RELEASE THE SPYCE ~満ちたる月の兄妹~   作:サク&いずみーる

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当アカウントの妹の方、いずみーるですっ!
リリスパにハマって、五恵ちゃんにハートを奪われて書き出したこの小説…年に数回も出したら頑張った方!
基本的にこっちはボク1人で頑張るので応援してください!



EPISODE:001 Sorasaki's rumor

 ────ある街では、こんな噂が囁かれていることをご存知だろうか。誰から言い始めたか、今となっては分からないこの噂を。

 

 ────『この街には陰ながら、街の平和を守る正義の味方がいる』と。

 

 

 まあ、所詮は噂。「どうせ警察だろ?」と鼻で笑うも結構。

 何せ、噂というのは真偽の分からないもの。

 ある小説家は"噂というのはデタラメが大半を占める"と言っているし、そもそも確固たる証拠もないのに信じろと言われても無理があるだろう。

 

 そんな噂のある街──空崎市は人口100万を超える、関東南部の政令指定都市だ。

 重工業地帯として発展したその街は様々な人種、生活、文化が混沌と混ざり合っている。

 夜になると空崎沿岸部は工場から発せられる光でライトアップされる。その幻想的でさえある光景は、知る人ぞ知る名所となっている。

 

 その夜、工場の1つに5つの影があった。見れば、全て年の若い少女たちである。彼女たちの纏う特徴的な装束が、春にしては少しひんやりした夜風になびいていた。

 

 煌々と輝く工場が幻想であるならば、その中に立つ5人の少女たちもまた幻想であろう──そう思わせるほど非現実的な美しさを帯びている。

 幻想の少女たちは工場の屋根から柱、柱からパイプへ…と跳び、闇に溶けていく。

 

 工場内に無防備に忍び込めば、アラームの大合唱が聞こえてくるはずだ。しかし、彼女たちの服に搭載された迷彩機能が最新の監視カメラすら欺く。

 

「…これ、虹彩認証式セキュリティ……持ってきて正解、だった」

 

 5人の中で最も小柄な少女が呟く。スマホを取り出し、工場関係者のSNSアカウントのアイコンになっている写真を拡大、瞳を大きく映し出す。

 読み込み完了と同時に繋いだ機械が虹彩をコピーしたコンタクトレンズを作成する。

 

「よしっ任せて!」

 

 快活な声で応えた少女がコンタクトを付け、認証用のカメラに目を近づける。

 すると、固く閉ざされていた扉は驚くほどあっさりと開いて、黒髪の少女以外が侵入する。残りの4人はそれぞれ打ち合わせ通り、配置につく。

 

『警備の数は"人形"20体、人間10人。アクセスすると即座に警報が鳴ります』

 

『なお、人形は全てαポイント全域に配置されているものと判断。各自、警戒を怠るな』

 

 耳につけた通信機から聞こえるのは少女と青年の報告。工場から少し離れた場所から少女たちをサポートする2人だ。

 

「こちら"千代女"と…」

 

「"風魔"。了解!」

 

 快活な少女と勝ち気そうな少女──千代女と風魔と名乗る少女たち。

 

「"五右衛門"、待機位置についている」

 

 黒髪の少女──五右衛門、

 

「…"出雲(いずも)"………いつでも指示を」

 

 最も小柄な少女──出雲の4人が配置についたことを報告する。そして、

 

「こちら"半蔵"。目標を確認」

 

 右目に傷を負った少女──半蔵が遅れて報告する。

 これで全員、準備は整った。

 

『目的のデータを取得した後は速やかに脱出を』

 

『健闘を祈るぜ』

 

 半蔵は微かに頷き、声を発した。

 

「"ツキカゲ"、ミッションスタート!!」

 

 その言葉と共に少女たちは動き出した。

 手始めに半蔵がサーバーにアクセスし、データを盗むと予定通りにアラームがけたたましく鳴り響く。これだけで工場内の人間は大慌てだろう。

 

「やっぱロックされてる…」

 

