【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

31 / 57
池袋編その8……だったと思います。

前回のあらすじ
・皆集まって!総力戦だよ!


…………がんばります!


第31話 AM1:23/破滅を誘うサーキット

 

 AM1:00 プラネットプラザ付近

 

 夜の池袋の街を、なんか変な集団がぞろぞろと歩いていた。

 

「なんか、すっごい大所帯だよね……」

「今更何も言うまい」

 

 志村のつぶやきに、セラがそっけなく返す。

 彼の言うとおり、瞬達はかなり大勢で行動している。仮面ライダーに決闘者(デュエリスト)にホモ、首無しライダーに武偵に騎士に小学生と、かなりバラエティ豊かな面子が集まっている。おまけに、そのうちの半分くらいは、もともと別の事件を追っていた部外者と来た。

 なんで全員で律義にAMOREの元へと向かっているのかという疑問は当然わいてくる。最後尾を歩いていた大鳳が、「なんで君達同行しているの」組筆頭であるキンジとアリアに問いかける。元々彼らはボマーオリジオンの事件を追っていたところを、アラタ達が無理矢理巻き込んだ形となっているからだ。

 

「……わざわざあなたたちまでついてくる必要は無かったのに」

「武偵が依頼を投げ出すのは許されない。それに、イスタを狙っている以上、関係者は全員ここにあつまってくるはずだ。あの場からいなくなった奴を含めて、全員がな」

「キンジ、その言葉に嘘はないのよね?もし嘘だったら風穴開くけどいい?」

「安心しろよ武偵の坊主……赤浦は絶対来る」

 

 イスタを追えば必ずボマー――赤浦に行き着くと思っているキンジと、半信半疑なアリア。しかし、レイはキンジの考えに強く同意している。ボマーをよく知るレイが言うのだから、きっとそうなのだろう。

 

「それにしても、首無しライダーの噂がホントだったなんて驚きですねー」

『……驚かないんだな、君達は』

「まあ色々と化け物を見てきたと言いますか……慣れ、なのかな」

『その遠い目、なんか凄く不安になるからやめてもらっていいか?』

「で、だ。直接戦闘は俺と瞬、セラが担当するとしてだな……」

「わたしたちもやるー!」

『君の実力を過小評価しているわけじゃないんだけど、それはちょっとできないな』

「流石に小学生に戦わせるのは大人として感じ悪いというか……」

「三浦さん、なんか腹減んないすか?」

「腹減ったなあ」

「ですよねえ」

「数分前まで自分をコケにされていたことに怒ってた人とは思えない会話だなあ……」

 

 瞬の後方では、セルティの存在に興味津々のハルだったり、冷静に戦力分析をしている剣崎だったり、空気を読まずに腹減ったと言い出すホモ2匹だったりと、なんだかわちゃわちゃした会話が繰り広げられていた。これから喧嘩売りに行くとは思えない雰囲気である。

 それをちらりと見ながら、出発前のあの真剣な顔はなんだったんだと愚痴をこぼす瞬。

 

「あれ、おにいさんそれ……」

「え?」

 

 瞬の腰に巻かれたクロスドライバー――正確には、その側面にぶら下がっているライドアーツ用のホルダーを指差している。このホルダーは、某猫型ロボットのポケットのように異次元空間となっており、際限なくライドアーツを入れられるようになっている。ベルトを巻いていない時は、ベルト部分共々バックルに格納されている。

 瞬が何か言おうとする前に、律刃はライドアーツホルダーに手を突っ込んだ。慌てて瞬が彼女の手を引っこ抜こうとするが、それよりも早く、律刃はとあるものを引っ掴んでいた。

 それは、最初にボマーオリジオンと遭遇したビルで拾った彫刻刀だった。クロスドライバーのベルト部分にぶら下がっていたライドアーツホルダーに一緒に突っ込んでいたので、ベルトを外す際にそのままホルダーごと収納されてしまっていたのだ。

 

「…………お前のだったのか?」

「うん。爆弾魔追ってるときに落としたみたい」

 

 なんでそんな危ないもん持ち歩いているのかとか、なんであんな危ない場所にいたんだとか、色々と言いたかったのだが、瞬の内心を察した律刃はとてててと走り去り、アラタの背後に隠れてしまう。

 そうこうしているうちに、瞬達は、AMORE側から取引現場として指定されたショッピングモール・プラネットプラザに到着していた。

 既に営業時間を過ぎたショッピングモールは、不気味に沈黙を保っている。流石に都心と言えど、この時間帯に外を出歩いている人は少ないので、それが不気味さに拍車をかけている。

 時刻は深夜1時ジャスト。取引時刻まで1時間を切ろうとしているが、そもそもはじめから決裂するどころか、成立しえない取引だ。期限は目安でしかない。それはきっと向こうも同じだ。あんな取引なんて、最初から何の意味もなしてはいないのだ。

 

「ここなんだよな?」

「地図上ではここなんだけど……」

 

 スマホの地図アプリを見ながらアラタの問いに答える唯。

 その時、

 

「おっと、ここから先は通さないぜ?」

「誰だお前は⁉ 」

 

 なんともシチュエーションにピッタリな台詞が飛び込んできやがった。

 瞬の声に答えるように、街路樹の影から、学ランのような格好をした長髪の青年が姿を現す。その左腕には、遊矢や柚子のモノと同じ機種のデュエルディスクが装着されている。

 

「俺はサキュラス、決闘者(デュエリスト)だ。ギフトメイカーの命を受けて貴様らの邪魔をしに来た……さあ決闘(デュエル)だ!」

 

 そう言うと、サキュラスは左腕に装着したデュエルディスクを、瞬達に見せつけるように突き出す。それと同時に、リアルソリッドビジョンのカードプレートが出現する。相手はやる気満々だ。

 しかし、この場にいる決闘者は遊矢と柚子のみ。

 ここは自分がいくしかないと腹をくくり、遊矢がズボンのポケットからデュエルディスクを取り出しながら、皆の前に出ようとする。

 

「丁度いい、一度転生者と直接話がしたいと思っていたところだ」

「は?」

 

 しかし、その申し出を受けたのは、遊矢でも柚子でも、瞬でもなかった。

 その声は、瞬達のはるか後方からしていた。

 振り返るとそこには、いつの間にか1台の黒いリムジンが停車していた。そして、リムジンの後部座席の扉が開かれ、そこから一人の男が姿を現す。

 その人物の姿を見て、瞬も遊矢も、そしてサキュラスも驚愕した。なぜならその人物は、この状況で出てくるにはあまりにも唐突過ぎる存在だったからだ。おまけに、彼らはその人物のことを知っている。

 サキュラスは忌々しそうに、その人物の名を口にした。

 

「なんでそこでお前が出てくるんだよ……赤馬零児!」

 

 そう。

 赤いフレームの眼鏡をかけ、灰色のタートルネックセーターの上から、針金が入っているのかと思わざるを得ないような形状をした赤いマフラーを首に巻き、スニーカーを素足履きした銀髪の青年。

 彼の名は赤馬零児。

 レオ・コーポレーション社長にして、この次元屈指の実力を誇る決闘者(デュエリスト)。その名と実力は、この世界の決闘者ならば誰もが理解している。それほどまでの強者が、何の前触れもなく表れたことに、この場にいる誰もが驚愕と困惑の表情を浮かべずにはいられなかった。

 零児は、そんな周囲の反応を気にすることなく、ズボンのポケットかた灰色のデュエルディスクを取り出して左腕に巻き付け、腰のデッキホルダーからとりだしたカードデッキをデュエルディスクにセットする。

 すると、セットされたデッキが自動的にシャッフルされるとともに、デュエルディスクの液晶パネルが点灯し、格納されていたEXデッキが展開する。そして最後に、リアルソリッドビジョンでできたカードプレートが生成される。

 ――準備万全であった。

 

「どうした、決闘がお望みなのだろう?」

「けっ……まあいい、ギフトメイカーに送り込まれた決闘者はもう1人いるんだ。他の奴らの相手はそいつに任せることにするさ。貴様ほどの実力者を下せれば、きっとギフトメイカーも俺を認めてオリジオンにしてくれるはずだからな」

 

 ご丁寧な説明台詞を舌打ち交じりに言い切るサキュラス。

 

「零児……どうしてお前が……」

「転生者……君たちの存在については、わが社が独自に調査を進めている。この前はよくも舞網(にわ)で暴れてくれたものだ。君たちが何を考え、何を思い、何を企んでいるのかは知らないが、この前の様な暴挙を繰り返されては敵わない。だからこうして、転生者(きみたち)と話をする機会を待ち望んでいた」

「流石大企業の社長……ぬかりないというか、末恐ろしいというか……」

「念のため榊遊矢に監視をつけていて正解だった。どうやら転生者は余程彼が嫌いらしい……この1週間だけでうようよと釣れたよ」

 

 そう。零児は少し前に舞網で暴れたオッドアイズオリジオン――札道マサルの一件で転生者の存在を認識し、それを危険視し、独自に調査をしていた。

 その結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、遊矢の周囲を監視することで転生者を探し出し、それを捕まえることで調査を進めていたのだ。

