【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
まだまだ悪あがきしてきやがります。
夏アニメ溜めまくってたらいつの間にか10月です。えぐいわぁ!
ラーマオリジオンとシータオリジオンを吸収し、フェーズ3にまで到達したエボルトオリジオン。
その進化は、アクロス達も目にしていた。
「なん………………だと」
「飛鳥ちゃん達を取り込んだ………………⁉ 」
各々の戦いを終え、今宵の動乱の始発点である児童公園に戻ってきたアクロス達は、その光景を前に絶望していた。
救うべき相手である行江姉妹を吸収したどころか、更なる進化を果たしてしまったエボルトオリジオンを前に、勝利のビジョンがまるで見えない。どうやったらこの厄災を止めることができるというのだろうか。
ますます人間からかけ離れた姿となったエボルトオリジオンは、半狂乱になりながら叫び散らす。
「俺様は天才だァ! この俺様が負けるはずがないっ‼ この世界は余すべく俺様の玩具になってりゃあいいんだよォ‼ 」
エボルトオリジオン――バルジは叫ぶ。
全てを見下し続けてきた彼にとって、灰司を瞬殺できずにここまでの激戦を繰り広げる羽目になっていること自体が、耐えがたいほどに不快だった。そのストレスと戦闘によるダメージで、バルジの冷静さは失われようとしている。それは誰の目から見ても明らかだった。
リュウガ――灰司は、叫び散らすエボルトオリジオンを前に、冷静に剣を構える。
因縁に終止符を打つために。
「テメエのクソみてえな持論は聞き飽きたんだよ、とっとと死ねっ‼ 」
剣を構え、突撃する。
が、
「――ガハッ⁉ 」
突如として、
灰司が吐血したのだ。
「………………え? 」
突然動きを止めたリュウガを目にしたアクロス達が困惑する。
そこから数秒ほど遅れて、リュウガの手から剣が零れ落ち、同時に膝をつきながらリュウガの変身が解除された。
露になった灰司の顔は、不自然なまでに青ざめていた。全身がガタガタと震え、目や口からはおびただしい量の流血が生じている。それは戦いで負傷しただとか古傷が開いただとか、そう言った類のものではない。
アクロスがそう思った直後、エボルトオリジオンが口を開いた。
「なあ、知ってるか? 転生者がひとつしか転生特典を持たない理由を」
「なんだ……いきなり………………? 」
突然、わけわからないことを言い始めたエボルトオリジオンに、誰もが困惑する。
だがエボルトオリジオンは周囲の反応に全く意を介すことなく、ベラベラと頼んでもいない説明を始める。
「転生特典ってのは、平たく言うと"扱う資格のない力を無理矢理使うためのチート"なんだよ。大抵の力ってのは、持つべき人間、振るう資格を持つ者が世界に定められている。俺様達が転生者に与えてる特典ってのはな、その摂理を捻じ曲げて力を行使させているんだ。そんな力を複数も持ってみろ。ひとつならまだ耐えられるだろうが、ふたつ、みっつ……数が増えれば、いずれお前の身体は耐えられなくなる」
「………………何を言ってるんだ? 」
「積載オーバーだって言ってんだよ。サイガ・ソーサラー・ダークゴースト・リュウガ・メタルビルド・デモンズ………………よくもまあそんだけのライダーの力を行使できたもんだ。大方、
「………………………………………………そう、なのか? 」
ユナイトの変身を解いた裁場が、灰司に駆け寄りながら問いかける。
灰司は沈黙を貫く。
「まさか………………そうなのか? 無束灰司、君はこれを知っていたから……自分の身体が長くは持たないと知っていたから、復讐にこだわっていた………………⁉ そうなんだな⁉ 」
「だったらどうした……言ったはずだ、俺には
灰司はそう吐き捨てると、裁場を突き飛ばしながらよろよろと立ち上がる。
その顔は、生気が微塵も感じられないほどに青ざめており、目は異様なまでに充血し、耳からは断続的に血が噴き出して彼の白い髪を赤く染めている。それほどまでに傷つきながらも、灰司は立ち上がる。復讐を果たすべく、目の前の怨敵に挑もうとする。
