【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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※一部ルビを追加しました。

前回のあらすじ
・空からねぷねぷ参上
・唯、迷子と遭遇
・殺されかけたけど、心あたりがまるでない古城
・トマト頭といえば……?

アスタリスク14巻買ったら13巻が抜けてる事に気付いた。
最悪スギィ!
あとリゼロ2期、俺ガイル3期決定しましたね。
好きな人は……見ようね(自分は見るとは言ってない)



※今回から、転生者要素などが出てきます。注意してください。


第4話 原点を汚す者(オリジオン)

 真っ白な空間。

 何処まで行っても、白が広がる。

 その中に、ポツンと佇む一台の機械。自販機のような形をしているが、商品はない。ただ、備え付けられてたタッチパネルがボンヤリと発光している。

 画面には、このような文が表示されていた。

 

《転生おめでとうございます。特典をお選びください》

 

 


 

「転生……そして、特典というシステムは、我々にとって都合がいい。誰が、どうやって、何のためにこんな都合のいいシステムを作ったのかは分からんが、使えればそれでいい」

 

 機械から少し離れたところで、二人の男が会話をしていた。一人は、袖無しコートを着たオールバックの男。もう一人は、黒いスーツにサングラスをかけた男。サングラスの男は、煙草の煙を口から吐き出し、

 

「そういえば、私も一人『覚醒』させたんですよ。中々醜い人でしたけど、努力と才能次第で伸びますよ」

「……期待しているぞ、笠原」

「承知しました、ティーダ」

 

 そう言い残すと、サングラスの男は姿を消した。白い空間に、オールバックの男—— ティーダが残される。

 

「邪魔は、させない」

 


 

 ショッピングモール

 

「うちの子がすみませんでした」

「良いですよ。当然の事をしただけですから」

 

 迷子センターに辿り着いたとき、館内放送を聞いて駆けつけた男の子の親にばったりとでくわした。母親は何度も唯に礼を言いながら、男の子の手を引いて立ち去っていく。

 

「もう迷子にならないでね。お姉ちゃんとの約束っ」

 

 男の子は何か言いたげな表情だったが、母親に手を引かれて唯の視界から消えていった。

 

「良かった良かった」

「良くない。ヒビキちゃんも迷子じゃんか」

 

 男の子の親が見つかって誇らしげに胸を張っているが、ヒビキも立派な迷子である。本人はそこのところを分かっているのだろうか。

 

「……てゆーかヒビキちゃん、意外と喋るタイプなんだね」

 

 唯に懐いたせいなのかは知らないが、一気に口数が増えたような気がする。そして唯の服の裾を掴んで離さない。

 

「ヒビキちゃんも、ここで待っていればきっとお母さんが来てくれる筈だから。私とはこれでお別れだよ」

「……いやだ」

 

 強く拒否された。ここまで懐かれるとなんか怖くなってくる。何が嫌なんだと訊いてみるも、彼女は俯いたまま答えない。再び犬のお巡りさん状態に陥ってしまった。

 

「一体何が嫌なんだろ……」

 

 シンキングタイムに突入した唯だったが、それは数秒で終わる事となった。突然、誰かに押されたような衝撃を背中に受け、唯はよろける。

 

「あたっ……」

「あ、ごめんね……急いでるから」

 

 唯にぶつかって来たのは、唯より歳上の女性だった。彼女は一言謝ると、急ぐかのように走り去っていった。

 

(何だったんだろう……ん?)

 

 気付くと、唯にしがみ付いていた筈のヒビキがいなかった。一瞬パニックになったが、走っていく彼女の後ろ姿を捉える。まるで、何かを追いかけていくかのように。

 

「待って!何処行くの⁉︎ 」

 

 親が見つかったのかと思ったが、妙な胸騒ぎがする。早く追いかけないと、取り返しがつかなくなるような、そんな感覚が纏わりつく。歩く人の波に逆らうように、唯は追いかける。

 その時。突如として鳴り響く轟音。まるで、爆破でもしたかのような衝撃が、ショッピングモールを揺らす。

 そして、ショッピングモールが暗闇に包まれた。

 


 

 しばらくベンチに座ってうだうだしていた瞬。ネプテューヌの方は、いつの間にか隣のベンチで眠りこけていた。

 

「……いかん、このままだと俺まで眠ってしまう」

 

