【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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決戦編!
遅くなってすまねぇ!

※主人公が出ません


第33話 AM2:33/軌跡の果てより来る異眼(ビヨンド・ザ・オッドアイズ)

 

AM1:59

プラネットプラザ3階倉庫前

 

 

 最初に動き出したのは、リイラだった。

 

「そーれっ!」

 

 軽めなノリの掛け声と共に、彼女は天井へと伸ばしていた触手をベリベリと引き剥がし、唯達めがけて鞭のように振り下ろした。

 唯は慌てて身を屈めながら吹き抜けのある方へと逃げ出す。外れた触手は勢いよくバウンドしながら、今度は隣のセラに狙いを定める。

 しかし、セラは瞬時に剣を振り抜き、自身に向かってきた触手を切断する。人間の動体視力を遥かに凌駕する一閃により、触手はただの肉でできた残骸に成り下がった。

 リイラは続いて数本の触手を伸ばすが、それらも全てセラの剣撃によってあっさりと切断されてしまう。

 ここでリイラは考えた。触手センサーを大規模に展開して消耗している今の状態で、やる気満々のセラを相手取るのは面倒くさい。ならばもうひとりの、簡単な方からやってしまおう。

 

「決めた、あっちから先に食べちゃおっ」

「なっ……待て!」

 

 リイラはセラを無視して、天井から引き剥がしたものとは別に、もう2本程触手を背中から生やすと、その触手を脚のように使って唯を追い始めた。触手の先で壁を蹴り、その勢いを以て一気に唯との距離を詰めてゆく。

 セラは、そうはさせまいと動くが、その時、彼女の足元に何本ものナイフが突き立てられる。

 セラが振り向くと、血走った目をしながらモップを構えたレイラが、セラめがけて突っ込んできていた。

 

「お嬢様の邪魔はさせませんっ!貴女の相手はこの敗北クソザコメイドのレイラちゃんが相手しますっ☆」

「……戦う前から敗北クソザコメイドを自称するなよ!」

 

 当然の突っ込みを入れながら、セラは剣でモップを切断しようとする。レイラも負けじと、セラの胴体を粉砕する勢いでモップをぶん回す。狙うは鳩尾。セラは知らないが、レイラのモップは人体ぐらいは軽く粉々にできる代物(Made in バルジ)だ。まともに当たれば即死は免れない。

 それを知らないセラだったが、その程度の情報アドバンテージの差では彼女を殺すことはできない。ガギンッ‼ と激しく火花を飛び散らせながら、セラの剣とレイラのモップが衝突する。

 

「わたし、騎士って嫌いなんですよね~。なので死んでくれませんか?」

「それはできない。貴様らの悪辣さを看過するわけにはいかないし、私にはやらねばならないことがある――!」

 

 片や、異界より現れし騎士。

 片や、哀れな玩具と化した少女。

 不要な戦いの火種が、またひとつ生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 そして、リイラとの追いかけっこに興じさせられることとなった唯はというと。

 

「なんでっ……こっちに向かってくるのさ⁉ 」

「弱そうなやつから狙うのが狩りの基本なのよ。覚えておきなさい」

「おぼえておきたくないいいいいいいいっ!」

 

 迫りくる触手だったり溶解液だったりを必死にかいくぐりながら逃げていた。

 というか湖森達を助けに来たつもりなのに、なんでこんな人の形をした化け物と追いかけっこしなきゃらなんのだ。なんでギフトメイカーに横やりを入れられなければならないのだと、不平不満を心の中にため込みながら、唯は必死に走る。

 此方を刺し殺さんとするような勢いで飛んできた触手を、唯は前方の柱に飛びつきながら避ける。

 標的から外れた触手は床に勢いよく突き刺さり、そこに二の腕ほどの直径の穴を残して引っ込んでゆく。それを見て、唯の血の気が一気に引いてゆく。

 

(やっぱ無理だ!私なんの力もないし……勝てない!)

 

 感じたのは、圧倒的格差。

 肉食獣に追い詰められた草食獣の如き恐怖感が、唯の心を覆ってゆく。 

 

「しぶといわね、貴女」

「……一応運動神経には自信があるんだよね」

 

 伸ばした触手を引っ込めながら、リイラが近づいてくる。それは、人の形をした恐怖の象徴にしか見えなかった。

 だが、それを悟られないように、唯は強気に言葉をかえす。

 勝率0%でも、逃げの一手を選ぶ気はさらさらない。

 何故ならば。

 

(ここで逃げたらまた瞬が遠くなる……!瞬や皆が戦ってるってのに、逃げることなんてできない!ここで逃げたら女が……諸星唯の名が廃る……!)

 

 それはただの意地でしかないということは、唯自身も理解している。デッドエンドへの片道切符であることも分かっている。

 だが、引けない。

 それ以上に、幼馴染みに置いていかれることの方が、唯にとっては怖いのだから。

 そんな唯の感情を知ってか知らずしてか、リイラは笑みを浮かべる。

 

「貴女さあ、本気で私と戦おうとか思っている?」

「乙女の意地を勝手に読み取らないでよね」

「いや、馬鹿だなあと思って」

 

 それは、リイラからすれば至極真っ当な感想だった。

 つかまっていた柱から身体を離し、床に足を下ろした唯の動きがピクリと止まるが、リイラは気づかずに続ける。目の前の弱者の思い上がりを排するために。

 

「貴女は間違いなく弱い。こうして私に抗う術を持たないレベルで。にもかかわらずつまらない意地張って戦場に立って……誰の背中追いかけてるのか知らないけどさ、きっとそいつも内心では鬱陶しいと思ってるわよ。そんなことすら考えられないから、馬鹿だと言ったの……わざわざ言わせないでよ……ねっ!」

「ごふっ……!」

 

 瞬間、リイラの右ストレートが唯の頬にめり込んだ。もろに一撃を喰らった唯は女の子らしからぬ声をあげながら、側頭部から床に倒れる。

 わざわざ素手で殴ったのは、手加減したからではない。その逆、唯を心身ともに追い詰めたうえで喰らうためだ。彼女の志を否定したうえで、その全てをむさぼる。()()()()()()()()()()。そこに理屈なんてなかった。

 

「ほら、つまらない意地張るのなら、それに見合う道化っぷりで楽しませてよ!そのほうが楽しいじゃない!」

 

 唯を煽り立てるリイラの頭に生えていた触覚から電撃が飛ばされた。

 床に倒れていた唯は、リイラから離れるように床を転がって電撃を回避していく。だが、攻撃の雨は止まない。

 間髪入れず、リイラの触手が飛んでくる。まだ立ち上がれないでいる唯の身体を3等分にしようと、先の尖った2本の触手が迫りくる。それは、ただの女の子を殺すにはいささかやりすぎともいえる代物にも感じられた。

 が、唯も黙って殺されることを望んではいない。ダンッ!!!! と彼女は手で勢いよく床を押し、その反動を利用して起き上がる。その動きは、まるで地面に倒れるのを逆再生したかのような不自然さが見受けられるほどのものだったが、これは純粋に彼女の身体能力が為した技だ。またまた標的を外した触手たちは、唯の身体の代わりに床をえぐり取ってゆく。

 が、少女のギリギリの綱渡りもここまでだった。

 彼女が顔を上げた時には、既にリイラは触手を切り離し、唯の眼前に迫っていた。

 いや、リイラだけではない。天井一面に木の根のように張り巡らされていたリイラの触手が、一斉に唯に向かって伸びてきていたのだ。

 

「お疲れ、そしてさようなら。貴女と話すことなんて何にもないからね」

「ま――」

 

 心底詰まらなさそうにリイラはそう言いながら、唯の鳩尾を殴りつける。

 それと同時に、天井に張り巡らされたおびただしい数の触手が、唯の身体を貫かんとして突っ込んで来た。

 

 

 

 

 

 

 


 

 AM2:00

 プラネットプラザ1階西通路

 遊矢VS竜崇

 

 

 

 

 

「は、はははは」

 

 勝利を確信した竜崇の口から、歓喜の声が漏れる。

 "ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット"の攻撃により"EMペンデュラム・マジシャン"は戦闘破壊され、それに伴う爆発によって生じた爆炎は、瞬く間に遊矢を覆い隠した。 

 観戦していた柚子が茫然自失となっているが、そんなことは知ったことではない。竜崇は勝ったのだ。完膚なきまでに遊矢を打ち負かした。AMORE隊員として命じられた仕事は果たしたし、決闘者(デュエリスト)としてのプライドをかけて全身全霊で勝利した。

 彼の中にあるのは、勝利に対する満足感だった。

 兎に角今は、苦労して手にした勝利を噛み締めよう。敗北の苦渋を呑む羽目になった遊矢の有様を思いっきり笑ってやろう。優越感で気が大きくなった竜崇は、高笑いをしながら遊矢の方へと一歩歩み寄る。

 が。

 その優越感は次の一言で吹っ飛んだ。

 

「残念だが、決闘(デュエル)はまだ終わってないぞ」

 

 爆炎越しに、遊矢の声がした。

 それと同時に両者を隔てていた爆炎が掻き消え、遊矢の姿があらわになる。

 遊矢は倒れてはいなかった。"EMペンデュラム・マジシャン"の戦闘破壊には成功したが、遊矢のライフは1400から減ってはいない。本来ならば1600ポイントのダメージを受けて尽きてなければいけないのに、だ。

 固まる竜崇に対して、遊矢は肩で息をしながらネタばらしをする。

 

「俺は手札の"EMバリアバルーンバク"の効果を発動していた。モンスター同士がバトルする時、こいつを手札から捨てることで、その戦闘で発生するお互いへの戦闘ダメージを0にする効果……それを使って凌いだんだ」

 

 そう、竜崇はすっかり失念していた。前のターンに"EMペンデュラム・マジシャン"の効果で手札に加えていた"EMバリアバルーンバク"の存在を。サーチカードは基本的に相手に公開されるため、竜崇も"EMバリアバルーンバク"が遊矢の手札にあることを知っていたにもかかわらず、だ。リンク召喚を自分だけが使えるという優越感が、彼の判断を鈍らせたのだ。

