【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
あけおめことよろ!
※途中汚いシーンがあります。ご了承ください。
プラネットプラザ3階
アクロスは仲間と共に、止まったままのエスカレーターを駆け上がる。
背後で始まったドンパチに目を向けている余裕はない。イスタと妹(とトモリ)を一刻も早く助け出さなければならない。取引がすでに決裂している以上、彼女達の安全保障も既に烏有に帰した。ここは戦いを引き受けた彼らを信じて先に進むしかないのだ。
先頭を走っていたアクロスだが、エスカレーターの最上段に足をかけた状態で不意に立ち止まった。
「どうした、何か……え?」
剣崎が怪訝に思い声をかけるが、その先に広がる光景を見た瞬間、その声は途中で止まった。
「なにこれ……入った時にはなかったよね?」
3階に辿り着いた彼らの前に見えたのは、異様な光景だった。
うねうねと蠢く触手のようなものが、まるで木の根のように天井一面を覆っている。触手からは謎の粘液が滴り落ちており、床はところどころが粘液で濡れていた。アクロス達がこの建物に入った時、吹き抜け越しに見えた3階の天井には、こんなものはなかった。
この異様な光景に、思わず尻込みしてしまう一行。だがしかし、湖森達を助け出すためには、踏み込むほかない。
一歩、アクロスが足を踏み入れる。床に広がる粘液は、なんとも言えない粘付きを披露している。スーツ越しに不快感が伝わってくるが、粘液の粘り気は動けなくなるほどのモノではない。
他の面々も、アクロスに続いて3階に足を踏み入れる。
その時だった。
「駄目ですよね~ほんと。取引不意にするとか、悪いお兄ちゃんにもほどがありますよ」
「ああ……思った通りのクソ野郎だ。正義の味方の風上にも置けない」
ねちゃりとした足音と共に、通路の向こう側から誰かが歩いてきた。足音は2人分。誰かがこちらに向かってきている。
曲がり角から姿を現したのは、一言で言うと変態だった。
ひとりは、全身包帯ぐるぐる巻きの人物。体格や素肌が垣間見える顔から判断すると、大学生くらいの男だ。衣服らしいものは短パンと、肩にかけている白いコートくらいしか身に付けていない。見た目からして変態としか言いようがない存在だった。
もうひとりは、右半分がバニースーツ、左半分がチャイナドレスという、センスの欠片もない変な服装の女だった。スタイルもいいし、顔も美人の部類に入るのかもしれないが、服装がそれを補って余りあるレベルでぶっ飛んでやがる。こんなのと付き合うなんて罰ゲーム以外の何物でもないだろう。そんな存在だった。
下の階で出会った魔法
すると、バニーチャイナの女が口を開いた。
「わたくしは
「解せぬ。貴様らは平和の敵ということになるが……なぜその道を選んだのだ?返答次第ではこの
「またかよ……!」
「どうする?」
ご丁寧に名乗ってくれたが、正直言ってこんな変態達とは関わり合いになりたくない。だが、おそらくこいつらを突破しなければアクロス達の目的は敵わない。
(俺が相手をして皆を先に行かせるか……それとも……?)
悩むアクロス。
そこに、
「ひゃっはあああああああああああああああああああっ!開け風穴ァ!」
「消し炭になりなサーイ!イヤッホゥウウウウウウウウウウウッ!」
吹き抜けの下の方から、世紀末じみたテンションの掛け声と共に、燃え盛る炎が吹き上げてきた。
最初、アクロスはAMORE側の増援かと思ったが、巻密達の反応を見るに、どうやらそうでない模様。向こうも驚いているようだし、なによりこのチンピラじみた声には聞き覚えがある。
勢いの落ちた火柱と入れ替わるように飛び上がってきたのは、2体のオリジオン――ガンズオリジオンとリザードンオリジオンだった。ガンズオリジオンの方は変わりないのだが、リザードンオリジオンの方は、赤みがかっていた体色が黒くなっている上、人型だったシルエットが、翼竜に近いものに変化している。パワーアップでもしてきたのだろうか?
リザードンオリジオンの背中に跨りながら、ガンズオリジオンはキンジとアリアに向かって意気揚々と銃口を向ける。
「遠山キンジィ!テメエの相手は俺だということを忘れたか!さあ再戦と行こうじゃあないか!」
「転生者狩りは居ねえようだがよぉ!俺はバルジ様の力添えで進化した!お前らなんぞ一捻りってわけだぁ!」
威勢のいい怒号と共に、リザードンオリジオンが口から灼熱の炎を吐き出してくる。アクロスチーム、AMORE双方はさっとそれを避けるものの、炎が通ったあたりの床はグズグズに溶けてしまっており、下の階まで貫通する穴ができてしまっている。
リザードンオリジオンが炎を吐き出すと同時に、その背に跨っていたガンズオリジオンがキンジとアリア目がけて飛び掛かってきた。
バババババッ‼ と、ガンズオリジオンが飛び掛かりながらキンジとアリア目掛けて銃を撃つ。2人は他の面々に流れ弾を浴びせまいと、アクロス達から離れながら銃弾の雨を躱してゆく。
「邪魔はさせない……卑怯堂々と殺し合いをしようじゃあないか、ええ⁉ 」
「なんでだ⁉ なぜ俺達を狙う⁉ 」
「気に食わないからさ!お前は光の中で生きる存在、俺達は闇に押し込まれて生かされる存在!そこにあるのは羨望と嫉妬のみ!お前は嫉まれる側の人間なんだよ!」
キンジの問いかけにそう返しながら、ガンズオリジオンはナイフを投げる。
恐ろしいほどの速度で投げられたそれは、キンジの頬をかすめ、出血させる。
ガンズオリジオンは拳銃を乱射しながら2人を追う。
「お前を殺し、俺がそこに座る!これは椅子取りゲームだ!主人公という椅子に座る奴を決める椅子取りなんだ!」
「勝手に言ってなさいよこの野郎……あんたなんかじゃ力不足だっつーのっ!」
「簡単に変わりが務まるような人生送ってねーんだよ……とりあえずしょっ引かれろ!」
お互いに啖呵を切りながら、銃を構える。
身勝手な羨望を打ち砕くための戦いが、はじまる。
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AM2:00
プラネットプラザ1階西
リザードンオリジオンの放った業火は、床を溶かしてアクロス一行を分断していた。
アクロスとアラタから見て、溶けた床の向こう側には、セラと唯が取り残されている。そして、アクロス達の目の前には、AMOREの刺客達が今すぐにでも殺さんとする勢いで此方を睨んでいる。
「キンジ達は大丈夫なのかよ……⁉ 」
「大丈夫だ……ぽっと出の
ガンズオリジオンに追われてこの場からいなくなったキンジ達を心配するアクロスに、アラタはそう返す。
アラタは"
――アラタ自身も同類なのだが。
どうするべきかを考えていたアクロスだが、ここで、穴を隔てた向こう側から、唯が声をかけてきた。
「瞬!アラタ!そっちは大丈夫なの⁉ 」
「大丈夫だ!唯は先に行け!俺達は回り込んで――」
「あなたたちはわたくしがぶった斬って差し上げますわ。光栄に思うことです……ねっ!」
《KAKUSEI CHAOS SOLDIER》
唯を先に行かせようとしたアクロスだが、そうはさせまいと、殊宮がカオスソルジャーオリジオンに変身し、斬りかかってきた。
まずい。アクロスに変身している瞬はともかく、生身のアラタはぶった斬られたら致命傷になりかねない。
アクロスはオリジオンを迎え撃とうと、腰にぶら下げているツインズバスターを抜刀しようとするが、それには僅かばかり時間が足りない。ならばと咄嗟に計画を変更し、アクロスはアラタを守るように前に立ち、自身が肉壁になろうとする。アクロスのスーツの防御力ならば、数回斬られても平気だからだ。
カオスソルジャーオリジオンの剣が、アクロスに迫る。
その寸前、
「ヘシンッ!」
《TURN UP》
「ばぐれぺまっ⁉ 」
カオスソルジャーオリジオンの真横から青い畳の様なものが突っ込んできて、彼女を勢いよく吹き飛ばした。まるでバットで打たれたボールのように飛んでいったカオスソルジャーオリジオンは、近くのケータイショップのカウンターに頭から突っ込む形で落下する。
アクロスは何が起きたのかわかっていないが、アラタは知っている。これはオリハルコンエレメントだと。
アラタが畳の飛んできた方を見ると、そこにはブレイバックルを装着した剣崎が居た。
「コイツの相手は俺がする。お前たちはもう1人を!」
剣崎はそう言うと、自身の前方に展開されたオリハルコンエレメントに突っ込んでいき、ブレイドに変身しながらカオスソルジャーオリジオンに向かっていった。
「お前の相手は俺だ!」
「…………現地民は黙っててくださいませんか?」
カオスソルジャーオリジオンは、自身に不意打ちをしたブレイドにキレたようで、標的を彼に変える。
ブレイドが相手してくれている今の内だと、アクロスはアラタを連れて反対側の通路に回り込もうとする。しかし、ここに敵はもう一人いるのだ。
「倫吾が世話になったな、アクロス。仲間に押し付けて先に行きますってのがそう何度も通じると思ったか?お前はここで倒れる。この戦いをお前の仮面ライダー人生最後の1ページにしてやる。光栄に思うがいい」
下澤巻密。全身包帯まみれの変態が残っている。
彼は包帯の隙間から鋭い眼光をアクロスに向けている。そこには人間らしさの類は微塵も感じられない。まるで肉の鎧を着こんだロボットのような雰囲気だった。
アクロスは、無言で巻密の前に立つ。倫吾の名前が出た瞬間に、これだけは言っておかねばならないと、そう思った。
「あいつは、お前たちのことを心配してた。取り返しがつく今のうちに止まってくれって願ってた。止めてくれって俺に頼んだんだ」
