【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
サブタイは「インクリングとティロ・フィナーレ」とありますが、正確には「インクリングとティロ・フィナーレ(とザ・ハンド)」だったりします。
サブタイ詐欺常習犯ですいません。
とりあえず今回で3つくらいバトル終わらせます。
今回は最初から最後までバトルづくしです!
■今回の対戦カード
アクロスVSザ・ハンドオリジオン
霧崎律刃VSティロ・フィナーレオリジオン
迫真空手部VSインクリングオリジオン
Ready……fight!
プラネットプラザ2階・中央通路
ショッピングモールにある、とある高級洋服店。
さまざまなブランド品が並ぶその店は、甚大なる被害を受けていた。
「っ!」
ガシャンッ!と音を立てて、ショーウィンドウが破壊される。
中に立っていたマネキン達はバラバラになり、それらが身に付けていた衣服もビリビリに破れて商品価値を喪失する。
そして、砕け散ってゆくガラス片の雨の中を、人間の形をしたなにかが飛んでゆく。
「がっ……」
飛んでいる、いや正確には吹き飛ばされているのは、ティロ・フィナーレオリジオン。口から血を吹き出しながら、彼女はガラス片とマネキンの残骸の散らばる通路へと投げ出される。
それに続く様に、バラバラになって飛び散る破片の中から、彫刻刀を逆手に持った小さな少女が飛び出してくる。
その目は、幼い子供のものとは思えないレベルでギラギラしていた。
ティロ・フィナーレオリジオンはその目を知っている。
だが、彼女は仕事でここにいるのだ。
洗脳によって勝機を失いながらも、持ち前の責任感を糧に立ち上がり、内心で強がりながら、目の前の
「霧崎律刃、貴女を手配する理由はなくなったんだけど……そうまでして死にたいのね?」
「それってそっちの勝手な都合だよね?わたしたちはともかく、おかあさんが迷惑してたんだよね」
そう。
律刃がAMOREに狙われる理由となったのは、彼女が赤浦からイスタの人格データ入りのチップを、そうとは知らずに奪ったからだ。だが、イスタはもう既に復活しているので、AMORE側には律刃を重要参考人として手配する理由がない。
が。
そんな理由で彼女は止まらない。
「でも、おかあさん的にはあなたたちが許せないみたいだし、それならわたしたちも同意するしかないよね。」
「分からず屋共め、そこまで死に急ぐというのなら私が望み通りにしてやるわっ!」
自分に何か徳があるわけではないが、それはAMOREのやっていることを許せるかどうかとは別だ。律刃はあくまでも徹底抗戦の構えを示している。
その意思を聞き取ったティロ・フィナーレオリジオンは、それならば打ち倒すまでと判断し、腕に巻き付けていた黄色いリボンを触手のように素早く伸ばしだした。
「こっちは本気で世界平和の為に戦ってんのよ!なんとなく許せないとか、ほっとけないとか、そんな曖昧な理由で戦うんじゃない!そういう思い上がった考えの奴が一番邪魔なのよ!」
「思い上がっているという点ではそっちも同じだよね?こういうのを五十歩百歩っていうんだよ?」
罵声と共に繰り出されるティロ・フィナーレオリジオンのリボン攻撃を、律刃は彫刻刀を自在に振り回して弾いてゆく。ぱっと見は普通のリボンのはずなのに、まるで鉄を斬っているかのように彫刻刀の刃が全く通りやしない。というかどうみても金属音みたいな衝突音がしているあたり、おそらくこのリボンはただのリボンではないのだろう。
4回目のリボン攻撃を凌いだ律刃。そこに、渇いた音が耳に入ってきた。
律刃は反射的に、自らの側頭部を守るかのように彫刻刀の刃を動かす。すると、何かが彫刻刀の刃に弾かれるような音がした。
「正義の味方の癖にせこいね」
「……ちぃっ!」
律刃は彫刻刀を下ろしながら、ティロ・フィナーレオリジオンのほうを睨む。
ティロ・フィナーレオリジオンは、マスケット銃の銃口を向けながら律刃に向かって舌打ちをする。その銃口からは、真新しい硝煙が上がっていた。今の音は、ティロ・フィナーレオリジオンの狙撃の音だったのだ。
続けて4発、同じ音が鳴る。
