【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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池袋編だけで1章の話数の半分近くつかってるってまじ?

■前回までのあらすじ
ガンズオリジオンVSキンジ・アリア
カオスソルジャーオリジオンVSブレイド
リザードンオリジオンVSユナイト
——決着!

そして、ついにボマーに追いついた瞬だったが……?


第36話 AM3:10/覚悟VS責務

 

 

 プラネットプラザ 地下駐車場

 

 

「げほっ……ここは何処だ……?」

 

 逢瀬瞬は、瓦礫の海の中で目を覚ました。

 目覚めて早々、何気なく腰に手をやった瞬は、腰に巻きっぱなしだったクロスドライバーがなくなっていたことに気づいた。何処にいったのだろうか。

 というか、一体何が起きたというのだろうか?

 ひとつの疑問を胸に、全身をくまなく走る痛みに突き動かされるがまま、瞬は歩き出す。

 

「確か……レイと一緒にボマーの所まで辿り着いて……それから……」

 

 歩きながら、ここに至るまでの経緯を思い返す。

 瞬はAMORE側の刺客であるザ・ハンドオリジオンを撃破した後、レイと共に、爆発の起きた箇所までやって来た。そこでボマーオリジオン——赤浦健一と再開し戦おうとした瞬間、奴が引き起こした爆発に巻き込まれた。

 その結果が今だ。

 プラネットプラザは広範囲にわたって崩壊を起こしており、ひどい有様となっていた。我ながらよく生きていたものだと、瞬は自分の運の良さに笑わずにはいられなかった。

 彼が意識を失っていた時間は数十秒。だが、この状況下においては、数十秒という時間は、状況を激変させるには十分過ぎるものであった。

 

「レイっ!湖森っ!トモリ!返事してくれ!」

 

 瓦礫の上を歩きながら呼びかける。

 返事はない。

 

(まさか、崩落に……いや嘘だ!まだ生きてるはずだ!)

 

 瞬は、頭の中に浮かんだ最悪の予想を振り払うかの様に、必死に呼びかける。

 その時だった。

 

「また会ったな、逢瀬瞬」

「‼︎ 」

 

 突然、名前を呼ばれた。

 ばっと瞬が後ろを振り返ると、そこには、今回4度目となる顔があった。

 眼鏡をかけた、険しい顔つきの男——裁場整一が、そこに立っていた。

 彼の手には、アクロスのライドアーツが刺さったままのクロスドライバーが握られている。おそらく、瞬が落としたものを彼が拾ったのだろう。

 

「何故ここに来た?君はもう戦いに関わるなと言ったはずだ。既に君のクロスドライバーは俺が回収している。君が戦う術はもうなくなったんだ」

「それで止まる様なら仮面ライダーやってないんだよ。それに俺は、レイの願いを犠牲にしてまで平和な世界に戻る気もない。レイもイスタも、湖森もトモリも、皆を助けるには、戦うしかないんだ」

「だから俺が全部なんとかすると言っただろう。戦って傷つくのは……俺だけで構わない」

 

 以前会った時同様に、裁場は瞬を戦いの場から降ろそうとしてくる。

 だが、瞬はそれを受け入れられない。

 

「あんたが俺のためを思って言ってくれているのは知ってるよ。でも理屈の問題じゃない。これは約束なんだ……唯との」

「約束だと?」

「唯が、俺を逢瀬瞬(おれ)にしてくれた。だから、それに応えなきゃいけないんだ。それを裏切ることはできない」

 

 一向に引き下がらない瞬。

 だが、裁場もそれは同じだった。

 大切な人を助けたい一心で立っている瞬と、これ以上誰も傷つかないようにと願っている裁場。どちらもかたくなに譲らないが故に、もはや話し合いで解決できるような状態ではない。

 

「君はまだそんなことを——」

 

 裁場は声を張り上げようとして

 

“なんでもかんでも他人から取り上げて、自分ひとりでやろうとするのが大人なのかよ⁉︎ ”

“戦ってほしくないだと?死んでほしくないだと?俺の気持ちなんかまったく考えてねえ癖に出しゃばるなよ……余計な真似すんなよ、この役立たずが!”

“笑わずにはいられないよ……裁場誠一、君の傲慢っぷりにはね!”

