【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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池袋編、終わりました。
書き初めが昨年7月なので、かなり長い事かいてましたねぇ!


第39話 AM6:00/そして朝は訪れる

 

 

 摩天楼の隙間から、朝日がアスファルトを照らしている。

 赤浦健一は、這う這うの体で雨上がりの街を歩いていた。

 既に彼にはオリジオンとしての力——転生特典は無い。仮面ライダー達の力によって、彼の力の根源は破壊されたのだ。今の彼は、前世の記憶を持つ点を除けば、肉体的には普通の人間だ。

 

「まだだっ……今回は負けたが、まだ次があるんだよっ……! 」

 

 仮面ライダー達の必殺技を受けた彼は、勢いよくプラネットプラザから吹き飛ばされていた。しかしそのおかげで、こうして逃げ仰せている。

 満身創痍だが、まだ死んではいない。生きている限りチャンスはある。

 そんな希望を胸に、赤浦は傷ついた身体を引きずりながら、朝焼けの中を歩いていた。

 しかし。

 (せいぎ)は、赤浦(あく)を見逃さなかった。

 

 

 

「……よう」

 

 歩道橋の終端。

 そこに、平和島静雄(ばけもの)が、居た。

 

 

「……なんだお前」

 

 歩道橋を塞ぐように立っているバーテン服の男に、赤浦はガンを飛ばす。

 静雄の背後には、色々と諦めたような顔をしたドレッドヘアーの男性の姿をも確認できる。

 

「退けよ。往来妨害でサツに突き出されてーか」

 

 赤浦は、ヨロヨロと歩を進める。

 こんなことをしている場合ではない。早くこの街を離れ、再びイスタとレイを破壊する為の準備を始めなければならない。

 血を流しながら、赤浦は静雄を押し除けて進もうとする。

 その時、静雄が口を開く。

 

「セルティのやつから聞いたよ。あの爆発、お前がやったんだってな」

「…………? 」

 

 静雄の台詞に、赤浦は首を傾げる。

 はて、自分はこの男に何かしたのだろうか?

 心当たりがないのも無理はない。赤浦が爆殺していたのは、苛木配下の元AMORE隊員のみ。静雄は単に、それに巻き込まれただけの被害者でしかないのだ。

 

「結構大変だったんだぞ? 服は焦げるわかるく火傷するわ瓦礫ぶち当たって血流すわ……よくもやってくれたよな、お前」

 

 ピキリと、静雄の顔に青筋が浮かび上がる音がした。

 その瞬間、ゾクリと赤浦の背筋が凍りつく。これは恐怖だ。今自分は、目の前の男に恐怖しているのだ。

 静雄は青筋を立てながら、赤浦の腕を掴んで締め上げる。

 

「一応知り合いから、テメーがボコボコにされたって聞いたから、ある程度は抑留下がった……と思いたかったんだが、やっぱ気が済まねえんだわ」

「何が言いたい」

「お前……因果応報って言葉、知ってるよなァ? 」

 

 朝日に照らされ、静雄のサングラスが光る。

 直後。

 

 

 メタバキドグシャメメタァバコスカズバシャンッ‼︎‼︎‼︎ と。

 聞くに耐えない盛大な音を立てて、今宵の騒動の根源に、池袋(まち)の洗礼が降り注がれた。

 彼の愛は、この街からも見放されたのだ。

 

 


 

 

 同時刻、プラネットプラザ前。

 セルティが、ふと何かに気づいたかのように空を見上げた。

 

『終わったみたいだな』

「……なにが? 」

『静雄がボマーにトドメを刺したってさ。ほら、静雄のやつ、ボマーの爆破殺人に巻き込まれて凄く怒ってたから』

「うん、わたしたちがメールしておいたもんね」

 

 どうやら、律刃がメールで静雄に連絡したようだ。

 オーバーキルもいいところだ。

 

「ネットで聞いたことあるよ……池袋の怪物バーテンダー。あれマジの話だったのか」

「この街も、武偵高校に負けず劣らずの魔境よね……」

 

