「アセビ!!アセビはどこだ!!」
今日も鬼ヶ島にカイドウの怒声が響く。
あの後、アセビは百獣海賊団に厄介になっている。
カイドウから入団するように言われたアセビだったが、彼は笑いながら断った。
「カイドウさん、“おもちゃ”は多い方が退屈しないっすよ」
それが何を意味するか、瞬時に理解したカイドウは上機嫌に酒を飲みながらアセビを食客扱いで百獣海賊団においている。
そんなアセビはカイドウから2つ仕事を頼まれていた。
「いった?アセビ」
「キシシシシ、今度は何やらかしたんすか“お嬢”?」
アセビの使用している客室、そこに運び込まれたベッドに重ねられた布団。
その布団は現在、丸く盛り上がって明らかに誰かがいることは明白であった。
「ボクはただ、お父さんに海に出たいっていただけだ」
布団からひょこりと顔を出したのはカイドウと同じく角を持ち綺麗な白髪をした幼女。
「キシシシシ、まだ早いですよ“ヤマト”お嬢」
カイドウの実娘、ヤマトであった。
アセビの仕事、その1つがヤマトの教育係であった。
「キシシシシ、大きなたん瘤拵えちゃって。ほら、手当てしてあげますから此方に出てきなさいな」
おかしそうに笑うアセビを怨めしそうに見ながら布団から芋虫のように這い出てきたヤマト。
アセビの対面に座ると大きなたん瘤ができた頭をアセビに向ける。
「キシシシシ、まぁカイドウさんの心配も仕方がないでしょう。お嬢はまだまだ、見習いレベル。この百獣の戦闘員名のる奴にゃ早々に負けることはないでしょうけど、オレみたいな例外がありますから」
「でも、僕も海に出たい!!歳の近いアセビは食客扱いで時々海に出てるのに」
「流石のカイドウさんも娘は可愛いんでしょう。はい、手当て終わりです。オレはカイドウさんとキングさんに書類出しに行ってきますからお嬢は良い子で此処にいてください」
そう言うと机に置かれた筆入れに入っていたペロペロキャンディーをヤマトの口に突っ込むアセビ。
「むぅぅぅぅぅぅ、ふぁふぇびぃ」
「良い子にしてたら後で食堂に行って鮭おにぎりを一緒に作りましょう」
「!?、約束だよアセビ!!」
口に突っ込まれたペロペロキャンディーをとりだし、アセビの発言を約束に切り替えるヤマト。
明言こそしないが、後ろ手を振るうことで返事をするアセビだった。
「カイドウさん、キングさん、クィーンさん。、遅くなりましたぁ」
アセビはその後、書類を持ってカイドウの部屋に来ていた。
「おう!!遅かったじゃねぇか、アセビ」
「カイドウさんをお待たせするなといつも言ってるだろ!!」
「おいおい、食客暗躍させてる根暗野郎がなんか言ってるが、気にすることはねぇぞアセビ」
カイドウの部屋の襖を開き挨拶をしたアセビの横を物凄いスピードでアセビよりも大きな瓢箪が通り過ぎていく。
その後で肉がなにかに押し潰される音が聴こえたがアセビは聞かなかったことにした。
「申し訳ありません、お嬢のことで少々時間をとりました」
「それで、オレ達を呼びつけるってことは次の計画に移行する準備が整ったと言うことなんだな」
クィーンの言葉が部屋に響くとカイドウ・キング・クィーン・アセビの顔に影が落ち、目がギラリと光った。
その姿は誰が見ても悪巧みしている悪の組織(間違っていない)だった。
「えぇ、オロチの馬鹿が考えなしに色々やらかしてくれたおかげで“撒いた種”は全部芽を出してほとんどは花になりました」
「ウォロロロロロロロロロロ、しかしお前の計画通りならオレは“一度”我慢しなきゃならん状況になるわけだがどうにかならんのか」
「無理ですね、あの婆を殺す大義名分を得るためにはどうしても必要な事です。それに計画通りにいかなくてもその時は赤鞘の奴らが片付けてくれるでしょうし」
「しかし、まどろっこしいなぁ。オレの疫災弾で全員片付けてカイドウさんがこの国を統べれば問題ないだろうに」
「馬鹿かクィーン、アセビが言ってただろう。兵器工場に採掘場で出ちまう汚染物質を垂流しにした際の被害と被害額、それにともなう人心離れ」
「それに合法的にサムライ達を戦力として取り込むためには必要な手順なんすよ、だから確実におでんの我慢がキレるまでもう少し様子を見ましょう」
数分後、襖が開かれアセビが出てきた。
「それじゃ、“針”の準備をお願いいたします。オレは午後からオロチの所に顔出してくるんで」
襖を閉じ気配も遠のくアセビ。
「ウォロロロロロロロロロロロロ、おもしれえ餓鬼に育ったじゃねえか」
機嫌良く瓢箪の中身を飲み干し、新たな酒瓢箪の栓を開けるカイドウ。
「ウチは頭の出来が良い奴がほとんどいないですから、アイツのあの性格と暗躍・調略もこなす抜け目なさは正直に言って残って欲しいモノですよ」
「だがよ、キング。アセビはまだまだカイドウさんの“玩具”程度なんだろ」
「ウォロロロロロロロ、だがアイツの話を聞いて良かったと思っている。いずれアイツもオレの“遊び相手”になってくれるそう感じるぜ」
そんな会話がなされてると知らずにアセビはヤマトと巨大な鮭握りを作っていた。