転生者達を倒す力を得るべく大量のダークライダーの力を獲得した灰司だが、その強大過ぎる力は、着実に灰司の身体を蝕んでいた。なんせ彼が変身するライダーというのは、怪人にしか変身できなかったり寿命を代償としてきたりと、どいつもこいつも危険極まりないモノばかりなのだ。そんな力を無理矢理扱おうとするのだから、その負担は尋常ではない。
だが、灰司はそれでも構わなかった。復讐を遂げられるのならば、その後がどうなろうが知ったことではない。
「来いッ、ダークキバットっ‼ 」
灰司は天高く右手を掲げ、口から血を溢しながら叫ぶ。
すると、何処からともなく黒い蝙蝠――ダークキバットが飛来し、灰司の手に噛みつく。
《ガブリッ》
「変し――」
「させるかよバーカッ‼ 」
が、エボルトオリジオンはすかさず手のひらから光線を発射し、狙い撃ちでダークキバットを破壊してしまった。
一撃で木っ端微塵になったダークキバットの欠片が周囲に飛び散り、灰司のボロボロの身体を吹っ飛ばしてゆく。
「があああああああああああああっ⁉ 」
「灰司ッ⁉ 」
アクロスが反応するよりも早く、エボルトオリジオンは灰司の前に移動すると、そのまま彼の首をつかみ上げて絞め始める。
「がっ………………ぐお………………⁉ 」
「何ともまあ……つまらない幕引きだな。さんざんデカい口叩いた結果がこれかよ、マジ白けるわ」
「このっ……灰司を離せッ! 」
首を絞められる灰司を黙って見てられなくなったアクロスが、咄嗟に助けに入ろうとするが、エボルトオリジオンは光線を放ってアクロスを牽制する。
「ヒーローってのはほんと空気読めねーんだな。邪魔すんじゃねーよカス」
「するに決まってるだろ……黙って見ているわけにはいかねーだろ……それが仮面ライダーだっ‼ 」
「だから邪魔するなって言ってんだろーが頭
「がばっ………………⁉ 」
牽制してもなおも介入しようとしたアクロスを鬱陶しく思ったエボルトオリジオンは、アクロスを思いきり殴り飛ばして変身解除に追い込む。
アクロスの変身が解けた瞬は、まるで投げられたボールのように、勢いよく地面をごろごろと転がってゆく。
「ギャラリーが邪魔だな………………いっちょ全員吹っ飛ばしてやるか。ふんっ! 」
そして、アクロス以外も鬱陶しく感じたエボルトオリジオンは、軽く全身に力を籠める。
すると、エボルトオリジオンの身体からどす黒い衝撃波のようなものが周囲に向かって解き放たれ、裁場達を容赦なく襲った。
古城も雪菜も堕天使達もGUMIも裁場も、衝撃波をモロにくらった面々は、声を発する暇もなくその意識を途絶させる。唯一、殴り倒されて衝撃波が直撃しなかった瞬だけが、辛うじて意識を保って地面に這いつくばっていた。
敵も味方もほとんどが倒れ伏した中、エボルトオリジオンは灰司の首を絞めながら、倒れ伏した面々を罵倒する。
「弱い弱い弱い弱いッ‼ まさかこんな雑魚共にレイラもガングニールも負けたってのかよ⁉ あーあ、マジで失敗作だな! 」
「っ………………さっきから好き放題言いやがって‼ 」
「あ、お前まだ動けんの? 何その生命力気持ち悪っ、前世ゴキブリか何かだったりすんの? 」
立ち上がろうとする瞬に露骨に嫌悪感を示すエボルトオリジオン。怪人体であるが故に表情が読み取りづらいが、きっとすさまじく下劣な表情をしているのだろう。
瞬は立ち上がって灰司を助けようとするが、先ほどの衝撃波の余波を受けたせいか、身体がしびれて十分に力が入らず、立っているのが精いっぱいだ。
と、その時。
首を絞められていた灰司が声を発した。
「ほざい………………てろ」
「あ? 」
「俺はまだ負けてねえぞっ……勝ち誇った気になりやがって……! 」
「だーかーらぁーっ、もうお前は負けてんの! つーか俺様に勝とうと思った時点で身の程知らずだよ。首絞めてるんだからさっさと汚物まき散らして死ねよ。それともなんだ、首引きちぎった方がいい? 」
灰司は自らを絞め殺そうとしているエボルトオリジオンの腕を掴むと、引き剥がそうともがく。しかし、ダークライダーの力の負荷と戦闘で負った傷、そして首を絞められていることによる酸欠でまともに力が入らない。
今もなお、エボルトオリジオンの首を絞める力は強くなっている。このままでは窒息死の前に首が潰れそうだ。