 ちなみに、遊矢としてはもっと早くバリアバルーンバクの効果を使いたかったのだが、最初の攻撃の際は、いきなり空中に放り出されたせいで間に合わず、発動できなかったのだ。しかし、今回は間に合った。

 だが、いくらダメージを凌いだと言っても、遊矢のフィールドはがら空き。対して竜崇のフィールドにはまだ攻撃していない"魂喰いオヴィラプター"が残っている。"EMウィップ・バイパー"の効果で攻撃力が下がっている為、このターンでライフを削ることはできないが、少しでもライフを削るべく、竜崇はオヴィラプターでの追撃を宣言する。

 

「オレは"魂喰いオヴィラプター"で攻撃!」

 

 それと同時に、竜崇は再び走り出す。"ダイナレスラー・キング・Tレッスル"の背に飛び乗り、そこから更に跳躍して空中に浮かぶ足場に乗る。

 彼が何を狙っているのかは、一目瞭然だった。

 

「あいつ……アクションカード狙いかっ!」

 

 そう。この決闘(デュエル)はアクションデュエル。そうなれば、ここぞという時にアクションカードを取りにいくのは至極真っ当だろう。

 そして、今回の決闘(デュエル)では、アクションカードの攻防において遊矢が後手に回ってしまっている。基本的にアクションカードは使ったもん勝ちである。これ以上竜崇に使われてしまえば差は開くばかり。

 遊矢も負けじと走り出すが、アクションカード取得を手伝ってくれるモンスターが居ない今、カード収集能力において、両者には決定的な差があった。竜崇は足場の上から地上の遊矢を見下ろしながら、手に入れたアクションカードをこれ見よがしに見せつけた後、それを発動する。

 

「アクション魔法(マジック)"ハイダイブ"!モンスター1体の攻撃力を1000アップする!」

「――俺は墓地のバリアバルーンバクのもうひとつの効果を発動!相手が直接攻撃(ダイレクトアタック)してきたとき、手札から"EM"モンスター1体を墓地に送り、自身を墓地から特殊召喚する!」

EMバリアバルーンバク:☆6 DFE2000

 

 アクションカードが手に入らないならば、それ以外の手段で凌ぐまでだ。

 遊矢は前のドローフェイズにドローした"EMユニ"を捨て、効果を発動した。すると、地面からデフォルメ化された大きな獏が出現し、その巨体で遊矢を守るようにして立ちふさがる。

 オヴィラプターの現在の攻撃力は1500。それに対してバリアバルーンバクの守備力は2000。竜崇の他のモンスターは皆攻撃を終了している以上、これでは突破しようがない。竜崇は悔しがりながらターンエンドを宣言する。

 

「くそっ……オレはこれでターンエンド……!」

ダイナレスラー・キング・Tレッスル:ATK3300→3000

魂喰いオヴィラプター:ATK1500→500→1800/DFE1800→500

 

 ターン終了と共に、竜崇のフィールドのモンスターのステータスも元に戻る。

 

「次のターンで仕留めてやるさ」

「どうすんのよ遊矢……」

 

 柚子は不安そうに遊矢を見つめる。

 遊矢のフィールドには、バリアバルーンバクとカウンターの溜まりきった"臨時収入"のみ。ペンデュラムゾーンのカードは前のターンに自分で破壊してしまったので、次のドローでなんとかしてペンデュラム召喚の準備を整えなければ負けてしまう。ここから一体どうするつもりなのだろうか。

 遊矢は無言で、デッキに指をかける。

 兎に角、ドローしないことには始まらない。

 

「俺の――」

 

 ターン突入を宣言しながら、カードをめくろうとしている指に力を籠める。

 その時だった。

 

 目も開けられない程の閃光が、遊矢の後方で発生した。

 

 

 


 

 数分前

 プラネットプラザ3階中央通路

 

 

 リイラは、崩れ落ちた吹き抜けの一部を見下ろしていた。

 その一角は、リイラの触手攻撃によって2階を貫通し、1階まで粉々に崩れ落ちていた。触手一本でも床に穴を開けられるほどの威力なのだ。それを何十本も喰らえば、当然ながら崩落する。仮に、奇跡的に触手攻撃を受けてもなお即死していなかったとしても、3階から1階までは10数メートルはある。そんな高さから生身の人間が落ちて無事で済むはずがない。

 リイラは、1階にできた瓦礫の山に向かって飛び降りる。勿論、触手をロープ代わりに使って、安全に、だ。

 彼女の目的は唯の殺害ではなく捕食。だからこそ、わざわざ確認の為に下に降りたのだ。

 

「ふうん、てっきり覚醒してるかと思ったんだけど……あれはまぐれだったのかしら?」

 

 リイラの脳裏に浮かぶのは、唯の中に宿る、レイラを退けたというあの力の存在。

 レイラの映像記憶を抽出して得た情報から、唯が食べごろになったと期待してわざわざ前線に出てきたのだ。先の蹂躙劇の際も、ひょっとすると唯が反撃してくるかもと期待していたのだが、この光景を見るに、どうやらそれは見込み違いだったようだ。

 リイラは足元にあった瓦礫をひとつ、山の頂上から蹴り落とす。瓦礫は固い音を立てながら、山のふもとまで転がり落ちていく。

 

「案外つまんないのね。所詮は仮面ライダーの腰巾着か」

 

 リイラはつまらなさそうにため息をつきながら、瓦礫の山を悠々と降りてゆく。そして、彼女の足が1階の床につく。

 そこで、彼女の顔に笑みが現れた。

 

「……へえ」

 

 瓦礫の山を下りきったリイラは、その光景を目の当たりにして感心していた。

 彼女の心の中は、待ちわびていたものをようやく目にすることのできた嬉しさと、それを我が身に取り込むことのできる優越感でいっぱいだった。

 恍惚とした表情を浮かべる彼女の視線の先。

 そこにいたのは。

 

「――この私を呼んだのはお前か」

「そうだけど、何?眠ってたところをたたき起こされて気分でも優れないのかしら?」

 

 此方を凝視する声の主に、リイラは開き直るようにそう言い切る。

 リイラの前にいたのは、ひとりの少女。肩まで伸びた金髪も、ダボっとした肩だしパーカーも、パーカーの裾に隠れて、まるで下に何も吐いていないように見えるが確かに存在している短パンも、その少女が諸星唯であると主張しているし、彼女を知る者がいればそう答えるだろう。

 だが、彼女を取り巻く雰囲気が、それを否定している。彼女の全身から放たれる、この世のものとは思えないほどの重圧感が、目の前の少女が、そんな普通の存在ではないということを、全身全霊で主張している。

 そして、それをリイラは待ちわびていたのだ。

 

「おはよう。てっきり目覚める前に死んじゃうかと思ったのだけど……そうならなくてよかったわ」

 

 そして、リイラの期待は実現した。

 諸星唯は、リイラの期待通りに、レイラを壊した力を引き出してくれている。普段の彼女が絶対しないような、冷酷な表情をこちらに向けてきてくれている。もう、リイラの中は喜びと興奮でいっぱいだった。

 

「それでこそよ。それでこそ、食べ甲斐があるというものよ!」

 

 口から涎を垂らしながら身体をくねらせるリイラ。側から見れば色んな意味で危ない子でしかない。

 が、唯はそれを冷たくあしらう。

 

「ごちゃごちゃ煩い。私はお前を倒して先に行く。邪魔をするんじゃあない」

「そう硬いこと言わないでよ。私達はぶつかり合う運命にあるのよ……貴女も分かっているでしょう?これを避けることなんてできないって!」

「プロポーズのつもりか?なら口下手にも程がある。そんな言葉では誰も振り返らないぞ」

 

 言葉のドッジボールを繰り返しながら、両者は距離を詰めていく。

 理解は不要。ただ魂の奥底から湧き上がる宿命に背中を押されるがまま、少女たちは身体を動かす。

 

「いだだきます」

「かかってきやがれこの虫女」

 

 瞬間。

 2人の身体から目も眩むほどの閃光が迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 かつて、赤馬零児はある仮説を立てた。

 曰く、榊遊矢――いや、正確にはその内側に巣くっていた存在(モノ)は、カードを創造するちからを有していた可能性があるという。

 現に、彼はかつての戦争の中、異次元の決闘者(デュエリスト)との接触を通して数多のカードを生み出してきた。ペンデュラム召喚だけでなく、融合・シンクロ・エクシーズをも我が物とし、成長してきたのだ。

 だが、それを実証するにはあまりにも時間がなかった。照明されるよりも早く事態は進み、そして、戦いの末にその力の根源は封じられた。

 だから、あんな奇跡はもう起きない。

 ――筈だった。

 

 

 


 

 その光は、遊矢まで届いていた。

 まるで遊矢の背中を押すように、大事なものを届けに来たかのように、それは遊矢の背中を照らしていた。

 

(なん、だ?これ……)

 

 柚子や竜崇があまりの眩しさに目を逸らす中、遊矢は奇妙な感覚にとらわれていた。

 何かが胸の内から沸き上がり、形を持とうとしている。具体的に何が生まれようとしているのかは、まだわからない。しかし、遊矢はこの感覚を知っている。それは遊矢が長らく感じていなかったもので、悪魔(ズァーク)の力がこの身からなくなった今では、おそらくもう二度と感じることはないであろうものだった、はずだ。しかし、それは今確かに遊矢の中にあった。

 ()()()()()()()()()

 それは遊矢が――正確には、遊矢の中に居た悪魔(ズァーク)の手により、幾度となく行ってきたモノだ。だが、今はすでに悪魔(ズァーク)は封じられているため、遊矢にそんなことができるはずがない。

 しかし、現に今、遊矢の頭の中には、見たこともないカードの姿(ビジョン)が浮かんでいる。

 なぜ今になって、それが可能になったのかはわからない。

 

(なんだかよくわからないけど……きっとこれは、俺を応援してくれているんだ!なら、エンターテイナーとしてそれに応えるっきゃない!)

