【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes   作:カオス箱

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第1章最終話です。
ここまで長きにわたって本作にお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。




第50話 復讐の果て、或いは序章の終わり

 

 

 

 それは決定的だった。

 一人の復讐者の放った拳は、鈍い音を立てながらバルジの鼻頭に直撃した。

 

「ふがっ………………」

 

 転生特典の多重投与(オーバードーズ)をもろに受けてまともに体を動かせないバルジに、灰司の憎しみ全開の拳を避けるすべはなかった。鼻血を噴き散らしながら、立っているのもやっとだったバルジの身体が大きく揺れる。

 だが、この程度で灰司の復讐心が満たされるわけがなかった。

 

「がああああああああああああああああああああああああああああああっ‼ 」

 

 顔面を殴られて大きくふらついたバルジの左膝に、踏みつけるような灰司の蹴りが直撃した。

 ベキョリッ!!!! と、嫌な音を立ててバルジの膝が逆方向に折れ曲がる。片足を失い、やじろべえのように体をふらふらとさせることしかできなくなったバルジに、さらなる追撃がやってくる。

 

「これは■■■■の分だっ‼ 」

 

 片足を折られて肉塊の床に倒れたバルジに馬乗りになった灰司は、血塗れの拳でバルジを殴りつける。

 当然ながら、まだまだ灰司は手を緩めない。

 

「これは■■■の分っ‼ これは親父のッ、これは母さんのッ!! 」

 

 ベグシャッ!!!! ボグッ!!!! バギョッ!!!! と。

 灰司は勘定に任せてバルジの肩の骨をへし折り、肋骨を粉砕し、内臓を押しつぶす。とてもじゃないが常人に見せられた光景ではなかった。

 淡い好意を抱いていた幼馴染み。馬鹿みたいな青春を送っていた学友。やんちゃで手のかかる弟。自分と弟を育ててくれた両親。その全てを奪い去った目の前の(バルジ)に、怒りと憎しみの限りをぶつける。

 それを止める相手はいないし、おそらくその資格を持つ者もいない。もしいるとしたら、それはきっと底抜けの馬鹿かバルジと同等の悪党しかいないだろう。

 

「はァッ……ハァッ…………! 」

 

 幾ら殴ったか分からなくなるほどまで殴り終えた灰司は、血塗れの両手でバルジの胸倉を掴み上げる。

 

「へっ………………ばば………………」

 

 ありったけの怒りと憎しみをぶつけられたバルジは、もはや元の容貌が思い出せないレベルで変貌していた。顔面は陥没と腫れで見れたもんじゃないし、手足はすべて有り得ない方向にねじ曲がり、あちこちに内出血痕が確認される。

 そんなバルジの無様な姿を凝視しながら、灰司は拳を振り上げる。

 

「――二度と生まれてくるんじゃねえぞ、この人でなし」

 

 それが、灰司からバルジに向かってかけられた最後の言葉であった。

 まともな四肢を失った彼に、避ける術はなかった。

 灰司の生身の拳が、バルジの顔面に突き刺さる。

 ぼろきれのような有様だったバルジの身体が、背中から勢いよく肉塊の床にダイブする。肉塊にぶち当たったバルジの身体はサッカーボールのように元気よく跳ね上がり、何度も何度も地面をバウンドしてゆく。何回かそれを繰り返したのち、バルジの身体は、ジュザザザザザザザザザザザッ!!と派手な音を立ててようやく着地する。

 

「………………ああ」

 

 バルジは呻きながら手を伸ばす。その手は、手首から先がありえない方向に曲がり、指はまるでぐしゃぐしゃに丸められたティッシュのように骨から砕けていた。両足はべきべきに折れており、立つこともままならない。片目は潰れ、頭頂部からはだらだらと血と汗が混じった体液を垂らしている。

 常人ならば激痛で失神してするどころか、既に死んでいてもおかしくないのだが、そこは腐ってもギフトメイカーというべきか。いまだに自信の敗北を認められずに、灰司に向かって手を伸ばそうとしていた。