 それを聞いたキンジとアリアは、改めてこの街の異常っぷりに戦慄するのだった。もう当分は池袋に行きたくないと、二人は強く思っていた。

 周囲では、くたくたになってベンチに背中を預けている遊矢だったり、バイクに寄りかかって一息をついている剣崎だったり、洗脳が解けて気絶したAMORE隊員をボコそうとして、三浦に羽交締めにされてるステハゲだったりと、いろんな方法で戦いの幕引きを噛み締めている各々がいた。

 そして、その横。

 

「……うん? 」

 

 地べたにしゃがみ込んだ瞬の前。

 そこには、レドによってカードにされた者達——湖森、トモリ、レイ、イスタの姿があった。

 ボマーオリジオンを倒した後、瞬達はレド——ブレイドオリジオンを問い詰めて、湖森達のカード化を解く術を聞き出そうとした。しかし、彼はいつの間にか姿を消していたのだ。やはりギフトメイカー、中々に逃げ足が早い。

 途方に暮れた一同だったが、ある方法があった。

 それは、

 

「あれ、わたし……確かカードにされていた筈。なんで……」

「お前らが封印されていたカードを、ブレイラウザーに読み込ませたんだ。アイツがブレイドなら、同じブレイドの力でなんとかなるんじゃないかって思って。そしたらドンピシャだったってワケよ」

 

 困惑する湖森に、意気揚々とアラタが説明する。

 そう、オリジオンといえども、レドも曲がりなりにはブレイド。ならばその力は、本物の仮面ライダーブレイドと何らかの形で相互性があるに違いないと、アラタは考えたのだ。これは、彼が転生者であるが故に思いつけた解決策だ。

 湖森は、身体を起こす。

 そして、自分を見つめている兄の方を向く。

 

「……おかえり」

「ただいま」

 

 兄妹は半日ぶりに、挨拶を交わし合う。

 

「帰ろう、みんなで」

「うん」

「その前に事情聴取だけどなー」

「まじか……まあ仕方ないよね」

 

 いつのまにか周囲には、何台ものパトカーや救急車、消防車が集まっていた。あれだけ派手に暴れたのだ、これで警察や消防がこないなら先進国として終わっているだろう。

 一体どうやって説明すべきだろうか。

 待ち受けているであろう事情聴取を想像して気が重くなりながらも、瞬達は日常へと歩き出す。

 目の前には、目が眩むほどに眩しい朝日が輝いていた。

 

 


 

 プラネットプラザ1階 食料品売り場

 

「げほっ……! ぐふっ……! 」

 

 ボマーオリジオンが倒れたのと同時刻。

 食料品売り場のワゴンの上にぶっ倒れていたリイラは、意識を取り戻すなり、その口から血を吐き出した。

 ガシャン! と大きな音を立てながら、リイラはワゴンの上から降りる。

 身に纏っていた綺麗なゴスロリ衣装は、破れたり血に濡れていたりと、戦闘の余波で見るも無残な有様と化していた。

 しかし、ボロボロにされながらも彼女は笑っていた。

 

「予想以上にやるじゃん……おまけにこの感じ……ひょっとして覚悟決めちゃった系? 」

 

 不思議なことに、リイラは離れた位置で起こった唯の覚醒を感じ取っていた。

 リイラは床に転がった青果達を踏み潰しながら歩くと、近くに陳列してあったリンゴに齧り付く。ジャリジャリとリンゴを芯ごと齧りながら、リイラはご機嫌そうにあたりをうろちょろする。

 

「いいよねー、強くなってるよねー。まじ最高なんだけど」

 

 あの時。

 唯の中で目覚めた“彼女”に、リイラは瞬殺された。

 たった一回の蹴りで、リイラは沈められたのだ。

 だが、彼女は笑っていた。

 

「しかし、あの子は強かったなー。まさか私がワンパンで沈められちゃうなんて。ま、その方が食べ応えあるもんね」

 

 リンゴを完食したリイラは舌なめずりをしながら、出口の方向へとフラフラと歩き出す。

 その顔は笑っている。まだ見ぬ逸材に興奮している。

 