 一方、風魔は厳重に閉ざされた扉の前にいた。この扉の向こうにも、さぞかし重要なデータがあることだろう。

 

『遠隔では開けられません…』

 

 仲間の報告を受けて、風魔は小悪魔な笑みを浮かべた。

 

「計画通り強行突破ね!」

 

 リップクリームを取り出して扉にくっつけると、風魔は急いで距離を置く。もちろんこのリップクリーム、ただのリップクリームではない。

 

 ドカアアアアァァァン‼︎

 

 リップクリーム型の爆弾によって、木っ端微塵に吹き飛んだ厳重なセキュリティ(笑)をくぐり抜け、風魔もサーバーからデータを奪うことに成功する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 いつの間にかアラームは止み、少女たち──私設諜報機関"ツキカゲ"のメンバーは最初にセキュリティを破った場所に集合していた。

 

「ついでにアラーム切ってきたよ!お疲れちゃんっ」

 

 千代女がブイサインで扉を抜ける。

 

「ありがと…あのアラーム、うるさ過ぎ……」

 

 他のメンバーが既にフードを取っているのに対して、未だに被りっぱなしの出雲はフード越しに耳をさすった。

 

「確かにね。私は明日、筋肉痛かも」

 

 今までずっと重たい扉を押さえていた五右衛門が苦笑いする。最後に戻ってきた半蔵を通して手を離し、少し手首を回す。

 

「3分後に合流する。ポイントに車を」

 

『こちら"局"、了解です』

 

『"甲賀(こうが)"から出雲へ通達。ツナ缶用意して待ってるから、ちゃっちゃと戻って来いよ!』

 

 サポーターの2人──局と甲賀の話を受け、半蔵は出雲に向かって小さく微笑んだ。

 

「だそうよ、出雲」

 

「……ん、がんばうっ」

 

 小さくガッツポーズをする出雲も、微笑ましく見ていた他のメンバーも物音のした方向に目をやる。

 そこには大量の警備ロボット──人形が集まっていた。しかも、ご丁寧に武器まで構えて臨戦状態である。

 

「やはりこの工場はクロだな。キメるぞ」

 

 その言葉を合図にツキカゲたちはそれぞれの"スパイス"を口にくわえた。

 スパイス。それはツキカゲの切り札の1つだ。

 人間は普段、自らの能力にリミッターをかけて生活している。特殊な品種改良によって生まれたこれらのスパイスは、人間の脳に働きかけ、リミッターを外す。そして常人を遥かに超えた力を引き出すのだ。

 

 人形たちの発砲はスパイスによって強化されたツキカゲには届かない。

 跳躍して銃弾の雨を避けると、半蔵は人形に急接近して自らが愛用する日本刀で次々と真っ二つに叩き斬っていく。

 

  何も全員が同じ武器というわけではない。千代女はクナイで人形の腕を断ち、風魔は手裏剣で中距離から千代女を援護している。息ピッタリである。

 

「完全無欠のコンビですね!」

 

「スマートに決まったな…」

 

 勝利の余韻に浸る2人の間を弾丸が飛ぶ。撃ったのは五右衛門。2人の背後に迫る人形をスナイパーライフルで撃ち抜いたのだ。

 

「銃で決められるとこっちの立場ってもんがさぁー!」

 

「あうぅ……」

 

 助けたのに千代女に文句をつけられる五右衛門。世の中、理不尽である。

 

「油断してんのが悪ィんだよ!獲物はまだいる、ボサっとしてると狩られるぜッ!!」

 

 五右衛門の背に刀を振り下ろそうとしていた人形を鎖鎌──鎌と分銅を鎖で結んだ武器で仕留めたのは出雲だ。暗くても分かる出雲の瞳はスパイスの効果で青く輝いているが、スパイスだけが原因というわけではないようだ。

 

「あいつ、スパイス使うと性格ガラっと変わるわね…」

 

「使うちょっと前まで、すごくおどおどしてたのにね」

 