 春の陽気は人を眠りに誘う魔性の暖かさ、というのは良く言われている事。今の隙にこの色々痛い少女から距離をとろうと、ベンチから立ちあがる。

 だが、何か忘れている様な気がしてならない。まるで前提条件をすっ飛ばしてるような——

 

「昨日ぶりだね、逢瀬くん」

「うわああああああああああああ!」

 

 公園を出ようとすると、胡散臭い野郎(フィフティ)が居た。思わず大声で叫んでしまう瞬。フィフティはやれやれといった感じに溜息をつく。

 

「まるで幽霊でも見たかのように叫ばないでくれ。私はちゃんと生きている」

「……まあ、丁度いいや。お前に聞きたいことがたんまりとあったんだ」

 

 そう、これは願ってもないチャンス。今の訳の分からない状況について、コイツからならば、何か情報が引き出せるかもしれない。

 フィフティの顔を見ると、全てを見透かしたかのような胡散臭い笑みを浮かべている。その顔に若干不快感を覚えながらも、瞬は口を開く。

 

「昨日のアレは、一体何だった?」

「世界の終わりさ。文字通りのね」

「でも、終わってない。それどころか、何も無かったみたいになってるじゃねーかよ」

 

 唯との電話の後から感じていた、大きな疑問をぶつける。フィフティは、少し笑って答える。

 

「いや、世界は終わったのさ。間違いなく、あの時に」

「じゃあ……今のここはなんなんだ。冗談は格好だけにしろ。そして寝言は寝て言え」

 

 相変わらず、よくわからない物言いをする。ハナから理解させる気がないように思えてくる話し方だ。

 フィフティはニヤリと笑い、瞬を馬鹿にするように言う。

 

「寝言ね……今更何を言うんだい。私はいつでも大真面目だ。馬鹿にしないでいただきたいね」

「お前が真面目だったら人類はイかれてるよ」

「話をいい加減進めよう。ここは、確かに君の生きる世界。ただし、様々なイレギュラーが混じった、不純で歪んだ世界だけどね」

 

 やっぱり何を言っているのかわからない。もう少し分かりやすく説明してくれと言ってやりたい。

 フィフティは瞬の方を振り返り、ばっと腕を広げる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とでも呼ぶべき、かな?」

 

 しばらくの間、沈黙が訪れる。瞬が反応に困って黙りこんでいるためだ。そんな突飛な話にはいそうですかと頷ける奴は、普通に考えても殆どいない。

 

「君の質問に答えながら、説明しようか」

 

 ここでようやく、質問に答えてくれるらしい。長話になるけど、と前置きを入れ、フィフティは話し始める。

 

「まず、君には()()()()()()()()()()()()()()()()で話を進めることを知ってもらいたい」

 

 この一言で、瞬の中でのフィフティの胡散臭さがランクアップする。いつからこの世界はそんな厨二ワールドになったのだろうか。困惑する瞬を見て説明が必要なのかと判断したフィフティは、平行世界について補足する。

 

「難しい言い方をすると、枝状分岐宇末端点(しじょうぶんきうまったんてん)とも言う。地球を含む宇宙そのものが、枝状に分岐を続け、無数の時空が宇宙に存在するとした考えさ。分岐点が近ければ似た世界に、遠ければ差異の大きな世界になる。これくらいはSF作品とかでも良く知っているような内容だろう?軽い復習みたいなもんさ」

 

 確かに、アニメや漫画などの知識から、何となくなら瞬も知っている。ただ、現実に存在すると言われても実感は湧かない。

 

「普通は、異なる次元同士を行き来することは容易ではないし、干渉も困難だ。まあ、世界によっては楽々と出来てしまうんだけどもね。君の世界では、そんな技術は無かったみたいだけど」

「有ったら怖いわ」

「だが、その前提を突き崩すような事態が現在進行形で発生している。君、戦いの後に見たもののを覚えているかい?」

 

 そう言われて、瞬は思い返してみる。色々ありすぎて正直あやふやにしか思い出せない。怪物を倒して、空を見上げて——

 

「地球が降って来た……」

「そう。あれこれが、平行世界だ」

 

 さらりととんでもない事を言ってのけるフィフティ。驚きのあまり、瞬は一瞬表情の作り方を忘れたかのように呆然とした顔になる。今更何を驚く必要があるんだい?とでも言わんばかりに、フィフティはきょとんとした顔で瞬を見つめる。これが至極真っ当な反応だと思うのだが。

 まあいいか、と言ってフィフティは話をを再開する。

 

