【第1.5章始動‼︎】仮面ライダーアクロス With Legend Heroes 作:カオス箱
前回までのあらすじ
・児童誘拐犯の正体が明かされる
・覚悟を決めたアクロス
・雪菜と古城、連れ去られる
なんとか平成に間に合った。
今回はほぼバトルオンリー回、そして平成最後の投稿です。
途中ヘイト展開がありますので注意。
風を切るような音が聞こえる。
猛スピードで空を飛ぶ緑色の怪人と、それを追う一台のバイク。街中で始まったこの追跡は、郊外へと広がっていた。
「シツコイわね!アンタみたいな子はとことん痛い目を見てもらうわよ!」
前方を飛ぶオリジオンは、バイクで追跡してくる瞬に向かって口から火球を吐き出す。しかし、アクロスは火球が地面に着弾する直前にバイクごと飛び上がり、それを回避する。
「何⁉︎」
(はわぶっ……危ねえ!つーか、こんな事できるなんてな……自分でも驚きだぜ……)
瞬自身も、先程のような動きが出来たことに驚いている様子。オリジオンの方も、瞬の動きに驚いたような素振りを見せるも、すぐに気を取り直し、火球を連発する。
「あっ……ぶねぇ!」
アクロスはハンドルを左右に何度もきり、蛇行しながらそれらを回避していく。このままだと一方的にいたぶられるだけだ。何か反撃の術は無いのかと、アクロスは左手でベルトやバイクのタンク表面を探ってみる。
すると、ベルトに何かがぶら下げられているのに気付いた。
「んならこれで……!」
銃口を前方にいるオリジオンに向ける。相手もそれに気づき、返り討ちにしようと掌にエネルギーを貯める。
刹那、両者の攻撃が炸裂した。オリジオンのエネルギー弾は瞬目掛けて真っ直ぐ飛んでいくが、アクロスはその直前で急ブレーキをかける。バイクの進む速度を考慮された攻撃は、それによって標的がずれ、バイクの手前スレスレに着弾する。
「がっ……」
逆に、アクロスが放ったエネルギー弾は、オリジオンのモノの横スレスレを通過しながら、オリジオンの片翼を貫いた。
バランスを崩し、近くの崖に体をぶつけるオリジオンに対し、瞬は続けて引き金を引いた。
「てぃやあ!」
「はながばぶ……っ⁈ 」
オリジオンに次々と着弾し、その度に両者の距離が縮まってゆく。高度と速度を落としていくオリジオンに、瞬はアクセルを更に回して突っ込んでいく。
そして。
ズガアアアアアンッ!!!!と。
オリジオンはバイクに跳ね飛ばされた。
「がっばはっ!」
街の郊外にある廃倉庫に、カエルを潰すような音が響く。
鎖で縛られたまま、古城は100m程の高さから地面に叩きつけられた。その際にあちこちの骨が砕けたり、内臓が潰れるような感じがしたが、彼が真祖でなければ確実に死んでいただろう。
裏を返せば、向こうは殺す気満々らしい。同じく鎖で縛られた雪菜を抱えたまま、黄金の鎧を纏った怪人とアスタルテが地上におりたつ。
「しぶとい野郎だな。なんで生きてんだかなぁ……申し訳ないと思わないのかよ!」
「がっ」
苛立ちの込められた蹴りが、古城の顔面に突き刺さる。普通の吸血鬼なら、鎖など容易く引き千切れるのだろうが、人間の血を一度も吸っていない古城は、吸血鬼の身体能力も、強力な眷獣も使えない。
結果として、ただの蹂躙劇が繰り広げられていた。
「おらもう一発!」
「ぐふっ……」
思い切り顔面を蹴られた古城は、サッカーボールのように飛んでいき、倉庫の壁を突き破って放棄されたトラックにぶつかって漸く停止した。
古城の血塗れの顔を見て、怪人は更に怒り狂ったように古城を罵倒する。
「お前はクズだ!存在する価値の無いクズだ!周りの女には事故と偽ってセクハラ、自分の立場を弁えずに力を振るう、欲望に逆らえない!生きてて恥ずかしいと思わないのかこの化け物!」
古城が存在する事自体が許せないかのような言い分。縛られた状態の雪菜は、次第に彼にある疑問を抱くようになった。
何故ここまで古城を憎むのか?凪沙を誘拐した件から私怨の線を考えたが、それにしては言ってる事が稚拙すぎる上、何より雪菜にむける視線が、まるでものを見るような感じなのだ。
次に雪菜は、怪人の傍に居るアスタルテに視線を向ける。確か彼女は、魔族狩をしていた殲教師と共に行動していた筈。なのに今は、この怪人と行動を共にしている。何故なのだろうか。
と、ここで雪菜の怪訝そうな顔に気付いた怪人は、嬉々とした様子で話し始めた。
「ああ、コイツは既に俺の手駒 —— いや、俺に救われた身。第四真祖の汚れから救い出した……君も直ぐに救ってやりたい」
話が通じない。同じ地面に足をつけ、同じ空気を吸っているにもかかわらず、別の世界で生きているような雰囲気だ。
雪菜の鋭い視線を感じ取った怪人は、どこか失望したように俯く。
「しかし、君は拒絶するみたいだな」
「貴方は、一体何者なんですか……」
「君を救う者だ」
雪菜の問いに、一瞬の迷いもなく、彼はそう言い切る。その目には、光が無かった。そして、彼は誰にも聞こえないような声で、自分に言い聞かせるようにこのような言葉を繰り返し呟いていた。
「なんでしぶといんだ……俺の知ってるコイツは雑魚だった筈だろぅ……?俺はコイツを殺して雪菜達を救う為に転生してきたヒーローなんだぞ……欲の権化・暁古城なんか楽に殺せるから、いたぶってるんだ……」
宵江誠。前世名・宅島海士。前世享年28年。
モヤシ体系な彼は、日頃から自分の気に入らないものをボロクソにとぼすような人間であった。なかでも、ライトノベル作品を特に嫌悪し、中身を知らずに人の又聞きで批判するという事を繰り返していた。
そんな事ばかりしていれば嫌われるのは明白であり、次第にネットでもリアルでも孤立していった彼は、ある日酔って川に転落し、誰にも助けてもらえる事なくそのまま溺死した。
そして気付けば、彼は白い空間にいた。
「なんだ、これ」
360度見渡しても、地平線が見えることはない。ただ、彼の目の前には、自販機のような装置が一台、ぽつんと立っていた。
《特典と世界を選んでください》
装置のタッチパネルに表示された一文を見て、彼は即座に理解した。
(これ、転生じゃねえか!)
