【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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難産!
何回書いても決意表明は慣れねえよなぁ!


第37話 AM3:21/ふたりで歩む資格

 PLAYBACK4・Ver.逢瀬瞬

 

 逢瀬瞬には、何もなかった。

 物心ついた時から、瞬には親がいなかった。

 否、正確には6歳より前の記憶があやふやなのだ。どこそこに遊びに行っただとか、アレを買ってもらったとか、そういうのは覚えているのだが、それを誰と経験したのかを覚えていない。自分と共に過ごした人についての記憶だけがすっぽりと抜けている、なんとも歪な記憶喪失であった。芽生えていた幼い自我が、気づいたらまっさらになっていた。

 記憶とは、心とは、他者と共に紡いでゆくもの。人との関わりの記憶が心を作るのだ。だから、その片方が欠落した逢瀬瞬は、酷く歪なものだった。同年代の人間とは何ら変わらない知能を持ちながらも、ロボットのような感受性を持った木偶人形。それが逢瀬瞬。

 そうして一度リセットされた瞬は――驚くべき程に、周囲に対して無関心になっていた。

 具体的に言えば、

 

「おいオカマやろう!おれたちが男らしくしてやるからカンシャしとけ!」

「やめてっ……ぶふっ⁉ 」

「男らしさのけいこだい、一回1000円な!ほらほら立てよ!」

 

 ――教室内で公然として行われている虐めの現場を見ても、何とも思わないくらいに。

 普通の人間ならば、止めに入ったり便乗して虐めに加担したり、はたまた関わり合いになるのを避けるために避けたりするだろう。そこには、いじめられっ子やいじめっ子への嫌悪感だとか怒りだとか哀れみだとか、そういったものが生じるはずだ。それは小学生だろうと変わらない。

 しかし、当時の瞬はそれすら抱かなかった。ただ、完全な無。何も感じない、情動反応が欠落したかのような反応。背景が何かしゃべっているな、とぐらいにしか感じなかった。心を動かされることのない、生を感じさせない情動が、続くはずだった。

 ――この時までは。

 

「ふざけるなああああああっ!」

 

 突如として教室内に響き渡る甲高い声。そのあまりにも威勢のいい声に、教室中が一瞬静まり返り、そのあとすぐにどよめきが波のように教室中に伝播してゆく。瞬も異変を感じ取ったのか、柄にもなく教室を見渡してみる。

 が。

 

「何やってんだこのくそやろうがキイイイイイイイック!」

「ぼふあああっ⁉ 」

 

 次の瞬間、大柄ないじめっ子の身体が瞬に向かって吹っ飛んできた。ガシャンと大きな音を立てて机や椅子をなぎ倒しながら床にぶっ倒れるいじめっ子。どこかにぶつけたのか、その膝や額からは血が流れていた。

 瞬はいじめっ子が飛んできた方向に視線を向ける。そこには、金髪の女の子がいじめられっ子に手を差し伸べている光景があった。

 

「き、きみはだれ……」

「だいじょうぶ?けが……はあるよね……ないはずないよね……」

 

 女の子はどこからか絆創膏を取り出すと、ボコボコにされていたいじめられっ子にそれを張ろうとする。しかし、ここでいじめっ子がキレた。

 

「どけ!」

「ぬっ⁉ 」

 

 近くにいた瞬を無理矢理椅子から引きずり落とすと、なんと、瞬の座っていた椅子を持ち上げて女の子目がけてぶん投げた。他者に痛みを与える側として君臨し続けた6~7年の短い人生の中で、初めて他者から痛みをもらったという事実に、彼の幼い精神が耐えられなかったのだ。

 この場にいた誰もが目を逸らした。どんな馬鹿力でぶん投げたのかは知らないが、椅子は見事なまでに女の子に向かって飛んでいる。彼女の負傷は避けられない。そう思っていた。

 しかし、

 

「スターキイイイイイイイックッ!」

 