「君が、空にもう一つの地球を見たあの瞬間に、世界は融合したんだ」

「融合……?」

「そう。次元統合現象、と私は呼んでいる。このままでは、全ての次元は一つになり、滅ぶだろう」

 

 そして、それに対抗し得る力が、瞬に託されている。瞬は、ポケットの中のライドアーツを固く握りしめる。

 

「君が立ち向かうべき相手は既に示した。さあ、全てを救え!君は、これから救世主になるんだ!」

「……………………」

 

 長い沈黙があった。

 突飛な話があまりにもポンポン出てくるので、瞬は何を言えばいいのか困惑しているのだ。

 

「ああ、最後に一つ説明したい事が—— 」

 

 フィフティが何かを言おうとしたその時。

 

 ドガアアアアアアッ!!!!と、轟音が鳴り響いた。

 

 学校での一件といい、今の爆発といい、一体何が起きているのか。音のした方を見ると、煙が上がっている。確か、あの方向には馬鹿でかいショッピングモールがあった筈だ。

 

「話は後だ。僕から一つ、プレゼントを渡そうか」

 

 フィフティはそう言うと、ポケットから何かを取り出して瞬に投げ渡す。見たところ、瞬の持っているライドアーツに似ているが、一体どうしろというのだろうか。

 

「それをベルトに挿入して起動するんだ」

 

 言われるがままに、ライドアーツをバックルに刺して、変身の時と同じ要領で操作する。すると、

 

《VEHICLE MODO》

 

 その音声と共に勢いよくライドアーツがバックルから排出され、地面に転がる。

 

「……不良品?」

「いや、ここからだ」

 

 すると、地面に落ちたライドアーツがガチャガチャと音を立てて振動を始めた。それと同時に、ライドアーツが大きくなりながら変形していく。

 

「これは……」

 

 瞬の目の前には、一台のバイクが現れていた。ヘルメットもちゃんとついている。

 

「乗ってみるといい」

 

 フィフティに言われるがままに、瞬はヘルメットを被ってバイクに跨る。見ると、メーターなどがある場所の手前に、タッチパネルのようなものがついている。恐る恐る手をかざしてみると、画面に文章が表示された。

 

「なんだこれ」

《ユーザー情報インプット、オートモード起動》

 

 突然、バイクのエンジンがかかり、大きな音が鳴り響く。慌てふためく瞬だが、フィフティは御構い無しに瞬の後ろに座る。野郎二人乗りなんて誰も望んじゃいないが、慌てている瞬はそれに気付かない。

 

「ちょっと待て!これどうやって止めんの?止まらないんだけど⁉︎ 」

「だいじょーぶ、死にはしないから」

 

 少年の叫びは届かない。

 バイクは猛スピードで発進した。

 


 

 唯とヒビキが出会う少し前。

 

 ショッピングモールの、一般客は立ち入らない筈の冷凍室。固く閉じられていたその扉が、ゆっくりと開けられる。溜め込まれた冷気が、外へと流れていく。

 カツンと、乾いた足音が鳴り響き、それと同時に薄暗い冷凍室にひとつの影が入ってくる。

 スーツを着た、若い女性。スーツの上からでも、彼女のスタイルの良さが見て取れる。ぱっと見どこかのキャリアウーマンに見えなくもない。

 

「はぁ……」

 

 白い息が、口から漏れる。冷気に体を震わせながら、部屋の奥へと進む彼女。

 部屋の隅に積まれたダンボールの山を退かし、その向こうを覗き込む。そこには、一人の子供が倒れていた。

 

「見つけた……」

 

 冷たい部屋の中で、その一言が木霊した。

 


 

 再び、視点は切り替わる。

 突如として停電したショッピングモール。当然、人々は混乱に陥る。ヒビキを追っていた唯も例外ではなく、当然現れた暗闇にその足を止められた。

 

「停電……なんで⁉︎ 」

 

 足を止めたために一瞬ヒビキを見失った唯は、辺りを見渡す。階段を降りていくヒビキの背中が見える。

 

「待って……ヒビキちゃん!」

 

 階段を数段飛ばして降りながら追いかける唯。多少距離があったが、踊り場でなんとか捕まえる。

 

「捕まえた……!」

 

 ヒビキはというと、唯の腕を振り解こうと暴れている。一体なぜ彼女は急に走り出したのだろうか、と疑問に思うが、兎に角一安心する。

 唯がほっと一息ついたその時、ギイっという音が辺りに響いた。見ると、階段を降りた先、狭い通路の突き当たりの『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉が開いている。

