったのは私だけど、そこからの成長はイスタ自身によるもの。レイがだらしないから、イスタがそれを反面教師にしてるのよ」
慈愛にそうびしりと言われてしまったレイは、何も言い返せなかった。一応レイはイスタの設計者なのだが、その威厳は皆無であり、イスタは慈愛や赤浦にはそれなりの態度で接する一方、レイには割とぞんざいに接していた。何もこんなところまで人間をエミュレーションしなくてもいいんだけどなあとレイは思うのだが、そもそもレイがだらしないのが悪いというのが他の2人の結論だった。
赤浦はレイのだらしなさっぷりにため息をつきながら、先ほどのいざこざがきっかけで床に落ちた漫画雑誌をレイに向かって投げつける。
「たりめーだろ、お前年頃の娘の前で成人向けのやつ読むとか、どうぞ嫌ってくださいと言ってるようなもんじゃねえかよ」
「うるせーやい!てかサ○デーもマ○ジンも成人向けじゃねえし!表紙のグラビアだけ見て判断してんじゃねーよ!俺からしたらグラビア邪魔なんだわ!」
「へーへーそーですかー。さっすがなまけもののあいとうくんだ」
「お前なあ覚悟しとけよ――」
皆が寝静まった夜。イスタはひとり、研究所内を歩いていた。
彼女はアンドロイドであるが故に睡眠を必要としない。よって皆が寝静まるこの時間は非常に暇なのだ。本来ならば生き物ではない彼女が「退屈」という感情を抱くことはないはずなのだが、慈愛が張り切り過ぎた結果、人間に近しい情動を獲得している彼女は、それに近しい結論を導き出していた。
昼間は慈愛が若干過保護気味なために傍から見ればやや窮屈な暮らしをおくっているように見えるイスタだが、この夜の間だけは真に自由となる。静まり返った階段を上がり、テラスへと向かう。
階段を上がりながら、今夜はどうしようかと彼女は考えた。今日は飛行ユニットの自己点検でもしようか。今日は雲量も風量も少ないし、夜間飛行にはうってつけだろう。そんなことを思いながら、テラスに続く扉を開ける。すると、微かな夜風が流れ込んでくるとともに、彼女の目にひとつの影が映った。
あの青髪とだらしない顔は嫌でもわかる。レイだ。
彼はイスタに気づくなり、微笑みながら声をかけてきた。
「おう、まだ起きてたのか」
「その言葉をそっくりそのままお返しします。それに、そもそも私はアンドロイドですので睡眠は必要ありません」
「それもそうだな」
「何をしているのですか?」
「人間ってのはな、ときたま意味もなく空を見上げたくなる生き物なんだよ」
レイの言っていることが、イスタにはよくわからなかった。レイは胡坐をかきながら、傍らにあった缶ビールに口をつける。
「何の意味があるのでしょうか…………?」
「意味なんかなくてもいいんだよ。意味のないことができるからこそ、人間はここまで進化できたと俺は思っているよ」
レイの発言内容をよーく考えてはみたものの、やはりイスタにはわからない。機械であるイスタは、どうしても理屈や合理で物事を考えてしまう。幾ら人間に近しい情動を持っているとはいえ、風流などを理解するのは、今のイスタにはまだ難しいことなのだ。
レイもそれをわかっているからこそ、あえてこのようなことを話しているのだ。レイは膝をポンと叩くと、とある提案をした。
「よし、ならばちょいと人間チックな思考の練習でもしようか」
「それを機械にさせるのはどうかと思いますけど」
「まあまあ、思考実験の一環だと思って俺と語りあかそうじゃねえか」
レイはそう言いながらイスタの肩を抱き寄せ、自身の隣に座らせる。イスタははじめは抵抗しようと思ったが、よくよく考えれば断る理由もないし暇つぶしに丁度いいと判断し、あえてレイの提案に乗ることにした。
2人は月明かりに照らされたテラスに座り込み、夜空を見上げる。今夜は雲の一つもないので、非常に星が良く見える。生憎ここは都会なので見える星はそれほど多くはないのだが、それでも都会っ子のレイとイスタには充分綺麗に見えた。
イスタが空を見るのに夢中になっていると、レイがこんな質問をぶつけてきた。
「生まれてきて、どうだった?」
「…………質問の意図がわかりかねますが」
「そのまんまだよ。お前が生まれて早半年。これまでの日々はどうだったかって聞いてんだよ」
「それって……感想を求めてるってことですか?」
イスタがそう訊くと、レイはこくこくと首を縦に振った。
これはイスタにとっては、非常に難題だった。ロボットやAIというのは、基本的に自分の意見――自意識を有していない。3人の類稀なる技術力と多少の転生特典のおかげで、イスタは例外的にそれを克服してはいるものの、彼女もアンドロイド。故に、自分の意見を考えるという行為に対し、苦手意識を持っていた。
知恵熱というか、オーバーヒートでもしてしまうんじゃないかと自分で思うくらいに、脳回路をフル稼働して考えるイスタ。その様子を見ていたレイは、アドバイスをする。
「難しく考えなくていいんだ。アレが楽しかっただのコレが良かっただの、その程度でいいんだって」
単純に考えろと言われても、イスタには難しい。ひょっとしてレイは、意地悪のつもりでこんな質問をぶつけてきたんだろうか。
「今のイスタには難しすぎたかあ……残念だ……」
レイのその言葉に、イスタはカチンときた。
なので意趣返しとして、今度は彼女の方から質問をぶつけてみた。
「なら私からも質問です。なんで私を作ったんですか?」
「そりゃあ簡単だよ、作りたかったからさ。人間のようにふるまえるロボットをこの世界に誕生させる……誰もが夢見て、挑み続けるそれに、俺も関わりたかった。この思いは前世から変わっていない。それにさ、そーゆーロボットがいたら面白くないか?」
あっけらかんとそう言ったレイの態度に、イスタはするはずのない頭痛を感じた。思った以上に軽い内容に拍子抜けしたのもある。
「面白そうだから作ったとでも言うんですか……?」
「きっかけなんてそんなもんだよ。俺達は一度死に、文字通り生まれ変わった。だからこそ、この第二の生を悔いのないものにしたいと思っている。だからこの夢を引っ張り出して、馬鹿みたいに頑張ったんだ。そしてお前が生まれた。それについてはすげえ嬉しい。子供のころからの夢がかなって、今俺はすっごく幸せなんだ」
「じゃあレイは今夢がかなった状態ということですか」
「いや、人間の夢ってのは終わりがない。一つ叶えたらまた別の夢が生まれる。今俺はな、お前が“生まれてきてよかった”と言えるようにしてやりたいと思っている。それが俺の新しい夢だ」
きっぱりと、レイはそう言った。