“私はね、君が望んだから力を授けたんだ。君の贖罪意識に共感したわけじゃあない。君の自責の念に他人を巻き込むな。私はそんなくだらないもののために君を仮面ライダーに選んだのではない”

 

(——⁉︎ )

 

 その時。

 突如として裁場の脳裏にフラッシュバックする、鋭い言葉の数々。それを振り切るように身体を動かそうとするが、脳内でリフレインするその言葉たちが、裁場の身体を地面に縫い付けて動くことを許さない。

 瞬に何か言おうとしても、それは呻き声にしかならない。

 認めたくないだけで、裁場はすでに分かっているのだ。自分の行いは、他人を心配する心から来ているのではなく、自己満足でしかないということに。誰も救えなかった、無力な過去の自分を否定したいがための、浅ましい行為でしかないことに。

 それが頭の中に浮かんでしまった裁場は、動けなくなっていた。

 そこへ、

 

「おーおーおー、ライダー同士で仲間割れはよせよ。今令和だぞ?いつまで平成気分でいるわけ?」

「お前は……レド!それにボマーも……!」

 

 声のした方に、ばっと首を向ける瞬。

 そこに居たのは、赤いシャツを着た金髪の少年——ギフトメイカー・レドであった。

 彼も爆発に巻き込まれたのか、全身煤まみれな上に服もボロボロになっているが、そんなの平気だぜ、と言わんばかりにぴんぴんしている。

 その隣には、ボマーオリジオン——赤浦健一が佇んでいる。ずっと俯いてはいるが、そのギラギラした目だけはまっすぐに瞬達を捕えている。

 瞬と裁場は我に返り、同時に身構える。

 

「おっ、やる気に満ち溢れてるね。僕もバルジの悪趣味に嫌々付き合わされてるんだ。本当なら君たちで憂さ晴らしをしたいんだけど……ティーダに雷落とされるのもアレだから、もっと確実な方法で倒すことにするよ」

「何をする気だ……⁉︎ 」

 

 レドはそう言うと、瓦礫の後ろから何かを引き摺り出す。

 瞬はその引き摺り出されたものを見た瞬間、思わず叫んだ。

 

「湖森⁉︎ 」

 

 そう。

 なぜならそれは、ずっと助けようとしていた妹だったのだから。

 彼女もかなりボロボロになってはいるものの、まだ息はある様だ。2回も爆発に巻き込まれているくせに生きているのは、この兄にしてこの妹ありと言うべきだろうか。

 瞬は我を忘れて駆け出し、湖森を助けようとする。

 クロスドライバーが無くたって構わない。変身できなくとも、家族の為にならいくらでも命を張ってやる。

 そう意気込んで突っ込んできた瞬を、レドは笑いながら見ていた。

 

「そう、君の妹だ。これを——こうだ!」

「⁉︎ 」

 

 レドは一枚のカードを取り出し、湖森に押し当てる。

 すると、湖森の身体がみるみるうちにカードの中へと吸い込まれるようにして、消えてしまった。

 

「なっ……何をした⁉︎ 」

「カードに封印した。人質の持ち運びが便利になるからね」

「湖森を返せ!目的は俺なんだろ⁉︎ なら俺だけを狙えよ⁉︎ 」

「ヒーローになった時点でさ、敵にこういう手段を取られることも考慮してなきゃダメだよ。本当、清々しいまでのテンプレ反応をどうもありがとさん。仮面ライダー……アァッ!」

「ばふしっ⁉︎ 」

 

 人質作戦という卑怯な手に出たレドに怒りを燃やす瞬だったが、湖森が文字通りレドの手の中に治っている以上、迂闊に手が出せない。

 レドはそんな瞬の様子をケラケラと笑いながら、無抵抗の瞬を殴りつけた。

 殴られた瞬の身体は、瓦礫の山を一気に転がり落ちてゆく。

 ゴツゴツした瓦礫の斜面に身体を傷つけられながら、アスファルトで舗装された最下層まで落とされる。

 

「ギフトメイカー……どこまで卑劣なんだ……‼︎ 」

「そうカッカするなよ。てか、僕はまだ優しい方だと思うよ?バルジだったら、目の前で爆殺どころか、バケモンに変化させて襲い掛からせるくらいの事はしてただろうしさ」

「お前……五十歩百歩という言葉を知ってるか?」

 