「それがどうした?俺達はAMOREの意向に従うのみ。従えなかった軟弱者のことなぞ知ったことか!だいたいアイツはお荷物の癖に一丁前にリーダー気取りで邪魔だったんだ。だからあのタイミングで切り捨てられたのは幸運だったと思っている」
ポキポキと拳を鳴らしながら近づいてくる巻密。
瞬は倫吾のことをほとんど知らないが、彼の願いは信じるに足るものだと思っている。だが、ボロボロになってまで、正気を失い悪事に手を染めようとしている仲間を助けてほしいと願ったあの青年の願いを、コイツは否定
――彼らを洗脳した奴は、随分と悪趣味なんだな。
アクロスは、仮面の下でそう小さくつぶやく。
「俺としてはあの役立たずのことは一刻も早く忘れたかったのだが……よくも思い出させてくれたな。礼代わりに貴様を消し飛ばしてやる」
「……どうしても逃がす気はないようだな」
「初めからそのつもりだ!」
《KAKUSEI THE・HAND》
そう言うと、オリジオンとしての姿を現した巻密は、軽く右腕を振るった。
瞬間、ガオンッ!と音を立てて、アクロスの足元が跡形もなく消し飛んだ。
「何が起きたんだ⁉ 」
「……やはり覚醒したばかりで安定せぬか」
巻密――ザ・ハンドオリジオンはそうぼやきながら、再び右腕を振るう。
何が起きたのかはわからないが、避けなきゃマズいことになる。そう判断したアクロスは、右腕が振り下ろされると同時に一気に前方に向かって駆け出し、ザ・ハンドオリジオンに向かって体当たりを仕掛ける。
アクロスに壁際に押し込まれたザ・ハンドオリジオンは、苦し紛れに自身を押しているアクロスの背中をぶっ叩く。
「ぐっ……」
一瞬だけアクロスの押し込みが弱まった隙をついて抜け出し、ザ・ハンドオリジオンは三度右腕を振るう。すると、アクロスの頭上にあった、天井から案内板を吊り下げていた支柱が跡形もなく消え去った。
「痛っ……!」
支えを失った案内板がアクロスの頭に直撃し、アクロスは苦悶の声をあげる。
ザ・ハンドオリジオンは左手でアクロスの胸倉を掴み上げると、右拳でアクロスの顔面をぶん殴ろうとする。しかし、アクロスは首を傾けて回避する。ザ・ハンドオリジオンは右拳を即座に引っ込めると、再び殴りかかる。
だが今度はアクロスに逆に突き出した自身の拳を掴まれ、そのまま投げ倒されてしまう。ずしんと音を立てて背中から床に倒れるザ・ハンドオリジオン。彼はふらふらと立ち上がりながら、アクロスに語りかける。
「貴様の選択は間違っている。本気で人質を救いたいならば大人しく降伏すべきだったのだ!貴様の選択は人質をいたずらに危険にさらすだけだということがなぜわからぬ?」
「でもそれはイスタを見捨てることになる!そんな終わり方を望んでる奴は俺達の中には誰一人としていないんだよ!」
確かに、AMOREの要求を呑めばこんな戦いをする必要は無かったし、湖森達の安全も保障される。
だが、瞬はレイが泣きながら懇願してくるのを見てしまった。彼の抱える因縁を聞いてしまった。それを無視することができなかった。赤の他人を犠牲にした安寧を受け入れることができなかった。そしてそれは、他の皆もそうだった。
だから今ここに立っている。取捨選択を拒んで、全てを拾い上げるために。
バチコンッ!と音を立てて、両者の拳が激突する。
ザ・ハンドオリジオンは、以上を以て結論を下した。仮面ライダーアクロスの脅威性にはそのライダーシステムのスペックだけでなく、逢瀬瞬のパーソナリティも絡んでいる。双方の速やかな排除又は管理が必要である、と。
「やはり貴様は危険だよ。貴様の様な未熟な精神性の持ち主がそんな力を持っていては駄目だ。大佐の言うとおり、貴様は生かしてはおけない。ここで殺す!」
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「えーと、俺の相手は……」
他の奴らが早々にバチバチと臨戦態勢に入る中、相手が見つからずに手持ち無沙汰気味にキョロキョロしているリザードンオリジオン。そんな彼の視界に、ある人物が映る。
それは、この場の雰囲気に紛れて先に進もうとするアラタ達だった。
もとより我慢のガの字も知らないようなクソ転生者だったリザードンオリジオンは、パワーアップした力を一刻も早く振るいたくて仕方がなかった。そんな彼からすれば、そろりそろりとこの場から離れようとするアラタ達の姿は、格好の的でしかなかった。
こいつらを殺しても何ら問題はないだろう。
なぜならば自分達は転生者だから。転生者とそうでない奴らの間には絶対的な差というモノがあるのだ。分不相応に戦場に立つ目の前の
「なんかやばくない……?」
「ウォーミングアップだ!進化した力、お前らで試させてもらうぜ!」
「やっぱりろくなやつじゃねええええええええええ!」
リザードンオリジオンの標的が、この場からひっそりと立ち去ろうとしていたアラタと大鳳に切り替わる。
いくら転生者といっても、アラタは何の力もない一般人。大鳳も、元艦娘なだけであり、艤装がなければちょっと鍛えた一般人程度でしかない。しかも相手はやる気満々の、灼熱の炎を操るオリジオン。
要するに2人ではオリジオン1体を相手取るなんて到底不可能ということだ。
リザードンオリジオンの口内に、炎が充填される。
それと同時に、アラタと大鳳は一目散に逃げだした。
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プラネットプラザ1階中央通路
遊矢VS竜崇 ACTIONDUEL
「リンク召喚……だって……⁉ 」
「なにあれ……あんな召喚方法、知らない……!」
本来この世界に存在するはずのない
戦いに飢える恐竜たちの後方から、竜崇の声が響く。
「驚くのも無理はない。なんせ異世界の召喚法だからな」
「異世界……?でも、俺の知ってる世界ではリンク召喚なんてどこも……」
「まあもっとじっくり味わえよ。
竜崇はそう言いながら不敵に笑う。まるで遊矢達の反応を楽しんでいるかのようだ。
転生者である彼からすれば、遊矢達の反応はあまりにも予想通り過ぎていて、かつ滑稽なものだった。
だが、竜崇はこれを望んでいたのだ。
それをいざ実行に移した今この瞬間、竜崇は、これで自分の望んだ
(榊遊矢!時代遅れの決闘者であるお前を打ち倒し、オレが新時代を作る!)
上官に半ば強引にこの世界に呼ばれた時はあまり乗り気ではなかったが、こうしている今は、招集されたことに感謝しかない。
任務なんてどうでもいい。今はひとりの
竜崇は上機嫌でプレイを続行する。
「オレは墓地の"幻創のミセラサウルス"の効果発動。墓地からミセラサウルスを含む恐竜族モンスターを任意の枚数除外することで、除外したモンスターの数と同じレベルの恐竜族をデッキから特殊召喚する。オレは"幻創のミセラサウルス"と"ダイナレスラー・バーリオニクス"の2体を除外し、レベル2の"ベビケラサウルス"を特殊召喚!」
ベビケラサウルス:☆2 ATK500
"ダイナレスラー・イグアノドラッカ"の特殊召喚のコストとして墓地に送ったミセラサウルスの墓地効果を適用することで、新たなモンスターを呼び出した竜崇。呼び出されたのは小さな恐竜だった。
「そして"魂喰いオヴィラプター"のもう一つの効果!オレの場の他の恐竜族モンスター1体を破壊し、墓地の恐竜族を1体特殊召喚する!イグアノドラッカを蘇生!」
ダイナレスラー・イグアノドラッカ:☆6 DFE0
竜崇がそう言うと、"魂喰いオヴィラプター"がその身体からオーラの様なものを生み出し始める。そてと同時に、隣の"ベビケラサウルス"から人魂の様なものが飛び出し、オヴィラプターの口内へと吸い込まてゆく。
すると、呼び出されたばかりの"ベビケラサウルス"が爆散するとともに、その爆炎の中からリンク素材として墓地に送られた"ダイナレスラー・イグアノドラッカ"が再び姿を現す。
「さらに破壊された"ベビケラサウルス"の効果発動!"ベビケラサウルス"が効果で破壊された時、デッキからレベル4以下の恐竜族1体を特殊召喚する!現れろ、"ダイナレスラー・カパプテラ"!」
ダイナレスラー・カパプテラ:☆4 ATK1600
竜崇の怒涛の展開は終わらない。
爆散し霧散してゆく"ベビケラサウルス"だった粒子が再集結しながら、プテラノドンを人型にしたようなモンスターが出現する。
竜崇はカードをプレイしながら大きく飛び上がり、空中に浮かんでいた台座の端に置かれているアクションカードをゲットする。
「そしてアクション魔法"
「うわっ⁉ 」
アクションカードの効果により、遊矢の場の"昇竜剣士マジェスター
竜崇は少しでもダメージを多く与えるために、攻撃表示の"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"ではなく、守備表示のマジェスターPを破壊したのだ。
「バトルだ!"ダイナレスラー・カパプテラ"で"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"を攻撃!」
「攻撃力はオッドアイズの方が上……ってことはアクションカード狙い!」
柚子の予想通り、竜崇はアクションカードを狙いに行った。
彼は壁を勢いよく蹴って更に高所にある空中に浮かぶ足場に飛びつき、そのままよじ登る。負けじと遊矢も"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"の背中に飛び乗り、そこからさらに跳んで空中の足場に上る。
両者が飛び移った先の足場には、それぞれアクションカードが1枚ずつ。
バトルの結果はアクションカードの内容に委ねられた。
「ご明察だ!アクション魔法"バイアタック"!"ダイナレスラー・カパプテラ"の攻撃力をターン終了時まで倍にする!」
