【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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ついに来ました、バルジとの決戦編。そして第1章完結編です。
池袋編はイスタ周りがメインになってたので、コイツとの決着にむけて進めます。これ終わらせないと1章終われないからね。
長さ的には池袋編の半分未満にはなると思います。そこまで長くしないつもりですので、どうぞよろしくお願いいたします。





OP ステロタイパー/灯油feat.やまじ


Requiem for the avenger
第40話 その男、不倶戴天につき


 

 

 ゴールデンウイーク最終日がやってきた。

 すでに日が昇ったアパートの部屋の中で、無束灰司は目を覚ます。

 

「…………今日もまだ、だ」

 

 半分死んだような命にも、また新しい一日がやってきてしまった。洗面台で顔を洗いながら、壁に掛けてある時計を見る。時刻は午前8時ジャスト。

 朝食前に日課の筋トレを行おうとするが、腹筋を始めようとした途端に脇腹のあたりがずきりと痛んだ。灰司は顔をしかめながら服をめくると、その下には何重にも巻かれた包帯が存在していた。先日、池袋でバルジに逃げられる直前に、奴の配下となった堕天使(レイナーレ)につけられた傷だ。

 

「……クソが」

 

 傷を見ていると、思い浮かべたくもない怨敵の顔が浮かんできてしまい、灰司は朝から機嫌を悪くした。復讐を誓ってから、灰司の機嫌の悪くない日など皆無に近いのだが、今日は一段と悪いような気がした。

 が、ここでさらに灰司の起源を悪くする出来事が起きる。

 バルジの顔を少しの間でも忘れようと筋トレを始めようとした灰司だったが、その時、インターホンが鳴り響いた。しかも連打してやがる。

 灰司はハンガーに掛けていたAMOREの制服を羽織ると、舌打ちをしながら玄関に向かう。

 基本的に灰司はAMORE内外問わずぼっちであり、彼のところを訪ねる物好きなど、馬鹿みたいに灰司を慕って来る倫吾ぐらいしかいないだろう。なので、この時点で灰司は来客は十中八九倫吾だと踏んでいた。仮にそうでなくとも、朝から他人の家のインターホン連打する常識知らずには一言文句を言わねば気が済まない。

 繰り返されるインターホンの音にイライラしていた灰司は、文句を言いながら勢いよくドアを開け放った。

 

「おい倫吾!お前朝っぱらからなに迷惑行為してんだ!ちったあこっちの事情を考え……ろ?」

 

 文句を言いながら、灰司は気づいた。

 倫吾の手前にいる、もう一人の訪問者の存在に。

 藍色の髪を小学生くらいの女の子が、今にも泣きだしそうな、しかしどこか覚悟を決めたような顔で灰司のことを見上げていたのだ。

 灰司は少女を見つめる。彼女は一体何なのだ?倫吾のやつはどうしてこんな子供を自分のところに連れてきたのだ?返答次第では拳骨が必要になってくるかもしれない。

 灰司からの無言の圧力を受け取った倫吾はぶるりとその身を震わせる。なんというか、灰司の不機嫌メーターがみるみるうちに上昇していくのが目に浮かんできたので、倫吾は爆発する前になんとか事情を説明しようと試みる。

 が、それよりも早く、少女が灰司の手を取った。

 そして、頼み込んできた。

 

「お願いします!お姉ちゃんを助けてください!」

「――何?」

 

 

 


 

 

 行江飛鳥(ゆくえあすか)。それが彼女の名前だった。

 灰司が文字通り朝飯前だったので、3人は朝食がてら近くのファミレスに立ちより、そこで詳しい話をすることにした。

 テーブル席に案内された3人は適当に注文をし、

 

「この子は先日AMORE(うち)が保護した被災者っす」

「被災者だと?」

「はい」

 

 数多に存在する世界。しかしそれらは、常に崩壊の危機と隣り合わせの存在なのだ。時たま、ひとつ、あるいは複数の世界が滅茶苦茶になってしまうような大事件が起きてしまう。それは転生者が原因だったり、もともとそうなる下地が世界にあったりと、原因は多岐にわたるのだが、AMOREではそういった次元災害の被災者の保護や復興支援も行っている。

