アイズ「違います。好きになった人がたまたまショタだったんです」   作:鉤森

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頑張ってみたけど冗談抜きで甘さがない(真顔)

悪神の難しさもだけど黒すぎて黒すぎて、甘くなんてとても出来なかった…すまない…次回は絶対に、絶対に甘くしますので…!
「甘いのじゃないと苦手」という同志は、最悪飛ばしても…!



お気に入りに誤字報告、沢山の評価に感謝が止まりません。何度でも感謝です。
本当にありがとうございます!


天幕の飾りとなれ(今後の甘さの為に犠牲になれの意)

「お~…ッくん、こりゃうめぇ!もぐ…いや、作って貰う身としちゃなんでもありがたくイタダキマスってーのは基本だけど…ンぐ。綺礼のアレは無理っつーか死ぬっつーか…。」

 

 

広大な宴の会場に響く、軽快に回る一柱の男神(オトコ)の声。別に大声を上げているわけではない。先程まで大いに賑わい、騒がしかった会場は、今や水を打ったかのように静まり返っていた。

原因は、わざわざ言及するまでもないだろう。

 

 

「ま、流石大手っつーのかね?人手とか色々…あーでも、こんな旨いモン毎日食ってたらオレってば結局死にそうだな。アレ、ほら、食いすぎとかで。

ヒヒッ、そうなったらいよいよもってギャグや落語の世界ですねえ!!」

 

 

無言の神々の視線は、やはりその一柱にのみ向けられていた。会場の隅、白いテーブルに腰掛け、ガフガフがつがつと料理を両手に貪る男神。その喰いっぷりに誰かが、或いは誰もが、「狗の様だ」と思った。

時折傾くグラスに揺らめく、血のように赤黒い葡萄酒(ワイン)がヤケに悍ましく見えた。

 

 

「…アレ、何この空気。オレ様ってばまさかの滑りですか?いやいや騒げよ、オタクらって娯楽目当てで降臨してきた、箸転がしても笑う類の連中でしょうよ。騒いで笑わなきゃ意味ないでしょうが。

ホラ。ホーラ!特にそこの二柱(ふたり)のじゃれ合いは一部じゃ名物なんでしょうが。オレもっと見たいなー!色々対極的だし眼福だ!」

 

 

軽薄に笑うその男神の、嘲笑っているようにも純粋に楽しんでいるようにも聞こえる声が、言葉が、静まり返った神々へと無遠慮に投げかけられる。

目立つ風貌の男神だ。そして言っては何だが、神威に脆弱な(とぼしい)神らしからぬ神だ。人間(ヒューマン)の少年のような姿、その服装は宴の場には到底似つかわしくない、襤褸のような赤黒い布を腰巻と頭に巻いている。全身の浅黒い肌を走る入れ墨はふと目を離すと形が変わっており、文字とも絵図とも取れそうなそれらは意味多様ながら、全て一つの概念のみを指し示しているのが神々には理解できた。

 

それは「悪」。全身に、この世ありとあらゆる「悪」を刻んだ男神。

そんな神を、その場に集まった多くの神々は一柱しか知らなかった。

 

古くから地上に在りながら、もう永く姿を見せていなかった神。何故今まで気づけなかった(・・・・・・・・・・・・)、そんな思いもあり、驚愕と困惑、嫌悪の念に誰もが口を閉ざす中…その静寂は、やはり一柱の激する神によって破られる。

誰もが口を噤む中、溢れ出る激情を隠しもせず、彼女は…ロキは、その名を口にする。

 

 

「…アンリ、マユゥ…!!」

 

 

その言葉により、消え去っていたざわめきが、引き潮が戻るように再び場を満たしていく。その登場に立ち去ろうとしたフレイヤさえも、その表情を僅かに険しくし、向き直った。

ユラリと立ち上がり、一歩、また一歩とこちらへ近づいてくるロキの姿に男神…アンリマユは、その笑みを濃くして残りの葡萄酒を煽った。

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

「アンリマユ…おどれようも、ウチの前にツラァ出せたなぁ…!!」

 

