「このハンティングナイフを貰おうか」
「毎度あり」
<ホルンカの村>の武器屋。
謙吾はログイン直後からこの村に辿り着くまでの間に<フレンジーボア>相手に稼いだ所持金を使い、新たなハンティングナイフを購入した。
謙吾は既に<はじまりの街>で全く同じ武器を購入済みなので、ハンティングナイフを2本所持している形になる。メニューのアイテム欄を操作し、鞘に収まった大振りのナイフを2本とも腰の両横に装備。
武器を買わず、代わりに防具アイテムの1つである茶色いレザーコートを購入しながら謙吾の行動を横目に見ていたキリトは、それを見て思わずといった風に口を挟む。
「二刀流だとソードスキルを使えなくなるから止した方が良いんじゃないか?」
「そうなのか?でも、それならそれでむしろ都合が良い。戦闘中に下手にモーションを感知して、ソードスキルが暴発する危険性が無くなるからな」
「だけど……二刀流は意外と難しいぞ?俺も試した事があるけど、自分じゃ扱いこなせなくて結局諦めたし」
「それは大丈夫」
短く答えながら謙吾は両腰のナイフを逆手に抜いて構える。斬り、突き、払い、受け流し、一瞬で順手に握り直して×の軌道を描く両手切り。更に順手で突きの連打。順手から逆手、逆手から順手へ目まぐるしく切り替えながら細かく刃を振るう。
謙吾の振るう双剣は決して適当ではない、むしろ極めて実戦的な刃物捌きであるとキリトはすぐに見抜いた。
キリトも過去に剣道を嗜んでいた経験がある。その頃の当時の指導者から、かつて鍛錬の一環として仮想の相手を見立てたイメージトレーニングをさせられた記憶があった。
謙吾――――このゲーム内では『タイガ』と名乗る青年プレイヤーが行っているナイフの素振りを実戦に置き換えてキリトもイメージ。
不用意に謙吾の射程距離に踏み込んできた敵の攻撃をあっさり受け流し、まず攻撃の為突き出された武器を持った腕をコンパクトなナイフ捌きで切り刻んでから太い動脈が走っている場所――手首、腋の下、首筋、太腿内側――や内臓が位置している場所を真っ直ぐに突き刺す。まるで熟練の外科医が操るメスの様に迅速で無駄が無い攻撃だ。
少なくとも、海外製アクション映画に出てくるどの主人公や悪役のナイフ捌きよりも、タイガの刃物の扱い方は格段に上を行っている。
「タイガは一体どうやってでそんなのを覚えたんだ?」
思わずこんな質問がキリトの口からポロっと零れてしまったのも仕方あるまい。
「……俺が習得した武術は、シラットって名前の主に東南アジアで広く知られている武術なんだ。各国の特殊部隊でも参考にされている位かなり実戦的な武術で、シラットの技術の中には二刀流での戦い方も含まれている。でもどちらかといえば、シラットの二刀流は手斧か鎌の方が向いてるんだけどな」
謙吾がシラットを習得しているのは事実だし、二刀流での戦い方も修めているのも本当の事。
ただ謙吾が学んだ武術にはシラット以外にも空手やイスラエル軍が編み出したクラウ・マガと呼ばれる超実戦的格闘術、軍隊格闘技なども含まれているし、手斧や鎌以上に謙吾が多用している戦闘スタイルは謙吾専用GENEZの両前腕部に搭載された超合金製牙による変則二刀流が中心だ。
もちろんそこまで詳細な説明は口が裂けても言えない。何よりGENEZの存在は極秘中の極秘だ。
「へー、そんな武術もあるんだな。出来たら俺も二刀流に再挑戦してみたいんだよなぁ……」
幸いにもキリトはそれ以上突っ込んだ質問は重ねてこなかった。
武器と防具を揃え終えた謙吾とキリトは武器屋を出る。丁度同じタイミングで隣の道具屋から出てきたユキナと七湖に出くわす。
「頼んでおいたアイテムは買いこんでおいてくれた?」
「もちろんだ。キリトの注文通り、手持ちの所持金で買えるだけのポーションと毒消しを購入してきたから、私達の財布はもうスッカラカンだ」
所持金いっぱいまで体力回復用のポーションと解毒ポーションを買い込んだのは、<ホルンカの村>で受託出来るとあるクエストの準備の為だ。
