Sword GENEZ Online   作:ゼミル

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11:コンタクト

 

アインクラッド第2層主街区<ウルバス>。

 

ほんの数十分前に解放されたばかりの、テーブルマウンテンの中心部を巨大なスプーンでくり貫いて拵えたような街――――その一角にある酒場に、数十人のプレイヤーが集結していた。

 

集まった面々は全員、第1層フロアボス攻略戦に参加していたプレイヤーだ。人数に対して酒場のキャパシティが小さ過ぎ、全員が店内に入り切れず一部は外に立たされている有様だが、彼らに不満の色は見当たらない。

 

揃って泡立つ液体が並々継がれたジョッキを片手に、喜びと達成感に溢れた笑顔を浮かべている。

 

 

「そんじゃま、無事第1層の攻略の成功を祝って乾杯だぁ!!!」

 

『乾杯!!!』

 

 

野武士男ことクラインの音頭を合図にジョッキが突き上げられ、他のプレイヤーとぶつけ合う音が酒場の内外で鳴り響いた。

 

ここまでくればもうお分かりであろう。只今酒場で行われているのは、第1層フロアボスこと<イルファング・ザ・コボルドロード>討伐を見事に成功させた攻略部隊の祝勝会であった。

 

攻略部隊編成の時同様、今回の発案者もやはり謙吾……ではなく、「よーしそれじゃあ今回の成功を祝って宴会しようぜ!」と完全に同僚を飲み会に誘うノリで発言したクラインがこの度の元凶であった。

 

とはいえ、SAO攻略の為にも今回参加したプレイヤー達とは今後もなるべく協力関係を継続したい謙吾としては、クラインの提案は渡りの船だった。

 

そんな訳で、謙吾もこの場に居る他のプレイヤー達に倣いジョッキを手にし、すぐ隣でノリノリで祝勝会の音頭を取っているクラインの姿に苦笑していた。このツンツン頭の野武士はきっとリアルでも率先して飲み会を仕切っているに違いなかった。

 

グイとジョッキの中身を呷る。一見発泡酒のようだが勿論仮想空間の偽物に過ぎないので、何杯飲んでも急性アルコール中毒になる心配はしないで良い。

 

しかし早くも雰囲気に酔ってしまった者が続出しているらしい。乾杯の直後そこかしこから高揚した笑い声が聞こえ始めていた。

 

 

「いやー良かった良かった!誰も犠牲が出なくてよ。これも全部タイガの活躍の賜物ってもんだぜ!な、皆もそう思うだろ!」

 

「俺はやるべき事をこなしたに過ぎません。フロアボスの攻略に誰1人犠牲を出す事無く成功できたのは、作戦に参加したプレイヤー1人1人が尽力してくれたからこその成果ですよ」

 

 

ハイテンションで何度も強く背中を叩いてくるクラインの賞賛の言葉に、謙吾は対照的に静かな口調で応えた。

 

今謙吾とクラインが居るテーブルを囲んでいるのはディアベル・エギル・コペル・オーディンといった、各小隊の指揮を執っていたリーダーばかりである。

 

店内を見回してみれば、謙吾の仲間達も他のプレイヤー共々自分なりに祝勝会を楽しんでいる光景が目に飛び込んでくる。

 

キリトは<風林火山>のメンバーと談笑していて、アスハブはプレイヤーの1人と丸テーブルを挟んで一気飲み勝負を繰り広げていた。

 

残る2人の少女はというと――――例によって今や超レアな女性プレイヤーと仲を深めようと欲望を漲らせている男性陣に包囲され、彼らを捌くのに四苦八苦している様子。

 

 

「(対策を考えた方が良いか?)」

 

 

目に余るようなら止めに入ろう、と横目に見ながら胸の内で決心しつつ、周囲と同じく謙吾もジョッキの中身を口の中に含む。

 

 

「なぁなぁ、そのコートもっとよく見せてくれよ。やっぱボスドロップのアイテムなだけあって着心地も良かったりすんだろうなぁ」

 

 

クラインがテーブルに身を乗り出して斜め向かいに座るオーディンへと手を伸ばし、彼が着ている黒いロングコートの手触りを確かめる。光沢を帯びた漆黒の滑らかさが、店売りの安物コートとは一味違うレア物である事を教えてくれる。

 

隻眼の青年が現在装備している黒いロングコートの正体は、<イルファング・ザ・コボルドロード>のLA(ラストアタック)ボーナスである<コート・オブ・ミッドナイト>なるボスドロップアイテムだ。

 