生前酷く羨んでいたことが、今自分の身に振りかかっている。頭に抱いていた僅かな疑問をかなぐり捨て、男は狂喜した。
家族や友人の事はどうでもいい。彼にとって、家族や友人は自分を理解する事の出来ない馬鹿だからだ。転生すれば、自分は正義の味方になれる。人間として劣っている原作主人公の魔の手からヒロイン達を救える。彼は本気でそう思って、そして「王の財宝」を特典にこの世界に転生したのだった。
全ては、主人公の中でも一番嫌いだった暁古城を消し、全てを奪う為。もうすぐ彼の野望は成就する、筈だった。
しかし。誰も予想しなかった全くの偶然が、それを阻む事になる。
「……アスタルテ、何かが近づいて来てる」
怪人が、何かの音に気付いて暴行の手を止める。古城も、次第に大きくなってゆくその音に気付いて目を動かす。バイクの走る音だ。それも、此方に近づいてきている。
「迎撃してこい」
怪人が冷たい声でそう言うと、眷獣を連れたアスタルテが音源に向かっていく。たとえなんであろうと、王の財宝がある限り敵ではない。そうほくそ笑みながら古城の方を向いたその直後。
ズガガガガガガッ!!!!と。
倉庫の壁を削るような音と共に、緑色の怪人が吹っ飛んできた。
「ようやく、止まった……」
オリジオンを吹き飛ばした後、壁ギリギリで漸くアクロスのバイクは停止した。辺りを見渡すと、ズダボロの少年と黄金の鎧を纏った オリジオンがいた。
「てか、もう一体いるのかよ……」
アクロスの追ってきたオリジオンの抱えていたタマゴのような物体が、ボロボロの少年の足元に転がってくる。
何だと思って見ていると、それにひとりでにヒビが入っていく。辺りにヒビが入る音だけが響きわたり、ついにタマゴが割れてしまった。すると、眩い光が辺りを包みこむ。
「が、ががが……」
光の収まった後、其処には砕け散ったタマゴの殻と、ヒビキ達の姿があった。アクロスは、それを見てほっと胸を撫で下ろすが、まだ脅威は去っていない。
二人の怪人は、アクロスを睨みつける。一人は自らの邪魔をした憎き相手として、もう一人は新たに現れた未知の存在として。
そして、もう一人は。
(なんだあれ……)
激痛に襲われながらも、暁古城はその姿を凝視していた。
今迄に見たことのない、奇妙な存在。敵が味方か定かでない存在に対し、彼はただその姿を凝視する他なかった。古城から離れた位置で縛られている雪菜も、同じ思いなのだろうか。
黄金の鎧を身に纏ったオリジオンは、アクロスに一歩近づき、こんな事を言ってきた。
「なんだお前……折角いいところだったのに邪魔すんなよ」
「どう見てもイジメやってるようにしか見えねぇよ」
目的を果たす寸前で乱入してきた部外者に対し、オリジオンは手をかざす。すると、彼の背後に眩い光の渦が出現する。
「
「なっ……⁉︎」
瞬間、目にも留まらぬ速さで光の渦から何かが射出され、瞬の足元を抉り取った。粉塵が撒きあげられ、アクロスの視界が塞がれる。
アクロスは粉塵の中、自らの足元に突き刺さったものを見た。それは剣だった。派手な装飾のつけられた一本の剣が地面に突き立てられている。そして、煙の向こうから怒鳴りつけるような声が聞こえてきた。
「なんで……なんで肝心な時に邪魔が入るかなぁ……ホント馬鹿しかいねぇじゃんこの世界ぃ!」
「あっ⁉︎」
邪魔をされた事により、オリジオンは激昂し、辺り構わずに剣を射出した。
対峙していた瞬も、アクロスの追ってきたオリジオンも、漸く目を覚ましたネプテューヌ達も、縛られた古城と雪菜も。
この場にいた全員を巻き込んで、大爆発が引き起こされた。
一方、病院前で戦闘中のダークカブトは、オレンジと黄色の装甲を身に纏ったオリジオンを圧倒していた。
「クロックアップ」
《CLOCK UP》
ダークカブトがベルトの右側面につけられたボタンをタッチすると、一瞬にして彼の姿が消える。突然の出来事に戸惑う素振りを見せるオリジオン。あたりを見渡して敵の姿を捉えようとする。
次の瞬間、オリジオンの身体が真上に跳ね上げらる。そして、背中に衝撃が加えられたかと思えば、顔面にダークカブトの拳がめり込んでいた。
《CLOCK OVER》
「遅い、そして弱い」
突然目の前に現れたダークカブトは、そう言い放って、オリジオンの脇腹を蹴り上げ、コンクリートの壁に叩きつけた。
ズルズルと地面に崩れ落ちるオリジオン。ダークカブトは、トドメを刺そうと接近する。その時、横から戦いに水を差すような声がかけられた。
「邪魔、しないでくれないかな?」
「……ギフトメイカー」
戦いに割って入ってきた、制服姿の金髪の少年は、ダークカブトの言葉を聞いて顔をしかめる。
「僕にはレドって名前があるんだけどね」
「一々覚えるメリットがねぇからだよ」
「まぁ、よくもコイツを痛めつけたもんだ。やはりお前は厄介な邪魔者だ」
レドはそう言うと、パチンと指を鳴らす。すると、彼とオリジオンの背後の壁に謎の穴が出現する。その中はまるでテレビの砂嵐の様になっており、よく見えない。