そのクエスト――――クエスト名『森の秘薬』、内容はとある中年女性の外見をしたNPCに話しかけると『難病にかかった娘の治療薬を作る為、ある植物型モンスターから入手出来る胚珠を手に入れてくれませんか?』とのお願いをされる。
モンスターを倒して入手した胚珠をNPCに渡せば、報酬として序盤のレア武器である片手用直剣<アニールブレード>が手に入るのだ。それで『森の秘薬』クエストは完了となる。
「俺はナイフ、ユキナも最初に買った曲刀で十分だからキリトの分とセブンの分、つまり花つきの<リトルネペント>を最低でも2体、倒さなきゃならない訳だな」
「ごめんね、私がタイガやユキナよりも弱いせいで余計な手間をかけちゃう事になって……」
謝罪の言葉を吐き出す七湖の顔色は暗い。
七湖、アバター名『Seven』の装備はキリトと同じ片手用直剣に片手用の小さな円形盾というオーソドックスな剣士スタイル。手鏡の効果でリアルとほぼ同じ容姿となった彼女だが、唯一普段から着用していたメガネだけはナーヴギアから取り込んだ容姿情報の再現から弾かれてしまい、いつもは透明なレンズの奥にあったくりくりとした大き目の瞳が今は完全に外気に晒されている。
彼女が言う強さとはパラメータではなく、純粋な戦闘技術を指している。
謙吾はベテランの学生傭兵、ユキナも海神学園入学以前から古武術を嗜んでいたので、反射神経や接近戦での間合いの取り方、技量に長けている。
一方七湖も入学以後は訓練を重ねてきたとはいえ元ひきこもり。謙吾やユキナと比べると自力に差がつき過ぎている。レベル制からくる序盤の能力の低さを2人の場合はリアルで培った近接戦闘技術で補えるのに対し、謙吾とユキナに劣る七湖は地力の低さを装備で補う必要があった。
「セブンが気にする必要はない。そもそもキリトの分の装備を手に入れるついでなんだからな」
「でも本当に、タイガとユキナは<アニールブレード>は欲しくないのか?俺の装備強化の為にクエまで付き合って貰ってるのにそっちに何の得も無いようじゃ、正直罪悪感が……」
「だからキリトも気にしなくていい。俺はこっち(ナイフ)の方が慣れているし、ユキナも一言もキリトに文句を言っていないじゃないか」
「その<あにーるぶれーど>?という武器があった方がキリトもセブンも助かるんだろう?だったら私も文句は無いぞ。有って助かるのなら有った方が良いに決まってる」
謙吾を先頭にキリト、その次に七湖、殿にユキナを配した縦列隊形で道を進む4人。
彼らは既にクエスト達成アイテムをドロップするモンスター、<リトルネペント>の群生地である森の中に突入していた。
先頭に立つ謙吾は、レベル1の段階で2つしか枠の無いスキルスロット――ここに選択したスキルを配分する事でソードスキルを筆頭とした各種スキルが発動可能となる――の1つに<索敵>を選択していた。
<索敵>スキルはソロプレイヤー向けのスキルでパーティを組んでいる現状にはあまり向いていないとキリトに説得されたが、あえて謙吾はこのスキルを採用した。このスキルを選択すればモンスターやアイテムの反応距離が延長される。その効果を重視しての判断。
「――――!」
唐突に謙吾は足を止めた。彼の視界に小さなカラー・カーソル……モンスターの存在を感知したのだ。
右手にナイフを握った状態で謙吾が空けてある左手で拳を作って掲げると、即座に後続のユキナと七湖が反応。腰を落として武器を構え警戒態勢。それぞれ別の方向を視界に収める事で可能な限り死角を潰す。
1人キリトだけは反応が遅れた。謙吾達の様子にすぐさま気づき、遅ればせながら片手剣を握り締め直す。
4人はゆっくりと警戒状態を維持しながら、謙吾が発見したモンスターの姿を視認出来る距離まで接近。自立歩行するようになった巨大なウツボカズラそっくりの植物型モンスター、<リトルネペント>の姿が見えてきた。
残念ながら、お目当てのアイテムをドロップしてくれる個体の目印である花は備えていない。周囲に仲間のモンスターの反応は無し。