 風魔も五右衛門も、見慣れてはいるがやはり、何度見ても驚かされる光景だ。今の彼女──嬉々として人形を破壊し尽くさんとするその姿は狩りに飢え狂った獣にも見える。

 

『敵が急速に接近中。人間だ』

 

「私が相手をする」

 

 甲賀の警告に反応したのは半蔵だった。出雲は異論も不満もない様子で人形を潰し続ける。

 

『援護します!"雪ちゃん"?』

 

「……半蔵だ』

 

 上空を旋回するフクロウ──ツキカゲをサポートする動物"シノビ"のモノミが持たされた武器から羽根を模した針が発射され、巡回中の人形2体に刺さる。

 針にはウイルスが仕込まれており、人形のプログラムをハッキング、遠隔操作できるようになるのだ。

 

『乗っ取り完了!これでお友達ですね』

 

 ………その"お友達"に昇龍拳させるのはどうかと思うが。

 

「全く…今夜は嫌な予感がしてたんだよな」

 

 現れたのは黒いコートに身を包んだ男だ。

 乗っ取られた人形が男に向かって発砲する。しかし、男は身軽に避けて拳銃を構える。

 

「死神と…踊りな!」

 

 男は人形を蜂の巣に変え、涼しい顔でふっ、と笑った。

 

「俺にかなう奴は、いねぇよ───はぁっ!?」

 

 半蔵の着地による飛び蹴りを偶然喰らった男は「いたか…」と言い残して意識を手放した。

 

 瞬速フラグ建築回収士に半蔵は銃に変形したスマホを向ける。スマホ画面には"記憶消去"と表示されている。

 これはツキカゲのスパイ道具の1種で、殺傷能力はないが、撃たれた人間の記憶を消去する弾丸だ。

 半蔵は彼に2、3発ほど撃ち込んで記憶を消した。

 残りの後始末は警察の仕事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜モモside〜

 

 

 

 私、源モモはお母さんと一緒に空崎の沿岸にある港に来た。

 小さい頃からよく来るんだけど、そこから見える工場のライトアップが本当に綺麗なんだ。

 

「わあ…!いつ来ても綺麗だね!」

 

 それこそ、思わず口に出ちゃうくらいにはね。

 って、あれ?あそこに見えるの何?鳥、にしては大きいし……

 

「お母さん、あそこ誰か飛んでない?」

 

「んん〜?見えない」

 

 うーん…絶対なんかいると思うんだけど……なんだろう?怪しい………

 

「本職は事件の匂いを感じます!」

 

「あっ!お父さんに似てる」

 

「本当?えへへ……♪」

 

 お父さんっぽく敬礼してみたら似てるって!嬉しいなぁ〜♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー…おー、こっちこっち」

 

 甲賀が車から降りてツキカゲたちを出迎える。

 

「ミッション達成〜!腹ペコまる〜ん!」

 

 千代女はすっかり気が抜けた様子でぐーっと伸びをする。

 

「何食べたいです?」

 

「……ツナ、缶…」

 

「あーツナ缶ね、ほい」

 

 甲賀は約束通りツナ缶を出雲に渡す。

 

「必要ならいろいろ、中にあるぜ」

 

 それを聞いて微かに顔を綻ばせて中に乗り込む出雲を見届けると、甲賀は遠方を見やる。

 目線の先には港がある。工場地帯からは相当な距離があるため、普通ならぼんやりとしか港は見えない。

 

「半蔵、気づいてるか?」

 

「ええ。はっきりとは分からないけど、なんとなく」

 

 だが、彼──甲賀は。

 

「一般人の女の子、確かにお前らのことを見てたぞ」

 

 港にいた少女──源モモの存在をはっきり、鮮明に確認していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜モモside〜

 

 

 

 

 

 今日から本格的に学校…学年も上がって2年生!頑張らないと!

