【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
この話を読む前に、修正版の5話の閲覧を推奨します。色々変わってますので。
前回のあらすじ
・瞬ぼろ負け
・オイスタッハとアスタルテを原作より噛ませにしてすまない……すまない……
・サブタイで大体特典をネタバレしてる
・何幼女を二人も家に連れて帰ってやがる、事案だぞ?
・おかしい、ネプ子が空気じゃねぇか!
今更ながら劇場版エグゼイドを見ました。
ちゃんとほんへ見りゃ良かったと軽く後悔……
すげぇ難産だった回です。
相変わらず皆の期待をHYPAR MUJIHI レベルで裏切りまくっている拙作ですが、どうぞお楽しみください。では!
例えばの話。
ある日突然、強大な力や才能を手に入れたら。そしてそれを、特に何も考えることなく使い続けたら。そして、その結果誰かを傷つけたという現実に気づけなかったら。
君はそれを見過ごせるのか。許せるのか。
または、その現実を理解した上で力を使うのか。
結局のところ、逢瀬瞬という人間に与えられた命題は、そういう次元のものなのだ。これは、彼の道を決める分岐点。
それを決めるのは、彼自身。
少年が選ぶのは、他人の為に動くヒーローか、自分の為だけに動く愚者か。
昨晩深夜未明
「完全に死んでいる」
レースアップした黒いワンピースを着た少女が、オイスタッハの死体を見ながら言った。
目の前の殲教師は完全に事切れている。全身に刺さっている数十本の剣によって、彼の死体は倉庫の壁に磷付になっている。悪趣味な芸術作品だ、と思ってしまう。
「こいつが、暁古城を襲ったロンダルギアの殲教師か」
彼女の名は南宮那月。古城の通う学校の女教師でありながら、魔族に対抗する力を持つ攻魔師だ。年中ゴスロリファッションの合法ロリ教師という、一部の人からしたら属性盛りすぎて狂喜乱舞しそうな存在である。
古城の事情を知る数少ない人物であり、今古城が人間として生活できるのは、彼女の手回しの存在が大きい。
「……」
那月の視線が、足元に転がっている一本の短剣にうつる。刃の根元から血に染まっているあたり、死体に刺されていたものが抜け落ちたモノなのだろう。
その時、ぶわっと強い風が吹き付けると同時に、何処からかビニール袋が飛んできて短剣に触れた。すると、短剣が眩い光を放ったかと思えば、たちまち無数の光の粒になって跡形もなく消えてしまった。
翌朝・逢瀬家
「おかわり」
「はいはい、沢山食べてねー」
「……………………」
瞬は、なんか昨日よりも多い人数で食卓を囲んでいた。
ボケーっとした顔をしながら、炊きたてごはんを口に入れる瞬。こんな状態でも変わらずご飯は美味しいし、周りは平常運転である事に軽く絶望し、思わず死んだ様な目になってしまう。
なんで知らない幼女二人と共に食卓を囲むことになったのか。なんで我が家に押し付けられたのか。なんで叔父さんは何も言わないのかとか、言いたいことは山ほどあったが、いったところでどうしようもないことは知っている。
「ヒビキちゃん、卯の花とって」
「はいっ」
「ねぷねぷ、ちゃんと茄子食べなって……」
「わ、私にくたばれと申すか⁉︎」
「言ってないんだけどなぁ……」
どうやら茄子が嫌いらしいネプテューヌが、茄子の天ぷらを押し付けようと隣に座っている湖森の茶碗に乗せ、湖森はそれをネプテューヌの茶碗に返すのを繰り返す。
瞬はそれを横目にぬるくなった味噌汁を飲み干し、テレビの電源を入れる。
「……やっぱり騒ぎになってんじゃねーか」
「ん?お兄ちゃんなんか言った?」
「な、何でもない」
テレビでは、昨日のショッピングモールでの騒動が報道されていた。魔族の喧嘩という形にはなっているが、瞬は「魔族ってなんだ」というレベルで困惑していた。