彼は、本気でイスタのことを大事に思っているのだ。彼女のこれからの歩みがどのようなものになろうと、彼女がそれを悔いることがないようにと、今も願い続けている。願われているイスタの身からすると、なんともいえない恥ずかしさがそこにはあった。
それを何とか取り繕うように、レイにいつものように毒舌を放つ。
「……普段アレな癖に、なんでこういう時に限って恰好つけるんですか?」
「それがパパに対して言うことですかーええ?」
「レイがパパとか死んでもいやです」
「そんなあ~」
レイはショックを受けながらも、どこか嬉しそうだった。それはきっと、ひとつの夢がかなった嬉しさと、新たな夢を育てる楽しさが、彼にそうさせているのだ。
いつか自分も、そう思えるのだろうか。
イスタは、レイを見ながらそう思うのであった。
ある日のこと。
赤浦は依頼者の下での仕事を終えて研究所に帰ってきた。
「……邪魔だな」
リビングに入るなり、全身からアルコールの匂いを放出しながら部屋の入り口で爆睡しているレイの姿が目に入った。どうやら酔いつぶれて床で眠っているようだ。
レイはともかく、慈愛はどこにいったのだろうか。照明やテレビがつけっぱなしのリビングには、床で雑魚寝しているレイ以外の姿は確認できない。見る者がいない癖に喧しいテレビの電源を切ると、どこからか話し声が聞こえてきた。
「この声は……イスタと慈愛か」
声は上の方から聞こえる。おおかた、イスタのメンテナンスでも行っているのだろう。
赤浦は階段を上り、声のする方へと向かう。声は2階にある慈愛の自室から聞こえている。
「いや私アンドロイドなんで下着とか要らないんですけど」
「そうはいっても、イスタは女の子でしょ?流石にノーパンノーブラはまずいでしょ。レイにいやらしい目で見られるわよ?」
「それは嫌ですね。ぜひお願いします」
「よろしい、じゃあこっちおいで」
少しばかり開いた扉からは、慈愛に新品のブラジャーを押し付けられて困惑するイスタの様子が見える。流石にここを覗くほどの気概はないので、赤浦は咄嗟に目を逸らすと足音を極限まで小さくしながら部屋の前を通り過ぎようとする。
しかし、次の瞬間、部屋の中で慈愛はイスタを突然抱きしめた。
それを見た赤浦は、微かに開いた扉越しに呆然としていた。
「なんでこの流れで抱きしめられてるんでしょうか……?」
「ひんやりしてるから好きなのよ……たとえ血の通っていない冷たい身体だとしても、その中にある心はいつまでも暖かいものであってほしい。私たちはそう願っているわ」
傍から見れば、仲睦まじい光景。
しかしその時の赤浦には、それがなぜか非常に苦しいものに見えてしまった。
(なんだ……?この気持ちは一体なんだ?)
チクリと、赤浦は自分の心が痛むのを感じた。
何とも言えない気持ちに、赤浦は困惑したままその場で立ち尽くす。原因は不明。この感情がどういうもので、なぜ湧き上がっているのかがわからない。それなのに、なぜかそれから目を逸らすことができない。放置してはいけないと心が叫んでいる。
慈愛とイスタの仲睦まじい声を背中で受けながら、自分に芽生えた未知の思いに、赤浦は困惑し続けるのであった。
イスタが稼働した日から2年が経つ頃のこと。
イスタはいつも通り、慈愛に稼働実験の終了を報告していた。
「今日の稼働実験のメニュー、完了しました」
「うん、完璧ね。じゃあメンテナンスが終わったら昼食としましょうか。ほら男ども、用意しなさいよ」
「わかったわかった……ああ面倒クセェ、カップ麺とかでいい?」
「駄目よ。一応味覚センサーとか、人工臓器とかの稼働実験も兼ねてるのよ?それに、この子には出来るだけ多くのことを経験してほしいと思っているの」
「そんなんだからお前ガリガリなんだよ。運動云々以前にもっとちゃんと飯食え」
「元々太らない体質なんだってーの」
男どもがやいのやいのといつも通りの口喧嘩を繰り広げていると、インターホンが鳴った。
「誰かしら?」
「お客様が来たみたいだな。イスタの点検は俺がやっておくから、慈愛は客を頼んだ」
レイにイスタの点検を任せ、慈愛は研究所の玄関の扉を開く。
そこには、白いスーツに身を包んだ金髪の男が立っていた。アンモナイトのようにうねった髪型をした、奇怪な男だった。その後ろには、同じく白いスーツを着用した男女が10人ほど待機している。その様子は、酷く不気味だった。
「私はこういうものです」
「え、あ、はい」
男は張り付けたような笑顔を浮かべながら、名刺を手渡してくる。そこには、『AMORE外部技術部長・
「AMORE、聞いたことぐらいあるでしょう?貴女も転生者なのですから」
「もちろんありますけど……一体、どういうご用件でしょうか?」
AMOREは、転生者ならば知らない者はいないほどの巨大かつ秘密の組織。直接組織の者と出会うのは初めてだが、慈愛も名前だけは聞いていた。しかし、わざわざ自分たちの元までやってくるとは、何が目的なのだろうか?慈愛は、少なくとも自分たちはAMOREに目をつけられるような悪事は働いていないと自負してはいるものの、やはりこうして対面すると、ポイ捨てのような些細な悪事にすら怯えてしまう。
僅かばかりに恐怖心を抱きながら、慈愛は黄堂と名乗った男とその一味を応接室へと案内する。そして、淹れたてのコーヒーを用意し、テーブルに向かい合って座る。
ひりつくような緊張感に包まれながら、黄堂が口を開いた。
その内容に、慈愛は絶句した。
「…………………………………………なんですって?」
「おや、その年で難聴ですか?なら耳に入るまで何度でも繰り返しましょうか……イスタを我々に売ってほしい」
「それはできないわ!」
開口一番に飛び出たのが、その発言。それを聞いた慈愛は思わず取り乱し、テーブルを強く叩く。コーヒーの入ったマグカップが倒れ、応接室の床にコーヒーがぶちまけられるが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
「イスタを買い取ってどうする気なの?転生者と戦わせる?それとも危険分子として処分する?」
「それはお答えできません。なんせ我々は秘密組織ですから、色々と話せないことが多いのです。ですがご安心ください。勿論貴女の言い値で買いますし、イスタを売って頂ければ、貴方達をAMOREの技術者として雇用します。悪い話ではないと思うのですがね」
慈愛は、首を縦に振ることはなかった。できるわけがない。仮に売るとしても、黄堂の提示する条件では全然釣り合わない。
イスタは慈愛にとって娘のようなもの。イスタの人格面の設計を担い、誰よりも深く彼女の心に寄り添ってきたからこそ、人一倍イスタを大事に思っているのだ。
