【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
こういう回の方が面倒くさいんだよねえ
■前回のあらすじ
飛鳥をオリジオンにされ、怒りのままにバルジに挑むアクロス。
しかしバルジの力は圧倒的であり、彼の新たな力の前に、なすすべなく惨敗してしまうのだった……
………………忘れてはいけない。
天災を追う者は、まだいることを。
バルジとアクロスが交戦する少し前までさかのぼる。
「手がかり、ないっすねえ……」
「無いわねえ……」
「ああ………………」
堕天使三人組は、ベンチにもたれかかれながら力なくそう口にした。
その隣のベンチでは、彼らに付き合わされた暁古城と姫柊雪菜が、同じようにぐったりとしている。
5月上旬といえど、気温だけは真夏日。地球温暖化を本気で恨みたくなるような猛暑だった。
「あの腐れマッドサイエンティストぉ……どこにいるのよぉ……」
「マッドサイエンティスト呼ばわりはやめた方がいい、アザゼル総督に飛び火する」
「いや総督がマッドなのは事実っすよね」
カラワーナ、ドーナシーク、ミットルテの三人は、うだうだと言いながらベンチに身を預ける。日本の初夏の猛暑とレイナーレの見つからないことによる焦燥感が、彼らの心身を猛スピードで消耗させてゆく。
その横では、古城と雪菜がギフトメイカーについて話し合っていた。
「一応、先月遭遇した際に獅子王機関に調査を依頼したのですが、今のところ有力な情報は見つかっていません」
「政府の組織でも情報がさっぱり見つからないって……一体奴は何者なんだ……? 」
先月バルジと遭遇し、オリジオンと交戦した二人。
あの戦闘の後、雪菜の所属する特務機関・獅子王機関側でもギフトメイカーの存在について調査を始めたのだが、有力な情報はつかめていない。あれだけ派手に暴れていながら、国家機関にほとんど認知されていなかったのが不思議なくらいだ。
まさしく五里霧中とでも言うべきか。
そんな感じで疲弊しきっていた古城一行。
そこに、救いの手が差し伸べられる。
「おーやぁ~? そこの方々、何かお困りのようですねえ? 」
「んあ? 」
若干メスガキじみた声が真上から浴びせられ、古城は閉じかけていた瞼を開く。
古城の視界に入ってきたのは、此方の顔を覗き込んでいる、額にゴーグルをつけた黄緑色の髪の少女だった。年齢的には古城とそう変わらないように見える。そして、その手にはチラシのようなものが確認される。
「………………受け取れと? 」
「逆にこの状況で拒否とか人の心とかないんか? 」
「………………はあ、わかったよ。受とりゃあいいんだろ」
半ば強引に、少女に手渡されたチラシを目にする古城。
チラシには、“裁場武装探偵事務所―――迷い猫探しからテロリストの殲滅までなんでもおまかせ!”と書かれている。どうやら武偵事務所の宣伝に来たようだ。
「探偵事務所……? あのねえ、そんなもので解決出来たら苦労しないっての! 人間風情がウチらのてだすけなんかできるわけないっしょーが! 」
「馬鹿っ……! ミットルテ、何ナチュラルに正体ばらそうとしてんのよ⁉ 」
少女をうざったらしく思ったミットルテは、暑さと焦燥感で参っているのもあってか、ついうっかり自らの素性を透かすような発言をしてしまい、カラワーナに止められる。
しかし少女は、うんうんと頷きながらぽん古城の肩に手を置く。後方彼氏面とはこのことを言うのだろうか。
「わかってますよ分かってます。あなた方が人間でないことぐらい、このGUMIちゃんにはオミトオシなんですよねぇ」
「!! 」
その言葉を耳にした、雪菜以外の全員の動きが止まる。
「お前……何者だ? 」
「わたしは一介のJKシンガーだよ。ちょっと裏事情を聞きかじっている程度の、ですけども」
古城に問いかけられた少女は、チラシを見せびらかしながらニヤリと笑う。
この時点で、半ば結論は出ていた。
彼女は一般人ではない。人間であるか否かに関わらず、彼女には何かがある。
「………………案内してくれ、その探偵事務所とやらに」
「え、先輩正気ですか⁉ 」
「蜘蛛の糸だろうと藁だろうと、今はすがるしかねえだろ」