「何時からこの世界はファンタジーになったんだ……」
ニュースを見ても、
そうしていながらも食事を終え、洗面所で顔を洗っていた瞬だが、誰かにぐいぐいと服を引っ張られたので振り返った。
「……なんだよ」
「病院に連れてって」
「なんだ、風邪でも引いたのか?」
いきなり言われても困る。てかどうしろってんだ、と思っていると、ポケットに入れていたスマホが鳴る。
画面を見ると、お騒がせ者の名前が出ている。朝から何だと悪態をつきながら通話に出た。
「今何時だと思ってんだ」
『あ、瞬?今ヒビキちゃんいるよね?』
本人は現在、瞬の隣で歯を磨き始めたところだ。その旨を伝えると、唯はなら良かった、と一呼吸おいて、
『今から市民総合病院に行くから、ヒビキちゃん連れてきて』
はぁ?という台詞が、思わず瞬の口から出てくる。
「コイツが病気だったりすんのかよ?ちゃんと説明してくれよ」
説明を求める瞬に、唯はおちゃらけた感じに瞬の発言を否定しながら次のように言った。
『違う違う。お見舞いなのさ☆』
唯から聞いた話によると、昨日のオリジオンに襲われて病院に搬送された女性とヒビキには面識があるらしく、ヒビキはあの人の事を酷く心配していたらしい。拒否しようかと思ったが、唯が「皆ハッピーって言うでしょ?」等煩いので、結局瞬が折れてしまったのだ。
まあ、唯のお人好し精神も少しあるわけであるが、それに従ってしまう瞬もお人好しなんだな、と思わず自分に苦笑してしまう。そういう感じに坂道を登る瞬に、上の方から声がかけられる。
「は・や・く、おいでよー置いてくよー?」
「で、なんで湖森も付いて来てんの」
「唯さんの御召集とあらばいざ行かん、女の友情ってやつですよん」
「人助けってのは女神、ひいては主人公たる私の行動指針の基本だからね。やらなかったらやらなかったで次元越しにいーすんが怒ってきそうだしなー」
結論から言うと、ヒビキだけでなく湖森もネプテューヌも、みんな付いて来た。ラノベハーレム的行進の出来上がりである。 ただしひとりは血のつながった妹、残りは住所不定の幼女×2。手を出すなんて到底不可能だろう。
「お前らは関係ないんだから来なくていいのに。てか俺も面識ないんだけど」
普通に考えて、瞬達が見舞いに行く必要はない。そもそも、瞬の言う通りヒビキ以外は面識皆無なのだから、行ったところで不審者極まりない。既に目的地が間近に迫っておきながら今更だが、自分が来る意味とは?と何度も考えている瞬。
と、ここで瞬の左手の中に何もなくなる。あれ?と思って見てみると、手を繋いでいた筈のヒビキが居なくなっていた。
「あ、あれ?アイツは何処行ったんだよ?」
「ホントだ……何処行っちゃったんだろ。いきなり迷子になるなんてどんな主人公補正?いーなぁ私にも分けねぷっ⁈ 」
「馬鹿な事言ってないで探すの。そしてオーバーリアクションだから」
またまた意味不明な事を言い出したネプテューヌに、湖森が軽く頭を叩いて突っ込む。二人を他所に、瞬はヒビキを探す為に来た道を引き返すことにした。
「何処行きやがったー?言い出しっぺはお前なんだからさー、勝手にどっか行くなってーの。出て来いやー」
微妙に気の抜けたような呼びかけをしながら、坂道のふもとまでやって来た。その時、何かが瞬の頭に当たったような感じがした。なんだなんだと頭を押さえながら足元を見ると、靴が片方だけ落ちていた。
「あんれ……」
どこか見覚えのある靴だなぁと思い、瞬は上を向く。そこには、
「うんしょ、うーんしょ……ほーら、大丈夫だからねー」
「みゃー」
街路樹に登って猫を助けようとしてる幼女がいた。彼女は瞬を見ると、
「下で構えていてー」
「いきなり過ぎじゃねぇのかお前……」