 

「二ヒヒ。何、オタクってばオレ目当てだったの?いやあヤバイね、モテ期ってやつ?すぐに殺されて終わりそうな辺りがオレらしくて儚いっつーか笑えるっつーか。」

 

 

「じゃかあしぃわクソ神がぁ!おどれ、自分の子にウチの子ちょっかいかけさせるたぁイイ度胸や…!」

 

 

「ン?なに、白野の方?それとも白夜?ヒヒッ、知るかよ。オレは生憎ノータッチさ。」

 

 

激昂するロキの言葉に幾度目かの動揺が会場を走り抜ける。それはつまり、「剣姫」の想い人…もとい恋人が、「アンリマユ・ファミリア」の団員であることを意味していた。その危険性を理解する神々は多くがロキに同情し、同じく何らかの企みを疑い、アンリマユに剥き出しの怒りを向けてくる。

…だが一部ソレとは別のショックと動揺を見せた者達もまたいた。それは「アンリマユ・ファミリア」としての団員ではなく、白野と白夜を個神的に知る者達であった。というか端的に言って、彼らを狙ってたファンたちである。

 

 

「信じられるか!おどれぇ…タダで済むと思うなや…!」

 

 

「っつかオタク知らなかったのな。…ハハッ!つまりアレだ、オレ以上にオタクは信用されてなかった(・・・・・・・・・)わけだ、自分の子供たちに。まあオタクも結局子供を信じちゃいないみたいだけど。」

 

 

「は……なっ…!?」

 

 

「絶句するところか?いやぁオレはイイと思うねえ、神より人間(おや)らしくて。我が子は自分に隠れて密会、下界エンジョイしてますって感じがするぜ。」

 

 

どこまでも楽しそうに笑うアンリマユの言葉に、ロキは憤りも忘れて一瞬たじろぐ。地上に降りて子煩悩になったロキの心を抉り、ざわつかせる言葉を吐きながら、アンリマユは葡萄酒を煽る。

グラスを置き、柏手を打つように、短く一回拍手をする。

 

 

「まあオレや他の連中への不信感もあるんだろうけど、あのアイズって嬢ちゃんなら熱心に語ったんじゃねえの?

白野がどういう人間か。主神(おや)であるオタクに嘘偽りなく。信じられなかったんだろ(・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

「ぐ…ゥ…ああ、当たり前やろ…おどれが、おどれのファミリアで育った子ぉが。そない簡単に信じられるワケあるかい!アイズはただでさえ純真な子や、お気に入りや。心配して、誑かされたと思って何が悪いねん!」

 

 

「うーん、ごもっとも!いや実際オレだってそうするだろうさ。でもオタク、オレの子じゃなきゃ認めてたわけ?お気に入りお気に入りって言うけどアレじゃね、「ウチの子は嫁になんか行かせん」とか言ってたんじゃねーの?」

 

 

 

今度こそ、ロキは言葉を止める。容易く自分なら言い放つだろうセリフに糸目を見開き、何か自分の深い部分を見透かすように嗤うアンリマユから後ずさる。

…そう、これだ。この誰よりも弱い神はどこまでも人も神も、善も悪も等しく笑いながら、予想もつかない言動で「悪」を成す。勝ち負けではなく、「禍い」をもたらす神だ。だから誰も、関わりたがらない。

 

周囲からの視線も感情も、等しく酒の肴の如く味わい、アンリマユは続ける。

 

 

 

 

「オタクの愛は伝わってたろうさ、身に染みるほどに。だからこそ隠してたんだろ(・・・・・・・・・・・・)。絶対反対されるってわかってたろうし、それでも(ハクノ)(カゾク)も捨てたくなかったなら…まあ隠すしかないわな?」

 

「いやあ親だね。なんだっけ、親の心子知らずとは言うけど、アンタの場合は子供に心知られてたから信用されてなかったワケだ。だって実際まだ白野の事も確かめちゃいないわけだし。