「調べによると、イスタ開発を主導したのは君ではなく相藤レイの方だ。なぜ君がそこまで彼女に入れ込むのかがわからない。君は彼に巻き込まれただけじゃないか」
「ええ……はじめはそうだったわ。でもね、9年間も付き合ってくれば嫌でも愛着がわくってことが分からないかしら?私はイスタを自分たちの娘のように大事に思っている。そんな娘をいきなり売り渡すような、人でなしに転生したつもりはないわ!」
例えば、目覚めの日を夢見ながら何度もイスタの人格データのシミュレーションを繰り返した夜。
例えば、様々なものを見て知って学んでゆく彼女の姿をすぐそばで見ていた時に感じた誇らしさ。
例えば、イスタとレイと赤浦の4人で過ごした楽しい日々。
初めはレイに誘われる形で見た夢だったけど、いつの間にかそのすべてが愛おしいものになっていた。自分の命が続く限り、そうであってほしいと思うようになった。それをみすみす手放すことなんて絶対にできない。
なぜなら、彼女は家族だからだ。血は繋がっていないどころか、一般的には生き物というカテゴリーに含まれてすらいない存在だが、それでも、イスタは家族だった。そんな家族を売り払うなんて真似は絶対にできなかった。
「だいたい、いきなりやってきてはイスタを寄越せだなんて、そんなの強盗と何が違うのよ⁉ 兎に角イスタは売り物じゃない。いくら貴方たちが世界を守る秘密組織だとしても、その要求は呑めないわ。他の2人もきっと同じことを言うはずよ」
感情が高ぶりすぎたせいか、いつの間にか慈愛の瞳から一筋の涙がこぼれていた。それほどまでに必死に反論したのだ。黄堂は、慈愛の意見を黙って聞いていた。
しばらくの間沈黙が保たれていた室内に、口を開いたのは黄堂だった。
「なら交渉決裂、ということで」
そう言うと黄堂は腕を上げて、背後に控えていた部下たちにこう告げた。
「やれ」
「え」
黄堂にそう命じられた白服が、リモコンのようなものを懐から取り出し、そのボタンを押す。
瞬間。
途方もない閃光と熱風が、部屋中を駆け巡った。
爆心地は、入り口近くにいた白服。そう、黄堂はあろうことか、部下を人間爆弾に仕立て上げたのだ。
当然ながら、文字通り爆発した白服は即死。応接室は粉々に吹き飛び、瞬く間に火の海と化した。崩れ落ちた天井や壁が瓦礫となって周囲に散乱し、爆発に巻き込まれた慈愛はみるも無残な状態で床に転がっている。
この様子を見て、話を聞かされていなかったのか、白服のひとりが、突然の出来事に困惑して黄堂に問いかける。
「黄堂さん⁉ 一体何を……⁉ 」
「殺せ、我々AMOREの理想に反するクズ転生者共だ。殺したって罪にならんさ」
「な、何考えてるんですか⁉ それじゃあギフトメイカーと何m」
口答えした白服の命はそこで途絶えた。黄堂が彼の頭部を真正面から拳銃で撃ちぬいたからだ。
飛び散った鮮血が部屋を包む熱気で焦げ付き、壁にへばりつく。その様子を見て他の隊員達は声も出せない程におびえるが、黄堂は人間味を感じさせない程の冷たい声で、彼らに訊く。
「私に逆らうのかい?」
「…………い、いえ!さ、さ、逆らいません!従いますとも!従いますとも!」
「宜しい、では残りも始末してイスタをいただくとしようじゃないか」
すっかり怯え切った白服達は、ガタガタと震えながら応接室から出てゆく。
炎に包まれた応接室に一人残った黄堂は、床に倒れている慈愛に声をかける。辛うじてまだ息をしていた彼女は、ボロボロになったソファーに腰掛けている黄堂を睨みつける。
「さいしょから……こうするつもりだったのね……」
「いや、私としても不本意だよ。君たち程の頭脳を失うのは大変残念だが、悪意に染まるくらいならばここで消えてもらった方が世界のためだ。君たちの研究成果はすべていただいたうえで死んでもらう」
「だめ……イスタは……渡さない……!」
「死にぞこないめ、とっとと死んでろ」
黄堂は自身の足に縋りつく慈愛を蹴とばすと、瓦礫の山に腰掛けながら、空を見上げて笑った。
「さて、仕事開始だぜ」
その音は、地下室で点検作業中っだったレイとイスタにもしっかりと聞こえた。
「なんだ今の音……」
「私が確認してきます」
「あ、おいちょっと、まだ点検終わってねえんだけど!」
まだ点検がすべて終わっていないにもかかわらず、イスタは一目散に音のした方へと駆け出していく。慌ててレイはそれを追いかけていくが、その胸の内には、妙な胸騒ぎがあった。
地下室の階段を上がり、地上へと向かう。
扉を開けると、真っ先に飛び込んできたのは耐えがたい熱風だった。
「なっ……これは⁉ 」
地上に上がったふたりが見たのは、火の海に包まれた研究所だった。
団欒の時を過ごしたリビングも、日夜研究開発に明け暮れていた作業室も、跡形もないほどに破壊されていた。天井や壁はあちこちが崩落し、すべてを燃やし尽くさんとする勢いで炎が噴き出している。10年間の結晶が、みるも無残に破壊されていく様を、レイとイスタはただ茫然と見ていることしかできなかった。
言葉を失っているふたりだったが、そこに、階段を降りてこちらへと近づいてくる足音が聞こえてきた。階段の方を見ると、そこには、重火器を携えた白服の男女が数人ほどいた。
「誰だお前らは⁉ まさかこれをやったのはお前らなのか⁉ 」
「相藤レイだな、死ね!」
レイの声を無視して、白服たちは手に持ったサブマシンガンを一斉に撃ってきた。対話の余地はない。問答無用で此方の命を奪いにきていた。
「危ない!」
咄嗟にイスタが射線上に割り込むと、手のひらからバリアを生成して銃弾を弾く。念のためにと実装しておいたのだが、まさかこれを実際に使う時が来るとは思わなかった。サブマシンガンを全弾撃ち尽くした白服たちは、物陰に隠れながらリロードしようとするが、すかさずイスタは背中の飛行ユニットを用いて瞬間的に距離を詰めると、目からレーザー光線を放ち、白服たちの重火器だけを的確に破壊していく。
得物を失った白服たちは狼狽えて逃げ出そうとする。しかしその瞬間、白服たちの身体が爆発し、木っ端微塵に弾け飛んだ。新たに追加された爆炎が容赦なく逃げ道をふさいでゆく。
行く手を阻む炎に毒づきながら、レイは突飛のない理不尽に不満をあらわにしていた。
「なんだよ一体……どうしてこんなことに……?」
「情報不足ですね。ですが、まずは慈愛と健一を助けるのが最優先事項ではないでしょうか?」
イスタの言葉で、レイは我に返った。
そういえば、彼らは無事なのだろうか?なぜこうなっているのかは知らないが、まだどこかにいるであろうふたりを探しに行かなければならない。
「……そうだな、行こう」
「ですね」