ダイナレスラー・カパプテラ:ATK1600→3200
「アクション魔法"回避"!攻撃を無効にする!」
遊矢のアクションカードの効果により、飛び掛かってきた"ダイナレスラー・カパプテラ"を、"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"が跳んで回避する。
「ピンポイントで"回避"を引くとは運がいいな。だがよぉ……破壊の方法はまだまだあるんだぜ……!」
「⁉ 」
「"ダイナレスラー・パンクラトプス"の効果発動!"ダイナレスラー"モンスター1体をリリースし、相手フィールドのカード1枚を破壊する!こいつはフリーチェーンの効果だから、このタイミングでも使えるのさ!俺は"ダイナレスラー・カパプテラ"をリリースし、"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"を破壊!」
「
臨時収入:COUNTER×1
竜崇は攻撃が無駄に終わったカパプテラをリリースして効果を発動する。すると、リリースされたカパプテラが光となって"ダイナレスラー・パンクラトプス"の両腕に集約されるとともに、パンクラトプスが勢いよく飛び上がって"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"に馬乗りになる。
"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"は苦しそうに吠えるが、パンクラトプスはお構いなしにその両拳をオッドアイズの両側頭部叩きつける。
すると、殴られたオッドアイズは爆散し、すさまじい爆風を周囲にまき散らした。それは何かに捕まっていなければ立つこともままならない程の威力であり、柚子は鎖で縛られたまま壁際まで転がってゆき、爆風に煽られた遊矢は足場から転落してしまう。
「おわああああああああああああああああああっつ⁉ 」
「遊矢⁉ 」
悲鳴をあげる遊矢だったが、丁度落下地点には"EMセカンドンキー"が居たため、その背中に飛び乗る形でなんとか無事に地上に降りることができた。それを見て柚子は安堵する。相変わらず危なっかしい
遊矢はセカンドンキーの背中から降り、竜崇を見上げる。
竜崇は既に2枚目のアクションカードの目前まで近づいていた。遊矢の近くにはアクションカードはない。なんとかして彼に追いつかなくては、差をつけられる。
「またアクションカードを……!そうはさせるか!」
「返り討ちにしろ、パンクラトプス!"EMセカンドンキー"に攻撃だ!」
慌てて走り出す遊矢だが、そこに竜崇からの攻撃命令を受けた"ダイナレスラー・パンクラトプス"が膝を前に突き出しながら飛び掛かってきた。飛び膝蹴りだ。
遊矢は咄嗟に屈んでそれを躱すも、パンクラトプスの飛び膝蹴りは、遊矢の背後にいたセカンドンキーに命中し、蹴りが命中したセカンドンキーは爆発四散する。守備表示であるために戦闘ダメージこそ発生しなかったものの、その衝撃はすさまじく、遊矢の背中を思いきり前方へと押し出す。
地面にうつぶせに倒れた遊矢に、上から竜崇が語り掛けてくる。その手には、新たなアクションカードが握られている。またしてもおくれを取ることとなったのだ。
「パンクラチオンの味はどうだい?身体にクるよな?」
「なんの……!俺は手札の"EMバロックリボー"の効果発動……!自分のモンスターが戦闘破壊された時、手札からこのカードを特殊召喚する!さあおいで、バロックリボー!」
EMバロックリボー:DFE3000
「ならば"魂喰いオヴィラプター"で攻撃!そしてこの時、アクション
魂喰いオヴィラプター:ATK1800→3600
遊矢は負けじと壁モンスターを展開するが、アクションカードの効果で攻撃力を上げられて突破されてしまう。
「これで壁は消えた!"ダイナレスラー・テラ・パルクリオ"で
「ぐっ……!」
遊矢:4000LP→3000LP(-1000)
そして、壁モンスターの居なくなった遊矢に直接攻撃が命中する。
"ダイナレスラー・テラ・パルクリオ"のアクロバティックな一撃を受け、遊矢は膝をつく。
竜崇はその隙に空中の足場に飛び移り、3枚目のアクションカードを入手する。
「ダメージはあまり通せなかったが……まあいい、どのみちお前はオレを輝かせる踏み台になる定めよ……!カードを1枚伏せてターンエンドだ!」
思ったように攻めきれなかったことを愚痴りながら、伏せカードをセットしてターンを終える竜崇。
対して、なんとか1ターン凌ぎ切った遊矢は、内心ほっとしていた。
(思った以上に苛烈な攻め方だ……気を抜いたら押し切られる……動揺したらダメだ!)
竜崇の猛攻に気を抜く暇はない。少しでも気を抜けばそこから崩れるからだ。いくら相手が未知の召喚法を使うからといっても、それに対して動揺してはいけない。事実、遊矢はこのターン、得意とするアクションカードの応酬においても劣勢に立たされてしまっている。
平常心を失うな。冷静に、かつ楽しく
「俺のターン!ドロー!」
遊矢:HAND×2
「俺はセッティング済みのペンデュラムスケールを使いペンデュラム召喚!今一度舞い戻れ、"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"!そして手札から"EMペンデュラム・マジシャン"!」
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:☆7 ATK2500
EMペンデュラム・マジシャン:☆4 ATK1500
既にセッティング済みのペンデュラムスケールを使い、再びペンデュラム召喚を行う遊矢。しかしここで、ある違和感に気づく。
「あれ……?なんで……?」
"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"の位置がおかしい。
同時にペンデュラム召喚した"EMペンデュラム・マジシャン"よりもかなり前に出ている。怪訝に思いながらデュエルディスクから伸びるカードプレートを確認すると、オッドアイズのカードは、カードプレートに新たに生まれたでっぱりの部分に存在している。竜崇曰く、そこはEXモンスターゾーンだったか。
なぜ、こんなことになっているのだろうと不思議に思っていると、その疑問に答えるかのように、竜崇が笑いながら語りかけてきた。
「EXデッキからのペンデュラム召喚する場合はEXモンスターゾーンにしか出せない。これでペンデュラム召喚の無限の大量展開も制限されるってことだ」
「何⁉ それじゃあ……」
「ああ、今まで通りに進めると思うな。言ったはずだ、新時代の
竜崇によって開示された新たなルール。それは遊矢にとっては大きな痛手であった。倒されても何度でも大量展開できるというペンデュラム召喚の強みが半減したようなものだ。今までの様な無限湧きはできない。破壊前提のプレイングを見直さなければならない時が来たのだ。
だからといって臆するわけにはいかない。
ここは任せろと啖呵を切った以上は友情に嘘はつけないし、
遊矢はそう決意しながら、プレイングを続行する。
「"EMペンデュラム・マジシャン"の効果発動!特殊召喚成功時に自分フィールドのカードを2枚まで破壊し、その数だけ"EM"モンスターを手札に加える!」
手札に加えたのは、"EMウィップ・バイパー"と"EMバリアバルーンバグ"の2枚。相手の苛烈な攻撃をしのぐためにも、アクションカード以外の防御手段も常に抱えておきたいのだ。
「俺は"EMウィップ・バイパー"を通常召喚」
EMウィップ・バイパー:☆4 ATK1700
遊矢が召喚したのは、紫色の蛇だった。こいつは遊矢のエンタメデュエルの顔役のうちの1体ともいえるモンスター。アクションデュエルにおいても結構な頻度で使用している。
召喚されたウィップ・バイパーは竜崇を威嚇すると、するすると遊矢の身体を上ってゆき、その腕に絡みついてゆく。
「そしてバトルだ!"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"で"ダイナレスラー・テラ・パルクリオ"を攻撃!螺旋のストライクバ――」
「パンクラトプスの効果発動!パンクラトプス自身をリリースし、"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"を破壊!」
竜崇がそう命令すると、パンクラトプスがオッドアイズに特攻し、盛大に自爆した。効果で道連れをしやがったのだ。
オッドアイズは撃破されるが、発動中の"
臨時収入:COUNTER×2
「ならば"EMペンデュラム・マジシャン"で"ダイナレスラー・テラ・パルクリオ"を攻撃!」
「オレは"ダイナレスラー・マーシャルアンガ"を手札から捨てて効果発動!"ダイナレスラー"モンスターが自身より攻撃力の高い相手とバトルする時、そのバトルによる戦闘破壊を無効にし、バトルフェイズを終了する!」
竜崇:4000LP→3500LP
ペンデュラム・マジシャンの攻撃は確かにテラ・パルクリオに命中した。しかし、ペンデュラム・マジシャンの攻撃が当たる寸前にテラ・パルクリオの周囲にバリアの様なものが出現し、その破壊を防いだ。戦闘破壊こそできなかったものの、この効果はダメージをなくすことはできない。よって竜崇には戦闘ダメージだけは伝播する結果となった。
遊矢の場にはまだウィップ・バイパーがいるが、バトルフェイズが終了させられたため、攻撃はできない。竜崇は何もできなくなった遊矢を見て思わずほくそ笑む。
「バトルフェイズは終了、続いてメインフェイズ2だ」
「お前が何もしないというならば、此方から仕掛けるまで!