 それを知った遊矢は当然反発する。知らない内に転生者を誘う餌にされていたのだから、怒るのも無理はない。

 

「俺を知らない内に餌にしてたってのかよ⁉ 」

「それについては後で詫びよう。ともかく、ここは私が引き受ける。この先に用があるのだろう?早く行きたまえ」

「あ、ああ……任せたぞ!」

 

 色々と訊きたいことがあったが、今は湖森達を助けるのが最優先だ。瞬は何か言いたげな遊矢の手を引っ張りながら、プラネットプラザの入口へと走っていった。

 後には、零児とサキュラス、そしてリムジン内に待機している零児の部下数名が残される。

 両者が思ったことはただ一つ。

 これで邪魔者は消えた。思う存分戦える。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 赤馬零児:LP4000 HAND×5

 サキュラス:LP4000 HAND×5

 


 

 プラネットプラザ1階 中央吹き抜け通路

 

 零児の予期せぬ乱入のおかげで、難なく店舗内に侵入できた瞬達。

 本来ならば既に営業時間は過ぎている為、自動ドアも動かなくなっているはずなのだが、何故か普通に動いていた。恐らくだが、AMORE側が勝手に稼働させているのだろう。

 

「それにしても、閉店後のショッピングモールって不気味だよね……まさしく、沈黙の巨大迷宮って感じかも」

「勝手に戦場にされて、お店の人達はいい迷惑だろうなあ……」

 

 唯と志村が呑気なことを言っているが、その内容自体はまあまあ頷けるものだった。普段ならば大勢の客で賑わっているであろうショッピングモールも、酷く閑散としている。照明やエスカレーターが普通に稼働している分、余計に不気味な印象を抱かせるのだ。

 

「よくわからないけど、助かったんだよな?」

「ああ。零児の実力は折り紙付きだ。あそこはあいつに任せても――」

 

 遊矢がそう言いかけた時だった。

 

「覚悟しろ!AMOREに逆らう不届き者め!」

「うわっ⁉ 」

 

 吹き抜けの上の方から声がしたかと思えば、次の瞬間、瞬達のすぐ目の前で、ガシャン!と大きな音がした。

 一体何事だと瞬が前方を見ると、そこには、ひしゃげたショッピングカートが転がっていた。今の音は、誰かが上階からショッピングカートを投げ捨てた音だったのだ。下手をすれば誰かに当たって視認が出ていたかもしれない。その事実を認識しただけで、瞬の身体は軽く震えあがる。

 

「外したか。まあもとより当たるとは思っていなかったし、これで終わってしまっては味気ないからな」

 

 目の前に設置された、2階へと続くエスカレーターの最上段。そこに、素肌の上に白いコートという、若干寒そうな格好の青年が仁王立ちしていた。青のメッシュの入った、戦闘民族(サイヤ人)ばりに逆立った黒髪と、コートの下から垣間見える、鍛え上げられた筋肉が、彼を只者ではないと暗に告げているような、そんな印象を瞬は受けた。

 青年は、自身の左腕に装着したデュエルディスクを見せつけると、エスカレーターの最上段から1階へと飛び降りた。高さにして20数段。それほどの高さから飛び降りれば、骨の1,2本は軽く折れるはずなのだが、階下へと着地した青年はそんなそぶりをつゆも見せずに、ペタペタと足音を立てながら、瞬達に接近してくる。

 

「オレは恐竜崇(おそれたつたか)。AMOREエージェントと決闘者(デュエリスト)を兼任している」

「今度はAMORE……!」

「ここから先は通さない。オレのリングで全員K.O.してやるよ」

 

 ギフトメイカーの次は、AMORE配下の決闘者(デュエリスト)が現れた。

 もう、さっきのように都合のいい増援はやってこない。ならば、やることはひとつだった。

 

「ここは俺が何とかする」

「遊矢……」

 

 そう言いながら、遊矢が皆の前に立つ。

 決闘者(デュエリスト)の相手ならば、同じ決闘者(デュエリスト)がするのが筋というモノ。それならば、遊矢か柚子がこの役目を引き受けるしかない。それに遊矢は、決闘者(デュエリスト)である共にエンターテイナー。決闘(デュエル)という名の舞台から逃げるような真似はどうしてもできない。

 瞬は何か言いたげだったが、間髪入れず遊矢は彼の背中を押す。

 自分に構わず先に行け。助けたい人がいるんだろう?と諭すように。

 

「妹さん、ちゃんと助けてやれよ?」

「……わかった」

 

 瞬はそう言うと、皆を引き連れて先に進む。竜崇は行かせまいとして、カードを数枚、手裏剣のように投擲するが、投げつけられたそれらは、律刃が彫刻刀で全部バラバラに切り裂いてしまった。その様子を見て、竜崇はわざとらしい溜息をつく。

 後には竜崇と遊矢と、彼を心配して残った柚子の2人が残される。竜崇は自分のデッキをシャッフルしながら、カード手裏剣を外したことについて愚痴をこぼす。

 

「やっぱ実力行使はむいてないのかもなーオレ。肝心な時に限って外すんだよなーこれ」

決闘者(デュエリスト)ならカードで勝負しなさいよ」

「やっぱそうするしかないか……その方が性に合ってるんだろうな」

 

 竜崇はそう言うと、デッキをデュエルディスクにセットし、目を覚ますかのように、自分の両頬を数回叩く。

 そして、遊矢を指差して宣言する。

 

「こいよ榊遊矢!オレが完膚なきまでにぶっ倒してやるぜ!」

「瞬達の邪魔はさせない!お前を倒して、先に進む!」

 

 デュエルディスクを取り出しながら、遊矢も負けじと啖呵を切る。

 

「遊矢がやるなら私も!私だって決闘者なんだから!」

「柊柚子、お前は観客(ギャラリー)だ」

 

 遊矢がやるならと、自身も戦おうとする柚子。

 しかしそんな彼女がが鬱陶しかったのか、竜崇はズボンのポケットから一枚のカードを取り出し、柚子目がけて投げる。

 柚子はそれを難なく避けるが、カードが床に刺さった瞬間、カードから鎖の様なものが跳びだし、柚子の身体を拘束する。

 

「柚子⁉ 」

「安心しろ、決闘(デュエル)が終われば解放してやる。さあ始めようぜ、新時代の決闘(デュエル)を!」

「新時代の決闘(デュエル)……?」

《フィールド魔法発動、"クロス・オーバー"》

 

 遊矢のデュエルディスクが起動し、デュエルデプレートを生成すると同時に、アクションフィールドを生成する。アクションカードと青い半透明の足場が空中にいくつも出現し、周囲は淡い光に包まれる。

 

「「決闘(デュエル)!」」

 遊矢:LP4000 HAND×5

 竜崇:LP4000 HAND×5

 

 また一つ、戦いの火蓋が切られた。

 


 

プラネットプラザ 正面入口前

 

 瞬達を先に行かせる為に、サキュラスを足止めすることとなった零児。

 

「先攻はお前さんにやるよ。かかってきな!」

「ならそうさせてもらおう……私は魔法カード“隣の芝刈り”を発動!自分のデッキ枚数が相手より多い場合、デッキ枚数が相手と同じになるように、デッキの上からカードを墓地に送る!」

「いきなり芝刈りかよ……ふざけやがって」

「私のデッキ枚数は45枚。君は35枚。よってその差……10枚のカードを墓地に送る」

 

 そう言うと零児は、自分のデッキトップからカードを10枚取り出し、それを纏めてデュエルディスクの前面にある墓地に送る。

 それを見て、サキュラスは早くも先攻を譲ったことを後悔し始めていた。転生者である彼は、零児の使用するデッキの特性をよく理解している。零児のデッキは墓地活用が非常に得意。初手で10枚も墓地を肥えさせられた以上、ここから零児の怒涛の展開が始まることは容易に想像がつく。

 だが、サキュラスは焦りながらも、未だに余裕も捨ててはいなかった。

 

(ふっ……いくらお前が強かろうが、お前は既に俺の土俵に入っているんだ!お前の知らない決闘を見せてくれる……!)