思わず「まるでアニメだな」という言葉が口から漏れる。成る程、落ちてきた靴は彼女のものらしい。しかし、ヒビキはかなり高く登っているのだが、ある疑問が浮かぶ。
「てか、お前降りてこられんのか?随分と高く登っているけどさ」
「……」
瞬の言葉に、猫を抱えたままだんまりとするヒビキ。どうやら図星らしい。
馬鹿だろコイツ……と、瞬は頭をかかえる。飛び降りるにしては少し高すぎて危ない。と、その時強い風が吹き付け、木の枝を揺らす。当然、上に乗っているヒビキも煽られてバランスを崩してしまう。
「あうっ」
「あ」
ずるり。ヒビキが木から落ちる。そのまま、下にいた瞬に向かって ——
「ばっ……」
「痛ぁっ!」
ドシン!という音と共に、二人は地面に倒れる。ヒビキの下敷きにされた瞬は、背中に響く痛みに顔を歪ませる。
「おーい、大丈夫ー?」
音に気付いたネプテューヌ達が駆けつけてくる。ヒビキは猫を抱えたまま起き上がり、
「私はへいきへっちゃらー」
「よかったーヒビキも猫も無事で」
「いや俺の心配はしないのかよ」
彼女らからの割と冷淡な反応に、軽く突っ込む瞬。まばらに見える通行人も何事かと此方を見ている。何とかヒビキを退かして立ち上がる。背中がまだじんわりと痛むが、我慢するしかない。
「ったく何やってんだか……痛っ」
「にゃー」
どうやら心配をしてくれているのは猫だけらしい。瞬は猫を拾い上げるが、特に暴れられる事はなかった。人間に懐いているらしい。
「おい、もう行くぞ。こんなところで油売ってたら唯が煩くなる」
「お兄ちゃん、ヒビキちゃんがいませーん」
またかよ。深い溜息と共に、瞬の顔に呆れが浮かび上がる。ただ単に病院に行くだけなのに、あっちこっちに逸れ過ぎな気がする。
ばっと辺りを見渡すと、今度は腰の曲がったお婆さんと話をしているヒビキの姿があった。
「何をしていらしてるんですかねあなたは」
「この人が荷物重たいって」
「このー歳になるとー、重いもの持って坂道を登るのがー難しくてなー」
確かに、老婆の背中には見るからにズッシリとしたバッグがある。ここまでは歩いてきたのか、本人も結構息切れしているようだ。ヒビキはなんとかして手伝いたいみたいだが、彼女の身長の半分くらいはある荷物を一人で運ぶのはキツイだろう。
しかし、ほっとくにしてはなんか危なっかしい。面倒だが、仕方がない。
「わかった、俺も手伝うから。お婆さん、俺が荷物を運びますよ」
「助かるねぇー、今時の子にしては随分と優しいもんだねぇ」
なんだかんだ言って、瞬も薄情な人間ではないのでほっとけないのだった。
――彼の後ろで微笑む老婆に気づかないまま。
「貴方は邪魔だから、くたばってくれないかしらねえ」
ずるりと、林檎の皮でも剥ぐかのように老婆の皮がめくれ上がる。その下からでてくるのは、全くの別人の、若い女性。
「この特典は、こんな事も出来ちゃうのよ」
《KAKUSEI YOSHI 》
その音で、瞬が振り返る。
その時には既に、女性の姿は醜い怪物に変わっていた。その姿には、見覚えがある。昨日、ショッピングモールで戦ったオリジオンだった。
「私の特典は、ヨッシーの力。タマゴにした人間に擬態できるのは、ほんのオマケ」
「なんだお前……」
「昨日は転生狩者りに邪魔されたが、今度こそ始末するわ」
「くそっ……おいっ皆逃げっ」
「させない!」
「がぁっ」
ヒビキ達に逃げるように言おうとした瞬だが、オリジオンに顔面を殴られて、街路樹に叩きつけられる。ズルズルとその場に崩れ落ちる瞬に背中を向けると、彼女はうねうねと舌を伸ばし始めた。
「に、げろ……」
「いただきます」
「うわっ⁉︎」
舌がヒビキ達に巻きつけられたかと思えば、カメレオン等が虫を食べる時の様に、それが勢いよく引っ込んで行く。
「なになに⁉︎ これなんてエロ同人――」