 

 だが、遊矢はそれを受け入れていた。

 力強く背中を押してくれているこの光を裏切りたくはない。その一心で、頭の中に生まれたビジョンに手を伸ばす。

 光はいつの間にか収まっていた。

 目の前では、竜崇が腕を組んで遊矢の出方を伺っている。

 

「…………」

 

 遊矢は、自身の左腕に装着されているデュエルディスクに目をやる。

 新たに生まれたカードの気配を、そこに感じていた。

 やることは変わらない。いつも通り、笑って始めるだけだ。

 

「レディース&ジェントルメーン!ここまで散々やられっぱなしだったけど、ここからは俺のターンだ!俺にはライフもデッキもまだ残っている!ここで折れるわけにはいかないんだ!」

 

 遊矢は口角を精一杯上げて、エンタメデュエルの始まりを宣言する。

 

「ほう、その顔……ここから勝つつもりか?ならば見せてみろ!」

「ならお言葉に甘えて……そらよっ!特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在し、相手フィールドのモンスターが自分フィールドのモンスター数以上の場合、"EMラディッシュ・ホース"は手札から特殊召喚できる!」

EMラディッシュ・ホース:☆4 ATK500

 

 売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。大口を叩きながら遊矢が召喚したのは、根菜類で出来た身体を持つ子馬だった。

 そして、遊矢はにやりと笑う。その顔を見て、柚子は悟った。

 

「あの顔……遊矢のエンタメデュエルが始まるのね……!」

「準備も整いましたし、それでは榊遊矢のエンタメデュエルの新顔をお見せいたしましょう!」

 

 胸元にぶら下げているペンデュラムを揺らしながら、遊矢は声高らかに宣言する。

 新たに生まれたものを、手にしたものを、今現実に解き放つために。

 

「現れよ、天空に描く光のサーキット!」

「⁉ 」

「まさかお前……!」

 

 その文言を聞いて、柚子も竜崇も驚愕の顔をする。彼らの予想が正しければ、それは遊矢の口から絶対聞けるはずもないものであり、遊矢にはできるはずのないことだからだ。

 しかし、そんな2人の反応とは裏腹に、遊矢の宣言の直後、遊矢のフィールドに居た"EMバリアバルーンバク"と"EMラディッシュ・ホース"の2体が赤い光となって天に昇ってゆく。そして、光の行く先には、サイバーチックなデザインのゲートが浮かび上がってる。

 

「アローヘッド確認!召喚条件はペンデュラムモンスターを含む効果モンスター2体!俺はフィールドの"EMラディッシュ・ホース"と"EMバリアバルーンバグ"をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク2!"軌跡の魔術師(ビヨンド・ザ・ペンデュラム)"!」

軌跡の魔術師(ビヨンド・ザ・ペンデュラム):LINK2(右下/左下) ATK1200

 

 閃光を轟かせながら現れたのは、白い法衣に身を包んだ、赤髪の女魔術師だった。風に吹かれて垣間見える、長く伸びた彼女のスカートの後ろの方の中布は、左右で赤と青に分かれており、さがならペンデュラムスケールを表しているように見える。

 竜崇は、あり得ざる奇跡を目の当たりにし呆然とする。

 彼の知識が正しければ、今の遊矢にはリンク召喚を行えるはずがない。彼はリンクモンスターを持っていないし、存在も知らないし、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 

「なぜ、お前がリンク召喚を……あり得ない……既にあの力はお前にはないはず!今のお前にはカードの創造など到底――」

「"軌跡の魔術師"の効果!このカードがEXモンスターゾーンにリンク召喚された時、1200LP支払うことで、デッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加える!そして、この効果の発動後、俺はペンデュラム召喚に成功しない限り、このターンの間はモンスター効果もペンデュラム効果も使えない」

 

 予期せぬ展開に狼狽えていた竜崇だったが、遊矢から"軌跡の魔術師"の効果の説明を聞いた途端、彼はその顔に笑みを浮かべる。

 そして、高らかに声をあげて笑い出す。

 

「ふははははははははっ!ペンデュラム召喚に成功しない限り、だと?笑っちまうぜ!お前の手札は1枚!ペンデュラムスケールは前のターンに自分で破壊しちまってる!それじゃあペンデュラム召喚はできないぜ?」

「じゃあ……どうすんのよ……?モンスター効果も封じられたんじゃどうやったって……」

「お前がリンク召喚してきた時はビビっちまったが、自らライフをギリギリまで減らしたうえに馬鹿な縛りまでやっちまってよぉ!まさか面白おかしく自滅しちまうってのがお前のエンタメデュエルだってのかよ?それなら喜んで悪役(ヒール)を買って出てやるぜ?」

 

 そう。

 "軌跡の魔術師"のデメリットにより、遊矢はペンデュラム召喚をしないとモンスター効果もペンデュラム召喚も使えない。しかし、遊矢の手札は1枚のみ。これではどうあがいてもペンデュラム召喚はできない。要するに、このターンはこれ以上動けなくなる。

 だが、竜崇は忘れていた。

 彼はアクションデュエルと、遊矢を真正面から打ち破ることに固執しすぎていたあまり、とんでもないものを残してしまっていた。

 それに気づかず悪役(ヒール)感たっぷりににやついている竜崇だったが、次の遊矢の一言が、その笑みを容赦なく奪い取った。

 

「……2人とも、このカードの存在を忘れてない?」

 

 そう口にした、遊矢の顔は笑っている。

 彼が指さす先。そこには、

 

「そう、"臨時収入(エクストラバック)"!」

 

 最初のターンに発動した永続罠カードが、破壊されずに残っていた。

 竜崇は最初のターンに召喚した"ダイナレスラー・パンクラトプス"の効果を使っていれば、これをいつでも破壊できたはずなのに、そうしなかった。遊矢を、彼の十八番であるアクションデュエルで完膚なきまでに打ち倒そうとするその執着心が、竜崇の判断を鈍らせていたのだ。

 

「俺は"臨時収入"を墓地に送り効果発動!カウンターが3つ乗っているこのカードフィールドから墓地に送ることで、デッキから2枚ドローする!」

「なっ……」

「このカードを残しておいてくれて助かったよ。俺の命運はまだ尽きちゃいない……お楽しみはこれからだっ!」

 

 自分の慢心と執着が生んだミスに苦しめられる竜崇の前で、遊矢はカードを2枚ドローする。

 それは、ある者にとっては敗北への第一歩であるとともに――ある者にとっては勝負の運命を左右する一手となる。

 そして、勝利の女神は。

 

「――来た!」

 

 ――彼に微笑んだ。

 

「俺は魔法カード"アメイジング・ペンデュラム"を発動!自分のペンデュラムゾーンにカードが存在しない時、EXデッキからカード名の異なる表側表示の"魔術師"2体を手札に加える!」

 

 遊矢はドローしたカードの内の1枚を、即座に使う。

 今遊矢のEXデッキには、前のターンに自分で破壊した"竜穴の魔術師"と"龍脈の魔術師"の2枚が存在する。これらを回収して発動すれば、ペンデュラムスケールの確保の問題は解決される。

 

「俺はEXデッキからスケール8の"竜穴の魔術師"とスケール1の"龍脈の魔術師"を手札に加え、ペンデュラムスケールにセッティング!」

「ドローで……変えやがった……!」

「三度揺れろ魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!EXデッキから甦れ!"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"!"EMラディッシュ・ホース"!」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン:☆7 ATK2500

EMラディッシュ・ホース:☆4 DFE2000

 

 2体のモンスターがEXデッキから帰還するとともに、ペンデュラム召喚の成功によって、遊矢に課せられていた"軌跡の魔術師"のデメリットも解除される。"臨時収入"のドローでうまい具合にカードを引き込めたが故にできたことだ。

 特に、本決闘(デュエル)中3度目の召喚となる"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"は、相当やる気に満ちているようで、フィールドに出現するなりけたたましく咆哮をあげる。その咆哮は場の空気を激しく震わせ、砂嵐の如く竜崇の肌にぶつかってゆく。

 

「そして、"軌跡の魔術師"のもうひとつの効果!自身のリンク先にレベルの異なるモンスター2体が同時にペンデュラム召喚された時、フィールドのカード2枚を破壊できる!」

「アクション魔法(マジック)、"効果暴走"!相手モンスターの効果を無効にし、500ポイントのダメージを与える!お前のライフは残り200!これで終わりだあ!」

「俺は手札から"EMレインゴート"を捨てて効果発動!効果ダメージを0にする!」

 

 "軌跡の魔術師"が解き放った魔力弾が火の玉に変化して遊矢に襲い掛かるが、遊矢の目の前に、レインコートと一体化したような見た目の山羊が現れ、身を挺して遊矢を火の玉から庇う。"軌跡の魔術師"の効果こそ不発に終わったが、効果ダメージはかわすことができたのだ。

 

「そして俺は手札から"EMフレンドンキー"を召喚!フレンドンキーは召喚成功時に、墓地のEMを1体復活させる!俺は墓地から"EMウィップバイパー"を特殊召喚!」

EMフレンドンキー:☆3 ATK1600

EMウィップ・バイパー:☆4 ATK1700

 

「そしてウィップ・バイパーの効果!"ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット"の攻撃力と守備力をターン終了時まで入れ替える!」

ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット:ATK3000/DFE0→ATK0/DFE3000

 

「これであいつの攻撃力は0!オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで攻撃できれば終わりね!」

「それは不可能だぜ!"ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット"と"ダイナレスラー・キング。Tレッスル"はな、自身以外のモンスターを攻撃対象に選択できなくさせる効果がある。2体ともだ!その意味、分かるよな?」

「あ…………」

「…………しまった!」

 

 ようやく掴んだ勝利の光に喜ぶのも束の間。竜崇に反撃が届く寸前で、それは瓦解した。

 "自身以外を攻撃対象に選択できない"モンスターが相手フィールドに複数体並んだ場合、攻撃対象に選択できるモンスターが相手フィールドに存在しないこととなり、こちらからの攻撃が封じられることとなる。その為、いくら遊矢が高打点のモンスターを揃えたり、相手モンスターを弱体化させても、攻撃そのものが封じられたのでは意味がない。

