Sword GENEZ Online   作:ゼミル

9 / 12
お待たせいたしました。


8:タイガーランド

 

 

世界初のVRMMORPG、<ソードアート・オンライン>が極限のデスゲームと化してから1週間が経過。

 

――――僅か1週間で数百人が死んだ。

 

 

 

 

 

 

「何とかして早く歯止めをかけないと……」

 

 

わざと口に出す事でこのデスゲームを一刻も早く攻略し、これ以上無用な犠牲者を増やさないようにしなくては――――謙吾は改めて誓う。

 

現在謙吾達一行が居るのは第1層フロアの最北端に存在する迷宮区、その近隣に存在する中小規模の町村で最大の町<トールバーナ>の北門だ。彼らは完全装備である人物達の到着を待っていた。

 

 

「おーい、キリト、タイガー!」

 

 

喜びを含んだ男性の声が、腕組みをしながら門に寄りかかっていたキリトと謙吾の名を呼んだので声のした方向へ意識を向けると、赤茶けた髪を逆立てて額にバンダナを巻いた青年が腕をブンブン振りながら駆け寄ってくるのが視界に飛び込んできた。

 

 

「久しぶりだなクライン!無事みたいで何よりだ!」

 

「おいおい、毎日何かしらメールでやり取りしてたんだからそれぐらい分かるだろ?けどま、キリト達も元気そうで良かったぜ。凄いじゃねぇか、真っ先に迷宮区に辿り着くなんてよ!」

 

「お久しぶりですクラインさん。無事にここまで辿り着いてくれて安心しました」

 

「おう、タイガも久々だな。そっちも元気そうで何よりだ。有利な狩場やクエストの情報を流してくれたお陰で非常に助かったぜ」

 

「それについてはキリトに礼を言って下さい。俺達がここまでスムーズに進んでこれたのも彼のお陰です」

 

 

<はじまりの街>で別れてから頻繁にメッセージのやり取り――内容は主に序盤のレアアイテムが入手できるクエストやレベル上げに最適な狩場の情報提供――は行っていたが、彼と直接顔を合わせるのはかれこれ1週間ぶりだ。

 

キリトや謙吾と固く握手を交わし合うクラインの背後には、謙吾達の記憶に無い顔が5つ。全員男性で、彼らこそが<はじまりの街>でクラインが「置いて行けない」と言っていた仲間達に違いない。

 

 

「コイツらが前言ってた俺の仲間達。実はもうギルドも組んでてな、<風林火山>ってんだ。俺を含めて総勢6名、これから世話んなるぜ――――で、そっちもそっちで知らない顔が増えてるみてーだけど……」

 

 

クラインの視線が謙吾の後方に居るアスハブを捉えた。キリト曰く野武士ヅラと評された、無精髭の目立つ顔に戸惑いに浮かぶ。

 

アスハブはチェチェン出身。明らかに年下の少年とはいえ、日本人からかけ離れた風貌の相手を前に少々腰が引けている模様。

 

 

「あ、あー、ほわっとゆあねーむ?」

 

 

今日びの小学生よりもたどたどしい英語で話しかけてきたクラインの姿に、堪らずアスハブは破顔してみせた。

 

ニヤリと口元を歪めながら、訛りはあるが流暢な日本語で返答する。

 

 

「アンタがタイガ達の言ってたクラインか?ヨーシュだ、宜しく頼む」

 

「な、何だ日本語話せるのか。いやー良かった良かった、学生時代は英語の成績悪くなかったんだが喋るのに関しちゃトンとダメダメでよぉ。それにしても日本語上手いな」

 

「日本に来たのはほんの数ヶ月前だけど、日本のアニメやゲームの為に以前から日本語を勉強していたんだ」

 

 

他の面々はといえば、クラインと共にやって来た彼の仲間達が何時の間にやらユキナと七湖を取り囲んでいた。

 

野郎どもの目は揃いも揃って血走っており鼻息も荒い。今やレア中のレアな存在であるSAOプレイヤー、それも飛び切りの美少女×2を前にして男の本能その他諸々が暴走している様子だ。詰め寄られた当の2人は非常に慌てた様子で逃げ腰になりながら、頻りに謙吾へ救援要請のアイコンタクトを発信中。