タンブル状態に陥ったフロアボスに攻略部隊総出で集中攻撃を加えた結果、オーディンの攻撃が命中したタイミングでイルファングのHPゲージが完全に消滅。幸運にもオーディンがLA取りの栄冠に輝いたのであった。

 

決して開かれない片側の瞼を除けばどこにでも居る柔和な印象の男性プレイヤーにしか見えない黒髪の青年は、残るもう片方の瞳にクラインを映しながら照れ臭げに頬を掻く。

 

 

「そうですね、やっぱり店売りの物と比べると着心地が違うというか、装備していても邪魔にならず動き易い気がします。性能も軽量の割りに防御力が高めですし」

 

「そりゃそうだろうな。犠牲は1人も出なかったとはいえ、それなりに梃子摺らされた上で手に入れた代物なんだ。ボスドロップ品となれば、それ相応の代物が出てきてしかるべきだろう」

 

 

と指摘したのはエギル。

 

そこへクラインがコートを触る手を止めないまま、またおもむろに口を開いた。

 

 

「けどよ、これって革製だよな?」

 

「ええ、パッと見ですが俺も革製だと思います」

 

 

ディアベルがクラインの呟きに同意する。

 

 

「で、あの馬鹿でっかい野良犬みたいな顔したフロアボスからゲットした訳だ」

 

「それで?」

 

「……って事ぁ、このコートってもしかしてあのフロアボスの皮でできた代物だったりしねーか?」

 

 

周囲の空気にそぐわない沈黙が生じた。

 

黒河のコートを着込むオーディン当人を除き、テーブルを囲んでいた面子の視線が隻眼の青年に集中したが、困惑の表情を浮かべる彼と目が合うなり揃って何とも言えない顔で目を逸らしてしまった。謙吾ですら、その中に含まれていた。

 

高性能なレア物だし、アイテム自体に罪は無いと彼らも理解は出来てはいる――――出来てはいるのだが、それでも1度想像してしまうと中々脳裏から振り払えない。

 

なまじ彼らの戦ったモンスターがデフォルメされたドット絵ではなく、とことんリアルさを追求した仮想空間に相応しい迫力と生々しさ溢れる外見だったのも悪かった。心理的には動物が屠殺される様を見て食欲を無くしてしまうのに近い。

 

あんな凶悪な面構えででっぷり肥えたモンスターの皮から生成されたコート……何か嫌だ。謙吾達の中で喜びや羨望の念が一気に萎んでいってしまう。

 

 

「……うんまぁ、この手のRPGならよくありますよね」

 

「そ、そうだよな、モンスターの身体の材料にアイテム作るのは定番だよな」

 

 

コペルのフォローで何とか再起動を果たすリーダー勢であるが、彼らの間にはまだ微妙な空気が窪地に溜まった火山性ガスの様に残留してしまっている。

 

 

「何でここだけ皆微妙な顔して座ってるんだ?」

 

 

怪訝そうに首を傾げながら近づいてきたキリトの登場に、これ幸いと謙吾達は話題を転換して空気の払拭を実行する。

 

 

「何でもないさ。それより丁度良かった、キリトやクライン達に相談――――いや頼みたい事があるんだ」

 

 

至極真面目な態度に切り替えた謙吾の雰囲気を受け、同じテーブルを囲むプレイヤー達はジョッキをテーブルの上に置いて傾注の構えを取る。新たに加わったキリトも空いていた椅子を手元に引き寄せてそこに座り、謙吾の次の言葉を待った。

 

40名近いプレイヤーの指揮と結束に主だって協力してくれた男達へ、謙吾はこのデスゲームに閉じ込められた数多のプレイヤーの被害を食い止めるべく立案したプランを披露する。

 

 

「俺達は誰1人の犠牲者も出す事無く第1層の突破に成功しました。この事実は<はじまりの街>で外部からの救援を待ち続け……にもかかわらず、1週間以上経過しても未だ救援が無い事に絶望しているであろう9000人以上のプレイヤーにとって、新たな希望となるのは確実です」

 

「その通りだ。<はじまりの街>に留まり続けている皆に、俺達は攻略組として『このゲームはクリアできる』って事を伝えなければならないんだ」

 

「ですが、それだけでは足りない。限られた極一部の存在が活躍するだけでは限界があります」

 

「それは分かっている。俺達だって人間だ。延々前線で戦い続けていれば犠牲は免れないだろう――――」

 

「いいえ、俺が言いたいのはそういう事ではありません」

 

 

エギルの意見を謙吾は首を横に振りながら遮った。

 

 