2階の階段を上る2人。2階は、一階以上に酷い有様だった。壁は吹き飛び、天井は影も形もなくなっており、夜空に輝く星が見える。火の勢いは一階を凌駕するモノであり、少しでも触れたらそのまま死んでしまいそうなほどだった。
瓦礫の中を進んでいくレイとイスタ。確か、慈愛は客と共に応接室に向かったはずだ。だから、彼女がもしまだ逃げていないとするならな、きっとそこにいるはずだと考えていた。
「ここ……だよな?」
「はい、私の中のデータによると、確かにここが応接室……」
イスタの情報を頼りに、応接室だった場所にたどり着いた。2階より上は跡形もないほどに崩れており、もはやどこがどの部屋だとか、そういうのを目視で判断することは不可能になっていた。
外れて床に落ちている応接室の扉を踏み越え、炎の海を一歩一歩進んでいく。
そこで、見つけてしまった。
「…………………………………………慈愛?」
20年近く共に過ごしてきた家族が、転がっていた。
足は瓦礫に押しつぶされてぐしゃぐしゃになり、顔には深い火傷痕、腹部には深々と突き刺さった鉄筋。どう見ても、無事ではなかった。
「慈愛っ……どうしたんだよ!何があったんだよぉ⁉ 」
「これは……何があったのですか⁉ 」
慌てて駆け寄る2人。そこに、再び白服が姿を現す。
その手には、拳銃が握られていた。
「殺せ!交渉決裂だ!」
「危ない!」
咄嗟にイスタがレイの前に立ち、指先からワイヤーを飛ばして白服の手から拳銃を叩きおとす。叩かれた手を押さえながら此方を睨みつける白服だったが、そこに続けてイスタのロケットパンチが炸裂し、彼の身体を数メートルほど吹き飛ばしてゆく。殴り飛ばされた白服は、そのまま2階から放り出され、地上へと落ちてゆくが、レイ達にはそれを気に留めている余裕などなかった。
瓦礫の中で虫の息になっている慈愛を抱きかかえるレイ。唐突に目の前に現れた悲劇に、彼の心はぐしゃぐしゃになっていた。辛うじて息はあるが、それもいつまで持つかわからない。彼女の意識を必死につなぎとめるかのように、レイは何度も慈愛に問いかける。
「何があったんだよ⁉ おい……教えてくれよ……!」
「AMOREが……イスタを奪いに来たの……」
「嘘だろ……だってAMOREは世界を守る組織だろう⁉ それがどうしてこんなことをするんだ⁉ 」
「わからないわ……どこから嗅ぎつけたのかさっぱり……でも、アイツらはイスタを渡す気がないと知るや否や、研究所をめちゃくちゃに……」
なんで、なんで、なんで、なんで。どうして、こんなことに。
うわ言のようにイスタはそう繰り返していた。
「それは君が生まれたからさ、イスタ」
その声に、反応するものがいた。
レイとイスタが声のした方を向くと、そこには白いスーツを着た金髪の男――黄堂城花がいた。彼は、火の海の中だというのに、やけに涼しげな顔をしている。
レイとイスタは瞬時に理解した。コイツが元凶であると。
「お前か……お前がこんなことを……!何故だ⁉ 何故こんなことをした⁉ 」
「君達は危険だからだ」
「何…………?」
「彼女の完成度は非常に素晴らしいものだ、そこは素直に称賛されるべきだろう。しかし、それが万が一悪意ある者の手に渡ってしまえば、途轍もない脅威になる。そしてそれは、イスタを作り上げた君達にも当てはまるのだ。君たちは自分たちがあくまで中立的存在だと思っているようだが、我々からすればそのような中途半端な存在は黙認できない。優れた技術者を野放しにするわけにはいかないんだ。故に、君たちの手綱を握りたいと思っていたのだが……慈愛君は拒否した。だから始末した」
「あんた達は世界を守る組織のはずだろ⁉ それがなんでこうなる⁉ 」
「世界を守るためには、少しの不穏分子の存在も許されない。君たちのような存在は許容できないんだ」
黄堂がぱちんと指を鳴らすと、ぞろりと、瓦礫に隠れていた白服たちが一斉に姿を現す。一体どこにどうやって隠れていたのかは知らないが、レイ達を取り囲んで重火器を構えている。逃がす気はないらしい。
「相藤レイ!貴様はAMORE職員を爆殺した……よって抹殺する!」
「ふざけんな……ふざけんな!」
どうやら、研究所襲撃事件を「レイ達がAMORE隊員たちを謀殺するために仕組んだ事件」にすり替える算段らしい。当然ながらそんなことをされたらたまったもんじゃない。レイは兎に角どうにかするしかないと判断し、体を動かす。
その直後、パンッ!と乾いた音が鳴ったかと思えば、それと同時にレイがその場に倒れた。その音が何を意味するのか、イスタはもちろん知っている。
レイが撃たれたのだ。その証拠に、白服たちのもっている拳銃の内のひとつから、硝煙が上がっているのが確認できる。
「なっ……」
どうやら撃たれたのは足らしく、レイはまだ生きていた。しかし、撃たれた左足からは血がだらだらと流れており、逃げるのは難しそうだ。
白服のうちのひとりが
それが、
「私の家族に……手を出すなああああっ!」
「ぶがっ⁉ 」
加減なんてしなかった。イスタは思いきり、白服の顔面をぶん殴った。人間の比ではない、アンドロイドのフルパワーで殴られた白服の頭は原形すらとどめず、水風船のように破裂した。鮮血が飛び散り、頭を失った胴体が床に倒れる。
同僚の死によってパニックに陥った白服のひとりが、イスタに向かって火炎放射器の引き金を引こうとする。しかし、イスタは自身に向けられた火炎放射器の銃身を殴って叩きおとし、火炎放射器を奪い取る。そして、その引き金を躊躇なく引いた。
「あああああああああああああああああああああああああああああちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ⁉ 」
その白服は、自らの得物であった火炎放射器に焼き殺された。
ガタリと、イスタの手から火炎放射器が落ちる。白服たちはすっかり怯えており、戦意喪失している。
「いやだ、俺は死にたくない!」
「わたしも……わたしも死んでたまるかあ!」
イスタに恐れをなして、武器を放り捨てて一斉に逃げ出す白服たち。だが、イスタの怒りは収まらなかった。
彼女は逃げ出した白服たちに向かって、目からレーザー光線を発射する。先ほどは武器の破壊にとどめていたが、今回は違う。本気で、殺す気で放った。彼女の両目から放たれたそれは、白服たちの身体をいともたやすく真っ二つにしてしまった。レーザー光線の餌食となった彼らは、断末魔を上げる暇すらなく絶命した。
ぼとぼとと、レーザー光線でバラバラになった白服たちの死体を前に、イスタはあることを理解した。
(今ならわかる……これが怒り……なんですね……!)