 遊矢のライフは残り200。竜崇にターンを渡してしまえば、確実に負ける。しかし、攻撃する手段がない。どうにかして2体のうちどちらかを効果でフィールドから退けるか、モンスター効果を無効化するしかないのだが――

 

「ここは……もうひとりの新人にお任せあれっ!Lady's and gentlemen!」

 

 遊矢は笑顔でそう言いながら、指をパチンと鳴らした。

 彼の反撃の手はまだ終わってはいない。なぜならば、遊矢の奥の手はまだ盤面上に現れてはいないからだ。

 

「新人……まさか……⁉ 」

 

 遊矢の口振から、竜崇がこれから起こることを察した瞬間、竜崇と遊矢を取り囲むように強い風が吹き始める。それは瞬く間に竜巻となって、フィールド全体を包み込む。ソリッドビジョンじゃなかったら、今頃この施設はとんでもない有様になっていただろう。

 竜巻はこれから起こることを予想している。だが、それを止める手段がない。苦虫を嚙み潰したような顔をすることしかできない竜巻の前で、遊矢は新たな力を今まさに披露しようとしていた。

 

「そのまさかさ!再び現れよ、天空に描く光のサーキット!アローヘッド確認!召喚条件は"EM"、"魔術師"、"オッドアイズ"モンスターを含む効果モンスター3体以上!俺はフィールドの"EMラディッシュ・ホース"と"EMセカンドンキー"、リンク2の"軌跡の魔術師"をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク4!嵐を突き破る2色の(まなこ)!"オッドアイズ・テンペスト・ドラゴン"!」

オッドアイズ・テンペスト・ドラゴン:LINK4(左/右/左下/右下) ATK2500

 

 竜巻を切り裂きながら現れたのは、二色の眼を持つ銀龍だった。

 機械の様な翼を赤と青に光らせながら、それはフィールドに降り立つ。

 

「オッドアイズの……リンクモンスターだと……⁉ あり得ない!」

 

 竜巻は、その銀龍を見て狼狽えることしかできなかった。これまでの流れ的に、なんとなく来るのではないかと薄々思ってはいたが、いざ目の当たりにしてしまうと、彼のちっぽけな覚悟なんてものは、いとも容易く粉々に吹き飛ばされてしまった。

 "軌跡の魔術師"はまだ有り得た。前世の世界でも存在したカードだからだ。しかし、目の前のドラゴンは違う。あんなモンスターは存在しない。

 竜崇に限った話ではないが、転生者は原作知識を有しているが故に、原作キャラに優位に立てる。それは未来の筋書き(シナリオ)と敵の手札を知ってるが故の精神的な余裕からくるもの。言わば攻略本片手に挑むゲーム攻略だ。なので彼らは、それが通用しない想定外の事態に弱い。

 遊矢が編み出したオリジナルのリンクモンスターの出現によって、竜崇の優位性はなくなった。普通の転生者ならばこの時点で絶望するのだろうが、竜崇は違った。

 彼はその場から一歩も動かなかった。

 彼の心の中に巣食う決闘者としてのプライドが、それを許さなかった。

 たとえ目の前に敗北を突きつけられたとしても、最後まで倒すべき相手を見据え続ける。それが決闘者としての流儀だと、竜崇は思っていた。

 

「"オッドアイズ・テンペスト・ドラゴン"の効果発動!このカードが"EM"ペンデュラムモンスターを素材にリンク召喚に成功した時、自分フィールドの"EM"モンスターの数までフィールドのモンスターを選んで、その効果を無効にする!」

「…………!」

「これで攻撃ロックは解除された!いける!いっちゃって遊矢!」

「バトルだ!」

「……すげえよお前。やっぱり腐っても主人公というべきか……これだから原作主人公と敵対するのは嫌なんだ。どうあがいてもオレ程度じゃあ運命力が決定的に足りない。AMORE(おれたち)程度の闇なんか、主人公(おまえら)の輝きでかきけされてしまう……」

 

 負けを悟った竜崇は、恨めしそうにそう言った。

 それは、主人公という存在に対する羨望だった。

 羨ましくて仕方がないけど、敵わないことも知っている。自分の力で打ち倒せるかもしれないけれども、その可能性を信じきれない。だからあえてAMOREに入り、闇の中で戦う人生を選んだ。

 オッドアイズ・テンペスト・ドラゴンの生み出した暴風で、竜崇が事前に位置を把握しておいたアクションカードは全て吹き飛ばされてしまった。今から探しに行けばギリギリ間に合うかもしれないが、彼はもう諦めていた。

 彼の根底にあった諦観を勝利の女神は見抜いていたが故に、軍配は向こうに下された。

 

「オレの負けだ……行けよ、とっととオレをK.O.して、先に行くがいいさ」

「"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"で"ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット"を攻撃!」

「…………!」

「"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"がレベル5以上の相手モンスターとバトルする時、戦闘ダメージを2倍にする!リアクション・フォース!」

 

 オーバーキルもいい所だ。竜崇のライフは残り2500。オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの素の攻撃力でも即死するほどしかない。この攻撃を回避できなければ、竜崇のライフは尽きて敗北してしまう。

 が、ここで駄目押しの一発。

 

「"オッドアイズ・テンペスト・ドラゴン"の効果!ペンデュラムモンスターが相手モンスターとバトルするとき、戦闘ダメージを2倍にする!」

 

 攻撃力3000の"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"が、攻撃力0の"ダイナレスラー・ギガ・スピノサバット"に攻撃した場合に発生するダメージは3000。しかし、"オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン"の効果で戦闘ダメージは倍になるうえ、そこからさらに"オッドアイズ・テンペスト・ドラゴン"の効果で戦闘ダメージは倍加する。

 倍の倍で4倍。数値にして、12000ポイントのオーバーキルが襲い掛かる。そして、それを回避する手段はない。

 

「螺旋のストライク・バーストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「うわああああああああああああああああああああああああああああっ⁉ 」

竜崇:2500LP→0LP(-12000)

 

 

 

 

 

 


 

 あれから、どれくらい斬り合っただろうか。

 それすらわからなくなるほどに、2人は苛烈な殺し合いを続けていた。

 

「お掃除されなさ〜いっ☆」

 

 レイラがあざとそうにウインクしながら強酸入りバケツをセラに向かってぶちまけるが、セラは近くにあったマネキンを投げつけ、飛んできたバケツの口の向きを変える。ばら撒かれた強酸はセラではなく、近くのエスカレーターに降り注ぎ、ジュージューとヤバそうな音を立てている。

 攻撃を去なされたレイラは間髪入れず、何処からかティーカップを取り出しては、それをセラ目掛けてぶん投げる。

 セラはそれを難なく斬り伏せる。

 が、

 

「馬〜鹿☆」

 

 その瞬間、ぶった斬られたティーカップが爆発した。

 発生した爆炎は瞬く間にセラの身体を包み込んでゆく。

 

「騎士なんて単細胞生物(バカ)楽勝(ランナウェイ)だもんねっ❤️さっすがレイラちゃん!可愛くて強くて雑っ魚〜い❤️」

 

 黒い煙をたちのぼらせながら燃え上がる炎を前に、矛盾極まりない自画自賛を吐き連ねるレイラ。その目はギンギンに充血しているどころか血涙を流しており、頭に巻いた包帯からは血が滲み出ていた。

 だが、彼女は今宵の戦いにおいてはいまだに無傷に等しい。

 それにもかかわらず、彼女は血を流している。

 

「……げふっ」

 

 咳き込んだ彼女の口から、血が吐き出される。

 吐き出された鮮血が、白いエプロンを赤く染めてゆく。

 

(もう、長くないかな……あたし、無理しすぎたみたい)

 

 徹底的に貶められ、歪められた彼女の自我は、自らの状態を察していた。

 バルジによって幾度となく洗脳を重ねがけされ、心身ともに改造を繰り返された彼女の身体は、とっくのとうに限界が来ていた。ましてや今の彼女は、今宵の戦いに合わせて急ピッチで改造された為、碌に調整ができていない。

 このまま戦い続ければ、先に倒れるのはレイラだ。

 それは彼女も理解している……筈だった。

 

(でも、その方がクソ雑魚奴隷メイドのレイラちゃんらしいよねっ!)

 

 歪められた彼女の意識は、そう判断していた。

 自らに罰を、恥辱を、尊厳なき最期を。今の彼女は、自ら陵辱を望み、自ら奈落に落ちるように施されているのだ。それはもはや、自力では止めることはできない本能と化していた。

 レイラはボロボロの身体に鞭打ち、完全に、確実にとどめを刺すべく、目の前で燃え上がる炎に突っ込んでいく。

 手に持った金属製の鈍器(モップ)を強く握り締め、精一杯の笑顔で周囲に愛嬌を振りまきながら、彼女は目の前の敵を殺しに行く。

 が、

 

「せやぁああああああっ‼︎ 」

「あっ……❤️」

 

 それは、予想通りだった。

 レイラが炎に到達する直前で、炎の壁を突き破りながら、セラの剣先がレイラ目掛けて突っ込んできた。

 ガキンッ‼︎ という金属音が響き渡り、レイラの手からモップが離れてゆく。

 まるで喘ぎ声みたいな悲鳴をあげながら、レイラはその身体をくの字に折り曲げて壁に激突する。

 ずるずると床に崩れ落ちるレイラに剣先を突きつけながら、セラが炎の中から這い出してくる。銀色の鎧はその表面を煤けさせているが、セラの身体には傷ひとつなかった。

 

「誰が……単細胞生物(バカ)だって?」

「あぅ……」

 

 セラに剣を突きつけられるレイラ。誰がどう見ても、勝負はついた。

 筈だった。

 

「……まだだよ」

「お前……」

「まだ、です!」

 

