【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
プロセカ始めましたのと、卒論が待ってるのでペース落ちます。
前回のあらすじ
・ボマーオリジオンの動機が明かされる
・とうとう本性表しやがったなAMORE!(他人事)
『君たちの働きは見事なものだった。だが残念だな、最後に勝つのは我らだと決まっているのだよ。イスタとアクロスは、我々AMOREが貰い受ける』
盤外から発せられた、理不尽極まりない宣言。
それにいの一番に怒りをあらわにしたのは、赤浦だった。ねっとりと、それでいて怒っているのがまるわかりなほどに震えた声を喉から捻りだしながら、血走った眼付きで声のした方を見上げる。
「また……邪魔をするというのか……?」
『おかしなことを言うな。イスタが邪魔だった君とイスタを欲した我々とで、各々の利害は一致していた。それを私利私欲からふいにしたのは君だろう、ボマー』
「慈愛を殺しといて何言ってやがんだお前。他人の恋路を邪魔しやがってよぉ……のうのうと生きてるとか許されねえよなあ……?」
1年前のことを蒸し返してネチネチと詰め寄る赤浦だが、彼に怒る資格はないのだ。常識的に考えれば、あの悲劇の引き金を引いたのは双方の責任。そしてそれに怒りを抱く資格を有するのは、レイだけなのだ。一体どの面下げて怒っているというのだろうかと、レイの心の中から怒りがふつふつと湧き上がってくる。
その横で、瞬は先ほどの宣言の内容について考えていた。
奴らはアクロスを貰い受けると言った。一体、何のために?AMOREについては少し前に灰司や裁場から少し聞いただけであんまり分かっているとは言えないのだが、彼らがこんなことをして何になるというのだろうか?
「なんでアクロスまで奪われなきゃいけないんだ?お前たちは何が目的だ?」
『貴様に拒否権はない。現在、逢瀬湖森及び港トモリの身柄を拘束している。我々の要求がのめないならば彼女たちの命の保障はない』
その言葉に、瞬は耳を疑った。戦いで熱を持った身体が、一気に冷えていく。
「湖森を預かったって……どういうことだよ⁉ 」
『そのままの意味だ。返してほしくば、我々の要求を呑め』
声の主は、冷たく、そう言い放った。意味が分からなかった。
あまりの横暴さに、裁場も元AMORE隊員として怒りをあらわにする。
「お前たち……それでもAMOREか⁉ 」
『世界を守るためにだったらなんだってする……そういう組織じゃないか。まさか清廉潔白な正義の味方が存在するとでも思ったのか?そんなのは絵空事にすぎんというのに』
「こんなこと……創設者は絶対に黙って見ていないぞ!アイツはそんな絵空事を掲げてAMOREを結成した!必ずお前たちは処罰される!」
『あんな青二才の戯言に付き合っていられるほど純粋じゃないのだ。なんせ私は大人だからね』
声の主は、裁場の言葉を意にも介さず、傲慢な態度を崩すことはない。赤浦やタロットも含め、声の主が言っていることに納得している者は、この場に誰一人としていない。
「何故だ……何故お前たちはイスタを欲する!一度のみならず、二度も!」
『相藤レイ、君は要注意人物に指定されている。転生者でありながら優れた技術力を持ち、アンドロイド・イスタの開発にも成功した。そんな能力を有する君を放置するわけにはいかないんだ。過ぎた力は必ず世界の毒となる……転生者なら、わかるはずだが?』
レイの怒号に対し、冷酷に答える。それは1年前に、レイが言われたことと同じだった。
その可能性があるから。かもしれないから。リスクマネジメントという観点からすれば合理的な考えなのだろうが、踏みつぶされる側からしたらたまったもんじゃない。可能性の話で大事なものを奪われようとしているというのに、それを黙って受け入れられるわけがない。
だが、声の主は聞き入れない。1年前と同じように、レイの言葉を一蹴する。
『だからイスタは預からせていただく。君達の存在が悪意あるものの手に渡る前にね。不穏分子は早急に排除せねばならない。なんせ我々転生者はひとりひとりが強大な力を持つ……いわば生ける核爆弾なのだよ。そんな奴らを相手に世界を守っているんだ。故に我々には、僅かな失敗も許されない』
「……ふざけんな。世界を守ってくれるとか言ったくせに、お前たちは慈愛を殺した」
『彼女は我々の敵となる道を自ら選んだのだ。殺されても文句はあるまい』
「慈愛が悪いってのかよ⁉ あいつは、あいつはただ……俺達と同じ夢を追いかけてただけで……」
『転生者は、世界をゆがませることしかできない、死にぞこないの異物。そんな奴らが一丁前に夢を見るなど悍まく、危険極まりないにもほどがある。転生者を野放しにすることがどれほど危険か、転生者犯罪の横行する現在がはっきりと証明している。故に、君達は我々に管理されなければならない』
声の主は、大きく咳払いをしたのちに、続けて言う。