大切なものを奪おうとする者達への、明確な敵意。それは、これまでの生活の中では決して抱くことのない感情であった。生まれてはじめて抱いた怒りに、イスタの意識は呑まれつつあった。
恐怖からその場にへたりこんだ白服に視線を向ける。彼は、声もまともに出せない程におびえていた。しかし、イスタにとっては敵でしかない。彼女は右手をドリルに変形させると、躊躇いなくそれをロケットパンチとしてはなった。ぶちゅりと、男の胴体にサッカーボール大の穴が開く。
「だ、だめだ……こんな奴に勝てるわけ」
じゅばっ。
弱音を吐いた白服の首を、高周波ブレードで跳ね飛ばす。
「な、なかまのかたきいいいいいいいいいいいいいいっ⁉ 」
ギュガガガガガガガッ!!
仲間の敵討ちを敢行した白服は、丸鋸でミンチにした。
「あば、ばばばばばば……」
ビリリリリリリリリっ!!
泡を吹いて倒れた白服は、高圧電流で感電死させた。
怒りに任せて白服たちを惨殺していくイスタの姿を、レイは呆然とした表情で見ていた。そして、その様子を共に見ていた黄堂は、酷く失望した態度をとった。
「残念だ……君たちの愚かさは私の予想を遥かに超えていたよ。もう、無理だ」
「待てっ!殺してやるっ……逃げるな……!」
黄堂はそう言うと、逃げ出した白服たちに続いて研究所から立ち去ろうとする。ここまで火の手が広がった以上、自分たちが手を下すまでもなくレイ達は焼死すると踏んだのだろう。
しかし、イスタの怒りは止まらなかった。返り血塗れになった身体で、黄堂を追いかけようとする。
「待って……それ以上……手を汚さないで」
「っ!」
激昂したイスタを止めたのは、瀕死の慈愛だった。
その言葉で、イスタは我に返った。
「あ、ああ…………わたしは、なんてことを……!」
そしてその場にしゃがみこみ、自らの犯した行為を理解し、嘆いた。
今自分は何をしていた?それはもうわかっている。自分は今、怒りに駆られて人を殺してしまった。
幼いイスタの心に、殺人の罪の意識が容赦なくのしかかる。彼女自身も意外だったのだが、悪人だからと言って、自分たちをきずつけたからといって、その命を奪ってもいいと判断できるほど冷徹にはなれなかった。どうやら、思った以上に自分は人間らしくなってしまったみたいだ。
それを慈愛もわかっていたのか、掠れるような声でイスタに語りかける。
「ずいぶんと……人間らしくなったのね……嬉しいな、わたし……」
「慈愛……」
「あんな奴の言うことなんか真に受けちゃ駄目よ……わたしは、間違ったことをしたとは思っていないから」
「でも……でも……!」
「娘のために体張ったんだよ……こんなに誇らしいこと、ある……?」
「わけわかんないんですよ……なんでそこまで笑っていられるんですか⁉ 今にも死にそうだっていうのに!」
「わたしたちは、イスタが生まれてきてくれてよかったと思ってる」
そう言いながら、慈愛はイスタの頬を撫でる。その手は酷く震えており、相当無理して動かしていることがイスタにも伝わった。
そして、慈愛は。
残り僅かな力をすべて使い果たしながら、イスタにほほ笑んだ。
「大丈夫……あなたは私たちの……自慢の娘よ……」
「慈愛……じあい……!」
それが、彼女の最後の言葉だった。
だらんと首が垂れ下がると同時に、その瞳からは既に光が失われ、火傷の残った身体には早くも蠅が寄ってきている。イスタの両手の温度センサーは、慈愛の身体から体温というモノがなくなっていっていることを告げているし、瞳に内蔵された生命体センサーは、イスタの抱きかかえるモノからは生命反応を微塵も感じないということを告げている。
青島慈愛は、死んだのだ。
イスタの各種センサーがそれをしつこく伝えている。頭ではわかっているはずなのに、あるはずのない心がそれを否定したがっている。もしもイスタに涙腺があったら、とっくのとうに泣き出しているだろう。それほどに、悲しかったのだ。
「嘘ですよね……嘘ですよね……!死んだふりとか貴女らしくないですよ⁉ 目覚ましてください!」
「よせ……よせよ!もう、死んだんだよ……!」
慈愛の死を認めずに、必死に慈愛の身体を揺さぶるイスタを、レイが制止する。
イスタが振り返ると、レイは泣いていた。煤まみれの顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らして、身体を震わせていた。いつものへらへらとした態度など微塵も感じさせないくらいに、その顔は悲しみと怒りに満ちていた。
両者ともに、その場から動くことはなかった。じわじわと火の手が近づいてきてはいるが、それを気に留められるほどの余裕がなかった。あまりにも唐突で、残酷な理不尽が、レイとイスタの心を抉っていた。
しばらくして、慈愛の亡骸を抱きかかえたまま、イスタが口を開いた。
「私が、生まれたせいなんですよね?」
ぼそりと、そう言った。
その声は震えていた。
「この悲劇も、今の惨状も。私が生まれたから……なんですよね?」
「…………」
ふざけるな、と。
レイは掠れた声でそう反論していた。
ああ、やめてくれ。そんな顔をしないでくれないか。そんな事言わないでくれないか。そんな顔をさせるために、お前を作り出したんじゃない。生まれたことが罪だなんて言わせるような、残酷な現実の方が悪いに決まっているだろう。
レイは、必死に反論した。イスタに、自分たちの夢が、イスタの存在が間違っているだなんて言わせないために。泣きじゃくりながら彼女の言葉を否定した。
「これはお前のせいなんかじゃない!生まれたことが悪いなんて、そんな道理があってたまるか!悪いのは全部向こうだ……慈愛を死なせ、俺達をバラバラにしたアイツらが悪いんだ!」
「でも……彼らは私をなんとしてでも捕らえようとするでしょう。そして、そのために邪魔なレイや健一を殺す。そんなの……私は耐えられない……」
イスタは慈愛の亡骸を抱きしめながら、泣きそうな声で言う。
「奴らの思い通りにさせてたまるかよ……俺もお前も、赤浦も……みんなで生き延びるんだ……!だから、俺は君を逃す。それが彼女と俺の望みだし、奴らへの一番の復讐になるからだ」
「なんで、そこまでするんですか?真っ当に生み出された訳でもない、異物そのものの私に、そこまでできるのですか?私には、わからない」
「今は分からなくとも、いつかわかる時がくる。人間ってそういうもんだぜ?お前の幸せが、俺とアイツの願いなんだ。きっと、世の中の親ってこんな気持ちなんだろうな。今ならわかるよ」
イスタにそう言いながらも、レイは内心で降りかかった理不尽に怒りをぶつけずにはいられなかった。なんでだ?なんでイスタにここまで言わせるような仕打ちを受けなければならないというのだ?自分たちはそれほどまでに悪いことをしたというのか?