 

すると5人の男達の内の1人がおもむろに前に進み出ると、

 

 

「俺と付き合って下さい!」

 

「す、すまない。私は謙吾以外の男と付き合う気は無いんだ!」

 

 

告白から僅か0.5秒の早業である。1歩踏み出した流れからそのまま力無く崩れ落ちるクラインの仲間A。

 

すると今度はクラインの仲間Bが七湖へ歩み寄ったかと思うと、

 

 

「俺と」

 

「ごめんなさい、気持ちは嬉しいけど私はタイガの愛人志望だから……!」

 

『な、なんだってー!?』

 

 

可憐なスレンダー少女が発したとは思えない過激な返答が余りに予想外だったらしい、驚愕の悲鳴と共にクラインの仲間BからEまでも背後へぶっ倒れた。

 

寸劇の一部始終を呆気に取られながら見ていたキリトは、たっぷりの沈黙の後に口元を引き攣らせながら、ボソリと感想を口にした。

 

 

「……………………クラインの仲間って愉快な人達なんだな」

 

「全ては出会いが、出会いが無ぇのが悪いんだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

クラインの仲間達が我を取り戻すまでしばらくの時間を必要としたが、全員が現世に復帰し終えてからは自己紹介は滞りなく進んだ。

 

キリトがベータテスト経験者である事は、クラインのみならず<風林火山>のメンバー全員が既に知っている。そもそもSAO初心者には知りえない情報の提供をずっと受けていたのだ。リーダーを務めるクラインからも「キリト達を恨むな」と釘を刺されているし、恩は感じれど隔意を抱く気にはなれなかった。

 

その辺りは優先的に有利な情報提供を受けているという事実だけでなく、クラインの人柄の下に集った<風林火山>のメンバー同士の結束も固く、何より彼ら1人1人が比較的穏やかで誠実な人物ばかりなのが非常に大きいであろう。

 

クラインの時も似たような感想を抱いたが、デスゲームに閉じ込められるという異常事態にありながらこうも頼りがいのある人々と早々に知り合えたのはまさに僥倖だった――――口に出さず謙吾とキリトは同じ感想を共有した。

 

 

「それでは本題に入りたいと思う」

 

 

こういった話し合いの場合、まず音頭を取るのは謙吾の役目だ。

 

強化外骨格・GENEZを操る特殊部隊員として長年活躍してきた謙吾はユキナや七湖、ここには居ない他の仲間達の指揮を現場で取ってきた経験が何度もある。積み重ねられた経験が、謙吾を自然と頼もしさとリーダーシップの持ち主へと成長させていた。

 

もちろん指揮を任せても構わないと思えるような人物が出てくれば、信頼できるかどうか見極めた上で委ねようとも決めている。第1候補としてはクライン、キリトはベータテスト経験者として実力と知識はあれど決定的に経験が足りない。

 

 

「まず確かめたいんですが、今の<風林火山>の平均レベルはどれぐらいなんですか?」

 

「んー、皆と合流してある程度落ち着いてからはタイガ達から教えてもらった狩場やレアアイテムが手に入るイベントを優先的に回ってたんだけど、大体5から6って所だな」

 

「俺達は既に全員が10から11に到達しています。<風林火山>の皆さんには迷宮区に篭って今日明日、遅くても明後日までには俺達と同じレベルにまで到達してもらおうと考えています」

 

「マジかよ」

 

 

クラインが呻き、彼を除く5人の男性プレイヤーの間に動揺が広がった。

 

ベータテスターの先導があるとはいえたった1週間でレベル10オーバー。それぞれに注目してみればHPの詳細な数値の隣に、可視化設定された2桁の数字が確かに浮かんでいる。

 

第1階層のレベルキャップが如何程なのかは知る由もないが、謙吾達がかなりの強行軍を行ってきたのは明らかだ。

 

宣言した謙吾だけでなくユキナや七湖にアスハブも大真面目な表情を浮かべていて、キリトだけ乾いた笑みを湛えながら遠くを見つめている。反応の落差に<風林火山>の面々は一様に顔を引き攣らせた――――どんだけ強行軍だったんだ!?