 だから、AMORE隊員である灰司からすれば、飛鳥の境遇は、日本人が街中で外国人を見かけた時に「ちょっと珍しいな」と思う程度のものだった。

 しかし。

 倫吾の次の発言で、その考えは崩れ去った。

 

「この子の世界は、既に滅ぼされているっす。バルジに」

「…………!」

 

 その名前を聞いて、灰司は思わずその身から殺気を漏らした。

 まただ。

 奴はどれだけの悲劇を振り撒けば気が済むのだろうか。

 いや、本人は無自覚なのだ。初めから善悪の物差しが欠如しているバルジは、自身の悪辣さに死ぬまで気付けない。

 

「わたしの居た世界は……お姉ちゃんとわたしを残してみんなアイツが壊していきました」

 

 曰く、彼女の居た世界はバルジの“実験”で滅亡した。奴が暴れだしたのをすぐに感知し、AMOREの部隊の応戦もむなしく全滅したとのこと。結果として、飛鳥と、彼女の姉である|薫(かおる)だけが生き残った。

 その後は姉妹揃ってAMOREで保護されていたのだが、数日前に薫が突如として保護施設から失踪。解析したところ、バルジが施設の職員を洗脳して彼女を連れ去る姿が監視カメラに記録されていた。洗脳された職員は、現在洗脳の解除方法を探るべく檻付きの病院に収監され、薫の行方を追跡しているとのことらしい。

 ここのところ、灰司はこの世界での仕事に追われていたため、こうして倫吾から伝えられるまで詳しい内容を知らなかったのだ。

 

「それで……飛鳥ちゃんはお姉さんを探しに行くって聞かなくて……俺の次元転移に引っ付いて無断でこっちに来ちゃったんすよ」

「……これだから子供は嫌いなんだ」

「俺達も世間一般では十分子供っすけどね」

 

 何の目的で薫を拉致したのかは考えたくもないが、悪趣味の擬人化とも揶揄されるバルジのことだ。どうせ人体実験でもするのだろう。アイツは他人の尊厳を踏みにじるのが生きがいのような奴なのだ。

 そして、薫はきっとまだバルジの近くにいる。レイラのケースからして、奴は自分の玩具は自分の手元に置いておこうとするはずだ。

 現在ギフトメイカーは、この世界を活動の中心に据えている。自分たちの邪魔をする仮面ライダーの排除に躍起になり始めた今、彼らがそれを放棄して別世界に逃げるということは考えづらい。

 彼らのような悪徳転生者は、一般的にプライドが重力圏を突破しており、自分以外のすべてを見下している。彼らは自分の思い通りにならないものは何が何でも排除するし、そのための力を持っている。そういう人種なのだ。

 だから、十中八九ギフトメイカーは、そしてバルジはこの世界にいる。

 コップを握る灰司の手が、怒りと憎しみで震えていた。しかしその時、ふとある疑問が浮かび上がり、その怒りを鎮める。

 

「……何故俺のところに来た?」

「…………」

 

 そう訊かれた倫吾は、都合悪そうに目を逸らす。てか、下手な口笛吹始めているし、汗をだらだらと流してやがる。

 この時点で灰司は確信した。倫吾(こいつ)の入れ知恵だと。

 倫吾の口の軽さは筋金入りだ。彼ならば、何を漏らしてもおかしくはない。

 ぶすぶすと、傍にあったフォークで軽く倫吾の手を刺しながら、一体どういうことだと問い詰める灰司。一応倫吾はまだ怪我が完治していないのだが、そんなことはどうでもいい。痛みと恐怖に震えながら、倫吾は必死に言い訳をする。

 

「お、俺さあ……ちょくちょく飛鳥ちゃんと薫ちゃんに会いに行ってたんすよ。それで、先輩のこともちょろっと話してて……」

「お前の口の軽さは矯正が必要なようだな。縫うかはんだ付けされるか、どっちか選べよ?」

「いやホント反省してます!してますからあ!はんだ付けとか洒落になんないっすよ⁉ 」

 