それが何の音なのかは、律刃は見ずとも分かった。ただ、反射的に身体を捻り、壁を蹴る。その動きで、自身を貫かんと発射された弾丸を回避していく。それはあまりにも軽やかすぎる身のこなしだった。
が、
「――ん?」
銃弾を躱し終え、再びオリジオンの懐へと潜り込もうとした律刃だったが、意図せずその足が止まり、前のめりに倒れそうになる。
足元に視線を下ろすと、左足に黄色いリボンが巻き付いている。ティロ・フィナーレオリジオンのリボンだ。銃弾を囮にすることで、律刃に気づかれることなくそれを巻き付けていたのだ。
リボンを切断しようにも、先ほどの接近戦でこのリボンの強度は嫌というほど思い知っている。手持ちの武器ではコイツに傷一つ与えることもできない。
律刃はリボンの切断を諦め、視線を再度前に向ける。
そこには、ティロ・フィナーレオリジオンが何丁ものマスケット銃の銃口をこちらに向けた状態で立っていた。両手だけではなく自身のリボンも使い、十数ものの銃を構えながら、勝ち誇ったように彼女は叫ぶ。
「
(あ、まずい)
律刃がそう思ったのと同時だった。
数にして18。それだけの数のマスケット銃が、一人の少女目がけて一斉に火を噴いた。
通常を遥かに超える速度と威力、そして連射力を以て放たれた無数の弾丸が、律刃を蜂の巣にすべく襲い掛かる。おまけに彼女は、切断不能なリボンで身動きを封じられている為、それから逃れることはできない。
結果として。
おびただしい硝煙越しに、弾丸が人体を貫通する生々しい音がした。
プラネットプラザ2階 フードコート
迫真空手部の3人とインクリングオリジオンとの戦いは、端的に言って空手部の劣勢となっていた。
「ぐらあっ!」
「ヒギィッ⁉ 」
インクリングオリジオンはフードコートの随所に飛沫しているインクに潜航しながら、的確に死角からの攻撃を命中させていく。
いくらホモといえども、機動力の差がありすぎる。
「ホラホラホラホラホラホラホラホラァッ‼ 」
野獣は苦し紛れのホラホラッシュを繰り出すものの、インクリングオリジオンはインクに潜ってそれ回避し、野獣の足元から手を出してはインク弾を命中させる。
インク弾は野獣の汚い肌に着弾するなり爆発を起こし、野獣の身体を押し除けてゆく。
「駄目だっ……インクのせいで全然攻撃が当たらない……!」
「せめてインクを洗い流せればいいんだけど……あっ!」
その時、木村が何かを思いつく。
彼はインクで滑る床をなんとか走り抜けて野獣のところまで辿り着くと、野獣のズボンのポケットに手を突っ込む。
なにを勘違いしたのか、野獣が無駄に甲高い声で喘ぎ始めたが、そんなのはどうでもいい。不快な騒音を意識の外に追いやりながら、木村は野獣のズボンのポケットの中から銀色の箱状の物体を取り出す。
それがなんなのかは言うまでもない。ライターだ。
「先輩、ライターお借りしますっ!」
「あ、これ盗るなっ!」
野獣が文句たれるが、そんなものに耳を傾けている余裕は木村にはない。ライターの蓋を外し、天下スイッチに指をかけながら、天井にあるスクリンプラー目がけて跳ぼうとする。
そう、木村はスプリンクラーの水で周囲のインクを処理しようというのだ。完全に流すことはできない可能性が高いが、それでも、べとべとのインク塗れの今よりは状況がマシな方になるかもしれない。そんな一縷の望みを胸に抱きながら、木村はライターを点火する。
「スプリンクラーを作動させる気だな⁉ そうはさせるかっ!」
が、木村の目論見に気付いたインクリングオリジオンが、それを阻止すべく木村にむかってインク弾を発射する。
発射されたインク弾は木村の手からライターを弾き飛ばす。スプリンクラーの作動するすんでのところで、ライターは木村の手から離れ、床へと落ちてゆく。悔しそうな顔をする木村に、インクリングオリジオンの嘲る声がぶつけられる。
「そんな猿知恵で勝てると思ったのか?所詮お前らはただのホモ野郎、我に勝てるはずがないっ!」
インクリングオリジオンの言葉に続くように数発、インク弾が木村に着弾する。背中にインク弾を受けた木村は、苦悶の声をあげながらテーブル席の上に墜落する。
それと同時に、
(え?)