兵士としての習性で一瞬このままやり過ごそうかと考えた謙吾だったがすぐに打ち消した。今居るのは(余り認めたくはないが)慣れ親しんだ戦場ではなく、敵モンスターを倒せば倒すほど自分と仲間の強化に繋がるゲームの世界。出来る限り戦闘を回避するのではなく逆に積極的に戦闘を重ねなければ強くなれないのだ。
「一応倒していこう。今の内に経験値を稼がなきゃならないし、倒し続ければ花つきの出現率も上がるからさ」
「分かった。まずは俺とキリトで戦おう。ユキナとセブンは念の為周囲を見張っておいてくれ」
紅二点を後方に残して黒二点が前に出る。
森に突入するまでの道すがら、キリトから教えられた<リトルネペント>の特徴を謙吾は脳内で反芻。ネペントは目を持たない代わりに別の知覚器官で気配を探知するので、背後からの奇襲が通じないのが特徴だ。
この植物型モンスターの主な攻撃方法はツタによる切り払いと突き、口からの腐食液噴射。腐食液は腐食性で浴びてしまうとHPのみならず武器防具の耐久力も大きく削られるので要注意。攻撃力は高いが防御力は低く、弱点はウツボ部分と太い茎の接合部との事。
「俺が先に仕掛ける。ヤツ(ネペント)の注意が俺に向いたらタイガも追撃してくれ」
「任せてくれ」
キリトは更に前へ。彼の数歩後ろに謙吾が続く。
ネペントが左右2本ある内の右のツタを使ってキリトに突きを放った。キリトは危なげなく左へ跳躍し回避。側面に回りこむや弱点のくびれに剣の一撃を叩き込む。この一撃だけでネペントのHPが二割以上減少した。
怒りの雄叫びを上げながら、ネペントは口が存在する面をキリトへ向けるとウツボの部分を風船のように膨らませた。腐食液発射の前兆だ。効果範囲は狭い分、その射程は5mと意外と長い。
腐食液が発射されるよりも先に、追撃役の謙吾がネペントの背後へ到達していた。両手には順手に握った大型ハンティングナイフ。
「おおっ!」
短い咆哮を伴いながらの謙吾の攻撃。彼が繰り出したのは左右交互に放つ上段袈裟斬りの6連撃。ヘブンシックスと呼ばれるシラットの基本的な型だ。
ザザザザザザッ!と6本の斬撃エフェクトがネペントに刻まれる。繰り返し振るわれたナイフの刃は全てくびれ部分を切り裂いていた。コンパクトかつ並みの動体視力では追いきれない速さで振られた事でダメージは上乗せされ、加えて全ての攻撃が弱点部分へと的確に命中していた事により、謙吾の双刃による累計ダメージは並みのソードスキルを大きく上回る数字を叩き出した。
ネペントのHPゲージが消滅。一瞬の硬直を経て、ネペントの巨体は爆散した。
キリトが最初に突っ込んでからモンスターの爆散まで、僅か10秒足らずの早業である。
振り切った姿勢からすぐさま構えを戻すと、飛散したネペントの光り輝く残滓越しにキリトが驚きに目を見張っている姿を捉えた。
「今のがタイガの本気の戦い方か……ソードスキルも無しに瞬殺かよ」
周囲を見回せば他にもモンスターの存在を示すカーソルが数多く存在している。狩りはここからが本番だ。
謙吾は仲間達に合図を送ると、すぐさま次に最も近くに位置しているモンスターの下へと仲間を引き連れて足早に向かう。
最初のネペント撃破から15分が経過。
ネペントの撃端数は現在30匹をとうに超えている。
もし自分1人だと半分も撃破出来ていないだろう、とキリトが思ってしまうぐらいのハイペースなのだが、残念ながらまだ花つきの個体は出現していない。
「中々出ないねー花つき」
「俺実はさ、それほどリアルラックに恵まれてないんだよな……」
七湖の言葉に呼応するように、ボソリとキリトが呟いた。
彼のボヤキを聞いて、謙吾達他の3人もつい乾いた苦笑を漏らしてしまった。謙吾もユキナも七湖も、運不運でいえば運に恵まれない人生を送ってきた口だ。
ユキナはナイチンゲールとしての能力を欲する敵対組織によって何度も身柄を狙われてきた。七湖の家族は共感覚を使った金儲けが原因で家庭崩壊した。
謙吾に至っては日本の外務大臣の愛人だった母親が見ている前で爆殺された挙句、復讐に狂った父親の手で少年兵の訓練キャンプへと放り込まれた。キャンプの仲間達はもう殆ど生き残っていない。グリークスに入ってからも、戦場で様々な悲劇や理不尽な死を目の当たりにしてきた。