 倫吾の言い訳を聞いて、灰司は呆れるほかなかった。

 仮にも警察組織(のようなもの)の一員だというのに、倫吾はすぐベラベラと喋ってしまう。コイツの辞書には守秘義務という単語が多分載っていないのだろう。先輩として一度くらいバチボコに説教せねばなるまい。

 そう息巻いていた灰司だったが、それを遮るように、飛鳥が灰司の手をとって頼み込んできた。

 

「灰司さん、とても強いんですよね?それに、アイツのことも知っている……それなら、わたしたちの気持ちもわかると思います」

「…………」

「お姉ちゃんを取り返してください! わたしにとっての、残された唯一の家族なんです! 」

 

 涙を流しながら懇願する飛鳥。

 しかし灰司は、

 

「どうでもいい」

「え?」

「俺は俺の為だけにヤツを殺す。お前の事情なんか知ったことか」

 

 少女の願いを、冷たく突き放した。

 願いを突き返された飛鳥は、涙を流しながら呆然としている。見かねた倫吾が文句を言おうとするが、それを遮る様に、灰司はテーブルを強く叩く。

 そのあまりにも大きな音に、店内が静まり返る。

 

「これは俺とバルジの問題だ。余計なもん持ち込もうとするんじゃねえよ」

「先輩?どこ行くんすか⁉︎ 」

「仕事だ。倫吾、そいつの御守はお前がやれよ」

「ちょ、先輩⁉ 」

 

 倫吾が何か言おうとしていたが、そんなことに付き合っている暇はなかった。

 灰司は自分の食べた分の代金を倫吾に押し付けると、さっさと店を出て行ってしまった。

 頼みを突っぱねらた飛鳥はというと、

 

「っ! 」

「まっ、飛鳥ちゃんまで……つ⁉︎ 」

 

 倫吾の制止も聞かずに、泣きながらファミレスを飛び出していってしまった。

 

「どうすりゃ良いんだよ……」

 

 それを見て、慌てて立ち上がる倫吾。

 狼狽えている場合ではない。見失ってしまう前に、一刻も早く飛鳥を追いかけなければならない。

 倫吾は急いで支払いを済ませると、病み上がりの身体に鞭打ちながら、飛鳥を追いかけて走り出した。

 

 


 

 同時刻 逢瀬家

 

「よう、遊びに来たぜ」

「フシャアアアアアアアッ!」

「ぎょええええええええっ⁉ 」

 

 逢瀬家に遊びに来たレイは、玄関扉を開けた瞬間、猫に思いっきり顔面を引っ掻かれた。 

 

「こらっ!なにやってるのさ⁉ それは爪とぎ用に板じゃないんだって!」

「ネプテューヌが寝坊して朝ごはん用意しなかったから気が立ってるんだよ……ごめんね」

 

 騒ぎを聞きつけてパジャマ姿のまま階段を駆け下りてきたネプテューヌが、興奮気味に何度もレイを引っ掻く猫を慌てて引き剝がす。猫はレイから引き剥がされて瞬の腕の中に納まってもなお爪を立てている。率直に言って殺意高すぎる。

 猫に引っ掻かれてぶっ倒れたレイを介抱しながら、イスタが挨拶代わりに説明を加える。

 

「レイは昔から動物に嫌われやすい体質なんです。犬に噛まれた回数は数知れず、酷い時は動物園を脱走したパンダにゲロかけられたこともあったんですよね」

「解説は良いから治療プリーズイスタぁ……大丈夫?俺顔面崩壊してない……?」

「大丈夫です、いつも通りの下品な顔つきです」

 

 一応生みの親の1人なのだが、イスタは割とレイに対しては容赦ない物言いをするようだ。が、ちゃっかりレイに絆創膏を手渡しているあたり、ひょっとするとただのツンデレなのかもしれない。

 猫を宥めながら2人のやりとりを眺めていた瞬だったが、そこに、レイ達の訪問を聞きつけたのか、なぜか既に遊びに来ていてお花を積んでいた唯が廊下の奥の方からひょっこりと顔を出す。

 

「あ、イスタちゃんおはよ~!」

「おはようございます唯さん。朝早くにお邪魔して申し訳ございません」

「いいってことよ!」

「いやお前もお客様だし!家主こっちィ!」

 

 家主そっちのけで会話を始めた2人にツッコミを入れる瞬。

 ところで、彼らは一体何しに来たのだろうか?