ミシミシと危険な音を発する灰司の首。しかし、灰司にも瞬にも、どうすることができない。
圧倒的なまでのデッドエンド――のはずだった。
「………………は? 」
その異変は、突然だった。
灰司の首を握りつぶす勢いで絞めていたエボルトオリジオンだったが、ふいに、何かが身体の中に入ってくるかのような感覚をおぼえ、その手を緩める。
エボルトオリジオンの手が緩んだことで、絞殺寸前だった灰司はその場に投げ出され、激しく咳き込む。灰司の首元は、尋常じゃない力で首を絞められ続けたことにより、首の皮膚が擦り切れて激しく出血しており、見るに堪えない程に赤くなっていた。
「げほっ………………げほっ………………⁉ 」
「灰司⁉ 」
「………………なに、しやがった? 」
ドクンと、エボルトオリジオンの頭が胎動する。
灰司に駆け寄る瞬の存在が全く気にならなくなるレベルで、エボルトオリジオンは自身の真後ろに注目していた。
オリジオン態の変身を解除しながら、バルジは後ろを振り向く。
先程から身体の様子がおかしい。原因不明の耐えがたい吐き気と眩暈が全身を襲っており、気を抜くとその場に倒れてしまいそうになる。まるで酷い風邪でも引いたかのような気分だ。
「………………何をしやがったっていってんだよ」
「………………」
ゆっくりとバルジが振り返った先には。
酷く冷たいまなざしを向けるレドの姿があった。
エボルトオリジオンの放った衝撃波は、当然ながら公園の端に居た唯とリイラにも平等に襲い掛かっていた。
直撃すればたちまちに意識が途絶するのは確実。
――のはずだった。
「はあっ‼ 」
「そーれっ☆ 」
衝撃波が到達すると同時に、唯とリイラは衝撃波に向かって片腕を突き出す。
すると、2人に牙を剥こうとしていたどす黒い衝撃波が、いともあっけなく霧散してしまった。もちろん、2人には全くダメージはない。
「へー、思ってた以上に順調に覚醒していってるのね。
「いやー、適当に腕突き出してみたらできちゃった……私だんだんと化け物になっていってない? 」
リイラから感嘆の声を浴びせられながら、衝撃波にむかって突き出した腕を見つめる唯。その額には、冷や汗のようなものが浮かんでいる。
(どこまで……
限界の分からない力。それを振るうことが酷く恐ろしい。
これまで対峙してきた転生者達は、どいつもこいつも強大な力を嬉々として振るっていたように見えた。
だが唯は、彼らのようにはなれない。
彼らのように、
「………………」
「いつまで自分の手のひらとにらめっこしているつもり? そんなに死にたいなら死ねば? 」
「‼ 」
が、唯には考えている場合はない。
リイラが苛立ち気味に放った真空刃が、唯を切り刻まんと迫りくる。
「その手はもう喰らわないッ‼ 」
唯は腕を振るって衝撃波を生み出すと、リイラの衝撃波と相殺させる。
それを見たリイラは舌打ちをしながら、発生した土ぼこりと突風を真正面から突っ込んで唯に肉薄しようとする。
「料理の癖に抵抗しないでよ、踊り食いは趣味じゃないってのに」
「そもそも食人の時点で十分趣味悪いよッ‼ 」
「いーけないんだー、他人の趣味にケチつけるなんて駄目なんだーっ‼ 」
「どわわわわわわわわあっ⁉ 」
中々倒れない唯に苛立ちを隠せなくなってきているリイラは、先の鋭い触手を何本も背中から伸ばし、唯に突き刺そうとする。が、それすらも唯に危なげなく避けられ、余計にフラストレーションをためる結果となる。
地面から突き出した触手は唯にパンチ一発で粉砕され、羽根から飛ばした真空刃は相殺され、先ほどからリイラの攻撃は何一つ通っていない。しかし、唯のほうもまた、攻撃を受け流す以上の行動に踏み切ることができない。
完全なる千日手。
両者の戦いを一言で表すならば、それが一番ふさわしいだろう。
「面白くない……っ、ついこの間覚醒したばっかりの癖にちょこまかと逃げちゃってさぁ……! ほんと面白くないんだけどッ‼ 」
「こっちは貴女の相手をしている場合じゃないっての‼ 早くバルジの野郎をぶっ倒して飛鳥ちゃん達を助けるんだ‼ 」
「っ………………! 」