「俺が恐れているのは別の事なんです。クラインさん、もし自分と同じ時期にゲームをプレイし始めた相手が活躍しているのを知って、そして自分もそのプレイヤーと同じぐらい活躍できる『かもしれない』と思った時、貴方ならどうしますか?」

 

「え?そりゃーおめぇ、そいつに負けてたまるかとガンガンレベル上げしまくったりクエスト攻略するに……」

 

「ええ、間違いなく攻略組の活躍に触発された多くのプレイヤーがフィールドに出るでしょう。安全な街区圏内から離れ、モンスターが徘徊し命の危険と隣り合わせのフィールドへと、攻略組の活躍に対抗する為にね」

 

「もしかしてタイガが危惧している事っていうのは……・」

 

「俺達の活躍に煽られてフィールドに出たプレイヤー達に犠牲が出るのを恐れているのか?」

 

 

学生傭兵の首が縦に振られた。それは盲点だったと、謙吾の予想に腕組みをして考え込む一同。

 

 

「SAOがプレイヤー自身の動体視力に左右され易いゲームシステムなのも大きいけど、SAO初心者が1番陥り易い失敗はこの仮想世界同様リアルに立体化されたモンスターを前にしたせいで極度に興奮して周囲の状況が全く目に入らなくなってしまったり、逆に怯えてしまってモンスターの攻撃に対応できなくなってしまう点なんだ。

 俺も初めてプレイし始めてしばらくの間は、<はじまりの街>のすぐ外で屯していた<フレンジーボア>相手に苦戦して、何度もHPを0まで削られたりしたよ」

 

 

キリトの言う『しばらくの間』とはベータテスト期間の事であろう。

 

彼と同じ元ベータテスターであるディアベルやコペル、デスゲーム開始初日にキリトにレクチャーを受けながら散々青イノシシに小突き回された経験があるクラインも「そうそうその通り」と言わんばかりに大きく相槌を打つ。エギルやオーディンも過去の自分を思い出して渋い表情だ。

 

荒い鼻息と重い足音を立てながら突撃してくる大人サイズの猪。奇妙な鳴き声を発しながら腐食液と蔓の鞭で攻撃してくる植物型モンスター……HPが0=現実の死に直結したデスゲームの中で、細部まで作り込まれた人外の存在と相対して平常心を保てるプレイヤーが<はじまりの街>にどれだけ残っているというのか。

 

 

「どんなに追い詰められた軍隊でも、全く訓練を施さないまま新兵を戦場に送り込んだりはしません」

 

 

だからこそこれ以上余計な犠牲を減らす為に、最前線で名実共に経験を積んできた自分達がやらなければならない事がある。それには協力者が必要だった。

 

プレイヤーの生存率を少しでも向上させる為の計画を実行に移すべく、攻略勢の中でも特に良心的なプレイヤーへ謙吾は助力を求める事にしたのだ。

 

実はキリト以外の他の3人にも既に相談済み。特に親しいユキナと七湖はもちろん謙吾のプランに協力する気満々で、アスハブも2人の少女達程張り切ってはいないが仲間として手伝ってくれると確約してくれている。

 

 

 

 

………酒場の片隅で、彼らのやり取りの一部始終に聞き耳を立てる影が在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「疲れた……」」

 

 

少なからず疲弊しゲッソリとした表情でユキナと七湖が呟く。どちらかといえば2人の少女は、見知らぬ人々からちやほやされるのが苦手な性分だった。

 

 

「調子に乗って飲み過ぎたな」

 

 

ボヤキながら普段よりもやや膨らんだ腹を擦っているのはアスハブ。SAOはプレイヤーの五感も再現される仕様であり――痛覚は除く――大量に飲み食いをすれば極度の膨満感も再現されるのだ。

 

祝勝会の会場を後にした謙吾達は例によって土地勘のあるキリトの先導の元、宿屋を目指している。

 

 

「宿屋はもうすぐそこだ。あとちょっとで看板が見えてくる」

 

 

ほらあそこ、と『INN』の看板を指差すキリトへと顔を向けたまま、おもむろにアスハブは隣を歩く謙吾との距離を詰め、小声で囁く。

 

 

「で、もちろん気づいているんだろ?」

 

「ああもちろん。酒場からずっと感じてたよ」

 

 

短く会話を交わし、そのままゾロゾロと目的の宿屋の中へ消えていく5人。

 

……その20m程後方に、物陰に隠れるようにしながら謙吾達の背中へずっと視線を注ぐ人物が存在した。その人物は上から下までスッポリとフード付マントで正体を隠しており、くすんだ金色の癖っ毛が微かにフードから覗いている。

 