午後になり、アセビはとある畳敷きの間に正座して座っていた。
すると、廊下をドスドスと踏みならす音が聞こえてきた。
「おぉぉぉぉぉ、アセビ殿。息災かな」
現れたのは、チョンマゲ頭に王冠を被った、大きな顔と2本の出っ歯が特徴の二頭身の大男。
「これはこれはオロチ様、本日もお日柄良くご機嫌そうでなによりでございます」
男、オロチが上座に座るとアセビも人好きする笑みを顔に浮かべ深々と正座を崩さずに綺麗にお辞儀をする。
「うむ、そなたはカイドウと違い分相応というモノを弁えておるからな」
「なにをおっしゃいますか。たかが一介の海賊とこの国の王殿様、比べることも烏滸がましいではないですか」
アセビの言葉にオロチは益々機嫌を良くしていく。
「そうかそうか、アセビ殿は歳の割にと思っておったが大人顔負けの聡明さよの」
「いたみいります、それで本日はどのような御用向きでしょうか」
アセビが今回の登城理由を伺うとオロチは更に厭らしくその顔を笑顔にする。
「なに、おでんの裸踊りにも飽きてきたからの。そろそろ“ワシ”の民で遊ぼうと思うての。カイドウにはしばし静観してもらおうと思っての」
「そうでしたか、しかし“聡明”なオロチ様のこと既に準備を終えられているのでは」
オロチにとってアセビは気の利いた言葉を並べる子供でしかなかった。
初めて会って以来、カイドウの小間使いとして登城し、自身のご機嫌取りしかしてこない子供にいつしかオロチは全く危機感を覚えなくなっていた。
「そうさの、まずは目障りなヒョウ五郎をどうにかするかの」
「なんと大胆な、そんなことをすればヤクザ者たちが黙っていないでしょう」
「そこからが、本筋よ」
自慢げに自身の計画を話すオロチ。
時は瞬く間に過ぎ、日が傾いてきた。
「おや、もうこのような時間か。最近はババアもジジイも煩わしくてたまらんの」
その言葉をアセビはまっていた。
「オロチ様、かの二人はオロチ様を守る盾にございますれば。それ以上を与えられますとオロチ様の事をどのように扱うかアセビは心配でなりません」
「うん?どういうことじゃ」
僅かな心の隙、あまりに順当に国盗り計画が進んでしまったが為に生まれたオロチの僅かな油断。
それを待ち望んでいたアセビは語る。
「オロチ様の国盗りの1番の功労者でありましょうが、お二人は権力にとりつかれた愚物。オロチ様のように権力を使う才を持たぬ者が権力を得たらする事とは」
「まさか、このワシをワノ国の王殿であるワシを傀儡とするか」
生来の狡猾で警戒心自尊心の強さが本来であれば思考にブレーキをかけるはずであった。
しかし、今のオロチには僅かな慢心があった。
そして、自身の目の前にいるのはまだまだ幼い10歳にも満たない子供。しかも、ただの荒くれ者である海賊と言う卑しい立場に身を置く存在。
それがオロチの慢心を加速させる。
「キング様はそう考えておられます」
自分たちの内部のことをペラペラ喋る小僧に完全にオロチは危機感を消失していた。
城門を通り過ぎるアセビ。
アセビに付き添ったサムライは松明の明かりに照らし出されたその影は酷く薄く見えた。
思わず目をこすり再びアセビの影を見ると自分と同じく何も変わらない影がそこにあった。
「なにか?」
サムライが意識を向けると此方を心配そうに眺めてくるアセビの姿かあった。
そんなアセビを覆い尽くす影が現れる。
「おや、キング様?」
「あまりに遅いから迎えに来てやったぞ」
アセビを迎えに来たと言う先ほどまで“ぷてらのどん”なるものに変異していた妖術使いの男“キング”がサムライを一瞥する。
「世話をかけた、コイツは連れて帰る」
「それでは失礼いたします」
キングはアセビを上空に放り投げると姿を変異させ大空へと飛び上がり上空に放り投げられたアセビを背中で受け止めると百獣海賊団の縄張りにしている島へと飛び去っていった。
「それで、例の捜し物は見つけたのか」
「はい、移されることがなければすぐに確保できます」
キングは自身の背に乗るアセビがどのような顔をしているか、簡単に想像かついた。
「キシシシシ、愚かな裸の王様。オレ達の掌でコロコロ回せる程度の器でいてくれてありがとう」
まだまだ子供、無邪気に笑うその顔には。
「愚物でいてくれて本当にありがとう」
子供と言う仮面では隠しきれない邪悪さが現れていた。
「ふん、早く帰らねばお嬢とカイドウさんがまた五月蝿くなるな」
「おっと、それは大変だ速く戻りましょう」
オロチと組んだことで百獣海賊団は戦力の拡張に成功した。
しかし、アセビは兵器工場から毒を垂れ流すことを許さなかった。
カイドウにはうまい酒のために必要なこと、と説明しているがこれは全てあることの布石である。
「キシシシシ、オロチ。残り僅かな天下人としての栄華、存分に楽しめ」
アセビが主導した謀略、オロチは自身の計略が既に乗っ取られ、跡形もないことをまだ知らない。
小さな掌に収まる器は、今日も簡単にコロコロと回されている。