 レドの卑劣な手段に、裁場も怒りを抑えきれないでいた。

 が、レドはバルジを引き合いにだして正当化を試みる。レドはバルジのことを嫌っているが、結局のところ、彼らは同類でしかないのだ。

 裁場はクロスドライバーに手をかけてはいるものの、湖森が人質に取られている以上、迂闊に変身ができない。

 

「くそっ……なんとかして湖森を取り返さないと……!」

 

 瓦礫の山の麓まで転がり落ちた瞬は、下から瓦礫の山の頂上で睨み合うレドと裁場を見つめていた。

 瞬のクロスドライバーは、現在裁場の手にあるため、瞬は変身できない。仮に出来たとしても、その場合は湖森の身が危ない。

 どうすればいい。

 どうしたらいい。

 

(どうしたら……いいんだよ……⁉︎ )

 

 瞬はレド達の方を見上げながら、悪態をつく。

 が、ここで気づく。

 

(あれ?ボマーのやつ……何する気だ?)

 

 ゆらり、ゆらりと。

 レドの後ろに立っていた赤浦が、ゆっくりとレドに近づいていっている。先程までずっと黙り込んでいた彼だが、一体何をする気なのだろうか。

 不気味なまでに沈黙を保ち続ける赤浦に、警戒を強める瞬。

 だかその沈黙は、瞬の予想を遥かに上回る早さで破られた。

 

「マイン・ザ・ドッグス!」

「⁉︎ 」

 

 湖森を封印したカードをチラつかせながら優位に立っていたレド。

 その後頭部に、いきなり強い衝撃が加えられた。

 グシャリと、聞くに耐えない鈍い音が響き渡るとともに、レドが殴り倒される。

 何が起きたのだと後ろを振り向くレドだったが、ここで自分の手足が金属製のリングのようなもので拘束されていることに気づく。

 こんなことをするのは、できるのは、この場には一人しかいない。

 

「なっ⁉︎ 赤浦っ……お前何考えてんだよ⁉︎ ギフトメイカーである僕にこんな真似をしてタダで済むとでも⁉︎ 」

 

 レドは後頭部から血を流しながら、自身の背後にいた襲撃者——赤浦に罵声を浴びせる。

 レドが先程まで立っていた場所には、血走った目をした赤浦が立っていた。彼は、仲間だったはずのレドを見下すかのような目つきをしている。

 突然の敵の仲間割れに、裁場は動揺を隠しきれない。

 

「何⁉︎ お前ら……仲間じゃないのか⁉︎ 」

「いい加減にしろよ……これはさあ、俺と慈愛の問題なんだ。AMOREとかギフトメイカーとか仮面ライダーがでしゃばっていい話じゃねーんだよォ……爆破(ころ)すぞ」

「ふざけんなっ……ただの転生者の分際で……っ!」

「動くなよ。無理に恥ずそうとすれば、その拘束具は爆発する」

 

 飼い犬に手を噛まれるとはまさにこのこと。赤浦の言葉を聞いたレドは、顔を歪ませる。

 目の上のたんこぶだったギフトメイカーをあっさりと無力化した赤浦は、ボマーオリジオンへと姿を変えると、自身を警戒している仮面ライダー達に顔を向ける。

 

「今日はツイてない。誰も彼も横槍が入りすぎて、己の目的を果たせないでいる……お前らだってそうだろ?この一日だけで何度邪魔をされた?何度ゴールから遠ざけられた?いい加減に足踏みばかりのスゴロクから一抜けしたいんだよ、俺はさ」

「悪いがお前がゴールに辿り着くことはない。俺がここでお前を倒すからだ」

 

 同情を求めるかのように被害者ぶるボマーオリジオンを、裁場は軽くあしらいながら、カチャリと、自身のクロスドライバーを腰に装着する。

 ボマーが地を蹴って裁場に突貫しようと動き出すのと、裁場がライドアーツを装填し終わったのは、同時だった。

 

「変身っ!」

《CROSS OVER!仮面ライダーユナイト!》

 

 ガッ‼︎‼︎‼︎ と、ユナイトとボマーオリジオン、両者の拳がぶつかり合う。ぶつかり合った拳達は、まるで反発しあう磁石のように弾き上げられる。

 