竜崇がそう言いながらフィールドゾーンに魔法カードを発動する。それを見て、柚子も遊矢も意外そうな顔をする。システム上は可能なのだが、アクションデュエルにおいてはフィールド魔法を使うプレイヤーは少ない傾向にあるからだ。
竜崇と遊矢を取り囲むように、フェンスに囲まれた円形のフィールドが地面からせり上がる様にして出現する。フェンスの向こう側には無数のシダ植物の様なものも生えだしており、さながらここだけ密林と化したような光景となっていた。もちろんこれはソリッドビジョンによるものなのだが、その威圧感はなかなかのものだ。
「そして"ワールド・ダイナ・レスリング"が発動したことにより、"ダイナレスラー・テラ・パルクリオ"のモンスター効果が発動し、墓地の"ダイナレスラー"1体をサルベージ出来るぜ。オレは"ダイナレスラー・カパプテラ"を回収する……ほら、ターンエンドを宣言しろよ。お前のターンだろうが」
得意げそうにそう言う竜崇。
呆気に取られていたが、今は遊矢のターンなのだ。しかし、遊矢にできることはなにもない。
「くっ……ターンエンド……!」
「ならばいかせてもらおう。オレのターン、ドロー!」
竜崇:HAND1→2
遊矢が悔しそうにターンエンドを宣言すると同時に、入れ替わるように竜崇がデッキからカードをドローする。
「……このターンでお前をリングに沈めることが決まったようだ」
「強気だな……その口振り、余程いいカードを引いたみたいだな」
遊矢のその言葉に、竜崇はにやりと笑って返す。
「今一度現れよ、勝利の頂に続くサーキット!アローヘッド確認!召喚条件は"ダイナレスラー"モンスター2体以上!俺はフィールドの"ダイナレスラー・イグアノドラッカ"とリンク2の"ダイナレスラー・テラ・パルクリオ"をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク3!"ダイナレスラー・キング・Tレッスル"!」
ダイナレスラー・キング・Tレッスル:LINK3(左下/下/右下)ATK3000
テラ・パルクリオの時と同じような演出を経て顕現したのは、覆面を被ったTレックスだった。その巨体が1歩足を動かすだけで地響きが起こり、唸り声だけで周囲の空気が激しく震える。それを一目見た柚子は縛られていることも忘れて逃げようとするが、当然ながら満足に動けるはずもなく、ただリングの外で無様にもがくだけに終わる。
正対している遊矢も、内心では恐怖していた。
リンクモンスターを素材に更なるリンク召喚を決めてきた竜崇。彼はここから何を仕掛けてくるのだろうか。
「リンクモンスターをリンク素材にする場合、そのリンクマーカーの数と同じ数のリンク素材として扱うことができるのさ。そしてこの時、リンク素材となった"ダイナレスラー・テラ・パルクリオ"の効果が発動する!パルクリオがリンク素材として墓地に送られた時、墓地の"ダイナレスラー"1体を効果を無効にして特殊召喚できる。オレはリンク素材としたイグアノドラッカを復活!」
ダイナレスラー・イグアノドラッカ:☆6 DFE0
リンク素材となったイグアノドラッカがよみがえる。
「ダメ押しでもういっちょ行くぜ!オレは手札からチューナーモンスター、"ダイナレスラー・コエロフィシラット"を通常召喚!」
「チューナー……ってことはシンクロ召喚を⁉ 」
「当然だ!オレはレベル6の"ダイナレスラー・イグアノドラッカ"にレベル2の"ダイナレスラー・コエロフィシラット"をチューニング!屈強なる太古の王者よ、全ての敵を蹴散らせ!シンクロ召喚!現れよレベル8!"ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット"!」
ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット:☆8 ATK3000
けたたましい咆哮をあげながら現れたのは、ワニのような頭部と刺々しい背びれを持つ、紫色の肌をした恐竜だった。その大きさは"ダイナレスラー・キング・Tレッスル"と並び立つほどのものであり、その2体が並んでいる様はまさに圧巻というほかないものであった。
遊矢も柚子も、すべきではないとはわかっていながらも、思わず彼らに圧倒されてしまう。
「デッカイ……てか強そう……」
「ああ。こいつはほんとに強いぜ?」
得意げになる竜崇の後方で、2体の恐竜が唸り声をあげる。
血を寄越せ、今すぐにでも戦いを味合わせろと、そう催促しているように感じられた。
しかし、遊矢としては、あんな大型モンスターの攻撃を受けるわけにはいかないので、ウィップ・バイパーの効果をここで使うことにした。
「俺は"EMウィップ・バイパー"の効果発動!お互いのメインフェイズに1度、フィールドのモンスター1体の攻撃力と守備力を入れ替える!俺は"ダイナレスラー・キング・Tレッスル"の攻撃力と守備力を――」
「ははははははははっ!そりゃあ無理だぜ!」
「……何がおかしい?」
ウィップ・バイパーの効果を使おうとした遊矢だが、竜崇がそれを聞いて大笑いする。一体何がおかしいというのだろうか。
むっとする遊矢と柚子に、呆れながら竜崇が説明する。
「
理屈としては、エクシーズモンスターと同じだ。
エクシーズモンスターはレベルを持たないので、レベルを参照する効果を受けないし、適用できない。それはもちろん遊矢も知っている。
リンクモンスターも理屈としては同じで、守備力が0なのではなく、ない。故に守備力を参照するウィップ・バイパーの効果を適用できないのだ。
「そんな……ずるいわよ……!」
「榊遊矢、お前だってペンデュラム召喚で似たようなことしてたんだからさ、お前にオレを責める資格はないんだぞ?そこんとこしっかり理解してる?」
遊矢がペンデュラム召喚の創始者であることを引き合いに出しながら、逐一自分を正当化する竜崇に、柚子は怒りが抑えきれないでいた。この身体が自由ならば、自分が
しかし、今更知ったところで、既にウィップ・バイパーの効果を発動してしまった以上、キャンセルはできない。ここから遊矢はウィップ・バイパーの効果の適用先を決めなければならない。
(ならば"ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット"だ。アイツはシンクロモンスターだからウィップ・バイパーの効果が通じる――)
キング・Tレッスルに効果が通じないならば、シンクロモンスターであるギガ・スピノサバットに使おう。攻撃力3000のモンスターを1体でも弱体化できればそれでいいと判断し、遊矢は効果の適用先を選ぼうとする。
しかし、竜崇はそれを読んでいた。
そして、事前に手に入れていたアクションカードで遊矢の行動を先回りして潰しにかかった。
「お前の考えはお見通しだ!オレはアクション
「……俺はウィップ・バイパーの効果の対象をオヴィラプターに変更。攻撃力と守備力を入れ替える」
魂喰いオヴィラプター:☆4 ATK1800/DFE500→ATK500/DFE1800
2体の大型モンスターへの効果適用ができない以上、こうする他なかった。
竜崇は笑いながら、蹂躙開始を宣言する。
「じゃ、遠慮なく蹂躙するぜ……バトルフェイズ!オレは"ダイナレスラー・キング・Tレッスル"で"EMウィップ・バイパー"を攻撃!」
「頼むウィップ・バイパー!アクションカードを狙うぞ!」
竜崇の命令を受け、"ダイナレスラー・キング・Tレッスル"が遊矢のいる方へと走ってくる。
遊矢はアクションカードでこの状況をどうにかすべく、ウィップ・バイパーの尻尾を自身の手に巻き付けながら飛び上がる。それと同時に、ウィップ・バイパーは遊矢の期待に応えるように自身の身体を長く伸ばし、発動中の"ワールド・ダイナ・レスリング"のフェンスを顎で噛んで掴む。
そして、遊矢はウィップ・バイパーの身体をワイヤーロープのように使い、リングから離れようとする。
しかし、
「アクション
ダイナレスラー・キング・Tレッスル:ATK3000→3300
竜崇がアクションカードを発動すると、"ワールド・ダイナ・レスリング"が消滅し、それと同時に、リングを支えとしてたウィップ・バイパーと遊矢も落ちてしまう。
悲鳴をあげながら落ちる両者に、キング・Tレッスルの鋭い爪が迫る。
避けることはできない。
「張ったフィールド魔法をすぐに破壊した⁉ 」
「"ワールド・ダイナ・レスリング"には、お互いに1ターンに1体のモンスターでしか攻撃できないデメリットがあるからな……お目当てのテラ・パルクリオのサルベージ効果も使い終わったし、総攻撃には邪魔だろ?オレ達の
「ぐああああああああああああああああああああああっ!」
「遊矢!」
遊矢:3000LP→1400LP
キング・Tレッスルがウィップ・バイパーの尻尾を掴み、遊矢目がけて勢いよく投げつける。
投げられたウィップ・バイパーは遊矢に激突するとともに消滅し、遊矢は勢いよく吹っ飛び、近くのテナントのシャッターに叩きつけられる。
「止めだ!"ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット"で"EMペンデュラム・マジシャン"を攻撃!」
立ち上がろうとする遊矢。しかし、その動きは遅い。
竜崇の命令を受け、最後に残ったペンデュラム・マジシャン目がけてギガ・スピノサバットの右脚が飛んでくる。この一撃を受ければ遊矢のライフは尽きる。
「これでフィニッシュだああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「遊矢ああああああああああああああっ!」
柚子の絶叫をBGMとして伴いながら、ペンデュラム・マジシャンの鳩尾にギガ・スピノサバットの右脚がめり込む。その瞬間、ペンデュラム・マジシャンは苦悶の声をあげながら爆発四散し、突風が吹き荒れる。
勝利を確信した竜崇が勝利の雄たけびを上げるその目の前で、爆炎が遊矢の姿を覆い隠していく。
「――オレの、勝ちだ」
****************************************
AM2:08
プラネットプラザ正面入口前
零児VSサキュラス
サキュラス:4000LP
零児:4000LP
「リンク召喚、か」
「ああ。これが俺の力……お前を倒す力だ」
本来この世界に存在するはずのない召喚法・リンク召喚。それを目の当たりにした零児は、懐かしい感覚に包まれていた。
それは今から2年前。榊遊矢がとあるプロ
そして今、その時に近しい感情が零児の中に蘇っている。
未知の召喚法を使う目の前の相手は、一体ここから何を見せてくれるというのか。期待の眼差しを込めた目線を受けながら、サキュラスは
「俺は"レスキューラビット"を召喚。そして"レスキューラビット"を除外し、効果発動。こいつは自分をフィールドから除外することで、レベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚できるのさ。俺は"聖杯を戴く巫女"2体を特殊召喚!」
レスキューラビット:☆4 ATK300
聖杯を戴く巫女:☆2 DFE2100
安全ヘルメットを被ったウサギがフィールド上に召喚されたと思いきや、ウサギはすぐさま消滅し、入れ替わりに、杖の様なものを持ち、巫女装束の様な衣装に身を包んだ少女型のモンスターが2体姿を現す。デュエルのルール上はあり得ることなのだが、ソリッドビジョンの存在も相まって、全く同じ姿をした少女が並んでいるというのは、どこかシュールさを感じずにはいられない。