 

「で、何の用だ?」

「単刀直入に言わせてもらう。クロスドライバーを調べさせてほしい」

 

 瞬が用件について尋ねるなり、レイは頭を下げてそう頼み込んできた。

 ほんとにいきなりぶっ込んできた事にもびっくりしたが、その内容についてもびっくりした。クロスドライバーを調べたいとは、一体全体どうしてなのだろうか?

 

「そりゃまあ……なんで?」

「興味が湧いたからだよ。間近であの力を見てしまったからな……科学者としては興味をそそられる一品だよこいつは。それに、何もわからないでいるよりは、少しでもコイツについて知っておいた方が、お前にとってもいいんじゃないのか?どうせクロスドライバー(それ)について碌に知らないんだろ?」

「それはそうだけど……」

「私は気になるなぁ。ぜひ調べてもらおうよ、面白そうじゃん!」

「頼むよ〜金払うからさぁ!一回きり見せてくれれば僕はそれで満足するんだ。お願いだから、ネネ、いいだろう?」

「わかったよ……壊すなよ?」

 

 瞬としても、未だクロスドライバーは未知の物体だ。来歴・仕組み・その他もろもろエトセトラ……気にならないと言ったら嘘になる。これもフィフティが変に勿体ぶって碌に説明しないからだ。ほんと役に立たねえなあの不審者。

 このような心情もあってかレイの懇願に押し負けた瞬は、仕方なしにレイにクロスドライバーを手渡す。

 その直後だった。

 

「それは出来ない相談だ」

「その声は……フィフティ!」

 

 振り返ると、リビングの入り口付近にいつの間にかフィフティが立っていた。何時何処からどうやって入ってきたのか知らないが、もう逢瀬家のセキュリティもクソもへったくれもあったもんじゃない。どいつもコイツも他人の家にずがずがと上がり込みすぎだろう。

 フィフティは瞬とレイの間に割って入ると、レイからクロスドライバーを強引にひったくる。レイは当然ながらそれを取り返そうとするが、フィフティは伸ばされたその手を力強く叩き落とす。

 

「転生者であるという時点で私は君を信用していない。そんな君にクロスドライバーを触らせたら何をされるか分かったもんじゃない」

「誰だか知らないけど初対面の人間にそんな事言うんじゃないっての。何?俺そこまで信用ない?」

 

 叩かれた手を摩りながらキレ気味にそう言うレイ。両者の間にバチバチと火花が飛び交い始める。

 これはマズイと思った唯が、喧嘩を回避しようと2人を仲裁しにかかる。

 

「じゃあフィフティが見張ればいいじゃん。どうせ暇なんでしょ? 」

「よし決定! 」

「兎に角転生者である君は信用できない! ほらその汚らわしい手を離せ! クロスドライバーを逢瀬くんに返すんだこの薄汚い青髪め!」

「転生者だからなんだ⁉ 差別か⁉︎ 転生者差別かお前! フィフティっパリらしいな! 」

 

 が、唯の仲裁もあっけなく無駄となり、2人はたちまち掴み合いの喧嘩を始めた。あわあわとしているネプテューヌや、ヒビキに醜い争いを見せまいと彼女の目をふさぐ湖森に、場の雰囲気を察して瞬の腕の中で毛を逆立てる猫だったりと、もう部屋中混沌まみれだった。

 大の大人が2人そろって醜い喧嘩を始めやがったのだが、朝早くから他人の家に押しかけてまで何やってるんだこいつらは、と呆れずにはいられない。

 いっそのこと纏めてたたき出して、ここの家主が誰なのかを思い知らせねばなるまい。ここは暇な老人の屯する病院の待合室ではないのだ。そう決意した瞬は、箒と塵取りを手に持って2人の喧嘩を両成敗し(とめ)に入ろうとする。