「ほらあっ!」

《フュージョンマグナム!》

 

 拳を弾かれたユナイトだが、即座に腰のホルスターに携帯していた銃型武装・フュージョンマグナムを引き抜き、速射した。まるで西部劇のガンマンの如き光弾銃の早撃ちが、ボマーオリジオンの腹部に命中する。

 が、この程度で止まるような相手ではない。

 ボマーオリジオンは、デフォルメ化された爆弾のような形をした肩アーマーを取り外すと、その導火線を噛む。そして、ボマーの口が導火線から離れたときには、そこには火が灯っていた。

 そして、その爆弾をぶん投げながら、ボマーオリジオンはたずねる。

 

「火薬100%の特製爆弾と、プラスチック爆弾の雨。どちらが好みだ?」

「悪いがどちらも却下だ」

《LEGEND LINK!Unbrakable golden spirit!CRAZY DIAMOND!》

 

 ユナイトはそう吐き捨てると、別のライドアーツをクロスドライバーの左スロットに装填する。すると、銀色とピンク色で構成されたプロテクターのようなものがユナイトの背後に出現し、彼に覆い被さるようにして装着されていった。先程アラタ達の前で曝け出したフォーム・リンククレイジーダイヤモンドである。

 レジェンドリンクをし終えたユナイトだが、間髪入れずにボマーオリジオンが、左手に握りしめていた、ビー玉サイズの無数のプラスチック爆弾をばら撒いた。

 ユナイトは眼前には、火薬たっぷりの肩パッド爆弾と、横殴りの雨のように降り注ぐ大量のプラスチック爆弾。

 だが、彼はその場から一歩も動かなかった。

 

「ドララララララララララララララララララララアィッ‼︎ 」

 

 ユナイトは目にも止まらぬ速さのパンチのラッシュで、爆弾の雨を迎え撃った。

 

「なっ……なんだっ……⁉︎ 」

 

 まるで手が何本にも増えたかのように錯覚してしまうほどに素早いラッシュ攻撃が、小さなプラスチック爆弾の雨を完全に弾いていた。

 いや、弾いているのではない。

 ()()()()()()

 殴られた爆弾達が、黄色いオーラを纏いながら、自身が生み出された場所であるボマーオリジオンの手のひらの中へと、戻って出ているのだ。

 そうして、数秒のラッシュの後。

 ボマーオリジオンが生み出した全ての爆弾は、爆発することなく無力化されていった。

 

「くそっ……そりゃあ相性最悪にも程があるぜ⁉︎ 」

「だろうな。これ以上破壊をばら撒かれても困るからな」

 

 ユナイトの反則めいた能力に、思わず文句を垂れるボマーオリジオン。

 その時、それまでずっと2人の戦いをずっと見ていた瞬が、ここで動き出した。

 

「そうだっ!今のうちに湖森を!」

 

 ずっと2人の戦いを見ていた瞬だが、そんな場合ではない。

 今レドはボマーに拘束されて動けない。ならば、今こそ湖森が封じ込められたカードを奪うチャンスだ。

 瞬は、ユナイトとボマーの激戦を迂回しながら瓦礫の山を登り、うつ伏せの状態で固定されているレドの元まで辿り着くと、彼の手の中にあったカードを奪い取る。

 レドの手には他にも何枚かカードが握られており、どれが湖森が封じられたものなのかはわからなかったので、瞬はとりあえず全部奪い取ってみた。

 

「返せっ……!」

 

 レドの言葉を無視して、取り上げたカードを確認する瞬。

 そこには“港トモリ”“相藤レイ”“イスタ”“逢瀬湖森”と書かれた4枚のカードが存在していた。何処となくブレイドの使うラウズカードに似たようなデザインなのは、気のせいだろうか。

 レドは、あの崩落のどさくさに紛れて、レイ達も封印していたのだ。

 予想が当たってしまって苦虫を噛み潰したような顔になりながら、瞬はレドにたずねる。

 

「どうやったらカードに封印された奴らを解放できる?」

「僕の転生特典でしか解放できない。だけど僕がそんなことするわけがないだろ?君の妹はずっとカードの中ってわけさ!あははははははっ!」

 