「逃すか!」
「バーカ、僕達は簡単には捕まらないよ」
ダークカブトは咄嗟に地面を蹴り、レド達を追いかけて穴へと飛び込もうとする。しかし、その前に穴が消え、ダークカブトは一人その場に取り残された。
「相変わらず逃げ足の速い奴等だ……さて、なら彼奴を追いかけるか」
ダークカブトは、そう言って街の外れにある山の方を見る。
山の一点からは、煙が上がっていた、
瓦礫に囲まれた中、緑色のオリジオン —— ヨッシーオリジオンは四つん這いになって何かを吐き出そうとしていた。
「お、おええええええっ!」
血とともに、彼女の口からあるものが吐き出される。
それは、トモリだった。包帯と手術衣がはだけた状態で、全身はオリジオンの唾液と、開いた傷口から溢れた血で濡れている。トモリは、オリジオンを真っ直ぐ見つめながら言う。
「ねぇ、もう止めない?」
「嫌だ……私は、この力を使って……」
「やっぱり、その特典が貴女を変えてしまったの……?そんな力、この世界で生きてくのには必要ないのに」
トモリは、嘗ての友に向かって呼びかける。しかし、その言葉を必死に振り払い、否定するかの様な声が投げ返される。
「この力が有れば、前世の様な惨めな思いはしない!上手く生きてける!貴女だってそうでしょう!力が無い奴は何をやっても駄目!力が有ればなんでも出来る!」
「力の有る無し以前に貴女のやってる事は犯罪なのよ⁉︎ 何も知らない子供を攫っては悲しませる、貴女はそんな事するような人じゃない!」
「アンタの知る私はもう居ない……いい加減私から離れろ!私は私のやりたいように生きるんだから!」
オリジオンはそう言うと、トモリの顔を思い切り殴り、尻尾で薙ぎ払う。彼女の身体が何度も地面をバウンドしながら飛んでいき、瓦礫の上に落ちる。
これで懲りただろう、と吐き捨て、オリジオンはトモリに背を向ける。その時、彼女に向かってこんな言葉がかけられた。
「力なんかあったって……何も出来ない……力で何かを手に入れたって、直ぐに全部失うモノなのよ……」
オリジオンは声がした方を向くが、そこには、瓦礫の上で意識を失ったトモリが倒れているだけだった。それを確認すると、再び背を向けて歩き出す。その足取りは、何処か力無いように見えた。
水滴のようなものが頰に落ちた感覚で、雪菜は目を覚ました。何か鉄臭い匂いがする。先程の攻撃で、辺り一面瓦礫まみれになっている。暗闇の中、どうにかして瓦礫の下から抜け出そうと体を少し動かす。
が、ここで誰かの呻き声がした。随分と近い。ぼんやりと、少しずつ暗闇に目が慣れてくる。
「先輩?」
それは古城だった。彼の顔が、雪菜のすぐ近くにあるのだ。雪菜を庇うかのような体勢で、彼も瓦礫に飲み込まれていたのだ。
その時、ピシリという音が雪菜の耳に入ってきた。見ると、彼女らを覆っている瓦礫の一部に、ひび割れが生じている。そして、そのまま瓦礫が粉々に崩れ去り、光が入ってきた。
そして、目を覆いたくなるような現実が見えてしまった。
「……大丈夫、か」
「せん、ぱい……」
まるで針山のように、数々の武器によって串刺しにされている古城。口から垂れた血が、下にいる雪菜の顔に落ちる。
死なないと分かっているとはいえど、充分ショッキングな光景であるし、古城自身も相当な苦痛を感じているに違いない。
「よ、かった……お前が、無事で」
「なんで……なんで私を?」
「お前がここで死んだらダメだろ」
古城はそう吐き捨てると、よろよろと立ち上がり、腹を貫いている槍に両手を持っていき、力強く握り締める。そして、それを勢いよく引っこ抜いた。
穴から流れ出す鮮血が、地面を紅く染めていく。呆然としている雪菜に対し、古城は続ける。
「相手の狙いは俺だけなんだ。だから、俺が囮になりゃあ姫柊だけは……アイツらも逃げられる」
「……そんなの、意味ないじゃないですか」
「アイツは、俺を殺す為ならなんでもする。凪沙を人質に取ったり、一度俺と戦ったオイスタッハを殺してアスタルテを支配下に置くことも。更にエグい手段をとるかもしれないんだ」
あの怪人と古城。どちらかが消えるまで被害は広がる。しかし、古城達には勝ち目が殆どない。どん詰まりである。
古城は、体を貫いていた剣を全て抜き終わると、瓦礫の上に腰を下ろす。流れ出た血が、傷口へと戻っていく。
「誰かを危険に晒してまでも生きてけるような、だからといって自分から死にに行くような、そんな度胸はない。つーかお前はさ、俺を殺しに来たんだろ?これでお役御免になるだろ」
「……私だって、先輩を犠牲にしてまで生きたくないです。先輩が居なくなったら傷付く人がいる!」
僅かな間ながら、雪菜は古城を見てきた。その目には、第四真祖という強大な力を持っていながらも、人間として、人間の中で生きようとする古城の姿が映っていた。
そんな古城が、ぽっと出の怪人に全てを否定されて殺されるのは納得がいかない。