『そしてだ。私が相藤レイに言ったこと。それはアクロス、君にも当てはまるのだよ。何処に属するでもなく、ただ己の心に従ってその力を振るう。君はヒーロー気取りでいるようだが、我々からすればそのあり方は転生者共となんら変わりない。いや、それ以上に悪質だ。アクロスの力は君が思っているよりも強大……君のような不安定な年頃の少年が持つべきでないのだ。ちょっとの刺激で善にも悪にも転がり得るイーブン……そんなギャンブルじみた存在がいること自体が、世界にとって悪なのだ。故に通告する。クロスドライバーとライドアーツを、纏めて全部引き渡せ』
要するに、信用していないのだ。
世界というのは、ほんのちょっとのきっかけで大きく変化してしまうし、人の心というのは、些細なことで善にも悪にも染まる。そんな不安定な世界を守ろうとするならば、人の心という不確定要素を信頼することはできないのだろう。ましてや、強大な力を持った人間がどうなるかという悪い実例――転生者という存在を、AMOREはよく知っている。だから余計に人の心を信じることができないのだ。
だからといって、このような暴挙を許していいはずがない。どんな大義名分があろうとも、悪の芽を潰すために罪のない人を盾にするなんてことがまかり通っていいはずがないのだ。こんなの、正義の組織がやることじゃない。
『我々の要求をすべて呑めば人質は解放しようじゃないか』
「ふざけるな!そんな言い分が通るわけないだろ!」
レイがそう叫んだ瞬間、声のした方から凄まじい速度で何かがレイに向かって飛んできた。赤ん坊ほどの大きさはあろうそれが衝突した瞬間、肺の中身が根こそぎ捻りだされるかのような衝撃がレイの全身に駆け巡り、その身体は九の字に折れ曲がった状態ではるか後方へと吹っ飛んでゆく。
レイにぶち当たったものは、その衝撃で原型を失って周囲に飛沫する。瞬の顔に飛び散ったものからは、独特の匂いが漂っていた。
それは塗料のようなものだった。恐らく、ペンキか何かなのだろう。今飛んできたのはその塊――いわば巨大なカラーボールのようなものだったのだろう。
皆がペンキ塗れになって痙攣しているレイに気を取られている隙に、2発目の巨大カラーボールが発射される。今度の標的は赤浦だった。しかし赤浦は即座にボマーオリジオンに変身すると、即席の爆弾を生成してカラーボール目掛けてぶん投げる。カラーボールと衝突した爆弾は即座に爆発し、周囲に爆炎と塗料の雨を降らせる。
「一時撤退だ……だが覚えておけ。俺の恋路は誰にも邪魔はさせねえからな……」
「ほんとうに、この世界の住人は総じて悪運が強い。ではまた時を改めてお会いしましょう」
いたずらに被害を拡大させながら、タロットとボマーは爆炎と塗料の雨に紛れて撤退していった。
「逃げるな爆弾魔!とっとと俺に捕まって●俗代になりやがれ!」
『うるさいぞそこのステハゲ、黙っていろ』
逃げたボマーオリジオンに罵声を浴びせる野獣が目障りだったのか、今度は野獣目がけてカラーボールが飛んできた。それは野獣と、ついでに近くにいた三浦や木村も巻き込んで破裂し、彼らをペンキ塗れにしたうえでぶっ飛ばした。
「イスタっ!こっちだ!」
「くっ……ペンキのせいで視界が……っ!」
煙を掻き分けながら、瞬はイスタに手を伸ばす。彼女とは初対面だけども、彼女をAMOREに渡すわけにはいかない。渡したくない。あんな傲慢な言い分を認めるわけにはいかない。そんなある種の反発心から、瞬はイスタの元へと駆け寄ろうとする。
しかしそこに、また別の何かが猛スピードでイスタに向かって飛んできた。それは黄色いリボンがぐるぐる巻きにされた球状の物体だった。その球体はイスタに着弾するや否や、ほどけて一本の長いリボンになって彼女の身体にまきついて、その身体を拘束する。そして、リボンでぐるぐる巻きにされたイスタは、まるで何かに引き寄せられるかのように、声の主達のいる方へと引っ張られていく。
「待てっ………!」
ペンキ塗れのレイが必死に手を伸ばすも、届かない。
再び、イスタは彼のもとを離れてしまった。
『アクロス、最後通告だ。クロスドライバーを引き渡せ。期限は深夜2時ジャスト。プラネットプラザで待っている』
イスタを手に入れた声の主はそう言い残し、沈黙した。瞬達が少し目を離した隙に、ビルの屋上からのびていた影たちは跡形もなく消えていた。
完全に漁夫の利を取られた。その悔しさはレイだけでなく、ほぼ無関係であるはずの瞬達も感じていた。
レイは涙を流しながら、怒りのままに地面に拳を叩きつける。
「くそっ……ようやく目覚めたってのに……!なんだよ!俺達のしたことがそんなに悪いってのかよ⁉ 」
「さっぱり状況が読み込めないんだけど……なんかただ事じゃないだけは分かった……」
その横で木村が、皆の気持ちを代弁するかのようにそう呟いた。それを皮切りに、この場にいた全員が思い思いに口を開いた。
「なんだよアイツら⁉ よくわからんがあの生意気っぷりには頭に来ますよ⁉ 」
『なんだか余計に厄介なことになってないか……?』
「湖森が攫われた……どうすれば……」