 その時だった。

 すぽーん!と軽快な音を立てて、レイの手からクロスドライバーがすっぽ抜け、あらぬ方向へと飛んでゆく。一体どうしたらそうなるのか、物理法則もへったくれもないほどに凄まじい速度で飛んでいったクロスドライバーは、ピッカピカに磨かれたリビングの窓へと一直線に突っ込んでゆく。

 この場にいた全員がやばいと思った時には、既にもう手遅れだった。

 クロスドライバーが窓ガラスと接触した瞬間、ガシャンッ‼ と激しい音を立てて逢瀬家のリビングの窓がぶち破られる。皆が唖然とする前で、今朝湖森が綺麗に掃除したばかりの窓ガラスが、無数の破片となってその形を失ってゆく。

 そして、その原因たるクロスドライバーは、飛び散るガラスの雨の中を無傷で突破したうえで、庭先へと落下していった。

 

「…………」

「…………」

 

 5月とは思えない程に、一気に冷え込む室内。

 レイとフィフティに向けられる多数の冷たい視線。

 そして、幾許かの沈黙の後。

 

「す、すごい……傷ひとつついてないとは……流石クロスドライバー! どんな素材で作られているのかきになるなあ!あははははははははっ! 」

「だ、だろう? 激しい戦いに耐えうるよう、特別な素材で作っているからね! まあ君には理解できないだろうけどねえあははははははははっ! 」

「ライダーパンチッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」

 

 メキャメキャボグンッ!!!!  と。

 笑って誤魔化そうとする馬鹿2人の顔面に、これまでの戦いによって鍛え上げられた瞬の鉄拳が勢いよくめり込んだ。

 

 

 


 

 

 それから少し経って。

 馬鹿2人を力づくで黙らせた瞬は、割れた窓ガラスをの処理をフィフティとレイに押し付け、庭先に飛んでいったクロスドライバーを探すことにした。

 

「どこに行ったんだ……? あれだけ大事にしとけって普段から言ってた本人が一番雑なんだよなぁ」

 

 そんなに広くない庭なのだが、碌に手入れをしてないがために草木が生い茂っていて、コンクリート塀がほとんど見えない有様だ。

 そんな荒れ放題の庭を見て一瞬気遅れする瞬だが、意を決して、ガサガサと草木を掻き分けながら進むことにした。

 そして、隣家との境界線であるコンクリート塀にたどり着いた。

 

「あったあった、こんなところに……うわあ泥まみれだ」

 

 そこで、生い茂った雑草の隙間から鈍い光沢を放っている、クロスドライバーを見つけた。

 クロスドライバーは雨上がりのぬかるんだ地面にどっぷりと浸かってしまっており、泥だらけになっていた。正直言って触りたくは無いが、回収するしか無い。

 瞬は意を決してクロスドライバーを拾い上げる。

 そして、顔を上げた時。

 

「………………あ、こんにちは」

 

 コンクリート塀の上に腰掛ける女の子と、目が合った。

 

「…………どちらさん? 」

 

 ……誰だ?

 知らないうちに人の家の庭に上がり込んで、そのくせきっちりと挨拶はする。親の教育がなってるのかなってないのか、一体どちらなのだろうか?

 だが悲しいかな、この1ヶ月半の間に色々とありすぎたせいで、瞬の感覚は麻痺してしまっていた。なので、いきなり自宅の敷地内に現れた少女に臆することなく、声をかけていった。

 

「……どうした?」

「あの……お兄さん、仮面ライダーアクロスなんですよね?」

「⁉︎ 」

 

 が、少女の口から出たのは、予想外の単語だった。

 何故彼女がアクロスの事を知っている? 新手の転生者とかだったりするのだろうか?

 瞬の麻痺しかけていた警戒心が、一瞬で再生される?

