任務完了から数時間後。
グリークスの部隊は、ロシア軍基地経由で会社所有の軍用機に乗り換えて本拠地がある日本への帰路に就いていた。廃工場を離れる時に乗り込んだオスプレイ同様、グリークス所属の軍用機には様々な改造が加えられている。
「ふう……」
GENEZの性能を最大限発揮する為に下に着込む専用のスキンスーツから私服に着替え終えた謙吾は、更衣室から出てくると脱力しながら大きく息を吐き出し、戦闘の緊張に強張っていた筋肉と精神をリラックスさせる。
おもむろに懐から携帯端末を取り出して画面を点灯させると、現在の日付と時刻が表示される。日本時間で西暦2022年10月31日午前12時をやや過ぎたばかり。
このまま何事もなければ、日の出前には羽田に到着しているであろう――――そうでありますように、と謙吾は瞑目して強く願った。
出来れば今日中に、それも可能な限り早く日本の土地を踏まなければならない理由が、今の謙吾には存在している。
「一応大迫先生に許可を取っておくか……」
直属の指揮官の名を呟きながら歩き出す。今謙吾達が乗り込んでいる軍用機はかなり大型だが、それでも30秒も足を動かしていると大迫や他の仲間達が居る区画へと辿り着いた。
複数の装甲車や大量の歩兵を輸送できるだけの広さを誇る貨物用スペースは、世界中どこでGENEZを運用・調整するのみならず作戦の指揮まで行えるよう、整備用の機材や各種電子機器で埋められている。
現在整備課に所属する仲間達が戦闘を終えた謙吾のヤマタノオロチと彩離の恐鳥(モア)型GENEZを整備中。邪魔にならないよう遠巻きにしつつ大迫を探す。
その途中で、今回一緒に出撃した彩離の姿を発見。まるで明日の遠足が待ち遠しくて仕方ない小学生みたいな素振りで、妙に嬉しそうに調子っぱずれな鼻歌を歌っている。
「……どうかしたのか?」
「えっへっへー、実はさ実はさ、明日爪兵とデートなんだー」
武田爪兵は彩離の恋人だ。
元はグリークスのライバル企業に所属している謙吾達と同じ学生傭兵だったが、紆余曲折と数度の共闘を経てナイチンゲールの少女共々グリークスに移籍。現在は謙吾のクラスメイト兼仲間兼戦友だ。
「それは良かったな。ところで大迫先生は何所に?」
「あっちに居るよー。先生なら今セルジュとお話しちゅー。もうすぐ終わると思うけど」
「分かった、ありがとう」
今彩離が挙げたセルジュとはセルジュ・ドラグレスク。名前から分かる通り外見は金髪白人の美青年だが何故か関西弁の使い手。
彼の正体は普通の人間ではなく、第2次大戦中にナチスドイツに対抗するべくユダヤ人が作り出したゴーレムだ。
但し人間同様喜怒哀楽を持ち合わせており、謙吾からしてみればある意味人間以上に人間らしい人格の持ち主だとつくづく感じている。女好きなのが玉に傷だが、最近はそれもなりを潜めつつある。
セルジュもまた少し前まで謙吾達と一緒に前線で大暴れしていたが、現在は組織を運営する為の実務能力も身に着けるべく、謙吾達が表向き学生として所属している海神学園 (スポンサーはもちろんグリークス)の高等部学長を務める厳島アイナの助手として裏方仕事に奮闘中。ちなみにセルジュとアイナも恋仲だ。
彩離が指差して教えてくれた方へと向かうと、ヘッドセットを着けた大迫伝次郎ともう1人、ユキナとは別の同年代の少女が居た。
眼鏡をかけたスレンダーな体格の少女の名は布施七湖。共感覚という、ソースコードが絵画に見える特殊能力を持っている。
彼女もまたバットヘッド分隊の一員でGENEZ操縦者でもあるが、彼女が最も得意としているのは共感覚を生かしたハッキング能力だ。今回は情報処理担当として共に任務に当たっていた。
「あっ、謙吾。お疲れ様!」
謙吾の姿を見るなり、七湖の顔いっぱいに花咲く様な明るい笑みが浮かぶ。
七湖は謙吾の事を異性として強い思いを寄せている。だが謙吾はユキナを選んだ。それが原因で謙吾とユキナとの間にギクシャクしたものが生じた挙句、七湖が謙吾達を裏切るという展開になってしまったものの、それも今や過去の話。