 女の子は、仮面ライダー顔負けの綺麗なフォームによる跳び蹴りで、飛んできた椅子を迎撃した。蹴りの命中した椅子は、投げたいじめっ子目がけて跳ね返ってゆき、彼の顔面に勢いよく背もたれから突っ込んでいった。勿論近くにいた瞬は慌てて避けた。

 ガシャガシャガシャンッ‼ とけたたましい音を立てていじめっ子のが倒れる。

 あとはもうしっちゃかめっちゃかだった。

 

「ぶっ殺す!ぶっ殺す!ぶっ殺す!」

「よわい者いじめをするようなひきょうもののぼうげんなんかいたくもこわくもないわ!ぜんいんまとめてたおしてあげるよ、かくごしな!」

「女のくせになまいきなんだよ!よくも徹人(てつと)をやりやがったな!ゆるさん!」

「みんなで徹人のかたきうちだ!いくぞ!」

 

 いじめっ子グループが一斉に女の子に向かって飛び掛かっていった。

 怪我を負わされた友達の仇討と言えば聞こえはいいのだが、そもそも公然で虐めをやっておいてそれを咎められた側なので、全然同条はできない。むしろ、この瞬間、虐めを止めるためにやってきた彼女が、この場で一番ヒーローらしかった。

 が、流石に女子1人で男子5~6人を相手取るのは厳しい。しかし、止めに入ろうにもそんな勇気を持つような奴はいない。誰もが彼女の敗北を悟り、逃げ出していた。

 

「…………」

 

 ――あの時、なんであんなことができたのか、今でもわからない。

 ――この時のことは、今でも鮮明に覚えている。

 

「ばふぃんっ⁉ 」

 

 気づいたら、瞬はいじめっ子グループの内のひとりの後頭部を殴り飛ばしていた。

 バランスを崩したいじめっ子は、前方にあった机に顔面から突っ込み、ぐしゃりという不快な音と血をまき散らした。その光景を見た大人しい方の女子が悲鳴をあげようとしたが、あまりの衝撃で文字通り声を失ったのか、その喉からは掠れた吐息だけしか出てこなかった。

 いじめっ子が机と熱いキスをした瞬間、彼の頭部から飛んできた何か固いものが、瞬の頬にぶち当たる。それは歯だった。生え変わったばかりの永久歯が、ポロリと取れたのだ。その光景に、いじめっ子も女の子も、思わず動きを止める。

 最初に口を開いたのは、いじめっ子のうちのひとりだった。

 

「な、に……やりやがった……?」

「…………」

「なんとかいえよ!てかだれなんだよお前!」

「……助けてくれたの?」

「…………やるぞ」

 

 瞬は女の子の傍らに立ち、無意識のうちにそう言っていた。

 彼女もその一言で何かを察したらしく、無言で大きく頷いた。

 

「かずがふえたところでかんけいねえ!まとめてぶったおす!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「うるさいからはやくおわらせよう」

「だね。もうこいつらのかおみたくもないよ」

 

 戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

 


 

 

 この後は全校集会が緊急で開かれ、更に関係児童の保護者も呼ばれて大事に発展した。いじめっ子連中は勿論、いじめっ子グループ相手に大立ち回りした瞬達もしこたま怒られた。もう小学生時代の叱責が全部まとめてやってきているんじゃないかというほどに怒られた。

 いじめっ子連中は瞬達以上に酷く叱責された上、まとめて転校していったのだが、ふたりの大立ち回りがトラウマになったのか、いじめられっ子はクラス替えで別の学級に移動してしまった。そこだけは至らなかったな、と今も反省している。

 これは後に環四郎から聞いたことだが、当時の担任教師は虐めを黙認していたことを問われ、新年度が始まってまだ1カ月もたっていないというのにも関わらず、別の学校に飛ばされたらしい。ご愁傷様です。

 そうして、数時間にわたってカミナリを落とされまくって泣きじゃくった後のことだった。

 

「すけだちありがとね!あたし、諸星唯!となりのクラスなんだ!」

「…………逢瀬瞬」

 

 互いに名を告げる。

 互いにめちゃくちゃに叱られて泣き腫らした顔だった。しかし、不思議と後悔はなかった。

 これがふたりの、あまりにも苛烈な出会いだった。

 