 私は部屋を出る前に"お父さん"に挨拶する。

 

「行ってきます、お父さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 商店街にはすっかり春の匂いが広がってる。あと、コロッケの匂いと…

 

「やけん、ワシがぼてくりこかしたばい!」

 

「マジっすか!?」

 

 ……うっ、タバコの匂いも。怖そうな人たちが吸ってるんだ。

 あ、ポイ捨てした。

 危ないんだよね、タバコのポイ捨てって。

 

「よーし…!」

 

 と、意気込んで1歩踏み出したのはいいものの、やっぱり怖くて声かけられない……って私がためらってると。

 

「おい、アンタぁ何しとるん」

 

 後ろから凄みの効いた声が…ああ、やっぱりそうだ。

 

 手入れしてなさそうなボサボサの真っ黒な髪、緑色の瞳をした鋭い目付き、左目の下の傷、着崩された制服。あとこの関西弁っぽい特徴的な話し方。

 私の通ってる空崎高校の3年生で、校内では不良だ、って評判の望月(もちづき)疾風(はやて)先輩だ。

 また怖い人が来たなぁ…と思ったら、

 

「タバコのポイ捨ては危ないやろ、早よ拾いや!誰かケガしたらどないすんねん!!」

 

「ひぃっ!?すんません!!」

 

 あ、あれ?思ってたイメージと違う?

 

「……」

 

「ひっ…」

 

 わわわ‼︎すっごい睨んできてらっしゃる!?何か怒らせるようなことしちゃったのかな?!

 

「あ!」

 

「……チッ」

 

 望月先輩、舌打ちして行っちゃった。

 

「大丈夫だった?」

 

「おばあちゃん!」

 

 商店街の梅子おばあちゃんが心配してくれた。

 

「全く…あの若いのは……」

 

「あの、先輩がどうかしたんですか?」

 

「ほら、あいつって良い噂がないじゃない?それに何故だか、私のことをよく避けていくのよ。やましいことでもあるんだか…」

 

「へえ…」

 

 でも、それにしてはさっきのポイ捨ての人たちに注意してたんだよね。よく分かんないなぁ…。

 

「それはそうと、どうだい?新しい学年は」

 

「クラス分けで友達とバラバラになっちゃって…新しい友達を作るのが目標です!」

 

「モモちゃんならすぐできる!」

 

 おばあちゃんは親指を立てて言った。このおばあちゃんがそう言ってくれると、本当にできる気がしてくるんだ。

 

「ありがとう!行くね、おばあちゃん」

 

「行ってらっしゃい」

 

 おばあちゃんに見送られて私は走り出した。新しい友達…新しい友達!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うう、1時間目、2時間目…って誰か話しかけてくれるの待ってたんだけど誰1人来なかったよぉ…。4時間目はさすがに諦めモードに突入しました。本当に誰も来ないんだもん‼︎

 

「全然ダメだぁ〜…」

 

 む、誰かが肩をつつく感触、これは!

 

「はいっ!」

 

「うっす!」

 

「ああ〜結愛!来てくれたの?」

 

 つついてきたのは1年生の時のクラスメート、畠山結愛。クラスはバラけちゃったけど、今でも大切な友達です!

 …ちなみに新しい友達じゃなくて少しガッカリしたのは内緒で。

 

 

「うん!こっちはクラスで友達できたし」

 

「よかったね!」

 

 さすが、コミュ力の塊だなぁ〜。

 

「それ、"警察官"って書かないの?」

 

 結愛が指差したのは、前の時間に配られた進路希望調査書。しかも真っ白。

 

「ちょっとあってね、自信が持てないというか…」

 

「やれるよ、モモちなら!鼻とか目、すっげぇいいし!」

 

「そこかぁ〜!」

 

 それって警察官っていうより、警察犬じゃない?