唯のパンチで十数本目の触手が破壊され、その破片がリイラの頬に付着する。
その瞬間、リイラの中で何かのスイッチが切れた。
「………………もう帰る」
「えっ⁉ 」
唐突にリイラはそう言うと、攻撃の手を止める。
唯に迫りつつあった触手は一斉に萎びてその場にへたり込むと、茶色く変色して崩れ始める。そしてリイラは唯に背を向けると、何処かへと飛び去ってしまった。唯の言葉すら完全に無視して、リイラの姿が夜空へと消えてゆく。
唯は呆気にとられたような顔をして、枯れゆく触手の群れの中からそれを見つめていた。
「逃げ……いや、あれは多分……飽きた……のかな? 」
唯はそう呟きながら、去り行くリイラの背中を見つめる。
今のリイラの撤退には何か作戦があったとか、戦いを辞めざるを得ない事情があったとか、そういう類のものは一切ない。唯でもそれは容易に理解できた。
彼女は飽きたのだ。いや、見下していた唯からの予想以上の反撃を受け、興がそがれたと言うべきか。ともかく、リイラの気まぐれによって唯は生き延びた。
しかし、それを喜んでいる場合ではない。
「っ、こうしている場合じゃない! 行かないとッ‼ 」
まだ
唯は即座に踵を返すと、未だ健在のバルジの元へ、そして彼と戦っている仲間たちの元へと走り出した。
そして、場面は戻る。
「レド、お前……何をしたんだ……⁉ 」
いつの間にかバルジの背後に立っていたレド。
瞬は、何がどうなっているのか理解できなかった。
同じギフトメイカーであるはずの両者が、まるで敵対しているかのような雰囲気になっているのだから当然だろう。
「おい、お前何を……いや、
柄にもなく取り乱すバルジに、レドは冷ややかな目を向け続ける。
「
「落とし物……だと? 」
「ああ。お前が池袋で転生者狩りに負けて落としたイガリマのDISC。そいつを再びお前の体内にぶち込んだんだ」
瞬にはレドの言っている内容が理解できなかったが、バルジの驚いたような表情を見る辺り、それはおそらく彼にとってはマズいことなのだろう。
バルジはどこか焦ったような様子でレドに掴みかかる。そこに、先ほどまで満ちあふれていた余裕は微塵も感じられない。
「ふざけるんじゃねえぞ………………お前、何をしたのかわかってんのか⁉ 」
「わかってるに決まってるだろ。それでも僕はこうするよ。バルジ、お前の悪趣味っぷりに付き合わされるのはうんざりだ。だからこうした」
「ふざ……けんじゃねえ………………っ‼ ふざけんじゃねえぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼ 」
予想だにしなかった仲間の裏切りに、バルジは我を忘れて激昂する。そうして怒りのままにレドを殴りつけようと手を伸ばしたその時だった。
ブクブクブクブクッ‼ と、バルジの右腕の表皮が、まるで水面のように泡を生み出し始めた。
「………………あ」
バルジが声をあげた時だった。
ボゴボゴボゴボゴっ‼ と。激しい音を立てながらバルジの身体が膨張しはじめた。
気泡を発生させていた右腕を起点に、バルジの細い身体がみるみるうちに膨れ上がってゆく。
風船に空気を入れて膨らませているとか、そんな生易しい比喩ではとてもではないが表現できないほどの悍ましい速度で、バルジの身体は膨張し、人間としての形を喪失してゆく。
瞬も唯も、いつの間にか意識を取り戻していた裁場も古城も雪菜も、その場にいた全員が動きを止め、その悍ましさに釘付けとなっていた。
「不おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 」
「ぐうっ………………⁉ 煩っ……! 」
肉の塊と化したバルジから発せられる雄たけびは、アクロス達の全身をくまなく揺さぶり、周囲の建物の窓ガラスを根こそぎ破壊してゆく。
ただ一人、これを引き起こしたレドだけが、この異変の渦中で満面の笑みを浮かべていた。
「なっ……これは一体っ……⁉ 」
「見ろよ仮面ライダー! これが転生特典のオーバードーズってやつだッ‼ 」
「それってバルジがさっき言ってた……まさか⁉ 」
レドの言葉を聞いた瞬は、先ほどのバルジの言葉を思い返す。
そう。
