アイズ「違います。好きになった人がたまたまショタだったんです」 作:鉤森
とりあえず甘いというより「甘酸っぱい」を今回意識してます。イケ魂表現は相変わらず難解。
次回からもっと甘くしてこう…。
誤字報告、感想に評価の数々に、相変わらず励まされ、燃料にしています。
応援いただき、本当にありがとうございます。これからもどうか、よろしくお願いいたします。
「団長!団長!!団長ォォォオオオオオオオオオオオオオオッッ!」
ティオネ・ヒリュテは、迷宮のように入り組んだ路地の中を走り続けていた。あの後、すぐに後を追って暗い路地の中へと突貫した彼女だったのだが…端的に言えば、愛しい
胸騒ぎが一気に強く、大きなものに変わっていった。ついでに引きずってるラウルとティオナは鼓動が弱弱しくなっていくのを感じていた。
何かある。走りながらも、怒り狂いながらも、彼女の思考は迫る脅威に対して冷静に思考を続けていた。
会いに行く相手に予想はついている。なんせずっと好いて惚れて食って抱きたいとか色々想ってきた相手だ。ずっと狙ってきた、ずっと見てきた、ずっとその心中を探ろうと観察を続けてきた。
だから昨日、例の「姉」とやらに強く興味を抱いた事にも、すぐに気が付いた。
誤算だった。こんなにも早く動くとは思っていなかった。意地でも阻止すべきだったと後悔するが、全ては後の祭りだ。今はとにかく、団長がたどり着く前に確保するしかない。さもなくば…「姉」とやらを、この場から排除するしかない。剣呑な殺意が牙をむいて、彼女の覇気より鎌首をもたげる。
恋は戦争だ。欲するものが奪われそうなら潰して排する。そこに戦闘員も非戦闘員もあるものか。
物騒な決意を抱きながら、ティオネはさらに速度を跳ね上げた。尾を引く雄叫びが、さながらのたくる大蛇の胴ように…どこまでもどこまでも後方へと残っていった。
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…だってこの気持ちが、口にするのにもこんなにも勇気がいるのだと知れたのだから。勇者と呼ばれる、この身であっても。
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とりあえず僕がその少女に抱いた最初の感想は、「おいしそうに物を食べる子だな」というものでしかなかった。
「…むぐ、ゴクン。あー、バレちゃったんですか。だからあんなに吹っ切れてたんですか…。ベタベタに甘えてるんだろうなー…お姉ちゃんとしては時と場所くらいは弁えて欲しかったなー…。」
「発端は呑みの席でね。とはいえ、アイズは酒癖が最悪なのもあって一滴も呑んではいなかったから…多分「そのテの話題」では誤魔化したくなかったんだと思うよ。正直言って彼女は精神的には幼いから。純粋、といった方が正しいかな。」
後方から迫ってきていた見知った人物を引き離し、目的の少女と先日の事件の概要について話を弾ませる一方で、僕の胸中には別の思惑と、
僕、フィン・ディムナには夢がある。それは何に替えても、果たさねばいけない夢だ。
それは失意と共に衰退しつつある我が一族の復興…実在しなかった
その為に、僕は純粋かつ善良な小人族の女性と子を生さなくてはならない。
「有名な「
「…とはいえ、説得は多分至難の業だろうね。あの様子を見るからに、下手すると彼の話を聞いてくれるかも怪しいと僕は見てる。」
「最初から障害は覚悟の上でしょう、だからこそ今までは黙ってたワケですし。それに弟も私も、諦めだけは悪い方なので…きっと心配は要らないと思います。弟はアレで決断する時は間違わないですから。
選んだなら、後は手を伸ばして足を動かす。傍には頼れる「英雄」もいますから、転んだって心配はしてませんよ。」
だから僕は今日、話に聞く小人族の少女を見定めた上で、それが正しき者であるならば…すぐにでも「
…そう、だというのにだ。気付けば、僕は彼女…キシナミ・白夜と、思っていた以上に長く話を続けている。もう結構な時間、少なくともケーキを一緒に味わいつくす程度には時間をかけて話していた訳だが…こうして今も、本題を…僕にとっての使命を吐き出せていない。後方からまだ時折響いてくる雄叫びを考えれば、時間はあまり残されていないのに。
「信頼してるんだね。白野…弟さんの事。そしてアイズの事まで。」
「そりゃもう。ずっと一緒にいますし、あの二人が付き合うって聞いた時には最後まで祝福してやるって言ってありますから。…それに。」
「うん?」
何故だろう?さっさと切り出せばいいのに…そう抱いた疑問は、しかし程なくして氷解した。
楽しいんだ。この少女、白夜との会話は。この少女は平凡で、ごくありふれた少女の一人でしかないが…話しやすく、しかも不思議と心をざわつかせる。少しだけ、僕の心に納得と安堵が生まれた。
だがそれも、次の瞬間には大きく色を塗り替える。
「
…だって結局、本心では
「—————————。」
「私は恋とかまだしたことないけど…まあ女の子ですので、相応には憧れがあります。だからこれが、その憧れからくる理想に過ぎないんだとしても…あのアイズなら。そう思うんじゃないかなあって思うんです。
———だったら。そうなれるように努力しますよ…今まで通り、あの二人ならね。」
思わず、心中を見透かされたかと思った。しかしそうではないとすぐに気付き…
平凡?我が事ながら、何を言っているんだと笑いたくなる。だが…少しだけわかった。
彼女は
彼女は前を向いている。人からも、そして自分からも眼をそらしていない。挫折を知るが、諦めを知らない。どこまでも強固な鉄の精神が、輝きを持つほどに磨き上げられている。きっと僕は今、そんな彼女に惹かれ始めているんだ。