 

「昨日もなんか見たって言ってたし」

 

「そうそう!工場の夜景見に行った時、怪しい人影が空に浮いてた!」

 

「なんじゃそれ…」

 

「ほんとだよ?」

 

 そりゃあ私も、最初見た時は自分の目を疑ったけど…

 

「じゃ、そろそろ行くね。次、移動教室だから」

 

「うん!来てくれてありがと〜!」

 

「ねーねー源さん?」

 

 結愛を送り出した後、クラスの人が話しかけてきた。

 1人はオレンジっぽい色の髪をサイドテールにして制服の下にパーカーを着た、いかにも元気そうな人。

 

 もう1人は反対にクールビューティって感じの長い黒髪が綺麗な人。

 確か…

 

「八千代さんと石川さん?」

 

「さっきの話、ちょっと聞こえてさ。これから仲良くしてくれない?」

 

 石川さんもうんうん、と頷く。『いや、何か喋ろうよ!?』とは言わずに。

 

「もちろんだよ!」

 

「よかった」

 

 あ、石川さんが喋ってくれた。ちょっと嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから八千代さんと石川さんと話して仲良くなれた。2年生初めての友達ができたよ!

 

「私がバイトしてるお店なら、おまけしてもらえるよ」

 

「石川さん、アルバイトしてるんだー…あうっ」

 

 話しててよそ見してたら誰かにぶつかっちゃった。

 

「ごめんなさ……いっ!?」

 

 しかも、よりによって望月先輩だ……‼︎

 

「…アンタぁ、朝の」

 

「ご、ごめんなさいすいません!どこか怪我は…」

 

「こんくらいで怪我なんざ、せえへんがな。もっと気ぃつけて歩きや」

 

「す、すいません!!」

 

 先輩は私を睨んで去って行った。なんで今日に限って2回も会っちゃうかなぁ?

 

「怖かったぁ…」

 

「え、そう?」

 

 えっ、八千代さん怖くないの?

 

「石川さんは?」

 

「全然?」

 

 2人ともメンタル強すぎるよぉ〜……

 

「だって、望月先輩っていえば商店街でも有名な不良だよ?たった1人で大きな暴走族を潰したとか、この辺りの不良は先輩が仕切ってるとか言われてる先輩だよ?」

 

 それでも今朝の出来事は謎だったけど。

 

「言われてもねぇ〜、信憑性に欠けるというか何というか」

 

「うん、証拠もないし」

 

「えぇ〜……あっ!」

 

 また3年生の先輩だ。軽くウェーブがかかったロングヘア、赤縁眼鏡の穏やかそうな先輩と青いおさげに目に傷がついている先輩……って!?

 

「こんにちはー」

 

 眼鏡の先輩──青葉初芽先輩が挨拶してくる。

 

「こんにちは」

 

「ごきげんよー♪」

 

 八千代さんの挨拶の仕方にツッコむ余裕は今の私にないっ‼︎

 

「こっ、こんにちは……ですっ」

 

 かろうじて、それだけ言えた。もう少しで噛みそうだった…。

 

「こんにちは」

 

「はわぁ……‼︎」

 

 挨拶返してもらっちゃった…!ああ、先輩が輝いて見えるぅ〜‼︎

 

 間違いなく今の私の顔は真っ赤なんだろうなぁ〜……

 

 

 それから、八千代さんが目の前で手を振るまで緊張と放心で動けなかった。

 

「ちょいちょ〜い?もう行ったよー?」

 

「はぁ〜…」

 

 やっと力が抜けて息を吐く。呼吸してた記憶が一切ない。

 

「あの先輩に憧れてるの?」

 

「分かる?」

 

 やっぱり分かっちゃう?

 

「半蔵門雪先輩…!道場の跡取りで、強くて綺麗でかっこよくて頭も良くって!入学式の時からずっと憧れなの‼︎」

 

「なるほど〜」

 

 八千代さんは面白そう、と言いそうな目をした。

 

「私もあんな風になりたい…!」

 

「一緒にいた青葉初芽先輩も素敵な人だよ!」

 

 へえ〜、石川さんは青葉先輩推しかな?