先程嬉々としてバルジが説明していた現象が、今まさに彼の身に起こっていた。
「お前、仲間じゃなかったのかよっ⁉ 」
「いくら同僚といっても限度ってもんがあるんだっての。聞きたくもないスプラッタートークを聞かされ、見たくもないしやりたくもない殺戮劇に付き合わされ……ホント、人の心が分からない奴とか味方にはいらないんだよね」
レドが愚痴交じりに弁明している今も、彼の背後ではバルジだった肉塊が膨張を続けている。
そしてそれは、血や脂を噴き出しながら瞬達の方へとゆっくりと近づき始める。まるで何かを求めるかのように、ブクブクに膨れ上がって原型を失った腕(?)を伸ばしてくる。
その先には、満身創痍で動くこともままならない灰司。
意識が飛んでいたせいで状況が理解できていない古城達だったが、それでもマズいということだけは分かっていた。
「なんかやばいって……おい、これ何とかした方がいいんじゃっ⁉ 」
「無束灰司っ‼ 早くそこから逃げるんだっ! 何かマズいことになっ……! 」
必死に灰司に呼びかける裁場だが、ふいに彼の傷口が痛み出し、その声が途切れる。本当ならば助けに行きたいが、バルジの衝撃波をモロにくらったダメージが大きすぎて、裁場自身もその場から動けない。
今動けるのは瞬と唯だけ。
しかし、瞬がアクロスに再度変身するだけの時間もなければ、リイラとの戦いを終えて駆け付けようとしている唯も間に合わない。何もかもが灰司を助けるに至れない。致命的なまでに、駄目だった。
そして。
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ⁉ 」
「っ………………⁉ 」
ボグンッ‼ と。
大きく脈打つ肉塊が、灰司の前面を包み込んでしまった。
「灰司っ‼ 灰司ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ‼ 」
瞬が必死に声を張り上げながら肉塊にしがみつこうとするが、肉塊の随所から勢いよく噴き出す体液に阻まれ、肉塊にたどり着けない。
必死に足掻く瞬の前で、辛うじて見えていた灰司の背中が徐々に脈打つ肉に呑まれて見えなくなってゆく。
「くそっ‼ おい灰司ッ‼ 大丈夫なのかよッ‼ おいっ! 」
瞬の声に返答はない。
無束灰司は完全に、肉塊に呑まれてしまっていた。
「………………ここは? 」
無束灰司が目を覚ますと、辺り一面が脈打つ血肉に覆われていた。
地面はブヨブヨと不快な踏み心地だし、壁や床のあちこちから体液らしきものが噴き出している。そしてなにより生臭い。不快で仕方ない。
傷だらけの身体を無理矢理動かして前進する。
理由は分からないが、そうしなければならないという強い確信があった。
「………………やっぱり、か」
数メートルほど前に進んだところで、灰司はそう呟いた。
彼の目の前には、胸から下が肉壁に埋まった男――バルジがいた。
「テメエ……わざわざここまで来たってのか……? ヒーローってのは相当な死にたがりらしいな」
「お前が俺を取り込んだからここに来れたんだ。わざわざ呼んでくれてありがとな、クソ野郎」
この期に及んでもなお神経を逆撫でするような言動をやめないバルジだが、その顔は憔悴しきっている。転生特典の
その様子を見て、灰司は確信した。
――今ならば、殺せる。
長きにわたる因縁に蹴りをつけることができる。
しかし、その前にやらなければならないことがある。
「………………いつまでこっち見てやがんだお前ら、鬱陶しいんだよ」
「………………あなたは? 」
「灰司、さん? 」
灰司が見上げた先には、バルジと同じように壁に埋め込まれたとある少女たちの姿があった。
行江飛鳥と行江薫。バルジに人生を狂わされた純然たる被害者たちが、そこにいた。
彼女達は、まるで一身に救いを求めるかのような目付きで灰司を見つめてくる。灰司はそれを、酷く煩わしく感じていた。
「おねがい、します。たすけて、ください………………わたしたちを、たすけて……ください」
「………………」
弱弱しく助けを懇願する飛鳥の声を、灰司は無言で聞いていた。
――灰司の答えは、決まっていた。
「ドウラァッ‼ 」