「それに、あんな奴の為に先輩が命を投げ出す理由なんてないです。私を見る目が、先輩とは違う意味で気持ち悪かったんです」
「俺気持ち悪いの……?」
「戦います、私」
若干傷付く古城をよそに、雪菜は立ち上がって雪霞狼を構える。
「だけどよ、俺は戦えない。眷獣だって操れない —— 」
古城がそう言いかけたその時、雪菜はばっと古城のパーカーのフードを引っ張ってその場に押し留める。
「いぎぎぎぎぎぎぎ!首締まる!」
「血を吸ったことがないから眷獣を扱え無いんですよね」
「ちょいまち……姫柊、何するつもりで……」
古城は狼狽えるが、吸血鬼としての本能が容赦なく膨れ上がっていく。興奮に引きずられるように、古城の口が雪菜の首元に迫る。
そして。
――カブリ。
また一人、舞台にヒーローが上り詰めた。
「っはぁ……返事……しなよっ」
ネプテューヌは、瓦礫を必死に退かしていた。
意識が覚醒した時、彼女は一人だった。ヒビキも湖森も居なかった。最後に見たのは、あの黄金の鎧を身に纏った怪人が、手当たり次第に攻撃を仕掛ける様。幸いにも、ネプテューヌ自身には怪我は無かったのだが、あの二人は普通の人間なのだ。一泊二食の恩とはいえど、二人に何かあったら瞬に顔向け出来ないし、女神としても失格だ。
訳あって本来の力が出せない状況に若干歯痒さを感じながらも、彼女が手を止めることはなかった。
「ん……この音は……?」
何処からか、爆発音のような音が聞こえてきた。ネプテューヌは、音源目指して瓦礫の山をよじ登っていく。
そこには。
「はぁ……はぁ……」
「が、ががががががが」
「こ、こ、来ないで……」
二体のオリジオンに迫られている湖森とヒビキの姿があった。湖森はヒビキを抱きしめながら、ガクガクと震える足で後退している。
黄金の鎧を纏ったオリジオンの方は、もう理性を失っているらしく、誘拐犯の方も何処か足取りがおぼつかない様に見える。しかし、依然として脅威なのは変わりない。
ネプテューヌが二人を守る為に飛び出そうとしたその時。
「テメェの相手は俺じゃなかったのかよ?」
「….…お前は」
「ヘェ……ヴヴヴヴヴヴヴヴ……」
ネプテューヌとは反対側の瓦礫の山の上に立つ少年と少女。それを見て、鎧のオリジオンは獣の様な唸り声をあげる。
「やっぱり俺が邪魔らしいな。いいぜ、その喧嘩買ってやるよ」
「……いけますか、先輩」
「ああ……ここから先は、
初動は成功した。
被害を軽減すべく、怪人の内一体は此方に注意を向けてきたが、もう一体はまだ少女達を狙っていた。しかし、助けにいく余裕はない。目の前の理性を失った怪人が、古城に向かって剣を突き立てている。
「はぁっ!」
しかし、雪菜によって文字通り横槍を入れられて、剣が弾かれる。
「ぐ、ぎ、ギギギギイ!」
雪霞狼を構えながら一気に距離を詰める雪菜に対し、怪人はけたたましい咆哮をあげる。
すると、それに呼応するかの様に、両者の間に眷獣を引き連れたアスタルテが割って入り、雪霞狼を押しとどめる。眷獣の表面は、雪霞狼と同じ光に包まれていた。
「なっ……雪霞狼を止めた⁉︎」
真祖の眷獣さえも滅ぼしうる刃が、アスタルテを包む眷獣に防がれ、彼女の身体の手前で止まっている。驚愕の表情を浮かべる雪菜に対し、アスタルテは無慈悲に眷獣の腕を振るおうとする。
人間である雪菜がこれを受ければ一たまりもないのは明らか。
「貴女は愚かです。その男についた事を後悔して終わるべきです」
アスタルテの冷たい声。その眼に光は無く、ただ燻んだ青い瞳だけがあった。
雪菜に迫る眷獣の腕。目撃すれば、誰もが諦めるような光景。
しかし、そんな結末は霧散する――
「“
何処からか聞こえる古城の声。
それと同時に、周囲を塗り潰す雷光。その中に浮かび上がるは、紅き瞳を鋭く光らせ、雷光の獅子を引き連れた第四真祖。荒れ狂うような魔力が辺りを震わせ、前足でアスタルテの眷獣を止めていた。
「…………」
怪人は動きを止め、その様子を呆然と見ている。
そして。
「やりやがったなあああああああああああああああああああ暁古城おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
咆哮ではなく、意味のある、明確な怒りの篭った叫び声。まるで、大事なものを壊されたかのように怒り狂い、一直線に古城に突っ込んでいく。
「貴様ぁあああああああああああああああ!血を、血を吸ったなぁああああああああああああああ!忌避してたのにぃいいい……許せねぇ……殺してやるうううう!」
背後の光の渦から無数の剣を取り出し、それら全てと共に、弾丸のような速さで古城に突っ込んでくる。
アスタルテも、古城の眷獣に反応して共に突っ込んでくる。
「いっけえええええええええっ!!」
古城の方は、真っ直ぐ前を見据えて眷獣の狙いを定める。黄金に輝く鎧の怪人。光に包まれるアスタルテ。そして、巨大な眷獣の前足が振り下ろされ、激しい雷霆となって二人に襲いかかった。