 手足を瓦礫の山に磔にされながらも、瞬を笑うレド。

 彼の話が本当だとするならば、瞬に残された手段はただひとつ、レドの撃破しかない。

 しかし、瞬は今クロスドライバーを取り上げられているため、戦う術がない。

 

(くそっ……どうすれば……)

 

 

 その時だった。

 キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ‼︎‼︎‼︎ と、脳味噌を直接揺さぶるような破壊音と共に、何かが一直線に突っ込んできた。

 

 

 


 

 

 プラネットプラザ・地下駐車場

 

「なんだこれ……⁉︎ 」

 

 崩落に巻き込まれた瞬が目覚めたのと同じ頃。

 手負いの倫吾を背負って逃げていた志村達は、その光景を見て絶句した。

 元々普通にプラネットプラザを脱出する手筈だったのだが、予想以上にあちこちで戦闘が勃発していたがために思うように外に出られず、紆余曲折あって「じゃあ地下駐車場から外に出よう」となり、今に至る。

 だが、その選択をした数分後に、彼らはそれを後悔した。

 理由は単純。

 逃げた先の地下駐車場には、地獄が顕現していたからだ。

 

「あ、ああ…………」

 

 そこに転がっていたのは、多数の死体だった。

 身体が千切れて内臓が飛び出しているもの。胴体に穴をあけられたり、頭がありえない形に変形してしまっているもの。そのどれもが、惨たらしい最期を迎えていた。

 倫吾と同じ白い制服を着ているあたり、彼らもAMOREの隊員達なのだろう。瞬達はこんな真似をしない。瞬達以外の誰かがここに来て、彼らを惨殺したのだ。

 

「うっぷ……おええええええええええっ‼︎ 」

 

 死体の海を目の当たりにした志村は、耐えきれずにその場に嘔吐する。

 びちゃびちゃと、志村の足元に吐瀉物の溜まりができてゆく。

 

「全員……死んでます」

「ウソ……」

「地獄、ですね」

 

 一緒にいた遠野や山風やハルも、この凄惨な光景に言葉が出なかった。

 志村は何度もえずきながら、死体の海から目を逸らす。これ以上見続けていると、冗談抜きで胃の中身が空っぽになるまで吐いてしまいそうだからだ。

 死体の海を視界に入れまいと、後ろを向く志村。そこへ、幾つもの声と足音が近づいてきた。

 

「あれ、アンタ達逃げたんじゃなかったの⁉︎ 」

決闘(デュエル)している間にこんなことになってたのか……」

「なんだこれはたまげたなぁ……すっげえ崩壊してるゾ〜コレ」

「すごいわね……」

「なんかバコスカ殴り合ってる音がするよ?」

 

 アリアにキンジ、遊矢に柚子、迫真空手部に律刃、剣崎にアラタに大鳳にセルティ。各々の戦いを切り抜けた仲間たちが、この場所に続々と集まってきていた。

 皆が皆傷だらけだが、その目は死んではいない。誰もがまだ、無事にこの戦いを終えて帰るのだという信念のもと、心と身体を動かしていた。

 志村は仲間たちの無事に安堵し、彼らに駆け寄っていく。

 

「みんな……無事でよかった!」

「志村、お前まだ逃げてなかったのか?ったく、皆考えてる事は同じってことかよ」

「?」

「逢瀬達がまだいない。きっとこの先にいるんだ」

 

 アラタはそう言って、死体の海の果てにある、瓦礫の壁を指差す。

 そこは、プラネットプラザの崩落によって生じた瓦礫が、地下駐車場を分断していた。そしてその奥から、何やら誰かと誰かが殴り合っているような音が断続的に聞こえてきている。

 それを聞いた全員が、薄々勘付いていた。

 あそこに逢瀬瞬はいる、と。

 

『どうする?助けに行くのか?』

「ああ。まだ終わってないなら助太刀に行く。言い出しっぺがいなきゃ話にならないからな」

「そうだよな。じゃ、いこうか」

 

 セルティの問いかけに、皆が一斉に頷く。満場一致だった。

 意を決して、アラタが先陣を切って死体の海に足を踏み入れる。すべては、仲間を助けるために。

 

 

 その時だった。

 キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ‼︎‼︎‼︎ と、脳味噌を直接揺さぶるような破壊音と共に、何かがアラタ達の間を通り抜け、瓦礫の壁へと突っ込んでいったのは。