それとも今夜でも粗探しするつもりだった?そりゃあ失敬、逃げるフレイヤ(・・・・・・・)見逃して取っ組み合ってたからわからなかった。」

 

「で。タダじゃすまないって、ファミリアで戦争でもするのか?ヒヒッ、そりゃ結構、オレよりよっぽどらしい(・・・)悪神だ。さあて、オタクの可愛い我が子たち(・・)はどっちの味方につくんでしょうねえ!誰か賭けるヤツいないのー?」

 

 

 

 

アンリマユの言葉が真実である保証はない。そうはならない、違う、信じていると口にすることは簡単だ。

…だが皮肉にも、ロキもまた「悪神」と呼ばれる神であり、アンリマユの吐く言葉(あくい)に対しては否定できる材料も見つけられず、生来からの善心にも欠いている。何よりアイズの甘い白野への愛情を、つい最近嫌というほど聞かされている。そして団長であるフィンにも今朝がた、似たような兆候が見られたばかりだ。

 

ならば仮にここで戦争を仕掛けたら…そうでなくても感情任せに目の前のアンリマユを殴りつけ、その事を理由にアンリマユが戦争を持ち掛けたら(・・・・・・・・・)…今度こそ自分は、最も大きな愛情と信頼を注ぐ我が子らを失うのではないか。

脳裏に浮かんだ最悪にも等しい光景に、ロキは思わず崩れそうになり、テーブルへと寄りかかる。既に残された手札はない…その事実に胃の腑が悲鳴を上げるのを感じながら、歯を噛み砕かんばかりに噛みしめ、アンリマユを睨みつける。

 

 

「アンリマユ…アンリ、マユゥゥゥ…!!おどれクソが、あ゛…ァあ゛あああッ!!」

 

 

「ま、せいぜい頭冷やしてウチの子供たちを見極めてからにしなよ。オレじゃなくて自分の子供たちの見る目を信じてさ。

それにオタク、運が最高だ。あの二人の事なら一番正しく保障してくれる奴(・・・・・・・・・・・・・)がここにいるんだからな。あやかりたい幸運ですねえ。」

 

 

どのクチが…そう言いかけた所でロキは言葉を飲み込んだ。溢れ出す激情にそっと蓋をして、ゆっくりと首を巡らす。

…アンリマユの言う神物には心当たりがあった。いや、というよりもソレは確信に近いものだ。この場において終始最も様子が可笑しかった上で、一番正しくという言葉を正確に実行できるであろう神物。そしてその真っ先に浮かんだ神物に対して、先程アンリマユは奇妙なことを言っていたと思い出す。

そう、たしか———「逃げる」と。

 

 

「…フレイヤ。自分か?」

 

 

「………。」

 

 

名を呼ばれ、なお無言を貫く絶世の美に愛されし女神へ、無数の視線が向けられる。視線に晒されたフレイヤは銀に煌く瞳をゆっくりと瞬きさせ、ほう、と悩ましく艶めいたため息を零しすと、一歩前に進み出た。

ロキを一瞥し、そしてアンリマユを視界に収めずに虚空を見上げ、フレイヤは口を開いた。

 

 

「相も変わらず趣味の悪いことね…わざわざ私に、よりにもよって(ハクノ)の事を、こんな場(・・・・)で語らせようとするなんて。」

 

 

「そういうアンタは諦めが悪い(・・・・・)。ま、当方としましては大変に結構だと思われますがね。無理だろうけど…できればキアラにも見習わせたいくらいだ。その一途さはね。」

 

 

「その名前は口にしないでくれるかしら?思い出すだけで眼を潰したくなるわ(・・・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

 

 

最上級の嫌悪と侮蔑を籠めて吐き出された言葉に、アンリマユはやはり愉快そうに笑って見せる。

キアラ。その名前に、イシュタルを始めとした多くの神々が、男女を問わずして反応を見せた。畏怖、嫌悪、困惑、陶酔…ただ一人の人間の名前に、ある意味では一番大きな波紋が会場全体に広がっていった。それを無視して、フレイヤはゆったりと緩慢な動作でロキへと向き直る。