ネプテューヌの声が、そこで途切れる。怪物の口に、三人が飲み込まれたのだ。どうやったら人間を丸呑み出来るのかは知らないが、事実、瞬の目の前で起きたのだ。
「さて……邪魔な奴は消さないとねえ」
オリジオンは瞬に見向きもせずに、病院の方に向かう。彼女が遠ざかった後、ヨロヨロと瞬は立ち上がる。
「……行かせ、ねぇ」
その目に、怒りが宿る。
が。
「よぉ、随分と怒り心頭のようだな」
出鼻を挫くような台詞。
聞き覚えのある声が、後ろからかけられる。振り返ってみると、そこには一本の角を頭部に持った漆黒の仮面の戦士がいた。
「……リュウガ?」
「今の俺はダークカブトだ」
どうやら、いくつもの姿を使い分けているらしい。黄色い複眼越しに、此方を睨んでいるのが伝わってくる。
“意思も目的もない、強大な力。お前はそれがどれほど恐ろしいか分かっちゃいない”
あの言葉を、目の前のコイツはどんな意味で言い放ったのだろうか。一晩たった今でも、答えが出ない。
「なんで俺の前に現れた」
「お前に会いに来たつもりは微塵もない。俺は、俺の目的の為に動いている」
教える気どころか、瞬と会話する気すらないらしい。突き放すような物言いに、瞬は若干むっとくる。
ダークカブトは、地面に手をついたままの瞬を素通りしようとするが、ふとその足を止めて、瞬に質問する。
「そうだ、折角だからお前に訊く。あの力は何だ?転生者でも、本物でもないお前が、俺の知らない仮面ライダーに変身している。何故だ?」
「…………」
アクロスの力について訊いてきた。
実際のところ、彼はこの力についてはまだ殆ど知らない。熟知しているであろうフィフティが中々教えてくれないし、そもそもまだ2日しかこの力と付き合っていないのだから当然だ。
手に入れた経緯についても、未だに理解が出来ていない。あの理解の及ばない地獄の中、アレを手に入れて使ったこと。それだけが確かだ。
フィフティはこの力で世界を救えと言っていたが、スケールがでか過ぎて実感が湧かない。かと言って、アクロスの力の、他の使い道を瞬は知らない。
「……分からない」
結果、これしか言えない。
ダークカブトは、その答えを聞いて失望したかのような素振りを見せる。
その時、ある光景が脳裏に蘇る。
昨日の夢。
あの過去のプレイバックには、このような続きがある。
「青年期特有のアレだって……お前だってそうだろ?」
「いやいや、私はさぁ、皆ハッピーの精神の持ち主なワケですじゃん?」
ここでその言葉が出るか、と瞬は苦笑する。唯が割と頻繁に口にする言葉。誰か困ってたら、方法の有無に関係なしに、助ける為に動いてみる。誰かが困っているなんて見過ごせない。自分だけじゃなく、皆で幸せになるほうがより良いに決まってる。
「でもさ、私が昔っからこんな言葉掲げてたと思うかい?分かってるんでしょ」
「……たしかに、お前にそんな事考えるほどの頭は無いわな」
「うわひでぇ。女の子にバカって言いやがったよこいつ」
軽く頭の出来をバカにされた唯は、軽く瞬に肘鉄を入れてスキップで追い抜いていく。そして、少し離れた位置で振り返って悪戯な笑みを浮かべる。
「昔は、たしかに何も考えてなかった。ただ、どうしてもほっとけなかったからやってた。瞬と会った時もおんなじ。難しく考えなくていいのだよっ」
ウインクを一回して、唯は続ける。
「中身なんか、勝手に出来てくもんなの。最初は空っぽでも、面倒でも、全力でやってりゃあ中身なんか、後からでも簡単に作れちゃうもんだよ」
「そーか、そうかよ」
「誰かの受け売りだっていいよ。単純に、瞬がやりたいことやってれば、そんな気持ちすぐ吹き飛ぶよ――」
息の詰まるような重圧で、現実に引き戻される。
(そうだ……俺のしたいこと……)
“力が有ろうが無かろうが、瞬は瞬だよ。やれる事は増えたかもしれないけど、瞬がやる事は変わらないんじゃない?”