 

「い、いやー、なんのことか分かんないなぁ」

 

 瞬はしらを切るが、先程の反応が既に答えになってしまっているため、無意味である。

 少女もそれをわかっているのか、じーっと、燻んだ目をこちらに向けてきている。

 膠着状態に入る両者。

 そこに、

 

「みーつーけーたああああっす! 」

「げっ……」

 

 突然、少女の背後から、青いバンダナを巻いた包帯まみれの青年が現れた。

 少女はその声を聞くなり、明らかに「やべっ⁉︎ 」とでもいうかのような顔をし、即座にコンクリート塀から飛び降りる。

 

「勝手にうろちょろしたら駄目っすよぉっ! 危ないし、俺に雷飛ぶからっ! 」

「そっちの事情なんか知った事ないし。役立たず集団のAMOREなんかより、仮面ライダーの方がずーっと頼りになるんだからっ! 」

「ちょ、ちょっと待て⁉︎ AMOREって……一体どういう事なんだよ⁉︎ わけわかんねーんだけど⁉︎ 」

 

 少女は瞬の背後に隠れる様に回り込みながら、バンダナの青年に対して叫ぶ。

 瞬はもう何がなんだかよくわからなかった。いきなり人の家の敷地に上がり込んで喧嘩とかやめてほしい。迷惑極まりないので、今すぐにでも追い払ってやりたい。

 瞬はとりあえず、背後にいる少女を守りながら、茂みから出ていく。

 

(でも……このバンダナ野朗、どっかで見た様な……)

 

 目の前のバンダナの青年に相対した瞬だが、青年に何処か見覚えがある様な気がしてならなかった。だが、どうしても思い出せない。一体どこで彼を見たのだろうか?

 足に少女を守りながら、青年のことをなんとか思い出そうとする瞬。

 その時だった。

 

「トゥーッ! ヘァーッ! 」

「ザラァッ⁉︎ 」

 

 バコーンッ‼︎‼︎‼︎‼︎ と。

 瞬の背後から唯が飛び出し、青年を思いっきり蹴り飛ばした。

 鼻頭を蹴られた青年は、よくわからない悲鳴を上げながら後方にぶっ倒れ、背後のコンクリート塀に頭を強打する。めちゃくちゃ痛そうな音があたりに響き渡り、瞬は思わず目を逸らしてしまう。

 そして、瞬が再び視線を正面に向けた時、そこにあったのは、呻き声を上げる青年と、してやったりと言わんばかりにドヤ顔をキメる唯の姿だった。

 

「ちょっ……いきなり実力行使してんじゃあねえよっ⁉︎ 」

「いやだってどうみても危険な匂いがプンプンしてたし」

「理由になってないから! てかどう見ても怪我人だってのによく躊躇いなく蹴り飛ばせるな⁉︎ ほらお前、大丈夫か⁉︎ 」

 

 いくら敷地に勝手に上がり込んできたといえども、包帯まみれの奴を心配しないわけにもいかない。瞬は茂みの中に沈んでいるバンダナの青年を引っ張り上げ、軒下までひきずってゆく。

 

「て、キミどこかで見た事あるよーな……あ! 」

「やっと思い出してくれた……おうぶっ! 池袋以来になるっすかね……」

 

 唯は蹴り飛ばした後になって、青年の素性を思い出したらしい。

 ここで瞬も思い出した。

 この青年は確か、プラネットプラザで仲間だったAMORE隊員に裏切られ、リンチにあって死にかけていたAMORE隊員だ。彼は瞬達に助けられた後、志村達が外に連れ出して救急車で運ばれていったはずだ。

 名前は確か——

 

「御手洗倫吾です……ちょっとお話よろしいっすかね……」

 

 青年——御手洗倫吾はそう言うと、白目をむいて気絶した。

 直後、逢瀬家にいた面々は大いに混乱した。

 

 


 

 

「先日は本当に申し訳ありませんでした! 」

「こちらこそいきなり蹴飛ばしてごめんなさい……」

 

 30分くらい経った後、意識を取り戻した倫吾は、目を覚ますなり瞬達に土下座をした。

 ちなみに病み上がりの倫吾を蹴り飛ばした唯はというと、瞬から拳骨をもらった上で正座させられていた。そんな彼女をイスタは、「早とちりするからこうなるんだよ……」と言う様な目で見ている。

 