「お、決断速いね。なら早速案内しちゃうよ~、私に付いて来いっ! 」
古城の返答を聞いた少女は、目を輝かせながら一行を案内する。
一抹の不安を抱えながらも、古城達は少女についていくことにした。
天統市某所
「ほらこっちですよこっち! 」
少女―――GUMIに案内されるがままに、古城達はじめじめとした雑居ビル内の階段を上る。
さっき通過した入り口には苔が生えてたし、隣の壁にはナメクジが這っているしで、こんな場所に本当に探偵事務所なんかあるのだろうか。仮にあっても怪しさ全開だろう。
暁古城は現実の探偵というモノをよく知らない。少なくとも、ドラマや漫画のようにポンポンと難事件に巻き込まれるような死神めいたものではないことだけは確かだ。というかそんな奴がいたら真っ先に逃げるだろう。
そんな感じに、早くも少女についていったことを後悔し始めていた古城。多分、雪菜や堕天使3人組も同じ気持ちなはずだ。
3階分ほど階段を上がった先に、ひとつの扉が見えてきた。
どうやら、この先がGUMIのいう探偵事務所らしい。
「おーい裁場ぁ~っ! 超無愛想なお前さんに代わって、激カワシンガー系JKのGUMI様がお客さん連れてきてやったぞ~っ!」
GUMIは威勢のいい声をあげながら、古びた扉を思いっきり開け放つ。
ソファーとテーブル、デスクに冷蔵庫と、必要最低限の家具しか置かれていない事務所の一室が、底には広がっていた。
そして、窓際のデスクには、一人の男が座っていた。
古城より一回りは年上のように見える、険しい目をした眼鏡の男だ。
「なんだ、今こっちは食事中なんだ」
――そう言った男は、ウスターソースの容器を口に加えていた。
それを目にした古城達は戦慄した。
「「「「「そ、ソース直で吸ってやがる……っ! 」」」」」
険しい目をした大人がソース直飲みしているという衝撃的な光景に、古城も雪菜も固まっている。これどう反応したらいいんだよ。マヨラーの亜種かなんかか?
まるで未知の生命体を目にしたときの様な目線が、目の前にいる眼鏡の男に向けられる。
「裁場……またウスターソース直飲みしてる……健康に悪いからやめなよ。それよりもほら、このGUMIちゃんお手製のライス定食でも如何かな? 」
「いやそっちもそっちでだいぶアレだと思うけど⁉ 」
そう言いながらGUMIが冷蔵庫から取り出したのは、山もりの白米、白米、白米………………なんだこれ地獄かね?
常人の理解を遥かに逸脱した食事の光景に、古城も雪菜もすっかり固まってしまっていた。もう理解したくもない。
ライス料理の数々を差し出された男はというと、空になったウスターソースの容器を握りつぶしながら、さも自分が常識的であるかのようにGUMIの料理を否定し始めた。
「そんな栄養バランス終わっている食事を頼んだつもりもないし、そもそもお前みたいなバイトを雇ったつもりもないんだが? 」
「いやウスターソース啜ってる奴が言う台詞じゃねえし! てかこいつバイトでもなんでもなかったの⁉ じゃあなんで客引きなんかやってんのこの人⁉ 」
「善意から………………に決まってるじゃん」
「何ですかその間。すっげえ訳ありそうにしか聞こえないんですけど」
もうツッコミどころしかなかった。
不信感マックスになった古城達は、回れ右して帰ろうとする。こんな場所にいたら時間を無駄にするどころか気が狂いそうだ。
が、それを眼鏡の男――裁場整一が呼び止める。
「まあ折角来たんだ、話を聞こう」
「あ、はい………………」
先程とはうって変わり、真面目なトーンで男はそう言った。先程までウスターソース啜ってた奴と同一人物とは到底思えない変わりようだ。温度差で風邪ひきそうだ。
あまりの馬鹿馬鹿しさに帰ってしまおうかと思っていた古城達だったが、裁場の雰囲気の変わりように気圧され、その場から動けないでいた。まるで蛇に睨まれた蛙にでもなったかのような気分だ。
「なんだこの威圧感……ただの人間と思っていたが、どうやら違うようだ」
「私にはわかる……こいつ、歴戦の戦士だ……それも尋常じゃない修羅場と死線を潜り抜けている、モノホンの猛者だ」
「ま、マジすか学園……もし敵に回したりでもしたら、ウチらじゃ太刀打ちできないかもしれないっすね……」