 

 

「もちろんマップデータや出現するモンスターのデータは全て提供しますし、倒したモンスターのドロップ品も全てそちらの物。俺達も皆さんに同行して援護やアドバイスを行います。レべリングが完了次第準備を整え直し迷宮区20階にいるフロアボス捜索へ移行。フロアボスの情報を収集後は再度この町に帰還し、ボス攻略用の人員の募集を行う予定です。

 ……ですが、これはあくまでそちらが希望すればの話です。俺達は皆さんの意思を尊重します。仮に参加を拒否したとしても決して俺は責めません。俺達の目的は可能な限り犠牲者を抑える事であって、無理強いする気は決してありませんから」

 

「おう、舐めんなよタイガ」

 

 

怒りを含んだ啖呵が謙吾の耳朶を打った。

 

 

「そんだけお膳立てしてもらっちゃ、『この話は無しで』って言えないに決まってんだろ……へへっ、ありがてぇにも程があるぜ」

 

 

『NO』とは言えない。謙吾の申し出は破格であったし、自分達の遥か先を進む目の前の少年少女達に負けていられないというゲーマーとしての嫉妬、年上としての意地、何より皆の開放の為に早くこのゲームをクリアしなくてはという使命感が、見た目は冴えないが心意気溢れる6人の男達を突き動かす。

 

 

「そうそう、クラインさんの言う通りですって。むしろ至れり尽くせり過ぎて、危うくチュートリアルかと勘違いしそうになりましたよ!」

 

「俺なんか危うく『彼らはもしかして運営の廻し者じゃね』って言いそうになったぜ」

 

 

朗らかに会話を交わし始める<風林火山>の男達。雰囲気からして彼らもまたクラインと同じ意見なのは間違いなく。

 

 

「うっし、話はそこまでか?そんじゃあちゃっちゃと迷宮区に案内して貰うとすっか。テメーら覚悟は良いな!?レベルじゃ負けてても人生の先輩としては負けてらんねぇぞ!後輩共に良い所見せてやれ!」

 

『応っ!』

 

「――――ありがとうございます」

 

 

クラインを除いて見ず知らずの男達が見せてくれた心意気に、謙吾は最敬礼でもって応えた。深く頭を下げた少年の後ろでは、他の少年少女達も安堵と喜びの笑顔を零している。

 

士気は上々、装備や各種アイテムも謙吾達は<風林火山>との合流前に先んじてアイテムボックスの容量と所持金が許す限り揃えておいたので準備は万端。

 

 

 

 

謙吾達5名とクライン率いる<風林火山>総勢6名、計11名のプレイヤーは意気揚々と第1層迷宮区目指して森の中を行進していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――迷宮区に篭り始めてから何時間が経ったのだろう。

 

――――迷宮区に踏み込んでから何体のモンスターを倒したのだろう。

 

モンスターがリポップする度、謙吾やキリトが発した指示を背に浴びながら亜人型モンスターに斬りかかる。

 

盾持ちが前に出ては腰を落として亜人型モンスターが振るう得物の一撃を確実に受け止め、亜人型モンスターの間合いや攻撃タイミングに慣れた者はすぐに後ろに飛びのいたり、身体を開いたりして確実に回避。

 

中には大振りの攻撃に対し敢えて盾を突き出し逆に弾き返す猛者まで現れるが決して無理に狙ったりはしない。無理無茶無謀な真似は厳禁だと、謙吾から口酸っぱく言い含められている。

 

前衛の背後にピッタリと追従していた長物持ちが仲間の肩越しに大きな隙を晒す敵モンスターへと穂先を叩きつけ、或いは捻りを加えながら突き出す。狙うは頭部や防具に守られていない、ダメージの通りが良い部分。

 

防御されてからの反撃によって前衛とその相方が敵モンスターからの注目を集めた所で、外側から回り込んだ他の<風林火山>メンバーが参戦。新たな敵に目標を変更すれば背後に回り込んだ最初の前衛が今度は無防備な背中目がけソードスキルを叩き込む。

 

誰かが敵モンスターの注目を引き受ければすかさず他の仲間が死角から攻撃……延々それを繰り返す。数の暴力で袋叩きにされた敵モンスターはそれ以上有効打を浴びせられぬまま、爬虫類っぽい断末魔を残して四散した。