「さて、次はもっと楽しませてほしいわ☆」

 

 ゾッとするような笑みを浮かべながら、リイラは朝日に照らされた外へと歩き出した。

 

 


 

 同時刻

 

 身体を揺すられながら、セラは目を覚ました。

 

「……私は一体」

 

 気づけば、彼女は鎧姿のまま地面に倒れていた。

 空を見ると、とっくに雨は止み、日は登り始めている。

 先程まで自分は何をしていたのだろうか? なんだかやたらとズキズキと痛む頭を抑えながら、セラは雨に濡れた身体を起こす。

 彼女が身体を起こすと、とある人物がそばに居ることに気づいた。

 

「ようやく目を覚ましたか」

「お前は……」

 

 それは、赤いフレームの眼鏡をかけた、灰色の髪の青年だった。季節外れの赤いマフラーとタートルネックに、素足のままスニーカーを履いていたりと、服装はほんのりとイカれている。

 セラは、彼の顔を何処かで見たことがあるような気がするが、どうも思い出せない。

 セラが呆然としていると、青年の方から名乗ってきた。

 

「私は赤馬零児。少なくとも君の敵ではない」

「……そうか思い出した。お前は確か、ギフトメイカー側の決闘者(デュエリスト)を引き受けていた奴だな」

 

 名前を聞いて、セラは零児のことを思い出したようだ。まあ、彼女は零児とは会話していない為、覚えていないのも無理はないだろう。

 

「教えてくれ、あの後……私はどうなった? 」

 

 セラは、頭を抑えながら零児に尋ねる。

 

「残念だが、私では君の質問に答えることはできない」

 

 しかし零児は、セラの質問に対して首を横に振るだけだった。

 

決闘(デュエル)の途中だったので、事の推移は分からない。私が駆け付けた時には、ここで君が倒れていた」

「そうか……」

「先程遊矢達がここから出ていくのを見た。どうやら、全て終わったようだな」

 

 それを聞いたセラは、頭を抑えながら自嘲気味に笑った。

 

「騎士失格だな、私は。何も出来ずに、無様に倒されるとはな」

「それは違う。見たところ、君の身体はそこまで負傷していない。倒されたというより……力尽きたといった方が適切だろう」

「たいして変わらないさ。私は最後まで戦い抜けなかった。護神騎士失格だ」

 

 セラは、自らの力不足を悔やんでいた。

 騎士として人を守る為、最後まで立ち続けなければならないというにも関わらず、先に戦闘不能になってしまった。これほど惨めことはそうそうないだろう。

 硬く握りしめた拳に、悔し涙がこぼれ落ちる。

 こんなのではダメだ。もっと強くならなくては。

 そう何度も脳内で反芻しているセラを、零児は暫しの間、無言で見つめていた。

 そして、ふと思い出したかのように、こう言った。

 

「悔しがっているところすまないが、ひとついいか? 君、帰る場所がないのだろう? 」

「! 」

「どうしてわかった、とでも言いたそうな顔だな。なに、簡単なことだ。以前私は、君と似たような顔をした者と関わったことがあってね。それ故に君の事情を察することができた」

 

 微笑みながらそう言った零児を、セラは警戒の眼差しで見つめていた。

 この男は、明らかに只者ではない。王としての、人の上に立つものとして有しているべき風格を、彼は持っている。

 純粋な戦闘能力で零児を捩じ伏せようと思えば出来そうだが、それはセラの騎士道に反するし、そもそもそれは悪手だとしか思えない。ここはひとつ、話を聞いてみるのが最善だ。

 そう判断したセラだったが、零児の次の一言は、彼女にとって意外なものだった。

 

「もしよければ、手を組まないか? 」

 

 突然の申し出に、セラは困惑した。

 そしてすぐに、彼女は警戒心をむき出しにする。

 