状況は分からないけど、本能的に声の主が悪い奴だということだけは分かったのか、怒りをあらわにする野獣と、依頼は完遂したけどそのまま離脱するは雰囲気的に難しそうだな、と思ってその場にとどまるセルティ。その横では遊矢が真剣な表情でどうすべきかを考えている。皆混乱しているのが明らかだった。
しかし瞬は迷ってはいなかった。
各々が迷ったり考えたり怒ったりしている中、ひとりその場から立ち去ろうとする。その手を、裁場が掴んだ。瞬は振りほどこうとしたが、裁場は離さない。
「待て、ここは俺が行く。君は待っていたまえ」
「…………放せよ」
「断る」
「放せって言ってんだよ。湖森達を助けに行かなきゃなんねえんだよ」
「だからそれは俺が行くと言っているんだ。君を戦わせたくない。むやみやたらに危険に突っ込んでいくのがヒーローとでも思っているのか⁉ 」
「じゃあなんでもかんでも他人から取り上げて、自分ひとりでやろうとするのが大人なのかよ⁉︎ 」
ここでカチンときて、瞬は言い返した。一般的に、家族が危険な目にあっている状態で諭すようなセリフを言われても、火に油を注ぐだけなのだ。自分が冷静でないことは自分が良く分かっている。それでも、じっとしているわけにはいかなかった。
裁場もそう言われることをわかっていたのか、眉一つ動かさずに瞬の手を強く引き、自らの方を向かせ、説教を続ける。
「子供が戦場に向かおうとしているのを静観するのが大人とでも?俺はAMORE隊員として、多くの戦場を経験した。その中で、君の様な若者が死んでゆくのを何度も目にしてきた。君にその虚しさが、悲しさが想像できるか?これは遊びなんかじゃない。君が傷付けば皆の心が傷つく。君がつけられる傷は、君の後ろにいる皆の傷にもなる。それを黙って見過ごすわけにはいかない。君みたいな子供に戦ってほしくない」
裁場は瞬の肩に手を置きながら、必死に頼み込むかのようにそう言った。
瞬は、しばらく黙り込んだ後、そっと裁場の手を肩から退けながら言う。理解はできるけど納得はできない。その答えは変わらなかった。
「あんたの気持ちも分からなくはない。けど、黙って助けを待つことなんて俺にはできない」
「そんなことをまだ言うってのか?」
「そうしないと――」
瞬がそこまで言いかけた時。
バキイッ‼ と、鈍い音とともに、裁場が吹っ飛んだ。誰かが、横から裁場をぶん殴ったのだ。
ビルの壁面に側頭部を打ちつけられた裁場は、そのまま地面にずるずると崩れ落ちてゆく。裁場がかけていた眼鏡は、彼の顔を離れて宙を舞い、地面に叩きつけられるように落下して砕け散る。
一体誰が殴ったのか。裁場と瞬は、同時に拳のとんできた方向に目をやる。
「何をっ……!」
「イライラするんだよ……お前のその偽善っぷりがな!」
そう罵倒したのは、灰司だった。彼が裁場を殴り飛ばしたのだ。
呆然とした顔をしている裁場に、灰司は続けて罵声を浴びせる。
「戦ってほしくないだと?死んでほしくないだと?俺の気持ちなんかまったく考えてねえ癖に出しゃばるなよ……余計な真似すんなよ、この役立たずが!」
「――っ!」
その言葉に、裁場は何も言い返せなかった。
灰司も、そして瞬も、裁場の手を払い除けた。端から、彼の助けを求めている者はいなかったのだ。灰司の言うとおり、裁場のやろうとしていたことは偽善、余計なお世話だったのだ。
灰司は、立ちあがろうとした裁場を突き飛ばすと、すたすたとその場から立ち去ろうとする。
「待て……」
裁場はそう言いながら灰司に手を伸ばすが、全て無視された。灰司は路地を抜け、夜の街へと消えていった。
灰司がいなくなってからしばらくして、裁場はどこか気の抜けたような顔のまま立ち上がり、ふらふらとした足取りで歩き出す。瞬が声をかけても、反応はない。誰の声にも耳を貸す事なく、裁場は灰司がいなくなったのと同じ方向へと歩を進める。
「灰司を止められないならば、せめて今回の事件だけは俺が……」
そう。彼はまた別の目的で動き出していた。平和のために罪なき人々を利用する、AMOREの横暴を止めるために、彼は単身で挑むつもりなのだ。
瞬が声をかけたが、またまた返事はなかった。慌てて後を追いかける瞬だったが、裁場の足の予想以上の速さに、曲がり角ひとつで見失ってしまう。首や目を動かして探すも、見つからない。夜の街のどこにも、裁場の姿を見つけることはできなかった。
後には、落胆の表情を浮かべたままその場に座り込むレイと、ただ巻き込まれただけの野次馬達が残された。
PLAYBACK Ver:裁場誠一
――裁場先輩、よろしくお願いします!一緒に平和を守りましょう!
元気な声でそう言った少女は、穴という穴に成人男性の足程の太さはあろう金棒を突っ込まれた死体となって見つかった。
――俺はヘマなんかしませんよ。家族のため、生活のために絶対に勝ち続けます。
家族思いの青年は、記憶をすべて消された上で
――見ろよこの風景の美しさを。俺達の居た世界では決して見れない美しさだろ?
数多もの世界の美しさに魅了された少年は、直径5cmの球体に身体と精神を押し込まれ、永遠の苦痛を味わい続ける末路となった。
――この曲良いですよ!皆さんもぜひ聞いてくださいね!