 唯がその扉に視線を合わせた瞬間、物凄い勢いで何かが飛び出し、唯の首を締め付けてきた。

 

「がっ……はんっ……!」

 

 唯の手かヒビキが離れると同時に、扉が吹き飛んで階段前に落ちる。冷たい空気と共に、何かが通路に入ってくる。それが階段の前まで来た時、非常口看板の緑の光に照らされ、その姿が明らかになった。

 緑色の、トカゲのような生き物。頭頂部から背中にかけては鶏冠がつき、長い尻尾を引きずっている。

 一番の特徴は、長い舌。口から伸びる長い舌が、唯の首を締め付けている。

 

「な、なんなの……コイツ……」

 

 少しずつ、引っ張られている。怪物に近づくにつれ、唯の視界にあるものが見えた。怪物が、何かを抱えている。服を着たマネキンのような——

 

(待って!これって——)

 

 ここで唯は気付いた。

 あれはマネキンではない。人間の子供だ。さらに、あの服には見覚えがある。さっき唯が送り届けた迷子の少年のものではなかっただろうか?

 唯が思考を巡らせていると、怪物はより強く首を締めてきた。意識が飛びそうになるのを必死に抑えるが、引っ張る力も強くなり、唯は階段から落ちそうになる。

 

(やば、死ぬ——)

 

 その時。

 

「ああああああっ!」

 

 聞き覚えのある声と共に、何かが怪物を吹っ飛ばした。唯は締め付けから解放され、踊り場の壁に叩きつけられる。

 それはバイクだった。何故こんな所に入って来てるのかは知らないが、とりあえず助かった。

 

「ようやく止まった……」

 

 バイクに跨っていた人物は、気が抜けたようにヘルメットを脱ぎ捨てる。その顔を見て、唯は思わず声を出した。

 

「瞬……」

「唯⁉︎ なんでお前が……⁉︎ 」

 

 いやその前にあんたは何でショッピングモールの中でバイク乗ってるんだ、と思わず突っ込みたくなった唯。しかし、忘れてはいけないのは、今この場には怪物がいるということ。バイクに跳ねられた怪物は、ヨロヨロと立ち上がって瞬を睨みつけている。

 

「さ、逢瀬君。戦うんだ」

 

 瞬の背後から、何処か胡散臭い声が聞こえてくる。よく見ると、瞬の後ろにフィフティが乗っている。唯は、野郎二人乗りなんて誰得なんだと一瞬思ってしまった。

 

「フィフティ、あれは……」

「あれはオリジオン。奴等の手駒さ。細かい話は後にして、割って入った以上は戦え。君は場数を踏むべきだ」

 

 瞬はバックルを装着し、ライドアーツを取り出す。

 

《クロスドライバー!》

 

 起き上がってくる怪物を真っ直ぐ見据えながら、バックルにライドアーツを差し込む。

 

《ARCROSS》

「変身!」

《CROSS OVER》

 

 音声が鳴り響くと共に、瞬は走り出す。

 

《思いを!力を!世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》

 

 変身が完了し、アクロスは起き上がった怪物に体当たりを仕掛ける。兎に角、唯達から怪物を引き離そうとする。

 

「私の、邪魔をするな!」

 

 突然怪物が喋ったかと思えば、背中に衝撃を受けてアクロスは前方へと転がっていく。飛ばされた先は、多くの人がいる出口前。当然、パニックが引き起こされた。

 

「なんだあれ!化け物⁉︎ 」

「馬鹿どうせ魔族だ!特区警備隊(アイランド・ガード)を呼べ!」

「あれ立体映像(ソリッドビジョン)じゃないの⁉︎ 誰かがデュエルしてるんじゃないの⁉︎ 」

 

 誰もがアクロスに変身した瞬と、オリジオンをみて騒いでいる。アクロスは立ち上がって、皆に逃げるように言う。

 

「みんな逃げろっ……早くがっ」

 

 顔面に拳を入れられて、数歩退く。オリジオンとアクロスの戦いに巻き込まれたくない人々が、一斉にその場を離れていく。

 

「どうした。格好だけなのか?」

 

 アクロスは果敢に挑むも、オリジオンは軽々と攻撃を躱し、舌を伸ばして引っ叩いてくる。その度にアクロスは壁に叩きつけられる。

 

「まあ、死ね!」

「っはぁ!」

 