インクリングオリジオンが違和感に気付いたのもつかの間。
ボワッ!!!!!!! と。
フードコートの床が勢いよく燃え上がった。
「なんだとっ⁉ 」
一瞬にして足元が火の海と化したことに、インクリングオリジオンは驚きを隠せないでいた。
「近くの店の厨房から拝借してきた油だ!こいつで火事を起こせばライターの火よりもでっかい炎がでるっ!スプリンクラーも作動するっ!」
「無駄だっ!」
インクリングオリジオンは、すかさず天井のスプリンクラーに向かってインク弾を放ち、それを破壊する。これで木村の目論見は潰えたとほくそ笑むオリジオン。
しかし、
「な、なんだこれ……インクが固まって……」
「
そう。
火事になるほど大きな炎を発生させれば、それだけの熱が発生する。そして、インクリングオリジオンがばら撒いたインクも熱で凝固する。
そして、床一面に広がった炎はインクリングオリジオンの身体にも燃え移る。油まみれの床を踏んでいた彼の足にだって油はついているのだ。
周囲のインクを固められて潜行も封じられたインクリングオリジオンは、全身を焦がす痛みに耐えながらも、尚も立ちはだかるホモ達を始末せんと挑みくる。
「ぐっ……はっ……!」
「迫真空手八の型・キムランス(素手)っ!」
「ぬがああああああっ!」
一瞬。刹那の差で先制を取ったのは木村だった。
槍の如き鋭さを持った木村の突きが、インクリングオリジオンの腹に深々と突き刺さる。体内から根こそぎ空気を搾り出す様な痛みが、オリジオンの全身に迸ってゆく。
そして、木村の止めのひと蹴りで、オリジオンは一気に吹き飛んだ。
燃え上がる炎を背中で突き破り、フードコートのテーブルや椅子をボウリングの様に薙ぎ倒しながら、オリジオンはフードコートの壁に激突する。
壁に叩きつけられたインクリングオリジオンは、ずるずると崩れ落ち、炎の中へと沈んでゆく。
「よくやったゾ~木村。何言ってるのかわからないけどいいゾ~コレ」
その様子を見ていた三浦が、木村に駆け寄りながら彼を褒め称える。
いつのまにかフードコートはそこら中が燃え上がっていた。そして、インクリングオリジオンが壊したのとは別のスプリンクラーが消火のために作動しており、三浦の頭を濡らしてテカらせていた。
「やりますねえ!じゃ、後は俺がトドメ刺しますね〜」
三浦が木村の奮闘を讃えていると、先程まで空気だったくせにやけにご満悦顔の野獣がやってきた。後輩と先輩にやらせといて、最後だけは自分が頂く算段らしい。
が。
「…………で?」
「なっ……」
「お前らさ、嘗めすぎ。基礎スぺックから違うっていうのに、ただの人間がオリジオンに勝てるわけねえだろ」
ガシリと、炎に包まれたインクリングオリジオンの手が、野獣の手首を掴む。
そして、屈辱と怒りの籠ったインクリングオリジオンの渾身の一発が、野獣のきたないイボの目立つ顔面に突き刺さった。
「や、野獣!」
「ばっ……ぐはっ……⁉ 」
三浦の叫び声が耳に届くよりも早く、野獣の身体が吹っ飛ぶ。
インクリングオリジオンに殴り飛ばされた野獣は、フードコートの机や椅子を薙ぎ倒しながら吹っ飛んでゆき、窓ガラスを突き破ってフードコートのテラス席まで放り出される。
大きな水飛沫を立てながら、野獣はテラスに倒れる。冷たい水が、野獣のシャツの内側に滑り込んでくる。
いつの間にか、外は土砂降りの雨になっていた。
「や、ばい……痛すぎィ!逝く逝く逝く……」
痛みで意識が飛びそうになる野獣だが、インクリングオリジオンへの反抗心だけを頼りに、なんとか飛びそうな意識を手元に手繰り寄せる。
土砂降りの雨に打たれながら野獣が飛び起きると、インクリングオリジオンが屋内から野獣を凝視していた。その目には、格下と思っていた相手に反撃されたことに対する屈辱の感情がにじみ出ているのがよくわかる。
それを見て、向こうからの反撃が来ると思い、野獣は即座に身構える。
が、
「……あれ?」
インクリングオリジオンは野獣を追撃せずに、屋内にいる木村達の方へと突っ込んでいった。
てっきり野獣を狙いに行くはずと思っていた木村達は、自分達の方に突っ込んでくるインクリングオリジオンに対してわずかに反応が遅れる。
インクリングオリジオンは身体に炎を残したまま、木村に殴りかかろうとするが、そこに三浦が割って入り、木村を庇う。
「ぐっ……!」
「三浦先輩っ!」
鼻血をまき散らしながら壁に激突する三浦だが、自身のダメージも顧みず、真上から降り注ぐ消火用スプリンクラーの水を浴びながら、自身を心配して駆け寄ろうとする木村の背中を押す。