先程まで「たかが人間の探偵風情」と見下していた堕天使たちも、裁場のオーラを感じ取ってその評価を改める。彼らも素人ではない。相手の力量を推し量る程度のことはできるのだ。
「君達の素性については既に周知している。第四真祖に獅子王機関の剣巫、それに
「………………お前たちは何者なんだ? 政府の特務機関や三大勢力について随分詳しいようだが。本当にただの武偵なのか? 」
「単に仕事柄そういうのに詳しくなってしまっただけの、ただの探偵だよ」
ドーナシークの指摘に、裁場は微笑を浮かべながらそう返答した。
ただ口角をあげただけだというのに、そこには“それ以上の詮索はしないほうがいい”と、言外に告げているかのように思えた。
「俺の素性なんかはどうでもいいさ。さ、ここに来たわけについて話してもらおうか。そうしないと話が始まらないだろう? 」
「えっと………………え、俺が離さなきゃダメ? 」
裁場に事情説明を催促された古城は、助けを求めるかのように雪菜達の方を見る。
が、非情にも雪菜や堕天使3人組は、無言で古城に視線を投げ返してきやがった。つまり、大役を押し付けられたということだ。
なんでこうも貧乏くじばっか引くんだろうか、と自分を軽く呪いながらも、仕方なしに古城は話し始めた。
「実は――」
古城が軽く事情を説明し終わった後、裁場はきっぱりとこう言った。
「端的に言おう。君達はこの件から手を引け」
「⁉ 」
その言葉に、驚きを隠せない古城一行。堕天使たちに至っては、声を荒げて反論する始末だ。
「それってどういうことよ⁉ 」
「そんなことできるわけないっすよ!! 」
突然そう言われれも、古城達はともかく、堕天使達は納得できるわけがない。
彼らは裁場を睨みつけるが、裁場はその視線に臆することなく、話を続ける。
「仲間を助けたいという気持ちは充分に理解できる。だが、相手が悪すぎる」
「相手が悪すぎるって……その、バルジとかいう奴は、そんなにも危険な相手なのですか? 」
「危険どころじゃない、奴は厄災そのものだ。下手に挑んで楽に死ねる可能性はまずないだろう。そもそも、君達が一度彼のモルモットにされながらもこうして五体満足でいること自体が奇跡のようなものだ。それをみすみす手放すような真似は、俺個人としては看過できない」
「ふ……ふざけるな! 俺達ではアイツに勝てないと、お前はそう言いたいのか⁉ 」
「やめてくださいドーナシークさん! 気持ちは分かりますが落ち着いて! 」
実力を侮られたと感じたドーナシークは、思わず立ち上がって裁場に拳を振るおうとするが、見かねた雪菜がすかさずそれを制止する。
「別に君達を馬鹿にしているわけじゃない。アイツには俺でも勝てるかどうかわからない。ギフトメイカーの中でも最低最悪の人格破綻者にして危険人物。それがバルジという存在なんだ」
「そんな……やばい奴なのか……? 」
「ああ。第四真祖である君であろうとも、奴との交戦はしちゃだめだ。奴はお前のような正義感にあふれた人種とは相性最悪、例えるならなパーでチョキに挑むようなものだ」
「………………………………」
古城と雪菜は、裁場の言葉に全く反論することができなかった。
裁場は、小学生に自然災害についてレクチャーするように、懇切丁寧にバルジという存在の危険性について話した。
古城達がバルジと対峙したのはほんの僅かな間だったが、それでもこいつが善人ではないということだけはすぐに分かった。しかし、実態はそれをはるかに上回る化け物だった。
普通ならば、今の裁場の話は一笑されてしかるべきものだろう。だが、場の雰囲気がそれを許さなかった。異様なまでの信憑性というか、そういう類のものが、今の話には存在していた。
沈黙が事務所内を包み込む。
「………………駄目よ」
「どうした? 」
しばらくして、沈黙を破ったのは、カラワーナだった。
彼女は瞳に涙を浮かべながら、その心中をぶちまける。
「例え敵わない相手だとしても、どうしようもない厄災だとしても、それでも諦めるわけにはいかないの……! レイナーレ様は私達の大切なリーダーなの! 苦しんでいるのに見捨てるような真似は絶対にできないの! 」