「"星杯竜イムドゥーク"が場に存在する限り、俺は通常召喚に加えて"星杯"モンスター1体を召喚できる。俺は"星杯竜イムドゥーク"をリリースし、"星遺物―『星杯』"をアドバンス召喚!」
星遺物―『星杯』:☆5 ATK0
サキュラスの目の前に、巨大な蒼銀色に輝く謎の機械の様なものが出現する。それは青く光っており、何とも言えない神秘的な雰囲気を放っている。
「そしてイムドゥークの効果発動!イムドゥークがフィールドから墓地に送られた時、手札から"星杯"モンスター1体を特殊召喚する!来い、"星杯の妖精リース"!」
星杯の妖精リース:☆2 DFE2000
間髪入れず、サキュラスが新たなモンスターを呼び出す。
呼び出されたのは、小さな銀色の妖精だった。妖精は無邪気に笑いながらサキュラスの周囲を何周か飛び回った末に、"星杯を戴く巫女"の型に乗っかる。
「リースが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから"聖杯"モンスター1体を手札に加える。俺は2体目の"聖杯に誘われし者"を手札に加える……再び見せてやろうか?リンク召喚を!」
「またリンク召喚をするのか⁉ 」
「アローヘッド確認!召喚条件は"星杯"モンスター2体!俺はフィールドの"星遺物―『星杯』"と"星杯の妖精リース"をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク2!"星杯剣士アウラム"!」
星杯剣士アウラム:LINK2(右下/左下) ATK2000
現れたのは、剣と盾を装備した少年剣士だった。
「墓地に送られた"星遺物―『星杯』"の効果!通常召喚したこのカードがフィールドを離れた時、デッキから"星杯"モンスター2体を特殊召喚する!俺は"星杯に選ばれし者"2体を特殊召喚!」
星杯に選ばれし者:☆3 ATK1600
サキュラスのフィールドに、剣と盾を装備し、赤いマフラーとゴーグルを身に付けた銀髪の青年が2人出現する。どことなく先ほど召喚された"星杯剣士アウラム"に似ているように見えるのは気のせいではないだろう。
「アローヘッド確認!召喚条件は"星杯"モンスター2体!俺はフィールドの"聖杯を戴く巫女"と"星杯に選ばれし者"をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク2!"星杯神楽イヴ"!」
星杯神楽イヴ:LINK2(右/左) ATK1800
現れたのは、"星杯を戴く巫女"と似た少女だ。恐らく同一人物(という設定のモンスターカード)なのだろうが、持っていた杖は光を放っていたり、服装が若干異なったりしている。少年漫画風に表現するならば、"覚醒した"とでも表現すべきだろうか。
零児が冷静に観察していると、サキュラスが得意げそうに解説を入れてくる。しかしそれは親切心からではなく、マウントを取りたいという傲慢さからの行為だということは、誰が見ても明らかであった。
「リンクモンスターはEXモンスターゾーンか、リンクモンスターのリンク先――リンクマーカーの指し示す先にしか特殊召喚できない。脳死で出来る芸当じゃないのさ、リンク召喚はな」
サキュラスは自身のリンク召喚を随分と鼻にかけている様だが、零児は意に介さない。寧ろ、
確かに、未知の召喚法自体には驚かされた。しかし、それだけだ。
いくら特別なモノを有していようが、その程度で奢る様では底が知れるというものだ。例え今サキュラスと対峙しているのが零児でなくとも、ある程度の実力者ならば、サキュラスの態度は全くもって“強者”ではない。寧ろ弱く感じるモノでしかない。とんだ期待外れだ。
そんな感情が籠った零児の目線を受けたサキュラスは、それが大層面白くなかったようで、舌打ちをしながらカード効果を発動する。
「俺は"星杯剣士アウラム"の効果発動!アウラムのリンク先にいる2体目の"聖杯に選ばれし者"をリリースし、墓地の"星杯竜イムドゥーク"をアウラムのリンク先に特殊召喚する!」
サキュラスがそう言うと、"星杯に選ばれし者"が消滅するとともに、アドバンス召喚のリリースによって墓地に行ったイムドゥークが復活する。
「4回目ぇえええ!アローヘッド確認!召喚条件はリンクモンスター2体以上!俺はフィールドのイヴとイムドゥークをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク3!"星杯戦士ニンギルス"!」
星杯戦士ニンギルス:LNK3(右/上/左) ATK2500
「墓地に送られた"星杯神楽イヴ"の効果!手札から"星杯に誘われし者"をニンギルスのリンク先に特殊召喚!」
4回目のリンク召喚で出現したのは、"星杯に誘われし者"と同一人物と思われる青年だ。しかし、古びた外套に身を包んでいた"星杯に誘われし者"とは異なり、青く光る槍と鎧を身に着けており、その存在感はなかなかのものだ。
「ニンギルスの効果発動!ニンギルスがリンク召喚に成功した時、自身のリンク先の"星杯"モンスターの数だけドローする!」
ニンギルスが出されたのはアウラムの存在するEXモンスターゾーンの真下。ニンギルスのリンク先には、"星杯剣士アウラム"と"星杯に誘われし者"の2体の"星杯"モンスターがいる。故にドロー枚数は2枚となる。
「俺はドローした魔法カード"星遺物の
サキュラスはデッキの上から5枚カードをめくってゆく。めくったカードは"星遺物を巡る戦い"・"星遺物ー『星杖』"・"星遺物ー『星櫃』"・"タスケルトン"・"
サキュラスはそう判断し、"星遺物を巡る戦い"を手札に加え、残りの4枚を墓地に送る。
「俺は墓地の"聖杯に選ばれし者"2体を除外し、手札から"星遺物の守護竜メロダーク"を特殊召喚!」
星遺物の守護竜メロダーク:☆8 ATK2600
サキュラスがそう言うと、彼の目の前に、煤けた色合いの翼竜が出現する。
「こいつは手札・墓地の通常モンスター2体を除外して特殊召喚できるモンスター。そして、メロダークがフィールドに存在する限り、相手モンスターの攻守は俺の場のドラゴン族モンスターの数×500ダウンしてしまうのさ」
DDD怒涛王シーザー:TK2400→1900
DDD呪血王サイフリート:ATK2800→2300
DDD神託王ダルク:ATK2800→2300
DDD死偉王ヘル・アーマゲドン:ATK3000→2500
「そして"星杯戦士ニンギルス"の効果発動!お互いのフィールドのカードを1枚ずつ墓地に送る!俺は"星杯に誘われし者"と"DDD怒涛王シーザー"を選択する!」
ニンギルスが手に持った槍を振るうと、零児のフィールドの"DDD怒涛王シーザー"と"星杯に誘われし者"が光の粒子となって霧散する。
「フィールドから墓地に送られたシーザーの効果発動!デッキから"契約書"カード1枚を手札に加える」
零児は墓地に送られたシーザーの効果を使い、次のターンへの布石を打つ。
サーチしたカードは融合召喚を行える効果を持つ"魔神王の契約書"。今すぐ使えるカードではないが、それでもあった方がいいのだ。
それを見てサキュラスはほくそ笑む。
次などあってたまるか。たかが原作キャラの1人に自分が負ける道理はないと高をくくりながら、カードを発動する。
「フィールド魔法、"星遺物との邂逅"発動。これにより"星杯"モンスターの攻守は300アップする」
星杯戦士ニンギルス:ATK2500→2800
星杯剣士アウラム:ATK2000→2300
星遺物の守護竜メロダーク:ATK2600→2900
「これで準備は完了……さあ、思う存分蹴散らしてやる!バトルだっ!"星遺物の守護竜メロダーク"で"DDD死偉王ヘル・アーマゲドン"を攻撃ぃ!」
「…………っ!」
零児:4000LP→3600LP
フィールド魔法とメロダークの効果により、零児のモンスターの打点は悉くサキュラスのモンスターのそれを下回っている。おまけに零児の場には攻撃を防ぐカードがない。メロダークのブレス攻撃により、ヘル・アーマゲドンは跡形もなく粉砕されてしまった。
ヘル・アーマゲドンには、味方モンスターが破壊された際にその攻撃力を自身の攻撃力に加える効果を持つ。だからサキュラスは真っ先にヘル・アーマゲドンを撃破したのだ。
「続いてニンギルスでサイフリートを破壊!」
「くっ……だがこの時、サイフリートの効果発動!フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚の効果を次のスタンバイフェイズまで無効にする!私は"地獄門の契約書"を選択!」
零児:3600LP→3100LP
サキュラスの命令に従い、ニンギルスが槍を振り下ろす。
零児は破壊される寸前にサイフリートの効果を発動する。
"契約書"カードは、維持し続けることで大きなアドバンテージを稼げるが、代償として自分スタンバイフェイズ毎に効果ダメージが発生する。このターンに受ける戦闘ダメージの量によっては、次のスタンバイフェイズに契約書の効果で自滅しかねない。なのでそれを回避すべく、零児はサイフリートの効果を使ったのだ。
「"DDD呪血王サイフリート"の効果発動!サイフリートが墓地に送られた時、自分フィールドの"契約書"カードの数×1000LP回復する!」
零児:3100LP→4100LP
零児のフィールドには発動中の"地獄門の契約書"が1枚。よって零児は1000LP回復する。
「最後に、"星杯剣士アウラム"で"DDD神託王ダルク"を攻撃!そしてこの時、速攻魔法"星遺物を巡る戦い"を発動!"星遺物の守護竜メロダーク"をエンドフェイズまで除外することで、神託王ダルクの攻守の数値をメロダークの攻守の数値分ダウンさせる!」
「何っ⁉ 」
DDD神託王ダルク:ATK2300/DFE2000→ATK0/DFE0
サキュラスがカードを発動すると、メロダークが禍々しいオーラとなって実態を失うと共に、そのオーラが信託王ダルクに纏わりつき、彼女をみるみるうちに弱体化してゆく。
これでダルクの攻撃力はゼロ。対してアウラムの攻撃力はフィールド魔法の上昇分を加味して2300。大ダメージは逃れられない。
「ぬう……っ!」
零児:4100LP→1800LP
アウラムの剣撃によってダルクが悲鳴を上げながら一刀両断される。
零児は戦闘ダメージを暗いながらも、膝をつくまいとなんとか踏ん張る。発生した爆風が零児のマフラーを激しく靡かせ、周囲の街路樹を揺らし、電灯にヒビを入れる。
「俺は魔法カード"貪欲な壺"を発動。墓地のモンスター5体をデッキに戻してシャッフルし、2枚デッキからドローする。さらに墓地の"
サキュラスがデッキに戻したカードは、星杖・星櫃・イヴ・イムドゥーク・巫女の5枚だ。
これでサキュラスの手札は2枚の消費で1枚増えたことになる。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド。そしてこの時、"星遺物を巡る戦い"の発動コストとして除外されたメロダークが帰還する」
サキュラスがカードを2枚伏せると同時に、メロダークが再び彼のフィールドに舞い戻ってくる。
それを零児は無言で見ていた。
「…………」
「恐れをなしてビビってんのか?」
「リンク召喚…………存分に堪能させてもらったよ。ならば私もそれに応えるまでのこと。それがエンタメデュエルではないのかね?」
「はっ、何がエンタメデュエルだ!