「……なぜ私に協力しようとする? 」

「私はこの世界を守りたい。我々も転生者とやらには手を焼いていてね、少しでも彼らに対抗できる戦力が欲しい。それに、君もなんの手がかりもないまま、別の世界で人探しを続けるのは大変だろう? 我が社の力を使えば、君の目的ももっとスムーズに果たせると思わないか? 」

「っ! 何故お前がそれを知っている⁉︎ 」

「舞網市は我がレオ・コーポレーションの手の中にある。君が舞網市内で人探しに奔走していたのは、街の監視網を通じて把握している。勿論、()()()()()()()()()()()()()()()()、だ」

 

 セラは、零児の言葉に何も言えなくなってしまった。

 こいつには全てバレている。セラが別の世界の人間であることも、この世界に来た目的も。一介の騎士と大企業のトップという立場の違いが、両者の間に圧倒的な差を生んでいた。

 

「どうする? 別に断っても構わないが」

「…………」

 

 零児の申し出を受けたセラは、深く考えこんでいた。

 少なくとも、赤馬零児は敵ではない。だが、安易に彼を信じても良いのだろうか? シチュエーション的には明らかに怪しさ満載だ。

 しかし、彼の持つ立場の力というのは侮れない。彼の言うとおり手を組んだ方が、セラの目的である■■■■■■■の捜索も捗るのではないだろうか。事実、この世界に来て3ヶ月が経とうとしているというにも関わらず、彼女の目的は全く果たせてはいない。自分の世界の為にも、これ以上時間はかけたくない。

 セラは悩む。信じるか信じないか、二つの選択肢の間で揺れ動く。

 そして、しばらく考えた後。

 

「……いいだろう。せいぜい利用させてもらうさ」

「構わない。元よりそのためにこの話を持ちかけたのだから」

 

 そう言うと、両者は互いに不敵な笑みを交わし合う。

 信じるに足る足らないは関係ない。目的の為ならばなんだってすると、出発の際に誓ったのだから。

 セラは零児の手を借りながら立ち上がると、零児に連れられるがまま、近くに止めてあったリムジンに乗車する。

 

「ひとまず、我が社まで来てもらおう。詳しい話はそれからだ」

 

 2人を乗せたリムジンが走り出す。

 それは、新たな交わりの始まりだった。

 

 


 

 少し前

 プラネットプラザ・屋上駐車場

 

 ボマーオリジオンが倒される少し前。

 仮面ライダーサイガに変身した灰司は、イガリマオリジオン——バルジと絶賛交戦中だった。

 

「死ねっ! バルジィ! 」

 

 ズバババババババッ‼︎ と。

 サイガはフライングアタッカーで飛行しながら、地上のイガリマオリジオンに向かってフォトンブラッドの光弾を掃射する。

 それに対しイガリマオリジオンは、手に持った大鎌を器用に取り回しながら、放たれた光弾を弾き飛ばしてゆく。

 

「ほらほらぁっ! 」

 

 イガリマオリジオンはチンピラめいた声をあげながら、背中のローブを何本もの触手に変化させると、それを伸ばして空中のサイガを捉えて引きずり落とそうとする。

 サイガは光弾を撃ちながら高速で飛行することで、触手を回避していく。

 が、

 

「ヴィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎ 」

「何⁉︎ 」

 

 突然、新たなオリジオン——ハンドレッドオリジオンが下から現れ、飛んでいるサイガにしがみついた。

 

「こいつ⁉︎ 何処から現れやがった⁉︎ 」

 

 時速800キロで飛び回るサイガに屋上駐車場から飛び上がってしがみついてきたハンドレッドオリジオンに、サイガは動揺を抑えきれない。即座に振り落とそうとするが、オリジオンはサイガの足をがっしりと掴んで離さない。

 掴まれたサイガの足が、ミシミシミシ‼︎ と音を立てる。このままでは足が粉砕されるんじゃないかと思ってしまいそうなほどの、凄まじい握力だ。

 そして、その隙をイガリマオリジオンは見逃さなかった。

 

「落ちろ雑魚がっ! 負け犬は負け犬らしく地面でくたばってりゃあいいんだよォッ! 」

 