小柄なフードの人物は1度謙吾達が入っていった建物を見上げてから、謙吾達がどの部屋に泊まるかまで調べるべく小走りで宿の入口へと近付き、そっと扉を押し開けて目立たないよう彼(或いは彼女)も建物の中へ。

 

静かに扉の内側へ身体を滑り込ませる――――宿屋の中へ1歩足を踏み入れた瞬間、扉にかけていた腕が誰かに掴まれた。

 

反射的に振り払おうとローブの人物が動くよりも速く、今度はその背中に衝撃が走る。思い切り蹴り飛ばされたのだ。「ふに゛ゃ゛っ!?」と吃驚仰天した猫みたいな悲鳴を上げて前のめりに倒れる、というか転がってしまう。

 

 

「アイたたたたたタ……?」

 

 

実際に痛みは感じていないのだが、何となくそんな呻きを発しつつローブの人物は顔を上げ――――己を見下ろす謙吾の存在に気付き、中途半端に身体を反らした体勢のまま固まった。

 

謙吾はまず凍り付く相手を一瞥してから、荒っぽく蹴り倒してみせたアスハブを嗜める。

 

 

「やり過ぎだヨーシュ」

 

「コソコソつけ回してくるような怪しい奴は拘束して洗い浚い吐かせてから魚の餌にするのが流儀だったんでな」

 

 

悪びれもせず嘯くアスハブ。それを聞いたローブの人物の額に冷や汗が滲んだ。

 

 

「……意外とおっかない人物だったのは予想外だったヨ」

 

 

若干鼻声がかった語尾。男にしては声色が高過ぎる。立ち上がった際にフードが頭からずり落ち、両の頬にネズミを連想させる3本ずつのヒゲが描かれた少女の顔が露わになった。

 

両手でローブに着いた汚れをパンパンと払う動作をしてから、少女は胸を張って謙吾と相対した。予想以上に小柄な彼女の体躯に、謙吾は何となく妹の涼羽を思い出す。

 

 

「オレっちの名前はアルゴ。情報屋サ――――といってもまだ駆け出しだけどナー」

 

 

 

 

 

 

他のプレイヤーが続けて入ってこないとも限らないのでさっさとチェックインし、アルゴと名乗る少女と共に個室へ移動。

 

そこまで怪しんでいるつもりはないのだが、一応扉の前にユキナ、窓辺に謙吾が立って少女の逃げ道を封じておく。そして尋問開始。

 

 

「何故俺達の尾行を?」

 

「最初は興味本位からだヨ。最前線のプレイヤーに協力を呼びかけ、2週間足らずで第1層フロアボスの討伐を成功させた立役者様の事を知りたいと考えるのは情報屋として当たり前だロ」

 

 

こうもあっさりつけてたのがバレてたのは予想外だったけどナ、とアルゴと名乗った少女は肩を竦めた。

 

 

「この分だとこっそり酒場に潜り込んでいたのにもバレてたりスル?」

 

「まあ、ね」

 

「一応<隠蔽>スキルも発動させてたんだけどナー。流石に酒場の中にまで踏み込むのは大胆過ぎたヨ」

 

「で、俺達をつけ回して得た情報を売り捌こうって腹だったのか?」

 

 

獰猛な笑みを浮かべて詰問してきたアスハブに対し、アルゴは若干口元を引き攣らせて数歩後退した。

 

所属していた組織が壊滅したとはいえ元はアスハブも生粋の裏世界の住人、それも特殊能力持ちの猛者である。

 

彼自身としては『現役時代』を思い出しほんの少しだけ剣呑な気配をチラつかせてみただけに過ぎないが、情報屋を名乗る少女からしてみれば飢えたジャッカルにロックオンされた子ネズミの気分も同然だった。

 

アスハブの気配の余波を浴びて、仲間である筈のキリトまで冷たい刃を押し付けられたような悪寒を覚えると同時に、反射的に慌ててアスハブとアルゴの間に割り込む――――このままだとヤバイ!?