 オリジオンは、手のひらから卵型のエネルギー弾を撃ち出し、アクロスを吹き飛ばす。自動ドアを突き破り、駐車場の地面のアスファルトに体を打ちつけられる。

 立ち上がろうとするも、上手く力が入らない。学校での戦闘のダメージがまだ残っているのだ。アクロスはまだ戦いの素人。ずば抜けた身体能力や特殊能力があるわけでもなく、ライダーの力も上手く扱いきれていない。

 

「はああっ!」

 

 オリジオンの方は、アクロスよりは無駄の少ない動きで間合いを詰め、ようやく立ち上がったアクロスを殴り飛ばす。

 

(やっぱ無理だっつーの……!俺なんかが世界救える訳ねーだろ……)

 

 一抹の諦め。それが実力差をさらに広げてゆく。オリジオンは倒れたアクロスを強く踏みつける。体の中身が全て押し出されるかのような圧力が、アクロスにのしかかる。

 

「がっ……はぁっ……」

「私はねぇ、可愛い子供は好きだけど、君みたいな反抗期真っ盛りのクソガキは嫌いなんだ」

「っ……」

「てか、君も転生者だろう?何をトチ狂ってヒーローごっこしてるんだか。いい子ぶってないで、せっかくの第2の人生なんだから、自由に生きれば良いじゃないか」

 

  アクロスは、限界に来ていた。意識が、手放される。オリジオンは、手のひらにエネルギーを集める。トドメを刺すつもりらしい。

 

「ま、どのみち君みたいな子には無理だけどさ」

 

 が。

 

「その言葉、そのまま返すぞ」

 

 突然、何処からか声が聞こえてきた。

 唯達ではない。彼女達は、まだショッピングモールの中だ。明らかに、すぐ側から声がした。

 オリジオンは攻撃を中断し、辺りを見渡す。周りには、アクロスの他にら駐車中の車しかない。

 

「此処だっての、間抜け」

 

 次の瞬間。

 声と共に、オリジオンの顔に何者かの拳が叩き込まれた。

 

「な……⁉︎ 」

 

 驚くのも無理はない。

 その腕は、車のサイドミラーからでていた。まるで、鏡の中からでてきたかのように。更に、困惑するアクロスとオリジオンの両者に、嘲るような声がぶつけられる。

 

「馬っ鹿じゃねぇの?お前は転生した時に脳味噌置いてきたのかよ」

「お前……何処から……⁉︎ 」

 

 声の主が、瞬の前に現れる。

 そいつは、鏡から出てきた。そうとしか言えなかった。鏡から二人の戦いに割って入り、一瞬にして自らの舞台へと変えた。

 更に異様なのは、外見だ。黒い甲冑のような物を身につけて、顔も見えない。腰にはベルトのような物を巻いている。ただ、アクロスはその姿を見てある事を感じていた。

 

(なんだ……こいつ、アクロスに似ている……気がする)

 

 何故か、そのような感じがする。向こうの事など、微塵も知らないにも関わらず。既視感とは、こういう感覚なのだろうか。

 

「お前呼ばわりするな。俺はリュウガ、ただの……悪だよ」

「リュウガ……」

「邪魔だ、退け」

 

 リュウガと名乗った人物(?)は、地面に倒れたままのアクロスを蹴飛ばし、オリジオンに近づいていく。

 

「オリジオンになった以上、容赦はしない。懺悔などさせてたまるか」

「お前はまさか……転生者狩り……⁉︎ 」

 

 オリジオンの方は、どうやらリュウガの事を知っているらしい。声の震え具合からして、酷く狼狽えているのが分かる。

 リュウガは、腰のバックルからカードの様な物を一枚取り出す。それを、左腕にあるドラゴンの顔を象った装置に挿入する。

 

《ADVENT》

 

 くぐもった音声がする。

 オリジオンは、その場から動かないリュウガに対して攻撃を仕掛けようと、掌にエネルギー弾を生成する。

 次の瞬間、

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎‼︎‼︎ 」

 

 周囲に轟く咆哮。アクロスに変身している瞬でさえも、思わず耳を塞いでしまう。

 

「行け」

 

 瞬間、車の窓から何かが飛び出し、オリジオンに激突した。怪物を宙に打ち上げた存在を見て、アクロスは思わず仮面の下の開いた口が塞がらなくなる。

 

(なんじゃありゃあ……⁉︎ ドラゴン……?まさかアイツも鏡から……⁉︎)

 