 ずるずると、死にかけた身体を引きずりながら、既に本来の機能を喪失した左手を伸ばす。灰司はそれを見ても何も言わない。

 

「………………お前、終わりだよ」

 

 虚ろな顔で虚空に手を伸ばしながら、掠れるような声でバルジはそう言った。

 

「お前はこれまで、俺様への復讐だけを生きがいにしてきた。その生きがいを、生きる意味を、お前はぶち壊したんだ。その意味、分かるよなぁ………………? 」

「………………」

 

 灰司は何も言わなかった。

 そう。

 灰司は全てを失ってから、その元凶であるバルジへの復讐のみを糧に生きてきた。

 しかし、復讐を完遂する以上、それはもはや灰司の原動力にはなりえない。後に残るのは、生きる理由を喪失した屍同然の命だけ。

 復讐を遂げた先に灰司を待ち受けるのは、裁場の危惧していた未来だ。

 

「楽しみだぜェ……俺様を打ち倒したクソ野郎の破滅がよぉ…………あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃァッ――」

 

 その呪詛が、彼の最後の言葉だった。

 バルジのギラついていた瞳から光が消える。ぐしゃぐしゃになった腕が力なく倒れ、開きっぱなしになった口からは体液が流れ出ている。

 死んだのだ。

 数多もの命と尊厳を凌辱し続けてきた悪魔が、ようやく滅びたのだ。

 

「………………ゴフッ」

 

 怨敵の死を見届けた灰司は、口から血を吐きながらその場に倒れる。

 彼もまた、限界が来ていた。

 

(ああクソ、身体が動かねえ……)

 

 核であるバルジが死んだことで、膨張と脈動を続けていた肉塊もまた力を失い、自壊をはじめていた。

 このままここにとどまっていれば間違いなく埋もれてしまうことになるが、もう灰司には身体を動かすだけの力が残されてはいない。

 だが、それでもよかった。

 元より復讐を終えた先のことなんて考えていなかった。もう灰司には帰りを待つ者も会いたいと願う者もいない。それらはすべてバルジに奪われているからだ。命一つが残っていたところで、その使い道がない。故に灰司は、危険極まりない転生特典の多重投与(オーバードーズ)を使用して復讐に挑んでいた。

 バルジの呪詛通りになるのだけは気に食わないが、どうせ彼は地獄行きだ。あの世が存在するとしても、きっと顔を合わせることはないだろう。

 

(待ってろよ――俺も今から、そっちに行く――)

 

 戦いの中で摩耗しきった懐かしき記憶達を思い浮かべながら、灰司は目を閉じる。

 そこに、上から肉塊が落ちてきて――

 

 

 


 

 

 時間は少し前に遡る。

 

「クソッ……どうすりゃいいんだよ……⁉ 」

「灰司………………」

 

 灰司を取り込んでなおも膨張を続ける肉塊(バルジ)を前に、残された瞬達は手をこまねいていた。

 体液を噴き出しながら不気味に脈打つそれを前に、ただ一人レドは笑い続ける。

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!! 無様だな無様だなァッ!!!! 悪趣味クソ野郎が見た目まで糞みてえになっちまいやがってよォ‼ マジで笑えるぜマレーシアンジョークゥッ!!!! 」

「所詮ギフトメイカー……仲間意識は皆無というわけか」

「他の奴らはともかく、バルジの奴なんかに仲間意識なんか持つだけ無駄だろ。あんなサイコ野郎、さっさといなくなってほしかったからせいせいするぜ」

 

 テンションを乱高下させながらそう吐き捨てるレド。

 私怨で仲間を蹴落とすようなチームワークの劣悪さもそうだが、組織のブレインであろうバルジを私怨で切り捨てるという愚行に走ったレドに、裁場は敵ながら呆れるしかなかった。

 そんな裁場の視線を感じ取って居心地が悪くなったのか、レドは懐からガムを取り出して口に含むと、くちゃくちゃと噛みながら、肉塊の前から立ち去ろうとする。

 