世界を救うなんて、大それた事ではない。今、やりたい事。そんなのは既に決まってる。
(助けなくちゃ……湖森も、ネプテューヌも、ヒビキも)
目の前で攫われた3人を助ける。兎に角今は、その為に力を使う。
あの時は、単に理不尽な奴だと思っていたが、後になって考えてみると、なんとなく理解できる。
そもそもの話、瞬は平和な世界で生きてきた人間であり、戦争経験など当然ながら無い。そんな人間がいきなり力を使う覚悟だ信念だなんだの言われても、正直ピンと来ない。
だから、身近な事で考えた。
――大切な人を失いたくない。
単純ながら、戦うには、力を使うには十分すぎる。世界を救う、という目的よりもまだ分かりやすいし、確かなものだ。声を張り上げて、ダークカブトの背中に言葉をぶつける。
「コッチは目の前で家族誘拐されてんだぞ!一応これでも、ヒビキとネプテューヌは昨日からの付き合いで一緒に食卓囲んだし、湖森は俺の妹だ!力を振るう目的だぁ?んなのあいつらを助けるってだけで今は充分だ!世界を救うアクロスの力があるんなら、人間の一人や二人助けられるに決まってる!俺はそれを幾らでも使って、助けてみせる!」
それはきっと、答えとしては赤点より酷いものなのかもしれない。瞬自身、途中から何を言いたいのかあやふやになっていた。
だが、ひとつだけ言えることがある。
――これが今、自分のやるべき事なんだ。
「どうやら、お前は俺の予想以上に馬鹿らしい。やはり、お前みたいな奴にはその力は過ぎたものだ」
必死に捻り出した拙い回答は、いとも容易く破り捨てられた。ダークカブトは、手斧のようなモノを取り出し、瞬に突きつける。喉元僅か数センチの距離に、死が迫る。
その時。
《KAKUSEI GUNGNIR》
突然、ダークカブトの頭部目掛けて振り下ろされた拳。ダークカブトは空いているよう手でそれを掴み、押し返す。
「お前は……!」
「またお前か、しつこい野郎だな」
其処にいたのは、昨日学校で瞬が戦ったオリジオンだった。そいつは、周囲に轟くような咆哮をあげると、その豪腕をダークカブトに向けて振るってきた。
ダークカブトはそれを腕で防ぐが、衝撃を消しきれずに少し後退する。そして、頭部に向けて放たれた二発目のパンチを、首を軽く捻って躱し、逆に オリジオンの腹部にパンチをくらわせる。
「相変わらず馬鹿みたいに硬ぇなおい!」
悪態をつきつつも、オリジオンのパンチを身体を捻って躱しながら、追撃の回し蹴りでオリジオンを地面に倒す。
いつの間にか、少年が居なくなっていることに気付かないまま。
インターホンを連打する音で、暁古城の眠りは妨げられた。
吸血鬼になってから極端に朝に弱くなった彼は、うまく働かない頭をなんとか働かせながらベッドから起き上がる。休みの日であろうと、朝は大抵妹に起こされるので、朝食を済ませてから二度寝と洒落込もうとしていたのだが、ここまで連打されると鬱陶しさを通り越して怖くなってくる。
「古城くん……なんなのこれ?」
妹の凪沙も、流石に怯えている。インターホンのモニター越しに、フードを深く被った状態で、無言でインターホンを連打する人物の姿が見てとれる。
「よし待ってろ、俺が見てきてやる」
誰だか知らないが、自慢の妹に悪戯をするようならとっちめてやる。そう意気込みながら、古城は玄関の扉に近づく。
すると、ピタリと音がとまる。唐突な静寂が、古城に緊張感を与える。前方に彼が一歩足を踏み入れたその時。
「掛かったな馬鹿めが」
ばごっ!!!!という音と共に、破片を残さずに玄関の扉が半分抉れた。あまりの出来事に、廊下の奥から様子を見ていた凪沙がリビングに引っ込む。
それと同時に、彼の手足に鉄の鎖が巻きつけられ、外へと体を引っ張られる。
「なんだこれ……」
「昨日ぶりだよな、暁古城オ!」
インターホン越しに見たフードの人物が、何も無いところから鎖を出している。よく見えないが、その下から見える端正な顔立ちは嫉妬に満ち溢れている。
「昨日ぶりだと……⁈ 誰だか知らねぇけど、いきなり襲いかかってくんじゃねぇ!」
「残念だが、さっさとお前を連れ去るぜぇ?確実に始末する為によぉ!こいつを黙らせろ、アスタルテ!」
フードの男がそう言うと、ばんっ!!!!という音がマンションの下から聞こえてきた。一瞬何だと古城は疑問に思ったが、彼の視界に藍色の髪が映る。