「俺に構わず攻撃するんだゾ!」
「あ……はいっ!ナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメナメェッ!」
三浦の後押しを受け、木村はインクリングオリジオンに対してラッシュ攻撃を繰り出した。オリジオンの身体の炎が自身に燃え移るのも厭わずに、木村は攻撃を続ける。
野獣や三浦と比べれば威力は多少落ちるものの、その分スピ―ドは優れている。これまでの戦闘で傷を負っているインクリングオリジオンは、それを躱しきることができず、もろに数十発喰らい、まるでバットで打たれたボールのように飛んでゆく。
が、オリジオンは即座に近くの柱を掴み、無理やりその場に踏みとどまる。
そして、そのまま柱を掴む手に力を込め、思いっきりそれを突き放す。プールの内壁を蹴って泳ぎ出す水泳選手の様に、勢いをつけ、木村目掛けてつっこんでくる。
そこで野獣が叫ぶ。
「三浦っ!伍の型だっ!」
「!よくわかんないけどやってやるゾ!迫真空手伍の型・
「なっ……!」
野獣に言われるがまま三浦が両手をかざすと、三浦の手のひらから無数のシャボン玉が勢いよく発射される。
それはインクリングオリジオンに触れるなり激しく爆発し、木村の眼前に迫っていた彼の身体を吹き飛ばす……が、何か様子がおかしい。
「あ……くっ……からっ……!ぐああああああああああああああああああああっ⁉ 」
インクリングオリジオンは、三浦の攻撃を受けた部分を押さえながら激しくのたうち回り始めた。
三浦の使った技はあくまで牽制程度の威力しかないはずなのだが、それにしてはこの痛がりようはいささか大袈裟すぎるような気がする……と木村は違和感を抱く。三浦はというと、そんなことは全く考えられておらず、自分が相手に大打撃を与えたことを純粋に喜んでいる。
「おいお前!今のはどういう仕組みだっ⁉ お前ら人間じゃねえのかよっ!」
「人間じゃないゾ、ホモだゾ」
「手からバブル光線放つホモがいてたまるかっ!」
「秋吉先生は鉄板噛み千切れるし、ゆうさくはスズメバチに何回刺されても蘇るし、姉ちゃんは目からビームや霊魂発射するんだけどなぁ」
インクリングオリジオンのもっともな突っ込みに対し、身近な人達を例に出して反論する三浦だが、明らかに比較対象がおかしいことに三浦は気付いていない。
床に転がりのたうち回るインクリングオリジオン。
そこに追い打ちをかける様に、背後から首をホールドされる。
首を絞められて苦しみながら、なんとか首を回して後ろを見ようとするインクリングオリジオン。
そこには、雨でずぶ濡れとなった野獣がいた。彼の腕が、オリジオンの首を絞めていた。
オリジオンが何か言おうとする前に、野獣が口を開く。
「もしかしてだが……おまえ水に弱いんじゃないのか?」
「……っ!」
「その顔……ビンゴだな?俺や三浦さんにトドメを刺さなかったのも、雨やスプリンクラーに濡れずに攻撃する手段がなかったからだ。この土砂降りじゃあインクを飛ばしてもその前に溶けちまいそうだしな」
そう。
野獣達は知らないが、インクリングという生き物は泳げない。それも、水に入れば浸透圧差で一瞬で身体が解けてしまうほどに。それを知っていたが故に、彼は雨やスプリンクラーの下にいる野獣や三浦に手を出せなかった。三浦のバブル光線で大ダメージを受けた。
そして、そんな致命的な弱点を知ってしまったら、相手がどんな手に出るのかは明白だった。
「くそっ……こんなのっ……!こんなホモ共にっ……!」
「おいおい同性愛差別かよ、どうやらお前は心までバケモンらしいなっ!」
悪態をつくインクリングオリジオンだが、その首をホールドする野獣の腕にさらなる力が加えられ、ずるずると引きずられてゆく。
引きずらる先は明白。土砂降りの雨が降り注ぐテラスだ。
三浦のバブル光線であれほど苦しんだのだから、土砂降りの雨にさらされればどうなるのかは明白だ。
だからこそ、オリジオンは全力で抵抗する。
「ぐらああああああああああああああああああああっ!」
火事場の馬鹿力というやつなのか、インクリングオリジオンは雄叫びを上げながら、自身の首にまわっている野獣の腕を掴むと、彼を強引に引き剥がし、投げ飛ばした。
汚い悲鳴をあげ、雨晒しのテラスに放り出される野獣。
だが、遅かった。
既に、木村と三浦が近くまできていた。インクリングオリジオンは、野獣達に完全に囲まれていた。