「そうっすよ……! 確かにウチらは後ろ暗いことはやっていた! でも……小悪党にだって意地とか尊厳があるんすよっ‼ それを踏みにじられていいことにはならない筈っす! 」
「何より俺は、奴のすべてを見下したような眼が気に入らない! 俺達をさんざん弄んだアイツに一矢報いなければ、俺達の汚された尊厳や誇りは戻ってくることはないのだ! 」
カラワーナに続き、ミットルテとドーナシークも胸の内を曝け出す。
誇り、尊厳、絆。それら全てを嘲るように弄んだバルジに、彼らは怒らずにはいられなかった。それは堕天使故のプライドからくるものではない。この世に生きるモノとして当たり前に持っているはずの生命の尊厳が、彼らの義憤を煽り立てているのだ。
彼らの義憤を受け取った古城は、それを噛み締めながら、ゆっくりと口を開いた。
「……俺には、この声を無視することはできない」
「………………………………」
「あんたには敵わないかもしれないけど、俺だって何度か死線は潜り抜けてきたつもりだ。そのどれもが、巨大な悪意に踏みにじられそうなものを守るための戦いだった。だから、こいつらの言ってることはわかる、つもりだ」
「……例え敵わないと知っていても、か? 」
「そんなもんで止まるようなもんじゃねえだろ。あんただって知ってるはずだぞ、そういう人種を」
古城の言葉を受け、黙り込む裁場。
そう。
裁場は古城の言わんとしていることを理解しているし、彼の言う“人種”とやらを、痛いほどに知っている。
かつての裁場がそうであろうとし、貫けなかったその在り方を、目の前の少年は持っている。その輝きを持つものと、裁場はついこの間も出会っている。そして、それを止める手段を自分は持ち合わせていないということも、裁場は理解している。
「……また根負けしてしまったのか、俺は」
またしてもそれを思い知らされてしまった裁場は、無意識のうちに呟いていた。
「? 一体何を――」
雪菜がそう言いかけた時だった。
デスクに置きっぱなしにされていた裁場のスマートフォンから、着信音が鳴りだした。
「あ、裁場。ほら電話っ」
GUMIからスマホを投げ渡された裁場は、通話に出る。
そして、しばらくの間古城達に背を向け、通話をしていた。
「…………そうか、わかった。今そちらに向かう」
数分後、裁場はそう言って通話を終えた。
そして、古城達の方を向き直り、ある提案をしてきた。
「戦う気概があるなら付いて来い。きっとそれが、お前達の望む結末に繋がるはずだ」
「………………ああ、飛び込んでやるよ。地獄だろうが何だろうが、喜んで足を踏み入れてやる! 」
裁場の言葉に、古城達は強くうなずいた。
彼の意図は、すぐに理解できていた。
裁場に続いて、事務所を後にする一行。
――その目は、かつてないほどに決意に満ち溢れていた。
同じ敵を追う英雄たちは惹かれ合う。
それがたとえ、地獄に繋がる道であろうとも。
その頃の逢瀬家。
「………………………………」
和室に広げられた敷布団の上には、満身創痍の灰司が寝かされていた。
バルジに逃げられた後、志村達と別れた瞬達は、満身創痍の灰司をひとまず逢瀬家まで連れ帰り、応急処置をして布団に寝かせた。全身に巻かれた包帯からは今も血が滲んでおり、彼の目は閉じたままだ。辛うじて息はしているようだが、予断を許さない状態だ。
そんな灰司の様子を見ながら、枕元に座っていた倫吾がぽつりと言う。
「無茶だったんすよ……灰司先輩、先日の戦いの傷もまだ癒えてないってのに、バルジに挑むなんて……やっぱり、復讐の為なら死んでもいいと思っているんすかね……」
「………………」
池袋で、灰司が転生者狩りであることを知った直後。
裁場整一は、灰司は復讐を終えたら死ぬつもりだと断言していた。そして、灰司はそれを否定しなかった。
彼には帰るべき場所も、帰りを待つ者もいない。全てを奪ったバルジへの復讐心のみが、心の死んだ灰司を突き動かしている。
故に、灰司は己の身を省みない。傷の癒えない身体を復讐心で無理矢理動かした結果がこれだ。
「………………俺にはわからない」
「お兄ちゃん? 」