音楽好きな内気な少女は、転生者に身体を入れ替えられて何もかも奪われ、自分の身体を手に入れた転生者の手によって、犯罪者として処刑された。
AMOREエージェントの殉職率は非常に高い。対峙する転生者は総じて強力な転生特典を持つからだ。ましてや広域指名手配されるレベルとなると、世界の2,3個は片手間感覚で滅ぼせるのがデフォルトになってくる。AMORE側にも転生者はいるのだが、実力者となると少ない。故に多くのエージェントが戦死または再起不能となっていた。
そして裁場は、その全てを看取ってきた。15歳で入隊して10年間、数多もの同胞の最期を見てきた。中には人としての尊厳を根こそぎ奪うかのような悲劇もあった。そして不幸にも、彼はそれを回避できるだけの力を持っていた。
「…………」
殉職者の墓に手を合わせながら、裁場は嘆く。
仲間の死に出くわすたびに、自分が強者であることが嫌になる。なぜ守るべき弱者だけが犠牲となり、自分が生き残ってしまうのか。その思いは日に日に強くなる一方だった。
それが決定的になったのは3年前。
ある日裁場は、別の世界でギフトメイカー・バルジと交戦して逃げられた。
当時はまだギフトメイカーの悪名がそこまで広まっていない――彼らの危険性が十分に把握されていないのもあって、民間人もAMOREエージェントも含め、多くの人間がその犠牲となってしまった。その時も10人がかりでバルジに挑み、半数近くが再起不能となった。
なんとか五体満足で戦いを切り抜けた裁場は、急いで逃亡先の世界を特定し、そこに赴いたが――すべてが手遅れだった。
「なんてことだ……」
裁場が目にしたのは、地獄だった。
街は焼かれて灰と瓦礫になり、人は粘土のように混ざり合った歪な存在となり果て、どこもかしこも血の匂いばかり。そこに生命は皆無だった。どこまでも広がる屍の海が、視界一面に横たわっていた。
それでも裁場は、生存者を探さずにはいられなかった。
「君……名前は……?」
「…………」
その少年こそが、無束灰司。
裁場は、少年の身体を抱きしめながら涙を流した。その涙は頬を伝い、嗚咽を吐き出し続ける裁場の口へと入ってゆく。
一人だけでも助けられたことへの喜びと無力な自分への怒りがごちゃまぜになった涙は、吐き気がするような味だった。
数日後、AMOREの局長への事後報告の際のことだった。
局長が、こんな事を言い出した。
「ああそうだ、先日君が助けた少年だが……」
「?」
「本人の希望でAMOREに入隊することになったよ。復讐のためにすべてを投げうつ覚悟を決めているとのことだ。あんなに若いというのに……大したものだ」
その言葉に、裁場は絶句した。
折角助かったというのに、何故わざわざ再び地獄につきおとすような真似をするのだ?そんな真似が許されるはずがない。義憤に駆られて思わず司令官に掴みかかろうとする裁場だったが、司令官はそんな裁場の心境を理解していたようで、すかさず補足説明をいれる。
「仕事の過酷さも危険性もすべて話したうえで、彼は了承した。本人が強く望んでいるとあれば、それを止める資格はない……私はそう思っている」
「そういう問題じゃ……!」
裁場がそう言いかけた時、部屋の自動ドアが開く音がした。裁場が振り返ると、そこには、先日助けた少年――灰司が立っていた。
「君……AMOREに入ったというのは本当なのか⁉ 」
「ああ。俺はあいつに復讐をする。そのために入った」
「何故だ……折角助かったというのに……何故君は……!」
「家族も友人も、帰る場所も……俺にはないんだよ……俺にはもう、
少年は、裁場に掴みかかりながらそう叫んだ。
司令官が少年をなんとか裁場から引きはがし、彼を落ち着かせようとする。裁場は放心状態で、その場に突っ立っていた。それしかできなかった。
「…………辞めます」
気づけば、そう呟いていた。
もう、耐えられなくなった。
死に向かう命を見ることが、怖くなった。
「…………」
突発的にAMOREを退職した当初は、死のうかと思ったが、すぐに自分にその資格がないことに気づいた。死にぞこないの自分が自死を選んではいけないのだ。それでは、死んでいった者達に示しがつかない。
でも、どうすればいいのだ?
答えは出ない。
虚ろな目をして、真っ暗な自室の中で天井を見上げて呆けていた裁場だったが、そこに、運命がやってきた。
「おやおや……折角選ばれたというのに、随分と暗い顔してるね」
するはずの無い、自分以外の人の声。
顔をあげると、こちらを覗き込む
「仮面ライダー……だろ?俺にやれというのか?」
これまで戦ってきた転生者の中には仮面ライダーも大勢いたので、転生者で無い裁場でも知っている。裁場が出会ってきたその全てが、ヒーローの仮面を被った人でなしであったが、目の前の人物は、自分にそれと同類になれとでも言うつもりなのだろうか?だとしたら笑う他ないだろう。
自然と、裁場の口から笑い声が漏れていた。フィフティはそんな裁場の姿もお構いなしに話を続ける。
「知ってるなら話は早い。君は世界を救える力を持ったんだ。救世主になる気はあるかな?できればあって欲しいものなのだけど……」
「今更……そんなものになれるはずがないだろ……」
絞り出すように、裁場はそう言った。
目の前の命ひとつ救えずにのうのうと生き延び続けている死にぞこないに、救世主なんて大役がつとまるはずがない。というか、その資格すらない。
裁場が黙り込んでいると、フィフティが口を開いた。
「自分に嘘をつくなよ。君の本音はどうなんだい?」
「……」
「君の経歴は此方で既に調べてある。君は、他人が犠牲になるのを認められなくて、それでも犠牲をなくせない自分が嫌なんだろう?ならば、君ひとりで全部救えば問題ないじゃないか。そしたら、傷つくのも犠牲になるのも君ひとりだけ。それがお望みなんだろ?この力があれば、それを為し得るだろうさ」
「…………」
「さ、どうする?」
フィフティに差し出されたバックルを見つめながら、裁場は考えた。自分にもっと力があれば、他の誰かが戦う必要がなくなる。そうすれば、他の人は傷つかない。それを何よりも望んでいたのは、自分ではないのか?