 それは、黒い蛇竜だった。見るからに危なそうなその生物は、リュウガの背後で浮遊している。

 ドラゴンは、滞空しているオリジオンに向かって口から黒い火球を吐き出す。

 

「がはあっ!」

 

 オリジオンは火球を左肩に受け、ショッピングモールの入口前に墜落する。

 

「逃すか、追え」

 

 リュウガはドラゴンにそう命じ、瞬の方を向く。ドラゴンは、オリジオンの落下地点へと飛んでいく。

 

「訊きたいことがある」

「……」

「お前は何処の回し者だ?何だ、その姿は?」

 

 どうやら、コイツはアクロスについては知らないようだ。酷く冷たい声が、アクロスに突きつけられる。

 

「……知るかよ。この力とはまだ半日くらいの付き合いなんでな」

「正直に言え。返答次第では殺す」

 

 正直に言ったつもりだが、向こうには信じてもらえなかったらしい。おまけに脅迫までしてきた。仮面の下、満身創痍の瞬の体から冷や汗がどっと湧き出てくる。

 殺意。平穏な生活を送っていた瞬にとっては、縁がなかったもの。感じたことのない恐怖が、アクロスを襲う。

 

「し、正直に言ったぞ。本当だって」

「じゃあ、お前の目的は何だ。返答次第では殺す」

 

 リュウガは、瞬の弁明を無視して新たな質問を脅迫込みで送りつける。彼の気迫に、瞬は足が震えてくる。

 

「……………」

 

 分かりっこない。世界を救えだの次元統合だの言われても、未だにピンとこない。自分の目的だって示されたってはっきり言える自信はない。

 

「答えないというのなら、覚悟はいいな?」

 

 答えられずに立ち尽くしているアクロスを見て、リュウガは溜息をつく。そして、アクロスに近寄って、

 

 ボグッ!!!!!!!!と。

 瞬を思い切りぶん殴った。

 

 アクロスの体は近くの車に叩きつけられ、車は真っ二つにひしゃげる。口の中に広がる血の味。アクロスは、力を振り絞って上体を起こす。

 

「いきなり何を……」

「今の答えで、お前を倒す事にした」

 

 訳が分からない。理不尽だ。

 突然突き付けられた言葉によって、アクロスの思考が混乱する。

 

「意思も目的もない、強大な力。お前はそれがどれほど恐ろしいか分かっちゃいない」

「……はぁっ⁉︎ 」

「お前は、危険すぎる。だから、世界の為にも今ここで倒す——!」

 

 


 

 ショッピングモールの中。残された唯とヒビキは階段に座っていた。フィフティは、怪物から助け出された少年を唯に預けて何処かに行ってしまっていた。

 既に建物内は停電から復旧しており、照明が明るく周囲を照らしている。しかし、瞬と怪物の戦闘が起きたこの区画だけは、誰も寄り付こうとせず、静まりかえっていた。

 

「何だったの、今の怪物」

「…………」

 

 会話が途切れる。あんな怪物に襲われたのだから、無理もない。唯は、目を覚まさない少年を背負って立ちあがる。瞬が、身を呈して自分達を守っている。そのうちにこの子達を安全な場所に避難させるべきだろう。

 ヒビキの手を引いて、唯は階段を下る。

 その時、ガタンという音が前方から聞こえてくる。確か階段の前には、怪物が吹き飛ばした鉄扉があった筈。今のは、それを踏む音だろうか。瞬なのか、怪物なのか、それとも。

 

「大丈夫……私がいるから……」

 

 ヒビキを安心させるかのように、繋いだ手をぎゅっと握る。再び、バタンという音がする。通路の角から、靴のつま先が覗く。

 

「あ……」

「え……」

 

 出会ったのは、傷だらけの女性だった。服はあちこちが破けたり煤けていて、ところどころ出血もしている。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎ 」

「だい……」

 

 唯の呼びかけに応じる前に、女性は倒れてしまった。揺すっても返事はない。こんな怪我人を放っておけない。

 とにかく救急車でも呼ぼうと、スマホを取り出す唯。その光景を、ヒビキは微動だにすることなくじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 




やはり序盤は情報を出してそれを説明しながら話を進めなきゃいけないので大変です。どうしても自然な形にならない……そう考えるとプロは凄いぜ……

あと2話程でこの事件は解決するかも。
ストブラ組は長くなりそうなので後回しに。


近いうちに活動報告でリクエスト受け付け開始します。
お楽しみに!

次回「ゲート・オブ・オリジオン」

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