 レイラはそう言うと、突きつけられていたセラの剣先を素手で掴んで押し上げ始めた。

 当然ながら、素手で剣の刃を掴めば血が出る。目や口や手のひらから鮮血を垂れ流しながら、彼女は抗おうとする。 

 

「やめろ。その身体で戦えば死ぬぞ」

「情けのつもり?やめてよね、クソ雑魚奴隷メイドのレイラちゃんにもプライドがあるんだから…………ねっ!」

 

 セラの情けも一蹴し、血塗れになった手で突きつけられた刃を押しのけ、レイラは走り出す。

 そして、もう片方の手に持っていたナイフを、セラの喉元目がけて突き刺そうとする。

 

「しんじゃえええええええええええええっ!」

 

 血を吐きながら叫ぶレイラ。

 そこにはもはや自らの命への執着なんてものはなかった。ただご主人様(バルジ)の邪魔をする敵を殺す。与えられた命令だけが、彼女の身体を突き動かす。

 元々あまり殺す気がなかったセラだが、レイラの異常さには内心引いていた。洗脳されているとはいえここまでやるのか、と。

 

「くっ…………!」

 

 だが、みすみす殺されるわけにはいかない。セラは膝を折り曲げて下からレイラの腕を突き上げる形で膝蹴りを喰らわせた。関節に対して垂直に突き刺さったセラの膝蹴りは、ナイフを突き刺さんとしていたレイラの肘を破壊する。

 ボキンッ!! と、人体から出てはいけない音を立てて、レイラの片腕は有り得ない方向に折れ曲がる。折れた腕ではナイフを持てず、カシャンと音を立ててナイフが床に落ちる。

 これで大人しくなる――と思っていた。

 

「お帰りくださいませっ!」

「なんだと…………っ⁉ 」

 

 折れた腕に拘泥する素振りすら見せず、レイラはもう片方の腕――剣先を素手で伸ばして血塗れの腕――を伸ばしてきた。

 咄嗟にセラは回し蹴りをレイラの顔面に喰らわせ、彼女を蹴り飛ばす。近くの質屋のガラスケースに頭から突っ込む形で倒れるレイラ。頭の半分近くが血に塗れ、片腕は折れるほどの傷を負いながらも、彼女はなおも立ち上がろうとする。怪我の具合も相まって、その光景はまるでゾンビのようだった。

 そこに、

 

「案外早くボロが出たな。耐用年数が尽きかけてんのか」

「お前は……!」

 

 品のない声が市かかと思えば、次の瞬間、セラの頬に傷ができていた。

 死角からの、常軌を逸した一撃。ほぼ無傷だったセラにできた最初の傷。

 セラがばっと振り返ると、ライダースーツの上から白衣を着た青年――バルジが立っていた。

 

「よう、また会ったな女騎士サマ!ウチのクソメイドが世話になってるよーで……にしてもスゲェ奴隷根性だな。我ながら恐ろしいぜ」

 

 仲間が死にかけているというのに、バルジはへらへらと笑っている。やはり、彼には人の心はないのだろうか。

 レイラはバルジが来ているのに気付いたのか、ガラスの破片を身体のあちこちに食い込ませながら、バルジに向かって笑いながら手を伸ばす。

 

「ご、しゅじん……さま……みてて、レイラちゃんが殺すよ……」

「おーよしよし!すっげえ無様だな!ちゃんとボロボロになってるようで何よりだ!」

「…………まさか、その為に彼女を洗脳してこき使っているのか?」

「当たり前だろ。コイツは俺様達に歯向かった身の程知らずなんだ。だから死ぬまで貶め続けられなきゃあいけない。その為にコイツを暴れさせてるんだ。趣味と実益を兼ねた資源の有効活用だよ」

 

 敵対者を傀儡に変えて使い潰す。それは酷く合理的で悪趣味で――この男(バルジ)らしいやり方だった。

 そのことを理解したセラは、一気に顔を曇らせる。

 セラの目の前では、血塗れのレイラがバルジに跪き、彼の靴を舐めている。セラには、レイラが本当はどんな人間だったのかは知る由もない。だが、レイラがたとえ悪人だったとしても、こんなに貶められ、堕とされるべきだとは、セラにはどうしても思えなかった。

 バルジはレイラに靴を舐めさせながら、上機嫌で彼女を馬鹿にする。

 誰も聞く気はないというのに、彼はそれを辞めない。

 

「妹思いのお姉ちゃんは妹を取り戻すために、自ら妹ちゃんの悪いお友達の玩具になって一生を終えました!BADEND(めでたしめでたし)!どうだ、すっごい興奮するだろう?」

「なんで笑っていられるんだ?」

「楽しいからに決まってるじゃん。楽しいことを好きなだけやる、それを否定する権利は誰にもない!それにな、世界のすべてはいずれ俺様達のモノになるんだ。俺様は未来のカミサマだ!なら今好き勝手してもいいだろうがよぉ……"選ばれた者"にはその権利がある!」

 

 もう、支離滅裂だった。

 湧き上がる欲望を抑えることをやめ、悪意の限りを尽くし、正当化を拗らせに拗らせた身勝手の権化が、目の前にいた。

 レイラを回収しに来た時と、今。セラがバルジと関わったのはたったそれだけなのだが、それだけで理解した。

 

(こいつは…………私の一番嫌いな人種だ!人を何とも思わない精神性、人を平気で踏みつぶす驕り高さ……コイツを野放しにしては駄目だ!今ここで倒す!)

 

 セラは剣を握る手に力を籠める。騎士として、他者を踏みつけるような輩を許してはおけない。

 そして、床を強く蹴り、バルジに向かって勢いよく斬り込もうとする。その動きは、常人にはまず認識不能なレベルで速かった。傍から見れば、セラが一瞬消えてバルジの目の前に瞬間移動したように見えるだろう。

 普段はあまり進んで殺生を行わないセラだったが、今だけは違った。コイツだけは生かしてはいけない。一瞬で始末しなくてはならない。心の奥から湧き上がる正義感が、目の前の邪悪を今ここで殺すべきだと叫んでいる。

 そして、セラの剣がバルジの頭上目がけて振り下ろされる――筈だった。

 

「――(うごめ)け」

 

 たった一言、バルジはそう言った。

 瞬間、セラの全身に激痛が走った。

 

「な……っ⁉ がっ…………⁉ 」

 

 原因不明の激痛によって、バルジに肉薄する寸前でセラの動きが止まる。彼女の手から剣が零れ落ち、セラは目の前のバルジに寄りかかる形で倒れる。

 彼女の身体に起こった異変は、激痛だけではない。セラは指一本動かせなかった。まるで首から下が無くなってしまったのように、ピクリとも動かない。ただ、身体の内側から刺されているような激痛だけが伝わってくる。

 何が起きたのかわからない顔をしているセラに、囁くようにバルジが種明かしをする。

 

「俺様の嫌いなタイプの女を教えてやろう。俺様はな、お前みたいに真っ直ぐな目をした利他主義じみた馬鹿が死ぬほど嫌いで……()()()()()()

 

 ぞくりと、セラに悪寒が走る。

 

「少し前に、お前に"虫"を仕込んどいた」

「虫……?」

「ああ、精神を犯し、俺様の傀儡に仕立て上げる木偶坊虫(ウッドエン・ドール)……一度寄生されれば俺様の手で何時でも自在に人格を改造できる」

「――あの時か!」

 

 そう。

 最初の不意打ちの時点で、セラは敗北していた。

 頬を斬られた時に、既に虫を入れられていたのだ。

 次第に、セラの視界がぼやけてきた。意識も薄れ始めている。おそらく、全身に走る痛みも含めて虫が原因なのだろうということは分かるが、今のセラひとりではどうすることもできない。

 ぼやけて暗くなってゆくセラの視界に、気持ち悪い笑みを浮かべるバルジが映り込む。

 

「お前はどんな風に変えてやろうか?卑怯上等な悪女、妖艶な保険医、低能野生児……考えてるだけで勃ってきた……!」

「ふざ、けるな……わたしには使命が……!」

「ごちゃごちゃうるせえんだよ、とっと堕ちろ雑魚が」

 

 バルジは自身に寄りかかっているセラを突き飛ばし、彼女の腹を踏みつける。

 これからセラは、レイラのように死ぬまで恥辱の限りを尽くされる。やりたくないことをやらされ、積み上げてきたアイデンティティを徹底的に破壊される人生を送るだろう。否、それはもう人生ではなく、玩具としての未来といったほうが適切なのかもしれない。ともかく、セラ・フルルスローネという少女の人生はここで終わる。

 彼女の胸の内には、後悔しかない。

 本来の使命も果たせずに、騎士道精神に突き動かされるがままに首を突っ込んだ戦場で野垂れ死ぬ。そんな終わりを、認めていいはずがない。

 

(ああ――ごめんなさいパープルハート様。私は貴女に巡り合うことができな――)

 

 そこで、セラの意識が途切れた。

 

 


 

 

 

 それは憧れだった。

 少女が見たのは、或る星の輝きだった。

 無邪気で、能天気で、それでいて誰よりも全てを愛していて。その輝きは光も闇も一緒くたに引き寄せてゆく。なんとも危なっかしくて――それでいて、愛されている。

 少女は、危なっかしくも愛おしいその煌めきを目の当たりにして、こう思った。

 

 ――わたしもあんなふうにかがやきたい。あれのためになにかしてみたい。

 

 それが、誰も知らぬ少女の始まりだった。

 選び取った道が、苦難の道だったのは言うまでもない。始めは誰も少女の歩みに目もくれなかったし、自らの非力さを呪う夜を幾度となく過ごした。

 しかし、いつしか彼女の歩みを目の当たりにして――ともにその道を歩む仲間ができた。少女の歩みを認める者が出てきた。ひとりの憧れからはじまったそれは、いつしかその煌めきにも認識されるようになり、頼られるようになっていった。

 そして、幾度となくその煌めきと共に、闇に立ち向かい続けた彼女は、いつしか人々からこう呼ばれることになった。

 ――護神騎士、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「……あん?」

 

 ふと、バルジは異変に気付いた。

 目の前に倒れているセラの様子がおかしい。

 