その表情にロキは再び驚愕した。切なげで、熱に浮かされたような…その美しくも儚き、表情に。

 

 

「…キシナミ・白野と白夜については、私が責任を持って保証するわ。この魂と「美」の名に誓ってでもね。

…でもそれだけよ。彼らについて知りたいのなら、貴女が自分で、自分の眼で確かめなさい。私の口からこれ以上は出したくないわ。」

 

 

「…どないしたんや自分。なんでそこまで…。」

 

 

「察して頂戴な。これ以上なんて…私、泣いてしまいそうよ。」

 

 

それだけ言い捨てるとフレイヤは踵を返し、銀の髪を背後に流しながら今度こそ会場を去っていった。その言葉に絶句した神々が左右に分かれて道を開く様は、さながら古き時代の奇跡の一幕の様であった。

その姿を見送り、今度はアンリマユがテーブルから降りる。興味と警戒に尖った視線が、一斉にアンリマユへと向けられる。

穴だらけになりそうな視線を受けながら、アンリマユはやはり、空気を読まずに口にした。

 

 

「ンじゃあ食うだけ食ったし呑んだし、オレも帰るかね。そろそろ迎えも来てるだろうし。」

 

 

動揺が駆け巡る。アンリマユの言葉に、全員の視線が一斉に出入口へと向いた。先程フレイヤが出ていったその扉一つ隔てた先にいるという「迎え」…それが噂の中心にある人物たちなのか、はたまたあの二人(・・・・)なのか。興味と恐怖に身が竦み、固定化された空気の中で全ての行動が封じられる。

そんな中を、アンリマユは満足そうに歩いて行った。ほろ酔い具合で鼻歌を躍らせ、その足取りは軽い。

 

扉の前で一度だけ振り返り、白い歯を剥き出して笑いながら、アンリマユは手を振り、別れを告げた。

 

 

「それじゃあお先に失礼!皆様方におかれましては、どうかこの後も宴を存分に楽しまれてくださいな。お帰りの際におかれましては、どうぞ夜道にお気をつけて…ってね♪」

 

 

そして、会場から全ての「陽気」を拭い去り、久しぶりに現れた悪神は大いに爪痕を残し、悪夢のように去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにヘスティアの土下座はその後普通に実行されたという。色々状況についていけてなかったヘファイストスは思う所もあり、それを受諾したらしいが…この場合は蛇足である。

 

 

 

 

 

 

 

 

**************

 

悪神登場より半刻ほど前。「アンリマユ・ファミリア」拠点(ホーム)にて。

 

 

 

 

 

「弟よ。何も言わずにチャーハンでも作ってやってくれ…。」

 

 

「帰ってきていきなりどうしたとか色々言いたいけど…そちらはえーと、もしかしなくても「勇者(ブレイバー)」と…?」

 

 

「なんというか、嫉妬深いけど一途な女の子と言いますか…色々あって二人とも気絶したから運んできた。不幸な…不幸な事故だった…。」

 

 

「わかった聞くまい。なら二人分?それとも三人…?」

 

 

「私も食べたいから三人分。ちょっと色々疲れたから大盛で。」

 

 

「了解。ならすぐに作るよ。」

 

 

「ありがとう…それまでには起きると思うから。というか起きて貰わないと…お茶でも淹れよう。

…時に弟よ。イチャイチャするのは構わないけど、流石にあそこから更に先まではいっていないよね…?」

 

 

「…してない。誓ってしてない。え、というかどこから見てどこまで見て…?」

 

 

「え、膝に乗っけて抱きしめてた辺りまでかな。」

 

 

「ああ、なんだ…。」

 

 

「待て。何故そこで安心した?」

 

 

「…いや、流石にアイズの名誉にもかかわるから…。」

 

 

「貴様ら、お外で本当にどこまで行く気だ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 




アイズ「…うん、いい匂い。今夜から寝巻にしよう。」


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