そう理解してしまえば最後、裁場はフィフティの言っていることに頷くほかなかった。
どうやら、この心の中に宿っていた正義感は、思った以上に強いものだったらしい。死という選択肢を選ばせない程に。がっしりと、呪いのように心身を縛り付けていた。ならば、全てを救って見せよう。この命が果てるまで、救い続けて見せよう。それが、裁場誠一という人間に課せられた
裁場は、フィフティから差し出されたクロスドライバーとライドアーツを手に取る。
「…………選ばれてやるよ。死にぞこないらしく、全てを救済し続けよう」
――こうして裁場誠一は仮面ライダーユナイトとなった。
同時に、武偵高校の卒業生だった彼は、それを生かして私立武偵としての活動も行うようになったという。
現在
夜の街の喧騒を突き破るかのように、裁場は全力疾走していた。
逢瀬瞬や無束灰司を戦わせるわけにはいかない。すべて自分ひとりで片付けなければならない。その一心で裁場は走る。目的地はひとつ、プラネットプラザ。この街にある商業施設にして、AMORE側から提示された取引現場。
ボマーオリジオン――赤浦健一も、恐らくだがそこにやってくるはず。AMOREもギフトメイカーも、すべて自分だけが戦えば済む。すべてを自分ひとりで解決すればそれでいい。誰も傷つかないのだから。そう思いながら歩道橋を駆け上がる裁場だったが、その中間地点に、立ちふさがる人物がいた。
その人物は、まるで子供を諭す直前の教師の様な顔をしながら、ため息交じりに声をかける。
「大人気ないねえ、裁場くん?」
「フィフティ……」
裁場は、忌々しそうにその名を口にする。どうやら彼もまた、フィフティと面識があるらしい。
歩道橋のど真ん中に立ちふさがっていたフィフティは、金属製と思わしき、よくわからない装飾の施された杖をつきながら、裁場の方へと歩いてくる。そして、裁場を憐みのこもった笑みを浮かべながら、まるで休日に街中でいじめられっ子に出くわしたいじめっ子のように、馴れ馴れしく声をかけてくる。
「全く変わらないなぁ。悪い意味で、だけど」
「しばらく顔を見せないと思ったが……何故、逢瀬を選んだ?」
裁場はそんなフィフティの言動に眉一つ動かすことなく、低い声でそう問いかける。
フィフティは裁場が何故怒っているのかを察したようだが、あくまでも自分が悪いことをしているとは思っていないようで、無責任にも肩をすくめながらへらへらと笑う。
その態度が裁場の怒りに火をつけた。裁場は目にもとまらぬ速さでフィフティの胸倉をつかみ上げると、歩道橋の手すりに彼の身体を押し付ける。歩道橋から上半身を乗り出す形になったフィフティは、背中の下を走る車たちに臆することなく、笑みを崩さずに裁場の問いかけに答える。
「選ばれたものはしょうがない。いや、クロスドライバーの出自を考慮すれば、あれは必然だったのかもしれないね」
「そんなことはどうでもいい。どういうつもりなんだ⁉ なぜ彼みたいな子供が仮面ライダーになったんだ⁉ 」
「何が不満なんだい?逢瀬くんのポテンシャルはなかなかのものだ……きっと君と肩を並べられるだろうに……いや、もしかしたら君をしのぐかもしれないよ?頼もしいと思わないかな?」
「そういう問題じゃない!こんな戦いに身を投じるのは俺の様な大人だけでいいはずだろう……何故、何故逢瀬瞬を――」
フィフティの胸倉をつかみながら裁場がそこまで言いかけた瞬間、フィフティが大声を上げて笑い出した。それに驚いた裁場は思わず、フィフティの胸倉を掴んでいた手を緩めてしまう。その隙をついて、フィフティは身体をよじって裁場の手を振り払うと、持っていた杖の柄先で裁場の腹を軽く小突きながら、裁場から距離を取る。
その間、フィフティはずっと笑っていた。まるで裁場の言動のすべてを馬鹿にするかのように。そして、杖の先端で1回だけ歩道橋の橋桁を強く叩くと、馬鹿でかい溜息をつきながら、心底呆れたようにこう言った。
「笑わずにはいられないよ……裁場誠一、君の傲慢っぷりにはね!」
「傲慢だと……?」
「ああ、先ほどのAMOREの声明とタメを張れるレベルでの傲慢っぷりさ!おまけにそれに無自覚とはつくづく救いようがない……君とさっきのAMOREのお偉いさんの言ってることの、どこがどう違うというんだい?」
「…………何が言いたい?」
裁場のその言葉を、フィフティは鼻で笑う。
君の馬鹿さ加減には心底うんざりだよ、とでも言うかのように。
「逢瀬くんや灰司くんを戦わせたくないというエゴを押し通し、彼らの意見意思には耳を貸さない。他人の意思を尊重することなく、己の信念のためにそれを否定する。その一点においては同じ穴の狢だよ。それでヒーローを気取るようならば……クロスドライバーを没収することも吝かではないのだがね」
フィフティは手に持っていた杖の先端を裁場の喉元に突き立てながら、釘を刺すように言う。酷く冷たい声だった。
そう。裁場の、瞬や灰司に対する言動は、本人達の意思を認めていないものだ。真っ当な大人としての責任感から来る正しいものであると同時に、どこまでも独りよがりでしかない意見だ。本気で彼らを戦いから遠ざけたいと思うのならば、彼らの意見もよく聞くべきだったのだ。だが、裁場はそれが不十分だった。そうなってしまった理由はただ一つ。
「私はね、君が望んだから力を授けたんだ。君の贖罪意識に共感したわけじゃあない。君の自責の念に他人を巻き込むな。私はそんなくだらないもののために君を仮面ライダーに選んだのではない」
