アイズ「違います。好きになった人がたまたまショタだったんです」 作:鉤森
そんな私。書いてて夢中になってたと思ってたら、いきなり何書きたかったのか見失う。
甘さ足ります?もっと?次回また増しときます。
沢山の感想と誤字報告に、お気に入り。評価を頂き、ありがとうございます。
嬉しい…嬉しいのです…。
※三月十九日
「神会」の所を『神の宴』に変更いたしました。混ざってしまっていた…。
———幸せな一日だった。
夕食はとうの昔に済ませ、既に灯りを落とした暗い自室。アイズは普段の無表情もどこへやら、どこまでも満たされた表情でベッドの上で愛用の毛布にくるまったまま、何度も何度も繰り返し、そう思っていた。
今までのように周囲を気にせず、思う存分くっついて甘えることが出来た。膝枕に食べさせ合い、うたた寝から目を覚ましたら少し歩いて、時折じっくり抱きしめて…屋内であれば共に身体を横たえ、頭を白野に抱いて撫でて貰うということも出来たのだが、ソレは今までも時折してきたことだ。これからも出来る事なら、いくらでもできる。故に、新たに踏み出すことが出来た今日の一歩は大きかったとアイズは確信する。
…もう少し、早くバラシておけばよかったかな。そう思うほどに、幸せで満ち足りた一日だった。
だからこそ。明日からはいつものように
黄金に煌く瞳に、強く鋭い決意が研ぎ澄まされていく。
眼を閉じれば、どこまでも幸せな「今日」が蘇ってくる。毛布の中で深く息を吸い込めば、ギリギリまで堪能し、身に染み込ませた白野の香りが胸を満たす。それはまるで白野に抱かれているかのようで、どこまでも深い安心感を得ることが出来た。この腕に抱いた小さな体の温もりがまだ残っている。頭を撫でて貰った心地よさだって鮮明だ。共に食べたジャガ丸くんの味は格別だった。
思い出す程に輝きを増すばかりの、小さな輝きたち。
こんな些細で、しかしかけがえのない積み重ね。この輝きを、幸せを守るためならば…私はいくらでも強くなれる。なってみせる。誰にも、何者にも負けはしない。アイズはそう強く思えるのだ。
かつてのような焦りはない。何故なら信じているからだ、最愛の人が自分の「強さ」を、帰還を信じて待っていてくれると。たとえどれだけの障害があっても、どれだけの時を経たとしても、
その信頼がお互いから消え失せない限り、アイズは白野の「
嬉しくて、温かくて。…幸せで。どうしようもなく、好きなんだという事を再認識して。
やがてこの幸せな
いつしか満たされた多幸感に飲み込まれるようにして、アイズは深い眠りについたのだった。
**************
「いや、なんやこの状況。」
一組の愛が容赦ない猛威を振るい、遅咲きの一つの恋が生まれた翌日。「黄昏の館」食堂に広がる光景を前に、「ロキ・ファミリア」の主神・ロキは、呆然と呟いた。
その姿を近くの席から見とめた朝食を終えたばかりのリヴェリアが、優雅に食後の紅茶を楽しみながらも声をかけてきた。
「ロキか。なんやも何も見ての通りだ、早く席に着くといい。」
「いや。いやいやいや。見てワカランから言うてんねやで?邪険せんと状況教えてぇなママ。」
「誰がママだ誰が。…仕方ない、出来る限り説明をしよう。ああ、その前に朝食は取ってきてからにしてくれ。」
落ち着かん。そう言われ、困惑を引きずりながらも言われるがままにロキは朝食のベーコンエッグ(ベーコンはカリカリと香ばしく、鮮やかな黄身が眩しい)を受け取り、その向かい席へと腰を据える。
その様子に納得し、リヴェリアは空になったカップを置いてロキを見据える。
「では、どれから聞きたい?」
「…どれ、っちゅーかなあ。アレしかあらへんやろ。」
「ふむ…。」