前世と現世ともに順風満帆な人生を送ってきたレイは、世界を呪ったことはなかった。心が張り裂けるような悲劇というのは自分には絶対に降りかからないだろうという謎の自信を抱いていたし、多少の不運くらいは自力で何とか出来ると思っていたからだ。だが、この時レイは、生まれてはじめて世界の理不尽さを呪った。
だが、世界を呪うこと以上に、彼にはすべきことがあった。自らの存在のせいで悲劇を招いてしまったことを悲しみ、目の前で泣いている
レイは、イスタを後ろから抱きしめると、噛み締めるようにこう言った。
「だから安心してほしい。生まてきて幸せだった、生きていてよかったと思えるような未来を、お前に与えてやる」
「…………」
彼女には笑顔でいてほしい。それがレイの願い。だからこそ、こんな悲劇が最後であっていいはずがなかった。バットエンドではなく、ハッピーエンドを望んだ。彼女が、いつかそう思える日を迎えてほしいと常日頃から思っていた。
レイは、イスタを抱きしめながら、彼女のうなじについている電源ボタンに触れる。すると、イスタの瞳から光が消え、彼女の身体がその場に崩れ落ちる。
「ちょっと眠ってろよ……お前には、重すぎるだろ」
レイは、イスタの電源を落としたのだ。
そして、動かなくなったイスタから、彼女の人格データの入ったチップを抜き取ると、それをスマートフォン程の大きさの、専用のケースに収める。
「忘れた方がいい。今日のことも、慈愛のことも……お前が背負うべきじゃないんだ……」
レイは、イスタの記憶を弄ることで、彼女に、今日の出来事について忘れさせるつもりなのだ。
これが本当に、彼女の為になるのかは分からない。慈愛だったらどうするだろうか。ぶん殴ってでも反対するだろうか。だか、今のレイに出来ることといえば、これくらいしかなかったのだ。
そして、イスタの辛そうな顔を、見続けるだけの度胸が、レイにはなかった。そんな情けない自分が憎たらしくて、涙があふれてたまらなかった。さっき散々泣き喚いたはずなのに、どこからこんなに出てくるのかと思うほどに。
「弱いな……俺ぇ……」
辛うじてまだ無事だった装置を稼働させる。応急処置くらいはできるかもしれない。
そこに、ひとつの声がかけられる。
「よう」
「お前、無事だったのか……」
レイはその言葉を聞いて、振りかえる。
瓦礫の影から出てきたのは、赤浦だった。彼も身体のあちこちに火傷を負っているが、それ以上に目を引くものがあった。それは、彼が引きずるようにして手に持っている、黒焦げになった人間の死体だった。驚いて言葉を失うレイだったが、赤浦はそれを意にも介さず、その焼死体を乱雑に地面に投げ捨てる。
「こいつらだろ、慈愛を殺したのは」
「お前……殺したのか……」
「正当防衛だ。俺も殺されかけたんだ」
赤浦はそう吐き捨てながら、よろけながら壁に手をつく。
「最後にひとつ、言っておくことがある」
「最後って……まさかお前……」
その言葉に、レイは動揺した。
よく見れば、赤浦の顔色はかなり悪い。まるで今にも死にそうなほどにだ。もしかすると、彼は既に致命傷を負っており、今はかなり無茶をしている状態なのかもしれない。慈愛に続いて赤浦までいなくなってしまったら、自分はどうすればいいのだ?そんなの、耐えきれない。
赤浦を心配して駆け寄るレイ。それは友として当然の行動だった。
しかし。
その思いは、赤浦の次の一言で完全に消え去った。
「あいつらにイスタを売っぱらう話を持ち掛けたのはな、俺なんだ」
「………………………………………………………………なんだって?」
訳が分からなかった。
言葉の意味ではなく、その真意。
一体なにがどうなったら、その行動に行き着くのかが、レイには理解できなかった。衝撃的な事実に呆然としているレイに、かまわず赤浦は続ける。
「俺は、最近になってようやく気付いたんだがな……好きだったんだよ、慈愛を」
そう言った赤浦は、どこか上の空だった。
これが酒の席とかだったならば、笑いながら恋愛相談などに発展したのだろうが、こんな状況でそんなことを言われても反応に困るし、なによりも慈愛はさっき死んだのだ。レイは、このタイミングで慈愛への恋心を打ち明ける赤浦の動機が、全く理解できなかった。
困惑するレイだったが、赤浦は自分語りをやめないどころか、さらに調子よく話し続ける。その内容は、次第に狂気じみたものへと変わっていった。
「だけど、アイツの愛は全部イスタが持っていってしまう。アイツが生まれてから俺の愛は届かなくなった。端的に言うと……邪魔だった」
「邪魔ってお前……お前だって……イスタにテメエの夢詰め込んだんじゃなかったのかよ⁉ あの時の誓いは全部嘘だったってのかよ⁉ 」
「嘘じゃあないよ。ただ、邪魔になっただけだ。ただアイツらが慈愛を殺すのは予想外だったよ。だから奴らは半分くらい殺した」
「ふざけるな!お前のせいで慈愛は死んだんだぞ!」
大切な人を奪った張本人が目の前にいて、さらにそいつが全く悪びれずに意味不明な理論で正当化を図る。それは、レイを激怒させるには充分すぎるものだった。
レイは泣きながら身草の胸ぐらを掴み上げ、近くの壁に叩きつけた。なんども、なんども、赤浦の後頭部を壁に叩きつける。壁に血がつくくらいにはやっただろうか。それでもなおレイの怒りと悲しみは収まらなかったし、赤浦は薄ら笑いは剥がれ落ちることはなかった。赤浦の人間性に気づけずに友人として接してきた自分が情けなかった。
しばらくたって、赤浦が再び口を開いた。
「ああ、慈愛は死んだ。だが、イスタとお前がまだ生きている」
「へ?」