周囲は火と雨、焼けこげた身体ではインクを吐くこともままならず、仮に吐けたとしても周囲の炎によってすぐに乾いてしまう。
早い話、彼は詰んでいた。
「いくぞ2人とも!秋吉先生のシゴキの成果見せようぜっ!」
「サボり魔の癖に調子いいこと言わないでくださいよ……まあ今回ばかりは乗りますけどね!」
「おし、じゃあぶち込んでやるぜ!」
狼狽えるインクリングオリジオンと、一斉に気合をいれる迫真空手部。
そして、
「「「迫真空手十の型・
ドゴンッ‼︎‼︎‼︎と。
3人の同時攻撃をモロに喰らったインクリングオリジオンは、悲鳴を上げる間もなく雨の中へと突っ込んでいった。
吹っ飛んだオリジオンはテラスを飛び越し、雨の降りしきる池袋の夜空へと飛んでゆく。その身体は、雨に濡れた箇所から、まるで常温下に置かれたドライアイスのように煙を立てながら薄れていく。
そして、その落下地点はというと、水着の男女で賑わう、ガラス張りの天井のナイトプール。
「く、そがぁぁぁあああっ……クソッタレがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
落下地点をそらそうにも、満身創痍なその身体は動くことを許さない。ただ、断末魔を上げながら恨むことしか、今の彼にはできなかった。
そして。
ガシャンッ!と激しい音を立ててガラスを突き破り、水が貯められたプール内へと墜落した。
プラネットプラザ1階東
多数の銃痕の残る通路にて。
先程まで戦っていた律刃が硝煙の中に消えたのを見て、ティロ・フィナーレオリジオンは勝利の笑みを浮かべていた。
足元には、律刃が使っていた彫刻刀が散らばっている。それらは全て刃が折れており、もはや使い物にならない。
「あなたが悪いのよ。あなたが余計な真似をするから拗れた!あなたが大人しくしていればこんな戦いをせずに済んだのよ!」
「――それは無理な話だ」
が、それを一瞬で裏切る声。
それは先程まで戦っていた律刃の声だ。聞き間違えるはずがない。
しかし、今ティロ・フィナーレオリジオンの耳に届いている声は、まるで別人の様にしか聞こえなかった。
声真似だとかそういうものではない。雰囲気がガラリと変わっているのだ。先程まで感じていた、底知れぬ恐怖の中から湧き上がる無邪気さがぴたりと止み、代わりに静かなる義憤が声に纏わりついている。まるで、誰か別の人間が律刃の口を使ってしゃべっている様だ。
薄れゆく硝煙の中、律刃はそこに無傷で立っていた。
困惑するオリジオンに、彼女は語りかける。
「ヒトの善性を縛ることなんてできない。というか、あれを放置していたら
「…………何を言っている?」
ティロ・フィナーレオリジオン――池映寧理は、動けなかった。
律刃の雰囲気の変貌を受け入れられない。幼いながらも聡明だった彼女とはうって変わり、どこか異様に大人びた雰囲気をだしている。まるで、
「お前……まさかその特典は……⁉ 」
そこまで考えて、彼女はある可能性に思い至った。
それを感じ取ったのか、律刃は薄ら笑いを浮かべている。
そして、彼女は口を開いた。
「
一説によると。
それは子供の怨念の集合体だという。
絶大なる繁栄を迎えていた霧の都で生まれたそれは、魔術師の手によりあっけなく霧散した――筈だった。
しかし、一度生まれたモノの記録は消えることはない。残された噂や信仰により、それは反英雄として人類史に刻まれた。
結論から言おう。
今この世界に存在する霧崎律刃という少女は、
混ざり物の存在ゆえに、本来のクラスである
これは律刃の中に宿る“彼”も望んではいないことだ。
“彼”が願ったのは、ほんのささいなことだ。
だが、“彼”を転生させた者の悪意が、それとも転生先の世界の法則ゆえか、結果として誕生したのが、霧崎律刃という存在だ。
転生という
そんな彼女は今。
本領を発揮しようとしていた。
「憑依……いや精神同居!なんて悍ましいっ! 」
「ああそうだ。オレはジャック・ザ・リッパーと混じり合い、受肉した存在。本来ならば彼女とは別の存在としてこの世に降り立つはずだった転生者だ……これで満足か?」
「いや、そんなことはどうでもいい!どのみちAMOREに逆らうものは始末するっ!」
ティロ・フィナーレオリジオンは、頭の中に浮かび上がった悍ましさを振り払うかの様に、律刃に向かってリボンを伸ばす。
「憑依なぞ許すものかっ!それは人間の尊厳を破壊する——最悪の行為なんだっ!」
ティロ・フィナーレオリジオン——池映寧理は、憑依系転生者を忌み嫌っている。