黄身をフォークで潰しながらロキが指し示す先に、リヴェリアが視線を滑らせていく。そこにはここ最近で見慣れたような、しかし見慣れない光景が広がっていた。
「……、………!!」
「……。……?」
視線の先には、ここから離れたテーブルで二人の人物が熱心に話し合いを続けていた。多少の距離があり、加えて少々の騒がしさもあって会話の内容はいまいちわかりづらいが、遠目からでもその真剣な様子だけは伝わってくる。そして、その組み合わせが些か妙だった。
片や「ロキ・ファミリア」団長、フィン・ディムナ。此方「ロキ・ファミリア」幹部、アイズ・ヴァレンシュタイン。どちらもファミリアの中では中心人物ではあるが、組み合わせとしてはあまり見ない組み合わせだ。ファミリア幹部の話し合いという感じでもなく、しかもどうやら必死そうなフィンに真剣ながらもどこか余裕を見せるアイズという、彼らを良く知るが故に、いまいち状況が読めない光景だ。
…そしてここまでならば
アイズのすぐ傍の床に倒れ伏す、同じく幹部のベート・ローガ。フィンの背後、更にやや数席離れた席で同様に沈むティオネ・ヒリュテ。アイズのすぐ隣で泣きながらも何事かを呟き、思い出したように(というかヤケクソ気味で)パンを齧るレフィーヤ・ウィリディス。誰も彼も「ロキ・ファミリア」の中では注目を集める人材なのだが、一様にこの世の終わりの如く消沈している。そしてその周囲で同じように落ち込んでたり、呆れたり、再起不能の彼らを介抱しようとしている人物たちが合わさる事で、もうちょっとしたホラーのような有様になっていた。話し合う二人が熱中してほとんど気にかけていないのも、拍車をかけている。
率直に言って
「なんやのんアレ。というかなんでフィンにアイズたん?ベートとティオネあれ死んでへん?」
「もういい加減慣れろ。ベートのアレは当分あのままだ。…フィンに関しては、先に私から口走っていいのか些か悩むところだが…。」
ため息交じりに、悩まし気にリヴェリアは口を開く。どうせ後で知ることになるし、下手すればフィンは当面の間
「率直に言おう。フィンの「宿願」が見つかった。」
「見つかった…宿願…え、ウソ。マジで?うわちゃー…。」
ソレを聞き、ロキは一瞬戸惑うもすぐにその意味を理解し、なんとも複雑そうに声を上げた。誤魔化すように、整理するように、潰した黄身を絡めた白身をベーコンと共に咀嚼する。
フィンの「宿願」。それはロキも知っている、「
それが見つかったというならば、ロキからしても大変に喜ばしいことだ。それこそ今から一番イイ酒を開け、諸手を上げて祝宴を開きたいほどに。だがそれも、隣で死にかけているティオネを見てしまうと素直に喜ぶことも出来ない。フィンほどではないにせよ、その熱愛、執着ぶりを近くで見てきたのだから。
「もしかしたら、いつかこんな日が来るかも…とは思ってたんやけどな~。」
「ティオネには申し訳ないが、な…だが受け入れてもらうほかない。私やガレスとしても、ぜひとも成就してほしいと思っている。」
「せやなあ。…アレ、というか成就ってことは、もしかしてフィンまだ告ってへんの?正直とっくに行動起こしてそうやけど。」
「それなんだがな…。」
空になったカップに紅茶を注ぎながら、リヴェリアは難しそうに唸る。首を傾げつつロキもまた食事を続け、ベーコンの最後のひとかけを口に運んだ。
咀嚼を続けて続きを待っていると、リヴェリアが重々しく口を開いた。
「フィンのヤツ、思った以上に本気になってしまったというか…まあ…。」
「本気?…え、ウソやろ?そんなに?フィンが?」
「初恋だ。しかもゾッコンというレベルのな。…すごかったぞ、あの惚気ぶりというか…幾つだと問いたくなるような純情ぶりは。もう使命とか二の次というレベルだ。」