だって…今もこんなにも、アイズや弟の幸せを願う彼女は美しい。そして誠実で、真っ直ぐだ。
その想いが、すぐに僕に伝わるほどに。
「早い話が私も彼女たちが大好きなんです。だからもしかすると、偉そうに語ってなんですけど…単にそっちの神サマとかにも同じ気持ちになって欲しいだけかもしれません。」
「でもそこはそれでイイとも思ってます。間違いなく言えるのは、私は恋して愛を語れる彼女たちが羨ましいし、尊敬しています。何があっても、この人の傍で生きていたい…そんな「運命」を掴めたことに心から尊敬しています。」
「だからあの子たちが幸せを、愛し合うことを望むなら。ソレが彼らの望みなら…私はソレが叶うように、これからも全力で協力しますよ。最後の最後まで、神サマが相手だろうと絶対に。
まあ結局、好きな人のために必死になろうとするのは、私も彼女らも同じってことです。」
続く
———彼女の立ち姿は、正しく僕が「こうあって欲しい」と願った「小人族」の姿だったのだ。どんな困難にも諦めずに前を向き、時に助け合い、自らの足で明日へと歩んでいける。
彼女は夢にまで見た、僕の求めた「
「……?どうしました?」
アイズが言っていた通りだった。向き合うだけでも、こんなにも理解が出来た。澄んだ瞳の奥に覗く、輝きに見惚れた。
驚かされる。落ちるのも染まるのも、こんなにもアッという間なのか?この人の前では誠実でありたいと思ってしまう。この人を守りたいと思ってしまう。この胸に灯る熱い気持ちに、覗き込む彼女の視線に耐え切れず。気付けば僕は半歩ほどよろめいていた。
「だ、いじょうぶ。うん、ちょっと…感動しちゃってね。」
身体が熱い。顔が熱い。心が熱い。言い出すならば今なのかもしれないが、喉が干上がって言葉が出ない。
今回の出逢いは「大成功」であり、同時に「大誤算」だった。見つけた相手は、間違いなく求めていた人物だ。他など到底考えられない。…だが思った以上に「極上」に過ぎた。容姿?勇名?地位?使命?そんなもので積みあがった自信を武器に、今ここで彼女に想いを告げろと?冗談じゃない。これ、そんなに安い感情じゃないだろう。
これは、もう疑いようもなかった。一体いつ以来か、それとも初めてなのかはわからないが———。
「団長!!」
そこまで考えて、身動きが取れなくなった所で、身体が宙に浮きあがった。
背中に伝わる豊満な感触。締め付けるように回された腕。聞き覚えのある声。予想はついたが、少し落ち着きを取り戻したかったこともあり、錆びつくような動きで振り返る。
そこにはやはり、想像していた通りの顔があった。
「…ティオネ…追い付いたのか。」
「そりゃあもう!愛しい団長の元へなら、どんなに離れて立って追い付けますとも!」
「ところで横で青い顔で倒れてるティオナとラウルはどうしたんだい?」
「どうしたんでしょうね?」
いつものような会話をしたことで、少しだけ心に余裕が生まれたのがわかった。まいておいてなんだが、ティオネに対して今までで一番と言っていいほどの感謝を心中にて捧げる。
だがホッと一息ついて視線を白夜に戻すと…彼女はなんだか形容しがたい顔をしていた。なんというか、ニヨニヨしている。別の意味で嫌な予感がした。
「…いや、これは違うんです。」
「いやあ、お熱いなって。」
「違います。ホント違うから、ゴメンちょっとティオネ下ろして。」
あらぬ誤解に焦りを覚え、急いで胸中から脱する。今しがた芽生えた感情がこんなことで潰えてはたまらない。非常に残念そうに僕の脱出を見つめるティオネに苦笑いをしながら、呼吸を整え、僕は白夜と向き合った。
その瞳を見つめ、跳ねあがりそうな胸をそっと一撫でして、一礼する。
「今日は、とても有意義に話せて楽しかったです。今度はお客として会いに行きます。」
「いえいえ、その時は御贔屓に。サービスしますよ。」
「サッ……コホン。いえ、ありがたいです。じゃあ、また。」
「あ、団長!…ホラさっさと起きろ二人とも!いつまで寝てんの!」
踵を返し、歩み去りながら…バクバクと鳴り響く心臓に、呼吸を荒くする。
危なかった。まさか「サービス」という言葉一つでときめくなんて。ここまで僕は
ボンヤリと見上げながら、今の僕の胸中にある想いはただ一つだけだった。
———明日、必ず来よう。そして…近い将来、必ず…。
そう思いながら見上げる空は、とても美しく思えた。
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帰り道。
「ヒッドイ目にあったっス…。」
「ホントだよ…うう、まだ首痛い…。」
「…悪かったわよ。でも余裕なかったんだから仕方ないじゃない。」
「仕方なくないよ!とりあえず今度奢ってよ、プレミアロールケーキとか!」
「賛成っス!」
「ぐっ…わ、わかったわよ!買うわよ、買えばいいんでしょ買えば!」
「よっしやった!」
「…そういえば団長。あのアイズさんの恋人のお姉さん、結局どんな人だったんすか?」
「あ、私も気になる。結局チラッと見ただけだったし…ティオネは?話したの?」
「してないわよ。というか、私としても団長がどんな話してたのか———……団長?」
「団長?急に立ち止まってどうしたんスか?」
「なんかちょっと変だよ?」
「………とても。」
『…………?』
「と…とても、素敵な女性だった、ッよ…!」
………。
……………。
………………………………………。
「ボハァ!?」
『ティオネが死んだァ!?』
しかし一話にちょこっとしかワードとして出てきてないのにカウンセラーの危険視度合いが高すぎて笑ってしまう。