理由は簡単、憑依とは他人の尊厳を汚す最低の行為だからだ。
見ず知らずの他人に身体をなすすべなく横取りされるのだから、される側からすればたまったもんじゃない。
事実、過去には凶悪な憑依能力者による犯罪が問題となった末、AMOREは憑依能力者の掃討作戦を決行するまでに至ったのだ。
故に彼女をはじめ、AMORE内では憑依に対してネガティブな印象を持つ隊員が少なくない。
中には過激な意見を持つに至るものもいるという。
そして、寧理はそのうちのひとりだった。
故に、彼女は律刃に対して最大限の殺意を向ける。
目の前の存在を生かしてはおけない。
彼女はAMOREの邪魔をする敵であり、他の存在に文字通り寄生することでしか生きられるない、転生者の恥だ。
普段は理性によって心の奥底で封じられている悪感情が、洗脳によってその枷を外され、牙を剥こうとしていた。
この瞬間、池映寧理は正義を捨て、完全なる悪となった。
いっときの感情に突き動かされるがままに、気に入らないものを排除する悪になったのだ。
それを知ってか知らずしてか——
「おかあさんのこと悪く言ったんだから、ばらばらにしてもいいよね?」
彼女は、隠し持っていた得物を取り出す。
それと同時に、肉体の主導権が■■■■から
「ナイフ⁉︎ いつの間に⁉︎ 」
いつの間にか、律刃は彫刻刀ではなく鈍い光沢を放つ果物ナイフを持っていた。
彼女達はここにいたるまで、このプラネットプラザを広範にわたって駆け回った。そのどこかで、ティロ・フィナーレオリジオンの目の届いていないタイミングで調達したのだろう。
新品のそれを自在に扱いながら、ティロ・フィナーレオリジオンのリボンをいなしてゆく律刃。
彼女は、中にいる
「ねえ、あの人解体していいでしょ?」
“おいおい、相手さんは正気を失っているだけだぜ?殺すのは無しだ。ぎりぎり死なない程度に頼む”
「おかあさんは相変わらず注文が多いなあ……」
“すまないが、殺すのは周りの雑魚で我慢してくれ。他人から悪く言われるのは慣れてるから、さ”
えー、といいながら、律刃はナイフを構える。
そして、宝具を使った。
「
「――え?」
それは一瞬だった。
ナイフの刃を抜いた律刃は、瞬く間にティロ・フィナーレオリジオンの背後に移動していた。
律刃の方を振り返った彼女が何か言おうとする。
しかし、声より先に出たのは、おびただしい量の鮮血だった。
「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ⁉ 」
真っ赤な噴水ができあがった腹部を押さえながら、悲鳴をあげてその場にうずくまるティロ・フィナーレオリジオン。その姿は、みるみるうちにボロボロに崩れ去ってゆき、元の人間――寧理の姿に戻ってゆく。
しばらくして、血を流し過ぎた彼女は、力なくその場に倒れこむ。びちゃりと、床に広がった血が飛び散り、律刃の背中にかかる。
“ちゃんと生きてる……よな……?”
「たぶん、ね。おかあさんとのやくそくだもん」
勝敗は決した。
返り血まみれの少女は、鼻歌を唄いながらその場を後にする。
それを咎めるものは、もういない。
プラネットプラザ2階・中央階段前
バンッ‼ という音と共に、天井に埋め込まれていた照明が破損し、その機能を喪失する。
理由は簡単。
アクロスがザ・ハンドオリジオンに殴り飛ばされ、天井に激突したからだ。
「くっそ……いってえ……!」
天井の破片とともに床に落ちてきたアクロスは、自身の叩きつけられた天井を見上げる。天井を覆っていた筈の気味の悪い触手は、既に消え失せていた。あれがなんだったのかはいまだに不明だが、それについて思案するだけの余裕はない。
顔を正面に向けると、アクロスを殴り飛ばしたザ・ハンドオリジオンがこちらに向かって走ってきている。
ザ・ハンドオリジオンは、走りながらその右腕を振るう。
それは誰にも当たることなく、空を掻く――だけでは終わらなかった。
「な」
ガオンッ!という音がしたかと思えば、次の瞬間、
距離にして10メートル以上は開いていたにもかかわらず、一瞬でそれが無くなった。何が起きたのか理解できていないアクロスの顔面に、ザ・ハンドオリジオンの左拳が突き刺さる。
「ぐっ……う……っ⁉」
殴り飛ばされながら、何が起きたのかを思考するアクロス。
だが敵は、思考を巡らせている暇を与えてはくれない。
ザ・ハンドオリジオンが再び右腕を振るう。すると、ザ・ハンドオリジオンに殴り飛ばされ、彼から離れる形で吹っ飛んでいた筈のアクロスは、次の瞬間にはザ・ハンドオリジオンに胸倉を掴まれていた。