七湖はグリークスに復帰し、これまで通り激しい訓練……否、『授業』に悲鳴を上げつつ持ち前の特殊能力を存分に発揮し、謙吾達を支えてくれている。時折肩を並べて戦場で暴れる時もある。
――――ただ原隊に復帰してから切れてはいけない部分まで吹っ切れてしまったらしく、事ある毎に七湖が積極的に誘惑してくるのが最近の謙吾の悩みの種である。
本人曰く「謙吾の体力なら2人でも大丈夫でしょ?」――――いやそういう問題じゃなくて。
「七湖もお疲れ様」
「えへへ、ありがと。ところで謙吾も先生に用事?」
「『も』って事は――――もしかして七湖も、例の」
「考えてる事は同じだったみたいだね。うんそう、私も謙吾と同じだよ」
顔を見合わせて頷きあっていると、一見仕事にくたびれた冴えないサラリーマンみたいな風貌の大迫が口を挟んだ。
「えーっと、つまり謙吾も羽田に着いたら別行動取りたいから申請しに来た、って事で良いのかな」
「はい!学院に戻ったらまたすぐに報告に行きますので是非!」
「お願いします大迫先生!」
「……ま、今日明日はオフだし、大目に見てあげようか。ただいつでも緊急連絡を受けれるようにだけはしといてね」
「ありがとうございます大迫先生……!!!」
感無量とばかりに90度以上腰を曲げ、深過ぎる位に頭を下げる謙吾。七湖もそれに続く。反応過剰過ぎる部下の反応に、大迫は困った様子で人差し指で頬を掻く。
「………」
そんなやり取りを機材の陰に隠れるようにしながら、ユキナは黙って見届けていた。
グリークスの飛行機は謙吾の期待通り夜明け前に羽田空港に到着。
出来る限り目立たぬよう、グリークスの社員以外立ち入り禁止にしてもらった格納庫までタキシングしてからようやく飛行機を下りる許可が出た。数日振りに謙吾達は日本の土を踏み締めた。
ここからグリークス本社の社員――半年前までは日本支社だったが、ある大事件を経て厳島グループを中心とした日本支社が逆にグリークスそのものの掌握に成功――が用意しておいてくれた車に乗って謙吾達の本拠地である海神学園に帰還するまでが本来の予定だったが、謙吾と七湖だけは別行動である。
「こちらが特務大尉達の車のキーになります」
「ありがとう」
社員から車のキーを受け取る。既にロシアでの任務で現地に出向いていた部隊の社員は全員車に乗り込んで格納庫から立ち去っていた。
「それじゃあ行くとするか七湖」
「うん!」
頷くなり謙吾の腕に抱きつく七湖。謙吾がユキナと共にナイチンゲールの謎を解き明かす旅から戻ってきてから、こういうボディタッチを含んだ大胆なスキンシップをしてくる事がかなり多くなった。
謙吾にはユキナというれっきとした恋人が居るとはいえ、七湖も立派な美少女。年頃の少女特有の甘い体臭と柔らかい肉体に感触がしっかりと伝わってくるせいで、ついつい心臓の鼓動が激しくなるのを抑えきれない。
同時にこの場に居ないユキナへの罪悪感も湧いてきてしまい、何だか落ち着かなくなってしまう。
謙吾の葛藤などお構いなしに、更に七湖は胸で挟み込むように抱き締めた彼の腕に頬擦りすらし始めた。
「えへへ、謙吾とデート……」
「いや一緒にゲーム買いに行くだけじゃ――――」
「誰と誰がデートだって?」
「「わあっ!!?」」
突然声をかけられた謙吾と七湖は揃って文字通り飛び上がった。こんなに驚いたのは、声の主が本当ならこの場に残っていない筈の人物だったからだ。
恐る恐る振り向いてみると案の定、腰に両手を当てて頬を膨らませているユキナの姿があった。いかにも私怒っていますという雰囲気。
「大迫先生にまで頼みにいって2人だけでこそこそデートなんて……酷い謙吾。酷すぎる」
「だから誤解なんだユキナ!今日はどうしても欲しいゲームの発売日で、七湖も同じゲームを買う予定だったから、どうせなら一緒に行けば交通費の節約や行列に並んでる時にも退屈せずに済むだろうから、別にユキナが考えてるようなデートとかこれっぽっちも!」
「私はあわよくば買い物ついでにデートも出来れば、って考えてたけどね」
「七湖も引っ掻き回さないでくれよ!?」
ユキナは七湖の発言に泣きそうな顔をしているが、泣き出したいのはむしろ謙吾の方だ。時間を無駄にしたくないのに!