「うわ!うわー!見たかった!なんやそれ、ウチ寝てていっちゃん損してるやーん!」
リヴェリアの口から紡がれる、普段のフィンからは想像もつかない情景。見たかった、絶対に見たかったと悔やみながら、ロキは頭を抱え込む。二日酔いと一昨日のヤケ酒を心底後悔する様子を呆れたようにリヴェリアが見つめていたが、埒が明かないと話を続けた。
「まあ、そういう事でな。色々悩んだ末でアイズに恋愛相談を持ち掛け、あのザマという訳だ。」
「ぐ、ぐぬぬゥ…ま、まあ今このファミリアの中で相談するなら一択やな…ウチは絶対に認めてへんケドなァ!…というか、ならなんでベートまで死んでんねや。レフィーヤもやけど。」
「いい加減察しろ。アイズはアイズで相談には乗ったんだが、事あるごとに惚気るんだ。」
~ダイジェスト回想シーン ※音声のみお楽しみください~
『…そっか。フィンは、お
『うん、で…だ。恥を忍んで相談に乗って貰いたい。彼女の事は君の方が詳しいというのもあるが…こう言っては何だが、君は僕からしたら「成功者」といえる。恋のね。』
『任せて。フィンになら、お義姉さんを任せられる。』
『団長、団長、団長ォ…私は、私はまだ…!』
『ティオネ!もう、もう聞いちゃダメだよ!また死ぬよ!?』
『るっさい!聞かなきゃ、聞かなきゃ敵情もなんも入らないだろうがぁ……!!』
『いや敵情って物騒っスね…。』
『…物騒ですって?ああそうだろ、いいか。戦争なんだよ。奪われる前に敵を潰すのは定石だろうが…!!あの、あの女ァ…!!私は認めない、団長となんて認めないからなァ…!』
『なんか別の何かに変化しそうだよティオネ!?殺気でフィンまで諸共イキそうだよ!』
『…お義姉さんが相手なら、とりあえず真っ直ぐ想いを伝えるのが一番早いかもしれない。』
『お、想いを…?』
『あの二人は直球で向けられる好意そのものには不慣れだけど、心から真剣に込められた想いがわからないわけじゃないから。戸惑うかもしれないけど、必ず真剣に向き合ってくれる。
…最終的なゴールは段階踏むにしても、まずは積極的に話していくのが正解。私もそうした。』
『…アイズ。君の具体的な実例を聞きたい。』
『? …好きだって事あるごとに伝えたし、抱き着いたりとか。他にも…その、色々した。』
『なんっ…!!?』
『ア、アイズさん!?抱き着いたって、アイツにですか!?アイズさんから!?』
『…そうだけど。だって、白野にはそっちのほうが確実に伝わるから。買いに行くたびにしたよ。』
『あ、のチビ野郎ォ…!?』
『ううゥ…!!昨日、昨日に続いて…やっぱり許しません…から…!!』
『というか二人には関係ない。』
『ぐっ!?』
『はうっ!?』
『それと…もしも二人が白野に手を出したら、私が許さない。絶対に。
白野は私のかけがえのない人だから。二人も家族だから大切なのはそうだけど…白野はまた別。大好きな人だから。』
『———ぐぎゃあァ!?』
『ああ!?ベートさんが死んだぁ!?』
『なるほど。…参考になる、が…情けないことに僕にはハードルが高い。』
『そうなの?』
『自分でも戸惑ってるんだけどね。こうまで…こうまで誰かに惚れこむことになるなんて思わなかった。』
『わかる。でも恥ずかしがる必要はないです。』
『…出来る範囲で、まずやってみよう。アイズ、君は今日
『ハイ。…午後は白野に会いに行くけど。たくさん撫でて貰うんです、また強くなったよって。それで、二人でジャガ丸くん一緒に食べます。』
『なら僕は午前中に向かおう。…とにかく会って、話してみる。そして可能なら…その、伝えてみるよ…ッ、
『———か、ハッ……。』