「えっと……いきなり謝罪されても困るんだけど」

「いやいきなり謝罪から入らずしてどうするっていうんすか! 洗脳されていたとはいえ、俺の仲間達が皆さんに危害を加えたって事実は変わりませんし……なんなら首と乳首を切り落として並べても足りないくらいなんすよ! 」

「いやそこまでしなくていいからな⁉︎ 」

 

 ガチ土下座をしたまま更なる詫びを入れようとする倫吾を、瞬は慌てて止める。別に倫吾を罰したいわけではないし、そうしたところで意味がないのもわかっている。

 一方レイは、イスタを庇う様に立ちながら倫吾を睨みつけている。彼からすれば、AMOREは自分からいろんなものを奪ったも同然の存在なのだ。敵意を抑えろという方が無理な話だ。

 そして、倫吾が追いかけてきていた少女——行江飛鳥は、先程から倫吾に警戒心を剥き出しにしており、ずっと唯の背後に隠れている。こちらはどうしたものだろうか。

 ともかく、逢瀬家の人口密度がまた一段階増してしまった。人集まりすぎにも程がある。

 

「本日伺ったのは、これをお渡しする為です」

 

 そう言うと倫吾は、1枚の封筒を手渡してきた。

 開けてみると、中には一枚のディスクケースが収められている。

 ケースからディスクを取り出し、リビングに置いているブルーレイデッキに装填する。

 すると、テレビの画面に、痩せた壮年の男性の顔が映し出された。

 

『逢瀬瞬、でいいんだな?これを見ているのは』

「うおっ⁉︎ 」

『私は四切宮嗣郎。AMOREの創設者にしてリーダーを務めている』

「!」

「こいつが、AMOREの……」

 

 瞬はテレビの画面を見つめたまま、ごくりと唾を呑む。

 四切宮嗣郎。これまで断片的にしか実情を知らなかった組織・AMOREのトップ。

 レイは画面に映ったその姿を見るなり、握り拳を震わせる。今にも画面を殴りつけにいきそうなほどに、だ。

 緊張感に包まれる中、ビデオレターの再生は続く。

 

『先日の件について、此方から詫びねばなるまい。私の部下が非道な真似をしてしまい、本当に申し訳ない』

 

 画面の中の四切宮は、そう言って深々と頭を下げた。

 そして彼は頭を上げると、再び淡々と話し始める。

 

『池袋事件の首謀者連中は既に処分を下した。洗脳されていた隊員達も、洗脳が完全に解けるまで入院という措置をとらせていただいた。誠意の代わりにはならないかもしれないが、本件についての慰謝料を口座に振り込んでおこう。無論、相藤レイにもだ』

「そんなもんが謝罪に……なると思っているのかよ」

『組織の方針としては、基本的に転生者絡みの案件を除いてその世界には深入りしないというというのが。私個人としては、君達を敵とは思ってはいない。寧ろ、同じ敵と戦う戦友でありたいと思っている。では、諸君らの健闘を祈る』

 

 そう言って、ディスクの再生は終わった。

 しばらくの間沈黙が流れた後、唯が口を開く。

 

「なんか、思ったよりマトモそうな人だったね」

「……いくら金を積まれようが謝られようが知った事か。俺がお前らを信じることは永遠にない。何度生まれ変わっても、お前らの過ちを忘れはしないからな」

「レイ……」

 

 レイは、倫吾に冷たくそう言い放つ。

 倫吾に当たり散らしても意味がないことはわかっているものの、どうしてもAMORE全体を憎まずにはいられない。しかし、イスタの前で暴力的な手段に出るわけにもいかず、レイは必死に堪えるしかなかった。

 四切宮からのビデオレターが終わり、重苦しい雰囲気に包まれるリビング。

 そこに、ネプテューヌが飛鳥を指差しながら、素朴な疑問を投げかける。

 

「でさ、この子は誰?」

「ウチで保護してる子っす。色々あって付いてきちゃいまして……まあ用事はもう済んだので大丈夫っすよ。ほら飛鳥ちゃん帰るっすよ!」

「帰らない」

「え」

 