 

「雪先輩の幼なじみなんだよね?」

 

 石川さんは嬉しそうに頷いた。

 

「詳しいねぇ?」

 

「先輩周りはひと通り調べて………ひ、引いちゃった!?」

 

 うわあ…これってある意味ストーカーっぽいもんね……

 

「"気になったものは調べる"、いいね!」

 

「よかったぁ…」

 

 親指立てて笑顔の八千代さん見て安心した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだよ。カレーが名物なんだ」

 

 石川さんの案内で来たのは、学校からそう遠くない場所にあるカレー屋さん。

 

「"Wasabi"…?こんな近くなのに知らなかったよ」

 

「入るぞ、坊主!」

 

 坊主って……八千代さんに肩を組まされて、お店に入る直前。

 

「あっ…!」

 

 薄紫のツインテールがかわいい女の子が出てきた。

 

 八千代さんが挨拶すると、ちょっと嬉しそうだった表情が暗くなった。

 

「…どうも」

 

「こんにちは…」

 

 ツインテールの子は軽くお辞儀すると、どこかへ走ってっちゃった。

 

「今の子、1年生だよね?」

 

「そだよー」

 

 ん?

 

「んぬぐぐぐぐ…………!!」

 

「ひっ!!」

 

 さっきの子が曲がり角に隠れてすっごい睨んでくる‼︎望月先輩といい、あの子といい、本当になんでこんなに睨まれるんだろ…。ううん、気を取り直して!

 

 

 お店の中に入ると、違う女の子がいた。

 肩より少し長い真っ黒なセミロングの髪をバレッタで留めた、宝石みたいな緑の瞳の小柄な子。

 エプロンを着てはいるけど、その下は私たちと同じ空崎高校の制服だ。

 

 ビクッ、と肩を震わせて私たちの方を見るとふぅ…と息を吐いた。…なんかかわいい。

 

「頑張ってる?」

 

 石川さんが訊くと、コクンと頷くバレッタの女の子。私たちが座ったタイミングで、メモとペンを準備して近づいてくる。注文待ちだよね?

 

「ベーコンカレー、お願いね」

 

「メイはドライカレー!」

 

 わ、私も選ばなきゃ!

 

「私は……ハンバーグカレーお願いします!」

 

 女の子はグッ、と親指を立てて奥に入っていった。ところで…

 

「あの子は…」

 

望月(もちづき)深結(みゆ)ちゃん、って言ったら分かる?」

 

「やっぱり!?」

 

 望月深結といえば、本当は中学生だけど、成績優秀過ぎて飛び級で高校1年生になったこと。

 それとあまりに無口だから先生たちですら、声を聞いたことがないことで入学式の時から学校ではちょっとした有名人。

 

 噂では極度の人見知り、心に大きな傷を負っている、病気の後遺症で声が出ない…と賛否両論。結局、どれが本当なのか誰にも分からないんだとか。

 

「望月さん、ここで働いてるんだ…」

 

「うん、私の同僚…かな?」

 

 バイトとかしなさそうなのになぁ……意外かも。

 

「知ってる?あの後輩ちゃん、望月先輩の妹ちゃんなんだよ?」

 

「え!?」

 

 確かに同じ名字だし、言われてみれば真っ黒な髪、目つきは違うけどエメラルドの瞳。

 似てるところは少しあるかもしれない。不良のお兄さんがいてかわいそうだな……

 

「あ、戻ってきた。おーい」

 

 石川さんが手を振ると、望月さんは小さく手を挙げて応えた。持ってきたジュースのストローを噛んでるところを見ると、幼く見える。

 

 なんというか、入口で会ったツインテールの子も幼く見えたけど、望月さんはもっと幼く見える。小学生って言われても違和感ないと思う。って、ん?

 

「ねぇ、あれ本物だよね?」

 

 いつの間にか望月さんの頭の上にフクロウが留まってる。頭、痛くないのかな?