そこには、以前遭遇した人工生命体の少女がいた。彼女は一瞬、生気のない目をこちらに向けたかと思うと、
「
その言葉が紡がれると同時に、彼女の背後に巨大な半透明の腕が出現する。オイスタッハによって積み込まれた眷獣である。手足を拘束されている彼は、身動きがとれない。
男は、そんな古城を嘲笑うかのように告げる。
「黙らせろ」
「させません!」
瞬間、両者の間に文字通り横槍が入れられる。男が視線を向けた先には、槍のようなものを構えた雪菜の姿があった。
七式突撃降魔機槍 ——通称・雪霞狼。雪菜が所属する組織・獅子王機関が開発した、魔力を無効化し、あらゆる結界を切り裂く“神格振動波駆動術式”を搭載している秘奥兵器だ。勿論、それは吸血鬼の眷獣だろうと関係ない。アスタルテの眷獣に向かって一直線に穂先が迫る。
しかし、
「邪魔」
男は雪菜の足元めがけて剣を射出する。彼女が一瞬ひるんだその隙に、彼らは古城を鎖で縛り上げたうえで逃亡にかかる。
「先輩っ!」
「なら、お前もだ」
男を追おうとする雪菜に、古城と同じ鎖が巻きつけられる。そして、男はフードを脱いで気味の悪い笑顔を雪菜に向ける。
《KAKUSEI GILGAMESH》
瞬間、男の身体に無数のジッパーが現れて、それらが一斉に開き始める。隙間から漏れる黄金の輝きが、酷く禍々しい。
変化が終わると、そこにいたのは黄金の鎧を身に纏った怪物だった。
「はっはははははははははははははははははははははっははははははははははははぁ!」
怪物の醜悪な笑い声が辺りに残響する。
あまりに理不尽で、無意味な戦いの幕が上がる。
朝日の差し込む白い部屋。そこにある、たったひとつのベッドに寝かされた女性。
みたところ、ここは病室のようで、彼女は入院患者らしい。体のあちこちに包帯やガーゼが見えている。
(ああ、失敗したんだ)
ぼんやりとした意識の中、彼女はそう思った。どうしてもやらなきゃいけない事をしていたが、自分の力不足で、愚かにも病院送りにされてしまった。
情けなさと悔しさに打ちひしがれる彼女。その時、病室の扉が開き、誰かが中に入ってきた。
「あ、目覚ましたんですね」
入ってきたのは、金髪の高校生くらいの少女だった。
「……貴女は?」
「諸星唯です。ほんっとに、無事で良かったぁ……」
名前を告げて、直ぐに彼女は女性の手を取って嬉しそうに笑った。
「な、何?貴女、一体何のつもりなの?」
「私が見つけた時、酷い怪我だったんですよ……ヒビキちゃんも凄く心配してたんですから」
「ちょっと待って?あの子は無事なの⁉︎ 」
唯の発言に、凄い勢いで喰いつく女性。包帯だらけなのも相まって、唯はその剣幕に思わず体が竦んでしまう。
女性を落ち着かせながら、唯は答える。
「大丈夫だから、今私の幼馴染みが連れて来てますから。私に負けず劣らずのお人好しなんで安心してくださいよ」
「良かった……無事だったんだ、あの子」
そう言うと、女性はホッと安心したかのようにベッドに背中を預け、窓の方を見る。ここで、唯の頭にある当然の疑問が浮かぶ。
「貴女とヒビキちゃんって、どういう関係なんですか?」
「……皆戸 灯。いい加減、名前くらいは言わなきゃいけないから、とりあえず名乗るわ」
そうして女性 —— トモリは、話し始めた。
「今起きてる連続児童失踪事件の事、どれくらい知ってる?」
「はい?」
いきなりそんな話題を吹っかけられるとは思ってもみなかった模様で、思わず素っ頓狂な声を上げる唯。トモリはその反応を確認した上で続ける。
「その様子だと、テレビで知ってるレベルの様ね」
それがどうしたんだ、と思っている唯。トモリは声を押し殺すように告げる。
「私は、あの子を誘拐犯の元から連れ出した」
その時、部屋は静寂に包まれた。トモリの爆弾発言に、唯がどう反応していいのかわからなかった為だ。思わず唯は訊き返す。
「は、ちょ……何いきなりカミングアウトしちゃってるんですか……てかあれ、誘拐事件って……?」
「貴女も見たでしょうに。あのオリジオンを」
オリジオン。確かそんな言葉をフィフティも言っていたような気がする。イマイチピンとこない様子の唯。昨日ショッピングモールで出会った、緑色のトカゲみたいな顔をした怪人の事だろうか。
「あいつの元から逃げ出した時に、私はあの子と逸れたの。あいつは執念深いから、まだあの子を狙っているし、散々邪魔した私も狙っている」