 


 

 

 唯と出会ってからは、瞬は兎に角振り回されまくった。

 ある日は“近所の山の頂上まで競争な!“といきなり言われて山に連れて行かれた挙句、行方不明になっていた近所の飼い犬を連れ帰ってきて飼い主に礼を言われたり、またある日は“よーし夏だ!海だ!海水浴だ!”とうるさいので渋々一瞬に海に行けば、迷子探し×3や更衣室の盗撮犯を捕まえて褒められたりと、なんかもう無茶苦茶だった。

 普段がしっちゃかめっちゃかな癖に、それ以上に周囲に幸せを与えてしまう。それが諸星唯の本日からだったのだ。

 もちろん瞬は、最初は彼女のはちゃめちゃっぷりに振り回されるだけであった。何度余計なトラブルに巻き込まれたかはもう数え切れない。だが不思議と、心地良い日々だった。

 そうして、唯と出会って数年の時が経った。

 中学入学を間近に控えた頃、夕暮れの帰り道の途中のことだった。

 瞬はぽつりと、つぶやいた。

 

「時々さ、虚しくなるんだ」

「いきなり何?詩人じみた台詞なんか言い出して。中二病?」

「やめろ、お前ほどイタくねぇわ」

 

 唯の揶揄いに軽くツッコミを入れる瞬。

 空を見上げながら、彼は続ける。

 

「自分が、空っぽに感じる。何も持っていない、木偶の坊に思えてしまうんだ」

「そう?」

「笑うなよ。割と真剣なんだぜ」

「いや、笑うしか無いじゃん。アンタそういうキャラだった?

「青年期特有のアレだって……お前だってそうだろ?」

「いやいや、私はさぁ、皆ハッピーの精神の持ち主なワケですじゃん?。でもさ、私が昔っからこんな言葉掲げてたと思うかい?分かってるんでしょ」

「……たしかに、お前にそんな事考えるほどの頭は無いわな」

「うわひでぇ。女の子にバカって言いやがったよこいつ」

 

 まあ割と唯が馬鹿なのは事実でしかないのだが。テストで0点とか取るようなやつが馬鹿じゃなくてなんだというのだ?

 頭の出来を馬鹿にされた唯は、膨れっ面をしながら先を歩くが、ふと、何かを思いついたかの様に「あっ」と声をあげる。

 

「そうだっ!そんなに空っぽが怖いなら、私があげようか?」

「どういう事だよ?」

「中身の話さっ」

 

 唯は横断歩道の白い部分だけを踏んで渡る。

 そして、渡り切った先でくるりと一回転して、さも名案が思いつきましたと言わんばかりの嬉しそうな笑顔をこちらにむけながら、唯は両手を広げ、自らの考えを口に出す。

 

「瞬はさ、自分の役目とか、そういうのがないから不安になってるんだよ。なら今はひとまず、私と一緒のものを目指せばいいじゃん。最初は誰かの受け売りでもいいよ。ただ、続けていれば、いつかきっと瞬のモノになると思う。瞬なら続けられるさ、私が保証するさ!」

「お前と一緒……お前の人助け精神を、俺が?」

 

 目指すべきものがないなら、自分がそれになってやると。唯はそう言っているのだ。

 しかし瞬には、できる気がしなかった。自分と彼女は別の人間だ。自分は彼女のように、誰かを助けることなんてできない。

 

「誰かの受け売りだっていいよ。単純に、瞬がやりたいことやってれば、そんな気持ちすぐ吹き飛ぶよ」

「……なれるのかな、俺に」

「瞬ならできる。初めて会った時、何も言わずに私に助太刀してくれたんだ。瞬には素質があるんだよ、きっと」

 

 そう言いながら瞬の肩をポンと叩くと、唯は一人で先へと走ってしまう。

 誰かを助ける。何もない自分に、果たしてそれができるのだろうか?正直言って、うまくやれる自信がない。

 だが不思議と、できる様な気がしていた。

 

(あいつが……背中を押してくれているのか?)