 

「マスコットだよ。かわいいでしょ?あと…テレビの下と、レジの横にも」

 

 テレビの下にはカエルが、レジの横にはアライグマかな?みんな首にスカーフを巻いてるんだ。かわいい!それにしても…

 

「んん〜!クミンやクローブのいい香り〜♪」

 

「あら、五恵ちゃんたちだったのね。いらっしゃい」

 

 店員さんらしい人が注文したものを持ってきてくれた。金髪碧眼の綺麗な女性で、すごく優しそう。

 

「それにしても、あなた何のスパイスか分かるの?」

 

「はい!」

 

「鼻がいいのね♪」

 

 店員さんはクスッと笑うと、望月さんの方を向いて手招きした。

 

「深結ちゃんもこっちに来たら?いつもの出してあげるわ」

 

 望月さんは手を横に振ってお断りした。

 

「ふふっ、あの子とも仲良くしてあげてね?」

 

 そう言って店員さんは1度奥に戻って行った。この2人を見てると親子に見える…

 

「ん〜!おいしい!スパイス効いてるの大好き!」

 

 ここのカレー、本当においしいから、また来て他のカレーも食べてみたいなぁ♪

 

「源さん、幸せそうに食べるね」

 

「さん付けは堅いなー、改めて自己紹介!メイは八千代命、メイでいーよ?」

 

 八千代さん──メイちゃんは明るく言った。

 

「石川五恵」

 

「五恵ちゃんでいーよ?」

 

「ふふっ、いいよ?」

 

 石川さん──五恵ちゃんは望月さんの方を見て、

 

「望月深結ちゃん。とりあえず、深結ちゃん…でいいよね?」

 

 望月さん──深結ちゃんは無言のグーサイン。なんというかブレない。

 

「ふふっ、OK出た」

 

 次、私だね!

 

「源モモだよ。あだ名は…"モモち"とか?」

 

「じゃあ、メイたちもそう呼ぼー!」

 

「うん、うん!」

 

 戻ってきた店員さんが微笑ましそうに笑っていた。

 

「ふふっ、仲良くなった記念に一杯奢らせて?」

 

「スカッシュをー!レモンではなく、ライムで」

 

「こ、こだわるんだね…」

 

 しかも、すごいイケボだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろ話してるうちに2人の趣味とかも分かってきた。

 五恵ちゃんはかわいいぬいぐるみが好きだとか。

 メイちゃんは音楽が好きで、よく駅前の弾き語りをしてるとか。五恵ちゃんが大絶賛してるくらいだ。

 

「今度、聴きに行くよ!」

 

「おぉ〜!本当!?」

 

 メイちゃんは嬉しそうにギターを置いて、私に抱きついてきた。

 

「我が友よ!」

 

「えへっ、どういたしまして!」

 

 メイちゃんの中ではイケボがブームなのかな?

 あ、そういえば。私はメイちゃんの首筋を舐めた。

 

「うわっ!?」

 

「メイちゃん、睡眠不足?」

 

「えっ?正解だけど…」

 

「やっぱりね。少し調子悪そうだったから」

 

「なんで分かったん?」

 

「私、舌が敏感で……舐めたりすると体調が分かったりするんだ」

 

 なんなら、嘘をついてるかどうかもこれで分かったりする。我ながら不思議な特技。

 

「すごっ!?五恵ちゃんもやってみー!」

 

 五恵ちゃんはちょっと怪しむように手を差し出した。

 

「どうぞ…」

 

「じゃあ失礼して…」

 

 五恵ちゃんの手の甲を舐める。この味は………

 

「…少し筋肉痛だ」

 

「合ってる……ふぁっ!」

 

 メイちゃんも私の真似して五恵ちゃんのほっぺをペロッ。五恵ちゃんの声がちょっと色っぽくてドキッとした。

 

「んー、これが筋肉痛の味…なるほど、分からん」

 

「普通、味しないと思うけど…舌がいいんだね」

 

「目と鼻もいいよ!昨日もね、夜景を見に行ったら空に人影が見えてー…」

 

「…へー、どんな感じだったの?」

 

「シルエットだけで、はっきりしなくて……もしかして!」

 

「?」

 

「フライングヒューマノイド?」

 