白く塗り潰された視界が復活する。
はじめに映ったのは、青い空。古城は、自身が倒れていることに気づくのに数秒かかった。
「……あ?」
身体を動かすたびに全身が軋むように痛み、苦悶の表情を浮かべながら古城は上体を起こした。
そこには、身体のあちこちを焦がした満身創痍の少年と、眷獣を出したまま、口から血を流して突っ立っているアスタルテの姿があった。
「なっ……」
「先輩、気を付けてください。あの子、雪霞狼の“神格振動波駆動術式”をコピーしてます。それで先輩の攻撃を無効にしたんです」
いつの間にか傍らにいた雪菜の忠告を聞きながらも、古城はアスタルテをただじっと見つめていた。
「……あの人工生命体、眷獣を植え付けられてやがるんだ。このままだと、死ぬ」
眷獣は、吸血鬼だけが扱い得る力。それは、眷獣の実体化の際に宿主の生命力を多く喰らうからであり、無限の“負”の生命力を持つ吸血鬼だからこそ飼い慣らせる。
当然、人間は然り、人工生命体や獣人、悪魔であろうとも他の種族が眷獣を宿せば、長くは生きられない。
これを行ったのはオイスタッハであるが、怪人の少年はそんなの御構い無しに、ただ古城を殺す為だけに彼女に力を使わせていた。目の前の彼女の様子を見る限り、そう長くはないらしい。
「……ひでえ話だ」
「先輩?」
「姫柊、いけるか?」
「はい」
二人は立ち上がり、眷獣を纏ったアスタルテを見据える。
戦いに、そして周りに利用され続けたまま、使い潰されようとしている少女の運命に終止符を打つ為に。
「いくぞ」
「はい」
その会話を皮切りに、二人は駆け出した。アスタルテの眷獣の腕が容赦なく襲いかかってくるが、古城の眷獣がそれを押し留め、雪菜の進路を確保する。
前に出た雪菜は、銀色の槍を携えながら瓦礫の上を駆け、粛々とした祝詞を発する。
「獅子の巫女たる高神の剣巫が願い奉る —— 破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
祝詞の終わりと共に、槍が仄白く光り始める。
もう一本の腕の攻撃を跳んで回避し、そのまま雪菜は銀の槍を構える。神格振動波駆動術式を槍の先端一点に集中させ、ただ鋭く、細い一撃を突き立てようとする。
「雪霞狼!」
同じ術式で無効にしていようとも、アスタルテの方は大きな眷獣の全身を覆うように結界を構築している。対する雪菜の方は、結界を貫くために鋭く一点に集中している。
「はっ……」
眷獣を包む結界を突き破り、その頭部へと深々と突き立てられる銀の槍。雪菜は槍を手放し、地面に着地すると、眷獣を抑えていた古城に呼びかける。
「今です、先輩!」
「ああ!“
瞬間、古城の眷獣は巨大な稲妻に姿を変え、避雷針のごとく突き立てられた銀の槍目掛けて一直線に飛んで行く。そして、その雷は一瞬にして眷獣の全身を駆け巡った。
眷獣を倒すには、より強い魔力をぶつける事。圧倒的な強さを誇る第四真祖の眷獣をマトモにくらい、アスタルテの眷獣は消滅した。
「……や、った?」
「……おそらく」
辺りに訪れる静寂。
雪菜は緊張が解け、その場に崩れ落ちる。しかし古城は、倒れているアスタルテをまじまじと見つめている。
「姫柊。誤解されないよう説明しとくぞ」
「は、はい」
「このままじゃ、コイツの命は永くはもたない。だから、これからやるのはコイツを救う為の行動だからな」
古城達の目の前には、眷獣を宿した影響で、永い寿命を使い果たしかけた人工生命体の少女が横たわっている。
古城が見出した救う為のプランとしては、彼女の血を吸う事で彼女から眷獣の支配権を奪い、吸血鬼である古城の生命力で動くように変更する事だった。要は魔力の貸し出しである。これにより、彼女の寿命は長くなる筈だ。
「誰も犠牲にはしない、俺の周りではな」
鎧のオリジオンは、先程の少年を追って既に姿を消していた。
ネプテューヌは、誘拐犯の方を見る。向こうもこちらに気付いたのか、両者の視線が交差する。
「あら、いたの」
「さっきの様にはいかないよ?私、こっから逆転劇おっ始めるつもりだし」
「強がっちゃって……嫌いじゃないわ。今度こそ貴女を私のモノにしちゃうんだから」
オリジオンはそう言うと、ネプテューヌに向かって舌を伸ばしてくる。ネプテューヌは咄嗟に真横に転がって回避すると、何処からか木刀を取り出して構える。
「残念だけど、私は皆の女神。誰か一人のモノにはなれないんだよっ!」
「女神だろうと何だろうと、私の前では皆獲物なのよ!」
オリジオンはそう叫び、ネプテューヌに向かって灼熱の炎を吐き出す。ネプテューヌは即座に立ち上がって走り出し回避するも、炙られた瓦礫がドロドロに溶け、煙をあげるのを見て冷や汗がどっと出てくる。あんなもんに当たったら一たまりもない。
攻撃を避けながら、ネプテューヌはヒビキ達へと近づいてゆく。エネルギー弾を木刀で弾き、スライディングで火炎を避け、二人の元へと辿り着く。