 イガリマオリジオンは、手に持った大鎌の刃を取り外すと、それをブーメランのようにぶん投げた。

 投げ放たれたそれは、雨粒を切り裂きながらサイガに向かって飛んでゆく。サイガは避けようにも、ハンドレッドオリジオンがしがみついているせいで思うように動けない。

 

「ぐああああっ⁉︎ 」

 

 投げられた刃のブーメランは、サイガの腰に巻かれたサイガドライバーを粉々に打ち砕いた。

 パワーの源であるベルトが破壊されたことで、灰司はサイガの変身が維持できなくなり、生身のまま落下を始めてしまう。

 

「終わったな」

「ヨッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎ 」

 

 灰司にしがみつきながら歓喜の声を上げるハンドレッドオリジオン。

 が、灰司はまだ終わってはいない。

 バラバラになって落ちてゆくサイガドライバー。その下から、全く別のベルト——ゴーストドライバーが姿を現した。灰司はもう一本のベルトをつけていたのだ。

 そのベルトには、すでに変身用のアイテム——眼魂(アイコン)が装填されている。

 

「変身ッ! 」

《カイガン! ダークライダー! 闇の力! 悪い奴ら! 》

 

 ハンドレッドオリジオンにしがみつかれながらも、灰司はゴーストドライバーのレバーを引く。すると、眼魂からパーカーのようなものが飛び出して被さり、灰司の身体を変身させる。

 落下しながらも、パーカーを纏った白い骸骨のようなライダー——仮面ライダーダークゴーストに変身した灰司は、そのまま両手で印を結ぶ。

 すると、ダークゴーストの全身から白い波動のようなものが解き放たれ、しがみついていたハンドレッドオリジオンの身体を思いっきり吹き飛ばした。

 

「バアアアアアアアッ⁉︎ 」

「テメェは引っ込んでやがれッ! 」

 

 悲鳴を上げながら吹き飛ばされてゆくハンドレッドオリジオン。

 ダークゴーストはそこに間髪入れず、サングラスを模した剣・サングラスラッシャーをぶん投げた。

 勢いよく投げられたソレは、音すら立てずに、ハンドレッドオリジオンの脳天に深々と突き刺さる。

 

「消えろ、これは俺とアイツの戦いなんだ」

 

 スタッ、と華麗に着地するダークゴースト。

 それと同時に、サングラスラッシャーが突き刺さったハンドレッドオリジオンの身体が爆発する。

 断末魔をあげながら落下してゆくハンドレッドオリジオンに、両者とも目もくれず、互いに睨み合う。

 

「あーあ、やっぱ弱いなー。ま、アイツは失敗作だったから別に構わねーんだけど」

 

 仲間が倒されたというのに、イガリマオリジオンは酷く淡白な反応だった。

 ダークゴーストは分かりきっているが、これがバルジという人間だ。兎に角自分本位でしか考えられず、他人のことなど気にも留められない、真正の人格破綻者。それが彼だった。

 

「邪魔者は消えた。続きをやろうぜ」

「まだやる気かよ……飽きないなぁっ! 」

 

 しぶとく自身に食らいついてくるダークゴーストを鬱陶しく感じたイガリマオリジオンは、彼を一撃で葬るべく、いつの間にか刃が戻ってきていた大鎌で斬りかかる。

 それは常人には反応不可能なほどの速さだった。

 しかし、ダークゴーストは違う。幾千もの戦場を潜り抜けてきた歴戦の狩人の目には、はっきりとイガリマオリジオンの動きが見える。

 

「テメェの動きは見切ってんだよッ! 」

 

 ダークゴーストは、振り下ろされた大鎌を最小限の動きで回避すると、そのままの流れでイガリマオリジオンの腕を掴む。

 そして、ゴーストドライバーのレバーを4回引く。

 

《ダイカイガン! ダークライダー! オオメダマ! 》

 