 

 それが強がりかどうかは、本人以外にはわからない。だが、大抵の決闘者ならば、口をそろえてこう言うだろう。

 “決闘を続ければわかる”と。

 

「そして、永続魔法“地獄門の契約書”を発動。その効果により、デッキから“DDスワラル・スライム”を手札に加える」

「来るか……!」

「ほう、その顔を見るに、君はどうやら私の戦術を知っているようだ……ならば望み通り、君の期待に応えるとしよう。私は手札の“DDスワラル・スライム”の効果発動!このカードと手札の“DDバフォメット”を素材に融合召喚を行う!黒き翼をもつ異形の神よ、自在に形を変える神秘の渦よ。今一つとなりて新たな王を生み出さん!融合召喚!レベル6、"DDD烈火王テムジン"!」

DDD烈火王テムジン:☆6 ATK2000

 

 零児がそう言うと、零児の手札から青緑のスライムのような生物と、山羊の頭と大きな翼をもつ悪魔が飛び出し、光の渦となって零児の頭上で溶け合い、ひとつとなる。そして、その渦の向こうから、炎の剣と大盾を持った人型のモンスターが現れる。

 だが、これで終わりではない。ここからが零児の操る"DD"の真骨頂だ。

 

「更に私は、墓地の"DDネクロ・スライム"の効果発動し、ネクロ・スライムと墓地の"DDプラウド・オーガ"を除外することで、融合召喚を行う」

「"隣の芝刈り"で落としたカードか……ったく、運がいいな」

「自在に形を変える神秘の渦よ、誇り高き戦鬼と一つとなりて、真の王と生まれ変わらん!融合召喚!レベル7、"DDD神託王ダルク"!」

DDD神託王ダルク:☆7 ATK2800

 

 サキュラスが愚痴をこぼす前で、零児の墓地から髑髏を携えた黒いスライムと、鎧と大鎌を装備した(オーガ)が飛び出し、テムジンの時同様に光の渦に溶け込む様にして消え、そこから、鎧を身に纏った悪魔の女騎士が現れる。

 

「"DDD烈火王テムジン"の効果!自分フィールドに他の“DD”モンスターが特殊召喚された時、墓地から“DD”モンスター1体を特殊召喚する!私は“DDバフォメット”を特殊召喚!」

「GUUUUUU!」

DDバフォメット:☆4 ATK1600

 

 墓地から呼び出されたのは、テムジンの融合素材となったバフォメットだ。地面に空いた穴から勢いよく飛び出したバフォメットは、翼を大きく広げながら着地する。

 

「更に墓地の“DDスワラル・スライム”を除外し効果発動。手札から“DD”モンスター1体を特殊召喚する!現れろ、全てを統べる超越神…… “DDD死偉王ヘル・アーマゲドン”!」

DDD死偉王・ヘルアーマゲドン:☆8 ATK3000

 

 零児の手札から呼び出されたのは、軽く2~3mはありそうな巨大なモンスター。水晶の塊のような形の胴体の上に顔が乗っかているさまは、形容しがたい、異様な威圧感を放っている。これが零児のエースカードであるペンデュラムモンスター、その名もヘル・アーマゲドン。

 

「そして、手札からチューナーモンスター“DDナイト・ハウリング”を通常召喚し、効果発動。ナイト・ハウリングは、召喚成功時に墓地の“DD”1体を攻守を0にして復活させる。私は“隣の芝刈り”の効果で墓地に送られた“DD魔導賢者コペルニクス”を特殊召喚する」

DD魔導賢者コペルニクス:☆4 ATK0

 

 ヘル・アーマゲドンに続いて零児の手札から呼び出されたのは、空間に口と目だけが現出したかのような化け物だった。そいつはフィールドに現れるなり地面に向かって長い舌をのばすと、まるで穴からひっぱりあげるかのように、虚空から謎の機械のようなものを吊り上げる。

 

「私は“DDバフォメット”の効果発動。ナイト・ハウリングのレベルを3から2にする。そして、レベル6のテムジンにレベル2となったナイト・ハウリングをチューニング!その紅に染められし剣を掲げ、英雄たちの屍を越えていけ!シンクロ召喚!生誕せよ!レベル8、"DDD呪血王サイフリート"!」

DDD呪血王サイフリート:☆8 ATK2800

 

 バフォメットのレベル変動効果を使って呼び出されたのは、血に濡れた大剣を担いだ騎士だった。

 

「更に、レベル4のバフォメットとコペルニクスでオーバーレイ!この世の全てを統べるため、今 世界の頂に降臨せよ!エクシーズ召喚!生誕せよ、ランク4!"DDD怒濤王シーザー"!」

DDD怒涛王シーザー:★4 ATK2400

 

 零児がそう言うと、零児の目の前の地面に暗い穴のようなものが出現し、バフォメットとコペルニクスが紫色の光となってその穴に吸い込まれていく。そして、光が爆発するようなエフェクトが現れた後、黒い鎧と大きな金棒を装備したモンスターがフィールドに現れる。

 これがエクシーズ召喚。エクシーズモンスターがレベルの代わりに持つ、『ランク』という数値と同じレベルのモンスターを複数体並べ、それらの上に重ねる形でEXデッキからモンスターを特殊召喚する方法だ。

 融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム。4種のモンスターを先攻1ターン目に並べる展開力の高さと、それを迷いなくスムーズに行える判断力の高さが、DD――ひいては零児の恐ろしさなのだ。転生者であるサキュラスは、前世の知識から知ってはいたが、いざ目の当たりにすると流石に気圧され気味になってしまう。

 

「私はこれでターンエンド」

 

 零児は4体の大型モンスターを立ててターンを終わらせた。

 神託王ダルクには、効果ダメージをライフゲインに変換する効果。シーザーにはバトルフェイズ終了時に、このターンに破壊されたDDを蘇生する効果、サイフリートには魔法・罠の無効効果が備わっている。相手の攻めに対する最低限の対処手段は確立されている……はずだ。

 

「なら俺のターン!」

サキュラス:HAND5→6

 

 張り詰めた空気の中、サキュラスのターンに突入した。

 

「俺は手札から“オルフェゴール・プライム”を発動。手札の“星遺物-『星盾』”を墓地に送り、2枚カードをドローする。」

「星遺物……聞いた事のないカードだな……」

 

 零児が未知のデッキに警戒する中、新たにドローしたカードを見て、サキュラスはニヤリと笑った。

 

「魔法カード"予想GAY"!自分フィールドにモンスターがいない時、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚できる!"星杯に誘われし者"を特殊召喚!」

星杯に誘われし者:☆4 ATK1800

 

 魔法カードの効果により、ボロボロの外套に身を包んだ青年が出現する。零児はサイフリートの効果を使わなかった。使うタイミングを計っているのだ。

 しかしその時、ふいにサキュラスが笑い出した。

 

「見てろよ社長さんよお……あんたらの時代遅れの決闘とは違う、俺の新時代の決闘をな!」

「新時代の決闘だと?」

 

 新時代の決闘。それが何を意味するのか、この時の零児には想像がつかなかった。

 しかし、零児はそれをすぐに理解することとなる。

 サキュラスが天を指さすと、サキュラスが召喚した"聖杯に誘われし者"が赤い光となって空へと上がっていく。零児が空を見上げると、そこには、謎の枠の様なものが浮かび上がっており、光はそれに突っ込んでいっている。

 

「現れろ、破滅に誘うサーキット!アローヘッド確認、召喚条件はトークン以外の通常モンスター1体。俺は“星杯に誘われし者”をリンクマーカーにセット。 サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク1、聖杯竜イムドゥーク!」

聖杯竜イムドゥーク:LINK1-(上)ATK800

 

 枠の中から、途轍もない閃光と共に降り注いできたのは、一匹の小型のドラゴンだった。あどけなさの中に凛々しさを同居させるそのモンスターだが、零児はそれには微塵も意識が向いていなかった。

 零児が意識していたのは、もっと別のモノ。

 モンスターという結果ではなく、その召喚法(かてい)

 

「リンク召喚……だと?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 その存在は、零児から冷静さを奪うには充分だった。こんな衝撃は、初めてペンデュラム召喚を目撃した時以来だろうか。

 

「お前まだ気づかないのか?デュエルディスクをよく見ろよ……!」

「何?」

 

 サキュラスに言われるがまま、零児はデュエルディスクに目をやる。

 

「モンスターゾーンが……1つ増えている⁉ 」

 

 カードプレートの形だった。何故か2か所、本来はなかったでっぱりの様なものが存在する。液晶画面で確認すると、右から2番目と4番目のモンスターゾーンの上に、もう一つのモンスターゾーンが存在している。本来モンスターゾーンは5か所のみのはずなのに、だ。

 サキュラスは、零児を指さしながら得意げに言う。

 

「言ったはずだ。ここからは新時代の決闘だとな……さあ、存分に惑うが良い!」

「…………!」

 


 

 プラネットプラザ1F西口

 

 瞬達を先に行かせるべく、竜崇の相手を引き受けた遊矢。

 鎖で縛られた柚子が見守る中、最初のターンが幕を開ける。

 

「先攻は俺が行く!俺は手札から、スケール8の“竜穴の魔術師”とスケール5の“慧眼の魔術師”でペンデュラムスケールをセッティング!」

「…………」

「そして“慧眼の魔術師”のペンデュラム効果発動!もう片方のペンデュラムゾーンに“魔術師”“EM”が存在するとき、自身を破壊することで、デッキから他の“魔術師”をペンデュラムゾーンに置くことができる!俺はデッキからスケール1の“龍脈の魔術師”をセッティング!」

 

 ペンデュラムゾーンに出現した、金と黒の法衣を身に纏った魔術師が瞬時に霧散し、新たに白い法衣を身に纏った赤毛の魔術師がペンデュラムゾーンに出現する。これでペンデュラムスケールは1と8だ。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、俺のモンスター達!EXデッキから“慧眼の魔術師”!手札から“EMセカンドンキー”、“オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”!」

