アイズ「違います。好きになった人がたまたまショタだったんです」   作:鉤森

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誤字報告に沢山の感想、評価、ブックマーク。どれも感謝の想いが尽きません。
本当に皆様、ありがとうございます。



という訳で甘々です。あと次回への若干の伏線です。でも甘々です。
砂糖の匙加減がわからない。甘くなってますかねー?



あげていくぞ(糖度的な意味合い+α)

「はい、どうぞ。」

 

 

「あーん。…ンむ、はむ。…おいしい。」

 

 

「ご機嫌だね、アイズ。」

 

 

「うん。…幸せだから。」

 

 

長すぎる告白演説会から日を跨ぎ、翌日。アイズは誰かに止められることを恐れ、朝早くに「黄昏の館」を飛び出して、昨日立てた胸中の誓いを、確かな現実のものとすべく行動を起こしていた。

何、酒場の一件から昨日で、もう多方面でバレている。自分の気持ちも、白野との関係も…ならば躊躇う理由がどこにあろうか?いいやない。ならばもう自重せずに、周囲へと知らしめる必要があった。

 

彼は私のもので、私は彼の英雄(もの)だと。今ならティオネの気持ちがよく理解できる、アイズの素直な気持ちだった。

 

 

「そっか。…よかった。」

 

 

「当然。…白野もそうだよね?」

 

 

「勿論。というか、この状況で否やはない。」

 

 

「…えへへ。」

 

 

結果、現在…アイズは甘えていた。それはもうグズグズに、見た目的には三つか四つは下であろう白野に対して、全身で甘え尽くしていた。人目も気にせず日の高いうちから、ベンチで恥ずかしげもなく膝枕だった。当然ながら遠巻きに見ている外野(ギャラリー)の心中で、『アイズ・ヴァレンシュタイン=ショタコン』の方程式が構築されていく(当人は間違いなく否定するだろうが)。

ともあれ、とても気持ちよさそうにしながらも、ちょくちょく寝返りを打って膝に腿にと顔をうずめたりする様子は正しく甘える小猫のソレ。事実、自分の匂いをこすりつけるような動きをちょくちょく見せつけている。実際にはそれだけではなく、白野の匂いも堪能するという徹底ぶりなのだが…訓練された人間でもなくばソレは見抜けないだろう。

 

オヤツは勿論、白野の手製ジャガ丸くんである(麻婆抜き)。

 

 

「もう一口食べたい。」

 

 

「はい、あーん。」

 

 

「あむ。…ん、おいしい。白野もあーん。」

 

 

「…あ、あーん…うん、おいしい。」

 

 

唐突に甘えぶりが激化したことに対して、事情を知らない白野の方は当初こそドギマギもしたが…今やすっかり順応しつつあり、膝に寝そべるアイズにジャガ丸くんを食べさせ、時折食べさせ返されている。

そうそうお目にかかれぬバカップルもかくやというイチャつきぶりに、遠巻きに見つめていた外野(ギャラリー)が盛大な舌打ち連鎖を起こしているが、少なくともアイズは気にした様子もなく、寧ろ一層身体を摺り寄せている有様だ。白野の方は若干どころではない気恥ずかしさに、少々いたたまれなくもあったのだが…。

 

 

「おいしい?」

 

 

「うん。…結構、恥ずかしいけど。」

 

 

「大丈夫、私は気にしない。…今日はずっと甘える、から。」

 

 

「…悪い気はしないかな。いや、違うな———俺も嬉しいよ。」

 

 

「…フフッ。」

 

 

…この笑顔を曇らせないためならばこの程度、些事にもならないと断言できた。ささやかな躊躇いも恥じらいと共にそっと蓋をし、奥底へとしまい込む。望むがままに存分に甘やかすとしよう、そう決めるのに時間はかからなかった。

 

そう、待つしかできない(・・・・)身では最早ない。この身はもう、既に一人の少女が帰り着く場所なのだ。その帰還を信じて、とにかく信じて、変わらぬ姿と気持ちでアイズの帰還を待ち続ける。共に戦場に立つことこそ出来はしないが、それは同等以上に難しく、双方にとっても重要なことだと白野は思っていた。

ジャガ丸くんに触れていない方の手で、優しくアイズの柔らかな髪を撫で梳いていく。抵抗はあらゆる意味で皆無であり、ふにゃりと崩れたアイズの心地よさそうな表情がとても眩しく感じられた。

 

柔らかい日差しの中、邪魔もなく、二人の時間はまだまだ続く。

きっとまた明日も会えるとは言え、のんびりとした時間が過ごせる日が貴重なのはいつの時代も変わらない。

 