「それはそうと……勝ち誇るのはまだ早いと思うぞ。勝負はまだ決していないのだからな」
零児はそう言うと、デッキに指をかける。
彼の言うとおり、まだ勝敗はついていない。
零児は眼鏡を光らせながら、カードをドローする。
「ここからは私のプランニングだ。心行くまで堪能していくがいい」
**********************************
AM1:48
プラネットプラザ2階・フードコート
フードコートで古峰諭太――インクリングオリジオンと対峙することとなった迫真空手部の3人。
同時に戦闘を開始した律刃と寧理――ティロ・フィナーレオリジオンは、早々にフードコートを飛び出し、アクロバティックな空中戦を繰り広げている。
バンッ!と、インクリングオリジオンが、フードコート内の椅子の座面に乱雑に足を置く。これは威嚇だ。とっとと失せろと言外に告げているのだ。
しかし、野獣も三浦も動かない。野獣の方はオリジオンの意図を読み取ったうえであえて無視しているのだが、三浦のほうは多分わかっていない。恐らくだが、「椅子に足乗っけるなんて行儀悪いゾ~コレ」程度のことしか考えられていないと思う。少なくとも木村の目にはそう映っている。
一向に自分の意に従わないホモ達に痺れを切らしたのか、インクリングオリジオンが口を開いた。その声色には「言わなきゃわかんねーとか馬鹿なのか、察せよステハゲ」という、野獣達への苛立ちが込められていた。
「まさかとは思うが、生身の人間が俺に勝てると思っているのか?」
「その偉そうな態度、頭に来ますよ~?」
「初対面の人にそんな態度取ってたら友達出来ないゾ」
「三浦先輩は黙っててください」
ぽきぽきと、野獣が拳を鳴らす。
同様に、チラチラと三浦がインクリングオリジオンを見る。
見事なまでに対話は不成立だった。そもそも互いに対話できるほどの知性がないので当然ともいえるが。
インクリングオリジオンは、足を乗っけていた椅子を乱雑に蹴とばす。それが、戦いの合図だった。
「どうしても邪魔すると言うならば、崇高なる我らの使命の前に死ね!」
「ファッ⁉ 」
インクリングオリジオンはそう吐き捨てながら、手に持った水鉄砲のようなものから何かを撃ちだした。そのあまりにも早い一撃に、一介のホモである野獣は反応できず、もろに顔面にそれを喰らってしまう。
瞬間的に、野獣の視界が黒く染まる。今の一撃は目潰しを狙ったものだったのだ。血は流れてはいないが、何かが野獣の目元にぶっかけられたような感触がする。
「野獣⁉ 」
「ヘーキヘーキ、平気だから……!」
三浦が心配するが、野獣はそう返す。
野獣が今顔面にくらったものは、別に毒液とかそういう類のものではない。この妙に鼻につく匂い、生温かくて粘り気のある感触を、野獣は知っている。
「インクか……くそ、目が……!」
少し前に投げつけられたカラーボール。それと同じだ。
野獣の顔にかかったインクは、彼の目を一時的に潰すことに成功している。先ほどから野獣達を見下す発言を繰り返してばかりだが、どうやら相手は慎重派のようで、万全を期して、目を潰したうえで仕留めるつもりらしい。
兎に角、まずは顔についたインクを拭うのが先だ。インクが目に染みたことで発せられた痛みに顔をしかませながら、野獣は手で目元のインクを拭い去る。ねっちょりとした不快な触感が目元から手に移動し、野獣の視界が開ける。
初手からこんな真似をしやがって、と野獣は怒り心頭だった。兎に角あの
が。
「あれ、どこにいった?」
気づいたときには、インクリングオリジオンの姿が消えていた。
辺りを見渡すと、そこかしこがインク塗れになっている。椅子やテーブルは押し倒された上にインク塗れになっており、近くでは野獣同様にインクで目潰しされた三浦がウロウロしている。
この調子では、三浦にオリジオンの居場所を聞いても恐らく無駄だろう。三浦の役立たずっぷりに舌打ちをしながら木村に声をかけようと思ったが、姿が見えない。
その時、
「ここだよステハゲ野郎」
足元でインクリングオリジオンの声がしたかと思えば、次の瞬間、野獣の下顎にオリジオンの拳がめり込んでいた。
顎を中心とした鈍い痛みが野獣に襲い掛かり、野獣は背中からインク塗れの床に倒れる。
「テメッ……どこから……!」
野獣は起き上がって反撃しようとするが、身体に纏わりつくインクの重みが、その動きを遅くする。
いや、何かがおかしい。いくらなんでもこれはインクの粘り気ではない。まるで文字通り、ぬかるみの中にいるような重さだ。野獣の身体はインクの海から起き上がることは敵わずに、ずっとインクの上に倒れたままだ。
それに、
そう考えていると、突然、野獣の首元に圧迫感が生じた。目をやると、野獣の頭の近くの床にかかっているインクの中から、インクリングオリジオンの腕が伸びており、野獣の首を絞めているのだ。
「お前はもう捕らえた。後はあそこの馬鹿坊主だけだ」
野獣のすぐ後ろで、インクリングオリジオンの声がした。なんとか目を動かすと、野獣の頭のすぐ近くから、インクリングオリジオンの頭部が突き出ていた。まるで水上の得物を水中から引きずり込もうとするかのように、オリジオンが野獣をインクの中から抑え込んでいる。
ずぶずぶと、徐々に野獣の身体が沈んでゆく。
どうやらこのインクの中は異次元空間か何かになっているようで、見た目以上の深さを有している。オリジオンが最初に姿を消したのも、こうしてインクの中に潜っていたからなのだろう。
野獣はそれを理解したが、だからといってこの状況が解決するわけではない。こうしている間にも、野獣の首はさらに強く絞められている。このままでは絞殺されてしまう。
「後輩は既に俺が捕らえている……このまま殺す!」
インクリングオリジオンはそう言うと、インクの中からもう片方の腕を引き上げる。その腕の先には、首を絞められてもがいている木村の身体があった。木村は一番最初にやられていたのだ。
ここで、ようやくインクを処理できた三浦が、後輩たちの危機を目にすることになる。三浦の目に映ったのは、今にも死にそうな野獣と木村の姿。
馬鹿な三浦でもわかる。自分がどうにかしなければ野獣達が死ぬと。だから、一目散に駆け出した。
――何故か尻を丸出しにして。
「野獣!木村!待ってろすぐ助けるゾ!迫真空手肆の型――
三浦はそう叫びながら、インクリングオリジオン目がけてヒップドロップを繰り出した。オリジオンに迫るむちむちとしたホモ坊主の尻。その悍ましい光景から逃れようと、インクリングオリジオンはインクの中へと再び潜行しようとする。
しかし、そこに追い打ちをかけるように、三浦の尻穴からブフォオオオッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と下品極まりない爆音が鳴った。尻を突き出した体勢でこの音、そしてたちまち周囲を包み込むこの刺激臭は、誰もが知っている。
――わざわざ明言しなくてもわかるだろうが、ここはあえて明言しよう。
三浦の渾身のオ○ラが、インクリングオリジオンの顔にぶっかけられた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ⁉ 」
三浦のオ○ラをもろに浴びたインクリングオリジオンは、声にならない悲鳴をあげながら、野獣達から手を放してインクの中に潜り込んでいった。そりゃあそうだ。
そしてだ。
インクリングオリジオンが至近距離でオ○ラを浴びたということは、当然ながら傍にいた野獣と木村もそれをモロに浴びたということで……
「臭すぎィ!イクイクイクイクイク……」
「ぷももえんぐえげぎおんもえちょっちょっちゃっさっ……」
御覧の有様である。
野獣はぴくぴくと汚らしく痙攣しているし、木村も普段の真面目なキャラが木っ端微塵になるレベルで悶絶している。というかこうなるんだったら結局首絞められるのと大差ないと思うのだが、そこのところは三浦的にはどうでもよかったのだろうか。
三浦は死にかけてる後輩二人を見て、いい仕事したな~とでも言っているかのように満足げな顔をしている。その様子を見て、野獣と木村の中に三浦に対する殺意がふつふつと湧き上がる。
「おえええええええええええええええええええええええええっ……この野郎っ……!普通この流れで屁こくか⁉ コロコロコミックじゃあねえんだぞ⁉ 」
野獣達から少し離れたところでは、インクリングオリジオンが吐いていた。
彼の心の中に生まれたのは、絶大なる屈辱感だった。
前世と合わせて50年以上生きてきたが、こんな屈辱を味わったのは初めてだ。この汚らしい
洗脳で脳味噌がぐじゃぐじゃになっているインクリングオリジオンの脳内が、屈辱感で更にかき混ぜられてゆく。
「テメエら、覚悟しとけよ…………」
「お、起きるゾ!」
怒りのままに、インクリングオリジオンはインクの中から身体を起こす。
そして、思いっきり叫んだ。
「いい加減にしろよホモ共め……この恨みと怒り……テメエらの“屈辱ある死”で支払ってもらうぜえええええええええええええええええええっ!」
*******************************
「…………なにこれ?」
逢瀬湖森は目を覚ますと、ロープでぐるぐる巻きにされら状態で天井につるされていた。
人間、あまりに驚きすぎると声を失うようで、湖森は自分が置かれている状況を理解した途端に、声にならない悲鳴をあげた。
どれくらい無音の悲鳴を上げ続けただろうか。掠れ気味ながらも声を取り戻した湖森は、当然の疑問を口にする。
「どうなって……なんでこうなっているんだっけ……?」
彼女のすぐ横では、トモリが同じようにぐるぐる巻きにされた状態で吊るされていた。湖森とは違って、まだ意識を取り戻してはいないようだ。じんわりと頭に痛みを感じる辺り、どうやらぶん殴られて気絶させられ、その間にこんな状態に置かれたらしいということはわかった。