 

 唯の言葉を反芻する度に、胸の奥に熱い何かを感じ取る。

 無根拠に自分を信じてくれる彼女。その思いを裏切るのは、なんだかとてももったいない様な気がして仕方がない。

 それならばいっそのこと。

 

「やって……みるか」

 

 彼女の言う通りに、やってみるのもいいのかもしれないと、瞬は思っていた。

 この時から、“逢瀬瞬“は始まった。

 その時から、瞬の中にソレが宿った。

 そして、今——

 


 

????

 

「……懐かしい夢を見たな」

 

 気がつくと瞬は、真っ白な空間で大の字になっていた。

 “彼女”をぶん殴った瞬間、閃光に包まれた彼は、これまでずっと過去を思い返していたのだ。

 身体を起こすと、どこまでも広がる真っ白な空間。地平線も何もない、だだっぴろい空虚な場所だけが鎮座している。

 白一色の世界に存在する色といえば、ここで寝ていた瞬と——

 

「……ふにゃ?」

 

 瞬の隣で眠っていた唯だけ。

 こんな状況だというのに涎を垂らして眠そうな顔をしている彼女だが、瞬はそれを見て呆れると同時に、安堵していた。

 いつもの唯だ。

 “彼女”に突き動かされてはいない、普通の女の子だ。

 

「お前も、見たのか?」

「うん」

 

 瞬の言葉に、唯は首を縦に振る。どうやら彼女も、瞬と同じ夢を見ていたらしい。

 二人は、気が遠くなるほど真っ白な空間を、ただ見つめていた。

 さっきまで血反吐を吐きながら戦いまくっていたのが嘘に思えてしまうような、それくらいさっばりとした風景だった。

 どれくらい空白を眺め続けていただろうか。

 何気なしに瞬が上を見上げた、その時だった。

 

「まさか、だ。まさかあの一撃で、諸星唯を目覚めさせるとはな」

「⁉︎ 」

 

 瞬と唯の二人しかいないはずの空間に、するはずのない、第三者の声が発せられた。

 背後から聞こえてきた声に驚き、ばっと振り返る二人。

 そこには、“彼女”がいた。

 服装も髪型も声も何もかもが唯と瓜二つ。しかし、中身はまるで違う。どこまでいっても“彼女”は、人間性のかけらもないシステムでしかない。

 身構える瞬に、“彼女”は問いかける。

 

「そうまでして戦いたいのか、お前達は」

「?」

「傷つくような役目は他人に任せて、自分はぬくぬくと安全地帯に引き篭もることを望む。それが人間ではないのか?」

「…………」

 

 瞬が“彼女”の言葉にどう返すべきか考えていると、先に唯が口を開いた。

 

「貴女が誰なのかはわからないけど、私達を思ってくれているのは知ってるよ。でも、それは受け入れられない。それは諸星唯(わたし)じゃない。誰かの涙を見てしまったら、いつだって何度だって火中の栗を拾いに行く。それが諸星唯なんだよ」

「は……?いや、何言ってんだよ?お前おかしいぞ……」

「コイツはそーゆー人間なんだ。自分だけすっこんでるってのができるわけないだろ。本人が望んでいない救いは毒にしかならないぞ」

「………………」

 

 ありえない、と言う様な顔で固まる“彼女”。

 そこに追い撃ちをかけるかのように、瞬が続ける。

 

「俺は、誰かの為に傷付きたいと思っている」

「なんだと?」

「俺は仮面ライダーになってから、いろんな奴を見てきた。どいつもこいつも、俺なんかにはないようなすげえものを持っていた」

 

 そう。

 瞬は自分の空虚さを知っている。新しい出会いのたびに、それを思い知らされてきた。

 兵藤一誠のように心を燃やせるようなモノも、桐生戦兎のように確固たる信念も、黒神めだかのような大志も、榊遊矢のような夢も、天道総司のような強大な自我も、遠山キンジのような覚悟も、剣崎一真のような意志の強さも、そのどれもが瞬からすれば羨ましくて、輝かしいモノだ。