灰司は持てる力を振り絞って、バルジ達の埋まっている壁を殴りつけた。
ブヨンとした不快な弾力が、拳伝に灰司に伝わってくる。酷く不愉快だったが、それを掻き消すかのように、灰司は力と声を振り絞って拳を肉壁に押し当てる。
すると。
ボゴボゴボゴボゴッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と一面の肉壁が激しく振動したかと思えば、激しく煙を噴き出しながらドロドロに溶け始めた。
「あああああああああああああっ⁉ 」
「おおおおおおおおおおおッ⁉ 」
ドロドロに溶けた肉壁の濁流に流されながら、飛鳥と薫が肉の床まで落ちてくる。彼女達を縛る肉塊はもう存在せず、完全に自由を取り戻していた。
そして彼女達が解放されたということは勿論、バルジも自由を取り戻している。ドロドロに溶けた肉塊から這いずり上がるかのように、バルジが姿を現す。しかし、バルジは見るからに消耗しきっていた。おそらく立っているのもやっとなほどなのだろう。
「灰司さん……」
「うるせえ、黙ってろ」
灰司は飛鳥に冷たくそう言い放つと、行江姉妹の身体を掴んで近くの壁に強く押し当てた。
ぎゅうぎゅうと肉壁に押し込まれた飛鳥と薫は、何が起きているのかわからないといったような顔で灰司のことを見つめている。
その身体は徐々に肉塊に沈み込み始めている。しかし、それは2人をここから出すためのもの。灰司は2人に肉壁を通り抜けさせようとしているのだ。
「な、なにを………………⁉ 」
「
「出すって……じゃあ灰司さんは⁉ 」
「俺は………………あのクソ野郎を殺す。その後のことは知らねえ。だが、きっとお前らは助かる。あの馬鹿みてえにまっすぐなヒーローが、お前らを助けるだろうさ」
「そん――」
飛鳥の声が途切れる。
行江姉妹の全身が肉塊に埋もれたのだ。後には、脈打つ肉壁だけが残されている。
後のことはアクロスに任せる。血で汚れ切った自分には、誰かを助けるなんて真似はできないし、その資格もない。
それに、命を投げうってでも復讐を成し遂げようとしている者からすれば、傍から見ている第三者は邪魔でしかない。誰もいない方がかえってやりやすい。これまでのAMOREとしての仕事でも、それは同じだった。
「さて、と」
ゆっくりと、灰司は振り返る。
振り返った先には、肉塊の中でふらふらと佇んでいる
これで邪魔者はいなくなった。
心置きなく、バルジを殺せる。
「ようやく――この時が来たな」
数多もの命を奪い続けてきた人の姿をした厄災・バルジ。
彼に向けられていた復讐の刃は、すぐそこまで来ていた。
灰司はふらつく足取りで、立つだけで精一杯でまともに動けないバルジに近づいてゆく。
彼もまた、戦いの傷と転生特典の
だが、ここまで来た。
この復讐の刃を届かせる寸前まで来ることができた。それだけが、たまらないほどに嬉しかった。
「最期に訊くぞ」
「………………あ? 」
「今まで奪った命に何か言うことあんだろ」
バルジにとって、その問いかけはするだけ無意味であることは分かっていた。ただ灰司は、殺す前にな訊いてみたかった。
灰司に胸倉を掴まれたバルジは血混じりに咳き込むと、いつも通りの下品な笑みを浮かべて灰司の問いかけに答える。
「まさかとは思うけどよォ……俺様に謝罪求めてんの? はっ、一体全体俺様のどこがどう悪かったってんだ? 死んだアイツらは全員俺様の遊びに耐えうる玩具じゃなかった。ただそれだけの話だろ? 」
「………………」
あまりにも予想通りな返答に、灰司は思わず笑みを浮かべてしまった。
コイツとこれ以上話しても何にもならない。わかりきっていた筈なのに、それをこの期に至っても確かめようとする自分の馬鹿真面目さ加減にも、笑わずにはいられなかった。
「わかったよ――これでお前を全力でぶっ殺せる」
――ああ、今日はなんて幸せな日なんだろうか。
これほどまでに笑えたのは一体いつぶりくらいか。
血と傷に塗れた顔に引きつったような笑みを浮かべながら、灰司は拳を振り上げる。
そして。
――
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