「灰司を止めてやるべきなのか、そうでないのか、俺には分からない。灰司が復讐に走る気持ちは理解できるけど、それで死んでもいいってのは納得いかない。でも、どうしたらいいんだ? どちらを取っても灰司は納得しない……俺の我儘で、灰司の復讐を否定していいのか? 」
瞬は分からなくなっていた。
事情を生半可に知ってしまったが故に、灰司を止めることができなかった。
復讐を止めるのも、復讐を成し遂げさせるのも、きっと灰司の為にはならない。部外者たる瞬にできることは何もない。八方塞がりだった。
「もう少ししたらAMOREの回収班が来るので、そしたら向こうの医療機関に搬送するっす。それまでここで寝かせてあげてほしいっす」
「まあそれくらいならいいけど……」
瞬が悩んでいる横で、倫吾の言葉にそう返す湖森。
きっとこの場に叔父・還四郎がいたらびっくりするだろう。家に見知らぬけが人がいるのだから当然だ。
暫しの間沈黙が流れた後、思い出したかのように瞬が口を開いた。
「………………ちびっ子たちの様子は? 」
「駄目。ヒビキちゃん、すっかりふさぎ込んじゃってる。ネプテューヌが慰めているけど、全然だよ」
「そりゃそうだよな……俺達だって同じなんだからさ」
心を通わせたと思った矢先にこれなのだ。瞬達だってつらいのだから、特に幼いヒビキにはショッキング極まりないはずだ。
灰司は重傷を負い、飛鳥はバルジの手に墜ち、バルジは滅茶苦茶強くなっている。絶望の3コンボに見舞われた一行は、すっかり意気消沈してしまっていた。いつもは明るい唯でさえも、どんよりと暗い表情を浮かべてしまっている始末だ。
普段の騒がしさとはうって変わって、まるでお通夜みたいな雰囲気と化してしまった逢瀬家。
そこに玄関の方から、空気を読まない不審者の声が響き渡った。
「やっほ~~~っ、みんなの北極星・イケメン導き手のフィフティさんが久しぶりに遊びに来たよ~~~」
恐らく自分で考えたと思わしき謎の2つ名を名乗る怪しいイケボが、どんよりムードを容赦なく破壊しやがった。
その声を聞いた瞬と唯は無言で立ち上がると、足音をできるだけ殺した早歩きで玄関に向かってゆく。
玄関では、黒いローブを着たイケメン不審者ことフィフティがにこやかに手を振っていた。
「いやあ、揃いもそろって酷い怪我だね。調子はどうかな逢瀬くん」
「今までどこ行ってたんだこの役立たずパンチッ!!!! 」
「ぼばぉえっ⁉ 」
先の戦いには全く姿を見せなかった癖してのうのうとお見舞いに来た
鼻血を吹き出しながら盛大にぶっ倒れるフィフティだが、彼を心配するものはひとりもいない。彼に人望がないというのもあるが、そもそもフィフティに構っている余裕がないのだ。
そのままフィフティを踏みつけようとする唯だが、瞬に制止させられる。
「やめろ唯、怪我人が寝ているんだぞ」
「あ、ごめん瞬……コイツの顔見たらどうしても一発入れなきゃって思って」
「それはわかる」
悲しいかな、フィフティに味方する奴はこの場にいないのだ。普段の神出鬼没っぷりに加え、ミステリアスかと思わせといてやたらと一部の人間(主にアラタ)に対してきつく当たるし、声も見た目も無駄にイケメンなのが余計に怪しさを増長させている。擁護しようがない。
「というか、逢瀬くん随分と元気そうだね? バルジに半殺しにされかけたって聞いてたけど、なんかぴんぴんしてるしさ」
「俺はあんまり奴にボコられなかったからな……それ以上に重傷な奴がいる」
「……ああ、彼か」
瞬の言葉に、フィフティは素っ気なくそう返した。
「なんか露骨に興味なくしたね」
「うん、だって興味ないし。私は仮面ライダーの導き手だよ? 逢瀬くんや裁場は気にかけるけど、彼――無束灰司は違うだろう? あれはただの紛い物だ。そんなものに興味はないさ」
「そういう所で信頼度下げてるってわかってる? 」
唯の鋭い指摘に、フィフティは張り付けたような笑みで返す。
最近になって、フィフティは瞬達とそれ以外に対する態度の差が露骨になってきたような気がする。子供だってもう少し建前とか使いこなしているだろうに、コイツはどれだけ幼稚なのだろうか。
瞬が元気そうなのを確認したフィフティは、灰司の心配謎微塵もすることなく、そそくさと帰ろうとする。
「元気そうだし、私は帰るよ」