 皆、自分には無い何かを持っていた。自分にはないと思っているからこそ、それが尊いモノである事を知っている。そんな人達が生きるこの世界を守りたい。あれらが、悪意に踏み潰されてはならない。

 そのための礎は、自分が引き受ける。それを踏み躙ろうとするならば、何度だって立ち上がる。

 

「誰もが譲れない信念とかがあって、それが傷つけられることが許せない。だから、この憤りは絶やさずに持っていたい」

「私だって同じだよ。誰かが泣いたりするのは嫌だし、それを見て見ぬ振りってのは気分が悪い。ヒーローってそーゆーもんだと思うんだけどね」

「狂っているぞ、お前ら……」

 

 瞬と唯の答えを聞いた“彼女”は、目に見えて狼狽えていた。

 こんな自己犠牲精神旺盛な存在を、“彼女“は知らない。

 元より“彼女“は、宿主である諸星唯を守るために自我を獲得した。しかし、守るべき当の本人から不要と断じられてしまった以上、“彼女”は今、おおいに混乱していた。

 しかし、だ。

 同時に“彼女”は、それをどこか「良かった」と思ってもいた。

 

「だが、その方がお前達らしい。それでこそ、私が目醒めるに値する存在なのかもしれない」

「え……?」

 

 そう言った“彼女”は、何処か憑き物が落ちたような、すっきりした顔をしていた。

 

「お前達の覚悟は嫌という程分かったよ。これ以上私がでしゃばる意味はなくなった——お望み通り、制御権を返そう」

「制御権……?」

「ああ。私の役目は終わった。大人しく消えて、諸星唯に全てを託すさ。だが、ここから先は運命との戦いだ。逃れる術はない。それでもお前達は——己を貫けるのか?立ち上がれるのか?」

 

 そう問いかけると、“彼女”の身体が光の粒子となって、唯の中に溶け込むようにして消えてゆく。“彼女”が流れ込んでくる度に、唯の中になんとも言えない、暖かさと力強さの様なものが伝わってくる。

 消えゆく“彼女”に唯が何かを言おうとするが、“彼女“は唯の唇に指を当てて、彼女の発声を妨げる。

 最後に残った口で、“彼女”はこう言った。

 

「せいぜい私を使いこなしてみせろよ、■■の■■(諸星唯)——」

 

 


 

 

 そうして、二人の意識は現実へと舞い戻った。

 気づけば、瞬は瓦礫の山の上で座り込んでいて、唯は瞬の前でぶっ倒れていた。

 それは、現実時間にしては刹那のひと時に過ぎなかったもの。しかし、二人にとっては何より大切な、成長の瞬間だった。

 瞬は、目の前で倒れている唯に手を差し伸べる。

 

「……唯、立てるか」

「立てるよ」

 

 瞬の手を借りながら、唯が立ち上がる。

 

「やっと、同じ場所に立てたね」

「ああ」

 

 心も立場も違ったけど、今こうして、2人は同じ立ち位置に居られる。

 守る守られるの一方通行でも、教え諭される一方通行でもなく、互いに切磋琢磨し合い、背中を預ける仲間に、彼らはなったのだ。

 

「……さてと」

 

 瞬は唯と手を繋ぎながら、後ろを振り返る。

 そこには、瓦礫の山の麓からこちらを見上げている、満身創痍の裁場がいた。先程までユナイトに変身してボマーオリジオンと戦っていたはずだが、いつのまにか変身もとけている。

 ボマーオリジオンの方は、瓦礫に背中を預けるようにして倒れている。どうやら両者は相当激しくやり合ったようだ。

 裁場は、瞬達の覚悟を決めたような顔を見ながら、悲痛そうに叫ぶ。

 

「なんで……なんでそんな目ができる⁉︎ なぜお前達は立ち上がれる⁉︎ 長年戦いに身を置いていたわけでもない、戦いに身をおかねばならない理由もないのに、どうしてだ⁉︎ まさか、正義感だけでここに立っているのか⁉︎ 」

 