「なーんてね。冗談……じゃないけど、一緒にゲームを買いに行くのは本当の事だから。何ならユキナも一緒に買いに行かない?」
「……一緒に行く。でないと私1人で海神学園まで戻らなければならないし……」
引っ掻き回したのが七湖ならどんどん不機嫌になっていくユキナを取り成してくれたのも七湖だった。同行者が1人増えたが、とりあえずは出発できるようで謙吾も一安心。
当初の予定通り謙吾と七湖、そしてユキナを加えた一行はグリークス社員が用意した車両へ乗り込む。
車は国産のSUVで、一見どこにでも走っていそうな普通の外見だが、それは見かけだけで実際にはライフル弾すらも弾く防弾処置と足回りからエンジン、フレームに至るまで改造が加えられた特別車両である。
3人を乗せた車が向かう先は秋葉原。ハンドルを握っているのは謙吾だ。訓練の一環で各種軍用車両の運転は習得済みで、またこういった時に備えて偽造の運転免許証も所持している。
しかも発行してくれたのはグリークスの要請を受けた国土交通省、つまり国が発行した代物なので、仮に警察に車を止められたとしてもまず問題にはならないで済む。
直接新作ゲームを購入しに行く時にいつも謙吾が利用している大型ゲームショップ、その近くにある24時間営業の駐車場へ車を停める頃にはユキナの機嫌は普段の穏やかな雰囲気に戻っていた。
「ソードアート・オンライン(SAO)……前の休みに撮り貯めていた民放時代劇の編集をしている時にCMを見た覚えがある。それが謙吾と七湖が買おうと思っているゲームなのか?」
「その通りだ。従来のゲームとはまったくの別物――――モニターとコントローラーではなくナーヴギア、頭部全体を覆うヘルメット型のインターフェイスを使って、直接プレイヤーの五感に情報を送り込むんだ。ナーヴギア、そしてSAOが生み出す仮想空間のリアルさはまさにもう1つの世界そのものと評されてる、それぐらいの完成度なんだ」
「そういえば前謙吾の部屋を訪れた時に変わったヘルメットみたいなものが置いてあったけど、そうかあれがナーヴギアだったのか……」
「これまでナーヴギアを使ったゲームといえばパズルとか知育とか……噂じゃ自衛隊をはじめとした軍隊がナーヴギアを使った訓練用プログラムを開発してるって話だけど、少なくとも市販しているソフトはどれもパッとしないゲームばっかりで、ナーヴギアのスペックが十全に発揮されてるとは到底言えないのばっかりだったの。
けどSAOは違う。SAOで味わえる剣の世界での冒険は、私や謙吾みたいなゲーム好きにはまさに夢みたいな内容なんだ」
「出来ればネット予約が出来ていればこうしてわざわざ出向かずに済んだんだが……まさかまた任務のせいで予約し損ねる羽目になるなんてなぁ。2度目だぞ2度目」
「あははは……仕方ないよ。こういう仕事だもん」
車を駐車場に預けてからは徒歩でゲームショップへ向かう。
もうすぐ11月、朝日すらまだ昇っていない時間帯の気温はそれなりに冷たさを増しているが、ロシアから戻ってきたばかりの謙吾達からしてみれば北の大地と比べれば早朝の空気の冷たさもまだまだ温い位だ。
ゲームショップへ道すがら、謙吾と七湖はゲームに殆ど詳しくないユキナの為に、今回お目当てのゲーム――――SAOとそれをプレイする為に必須のナーヴギアについて説明を行っている。
何せ高校受験の為上京してくるまでユキナが暮らしていた土地は田舎も田舎、携帯は圏外で宅配対象地域外にも指定しされているような、辿り着くには丸1日山の中を彷徨わなくてはならないような山の中の隠れ里である。
当たり前ながら娯楽らしい娯楽は皆無、ユキナ自身の趣味も時代劇観賞に将棋と非常に年寄り染みているのもゲーム離れに拍車をかけていた。