「じゃあ僕はこれで帰るぜ」

「待ちやがれっ‼ 」

 

 古城が咄嗟にレドを取り押さえようとするが、レドはすかさず自身の足元にジッパーを生成し、その中へと入り込む形で消えてしまった。

 

「くそっ……」

 

 レドの確保に失敗した古城が立ち上がる。

 異変が起きたのは、それと同時だった。

 それまで成長を続けていた肉塊が、急に動きを止めたのだ。児童公園の敷地を埋め尽くし、周囲の住宅へとその侵略を広げようとする寸前で、肉塊は動かなくなっていた。

 

「なん、だ? 」

「み、見て! 」

 

 怪訝そうな顔で動かなくなった肉塊を見つめる一同。

 直後、肉塊がその全身を細かく振動させ始める。断続的に体液を噴き出しながら、ぶるぶると震えるそれに、瞬達は思わず警戒態勢をとる。

 

「なんだ………………今度は何が起ころうとしているんだ⁉ 」

 

 そうこうしているうちにも、振動の激しさは増してゆく。

 それに伴って、肉塊に更なる変化が起きた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一体いつからそれが出てきていたのかは定かではないが、それは振動と共に露出範囲を広げているように見える。

 

「サイズ的に………………え、もしかして」

「――まさかっ‼ 」

「おい逢瀬ッ、唯ッ‼ 」

 

 肉塊から飛び出した腕を目にしたことでひとつの可能性に至った瞬と唯は、裁場の静止を振り切って肉塊の元へと走り出した。先ほどは肉塊の膨張と体液噴出の激しさでロクに接近できなかったが、いまならいける。

 肉塊からあふれ出した体液と肉片に覆われた地面を駆け抜け、瞬と唯はそれぞれ肉塊から飛び出している腕を掴む。

 そして、その腕たちを思いっきり引っ張った。

 

 

「「うらあああああああああああああああああああああっ‼ 」」

 

 ベちゃぶちゅべちょっ、と不快極まりない音と共に、腕から先が露わとなる。

 その腕の先についていた胴体、下半身、そして顔。それを目にした瞬と唯の予想は、直ちに事実へと変わる。

 結論を言おう。

 腕の主は、瞬と唯の予想通り、バルジに取り込まれていた行江飛鳥と行江薫だった。

 

「飛鳥………………」

「生きてる、と思う。多分」

 

 唯はそう言いながら、飛鳥の傷だらけの身体に纏わりついている肉片を拭う。行江姉妹の意識はないようだが、呼吸はしているあたり死んではいないようだ。とにかく命は無事だったことに2人は安堵する。

 しかし、飛鳥を引きずりだしたというにもかかわらず、肉塊の振動は止まらない。

 否、激しくなっているだけではない。肉塊そのものが崩壊を始めているのだ。まるで中身を根こそぎ絞り出されているかのように随所から体液が噴き出し、振動のたびに表面の肉片が剥離して崩れていっている。肉塊の中で何があったのかは定かではないが、おそらく肉塊にとって致命的となる何かが起こったのだろう。

 

「瞬? 」

「………………」

 

 そんな中、瞬はある一点を見つめていた。

 それは、飛鳥を肉塊から引きずりだした後に残った穴だった。血や脂の混じった体液を噴き出しながら形を失いつつあるそれを、瞬は飛鳥を抱きかかえながら無言で見つめている。

 

「唯、ふたりを頼む」

 

 瞬は一言そう告げると、唯に飛鳥と薫を預け、肉塊に空いた穴に身体を突っ込んだ。

 

「ちょっと瞬ッ⁉ なにやってんのっ⁉ 」

「飛鳥やだけじゃないだろッ‼ まだ助けなきゃいけない奴がこの中にいるっ‼ 」

 

 そう。

 肉塊に取り込まれていたのは飛鳥だけではない。飛鳥と一緒に取り込まれた飛鳥の姉・薫、そして瞬達の目の前で肉塊に吸収された灰司。肉塊の中で何が起こったのかは不明だが、このまま崩れ去る肉塊の中に2人を放置し続けるのは良くないと、瞬は直感的に判断していた。