「ちょっと飛ぶよ?いい?」
「はっはい⁈ 」
木刀を腰にさしながら湖森にそう言うと、ネプテューヌは二人を両脇に抱えて大きく跳躍した。後ろから迫る火炎弾は、彼女達の真下スレスレを通過し、虚空へと消える。
「ちょ……ま、マジなのコレ⁉︎」
「す、すごい……」
「逃す訳ないでしょう?」
オリジオンも大きく跳躍し、ネプテューヌ達へと追い付く。相手の舌が伸び、ネプテューヌの足に巻きつこうとしたその時。
「てやあっ!」
ネプテューヌの脇に抱えられていたヒビキが、何かを落とし、それをネプテューヌが思い切り蹴ってオリジオンの顔面にぶつけてきた。
一体何が、と思い、オリジオンは地面に転がったものを見る。それは木刀だった。どうやら、ヒビキはネプテューヌの腰にぶら下げてあったそれを外し、それを彼女が蹴り飛ばしたらしい。
「どーよ?これが主人公ってヤツなのさ!」
「随分と生意気な口を聞くのね……今楽にしてあげるわ!」
ネプテューヌの挑発(?)に対し、オリジオンは怒って走ってくる。今ので彼女は丸腰状態になってしまっている。
「あ、やば――」
半ばやけになり、身を呈して二人を庇おうと動くネプテューヌ。そこへ、
「はあああああああっ!」
バイクに乗った瞬が二人の間に割って入り、オリジオンの攻撃をバイクの車体で防いだ。先程の爆発のせいか、変身は解除されていた。
オリジオンは忌ま忌ましそうに瞬を睨みつけるが、瞬は迷う事なくベルトを装着する。
「っ……」
その時、ネプテューヌが若干苦しそうな表情になる。地面に膝をつき、息も少し荒くなっている。瞬は心配して手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「へーきへーき……ねぷぅっ⁉︎」
ネプテューヌが瞬の手を取ったその時、突然ネプテューヌの身体が光り出した。あまりにも唐突な出来事に困惑する一同。紫の光は、次第にネプテューヌの手の中に集まり、何かを形作っていく。
十秒ほど経ち、光は少しずつ収束していく。瞬は、ネプテューヌに差し伸べた手の中に、何か固い物があるような感覚に気づく。
「これは……なんだ?」
「んー?なんだろそれ」
あったのは、紫色の鍵のようなの物体。一見すると、瞬がアクロスに変身する時に使うライドアーツに似ているような気がする。
「これを……ベルトに付けるのか?」
よくよく見ると、バックルの左側にもライドアーツをはめるような箇所がある。しかし、グズグズしている余裕はない。オリジオンが我に返り、攻撃体勢に入っている。
「どうせ悩んだ所で誰も教えちゃくれないんだ、やってみるしかねぇ!」
《ARCROSS》
《NEPTUNIA》
二つのライドアーツのボタンを押して、ベルトに取り付ける。湖森達を庇うように、瞬は前に出てオリジオンと相対する。
「変身!」
《CROSS OVER》
無数の光の線が瞬を包み込み、アクロスの装甲を形成していく。
《思いを!力を!世界を繋げ!仮面ライダーアクロス!》
アクロスへの変身が完了し、まるで瞬の決意を示すかのように複眼が光る。
だが、それだけでは終わらなかった。
《LEGEND LINK》
その音声と共に、バックルから何かが勢いよく飛び出し、オリジオンにぶつかっていく。オリジオンは数歩後退し、ぶつかった何かは、今度は瞬に向かっていく。
それは何かのパーツだった。真っ黒なものが多いが、ところどころ紫色に光る部分もある。それらは、アクロスの表面に次々とくっついてゆき、アクロスの外観を変化させてゆく。
《SET UP!ネプテューヌゥウウ!》
その音声と共に、変化は完了していた。
全身は黒くなり、身体中に紫のラインがはしっている。方には丸っこい謎の物体が付き、背中からは半透明の翼のようなものが確認できる。
「……なんだこりゃ」
何度目かわからない台詞が、思わず口から出てくる。だが、なんとなく力が湧いてくる。まるで、誰かが一緒に戦ってくれると言わんばかりの心強さが、何処からか伝わってくる。
「ほんじゃあ、いっちょいってやる!」
アクロスは一気に駆け出し、オリジオンとの距離を詰める。そして、両者ともに互いの胸目掛けて渾身のパンチを叩き込んだ。
しかし、仰け反ったのはオリジオンの方のみ。アクロスの方はその場で踏みとどまり、連続して拳を叩き込む。
「はあっ!」
そして、アクロスはその場で飛び上がり、膝蹴りを喰らわせる。オリジオンは大きく吹き飛び、瓦礫の上を何度も転がっていく。
「次はこれだ!」
アクロスがそう叫ぶと、アクロスの背中の翼が一対取れる。そして、宙に浮かびながら変形し、瞬の手元にやってくる。
それは、紫の刀身を持つ近未来的なデザインのブレードだった。瞬はそれを構えると、先程の攻撃で吹き飛んだオリジオンに向かって走り出す。
「なんなの……このパワー⁈ 」
「残念だが俺も知らねえんだよ!」