「…………」
そう告げるとフィフティは杖を下ろし、裁場に背を向けて歩き出す。
裁場はただ静かに、歩道橋の下の道路を見下ろしていた。その脳裏に浮かぶは、死んでいった同僚たちの顔。AMOREエージェントとして最前線で転生者達と戦ってきた中で積み重なってきた、自責の念。目の前で命を散らしていった年下の同僚達と、屍の山で落胆する少年の顔が、どうしても離れないのだ。
死にゆく命を減らしたいという願いと、戦ってでも成し遂げたい思い。曲げるべきなのは、どちらなのだろうか。おそらく、どちらも尊いもので、天秤にかけることも烏滸がましいのかもしれない。だが、裁場はその価値を図ることを辞めるわけにはいかなかった。
「…………どっちにしろ、やることは変わらないさ」
そう呟き、裁場は顔を上げた。
まずは現実の問題を片付ける。それは一種の逃避なのかもしれないが、間違いなく、裁場がしなければいけないことなのだ。
「傷つくのは俺だけでいい。それが俺の正義だ」
裁場は、自らに言い聞かせるように、そう呟いた。
PM23:44 プラネットプラザ2階
御手洗倫吾が目覚めて最初に感じたのは、床の冷たさだった。
ひんやりとしたタイル張りの床は、朧げになっていた意識を確固たるもののするには充分すぎるものだった。起き上がってあたりを見渡すと、兎に角暗い。服を着たマネキンが陳列されていたり、商品棚に積まれた玩具のパッケージがあったりするところを見るに、どうやらデパートかなんかだろうか。それもとっくに営業時間の過ぎ去った。
子供の頃に、誰もいない無人のデパートで好き放題する妄想を一度はしたことがあるだろう。シチュエーションは確かに叶っているのだが、それ以上に暗く静まり返ったこの空間への恐怖の方が勝っていた。好奇心なんて刺激されるわけがない。
「ここは、一体……」
手探りで暗闇の中を歩くうちに、倫吾は、少しずつ暗闇に慣れてきた。少し歩いてみると、壁に行き着いた。どうやら自分が今いるのは、デパートの中でもかなり端っこの方らしい。ここからは、壁をつたって歩いてゆくことにした。手探りで進むならば、その方が安全だからだ。
「嘘っすよね……皆があんなことするはずないっすよね……」
気を失う前に見たあの光景。眠らされた湖森とトモリの姿と、それを平然と見つめている同僚たちの姿がフラッシュバックする。たった数分前まで和気藹々としていたはずなのに、どうしてあんなことができようか。あれらを思い出すたびに、吐き気がこみあげてくる。
あれはきっと悪い夢だったんだ。そう思いたかったが、そしたら今の状況が説明つかなくなる。今自分が置かれている状況が、否が応でもあれが夢なんかじゃなかったことを思い知らせてくる。
その時だった。
「…………?」
ガサゴソと、近くで音がする。
こんな真っ暗闇の中で、誰が何をしているというのだろうか?倫吾はビビりながらも、AMORE隊員としての意地を頼りに音源に向かって手探りで歩いてゆく。自らが、怖さを打ち消せるほどの行動力を持ち合わせていることに、この瞬間だけは嫌悪した。
少し歩くと、暗闇の中で揺らめく光源らしきものが見えてきた。警備員が懐中電灯でも持って巡回しているのだろうか。
倫吾は念のため、商品棚の影に隠れながら様子を伺う。懐中電灯を持った人影が、吹き抜け脇の通路を歩いている。その姿は、人影自身が手に持った懐中電灯で明るく照らされている。あの嫌でも目立つ痛々しい魔法少女コスの女性を、倫吾は知っている。寧理だ。
知った顔に思わず安堵し、倫吾は物陰から這い出て背後から彼女に声をかける。
「ね、寧理……こんなところで何を……?」
「あら倫吾、ようやく目が覚めたのね」
振り返った彼女は、いつも通りに受けごたえする。しかし、倫吾はあることに気づいた。
寧理が振り返った際、彼女が手に持っていた懐中電灯によって、ほんのわずかな間だけ照らされた吹き抜け。そこに、何かがあったように見えた。しかし、暗闇になれたとはいえ、辺りは暗いので光源なしではよく見えない。
気のせいだろうかと考えていると、寧理の背後からもうひとつの影が現れる。懐中電灯の光に照らされたその人物もまた、倫吾のよく知る顔であった。
「終わったぞ」
「巻密……終わったって、何やってたんすか?一応チームメイトなんだし教えてくれてもいいじゃないっすか」
「見ればわかる――ほら」
巻密がそう言って吹き抜けの方を指さすと同時に、暗闇に包まれていたデパート内の照明が一斉に点灯する。眩しい光に思わず目を瞑ってしいそうになる倫吾だったが、彼の目に飛び込んできたのは光だけではなかった。
「え……?」
その光景は、倫吾の声を奪うには充分なものだった。
倫吾の目に映っていたのは、吹き抜けから吊るされた2人の女性――湖森とトモリの姿だった。
3階通路の手すりと天井から伸びる縄で吊るし上げられた彼女たちは、眠ったまま微動だにしない。ゆっくりと吹き抜けの下の方に視線を向けると、1階の通路から此方を凝視する殊宮と古峰の姿がそこにはあった。高さにして10数メートル。あの高さから落ちたら、よくて大怪我、最悪死亡するだろう。一般人であるはずの彼女たちがそんな状態に置かれていること自体がおかしいのだ。
「なに、やってんすか……?」
「仕事よ」
やっとのことで絞り出したその言葉に、寧理は冷たく、端的にそう言い放った。
これが、仕事?