上を見ると、天窓が見えた。そのすぐそばからはロープが吊るされており、それは真っ直ぐに下に延び、その終端に湖森とトモリを縛り付けたうえで彼女たちの身体を吊るしている。
下を見ると、かなり下方に床が見えた。今彼女達がいるのは、ショッピングモール3階の天井付近。彼女達の下には吹き抜けがあり、1階まで足場は皆無。地上までの距離にして10数メートルはあるだろうか。もしこの高さから落ちれば、致命傷は免れないだろう。それを想像しただけで、湖森はサーッ!と血の気が引いていくのを感じる。
と、ここでトモリも目を覚ましたようだ。
「ん……ここは……?」
「と、トモリさん……」
トモリは朦朧とする意識の中で、ふと下を見る。
そして、彼女は完全に覚醒すると同時に激しく恐怖した。
「なっ、なっ…………ぎょええええええええええええええええええええええええええええええっ⁉ 」
「ゆ、揺らさないでよ⁉ 私達のロープは繋がっているんだよ⁉ 千切れて落ちたらどうするの⁉ 」
パニックになって暴れるトモリを必死に落ち着かせようとする湖森。もちろん湖森自身も怖いのだが、彼女が言ったように、2人は同じロープの両端に巻かれている。そして、そのロープは天井付近で天窓の枠に固定されている。なので片方のロープが千切れてしまえば、もう一方も自重で落下することになる。いわば運命共同体なのだ。
少女たちがパニくっていると、そこに、乾いた足音が近づいてきた。
湖森達は動きを止め、足音のした方を見る。彼女達が吊るされている位置より少し下、3階の中央通路から、彼女達を見上げる壮年の男性がいた。
「初めまして。私は
「倫吾たちの上司……?」
男はそう名乗ると、近くのベンチに腰掛ける。
「な……なんなのこれ⁉ 」
「君達は人質だ。アクロスとイスタ、その双方を我々AMOREの手に収めるための、な」
「人質って……そんなこと……」
「だがそれも徒労に終わったようだ。君の兄は我々との取引をふいにした。よって君達を生かす理由もなくなったというわけだ」
苛木はそう言うと、手元の端末を操作する。すると、空中に映像が投映される。
映像の中では、オリジオンと戦うアクロスが映っている。いや、アクロスだけではない。アラタも遊矢も、
苛木はベンチに腰掛けたまま、わざとらしく嘆く。
「彼らが大人しく要求を呑めば楽に済んだのだが……何故こうも意に沿わぬというのだ」
「初めからその気なんてない癖に、よくもまあぬけぬけとそんなことが言えますね」
その時、苛木のズレた嘆きを、とある声がばっさりと切り捨てた。それは湖森ではないし、トモリでもない。声がしたのは、苛木の足元だった。
彼の足元に、白い少女が鎖で縛られた状態で転がっている。ノースリーブのシャツとスカートを着用し、自らの頭上に天使の輪を思わせる機械を浮かべた少女だ。
「誰…………?」
少女 ーー イスタは、苛木を睨みつけている。
今彼女を縛り付けているのは
苛木は、足元に転がっているイスタを足蹴にしながら、余裕たっぷりに言う。それは、赤片聖鎖の存在からくる優位性によるものか、はたまた苛木自身の実力からくるものなのかは、外からは窺い知ることはできない。
「開口一番にそんな言葉を吐けるとは余程の怖いもの知らず……おっと、お前はアンドロイドだから恐怖なんてものとは無縁だったな、イスタ」
「この建物のあちこちに爆弾や各種トラップを仕掛けてあるのは既に感知済みです。大方、取引後に建物を爆破して敵対者を皆殺しにする腹積もりなのでしょう……貴方の部下もろとも」
「え…………じゃ、じゃあ倫吾くんたちは……?」
「御手洗倫吾に関してはクビにした。洗脳もうまくいかない役立たずの癖に本作戦に反対したからな……あれだけ盛大に
それを聞いて、湖森達は絶句した。
彼女はまだ社会に出たことはないが、それでも苛木の言っていることはが間違っているのはわかる。ブラック企業さながらの悪事を、まったく悪びれることなく言えるその精神性に、湖森とトモリは戦慄していた。
しかし、苛木は彼女達の反応が解せないようで、わざとらしく肩をすくめてつらつらと妄言を吐きつづける。それは、湖森達にとっては聞くに堪えないものであった。
「何を驚くことがある?崇高なる我らの理念に従えない屑が1人消えただけのこと……役立たずが排除されるのはこの世の摂理だろう?」
「おかしいよ……そんなの……」
「調和を乱すものは消えるべきだからな」
「黙りなさい!」
呆気に取られる湖森達の前で妄言を積み重ねる苛木だったが、ここでイスタが、その妄言達を一蹴する。
「慈愛を死に追いやったのは貴方達だということは知っています。貴方は自分が恨まれる立場だということをわかっていないようですね」
「憎いか?機械の癖に憎しみを感じるというのか?それならばお門違いも甚だしい。我々は正義と平和のために動いているのだ。君に使われている技術を徹底的に調べ上げて吸収すれば、転生犯罪者に煮え湯を飲まされ続けてきたAMOREの技術力は大きく躍進するはずだ。さすれば全次元秩序維持も叶う。私は大いなる善行を為しているのだよ」
「慈愛を殺したり、意に沿わない部下を洗脳したりもですか?」
「大儀の前の小事、だ。我々の意に沿わない身勝手な転生者が一人死んだだけだ。理想の礎になることに感謝してほしいものだがね……」
湖森はそれを聞いて、悟った。
ああ、駄目だ。こいつは話が通じない。自分の理想の為ならばあらゆる手段が正当化され、その過程で生じる犠牲を一切考慮しない邪悪だ。少しでも異を唱えたものは彼に排斥され、死してなお踏み躙られつづける。
そんな悪を、湖森は許せなかった。こんなことを許容してなるものか。きっと兄も同じことを言うはずだ。
そう思った次の瞬間には、彼女は口を開いていた。
「馬鹿じゃないの……思想だけで人がついてくると思ったら大間違いよ!」
「馬鹿は君だよ逢瀬湖森。清廉潔白な方法ではもはや間に合わない。どんな手を使ってでも我らが理想を実現せねば、その前に人類の愚かさによって世界が終わりかねない。後の世の者も分かるはずだ。我らの行いは平和のための大いなる善行であったと!」
「踏みつけられる者のことを考慮しないからそんなことを言えるのです!貴方のやり方では、レイの様な人間がたくさん生み出される!少しばかり人類史を振り返ればすぐわかることでしょう⁉ 」
イスタも苛木の暴論を否定する。
しかし次の瞬間、苛木はキレた。
「立場をわきまえろ!貴様らは取引材料と人質ということを忘れたか!その口を閉じぬと言うのならば今ここで壊しても構わぬのだぞ⁉ 我々が欲しいのはイスタの技術のみ!イスタそのものは破壊しても構わない!技術なんぞガラクタからいくらでも吸い上げられるのだからなあ!」
好き勝手な物言いを繰り返す人質達に苛ついた苛木は、ものすごい剣幕で怒りながら、腕にはめられたブレスレットに手をかける。
そのブレスレットは、彼の転生特典のトリガーとなる重要なもの。これを使えば、彼は
故に、苛木は圧倒的な自信を持っていた。
だがその時。
「起爆だ、吹っ飛びやがれ!」
そう声がしたかと思えば。
ズガアアアアアアアアアアンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と。
大きな音を立てて、苛木のすぐ後ろの床が爆発した。
「な、なに……」
「揺れりゅゆれりゅおちりゅうううううううううううううううううううっ⁉ 」
「この呼吸・熱量・生体波動は……まさか!」
天井から吊るされていたトモリと湖森は、もろに爆風に煽られて激しく揺すられパニックに陥る。こんな心臓に悪いブランコは初めてだ。サーカスの空中ブランコだって命綱代わりのワイヤーがいくらかあるだろうに。
しかしこの時、イスタの瞳に搭載された各種センサーは、爆炎の中にいる者達を正確に感知していた。否、そんなデジタルな情報ではなく、機械にあるはずのない勘や超感覚じみたもののような形で、彼女は理解していたのかもしれない。
もくもくと立ち上がる黒煙と共に、床を貫通するように開いた穴から、何かが飛び上がってくる。それはイスタと苛木の目の前に華麗に着地するとともに、彼らの足元に無造作に何かを投げ捨てる。
ドサリと大きな音を立てて床に投げ捨てられたそれを目にして、湖森達は絶句した。
「僕たちが一番乗りだね」
「コイツは果敢にも俺達に向かってきたから殺してやった。障害が多いほど恋は燃えるとは言うけどよぉ……これはちっとばかし許容範囲外だな」
「来たか、ギフトメイカー」
苛木は部下の死体を目の当たりにしても眉一つ動かすことなく、ただ二言だけ、そう言った。
この反応を目にして、湖森達は結論付けた。苛木甚作は自分達とは決して相いれない存在だ、と。部下を殺されても無反応を貫けるような非情さを有する人間との取引なんて成り立つはずがない。
黒煙の中から現れたのは2人。ひとりは、派手ながらの赤いシャツを着た、湖森とそう歳が変わらなさそうな小柄な少年――レド。もうひとりは、レザージャケットを羽織った青年――赤浦健一。
一番イスタを渡してはいけない連中が、真っ先にゴールに到達してしまったのだ。
赤浦は周囲を一瞥すると、歓喜の声をあげながらイスタに向かって一目散に駆け出した。
「待ってたぜイスタ……!さあ、俺の愛の生贄になってくれないか?」
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AM1:55
プラネットプラザ 3階中央通路西側
唯とセラは、触手に覆われた天井の下を走っていた。
なし崩し的に彼女達が最奥に向かうことになったのだが、思った以上にこのプラネットプラザは広い。結構な距離を走ったはずなのだが、未だに湖森達は見つからない。
だが、変化もあった。