 

 

「ふぃー、どうよ、コイツらの戦いっぷりも中々様になってきたんじゃねぇか?」

 

 

数mの間隔を置いて仲間達の戦いぶりを手に汗握りながら見届けていたクラインは、安堵の溜息を1つ吐き出して額から汗を拭う動作と共に謙吾達へ問いかける。

 

 

「ええ、<風林火山>の皆さんはSAO以前から長年ギルドを組んでいただけあって連携の練度やスイッチのタイミングが見事ですね。後はレベルアップに伴う身体能力の変化やモンスターと相対した時のマインドセットをもっと磨き上げればより効率良く戦えるようになりますよ。意識し過ぎると本来の力が出せなかったり、精神的消耗も激しくなりますから――――キリトはどう思う?」

 

「そうだな、やっぱりソードスキルを発動する為のモーションにまだまだ無駄な部分が――――」

 

 

 

 

――――戦闘全般、特に通常攻撃主体の攻撃や見切りについての指導は謙吾が。

 

――――敵モンスターの情報や有効な戦術、個人個人のソードスキルに関する指導はキリトが。

 

戦闘時に何らかのトラブルやミスが起きた場合のフォローを残るユキナ・七湖・アスハブが担当。

 

 

 

 

 

謙吾が<風林火山>の面々に叩き込んだ教えは非常にシンプル――――可能な限り数の利を有効かつ効率的に生かせ。

 

特に敵モンスターとの戦闘はとにかく1対複数に持ち込むよう重点的に指導。相手が複数の場合は追い立て、或いは誘き寄せて1体1体を孤立させ向こうが連携攻撃を行えない状況に追い込ませる。

 

指導の合間に、例えば剣の振りはこれこれこうした方が隙が少なくて済むだの、通常攻撃時に敢えてこんなモーションを挟めばスムーズにソードスキルに繋げれるだの、といった風に議論を交える事で、謙吾とキリトは<風林火山>を鍛えると同時に自らの糧にもしていた。

 

指導担当の2人以外に活躍しているのがアスハブだ。理由は彼の武器、より正確にはアスハブが使う武器が使用可能なソードスキルにある。

 

新たなモンスターが出現する。戦闘開始。今回の目的は<風林火山>全体のレベルの底上げなので基本謙吾達は戦わないが、アスハブだけは謙吾と<風林火山>の間に立って身構える。

 

今回遭遇した敵モンスターの数は4体。謙吾の教え通り最低でも敵モンスター1体につき2人で当たり奮戦するクライン達だが、残る1体が彼らの背後に回り込んでバックアタックを試みる――――

 

そこでアスハブの出番だ。

 

 

「アスハブ!」

 

「任せろ!」

 

 

革鞭を握るアスハブの右手が閃いた。

 

熟練の使い手が振るう鞭の速度は瞬間的に音速を超過するとも言われている。

 

アスハブの鞭はバックアタックを発動寸前だった敵モンスターへと目で追う事すら難しい速度で伸びたかと思うと、武器を持つ両腕ごと胴体に絡みつく。鞭に拘束された敵モンスターにはダメージだけでなく行動の強制キャンセルと数秒間の行動不能という二重の枷が嵌められる事となった。

 

 

 

 

――――鞭カテゴリ専用ソードスキル<バインドウィップ>。

 

 

 

 

1体しか拘束できない、プレイヤーと敵モンスターの筋力地の差によって拘束時間にバラつきが出たりモンスターによっては無効化される場合もある、プレイヤー単体では拘束後の追撃手段が限られる、そもそも鞭使い自体の人口が少ないetc……

 

最後はともかくデメリットの多い技だが、麻痺効果が付与された武器や大量ダメージによるスタン以外にモンスターの動きを封じる事が可能なソードスキルは、発動中のカバーを行ってくれる仲間が居る状況下に於いては非常に有効だ。

 

<バインドウィップ>は単に上半身を拘束するだけにとどまらず、敵モンスターの足を狙えば鞭が巻きついた足を引っ張ってモンスターを転倒させるといった芸当も可能。飛び道具といえば<投剣>程度しか存在しないSAOにあって鞭の射程距離は槍以上という点も相まって、こと後方からの援護攻撃という点においてはとても役立つ武器……というのがSAOにおける武器の立ち位置だった。