EMセカンドンキー:☆4 DFE2000

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:☆7 ATK2500

慧眼の魔術師:☆4 ATK1500

 

 遊矢がそう宣言すると、天空に浮かび上がった光の輪から、3体のモンスターが出現する。

 1体は先ほどペンデュラムゾーンで破壊された慧眼の魔術師。もう1体はロバの様なモンスター。そして最後の1体は、2色の目を持つ赤いドラゴン――遊矢のエースモンスターであるオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンだ。早速主役のご登壇である。

 

「セカンドンキーのモンスター効果!ペンデュラムゾーンにカードが2枚存在する状態で召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから“EM”モンスター1体を手札に加える!俺は“EMドクロバット・ジョーカー”を手札に加え、通常召喚!」

「ヤハッ!」

EMドクロバット・ジョーカー ☆4 ATK1800

 

「ドクロバット・ジョーカーは、召喚に成功した時、デッキから"EM""オッドアイズ""魔術師"ペンデュラムモンスターの内、1体を手札に加えることができる」

 

 遊矢が手札に加えたのは、特殊召喚時にサーチ効果が使える"EMペンデュラム・マジシャン"。本来なら初手で使いたかったのだが、生憎今の遊矢の手札には、手札のこのカードを特殊召喚するすべがない。なので、ここは

 

「俺はレベル4の"EMドクロバット・ジョーカー"と"慧眼の魔術師"でオーバーレイ!黄金の竜騎士よ、風の秘獣と一つとなりて招来せよ!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!"昇竜剣士マジェスター(パラディン)"!」

 

 ドクロバット・ジョーカーと慧眼の魔術師が紫の光となり、遊矢の目の前に現れた黄金の渦に吸い込まれてゆく、そして、2体が吸い込まれていった光の渦から、ユニコーンに跨り、鎧を身に纏った竜人が飛び出してくる。

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド。そしてこの時、マジェスターPの効果を適用する。エクシーズ召喚したターンのエンドフェイズに、デッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加える」

 

 遊矢はカードを1枚セットするとともに、デッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加える。手札に加えたのは防御用のモンスター。相手がどんなカードを使ってくるかわからない以上、防御用のカードを保持しようとするのは当然の心理だろう。

 

「オレのターン!」

竜崇:HAND×5→6

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、手札から"ダイナレスラー・バーリオニクス"を特殊召喚できる!こい、バーリオニクス!」

「シャアアアアアアッ!」

ダイナレスラー・バーリオニクス:☆3 ATK1600

 

 竜崇の手札から出てきたのは、人型の恐竜の様なモンスターだ。そいつは出てくるなリ、遊矢を威嚇するかのように吠える。

 

「そして、手札から"ダイナレスラー・パンクラトプス"を特殊召喚!こいつは自分フィールドのモンスターの数が相手より少ない場合に、手札から特殊召喚できるのさ!」

ダイナレスラー・パンクラトプス:☆7 ATK2600

 

 続いて出てきたのは、2本の足で直立するトリケラトプスだった。

 

「うわ……すごいむさくるしそう……」

「まだまだ行くぜ?オレは手札から"魂喰いオヴィラプター"を召喚!オヴィラプターは召喚成功時に、デッキから恐竜族を1体手札に加えるか墓地に送ることができる」

 

 竜崇の展開はまだ終わらない。次に出てきたのは、卵泥棒の異名を持つ恐竜・オヴィラプトル。大きな卵を抱えて出てきたそいつは、出てくるなリその卵をかち割ってしまう。そして、割れた卵の中から一枚のカードが飛び出し、竜崇の手札に加わる。

 

「そして、手札に加えた"ダイナレスラー・イグアノドラッカ"の効果!手札から恐竜族1体を墓地に送り、イグアノドラッカを特殊召喚する!」

ダイナレスラー・イグアノドラッカ:☆6 ATK2000

 

 あっという間に、竜崇のフィールドには4体の恐竜が出現してしまった。

 しかし、だ。これだけモンスターを並べて素直に終わるとは、どうしても思えない。きっとまだ何かをしてくるはずだ。遊矢の中に存在する、数多の決闘によって磨かれてきた、決闘者としての勘とでも言うべきものがそう告げている。

 そして、その勘はあっさりと的中する。

 竜崇は、拳を天高くつき上げ、不敵な笑みを浮かべながら、こう豪語した。

 

「見とけよ榊遊矢!これが新時代の決闘だ!」

「新時代の決闘……?何をする気なの?」

「現れろ、勝利の頂に続くサーキット!アローヘッド確認!召喚条件は"ダイナレスラー"モンスター2体!」

 

 竜崇がそう叫ぶと、イグアノドラッカとバーリオニクスが赤い光となって上ってゆく。遊矢が上を見上げると、光の向かう先には、見たこともない形をした、何かの枠の様なものが浮かんでいる。

 

「オレは"ダイナレスラー・イグアノドラッカ"と"ダイナレスラー・バーリオニクス"をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク2!"ダイナレスラー・テラ・パルクリオ"!」

ダイナレスラー・テラ・パルクリオ:LINK2-(左/上)ATK1000

 

 上っていった2本の光が枠にぶつかると同時に、枠の内側から凄まじい閃光が解き放たれる。そのあまりの眩しさに、遊矢は思わず目を逸らす。

 数秒程して光が収まり、遊矢は恐る恐る目を開ける。するとそこには、赤い装甲を身に纏った、鶏冠(トサカ)の様な部位を持つ恐竜が立っていた。

 遊矢は、モンスターの出現に驚いたのではない。驚いたのは、その方法だった。

 なぜなら、それは。

 

「リンク…………召喚…………?」

「え……今、何したのよ……?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 アドバンス、儀式、融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム。遊矢の知る召喚法に、リンク召喚なんてものは存在しなかったし、そんなものを使ったことのある決闘者は、()()()()()のどこにも存在しなかった。しかし、デュエルディスクが違反行為を検知していないということは、この召喚法はルールに則ったものということになるのだろうか。

 わけがわからない。予想外の出来事に戸惑いを隠せない遊矢は、竜崇の方を見る。彼は不敵に笑っていた。その顔を見るに、今の遊矢の反応も織り込み済みということらしい。

 

「カードプレートをよく見ろよ」

「あ……?あ⁉ 」

 

 呆然とする遊矢の様子を鼻で笑いながら、竜崇はそう促す。

 遊矢は困惑しながらも、自身のデュエルディスクから生成されているカードプレートに目をやる。そこには遊矢のモンスター達とペンデュラムスケールが並んでいるだけで、なんら変わったところは――

 

「――いや、なんか変だ!これは一体……?」

「おお、意外に早いんだな」

 

 カードプレートの形が変わっている。直線的なフォルムだったカードプレートに、何故か2か所、本来はなかったでっぱりの様なものが存在する。液晶画面で確認すると、右から2番目と4番目のモンスターゾーンの上に、もう一つのモンスターゾーンが存在している。

 

「オレは親切だからよお、教えてやるよ。それはEXモンスターゾーンだ」

「EXモンスターゾーン…………?」

「そう、リンクモンスターはEXデッキからEXモンスターゾーンに召喚されるモンスター。その恐ろしさは――お前がこれから身を以て味わうことになる」

「リンク召喚……そんな召喚法があったなんて……」

 

 自分の知らない、未知の召喚法。

 何の因果か、かつてペンデュラム召喚という未知の召喚法を生み出した遊矢が、今度はリンク召喚という未知の召喚法に驚かされている。あの時とは、完全に立場が逆転していた。

 

「言ったはずだぜ、新時代の決闘を味わえってな」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、竜崇は言う。

 

「お前は既にオレのリングに上がっちまってるんだよ!さあここからが本番だ!せいぜいお前のお得意のエンタメデュエルとやらで足掻いて見せろよ」

 


 

 プラネットプラザ・地下駐車場

 

 

 月明かりの入らない地下駐車場には、数名のAMOREエージェントが屯していた。

 その全員がうつろな表情をしており、時折言葉にならない呻き声の様なものを上げながら巡回している様は、明らかに異様で、彼らはまともではないというのが、一目瞭然だった。彼らは皆、操り人形と化しているのだ。

 その様子を、バルジ達は静観していた。

 地下駐車場の柱の影に身を潜めながら、彼はほくそ笑んでいる。その後ろには、妙にウキウキとしているリイラと、そんな2人から距離を取っているレドの姿も見える。

 彼らの傍らには、大型トラックが一台。だが、AMOREの連中はそれに気づいていない。なぜなら、バルジの手により、トラックには認識阻害装置が取り付けてある。それを使えば、周囲からは「見えない」と認識させることなど造作でもないのだ。

 

「いくらイスタとアクロスが欲しいからってあそこまでやるか?」

「必死過ぎてキモイよね」

「…………」

 