天井を覆う触手のようなもの。進むにつれてその密度がだんだんと増してきているのだ。これが何を意味するのかはまだわからないが、少なくともこの先には何かがあるという証拠ともとれる。セラも唯も、自身が感じ取った勘を信じ、こうして進んでいた。
「この先だ。ここから触手は伸びている」
「なにがあるんだろう……」
天井から滴り落ちる粘液を避けながら走ること数分。
2人がたどり着いたのは、隅っこにある資材倉庫だった。その扉は固く閉ざされているが、扉と天井との隙間からは無数の触手が伸びている。ここが天井に広がる謎の触手の発生源であることは一目瞭然だった。
扉は粘液まみれとなっており、見るからにべたべたしていて触る気が失せてくる。だが、ここに何かがあるのは間違いない。
「だけど……触りたくないなあ……」
「それなら簡単だ。消し飛ばせばいい」
「え?」
唯が扉に触るのを躊躇っていると、セラが唯を押しのけて扉の前に立ち、剣を鞘から抜いた。
そして、剣を思いっきり振り下ろした。
「覇剣・
すると、剣の刀身が赤く光ると同時に、振り下ろされた剣から赤い衝撃波が発射され、べちゃべちゃな扉を貫いた。
ぶった斬られた扉は、フラフラと前後に揺れながら、大きな音を立てて部屋の内側へとぶっ倒れる。金属製の扉がバラバラになって崩れ落ちる様を目の当たりにした唯は、そのあまりの威力に思わず取り乱す。
「ちょちょちょセラちゃんんんんんんんんんっ⁉ 扉の向こう側に湖森ちゃんたちがいたらどうするのおおおおおおおっ⁉ 」
「安心しろ、ここにお前が探している奴は居ない」
「え、じゃあなんで――」
それならば何故ここにやって来たのか、と言おうとした唯だが、ここで気付いた。
バラバラになった扉の残骸の奥。真っ暗な資材倉庫の最奥に、人影が見える。部屋の入口から差し込む通路の照明に照らされ、辛うじてその輪郭だけは認識できた。
あれは湖森でもトモリでもない。あんな触覚みたいなものが生えたシルエットの持ち主なんて、唯は知らない。
「貴女は……だれ……?」
「酷いなあ、初手私を斬り殺そうとしたでしょ?せめて顔見せの時間くらいは欲しかったな~ほんと」
明かりの元に姿を現したのは、ゴスロリ衣装に身を包んだ少女だった。しかし、その外見は明らかに普通の人間ではない。紫色の髪の隙間から、昆虫の触覚や脚のようなものが何本も覗かせていたり、背中から蝶の羽根のようなものが生えている。そんな異形の少女が、倉庫内に置かれていた木箱に腰掛けている。
唯は彼女を見たことがある。半月ほど前、ビルドオリジオンの事件の際に、ギフトメイカーの一員として立ちふさがった少女の名前を、唯は知っている。
少女は、わざとらしく大あくびをすると、腰掛けていた木箱から降りて、一歩、唯達の方へと歩み寄る。
「いや~待ちくたびれたわ。こうしてセンサーを張り巡らせたはいいけど、思った以上に遅いんですもの。折角の興奮が冷めちゃうところだったのよ?」
「その常軌を逸した邪悪さ……扉越しにでもわかるさ。お前が触手の発生源……でいいんだな?」
「ええそうよ。私はギフトメイカーのリイラ。出来損ないの姉がお世話になったようね」
「姉だと……?」
少女が名乗ると同時に、彼女の背後から何者かがセラに向かって飛び掛かってきた。その人物は手に武器のようなものを持っており、その得物でセラを攻撃しようとしている。
セラは咄嗟に剣を構えてそれを防ぐ。ガキンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と大きな金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。襲撃者は攻撃を防がれたと判断すると、即座に得物を手放してセラから距離を取る。
カランと音を立てて、襲撃者の武器がセラの足元に落ちる。
それは一本のモップだった。見た目は木製だが、あの硬さや音は金属だった。おそらく、見た目だけは木製で中身は金属製なのだろう。
「誰だ⁉ 姿を現せ!」
セラは襲撃者にそう呼び掛ける。
直後、彼女目がけて闇の向こうから何本ものナイフが飛んできた。セラは剣でそれを弾き飛ばすと同時に、足元に転がっていたモップを、ナイフの飛んできた方向に目がけて蹴り飛ばした。モップはビュンと風を切りながら飛んでいき、壁にぶち当たると同時にぽっきりと2つに折れて散らばる。
唯は、セラが弾き飛ばして足元に落ちたナイフを見て、軽く震えあがる。セラが居なかったらおそらく既に唯は死んでいる。今この状況において、彼女は足手纏いでしかない。そんな事実を改めて思い知らされた唯は、拳を強く握りしめる。
「乱暴はだめですよ~?大人しく無抵抗でお嬢様に食べられてくださ~い☆」
8本目のナイフが弾き飛ばされた瞬間、唯の背後から、この状況にそぐわない媚び媚びな萌え声が聞こえてきた。
一体いつの間に後ろに回り込まれていたのだと驚きながら、唯は自身の背後にいるであろうもう一人の敵に対して反射的に肘鉄を喰らわせようとするが、唯が突き出した肘は空をきる。声の主は既にそこにはいなかった。
否、彼女は既に正面に移動していた。
それは、透き通るようなボリューム溢れる銀髪をツインテールにしたミニスカメイドだった。黒いワンピースの上からリボンやフリルが大量に盛られた白いエプロンを付け、頭には血の滲んだぐるぐる巻きの包帯の上から、フリルのあしらわれたヘッドドレスが載せられている。露出した肩やニーソックスとガーターベルトの組み合わせと、何から何まで徹底的にこてこての萌えを追求したような存在が、そこに居た。
そして、そのメイドの顔を、唯とセラは知っている。
だが、見知った口から発せられたのは、とんでもなく素っ頓狂な台詞だった。
「やっほ~☆みんなの玩具兼サンドバックをやらせてもらってます♡役立たずメイドのレイラちゃんですっ♡お嬢様のために残虐の限りを尽くして抹殺しますので、みなさん燃え燃え滅ッ☆してくださ~い♡」
「は……え?なんかキャラ思いきり変わってない?」
レイラと名乗った目の前の少女の変わりように、唯もセラも思わず間の抜けた声を出した。
唯は、彼女には一方的に襲われてばっかりでほとんど会話したことがないが、それでも今のレイラが正気ではないことは分かる。漆黒の軍服に身を包み、冷酷に自分達の命を狙ってきたあの彼女と、今目の前にいる彼女が全然結びつかない。誰かがレイラに成り代わっていると言われた方がまだ納得できるレベルだ。内面に共通点が全然見いだせないのだ。
敵ながらレイラの変貌に戸惑いを隠せない唯達の反応を見て、リイラはくすくすと笑いながら、嬉々として語りだす。
「ああ、これ?あんたが壊しちゃったからさ、もう一度洗脳してもらったのよ。私としては惨めったらしくて結構気に入ってるのよ……私を連れ戻しに来た勇敢なるお姉さまは、哀れなメイド人形に成り下がりました。
まるで万引きを自慢する中学生のようなノリでとんでもないことを暴露したリイラに、唯とセラはドン引きしていた。彼女の話どおりならば、リイラは自身の姉を嬉々としてこんな風に変えさせたのだ。一体どうすればこんなことをして平気でいられるのか、唯には想像もつかないし、したくもなかった。
「ギフトメイカー……お前らもイスタとやらを狙っているのか?」
「ええそうよ。でも私個人としてはそこまで興味はないの。興味があるのは……貴女達」
リイラはそう言いながら、セラと唯を指さす。
自分達に興味があるとは、一体どういうことなのだろうか?
「私達は同類なの。切っても切れない縁で結ばれた運命共同体……というか運命そのものなの」
「冗談じゃない……誰があなたみたいな性悪と一緒だ……!」
「はあ、どうやら何も知らないようで……まあいいか、そのほうが手っ取り早く済むし。特に貴女はまだ力を使いこなせていないみたいだし、私の手を煩わせないで済みそうね」
リイラはそう言いながら、唯達に歩み寄る。彼女が一歩歩くたびに、その背中から触手の様なものが1本ずつ伸びてくる。
唯は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、その場から動くことができなかった。リイラが何を言っているのか微塵も理解できないが、目の前の少女が危険人物だということは分かっている。これからとんでもなく碌でもないことが起きるということも分かってる。だが、威圧感と恐怖心が唯の足をがっしりと掴んで離さないのだ。
狂気の化身は笑う。
大好物にありつける喜びを全身で受け止め、脳内を快楽物質で満たしながら告げる。
「何もかも忘れて、私の中で身も心もひとつになりましょう?その方が今よりずっと素敵でしょう?」
それはある者にとっては死刑宣告で。
またある者にとっては
――ある者にとっては、覚醒の始まりだった。
インクリング戦が汚い-810点
本当はデュエルはこの回で決着つけたかったんですが、ボリュームの問題で次回に回しました。だって30000文字超えてんだぜ?馬鹿だろ(今更感)
ひとまず、これでひととおり対戦カードを並べ終わったので、次回からは各個消化していきます。さーていくらかかるかな〜(白目)
それではまた次回〜
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オリカ紹介コーナー
■ブレイクアップ
アクション魔法
⑴:自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊し、自分フィールドのモンスター1体を選んでその攻撃力をターン終了時まで500アップする。
■追蜂
アクション魔法
⑴:自分フィールドのモンスターの数が相手フィールドのモンスターの数と異なる場合に発動できる。その差の数までフィールドのモンスターを選んで破壊する。