「慈愛はもう居ない。だったらさ、慈愛が愛したイスタを壊したら、きっと俺が一番になる筈なんだ。俺に注がれる筈の愛を横取りしたアイツをぶっ壊せばよぉ……俺の愛の方が強くて正しいって事にならねぇかぁ?ん?」
訳が分からなかった。
あまりにも理解しがたいその発言にレイは動揺して、思わず赤浦の胸倉をつかんでいた手が緩んでしまう。
コイツは狂っている。
嫉妬というのは、ここまで人を狂わせるモノなのだろうか。
「何言ってやがる……全然理解できねえんだよ!寝言なら寝て……いや、血迷い事なら地獄でほざけよ!」
常軌を逸した身草の物言いにレイは激昂するが、興奮した身草は、胸倉を掴み上げていたレイの手を乱雑に振り払うと、逆にレイの手を捻り上げ、地獄の形相で吠え散らした。
「俺と彼女はまだ途切れちゃあいない!この赤い糸はよぉ、三途の川を隔てて繋がっているんだっ!」
「ふざけるなよ……そんな理由で、何もかもぶち壊したってのかよ……」
「だからよぉ…………そいつを寄越せ!」
「なっ……」
そういうと、赤浦はレイの左手に向かって手を伸ばし始めた。レイの左手には、イスタの人格データの入ったチップが握られている。
――渡すわけにはいかない。自分たちの夢の結晶であり、子どもであり、すべてである彼女を、こんなやつに渡してはならない。そう決意すると、レイは右の拳で思いきり赤浦の顔面を殴り飛ばした。ボゴッ‼と鈍い音を立てて、赤浦の身体が床に崩れ落ちる。レイは即座にイスタの身体に人格データを戻してから彼女とともに逃げようとする。
が。
「逃がさねえよ……人の恋路邪魔しといてよお、それは筋が通らねえよ」
《KAKUSEI BOMBER》
「な、お前、その姿は…………!」
立ち上がった赤浦は、異形の怪人――ボマーオリジオンに姿を変え、レイに襲い掛かってきた。
「あいつらに貰ったこの力、お前になら存分に振るえるぜえ!」
「ふざk」
レイが何か言い終わる前に、ボマーオリジオンの拳がレイの腹部に触れる。
瞬間、ボマーオリジオンの手が爆発した。
「ぼか……かはっ……!」
容赦ない高熱と衝撃がレイの全身をずたずたにしてゆく。血塗れでその場に崩れ落ちるレイの手から、イスタの人格データの入ったチップが零れ落ちる。レイは慌てて拾おうとするが、ボマーオリジオンはその手を思いきり踏んづける。傷だらけのレイの口から、苦悶の声と血を口から吐きだされる。
赤浦はオリジオン態を解除しながら、イスタの人格データのチップを拾い上げる。レイが何か言いながら縋り付いてきたが、赤浦はそれを鬱陶しそうに蹴り飛ばす。そこにもはや、友情なんてものはなかった。今の彼には。20年来の友情よりも優先するべきものがあるのだ。
それよりも、イスタの中身が赤浦の手に渡ってしまったことが問題だ。会話の流れからするに、奴はイスタを壊すつもりなのだ。しかし、レイの予想とは裏腹に、赤浦は行動に移さなかった。手に入れたチップをまじまじと見つめながら、赤浦は地べたに這いつくばるレイに問いかける。
「……奪ったはいいがよぉ」
「…………」
「こんな状態でぶっ壊しても意味がねえんだよなあ。俺が壊したいのはこんなチップじゃない、完全な形のイスタをぶっ壊してこそ、俺の愛は証明される。そう思わないか?」
「思うわけ…………ねえだろ…………」
仮に今、慈愛が生きていて赤浦の言葉を聞いたならば、レイ以上に激しく彼を拒絶するはずだ。彼女がイスタを自分以上に愛していたことをレイは知っているし、当然ながら赤浦も知っているはずだ。しかし、赤浦はそれを知っていながらもイスタを壊すと言っているのだ。愛した者の愛するものを踏みにじろうとしている外道への友情を、レイは切り捨てることにした。
ずるずると、傷ついた身体を引きずりながら、イスタを守るように立ちふさがる。
もう、イスタはレイの夢の結晶なんかじゃない。慈愛の生きた証なのだ。それを失うわけにはいかなかった。
「…………テメエの恋は一生実らねえよ」
レイはそう毒づきながら、懐からリモコンのようなものを取り出し、あるボタンを押す。
赤浦は、完璧な状態のイスタを壊さなければ意味がないと言っている。ならば、それが叶わなければいい。そこに賭けることができれば、たとえ一時しのぎだとしても、この局面だけは切り抜けることができるはずだ。
「…………何をしている?」
「イスタの緊急用の遠隔操作リモコンだよ……こいつがあればイスタの機能を外から使える」
「なんだと……そんな機能俺は知らないぞ?」
「おいおい、イスタの設計は俺だぜ?イスタの機能については、本人の次によーく知ってる。なんなら、彼女自身が知らない機能もな。これもそのうちのひとつだ」
《DIMENSION WARP実行》
「次元転移だと……⁉ 」
そう、彼は別の世界に逃げようとしているのだ。
レイがリモコンのボタンを押すと、レイとイスタの身体が光に包まれだした。赤浦が慌てて手を伸ばすが、間に合わない。光は次第に強くなり、それと反対にレイとイスタの姿はおぼろげになってゆく。このままでは目的がかなわない。愛が遠ざかってしまう。そんなことは許さない。
赤浦は、せめて邪魔者であるレイだけでも殺そうと拳を振り上げる。
最後に、光に包まれたレイはこう言い残した。
「絶対にイスタは取り返す。たとえ何年かかってでも、俺はあいつに未来を届けてやるんだ――」
その言葉を最後に、レイとイスタの身体が激しい光に包まれ、赤浦は思わず目を背ける。
数秒経って、光が収まった頃には、その場に残されていたのは赤浦だけであった。レイとイスタは、別の世界へと姿を消していた。
「…………逃がすかよ」
ぼそりと、赤浦が呟いた。