 

にもかかわらずプレイヤーの間で不人気武器扱いされてしまっているのは、単体では鞭の特徴を生かしにくいのもさる事ながら、プレイヤーの動作1つ1つにダイレクトに依存されるSAOの戦闘方法では――ある程度モーションアシストが働いてくれるとはいえ――鞭の扱いが非常に難しい、この点に尽きた。

 

武術経験者でも鞭の扱いまで習得している人物というのは極めて限られる。そもそも実戦的な鞭の扱いを習得したくても何を参考にすればいいのやら、精々革紐を編んで作られた皮鞭や短い鉄の棒をリングで繋いだ九節遍などが伝えられる中国拳法ぐらいであろう。

 

それなら剣やら槍やらの方が扱いがまだ簡単だし、何ならネットで検索すれば刀剣や長物の名人の記録映像が幾らだってヒットするからそれを見て参考にするのが手っ取り早い。

 

使用者本人への旨みが少ない、そもそも使いこなす事自体困難――――そのような理由から人気が出ない、不遇の武器。

 

だがアスハブは扱いの難しい鞭をまるで己の手の延長線の様に自在に操っている。

 

現実世界のアスハブは幼少時ロシアの犯罪組織によって誘拐され、使い捨ての少年兵として育成された過去を持つ。

 

瀕死だったアスハブはエレナ・ヴェガによって助けられ、その際弱った生命力を保管する為に物質精霊を使用。九死に一生を得たアスハブは水を操る能力を得た。

 

エレナ・ヴェガの側近になってからはその能力を彼女の為に行使し……・結局エレナ・ヴェガは謙吾に殺されてしまったが能力は健在だ。SAOでも能力が使えればどれだけ楽か、と思う事は多々あるが、それは謙吾やユキナ達も同じ気持ちだろう。

 

水の操作による戦闘法でアスハブが多用していたのが、周囲にばら撒いた大量の水を精霊の力で強化した鞭として駆使する方法だ。謙吾と激突した時もこの方法で彼を苦しめた。

 

水の鞭は威力も扱い方も実際の鞭からかなりかけ離れてはいるが、その経験はSAOにおいて生かされている。

 

扱い方そのものではなく、どんな風にしならせればより威力が上がるか、敵モンスターの身体に巻き付けるにはどんな風に操ればいいか、そんなイメージの問題だ。

 

 

「今だクライン、やっちまえ!」

 

「お、おう!フォロー助かった!さっさとコイツもフクロにしちまうぞ!」

 

 

アスハブからのフォローを受けた<風林火山>の面々はリーダーであるクラインの叱咤を受け、瞬く間に敵モンスターのHPゲージを最後まで削っていった。相対していたモンスターを始末し終えれば残るはアスハブの鞭で拘束された1匹のみ。哀れなモンスターは6人がかりの袋叩きによって数秒と経たず仲間の後を追った。

 

敵モンスターの不意打ちから仕切り直してくれる鞭のソードスキルを駆使するアスハブの援護のお陰で、<風林火山>のメンバーは横槍を気にする事無く先頭に専念し続ける事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ今日はこれで一旦終わりましょう」

 

 

黒髪短髪の少年(職業:学生傭兵)の言葉を合図に、待ってましたとばかりに<風林火山>の男達は一斉にその場に腰を下ろした。

 

謙吾の終了の合図によって緊張の糸が切れてしまった彼らは、冷たい石の上に直接座り込みながら天井を仰いで重々しい吐息を漏らしたり、愛剣に縋り付く様に背を丸めたりして『もう疲労困憊です』と全身でアピール中だ。

 

中には懐に手を突っ込んで何かを探る仕草をしている者も居た。その人物は恐らく喫煙者で、つい現実に居る要領で反射的に愛用の煙草を探してしまったのだろう。

 

 

「うわっ、もうこんな時間かよ。こりゃ町に着くのは夜中になっちまうな」

 

「いえ、今日は町に戻りませんよ。近くに安全地帯がありますからそこで野宿です」

 

「は、はぁ!?」

 