 耐え難い生臭さに顔をゆがませながら、瞬は肉塊の中を掻き分けてゆく。

 ぶよぶよとした地獄の中を掻き分けること十数秒、肉塊を掻き分けていた瞬の指先が何かに触れた。

 

「これだっ!! どらっしゃああああああああああっ!」

 

 残った力をすべて絞りきるかのように、瞬は雄たけびを上げながらその手を思いきり引っ張った。すると、ぶちゅぶちゅっと気色悪い音を立てながら、灰司の手首から先の肉体が顕となる。いくつもの肉片をウネウネと纏わりつかせながら、瞬に引っ張られる形で灰司が外気に晒される。

 べちゃりと音を立てて、灰司に纏わりついてた肉片が地面に落ちる。それは既に死んでいた。バルジの身体から生まれたそれらは、本体の死亡と共にその活動を次第に停止していき、まるで氷が解けるかのように消え始める。

 

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――」

 

 灰司が引きずり出されると同時に、肉塊はけたたましい雄たけびを上げながら崩れ落ちてゆく。それにはもはや、まともな形を保てるだけの力はなかった。

 そうして、公園を占拠していた肉塊が、白い煙を立てながら溶けてなくなった後。

 そこには、既に死亡しているバルジだけが残されていた。

 

 


 

 

 

 

 すべては終わった。

 バルジは死亡し、レドとリイラは逃亡。レイナーレもレイラもガングニールも戦闘不能と、ギフトメイカー側の完全敗北という形で激戦の幕は下ろされた。

 肉塊に押しつぶされたり攻撃がぶち当たったりでぐしゃぐしゃになった公衆トイレや遊具に囲まれた中、瞬と灰司はバルジの死体を前にして座り込んでいた。

 

「なんで俺を助けた」

「ほっとけなかったし」

「これから死にゆく命なんだぞ、俺は」

「だとしてもだ。言っただろ、これまで一緒に戦ってきた仲だって」

 

 それにさ、と言いながら、瞬は顎を使ってある方向を指し示す。そこには、ようやく意識を取り戻した飛鳥の姿があった。彼女は今にも泣きだしそうな目で、ボロボロの瞬と灰司を見ている。

 

「あの子が悲しむ。少なくとも、あの子の前でそんな顔をしてやるなよ。目の前で恩人がそんな顔していちゃあ、喜べるもんも喜べねえだろ」

「……」

 

 瞬にそう言われた灰司の顔は、空虚さに包まれていた。

 ただひとつの生きる理由であった復讐を完遂した今、灰司の命にもはや意味はない。長きにわたって復讐だけを考えて生きてきたが故に、他の生き方を考えることができなくなっている。そこにいたのはひとりの復讐者ではなく、全てをやり終え、何もかもが無くなってしまったひとりの少年だった。

 しばらくの間、沈黙が続く。

 そして。

 うっすらと夜の闇が薄くない始めたころになって、灰司はゆっくりと立ち上がった。

 

「どうすんだよ、お前」

「しばらくほっといてくれ」

 

 灰司は、瞬の言葉にそう返した。その声は、いつも以上に投げやりに聞こえた。

 ふらふらとおぼつかない足取りで裁場や古城達の隙間を縫うように歩を進めながら、公園から出ていこうとする灰司。

 そんな灰司に声をかけようとする裁場だったが、その声は喉の手前で止まってしまう。

 

「………………」

 

 裁場整一は何も為せなかった。

 灰司に復讐者としての道を歩んでほしくないという願いは、復讐の完遂という結末を以て否定された。死んでほしくないという願いは、きっと叶わない。

 そもそも、裁場は今夜の激戦において蚊帳の外だった。彼のしたことといえば、一人の堕天使を救っただけだ。

 そんな自分が何を言えばいいというのだ? 灰司に声をかける資格があるのだろうか?