「虫は脳味噌の奥底まで入りきっている……命令(コマンド)も書き込んだ。なのになぜ動かない……?」

 

 洗脳は完了した。洗脳完了までの間、相手の自由を奪う木偶坊虫(ウッドエン・ドール)の神経毒ももう時期消える。だというのに、セラはぴくりとも動かない。

 ひょっとすると今ので死んだのではないだろうか、とも思ったが、自分の技術に絶対的な自信のあるバルジは、その可能性を即座に否定する。

 

「おいレイラ、この女騎士の安否を確かめるんだ」

「かしこまりましたご主人様っ」

 

 バルジはその辺に倒れているレイラに、セラの安否を確かめさせようとする。

 心身ともに壊れる寸前だというにも関わらず、レイラはボロボロの身体に鞭打ちながらバルジの命令に嬉々として従う。一言喋っただけで、彼女の口からは何度も血が吐き出される。もう彼女の身体は限界に近いのだ。

 身体のあちこちにガラスを刺したまま、レイラはセラに近づいてゆく。モップを構え、ナイフを忍ばせながら、一歩一歩着実に前進してゆく。

 そして。

 レイラのモップの先端がセラに触れる寸前のことだった。

 

 

 音もなく。

 モップが切断された。

 

 

「え…………?」

 

 呆気にとられるレイラ。

 しかし、彼女には状況を理解するだけの時間はなかった。

 次の瞬間。

 

「ぼふぁっ⁉ 」

 

 レイラの身体は音もなく切り裂かれ、鮮血の噴水へと姿を変えた。

 音はない。ただ、斬られたという事実だけしか認識できていない。

 

「何が起きてやがる⁉ 」

 

 想定外の事態に焦るバルジは、前方を見る。

 

「……………………」

 

 ゆらり、と。

 先ほどまで指ひとつ動いていなかったセラが、立ち上がっていた。

 最初は洗脳が失敗したのかと思ったバルジだったが、それにしては様子はおかしい。目の前の少女から放たれる雰囲気の変化が、ただ事でないことを嫌でも思い知らせてきている。

 セラから向けられている感情は、先ほどまでの、バルジに向けられていた敵意とは比較にならない、否、それとはまた別種の――そもそも、同じ人間に対して向けられているものですらないのかもしれない。

 まるで虎の尾を踏んだような、神の逆鱗に触れたような、途方もない禁忌を犯してしまったかのような。バルジの今の現状を表現するならば、そう形容する他ないだろう。

 普通の人間ならば恐れをなして悲鳴を上げたり逃げたりするのかもしれない。だが、この男は違った。

 

「なんだなんだぁ?その力はよぉ!お前只者じゃあねえな⁉︎ 」

 

 その言葉は、恐怖からくるものではなかった。

 それは好奇心。

 彼はこの時、自分がなにか凄いものを引き当てたのだと直感で理解していた。故に、それをさらに知ろうとして、セラに一歩近づいてゆく。

 が。

 

「失せよ」

「――っ⁉ 」

 

 一言、少女がそう発しただけで、バルジの身体は後方へと吹っ飛んでいった。

 バルジはショーケースに背中から突っ込んでかち割り、粉々になったガラス片と共に床に転がされてゆく。

 だが、彼の顔は笑っていた。

 

「すげえなお前!ただの正義馬鹿だと思っていたが、ここまでやってくれるなんてさぁ!最高だ!もっとその力を見せてくれ!もっと研究材料(おもちゃ)らしく俺様を楽しませてくれよ!」

 

 予想だにしなかった玩具の出現に、彼は完全に歓喜していた。

 もうそのあたりで転がっているぼろ雑巾(レイラ)なんかどうでもいい。今は目の前の新しい玩具(セラ)でもっと楽しみたい。イスタを手に入れるというティーダからの命令は、この時点でバルジの脳内から跡形もなく吹き飛んでいた。

 セラは、大笑いしているバルジに顔色一つ変えることなく、床中に散らばっているガラスや商品を踏みつぶしながら近づいてゆく。

 眼孔全体を緑色に光らせ、全身から赤いオーラの様なものを発しながら近づいてゆくその姿には、先ほどまでの騎士らしさなんてものはどこにもなかった。

 

「――いいだろう、そこまで死にたいのならば見せてやろう」

 

 バルジの言葉に、そう答えるセラ。

 その直後。

 セラが全身から激しい光を放ちながら、バルジに向かって突っ込んで来た。

 

 

 

 

 


 

 

 同時刻

 プラネットプラザ正面入口前

 零児VSサキュラス

 

 

 零児がドローフェイズ時のドローを行おうとしていたその直前のことだった。

 突如として、零児の後方で激しい爆発が発生した。

 

「何だっ⁉ 」

「あれは――!」

 

 思わずサキュラスも零児も決闘(デュエル)を中断し、謎の爆発に意識を向ける。

 爆発の衝撃はかなりのモノで、そこそこ建物から離れているはずの零児の足元にまで瓦礫が転がってきている。一体何が起きたのだろうか。

 プラネットプラザの方を見ると、3階部分に大きな穴が開いている。恐らく、何かが壁を突き破って外まで吹っ飛んできたのだろう。

 状況把握に努めていた零児だったが、そこに、瓦礫の中から嬉しそうな声が聞こえてきた。

 

「さいっ……こうだなあ……!やるなあ…………お前!」

「な、に?」

「ば、バルジ様⁉ 」

 

 瓦礫の中から、一人の男が立ち上がる。

 紫のライダースーツの上に白衣を羽織った長身の男――バルジだ。

 これまでほとんど傷らしい傷を負っていなかったはずの彼が、服を煤けさせ、頭から血を流している。ギフトメイカー配下の転生者であるサキュラスは、その事実を目の当たりにして驚愕していた。

 

「何が起きたんですか⁉ 何が――」

 

 そう言いかけた時だった。

 プラネットプラザの外壁に空いた穴から、激しい光を放つ何かが飛び出してきた。

 

「なんだっ…………⁉ 」

「まぶっ……目がっ……⁉」

 

 そして、雲に覆われ星ひとつない夜空を白く染め上げた。

 

 


 

 

 その閃光は、零児の全身をくまなく包み込んでいた。

 だが、不思議と悪い気分ではなかった。むしろその逆だ。その光は、まるで零児に力を与えているかのように感じられた。柄ではなのだが、根拠とかではなく直感でそう思った。

 

(不思議だ――だが、悪い気分じゃあない。私に何かを与えようとしているのか……?)

 

 そう思った瞬間、零児の手元がより激しく光り輝き始めた。

 

「なんだ…………?」

 

 零児は自分のデュエルディスクを見る。

 デュエルディスクに内蔵されたEXデッキが光を放っている。

 何が起きているのだと確かめようとする零児だったが、その時、光がより激しさを増して零児の視界を白く塗りつぶした。

 

「これは――⁉ 」

 

 


 

 

 

「――はっ⁉ 」

 

 零児が次に目を開くと、先ほどまでの閃光は跡形もなく消えていた。

 空を見上げると、ぽつぽつと雨が降り始めていた。

 

(さっきの光景はなんだ……?)

 

 零児はくらくらする頭を抱えながら、先ほどの光景を反芻する。

 あの光の中で見た光景。あれがなんだったのかは見当もつかないが、柄にもなく、あれに安心感を覚えている自分がいる。不思議なことに、そのことに奇妙さは感じない。

 そして、だ。

 先ほどデュエルディスクから発せられたあの輝きに対して、零児の経験からくる勘が告げている。あれにはきっと意味があると。

 零児は、先ほど激しい光を放っていたEXデッキを確認する。

 そして、驚愕した。

 

(これは――)

「おい赤馬零児」

 

 零児が自身のEXデッキを見て驚いていると、同じく正気を取り戻したサキュラスが声をかけてきた。零児は我に返ってサキュラスの方を見ると、サキュラスは先ほどと同じように、余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。

 

決闘(デュエル)再開と行こうぜ。まあ結果は見えているんだけどな!ははははははっ!」

「――勝ち誇るのはまだ早いだろう。君も決闘者(デュエリスト)ならばそれくらいわかっているはずだが」

「言ってろ!次のターンでお前を蹂躙して――」

「私のターン!」

零児:2000LP・HAND×0→1

サキュラス:4000LP・HAND×1

 

 零児はサキュラスの言葉を遮って、デッキからカードをドローした。

 リンク召喚には驚かされたが、それで己の決闘(デュエル)を見失うほど(やわ)ではない。

 冷静さを崩すことなく、零児は決闘(デュエル)を続行する。

 

「スタンバイフェイズ時に、"地獄門の契約書"の効果で私は1000ポイントのダメージを受ける……が、"地獄門の契約書"の効果は"DDD呪血王サイフリート"の効果によって無効になっている。よって私はダメージを受けない。そして、スタンバイフェイズが終了したことで、"地獄門の契約書"の効果は復活する」

「踏み倒しは得意のようだな」

「リスクをいかに軽減するか……金の世界ではそれを常に考えねばならない」

「だがちょっと待った!俺もスタンバイフェイズ時に、墓地の"星遺物―『星盾』"の効果を使わせてもらう!"星遺物―『星盾』"はお互いのスタンバイフェイズ時に1000LPを支払うことで墓地から特殊召喚できる!」

サキュラス:4000LP→3000LP

星遺物―『星盾』:☆8 DFE3000

 

「そしてこの時、お前も手札か墓地からモンスターを1体特殊召喚できるぜ?さあどうする?この誘いに乗るか?」

「ならば私は墓地の"DDバフォメット"を特殊召喚」

DDバフォメット:☆4 ATK1400→1100

 

 サキュラスの誘いに乗った零児の墓地から、翼を持った魔人が復活する。

 

「"地獄門の契約書"の効果発動。私はデッキから"DDD超視王ゼロ・マクスウェル"を手札に加える。そして永続魔法"魔神王の契約書"を発動!その効果により、墓地のテムジンとシーザーを融合する!燃ゆる覇道を歩む王よ、押し寄せる波の勢いで、新たな世界を切り開け!融合召喚!出現せよ!極限の独裁神、"DDD怒濤壊薙王(どとうかいちおう)カエサル・ラグナロク"!」

DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク:☆10 ATK3500→3000

 

 地面からおどろおどろしい咆哮を轟かせながら現れたのは、零児の倍近い体躯はあろう、大柄な魔人だった。どことなく前のターンに除去された"DDD怒涛王シーザー"に似てはいるものの、全体的に刺々しさと禍々しさが増しているように見える。カエサルとはシーザーの別の読み方。故にこの2体は似ているのだろう。

 初手で大型モンスターを呼び出した零児。しかし、これで終わるわけがないというのは、前のターンで証明されている。

 

「更に墓地の"DDネクロ・スライム"の効果発動。墓地からネクロ・スライムと"DDD制覇王ガイゼル"を除外し融合する。絶大なる支配者よ、神秘の渦と一つに溶け合い、覇道の頂きを渇望せよ!融合召喚!"DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン"!」

DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン:☆8 ATK2800→2300

 

 カエサル・ラグナロクに続いて、地面を突き破ってもう1体の悪魔が姿を現す。ぱっと見は"DDD烈火王テムジン"に似てはいるが、腕が4本に増えた上に、1つの大盾と3本の剣を装備した3刀流となっている。名前からしてテムジンの進化形態なのだろう。

 

「墓地の"DDラミア"の効果!発動済みの"魔神王の契約書"を墓地に送り、このカードを特殊召喚する!いでよ、チューナーモンスター、"DDラミア"!」

DDラミア:☆1 DFE1900→1400

 

「そしてこの時、エグゼクティブ・テムジンの効果が発動する。私の場に"DD"モンスターが召喚・特殊召喚された時、墓地から"DD"モンスター1体を特殊召喚する。私はサイフリートを復活させる」

DDD呪血王サイフリート:☆8 ATK2800→2300

 

 エグゼクティブ・テムジンの効果により、再びサイフリートが現れる。

 が、幾ら大型モンスターを呼び出そうとも、サキュラスの場にいる"星遺物の守護竜メロダーク"の効果で弱体化するうえ、サキュラスのモンスターはフィールド魔法の効果で強化されている。このままでは削りきることは難しい――サキュラスはそう思っていた。

 ――この時までは。

 

「君にひとつだけ言っておこう」

「は?」

決闘(デュエル)に絶対はない。どれほど最善を尽くそうとも、どれだけ優位に立とうとも逆転の可能性を常に考慮してこそ一流……いや、三流決闘者(デュエリスト)でもそれくらいの心構えはある。ましてや――」

 

 零児は、サキュラスを指さして、彼の驕りをつきつける。

 

「君のように、自分だけの武器(リンク召喚)なんてものに胡坐をかいているような者を、強者とは呼ばない。そんな個性(つよみ)だけでは決闘(デュエル)を制することなど不可能に近い」

「何を言い出すかと思えば……要するに俺だけリンク召喚できることが羨ましいんだろう?案外お前も大したことないんだな」

「逆だ…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………なんだって?」

 

 その言葉に、サキュラスは引っ掛かりを覚えた。

 そしてこの時、零児は賭けていた。出所の分からない勝利の女神の手を引くことに。

 零児は、どちらかというと合理や理論を重んじるタイプの人間だ。それは決闘(デュエル)においても変わらない。偶然という不確定要素に頼り切ることなく、鉄の理性を主軸に置いたうえで、綿密な戦略の元にデッキを回して相手を下す。それが赤馬零児の決闘(デュエル)だった。

 だが、今だけは。

 彼は、降ってわいた幸運に賭けることにした。

 

「現れろ、大いなる力のサーキット!」

「⁉ 」

 

 零児がそう宣言したのを聞いて、サキュラスは驚愕した。なぜならばそれは、零児が決してできるはずのないリンク召喚の宣言だからだ。

 この世界にはリンク召喚は存在しない。リンク召喚を行えるのは、転生者である自分達のみのはずだ。

 だが実際に、目の前では零児の頭上にゲートが出現している。そして、零児の場にいる2体のモンスターが、赤い閃光となってゲートに吸い込まれるようにして浮かび上がっていく。

 

「召喚条件は"DD"モンスター2体。私は"DDリリス"と"DDバフォメット"をリンクマーカーにセット。リンク召喚!現れろ、リンク2、"DDD深淵王ビルガメス"!」」

DDD深淵王ビルガメス:LINK2(右下/左下) ATK1800→1300

 

 全身から禍々しいオーラを放ちながら現れたのは、剣や槍、斧など、幾つもの武器を携えた青い肌の悪魔だった。半神半人の英雄王の名を持つ異次元の王。本来ならば赤馬零児が扱えるはずのないリンクモンスター。それが今、サキュラスの眼前に姿を現していた。

 

「馬鹿なっ……なぜお前がリンク召喚を……」

「今回ばかりは救われたよ……()()()()()()というやつにな」

「創造だと……?あり得ない!榊遊矢はともかく、お前は普通の人間!そんな真似ができるはずがない!」

「ああ、創ったのは私ではない。誰かは知らないが――神は私に味方した」

 

 それは偶然なのか、必然なのかはわからない。だが、サキュラスはそれを偶然ではないと感じていた。

 これは不条理だ。まるで世界が、ギフトメイカーに与する転生者の思い通りになんぞさせるものかとでも言うかのように、まるでサキュラスを負かそうとするかのように、運命が横やりを入れてきたのだ。

 動揺するサキュラスの目の前で、零児の独壇場が繰り広げられる。

 零児自身も未だに信じられないのだが、与えられたこの力を無駄にするわけにはいかない。そう自分を律しながら、決着への一手を進めてゆく。

 

「"DDD深淵王ビルガメス"の効果発動!デッキからカード名の異なる"DD"ペンデュラムモンスター2体を選び、ペンデュラムゾーンに発動する。その後、私は1000ポイントのダメージを受ける」

零児:2000LP→1000LP

 

「私はスケール10の"DD魔導賢者ニュートン"とスケール4の"DDD死偉王ヘル・アーマゲドン"をペンデュラムスケールにセッティング!これでレベル5から9のモンスターが同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!EXデッキから"DDD死偉王ヘル・アーマゲドン"!手札から"DDD超視王ゼロ・マクスウェル"!」

DDD超視王ゼロ・マクスウェル:ATK2800→2300

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン:ATK3000→2500

 

「私はヘル・アーマゲドンのペンデュラム効果発動。それによりモンスターゾーンのヘル・アーマゲドンの攻撃力を800アップする」

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン:ATK2500→3300

 

「バトルだ。私は"DDD超視王ゼロ・マクスウェル"で"星遺物―『星盾』"を攻撃!そしてこの時、ゼロ・マクスウェルのモンスター効果発動!」

「何⁉ 」

「ゼロ・マクスウェルが守備表示モンスターとバトルする時、その守備力を0にする!」

星遺物―『星盾』:DFE3000→0

「そしてゼロ・マクスウェルは守備貫通効果を持つ!貫け、ゼロ・マクスウェル!」

「ぐあああああああっ⁉ 」

サキュラス:3000LP→700LP

 

 実質的な直接攻撃を喰らい、サキュラスは大きく吹っ飛ばされる。その衝撃で、自動ドアのガラスを突き破り、破片の海に背中からダイブするサキュラス。

 

「だが、俺は"BK(バーニングナックラー)ベイル"の効果を発動する!戦闘ダメージを受けた時、コイツを手札から特殊召喚し、その数値分のライフを回復する!」

BKベイル:☆4 DFE1800

サキュラス:700LP→3000LP

 

 すると、サキュラスのライフが回復すると共に、身を守るようにパットを両手に持ったボクサーのようなモンスターが出現する。

 だが零児は躊躇しなかった。する必要もなかった。

 

「ならば"DDD呪血王サイフリート"で"BKベイル"を攻撃する」

 

 サイフリートの大剣により"BKベイル"は一刀両断される。

 

「続いて"DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク"で"星杯戦士ニンギルス"を攻撃。そしてこの時、カエサル・ラグナロクの効果発動。このカードがバトルする時、私の場の"DD"または"契約書"カード1枚を手札に戻すことで、カエサル・ラグナロクとバトルするモンスター以外の相手モンスター1体を、カエサル・ラグナロクの装備カードにする!私は"星遺物の守護竜メロダーク"を装備!」

「なにっ……!」

 

 カエサル・ラグナロクの背後から無数の腕がメロダークに向かって伸ばされ、メロダークを捕縛する。メロダークは必死にもがくが、逃れることはできない。

 そして、メロダークが居なくなったことで、メロダークの効果で下がっていた零児のモンスター達の攻守も元に戻る。

 

「バトルは継続中だ!行け、カエサル・ラグナロク!ジ・エンド・オブ・ジャッジメント!」

(トラップ)カード、"星遺物が齎す崩界"!俺の手札・場・墓地から"星遺物"モンスター1体を除外することで、自分フィールドのリンクモンスター1体の攻撃力を、除外したモンスターの攻撃力分アップさせる!俺は墓地の"星遺物―『星櫃』"を除外し、ニンギルスの攻撃力を星櫃の攻撃力分アップさせる!」

星杯戦士ニンギルス:ATK2800→5300

 

 "星遺物―『星櫃』"の攻撃力は2500。よってニンギルスにその数値が加算され、攻撃力は5800にまで上昇する。これでカエサル・ラグナロクを返り討ちにしたうえで、零児のライフも削りきれる。

 しかし、

 

「"DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン"の効果発動。自分ターンに1度、魔法・罠カードの発動を無効にする」

「なぬっ……⁉ 」

 

 エグゼクティブ・テムジンの効果によって罠カードの発動が封じられ、攻撃力増加もなかったことにされてしまう。カードの発動を無効にされようが、支払ったコストは帰ってこない。"星遺物が齎す崩界"の発動時に除外した"星遺物―『星櫃』"は除外されたまま。払い損である。