だからといって、自分だけが不幸だと自ら哀れんだりはしない。爆撃で母親の胎内から出て来る事無く死んだ胎児と比べれば、今こうして仲間と生きている事だけでも十分幸せなのだと謙吾達は理解している。
「それにしても、やっぱりこうしてパーティを組んでると安定感が違うな。1度の戦闘にかかる時間も大違いだし、奇襲をそれほど心配しなくて良いから落ち着いて戦える」
謙吾達4人は、戦闘時には2人が前に出て戦い残りの2人が他のモンスターの介入を警戒するという方式を取って戦闘を行っていた。
ペアの組み合わせはキリトと謙吾、ユキナと七湖でほぼ確定。
ユキナと七湖の場合は七湖が盾を構えて敵の攻撃を誘い、その間に裏取りをしたユキナが丁寧かつ迅速に攻撃を加えるという手堅い戦法。腐食液発射の予備動作に入ればすぐさま回避。ユキナも七湖も動きに無駄が殆ど見られない。彼女達もまたソードスキルを発動させずに通常攻撃のみを確実に急所へ叩きつけるやり方だ。
ネペント1体が相手ならばキリト・謙吾組で10秒弱、ユキナ・七湖組でも今や30秒と掛からず撃破出来てしまう。なので経験値はどんどん貯まっており、既に4人全員がレベル2に成長済みだ。ステータス強化を行う為のポイントは七湖だけ防御力と敏捷力に、残りの3人は筋力と敏捷力に割り振り済み。
花つきを求めてひたすら戦闘を繰り返す一行。だが1匹目の花つきが現れる気配すら未だ見られない。
「(だけど本当にタイガ達はSAOは今日が初めてなのか?)」
SAO初心者は本物としか思えないモンスターのリアリティに驚き、恐怖し、一旦戦闘になればパニックに陥ってしまいがちだ。
しかしタイガ達3人は冷静そのもので、ダメージを負うどころかカス当たりすら滅多にしていない。きっちり安全なタイミング、安全なマージンを確保して攻撃を回避し、確実に防御している。
SAOがデスゲームと化した今、自分からわざわざモンスターの生息地に飛び込んで平常心を保ったまま最小限の見切りを行えているような人間はきっと、実は未だに現実を直視出来ていないのだ……キリトはまさに自分自身がその状態にあるとハッキリ理解していた。
だからこそ、己との差異に気付く事が出来る。
「(タイガ達は、俺とは別の意味で戦いに慣れている)」
本人達が言うには武術経験者という事らしいが、それだけで済ませるにはあまりにも――――
「屈めキリト!」
「…っ!!」
思考中断。反射的に行動。
タイガ――――謙吾の鋭い警告に即座に反応し頭を下げてから0.5秒後、頭上をネペントの蔓が風切り音を伴って通り過ぎる。
回避に成功した事で逆に攻撃してきたネペントが隙を晒しているのを悟るなり、ソードスキル<ホリゾンタル>を発動。急所を叩き切ると今や見飽きた爆散のエフェクトを伴いながら、ネペントの姿が消え去った。
「今ので一体何体目なんだ……」
「多分今ので大体300体目ぐらいじゃないかなー……」
「もしかすると目的の花つきの出現率がベータテスト時より下がっているかもしれないな……まだまだ先は長そうだ」
「多分そうだろうな。幾らなんでもこれだけ倒してもまだ出現しないのは少し理不尽過ぎるぞ……」
あれから更に1時間以上経過。森の中に配置されていたモンスターはあらかた駆逐してしまった。にもかかわらず目的のキーアイテムを入手し終えるどころか、最初の花つきすら未だ出現していない。
謙吾はまだ余裕がありそうだが、ユキナや七湖は流石に疲れた声を発し始めていた。キリトも同様だ。4人の中で最年少の少年に至っては恨めしそうな愚痴すら漏らしている有様である。
この時点で全員のレベルは更に3へと上昇しており、このままのペースではレベル4になるのもそう遠くはあるまい。
が、今はレベルの上昇よりも花つきの方が待ち遠しくて仕方がない、そんな空気が謙吾達の間に広がっている。
「………」
おもむろに謙吾は森の一部へ視線を巡らせ始める。
仮想世界だからこそか、森の中でも走れる程度の明るさが広がっているとはいえ(故に、サバイバル訓練で本物の山の中での闇夜を経験してきた謙吾達はかなりの違和感を覚えた)夜の時間帯、それも草葉が密生した森の中という事でそう遠くまでは見通せない状態だ。