 すると、ドライバーから巨大な眼魂型のエネルギー体が勢いよく射出され、イガリマオリジオンに容赦無くぶち当たる。

 その余波は凄まじく、イガリマオリジオンにダメージを与えるにとどまらず、2人が立っていた周囲の足場を丸ごと破壊し、2人はプラネットプラザの3階へと落下してゆく。

 瓦礫と共に床に背中から衝突するイガリマオリジオンと、瓦礫を避けながら難なく落下するダークゴースト。

 

「この一撃で蹴りをつける」

「同感だ。いい加減俺様も帰りたくて仕方がないんだ」

 

 立ち上がりながら、ダークゴーストの言葉に強気に答えるイガリマオリジオン。

 イガリマオリジオン——バルジは、鬱陶しい灰司との戦いを終えて帰る為。ダークゴースト——灰司は、バルジを殺して復讐を完遂する為。抱いている思いは異なれども、これ以上この戦いを続けたくないという点では、両者は一致していた。

 

「終わりだ、バルジ! 」

《ダイカイガン! ダークライダー! オメガドライブ! 》

 

 ゴーストドライバーのレバーを一回引くダークゴーストと、大鎌を再び構えるイガリマオリジオン。すると、ダークゴーストの足とイガリマオリジオンの大鎌に、それぞれエネルギーが集約されてゆく。

 そして、両者は同時に動き出す。

 ダークゴーストは飛び蹴りを。イガリマオリジオンは鎌による一閃をそれぞれ放つ。

 激しい音と火花を周囲に撒き散らしながらぶつかり合う、ダークゴーストのキックとイガリマオリジオンの大鎌の刃。

 そして。

 重き因縁の籠ったその迫り合いを制したのは。

 

「ぜやああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼︎ 」

 

 ダークゴースト、灰司だった。

 迫り合いに負けたイガリマオリジオン、バルジの手から鎌がこぼれ落ちると共に、迫り合いを制したダークゴーストのキックが、大鎌の刃を越えてバルジの身体に直撃する。

 

「グヌぎゃあああああああああああっ⁉︎ 」

 

 オリジオンとしての姿を維持できなくなったバルジは、断末魔をあげながら遥か後方へと吹っ飛んでゆく。天井からぶら下がる案内板を突き破り、エスカレーターを真正面から突き破り、まるでサッカーボールのように、全身ズダボロとなって床をバウンドする。

 漸くバルジが止まった後、カランと音を立てて、彼の頭のあたりから何かが零れ落ちる。

 それは1枚のDISCだった。銀色に輝くそれは、バルジから離れるように近くの階段に向かって転がってゆき、階段をつたって階下に落ちてゆく。それにダークゴーストが気付いた様子はない。

 ダークゴーストの変身を解いた灰司は、満身創痍のバルジの元に辿り着くなり、腰に携帯していた拳銃の銃口をバルジに突きつける。

 

「勝負あったな。これで……俺達の因縁も終わりだ」

 

 そう口にした灰司の声は、震えていた。

 それは復讐が成就する事に対する歓喜なのか、復讐完遂を前に昂った憎悪なのか、はたまた奪われたものを思い返したが故の落胆から来るものなのかは、灰司本人にも分からない。

 だが、油断は禁物だ。

 バルジの悪趣味っぷりは群を抜いている。死に際になってさえも、それは決して油断してはならないものだ。

 この時の灰司は、それを失念していた。

 

「なんちって☆」

「何……っ⁉︎ 」

 

 バルジがそう言った瞬間、灰司は反射的に身構える。

 が、一手遅かった。

 灰司が身構えるのと同時に、どこからか光の矢が飛んできて彼の脇腹に突き刺さった。

 

「ぬぐああああっ⁉︎ 」

 

 突き刺さった光の矢はすぐに霧散するが、矢の刺さった脇腹がみるみると赤く染まってゆき、灰司から立つだけの力を奪い去ってゆく。

 怨敵を前に、脇腹を抑えてその場に膝をつく灰司。

 そこに、カツンと、誰かの足音が近づいてくる。

 灰司が顔を挙げると、そこには黒い髪の少女が立っていた。しかしその目はレイラ同様に異様に充血しており、目元には幾何学模様じみた痣が浮かび上がっている。

 少女の名はレイナーレ。かつて不幸にもオリジオンの事件に巻き込まれたことがきっかけで、部下共々実験動物(モルモット)にされた哀れな堕天使だ。

 レイナーレはバルジに近づいてゆくと、無言で彼を担ぎ上げてゆく。

 