 イスタ欲しさに部下を操り人形にするAMORE側の所業に引いてるバルジだが、少なくともお前にだけは言われたくないだろう。そう思うレドだった。

 レドは昔から、バルジのこういうところが嫌だと思っていた。レド自身も充分に趣味が悪い方の人種だという自覚はあるのだが、それに他人を巻き込もうとするバルジのスタンスが気に入らなかった。それに、奴は自分以外のすべてを見下しているのが、節々から見て取れる。そんな奴とは一緒にいたくないというのがレドの本音なのだが、向こうは平気な顔をして絡んでくる。

 ――正直に言って、鬱陶しかった。

 これから大勝負だというのに、こんな気分では勝てる戦も勝てなくなる。負ければティーダの叱責(パワハラ)が待っている。撤退しただけでぶち切れるのだから、負けでもしたら殺されかねない。

 

「どうしたのレド、なんで私達から距離取っているのかな?」

「……別行動だ、僕はアクロスを殺しに行く。その方がいいだろう?」

 

 レドが自分達から距離を取っていることに気づいたリイラだが、レドの返答に興味なさそうに返事をする。彼女はいつもこんな感じなのだ。子供のように気まぐれで自分勝手だが、その分単純でわかりやすいし、少なくともレドは彼女のことは嫌いではない。

 

「邪魔すんなよバルジ、お前は転生者狩りで遊んでやがれ」

 

 去り際に、レドはバルジにそう吐き捨てると、非常階段へと続く扉の中に消えていった。

 その様子を見ていたリイラが、心配そうにバルジに訊く。

 

「いいの?あいつを独断専行させて。ティーダに怒られるよ?」

「気にしない気にしない、あんなパワハラ野郎のことなんて気にする価値もないよ。てか何?レドのこと気にかけちゃって……もしかして好きなの?」

「いや、あの子いい玩具になりそうだから、ほっとけないのよね」

「それな!」

 

 リイラの言葉に、バルジは笑顔で同調する。悪人たちの、クソとしか言いようのないやり取りだった。

 その時、ガコンと、トラックのコンテナの内側で音が鳴った。しかし、トラックに積まれた認識阻害装置の効果によって、AMOREの隊員達は気づかない。

 

「さ、レイラちゃんもハンドレッドも暴れてらっしゃいな☆」

 

 バルジがトラックのコンテナを開く。

 コンテナの解放から少し間をおいて、最初に出てきたのは、赤と緑の蛍光色の鎧を身に纏ったオリジオン。背中からは蝋燭のような形状の突起がいくつも確認でき、両の目元あたりから胴体を伝い、足首までジッパーが伸びている。そして、胴体には赤茶けた"100"の文字がでかでかと存在している。

 続いて出てきたのは、変わり果てた姿のレイラだった。今までの軍服とはうって変わり、いつものコートの下には露出度の高いメイド服を着せられている。目はギンギンに充血し、頭は包帯でぐるぐる巻きにされた上に、人の手ほどの大きさの虫のようなものが、彼女の頭に尻尾をぶっ刺している。

 レイラはバルジの方を見ると、挨拶代わりにウインクをする。今までの彼女ならば、絶対にしないであろう仕草だ。

 

「再洗脳の具合はどうかな?」

「大丈夫です!お陰様で、こんなに惨めで無様な操り人形になれました!ご主人様、ありがとうございます!」

 

 媚びるような声をあげながらダブルピースをキメるレイラ。そこには、冷酷に仮面ライダーの命を狙う戦士としての彼女はなかった。どこまでも惨めで、無様な1匹の奴隷の姿だけがあった。そして、それを憐れむことのできる者はこの場にはいないのだ。

 隣では赤と緑の怪物――ハンドレッドオリジオンが、背中の蝋燭のような突起から炎を吹き出しながら、近くに置かれていたカラーコーンをティッシュのように丸めている。そして、興奮気味にカラーコーンの残骸を握りつぶす。

 

「ニンゲン、ヨワイ!ワタシ、ツヨイ!」

「わかりましたご主人様っ☆可哀想な無能操り人形のレイラちゃんにお任せあれ☆」

 

 レイラは両手でハートマークを作りながらそう言うと、コンテナ内に安置されていた2本のモップを手に取り、AMORE隊員達のいる方へと向かっていった。

 トラックに積まれた認識阻害装置の効果範囲外に出たことで、AMORE隊員達はようやくレイラの存在に気づく。

 

「さ、お片付けの時間だぞ♡」

「くそっ……いつの間に……⁉ 」

「燃え燃え急死(キュン)♡」

 

 AMORE隊員のひとりが慌てて腰の拳銃を構えるが、それよりも早く、レイラがモップの柄の先を勢いよくその隊員の首目がけて突き刺した。

 モップは、隊員の首をいとも容易く貫通する。ブジャアアアッ!と、貫かれた首から大量の血が噴き出る。AMORE隊員は、自分のみに何が起きたのかを理解する間もなく、その命を散らした。

 

「コイツ…………っ!」

「ニンゲンダアアアアアアアアアアアアアッ!」

「のぶっ⁉ 」

 

 すぐさま別の隊員が駆け付け、レイラに向かって発砲する。

 しかし、ハンドレッドオリジオンがその間に瞬時に割って入り、腕を軽く一振りする。それだけで、発射されたはずの弾丸はレイラに当たることなく、地面に落ちる。ハンドレッドオリジオンが弾丸を素手で叩きおとしたのだ。

 銃が利かないなら、と、今度は各々の能力に頼った戦法に切り替えるAMORE隊員達。ある者は両手から炎を生み出し、ある者はチーターに変身し、ある者は髪の毛を梁のように尖らせて発射する。

 しかし、

 

「効かないんですよねー☆これくらいでやられちゃあ奴隷失格ですしっ」

「ニンゲン、コロス!」

 

 レイラがモップを一振りするだけで、10人近くいたAMORE隊員達があっけなく吹き飛んだ。

 否、それだけではすまない。至近距離にい3人の隊員については、胴体を真っ二つにぶった切られて即死していた。

 血と内臓をまき散らしながら、地下駐車場の壁に叩きつけられる死体たち。それは、生き残った者たちの怒りに火をつけるのには充分だった。

 

「ああ、品名木(しななぎ)織戸芝(おとしば)御嵩(みたけ)!」

 

 生き残っていた隊員が、殺された仲間たちの名を叫ぶ。洗脳されているといえども、どうやら仲間意識は健在らしい。拳をわなわなと震わせ、雄たけびを上げながら殴りかかる。他の隊員達も同じだ。武器を手に取り、死した仲間の敵討ちの為に駆け出す。

 少年漫画やヒーロー作品ならば、仲間の死をトリガーに感情を爆発させてパワーアップ――という展開が待ち受けているだろう。残虐な悪役に血反吐を吐きながら逆転勝利しましためでたしめでたし、となるのが理想、のはずだ。

 だがしかし。

 いくら感情を爆発させようが、埋めようのない差というモノは存在するのだ。

 

「死んじゃってください雑魚共(ごしゅじんさま)♡」

「ザアコ、ザアコ!ザコニンゲン!ワライトマンナーイ!グヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

 ブワッ!と、ハンドレッドオリジオンの拳とレイラのモップが弧を描く。

 それだけだった。

 

 

 ベキベキベシャベシャボキボキベッコンッ!!!!!!!!! と、盛大な音を立てて、彼女達に突っ込んで来た隊員達が全員即死した。

 

 

 きっと、彼らには走馬灯を見る間すらなかったのだろう。

 それほどまでにあっさりとした最期だった。

 骨が砕かれるとか、身体がちぎれるとかの次元ではなかった。文字通り、攻撃が当たった箇所より上の身体が原型を残さずに吹き飛んだのだ。腰に攻撃を受けた者は腰から上が無くなり、頭に攻撃を受けた者は首が跡形もなく粉砕され、残った身体の部位が、血肉をまき散らしながら慣性の法則に従って前のめりに倒れてゆく。

 可憐なメイド服におびただしい返り血を浴びながらも、レイラは笑みを崩さなかった。

 幾度となく洗脳を施されたことにより、彼女本来の倫理観はおろか、自我すら存在しないに等しい。彼女は心身共にバルジの奴隷になっているのだ。レイラは血塗れのままバルジの元に駆け寄ると、笑顔で彼に抱き着いてきた。

 

「見てくださいましたかご主人様!レイラちゃんのお掃除(さつりくしょー)!もーっと頑張りますので、いっぱいほめてくれたら嬉しいな☆」

「おーよしよしよしよし!よくやった!よくやったぞおお人形(レイラ)ちゃん!やっぱメイドだよなあ!気分転換を兼ねて調整した前の彼女は生意気すぎてクソだったからな、これくらい無様に媚びて食える方が興奮するってもんだぜ!」

「一応ここに女の子いるんだから、すこーし自重してほしいかなあバルジ君?私じゃなかったら即通報案件だからね?」

 

 イチャイチャしている人でなしカップルに、一部始終を見ていたリイラが笑いながら突っ込みを入れる。勿論、彼女も本気ではない。むしろ姉の醜態が見られて満足そうである。

 