だからこそ、この時間こそが何よりも尊いのだと、二人は気持ちを一つに思っていた。

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

まあ邪魔が入っていないというだけで、別に邪魔者がいないという訳でもないのだが。

二人から見て丁度死角となる物陰に、彼らは存在していた。正直普段であれば即座に気付かれそうなほどに気配を…というよりも邪気と野次馬根性を剥き出しで、食い入るように二人だけの世界を見つめていた。

 

 

 

 

「う、うぅぅううぅ……アイズさんが、あんな、あんなにぃ~…っ。」

 

 

「はえー…嘘みたい。アイズってあんな風に甘えるんだ…。わ、ちょっとドキッとしちゃった。」

 

 

「ちょっと、あんまり声出さないでよ。気付かれたらどうすんの?」

 

 

「いやー、気付かないんじゃないっスか?周りも舌打ちしまくってますけど、全く気にしてないですし…。」

 

 

「あっちの…白野…だっけ?途中まで気にしてたみたいだけど、止めたって感じだよね。ねえねえベート、どう思う?」

 

 

「——————。」

 

 

「駄目ね。もう憤死してるわ、この駄犬。」

 

 

「ベートさんが死んだ!?」

 

 

「なんで来ちゃったんスかこの人?」

 

 

 

 

ワイワイがやがやと賑やかな尾行者たち。それぞれの反応は十人十色だが、共通しているのは見知った間柄であるはずのアイズの見せる、見たこともない甘々な反応に興味津々という点だ(また死んでる狼人のベート某は除外する)。

アイズが抜け出した後、姿が見えないことに気付いた面々はなんとなく展開が読め、いてもたってもいられないとばかりに「黄昏の館」を抜け出し、その足取りを追跡していた。無論気の張った上に、最速のアイズの尾行など容易な筈がないのだが…そこは邪な考えに満ち満ちた二人組が異例の協力体制を敷くことで何とかしたのだ。尚意外にも、一番参加しそうな彼らの主神は今回不参加である。昨日の演説会で怒りが頂点に到達した彼女は盛大にヤケ酒をし、今も再起不能のままくたばっていた。

 

 

「いいわ、その辺に捨てておきましょう。」

 

 

「だねー。というかさ、コレもう一日あのままじゃないの?ずっと見てるの?」

 

 

「あっちの方も普段は屋台引いてるらしいっスからね。調べたら「小泰山(ザビーズ)」って今結構人気店みたいっスし、あそこまでのんびり出来る日ってそうそうないんじゃないですか?」

 

 

「な、なに言ってるですか皆さん!あの麻婆男の化けの皮を剥ぎ取りましょう!アイズさんの眼を覚まさせ———ああ!また、またあんなにくっついて…!」

 

 

「いやもうくっつきっぱなしじゃないっスか。俺もう苦いコーヒーでも飲みたいっス……ン?」

 

 

とはいえ最初こそ興味津々だったものの、ずっと甘えている光景を見ているのは飽き以上に精神にクルものがある。好奇心旺盛なティオナでさえ若干辟易としつつある以上、まだ半日以上もこのままとは思いたくないが、場面を変えた所で同じ展開が繰り広げられたのでは溜まったものではない。

そんな最中、興味本位で来るんじゃなかったかなと思い始めたラウルが、手ごろな喫茶店でも近くにないかと視線を巡らせた際に———幸か不幸か、「ソレ」を発見した。

 

 

「どしたのラウル?」

 

 

「いや…アレ、あそこ歩いてるのって…団長じゃないっスか?」

 

 

「団長ですって!?」

 

 

言葉を不自然に途切れさせたことに訝しんだ、ティオナの問いかけへのラウルの返答。それに真っ先に喰いついたのは「ロキ・ファミリア」が(遺憾ながらも)誇る初代ショタコン女(ティオネ・ヒリュテ)である。

彼女は今回、先に意中の相手、それも小人族(パルゥム)を射止めたというアイズの手腕を念入りに研究するために、尾行という今回のミッションに二人組に次いで乗り気だった訳だが…それも意中の相手である男の名前を耳にしたことで、そんな興味と勤勉姿勢は塵も残さず吹き飛んだ。振り切られる愛欲のメーター、姿勢は一転捕食態勢に切り替わり、乙女のソレではなく、もっと獰猛でネットリとした輝きが瞳の奥で爛々と燃え盛る。

 

団長がいるならば話は別だ、研究なぞもう知ったこっちゃねえとばかりに、発見者であるラウルを押しのけるように身を乗り出し、鼻息荒くティオネは指先の方向へと視線を向けた。

 

 

「……、………。」

 

 

そこには周囲から、尾行対象たちに向けられたものとは別口の、もっと熱っぽい視線を多方面から受けながら歩く一人の小人族がいた。片手には小さな地図のような物を手にしており、ソレを見ては歩きながら周囲を見渡している。