 

(………………俺は無力だ。あの時からなにも変わっちゃいないし、できてもいない)

 

 きっと、最初から復讐を止める資格はなかった。徹頭徹尾、裁場整一は無力だった。

 それが分かっていたが故に、裁場は立ち尽くしていた。

 それを無視して灰司い公園を出ようとする間際、瞬が声を振り絞った。

 

「灰司」

「………………なんだ」

「学校来いよ。俺は待ってるからな。俺だけじゃない。唯も志村もハルもアラタもきっと待ってるし……それに、飛鳥達にも顔くらい見せてやれよ」

「…………」

 

 瞬の言葉に、灰司は一瞬だけ此方を振り返り、何か言いたげそうな顔を見せるが、すぐにそっぽを向いて再び歩き出す。

 

「………………灰司、どうするのかな」

「あいつは死なないよ」

「……根拠なさそうだけど」

「もちろんないさ」

 

 根拠は全くないけれど。

 ただ、そうあってほしい。

 そう願いながら、瞬と唯は去り行く灰司の背中を見つめ続けるのだった。

 

 


 

 

 

 ――と、ここでいい感じで終わればよかったのだが。

 

「ちょ、瞬!後ろ後ろ!」

「へっ⁉︎ 」

 

 灰司の姿がすっかり見えなくなった頃になって、唯が慌てた様子で瞬の後方を指差しながら叫ぶ。

 ばっと後ろを振り返った瞬。後ろにいたものを見た瞬間、瞬の顔はたちまち青ざめていった。

 そこに立っていたのは、少し前に瞬が倒したはずのガングニールオリジオンだった。

 

「なちょっ……んはっ……⁉ 」

 

 まさか、あれだけやってもなお生きているというのか?思わず身構える瞬だったが、何やら様子がおかしい。ガングニールオリジオンはその場で棒立ちしたまま、微動だにしない。

 あ。という声が、誰かの口から漏れ出したのが、変化の合図だった。何の前触れもなく、ガングニールの顔に亀裂が走り出す。顔面からはじまったそれは、瞬く間に全身へと広がってゆく。まるで、卵の殻が破られるかのように。

 そして、亀裂が全身の隅々まで行き渡ってから少し経った頃、ふいにガングニールの皮膚がボロリと取れた。身体から離れたソレは、落ちながらボロボロになってゆき、地面に落ちる前に粉々になっていった。それを皮切りに、ボロボロと、ガングニールオリジオンの身体が崩れ落ちてゆく。

 

「これは一体……⁉︎ 」

 

 何が起きているのかはわからない。

 困惑する一同の前で、ガングニールオリジオンの中身が(あら)わとなる。

 中にいたのは、瞬と同い年くらいの少年だった。肩まで伸びる茶髪と、ひどく整った顔を持ち、全身が粘液のようなもので覆われている。ただ、普通の人間ではない箇所があった。頭に生える猫耳と、腰の下あたりから生える猫の尻尾。どうみても作りものなんかじゃない付き方をしている。

 その時、瞬の脳裏に思い浮かんだのは、搭城小猫のことであった。確か彼女はあくまであると同時に化け猫であった筈。さすれば、今目の前にいる彼も同じような存在なのかもしれない。

 瞬がそんなことを考えていると、目の前の少年が目を覚ました。

 

「うわっなんだこれ気持ち悪っ!」

 

 少年は目覚めるなり嫌悪感を露わにし、自身の身体についた粘液を振り落とす。

 そしてきょろきょろとあたりを見渡した後、何かに納得した様に何度もうなずくそぶりを見せる。

 

「ああ、お前らが解放してくれたのか」

「ええ……なにこの美少年」

「俺は風猫(ふびょう)アズマ。流れ者の化け猫系転生者だ」

「化け猫………………? 」

 

 首をかしげる瞬だったが、即座にオカルト研究部の搭城小猫のことを思い出して納得する。

 化け猫ということは、目の前の彼はおそらく小猫の同類なのだろう。

 

「いやあ助かったぜ! なんせ協力断ったら無理矢理オリジオンにしやがるんだもんな!ほんと重苦しかったし、頭もまともに回らねえしですっげえもどかしかったんだぜ? 」

「え、あの……」」

「ありがとよ、礼を言うぜ仮面ライダー」

 

 瞬の肩をたたきながら礼を言うと、アズマは瞬の横を通り抜けてゆく。

 

「え、ちょちょちょいどちらへ?」

「猫は気ままな生き物さ。今まで縛られていた分好きなように生きる……それだけのことよ」

 

 そう返すと、アズマは鼻歌を歌いながらその場から立ち去ってゆく。全身ズダボロのはずなのに、随分と軽やかな足取りだった。あれも妖怪であるがゆえのタフさなのだろうか?