 

 

 

 その音は、凄まじく不快なものであった。

 まるで脳味噌に稼働中の電動ドリルをぶち込まれたかのような、脳味噌が比喩でなく木っ端みじんになってしまいそうな、そんな衝撃がアラタ達を襲い、彼らの身体を地面へと押し倒す。平衡感覚がなくなり、意識が消失と覚醒を繰り返し続ける。

 吐きそうになるような不快感に耐えながら、アラタは顔を上げる。

 そして、“ソレ”を見た。

 

「あれは………………なんだ?」

 

 アラタが、ぐわんぐわんと未だに揺れている脳味噌で、必死に絞り出した第一声がそれだった。

 追突した瓦礫の壁は跡形もなく吹き飛び、その向こう側の光景をアラタ達に曝け出していた。そこには、ボマーオリジオンと謎の仮面ライダーが戦っており、そしてその前では、地面に倒れたギフトメイカーの傍らに立ち尽くす逢瀬瞬の姿も確認されている。

 瓦礫を吹き飛ばした“ソレ”は、そこに立っていた。

 “ソレ”を、アラタ達は知っている。

 金色のショートヘア。肩を出した裾の長いパーカーと、その下に隠れたスパッツ。よくわからないメーカー製のスニーカー。どれをとっても、何度見ても、それはアラタ達のよく知る存在だった。

 だが、何かが違う。

 見た目は同じはずなのだが、その身から漂わせている雰囲気が決定的に違う。

 震える唇で、アラタは“ソレ”の名前を口にする。

 

「唯……なのか……?」

 

 諸星唯。

 “目醒めた”彼女が、そこにいた。

 

 

 


 

 

 一番驚いていたのは、間近で“ソレ”の飛来を目撃していた瞬だった。

 

「なんなんだよ、これは……⁉︎ 」

 

 途轍もない速度でつっこんで瓦礫を吹き飛ばしながら、目の前に現れた“ソレ”を見た瞬は、目を疑った。

 脳を揺さぶる破壊音によって立つこともままならなくなり、瓦礫の山に伏せていた瞬だが、”ソレ”を目にした瞬間、おぼろげだった意識が強引に覚醒した。

 

「唯………………」

 

 ”ソレ”は、瞬のよく知る人物だった。諸星唯。毎日の様に顔を合わせていた幼馴染み——の筈だ。

 しかし、その身に纏う雰囲気は明らかに普段と違う。

 何処をどう見ても、生物学的には間違いなく諸星唯であるはずなのに、瞬の魂が「それは違うのでは?」と否定してしまう。まるで唯そっくりに作られたロボットか何かと相対しているような気分になってくる。

 

「唯……どうしたんだ?」

 

 瞬の問いかけに、唯は答えない。

 彼女は無言を貫いている。人間味を微塵も感じさせない眼差しだけが返ってくる。

 ひょっとすると、これが志村が言っていた“目醒めた唯”なのだろうか。

 

「ぼふっ……だ、が……!」

 

 その時、瞬の後方でか細い呻き声がした。

 ばっと振り返ると、そこには一人の少女が倒れていた。ぼさぼさになった紫髪、ボロボロになったゴスロリ衣装、口から流れ出ている赤い血。それらすべてが、彼女が酷く打ちのめされたことを示している。

 そして、彼女の素性を瞬は知っている。

 ギフトメイカー・リイラ。

 敵対者の一人。

 彼女は、瓦礫まみれの地面から身体を起こすなり、ボロボロの身体を震わせて笑い出した。

 

「あはははははっ‼︎ 最高よ‼︎ これでこそ食べ甲斐ってもんがあるわ‼︎ 最初はどうしようかと思ったけど、予想以上の爆発っぷり!それでこそ私の見込んだ逸材!世界を無茶苦茶にできる力の源泉!」

「………………何言ってるんだ?」

 

 口から血を吐きながら狂ったように笑うリイラを見た、瞬の第一声がそれだった。まるでタチの悪い酔っ払いを見てしまったかのような視線が向けられていることも厭わずに、リイラは笑いつづけている。

 そんな彼女に困惑している瞬に、ひとつの足音が近づいてくる。

 唯だ。唯の形をしたなにかが、リイラに向かって歩き始めているのだ。

 