瞬間移動とかそういう類のモノかと思ったが、殴られる直前と周囲の風景の見え方というか、視点が同じ辺り、オリジオン側は一歩も動いてはいない。まるでアクロスの方が引き寄せられたかのような動きだった。
「ハメられてたまるかっ!」
このままでは格ゲーでいうところのハメ技ルート一直線だ。
最悪の袋小路を察したアクロスは、ザ・ハンドオリジオンの腕をなんとか払いのけると、急いでオリジオンから距離を取る。
そして、腰に携帯していたツインズバスターを
「くそっ……なんなんださっきのは……⁉ 」
ツインズバスターを連射しながら後退するアクロス。
こいつはいままでのオリジオンのように単純なフィジカル勝負では済まなそうだ。先ほどにハメ技の絡繰を見抜けなければ同じことの繰り返しだ。それまでは不要に近づかない方が――
「――逃がすかよ。お前の墓標は既に決定されているっ!」
「ぬぁにっ⁉ 」
ザ・ハンドオリジオンが忌々しそうにそう怒鳴りながら右腕を振るうと、10メートル以上はあったであろう両者の距離が、瞬時に10分の1以下にまで縮まった。アクロスの逃げの一手は一瞬で瓦解したのだ。
ツインズバスターによる威嚇射撃の網をすり抜けてアクロスの眼前までたどり着いたザ・ハンドオリジオンは、右の拳でアクロスを殴りつけようとする。
が、アクロスはツインズバスターの銃身でオリジオンの腕を下から突き上げる形で殴りつけ、オリジオンの腕の軌道を上にずらす。アクロスの側頭部を抉るように進むはずだったオリジオンの腕の軌道は上に逸れ、アクロスの頭上をかすめる。
その隙を利用し、アクロスは構え直したツインズバスターの銃口をザ・ハンドオリジオンの腹部に押し当て、ゼロ距離でツインズバスターを連射した。内部で生成された特殊エネルギー弾はその姿を外気に晒すことなく、ザ・ハンドオリジオンの腹部を何度も貫いてゆく。
「ぶっふがっ…………⁉ やったな貴様っ!」
腹から硝煙を吐き出しながらよろけるザ・ハンドオリジオン。そこに間髪入れず、アクロスの蹴りが滑り込んでくる。
アクロスとしては渾身の一発のつもりだったのだが、相手は曲がりなりにも正規の訓練を受け、最前線で戦ってきたAMOREエージェント。アクロスのキックで押されながらも体勢を崩すことなく、吹っ飛びの勢いが落ちた瞬間に、一気にアクロスとの距離を詰めてゆく。
ブンッ‼ とザ・ハンドオリジオンは右腕を振るう。すると、先ほどのように、両者の距離がほぼゼロになる。
が、同じ手をそう簡単に受けるわけにはいかない。
アクロスはそれを見越して、
照明が破壊されて薄暗くなっていたこともあって、それの認識が遅れたザ・ハンドオリジオンは、自らツインズバスターの刀身の軌道に頭から突っ込むこととなり、その脳天にツインズバスターの刃を喰らってしまう。
豚の鳴き声のような悲鳴をあげながら、ザ・ハンドオリジオンは吹っ飛んでゆく。近くの家電売り場の入り口に置かれたワゴンを押し倒し、オリジオンは地面に尻をつく。
肩を上下させながら呼吸を整えるアクロス。
彼は、これまでの戦いの中で、相手の能力に気づきはじめていた。
「その右腕……そいつがお前の能力のトリガーなんだな?」
「ああ、馬鹿正直に何度も使えばわかるよな、そりゃ。だが、俺が何をしているのかはわからないだろう!」
「空間、だろ。削ってるのは空間だ!」
「っ……察しがいいな。伊達に視線を潜り抜けてはいないという訳か」
ザ・ハンドオリジオンは、予想以上のアクロスの察しの良さに素直に賞賛を送っていた。
アクロスの言う通り、今彼が持っているのは“空間を削る力”だ。元より隠す気はなかったが、気づかないならばそれはそれで滑稽だとも思っていた。
「だが、これでも手加減はしているんだぞ?お前の身体にこの能力を直接当てれば致命傷になるのだからな」
「……まだやるのか?さっきの一撃、かなり効いたと思うけど?」
「当たり前だ。俺達は世界平和のために戦う。そのためには手段は選ばない!」
ザ・ハンドオリジオンはそう言うと、ばっと立ち上がってアクロスに殴りかかってきた。
その動きはあまりにも速すぎたので、アクロスも反応が遅れ、その顔面にオリジオンの拳が直撃する。
拳を受けたアクロスは一瞬ふらつくが、なんとか踏ん張って耐え、オリジオンを殴り返す。
鈍い音と共に、殴られたザ・ハンドオリジオンがよろける。
「こっちも伊達にライダーやってないんだよっ!」