「さて、俺らも行こうぜ。こんな雑魚ばっかりじゃあ実験相手にもなりゃしねえ、そうだろ?」

「ウン!」

「そうですね!レイラちゃんの可愛(わる)さをもっともっと知らしめてやるのです☆」

 

 バルジの言葉に元気いっぱいに頷くレイラとハンドレッドオリジオン。

 彼らの前には、死体だらけの地下駐車場が広がっている。その向こうには、ショッピングモールへと通じるエレベーターホールが、自動ドア越しに確認できる。

 

「ま、前座は終わったようだし?私も久々に暴れましょうか」

 

 リイラはそう言うと、大きく伸びをしてから振り返る。

 既にバルジ達はエレベーターホールに向かっている。先ほどまで虐殺行為を働いていたとは思えないその和気藹々っぷりは、見る者が見れば戦慄し、嫌悪するほどのものだった。しかし、リイラは根っからの悪人なのでそんな気持ちは微塵も沸かない。

 彼女の心の中にあるのは、まだ見ぬ惨劇への期待だけ。自分の力でどれほど凄惨な光景を築き上げられるか、その1点だけだ。

 

「それに、あの子たちもここにやってくるようだし、ほんと濡れちゃいそう♡」

 

 そう呟きながら、じゅるりと舌なめずりをする。

 リイラは鼻歌交じりにバルジ達の後についていくのだった。

 


 

 プラネットプラザ2階 中央通路

 

 

 決闘者(デュエリスト)達の相手を遊矢と零児に任せ、瞬はプラネットプラザの2階にやってきていた。

 階下からは、激しい決闘(デュエル)の音が聞こえてくる。瞬達は決闘者(デュエリスト)ではないので遊矢達に助太刀することができないが、勝利を願う気持ちは充分にある。今はそれを念じるしかない。

 止まっているエレベーターを自力で上った先の通路は、フードコートに隣接していた。昼間ならば多くの客で賑わっている空間なのだが、今はがらんとしており、フードコート全体が底知れぬ不気味さを放っているように感じられる。

 

「2階に来たけど……湖森ちゃん達はどこに……?」

「油断するな、ここは敵地のど真ん中だ。」

 

 キンジの言うとおりだ。ここは敵地のど真ん中。いつどこから敵がやってくるかわからない。

 既に瞬達はAMORE側の刺客とギフトメイカー側の刺客の両方と出会っている。ここはギフトメイカーとAMOREと瞬達、三つ巴の戦場となっているのだ。

 周囲を警戒しながら、瞬達はフードコートに入ってゆく。少しでも遮蔽物がある場所の方が安全だろうという考えと、ひょっとしたらここに敵が潜んでいるかもしれないという考えの2つが、その行動の根拠となっている。マッピングして安全地帯を広げるように、慎重に歩を進める。乾いた足音が、フードコート内に響く。

 ふと、先頭を歩いていたセラが唯に問いかけた。

 

「なんだ、さっきから人のことジロジロと見て……流石に私といえど、そこまで見つめられたら気になるんだが」

「う~ん…………」

「唯、こんな時に何考えてんだよ?」

 

 先程から、唯がセラのことをチラチラ見ながら何かを考えているようなのだ。瞬は彼女と長い付き合いであるが、こんな真剣な表情の彼女はあまり見たことがない。

 セラの方も、チラチラ見られていては気になって仕方がない。一体どうしたんだと言うかのように、唯にぐいっと顔を近づける。唯もそれに応じるかのように、セラの顔を覗き込む。

 数分ほどそんな時間が続いた後、唯が口を開いた。

 

「なんか、セラちゃんを見てるとね……他人とは思えないんだよね」

「どんだけ掘り返すんだこの話……そりゃまあ、気にはなるけどさ」

 

 なんとなく予想はついていたが、やはりそこに行き着いた。

 最初にセラやリイラを見た時に感じた妙な既視感。あれはやはり瞬の思い違いではなかったのだろう。

 

「セラだけじゃない。ギフトメイカーのリイラ、アイツを見た時も同じようなものを感じた」

「……だれだっけ?」

「ほら、ビルドオリジオンの時にいた……」

「居たっけ?」

「…………」

 

 唯に聞いたのが間違いだったのかもしれない。そもそもあの時は、彼女の相手をネプテューヌに一任していたから、唯達からすれば印象が薄いのも致し方ないのだ。

 一方セラの方は、リイラの名前に心当たりがあったようだ。

 

「リイラ……ギフトメイカーの事は噂程度に知っているが……そうか、彼女も……」

「気になる?」

「彼女の残虐性はギフトメイカーの中でも指折りと聞く。そんな奴と一緒にされるとは誠に心外だ」

 

 少し怒ったような声でそう言うセラ。瞬は怒っている彼女の顔を見て、そんなに悪名高い存在と自分に共通点を勝手に見出されているのだから当然の反応だろうと思うと同時に、それほどまでにギフトメイカーの悪評は広まっているという事実を再認識する。やはり、彼らを野放しにはできない。

 そこに、ちょっと離れたところで話を聞いていた志村が、恐る恐る声をかけてきた。なぜこんなにビビっているのかというと、たった今セラがリイラの話題で若干怒り気味になったからだろう。

 

「セラ……ちゃん?」

「どうした?」

「さっきからずっと疑問に思ってたんだけどさ……セラちゃんって何者なの?」

 

 志村の発言で、そう言えばそうだったと思い出す瞬と唯。

 瞬達は、何か知らないけど唯達を助けてくれた親切な人程度にしか彼女のことを知らないのだ。彼女と出会ってから、ガンズオリジオンの襲撃やらブレイドとの出会いやらイスタの一件の露見やらで色々とあって訊く機会を逃していた(ほとんど瞬の方からその機会を放棄していた)ので、出会って数時間が経過した今に至っても、瞬達はセラのことをほとんど知らない状態であった。 

 

「私?私はただの騎士だ」

「騎士……何かの比喩……じゃないよな。それにしては全然そうは見えないけど」

「これは隠密行動用の服装だ。ここだと鎧姿は目立つからな」

 

 そういうセラの今の服装は、志村達を助けに入った時の鎧姿ではなく、緑色のロングコートに身を包んでいる。瞬は大鳳拉致事件の際に彼女の鎧姿を見ているので、現代日本じゃあの鎧姿は目立つだろうとうなずく。

 

「じゃあなんでここに来たの?」

「仕えていた主人が行方知れずとなっていてな……探しに……というか迎えに来たんだ」

「セラのご主人様ってどんな人?」

「そうだな……子供っぽくて、我儘で目立ちたがりですぐ仕事をサボるが……正義感があって、人気者で、私の……光なんだ」

 

 そう言ったセラの顔には、微かな笑みが浮かんでいた。それは、その人のことをそれだけ大事に思っていることの、一番の証拠なのだ。

 それに瞬は、セラの人物評に当てはまる人物に心当たりがあった。

 

「なんか唯みたいだな」

「えー?そう?」

「……半分くらい当てはまってないような気がする」

 

 ……どうやらそう思ったのは瞬だけらしい。唯達の何とも言えない反応に耐えられなくなった瞬は、気を紛らすように、再び同じ疑問について思索を始める。

 唯。セラ。リイラ。

 彼女たちに対して瞬が感じるものが、気のせいであってほしいと無性に思う。ここから先はまだ考えるべきではないとでも告げているかのように、そんな思いが胸の内で広がっていく。

 

「多分だけど、何かある。俺達の計り知れない何かがあるんだ」

「私も気になるが……今はそれを考えている場合じゃないだろう。全てを片付けてから考えよう」

「お姉ちゃんもその意見、賛同するから!」

「ちなみに生き別れの姉妹説は無しだからな。絶対に認めん」

「ひっどい!」

 

 なぜか姉貴面してきた唯を冷たくあしらうと、セラは瞬達の元を離れて周囲の警戒に戻る。セラの態度に唯は不満そうだが、ほぼ初対面の人間に姉貴面されて良い気分になる奴は極めて少数派だろう。

 

「おいそこ、イチャついてんじゃあねえ!」

「野獣先輩、遠野さんの乳首いじりながら怒鳴っても説得力皆無ですよ」

「先輩やめてください……人前でこんな……ああっ♡」

「何しとるんじゃお前らは⁉ 」

 

 瞬と唯がぺちゃくちゃ喋っていたのが気に食わなかった野獣が叱責するが、そういう野獣も遠野と文字通り乳繰り合っていたので完全にブーメラン発言である。というかそういうのは家でやれ。

 ハルはというと、流石にモノホンの同性愛者を目にしたことがなかったらしく、興味津々で色々と訊いている。よくこの流れで訊く気になったものだ。

 

「え、ホモなんですか?」

「なんだよホモで悪いか?あんまりうるさいとLGBTQ差別で訴えるぞ」

「いえ……純粋に行為の内容とか気になりますねえ!」

 