たった数時間前に出会ったばかりの人間を文字通り吊るし上げる仕事とはなんだ?AMOREの仕事内容を思い返してみても、こんなことをする必要性がまるで分らない。なんでこうなっているのだ?そして、なんで寧理も巻密もこんなに平然としているのだ?倫吾は、彼らがこんなことをするような奴ではないということはよく知っている。
状況が読み込めずに混乱している倫吾の様子を見て、巻密は、なんで驚いているのかわからないとでも言うかのように、不思議そうな顔をする。
「何驚いてるんだ?たった数時間前に出会った人間に対して、随分と入れ込んでいるじゃないか」
「いやおかしいっすよ!会ったばかりの人間にこんな仕打ちをする方がおかしいじゃないっすか⁉ 」
「それは彼女達が人質だからだよ」
動揺する倫吾に、更なる声がぶつけられる。
「え、なんであんたが此処に……?」
商品棚の影から姿を現したのは、白い制服を身に纏った壮年の男性――倫吾達の直属の上司だった。
普通、上の役職の者は滅多に前線に赴かない。いつも本部に引きこもっては、倫吾達のようなフィールドエージェントに通信越しなどで命令するような感じなのだが、どういうわけか、こうして前線に出てきている。
いや、彼がなぜここにいるのかなんてどうでもいい。
問題は発言内容。人質と、そう言ったのだ。一体何に対する人質なのかはわからないが、少なくとも彼女たちがこのような扱いを受けていいとは、倫吾には到底思えなかった。立場の違いを忘れ、思わず上司に掴みかかろうとするが、その瞬間、倫吾の頬に鈍い痛みが走るとともに、彼の身体は横に吹っ飛ばされる。
ガシャンと大きな音を立て、玩具の箱がうず高く積み上げられていたワゴンを押し倒すような形で尻餅をつく倫吾。彼が顔を上げると、そこには、上司を守るように立ちはだかる巻密の姿があった。いきなり自分を殴りつけた同僚のその目は、人形のように無感情だった。その様子を見て、倫吾は彼らはまともじゃないと判断する。
「どういう……ことなんすか……」
「ああ、君は聞いていなかったのか」
「だ、だっておかしいじゃないですか……こんなの正義の味方がすることじゃあないっすよ……?俺は、純粋に平和を守りたくてAMOREに入ったんすよ⁉ 」
「我々は正義の為に戦うのではない。秩序の為に戦うのだよ」
上司がそう言うと、いつの間にか下の階にいたはずの殊宮と古峰までもが、倫吾の前に立っていた。
そして、彼らは一斉にぞっとするような冷たい笑みを溢しながら――本性をあらわにした。
《KAKUSEI THE・HAND》
《KAKUSEI INKLING》
《KAKUSEI CHAOS SOLDIER》
《KAKUSEI TEXIRO・FINALE》
「あ、ああああ……!」
倫吾の目の前で、同僚達がオリジオンに変化していく。
巻密は両手が肥大化した怪人に、寧理は全身が黄色いリボンでぐるぐる巻きにされ、マスケット銃を両手に持った怪人に、古峰は全身から泥のようなものを垂れ流すイカのような怪人に、殊宮は黒いボロボロの甲冑を身に纏った怪人に、それぞれ姿を変えていた。
オリジオンと化した巻密達の背後で、上司が笑っている。どうして彼が笑っていられるのか、倫吾には理解できなかった。これは明らかな離反行為。トップが知ればよくて懲戒解雇からの牢獄送り、最悪抹殺されるほどの重罪だ。
尻餅をついたままその場から動けないでいる倫吾を、上司は嘲笑う。
「長官のお花畑っぷりには心底うんざりさせられるよ。世界を守るためには泥水を啜る覚悟がなくてはならんというのにな……不穏分子は極限まで排除するのみ、だ。アクロスもイスタも回収し、我々が管理する。それでこそ秩序は守られるのだよ!」
「そんなの秩序でもなんでもない……ただの支配だ……!俺はこんなことをするために組織に入ったんじゃない!世界を守るためにAMOREに入ったんだ!」
「おいお前ら、有事に備えてデモンストレーションでもやったらどうだ?丁度ここに的がいるようだしな」
上司がそう投げかけると、オリジオン達が一斉に倫吾の方を向く。
瞬間、倫吾ひとりに幾人分ものの殺気が浴びせられる。それは、命の危機を知らせるには充分すぎた。
それでも、倫吾は呼び掛けずにはいられなかった。
「皆、目を覚まs」
――バシュン。
倫吾が何か言おうとした直後、殊宮が変じたオリジオンが、手に持っていた剣で容赦なく倫吾を斬りつけた。
AM0:00 公園
公園にて、瞬達は合流した。ついでに遊矢とか
瞬から事情を聴かされたアラタは、腕を組んで悩む。
「少し目を離した隙にそんなことになってるなんてな……」
「また蚊帳の外⁉ 私を放置しないでよ!」
またまた自分のあずかり知らぬところで事態が進展していることに対して、唯は不満たらたらだった。そんな彼女に瞬はぽかぽかと殴られながら、なんか言動がネプテューヌまんまなんだよなあ、と留守番中の自称女神の顔を思い出してげんなりしながら、話を進める。
「……と言った具合に、思った以上にややこしいことになっている」
「ボマーはイスタって子を狙ってるんだろ?ならボマーも確実にそこに来るんじゃないのか?」
「うん。あの執着具合からすると、絶対来るよ。おかあさんもそう言ってる」
「ならAMORE・イスタ・ボマーのいずれかを追うにしろ、どの道目的地は同じになるんじゃないかしら?」
アラタの発言に、律刃と大鳳が同意する。確かに、現状は全ての陣営がイスタを手中に収めんとして動いている。キンジや野獣はボマー、レイはイスタといった具合に各々で目的は違うが、そのどのゴールを目指す過程でも、ぶつかる障害は変わらない。
「ともかく事態は一刻を争う。俺はこれから湖森と(ついでにトモリも)助けに行く」
「じゃあ相手の要求を呑むの?」
「それは……」
大鳳の問いに、瞬は答えられなかった。
クロスドライバーを差し出せば、湖森達はかえってくる。瞬としては、当然のことだが妹である湖森の安全が最優先だ。どんな代償を払ってでも彼女を取るだろう。それでいい――
(――それでいいのか?)