『ティオネー!?やっぱり死んだー!?だから、だから耐え切れないって言ったのにィ…!!』
『愛、愛して、愛愛愛愛憎憎許殺————……。』
『こわッ!?なんか怖いことになってるっスよ!?』
『どうすんのコレー!?』
~回想終了~
「という感じでな、少し抑えるようにはアイズに伝えておくつもりだ。因みに周囲の取り巻きは余波を食らった連中だ。」
「やっぱ許さんでキシナミ某ィィィ!何ウチの知らんとこでアイズたんに愛囁かれとんねん、何抱きしめられとんねやクソガキァァ!」
「落ち着けいい加減、というかうるさい!食堂で神が叫ぶな!」
荒れ狂うロキに一喝し、苛立ちながらも音を立てずに、リヴェリアはカップをソーサーへと戻した。
既に紅茶は飲み干され、白い底が濡れて輝いている。僅かに残った紅い色味を見つめながら、締めくくるようにリヴェリアは続けた。
「そういう訳で死屍累々だ。これが、ここで起きた真実の全てだ。」
「納得はイカンけど…まあ理解はしたで。」
渋々ながらも状況を、事の顛末を知って不機嫌そうにふんぞり返るロキ。最後に残ったパンで黄身を拭い去り、むしゃむしゃと咀嚼して、ふと思い出したように口を開いた。
そろそろ席を立とうかというリヴェリアを呼び止め、ソレを口にする。
「でもなあ、結局誰なん?あのフィンをそこまで堕としこめた
「…気付いていないのか?」
「へ、ウチの知り合い?なんか聞いとるとアイズたんも知ってるみたいやん。「お姉さん」なんて随分親し気なー…。」
リヴェリアの驚いたような視線に、ロキは意外そうな顔をするも…すぐに、背筋を走り抜ける悪寒に、その表情が凍り付く。
嫌な予感がする。アイズに親しい小人族、最近そんな
凍り付き、見る間に血の気が引いていくロキを見て。その心中を察しながらも、リヴェリアは
「名は、キシナミ・白夜。察しの通り、アイズの恋人の双子の姉に当たる。」
「…キシ、ナミ……。」
「言うまでもないが、所属は「アンリマユ・ファミリア」だ。まあ、頑張ってくれ。」
そう言うだけ言って、今度こそリヴェリアは去っていった。後に残されたロキは暫し呆然としながらも、脳内には禍々しい赤い布を頭に巻いた少年のような悪神が「いやーゴメンね?ウチのがさー二人もそっちの連中骨抜きにしちゃってさー。実際どんな気持ち?あ、でも俺はノータッチですんで!そこんとこヨロシク!」と舐め腐った顔でこちらを煽る様子が浮かんでいる。腹立たしさやら困惑やら何やらが色々と渦を巻き、そして今夜が「ガネーシャ・ファミリア」主催の『神の宴』の日だと認識したあたりで。
「もう、なんなんやぁ……。」
そう一言だけ残し、自らも崩れ落ちたのだった。
**************
一方その頃。
「昨日は楽しかったか弟よ。随分イチャイチャしまくったみたいだけど。」
「…まあ流石に広まりますよね。」
「私は先に教えてもらったんだけどね。少し自重すべきじゃないかな、具体的にはアイズの隠れファンからのヘイト値が不味いことになってそう。」
「人目を気にしろ、か。…多少誘導はするけど、最終的にはアイズの望むことをしてあげたい。俺だってアイズに幸せになってもらいたいし、他の人よりはアイズが優先だ。恨む人は、仕方がない。実際アイズは可愛いし。」
「うん、熱い。そして甘い。まああんな顔されたら断れないよね、わかる。でもあの格好で甘えてくるのはスケベすぎる気がする。けしからんもっとやれ。」
「なんてこと口走ってんのこの人ー!?」
「にしても恋かあ。こう言っちゃなんだけど憧れるなあ。」
「どうしたんですか、いきなり。」
「まあそういう話題が出てさ、私も女子だからね。憧れちゃうんだよ。」
戦闘とかシリアスがないのは楽だとしみじみ思うのです