金の髪、滲む知性、幼くも精悍な顔立ち。間違えるハズもなく、その人物こそはティオネの意中の相手である「ロキ・ファミリア」団長、フィン・ディムナその人であった。条件反射で思わず駆け寄ろうとするティオネに、左右から待ったをかけるように伸ばされた手がソレを遮る。冷や水を浴びせるが如き妨害行為。熱を帯びた女の顔は、それだけで憤怒に燃える獣のものへと姿を変えた。

 

 

「………オイ。どういう了見で私の邪魔してる?」

 

 

「い、いやぁ。こっちとしてもあんまり邪魔したくはないんスけどー…。」

 

 

「いやホラ、落ち着いて見てみなよティオネ。今日の団長ちょっといつもと違わない?」

 

 

「あぁ?違うって…。」

 

 

 

ラウルに、そして妹であるティオナからの思わぬ指摘に、牙を見せた殺意も引っ込め怪訝そうな声を上げるティオネ。しかも団長がらみとなれば無視できず、改めて団長…フィンの姿へと、その視線を走らせる。

その姿に見惚れ、上から下までじっくりネットリ、舐めるように観察し。そして唐突に、指摘された、その違和感の正体に気付いた。

 

 

「…いつもよりカッコイイわね。」

 

 

「というか、心なしかカッチリしてるというか…普段の私服じゃなさそうっスよね。」

 

 

「アレ、右手にあるのって「プレミアロールケーキ」の包みじゃない?人気店の。私も食べたいなー…。」

 

 

「センスが尋常じゃない…流石団長、素敵…———じゃなくて、あの感じ、誰かに会いに行くつもり…?」

 

 

「なんか探してる感じっスね…。」

 

 

情報を整理し思考を巡らす三人の視線の先で、辺りを見渡していたフィンは静かな足取りで小さな路地の方へと進んでいき、その姿をくらませた。

これに焦りを覚えたのはやはりティオネだった。可笑しい。危険な胸騒ぎがする。「アレ」を放置していては、なにかとんでもなくマズイ(・・・)事態になりかねない。理屈以上に戦士として女として、そしてアマゾネスとしての本能が、かつてない最大レベルで警鐘を鳴らしている。

 

 

絶対に無視できない。

 

 

判断は一瞬だった。呆けたように突っ立っているティオナとラウルの襟首を掴み、戦闘でもそうそうお目にかかれない本気モードの覇気を漂わせながらティオネは吠えた。

 

 

「追うぞテメェらァ!」

 

 

「え、えぇ!?アイズは!?白野は!?というかレフィーヤとか放って置いていいの!?」

 

 

「知るかンなモン!団長が、団長が危ないんじゃァァアアアアアアアッッ!!」

 

 

「あぶ、ぐえッ!?く、首が折れッ、離し———ああ!?転がってたベートさんが撥ねられたっス!?」

 

 

「アレまた死んだんじゃない!?」

 

 

「団長ォォォオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

『止まってェェェえええええええええええええ!?』

 

 

土煙を巻き上げ、三人の影は遠ざかっていく。引きずられる二人の顔が折れそうな首を守らんと、苦悶と焦燥に死にそうな色に染まるのも気にせず、狂戦士(バーサーカー)さながらに瞳を血走らせたティオネは引き絞った弓弦より解き放たれた一条の矢となって、あらゆる障害を無視して疾走する。

 

全ては愛のために。全ては団長の貞操の為に。

 

愛する人とまだ見ぬ強敵の元へと、恋するアマゾネスはその脚を止めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———あぁあ!また、またぁ!!う、ううぅぅうううう………!許さない、認めませんからぁ…!」

 

尚、置いて行かれたエルフは、そのことに気付きもしていなかった。蛇足である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

 

「…今の雄叫び、アイズのところの人じゃないか?」

 

 

 

 

 

「ン、多分ティオネだと思う。」

 

 

「行かなくていいのか?なんか危ないとか…。」

 

 

 

 

「大丈夫。」

 

 

「……?」

 

 

 

 

「ティオネの恋はティオネの恋。自分の恋路を勝ち取るのも守るのも、いつだって自分だから。」

 

 

「ー……そうだ。うん、そうだった。」

 

 

 

 

「…ふぁ…。少し、寝てもいい?」

 

 

「うん。少ししたら起こすよ。」

 

 

 

 

「ありがとう。…ねえ、白野。」

 

 

「ン、何?」

 

 

 

 

 

「大好き。だからずっと、待っててね。」

 

 

「…ああ、勿論。」

 

 

 

 

「…えへへ、おやすみなさい。」

 

 

「おやすみ。」

 

 

 

 

 




フレイヤ見てたら憤死しそう…ベル君じゃダメかな。



というか姉系の話題が人気で熱い。


姉ロリ「ドヤァ…。」

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