 なんちゅう質問しとるんじゃお前は!と、この場にいた全員が思わず突っ込んだ。女の子がそんな質問しちゃ……だめだろう。

 ハルはまだまだ色々と訊きたがっていたが、見かねた木村がハルを野獣から引きはがす。これ以上彼女を野放しにしていたら、とてもじゃないが文字に起こせないような猥談が繰り広げられかねない。というか野獣と女子高生が並んでいる時点で十分アウトなのだが。

 

「変な目で見ちゃ駄目よ山風、愛の形は人それぞれなんだから」

「そうだよね……思い返せば軍隊でも同性愛は結構多かったもんね」

 

 大鳳と山風は野獣と遠野がゲイカップルであることに対して、そこまで驚いてはいない様子。軍隊では昔から同性愛が多い。それは艦娘が活躍する現代でも同じであり、大鳳達は直接目にしたことはないのだが、現役時代には、艦娘同士のカップルや憲兵同士の痴情のもつれ等の噂を耳にしたことがある。

 この一連の流れを黙ってひと通り聞いていたレイだが、流石に喧しいと感じたのか、ここで叱責する。

 

「あまり騒ぐな、ただでさえ集団で行動してるというのに、大声出したら確実に気づかれる」

『ここは敵地のど真ん中だ。もう少し真面目にしてほしいものだが……』

「すみません、うちのドブ野郎が……殴って黙らせますので」

「もう殴られてるんですがそれは」

 

 木村が、頭にたんこぶを作った野獣の頭を下げさせる。人一倍甲高い声の癖して一番うるさかったので、木村が日頃の恨みを込めて一発ぶん殴ったのだ。勿論野獣は殴り返そうとしたが、愛する遠野の前でそんな見苦しい格好を見せるわけにはいかないと判断したのか、しぶしぶと木村に従う。

 その時だ。

 近くで、ドサリという音がした。

 

「なんだっ⁉ 」

「ほら気づかれちゃったじゃあないか!」

 

 ばっと音のした方へと振り向く一同と、ビビりちらかす志村。

 音がしたのは瞬達の後方、フードコートの端の方だ。そのあたりは丁度フードコートの仕切りが存在するため死角となっており、仮に誰かが隠れ潜んでいたとしても、今いる位置からは確認しようがない。

 敵に気づかれたのか、はたまた湖森が逃げてきたのか。音だけでは判断はできない。音からするに、誰か床に腰でも下ろしたり、重たいものを床に置いたりでもしたのだろうか。考えていても仕方がない。ここは危険を承知で確認していくしかないだろう。

 セラとキンジが先行して音源の方に近づいてゆく。

 敵なのか、そうでないのか。どちらにせよ、兎に角目視で確認しなければならない。

 フードコートを抜け、吹き抜けのある中央通路に出る。すぐ近くの柱の影。そこに誰かがいる。柱から、僅かに人間の指先が見えるのだ。

 

「……そこにいるのは誰だ?」

 

 キンジが声をかける。隠れている人物は動かない。

 そろりそろりと、拳銃を構えながら歩み寄る。向こうからの反応はない。奇襲や偵察目的ならばあまりにも迂闊だし、既に自身の存在がばれているこの状況でいまだに動かないというのはありえない。普通だったら開き直って攻撃してくるなリ逃げるなりといった行動をとってくるはずだ。

 それをしないということは、奇襲や偵察目的の敵ではないということなのか。もしくは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『…………安心しろ。不意打ちを仕掛けてこようと、私が初撃を防いで見せる』

「あたしだったらそもそも不意打ちすらさせないわよ。キンジ、早くしなさい」

 

 頼もしいことを言うセルティと、それに張り合うアリア。それを聞き流しながら、セラとキンジは柱のそばまでやって来た。

 意を決し、ばっと柱の影から飛び出すように移動し、拳銃を構えるキンジ。

 しかし、そこにいたのは敵ではなかった。

 

「おい、おま……え……⁉ 」

 

 正確には、その人物には敵対できるほどの力が残されていなかった。

 そこにいたのはひとりの怪我人だった。青いバンダナを頭に巻いた青年が柱に背中を預けた状態で座り込んでいる。全身に真新しい痣や切り傷を無数に作り、頭から血を流している。見るからにただ事ではない。彼の歩いてきたであろう道が、血痕となって示されている。

 青年の姿を見て、アリアの静止を振り切って駆けよる瞬達。青年は、駆け寄ってきた瞬の顔を見ると、呻き声をあげながら、瞬の名前を口にする。

 

「逢瀬…………瞬さん、っすよね…………」

「おい、あんた大丈夫か⁉ 」

「傷は深いが治療すればまだ間に合うわ。私達が外まで運んで救急車を呼ぶから、まずは応急処置を!」

「それならドラッグストアとかから何かしら取って来た方がいいんじゃないのか?こんだけ店があるんだ、一軒ぐらいあるだろ?」

「ぼ、僕とって来ます!」

 

 そう言って、木村が近くにあったドラッグストアに入ってゆく。

 それにしても、瞬のことを知っているとは、この青年は何者なのだろうか?

 

「俺は御手洗倫吾(みたらいりんご)……AMOREエージェントっす」

「……⁉︎ 」

 

 その言葉を聞いて、この場にいた全員が身を強張らせる。

 AMOREという事は、彼は敵なのだろうか?それならば、この怪我の具合はなんなのだ?なぜ彼は大怪我を負っている?負傷した仲間を囮にした、AMORE側の作戦の一環かなんかなのだろうか?

 瞬達が警戒する中、倫吾は咳き込みながら訂正する。彼が咳き込むたびに、彼の口から血が流れ出る。

 

「俺は敵じゃあない……そもそも、こんな怪我で戦えるわけないっすよ……逢瀬さんのことは、灰司先輩から聞いてるっす……お願いです!仲間たちをとめてください!」

「喋るな、傷が開くぞ」

「灰司の知り合いなのか?今あいつがどこにいるか分かるか?」

「いや、無理っすね……灰司先輩は局長直属のエリートで、俺達一般隊員とは指揮系統が違うんで……俺もわかんないっす……じゃなくて!」

「?」

「ごめんなさいっす……おれ……湖森ちゃんたちを助けられなかった……」

 

 倫吾は瞬の手を取りながら、申し訳なさそうにそう言った。彼の目から、血の混じった悔し涙がこぼれる。それは、自らの不手際と無力さへの憤りだ。

 しかしレイは、謝り倒す倫吾の胸倉を怒りのままにつかみ上げる。2度もAMOREの横暴に巻き込まれた被害者からすれば、倫吾は憎きAMOREの一員であることには変わりない。倫吾の謝罪の言葉も、信用するに足らない虚言としか受け取れなかった。

 倫吾の怪我の具合などお構いなしに、レイは倫吾を問い詰める。

 慈愛に続いて、イスタまで奪われてたまるか。彼の頭の中は、その気持ちだけでいっぱいだった。

 

「おいお前、AMOREのエージェントなんだろ⁉ 答えろ!こんなことしてまでイスタが欲しいのか⁉ 世界平和のためなら、踏みつけられる人間が出ても構わないってのか⁉ 」

『やめろ!相手は重傷なんだぞ⁉ 』

 

 セルティが止めに入るのも聞かずに、レイは倫吾の胸倉をつかんで激しく揺する。その度に、揺すられた衝撃で傷口が開き、倫吾は苦悶の声をあげる。

 倫吾は開いた傷口の痛みに苦しみながら、なんとか声を紡ぐ。

 

「俺だって……ほんとはとめたいんすよ……でも、俺ひとりじゃ出来ないんすよ。一緒にきた仲間が全員洗脳されて……俺は偶然洗脳から逃れたんすけど、戦力にならないからって殺されかけてこのザマっす……」

「洗脳……そうまでして欲しいのか……?」

 

 なんとAMOREは、意に沿わない人員から自由意思を奪ったうえで、無理矢理悪事に加担させているというのだ。これには瞬も剣崎もキンジもセルティも戦慄した。人間としては結構なクズである野獣も、流石にドン引きしている。

 しかし怒りと憎しみにとらわれたレイは、倫吾を柱に叩きつけ、怒りのままに吐き捨てる。

 自分から大事なものを奪ったAMORE。そのメンバーが目の前にいる。その事実は、AMOREそのものを憎むようになったレイの怒りと憎しみを放出させるには充分すぎるものだった。

 

「はっ!さっすが悪の組織AMORE……なんだ?イスタの技術を吸収して世界征服でもしようってのか?ああ⁉ 」

「訂正させてください。AMOREは悪の組織なんかじゃあない……今回の件は、AMOREの一部が独断で動いているんです……おれたちは知らない内にその片棒をかつがされていたんすよ……俺以外のメンバーは全員洗脳されて、お偉いさんに従っています……」

「だから許してくださいってか?洗脳されてたから、知らなかったから許せと……?ふざけるな!お前たちが俺から何もかも奪おうとしていることには変わりない!お前も同類だよ……!死んでしまえ――」

「やめろレイ!」

 