 2人に大笑いされた。深結ちゃんですら、笑いをこらえるようにプルプル震えてる。実在するってテレビで見たのに…

 

「あはは!あーホント、仲良くなれてよかった!」

 

「こっちこそ!」

 

「いずれ、メイの秘めたる一面を見せていくとしよう!」

 

「あるんだ?」

 

「女の子だもーん!秘密の1つや2つあるよっ☆」

 

 そう言ってメイちゃんはウインクした。本当にこの2人と友達になれてよかった!……深結ちゃんは友達ってことでいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモチャ〜ン!コンニチハー!」

 

「こんにちは!」

 

 帰り道にも通る商店街には知ってる人がたくさんいる。薬局でバイトしてる外国人の張さん。

 

「おう、モモ!また育ってるな?」

 

「押忍っ!毎日すくすく育ってます!」

 

「おやまぁ、いいことあったみたいだね?」

 

「はいっ!」

 

 居酒屋の岡本さんは私が小さい頃から見守ってくれてるし、朝もこの辺で会った梅子おばあちゃんも面倒見がいい。

 

「モモちゃーん!肉食べてる?肉!」

 

「ガツンと食べてまーす!」

 

『肉のモロボシ』の主人、諸星明さんはいつもおいしいコロッケをごちそうしてくれるんだ。

みんな優しい人たちです!と、突然、

 

「野郎っ!泥棒っ!!」

 

 女の人の叫び声。声が聞こえた先にはヘルメットを被ったいかにも泥棒って感じの男の人が引ったくりをして逃げていた。荒い息を吐いて、私の方に来る。

 私も警察官の娘なんだ、捕まえなきゃ、とは思うけど。

 

「ハッ…ハッ……どけぇっ!!」

 

 泥棒に吠えられて足がすくむ。結局、私は怖くて目をつぶることしかできない。泥棒が横を通り抜けた__と思ったら。

 

「ふっ!…はぁっ!!」

 

 かけ声1つ、柔道か何かの技で泥棒が投げ飛ばされる。投げ飛ばしたのは婦警さん。そして、この婦警さんも私が知ってる人だったりする。

 

 

 

 

 

 

「バッタリ出くわしてよかったよ。ビックリしたでしょ?」

 

 婦警さん──新垣歩さんが私の頭を撫でてくれる。歩さん相変わらずいい匂いする…♪ちなみに、さっきの泥棒は現行犯逮捕でパトカーに乗せられていった。

 

「最近、街に変な奴が増えたのよねー…」

 

「そうなんですか…」

 

「まっ、それよりどうよ?新しい友達できた?」

 

「できました!けど、新しい問題が…」

 

 バッグの中から白紙の進路希望調査書を取り出す。歩さんは少し目を細めて、プリントを見つめた。

 

「私も、お父さんみたいになれたらって。でも、今の引ったくり見て固まっちゃって…こんなのでできるのかなって…」

 

 これが私の悪いところだ。優柔不断っていうか、臆病というか。いつもあと1歩を踏み出す勇気が足りない。

お父さんみたいな立派な人になりたいのに…。

 歩さんはふーむ、と唸って考えてる。

 

「お父さんにお世話になった私にとっても、大事な問題ね。よし!休憩時間に相談にのってあげる!」

 

「ありがとう歩さん!」

 

「連絡するよ。扇町の方を見回って休憩だから」

 

「はいっ!」

 

 歩さんはパトカーに乗る直前、

 

「では、本職は任務に戻ります!」

 

 そう言って敬礼してみせた。私には、その光景が"あの時"とフラッシュバックして見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 




頑張った…10000文字超えとか、さっくんとだってやったことない………

ちなみに、rumorは"噂"という意味だそうで。

疾風くんとくっつけるヒロインっていても大丈夫ですか?(相手確定済み、妹じゃない)

  • 別にいいんじゃない?
  • むしろどんどんやれ
  • いや、ちょっとなぁ…
  • は?許さんぞ
  • どっちでもよくね?
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