――とは思えない。
AMOREに攫われたアンドロイドの少女・イスタ。要求を呑もうが拒もうが、どの道彼女を見捨てることになる。湖森達が戻ってきました、で済ませていいのか?それで本当にハッピーエンドなのか?
瞬が悩んでいると、それを察したレイが縋り付いてきた。
「まさかお前、イスタを見捨てるとか言うんじゃないだろうな……?」
「っ!! そんなつもりは……」
「頼むよ……あいつを取り返してくれ!あいつを……渡したくない……頼む……」
「…………」
こちらに泣きつくレイの姿を見て、瞬ははっとした。
見ず知らずのアンドロイドを差し出すことはできない。身近な人のためにほぼ初対面の他人を犠牲にするような、狭量な人間にはなれない。それをしてしまえば、切り捨てた瞬自身も、それを知った湖森達も苦しむ。何より、仮にもヒーローを名乗る人間が命の選別をしてはいけないのだ。ヒーローは救う命を選ぶ資格のない存在なのだから。
同時に、瞬の脳裏に裁場の言葉がよぎる。
“――むやみやたらに危険に突っ込んでいくのがヒーローとでも思っているのか⁉”
戦ってほしくないという彼の気持ちも分かる。それは良識ある大人がもつ、ごく一般的な感情だ。できることなら瞬もそうしたいと思っているが、どうしてもそれができない。すべてを裁場に押し付けて自分たちは安全圏で結果待ち、というのを果たして許容できるだろうか?
瞬が考えこんでいると、剣崎が問いかけてきた。
「どうするんだ?」
言われるまでもなかった。
そんなの、はじめから決まっている。
「助けるに決まってんだろ……湖森達も、イスタって子も助ける。クロスドライバーだって渡さない。ひとつだって取りこぼしはしない!」
悩む必要は無かった。
これまでと変わらない。誰かが助けを求めていて、自分にはそうできるだけの力がある。おそらくだが、仮面ライダーとして戦っているうちに、そうせずにはいられなくなっていたのだ。
ギフトメイカーや転生者が、多くの人を傷つけていることを知ってしまったから。被害者の存在を知ってしまった以上、それに手を伸ばすことを辞めて日の当たる場所でのうのうと生き続けることはできないし、きっと耐えられない。
その考えに至ったのは、瞬だけではなかった。
「私も納得できない。ガツンとカチコミ入れて、思いきり言ってやろうじゃん! “お前は間違っている”ってさ!」
「同意見だ。弱きを助け強きを挫く……それが私の騎士道だ」
唯とセラは、そう言いながら強く頷いた。
否、彼女達だけではない。
「助けたいんだろ?ならその気持ちに嘘をつくべきじゃない。俺も力を貸す」
「思った以上に大事になったけど……これも何かの縁だ。俺達も手伝う」
「勝手に決めるなっ……まあアタシもあの……オリジオンだっけ?一発風穴開けてやりたいと思ってたのよね」
「なんかよくわかんねーけど、俺を殺しかけやがったうえに無視とかバッチェ頭に来ますよ!絶対文句言ってやる!連れてけよ~頼むよ~」
「瞬には前に助けられたからな。俺もできる限り力を貸す!」
『ここで帰るのは気分が悪い……乗り掛かった舟だ、私も最後まで付き合おう』
剣崎もキンジもアリアも野獣も遊矢もセルティも、同じ気持ちだった。ここで降りることを望む者は誰一人としていなかった。
ある者は正義感。ある者は事態の片棒を担いだ責任。ある者は恩返し。ある者は憤り。目的も感情も今一つ纏まらないが、行き先は同じだった。
「行こう。全てを終わらせに」
一斉に、足を踏み出す。
この乱痴気騒ぎの終幕は、近い。
ねちねちフィフティ再びです。
他人の気持ちを考えられてはいないという点では、裁場もそうなんだということを指摘するためのシーンでした。善意のぶつかり合いの決着は、もう少し先になります。
これで導入はおわり。
ようやく後半戦。ここから再びバトルの連続です。
できれば年内に1章完結まで行きたいなあ。
次回 AM1:23/破滅を誘うサーキット