「唯………………?」

「あれは貴方の知る彼女じゃないわよ」

 

 瞬の言葉をバッサリと否定したのは、リイラだった。

 瞬はリイラの元へと駆け寄ると、彼女の肩を掴んで問い詰める。

 

「どういうことだよ⁉︎ 何か知ってるのか⁉︎ 」

「知ってるよ、でも教えない。教えたところで私以外にはわからないだろうし」

「なに……⁉︎ 」

「でもひとつだけ事実を教えてあげるわ。アレは最初から彼女の中に眠っていた力。私達が干渉しなくても、遅かれ早かれ目醒めていたモノ。それが私との衝突で目醒めてしまった」

「なんだって……?」

 

 瞬は、唯の方を振り返る。彼女はすでに、リイラのすぐそばまで来ていた。

 ゆっくりと、唯が手を伸ばす。

 たったそれだけの動作のはずなのに、瞬は震えあがった。まるで巨大怪獣の足元に放り出されたような気分だ。いつ踏み潰されるかわかったもんじゃない。そんな恐怖が、瞬の全身を包み込んでいた。

 だが、怖がっているわけにもいかない。勝手に震える唇をなんとか自分の意思のままに動かして、瞬は唯に声をかける。

 

「待てよ唯、何をする——」

 

 瞬がそう言いかけた時だった。

 ここでようやく、唯が口を開いた。

 

「ひれ伏せ」

 

 一言、そう発した。

 それだけで、先程まで戦っていたはずのユナイトとボマーオリジオンが、まるで見えない手か何かに押さえつけられたかのように、地面に押し倒された。

 そしてそれは、瞬とリイラも同じだった。

 彼らもまた、ユナイトタチのように地面に押し付けられていた。凄まじい重圧に、身体が押し潰されてしまいそうになる。首を上げるのがやっとなほどだった。

 

「なんだっ……コレは⁉︎ 」

「成長はやすぎないっ……ダメ、このままじゃ逆に喰われる⁉︎ 」

 

 唯の“覚醒”について何かしらを知っているリイラにとっても、この行動は予想外だったようで、先程までの比較的余裕のあった態度が崩れ始めている。

 まるで死にかけの蝉のように手足を動かすリイラに、唯が声をかける。

 

「何を怯えている?お前の望み通り出てきてやったんだ、感謝こそされれど、恐怖されるいわれはない」

「……いや、あっけないなあと思って」

「ああ、呆気ない。あれほど強がっていたくせに、態度だけだったとはな。心底拍子抜けしたよ。正反対の力を持つお前とぶつかり合えば、何かを思い出すと思ったが——やはり、ひと想いに取り込んでやるのが手っ取り早いか」

 

 そう言いながら、唯はリイラのそばで座り込み、彼女の首に手をかける。

 そこに、

 

「待てよ唯……何しようとしてんだよ、お前」

「なんだ人間。まだ立つのか?」

 

 寸前で割り込んできた瞬の声。

 リイラの首を握る手に力を込めようとしていた唯——の姿をした何かは、その手を離して、瞬の方を見る。

 酷く冷たい眼差しに身体を貫かれながらも、瞬は続ける。

 瞬は、全身に重くのしかかっている重圧に必死で耐えながら、両手で地面をしっかりと押さえ、立ちあがろうとしていた。

 

「お前が何をしようとしてるのかは分からないけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……おかしなことを言う。私が偽者?いや違う、()()()()()()。私はいわば諸星唯に眠っていた力の根源、それが意思を持ったもの。危機に瀕した彼女を救うために現れた防衛機構だ」

「お前がなんでそこにいるのかはわからないけど……ぽっとでの癖に、俺の幼馴染みを勝手に動かしてるんじゃねえよ!これ以上事態がややこしくなってたまるかっ!」

 

 唯がどうしてどうなっているのかわからないけど、ここでひれ伏しているわけにはいかない。瞬はその思いだけを糧に、途方もない重圧に逆らって直立する。

 足はガクガクと震えているし、連戦によってついた傷口からは、いまだに血は流れっぱなし。そんな有様でも、瞬は立ち上がらざるを得ない。こんな得体の知れない奴に唯を好き勝手させてたまるものか。その思いを燃やし、瞬は“彼女”に肉薄する。