「やっぱ持つべき相手は優秀な奴隷だなぁ! 頼むぜレイナーレちゃん、俺様を連れて離脱するんだ! 」

「待ちやがれ……っ! 」

 

 灰司は脇腹の出血も厭わずにバルジに手を伸ばすが、それはレイナーレに担ぎ上げらたバルジには届くことはなかった。

 バルジを担いだレイナーレは、背中から堕天使の象徴たる黒い羽を出現させると、そのまま天井を突き破り、朝焼けの中へと飛び去っていってしまった。

 後に残されたのは、満身創痍の少年ただひとり。

 

「くそ……クソがっ! クソッタレがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! 」

 

 穴の開いた天井から差し込む朝日の中に、少年の号哭がこだました。

 

 


 

 

 そして、これは完全なる余談。

 

 

 

数日後・逢瀬家

 

「隣に引っ越してきました~!相藤レイでええええっす!」

「今何時だと思ってんだこの針金野郎っ!」

「ぎょへんっ⁉ 」

 

 夜中に引っ越しの挨拶くる非常識人(レイ)に向かって、瞬は手に持っていた箒を槍投げの要領で思いっきりぶん投げてやった。

 胸のど真ん中にに箒の柄先が直撃したレイは、胸を押さえながら逢瀬家の玄関先に膝をつく。

 しかし、元はと言えば非常識極まりない行動をとった向こうが悪いのだ。あれで瞬より10歳近く年上とか信じたくないし、つくづく大人だからといってまともだとは限らないことを痛感させられる。レイといいトモリといい、なんでうちの周りの大人ってこんな奴しかいないのだろうかと、瞬は本気で自らの環境を嘆くしかなかった。

 レイがダウンすると入れかわりに、その傍らに立っていたイスタがレイに代わって謝罪をする。

 

「申し訳ございません……私は止めたのですけども、レイがここまで馬鹿だとは思わなくて」

「俺も正直驚いてるよ」

「なんか瞬、また変な人連れ込んでるね」

「うんうん」

 

 イスタと瞬がレイの奇行に呆れていると、騒ぎを聞きつけたネプテューヌとヒビキが、リビングから顔だけを出して好き勝手なことをほざく。

 こっちだって好きで連れ込んでいるわけではない。向こうから勝手に上がり込んできたのにこの言い草はないだろう。

 

「私がこうしてレイといられるのは、皆さんの尽力があってこそです。深く感謝申し上げます」

「まあ、なんだ。お前たちのおかげで、俺は大事なもんを3度も失わずに済んだ。本当にありがとう、そして、これからよろしくな」

 

 レイは胸を押さえながらなんとか立ち上がり、握手を求めてくる。

 瞬も一応先ほどの箒投げで、夜間訪問に対する制裁は終えたので、挨拶ぐらいは応じてやるか、と差し出された手を取る。

 なんとも格好悪くてしまらない挨拶だけども。

 レイの抱く感謝の念は、握手を介してしっかりと瞬に伝わった。

 

 

 数多もの勇士達が血を滲ませた戦いの果てに守られたものは、今確かに瞬の目の前にある。

 その事実は、少年を笑わせるには充分だった。

 

 

 

 

 

 

 




池袋編、完結っ!
ですがまだ1章は終わりません。
次回からがほんとのラストです。バルジゆるさねぇ!


■ハンドレッドオリジオン/カワラーナ
転生特典:ハンドレッドパワー(TIGER&BUNNY)
捕らえられた堕天使を使って生み出されたオリジオン。バルジに新しい実験動物。
強靭な肉体を持つが、知性は低い。
純粋な戦闘能力しかもたない、完全無欠の失敗作。



次回 その男、不倶戴天につき
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