アクロスの唐突なパワーアップに困惑するオリジオンだが、アクロスは構わずにブレードで一閃する。火花が飛び散り、再びオリジオンは吹き飛んで瓦礫の山に突っ込む。
《CROSS EXEDRIVE》
バックルを操作すると、ブレードの輝きが増し始める。鮮やかな紫色の光が、オリジオンを、アクロスを、辺り一帯を包み込んでゆく。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
アクロスは勢いよくブレードを振るう。
すると、刀身から紫の斬撃が飛び出し、立ち上がりかけているオリジオンに向かって飛んで行く。気付いた時には既に遅し。オリジオンの腹部に斬撃がめり込み、貫通していった。
「あ、あ、ああ……」
オリジオンは悶え苦しみながら地面に倒れる。
そして、彼女の身体は爆発した。
ボガアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! というすさまじい爆音と共に、周囲に熱風が吹きつけられる。荒れ狂う熱風に、思わず目を閉じるヒビキ達。しばらくして、煙が晴れた後には、怪人になる前の誘拐犯の女性が倒れていた。
彼女は死んではいないようだが、気絶しているのか、ピクリとも動かない。
「はあっ……はあっ……」
息を切らしながら、アクロスはその場に膝をつく。それと同時に、アクロスの身体全体に砂嵐の様なノイズが走り、その変身が解除される。
戦いが終わったと認識した途端に、一気に疲労が噴き出してきた。膝付いているので精一杯で、気を抜けばそのまま地面に倒れてしまいそうなほどに、瞬は疲れ果てていた。
そこに、少し遅れて、聞きなじんだ声がやってくる。
唯だ。病院に置いてけぼりにしてしまった彼女が、ここまで走ってきたのだ。ここから病院まで結構あったはずなのだが、唯は1~2kmほど走った程度にしかつかれていないように見える。
「瞬!大丈夫⁉ 」
「唯……まさかここまで走ってきたのか?」
「うん……おかげで最後の方しか見られなかったんだけど……すごかったね」
それを聞いたネプテューヌが、「化け物かコイツは」という目で唯を見ている。昔から唯は運動が得意だったので、そのことを知っている瞬は特に反応はしなかった。いや、もしかしたら、疲れ切ってそれどころではなかったのかもしれない。
「唯さん……」
「瞬がみんなを助けたの?」
「そう、だな……俺が……助けたんだよな」
「…………」
いまだに実感がわかない。
しかし、結果だけははっきりと目に見える形で残っている。瞬はオリジオンを倒し、皆を助けたのだ。
「湖森、唯。ちょっと肩貸してくれ……疲れて上手く身体が動かせねえんだ」
「あ、うん……」
「まあ頑張ったしね。それくらいやってあげようよ湖森ちゃん」
妹と幼馴染みに肩を借りながら、瞬はその場を後にする。それに続いて、ヒビキとネプテューヌが立ち去る。
ちょっとカッコ悪い凱旋が、人知れずはじまった。
「マジありえねぇ……古城のクソ野郎が……ふざけんな……」
古城に敗北した少年は、身体を引きずるように戦場から遠ざかっていた。足取りは重く、身体中に激痛がはしっているが、とにかく逃げていた。
本来なら、古城が眷獣を操る前に始末したかったのだが、あろうことかその後押しをしてしまった。ともかく、これで希望は潰えた。少年は、前世からの野望をかなぐり捨て、今はただ生き延びる為に逃げていた。その有様はなんとも無様であった。
しかし、そう上手い事はいかないものだ。
「よぉ、こんなところで何してやがんだ?」
「あ……」
少年にかけられる声。
その主を見た少年の顔が、絶望に染まる。
「き、貴様は……転生狩者り……」
「人聞き悪いこと言うなよ。まあ、随分派手にやってくれたおかげですぐ見つけられた」
「ま、待ってくれ!俺はまだ――」
少年の命乞いに耳を貸すことなく、声の主はバックルのようなものを自らの腰に取り付ける。そして、少年に見せつけるように錠前のようなものを取りだす。
《レモンエナジー!》
「は、ははははははは……」
錠前から発せられたその音声を聞いて、少年は腰を抜かして必死に後退りする。声の主は、錠前をバックルに取り付けると、少年の方に歩み寄る。
《ROCK ON》
「変身」
《SODA》
既に少年の顔は、恐怖と涙でぐじゃぐじゃになっていた。そこには嬉々として古城をいたぶっていた時の威勢の良さは微塵も無かった。
《レモンエナジーアームズ!FightPower!FightPower!Fi,Fi,Fi,Fi,F,F,F,F,Fight!》
「過ぎた力は全てを滅ぼす……お前達は存在してはならない。死をもって、それを償え」
そして。
鮮血が舞った。
後日、街外れの山奥で、頭部が木っ端微塵に爆散した少年の死体が発見される事になる。
武偵や警察の捜査も無駄となり、誘拐事件の事も相まって、この事件は人々から忘れ去られる事になる。
同時期から、仮面をつけた謎の存在の噂が広がりだす。
それもまた、不明瞭なものとして街に燻り続けるのだった。