 しかし。

 叫びながらも、裁場は分かっていた。

 本当は羨ましいのだ。

 自分が見失っていったものを、目の前で失われるのを見てきたソレを持っている瞬と唯が。ソレが失われてしまうかもしれないことが。これ以上失いたくないから、全部自分一人でどうにかしようとした。

 裁場の脳裏にこびりついた、正義感に満ち溢れた戦友達の、凄惨たる末路。それが、裁場を孤独な戦いに駆り立てる。逢瀬瞬を否定したがっている。

 瞬が、裁場に手を差し出してくる。

 

「クロスドライバーを返してくれ」

「……無理だ、俺はお前達を信じてやれない。俺の目の前では、お前達のような目をした奴らから死んでいった。今でも頭に焼き付いて離れないんだ……彼らの顔が」

「なら、これから信じさせるまでだ。俺達は死なないって」

「……………」

 

 瞬と唯の力強い顔つきに、裁場は何も言えないでいた。

 ——これではまるで、自分が悪じゃないか。

 誰かが傷つくのが嫌だから、自分以外の誰かから傷付くという可能性を奪おうとした。だがそれは、自分と同じ思いを持つ者に関しては余計な者でしかなかった。フィフティはそれをわかっていたからこそ、裁場を否定していた。

 もう、裁場には瞬達の前に立ちはだかる資格がない。否、初めからなかったのかもしれない。それを理解してしまった裁場は、黙り込んでしまった。

 

「……………………」

 

 そして。

 長い長い沈黙の後、裁場は口を開いた。

 口から出たのは、羨望の言葉だった。

 

「……羨ましいよ。俺も昔は、お前達みたいな顔ができていた」

「前にできていたんだから、多分今もできるはずだよ」

「分かっている。俺がどれだけ突っぱねようとも、お前達は折れないということは」

「ああ、あんたが何度邪魔をしようとも、俺達は変わらないぞ」

「ならば……お前達を試す」

「試す……?」

 

 裁場はそう言うと、懐からクロスドライバーを取り出した。

 差し出されたソレを、瞬は見つめていた。一体どういうつもりなのだ?

 瞬が差し出されたクロスドライバーを見つめていると、裁場はそれを半ば強引に押し付けるかのように、瞬に返却する。

 

「今から始める戦いで、お前達の覚悟を俺に示してみせろ」

 

 裁場がそう言った直後、近くで瓦礫が崩れ落ちる音がした。見ると、先程まで動いていなかったボマーオリジオンが、再び立ちあがろうとしていた。

 ボマーオリジオンは大変怒っているようで、口元から血を流しながら、自分の邪魔をし続ける仮面ライダー達に怒りをぶつける。

 

「さっきから俺を蚊帳の外にしてるとか、お前ら舐めてんの?部外者の癖にしゃしゃり出てんじゃあねーよこのクソカス野朗共ッ‼︎ 」

 

 ボマーの怒号に臆する者は、誰もいなかった。

 瞬と唯は、互いに軽口を叩き合いながら、ボマーオリジオンと相対する。

 

「戦えんのかよ、お前。敵はめっちゃ強いからさ、こちとらあんまりお前にまで気ぃ回せねえかもしれねぇぞ。いいのか?」

「ははーん、随分と調子こいてない?言っとくけど、私の方が運動神経も上だし、お節介の先輩だよ?先にヒーローになったからって、あんまり見くびらないでよね」

「言ってろよ。さっきまで自分の力に呑み込まれてたのは誰だよ」

「私だよ。いいから行こうよ。何もかも終わらせてさ、こんな所、さっさと出よう」

(———っ!)

 

 この瞬間。

 裁場の目には、消えていった数多の戦友達の姿が、見えた気がした。

 自分も瞬達のように、熱い正義のハートを胸に戦っている時があった。だがいつしか、悲劇を繰り返すうちになくなってしまった。目の前でなくなってゆくソレを眺めるうちに、見ることが怖くなってしまった。

 

(俺も……アイツらのようにできるのか?あの時のような気持ちを、持っていいのか……?)