 

 

「お、落ち着けヨーシュ!ここは圏内だから手出ししたって意味無いぞ!」

 

「ああいやいや、別に実力行使までするつもりはないさ――――こちらの質問にそこの小さな情報屋がきっちり答え続ける限りは、だけど」

 

「怖いヨこの人!?」

 

 

以前所属していた犯罪組織で高い地位に居たとはいえ元々アスハブは荒事担当。交渉の手法が暴力混じりの脅しや恫喝に近くなってしまうのもむべなるかな、であった。

 

 

「まぁまぁ落ち着きなって」

 

 

キリトに続いて七湖も間に入って取りなす。

 

七湖は小動物宜しくプルプル震える少女へと向き直り、

 

 

「アルゴちゃん、って言ったよね」

 

「あ、アルゴって呼び捨てでいいヨ」

 

「アルゴは情報屋を名乗るって事はもしかして元ベータテスターだと考えて構わないよね?正式サービス開始当日に初めてプレイし始めた人物が、ネットの情報網さえも無しに売り物にできるだけの大量の重要情報を収集出来るとは考えにくいもの」

 

「……あっさりそこまで見抜かれちゃうカー。その通り、オレっちも元はベータテスターだったヨ。で、その経験を活かしてこんなのを作ってみた訳なんだガ」

 

 

金褐色のネズミ少女は操作メニューからアイテムを選択しオブジェクト化。

 

虚空から出現したのは電子的エフェクトにそぐわない古風、というよりは昔懐かしい、羊皮紙を綴じて拵えた手帳であった。表紙に書かれたタイトルは『アルゴのガイドブック』。

 

 

「初心者向けの攻略本。最前線に立ってドンパチやってけるような自信はオレっちにはねーけど、だからって<はじまりの街>で怯えながら助けが来るカ、さもなければ誰かが100層を攻略し終えるまで待つのも性分じゃないカラ、手慰みついでにベータテスターとしての知識を活かそうとこんなのを作って配布しようと考えてたのサ。

 ……ま、第1層用の攻略本が完成した矢先にフロアボスが攻略されちまったんだけどナー」

 

 

謙吾達に取り囲まれながら少女は小さく肩を竦める。その際ローブの間から腰のベルトに鉤爪、SAO内ではクローというカテゴリに分類される武器と投擲用の投げ針を装備しているのが垣間見えた。

 

謙吾が目配せを飛ばし、意味を察した七湖がアルゴが取り出した薄っぺらい冊子を受け取り中身に目を通す。ハッカー少女の両肩越しにキリトやアスハブにユキナもガイドブックの内容を覗き込んだ。

 

授業における論文執筆やや作戦後の報告書提出に慣れた学生傭兵組としては所々書き方が甘いと感じる部分はあるものの、索引や注釈はしっかりしているし適度に図解も書き込まれた分かり易い内容だ。初心者向けの攻略本としては十分合格の出来である。

 

 

「うん、分かりやすくて良い内容だ。私達の場合はキリトが色々と口で教えてくれたから良かったが、口だけで教えられるよりもこういった解説書が有った方がやはり分かりやすい」

 

「私もユキナと同意見。それに腐るにはまだ早いよ。フロアボスを倒して第2層が開放されたとはいっても、殆どのプレイヤーはまだ第1層の<はじまりの街>に留まり続けるだろうから、その人達への需要は十分あると思う」

 

「お褒めいただきどーモ……で、こっからがオレっちがターさん達に接触しようと思った本当の理由」

 

「『ターさん』――――ってもしかしてタイガの事か?」

 

「その通り、このパーティを取り仕切っているのはターさんで間違いないみたいだしナ。でもう1人の黒髪の片手剣使いの少年が……そこのキミは何て名前かナ?」

 

「オレはキリトだ」

 

「そこのキー坊は「キーぼっ!?」ベータテスト経験者カ。今日開いたばかりのこの街(ウルバス)で迷いなく後の4人を案内してみせた事からそう読んだけど、オレっちの読みは間違ってるかナ」

 

 

場の沈黙がアルゴの推測を雄弁に肯定していた。

 

ただあからさまに子供扱いな呼ばれ方をしたキリトのみ唇をへの字にひん曲げ、苦情を申し立てる。

 

 

「何でタイガとオレとで呼ばれ方が違うんだよ……」

 

「だってキー坊はどーみてもオネーサンより年下じゃないカ」

 

 

理由が単純かつ正当な内容なだけに、キリトはそれ以上の反論が思い浮かばない。

 

一方謙吾はキリトとアルゴのやり取りから(アルゴの実年齢は中学3年から高校1年生前後か)と推測を立てながら話の続きを促す。

 

 

「俺達に接触を試みようとした本当の理由は」

 

 

 

 

 

「ターさんが酒場で他のプレイヤーに協力を申し込んでいたプランにオレッちも一口噛ませてもらえないカ」

 

 

 

 

 

率直に、単刀直入に。

 

情報屋を名乗る小柄な少女は謙吾達へ助力を申し出る。

 

 

 

 




前回後書きに掻き忘れちゃってましたが、前回から登場したオーディンは某フカミン作品からの拝借したキャラです。
ロバ共の続編出ないかなー……


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