EPILOGUE
事の顛末を纏めよう。
まず、誘拐犯の方は力を失っていた。怪人になる力も、その前に持っていた特典も、綺麗サッパリ消えていた。タマゴに閉じ込められていた子供達は無事に保護され、女性は逮捕された。
トモリの方は、再び病院に運び込まれて入院している。唯が毎日お見舞いに行っているようだが、春休みが終わる頃には退院できるらしい。
そして最後にひとつ。
「買わない。買わねーよ、んな高いプリンなんぞ買うわけねえだろ……」
「じゃあこれは?」
「駄目なもんは駄目だっての」
結局、二人の居候生活は存続する事となった。一体どうやってヒビキとネプテューヌを家に置く算段がついたのかは、最後まで誰も教えてはくれなかった。
日夜二人に振り回されっぱなしの春休みを送っている瞬は、少しだけ世の中の父親の苦労が分かったような気がした。
「分かってます分かってます。急かされるのは主人公特権、フラグレーダーピンピン来てますよ〜これ」
「絶対壊れてるよそれ」
「ねぷーっ⁉︎ 頼むからその髪飾りだけは弄らないでっ⁉︎ キャラビジュアル薄くなっちゃうからぁ!」
スーパーから出ながら繰り広げられるヒビキとネプテューヌのじゃれ合いをよそに、瞬は帰ってからのことを考える。いい天気だし、そろそろ桜も見頃だ。残り少ない春休みが終わる前に花見でもしてみたいもんだ、という考えがふと浮かんでくる。
ここで、瞬の足が唐突に止まる。ヒビキ達が怪訝そうに瞬を見上げるが、瞬がある一点を見つめていることに気付く。
「……」
瞬の目の前に立つ、パーカーのフードを深く被った灰色の少年。連れらしき少女の方は、瞬をじっと見つめている少年に対し、怪訝そうな視線を向けている。
「……退いてくれねーか、そんなところ居たら他の人の邪魔だ」
「あ、すみません」
ごもっともな正論で瞬達を退かすと、少年達は瞬達と入れ違いで店内に入っていった。
そして、ぽつりとヒビキがこんな質問をぶつけてきた。
「なんで笑ってるの?」
「あれ?俺笑ってたか?」
「厨二臭く笑ってた」
「どんな笑い方だよソレェ」
軽く弄られながら、瞬は再び足を進め出した。
恐らく、相手の方は瞬の顔を知らない。瞬の方も、少年の名前は知らない。お互い接点は無かったが、各々の思いを胸にあの時、同じ戦場に立っていた。
きっと、向こうも自分のように何かを守ったのだろう。そして、今それを享受している。
また、会える。
そんな思いが、何故か心をよぎった。
街の何処か。
目の前に広がる青い海を見つめながら、セーラー服姿の少女が自分に言い聞かせるように呟いた。
「吹雪、今日も一日頑張ります!」
街の何処か。
茶髪の高校生くらいの男が、ニヤニヤした顔で先程貰った手紙を眺めていた。
「……まさか、俺に春が来るなんて!神さまマジ感謝!」
街の何処か。
赤と緑の髪の少年が、両手を広げて叫んだ。
「さあ、お楽しみはこれからだ!」
街の何処か。
誰もが振り向くようなスタイルの良い身体の黒髪の少女が、校舎を見上げていた。
「うむ、今日も学園は平和だ」
街の何処か。
なんか必死の形相で自転車を漕ぐ一人の少年が、どうにもならないといった風に叫んだ。
「チャリジャックなんか聞いてねえってのおおおおおおおおおおおおおおおお!」
街の何処か。
ツンツン頭の少年が、流しにぶちまけられたカップ焼きそばを呆然と見ながら呟いた。
「不幸だ……」
街の何処か。
闇にまぎれ、街を走り抜ける漆黒のバイクを見て、街の人々はこう言った。
「首無しライダーだ」と。
それは有り得ざる交差だ。
交わることのなかった軌跡が交差し、出会う事の無かったヒーロー達が出会う。例えそれが破滅のお膳立てだとしても、其処には、確かな希望も同時に存在するのだ。
新たな伝説が、幕を開ける。
祝え、全てを繋ぐ希望の誕生を。
ようやく一区切りつきました。
大学生活の忙しさもあるのですが、古城の眷獣覚醒やらオリジオンとの戦闘×3やらをこの1話で一気に纏めなければならなかった為、今回も難産でした。今考えると学校でのくだり不要だった気しかしない。
ちなみに、作中での古城への暴言はただの言い掛かりであり、私自身はあんなこと微塵も思ってないでご了承ください。寧ろ古城は主人公キャラの中では割と好きな方なので。
今後もあのような台詞が作中に登場する場合がありましても、あくまでも展開上仕方なくやっているだけであり、アンチ・ヘイト目的ではないのでご理解ください。
この作品は基本アンチヘイト抜きでいきます。タグ詐欺じゃないけど。ならないように気をつけて書いていきます。
最後にドバーッとクロス作品がでました。みんなは全部わかったかい?次回からは学園生活編、キャラも一気に増えて物語も本格的に始まります。
次回 ハイスクールR×R
思いを、力を、世界を繋げ!
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