ただ謙吾並にゲーム好きの七湖が仲間に加わってからは、急速に幼馴染との距離を詰めつつあった恋敵に対抗する意味で少しは触れるようになったが、それでもまだまだゲームについての知識は疎い。
「もちろんゲームもハードもハイスペックな分値段も相応だが、それ以上の価値が間違いなくあると俺は確信してる」
「そんなに高いのかそのゲームは?」
「えっと、ナーヴギアとSAOのセットで合わせて12万8000円だった筈だよ」
「た、たかがゲームでそんなにするのか!?」
ユキナが素っ頓狂な声を聞いて謙吾が血相を変えた。
「たかがとはなんだたかがとは!幾らユキナでも苦労して見事にナーヴギアとSAOを完成させた開発陣を侮辱するような言葉は聞き逃せないぞ!」
「す、すまない。つい口が滑ってしまって、そんなつもりは全く無かったんだ!」
「まーまー謙吾も落ち着いて!ユキナも悪気は無かったんだろうし、ね?」
あれこれ言葉を交わしている間に遂に目的地が見えてきた。
謙吾行きつけの大型ゲームショップの前には、ようやく朝日が昇る時間帯であるにもかかわらずそれなり以上に大きな人だかりが出来ていた。人だかりの正体は謙吾達と同じく、SAOを入手すべく夜明け前から出撃してきたヘビーゲーマー達だ。
年齢層は非常に幅広く、いい歳した明らかに社会人と思しき20代から30代、中には四十路にも達していそうな外見年齢の者も居れば、謙吾達と同年代の高校生ぐらいの集団やはたまたそれより下の中学生ぐらいの子供が今にも閉じそうな目元を何度も擦り、欠伸を噛み殺しつつ購入者の列に並んでいる。
「この人達もゲームを買いにわざわざ……?」
既に3桁に届く数の人々が並んでいるであろう。予想以上の行列を目にしてユキナが呆然と呟く。
「この分なら十分購入できそうだな。やはり空港から直接買いに向かうのは正解だった」
「ネットでの予約分なんか数分どころか数秒で完売しちゃったぐらいだもんね……」
一方で謙吾と七湖は予想通りだと言わんばかりに安堵の息を漏らしながら頷き合った。
3人が販売開始待ちの行列の最後尾に並ぶと、謙吾達のすぐ後ろに新たな購入希望者が並んだ。数十秒もしない内にまた新たな人が現れては並び、行列はどんどんと長さを増していきつつある。
粛々と訓練仕込みの直立不動で購入待ちの列に並んでいると、後方からの若い男の声が謙吾の耳に届いた。
「おおっ、見ろよあそこの女の子達。かなり可愛くねぇか?」
前方に見える範囲では様々な格好をした様々な男達の背中しか見えないので、恐らく後ろから聞こえてきた男の声が指しているのは謙吾の両隣に立つユキナと七湖の事だと謙吾は推測。
さりげなく身体の向きをズラしてチラリと後方を見やると、謙吾達へ視線を注ぐ若い男の姿をすぐさま発見した。
赤茶けた髪を逆立て、剥き出しになった額に赤のバンダナを巻き付けている。年は20代半ばといったところ。美形ではないが骨っぽさと愛嬌が同居した顔立ちの、人好きのする雰囲気を纏った男性だ。
謙吾の両隣の美少女2人を示しながら、一緒にSAOを買いに来た仲間らしき5人の男達と話し込んでいる。
「ちょっと壺井さん声大きいですって」
「でもあの女の子達、男連れみたいですよ。しかも両手に花状態で」
「うわマジかよ本当じゃねーか。チクショー羨ましいなオイ!1度で良いから俺もあんな青春を送ってみたかったぜ……!」
「まったく同意見です壺井さん!」
女性との色恋にとんと縁の無い様子の男達の悲鳴が聞こえてきたものだから、話題の中心人物である謙吾は堪らず居心地の悪さを覚えてしまった。
その壺井某と愉快な仲間達が言い合っている通り、ユキナとは恋人同士でありながら七湖からも「ユキナと一緒で構わないから」と迫られているのが今の謙吾の情勢。正直恵まれている以外の何物ではない。