「何年たっても、何十年たっても、お前たちを見つけ出す!俺の愛の証明はまだ終わっちゃあいないんだっ!絶対に!俺の愛を!天国の慈愛に届けてやるからなあ!見ていてくれよ……慈愛ぃ……じあいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
狂気の愛の叫びが、果てしない夜の闇にこだました。
かくして、因縁は始まったのだ。ひとりは夢と未来を守るべく。ひとりは己の愛を証明すべく。互いに決して理解は示されず。あるのは怒りと悲しみ、そして愛。
――それは、1年の歳月を経て再び巡り合う。
――余談だが、この一件はAMOREの一部が独断行動を起こした結果であり、事態を重く見たAMORE局長は内部監査を徹底したものの、首謀者たちはすべての罪を黄堂に押し付けてまんまと責任逃れを果たし、黄堂自身も、懲戒免職通知を受けた翌日に失踪を遂げてしまったのだという。
現在 PM9:03 研究所跡地
そして現在になって、赤浦とレイは再開した。
赤浦の方は、勝手に暴走して慈愛を殺したAMOREへの制裁と、レイとイスタの殺害のためにオリジオンとして暴れ、一方レイは、イスタの再起動用のツールと人格データを回収するためにこの世界へと戻り、その間にイスタの身体を守る役割をセルティに依頼。その結果として巻き起こったのが今回の事件だったのだ。
そして、軍配は赤浦の方へと上がりつつあった。彼の手元に、イスタの身体と
「俺の勝ちだな」
赤浦はそう言いながら、再起動用のツールを見せびらかす。それは、人間の腕くらいの厚さの円盤状の装置であった。赤浦はそれをイスタの頭部にあるリング状のユニットに接続し、操作していく。
既にバラバラに分解されていたイスタの身体は組み上げられている。あとは、人格データの再インストールが完了すれば彼女は再び目覚めることになる。
「起動だ……さ、一年ぶりの目覚めと行こうぜ、イスタ」
赤浦はそう言いながら、イスタのうなじの電源ボタンを押した。
すると、一年もの間眠り続けていた機械少女の瞼がわずかに動いた。
「動いた……目覚めるぞ、彼女が!」
「なにがどうなってんのか、これもうわかんねえなあ」
遊矢も野獣もセルティもタロットも瞬も、この場にいる誰もが固唾を呑んでその光景を見ていた。
ガシャリと、イスタの頭部にくっついていた再起動用ツールが地面に落とされる。目覚めたばかりのイスタは、状況が読み込めずに困惑しているようで、不思議そうな顔をしてあたりを見渡している。ずっと休止状態だった彼女の記憶は、研究所の火災の日で止まったままなのだ。
「ここは……私は……これまで何を……」
「久しぶりだな、イスタ」
「健一……レイ……なぜふたりとも睨み合っているんですか?」
見知らぬ人たちに囲まれて警戒心をバリバリにとがらせる彼女だったが、その中に見知った顔を見つけ、少し安堵する。そして、彼女は赤浦の本性をまだ知らない。彼女の中では、赤浦はいまだに大切な家族の一員なのだ。
レイはイスタに、赤浦の本性を打ち明けるべきかと考える。ただでさえ慈愛を失って不安定になっているところに、慈愛を間接的に死に追いやったのが彼だと教えれば、彼女はショックを受けるかもしれない。いや、それどころでは済まないかもしれない。
悩んでいるレイだったが、その葛藤は杞憂に終わった。
『ほらよ』
ザシュ。
そんな軽い音を立てて、レイの背中にナイフが突き刺さった。
「な、に…………?」
レイは困惑したまま、その場に膝をつく。
「誰だ……誰がやったんだ⁉ 」
瞬はあたりを見渡す。しかし、レイを刺したのは赤浦でもタロットオリジオンでもない。2人ともレイの前方にいるため、彼の背中を刺すことなど不可能なはずだからだ。他の奴らには、彼を刺す動機がない。一体誰がやったというのだろうか?
裁場もその考えに至ったのか、必死に周囲を警戒している。
その時。
『そこまでだ。イスタ再起動、誠にご苦労であった』
「⁉ 」
酷く尊大な、他者を見下しているのが丸わかりな声がかけられた。
この場にいた全員が声のした方を振り返る。すると、背後にそびえたつビルの屋上に、幾つもの人影が見えた。月をバックにしている為、影になっていてよく見えないが、屋上から此方を覗く影たちは、そのどれもがなんともいえない形をしている。
何が起きているのかわからずに呆然としている瞬達だったが、影たちのいる方から、再びこえがかけられる。
それは端的に言うと、あまりにも唐突過ぎる勝利宣言であった。
『君たちの働きは見事なものだった。だが残念だな、最後に勝つのは我らだと決まっているのだよ。イスタとアクロスは、我々AMOREが貰い受ける』
※この作品は仮面ライダーアクロスです。
ようやくこの回がいけました。
いつも以上にテイストの違う内容でしたので、かなり苦労しました。
ちなみにイスタちゃんは私のTwitterアイコンになってます。
↓赤浦君の思考回路
・慈愛のこと好きだけどレイとイスタ邪魔だから殺したい。できれば自分の手で壊したい
・イスタをAMOREに売り払おうとしたけどAMOREが慈愛殺しやがった許せん
・慈愛は死んだけど俺の愛は不滅!慈愛が愛していたレイとイスタを殺せば自分が彼女の愛を一番多く受け取れる!慈愛死んでるけどそれはかわらないよね!
そしてAMOREも後ろ暗さ満載で出てきました。当初はこんなにブラックな組織にするつもりじゃなかったのに、どうしてこうなった!
ここからは後半戦。ここから大激戦への導入が始まります。
黄堂に関しては次章に出てくる予定です。
池袋編のストック尽きたので次回の更新はすこーしながら遅くなります。
次回 PM11:24/