また<索敵>の範囲圏内にモンスターかプレイヤー、NPCが引っ掛かればカーソルが出現し存在を示してくれるが、視界内に新たなカーソルは出現しない。つまり<索敵>スキルの結果を信じる限り周囲は無人という事になるが……
謙吾の兵士としての勘が違和感を発し続けている。それに従い、違和感が特に伝わってくるある方向へと注視する。
「どーかしたの?」
「いや……大分前から、誰かに見られている気がしてな」
恋人の言葉にユキナが反応しようとした丁度その時、4人から10m程前方で赤い光が生まれた。モンスターの再配置の前兆だ。
そして新たに現れたネペントの大群の中に目標――――花つきのネペントを見つけた事で、謙吾達の意識は違和感を離れ、そちらに集中してしまう事となってしまった。
――――謙吾が注目していた藪の中。
革鎧と円形盾、初期装備のスモールソードを身に付けた青年が1人、草陰の中に隠れた状態で新たに出現したネペントへと襲い掛かる4名の男女の様子を伺っている。
一見真面目そうな印象の青年の心中は今、焦燥の念で大部分が占められていた。
青年の目的もまた謙吾達と同じく、花つきの<リトルネペント>がドロップする胚珠である。序盤のレア武器を入手する為のキーアイテム。
「(このままだと何も出来ないまま彼らに持っていかれてしまう……!)」
彼が謙吾達の存在に気づいたのは1時間近くも前の事。
にもかかわらず、すぐに彼らの前に姿を現さなかったのは、彼らが4人という大所帯だったからだ。
現時点で自分以外にも<はじまりの街>からいち早く脱して『森の秘薬』クエストに挑戦する同類……つまり元ベータテスターが現れる事は予想していたが、まさかこの時点で当初からパーティを組んで行動しているのは想定の範囲外だった。
仮に最初に遭遇したのがソロプレイヤーだったならば何食わぬ顔で姿を現しただろうが、数が多いせいで逆に気後れしてしまった……それがいけなかった。
そのままズルズルと出てこれぬまま、ここまで付いてきてしまった。彼の存在が露見していないのは、青年が習得している<隠蔽>スキルの効果による所が極めて大きい。
4人パーティの1人がスキル頼りではなく、勘と気配から青年の位置を見抜きかけた時は非常に肝が冷えた。
「(ああやってパーティを組んでいる以上、ネペントの胚珠を全員分集めるつもりでいる筈。ここまでの出現率の低さを見る限り、幾らパーティを組んでいるといっても彼らにはもう余裕はない。
パーティを組んでる相手じゃ人数分集めるまで臨時で手を組む申し出をするメリットもないし、今更出て行っても間違いなく突っぱねられるに決まってる……)」
視線が、4人パーティが立ち向かおうとしている花つきのすぐ奥……巨大な捕食植物のシルエットに重なるようにして存在しているもう1体のネペントへと向かう。
2体目のネペントの体躯の頂点には、今にも弾けそうに膨らんだハンドボール大の実がぶら下がっていた。
この実を誤って傷つけようものなら、即座に炸裂して凶暴化したネペントを引き寄せる煙が一帯に撒き散らされてしまう……非常に厄介な、実つきと呼ばれる個体だ。
――――青年は、彼にしか聞こえない悪魔の囁きを聞いた。
これから自分が行おうとしている行動のリスクと対価、己の勝算と長時間ここまで戦い続けてきた名も知らぬパーティの存在と彼らが味わってきた苦労を秤にかけ、僅かに考え込んだ後………
「…………」
<隠蔽>スキルを発動させ続け、更に出来る限り木の影に溶け込むようにしながら、慎重な足取りで花つきと実つきの姿が重ならない位置へと回り込む。
身を隠したまま出来る限り接近を果たした青年は、2人の少年の絶え間ない連続攻撃によって瞬く間にHPを失っていく花つきをジッと見つめながら、足元に転がる小石を拾い上げる。
そのまま小石を掴んだ手を振り上げ、そして――――――――
うーん、評価やお気に入り数はともかく感想が増えない。
やはりいまいち内容や描写に盛り上がりが足りないんだろうか……