 これでニンギルスの攻撃力は元のまま。このままでは戦闘破壊とダメージは逃れられない。

 だがサキュラスの墓地には、前のターンに"星遺物の醒存"で墓地に送った"タスケルトン"がある。こいつで攻撃を防ぐことは可能だ。

 

「くそっ……こうなれば墓地の"タスケルトン"の効果発動!こいつを墓地から除外することで、モンスター1体の攻撃を無効にする!」

 

 サキュラスがそう叫ぶと、ニンギルスの前に骸骨のヴィジョンが浮かび上がる。カエサル・ラグナロクは構わずに手から光線を放つが、放った光線はニンギルスに当たることなく、骸骨のヴィジョンに吸い込まれるようにして消えてしまう。

 だが、こんなものはその場しのぎでしかない。零児のフィールドにはまだまだモンスターが残っている。それも、どいつもコイツも馬鹿みたいに高ステータスの奴ばかりが。

 

「ほう。ならばヘル・アーマゲドンでニンギルスを攻撃だ!地獄触手鞭(ヘルテンタクルウィップ)!」

「ぐっ……!」

サキュラス:3000LP→2000LP

 

 零児の命令に従い、ヘル・アーマゲドンが光線を放つ。再び狙われたニンギルスだが、今度は守る術がない。光線に貫かれたニンギルスは断末魔を上げながら爆散し、サキュラスに戦闘ダメージが伝わる。ヘル・アーマゲドンの攻撃力もニンギルスの攻撃力も効果で変化している為、ダメージは通常よりも大きなものとなる。

 膝をつくサキュラス。彼の頭の中は、疑問で埋まっていた。

 何故だ?何故零児がリンク召喚をできたのだ?何故自分が追い詰められている?

 これまでサキュラスは、自分だけが使えるリンク召喚で好き勝手やってきた。未知の召喚法に狼狽え、困惑したまま負かされてゆく相手を見ると興奮した。

 しかし、相手も同じ武器が使えることを知った途端に、その余裕はなくなった。

 これはサキュラスに限った話ではない。一部例外はいるが、転生者というのは、大多数が転生先のルールをガン無視した転生特典(ちから)を持っている。それは原作キャラ達には決して理解も利用もできない彼らだけの特権。そんな力を生まれながらに持っているが故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから、対等な戦いという場において存在する一瞬の緊張感に、彼らの精神は耐えられない。要は、優位性が失われた途端に、一気に精神的に弱くなるのだ。

 そんな状態で、サキュラスに勝機はなく、ましてやこの次元でも指折りの実力者である零児に勝てる道理がある訳がなかった。

 ガタガタと震えるサキュラスだが、まだ決闘(デュエル)は続行中。零児のエグゼクティブ・テムジンがアウラムに襲いかかる。

 

「エグゼクティブ・テムジンでアウラムを攻撃!」

「うがああああああああああああああああっ⁉ 」

サキュラス:2000LP→1500LP

「"DDD深淵王ビルガメス"で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 もうサキュラスを守るモンスターは居ない。攻撃力1800のビルガメスの直接攻撃を受ければ、サキュラスは負ける。

 だが、まだ最後の砦は残っている。

 一枚だけ残っている伏せカード。それを使うしか、サキュラスが生き残る術はない。

 

「…………かかったな!(トラップ)カード、"波紋のバリア―ウェーブフォース"!相手が直接攻撃(ダイレクトアタック)をしてきた時、相手フィールドの攻撃表示モンスターをすべてデッキに戻す!あひゃひゃひゃひゃ!終わりだああああああああああ!」

 

 狂ったように笑うサキュラス。その態度に、当初の余裕は完全に存在していなかった。

 だが忘れてはならない。

 彼はあるモンスターの効果をまだ残しているのだから。

 

「"DDD呪血王サイフリート"の効果。表側表示の魔法・罠カードの効果を次のスタンバイフェイズまで無効にする」

「………………………………あ」

 

 文字通りの最後の壁もあっけなく突破され、サキュラスの眼前にビルガメスの剣が迫る。

 ありえない。

 なぜ。

 サキュラスは狼狽えるが、彼の敗因はただひとつ。

 弱かったからだ。

 

「うそだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ⁉ 」

サキュラス:1500LP→0LP(-300)

 

 

 


 

 

 セラに吹っ飛ばされたバルジは、プラネットプラザを突き抜けて外に放り出されていた。

 だが、その顔は笑っている。

 

「はは」

 

 彼は歓喜に震えていた。

 それは未知なるものを目の当たりにできた喜び。新たな玩具を見つけた嬉しさか。どちらにせよ、それはまともな感情ではないことだけは確かだ。

 そんな感じに大笑いをしていたバルジの元に、ひとりの少女が降り立つ。

 その全身から放たれていた激しい光は既に止んでいる。緑色の髪を逆立たせ、眼孔を緑色に光らせ、激しい光の代わりに全身から赤黒いオーラを吐き出しながら立つその少女騎士は、冷酷にバルジに向かって剣先を突きつけている。

 笑っているバルジに対して、セラが訊く。

 

「何を笑っている」

「笑うしかねえだろ!だってこんなもん見せられてよぉ!興奮しないわけあるか!」

 

 悪魔のように邪悪な笑みを浮かべながら、バルジはそう言った。

 彼は最高に興奮していた。ギフトメイカーになってから、否、転生してからの人生の中でも、こんなに興奮したのはそうそうない。それほどまでに興奮していた。実際、現在彼の()()()()は勃っていた。

 それに対して、セラは何も言わない。

 普段の彼女ならば、ここでバルジに対してなんらかの否定的なアクションがあるはずなのだが、今は違う。驚くべきほど静かに、冷酷にバルジを見ていた。

 しばらくの間、沈黙が走っていた。

 やがて、沈黙に耐えきれなくなったバルジが、口を開いた。

 

「なんとか言えよ!さっきから黙り込んじゃってさぁ!折角俺様の玩具認定をもらったんだ!喜んでほしいもんだぜ!」

「残念だが――貴様にそんな時間は与えられない」

 

 バルジの身勝手な意見をバッサリと切り捨てながら、セラはバルジの背後を指さす。

 ――バルジはなんとなく、指さす先に何があるのかを察していた。

 あれほどの閃光が夜の街に轟いたのだ。嫌でも目立つはずだ。そして、この状況でバルジと戦うような人間は、ひとりしかいない。大変不快だが、バルジはそれをわかっている。

 だから、自分の背後にいるその人物が次に言う台詞も、彼の予想通りのモノだった。

 

「見つけたぞ、バルジ!」

「――負け犬の癖にしつこいな、お前」

 

 傷だらけの転生者狩り。

 無束灰司が、戦場に到達した。

 

「あれだけ馬鹿みたいに光ってりゃあ嫌でもここに行き着く……ま、テメエが此処にいるとは幸運ここに極まれりって感じだな」

「散々ボコられといてよくもまあそんな減らず口が叩けるよなぁ。やっぱ馬鹿だなお前」

「言ってろ」

 

 バルジと口論しながら、灰司はその腰にカイザドライバーを装着し、カイザフォンにコードを入力していく。

 一方、セラはというと、灰司がやって来たのを確認するなり、用済みだといわんばかりにバルジに背を向け、プラネットプラザの内部に戻ろうとする。

 

「おい、どこ行く?」

「私は……探しに行かなくてはならない。近くにいる、私の求めるべきものがここにいる――!」

「おい逃げんなっ!お前は俺様の玩具なんだぞっ!」

 

 そんなうわ言を吐きながら走り出したセラを引き留めようとするバルジ。

 折角面白そうな玩具を見つけたというのに、それを手放すわけにはいかない。そう思いながら、彼は瓦礫の中から立ち上がって彼女を追おうとする。

 しかし、すかさず灰司がバルジに向かって、手に持っていたカイザブレイガンを発射する。黄色いフォトンブラッドでできた光弾がバルジの足元をかすめ、その足を無理やり止めさせる。

 

「言ったはずだ、お前の相手は俺だとな」

 

 何度も何度も、カイザブレイガンを撃つ灰司。

 バルジが足を止められている隙に、セラは悠々とプラネットプラザ内へと戻っていってしまった。

 

「…………クソッたれが。そこまで死にたいならお望み通り殺してやるよ!」

 

 玩具の奪還を妨害されたバルジは怒り振動だった。

 だが、灰司もまた、怒っていた。目の前に自分から全てを奪った怨敵がいるのだから当然だ。

 灰司は怒りのままに、カイザフォンをカイザドライバーに装填する。同時に、バルジもオリジオンとしての姿に変身する。

 

「変身っ!」

《complete》

「変っ身!」

《KAKUSEI IGARIMA》

 

 お互いにカイザとイガリマオリジオンに変身し、向き合う。

 

「行くぞバルジ。今日こそお前を葬ってやる」

「俺の遊びの邪魔すんなよクソガキ、マジだるいわ」

 

 そして。

 両者は衝突する。




4年もハーメルンで連載しといてろくに特殊タグ使えない作者がいるらしいんですよ~(自虐)

オリカ紹介のこ~な~


■オッドアイズ・テンペスト・ドラゴン
リンク・効果モンスター
リンク4/光属性/ドラゴン族/攻 2500
【リンクマーカー:左/右/左下/右下】
「EM」「オッドアイズ」「魔術師」Pモンスターを含む効果モンスター3体以上
(1)このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。このカードのリンク素材となったモンスターに応じて、以下の効果を適用する。
●「魔術師」Pモンスター:自分フィールドのPモンスターの数までフィールドのカードを選んで破壊する。
●「オッドアイズ」Pモンスター:自分フィールドのPモンスター1体を選び、その攻撃力をターン終了時まで倍にする。
●「EM」Pモンスター:自分フィールドの「EM」モンスターの数までフィールドのモンスターを選び、その効果を無効にする。
(2)リンク召喚したこのカードがフィールド上に存在する限り、自分のPモンスターが相手モンスターとの戦闘で相手に与える戦闘ダメージは倍になる。

次回 AM2:41/インクリングとティロ・フィナーレ
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