戦場で暴れ回るのが稼業の学生傭兵ではあるが、ユキナと結ばれ彼女を狙っていた最大の敵を退けてからは時間と任務が許す限り後顧の憂いなく日々ユキナと愛し合えている今の状況は、謙吾にとってまさに幸せの絶頂だ。
こんな日々が永遠に続けばいいのに、と最近謙吾は切に願う機会が増えた。
行列の前方から「もうすぐ発売開始しまーす!」と店員の声。遂にその時がやってきたのだ。
「な、なあ謙吾。私は謙吾と七湖の事が気になって付いてきただけでゲームを買うつもりはないんだが、このまま並んでいても邪魔になるだけかもしれないし……」
ユキナの言葉にしかし謙吾は首を横に振る。
「……いや、むしろ好都合だ。代金は俺が出すから、一緒にユキナの分のナーヴギアとSAOを買ってしまおう」
「へっ!?いやいやいや、そんな謙吾がわざわざ私の分まで買う必要はまったくないぞ!」
「それは違うよユキナ。そもそも謙吾はね、最初からユキナの分のナーヴギアとソフトも買うつもりだったんだよ」
七湖の発言を聞くと、ユキナの動きが一瞬固まった。心底不思議そうな顔で、パッチリと見開かれた大きな瞳を謙吾へと向ける。
ユキナの恋人は彼女からの視線から逃れようとそっぽを向いていたが、その横顔が熟しきったトマト並みに赤らんでいて、そのお陰で彼の今の内心が容易に読み取る事ができた。これ以上ない位照れているのだ。
「謙吾、でもどうして……」
「……このゲームなら、ユキナも楽しんでくれると思ったから」
ボソリと、小さく口から漏れる。
「ナーヴギアの操作法は、脳から身体に送られる電気信号を読み取って仮想空間内のプレイヤーのアバターの動きに反映される。要は普段通り身体を動かす要領でイメージすれば、同じようにゲーム内でも動く事が出来る。その方式なら普段からゲームをしていないユキナでも最初から楽しむ事が出来ると思って――――
……いや、正確じゃないな。俺はこのゲーム、SAOをユキナと一緒に楽しみたいと思ったんだ。そりゃ七湖もゲームでも仕事でも頼りがいのある大切な仲間だと思ってるけど……出来ればユキナとも、いやユキナと一緒にゲームを遊んで、同じ楽しみを共有してみたかったんだ」
「とどのつまりリアルだけじゃ飽き足らず、ゲームの中でもユキナとイチャつきたいって事だよね。謙吾ってば本当ユキナにベタボレだよね?妬けちゃうなぁ私」
「そ、そうだったのか……」
「な、七湖ぉ!?」
七湖が謙吾の長台詞を簡潔に纏めた上でぶっちゃけてしまったものだから、謙吾の口から素っ頓狂な声が迸ってしまった。しかし実際その通りなのだから抗議や反論のしようもない。
今度は謙吾がユキナへ視線を浴びせた。今やユキナの顔色も謙吾と負けず劣らず血の気が集まっていて、胸の前で両の人差し指をつんつんと合わせては落ち着かなさげに謙吾の顔をチラ見している。
「ごめん、やっぱり我侭過ぎる、かな?」
「い、いや、私も謙吾ともっと色んな事をして、色んな事を楽しみたいと思ってたから……」
海神学園高等部特進クラスに存在する3大バカップルの1組(残る2組はセルジュ・アイナ組と爪兵・彩離組)が振り撒き出した甘酸っぱい桃色のオーラを前に、七湖は「ふーん」と微妙にやさぐれた雰囲気で唇を尖らせる。
「――――本当、妬けちゃうなぁ。せめてゲームの中でぐらいは、謙吾を独り占めしたかったんだけどなー」
「何でや!何であんなバカップルがこないな所おんねん!!」
「チクショウ壁だ!誰か壁持ってこい!」
後方集団からの血を吐くような叫びも、今の謙吾とユキナには届かない。
しっと団アインクラッド支部設立フラグが立ちました(嘘