 レイが倫吾をぶん殴ろうとした瞬間、瞬がレイの顔面を殴り飛ばした。

 観葉植物の植えられた鉢植えをなぎ倒し、鈍い音を立てて床にぶっ倒れるレイ。レイの手が離れた倫吾はその場に崩れ落ち、ごほごほと血の混じった咳をする。さっきの衝撃で傷が開いたのか、その頭からは血が流れていた。

 頬を押さえながら瞬を睨みつけるレイ。

 瞬は、レイに睨まれながら静かに、諭すように言う。

 

「……あんたがやりたいことは何だ?復讐じゃないだろう……?」

「瞬……」

「あんたのやりたいこと……いや、今すべきことは、イスタを取り返すことだろ」

「でも……」

「レイの気持ちもよくわかるよ……けど、今は復讐よりも優先すべきことがあるんじゃないのか?俺だってAMOREのやってることは許せない。けど今は湖森達を助けることのほうが大事だと思っている。あんただって同じだ。レイは、復讐とイスタのどちらを選ぶんだ?」

「…………」

 

 レイの気持ちはよくわかる。誰だってあんなことをされたら憎しみを抱くし、瞬だって、AMOREのやっていることを許すつもりはないし、少なからず怒りや憎しみも抱いている。

 だが、今はそれ以上に湖森達の保護を優先しなければならない。復讐という一時の感情に任せて、大事なものをみすみす手放すような真似はしてはならないし、あってはならない。復讐なんてものは、助けるべき人を助けてからでもできるのだから。

 辺りがしんと静まり返る。

 しばらくして、倫吾が再び口を開く。

 

「俺は、どうしても許せない。イスタがどうのこうのはよくわからないけど、仮面ライダーをおびき出すためだけに、罪のない一般人を人質にするのは許せないんすよ……!そんなの、完全に悪役のやることじゃあないっすか!俺は、こんなことをするためにAMOREに入ったんじゃないんすよ……!お願いします……こんな正義を認めないで……全部否定して、ぶち壊してほしいっす!」

「……わかった。だから君は安静にしてて」

「包帯とかパクってきました!」

「木村も悪よのぅ」

「黙れおしゃべりクソ野郎」

 

 戻ってきた木村から包帯などを受け取り、大鳳が応急処置をしてゆく。艦娘現役時代に何度か経験があったのか、その手際はなかなかのものだった。

 しかし、それは最後まで成し遂げられなかった。

 皆が応急処置の光景を見守る最中、バンッ!と乾いた音が響き渡る。大鳳は作業中の手を止め、辺りを見渡す。

 大鳳の足元にできた真新しい銃痕から、か細い硝煙が立ち上っている。一体どこから撃ってきたのだろうかと一同が襲撃者を目視で探していると、上の方から声がした。

 

「見つけたわよ御手洗倫吾(みたらいりんご)。役立たずのカス!」

「洗脳も失敗してよお、あまさつえ裏切るとか、それでもAMOREエージェントかよ?」

寧理(ねいり)……古峰(ふるみね)……!」

 

 声がしたのは、近くにある3階に通じるエスカレーターの上方だ。

 そこには、魔法少女(実年齢20代半ば)こと池映寧理(いけうつしねいり)と、半裸ボディペイントの変態こと古峰諭太(ふるみねろんた)がいた。2人とも異常に目が充血している上に、半開きの口からよだれを垂れ流している。正気を失っているのが一目瞭然だ。

 レイも流石におかしいと思ったのか、倫吾から手を離し、冷静に寧理と古峰を見つめる。

 

「お前の言ってたお仲間さんか?こりゃあひでえな……確かに正気を失っている」

「ど、どうするの逢瀬くん……なんかこの人達完全に目がイっちゃってるよぉ……!」

 

 2人の異様な雰囲気に怯える志村。それに対して、セラとアリアが素早く剣を鞘から抜こうと身構える。臨戦態勢に入ったのだ。

 しかし、そんな彼女達よりも、闘志に満ち溢れた者達が居た。野獣と三浦だ。意図してか、はたまたせずしてか、彼らはセラ達を庇うように立ち、ぽきぽきと拳を鳴らしながら古峰を睨みつける。特に野獣は怒り心頭のようで、今にも殴りかかりそうな形相で古峰を睨みつけている。

 野獣は本能的に察していたのだ。先ほど自身をペンキ塗れにしたのは古峰であると。

 

「お前か……さっき俺をペンキ塗れにしたのは!もう許さねえからなあ?」

「おい木村あ、この半裸野郎倒そうぜ~?」

「え、い、いやあそんなこと……」

「じゃあけつの穴舐めろ」

「やめてくれよ……(絶望)」

 

 後ろ向きな発言をした木村に対し、野獣が臭い尻を突き出してくる。ズボン越しに臭う悪臭に、思わず顔をしかめる木村。その脳裏には、合宿の際に風呂場で見た野獣の黒いイボケツが浮かんでおり、木村に耐えがたい吐き気を催させる。嫌なもん思い出させるんじゃねえと思わず野獣の尻を蹴とばしたくなった木村だが、とてもじゃないがそれはできない。野獣の尻を蹴とばすと言うのは、排泄物を踏むのと同じだからだ。

 野獣と三浦は完全にやる気だった。こうなったら野獣は意地でも自分の決めたことを変えない。それは木村もよくわかっている。乗り気ではないが、やるしかなかった。先輩の意見には絶対服従なのが体育会系の習性なのだ。それに逆らうことは不可能だ。

 

「ホモの癖に生意気な!インク塗れにしてやんよ!」

「お、ホモ差別か?じゃけんSNSで炎上させましょうね~」

 

 いや拳で戦うんじゃないんかい。今のは完全にその流れだっただろ。確かに今のご時世ならば効果抜群なんだろうけども。

 

「ステハゲの癖に嘗めやがって……パワーアップした俺を見せてやる!」

《KAKUSEI INKLING》

「良いわあ、みじめったらしい最期にしてあげるから覚悟しなさいよ!」

《KAKUSEI TXILO・FINALE》

 

 野獣の間抜けな発言にキレながら、古峰はインク塗れのイカの様な姿をしたオリジオンに姿を変える。同時に、今まで若干放置気味だった寧理も、リボン塗れの薄汚い魔女の様な姿のオリジオンに変身する。

 身構える瞬だが、今度は律刃が前に立つ。どうやら寧理の相手を引き受けるつもりらしい。

 

「あのリボン女はわたしたちが殺すよ?」

「できれば殺さないでほしいっすね……きっとぶっ倒してオリジオン化を解けば正気に戻るはずっす……ほんと、お願いします……皆にこれ以上悪事を働かせたくないんです!」

 

 物騒なことを言いながら彫刻刀の刃先を寧理に向ける律刃に、志村に背負われた倫吾が懇願する。こんなことになってしまったけど、それでも倫吾にとっては苦楽を共にしてきた同僚なのだ。殺されていいはずがないと思うのは当然だろう。

 それを聞いた律刃は、やれやれ、といった感じに溜息をつく。骨が折れそうだが、やれなくはない。今の溜息は、そういったニュアンスのそれだ。

 志村に背負われながら1階へと向かう倫吾が、去り際に瞬に伝える。

 

「湖森ちゃん達は3階っす!」

「わかった!ここから先は一気に突っ切る!変身!」

《CROSS OVER!思いを、力を、世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》

 

 瞬がアクロスに変身すると同時に、一行は3手に分かれる。

 山風・ハル・志村・遠野は負傷している倫吾を保護すべく外へ。

 空手部と律刃は2体のオリジオンとの交戦に。

 残りの面々は湖森達を助けるべく3階へと。

 

 

 

 さあ急げ、狂想曲はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 




だからいい加減サブタイトル詐欺辞めろとあれほど……


というわけで久々のデュエルです。
転生者だからARC-V世界でリンク召喚くらいしますよそりゃあ……そもそも原作からしてアクションデュエルとかいうホームルールを多次元の決闘者に押し付けてましたからね。立場が逆転しただけです。

というわけで今後本作のデュエルは、新マスタールール(11期)にペンデュラムゾーンを追加したオリジナルルールで行かせていただきます。





レイラの尊厳破壊はとどまることを知らず…………
彼女にはもっと苦しんでもらいます。ええ。






オリジオン紹介
ハンドレッドオリジオン
変身者:????
転生特典:ハンドレットパワー(TIGER&BUNNY)
ワイルドタイガー及びバーナビーの特殊能力「ハンドレットパワー」の特典をもとに生み出されたオリジオン。見た目もふたりのヒーローが歪にまじりあった化け物となっている。
オリジナル同様に、5分間だけ身体能力を100倍に引き上げることができる。能力発動中は背中の蝋燭のような形状をした突起から炎を吹き出す。
ただでさえオリジオン化してステータスが上がっているというのに、そこから100倍になってはまさに鬼に金棒と言えるだろう。
バルジに完全に従っており、知性は低い。



次回 AM1:55/軌跡の果てより来る異眼(ビヨンド・ザ・オッドアイズ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。