「マジで帰る気だ……灰司を微塵も心配しないあたり、ほんとうに人の心とかないんだな……」
「だって私には関係ないし。そもそも、彼には事あるごとに色々と邪魔されてきたからね。個人的に嫌いなんだよ」
「……なんとなく予想はしてた」
ベルトを奪ったアラタといい、どうやらフィフティは一度嫌った人間はとことん嫌い続ける性分らしい。融通が利かないというか、子供っぽいというか……。
鼻歌交じりに帰り支度をするフィフティだったが、玄関扉に手を伸ばしたその時、瞬がフィフティを呼び止める。
「待てよフィフティ」
「………………なんだい? 」
「バルジの奴を倒したい。何か手はないか? 」
「ほう? 」
その言葉を聞いたフィフティの眉が、僅かながら動いた。
「……それは、無束灰司の復讐の手助けでもするためか? 」
「いや。どうしても助けなきゃいけない奴がいる。復讐の為なんかじゃない、踏みにじられているモノの為に、俺はあいつを倒さなきゃいけない」
そう。
灰司とバルジの因縁云々の以前に、瞬自身にも、バルジと戦う理由が出来ていた。
瞬は、故郷も家族も友達も失った上、自由と尊厳すらも奪われようとしている行江姉妹の姿を目の当たりにしてしまった。飛鳥の抱く孤独感を、悲しみを理解してしまった。
――だから、その元凶を許すわけにはいかなかった。
フィフティは、瞬の決意に満ちた表情をしばらくの間見つめていたが、やがて、まるでこの成長を喜ぶ親か何かのように微笑を浮かべた。
「……少し見ない内に、随分とヒーローらしい顔をするようになったじゃないか」
「導き手を名乗る癖に放任主義すぎるんだよ」
「自由意思を尊重していると言ってもらいたいところだね」
いまいち役に立っていないくせに一丁前に保護者ヅラするフィフティに、瞬は強気に言い返す。
その時だった。
「逢瀬さん大変っす! ってうわあ変な人がいるっ‼ 」
酷く動揺した様子の倫吾がどたどたと走ってきた。人の家の廊下を走るんじゃない。
おまけにフィフティを見て驚く始末。いや変な人というのはまちがってはいないのだが、まるで妖怪か何かでも見たかの様な驚きようだ。
「ど、どうしたの……? なんかめっちゃ慌ててるけど」
「は、灰司先輩がいなくなったんすよ! 」
「なっ――⁉ 」
倫吾の言葉に驚く瞬と唯。
「あの怪我で抜け出したのか⁉ 冗談じゃないぞ⁉ 」
「そうなんすよ! いくら灰司先輩が強くても、あんな状態じゃまず勝てないっす……そもそも、野垂れ児ぬ可能性だって……」
「兎に角手分けして探すぞ! 」
「うん! 」
倫吾の話を聞いた瞬と唯は、直ちに家を飛び出し、灰司の捜索を開始する。
灰司の怪我の具合からすると、戦うのはまず無理と言っていいだろう。なんせ素人でも一目でわかるレベルの大怪我を負っているのだ。あんな状態で街を彷徨っていたら、あっという間に救急車に囲まれるだろう。
(灰司の奴、本気なのかよ……いくらなんでもこれは焦りすぎだっての……! )
瞬は夕暮れの街に飛び込んでゆく。
灰司の復讐に対するスタンスについては、いまだに整理はついていなかった。
市内某所
「………………俺はやらなくちゃいけないんだ」
夕暮れの中、灰司はボロボロの身体を引きずるように歩きながら、うわ言のようにそう繰り返していた。
歩くのもやっとなはずなのに、それでも灰司は止まらない。
理由はひとつ。
「俺は、お前を殺さなきゃいけない……バルジ、お前は生まれるべきじゃなかった……! 存在してはいけない命だ……! 」
全てを奪われ、たった一つ残された復讐心。
その終わりが自らの命の終わりだということは、灰司自身がよく知っている。
最期に残ったそれが、今もなお彼の身体を動かしている。それがある限り、何が何でも倒れるわけにはいかない。
「今夜で……終わらせる……! 」
血の跡を残しながら、灰司は向かう。
再戦の時は、近い。
今回はここまで。
次回はギフトメイカーサイドの話もできればなあ……それを乗り越えたら、多分バルジとの決戦が始まります。
無駄にハードルを上げてしまっている分、期待に添えるように頑張っていきたいですね。
実はきっかり10000文字なんですよね、今回。
それではまた次回っ!
次回 復讐前夜~決意と悪意と嗤うモノ~