「しぶといなこの野郎っ!一般人は大人しく引っ込んでやがれ!戦場に軽々しく出られちゃあこっちの迷惑でしかないんだ!」
ザ・ハンドオリジオンがそう叫びながら腕を振り下ろすと、ガオンッ!と音を立てて、アクロスの立っていた箇所の空間が削れる。
アクロスはオリジオンの腕の動きを見て、即座に前に飛んで空間掘削を回避する。その直後、アクロスのすぐ後ろで空間が削れる音が鳴り、アクロスの背中を振るわせる。
「消え去れ!お前の様な部外者がいていい場所じゃないんだよっ!」
ザ・ハンドオリジオンの懐に飛び込んだアクロスは、オリジオンにもう一発入れようとするが、負けじとザ・ハンドオリジオンがもう一度空間を削ろうと腕を振ろうとする。
が、アクロスはその腕をがっしりと掴んで静止させる。
「多分、その意見は受け入れられない」
そして、ザ・ハンドオリジオンの先程に言葉に対して、そう言った。
「俺は、物語の中のヒーローが遠い存在のように、自分には届かない位置にいるものだって思っていた。見ず知らずの人の涙や笑顔に本気になれて、自己犠牲を軽々しく選べるような
「……?」
「けど、仮面ライダーになってみて分かったんだ。
そう。
この
こうして戦っている今も、昨日のビル火災のときもそうだ。
以前までは身近な人の為だけに戦っていた瞬だが、今は違う。
彼は今、妹を助けるという気持ちに加え、ほとんど初対面であるはずのレイとイスタを救うという気持ちも糧として戦っているのだ。要は、
それをある人は「ヒーローとしての進歩」と捉え、ある人は「人間としての崩壊」と捉えるだろう。
しかし、この瞬間。
逢瀬瞬は着実に、以前よりも一歩先に進み出していた。
「世の中には、安全圏で大人しくできない人種がいるんだ。それが――俺だ!」
彼は、自覚したのだ。
ただ力を与えられただけの存在ではなく、自らがヒーローであることを。
故に、止まらない。
止まるわけにはいかない。
「俺はイスタのことなんて全然知らないけど、だからといってほっとくこともできない!湖森も助けるし、イスタも助ける!取捨選択なんかしてたまるかっ!俺はそういうヒーローになるんだ!」
「何も知らないから貴様はそんなことが言えるのだ!そんな欲張りが通用するほど現実は甘くないんだ!」
「欲張らないでヒーローができるかっ‼ 」
《CROSS BRAKE》
本人は気づいてはいないが。
彼が口にしたのは、まさしくヒーローの本質だった。
アクロスは叫びながら、掴んでいたザ・ハンドオリジオンの腕を押しのける様に手放すと、クロスドライバーのライドアーツ挿入口を上にあげ、再度下ろす。
硬く握りしめた拳に赤黒い稲妻が走り、終結してゆく。
ザ・ハンドオリジオンは、必死になって腕を振り下ろそうとする。
そして。
空間を削る右手を滑るように乗り越えたアクロスの渾身のパンチが、ザ・ハンドオリジオンの右頬に衝突した。
続くよ?
はい、ようやく律刃について開示できました。
律刃の設定は割と早い段階で決まってました。
憑依・なりきり系転生者というコンセプトで1キャラぐらいだそう。でも単なる憑依やなりきり系だと有象無象の敵役にしかならないぞ、ということで、ある意味無茶苦茶な彼女が出来上がりました。
ちなみにジャックちゃんにしたのは完全なる私の趣味です。
ちょうどその頃はFGO始めたばっかりだったから……
あと、なんか若干ザ・ハンドオリジオン戦が駆け足気味になってしまい申し訳ございません。
ここで謝ります。
とりあえず次回はリザードン戦とカオスソルジャー戦を片付けるつもりです。
■霧崎律刃
真名:ジャック・ザ・リッパー
クラス:アルターエゴ
〇ステータス
筋力:D
耐久:C
敏捷:B-
魔力:D
幸運:E
宝具:C
〇保有スキル
■気配遮断B+
混ざり物であるが故に本来よりランクがダウンしている。
■対魔力(転生者)B
転生者が一律で有する異能の力への抵抗力が変化したもの。
魔術攻撃への耐性の他、異能の力に対しても初撃程度ならば肉体・精神への影響を遮断できる。
■双魂A
全く異なる2種の精神が同居している稀有な状態。
精神力の総量が単純に他の英霊よりも多いため、通常よりも高い精神攻撃への耐性を持つ。
〇宝具
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それ以外はだいたい殺ジャックとだいたい同じ。ただ転生者人格が完全に足を引っ張っているので随所でランクダウンを起こしている。
次回 再来のロストウィル