 きっぱりと、飛鳥はそう言った。

 そして、自身の腕を掴んでいた倫吾の手を振り払うと、瞬の服の裾をぎゅっと強く握りしめ、目に涙を浮かべながら叫んだ。

 

「わたしは帰らないっ! おねーちゃんを見つけるまで帰らないっ! 」

「いやでもっ……ギフトメイカー絡みってなるとお姉さんだけでなくキミにも危険が及ぶかもだし! てかそんなことしたら俺が上に保護責任問われて叱られるしっ! 」

 

 必死になって飛鳥を説得しようと試みる倫吾。

 だがその時、彼の発したとあるワードに、瞬が反応した。

 

「ギフトメイカー絡み、と言ったな」

「あ、やべ」

「……色々と話してもらうぞ」

 

 瞬に肩を掴まれた倫吾は、ダラダラと冷や汗を流す。彼の口の軽さが、要らぬトラブルを引き寄せた瞬間である。

 彼に拒否権なんかなかった。

 


 

 暁家

 

 暁古城の朝は遅い。

 第四真祖、要するに吸血鬼である彼にとって、日光とは毒だ。流石に身体が焦げるとかいうレベルでは無いが、日光に当たると古城は頭がうまく回らなくなる。まあそのせいで補習常習犯なのだが。

 が、そんなことはつゆ知らずな世話焼きな妹・凪沙に叩き起こされたので二度寝するわけにもいかず、現在こうして大欠伸を連発しながら遅めの朝食を取っていた。

 

「せっかくの休みなんだから、ゆっくり寝かせてくれよ……」

「だーめっ! せっかくの休みだからこそ早く起きるんだよー。朝日を浴びれば古城くんもきっと目が覚める! てゆーか古城くんは雪菜ちゃん待たせてるんだからね? その辺りの自覚は欲しいかなぁ」

「もう目覚めてるよ……ったく、なんでどいつもこいつも朝から元気爆発してるんだか、わけわかんねーんだからもう……」

「別に私は待っているわけでは……というか朝早くから先輩の家にお邪魔してしまって申し訳ないというかですね……」

 

 凪沙の言うとおり、暁家には既に雪菜が来ている。流石にこのまま待たせっぱなしというのもアレなので、古城は急ぎ目になってトーストを飲み込む。

 その時だった。

 古城が朝食を摂り終えると同時に、インターホンが鳴った。

 

「誰だろう……? 」

「俺が出るからいいよ」

 

 古城は、口周りに付いたパン屑を水で流してから、玄関の扉を開ける。

 そこには、改まった様な顔をした男女3人が立っていた。

 古城がちょっとびっくりして固まっていると、先に彼らが口を開いた。

 

「なあ、あんた第四真祖なんだろ?」

「なんでそれを……」

「先輩、彼らは人間ではありません」

「え⁉︎ 」

 

 いきなりこちらの素性を口に出されて古城が戸惑っていると、古城の背後からぬっと顔を出しながら、雪菜がそう言った。

 訪問の唐突っぷりからして明らかにただものではないと思ってはいたが、相手が人外——魔族とあれば話はさらに変わってくる。

 古城も雪菜も、凪沙に対しては第四真祖のあれこれは伏せてあるし、それに凪沙は過去のとある事故が原因で魔族にトラウマを抱いている。どちらにせよここで話をするのは不都合でしかない。

 というわけで、古城と雪菜は凪沙に留守番を任せ、他所で話の続きを聞こうという事にした。

 

「ちょっと出掛けなきゃいけなくなった。留守番頼む凪沙! 」

「こ、古城くん⁉︎ 」

 

 凪沙が何か言おうとしていたが、古城は慌てて訪問者達をマンションから引き離し始めていた。

 ……どうやらのんびりとした休日はお預けのようだ。

 主人公(ヒーロー)に、休みは無い。

 




ED それがあなたの幸せとしても/巡音ルカfeat.Heavenz

バルジ出番ないやん!サブタイトル仕事しろや!
そして相変わらず原作キャラの出番が無さすぎる。
久々に堕天使組やストブラ勢が登場します。



次回 爆炎の傀儡武神
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