 

予想外の言葉にクラインは大口を開けて固まった。彼の仲間も似たような状態だ。

 

ダンジョン内に点在する安全地帯ではモンスターが出現しない。が、居住性は最悪だしすぐ近くの通路からは頻繁にモンスターの足音やら唸り声が聞こえてくるしで長時間の滞在には向かない、というかしたくない場所なのだ。

 

クライン達は今回がダンジョンに入るのが初めてだが、安全地帯がどんな場所なのかは噂で聞き及んでいる。そんな場所で野宿を行うと、よく訓練された軍用犬みたいな雰囲気の少年は事もなげにあっさりと言い放ったのである。

 

だが今のクタクタな状態で迷宮区から脱出し街に辿り着くまで延々歩き続けるか、それともすぐ近くの安全地帯で一晩明かすか……・結局クライン達が選んだのは後者だった。それだけ長時間の戦闘で疲弊していたのだ。

 

もちろん最初からこのつもりだった謙吾達はしっかりと野宿用の道具一式を<風林火山>の分も纏めて持ってきている。

 

一同は食事をとり終えると、謙吾達が持ってきた寝袋に入ってさっさと就寝する事にした。

 

 

「何かあった時の為に俺達の誰かが交替で寝ずの番をしてますから、<風林火山>の皆さんは気になさらずゆっくりと休んでください」

 

「とは言われてもよぉ……」

 

 

寝袋に入ってから数十分が経過。寝袋越しに石敷きの床の固さが伝わってくる中、全身の骨が鉛と入れ替わったような重だるさに包まれているにもかかわらず、クラインの目は冴えたままだ。

 

 

「あー、眠れなくてもせめて目をつぶって横になってれば少しはマシになるぞ」

 

「目をつぶってたら外から聞こえてくる足音とか唸り声が余計に気になるんだよ……!」

 

 

小声で叫ぶという器用なやり方で抗議してくるクラインに現在寝ずの番中のキリトとアスハブは苦笑い。

 

実の所、クライン以外にも<風林火山>の面々もクラインと似たような状態だった。肉体は休息を求めているが、安全地帯のすぐ外でうろつくモンスターの存在が気になって眠れない。

 

大の大人が揃って不安と恐怖に苛まれている一方で、彼らを引率してきた少年少女達はといえば寝ずの番役を除きぐっすりと快眠中。謙吾だけでなく、ユキナや七湖といった凛々しく可憐な美少女2人までダンジョンの一角で平然と睡眠を取ってみせている様子に<風林火山>は驚きを隠せない。

 

 

「まぁこの先クリアしていけばダンジョンで野宿するのも当たり前になるかもしれないんだし、予行演習とでも思えば……」

 

「大体、そこまで気にする必要はないと思うけどな。床は固いけど冷たい風が吹き込んでくるわけじゃない。ちゃんとした寝袋だってある。何よりしっかりと安全も確保されている――――野宿するだけなら快適過ぎるぜ」

 

「……もしかしてリアルじゃ苦労した口だったりすんのか?」

 

 

反射的にポロリとクラインの口からそんな質問が零れてしまった。今日初めて会った相手にリアルについての質問をするというのはマナー違反だが、あまりに実感が篭っていたアスハブの言葉に思わず聞いてしまったのだ。

 

チェチェン生まれで戦場育ちの少年は「そうだな……」と少し悩んだ様子で天井を見つめてから、

 

 

「小さかった時は毛布1枚満足に手に入らなかったから、砲撃で大穴の開いた廃墟の片隅で仕方なく他の子供と身を寄せ合って冬を乗り切った。あの頃と比べれば凍え死ぬ心配をしなくて良い分、ここはよっぽど過ごし易いさ」

 

 

 

 

 

 

予想以上にハード過ぎたアスハブの独白に、顔を見合わせたキリトとクラインの額に冷や汗が浮かんだ。

 

 

 

 




実際鞭の扱いなんて、それこそ映画やゲームみたいな創作でしか参考になりそうな動画が出回ってない件……イン○ィジョーンズは偉大ですw
カンフー映画に出てくる類の物は何か違う気がしますしねぇ、資料探しも中々難しいもんです。


批評感想募集中。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。