 まさか強敵・ガングニールオリジオンの中身があんな奴だったとは夢にも思わなかった。彼もまた、バルジに自由を奪われていた被害者だったのだ。

 と、ここで瞬は思い出す。

 

「そうだっ、レイラの奴は⁉ 」

 

 そう。

 バルジの死亡に伴い、ガングニールオリジオン――風猫アズマが自由を取り戻した以上、彼女もまた同様に理性を取り戻しているに違いない。

 そう思った瞬は、慌てて先ほどまで戦っていた土手に向かおうとする。

 が、その肩を叩く者がいた。

 

「誰だ――え? 」

 

 振り返った先に居たのは、血塗れメイド服の少女――レイラだった。

 血の流し過ぎで顔色は見るからに悪いし、モップを杖代わりにして何とか立っているほどに弱り切ってはいるが、その顔には少し前まであった狂気がすっかりなくなっており、どこか憑き物が落ちたような顔つきになっている。

 

「レイラっ………………⁉ 」

「ありがとう、逢瀬瞬」

「お前、その身体で動いてて大丈夫なのかよ⁉ 」

 

 警戒する唯とは対照的に、ボロボロのレイラの姿を目にした瞬は、思わず彼女の身体を支える。

 戦う前からだいぶ死にかけていた上に必殺技までぶつけてしまった要か気がするのだが、なんでこいつは生きているのだろうか。良かったと言えば良かったのだが、レイラの生命力のえげつなさについつい引きつった笑みが漏れてしまう瞬だった。 

 

「大丈夫だ、初歩的な治癒魔法でなんとかなってごほほぼぼっ⁉ 」

「吐血してる時点でなんとかなってねーじゃねえか!! 血吐きすぎて顔色ほぼ死人だぞ⁉ 」

「大丈夫⁉ ねえほんとに大丈夫なんだよねぇ⁉ 」

 

 痩せ我慢というのも烏滸がましいレベルの強がりに、警戒心剥き出しだった唯も一緒になってレイラを心配する。

 そうして吐血がひと段落したレイラは、改めて瞬達の顔を見つめる。

 

「本当にありがとう。まさか、またこうして身も心も自由になれるとは……こうして生きているのが奇跡なくらいだ」

「………………まあ、よかったよ」

「レイラ、なんか随分と雰囲気が柔らかくなったね」

 

 当たり前といったらそうなのだが、洗脳されて敵対していた時と比べると、物腰が柔らかくなっているように感じられる。おそらく、これが本来の彼女なのだろう。

 

「レイラ、お前はどうしたい? 」

「それはギフトメイカーがつけた偽りの名前。私は……アステア。アステア・ライトレア。それが本当の名前だ」

「アステア………………それが本当の名前か」

 

 レイラ――否、アステア・ライトレアは、瞬の言葉に無言でうなずく。

 自由も尊厳も、そして名前すらも奪われていた少女は、ここでようやく己を取り戻すことに成功したのだ。あまりにも多くの者を奪っていったバルジだが、こうして救われたものもあった。そのことが、瞬達にとってはたまらなくうれしく感じられた。

 

「私は………………罪を償いたいと思う」

「償うって……お前、洗脳されてたんだろ? 」

「確かに私は洗脳されて、ギフトメイカーに命じられるがままに数多もの命を奪ってきた。だけど、洗脳を免罪符にはしたくないんだ。洗脳されていようとなかろうと、私が背負うべき罪であることには変わりはない。それが私の、命の使い方だ」