 しかし、

 

「ふん」

「がっ……」

 

 “彼女”は容易く瞬をあしらうと、お返しと言わんばかりに、瞬の身体に強烈な打撃をお見舞いし、彼の膝を地に付かせる。

 “彼女”の足元にひざまづく形となった瞬に、彼を非難するような声が振りかけられる。

 

「お前が守らないから私が動かざるを得なかった。彼女はわたしたちの中で唯一覚醒していないが故、自力で身を守る術がない。だから防衛機構として、代わりに私が生み出された。私は、お前の無力の象徴なのだ。なあ……仮面ライダーアクロス」

「………………」

 

 瞬は、“彼女”の言葉を聞いて黙り込んでいた。

 一体、こいつはなんなのだ?

 なんでこんなものが唯のなかにある?アイツは、諸星唯は、普通の女の子のはずだろう馬鹿でお調子者で後先考えなくて、でも誰よりも優しくて他人のことを思える。そんな普通の女の子だったはずだ。それは瞬と出会った時から変わっていない。

 それがどうして、こんな得体の知れないモノに身体を奪われなきゃならない?彼女が何をしたというのだ?

 混乱と畏怖で呼吸が荒くなる瞬に、“彼女”の冷ややかなる声がかけられる。

 

「お前と諸星唯じゃ力不足だ。だからここから先は私がやる。お前は大人しくすっこんでいろ、コレはお前の手に余る」

 

 不甲斐ない宿主とそのパートナーに対する戦力外通告。

 そのために“彼女”は姿を現した。

 “彼女”は、身動きできないリイラにトドメを刺すべく動き出す。全ては、宿主を守るため。脅威を取り除くため。ひとりの少女のために生まれた守護者は、少年の真横を素通りして、脅威の排除に赴く。

 

「お前の分まで戦って、運命を断ち切る。その方が幸福だろう?」

「…………」

 

 瞬は、考えていた。

 いや、考えるまでもなかった。

 怯える必要も、戸惑う必要もない。

 初めから、言うべき言葉は決まっていた。ただ、ぶつけるべき相手が増えただけのことだ。

 “彼女”の一言が、瞬に火をつけていた。

 がしりと、“彼女”の手を掴んで、瞬は立ち上がる。

 

「さっきから何勝手なことを言ってんだ……?」

「勝手ではない、諸星唯が望んだのだ。“守られ続けるだけなんて嫌だ、私も瞬の隣に立ちたい。”その願いに応じて私は呼び出された。故に、だ。無力なお前らに変わって戦いを引き受ける。悪い話ではないはずだが?」

 

 その言葉で、瞬は確信した。

 というか、キレた。

 ——コイツ、何様のつもりなんだ?と。

 

「お前は大馬鹿だ!お前だけじゃない……AMOREも裁場も、馬鹿じゃねえの⁉︎ 何が“お前の代わりに戦ってやる”だ⁉︎ ふざけるな‼︎ 勝手に他人の力量を決めつけで推し測って、そいつから何もかも取り上げて救った気になって……そんなもんが“助ける”であってたまるか‼︎ それは、ソイツの頑張ってきたこと……いや、存在や意思を否定しちまうようなもんなんだぞ⁉︎ ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 瞬は、必死になって叫んでいた。

 その言葉は、今もなお“彼女”の重圧に押し潰されているユナイト——裁場にも突き刺さっていた。いや、それはもとより、裁場に対してぶつけられるべき言葉だったのだ。

 

「何が言いたい?」

 

 眉を僅かに動かして、“彼女”がたずねる。

 そして、瞬の言いたいことは、次の一言で集約された。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎ 」

 

 そう叫びながら、瞬は“彼女”の顔面を殴りつけた。

 それが大切な幼馴染みの顔であるということも忘れた、感情任せの一撃。なんの力もないただの人間の拳は、“彼女”の頬骨を完璧に捉えていた。

 そして、少年の拳が着弾した瞬間。

 閃光が、再び生まれた。

 

 

 

 

 

 




唯ちゃんの厄ネタ、ようやく瞬が目の当たりにしました。
本来はもうちょっとマシな形で出したかったのですが……当初の想定を上回るレベルで狂ってしまったよ……どうして⁉︎

次回は結構難産かも?

次回 ふたりで歩む資格
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