 

 答えはまだ出せない。だが、彼らを失うのだけは嫌だと、強く思った。

 一歩、裁場は足を踏み出す。

 心身ともに擦り切れた戦士が、再び歩き出そうとしていた。

 


 

 その頃、少し離れた位置で一部始終を見ていた志村達はというと。

 

「何が起きたんだ、あれ」

「さあ……?兎に角、唯ちゃんが正気に戻った……ってことでいいのかな?」

「これもうわかんねえなあ」

 

 何が起きたのかさっぱり分からず、絶賛混乱中であった。

 だが、なんだかんだで危機的状況を脱したというのだけは、雰囲気で察していた。あとはボマーオリジオンさえどうにかしてしまえば、事件のかたはつく……筈だ。

 

「俺達も加勢した方がいいのか……?どうする?」

 

 ここで見守っているよりも、自分達も加勢した方がいいのではないか?と思った剣崎は、死体の海に一歩足を踏み入れる。

 その時だった。

 

「剣崎さんの身体……いや、ブレイドのバックルが光っている⁉︎ 」

「なあっ⁉︎ 」

 

 突然、剣崎の懐にしまってあったブレイバックルから、眩しい光が発せられた。

 その眩しさにたまらず一同は目を覆うが、その直後、ブレイバックルから凄まじい勢いで一筋の光が飛び出し、瞬のいる方目掛けてとんでいった。

 

「……なんだったんだ、今の」

「分からないけど……多分、あれは逢瀬を助けてくれる筈だ」

 

 暗い地下駐車場を照らしながら飛んでゆく一筋の光を見届けながら、アラタはそう言った。

 その光は、最後の一押しとなる。

 

 


 

 

 その光は、まるで吸い寄せられれかのようにして、瞬の手のひらに飛び込んできた。

 手に伝わった衝撃に思わずふらつきながらも、瞬は自身の手のひらを覗き込むと、そこには、見たことのない、新たなライドアーツが握られていた。

 ややデフォルメ化されたブレイドの顔の記された、青いライドアーツだった。

 

「これは……」

「いいじゃん、新たな力とか燃えるよね」

 

 唯の言葉に頷きながら、瞬はクロスドライバーを腰に装着し、アクロスライドアーツとブレイドライドアーツをバックルに装填する。

 そして、

 

「変身!」

《CROSS OVER!正義の意志をフュージョライズ!不撓不屈のウォリアー!仮面ライダーユナイト!》

「変身っ!」

《LEGEND LINK!Fight your destiny, awaken, warrior! LINK BLADE!》

 

 瞬と裁場は、2人揃ってアクロスとユナイトに変身する。

 アクロスが変身した直後、何処からともなく大きなトランプが飛んできて、アクロスの周囲を旋回し始める。そして、そのトランプ達が、勢いよくアクロスにぶつかるとともに、その形を変えてゆく。

 背中にぶつかった数枚は赤いマントに、肩にぶつかったものはスペードマークを模した形状の肩アーマーに、胸にぶつかったものは、ブレイドのモノに酷似した形状の胸部アーマーに、顔にぶつかったものは、ブレイドの顔を模したフェイスプレートとなって、アクロスの顔面を覆った。

 そして、アクロスの左手には、ブレイラウザーに似た形状の剣が出現する。アクロスはそれを強く握りしめ、刃先をボマーオリジオンに向けて叫ぶ。

 

「仮面ライダーアクロス:リンクブレイド、反撃開始だ!」

 

 これより、この夜最後の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 




色々と吹っ切る回でした。
唯ちゃんみたいな子が、ただ守られてるだけで収まるなんて不可能よ。
ただのライダー系ヒロイン書いてもアレだし。

瞬の過去についてはぼんやりとしか決めていなかったので、この回を書くに当たって序章を結構手直ししてます。

■“彼女”
諸星唯の中に眠っていた得体の知れない力——正確には、力そのものが獲得した、自我を持つ防衛機構。
力を使いこなせない唯に変わって、彼女の身を守る為に表に出ていた。

次回 歪んだ愛を唄う街
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