「アステア………………」

 

 彼女の決意表明に、瞬は異を唱えることができなかった。

 本人の言うとおり、洗脳されていたとしても、アステアが数多もの人間の命を奪ってきたという客観的事実は揺るがない。そしてそれを知っているが故に、アステアは罪から逃げることもできない。彼女には、罪と向き合う以外に道がないのだ。

 アステアは身体を支えていた瞬の手を除けると、モップを杖代わりに使いながら、瞬に背を向ける。

 が、そこに裁場が助け舟を出してきた。

 

「………………君はバルジに洗脳されていたんだろう? なら、情状酌量の余地はあると思うのだが……記録によると、君自身はそこまでギフトメイカーとしての被害の大きさは、冷遇っぷりが幸いして他の構成員よりも遥かに小さい。仮に情状酌量の余地なしと判断されても、そこまで重い罪にはならないと思うが……どうする? 」

「………………」

「AMOREには俺から話を通しておく。君はじっとしていろ、その怪我で動けているのが不思議なくらいなんだぞ? 」

「………………わかったよ」

 

 アステアはそう答えると、辛うじて原形を保っていた近くのベンチに腰を下ろす。

 彼女と入れ替わりに、裁場が瞬の前に立つ。その顔は、途方に暮れているように見えた。

 

「俺はどうすればよかったんだろうな……灰司どどう向き合えばよかったんだ? 」

「多分だけど、俺達ははじめから部外者でしかなかったんだよ。これはずっと灰司とバルジの戦いだったんだ。そこに俺達が口を挟む権利は………………ないんだ」

「そう、か」

 

 瞬の言葉に、裁場は短くそう答える。

 まるでそのまま消え入りそうなまでに弱弱しい雰囲気の裁場を見ていて居ても立っても居られなった瞬は、彼の胸に軽く拳を押し当てながら、裁場を奮い立たせようとする。

 

「なにしょげてんだよ。バルジは死んだけど、まだ他のギフトメイカーが残っている。奴らが何の罪もない人達を傷つけ続ける限り、俺達は戦うしかないんだ。だって、仮面ライダーなんだから」

「………………なんだか、君が眩しいよ」

 

 そう言った裁場の顔には、微笑が浮かんでいた。

 いつの間にか周囲は朝焼けに照らされており、公園の端の方では、意識を取り戻したレイナーレに飛びつく堕天使組やそれを見て笑い合う古城と雪菜、手持ち無沙汰気味に周囲をぶらつくGUMIの姿も見える。彼らもまた、無事に本懐を成し遂げていたのだ。

 瞬には彼らの事情は分からないが、自然と笑みがこぼれていた。

 

 

 その日の朝焼けは、むせかえるほどに綺麗だった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーアクロス with Legend Heros 第1章

陰謀交錯都市 アマスベ

――THE END――

 

 

 

 

 




第1章完結です。
ここまでお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。
まさかここまでダラダラと続く羽目になるなんて……!


多重クロスオーバーを謳っているわりにはオリジナル要素全開で進むという、詐欺に等しい内容になってしまいましたが、これでひと段落です。
瞬のヒーローとしての成長と灰司の復讐譚。結構ガバガバですが、自分なりに精一杯書ききったとは思っています。本当はもっと書きたいことがあったのですが、まあこれ以上引き延ばすわけにもいかんので、第1章はこれで幕切れとなります。
まあ正確には、もうちょっとエピローグ的な話を挟むんですけどね!


そして、ここからがアクロスの本番です。
第1章の次は、第1.5章!
新たなオリキャラや敵、新たなクロスオーバー等々を節操なくぶち込んで、よりカオスになったアクロスの世界をお届けします。乞うご期待!
瞬以外のキャラもバンバン掘り下げていくつもりです。


次のエピローグ更新を最後に、一旦アクロスの更新はストップです。
単なる書き溜め期間ですので大丈夫です。エタや失踪ではないからね!安心してよね!


長々と書きましたが、この辺で後が気を終わろうと思います。
それでは。
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