その時、病室の扉が開く音がした。瞬がヒビキを連れてきたのだろうと、唯は扉の方に振り向く。
「……あれ、どちら様?」
そこにいたのは、背中にやけに大きな荷物を背負った、20歳くらいの女性だった。しかし、どこか女性に見覚えがあるように感じるのは気のせいだろうか。
その女性に向かって、トモリはつよく睨みつける。女性はそれを見て鼻で笑うと、
「トドメを刺しに来たに決まってるでしょ」
「え……」
そういうと、女性の身体に無数のジッパーが現れたかと思えば、それらが一斉に開き始める。
《KAKUSEI YOSHI 》
「私の楽しみを邪魔する奴は、たとえ前世からの友達でも許さない!」
女性の姿は、緑色のトカゲのような怪物 —— オリジオンに変わっていた。唯は腰を抜かして床に尻餅をつき、トモリは身構える。
「その怪我じゃマトモに戦えないでしょ?そもそも、貴女は一度たりとも私に勝ったことがあったかしら」
オリジオンは、そんなトモリの姿を見て再び鼻で笑い、落としていたバッグからあるものを取り出す。
それは、大きなタマゴだった。殻が不気味に痙攣しているそれを、彼女は嬉しそうに掲げる。
「ネプテューヌちゃん、逢瀬湖森ちゃん、ヒビキちゃん……この子達も、立派なコレクションの仲間入りよ……」
「え……ちょっと待って……三人が……?」
「私のタマゴの中。じきにみんな、私の愛おしいコレクションになるのよ。この世界の可愛い子供達は皆私のモノなのだから」
嬉しそうに笑うオリジオン。話が本当なら、今三人は、彼女の手にあるタマゴの中に入っているということになる。
「さて、落とし前をつけてもらうわよ。友達だからって手加減は期待しないで。そもそも、もうアンタは友達じゃない」
オリジオンが、二人に近づく。ここまでベラベラ話したのも、勝利を既に確信しているからか。じりじりと、距離を詰めてくる。
来る。咄嗟に唯は目を閉じる。
その時だった。
「ようやく、追いついたぞこの野郎!」
先程、オリジオンにぶん殴られた瞬が、追いついた。口から血を流しながら、彼はオリジオンを睨みつける。
「生憎、私は野郎じゃないのよ」
「アイツらは、返してもらう」
「なら先に終わらせる!」
そう言うと、彼女はその舌を伸ばし、ベッドにいるトモリに巻きつける。彼女を始末する気だ。
「させるかっ」
瞬はバックルを取り出し、腰に取り付ける。そして、ライドアーツを取り付ける。
「待ってろ……今助ける!変身!」
《CROSS OVER》
オリジオンはトモリを飲み込むと、手からエネルギー弾を出して病室の窓を破壊し、そこから飛び降りる。
《思いを!力を!世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》
「待てっ!」
アクロスに変身した瞬は、昨日フィフティから受け取った別のライドアーツを取り出し、病院行った外へ向けて投げる。
「瞬 ⁉︎」
「てぇやあああああ!」
そしてそれを追ってアクロスも飛び降りる。唯が何か叫んでいるのが聞こえた気がしたが、アクロスの思考は、オリジオンからヒビキ達を奪還する事に集中しきっていた。
地面まで数メートル。昨日のフリーフォールが脳裏に蘇り、少し身震いしてしまう。しかし、彼は止まらない。
《VEHICLE MODO》
既に地上には、ライドアーツから変形を終えたバイクが止まっていた。アクロスはその上に着地と同時に跨ると、バイクのアクセルを思い切り回す。
「俺は……彼奴らを助ける!」
中々進まないなぁ……まさかもう1話続くなんて。
まあ序盤だから、出さなきゃいけないキャラや、やらなきゃいけない展開が多いもんで。一応世界観についての概要はチビチビ出してますが、自分でも書いてて結構ややこしくなってるなぁと思ってます。
明らかにミスマッチな作品ばかりだもん。
でもやりたいからやってますし、出来るだけ整合性は合わせるつもりですから少しだけ安心しても大丈夫だ、問題ない。
書きたいものを書いてるわけですが、やはり評価・感想が欲しいという気持ちも僅かながらある自分ェ……嫌になりますよ(自己嫌悪)
誤字脱字等アドバイスがありましたら、コメントして頂ければ嬉しいです。活動報告でリクエスト募集もしてますので、良ければしちゃってください。
次回 クロスオーバー・ヒーローズ
お楽しみはこれからだ!